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ブドウの取り木による鉢物生産

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ブドウの取り木による鉢物生産
ブドウの取り木による鉢物生産
1
住
所
鉾田市野友
氏
名
山根
顕介
課題化の背景
鉢花の価格低迷に伴い、収益性の高い新たな商材へのニーズが高まっている。園芸研
究所で研究を進めている欧州系ブドウに着目し、取り木による鉢物生産技術の確立を目
指す。
2
技術開発しようとした内容
これまでの挿し木によるブドウ鉢物生産 は出荷するまでに通常3~4 年を要するため、
連年ブドウ鉢物生産が可能となる取り木によるブドウ鉢物生産技術を開発する。
3
技術開発の成果
1)取り木によるブドウ鉢物生産技術の開発
【1年目】
不織布ポットで1年間育成した苗木を定植し、翌年の取り木の結果母枝となる新
梢を育成した。供試品種は、マニキュアフィンガー・ロザリオビアンコ・赤嶺・ロ
ザリオロッソ・ロザキ・マスカットオブアレキサンドリアの欧州系ブドウ6品種(2
年生、各1樹)。
【2年目】
(1)鉢底の中央から結果母枝を挿し込み、用土を入れた後十分灌水を行った。鉢はプ
ラ鉢(7号)を使用し、施肥は行わなかった(図1)。
(2)発芽伸長後、行灯型の支柱を設置して新梢を誘引し、欧州系ブドウの新梢管理方
法と同様に摘心して副梢の発生を促した。
(3)開花時に花穂を整形した。通常の果穂整形は、上部支梗を詰めて円筒型とするが、
鉢物の場合はブドウらしさを 考慮し、あえて自然状態に近い円錐形とした。
(4)成熟期に鉢底で結果母枝を切り離し、ポリ鉢をはずして化粧鉢に移して用土を充
填し た 。 切り 離し 後は 、室 内 ( 園 芸 研究 所ロビ ー )で 展示 して (9 月2 日~ 10 月
20 日)適宜灌水し、鑑賞期間を調査した。調査期間中は、葉の黄化や落葉は見られ
ず、十分な発根が得られたと 思われた。果実については、裂果した果粒から黒かび
が発 生 し、 随 時 摘 粒し た 。 病 害の 発生 によ る 障害 を 考慮 した 「マニキュアフィンガー」の 鑑
賞期間は、ほぼ 1 ヶ月と考えられた。なお、照明の暗い室内や水分不足は、葉の黄
化がすすむものと 考えられた 。
2)商品性の高い鉢物スタイルの検討
(1)行灯(支柱)の種類は、作業性、商品価値、輸送性から重要と考えられため、市
販品など 4 種類について検討したがいずれも 適さなかった。作業性については、新
梢が直上に伸びた後、横方向に円状に誘引する必要があるため、何度も誘引の必要
があ った 。ま た、 結 果母枝 を鉢 の用 土 面 から 2~3 芽と 低 位 置で せ ん 定 し たた め 、
房の着果位置も低く房を誘引ひもで持ち上げる必要があった。このことから、結果
母枝は、鉢の用土面からある程度の高い位置でせん定し、横方向のみ誘引するほう
が効率がよく省力であると思われた。
-5-
(2)鑑賞する場合、葉も商品価値 を高める要因の一つとなるため、葉の小型化につい
て検討した。本葉に比較して副梢葉は小さいため、鉢植え栽培では副梢を有効に利
用する方法が良いと考えられた。
(3)植調剤(ジベレリン)利用による 果粒肥大の促進効果(供試品種:ロザキのみ)
について検討した。ロザキは樹勢が非常に強く花穂の着生が少なかったため、鉢物
栽培はできなかった。ジベレリン処理により果粒肥大は促進されたが果軸が湾曲し
て果形が乱れ商品価値はなかった。強樹勢の影響と考えられた。
(4)切り離し時期については、鉢数が少ないため検討できなかった。成熟期の切り離
しは、以後の生育に問題はなかった 。
3)アンケートによる鉢物の評価
