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絵本場面における母親と子どもの対話分析エ

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絵本場面における母親と子どもの対話分析エ
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,1−11
絵本場面における母親と子どもの対話分析:
フォーマットの獲得と個人差
石崎理恵
(七尾短期大学)
本研究は,絵本を媒介とした母親と子どもの対話を縦断的に分析することによって,①フォーマット
はどのように形成されて,変化するのか②フォーマットの使用に第一子と第二子の個人差はあるのか
について調べることを目的とした。第一子は8カ月から3歳0カ月まで,第二子は1歳0カ月から3歳
0ヵ月まで観察した。その結果次のことが明らかになった。①フォーマットの獲得は,形成期(母親が
主導する),習得期(子どもが参加する),使用期(母親と子どもが役割交替をする)へと進むが,2歳
台では文化差の存在が示唆された。②第一子と第二子に対して使用されるフォーマットには違いがみら
れた。第一子との対話には質問反応型が多く,第二子との対話には情報提供型が多く使用された。その
要因として,第一子と第二子に対する母親の子育て観の違い,第二子と母親の対話への第一子の同席状
況,子どもの言語習得スタイルなどが考えられた。
【キー・ワード】母親と子どもの対話,絵本場面,フォーマット,個人差,出生順位差
問題と目的
した。
第二に,生得的な言語習得仮説では扱われなかった個
幼児の言語習得過程を説明するため,様々な理論が展
人差の問題である。具体的には,言語習得スタイルに個
開されてきた。その中で最近関心を集めているものに,
人差があるとするものが多い。たとえばNelson(1981)
子どもと大人との社会的相互作用に注目した研究がある。
は,子どもがもっている語童の種類からreferentialchildren
Bruner(1975)は,母親と子どもの間にみられる言語を
とexpressivechildrenに分類し,この2つのスタイルは
獲得する以前のやりとり遊びが,非常に儀式化されたも
一貫したものではなく,文脈や発達的に移行が生じるよ
のであることを指摘し,それが言語構造を理解しやすい
うだと述べている。このような個人差を説明する要因と
状況を作り出していると述べた。Ninio,&Bruner(1978)
して,子どもの気質や認知スタイル,教育程度,出生順
は,絵本を媒介とした母親と子ども(0;8∼1;6)
位,社会階層,学習課題へのアプローチをあげている。
のやりとりを分析し,そこに一定のフォーマット(format)
言語発達を考えるうえで考慮しなければならないもう一
が形成されることを見出した。母親の発話は,注意喚起,
つの個人差は,対話スタイル(interactionalstyle)の個人
差である。Kaye,&Charney(1981)は,母親が子どもに
反応を要求する程度には個人差があると述べており,別
質問,ラベルづけ,フィードバックという4つのキー発
話に限られており,それらの生起順序に厳密な規則があ
るというものである。このフォーマットはまだ言語能力
の研究(Kaye,1982)において,母親の対話スタイルの
の未熟な子どもに,会話の展開を予測しやすくさせる便
個人差は母親の子どもに対するイメージの相違によって
利な教授システムである。フォーマットの形成は最初母
生じるのではないかとしている。
親が主導権を握り,やがて子どもも同等に参加できるよ
第三に,母子相互作用以外の社会的相互作用の問題で
うになり,ついには子どもが主導権をとるようになる。
ある。子どもの言語発達環境を考えた場合,必然的に母
その後もフォーマットは必要に応じて変化し,複雑なも
子相互作用の占める割合が高いので,多くの研究がそれ
のになっていく(Bruner,1985)。このようなフォーマッ
に集中してきた。ところが最近家族をベースにした研究
トの形成が,言語習得のために必須のものと考えられる。
の重要性が注目され,父親ときょうだいの影響を扱った
言語習得過程として母子相互作用に注目した研究は,
研究も現われるようになった。特に母親と年長児,母親
いくつか考慮しなければならない問題を見出した。第一
と年少児の相互作用を比較したものが目立つ。それらの
に,子どもの能動的な役割についてである。母子相互作
研究は,年長児が一緒にいる状況では母親が年少児に話
用はもっぱら母親が子どもに合わせて会話を維持してい
しかけることは少なくなるという結果で一致している
ると思われるため,子どもの能動的な役割は軽視されが
(Woollett,1986;Jones,&Adamson,1987)。そのうえ,
ちであった。しかしMurray,&Trevarthen(1986)は,
母親は年少児の反応を引き出すことばをあまり使用しな
子どもが母親に敏感に反応することが,母親の言語内容
くなり,このようなことばの使用が子どもの言語能力と
と文体の特徴に一貫した変化をもたらすことを明らかに
関連があったとする研究もある(Jones,&Adamson,1987)。
発達心理学研究第7巻第1号
2
第四に,母子相互作用の文脈設定の問題である。母子
た,出生順位によるbookreadingstyleの個人差を扱った
相互作用は文脈によって非常に影響を受ける(Snowbl977;
研究もない。
Levin,&Snowう1985;Kaye,&Chameyb1981;Jones,&
そこで本研究は,絵本を媒介とした母親と子どもの対
Adamson,1987)ので,言語習得システムとして重要な
話を縦断的に分析することによって,次の問題点を調べ
慣例化されたやりとりを分析するためには,研究の文脈
ることを目的とする。
を一定にする必要がある。これまでの研究をみると,book
readingとfreeplayのいずれかまたは両方を分析したもの
1.フォーマットはどのように形成されて,変化する
のか。
がほとんどである。どちらの文脈も家庭で一般的にみら
2.フォーマットの使用に第一子と第二子の個人差は
れる母親と子どものやりとり遊びであることから,子ど
あるのか。あるとすれば,その要因は何か。
もの言語発達を研究するうえで適切な文脈といえるだろ
方 法
う。ここでは,より言語習得システムとして機能しやす
被験者K市内に在住する母親と2人の女児。W児(第
いbookreadingの文脈を取り上げることにする。
これまでのbookreadingに関する研究では,フォーマッ
一子)とS児(第二子)は,1歳9ヵ月違いの姉妹。家
トが形成されること(Ninio,&Bruner,1978),子どもの
族は父親,兄を含め5人。観察はW児が8ヵ月から3歳
言語レベルに合わせて母親が教授システムを調節するこ
0ヵ月まで,S児が1歳0ヵ月から3歳0ヵ月まで行わ
と(Niniobl983;Wheeler,1983),母親自身が自分のペー
れた。調査年は1983年1月から1987年2月までであった。
スで読み進めていく過程に子どもが自然に巻き込まれて
ただし,1984年2月にS児出産のため2ヵ月中断したの
名称を習得していくこと(外山,1989),bookreadingの
で,W児の1歳9ヵ月と1歳10ヵ月のデータはない。ま
もつ慣例化された性質と何度も特定の本を繰り返し読む
た,S児が1歳1ヵ月,1歳5ヵ月,1歳10ヵ月の時は,
機会が子どもの言語習得に影響を与えること(Snow,&
絵本を媒介とした母子相互交渉場面が観察されなかった。
Goldfield,1983)などが論じられてきた。しかしまだ日本
S児が2歳8ヵ月の時は,家庭訪問ができなかった。W
では,フォーマットを通した言語習得過程について詳し
児の初語および指さしの出現は10ヵ月,二語発話の出現
い研究はない。また,先に述べた個人差の問題はここで
は1歳4ヵ月。S児の初語および指さしの出現は1歳1ヵ
も重要である。つまりbookreadingはどの母子について
月,二語発話の出現は1歳8ヵ月であった。
も慣例化されているが,ルーティーン(routine)の性質
手続き約1ヵ月間隔で,観察者が家庭を訪問し,絵本
はそれぞれの母子によって異なるということである。た
を媒介とした自然な母子相互交渉場面をVTR撮影した。
とえばNinio(1980)は,母親のWhatQuestionとWhere
W児については母親との二人場面で観察したが,S児に
Questionの使用について社会階層間に有意な差がみられ
ついてはW児を同席させないで観察を行うことができな
ると述べている。さらにSnow,Nathan,&Perlmann
かったので,母親とW児の三人場面で観察した。ただし,
(1985)は,子どもが母親のbookreadingstyleの特性を
S児と母親との絵本場面にW児が割り込んでくることは
学んでいくかどうかを調べた。かつて母親がトピックを
ほとんどなかった。絵本は次のものが使用された。「どう
導入する際使用した方略(情報提供,質問,注意喚起)
ぶつのおやこ」「じどうしや」(共に福音館)「おどうぐ」「あ
は,母親によって異なるが,子どもの方略は母親のもの
かずきんちゃん」(共に小学館),W児1歳2ヵ月時から「ぼ
と一致しなかった。しかし,この研究の対象児は1歳8ヵ
くのうちのどうぶつえん」「いただきまあす」「いってきま
月から1歳11ヵ月で,2歳以降の子どもと母親のbook
あす」「どうすればいいのかな」(共に福音館)も併用され
readingstyleに関連がないかどうかは明らかではない。ま
た。S児は撮影開始の1歳0ヵ月時から8冊全部が用意
Tablel総対話サイクル数仕段ノと分析録画時間(下段ブ
州一Ⅷ
−
■■■■■■■■■■■■■■■■
0;8
O;9
O;10
0;11
1;0
l;1
l;2
1;3
l;4
1;5
1;6
1;7
1;8
1
4
1
2
7
2
3
7
0
6
2
4
9
7
9
7
9
1
1
6
106
113
1
0
8
1;9
児齢
児
月W
2分11秒 1分30秒 4分53秒 4分01秒 10分16秒 9分14秒 6分14秒 10分23秒 11分13秒 14分06秒 12分05秒 15分14秒 11分59秒
1
1
4
7
2
2
8
2
6
6分39秒 1分53秒 1分42秒
1分11秒
2
1
7
5
3
4分03秒 2分50秒 0分27秒 8分04秒
■■■■■■■■■■■■■■■
1;11
2;0
8
5
6
4
2;1
105
2;2
2;3
2;4
2;5
2;6
2;7
2;8
2;9
2;10
2;11
3;0
8
7
4
6
7
2
7
5
4
2
6
4
7
2
3
0
8
6
3
8
1
1
等‘M壬
18分48秒 16分29秒 25分35秒 16分09秒 13分15秒 20分06秒 24分19秒 14分31秒 22分22秒 21分45秒 5分35秒 16分37秒 9分09秒 3分
34秒
1
4
S児
1
3
4
107
4
1
1
9
8
6
3
8
5
5
2分05秒 2分27秒 0分39秒 19分09秒 6分05秒 2分56秒 14分31秒 7分26秒 9分04秒
2
6
4
3
7
7
3
9
分0
09
赤
5分41秒 8分57秒 12分31秒 5分
9
秒
絵本場面における母親と子どもの対話分析
された。絵本の選択は母親の自由にまかせられた。母親
3
イクルに含まれる発話および発声と行動を,母親と子ど
には「いつもしているように絵本を読んであげてくださ
も両方について次のカテゴリーに分類した。
い。」という教示が与えられた。
(1)注意喚起相手の注意を喚起する発話,発声および行
分析方法VTR録画を再生し,母親と子どものすべての
動(名前を呼ぶ,ほら,ンン,指さし等)
発話,発声および行動(指さし,視線の方向,ページを
(2)命名対象にラベルづけをする(例:これワンワンよ)
めくること等)を文字化した後,次のようなNinio,&Bruner
(1978)の対話サイクルの定義に従い,対話サイクルの評
(3)質問絵本内の事柄およびそれに関連する事柄につい
ての質問①What型質問(例:これなに?)②Which
定を行った。
型質問(例:ワンワンどれ?)③What-doing型質問
(1)対話サイクルの始まり①絵本がある絵に開かれた時
(例:くまさんなにしてるの?)④その他
②母親か子どもが絵に注意し,指さしをしたり,身振
(4)説明絵本内の事柄およびそれに関連する事柄につい
りをしたり,本の内容について発声した時
ての説明(例:くまさんこぼしちやった)
(2)対話サイクルの終わり①絵が閉じられた時②新し
い絵が紹介された時(新しい対話サイクルの始まり)
③子どもの注意が絵から離れた時(大人へ向けた子ど
(5)フィードバック質問をした人が与える正答,承認(あ
もの視線は,子どもが数秒内に絵へもどり,他の活動
をしないなら,対話サイクルの終わりとはみなされな
る。対話サイクルの分析は,どちらの被験児にもすべて
のキー発話が出揃うまでの期間を対象にした。結果とし
い)④母親の注意が2∼3秒以上の間,絵本から離
て対話方略の拡充が遅かったS児にキー発話が出揃った
れた時
年齢が2歳2カ月だったので,両被験児の2歳2ヵ月ま
での対話サイクルを月毎に分類し,その実数とパーセン
いづち,模倣),訂正
これら5種類の発話をキー(key)発話と呼ぶことにす
本研究と関係のない第三者に評定基準を渡し,対話サ
イクルの評定を行ったところ,その一致度は95.4%であっ
トを求めた。分析は主にパーセントにもとづいて行われ
た。各月齢における総対話サイクル数と分析録画時間を
た。それは,被験児によって月齢ごとの総対話サイクル
Tablelに示した。S児の対話サイクルが1歳4ヵ月,1
歳8カ月,2歳1カ月で少ないのは,W児に母親と本を
独占されたことと,別の遊びに熱中していたためである。
やすく,W児とS児の比較もしやすいからである。さら
数が異なるため,実数よりもパーセントの方が変化を見
どのようなフォーマットが形成され,フォーマットの
に,パーセントの高い方略の組合せが,フォーマットと
考えられるからである。
内容がどのように変化するのかを分析するため,対話サ
フォーマットの個人差を詳しく分析するため,2歳以
Table2キー発話の使用者による対話サイクルの分類
母親主導型
<W児2歳0カ月〉
母:(指さして)これなんだろう?
子:しんご。
母:(指さして)しんごうね。信号が赤だから止まってるのよ・
<W児2歳4カ月〉
母:(指さして)くまさんどうして立ってるの?どうして歩かないの?
子:(指さして)アー,しんごうがあかだからとまってる。
母:そうだね。信号が赤だから止まってるのね。
母子交替型
<W児2歳3カ月〉
母:はしをわたってだって。(指さして)これベンチだね。
子:わこんちベンチある。
母:わこんちベンチないでしよ。
子:ある1
母:どこにあるの?
子:(指さして)あそこ。
母:あれおいす。ベンチ,ほらえっと,まさきくんのおうちんとこベンチあ
るでしよ。ね,あれベンチ。
子ども主導型
<W児2歳4カ月〉
子:(指さして)これ,これなに?
母:へい・
子:これへい?
母:そうよ,へい・
子:(指さして)くましやんへいのぼってる。
母:そうだね。
子:(指さして)これ。
母:ん,へい・
発達心理学研究第7巻第1号
4
が始めた対話サイクルと子どもが始めた対話サイクルで
Table3キー発話の内容による対話サイクルの分類
は,フォーマットの内容が異なるので,両者を別々に分
情報提供型
<S児2歳10カ月〉
析する。
母:あれあれ。くまさんこぼしちゃった。
子:ジャムこぼしちやった。
母:ん。ジャムこぼしちやった。
質問反応型
情報質問型
(1)母親が対話サイクルを開始する場合
①母親の注意喚起
母親が注意喚起で始めた対話サイクルの割合は,絵本
<W児2歳10カ月〉
母:はい。どうしたの?
子:ジャムこぼしたの。
母:ジャムこぼしたの。
を媒介とした母子相互交渉の観察開始から4∼5カ月は
50%を越えていたが,徐々に少なくなった。
②母親のキー発話の種類
<W児2歳11カ月〉
母:あれあれ。ジャムこぼしちやった。
母親が使用した注意喚起とフィードバック以外のキー
発話を示したのがTable5である。最初は命名の使用が一
わこちやんはジャムこぼさなかった?
番多く,次に質問の使用が多くなり,2歳になると説明
の使用が以前と比べて目立って多くなっていた。
子:ん。
母:こぼさなかった?
子:ん。
③母親の質問の種類と子どもの正答率
子どもの言語発達に伴い,母親はどのような質問をし
母:ほんと?
子:ん。
ているのだろうか。母親の質問の種類と子どもの正答率
を示したのがTable6である。母親が適切と判断した応答
を正答とみなした。What型質問は絵本を使用し始めた時
からみられ,Which型質問と共に1歳台で代表的な質問
降の対話サイクルについては,キー発話を誰が使用した
かによって,次の3つに分類した。
だった。Whaトdoing型質問はごくわずかしかみられなかっ
(1)母親主導型母親がキー発話を使用する
(2)母子交替型母親と子どもが交替でキー発話を使用す
た
。
What型質問よりWhich型質問の正答率の方が高かっ
る
た。これは子どもにとって物の名前を理解することの方
(3)子ども主導型子どもがキー発話を使用する
それぞれの例をTable2に示した。また,母親と子ども
が,産出することより簡単であるためと考えられる。
母親からの質問が少なかったs児との対話場面では確
認できなかったが,母親からの質問が多かったW児との
対話場面では,母親はWhat型質問とWhich型質問の正
がどのようなキー発話を使用したかによって,次の3つ
に分類した。
(1)'情報提供型情報のキー発話(命名,説明)を使用する
(2)質問反応型質問のキー発話を使用する
(3)情報質問型情報と質問のキー発話を使用する
答率が上がるにつれ,それらの質問を増やしていき,Which
型質問の正答率が高い水準で維持されるようになると,
Which型質問を減らしていくことが確認された。
それぞれの例をTable3に示した。
④母親のフィードバック
結 果
母親は質問のキー発話を使用することが多いが,質問
対話を始めるには,まず母親と子どものどちらかがきっ
かけを作らなければならない。しかもこの最初のきっか
を含む対話サイクルにおいて,子どもの反応にかかわら
ずフィードバックをするかどうかを分析した。母親はど
の月齢においても比較的高い割合(平均;W児75.1%,
けが,その後の対話の内容を決定するうえで重要である。
対話サイクルの開始者を示したのがTable4である。母親
親は,自分の質問→子どもの反応または無反応→母親の
1.フォーマットの変化
S児69.4%)でフィードバックを返していた。つまり母
Table4対話サイクルの開始者
■■■■■■■■■■■■
−
月齢
母親
W児
0;8
1
4
1
1
2
2
2
0
6
4
0
5
3
6
S児
9.1%
1
0
子ども
1;2
l;3
1;4
1;5
1;6
1;7
1;8
1;9 l;11 2;0
5
4
4
0
5
9
6
6
8
2
8
3
9
0
9
7
5
9
8
9
2
0
1
3
3
4
2
3
2
3
90.9%
2
4
1
0
2
51.1% 45.5% 25.0%
2
3
1
2
6
48.9% 54.5% 75.0%
2
5
2
0
2
6
1
1
4
6
1
2;1
104
1
3
7
9
3
1
8
8
30.6% 4.7% 1.0% 9.2%
1
7
9
1
3
2
0
0
.
0
% 50.0%
96.2% 95.2% 57.1% 32.1% 64.3% 1
1
2;2
69.4% 95.3% 99.0% 90.8%
0.0% 0.0% 18.5% 4.3% 8.6% 12.9% 18.4% 25.3% 16.5% 29.3% 21.7% 20.4% 10.2%
1
母親
1;1
0
0
.
0
% 81.5% 95.7% 91.4% 87.1% 81.6% 74.7% 83.5% 70.7% 78.3% 79.6% 89.8%
1
0
0
.
0
%1
0
子ども
0;9 0;10 0;11 1;0
3
6
5
0
2
9M
9
4
87
.
9
9
8
7
.
9
%
1
3
3.8% 4.8% 42.9% 67.9% 35.7% 0.0% 50.0% 12.1%
5
絵本場面における母親と子どもの対話分析
Table5母親のキー発話の種類
■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
月齢
0;8
0;9 0;10 O;11
1;0
l;1
1;2
1;3
1;4
1;5
1;6
1;7
1;8
l;9 1;11 2;0
1
9
3
8
2
8
2
2
1
9
1
2
1
7
3
6
9
1
1
1
7
8
命名
2
児
4
8
3
0
1
1
2
2
2
0
1
0
5
6
9
6
1
1
2
0
1
1
1
3
0
質問
児
2
0
その他
0
0
1
0
8
2
3
’1
3.4% 16.4% 22.1% 10.1%
J
2
7
4
0
0
0
0
1
2
5
4
5
0
1
0
5
5
3
2
4
1
4
2
6
0
3
7
ツ.
.4%
0.0% 0.0% 0.0% 23.5% 22.2% 46.2% 0.0% 39
0
1
4
2
3
0
1
1
%
0.0% 5.0% 0.0% 23.5% 22.2% 23.1% 0.0% 11.7%
8.3% 10.0% 0.0%
0.0%
3
7
j%
%
0
0
.
0
% 43.6
0
0
.
0
% 41.2% 55.6% 23.1% 1
1
0
0
.
0
% 90.0% 1
8.3% 0.0% 0.0%
0.0%
1
8
2
5
1
0
2
0
説明
2
0
4
5
3
6
0.0% 5.0% 0.0% 11.8% 0.0% 7.7% 0.0% 5.3%
12.5% 20.0% 50.0%
0.0%
2
0
1
0
1
70.8% 70.0% 50.0%
1
0
0
.
0
%
S
7
1
7
1
命名
1
b
j
W
i
%
1.7% 60.7% 43.3% 31.6
1.2% 4.8% 0.0% 0.0%
1.9% 2.5% 1.7% 0.0%
2;2
0
0
%
93.2% 23.0% 34.6% 57.0
4
0
4
1
0
1
1
1
4
28.6% 9.1% 4.5% 0.0% 6.2%
1
4
5
5
8
2
6
9
3
3
5
9
0.0% 18.2% 0.0% 10.0% 3.1% 1.9% 15.0% 15.3% 9.1% 6.1% 12.0% 13.3% 4.1%
4
その他
2
4
2
0
14.3% 9.1% 9.1% 35.0% 31.3% 44.4% 27.5% 50.8% 72.7% 72.0% 39.8% 76.7% 84.5%
0
説明
7
2
1
0
%
1.7% 0.0% 0.0% 1.3%
57.1% 63.6% 86.4% 55.0% 59.4% 51.9% 55.0% 32.2% 18.2% 20.7% 43.4% 10.0% 11.3%
W
質問
1
1
2;1
注.その他には,注意喚起のみ,説明十質問,命名十質問,命名十説明,説明十命名十質問が含まれている。
Table6母親の質問の種類とその数(上段)及び子どもの正答率(下段ノ
−
月齢
1;3
1;4
l;5
1;6
1;7
1;8
1;9 1;11 2;0
2
1
2
5
1
1
4
7
8
1
5
2
0
2
6
2
3
2
6
4
7
9
2
7
0
.
