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米国におけるメンタリング運動の新動向 - ASKA

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米国におけるメンタリング運動の新動向 - ASKA
米国に おける メンタ リング 運動の 新動向 :
収監者の子どものためのメンタリング・プログラムを中心に
The New Trend of the U. S. Mentoring Movement:
Focusing on the Mentoring Program for Children of Incarcerated Parent
渡 辺 か よ 子 (Kayoko WATANABE)
1.はじめに
各 国 の メ ン タ リ ン グ 運 動 を 牽 引 し て い る 米 国 の メ ン タ リ ン グ 運 動 は 、20 世 紀 初 め に 開 始
さ れ た BBBS( Big Brothers Big Sisters)を 中 心 に 、学 校 ・ 地 域 ・ 企 業 が 連 携 し た 、市 民
ボ ラ ン テ ィ ア に よ る 青 少 年 発 達 支 援 プ ロ グ ラ ム と し て 、1990 年 代 末 以 降 、急 速 に 拡 大 し て
き た 。2000 年 代 に 米 国 の 連 邦 政 策 の 一 環 と し て 推 進 さ れ る よ う に な っ た メ ン タ リ ン グ・プ
ログラムの中で、特にその成果と動向が注目されるのが、社会的排除の淵にある「特別な
支 援 」を 必 要 と す る 青 少 年 向 け プ ロ グ ラ ム で あ り 1 、そ れ ら の う ち の 一 つ が 、親 が 収 監 さ れ
ている子どものためのメンタリング・プログラムである。本稿では資料分析とプログラム
事 務 局 の 担 当 者 へ の 面 接 調 査 か ら 、収 監 者 の 子 ど も 向 け プ ロ グ ラ ム の 実 状 と 成 果 を 分 析 し 、
メ ン タ リ ン グ 運 動 の 新 た な 展 開 可 能 性 を 探 求 し た い 2。
本稿が米国の収監者の子どものためのメンタリング・プログラムに着目する理由は以下
の二つである。第一は収監者本人の更生に向けた施策やそうした施策の有効性に関する研
究はなされてきたが、その子どもが親の収監からどのような影響を受けているのかは不問
に付され、収監者の子どもの存在そのものが殆ど認識されていないことがある。通常の生
育環境にある子どもが得ている親からの世話や愛情が突然中断され、またそうした事情を
周囲に語らない収監者の子どもは、切実に支援を必要としている。各国で開始されている
こうした見えない子どもの存在と状況に気づき、そうした子どもの可能性を十全に開いて
いく試みは生涯発達支援としての教育学に重要な意義をもつと考える。第二は国際的なメ
ンタリング運動のモデル移行の視点から、特異と言わざるをえない日本のメンタリング運
動の活性化に向けた示唆としての重要性である。
収 監 者 の 子 ど も の 支 援 に 向 け た 研 究 は 、2000 年 前 後 か ら 米 国 に お い て 開 始 さ れ 、こ う し
た子どもがどのような状況にあるのか、どのような支援や配慮が有効なのか、多様な社会
科 学 が 連 携 し た 理 論 的 実 践 的 研 究 が 進 展 し つ つ あ り 、研 究 レ ヴ ュ ー 3 に 加 え 実 践 者 が 研 究 成
果 に ア ク セ ス で き る 環 境 も 整 え ら れ て い る 。 例 え ば 健 康 福 祉 省 ( U.S. Department of
Human Services) 家 族 青 少 年 サ ー ビ ス 局 ( Family and Youth Service Bureau) の ホ ー ム
ペイジには、収監者の子どもむけのメンタリングに関する解説付文献一覧が提示され、問
題背景、メンタリングの研究と実践、大統領施策、各種プログラム、プログラム評価、メ
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ン タ ー や 保 護 者 の た め の ツ ー ル の 紹 介 等 が な さ れ て い る 4 。一 方 、日 本 に お い て は 収 監 者 の
数 ( 5~ 8 万 人 ) 5 が 比 較 的 少 な い か ら か 当 該 分 野 の 研 究 は 皆 無 に 近 い 。 本 稿 で は 、 米 国 等
での先行研究の知見を学びながら、収監者の子どものためのメンタリング・プログラムの
嚆 矢 と し て 名 高 い Amachi プ ロ グ ラ ム を 中 心 に そ の 実 状 と 成 果 を 分 析 し た い 。
2.概況と背景
1)収監者とその子ども
今日、成人人口の1%以上が収監されている米国において親が収監者されている子ども
の 数 の 増 大 は 、 重 大 な 社 会 問 題 の 一 つ と な っ て い る 6 。 2007 年 に は 子 ど も の い る 収 監 者 は
80.9 万 人 に 上 り 、1991 年 と 比 較 し て 79% 増 加 し て い る 。女 性 収 監 者 の 75% 、男 性 収 監 者
の 65% に 子 ど も が い る 。同 年 、親 が 収 監 さ れ て い る 子 ど も の 数 は 170 万 人 以 上 に 上 り 、約
1000 万 人 の 子 ど も の 親 が 刑 務 所 や 保 護 観 察 所 の 監 視 下 に お か れ て い る こ と が 判 明 し て い
る 。 米 国 全 体 で は 子 ど も の 43 人 に 1 人 ( 2.3% ) の 親 が 刑 務 所 に 収 監 さ れ 、 人 種 別 で は ア
フ リ カ 系 が 15 人 に 1 人 、ラ テ ン 系 が 42 人 に 1 人 、ヨ ー ロ ッ パ 系 が 111 人 に 1 人 の 割 合 と
な っ て い る 。 親 が 収 監 さ れ て い る 子 ど も の 約 半 数 が 10 歳 以 下 で あ る 7 。 ま た こ う し た 子 ど
も を 持 つ 収 監 者 の 4 人 に 3 人 は 離 婚 な い し は 結 婚 し て お ら ず 、女 性 の 3 分 の 1 、男 性 の 4 %
は 一 人 親 と し て 子 育 て を し て い た 8。
収 監 者 の 子 ど も の 多 く は 、そ れ 以 前 か ら 貧 困 や 差 別 、不 安 、暴 力 等 の 困 難 な 状 況 に あ る 。
とりわけ家計を担っている親の収監により収入が途絶えることは子どもの生活に直接影響
し、同様に子どもの親代わりとなっている養育者にとっても、刑務所からのコレクトコー