対象:欧州系ブドウ品種検討会の参加者
時期:平成 17 年 9 月 7 日
場所:園芸研究所ロビー
方法:図2のブドウ鉢物 A、B、C を展示し、印象、仕立て方などの評価につい
てアンケートを実施した。
(1)アンケート回答者
欧州系ブドウ品種検討会に参加したブドウ生産農家、農業改良普及 センター職員、農
業大学校学生など 41 名から回答があった。年代別では 40 歳代が最も多く、次いで
前後の 30 歳代と 50 歳代、以下 60 歳代、20 歳代となり、最高齢は 75 歳、最年少
は 20 歳であった。男女別では、20~30 歳代の女性 3 名の他は男性であった(表1)。
(2)ブドウの鉢植えを見た第一印象について
「おもしろい・珍しい」が最も多いことから、鉢物としての意外性があり、食べ
る楽しみ(美味しそう)を付加した鑑賞するブドウ鉢物として良い評価が得られた。
一方で、房が少ないとの印象もあり、デザインについて検討する必要がある(表1)。
(3)用途について
贈答、リース(ディスプレイ )がほとんどで、観賞用(自宅)は、かなり少なか
っ た 。 贈 答 は 、お 中 元 ・ 敬老 の 日 、 リー ス は 、 レ ス ト ラ ン ・ホ テ ル ・ デ パ ー ト ・結
婚式場・ワイン店・飲食店などで 、イベント 商材としての用途もあげられた(表2)。
(4)仕立て方などデザインについて
気に入った鉢の割合 は A・B が多く(A、B の合計 87%)、C は 13%と少なかった。
選んだ理由として、房の大きさが最も多く、次いで仕立て方、葉のボリュームであ
った。C は、全体的に葉が少なく小さな仕立てとなったが、房と葉のバランスが良
い、葉のボリュームが良い、手ごろとの 意見があった。また、それぞれ全部良いが
2名あった(表3)。
(5)品種について
果 色 は、 赤 ・ 白 ・ 黒の 組 み 合わ せ が 最 も 多く 、 特 に赤 ・ 白 が 多 かっ た 。 粒形 は、
「鑑賞するので変わった形のほうが 良い」と「こだわらない」が半々であった。食
味は、「 こだわらない 」が最も多いことから鑑賞が主と考えられるものの、「皮ごと
食 べ ら れ る 」「種 がな い」「 食 味の 良 いも の 」 を考 慮 する と 、「食 べ る 」 を 念 頭に 置
いた品種選択が必要と考えられる(表4)。
-6-
(6)房の大きさと房数について
中房2つが最も多く、組み合わせを考慮した結果といえる。1房の場合は大房に
限定され、3~4房であれば小房でも可、できれば中房~大房が望まれる。通常、1
新梢に2果房着果は可能であるが、3つ以上または2色の組み合わせは、新梢数が
1鉢当り2本必要となり、全体のボリュームを大きくする必要がある(表5)。
(7)出荷時期について
着色が始まった頃が最も多く、「着色の変化がわかっておもしろい」「長い期間楽
しめる」などが理由として挙げられている。食べ頃の出荷は、ディスプレイとして
「すぐ楽しめる」、「つまむ人もいるので 、まずいとイメージが悪くなる」などがあ
っ た 。 ま た 、 摘粒 が 終 わっ た 頃 は 、「 果 粒 の 形 や肥 大 の 変 化が 長 期 間 楽 し め る 」な
どがあり、ステージは不明だが、贈答の時期に合わせて出荷が 3 名あった。着色が
始まった頃の出荷は、切り離す時期とも関連があり、十分に細根が発生しているか
どうか検討する必要がある(表6)。
(8)価格について
各鉢とも 3000~5000 円がほぼ半数を占めて最も多く、贈答品としての価格設定
と思われる。C はボリューム が小さいためか、3鉢の中ではやや低めのランクとな
った。また、各鉢とも 10000 円以上の価格設定も見られ、個人差が大きいと考えら
れる(表7)。
(9)商品化に向けての工夫