0
0.0
0
.
0
0.0
9
.
1
25.0
42.9
50.0
60.0
65.0
69.2
78.3
65.4
70.2
55.6
59.3
2
9
1
9
1
2
0
3
2
3
4
6
4
2
5
0
0
1
1
5
63.2
0
.
0
82.4
83.3
85.7
80.0
/
1
1
0;8
/
0.0 22.2
1;1 1;2
55.0 71.9
0
0
0
0
0
1
0
1
0
4
1
型
/
/
/
/
/
0
.
0
/
100.0
/
50.0
0
.
0
0
0
0
0
0
0
2
その他
Which型
1
3
3
5
0
1
0
2
4
2
/
0
.
0
/
0
.
0
/
0.0
0
.
0
0
.
0
2
0
2
5
1
5
0
0
.
0
/
52.0
60.0
/
型
その他
0
0
0
/
/
0
0
0
0
2
6
8
1
3
1
0
2
5
0
.
0
/
52.0
5
2
1
4
1
100.0 0
.
0
3
F1
L』
60.0 100.0 5
7.1
0
0
0
1
0
/
/
/
0
.
0
/
2
0
3
3
0
0/
3
33.3
0/
0
/
0/
What-doing
1
1
』
【
)
0
.
(
】0
0
.
66.7 100.010
8
3
0
0/
S児
What型
3
0
/
100.0 100.0
]
4
100.0 80.0
0/
What-doing
2;1
0/
0/
Which型
0
0/
W児
What型
0;9 0;10 0;11 1;0
11
1
0
5
0.
0
6
0
0
0
3
注.その他には,Where型,What-color型,Who型,How型,YesNo型,及び2種類以上の質問の組合せが含まれている。
フィードバックというフォーマットを繰り返していた。質問5,What-doing型質問1で,S児の質問は,Yes−No
(2)子どもが対話サイクルを開始する場合型質問1のみであった。説明の使用はW児5回(絵の叙
①子どもが対話サイクル開始に使用したキー発話述3,物の所有2),S児4回(絵の叙述3,自分のこと
子どもが対話サイクル開始に使用したキー発話を示し1)であった。
たのがTable7である。注意喚起において,S児の1歳子どもが注意喚起,命名,質問,説明のキー発話を使
0カ月では音声のみ,W児の10カ月,S児の1歳2カ月でえるようになったのは,W児が1歳11カ月,S児が2歳
は指さしあり,W児の1歳8ヵ月,S児の1歳9ヵ月で2ヵ月であった。
は指示語ありだった。命名において,W児の1歳11ヵ月②子どもの注意喚起に対する母親の反応
では「これ∼よ」の形だった。母親は自分が始めた対話サイクルだけでなく,子ども
子どもは注意喚起によって対話を始めることが多いが,が始めた対話サイクルにも規則的に対応した。子どもが
次第に命名によって対話を始めることが多くなった。2注意喚起で対話サイクルを始めた場合の母親の反応を示
歳前後になると,質問や説明で対話を始めることもみらしたのが,Table8である。W児の1歳2カ月と1歳4力
れた。W児の質問は,What型質問7(回),Yes−No型月の質問は,聞き返しだった。
6
発達心理学研究第7巻第1号
Table7子どもが対話サイクル開始に使用したキー発話
−
■■■■■■■■■■
月齢
注意喚起
0
0
/
/
0
質 問
説 明
0/
児
/
4
0/ 0/ 0/
命 名
0;9 0;10 0;11 l;0
0/
W
0;8
3
0
l;1
1;2
1;3
1;4
1;5
l;6
1;7
1;8
1;9 1;11 2;0
2;1
2;2
2
8
4
9
1
5
2
5
9
4
0
1
80.0% 1
0
0
.
0
% 0.0% 25.0% 88.9% 20.0% 69.2% 44.1% 8.7% 21.7% 81.8%
1
0
6
6
1
1
6
4
1
9
2
1
1
8
15.4% 66.7% 0.0% 12.5%
2
7
20.0% 0.0% 1
0
0
.
0
% 75.0% 11.1% 80.0% 30.8% 55.9% 91.3% 78.3% 18.2%
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
2
3
1
0
0
.
0
%
S
0
命 名
0
0.0%
0
0.0%
1
3
0
1
0
0
0
0.0%
0
1
1
0
0
0
2
2
2
6
3
1
0
2
0.0% 0.0% 66.7% 27.8% 40.0%
0
0
0
0
0
0
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
0
0
0.0% 0.0% 0.0%
0
0
4
0
0
]
0
0
0
3
7.7% 0.0% 0.0% 37.5%
1
0
0
.
0
% 1
0
0
.
0
% 33.3% 72.2% 60.0%
0.0% 0.0% 0.0%
0
説 明
6
0.0% 0.0% 0.0%
0
質 問
児
1
2
1
0
0
.
0
% 1
0
0
.
0
% 1
0
0
.
0
%
1
【)
.
0
%
50.0% 0.0% 0.0% 0
.
0
%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
注意喚起
1
L.
).
0
%
26.9% 33.3% 1
0
0
.
0
% 50
0
%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
0
2
0
0
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
0
/
0
/
0
/
0
/
0
1
0.0% 7.7%
1
8
50.0% 61.5%
1
0
].
、0
0%
50.0% 0
0
4
J.
,8
8%
%
0.0% 30
Table8子どもの注意喚起に対する母親の反応
■■■■■■■■■■■
命 名
質 問
0
0.0% 0.0%
0
0
0
/
0.0% 0.0%
1
1
25.0% 33.3%
1
1
25.0% 33.3%
0
/
0
/
3
30.0%
1
6
60.0%
命名十説明
0
0.0%
児
反応なし
1;4
l;5
l;6
1;7
l;8
1;9 l;11 2;0
2;1
2
4
3
6
8
1
5
7
3
0
0
/
J.
、0
09
(
0
%
1
0
0
.
0
% 50.0% 75.0% 66.7% 53.3% 50.0% 1
0
0
.
0
% 77.8%
0
1
0
2
2
0
0
2
1
0.0% 12.5% 0.0% 22.2% 13.3% 0.0% 0.0% 22.2%
0
0
0
0
0
0
0
0
0.0%
0
3
1
1
4
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
2
0
1
1
5
0
0
1
0.0% 0.0% 16.7%
0
0
0
0.0% 0.0% 0.0%
2
0
0
8.7% 0.0% 0.0%
1
1
0
4.3% 8.3% 0.0%
0
0
0
0
0
0
0
7
0
2
2
1
0
0
.
0
% 0.0% 0.0% 7.7% 66.7%
0
1
1
1
3
1
0.0% 1
0
0
.
0
%1
0
0
.
0
% 50.0% 33.3%
0
0
0
4
0
0.0% 0.0% 0.0% 15.4% 0.0%
0
0
0
0
0.0% 0.0%
0.0% 0.0% 0.0% 26.9% 0.0%
1
0
0.0% 0.0%
0
0
1
0.0% 50.0%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 6.7% 50.0% 0.0% 0.0%
87.0% 91,7% 83.3%
1
25.0% 50.0%
0.0% 37.5% 25.0% 11.1% 26.7% 0.0% 0.0% 0.0%
0
0
75.0% 0.0%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
10.0%
説 明
1;3
0
0
0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
2;2
rl
L」
1【
0
J
0.0
%
1
]
1
0
0
.
0
%
0
〕.
.0
0%
%
0
0
J.
,0
0%
%
0
0
0
0
/
J.
、0%
%
0
0/ 0/
S
/
0
/
1;2
0/ 0/ 0/ 0/ 0/
命 名
0/
その他
0
/
0
0
0/
反応なし
児
1
50.0% 33.3%
0/ 0/ 0/
説 明
/
2
l;1
0/ 0/ 0/ 0/
質 問
0
0/ 0/
W
0;8 0;9 0;10 O;11 l;0
0/
月齢
0
J.
、0
0%
0
0
J
0.0
%
0
/
0
〕.
.0
0%
%
0
0
1
/
]
0
%
1
0
0
.
0
%
注.その他には,あいづち,模倣,子どもの気持ちの叙述が含まれている。
母親は子どもの注意喚起に対して命名で答えることが減るのがみられた(W児1歳11ヵ月)。
多かった。母親にとって子どもの注意喚起は,What型質母親は命名以外に質問でも答えていた。母親がW児に
問と同じ機能を果たすことになった。①でみられたよう行った質問は,What型質問4,What-doing型質問2,
に,W児では1歳8カ月,S児では1歳9カ月に指示語S児に行った質問は,What型質問3,What-color型質問
つきの注意喚起(「これ」と言って指さしをする)がみら1,How型質問2,Yes−No型質問1であった。
れ,What型質問(「これなに?」)と似た形となった。そ③子どもの命名に対する母親の反応
して注意喚起は子どもがWhat型質問をするようになると子どもが命名で対話サイクルを始めた場合の母親の反
絵本場面における母親と子どもの対話分析
7
Table9子どもの命名に対する母親の反応
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■
0
模 倣
説 明
0
/
0
0
0
/
0.0%
/
0
0
/
0.0%
児
その他
0
0
0
0
0
0.0%
/
0
1
0
/
1
0
0
.
0
%
/
2
1;8
l;9 1;11 2;0
3
1
1
0
1
8
1
4
1
0
2
5
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
2
0
6
0
0
0
0
3
0
0
3
1
3
3
0
0
1
5
3
6
0
0
0
1
1
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
/
/
/
/
/
0
0
0
0
0
/
/
/
/
1
0
0
0
/
/
/
0/
0
0
/
0
0
0
/
/
/
1
0
0
5
1
50.0% 50.0% 50.0%
1
1
0
4
1
50.0% 40.0% 50.0%
0
/
0
0
0
0
0
0.0% 0.0% 0.0%
0
0
0
0
『1
0
J
0
3
0
0
0
0
0
0
〕
%
0.0% 0.0% 0.0% 0.0
%
0.0% 0.0% 0.0%
0/
/
0/
/
0
0
0
0.0% 0.0% 0.0%
1
3
妬
1
0
0
.
0
% 37.5%
0
2
]
%
0.0% 25.0
0
/
0
/
0/ 0/
0
/
0/
0
/
0/
0
/
0/
0
/
0
1
0.0% 10.0% 0.0%
/
0
0
].
0
9
14.3% 0.0% 0.0% 0
.
0
%
0
0
1
]
14.3% 0.0% 0.0% 75.0
%
0
1
2;2
J.
、0%
0.0% 1
0
0
.
0
% 0.0% 0
0.0% 0.0% 0.0% 6.3% 25.0% 0.0% 4.8% 0.0% 0.0%
/
1
J.
、0
0%
%
0.0% 0.0% 0.0% 0
50.0% 50.0% 0.0% 0.0% 25.0% 26.3% 14.3% 33.3% 0.0%
児
その他
1
0
2;1
J
9f
71.4% 0.0% 1
0
0
.
0
% 25.0
%
0.0% 0.0% 0.0% 12.5% 0.0% 31.6% 0.0% 0.0% 0.0%
0/
訂 正
1;7
0/
あいづち
l;6
0/
説 明
1;5
33.3% 0.0% 0.0% 0.0% 25.0% 0.0% 0.0% 5.6% 0.0%
0/ 0/
質 問
l;4
0/ 0/
0
/
S
l;3
0.0% 0.0% 0.0% 18.8% 0.0% 0.0% 14.3% 5.6% 0.0%
/
模 倣
1
1;2
16.7% 50.0% 1
0
0
.
0
% 62.5% 25.0% 42.1% 66.7% 55.6% 1
0
0
.
0
%
0.0%
/
0/
訂 正
0.0%
0/
あいづち
0
1;1
Ⅷ︺
質 問
0/ 0/
W
/
0;9 O;10 O;11 1;0
0/
0;8
0/ 0/
月齢
0
』
0
〔
)
.
0
0.0% 0
.
0
%
0
2
抑
f
0.0% 25.0
%
0
rl
0
L』
J.
,0
0%
%
0.0% 0
0
1
0.0% 12.5%
注.その他には,子どもの気持ちの叙述,反応なしが含まれている。
応を示したのがTable9である。子どもが正しい命名をし
②母親の注意喚起
た場合,母親は模倣またはあいづちを使用したが,あい
母親はW児よりS児に対して注意喚起で対話サイクル
づちより模倣で答えることが多かった。子どもの命名が
を始める割合が高かった(W児20.1%,S児29.4%;x2
間違っていた場合,母親は訂正または説明を使用してい
=9.14,df=1,P<、01)。
③母親のキー発話の種類
た
。
2.フォーマットの個人差
前節ではW児・母親間の対話とS児・母親間の対話に
W児・母親間の対話では,命名の使用は1歳2ヵ月ま
で多く,1歳3ヵ月から1歳11ヵ月までは質問の使用が
共通してみられたフォーマットについて分析したが,こ
多く,2歳0ヵ月からは説明の使用も多くなっていた(Table
こでは違いのみられたフォーマットについて分析する。
5参照)。一方S児・母親間の対話では,命名の使用は1
(1)1歳台の個人差
歳4カ月まで多く,1歳6カ月から1歳11ヵ月までは質
①対話サイクルの開始者
問の使用が多く,2歳0ヵ月からは説明の使用も多くなっ
W児・母親間の対話では,母親が対話サイクルを始め
ていた。つまり,母親はW児に対してS児より早くから
る割合が非常に高かった(Table4参照)。W児が対話サ
多くの質問を使用していた。
イクルを始めることも次第に増加するが,2歳頃までは
④母親の質問の種類と子どもの正答率
母親が主に対話を始めていた。一方S児・母親間の対話
W児の正答は,What型質問,Which型質問共に1歳
では,年少の時からS児が対話サイクルを始める割合が
0ヵ月からみられ,次第に正答率は上がっていった(Table
高かった。またTablelをみると,S児の総対話サイクル
6参照)。What-doing型質問については1歳3カ月になる
数は,W児と比べてかなり少なかった(平均;W児70,
と正答がみられた。S児に対する母親の質問は少なく,
S児28)。これらはS児・母親間の対話にW児が同席して
S児の正答はW児に比べて遅かった。しかし,2歳台に
いたことが原因であり,S児が対話のきっかけを作らな
なると正答率はあまりかわらなくなった(W児61.6%,
いと,母親はW児とだけ話しがちであった。
S児58.3%)。その他の質問の正答率は,W児42.3%,S
ノ
8
発達心理学研究第7巻第1号
児54.5%だった。
一母親主導型
%
100
⑤母親のフィードバック
W児とS児に対する母親のフィードバックの割合には
8
0
差がみられなかった。
⑥子どもが対話サイクル開始に使用したキー発話
6
0
S児はW児に比べて,全体として注意喚起で対話サイ
クルを始める割合が高く(W児35.2%,S児75.0%;x2
4
0
=44.89,df=1,p<、01),命名の使用が遅かった(Table
2
0
7参照)。
⑦子どもの注意喚起に対する母親の反応
0
母親はW児の注意喚起に対して,S児に比べて反応し
2;02;12;22;32;42;52;62;72;82;92;102;11月齢
ない割合が高かった(W児16.2%,S児3.6%;X2=7.03,
df=1,P<,01;Table8参照)。一方S児に対して母親は,
Figurelキー発話の使用者による対話サイクノレの分
類(W児ノ
W児に比べて説明で答える割合が高かった(W児2.9%,
%
− 母 親 主 導 型
%
S児26.2%;X2=15.15,df=1,P<、01)。
lOO
⑧子どもの命名に対する母親の反応
W児はS児よりも命名の間違いが多かった(W児31回,
8
0
S児6回)。子どもの命名が間違っていた場合,母親はW
児に対して訂正を22回,説明を9回使用したが,S児に
6
0
対しては説明を6回使用し,訂正は使用しなかった(Table
9参照)。つまり母親はW児に対しては,はっきりと訂正
4
0
する(W:指さして「うさ」M:指さして「うさぎさん
2
0
これ。耳が長いでしよ。」)ことが多く,S児に対しては,
説明で正しい答えを示していく(S:指さして「パンパ
0
ン」M:「スパゲッティ食べてるね。」)のが特徴であっ
た
。
(2)2歳台の個人差
2;02;22;32;42;52;62;72;92;102;113;0月齢
Figure2キー発話の使ノヲ者による対話サイクルの分
類(S児ノ
1歳台におけるW児・母親間の対話とS児・母親間の
対話には,フォーマットの使用にいくつかの違いがあっ
ら,子どもに対話を構成する能力があることは間違いな
た。ここではそのうちの2点に注目する。第1点は,誰
い。しかし,絵本を媒介とした母子の対話では,母親は
が対話サイクルを開始するかに差があったことである。
依然として教示的な役割を果たし続けるのである。同じ
つまり,W児との対話では母親の方が,S児との対話で
絵本であっても,母親は常に新しい情報を提供し,質問
は子どもの方が対話サイクルを開始する割合が高かった。
内容を変えていくので,Table2のような母親主導型(同
第2点は,母親が対話サイクルの中で使用したキー発話の
じ絵本の同じページの発話例)のやりとりが中心であっ
種類が,W児に対する時とS児に対する時とでは違って
た
。
いた点である。つまり,母親はW児に対しては質問を多
1歳台のs児は自分で対話サイクルを始める割合が高
く使用し,S児に対しては説明を多く使用していた。1
かったが,2歳台ではむしろW児よりも母親主導型の割
歳台でみられたこれらの個人差が,2歳台でも維持され
合が高いほどだった。つまり,s児は自分から積極的に
ていくのかどうかを調べるため,フォーマットの主導者
キー発話を使わず,母親が読むのを聞くスタイルになっ
とフォーマットの種類を分析する。
たのである。誰がフォーマットの主導権を握るかについ
①フォーマットの主導者
フォーマットへの母親と子どもの関与の仕方を比較す
ては,1歳台でみられた個人差(s児が対話サイクルを
始める割合が高かった)が,2歳台に入るとなくなって
るため,キー発話の使用者による対話サイクルの分類を,
いた。
FigurelとFigure2に示した。W児の3歳0カ月とS児
②フォーマットの種類
の2歳1ヵ月は,データが極端に少ないため削除した。
使用されるフォーマットの種類を比較するため,キー
S児の2歳8ヵ月は家庭訪問ができなかった。両児とも
2歳台では,母親主導型が大きな割合を占めていた。母
発話の内容による対話サイクルの分類をFigure3とFigure
4に,フォーマットの主導者別フォーマットの種類をTable
子交替型や子ども主導型がどの月齢でもみられたことか
lOに示した。W児・母親間の対話はS児・母親問の対話
絵本場面における母親と子どもの対話分析
%
一情報提供型
1
0
0
9
差はみられなかった。母子交替型において,W児との対
話はS児との対話よりも質問反応型が多く,S児との対
8
0
話はW児との対話よりも情報提供型が多かった(X2=26.18,
6
0
割交替する場合は,母親の子どもに対するbookreading
df=2,p<、01)。つまり,母親が主導したり,子どもと役
9ぐ、△
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0
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styleの違いが現われた。絵本の同じページでのW児とS
児の代表的な対話サイクル例は,Table3に示した。使用
されるフォーマットの個人差は,1歳台では母親がW児
に対して質問を多く使用し,S児に対して説明を多く使
用するという形でみられた。この個人差は,2歳台になっ
0
2;02;12;22;32;42;52;62;72;82;92;102;11月齢
Figure3キー発話の内容による対話サイクノレの分類
(W児ノ
てもW児・母親問の対話には質問反応型が多く,S児・
母親間の対話には情報提供型が多いという形で維持され
ていた。
考 察
一情報提供型
%
1
0
0
1.フォーマットの変化
これまで分析してきたように,母子のやりとりには一
8
0
定のパターンがあった。そのうちW児とS児に共通して
みられ,パーセントの高い方略の組合せを,1歳台の基
6
0