ル費用や遠方からの刑務所訪問は重い経済的負担となっている。収監者は自身の子どもが
ど の よ う に 暮 ら し て い る の か 、し つ け や 指 導 が 十 分 に な さ れ て い る の か 気 に か け て い る が 、
親との面談に頻繁に訪れる子どもは少ない。収監中の家族関係は緊張し、その間の離婚率
も高い。恥の思いや子どもが親を尊敬しなくなることを恐れ、周囲の大人は特に幼少の子
ど も に 親 の 収 監 の 理 由 を 明 か し て い な い 9。
親が家庭の経済問題の元凶である場合や、虐待や養育放棄がなされている場合には、親
の収監は寧ろ子どもの安堵となる場合もあるが、こうした子どもの多くは、友人や教師、
社会一般から汚名を着せられていることを恐れ、自身もまた犯罪者となるよう運命づけら
れているのではないかという思いに駆られている。こうした子どもの多くは、恥の思いと
相手に拒否されることへの恐怖から、親が犯罪者であることを親友や、助けを提供してく
れる可能性の高い大人にも明かさない。その結果、収監者の子どもは、しばしば、死別や
離婚、徴兵によって親と離れて暮らしている他の子どもたちが周囲から受けている愛情や
支 援 を 受 け ら れ な い ま ま 放 置 さ れ て い る 10 。 さ ら に 問 題 と な っ て い る の は 、 収 監 を 終 え た
親の家庭への復帰であり、家族関係の再構築である。
収監者の子どもの自尊心の低さ、怒りと落胆、感情的麻痺と友人や家族との関係回避、
自暴自棄や孤独・恥・罪・怒りの感情、食事や睡眠の障害、成績不振、家庭や学校での不
適切な破壊的行動、等の割合が高いことが知られている。その結果、こうした子どもたち
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は 他 の 子 ど も た ち よ り も 保 護 観 察 と な る 確 率 が 7 倍 、人 生 の あ る 時 点 で 収 監 さ れ る 確 率 は
6 倍 と な っ て い る 11 。
こ う し た 指 標 は 単 な る 確 率 で あ り 、親 が 服 役 中 の 全 て の 子 ど も が こ う し た 傾 向 が み ら れ る
わけではなく、服役期間や家族のコミュニケーションの程度、性格、年齢、地域コミュニ
ティの支援等によって子どもの対人関係や態度は異なってくることが知られている。重要
なことは、それが、例えば教師等の家族以外の気遣い世話をしてくれる大人との支援的関
係性によって異なってくることである。子どもが混乱に陥った際、信頼できる強固なメン
タリングの関係性がその子を保護し、子どもに安定と支援を提供できることが各種研究に
よ っ て 明 ら か に な っ て い る 12 。
2)収監者の子どものための各種プログラム
今日米国では、上記の特徴を持つ収監者の子どものための多様なプログラムが展開され
ている。例えば、刑務所で開催される収監者向け教育プログラムであり、子育てに自信を
持てない収監者はよき親となることを目指して熱心に学んでいる。これらの収監者向け教
育プログラムに対する受講者の評価は極めて高い。また、子どもが宿泊を含めて長時間、
親と過ごせるプログラムも実施されている。ニューヨーク州の刑務所内に設置された託児
所はよく知られ、イリノイ州やインディアナ州、ネブラスカ州でも幼い子どもが母親と一
緒に過ごせるプログラムが展開されている。また収監者のためにガールスカウトの特別班
が編成され、刑務所内での集団行動と共に親子の会話の機会を提供し、子どもの自尊感情
の 向 上 や 家 庭 や 学 校 で の 反 社 会 的 行 動 の 抑 止 に 効 果 を 上 げ て い る こ と が 知 ら れ て い る 13 。
さらに、収監者の子どものためのカウンセリングや支援グループの活動もある。ミシガ
ン 州 の Project Seek や ジ ョ ー ジ ア 州 ア ト ラ ン タ の 収 監 さ れ た 母 親 の 支 援 の た め の カ ウ ン セ
リング・プロジェクト、テネシー州ナッシュビルの和解支援グループ等である。これらの
プログラムでは、収監者の子どもは同様の境遇にある子どもと会って自由に自らの経験を
話 し 、 共 に 様 々 な 社 会 活 動 に 参 加 し て い る 14 。
メ ン タ リ ン グ・プ ロ グ ラ ム は こ う し た 収 監 者 の 子 ど も の た め の プ ロ グ ラ ム の 一 つ で あ る 。
メンタリングは、今日、少年裁判所で扱う非行少年の 3 分の2の親が犯罪者であることに
示されているような犯罪の世代間連鎖の予防施策であり、親以外の他人が子どもの生活に
介入しようとするものである。メンタリングは、自らに非がない困難な境遇に直面してい
るこれらの子どもたちは支援されるに値するという、全ての人が賛同する理念に基づき、
家 族 や 地 域 コ ミ ュ ニ テ ィ を 強 化 す る 努 力 と も 連 動 し て い る 15 。
3 . Amachi プ ロ グ ラ ム の 創 始
1 ) Amachi プ ロ グ ラ ム の 理 念 と 構 想
通常のメンティ募集が不可能な、収監者の子どものためのメンタリング・プログラムの
嚆 矢 は 、2000 年 に フ ィ ラ デ ル フ ィ ア で 開 始 さ れ た Amachi プ ロ グ ラ ム で あ る 。Amachi と
は、
「 誰 に も わ か ら な い 、そ の 子 ど も を 通 じ て 神 様 が 我 々 に も た ら し て い る こ と 」を 意 味 す
る 西 ア フ リ カ の 言 葉 で あ る 。 ナ イ ジ ェ リ ア の Ibo 族 か ら 借 用 し た 言 葉 で あ り 、 ご く 一 般 的
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な 少 女 の 名 前 で も あ る 。言 語 的 に は「 Ama」が「 知 る 」、「 Chi」が「 神 」を 意 味 し 、
「 Amachi」
は「知る神」を意味する。それは神の驚くべき豊穣な恵や寛大さに対する不思議や驚きを
表 現 す る 。 例 え ば 、 長 年 の 不 妊 の 後 に 子 ど も が 誕 生 し た 場 合 、 家 族 は 「 Amachi !」、 す な
わち、
「 神 様 は な ん て こ と を な さ る ん だ 」と い う の が 常 で あ る 。大 学 卒 業 を 期 待 さ れ て い な
か っ た 子 ど も に も 、 家 族 は 「 Amachi !」 と い う 。 神 様 は こ の 子 ど も に 何 を す る の か 誰 も わ
か ら な い 、 と い う 意 味 で あ る 16 。
2000 年 に 開 始 さ れ た Amachi プ ロ グ ラ ム は 、 フ ィ ラ デ ル フ ィ ア の 地 元 の キ リ ス ト 教 会 、