房数を多くする、仕立て方や房の大きさ、色(組み合わせ)などの工夫、観賞用
と 贈答 用 な ど 用 途 別 に 分 ける ( ワ イ ン 店 も 含 む)、 出 荷 に当 た っ て は 、品 種 解 説や
購入後または次年度の管理方法のレシピ の添付、輸送の方法についてコメントがあ
った。また、今後解決しなければならない問題として、苗木販売と同様パテントに
関する指摘があった(表8)。
4
開発した技術の問題点
1)ブドウの鉢物は、欧州系ブドウなど品種の多様性を活用した新しい商材として期待
できるが、用途別の品種選定 やデザイン の工夫など、今後検討すべき課題は多い。特
に、リースはターゲットが多方面におよぶため、どのようなものが需用に合うか、ニ
ーズの調査を行う必要がある。
2)取り木による鉢物生産は、通常の果実生産同様、適正な樹勢の維持・コントロール
がポイントとなる。強樹勢は、摘心を繰り返す必要があり多くの労力を要する。弱樹
勢では、大きな房の着果が期待できない 。根域制限による母樹の樹勢コントロールが
重要である。
3)システム化を図るためには、優良な結果母枝の安定的な育成・確保が必要であり、
今後は、予備枝を用いた効率的な結果母枝の更新方法を検討する必要がある。
4)パテントについては、育成者との協議が必要なため、今後、早急に具体的な取り組
みを行う必要がある。
5
問い合わせ先
鉾田地域農業改良普及センター
(電話 0291-33-4111)
-7-
図1
(左)ポットへの結果母枝の挿入と固定
(右)用土の充填
A
図2
B
C
ブドウ鉢物の展示 ( 品 種 A ・ B : マニキュアフィンガー、 C : ロザリオロッソ)
( 支 柱 A : 市 販 スチール支 柱 を 加 工 、 B : 市 販 支 柱 ( 完 成 品 )、 C : 市 販 竹 製 支 柱 )
表1 第一印象は?
おもしろい・珍しい
観賞用・インテリアに良い
見事・すばらしい
きれい・良い・楽しい
美味しそう
房が少ない
(人)
9
7
6
5
2
2
表2 用途は?
贈答
リース(ディスプレイ)
観賞用
(人)
表5 房の大きさと数は?(人)
中房 2つ
15
大房 1つ
10
小房 3~4つ
5
大房1つと中房2つ
2
大房 3つ
1
20
18
2
表3 どの鉢が気に入りましたか?それはなぜですか?
鉢
A
B
C
全部
(人) (%)
14
13
4
2
42
39
12
6
房の大きさ 仕立て方 葉のボリューム バランス
8
6
3
1
8
5
2
2
1
‐
1
3
‐
‐
‐
‐
表4 どのような品種が良いですか?
(人)
果色
粒の形 (人)
赤
7 変わった形 14
黒
4 こだわらない 14
白
1 卵型
1
組み合わせ 14
どの色でも良い 7
表6 出荷時期は? (人)
着色が始まったころ
20
食べ頃(成熟期)
8
摘粒が終わったころ
3
夏:6月下旬~ 7月上旬
秋:9月下旬~10月上旬
表7 価格はどの位が適当ですか?
計(%)
価格
A B C
1500~ 3000円
3
2
8 13 ( 17 )
3000~ 5000円
16 16 11 43 ( 55 )
5000~10000円
4
2
3
9 ( 12 )
10000~30000円
6
4
3 13 ( 17 )
-8-
3
(人)
食味
皮ごと食べられる 11
種がない
7
食味の良いもの
4
こだわらない
14
表8 商品化に向けてどのような点を
(人)
工夫したら良いと思いますか?
房数は多いほうが良い
5
仕立て方、房の大きさ、果実の色を工夫 4
管理方法(水やり等)のレシピ
3
2色混植
2
パテントの問題はないのですか?
2
観賞用と贈答用で分けたほうが良い
1
ワイン用品種で、ワイン店に買ってもらう 1
品種名と来歴を明記する
1
輸送性を良くする
1
Fly UP