本的フォーマットとしてまとめると,次のようになる。
a注意喚起(母親)→命名(母親)
4
0
b注意喚起(母親)→質問(母親)→反応または無反
応(子ども)→フィードバック(母親)
2
0
c注意喚起(子ども)→命名(母親)
d命名(子ども)→正しい場合は模倣,間違っている
0
2;02;22;32;42;52;62;72;92;102;113;0月齢
Figure4キー発話の内容による対話サイクノレの分類
(S児ノ
TablelOフォーマットの主導者別フォーマットの種類
質問反応型
情報質問型
情報提供型
母子交替型
質問反応型
情報質問型
46.2%
40.4%
13.4%
27.1%
15.5%
S児
%6
84
9 “2妬
2
母親主導型
3羽
07
6 4
22
48
9
妬
W児
情報提供型
57.4%
71.7%
16.5%
11.9%
61.4%
2.9%
35.7%
情報提供型
3
8
66.7%
4
6
75.4%
子ども主導型質問反応型
1
3
22.8%
1
4
23.0%
情報質問型
6
10.5%
1
1.6%
よりも質問反応型が多く(W児267,34.2%,S児84,
15.4%;X2=57.86,df=1,P<、01),S児・母親間の対
話はW児・母親問の対話よりも情報提供型が多かった
(W児343,43.9%,S児385,70.8%;X2=93.40,df=
1,P<,01)。また母親主導型において,w児との対話は
S児との対話よりも質問反応型が多く,S児との対話は
W児との対話よりも情報提供型が多かった(X2=72.90,
df=2,p<、01)。子ども主導型において,W児とS児に
場合は訂正または説明(母親)
aとbは母親が対話サイクルを開始する場合を,cと
dは子どもが対話サイクルを開始する場合を示している。
母親は子どもの言語発達レベルに応じて,これらの基本
的フォーマットを変化させていった。相互交渉の初期に
は,母親は注意喚起で始めることが多く,命名を多用し,
What型質問,Which型質問を行い,子どもが答えなくて
もフィードバックを行っていた。また,子どもが注意喚
起を使うと母親は命名で答えていた。やがて子どもは自
ら命名をしたり,母親の質問に答えるようになった。母
親は子どもの命名が正しい時は模倣し,誤っていれば訂
正したり説明したりした。What型質問やWhich型質問
に対して子どもが多く正答するようになると,母親は命
名を減らし,質問を増やしていった。そして2歳頃にな
ると,子どもは自ら質問できるようになるのがみられた。
基本的フォーマットにみられる変化から,子どもが命
名と質問のフォーマットを理解し,習得する過程をたど
ると次のようになる。①母親がフォーマットを形成する
が,子どもはフォーマットに参加できない(形成期)。②
子どもがフォーマットに参加することによって,フォー
マットの規則を習得する(習得期)。③子どももすべての
キー発話を使用してフォーマットを構成し,母親と役割
交替をする(使用期)。この3つの過程を通して,子ども
1
0
発達心理学研究第7巻第1号
に対話を構成する能力ができると考えられる。
Ninio,&Bruner(1978)が絵本を媒介とした母親と子ど
ものやりとりに見出したフォーマットは,最初母親が主
導権を握って形成され,やがて子どもも同等に参加でき
込もうとするか否か)は,母親の子育て観によって生じ
ているようであり,Kaye(1982)の結果とも一致してい
る
。
1歳台では,第一子との対話は母親の方が,第二子と
るようになることが,本研究でも確認された。しかしBruner
の対話は子どもの方が対話サイクルを開始する割合が高
(1985)の結果とは異なり,2歳台でも子どもが主導権を
かったが,2歳台では第一子との対話も第二子との対話
とることはまれで,母親が主導権を維持していた。ここ
も母親主導型となっていた。なぜこの個人差は解消され
には欧米と日本のコミュニケーション・スタイルの違い
たのだろうか。S児・母親間の対話ではW児・母親間の
が読み取れる。一般に欧米では自己主張を重んじている
対話より総対話サイクル数が少なく,録画時間が短かっ
ので,子どもがことばを話せるようになると,親は子ど
た。これは第二子と母親の対話に第一子が同席したこと
もに自分の意見を言うことを求める。そのため欧米の母
が原因と考えられる。きょうだいの影響を扱った研究
親は,絵本場面へ同等に参加できるようになった子ども
(Woollett,1986;Jones,&Adamson,1987)でもみられ
に,フォーマットの主導権を譲ると考えられる。一方日
たように,第一子が一緒にいる状況では母親が第二子に
本では,子どもの自己主張にあまり価値を置いておらず,
話しかけることは少ないのである。本研究の被験児は1
親の言うことをよく聞く子どもが良いとされる傾向があ
歳9カ月違いの姉妹のため,S児が1歳台の時W児は3
る。そのため日本の母親は,子どもが役割交替可能になっ
歳台で言語発達が著しく,母親は対話の相手になりやす
てもフォーマットの主導権を維持し,子どもの言語発達
かった。そのためS児は最も簡単な注意喚起を多く使用
に合った情報と質問を提供し続けるように思われる。し
して,母親の反応を引き出そうとしたと思われる。S児
かし,本研究の結果とBruner(1985)の結果の違いがそ
が2歳台になった時,4歳台になったW児はひとりで遊
のような文化差であるかどうかを結論づけるには,もっ
びに熱中するようになり,母親を常に独占しなくなった。
と多くのデータを集めなければならないだろう。
その結果母親はS児の要求があれば応じるのではなく,
2.フォーマットの個人差
Snow,Nathan,&Perlmann(1985)は,母親がトピッ
主体的にS児と関われるようになった。このように第二
子が2歳台になると,第一子の同席の影響が弱くなった
クを導入する際使用する方略は,母親によって異なると
ため,フォーマットの主導権に関しての違いが解消され
述べている。しかし本研究では,同一の母親でも第一子
たのかもしれない。
と第二子によって使用する方略は異なることが明らかに
しかし,1歳台で母親が第一子に質問を多く使用し,
なった。これには母親側の要因,きょうだいの同席,子
第二子には説明を多く使用するという個人差は,2歳台
ども側の要因が相互に関連していると思われる。母親側
でも維持され,第一子との対話に質問反応型が多く,第
の要因としてあげられるのは,母親の子育て観である。
二子との対話には情報提供型が多かった。なぜこの個人
母親は第一子に対して,教育の強い義務感をもっている
差は固定化されたのだろうか。これには子ども側の要因
と思われる。母親は対話の主導権を握り,命名をしなが
が関係しているように思われる。Nelson(1981)は第一
ら質問を繰り返し,子どもから反応を引き出そうとして
子にreferentialchildrenが多く,第二子にexpressive
いた。また,母親はW児の注意喚起に反応しないことが
childrenが多いと述べているが,本研究でも第一子は対話
多く,自分のフォーマットに子どもを組み込もうとする
サイクルの中で命名の使用が早く,第二子は命名の使用
態度が強いようである。一方,第二子に対しては,子育
が遅く,注意喚起を使用して母親の反応を引き出そうと
ての経験と第一子の世話という負担があり,その分第二
していた。第一子が間違いは多くても早くから命名をす
子への関わり方は第一子とは異なり,距離をとったもの
ることは,母親に物の名前への質問行動を喚起させやす
になったと思われる。Jones,&Adamson(1987)の研究
くし,第二子が正しい命名ができるまでなかなか命名を
と同様に,母親は第一子に比べて第二子の反応を引き出
しないことは,母親に物の名前の説明の必要性を呼び起
すことば(質問)をあまり使用せず,母親がS児自身の
こすように思われる。このように,子どもの言語習得ス
注意喚起をとらえて説明するという関わり方であった。
タイルの違いが母親のbookreadingstyleに影響を与えた
そのため1歳台では,S児が主導権を握っているように
結果,2歳台においても第一子との対話には質問反応型
みえた。また,子どもが命名に失敗した時の母親の教え
が,第二子との対話には情報提供型がより多く形成され
ぶりも,W児に対してははっきり訂正したが,S児には
ることになったと考えられる。
説明で正しい答えを教えようとしていたように,第一子
第一子と母親の対話のフォーマットと第二子と母親の
には直接的な方法を,第二子には間接的な方法をとって
対話のフォーマットには,様々な違いがみられた。その
いた。このように第一子と第二子に対する母親の対話ス
要因として,第一子と第二子に対する母親の子育て観の
タイルの違い(自分のフォーマットに子どもを強く組み
違い,第二子と母親の対話への第一子の同席状況,子ど
絵本場面における母親と子どもの対話分析
もの言語習得スタイルなどが考えられた。今後これらの
要因の影響を特定するために,子育て観の差異や,第一
子のいない場面での第二子と母親の対話の分析が必要で
あると思われる。また,同‘性や異性のきょうだい,きょ
うだいの年齢差などの影響についても詳細な研究が望ま
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Ninio,A・(1983).Jointbook-readingasamultiple
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Bruner,』.S・(1985).Theroleofinteractionformatsin
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α”sociaZs伽at伽s(pp、31-46).Springer-Verlag
NewYorklnc・
Jones,CP.,&Adamson,LB.(1987).Languageusein
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Brighton,England:HarvesterPress・
Kaye,K,&Charney,R、(1981).Conversational
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Levin,H,&Snow,C・(1985).Situationalvariations
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-VerlagNewYorklnc・
Murray,L,,&Trevarthen,C・(1986).Theinfant,srole
inmother-childCommunications.』b"γ"αZq/Ch〃
Lα"gwage,13,15-29.
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外山紀子.(1989).絵本場面における母親の発話.教淳心
理学研究,37,151-157.
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ん呪r"αZq/DeUeZQp加e"taZHyc加Zq型4,235-245.
謝辞
本論文の作成にあたり,ご指導いただきました京都教育大
学岩田純一教授に深く感謝いたします。また,本研究にご協
力いただきました御家族の皆様に心より御礼申し上げます。
Ishizaki,Rie(NanaoJuniorCollege).TノZeA"α恥j:sq/、Mb伽γα"dCh〃SPeecノMzJb加Pル
オ"椿BOOルルα伽g剛eAc9"航加Q/、伽erac伽〃FormaZsα"α〃α加血αZDIタツ12γe"ces・THE
JAPANEsEJouRNALoFDEvELoPMENTALPsYcHoLoGYl996,Vol、7,No.1,1−11.
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Individualdifferences,Birthorder
1993.1.13受稿,1995.8.11受理
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,12-19
幼児の絵本読み場面における「語り」の発達と登場人物との関係
2歳から4歳までの縦断的事例研究
古屋喜美代
(神奈川大学外国語学部)
子どもは文字を読み始める前から,自分で絵本を開き,絵を見てその内容を言語で表現し始める。この
初期の絵本読み場面について,1事例について2歳から4歳まで縦断的に約月1回資料を収集し,以下の
点について検討を加えた。第1点は,「語り」についての子どもの認識の発達であり,第2点は,子ども
がどのように登場人物とかかわっているかである。この2点から,絵を見て絵本を読む時期には次の4つ
の発達的段階が見いだされた。(1)絵本を「読む役割」に興味をもって,絵を見て物語の内容を表現し始め
る。他者に向けて言語化するという意識は弱い。(2)セリフと母親に直接語りかけるような話し言葉的ナレー
ションで物語を表現し,始まりと終わりを宣言する必要を理解している。ここまでの段階では,子どもは
物語の中に引き込まれた発話をすることがあり,物語世界の外にいる自分を登場人物と対立的に意識して
とらえてはいないと考えられる。(3)子どもは絵本の登場人物に対する自分自身の思いを,感想や疑問とし
て表現する。このことは,子どもが物語世界の外にいる「読者」としての自己の立場を認識していること
を示唆する。(4)セリフと書き言葉的ナレーションで表現する。子どもは作者の語り口をとる「語り手」と
しての自己を意識し,その語り口を保持する。
【キー・ワード】初期の絵本読み場面,語りの発達,登場人物との関係,話し言葉的ナレーション,書き
言葉的ナレーション
む場面である(水谷,1988)。このため子どもの言語発達
問題と目的
の様相をよりとらえやすいと考えられる。以下本研究で
絵本は子どもにとってごく身近なものであり,絵本を
は,子どもが読み聞かせを受ける場面と区別して,大人
介する他者との交流を通して社会的文化的知識を伝えた
の依頼に応えて読む時も含め,子どもが自分で絵本を見
り,物語という架空世界での認識を育てたりするもので
て読もうとする場面を,絵本読み場面と呼ぶことにする。
ある。
子どもの発達に重要な役割を果たす絵本に関して,こ
書き言葉的に語る語り口について,茂呂(1988)は,
3歳直前の女児レイチェルの例を引き,そうした語り口
れまで主として子どもの言語発達との関連が研究されて
をとることで,子どもは文脈を豊富化すると述べている。
きた。第1に絵本場面での母子相互交渉から,子どもの
つまり書き言葉的語り口とは,子どもが自分自身を分裂
初期言語習得と母親の言語入力の関係を研究するもので
させて,語る(読む)自分と話の主人公となる自分を明
ある(Ninio,1983;Moerk,1985)。第2にリテラシーの
確に区別して,それぞれに振る舞う場面を作り出し,日
発達に関し,絵本場面での非現前状況に基づく言語の使
用を通して,子どものメタ認知的発達を研究するもので
常場面を物語の文脈として眺め直したりすることを可能
ある(Sulzby,1985;Watson,1989)。
なかでもSulzby(1985)は子どもが他者に絵本を読ん
で聞かせる場面を取り上げ,2歳から5歳までの幼児の
読み行動の発達プロセスを明らかにしている。これによ
れば子どもが物語を生成できるようになると,話し言葉
的に絵を読む段階から,書き言葉的に語り,文字を意識
する段階へと発達していく。他者に絵本を読んで聞かせ
る場面をSulzbyが取り上げていることは大変意義深い。
にするものであるという。幼児の読み行動をとらえるた
めには,茂呂が指摘するように,子どもが自己を分裂さ
せた語り口を取るようになる過程,すなわち「語り」に
ついての認識発達に注目する必要がある。
物語の理解,読み取りについては,子どもの因果関係
理解の研究(内田,1985)等がなされているが,絵本を
読んでいる時の子どもの心の動きに関する心理学的分析
は少ない。乳児から幼児へと成長する頃の子どもは,絵
本を通してなじみの深い人や事物を再認して喜ぶ段階か
これまでの多くの研究は他者に絵本を読んでもらうとい
ら,自分自身の日常生活体験を絵本の中で再確認しなが
う受身的場面を対象としてきた。これに対し,このよう
な絵本読み場面は,絵本を他者に伝えたい,読んであげ
たいと子どもが強く動機づけられた,より能動的に楽し
村・佐々木,1976)と言われている。だがこの時期の子
ら,次第に物語という抽象世界を楽しむようになる(中
どもが絵本の登場人物と実際どのようにかかわっている
幼児の絵本読み場面における「語り」の発達と登場人物との関係
かについては,研究の対象となりにくかった。
1
3
という空想的物語。
文芸学においては西郷(1975)が絵本の登場人物と読
対象児のA児が2歳0カ月の時点から5,6カ月間は,
者の関係を論じている。西郷は,登場人物の気持ちにな
A児の読みたい本を自由に読んでもらっていた。その中
るような状態を同化体験,第三者として見るような状態
で比較的反応が面白く思われた上記2冊を継続的に読む
を異化体験と呼ぶ。これを参考に,古屋・田代(1989)
ことにした。2冊とも本児の好きな絵本ではあったが,
は集団読み間かせ場面での子どもの発話を収集し,登場
毎日読みたがるというほど熱中した本ではない。平均的
人物と子どもの心理的関係を検討してきた。だが読み間
に見て,録音開始以前,以後共に,月に数回接する程度
かせ時の発話収集による研究では,非言語反応の多い幼
の絵本であった。
児初期の子どもの心理をとらえにくい。そこで,Sulzby
(4)手続き:絵本場面は,自宅で母子2人の自然場面であ
の取り上げた子どもの絵本読み場面に注目したい。一般
る。A児が自発的に絵本を読みたいと言った時,または
に多くの子どもは,2歳代前後から自分で絵本を開き,
母親が絵本の読み聞かせを実施した時に,材料の絵本を
絵を見てその内容を言語で再現し始める。こうした場面
母親に読んで聞かせてくれるよう依頼した。その際,カ
での子どもの発話は,絵本を読み聞かせてもらう時より
セットテープにA児の声を録音することを伝えた。A児
多くなりやすい。しかも幼児初期の段階では,物語を語
はカセットテープに興味をもっていて,録音することが
るというより,絵本を通して感じるままに言語化してい
絵本読みに対する動機づけを高めたようであり,A児の
く傾向がある。通常の絵本読み間かせ場面では,子ども
方から録音するよう求めてくることもあった。絵本読み
が心の動きを一々言語化しないこともあるので,むしろ
での母子の位置関係は,A児が読みやすい体制をとるの
子どもの心理状態がとらえやすいと考えられる。
に従った。基本的には,母親のひざにA児が座った状態
そこで本研究は幼児初期の子どもの絵本読み場面を取
で行われ,母親は子どもの後ろから絵本を覗き込む形と
り上げ,次の2点を目的とする。第1点は,絵本読みの
なった。3歳代後半からは,母子が対面する体制をとる
ルールと,作者の語り口である書き言葉的語り口を,子
ことも多くなった。
どもがいつ頃から獲得するかを明らかにし,「語り」につ
A児による絵本読みが開始されると,子どもの読みが
いての認識発達を検討する。また絵本読み場面において
スムーズに行かないと感じた時に,母親はA児の発話を
は,子どもは絵本を読み聞かせてもらう時の「読者」同
繰り返して確認し,続きの読みを促すようにし,物語の
様の心の動きを発話することがある。これらは本来の絵
誘導は行わないようにした。子どもの発話の意味を明確
本を「読む役割」を離れたものであるので,第2点は,
にするために母親が子どもに質問することもあるが,こ
こうした発話の分析を通して,物語世界とその外にいる
うした場面での子どもの応答や絵本と無関係な行動は分
自分自身との関係を,子どもがどのようにとらえている
析の対象から除外した。
絵本読みの中で子どもが身振り行為を行った場合と,
かを検討する。
発話内容に子ども自身の生活経験とのかかわりが見られ
方 法
る場合(母親による解釈)は,読み終了後にその内容に
(1)対象児:筆者の第1子で1988年1月1日生れの女児A・
ついて簡単な筆記記録をとった。録音終了後,できるだ
兄弟はいない。乳児期から絵本に親しんでいたが,2歳
け速やかにカセットテープから対象児A児と母親の発話
の誕生日を迎える前後から絵本を母親に読んでもらいた
を転記し,筆記記録をもとに身振り行為及び生活経験と
がるだけでなく,自ら声を出して言語化するようになる。
のかかわりの内容を具体的に書き加えた。
その後,資料収集のため,本を読んでほしいという母親
(5)分析の指標:物語を表現する子どもの発話は,1つの
の要求に抵抗なく応じる。A児は1歳後半から多語文を
動詞を中心とした文単位に分け,これを1発話とした。
話し始める。
連続してほぼ同じ発話を繰り返した場合は,あわせて1
(2)資料収集時期:1,2カ月に1回程度の割合で約2年
発話としてとらえた。2つの同じ発話の間に別の内容の
間,2歳代8試行,3歳代8試行,4歳2カ月時1試行
発話がある場合には,同じ内容であっても別個に数え,
の計17試行,2冊の絵本につき資料収集した。
2発話としてとらえた。これらの発話はその内容により,
(3)材料:絵本1.『ひとまねこざる』(エッチ.エイ.