フィラデルフィアに本部を置き貧困地域の生活向上に向けた公共政策の評価研究機構であ
る P/PV (Public & Private Venture)、 百 年 の 伝 統 を 持 つ メ ン タ リ ン グ 運 動 の 中 核 で あ る
BBBS の 連 携 に よ っ て 開 始 さ れ た 。 こ う し た 三 者 の 構 想 に よ る Amachi プ ロ グ ラ ム の 理 念
形 成 に 、 強 力 な 指 導 力 を 発 揮 し た の が 、 ペ ン シ ル ベ ニ ア 大 学 政 治 学 教 授 で あ り P/PV の 上
席 顧 問 で あ る John J. Dilulio, Jr.と 、Dilulio を 任 用 し た 当 時 の P/PV 会 長 の Gary Walker
である。
フ ィ ラ デ ル フ ィ ア に 生 ま れ 大 学 で 学 ぶ 第 一 世 代 で あ っ た Dilulio は 、 ペ ン シ ル ベ ニ ア 大
学で経済学士と政治学修士を取得後、ハーバード大学で政治学修士と博士を取得した。ハ
ー バ ー ド 大 学 を 経 て 、 プ リ ン ス ト ン 大 学 で 1 3 年 間 教 鞭 を 採 っ た Dilulio は 、 ブ ル ッ ク リ
ン研究所やマンハッタン研究所でも政策プログラムを指導し、数々の超党派の政府委員会
の 助 言 者 で も あ る 。Dilulio は 米 国 の 健 康 保 険 、犯 罪 、宗 教 団 体 、福 祉 政 策 に 関 す る 多 数 の
論文を発表し、米国の貧困問題や犯罪予防政策に最も有効な組織は教会であることを確信
し て い た 。 Dilulio の モ ッ ト ー は 、「 愛 は 言 葉 以 上 に 行 為 に お い て 自 身 を 示 さ な け れ ば な ら
な い 」 と い う イ グ ナ チ ウ ス ・ ロ ヨ ラ の 言 葉 で あ る 17 。
一 方 、 Gary Walker は 1995 年 か ら 2006 年 ま で P/PV の 会 長 を 務 め た 。 P/PV は 1978
年にフォード財団と米国労働省によって恵まれない青少年の必要を訴えるために政府や企
業 、非 営 利 組 織 の 連 携 に 向 け て 創 設 さ れ た 。元 来 ウ ォ ー ル 街 の 弁 護 士 で あ っ た Walker は 、
1970 年 代 に Vera Institute of Justice に お い て 社 会 政 策 事 業 に 関 与 し 、ニ ュ ー ヨ ー ク 市 で 、
も と 犯 罪 者 と 薬 物 中 毒 か ら の 回 復 者 の み を 雇 用 す る Pioneer Diversified Services, Inc.を
事 業 化 し た 。 同 事 業 の 成 功 か ら National Supported Work Demonstration が 開 始 さ れ 、
労 働 を 国 家 の 社 会 福 祉 政 策 の 中 核 と す る 最 も 初 期 の 試 み と な っ た 。Walker は 1980 年 代 の
労 働 訓 練 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 法 ( The Job Training Partnership Act) の 成 果 に 関 す る 初 め
ての全国研究を指揮したが、その期待に反する研究結果から、青少年により効果のある国
家 政 策 の 必 要 を 確 信 し 、 そ の 実 現 に 向 け て 1986 年 か ら P/PV に 加 わ っ た 18 。 Walker に よ
れ ば 1960~ 70 年 代 の 米 国 の 連 邦 財 源 に よ る 大 々 的 な 反 貧 困 政 策 は 異 常 で あ り 、 ア メ リ カ
人は大規模の体制変化による治療よりも、個人として人々を助けること、自身が信用でき
る 確 立 さ れ た 地 域 の 組 織 機 構 を 用 い る こ と を 好 ん で い る と い う 19 。
こ う し た 二 人 の 都 市 部 に お け る 教 会 の 機 能 強 化 に 関 す る 構 想 は 、 当 時 P/PV が 関 わ っ て
い た Pew 財 団( Pew Charitable Trust)宗 教 部 門 の 支 援 に よ る プ ロ グ ラ ム 評 価 研 究 の 結 果
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を鑑み、より効率的な具体的実践施策を示す必要から、これまで他者のプログラム評価に
専 念 し て き た P/PV が Pew 財 団 の 資 金 を 用 い て 、自 ら メ ン タ リ ン グ・プ ロ グ ラ ム を 構 想 実
施 す る こ と と な っ た 20 。 な ぜ メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム が 構 想 さ れ た か に つ い て は 、 1990
年代後半当時、収監者の子どもの具体的必要が何なのかは不明であったが、確かであった
のは、こうした子どもたちが安定した頼れる大人を欠いた生活を送っていることであり、
頼りになる大人との持続的で発達支援的な関係性が子どもの健全な成長に必須の要件であ
る こ と で あ っ た 。 当 時 P/PV は BBBS の メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム の 効 果 に 関 す る 画 期 的
実証研究を発表する等、メンタリング・プログラムに関する研究成果を蓄積し、メンタリ
ン グ の 有 効 性 を 確 信 し て い た 21 。 以 上 の よ う な 背 景 と 構 想 か ら 「 将 来 性 あ る 子 ど も に 信 仰
に 基 礎 づ け ら れ た メ ン タ リ ン グ を 行 う 人 民 ( People of Faith Mentoring Children of
Promise)」 を 理 念 と す る Amachi プ ロ グ ラ ム 22 が 創 始 さ れ た 。
2)機関連携
多 機 関 連 携 よ り な る Amachi プ ロ グ ラ ム で は 、 キ リ ス ト 教 会 が メ ン タ ー の 募 集 、 P/PV
が 資 金 管 理 と 評 価 業 務 、BBBS が メ ン タ ー の ス ク リ ー ニ ン グ や マ ッ チ ン グ 、研 修 を 担 当 し 、
その連携の中心となったのが後述のフィラデルフィア初の黒人市長として高名な神学者
W. Wilson Goode で あ る 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 連 携 に 参 加 し た 地 元 の キ リ ス ト 教 会 は 、 収 監 者 の 子 ど も と 週 1 回