「A絵本読みのルールに関する発話」と「B物語内表現
レイ文,絵光吉夏弥訳,岩波書店);主人公の猿ジョー
の発話」に分けた。絵本に関するその他の発話は,ひと
ジが動物園を抜け出し,町でいたずらをしたり,いろい
まとまりの内容を1発話とし,「C子どもの物語世界への
ろな体験をしながら,黄色い帽子のおじさんに再会する
関わり」「D子どもの物語内容へのコメント」「E不明」
までの物語。絵本2.『おふろだいすき』(松岡享子作
に分けた。さらに,それぞれについて以下のような下位
林明子絵,福音館書店);主人公の男の子がおふろに入っ
カテゴリに分類した。
ている時に,カメ,ペンギン等の動物達に次々に出会う
A絵本読みのルールに関する発話
1
4
発達心理学研究第7巻第1号
「a形式的オープニング・エンディング」;「はじまりは
終の述語の語り口に統一して考えた。
じまり」で語り始めたり,題名を言うといったオープニ
「d命名・確認」;事物や登場人物の名前の確認,存在
ング,「おしまい」「めでたしめでたし」とリズミカル
の確認。直接は物語のあらすじに関係しない発話である。
な口調でしめくくる発話等である。
C子どもの物語世界への関わり
B物語内表現の発話
「bセリフ」;登場人物の会話,思考内容であり,子ど
「e登場人物への語りかけ」;子どもは現実世界の子ど
ものままでありながら,思わず物語上の登場人物に語り
もが登場人物の立場に立って発話しているものである。
かけるものである。例えば,主人公が追いかけられ,階
さらに擬音,擬態語のみによる描写を含むこととした。
段から飛び降りようとする場面で,「あっ大変だつおっこ
これは状況を描写するものであるが,発話している際の
ちたる(落ちちゃう)」と叫ぶといった発話である。
子どもは客観的立場に立つというより,登場人物の立場
「f子ども自身と物語世界の融合」;子どもは現実世界
に近いと思われるからである。例えば,おふろで体を洗っ
の子どものまま物語世界の中に入り込んで,あたかも登
ている登場人物を見て「オ目々モゴシゴシオ耳モゴシ
場人物の一人として発話する,または登場人物の行為を
ゴシ」と言いながら,子ども自身もまるで登場人物になっ
子ども自身が行うというものである。
たように自分の体を洗うまねをしたりする。これが「ゴ
例えば,子ども自身が物語の登場人物に対して「やっ
シゴシしている」と表現されたならば,物語の描写とし
つけてやる」「(体を)洗ってあげる」と言ったり,登場
人物がおやつを食べるシーンでいつのまにか子ども自身
て次の「cナレーション」に分類した。
「cナレーション」;物語の描写の部分にあたり,その
語り口によって次の2つに分類した。絵本を共に見てい
がおやつを食べていることになる,といったものである。
D子どもの物語内容へのコメント
る母親に対して直接伝達したり,伝達しているかどうか
「g子ども自身と登場人物との対比」;登場人物と子ど
ははっきりしないが,独白的な口調を取るものを「Cl話
も自身の特徴を比較し,または物語世界のエピソードと
し言葉的ナレーション」とし,「です.ます体」という物
類似した現実世界での体験や知識を想起して対比するも
語の定型を利用し,聞き手一般に向けて語るような語り
のである。例えば,耳がはっきり描かれていない主人公
口を「c2書き言葉的ナレーション」とした。ナレーショ
と自分の姿を比較して「Aちやんお耳ある。ジョージは
ンは,セリフと組み合わされている場合と単独で発話さ
お耳ないんだもんね−」と言う。
れる場合とがあった。
例1)ねえ(ジョージが)行くんだよ。=話し言葉的
「h感想」;登場人物の行動,考えに対する子どもの感
想である。例えば,オットセイが回すシャボン玉が割れ
ナレーション1「ねえ」「ほら見て」など,直接母親に
る場面で,「うん,いけない,いけないよ。あのね,パッ
呼び掛ける言葉を伴ったり,語尾に「…だって」と伝達
チンするのいけないんだよ」と言う。
の口調を付けることも多い。
「iなぜ疑問」;登場人物の行動に対して,なぜ,ある
例2)お医者さんがきた。=話し言葉的ナレーション
いはどうやってそうするのかという疑問を持ち,母親に
1直接母親に語りかけるものではなく,独白的表現で
あるが,まだ聞き手一般に向けるような語り口にはなっ
対して,因果関係,理由,手段方法等を質問するもので
ある。例えば,ビルの頂上にいる主人公について「ジョー
ていない。
ジどやって登ったの?」と母親にたずねる。
例3)「待テー待テー」て(言ってるよ)。=セリフl+
「jその他の質問」;傍らにいる母親に対して「これな
話し言葉的ナレーション1()内の表現は,省略さ
あに?」と名称等を問う,「次はなんて言うんだつけ,教
れていることもある。
えて」とストーリーを問うなど,「iなぜ疑問」以外の質
例4)ゴシゴシしてる。=話し言葉的ナレーション1
問である。
登場人物の行為を描写しながら,子ども自身もその行
E 不 明
為をまねている場合も,描写を優先させて「ナレーショ
ン」に分類した。ただし,明らかに子どもが「ワタシハ
絵本読みに関連する発話であるが,内容を聞き取れな
い発話である。
今ゴシゴシシテイル」という意味で,自分自身の行為を
母親に伝達している時は,後述のカテゴリ「子ども自身
と物語世界の融合」に分類した。
例5)「カメ,カメヲ連レテコヨウ」と思いました。=
セリフ1+書き言葉的ナレーション1
結 果
く発話内容の発達的変化〉
2歳から4歳までの絵本読み場面における,子どもの
カテゴリ別発話量をTablelに示す。
例6)黄色い帽子のおじさんが新聞を見て,「ア,ジョー
2歳代前半に発話量は増加し,それ以後は個々の試行
ジダ」と思いつきました。=書き言葉的ナレーションl+
で,発話量のばらつきが大きくなっている。例えば,絵
セリフ1+書き言葉的ナレーションl複文の場合,最
本2の最終試行時の発話量が極端に多くなったのは,A
幼児の絵本読み場面における「語り」の発達と登場人物との関係
1
5
Tablel絵本読み場面における発話量
■■■■■■■■■
試行数
11
02 1 3 1 4 1 5 1 6 1 7
1 2 3 4 5 6 7 8う
97
18
09
11
絵
A絵本読みのルールに関する発話
B物語内表現の発話
本
1
2
〔 )
00
0 2
0
0
20
0 2 2 1 0 2 2 0 2 2 1 1 2
F可
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44694856
6161b46610869
1527344469485671113766161546610869133
C子どもの物語世界への関わり
]
〕0
03
30
00
02
20
00
0 0
0 0 0 0
0
2 3 3 3 0
]
1 0
2 2 1 0 3 2 1 0 2 1 8 2 2 5 5 2
E不明
〕 0
〔)
3C
00
00
01
10
0 0
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0 1 0 0
3
0 1 1 0
『1
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︻︺
本
8229221C
53:8329
2:02:22:52:72:8
2:92:102:113:13:23:33:43:6
3:83:93:114:2
D子どもの物語内容へのコメント
総発話量
66
79
65
98
57
80
71
01 5 7 5 1 3 7
1 7 2 9 3 9 5 1 7 4 5 00
66
11
88
00
11
22
33
88
11
67
試行数
81
9
1 2 3 4 5 6 7 85
97
10
1121314151617
年齢(∼歳∼力月)
絵
︻︼
年齢(∼歳∼力月)
822922102211390
2:12:42:52:72:8
2:92:lO2:113:03:23:33:43:63:83:93:114:2
A絵本読みのルールに関する発話
J O
0
0C
0 2 1 1 1 1 1 0 1 1 2 2 1 2 2
B物語内表現の発話
38
82
26
6
81
22
12
62
0 12
8
3991282
66
44
66
44
0[
2 7 3 6 4 7 4 84
48
04600
C子どもの物語世界への関わり
J1
10
0 2 0
I)
0
1 1 1 2 4 0
00
0l
1C
0 0 1 0
0
D子どもの物語内容へのコメント
D C
J0
O O
0
0 1 3 0
03
3f
6 2 5 5 9 2 1 1 0]
E不明
0 0
00
00
00
00
0 1 0
1 0
00
00
0 0 1 0 0 0
0 1
総発話量
29
92 4 3 0 5 5 4 2 3 3 4 3 5 8 5
52
04
乙4
46
43
b
1〕0992
28
84
46
69
96
62
215
児が絵本に書かれた文字をゆっくりなぞり,なぞり終わ
めている。「d命名・確認」については,2歳代前半に絵
るまで文字に関係なく,同一内容の繰り返し等により物
本による相違が見られ,絵本2に比べ絵本1で出現の割
語を語り続けようとしたためである。しかしどの試行に
おいても,発話の大部分は「B物語内表現の発話」であ
命名・確認」の占める割合は減少し,3歳代ではほとん
る
。
ど出現しなくなる。
「A絵本読みのルールに関する発話」としては,「a形
式的オープニング・エンディング」のみが見いだされた
を示したものがTable3である。3歳代前半までは,「Cl
合が高くなっている。しかし両絵本共に加齢に伴い「d
「Cナレーション」について,その語り口の発達的変化
ため,各試行の発話量は2以下となる。この発話は2歳
話し言葉的ナレーション」の発話量が多いが,3歳代後
代前半には全く出現しないが,2歳半ば以降,絵本1で
半には非常に少なくなり,代わって,「c2書き言葉的ナ
14試行中11試行,絵本2で14試行中13試行と,ほとんど
レーション」がナレーション全体の8割前後を占めるよ
の試行に出現した。
うになる。
「B物語内表現の発話」について,下位カテゴリ別の構
「C子どもの物語世界への関わり」「D子どもの物語内
成比を示したものがTable2である。絵本1の2歳代前半
容へのコメント」の発話量は少ないが,Table4に示すと
には「d命名・確認」も比較的多く見られるが,それ以
おり,1回の絵本読み場面の中で当該のカテゴリ発話が
外は「bセリフ」又は「cナレーション」が大部分を占
出現するかどうかを見ると,2歳代と3歳代で相違が見
Table2rB物語内表現の発話ノにおける下位カテゴリの発話量と割合
王歯令鰐隈
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a)第17試行(4歳2カ月)は3歳代後半に含めた。
b)数値は発話量であり,()内は各年齢段階のBの発話量に占める割合(%)である。
発達心理学研究第7巻第1号
1
6
Table3rcI話し言葉的ナレーションJrc2書き言葉的ナレーションJの発話量の変化
一
年齢段階
絵本1|絵本
2
2歳代前半2歳代後半3歳代前半3歳代後半c)
(対象試行数)
( 3 ) ( 5 ) ( 4 ) ( 5 )
Cl話し言葉的ナレーション
2 7 1 7 0 1 3 9 5 1
c2書き言葉的ナレーション
Cl話し言葉的ナレーション
C2書き言葉的ナレーション
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2
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1
8
3
c)第17試行(4歳2カ月)は3歳代後半に含めた。
Table4ノ℃子どもの物語世界への関わり」ノD子どもの物語内容へのコメント」の辻I現試行数の変化
年齢段階(対象試行数)
2歳代(8)
3歳代d)(9)
検 定
出現の有無
有 無
有 無
(直接確率)
5 3
1 8
e登場人物への語りかけ
9245
iなぜ疑問
0754
g子ども自身と登場人物との対比
h感想
7686
1202
f子ども自身と物語世界の融合
jその他の質問
e登場人物への語りかけ
P<、042
n.s、
p<、044
P<、020
,.s.
6 2
9643
iなぜ疑問
0356
h感想
3 6
7787
g子ども自身と登場人物との対比
1101
f子ども自身と物語世界の融合
jその他の質問
n.s、
n.s、
n.s・
P<、020
P<,037
d)第17試行(4歳2カ月)は3歳代に含めた。
られる。「C子どもの物語世界への関わり」については,
をもとに,子どもは絵本を見ながらその内容を言語化す
「e登場人物への語りかけ」と「f子ども自身と物語世界
るという「読む役割」に2歳代前後から興味を持ち,「b
の融合」の2つを合計したところ,絵本1では,2歳代
セリフ」や「cナレーション」で物語内容を描写し始め
から3歳代にかけて有意に減少する傾向(直接確率0.042)
る。なじみの深い人や事物を再認する「d命名・確認」
が見られた。絵本2では,3歳代の出現試行数は減少し
は,乳児期には主要な絵本の楽しみ方であると言われる
ているが,有意差は見られなかった。
が(中村・佐々木,1976),幼児期では出現は少ない。し
「D子どもの物語内容へのコメント」のうち,「g子ど
かし,2歳代前半ではまだ,絵本1のように1ページ当
も自身と登場人物との対比」は,2歳5カ月時にのみ出
たりの文章量が多く,比較的難しい本の場合,再認的楽
現した。これに対し,「h感想」「iなぜ疑問」「jその他
しみ方が多くなることもある。
の質問」は,2歳代ではほとんど出現しないが,3歳代
第2に,「a形式的オープニング・エンディング」を使
では出現試行数が増加する傾向にある。「h感想」につい
用することから,子どもは2歳半ばから,始まりと終わ
ては,絵本1のみ3歳代での有意な増加(直接確率0.044)
りを宣言するという絵本読みのルールを理解し,「語り」
が見られた。「iなぜ疑問」については,絵本1,2共に
の雰囲気を作り出していると考えられる。Applebee(1978)
が,「語り」のリズムを楽しむことは2歳代という早期か
3歳代での有意な増加(両絵本とも直接確率0.020)が見
られた。「jその他の質問」については,絵本2のみ3歳
ら始まっていると指摘することに一致する。さらに本事
代での有意な増加(直接確率0.037)が見られた。
例では,2歳10カ月頃から時折人形を並べて読み聞かせ
考 察
1.「語り」についての子どもの認識発達
発話内容の継時的変化から,「語り」についての子ども
るふりをするようになり,3歳半ば頃からは母親のひざ
に座るのではなく,母親や人形に対して紙芝居のように
絵本を見せながら読むようになった。こうしたことは,
子どもが「読む役割」を取る上で他者に向けて読むとい
の認識発達について,次のような点が明らかとなった。
うルールを徐々に理解し,遂行していくことを示唆して
まず第1に,大人から絵本を読み聞かせてもらった経験
いる。
幼児の絵本読み場面における「語り」の発達と登場人物との関係
1
7
第3に,「cナレーション」の語り口については,3歳
これらのエピソードでは,子どもは絵本の中の出来事
代前半までは「Cl話し言葉的ナレーション」が中心では
を客観的に見ることのできる,物語の外にいる「読者」
あるが,「c2書き言葉的ナレーション」もわずかながら
の立場にいる。だからこそエピソード2にあるように,「読
2歳代で出現している。このことから,3歳代前半までの
者」しか知らない「ジョージの居所」という'情報を教え
段階では子どもは物語の作者の語り口に気づきながらも,
ることが可能になるのである。同時に,子どもの立場は
作者の語り口を使う「語り手」としての自己を意識する
登場人物のいずれかに接近している(エピソード1では,
には至っていないと考えられる。それが3歳代後半にな
自分が見られているペンギンであるかのように怒ってお
ると,「c2書き言葉的ナレーション」を高率に安定して使
り,エピソード2では,登場人物を助けたり,注意を促
用することから,子どもは「語り手」としての自己を意
したりする情報を与えていることから見て,ジョージを
識して絵本読みを行うものと考えられる。
探す飼育係のおじさんに近い立場にいると考えられる)。
さらに3歳9カ月頃から,自分の発話が文字で書かれ
こうしたエピソードの存在は,子どもが絵本を受容する
た絵本の内容と合っているかどうかを気にして,「何だつ
際に,「読者」と「登場人物」という二重の立場に置かれ
け,読んで」と母親に質問したり,依頼したりすること
ることを示している。田代(1982)が指摘するように,
(「jその他の質問」に含まれる)が見られるようになっ
このことがまさに子どもにとってハラハラドキドキする
た。また4歳2カ月時には,両絵本で文字部分の全体ま
といった絵本体験の面白さにつながるものと思われる。
たは1部を指でなぞって読むふりをすることが見られた。
「f子ども自身と物語世界の融合」
実際に文字を読んでいるわけではなく,発音と指がずれ
エピソード3(絵本2,2:7);主人公がカバを洗って
ていたり,なぞり終わるまで登場人物のセリフを長びか
いる場面で,「ゴシゴシ,Aちやんもしようつと」と言っ
せたりするのである。これらのことから本児の場合,4
て,絵の中のカバを洗うふりをする。
歳にさしかかる頃から,「語り手」は絵本の文字を読むも
ここでは子どもは自分を登場人物の一員として位置づ
のだということを意識し始めると考えられる。
けるわけでもなく,現実のA自身のまま物語に参加して
2.子どもと登場人物との心理的関係
のがとても楽しそうだったからであろう。この時,子ど
いる。なぜ物語に引き込まれるかといえば,カバを洗う
幼児期の絵本読み場面において,子どもは「読む役割」
もはごっこ遊びの佳境にある時と同じように,物語世界
を一応取りながらも,「C子どもの物語世界への関わり」
に入り込んでみること自体を楽しんでいる。もちろん物
と「D子どもの物語内容へのコメント」の中には,絵本
語世界と現実を区別できないわけではないが,現実の自
を読み聞かせてもらう時の「読者」同様の心の動きが現
分自身のまま入り込むことに何の抵抗もない。より年長
れている。全般的には,2歳代には「C子どもの物語世
になっても,絵本の場面の性質によっては物語世界に入
界への関わり」が出現し,3歳代には代わって「D子ど
り込んでみたくなったり,絵本読み場面を共有する他者
もの物語内容へのコメント」が出現する傾向にあった。
(ここでは母親)との関係で,物語世界へ入り込むことを
第1に,「C子どもの物語世界への関わり」は「e登場
他者と共有して楽しむといったことはあるだろう。例え
人物への語りかけ」と「f子ども自身と物語世界の融合」
ば,おいしそうな食べ物を食べる絵本場面では,子ども
からなり,どちらも発話の際の子どもは自己を物語の登
自身が食べるふりをしないと気が済まなかったり,他者
場人物の一人として位置づけるわけでもなく,絵本を見
にも食べさせるふりをして他者との関係そのものを楽し
ている現実の子どものままである。それでいて子どもは
むといったことである。
登場人物に直接働きかけたりするのである。これらの発
しかし基本的には,子どもは物語世界の外にいる「読
話では,子どもは現実世界にいるのか物語世界にいるの
者」という自己の立場を認識するようになると,自分自
身の位置づけもあいまいなまま物語世界に入り込むこと
かあいまいであり,子どもにとっての現実世界と物語世
界が非常に接近しあった状態であると考えられる。
は難しくなる。このため,3歳代では「e登場人物への
「e登場人物への語りかけ」
語りかけ」や「f子ども自身と物語世界の融合」は減少
エピソード1(絵本2,2:5);主人公がペンギンを見
するのだと考えられる。
つめる場面で,「見ないんだよ−,見ないんだよ−」と主
人公に対して怒る。A児はこの頃から遊んでいる時に大
人にじっと見られたりすることを怒って拒否したり,部
屋を代えたりするようになる。
エピソード2(絵本1,2:8);動物園の飼育係のおじ
さんがジョージを探している場面で,「ここにいますよ−」
と教える。
第2に,「D子どもの物語内容へのコメント」のうち,
「g子ども自身と登場人物との対比」だけは,2歳5カ月
のl時点にだけ出現するという特殊な発話であった。
エピソード4(絵本2,2:5);シャボン玉の割れる音
に驚いて首を隠した亀の姿を見て,「Aちやんは首キュッ
てしない」と言う。
この時期のA児は,日常生活では物の大小をしきりに
発達心理学研究第7巻第1号
1
8
比較するようになってきており,対比を通して対象につ
るに当たっては,始まりと終わりを宣言する必要がある
いての認識を深めるという特徴を持ち始めていた。この
ことを理解している。子ども自身が聞き手役として並べ
ようなエピソードの中では,子どもは自分自身と対比さ
た人形に絵本を見せつつ言語化したりすることもあり,
せることによって登場人物について考えをめぐらし,認
他者に向けて言語化するというルールを意識し始めるが,
識を深めていると考えられる。
常にこのルールを意識するには至ってはいない。
この発話ではまだ,子ども自身に密着した形であるが,
ここまでの段階では,子どもは物語を描写しながらも,
3歳代になると,必ずしも自分のことと直接関わらせな
いつのまにか物語世界に強く引き込まれて,子ども自身
くとも,「h感想」「iなぜ疑問」のように,登場人物に
が登場人物に直接働きかけることも生じる。子ども自身
ついて子どもなりに多様な考えをめぐらすようになる。
が現実世界にいるのか物語世界にいるのか,あいまいな
これらの発話は,西郷(1975)の言葉を借りれば異化体
状況が引き起こされるのである。自分は現実世界にいて,
験にあたり,3歳代の子どもが,登場人物に対して距離
登場人物はそれとは別の物語世界にいるということを,
をおいて,その行動や意図を評価したり,疑問を持った
子どもは常に対立的に意識してとらえてはいないという
りしていることがわかる。一方,登場人物に共感し,思
ことであろう。
わず語りかけたくなるという心理状態は,子どもの年齢
第3は,3歳代前半の時期で,子どもは物語世界と現
に関係なく存在し(古屋・田代,1989),大人でも同様の
実世界を対立的にとらえ,物語世界の外にいる自己の立
心理状態を体験すると考えられる。3歳代になって,そ
場を認識して絵本読みを行う。これ以前の2歳代と異な
うした心の動きをそのまま言語化することは少なくなっ
り,子どもは直接登場人物と関わる発話をすることはほ
ても,子どもの内面では同様の心理状態が生じているか
とんどない。代わって,子どもは絵本の登場人物に対す
もしれない。本事例の場合,そうした思いを言語化する
る自分自身の思いを,物語世界と距離を保って,その物
際に,登場人物に対して距離を保持して「h感想」といっ
語状況を検討したり,意見を出したりという形で表すよ
た形で表現するようになるとも考えられる。
うになると考えられる。
2歳代では物語世界と現実世界とが接近し合って,子
第4は,3歳代後半の,「語り手」としての自己を意識
ども自身の位置づけがあいまいになることがある。3歳
する時期である。この時期になると「c2書き言葉的ナレー
代になると,自分が物語の外にいる「読者」であること
ション」という物語の定型を安定して使用していること
を念頭に置きながら,登場人物の行動を吟味したり,多
から,子どもは物語を言語化する時に,作者の語り口を
様な考えをめぐらすことができるようになるのだと考え
とる「語り手」としての自己を意識し,その語り口を保
られる。2歳代と3歳代とで物語世界と現実世界との距
持できると考えられる。
離の取り方に相違はあるが,現実世界と関わらせながら
3歳代の段階では,「D子どもの物語内容へのコメント」
登場人物をとらえることにより,子どもは非現前の物語
が出現している。子どもはまだこの段階では「読む役割」
世界を生き生きと感じ取るものと考えられる。
全体的考察
を離れることもあるといえよう。本事例の場合,絵本読
み行動の間中「読む役割」を保持するという意識的な態
度はまだ見られなかった。「読む役割」の保持については,
物語の「語り」についての子どもの認識発達と,登場
聞き手が誰であるかにも左右されるであろう。ここでは
人物との心理的関係の変化には密接な関係がある。両者
聞き手が母親であるため,「読む役割」を強固に保持する
を統合して,子どもが自ら絵本を読み始めてから,絵本
動機づけが弱かったとも考えられる。
に書かれた文字の存在を意識し始めるまでの発達プロセ
Sulzby(1985)は,絵本読み場面の子どもの言語発達を
スを整理すると,大まかに2歳代前半と後半,3歳代前
読み行動の認知的発達としてとらえた。Sulzbyが示した,
半と後半の4つの時期に分けられる。
話し言葉的表現から書き言葉的語りへの発達プロセスは,
第1は,2歳代前半の,「読む役割」自体に興味を持ち,
本事例においても確認された。さらに本研究では,物語
絵本を見て言語化を始める時期である。この頃は言語能
の「語り」についての子どもの認識発達に重点をおきな
力の発達に伴い,物語を表現する発話量が増大する傾向
がら,物語世界の登場人物と子どもがどのようにかかわっ
にある。「読む役割」については,大人に絵本を読んでも
ているかを探った。その中で,子どもが現実世界と関わ
らう時と同様,自分が母親のひざに座ったままで,絵本
らせながら登場人物をとらえることにより,認識を深め
が母親に見えるかどうかは気にしないといったことから,
ていくことが示唆された。
他者(母親)に向けて物語を言語化するという伝達の意
識は弱いと思われる。
本研究では触れられなかったが,「bセリフ」「cナレー
ション」という物語の描写の中にも,登場人物について
第2は,2歳代後半の,「読む役割」をとる上でのルー
の子どもの認識のありようが現れていた。子どもは絵本
ルに部分的に則って行動し始める時期である。物語を語
を読む際に,登場人物と類似した感情状態を現実の自分
幼児の絵本読み場面における「語り」の発達と登場人物との関係
の生活経験の中に見いだしたり(田代,1982),逆に自分
の生活体験や思いを登場人物に重ね合わせたりしながら,
物語世界を生き生きと体験するのであろう。
エピソード5(絵本2,2:7);動物達が湯舟に入る場
面で,「カバ君も自分で入るんだって」と言う。
例えば本事例のこのエピソードには,この頃のA児が
何事も自分でやると強く自己主張する状態でありながら,
湯舟の出入りに関してはA児ひとりで行うことができな
いという背景があった。この発話はそうした現実の自分
に対して,登場人物達が自分ひとりの力で湯舟に入るこ
とにうらやましさを抱いて出てきた発話であると思われ
る
。
1
9
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諦箭とことばの発達心理学(pp、287-312).京都:ミネ
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出版会.
中村悦子・佐々木宏子.(1976).集団保育と絵本.東京:
高文堂出版社.
Ninio,A・(1983).Jointbookreadingasamultiple
今後こうした物語描写の中に見られる子どもの感情体
験について,幼児初期からの資料を蓄積していくことが
必要であろう。
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.
西郷竹彦.(1975).文芸学講座(1).西郷竹彦文芸教育
また,2歳以前の子どもの絵本体験についても検討し
著作集17.東京:明治図書.
ていきたい。この時期は絵本を使っての初期言語発達の
Sulzby,E・(1985).Children'semergentreadingof
研究が主であったが,子どもの心の動きを明らかにする
ためにヅ本研究同様子どもと登場人物の心理的関係とい
う視点から検討する必要があると考える。
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文 献
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C
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development
1993.4.23受稿,1995.8.21受理
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,20-30
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
高井直美高井弘弥
(芦屋大学教育学部)(樟蔭女子短期大学人間関係科)
本研究では,生後2年目の1人の子どもが,日常生活において身ぶり動作と音声言語を発達させる過程
を,詳しく観察した。そして,初期シンボル形成における身ぶり動作の意義と,その消失の理由を明らか
にしようと試みた。その結果,1歳3カ月半ばを境にして,身ぶり動作の質的な変化が観察された。前期
では,対象の名前を表す身ぶり動作が多く出現したが,後期では,対象の状態や動作を表す身ぶり動作の
みが出現した。また,これらの対象の状態や動作を表す身ぶり動作では,後期には,音声言語を伴って出
現する傾向が見られた。さらに,後期にはもとの状況から離れた状況でいくつかの身ぶり動作が使用され
ていることが観察されたが,その場合も音声言語を伴うようになっており,このことから,脱文脈化の過
程と音声言語の出現との間に何らかの関係があることが示唆される。対象の状態や動作を表現するものの
うちのいくつかでは,最初は身ぶり動作のみで表現していたものが,多語発話になることをきっかけに,
身ぶり動作を伴わずに音声言語のみで表現するようになってきた。このことから,身ぶり動作が消えてい
くにつれて,音声言語での文構造が発達している様子が窺える。
【キー・ワード】言語発達,心理言語学,身ぶり,シンボル化,脱文脈化,多語発話
ている。
問 題
人と人とが対面している場合,音声言語は重要なコミュ
ニケーションの媒体である。しかし,コミュニケーショ
次に,身ぶり動作と音声言語は異なる経路で発達する
のか,それとも関係し合って発達するのかが問題にされ
た。Bates,Thal,Whitesell,Fenson,&Oakes(1989)は
相関分析と実験を行い,まずシンボル形成の初期には,
ンは初めから音声言語のみで行われるのではない。発達
研究では,生後1歳前後から子供が身ぶり動作をシンボ
ルとして用いるようになることが注目され,これらの身
ぶり動作と音声言語との関係について,いくつかの問題
Piaget(1962)やWerner,&Kaplan(1974)が論じた並
行論(parallelism)が当てはまること,即ち身ぶり動作と
提起がなされてきた。
ることを示した。そして他者の発話の理解が発達してい
まず,身ぶり動作と音声言語ではどちらが早く獲得さ
れるか,という問題については,音声言語と共に身ぶり
くと,言語理解が媒介となり,別々に機能していた音声
言語と身ぶり動作が統合されることを明らかにした。
統合後,身ぶり動作の使用が減少し音声言語が優位に
なっていくことは,山田(1982)などにより観察された
によるサインを,子供に早くから教えることを試みたい
くつかの研究がある。それらによると,音声言語よりも
身ぶり動作の方が何カ月も早く習得されるという結果が
示された(Holmes,&Holmes,1980;Bonvillian,Orlansky,
Novack,&Folven,1983)。しかし,Goodwyn,&Acredolo
(1993)は,これらの研究ではシンボルとしての使用が始
まる時期での身ぶり動作と音声言語を比較していないと
批判し,22人の子供についてシンボル使用の開始時期に
関して両者の比較を行った。その結果,これまでの研究
で見いだされたよりはわずかな差であるが,身ぶり動作
の方が音声言語よりも0.58カ月から1.1カ月早く獲得され
る傾向が示された。このように身ぶり動作が音声言語に
先行する理由としては,身ぶり動作は子ども自身の目に
見えること,身ぶり動作とその指示対象との間に類似し
た特性があること(映像性),身体による実行しやすさ,
感覚運動的行動から自然に拡張しやすいことなどを挙げ
音声言語は,シンボル機能を基盤にして並行して出現す
が,最後に問題になるのは,なぜ,どのようにして音声
言語の優位体制が確立するかということである。
山田(1982)は,語用論(pragmatics)の観点,即ち「ど
のような文脈や場面でどのような語の使い方をするか調
べることで乳児の意図する意味を把握しようとする」立
場からの研究の重要性を指摘し,1人の子供の要求一拒
否の行動形式の発達的変化を丹念に観察した。そこでの
観察で,音声言語使用が中心になるのは,有意味語発生
の時点ではなく,自発語の数が飛躍的に増大したり2語
文が出現する頃であることを見いだしたが,このことが
要求一拒否以外の表現にも当てはまるかどうかについて
は,検討する必要があるだろう。
1人ないしは2人の子どもの身ぶり動作と音声言語の
発達過程を追った研究は,他にもいくつか見られるが
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
(Acredolo,&Goodwyn,1985;Zinober,&Martlew,1985;
2
1
交代で行ったが,観察を行い記録した者も両名である。
村瀬,1993),これらの研究では身ぶり動作が脱落してい
日常的観察では,日常生活の中で新たに身ぶり動作を
く過程をどのように扱っているだろうか。単独使用して
獲得した際,随時その文脈と共に記録した。新出の身ぶ
いた身ぶり動作に音声言語が伴うようになる時期以降に
り動作だけでなく,それらの使用文脈が変化したり,形
着目すると,Acredolo,&Goodwyn(1985)の観察事例で
は,「大きい」と「熱い」の2つの例外を除けば,音声言
態が変化した時も記録した。ここでいう文脈とは,身ぶ
り動作出現の前提となる状況のことであり,獲得の経緯
語を使用し始めるとすぐに身ぶり動作は消失した。一方,
とその身ぶり動作が何について言及しているかを表して
Zinober,&Martlew(1985)と村瀬(1993)は,身ぶり動
いる。またここで問題にする形態とは,身ぶり単独の表
作と音声言語がしばらく共存する様子を観察しているが,
現であるか,身ぶりと音声言語の両方による表現か,身
音声言語の単独使用が優位になるまでは問題にしていな
ぶりが脱落して音声言語のみになった表現かの3種類で
い。音声言語使用開始後すぐに対応する身ぶり動作が消
ある。
失するかどうかについては,個人差と表現する内容によ
る違いの両方があると推察される。これらの研究を補う
音声言語については,獲得時の状況と2語発話など構
造上の変化が生じた時を記録した。
ために,どのような文脈で身ぶり動作と音声言語が共存
設定場面での観察は,絵本「赤ちやんにおくる絵本」(と
しているのか,さらにどのような文脈で音声の単独使用
だ,1989)を利用して行った。この本は頁を開くと左面
が始まるのか等,語用論の立場から検討し直す必要があ
に1つの対象を表す絵が,右面にはその対象の名前が平
る
。
仮名で書かれている。全部で28枚の絵が描かれているが,
本研究では,初期シンボル形成における身ぶり動作の
最後の観察時までに名前が言えるようになった25枚の絵
意義とその消失の理由を語用論的観点から問題にする。
に対する反応をここでは分析した。観察期間の最後まで
その為に,身ぶり動作のシンボル使用が始まってから,
名前が言えなかった絵は,「ヘリコプター」,「ゆりかご」,
身ぶり動作の使用が減り,音声言語優位体制が確立して
「1,2,3,4,5(そろばん)」の3枚であった。こ
いくまでの経過を1人の子どもの観察で追ってみる。そ
の絵本は生後9カ月頃より,両親が時々読み聞かせてい
して身ぶり動作の形態上の変化と,身ぶり動作を使用す
た。読み聞かせの方法は,対象によって異なり,音声の
る文脈の変化との関係について調べる。さらに身ぶり動
みで表現するもの14枚と音声と身ぶり動作の両方で表現
作の形態の変化と音声言語の構造の変化との関係につい
するものl1枚に分かれた。その場合の音声表現では,絵
ても調べ,音声優位の構造がどのようにして形成される
本の右面に書かれた対象名をまず語るが,その対象の動
か明らかにしていきたい。
きなどに関係した擬音語,擬態語の表現をつけ加えるこ
なお初期シンボル形成の特徴を調べるため,身ぶり動
ともあった。
作が外界の対象や事象を,どのように表示するかについ
やがて絵を見て自発的に身ぶり動作や発声で反応する
て着目したい。その際,各身ぶり動作の獲得の経緯を記
ようになってきたので,1歳1カ月20日,1歳2カ月22
録することにする。Acredolo,&Goodwyn(1985)の事例
では,多くの身ぶり動作は,大人の誘導による模倣や子
の計5回,絵本の絵に対する反応を調べた。絵本は,観
どもの方からの自発的な模倣により獲得された。しかし,
察者が「これなあに」と言いながら絵のページを1枚ず
大人の援助なく自発的に創出した身ぶり動作もいくつか
つ見せ,反応があると次のページを見せるというやりか
日,1歳3カ月23日,1歳5カ月29日,1歳6カ月21日
あり,それらは対象の機能的属'性に関係していた。本研
たで提示した。なお反応は,8ミリビデオで録画し,ビ
究でも,獲得の経緯が模倣であるか,それとも自発的に
デオテープを再生して,身ぶり動作と音声言語を記録し
創り出したものであるかを区別し,後者の場合には事象
た
。
や対象をどのように表すか調べたい。
身ぶり動作の分類身ぶり動作の分類は研究の目的によ
り異なる。本研究の目的は,身ぶり動作と言語との関係
方 法
を調べることである。従って,言語との相関の程度で身
被験児筆者の長女M(1991年2月23日生まれ)。本研究
ぶり動作を分類する必要がある。Batesetal.(1989)は,
の観察は,日常的観察と設定場面での観察の2種類であ
このような観点から,身ぶり動作を以下の3つに分類し
る。日常的観察は,シンボルレベルで身ぶり動作が出現
た
。
した生後11カ月から行い,1カ月間に新たな身ぶり動作
①対象表示に関係する身ぶり動作(対象の動作による命
が出現しなかった1歳7カ月で打ち切った。設定場面で
の観察は,日常的観察を補うために,Mが1歳1カ月か
ら1歳6カ月の問に行った。
手続Mの育児は家庭で筆者の両名(母親と父親)が
名
)
。
②対象を表示するのではない身ぶり動作(「バイバイ」,「と
ても大きい」など)。
③指示的身ぶり動作(指さし,物を人に見せるなど)。
2
2
発達心理学研究第7巻第1号
本研究では,Batesetal.(1989)の分類を参考にした
が,外界の対象や事象を子どもがどのように表すかに焦
基準を採用した。そこでは多くの対象に適用すること,
指示対象が存在しない時にも使用すること,実物と同様
点を絞るため,彼女らが「指示的身ぶり」と分類した指
に絵にも反応することの3点をシンボルとしての使用の
さしや物を人に見せる行為は省略し,以下の2つに分類
基準として挙げている。
した。
結果と考察
1.対象を表示する身ぶり動作。
2.事象に関連した状況を表す身ぶり動作。
(1)各身ぶり動作の出現時期
1は対象の命名の機能を持ち,2は主に対象に関係し
た状態・動作を表すが,日常生活での挨拶表現も含んで
日常的観察から,Mが獲得したすべての身ぶり動作に
ついて,種類別に獲得の時期と経緯をTablelとTable2
いる。
にまとめた。ここで獲得の時期としたのは,Mが初めて
シンボルの基準高井・高井(印刷中)は,先に行った
その身ぶり動作を行った時期ではない。先に基準を示し
研究で,Mの日常的観察の中から,音声や身ぶり動作を
たシンボルレベルでの使用を始めた時のことである。獲
外部から取り込み始めてからシンボルとして使用し始め
得の経緯は,多くは大人の模倣による獲得か自ら創り出
るまでの過程を,Karmiloff-Smith(1992)の表象の書き
したかに分けられるが,自分の行った行為をそのまま表
直しモデル(representationalredescriptionmodel)に当
現手段に用いた場合や先に別の対象を表す身ぶりとして
てはめて検討した。本研究では,それに続いてシンボル
獲得したものを自発的に般化させる場合もあった。なお
として音声や身ぶり動作を使用し始めて以降の両者の関
模倣については,ここでは大人の行為の直後に行った模
係を問題にする。従って,ここではシンボルにはなって
倣は扱わず,シンボルの基準に見合った延滞模倣を分析
いない音声や身ぶり動作の使用は研究の対象とはしない。
の対象にした。
シンボルとして身ぶり動作と音声言語を用いているか
それによると,対象を表示する身ぶり動作の獲得は,
どうかの基準は,Goodwyn,&Acredolo(1993)の用いた
11カ月後半より1歳3カ月の前半までの,4カ月間に集
Tablel
事象に関連した状況を表す身ぶり動作
■■■■■■■■■■■
獲得時期
獲得経緯
大人のことばかけと表現内容
列出時の表壌
初出時の表現方法
一
前期
0:11(20)
a
)
模倣
b
)
「バイバイ 」
辰名
手を振る
︾4
︽[
0:11(24)
模倣
「いただきます」「ごちそうさま」
両手を合わせる
l:0(1)
模倣
「ネンネ」(寝ること)
うつ伏せになる
l:0(5)
模倣
「
1:0(12)
模倣
「かわいい」
(ぬいぐるみを)抱きしめる
じょうず」(誉める)
の打ち
合ス
ち合わせ
l:0(17)
模倣
「おいしい」
片手で頬を叩く
l:1(8)
模倣
「ゴシゴシ」(手を洗う)
両手をすりあわせる
l:1(2)
模倣
「抱っこ」
自分を抱きしめる
模倣
行為
c
)
ヨーェ目一だ
1:1(8)
l:2(2)
愛〕4
「イヤイヤ」(拒否)
首を横に振る
「ごつん」(ぶつける)
頭をぶつける
ハイハイをする
模倣
「
模倣
「ボン」(ジャンプ)
「ボン」と言って跳び上がろうとする
l:2(10)
模倣
「ありがとう 」
おじぎをする
1:2(23)
模倣
「タッタッタッ」(走る)
7
その
場で走るまね
「クルクル」(ものが回る)
「クークー」と言って身体をひねる
ハイハイ
」
後期
d
)
易一割
一
U一一一切
l:2(2)
1:2(8)
l:3(18)
創出
1:3(21)
模倣
「ゴクゴク」(飲む)
「ゴクゴク」と言って飲むまね
1:3(22)
模倣
「ジージー」(書く)
「ジージー」と言って片手を振る
l:4(9)
模倣
「ドーゾ」(差し出す)
「ドーゾ」と言って手を差し出す
1:4(10)
模倣
「くすぐる」
〃
自分の手をくすぐる
「長い」
「ナガーイ」と言って首を伸ばして上を向く
般化
1:6(12)
創出
数字は年:月(日)齢を示す
「
叩く
」
日日
aCe
l:5(7)
c
)
「タタクノ」と言って片手で叩くまね
b)他者が行った身ぶり動作や実践的行為の模倣
自分が行った行為の再現
d)対象に関係した動きなどを見て自ら創り出したもの
ここでは,「キリン」(Table2参照) を意味していた身ぶり動作で,他の対象の「長い」という属性を表現したもの
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
0:11(20)
1:0(3)
1:0(6)
1:0(7)
l:0(17)
l:0(19)
1:0(21)
1:0(24)
1:1(2)
1:1(14)
1:1(15)
1:1(20)
1:1(20)
1:1(20)
1:1(20)
1:1(20)
1:1(22)
1:1(28)
1:1(28)
1:2(2)
1:2(4)
1:2(15)
1:2(17)
1:2(17)
l:2(18)
l:2(18)
l:3(5)
1:3(7)
1:3(15)
雛為倣倣倣倣為為倣出倣出倣倣倣倣倣倣出倣倣倣化出為出倣倣倣倣倣倣
離行模模模模行行模創模創模模模模模模創模模模般創行創模模模模模模
獲得時期
0:11(17)
2
3
Table2対象を表示する身ぶり動作
1:3(15)
表現された対象
表現の方法
ボール
片手を振り上げ投げるまね
ガラガラ
片手を握って振る
ゾ ウ
片手をゾウの鼻のように振る
おにぎり
両手でおにぎりを作るまね
ウサギ
両手を伸ばして頭の上に
カップ
指を口にくわえる
トンカチ
片手を振り上げる
帽 子
頭の上に手を置く
自転車
座って片足を上げる
ゴリラ
おなかを叩く
ペンギン
身体を2,3度横に揺らす
花
両手のひらを合わせる
スコップ
片手で掘るまね
鶴
両手を上下に動かす
だるま
口をぎゅっと結ぶ
眼 鏡
指を両目の脇に
ラッパ
「プウ」と言って指をくわえる
たまご
身体を横に揺らす(オムレツを作るまね)
飛行機
「ぶ−ん」と言って両手を横に広げる
烏
両手で羽ばたく
ウ マ
よつぱいの姿勢で身体を上下に揺する
両手で羽ばたく
蝶
掃除機
片手を前後に動かす
うどん・そば
なわとび
口ですするまね
両手を上下に振る
キリン
首を伸ばし上を向く
赤ちやん
ハイハイをしながら立ち上がって背伸び
たぬき
おなかを叩く
サ ル
両手を交互に上下
輪
「ワ」と言って両手を上げて丸を作る
にんじん
中していた。1歳3カ月後半以降は,事象に関連した状
指を2本出して振る
は音声が伴うようになるという形態上の変化が生じてい
況を表す身ぶり動作のみが新出した。そこで身ぶり動作
ることがわかった。
の獲得に関して,’1カ月後半より1歳3カ月前半までを
(2)設定場面の観察における対象の命名の表現形態の変化
前期,1歳3カ月後半からを後期と呼ぶことにし,以下
の分析でも2つの時期の区別を問題にする。
Table2に示したすべての対象を表示する身ぶり動作に
ついて,表現形態の変化を正確に日常生活の中で観察す
事象に関連した状況を表す身ぶり動作は,前期と後期
ることはできなかった。しかし,そのうちの11の身ぶり
に獲得されているが,音声言語を伴って出現する割合を
動作については,5回の絵の提示に対する反応で,その
時期別に比較した。その結果,後期における音声の出現
表現形態の変化を追うことができた。前2回は前期,後
率が前期に比べ有意に高かった(Yatesの修正式X2(1,
3回は後期に相当する。
jV=21)=9.67,p<、01)。
まとめると,前期と後期の違いは,新しく出現する身
25枚の絵のうち,全回を通して音声言語での反応しか
見られなかったものが14枚,身ぶり動作の反応が1回以
ぶり動作の種類が2種類から1種類に減ることにあるが,
上見られたものが11枚であった。これは9カ月より大人
事象に関連した状況を表す身ぶり動作において,後期に
がMに示した命名のモダリティーと関係がある。すなわ
発達心理学研究第7巻第1号
2
4
ち大人が音声でしか命名しなかった14枚の絵に対しては
を吹くという身ぶりに伴う擬音語から通常の対象名へと
音声でのみ反応し,大人が音声と身ぶり動作の両方を示
変わったのである。
このように音声による反応は多くの例で変化した。そ
した11枚の絵には,5回の提示の内少なくとも1回は身
こで,身ぶり動作が出現した絵と音声反応しか現れなかっ
ぶりで反応した。
た絵を込みにし,25枚の絵について音声の変化を調べた。
身ぶり動作が出現した11枚の絵に対する反応は,Table3
その結果,擬態語・擬音語ではない命名反応,すなわち
に示した。
前期と後期とで以下のような差異が見られた。前期で
「ウチャーギ(ウサギ)」など発音の不明瞭さはあるもの
は,「ラッパ」以外は身ぶり動作か音声言語かどちらかの
の,ほぼ大人の命名と一致する語が25例中,1歳3カ月
単独表現がなされているのに対し,後期には,それまで
後半に2,1歳5カ月後半に9,1歳6カ月後半に18み
使用していた身ぶり動作に音声言語が付随したり,身ぶ
られた。各月齢間で,この反応の数は有意に増加した
り動作が脱落し音声言語に取って変わられる傾向が見ら
(1歳3カ月から1歳5カ月の間の増加,2項検定,p=.00a
れた。身ぶり動作による単独表現は前期と後期の境であ
1歳5カ月から1歳6カ月の間の増加,2項検定p=、011)。
る1歳2カ月後半と1歳3カ月後半の間で有意に減少し
従って,身ぶり動作が脱落して音声の単独表現になって
(2項検定,p=、031),1歳5カ月後半以降全く見られな
いく時期には,同時に音声言語の表現の仕方も完成に近
くなった。このことは(1)で述べた,後期に出現した事象
づいていると言える。
に関連した状況を表す身ぶり動作のほとんどが音声言語
このように,設定場面の観察では,対象を表示する身
を伴って出現していたということと関係がある。なぜな
ぶり動作の出現過程を追うことができたが,事象の状況
ら新出の身ぶりか前期から引き続いている身ぶりかとい
を表す身ぶり動作については,場面設定してその出現を
う違いはあるものの,両データとも後期になると身ぶり
促すことはできなかった。従って,以下の2つの節では,
動作の単独表現が減少し,音声言語を伴うかあるいは音
日常的観察で,事象の状況を表す身ぶり動作について,
声言語に取って変わられるようになることを示している
出現の状況が変化する過程を追っていくことにする。
からである。
(3)日常的観察における使用文脈の広がりと表現形態の変化
そして1歳6カ月後半までには,11枚の絵に対して行
日常的観察では,特に事象の状況を表す身ぶり動作に
う命名がすべて音声言語の単独表現となった。従ってこ
ついて,使用文脈の変化と表現形態の変化を観察した。
の頃には,対象の命名において音声言語が優位になって
本研究では,先に述べたように,シンボルとして身ぶり
きたと言える。ラッパの例では,最初は「プウ」という
動作を用いるようになって以降のことを扱っている。従っ
音声が身ぶり動作に伴ったが,後期に音声の単独使用が
て,シンボルの定義上,身ぶり動作は最初に学習した場
始まってから,「ラッパ」に変化した。すなわち,ラッパ
面を離れて般化的に使用されていることになるが,次に
Table311枚の絵に対する反応の変化