少 な く と も 1 時 間 、1 年 間 交 流 す る 10 人 の ボ ラ ン テ ィ ア の メ ン タ ー を 信 者 か ら 募 る こ と を
要請された。各教会は各メンターの交流頻度と活動に関する月例報告書を集計し提出する
責 務 を 負 い 、 そ の た め の 教 会 ボ ラ ン テ ィ ア ・ コ ー デ ィ ネ ー タ ー (CVC)が 牧 師 に よ っ て 任 命
さ れ た 。 各 教 会 の CVC は 定 期 面 談 や 電 話 、 日 曜 礼 拝 後 の イ ン フ ォ ー マ ル な 会 話 等 で 毎 週
の メ ン タ ー の 活 動 の モ ニ タ リ ン グ を 行 っ た 。 各 教 会 は Amachi プ ロ グ ラ ム か ら 年 間 1500
ド ル の 補 助 金 、 な ら び に CVC の 人 件 費 と し て 5000 ド ル が 支 給 さ れ た 23 。
一 方 、BBBS は そ の 百 年 の 活 動 実 績 か ら メ ン タ ー の ス ク リ ー ニ ン グ 、マ ッ チ ン グ 、研 修 、
モ ニ タ リ ン グ 、 メ ン タ ー の 支 援 に 関 す る 効 果 的 な 手 続 き を 確 立 し て い た 。 Amachi プ ロ グ
ラ ム に お け る BBBS の 役 割 は 、そ の 経 験 と プ ロ グ ラ ム 構 造 を 提 供 す る こ と で あ り 、メ ン タ
ー 支 援 コ ー デ ィ ネ ー タ ー (Mentor Support Coordinators, MSC)が メ ン タ ー の ス ク リ ー ニ
ン グ や 研 修 、モ ニ タ リ ン グ を 実 施 し た 。教 会 が 募 集 し た メ ン タ ー は BBBS の メ ン タ ー で あ
る と 同 時 に 、 各 教 会 コ ミ ュ ニ テ ィ 内 の Amachi プ ロ グ ラ ム の メ ン タ ー で も あ り 、 こ う し た
二 重 組 織 に 対 応 し て 上 述 の CVC と MSC と い う 二 重 の ス タ ッ フ が 配 置 さ れ た 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 実 現 を 可 能 に し た の が 、上 記 経 緯 に よ る Pew 財 団 か ら の 資 金 援 助
で あ り 、 加 え て フ ィ ラ デ ル フ ィ ア 市 、 The William E. Simon 財 団 、 The Mid-Atlantic
Network of Youth & Family Services か ら も 支 援 が な さ れ た 。さ ら に The Corporation for
National and Community Service と 健 康 福 祉 省 か ら の 連 邦 補 助 金 の 支 援 が 加 わ っ た 。 プ
ロ グ ラ ム の ア カ ウ ン タ ビ リ テ ィ に つ い て は 、 各 教 会 の CVC が 各 メ ン タ ー の 活 動 報 告 を と
り ま と め 、 毎 月 、 牧 師 に 報 告 す る 一 方 、 牧 師 は Amachi プ ロ グ ラ ム に 参 加 し て い る 各 教 会
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の 実 績 を 自 ら の 教 会 と 比 較 す る こ と が で き る よ う に な っ て い た 。 さ ら に Amachi プ ロ グ ラ
ム の 管 理 責 任 者 が 各 牧 師 と 4 半 期 毎 に 合 い 、 提 出 さ れ た レ ポ ー ト を レ ヴ ュ ー し 、成 功 を 称
え、課題を共に検討した。
3)起動と実践
: W. Wilson Goode
上 記 連 携 よ り な る Amachi プ ロ グ ラ ム の 全 体 的 起 動 実 践 構 想 に お い て は 、 ま ず 人 口 約
150 万 人 の フ ィ ラ デ ル フ ィ ア に は 親 が 服 役 中 の 5~ 18 歳 の 子 ど も が 約 2 万 人 存 在 す る と 見
積もられた。広大な同市には多くの貧困地域や犯罪率の高い地域があり、いかに同プログ
ラ ム の 対 象 を 絞 る の か が 問 題 と な っ た 。 Amachi プ ロ グ ラ ム で は 、 同 市 の 犯 罪 率 が 最 も 高
い4地域(南西フィラデルフィア、西ケンジントン、北フィラデルフィア、南フィラデル
フ ィ ア ) に 及 ぶ 24 の 郵 便 番 号 か ら 特 定 し 、 各 地 域 の 10 の 教 会 か ら 各 10 人 の メ ン タ ー 紹
介 を 要 請 し た 。 四 つ の 各 地 域 に は 、 コ ミ ュ ニ テ ィ ・ イ ン パ ク ト ・ デ ィ レ ク タ ー (CID)が 任
命 さ れ 、 CVC と MSC と 協 働 し つ つ 、 各 地 域 に お け る 日 々 の 活 動 に 責 任 を 負 っ た 24 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 多 機 関 連 携 の 中 核 と な っ た の は 、 フ ィ ラ デ ル フ ィ ア の 黒 人 初 の 市
長 ( 1984-1992) と し て 名 高 い W. Wilson Goode( 1938-) で あ る 25 。 Goode は ノ ー ス カ ロ
ライナ州の貧農出身であり、自伝には以下のような家庭状況と立志の経緯を記している。
「父の飲酒は我々の生活に影を投げかける暗い雲であった。私は二人の父と一緒に住んで
いるように感じていた。一人は物静かで謙虚で、全ての人に親切で家族を愛する働き者の
父であった。もう一人は飲酒で怒りを爆発させ自身の妻や子どもに襲いかかる暴力的な狂
人であった。…誰も父がなぜ飲酒するのか正確にはわからなかったが、私は南部で生活す
るフラストレーションと関係していることを確信している。…私が父の悲惨をより気づく
ようになって、父を不当に扱う白人に対してより一層敵意と怒りを感じるようになった。
特に父の悲惨さによって父が我々を不当に扱う場合にそうであった。…人間は誰も動物の
ように扱われてはならず、自身の存在を小さく感じるようなことがあってはならない。私
は 常 に 人 々 を 公 正 に 尊 敬 と 共 に 遇 す る よ う 誓 っ た 。」 26
苦 学 し て 家 族 で 初 め て 大 学 で 学 ん だ Goode は 、大 学 で の 学 び と 自 ら の 夢 に つ い て 以 下 の
ように述べている。
「 モ ル ガ ン 大 学 に 行 く こ と は 再 度 母 胎 に 入 る よ う な 心 地 で あ っ た 。教 授
は世話をやき、育て、私を夢に向かってやる気を起こさせ、私の夢の実現させてくれた。
私はモルガン大学で地域奉仕への渇望を得、いつか大きな都市の市長となる眺望を獲得し
た 。」 27 保 護 観 察 官 や 民 間 会 社 、 軍 を 経 て 、 ペ ン シ ル ベ ニ ア 大 学 で 行 政 学 修 士 を 取 得 し た
得 、Goode は フ ィ ラ デ ル フ ィ ア 市 の 行 政 官 と な り 、同 市 の 黒 人 初 の 市 長 に 就 任 し た 。市 長
引 退 後 、ク リ ン ト ン 政 権 の 教 育 省 副 長 官 代 理 を 務 め た Goode は 牧 師 な ら び に 神 学 者 と な り 、
2000 年 に P/PV の 顧 問 と な っ た 。
Goode は 大 規 模 な 社 会 変 革 も 個 人 の 変 換 と 共 に な さ れ ね ば な ら ず 、そ う し た 変 換 は 関 係
的なもので我々が具体的に解決できる問題であり、資金をばらまけば何か当たるというの
と は 対 照 的 で あ る と い う 28 。 自 身 の 父 が 収 監 さ れ た 経 験 を も つ 生 い 立 ち か ら も 、 Goode は
Amachi プ ロ グ ラ ム の 実 現 に 適 任 者 で あ っ た 。 Goode は 、 後 述 す る よ う に フ ィ ラ デ ル フ ィ
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ア の 教 会 を 訪 問 し Amachi プ ロ グ ラ ム の 趣 旨 説 明 と メ ン タ ー の 募 集 依 頼 を 行 う と 共 に 、 刑
務所のソーシャルワーカー等とも連携してメンティ募集に当った。
4)メンティの募集
Amachi プ ロ グ ラ ム の 実 践 に お い て 、 特 に 困 難 を 極 め た の が メ ン テ ィ の 募 集 で あ っ た 。
対象となるメンティが紹介されることは期待できず、また個人情報の守秘義務の上からも
メ ン テ ィ 対 象 者 の 把 握 は 周 到 な 配 慮 を 要 す る と 共 に 、把 握 そ の も の が 極 め て 困 難 で あ っ た 。
当 初 、 フ ィ ラ デ ル フ ィ ア 市 福 祉 部 ( Department of Human Service) と の 連 携 か ら 対 象 者
の把握をしようとしたが、同部の所管対象は多種多様な幾千人もの危機的状況にある子ど
もであり、初期面談の過程から収監者の子どもを見出すことはできなかった。対象となる
子 ど も を 見 出 し た 場 合 で も 、守 秘 義 務 の 観 点 か ら 子 ど も の 名 前 を 知 る こ と は で き な か っ た 。
各教会の牧師も、礼拝に来ている子どものうち親が収監されている子どもは誰なのか不明
で あ っ た 。 ま た そ れ を 公 然 と 教 会 員 に 尋 ね る こ と も 憚 ら れ た 29 。
試 行 錯 誤 の 末 、直 接 刑 務 所 に 出 向 く こ と と な っ た Goode は 、当 初 、刑 務 所 担 当 牧 師 に 接
触するも守秘義務に加えてそれまでの収監者家族の支援活動がうまくいっていないことも
あり、収監者の子どもを見出す直接的支援は得られなかった。そうした過程にあって刑務
所 担 当 牧 師 が 、収 監 者 の 家 族 を 熟 知 す る 刑 務 所 担 当 の ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー を Goode に 紹 介
し た 。ソ ー シ ャ ル ワ ー カ ー の 協 力 の 下 、Goode を は じ め P/PV の ス タ ッ フ は 、所 内 に Amachi
プログラムの看板を掲示し、申込用紙をソーシャルワーカーに託した。多数の参加申込が
届 く も の と 期 待 し て い た が 、 1 か 月 た っ て も 届 い た 申 込 は ご く 僅 か で あ っ た 30 。
次 に Goode は フ ィ ラ デ ル フ ィ ア 刑 務 部 収 監 者 サ ー ビ ス 課 と 協 働 し て 、監 房 を 訪 問 し 直 接
収 監 者 に Amachi プ ロ グ ラ ム の こ と を 伝 え た 。Goode は 収 監 者 の 子 ど も の 危 機 的 状 況 と メ
ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム の 効 果 、 Amachi プ ロ グ ラ ム の 概 要 を 簡 潔 に 伝 え 、 英 語 と ス ペ イ
ン語のパンフレットと子どもと保護者の連絡先を記す申込用紙を配布した。さらに刑務所
の 行 政 官 が Goode に よ る Amachi プ ロ グ ラ ム の 説 明 会 の 開 催 を 組 織 し 、開 催 に 際 し て は 刑
務官とソーシャルワーカーが刑務所の規則説明と支援に当った。例えば、申込用紙の記入
に 必 要 な 鉛 筆 は 刑 務 所 内 で は 持 込 禁 止 物 品 で あ り 許 可 証 が 必 要 で あ っ た と い う 31 。
男 女 別 に 開 催 さ れ た Amachi プ ロ グ ラ ム の 説 明 会 で は 、男 性 向 け が 100 人 単 位 で 開 か れ
子 ど も と 関 係 を 保 っ て い る 割 合 が 少 な い せ い か 反 応 は 鈍 か っ た が 、 30-40 人 単 位 で 実 施 さ
れた女性向け説明会では直ぐに申込があった。収監者の子どものみをメンティに想定して
いたが、甥や姪、従妹、孫にも申込みたいという声もあがった。結果的に子どものいる男
性 収 監 者 の 約 半 数 、女 性 の 90% が 申 し 込 み 、メ ン テ ィ 申 込 み 総 数 は 約 2000 人 と な っ た 32 。
こ う し て 親 が 記 し た 申 込 書 に 基 い て Goode を は じ め P/PV の ス タ ッ フ は 、メ ン テ ィ 候 補
者 の 子 ど も と 保 護 者 を 訪 ね 、 Amachi プ ロ グ ラ ム へ の 参 加 を 促 し た 。 し か し な が ら 、 実 際
に接触することができたのは約半数であった。半数は親の記した子どもの住所が間違って
いたり不詳であったりして訪ねあてることができない場合や、養育者家族の転居により子
どもの消息が不明となっている場合もあった。こうした事情もあり、結果的に地理的問題
- 31 -
や 該 当 年 齢 制 限 に よ り 2002 年 の 実 際 の ぺ ア の 数 は 400 組 と な っ た 33 。