ユニ今
月
1
1
1
(
2
0
)
後 期
期
1:2(22)
ーIヨ
◎、
IJ
IJ
1
注.Gは身ぶり動作,n.r.は無反応。
G+「チュコップ」
「チュコップ」
G+「ゾウ」
G+「ゾウ」
「ゾウ」
G+「メー」
G+「メ」
「メガネ」
G
G+「ピョンピョン」
「ウチャーギ」
G
「ツル」
n.r・
n.r、
「アップップ」
「アップップ」
G
n.r・
「ウマチャン」
「カップ」
「カップ」
「ギュウニュウ」
「アウ」
G+「アイアイ」
「アイアイ」
G+「卜」
「チッチ,トーリ」
「チッチ」
「プップ」
「ラッパ」
「ラッパ」
0Ⅲ0
1
G+「ツクック」
055
8
1:6(21)
1:5(29)
1:3(23)
334
631
合G音共
j
ツ、古ソ
jr
プウ
ウ
ノー︲アプ
GGGGGGGGげ叱叶
1
GGGGGG州伽肺皿例
コ
ツ
スゾ眼ウだうカサ一フ声
計みみ起
プウ鏡ギままプルパ
の
サ鶴るシ烏シの語
絵
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
2
5
示した2つの身ぶり動作では,特に前期と後期で使用文
もうとした時,少々こぼした。その後すぐ,頭を
脈がさらに広がる様子を観察できた。また表現形態上の
のけぞりイスに後頭部をぶつけて,「ゴッツンコ」
変化も同時に観察されたので,以下に示す。
(a)「かわいい」を表現するシンボル
と言った。
観察9(1歳4カ月27日);以前母親が誤って開けた襖の
(前期)
小さな穴を指さすので,「穴よ・お母さんが作った
観察1(1歳0カ月12日);ネコの写真を見て,空の手で
の。」と教えると,「アナ,ママ,ゴツン」と言っ
抱きしめるポーズをとった(0歳10カ月の初め,「か
た
。
わいい」と言いながらぬいぐるみを抱きしめるこ
この例は,自分の行った行為の再現から始まっている
とを大人が教えた。ぬいぐるみは複数あるが,M
が,後期に自分以外の対象の行為を表す身ぶり動作にな
はこの写真と同色のネコのぬいぐるみをよく抱き
り(観察7),さらに牛乳をこぼすというもとの文脈から
しめていた)。
はずれた行為に対して,般化的に使用するようになった
このように写真のネコや実物のネコを見て,空の手で
(観察8)。観察8ではそれと同時に,身ぶり動作に音声
この身ぶりを行うことはあったが,それ以外で自発的に
抱きしめるものは,ぬいぐるみに限られていた。
言語が伴うようになり,観察9では多語発話になると同
(後期)
時に身ぶり動作が脱落した。
(a),(b)に共通するのは,後期になって,身ぶり動作の
観察2(1歳4カ月0日);新聞に載っていたフクロウの
使用がもとの文脈から離れ,対象と身ぶり動作の結びつ
写真(フクロウの実物を見たことはないし,ぬい
きが柔軟に,幅広くなったことと,その後に音声言語と
ぐるみも持っていない)やテレビに登場する歌の
身ぶり動作の同時使用が始まったことである。ただし身
お姉さんを見て,空の手で抱きしめる仕草をした。
ぶり動作の使用文脈が広がることと,音声言語が表現媒
このように,実際に抱きしめることのできない対
体として登場してくることが関係しているかどうかにつ
象に対して,この身ぶりで「かわいい」という気
いては,これら2例だけで十分な結論を下すことはでき
持ちを表現するようになった。
観察3(1歳4カ月9日);おばあちやんの絵を見て,「カー
イーナ」と言いながら抱きしめる仕草をした。
観察4(1歳4カ月11日);女の子の絵を見て,「ニヨウ
ない。
(4)日常的観察における文脈の理解と表現形態の変化
次に,同じく日常的観察において,文脈が具体的行動
(人形),カーイーナ」と言いながら,抱きしめる
や状況で表される場合だけでなく,主に大人の音声言語
によって示される場合のMの反応についても調べてみた。
仕草をした。
このことは,当然言語理解の発達と関係が深い。
観察5(1歳4カ月12日);アニメの登場人物の絵を見て
大人の音声言語に対する反応は,前期では,例えば「パ
「ミチ(女の子の名),カーイーナ」,「カーイーナ,
メイ(女の子の名)」と初めて言葉のみで表現をし
イパイは?」と大人が問いかけると片手を振って返すな
ど,その身ぶり動作の名称への反応に限られていた。し
た
。
かし,後期になると,直接身ぶり動作を指示しなくても,
その身ぶり動作を含む文脈に言及するだけで反応が出現
この身ぶり動作は,前期はぬいぐるみや身近にいる動
物との直接的結びつきが強かったが,後期には現実には
するようになった。
抱きしめることのできない様々な対象と結びつくように
観察10(1歳4カ月4日);母親と一緒に散歩をしている
なった。そして,まもなく身ぶり動作に音声言語が伴い
時,犬を連れた女性に出会った。しばらく,Mと
母親と女'性はその場に留まっていたが,女‘性が犬
に「さあ帰ろう」と言った。実際にはまだ誰も移
動していなかったが,Mは即座に犬に向かって「バー
(観察3),続いて2語発話の出現(観察4),身ぶり動作
の脱落(観察5)が観察された。
(b)「ぶつかる」を表現するシンボル
(前期)
バー」と言って片手を振った。
観察6(1歳2カ月2日);襖に頭をぶつけ泣きながら母
親の所に行くが,その後現場に戻り,襖に軽く2
観察11(1歳4カ月12日);Mは歯ブラシを口に入れ,自
分で磨いていた。母親が「しっかり磨けているよ」
度,故意に頭をぶつけた。その後もこのような再
と言うと,Mは「ジョウズ」と言った。この時,
現行為が何度か観察された。
身ぶり動作は伴っていなかった。
(後期)
観察12(1歳4カ月18日);ザリガニが入れてあるバケツ
観察7(1歳3カ月24日);ネジを巻いて歩くアヒルが倒
に自分の持っていたジョウロをつっこもうとした
れる様子を見て,床に2度頭をぶつけて,アヒル
ので,母親が「ザリガニさんにぶつかるよ」と言
うと,Mは「ゴッツン」と言いながら自分の頭を
を見た。
観察8(1歳4カ月10日);イスに座って自分で牛乳を飲
叩いた。
発達心理学研究第7巻第1号
2
6
観察13(1歳4カ月18日);父親と母親が話をしているの
の関係を検討する前に,まずMにおいて2語発話はいつ
を隣でMは聞いていた。会話の中に,近所の子ど
ごろから始まったかについて簡単に押さえておきたい。
もの名前と,Mの従兄弟の名前が出てくると,す
Mが2語で表現し始めたのは,1歳3カ月8日の「マッ
かさず「カーイーナ」と言葉のみで表現した。
ク,バー(祖母が使った枕)」が最初である。その後新た
観察14(1歳4カ月24日);家でMが昼寝中,父親が帰宅
に出現した2語以上の多語発話の数は,1歳3カ月台に
した。目を覚ましたので母親が,「パパがケーキを
5,1歳4カ月台に23,1歳5カ月台に48であった。本
買ってきてくれたよ」と言うと,Mは「パクパク」
研究での後期になって多語発話が急増していることがわ
と言い,続いて「オイシイ」と言って,台所に行っ
かる。
た。この時身ぶり動作は伴っていなかった。
観察10,11,12は,実際に目の前で起こっていること,
次に,山田(1982)は身ぶり動作ごとの分析は行って
いなかったため,本研究では身ぶり動作別に,音声言語
自分が実際に行っていることに関係しており,厳密に言
が伴うようになった時期,音声の単独使用が始まった時
えば,大人の音声言語の理解だけによって生じた反応で
期,2語以上の多語発話(音声言語2語以上により構成
はない。しかし,大人の言葉に対して,自分なりの表現
されているが身ぶり動作が伴っている場合もある)が出
で反応したという点で,ここで挙げた5つの観察は共通
現した時期をそれぞれ調べた。
している。その場合のMの反応の表現形態は,観察10と
対象を表示する身ぶり動作については,多くはその対
12では音声言語と身ぶり動作の両方,観察11,13,14で
象の名を含む2語発話出現以前に,音声の単独使用が始
は音声言語のみであり,いずれにせよ身ぶり動作単独の
まっていた。身ぶり動作で表現していたものが音声の単
表現ではなかった。
独使用を始めるようになった時期は,シンボルによって
(3)節と比べ合わせてみると,最初に身ぶり動作を獲得
異なるが,Table2では1歳3カ月後半に始まり,1歳6
した実践活動の場面から離れた文脈で音声言語での表現
カ月後半にはすべて音声のみの表現となった。時期的に
が出現してくる過程が観察された。これはどのように解
は,多語発話の増加の時期と,音声の単独使用が増加す
釈したらよいのだろうか。
Wemer,&Kaplan(1974)は,身ぶりによる表示活動
る時期は一致しているが,シンボルごとの両時期の対応
関係は明らかにならなかった。
が自律的媒体となるのを妨げる要因を3つ挙げている。
しかし,事象に関連した状況を表す身ぶり動作では,
まず,身体運動は本来は実践活動で用いられるもので自
日常的観察から3つの時期の関係を調べることができた。
在には表示活動に利用できない。次に,身ぶりは指示対
ただし,観察期間中には音声が加わらなかった2つの身
象や相互の関係を大雑把にしか規定できない。最後に,
ぶり動作(「ハイハイ」と「くすぐり」を表すもの)は除
これが最も重要だが,実践活動に巻き込まれない,正確
外した。
に内容を描出できる言語媒体の発達が挙げられる。
Wemer,&Kaplan(1974)の考えで上記の事実をある
程度説明できる。音声言語は,表現する内容が実践活動
結果はFigurelに示したが,次の4つのタイプに分か
れた。
Aタイプ;身ぶりに音声が加わってすぐ音声の単独使
から離れていく過程で出現してきたわけで,まさしくそ
用が始まり,15日以上して多語発話が出現
のような場合にふさわしい表現媒体であると言えるだろ
するもの。「イヤ」など3種類。
う。一方身ぶり動作単独では,その身ぶり動作を獲得し
Bタイプ;身ぶりに音声が加わってから15日以上共存
たもとの文脈から離れた場面での表現には用いられなかっ
するが,多語発話になると同時に音声の単
た。手話言語のような高度に記号化された身ぶりでは事
独使用が始まるもの。「抱っこ」など6種類。
情は異なるだろうが,本研究で取り上げたシンボル形成
cタイプ;身ぶり動作に音声が加わった時と音声の単
初期に登場する身ぶり動作は,「問題」で述べたように,
独使用が始まった時と多語発話が始まった
獲得は音声言語に比べると容易であるが,実践活動に結
時の3つの時期が接近している(最初から
びついているがゆえに,そのままの形で自律的表現媒体
最後まで15日以内)もの。「かわいい」など
として発達することは困難であると言えるだろう。
(5)日常的観察における多語発話出現と表現形態の変化の
関係
それでは次に,音声言語の出現後,音声の単独表現が
優位になるまでの過程を詳しく調べてみる。
5種類。
Dタイプ;身ぶりに音声が加わり,多語発話も見られ
るが,観察期間中には音声の単独使用が始
まらなかったもの。「ジャンプ」など4種類。
Aタイプの3種類の身ぶり動作は,いずれも身ぶりの
山田(1982)は,要求一拒否表現の観察から,音声言
内容は実践活動とは直接関係がない。それに対して,B,
語が優位になるのは2語発話が出現する頃であることを
C,Dのタイプの身ぶり動作は,「バイバイ」,「ありがと
指摘した。ここで身ぶり動作の脱落と2語発話の出現と
う」以外は,実践的活動または視覚的特徴を映像的に表
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
2
7
−
。
A2上手
"へ
△○一
、望
△−○
○
Q◎
◎
△
B2バイバイ
−ぐ︲凶
○◎
△ −
B3ネンネ
◎
○◎
A3いただきます
Bl抱っこ
l
△○
Alイヤ
l
l
l
l
l
l
l:1(0)1:2(0)l:3(0)l:4(0)1:5(0)l:6(0)1:7(0)
−
C◎
△ −
○◎
△ −
B5書く
○◎
△
34
1且
'層
B
4
回
る
j6
B
6fぶ つ か る
△
Clかわいい
△○◎
C2どうぞ
△○一◎
C3おいしし、
△○◎
△−
○◎
△○一◎
C4ありがとう
C5長い
D1ジャンプ
"へ
△
△◎
、望
△◎
D2飲む
D3走る
D4叩く
△
Figurel音声の単独使用の始まりと2語発話の始まりとの関係
(△は身ぶりに音声が加わった時点,○は音声の単独使用が始まった時点,◎は2語発話が始まった時点)
現しており,具体的文脈との結びつきが強い。なお「バ
発話が始まった当初から複数の対象名と結びついた。こ
イバイ」と「ありがとう」を表現する身ぶり動作は,実
のように語と語とが状況に応じて新しく結びつくように
践的活動ではないが大人もよく行う身ぶり動作であるた
なってくると,対象と具体的な行動の文脈で結びつきや
め,音声が加わった時点ですぐには身ぶりが脱落しなかっ
すい身ぶり動作を用いることは,対象と動作との柔軟な
たと考えられる。
結びつきを阻害することになると考えられる。このため
Dタイプの身ぶり動作では音声の単独使用は観察され
なかったが,Acredolo,&Goodwyn(1985)らの観察例で
2語発話になるのをきっかけにして身ぶり動作が脱落し
たのではないだろうか。
「大きい」と「熱い」を表す身ぶり動作において音声言語
第2の理由として,同時にいくつかのことを行う場合,
との共存が長く続いたことと共通しているように思われ
重要でない行為が脱落したとも考えることができる。即
る。これらの身ぶり動作は,実践活動で用いられた行為
ち,2語,3語を関係づけて表現する場合,そのうち1
や対象の視覚的状態を映像的に表象しているため,身体
語が身ぶり動作と音声言語の両方で構成されていると,
の動きとして実行しやすく,音声言語が出現してもすぐ
表現が複雑になる。従って,身ぶり動作の方が脱落した
には消失しなかったのだろう。
のではないだろうか。なぜなら,第1の理由から,身ぶ
しかし,Bタイプの場合は,2語,3語発話になるこ
り動作の方が補助的な役割を担っていたと考えられるか
とと,音声の単独使用が始まることとが時期的に重なっ
らである。おそらくこの2つの理由によって,多語発話
ていた。3つの時期が重なったCタイプも合わせると,
の発達と同時にBタイプCタイプの身ぶり動作は姿を消
17例中11例で,多語発話になることと音声の単独使用が
していったのではないだろうか。
始まった時期が接近していたことになる。Aタイプの身
ここで取り上げた身ぶり動作の多くのものは,対象の
ぶり動作とは異なり,具体的文脈との結びつきが比較的
状態や動作を映像的に表現していた。従って,多語発話
強いと考えられるこれらの身ぶり動作は,なぜ多語発話
では,主部ではなく,状態や動作を表す述部の表現に関
が出現した時点で脱落していったのだろうか。
係していた。状態や動作の表現については,このように
その理由としては次の2つが考えられる。第1の理由
最初身ぶり動作で表され,多語発話になると同時に音声
は,2語発話では語と語とが関係づけられており,対象
での表現に移行するものが多いのであろうか。それとも,
名とそれに関係する動作とは分化している。例えば,「か
最初から身ぶり動作は伴わないで,音声で表現を行う場
わいい」を使った2語発話では(2)で示したように,2語
合も多くみられるのだろうか。
発達心理学研究第7巻第1号
2
8
期は,音声言語と同様に身ぶり動作も対象を代表する重
Table4状態・動作を表す表現
状態・動作を表す 状態・動作を表す
新出の音声言語
0003334
月月月月月月月
力カカカカカカ
0123456
歳歳歳歳歳歳歳
1111111
年 齢
新出の身ぶり動作
2
2
4
3
2
1
1
要な手段であった。また大人の模倣によらない自発的獲
得も始まるが,そこでMが自ら用いた身ぶりは,Acredolo,&
Goodwyn(1985)の研究と同様に,対象の機能的属性に
関係していた。ここでの機能的属性とは,対象の形態で
はなく,対象に対する行為や対象の行う動作のことであ
る。例えばMはペンギンのことは身体を左右に振るとい
う身ぶりで表したが,それはペンギンの歩く様子を表現
していた。
野崎(1988)は,9,10カ月児が,対象を選択する際
に「つかみやすさ」など,自分がそれに対して行った動
作を基準にする傾向があることを示し,Gibson(1985)
状態・動作の表現における身ぶり動作と音声言語の使
のアフオーダンス理論に関係づけた。本研究ではさらに,
用を比較するためには,身ぶり動作を伴わない状態・動
対象を身ぶり動作で代表させるという命名行為において,
作を表す語はいつ頃より出現したかについて調べなけれ
自分の行った動作や対象の行った動作が用いられること
ばならない。そこで,次に身ぶり動作を伴わない状態・
を示した。Nelson(1974)は,初期の概念形成において
動作を表す語の発達を問題にしてみる。
機能的属性が核となることを主張したが,前期に出現し
(6)身ぶり動作を伴わない音声言語の発達
た身ぶり動作による命名はAcredolo,&Goodwyn(1985)
最初から身ぶり動作を伴わない音声言語のうち,対象
の観察と同様に,この主張を裏付けるものである。
を表すものについては,1歳0カ月よりシンボルとして
佐々木(1994)は,Gibson(1985)が視知覚の領域で
の使用が観察された。従って,対象の名前を言うことは,
提唱したアフォーダンス理論は,「言語」にも応用可能で
身ぶり動作または音声言語で共に早い時期から行ってい
あることを指摘している。本研究で得られたデータはこ
たと言える。しかし,状態・動作を表す音声言語は,1
の問題を論じるのに十分ではないが,子どもが自分の行っ
歳3カ月10日になって非存在を表す「イナイ」がようや
た動作との関係で対象を自発的にシンボル化した点は,
く出現し,その後徐々に増えてきた。Table4で,その出
アフォーダンス理論をシンボルの領域で論じることが可
現の経過を状態・動作を表す身ぶり動作と比較してみる。
能であることを示唆している。
その結果,最初に出現した身ぶり動作による状態・動
後期になると,新しく獲得された身ぶり動作は,対象
作の表現は,1歳0カ月1日の「寝ること」を表す身ぶ
を命名する手段にはならないで,多くは音声言語を伴い
り動作であった。そして,1歳2カ月までは,状態・動
ながら,状態や動作を表す手段となった。もちろん模倣
作については身ぶり動作での表現しか見られなかった。
による獲得の場合は教える大人の側の変化と言うことも
1歳3カ月から音声言語単独で状態・動作を表現するこ
できる。しかし自ら創り出したり,感覚運動的行動から
とが始まり,しばらくの間は身ぶりと音声の両方の表現
身ぶり化する場合においても,前期では対象を命名する
が出現した。やがて,1歳6カ月以降,音声のみの表現
機能を持つ身ぶり動作が見られるのに対し,後期ではもっ
が急増した。このことは,状態・動作の表現では,まず
ぱら状態や動作を表す手段となった。また1例だけだが,
身ぶり動作の方が早く出現し,音声での表現はそれより
前期は対象を表す手段だった身ぶり動作が後期に状態を
3カ月も遅れて出現するが,対象の名前を言う際に音声
表す身ぶり動作に般化するということも見られた(「キリ
言語が優位になる頃,状態・動作の表現でも音声言語が
ン」を表す動作が「長い」を表すようになった)。
急増することを表している。
この前期と後期における身ぶり動作の機能の相違は,
文構造の発達と関係していると思われる。即ち,前期は
まとめ
本研究で見いだされた点についていくつか整理してみ
る
。
ほぼ1語発話の段階に相当し,主部と述部は表現上は未
分化である。未分化であるがゆえに,対象を表示する動
作で対象を代表させることが可能だったのだろう。しか
まず,前期(11カ月後半∼1歳3カ月前半)と後期
し,そこから主部と述部が分化し,2語発話が生み出さ
(1歳3カ月後半∼1歳6カ月後半)との間で身ぶり動作
れる過程で,身ぶり動作はもともと行為と結びつきやす
の質的な変化が観察できた。
いことから,身ぶり動作が特に述部の表現を担うように
前期には,シンボルとして身ぶり動作が用いられるよ
うになり,対象を命名する機能を持つ身ぶり動作もそれ
以外の身ぶり動作も,共に多く出現した。従ってこの時
なったと考えられる。
以上,前期と後期の違いを,身ぶり動作の種類の違い
から整理したが,身ぶり動作や音声言語の表現が生じる
初期シンボル化における身ぶり動作と音声言語との関係
2
9
文脈の変化から,前期と後期の違いを見い出すこともで
手話言語を特に教えられない場合に,自発的に身ぶり動
きた。対象を表示するのではなく,事象に関連した状況
作を発達させていく過程を観察した。その結果,10名の
を表す身ぶり動作のいくつかのもので,後期になって,
子どもすべてが何らかの形で身ぶり動作を組み合わせて
文脈が広がってきたり,大人の音声言語が作る文脈への
複雑な文を作成していた。ここから,身ぶり動作であっ
反応が出現したりした。これらは,身ぶり動作獲得時の
ても,大人の模倣だけにとどまらず子どもが自発的に作
実践的文脈からの離脱を意味しており,それと同時に音
り出していくことで,音声言語と同じように構造のある
声言語が身ぶり動作につけ加わったり,取って変わって
文を形成することができることがわかる。この自発性を
いったことは興味深い。音声優位体制が生じる前提条件
支えているのは,子どもたちの持つコミュニケーション
として,文脈の変化に注目することが重要であることが,
欲求と外界の事象を表現することへの志向性の強さであ
ここから示唆される。
る
。
次に,身ぶり動作が音声言語を伴っていた状態から,
健聴の子どもの場合,周囲の大人の話す音声言語にさ
音声単独の表現になっていく過程を詳しく観察すること
らされて,ある時期以降急速に音声言語を学び用いるよ
ができた。日常的観察では,一部の身ぶり動作,特に状
うになっていく。しかし,本研究が示唆するように,シ
態・動作を表す身ぶり動作において,2語発話,3語発
ンボル形成の初期に,具体的状況に結びついて生き生き
話の出現と同時期に,身ぶり動作が脱落して音声言語単
と事象を表現することのできる身ぶり動作が果たしてい
独表現になる傾向がみられた。これらの身ぶり動作では,
る重要な役割も看過することはできない。
多語発話になるのを直接的な契機として,音声単独の表
文 献
現が開始したように思われた。
そして,設定場面の観察では,大人の命名をうまく模
倣した対象名の表現が,音声が優位になる過程で増加し
た。従って,音声の文構造や音声による命名表現が整っ
Acredolo,L.P.,&Goodwyn,S、W,(1985).Symbolic
gesturinginlanguagedevelopment.H”za7zDeUeZ‐
oPme7zt,28,40-49.