4 . Amachi プ ロ グ ラ ム の 活 動 実 態 と 成 果
1)参加者
Amachi プ ロ グ ラ ム の 2001~ 2003 年 の 活 動 実 態 は 以 下 の と お り で あ る 。
メ ン テ ィ は 、 計 517 人 で 男 子 が 47% で あ っ た 。 年 齢 分 布 は 5~ 7 歳 が 25% 、 8~ 9 歳 が
21% 、 10~ 12 歳 が 34% 、 13~ 15 歳 が 18% 、 16~ 18 歳 が 1 % と な っ て い た 34 。
ま た 参 加 協 力 を し た 42 の 教 会 の う ち デ ー タ を 得 ら れ た 39 の 教 会 の 教 会 員 の 規 模 は 100
人 以 下 か ら 1000 人 以 上 ま で 多 様 で あ っ た が 、初 年 度 参 加 の 全 て の 教 会 は プ ロ テ ス タ ン ト で
あった。半数がバプテスト派で、それ以外ではペンテコステ派、ルター派、統一メソジス
ト教会、アフリカ・メソジスト監督教会、七日再臨派等であった。若干ではあるが参加協
力 を 断 っ た 教 会 が あ っ た が 、 そ の 理 由 は 人 手 不 足 と 公 的 資 金 へ の 躊 躇 で あ っ た 。 ま た 、 12
の教会は既にある種のメンタリングを含む支援活動、例えば月例ツアー、グループ活動、
学習支援等大人による子どもの支援活動等を実施していたが、構造化されたプログラムで
は な か っ た 35 。
メ ン タ ー に つ い て は 、 計 482 人 で 男 性 が 42% で あ っ た 。 そ の 年 齢 分 布 で は 、 17-21 歳 が
5% 、 22-30 歳 が 18% 、 31-40 歳 が 22% 、 41-50 歳 が 28% 、 51-60 歳 が 16% 、 60 歳 以 上 が
10% と な っ て い た 。人 種 構 成 は 、ア フ リ カ 系 82% 、ラ テ ン 系 8 % 、白 人 系 7 % 、そ の 他 2 % 、
で あ り 、 圧 倒 的 多 数 が ア フ リ カ 系 で あ っ た 36 。
2)活動と継続性
実 際 の 活 動 に つ い て は 、 ぶ ら ぶ ら す る ( 55% )、 食 事 を す る ( 39% )、 ス ポ ー ツ 観 戦 や 映
画 や 劇 場 に 出 か け る( 21% )、教 会 の 礼 拝 参 加( 21% )、他 の 教 会 活 動 に 参 加( 16% )、学 校
の 宿 題 ( 9% )、 ス ポ ー ツ ( 6 % ) 等 、 総 じ て 、 子 ど も と 自 然 に 共 に 楽 し く 時 間 を す ご す こ
と が 主 流 で あ っ た 37 。
交 流 の 月 間 活 動 実 績 に つ い て は 、 平 均 月 2 回 で 計 7.3 時 間 と な っ て い た 。 中 に は 週 22
時間以上、5日以上交流しているペアもあった。継続期間別でみると、1 年以上継続して
い る ペ ア の 平 均 で は 活 動 日 数 が 2.3 回 、 月 間 計 8.5 時 間 と な り 、 7 ~ 9 か 月 で 活 動 時 間 の
減 少 傾 向 が 見 ら れ る が 、概 ね 継 続 期 間 が 長 く な る と 活 動 時 間 も 長 く な る 傾 向 が 見 ら れ る 38 。
ま た こ れ ら の ペ ア の 継 続 性 に つ い て は 、2001-2003 年 に 参 加 し た 556 組 の う ち 、56% が
次 年 度 ま で 活 動 を 継 続 す る 一 方 、44% は 当 該 年 度 で 終 了 し て い る 。こ の う ち 1 年 以 内 の 終
了 が 30% 、 1 年 後 が 14% で あ っ た 39 。 ま た 、 同 13 か 月 以 上 継 続 し て い る 399 組 の う ち 、
そ の 後 3 か 月 ま で に 終 了 し た ペ ア が 4 % 、3-5 か 月 の 終 了 が 9 % 、6-12 か 月 の 終 了 が 25% 。
1 年 以 上 の 継 続 ペ ア は 62% で あ っ た 40 。 活 動 が 1 年 以 内 に 終 了 し た 理 由 に つ い て は 、 親 や
保 護 者 が 継 続 を 希 望 し な い ( 24% )、 子 ど も の 引 越 ( 22% )、 メ ン タ ー の 引 越 ( 16% )、 メ
ン タ ー の 時 間 不 足( 11% )、親 の 出 獄( 11% )、子 ど も が 継 続 を 望 ま ず( 6% )、子 ど も の 家
族 構 成 の 変 化 ( 4% )、 メ ン タ ー が 継 続 を 希 望 せ ず ( 3% )、 そ の 他 ( 3% ) と な っ て い た 41 。
3)成果と課題
- 32 -
BBBS が 実 施 し た プ ロ グ ラ ム 評 価 に よ れ ば 、 Amachi プ ロ グ ラ ム に 1 年 以 上 の 継 続 参 加
者 に つ い て 、93% の メ ン タ ー と 82% の 保 護 者 が 、メ ン テ ィ が よ り 自 信 を 持 つ よ う に な っ た
と し 、メ ン タ ー と 保 護 者 そ れ ぞ れ 約 60% が 将 来 展 望 の 改 善 、多 数 が 成 績 向 上 と 出 席 率 向 上
を 報 告 し て い る 。 こ れ ら の 数 値 は 、 Amachi プ ロ グ ラ ム が BBBS の 他 の コ ミ ュ ニ テ ィ 型 メ
ンタリング・プログラムと同様の成果を、少なくともこれまで上げていることを示してい
る と さ れ る 42 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 成 果 に つ い て は 、 参 加 者 や 保 護 者 、 牧 師 か ら の 多 く の コ メ ン ト が
あ る 。あ る 牧 師 は 以 下 の よ う に 述 べ て い る 。
「 子 ど も た ち は 自 身 を よ き も の 、積 極 的 な 存 在
として感じることのできる人と一緒にいることを切実に欲しています。彼らは共に時をす
ごす人を求めています。その時間とは彼らが頼れる一貫した時間であり、破壊されない時
間 を 共 に す ご す 人 を 求 め て い ま す 。」 43
今後の課題としては、関係性に限定された活動と物資支援の必要性、保護者との関係性
の 問 題 、さ ら に は 親 が 出 所 し て き た 場 合 の 関 係 性 を い か に 安 定 化 す る か 等 の 難 題 が あ る 44 。
4)波及:連邦政策による促進
上 記 の Amachi プ ロ グ ラ ム の 成 果 に 基 づ き 、 健 康 福 祉 省 が 「 収 監 者 の 子 ど も の た め の メ
ン タ リ ン グ・プ ロ グ ラ ム 」の 普 及 を 目 指 す 連 邦 補 助 金 政 策 を 開 始 し た 45 。社 会 保 障 法 第 439
項 と し て 2001 年 の 「 安 全 で 安 定 し た 家 族 の 促 進 の た め の 改 訂 」 の 下 で 法 制 化 さ れ 、 親 が
収 監 さ れ て い る 10 万 人 以 上 の 10~ 14 歳 の 子 ど も が メ ン タ ー を 見 出 せ る よ う 支 援 す る こ と
を 目 指 し て い る 。 そ の 背 景 に は 、 親 が 収 監 さ れ て い る 子 ど も の 数 が 1991 年 の 93 万 6000
人 か ら 1999 年 の 150 万 人 に 増 大 し 、 今 日 、 親 が 刑 務 所 等 で 収 監 さ れ て い る 4~ 18 歳 ま で
の 子 ど も は 200 万 人 に 達 し て い る と 見 積 も ら れ 、そ の 人 種 構 成 は 白 人 の 子 ど も は 1 % 以 下 、
同黒人は7%、ヒスパニック系は3%となっていることがある。こうした子どものための
メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム の 促 進 を 目 指 す 同 補 助 金 政 策 の 論 拠 と な っ た の が Amachi プ ロ
グ ラ ム で あ っ た 46 。
「 収 監 者 の 子 ど も の た め の メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム 」 の 実 績 に つ い て は 、 2007 年 5
月 ま で に 44 州 な ら び に コ ロ ン ビ ア 特 別 区 と プ エ ル ト リ コ の 5.7 万 人 の 子 ど も に メ ン タ リ
ン グ の サ ー ビ ス が 提 供 さ れ て い る 47 。同 補 助 金 政 策 の さ ら な る 展 開 と し て 、MENTOR を 通
じ て 保 護 司 選 択 プ ロ グ ラ ム ( Caregiver ’s Choice Program) と 称 さ れ る バ ウ チ ャ ー が 導 入
さ れ て い る 。2008 年 度 に は 8000 人 、2009 年 度 に は 13000 人 の 参 加 が 見 積 も ら れ て い る 48 。
2011 年 現 在 、 48 州 で 250 の 収 監 者 の 子 ど も の メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム が 実 践 さ れ 、
6000 の 教 会 と の 連 携 の 下 、少 な く と も 10 万 人 の 子 ど も の 支 援 が な さ れ て い る こ と が 判 明
し て い る 49 。2005 年 の MENTOR の 調 査 に よ れ ば 、メ ン タ リ ン グ・プ ロ グ ラ ム に 参 加 経 験
のある大人の中で、親が収監されている子どものメンタリングを経験したことがある者は
17% で あ り 、 一 方 、 今 後 そ う し た 活 動 を し て み よ う か 考 え て い る 者 は 78% で あ っ た 50 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 意 義 は 、 メ ン タ リ ン グ 運 動 に 参 加 す る 個 人 の 意 識 に も 十 分 浸 透 し つ
つあるといえる。
- 33 -
5.おわりに
収監者の子どものためのメンタリング・プログラムは、通常のプログラムと比べて、い
くつかの際立った特徴が見られる。その一つが、切実に支援を必要としながらも通常のメ
ンティ募集ができないことであり、こうした「見えない」社会集団に向けられた新たなメ
ンタリング・プログラムの適用事例ととらえることができる。メンタリング運動の新たな
可 能 性 を 開 く 先 駆 的 事 例 と し て の Amachi プ ロ グ ラ ム の 歴 史 的 重 要 性 が 見 出 さ れ る 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 実 施 に お い て は 、 上 述 の よ う な 構 想 と 実 践 に あ た っ て の 困 難 と 試
行錯誤があったが、地域コミュニティの宗教団体と世俗団体間の協力連携によって克服さ
れ た 。 Amachi プ ロ グ ラ ム の 構 想 は 社 会 科 学 の 研 究 成 果 に 基 づ き 、 具 体 的 な 子 ど も の ニ ー
ドの確定から、具体的プログラムの構造、管理、関与、財源の確保が慎重に実施された。
こ う し た 実 績 は 上 記 で 引 用 し た 報 告 書 に 加 え 、メ ン タ ー 自 身 の 経 験 知 の 総 括 51 や 、Amachi
プ ロ グ ラ ム の 他 地 域 で の 構 想 展 開 知 52 と し て も 後 発 実 践 者 に 向 け て 蓄 積 さ れ て い る 。
Amachi プ ロ グ ラ ム の 実 践 と 成 果 は 日 本 の メ ン タ リ ン グ 運 動 に 貴 重 な 実 践 的 示 唆 を 与 え
ているように思われる。日本のBBS運動をこうした収監者の子どもに拡大することも可
能なのではなかろうか。周知のように米国をはじめとする「先進」各国でメンタリング運
動 の 中 核 を 担 っ て き た の は BBBS で あ る が 、米 国 か ら の モ デ ル 受 容 が 日 本 に お い て は 保 護
司制度と合体して他国にはない稀有なものとなっている。支援対象が非行青少年に限定さ
れ、BBSの活動が保護司の補助と位置づけられ、今日に至っている。市民ボランティア
による献身的な更生保護活動としての日本の保護司制度ならびにBBS運動がこれまで多
大な成果を挙げてきたことは衆目の一致するところであるが、特にBBS運動が他国のよ
うな広範な市民運動としてのメンタリング運動に拡大していかない日本の現状を考えると、
米国における収監者の子どものためのメンタリング・プログラムの実践と成果は、保護観
察制度に包摂された徹底した守秘義務と深い人間愛に基く日本のBBS運動の実績と強み
を活かした新しい運動展開につながる可能性を示しているように思われる。
1 拙 稿「 社 会 的 包 摂 に 向 け た メ ン タ リ ン グ 運 動 」
『 愛 知 淑 徳 大 学 論 集 - 文 学 部・文 学 研 究 科
篇 』 第 33 号 2008 年 。
2 本稿は「米国におけるメンタリング運動の新動向:収監者の子ども向けプログラムを中