てくると同時に身ぶり動作は姿を消していったと言うこ
Bates,E、,Thal,,.,Whitesell,K、,Fenson,L、,&Oakes,
とができる。Werner,&Kaplan(1974)が言うように,
L、(1989).Integratinglanguageandgestureininfancy,
音声言語媒体の発達が身ぶり動作が自律的媒体になるの
を妨げる重要な要因であると考えられる。
ただし,身ぶり動作は,文の構成に否定的役割しか果
DezノeZQpme7ztaZ没sychoZQgyウ25,1004-1019.
Bonvillian,』.,Orlansky,M,,.,Novack,LL.,&Folven,
RJ.(1983).Earlysignlanguageacquisitionand
たさないのではない。むしろ,シンボルが発生して音声
cognitivedevelopment、InRogers,,.,&Sloboda,』.A・
言語が優位になるまでの過渡期の時期に,身ぶり動作は
(Eds.),TheacquisitjbnofSymbo此sMノS(pp、207-
重要な役割を持つことを強調したい。状態・動作を表す
214).Chicago:Plenum・
表現では,音声言語よりも身ぶり動作の方が3カ月も早
Gibson,JJ.(1985).生態学的視覚論:人の知覚世界を探る
く出現した。多語発話の時期にいたってようやく音声に
(古崎敬・古崎愛子・辻敬一郎・村瀬晃,訳).東京:
よる表現が急増していったのであるが,このことは,シ
サイエンス社.(Gibson,』.』.(1979).TheecoZQgicaZ
ンボル形成の初期には身ぶり動作が動作や状態を具体的
aPPγoachto‘zノメs"α/Pe7℃"伽7z・Boston,Massachu‐
に表象することで,動作や状態のシンボル化を助けると
setts:HoughtonMifflinCompany.)
いう役割を果たしていることを示唆している。先に述べ
Goldin-Meadow,S、(1993).Whendoesgesturebecome
たように,Goodwyn,&Acredolo(1993)はシンボル使用
language?Astudyofgestureusedasapr1mary
の開始時期について,身ぶり動作が音声言語に先行する
communicationsystembydeafchildrenofhearing
理由を4点挙げていた。そのうち,身ぶり動作の映像性
parents・InGibson,K、R、,&Ingold,T、(Eds.),TboZS,
や感覚運動的行動から拡張しやすいという特‘性は,ここ
Zα"g"ageα"dcOg"/"o刀加加77za7zeUo加加(pp,63-
で動作・状態の表現において身ぶり動作が音声言語に先
85).NewYork:CambridgeUniversityPress・
行する理由にもそのまま当てはまるのではないかと考え
られる。
最後に,本研究では多語発話になることと音声優位体
制の確立との関係を指摘したが,これはあくまで音声優
位の表現体系にさらされている健聴の子どもの場合に見
Goodwyn,S、W,&Acredolo,L.P.(1993).Symbolic
gestureversusword:Isthereamodalityadvantage
foronsetofsymboluse?Cノz〃dDezノeZQP77ze7zt,64,6887
0
1
.
Holmes,KM.,&Holmes,,.W・(1980).Signedand
いだされる関係である。Goldin-Meadow(1993)は,健
spokenlanguagedevelopmentinahearingchildof
聴の親によって育てられた耳の聞こえない10名の子ども
hearingparents、Sjg〃Lα"g"αgeSt”jes,28,239-254.
が,AmericanSignLanguage(ASL)のような体系的な
Karmiloff-Smith,A・(1992).BeyoM77zo血ZαγjZy:A
3
0
発達心理学研究第7巻第1号
dezノeIQp77ze"taZPe7spec〃てノgo刀cQg7zi〃てノesae刀Ce、
Cambridge:TheMITPress・
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i
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i
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v
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付記
本論文を作成するにあたって貴重な御助言をいただきました
京都女子大学教授岡本夏木先生,島根大学助教授村瀬俊樹先
生に心よりお礼を申し上げます。
戸田デザイン研究室.
Takai,Naomi(AshiyaUniversity)&Takai,Hiromi(ShoinJuniorCollege)The此Zat伽sノカjPMzUee7z
Gest塑花α耐VbcaZLα"g幽age/〃EarZySymM加t伽THEJAPANEsEJouRNALoFDEvELoPMENTAL
PsYcHoLoGYl996,Vol,7,No.1,20−30.
Thisstudyexaminedhowonechildusedgesturesandvocallanguageindailylifeinthesecondyear
ofherlife・BefOreshewas15.5monthsold,thegirlusedbothgesturalandvocallanguagetoname
objects・But,afterthattimegestureswerenolongerusedalonefbrnammglnsteadshealsoindicated
vocallythestateoftheobjectandtheactionontheobject・Atthissameage,thegirlappearedto
usegesturallanguageindifferentcontextsthanpreviously・Thissuggestsarelationshipbetween
decontextualizationandthetransitionfromgesturaltovocallanguage・Mostofhertwo‐orthree-word
utterancesaboutstatesoractionsoccuredatalmostthesametimeaswhenshebegantovocalize
withoutgestures・Thisimpliesthatasgesturallanguagedisappears,thestructureofsentencesbecomes
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.
【KeyW0rds】Languagedevelopment,Psycholinguistics,Gesture,Symb0lizatiOn,Dec⑪ntextuali‐
zation,Two-andthree-w0rdutterances
1995.2.28受稿,1995.10.2受理
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,31-40
子どもの発達と母子関係・夫婦関係:幼児を持つ家族について
数井みゆき無藤隆園田菜摘
(茨城大学)(お茶の水女子大学)(お茶の水女子大学)
本研究の目的は,子どもの発達を家族システム的に検討することである。家族システムの3変数として,
子どもの愛着,母親の認知する夫婦関係,母親の育児ストレスをとりあげている。対象者は,48組の母子
で,子どもの平均年齢は3.4歳であった。子の愛着の安定性には,夫婦関係の調和性と親役割からのスト
レスとが関連していた。特にこの2つの変数の交互作用の要因が有意で,親役割からのストレスが高くか
つ夫婦関係が調和的でないときに,その子の愛着がもっとも不安定に予測された。また,社会的サポート
は親役割ストレスを低くする方向で関連していた。さらに,家族関係の機能度という視点より,柔軟性が
適度に保たれている家族は,家族システム的にも良好であった。母親の心理的状態や子どもへの行動・態
度は,夫との関係のありようと密接に関連しているという結果であり,子どもの心理的状態を研究する上
で母親ばかりではなく父親(夫)との相互作用・関係を考慮にいれなければならないことを示唆した。
【キー・ワード】夫婦関係,親役割ストレス,愛着の安定性,幼児
問題と目的
乳幼児の発達研究,特に母子関係を扱う研究では,そ
有能感を高めること(Shea,&Tronick,1988)に役だっ
ている。そして,そのような調和的で協力的な夫婦関係
であると,子どもの愛着が安定的に発達するという結果
の字が示すようにまさに「母親」と「子ども」という二
もでている(Belsky,1984;Belsky,&Isabella,1988;
者でのかかわりを扱うことが圧倒的に多かった。それは,
Goldberg,&Easterbrooks,1984;Howes,&Markmann,
乳幼児愛着研究において特に顕著であり,乳幼児の愛着
1989)。逆に夫婦間での葛藤が強かったり,夫からのサポー
の安定性の決定要因として「母親のかかわり方」が重視
トが少ないと,一般的に母子関係の状態がうまくいかな
され続けてきた。しかし,特別な状況の家庭を除き,普
いという報告もあった(Christensen,&Margolin,1988;
通は乳幼児は家族の中で母親以外の構成員のいる環境で
Engfer,1988;Rutter,1988)。夫婦間での敵意・葛藤は,
育っているわけであり,乳幼児のよりよい発達において
威圧的で,効果的ではない育児の仕方に関連し(deBrock,&
母親だけを最重要な決定要因とみなす方が無理があるの
Vermulst,1991),子ども自身の問題行動を導き出す要因
ではないだろうか。例えば,柏木・若松(1994,p、72)が,
となっていた(Katz,&Gottman,1993)。さらに,日本に
「変化しつつある今日の家庭と子育て状況についての現実
おいて,家族社会学的な視点から,牧野(1982)は夫が
認識の甘さ,家庭はシステムであり母親の心理・行動は
育児を手伝うということよりも,夫婦としてどうである
他の家族成員とりわけ夫(父親)のありようと密接な棚
のかということに対する母親の認識が,母親自身の感じ
互作用を持つという視点の欠如,母親の絶対的重要‘性に
ている育児不安の状態と関連していることを報告してい
ついて十分な証拠を欠いた過度の信念,そしてデータの
る。まさに,母親の心理や行動には,柏木・若松(1994)
とり易さという研究者の怠慢,等……」(下線部分は筆者
らの指摘するような夫のありようが密接に作用している
による)と問題提起している。このことは,家族療法家
ことが窺えるし,さらに,子どもの発達は「家族」とい
(例えば,Minuchin,1985;鈴木,1991)や家族社会学者
う人間関係のあり方のただ中で起こっているものと言え
(例えば,落合,1994)が早くから指摘してきたにもかか
よう。
わらず,日本における発達心理学的研究ではそのような
視点を欠いてきた。
しかし,ここで注意しなければならないのは,家族シ
ステムの視点から考えると,夫婦関係の良好さが,すべ
主に欧米の研究より,夫婦関係の状態が親の子どもへ
てに良く働くのではない可能性があるということである。
の関わり方や,子どもの発達・適応状態へ影響を与える
Engfer(1988)は,夫婦関係と母子関係の関わりについ
ということが報告されている。例えば,夫婦関係の良好
て,4つの仮説を示している。第一は,夫婦関係が良け
さ,満足度からの愛情的・情緒的なサポートは,日常的
れば(悪ければ)母子関係も良い(悪い)という仮説,
なストレスを解消・減少させ,母親としての自尊感情や
第二は,夫婦関係が悪ければ,それを補う目的で愛'情を
3
2
発達心理学研究第7巻第1号
子に注ぐ補償型,第三は,子どもとの関係が良ければ(悪
て検討することで,家族システム的な立場より子どもの
ければ)夫婦関係も良い(悪い)という子から親への影
発達に関する考察を行うことを目的としている。なお本
響型,第四は,夫婦関係も子どもとの関係も親の人格で
研究では家族システムを構成する主要因は,夫婦関係の
決まるとする仮説である。夫婦関係の良好さが子どもの
調和性,育児ストレス(母子関係の母親側の心理状態を
発達によい影響があるのではないかということは述べた
表す指標として),さらに,愛着の安定性(子どもの心理
が,実際,その反対の結果を支持する部分も出ている。
発達状態を表す指標として)の3つであるが,家族シス
例えば,夫婦関係が徐々に悪くなってきているという認
テムとの関連で社会的サポートと家族関係の機能度も検
識を持つ母親は,母子相互作用の場面で子に対して,肯
討する。
定的で促進的な自由遊びを行っていた(Belsky,
①夫婦関係と子どもの発達状態の検討。ここでの夫婦
Youngblade,Rovine,&Volling,1991)。また,母子密
関係は,育児とは直接関連しない,日常生活上の諸領域
着文化が顕著である日本人対象の研究(Nakagawa[KazuiL
で,夫との間でどのくらい協調的に生活が送られている
Teti,&Lamb,1992)では,夫婦関係の満足度が低い傾
かという部分と,夫をパートナーとしてどの程度信頼し,
向にある母親の子どもの愛着が,相対的に高くなる結果
認めているのかという部分とを合わせたものである。そ
があった。
れらの合計を「夫婦関係の調和性」とした。また,子ど
Engfer(1988)の4つの家族内ダイナミクスのモデル
もの発達には「母子愛着関係の安定性」という指標を用
は,一見相反する結果を予測しているようにみえるが,
いた。子どもにとって愛着が安定的に発達していること
実際には,夫婦関係と親の心理的な状態や子どもの発達
は,親との間での信頼感が育っているだけでなく,その
は,それ以外の家族を取りまく近接的な状況とも密接に
後の社会性や人格の発達を促す心の源が確保されており,
関連しているのである。例えば,社会的なサポートがそ
人間社会へ適応していく基礎が形成されていると考えら
の代表的なものであろう。Crockenberg(1981,1988)が
述べているように,母親のおかれている家族社会的な日
れる(Ainsworth,Blehar,Waters,&Wall,1978)。家
族の中の夫婦関係というサブシステムが子どもの発達に
常生活状況(社会的なサポート体制,ストレス問題,保
どのように関連しているのかを検討する。
育,育児,就業状態,等)によっても,親子の関わりは
影響されることは容易に想像できる。
②子どもの心理発達は,母親自身の心理状態とも関連
しているという可能‘性の検討。母親の心理状態を表すも
そのような状態と家族内でのダイナミクスが複雑に相
のとして,「育児ストレス」を指標にした。日本において
互作用をしている状況を考えれば,夫婦関係と親子関係
の「育児ストレス」研究は,母親の心理的状態に焦点を
も直線的な関係ではない可能性は十分にありうるであろ
当てたものが圧倒的に多く(田中,1994),母親の「育児
う。Engfer(1988)の縦断研究でも,ある一時期には夫
ストレス」の程度がどのように子どもの発達状態と関連
婦関係の良好さと親子かかわりの適応がうまくいってい
しているのかという報告はあまり多くはない(牧野,1988)。
た家族も,他の時期で,補償的な関係が浮かび上がって
さらに,子どもの発達状況も母親自身の評定によるとこ
くるなど,家族関係のダイナミクスはある一時の一面だ
ろが多く,母親の認知の状態との関連性が避けがたい(久
けでは語れないことが示唆されていた。
世,1995)と報告されている。特に,子どもの発達を視
以上のことから,子どもの発達や育児状況は,母子を
点に入れたとき,田中(1994)は育児ストレス研究のレ
取りまく家族内外の状況との相互作用の中で培われてい
ビューをふまえて,質問紙による調査結果を分析するだ
ることは確かである。特にパートナーである夫との関係
けでなく,子どもの行動発達や父子母子の相互作用を観
のあり方が,母親自身の心理へ作用するのみならず,子
察することの重要性をあげている。これらの現状より,
どもの心理的機能状態へも影響を与えている。そのよう
母親の育児ストレスが,第三者によって評定された子ど
に,家族をシステムとみなし,家族の中の1つの関係が
もの愛着の安定性と関連しているのかどうかを検討する。
他の関係にも波及するという立場は,特にアメリカでは,
③社会的サポートと家族機能度の検討。家族システム
発達心理学的研究の中でもモデル化され,実際に研究結
へ関連する項目として,友人・知人・親類などを含む「社
果が報告されている(Belskybl984;Dunn,1993;Gable,
会的サポート」を想定した。家族内外のサポート状態が,
Cmic,&Belsky,1994)。しかし,日本では臨床的な場面
家族システムと呼応しているのではないかということを
の報告からの知見は得られていても(例えば,河合,1980),
検討する。また,夫婦・親子という二者間の関係性を越
発達的な研究として夫婦関係と子どもの発達の関連性を
えて,「家族」としてはどうなのかという「全体像」を視
検討したものは,アメリカほどには存在しないようであ
野に入れるべく,「家族関係の機能度」で,包括的な家族
る。
そこで,本研究では,夫婦関係の状態と母子関係,子
どもの発達との関連性を考え,以下の3つの問題につい
としての在り方がどのように子どもの発達,母子関係,
夫婦関係へ関連するのかを検討する。
子どもの発達と母子関係・夫婦関係
方 法
被験者
東京とその近郊に住んでいる母子48組。母親の平均年
齢は33.7歳(幅:28.3∼43.1歳),父親の平均年齢は36.0
歳(幅:29.3∼44.7歳)で,幼児の平均月齢は41.3ケ月
(幅:26.0∼56.0ケ月)。男児は21名(43.8%),女児は27
名(56.2%)で,25名が第1子(52.1%),14名が第2子
(29.2%),9名が第3子(18.8%)であった。父親の学
歴は大学卒が圧倒的に多く(32名,66.7%),それ以外は
中・高卒は5名(10.4%),専門学校・短大卒・大学中退
は7名(14.7%),大学院卒3名(6.3%)で分布してい
た(1名不明)。母親の学歴は専門学校・短大卒・大学中
退(20名,41.7%)と大卒(19名,39.6%)で大半をし
め,それ以外は中・高卒は3名(6.3%),大学院卒は1
名(2.1%)で分布している(5名不明)。また,一家の
総収入は,600万から700万円の欄を平均として,300万円
台から1,000万円以上で分布していた。
手続き
協力者への最初の連絡で,子どもに関する資料は家庭
訪問による観察で,母親及び家族に関する資料は質問紙
法によって収集することを伝えた。その家庭訪問に先だっ
て以下の5組の質問紙を郵送し,訪問時に回収できるよ
うに,それまでに回答をし終えることをお願いした。ま
ず5組の質問紙の説明を以下に述べ,それから家庭訪問
で観察した子どもの愛着安定性の測定法の説明へ移る。
測定法
ここで使用した質問紙は欧米で作成されたものである
ため,日本人対象用として,注意を払って翻訳されてい
る(その過程の詳しい記述はNakagawa[Kazui]ら(1992)
を参照されたい)。欧米の質問紙尺度を選択した理由とし
て,特に夫婦関係の調和性に関する尺度は日本において
信頼'性・妥当性が検討された尺度があまり存在しない現
実と,以前同じ日本語版を使用したところ(Nakagawa
[Kazui]ら,1992),意味のある相関が得られているため
である。社会的サポートの質問紙に関しては,日本でも
様々な検討がなされた尺度が存在するが,ここで使用し
た尺度は特に対人関係の情緒的なサポートを強調するも
のとして,やはりNakagawa[Kazui]ら(1992)の研究
の中で使用され,意味のある関連を得ているものである。
それゆえ本研究でも翻訳された日本語版を使用すること
とした。また,育児ストレスと家族機能度の尺度は,日
本版が以下の説明通りに作成されている。
(1)夫婦関係の調和性:育児や子どもを通した関係から
見た夫との関係ではなく,日常生活のあり方からの夫婦
関係を反映する尺度として,theMarita卜DyadicAdjustment
Scale(MDAS)を使用した。この尺度は,Locke,&Wallace
(1959)とSpanier(1976)のそれぞれの質問紙から,項目
3
3
を選び作成したものである。日常生活,夫婦生活の項目
に,夫との間でどのくらいの一致があるかを報告しても
らうことが主である。例えば,「家計について」,「性生活
について」,「自分の両親,また,夫の両親との関係につ
いて」などの項目について,それぞれ自分と夫との間で
どのくらい一致するかを「いつも一致」から「いつも一
致しない」の6段階の評定が13項目と,残りの7項目は
各設問においてどのくらい当てはまるかを選んでもらう。
例えば,「もしもう一度結婚できるとしたら」という問に
対して「今の夫ともう一度する」,「他の人とする」,「結
婚しない」という選択肢がある。回答の得点化は,回答
へ割り振ってある得点を合計する仕組みである。得点の
高さは,夫婦関係が調和的であることを表す。この尺度
の信頼性・妥当性に関しては,アメリカにおいては,臨
床心理学者や精神科医による夫婦へのインタビューをも
とに区別された「幸せに結婚生活をおくっている夫婦」
と「うまくいっていない夫婦」を,この尺度が同様に判
別する能力が高いと両者によって報告されている。
(2)育児ストレス:母子関係の母親側の心理状態を表す
尺度として,関西学院ParentingStresslndex(KGPSI)
(野津,1989)を使用した。この質問紙は,子どもの発達・
成長に関する関心・心配と子どもの行動特徴に対する不
安を中心とする子ストレスと,親役割の遂行から来るス
トレスと子どもを持ったことでの生活の変化から来るス
トレスから成る親ストレスの2部から成る。子ストレス
には下位構造として子どもの行動への心配が中心の子ど
もの行動への関心度(例えば,「この子の活発さには私も
疲れはててしまう」,「この子の行動の中には,私にとっ
てとても気がかりなところがある」),さらに,子どもと
の関係での不安などの育児での心配(例えば,「この子と
私は相性が悪いのではないかと思うことがある」)の2つ
がある。それぞれ,内的一貫性(Cornbach'sα)は.85と.88
であった。また,親ストレスの方も2つの下位構造を形
成している。まず,親としての自分をどう感じているの
かを中心にしている親であることへの評価(例えば,「私
Iま親としての責任に縛られている自分を感じる」,「母親
であると共に自分の生き方も確立したいとあせりと感じ
る」)と,親になったことで直面している問題(例えば,
「子どもを持ったことで,夫の両親や親戚との間に意見の
食い違いや,問題が増えたように思う」,「夫は子どもに
あまり興味がないようである」)の2領域である。それぞ
れ,内的一貫‘性(Cornbach,sα)は,、87と.88であった。
質問は全部で94項目あり,「あてはまらない」から「あて