心 に 」2011 年 9 月 17 日( 日 本 女 子 大 学 )日 本 社 会 教 育 学 会 第 58 回 大 会 で の 研 究 発 表 に 基
い て い る 。 同 プ ロ グ ラ ム ( 発 表 要 旨 集 録 ) 140 頁 を 参 照 。
3 Hairston, C., Focus on Children with Incarcerated Parents: An Overview of the
Research Literature, The Annie E. Casey Foundation, 2007.
4 Mentoring Children of Prisoners Bibliography (http://www.acf.hhs.gov/programs)
5 総 務 省 統 計 局 『 新 版 日 本 長 期 統 計 総 覧 第 5 巻 』 日 本 統 計 協 会 2006 年 576 頁 等 。
6 The Pew Charitable Trusts, One in 100 Behind Bars in America 2008 ,
(http://www.percenterounthestates.org)
7 Mauer, M. et al., Incarcerated Parents and Their Children –Trends 1991-2007, The
Sentencing Project , Feb. 2009, in Children and Families of the Incarcerated Fact Sheet,
National Resource Center on Children and Families of the Incarcerated.
8 Hairston, op. cit., p.4.
9 Ibid., pp.14-16.
10 MENTOR, Mentoring Children of Prisoners
(http://www.mentoring.org/program_research_corner)を 参 照 。
- 34 -
Ibid.
Ibid.
13 Hairston, op. cit., pp. 28-30.
14 Ibid., p.31.
15 The National Crime Prevention Council, People of Faith Mentoring Children of
Promise: A Model Partnership Based on Service and Community , 2004, p.2.
16 Ibid., p. 5.
17 ペ ン シ ル ベ ニ ア 大 学 政 治 学 部 ( http://polisci.upenn.edu/index.php?option=) 参 照 。
18 Growth Philanthropy Network
(http://www.growthphilanthrophy.org/bio_gwalker.cfm)を 参 照 。
19 Husock, H., et al., Starting Amachi: The Elements and Operation of a
Volunteer-Based Social Program, Kennedy School of Government Case Program
C16-03-1710.0., pp.2-3.
20 Ibid, pp.3-4.
11
12
21
Jucovy, L., Amachi: Mentoring Children of Prisoners in Philadelphia , P/PV, 2005, pp.
2-3.
22
23
24
25
Amachi (http://amachimentoring.org)を 参 照 。
Jucovy, op.cit.,p.8.
Ibid., pp.10-11.
W. Wilson Goods Biography (http://www.thehistorymakers.com/biography)を 参 照 。
Goode, W. W., In Good Faith , Judson Press, 1992, pp. 12-13.
Ibid., p. xii.
28 Husock, H., et al., op.cit., p.5.
29 Jucovy, op.cit., p.14.
30 Ibid., pp.14-15.
31 Ibid., p.15.
32 Ibid., pp.15-16.
33 Ibid., p.16.
34 Ibid., p.17.
35 Ibid., p.19.
36 Ibid., p.24.
37 Ibid., p.28.
38 Ibid., p.29.
39 Ibid., p.32.
40 Ibid., p.35.
41 Ibid., p.33.
42 Ibid., p.36.
43 Ibid., p.28.
44 Ibid., pp.30-31
45 拙 稿 「 米 国 連 邦 政 策 に お け る メ ン タ リ ン グ ・ プ ロ グ ラ ム と 学 校 教 育 制 度 」
『愛知淑徳大
学 論 集 - 文 学 部 ・ 文 学 研 究 科 篇 』 第 35 号 2010 年 を 参 照 。
46 Fernandes, A., CRS Report for Congress, Vulnerable Youth: Federal Mentoring
Programs and Issues , Updated June 20, 2008, p. 10.
47 Ibid., p.41.
48 MENTOR, Mentoring Children of Prisoners, op. cit.
49 Amachi, op.cit.を 参 照 。
50 MENTOR (National Mentoring Partnership), Mentoring in America 2005: A
Snapshot of the Current State of Mentoring , 2006, p.5.
51 Davies, E., et al., Understanding the Experiences and Needs of Children of
Incarcerated Parents: Views from Mentors , Urban Institute, 2008.
26
27
52
Goode, W. W. Sr. & Simith, T., Building From the Grounded Up: Creating Effective
Programs to Mentor Children of Prisoners, The Amachi Model , P/PV, 2005.
- 35 -
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