はまる」の5段階で評定してもらう。得点が高いほど,
ストレスが高いことを表す。野葎の報告では,障害児を
持つ親の方が,健常児を持つ親よりも,この育児ストレ
スの得点が高かった。
(3)社会的なサポート:家族内外の対人関係から得られ
3
4
発達心理学研究第7巻第1号
る情緒的なサポートを測定するために,Thelnterview
ScheduleforSociallnteractionQuestionnaire(ISSIQ)
(6)子どもの愛着の安定性:子どもの心理的な機能状態
を表す指標として,愛着の安定性を使用した。これは,
(Henderson,Byme,&Duncan-Jones,1981)を使用した。
子どもの行動を観察した後に,Qソート法で子どもの行
この質問紙は4つの下位構成からなる。①社会的相互交
動特徴を把握するものである。まず,家庭訪問で,1,
渉の相手の存在(Availabilityofsocialintegration,AVSI)
2人の研究者,助手が各家庭に出向き,母子の日常生活
がいるかどうかを,例えば「家族や友人の中で,あなた
場面を1時間半から2時間ほど観察した。母親には,そ
がためらいなく何でもうちあけられる人が何人いますか」
の時間帯にいつも行うことをしてもらうように頼んであ
とたずね,人数を回答させ,その人数によって定義して
り,その状態で幼児の観察をした。その観察をもとにし
ある点数を与える。②①での充足度(Adequacyofsocial
て,幼児の愛着の安定性をAttachmentQソート法
integration,ADSI)を,その状態が十分か不足かをたず
(Waters,&Deane,1985)で観察者が測定した。この方
ねることで把握する。③情緒的に親密な関係をつくるこ
法では,90項目からなるカードを「9点:とてもあては
とのできる対象者の存在(Availabilityofattachment,
まる」から「1点:全くあてはまらない」の9段階へ仕
AVAT)を,例えば「あなたには頼ることのできる特別
分ける作業をし,その90枚のカードをlから9の段階へ
の人がいますか」や「あなたにはあなたがとても親密に
10枚ずつ最終的に仕分ける。例えば項目35のカードには,
感じる特別な人がいますか」などの質問でたずね,「いる」
「お母さんに対して独立している。一人で遊び,遊びたい
「いない」「わからない」に回答をしてもらう。④③での
ときには容易にお母さんから離れる」という記述があり,
充足度(Adequacyofattachment,ADAT)を例えば頼
観察中にどのくらいその子がこの記述に当てはまる行動
る人がいればその人をもっと頼りたいかどうか,親密で
をしたかということを基準に,カードを仕分けする。愛
特別な人がいればその状況に満足しているかどうかを4
着研究者による「愛着のもっとも安定している子」を想
から5ほどの選択肢の中から選ぶ。それぞれの項目には,
定した仕分けの結果から各カードへの配点が決まってお
得点が定義されており,それに従って得点化し,各下位
り,その配点に対する相関の程度で,その子どもの愛着
尺度の合計点の高さが,サポートが高いことを示す。
の安定性が決まる。つまり,相関が高ければ愛着がより
Hendersonらは,新しい地域へ引っ越してきて半年以内
安定していることを示す。分析に使用する得点は,相関
の成人と,数年以上住んでいる成人の比較から,この尺
によって得られた得点をFisher,sr-to-jzの手続きで計算
度がその2つのグループの社会的サポートの特徴を明確
し直したものである。なお,観察者は,事前に第一執筆
に判別できたことを報告している。また,Nakagawa
者によるトレーニングを受け,第一執筆者との間での相
[Kazui]ら(1992)は,アメリカに一時的に居住をして
関が.75の基準に達してから実際の観察に向かった。
いる日本人のうち,半年以内のグループの方がそれ以上
のグループより,この尺度の点数が低いことを報告して
いる。
結 果
各指標の基礎的データ
(4)家族関係の機能度:家族のダイナミクスを包括的に
Tablelは各指標の平均値,標準偏差,幅を示したもの
把握するために,西出(1993)の家族アセスメントイン
である。分析にあたっては,それぞれの変数で標準化し
ベントリー(FAI)を使用した。この尺度は5つの下位尺
たものを使用する。「家族アセスメントインベントリー(FAI)」
度より成る。それらは,①家族凝集性(例えば,「私の家
(西出,1993)では,家族組織の柔軟性と家族凝集性は,
族はみんなそれぞれに,てんでばらばらな方である」),
中間域の得点が最適であるため,西出によって報告され
②家族ルール(例えば「家族で決めたことはみんなで守
ている最適得点を反映するように,合計点が高いほどそ
る」),③家族組織の柔軟性(例えば「私の家では,いっ
の機能度がよいことを示す得点へ変換の計算を行った。
たんこうと決めたことを変えるのは難しい」),④家族内
家族組織の柔軟性は得点の低さがより柔軟であることを
コミュニケーション(例えば「私の家では,みんなが自
示す得点に変換されているが,それ以外の下位尺度は,
分の考えをはっきりと口に出して言いやすい」),⑤家族
得点の高さが最適状態を示すように変換されている。育
に対する評価(例えば「私の家族は暖かく明るい感じが
児ストレスは,それぞれの下位カテゴリーをまとめたも
する」)である。それぞれの項目は,「全くあてはまらな
のを子ストレス,親ストレスとして分析の対象とした。
い」から「非常にあてはまる」までの6段階で1から6
ピアソン相関係数をもとにした子どもの愛着の安定性
点で得点化される。この尺度の信頼性(内的整合性とし
に関する本サンプル上の特徴として,愛着の安定性の得
て.66∼、88)・妥当性などは,西出によって報告されてい
点は,その子の年齢,その子の出生順位,家庭外での保
る
。
育・ケアがあるかどうかということとは関連していなかっ
(5)フェイスシートで,父母の年齢,学歴,収入,職業,
家族構成などをたずねた。
た。しかし,女児の方(M=.657)が,男児(〃=、510)
よりも安定度が高かった(Z=2.34,p<,05)。さらに,
子どもの発達と母子関係・夫婦関係
今回のサンプルの予期されなかった特徴として,結婚期
間が長いと愛着が低くなる(γ=-.31,p<、05)という相
関がでていた。これは,結婚期間が長い母親の場合,被
験児が第2,または3子である確率が高く(γ=、73,P
<,001),さらに被験児が第2または3子の場合,それが
男児である確率が高く(γ=-.43,p<,005),そして,前
述のように,男児の方が愛着の得点が低いということが
連鎖している結果と考えられる。このような特徴は,協
力者を募る段階で出生順位と性別をうまく調整できなかっ
たために偶発的に生じた状態であると推測される。
夫婦関係・育児ストレスと子どもの心理的状態
家族内のサブシステムとしての夫婦関係と子どもの発
達がどのように関連しているのかを検討するため,ピア
ソン相関係数を計算した(Table2参照)。夫婦関係の調
和性は子どもの愛着の安定性と正の相関をしていること
がわかる。つまり,育児とは直接関連しない日常生活の
諸領域で,夫と協調的に生活し,夫への信頼度が高い調
和的な夫婦関係を築いているという認識のある母親の場
合,その子どもの愛着は安定的に発達している傾向があっ
た
。
次に,育児ストレスとの関連を見てみると,子ストレ
スは愛着の安定’性と関連していないが,親ストレスは負
の相関をしている。子どもの成長や発達,子どもの行動
特徴に関する心配などに由来する母親の感じるストレス
の度合いと,その子どもの心理的な状態とは関連してい
ない。しかし,母親自身が親として抱いている欲求不満・
役割拘束感,問題の累積などからくるストレスは,子ど
もの愛着安定'性を不安定化する傾向で関連していた。
Table2より,夫婦関係の調和性と親ストレスが有意に
関連していることから,子どもの愛着の安定性はこのど
3
5
Tablel各変数の特徴
平均値標準偏差幅
夫婦関係の調和性111.8531.3145∼162
一一一一一一一−−−−ー一一ー−−−ーー−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−一一一一一一一一一一-一一ー−−−
育児ストレス
子ストレス88.2716.3958∼121
。&l
rearlng
58.4910.3436∼77
COnCemb
29.607.3618∼53
ー一一一一ーーーーーー一一一一−−−−−−一一一一一−−−−−−−一一一一一一一一一一-一一一一一−−−ー一一一−一一一一一一一=−−−
親ストレス130.9225.0186∼190
r
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l
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に
56.3311.2337∼87
p
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b
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d
74.5615.4445∼113
−一一一ー画一一一一一一一一一一一一一一■一一−−−−−−−−−−−−−−一一一−一一一一一一一一-一一-一一一一一一一−−−−一一一ー
社会的サポート
AVSIc1.04、710∼2
ADSIf
2.481.350∼4
AVATg
7.961.983∼10
ADATh
6.193.650∼12
−−−−=一一−−−ーーーー一一一一一一一一-一一一一一一一一一一一=一一一一一一一一一一一一一一−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
家族機能度
凝集性26.604.967∼36
ルール23.224.8014∼36
柔軟性16.213.999∼29
コミュニケーション25.334.3312∼36
評価26.794.388∼34
一一一一一一一ーー一一一‐ー一一一−−−−−−−−−−−−−−−−−−−一一一一一一一一一一一一一一−一−一一一一一一一一一一一−−−−
愛着の安定性、590、223-.035∼、979
a:子どもの行動への関心度;b:育児での心配
c:親であることへの評価;d:親になったことで直面している問題
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h:Adequacyofattachment
Table2家族システム変数間での相関関係
ちらか一方のみの独立的な関係から相関していると考え
夫婦関係調和性子ストレス親ストレス
るより,この2つの変数が作用し合って,子どもの心理
子ストレス
一.18
的状態と関連している可能性が高いのではないかと推測
される。それを検討するために,子どもの愛着の安定性
を基準変数とし,夫婦関係の調和性,親ストレス,夫婦
関係の調和性と親ストレスとの交互作用の3つを説明変
数とした階層重回帰分析を行った(Table3)。なおこの際
に最初に結婚期間をコントロールした。それは,前述し
親ストレス
−.70***
たように結婚期間が長いと愛着が低くなる(γ=-.31,p
<、05)という特異性をコントロールする目的で,結婚期
間の長さを第一の変数として入力した。その上で,その
他の説明変数の寄与が依然有意であれば,その他の説明
変数は愛着安定‘性へ影響する要因と考えられる。
愛着の安定性
、
2
0
、
3
5
*
*
-.32*
−.07
*:P<、05;**:p<、01;***:P<、001
Table3基準変数を愛着の安ノ定性とし,説明変数を夫婦
関係の調和性,親ストレス,その2つの交互作用と
し,最初に結婚期間をコントロール変数とした階層
重,回I帰分析(HIemr℃hたaノRegressjbnAna」【ysisノ
基準変数:愛着の安定性
FMult,RR2Betadf
説明変数
分析の結果,夫婦関係の調和性,親ストレス,夫婦関
係の調和性と親ストレスの交互作用の3つの説明変数す
5.20**
、
3
6
、
1
2
一.35
1,46
2.夫婦関係の調和性 5.08**
.
4
5
.
2
1
.
3
3
2,45
べてが,基準変数である子の愛着の安定性と有意な関係
にあった。前述同様,夫婦関係の調和性と親ストレスは,
3.親ストレス
.
4
9
.
2
3
−.27
3,44
4.2と3の交互作用 3.78*
.
5
1
.
2
6
.
1
6
4,43
愛着の安定性と関連していた。
1.結婚期間
4.60**
*:p<、05;**:p<,01
発達心理学研究第7巻第1号
3
6
Table4社会的サポートと家族システムの変数との相関
関係
L−−L:親ストレス:低
社会的サポート
AVSIADSIAVATADAT
家族システム
LH
−
2
6●
4●224
●6
●●
●0
●8
●●
1
1
夫婦関係の調和性
、
1
3
、
5
0
*
*
*
、
2
7
*
、
3
8
*
*
親ストレス
−
.
2
1
−
.
3
5
*
*
一・52***
−.47***
子ストレス
−.10
一.11
−.09
−.15
.
0
5
.
2
2
.
1
6
.
1
1
愛着の安定性
*:p<,05;**やく.01;***:p<、001.
0−一一
重回帰式より計算された愛着の安定性
H−−−H:親ストレス:高
Table5家族関係の機能渡と家族システムの変数との相
関関係
家族関係の機能度
凝集性ルール柔軟性昌謁ラケ評価
夫婦関係の調和性
Figurel階層重回帰分析の予測式をもとに,親ストレ
スと夫婦関係の調和性との交互/1自用から計算さ
れた子の愛着の安定性の得点
家族システム
夫婦関係の調和性
、
6
7
*
*
*
親ストレス
.
6
2
*
*
*
子ストレス
-.13
愛着の安定性
.13
81
521
0
1
●●1
●●
良
悪
-.52***、52***、57***
、59***-.55***-.56***
、20−.12-.13
-.25*、11、18
*:p<,05;***:P<、001.
さらに,夫婦関係と親ストレス間の交互作用が有意で
あった。そのため,その交互作用の方向‘性を知るため,
この重回帰式から得られた標準偏回帰計数をもとに,親
ストレスと夫婦関係の調和性の得点において1偏差上を
であり,親役割の欲求不満などのストレスが少ない傾向
高群,1偏差下を低群として分け,その2つの変数の相
互作用の関係を図式したものがFigurelである。夫婦関
係の調和性が良好ではなく,かつ,親役割からくるスト
レスが高い状態で,子の愛着の安定性がいちばん低く予
測された。また,親ストレスが高くても夫婦関係が調和
的であれば,子の愛着は安定的に予測された。親ストレ
スが低ければ,夫婦関係の調和性は子の愛着の安定性の
状態には関連しないと予測された。つまり,この結果か
ら,調和的に築かれている夫婦のパートナーシップは,親
役割からくるストレスの度合いと作用しあいながら,子ど
もの心理的な機能状態に関連していることがわかった。
家族のコミュニケーション,凝集性,家族に対する評価
が,夫婦関係の調和性と正の相関をし,柔軟性が負の相
家族システムへ関連する要因
ていた。さらに,家族が適度に柔軟に機能していること
家族内外のサポート状態と家族システムの関連を検討
するため,ピアソン相関係数を計算したところ(Table4
参照),社会的サポートのうち,社会的な相互交渉での充
足度,情緒的に親密な関係をつくる対象者の存在,また
そのような関係での充足度と,夫婦関係の調和性は正の
相関をした。また親ストレスは,同じ3つの変数の間で
負の相関をしているが,子ストレスと子どもの愛着安定
性とは関連していなかった。友人,知人,親類などと適
度に社会的な相互交渉があり,信頼できる他者が存在し,
その関係での満足感が高い母親は,夫婦関係でも調和的
が,子どもの愛着の安定性と関連していた。
であった。
次に,家族ダイナミクス的な特徴から家族システムを,
ピアソン相関係数から検討した(Table5参照)。まず,
関をしていた。次に,育児ストレスでは,子ストレスは
どの変数とも相関していなかったが,親ストレスは,コ
ミュニケーション,凝集性,家族に対する評価とは負の
相関をし,柔軟性は正の相関をしていた。さらに,家族組
織の柔軟性と子どもの愛着の安定性が負の相関していた。
家族内コミュニケーションが良好であること,家族組
織の柔軟性や家族凝集性が適度(中間域)にあること,
そして,家族に対する評価が高いことなどが,夫婦関係
が調和的であることと,親役割ストレスの低下と関連し
考 察
この研究は,子どもの発達は,母と子の二者だけで決
定されるのではなく,母親のいちばん身近にいる夫との
関係から特に影響されるのではないか,という家族シス
テムの視点にたったものである。子どもの心理的な状態
を愛着の安定性でとらえて,夫婦関係との関連を見たと
ころ,夫との関係が調和的に築かれていると認識してい
る母親と,子どもの愛着が安定的に発達していることが
子どもの発達と母子関係・夫婦関係
3
7
関連していた。つまり,子どもの心的な発達に「親子」
しかし,逆説的に考えれば,夫婦関係が支援的に機能
という直接的なかかわり以外の,「夫婦」という親同士の
していない場合でも,母親が親役割でのストレスを低く
関係の在り方がかかわっていることが判明したのである。
保つことができれば,子どもの心理状態の発達は悪くな
さらに,母子関係の母親側の心理的な状態を育児ストレ
らないのではないかということもいえるのではないか。
スで表し,母子関係と子どもの発達の関連を検討したと
つまり,母親が親役割ストレスに負けずにいられる方法
ころ,子どもそのものへのストレスよりも,母親が親と
を考えることである。牧野(1982)は,母親の社会的な
して抱いている欲求不満や問題などが,子どもの心の状
関わり,そこへの意味づけなどが重要なのではないかと
態と関連していた。この2つの結果を中心に,以下で考
報告している。家庭内(子どもや夫)へ生きがいをもと
察していく。
める母親が育児不安になりやすく,社会活動や学習のた
特に家族システムという視点から重要であることは,
めに外へでることなどが育児不安を軽減する役割をして
夫婦関係の状態と親役割からのストレスの要因の交互作
いた。本研究で対象となった幼児は3歳前後であり,ま
用の結果が有意であったことである。子どもの心理的な
た,牧野(1982)の報告も3歳という幼児を抱える母親
状態がもっとも良くない状況は,母親にとって親役割で
を中心としたものである。つまり,保育園やベビーシッ
のストレスが高くかつ夫婦関係が良好ではない時に予測
ター,また公民館の講座などの一時預かりなどを,乳児
された。逆に考えれば,夫婦関係が少しくらい悪くても
を持つ母親に比べて利用しやすい状況にある母親といえ
親ストレスが低ければ,子ども自身の発達への影響は,
よう。なんらかの社会的なつながりを母親が持つことが
少なくともこのデータをとった一時点の状態として,あ
できれば,親役割ストレスをある程度緩和することも可
まりないのである。夫婦関係も良くない,親としての自
能であるかもしれない。
分もしんどいというある意味では二重の苦痛状態での心
次に,家族システムと社会的サポートとの関連を見る
理的な育児状態が,子どもの発達へ影響を与えている。
と,特に信頼できる親密な他者の存在が,夫婦関係の良
この結果は2つのことを示唆する。lつめは,父親(夫)
好さや親役割ストレスの低減と関連していた。社会的サ
の存在が問われていることである。母子をとりまくいち
ポートの役割は,それを受ける人が,サポートを得たこ
ばん身近な「父親」の積極的な参加,援助,協力が,な
とで,心理的に肯定感を抱き,様々なストレスに対処し
により母にとっても,子にとってもよりよい成長・発達
やすくなり,また自分への有能感などを育てることがで
を促す『かぎ』となるのではないだろうか。アメリカを
きるものと考えられている(Cobb,1976)。ここでの結果
中心とする研究のレビューで,夫婦関係の良好さが子ど
からも,社会的なサポートは,親役割のストレスの軽減
もの発達へ肯定的に影響することを「問題と目的」の部
に関わっており,そのような他者との交流や社会的関係
分で述べてきたが,夫婦という関係に加えて父子という
は母親を支える要因の一つとなっているようである。
父親の子どもへの直接的な関わり方がさまざまな面での
しかし,社会的サポートは,子どもの心理状態へは直
子どもの発達に寄与していることも報告されている
接的には関わっていなかった。このことに関して,
(Easterbrooks,&Goldberg,1984;Kerig,Cowan,&
Crockenberg(1988)は,社会的サポートというものは,
Cowan,1993;Russell,&Radin,1983)。それゆえ,父親
親子関わりに関連してくる要因の中では,比較的変化可
の家族の一員としての意識のありようや実際の行動がも
能で,調整されやすく,またそれゆえに介入(例えば保
つ肯定的な影響を,父親自身が自覚することが重要あろ
健婦やカウンセラーなどによる)もなされやすいと報告
う
。
している。そして,ハイリスク家庭(経済問題,ドラッ
また,夫婦関係は,母親の心理状態へも関わっている
グ,十代の母親など)のようにストレスが顕著である場
わけである。夫婦関係と親ストレスが負に相関している
合には,社会的サポートの有用性がはっきりと表れやす
ことは,夫婦関係が調和的であると,親ストレスが低く
い。しかし,普通の家庭においては,母親が必要と感じ
なることを示唆している。つまり,親役割を負担に感じ
ているサポートを実際に受けているかどうかという要因
たり,自分の生き方を模索しているような母親にとって,
の方が,サポートの程度そのものよりも重要になってく
そのような自分を理解し,受け入れてくれる夫を持つか
ると述べている。つまり,今回の家庭の特徴は,日常的
持たないかで,親ストレスの度合いがずいぶんと変わっ
にハイリスクな状況にあるものではないので,社会的サ
てくることは当然のことかもしれない。実際,夫に支援
ポートは母親自身の心理状態へは有効性を発揮しても,
されていないと感じると,母親自身,情緒的に不安定に
子どもの発達自体には,社会的サポートよりも,家族シ
なったり,孤独感を持ったりする(牧野,1982)。そして,
ステムそのものがより重要に働いたのではないかと推測
夫の自分や育児への支援のなさは,さらに一層,夫婦関
される。
係の状態を低下させていっている(Levy-Shiff,1994)と
いう悪循環も考えられる。
さらに,家族システムを家族ダイナミクスの視点から
考察する。家族コミュニケーションがスムーズにとれ,
3
8
発達心理学研究第7巻第1号
家族の凝集性や柔軟性が適度に保たれ,そして家族に対
あったアメリカのサンプルの状況とここでも違いがわか
する評価が肯定的であるという状態が,夫婦関係の良好
る。これらにみられる状況の違いが,夫婦関係と母子関
さや親ストレスの軽減と関連しており,とくに,柔軟性
係の関連のパターンの結果に影響を与えたのではないだ
は子どもの愛着の安定性とも関連していた。一言でいう
ろうか。
と「風通しのよい家族」という特徴が浮かび上がるよう
本研究の育児ストレスの特徴として,子どもに関する
である。よくまとまっているものの,そのまとまりは強
ストレスがその他の心理的な指標とは関係していなかっ
制されたものではなく,状況に応ずる可変的な部分を内
たばかりか,子ストレスと親ストレスという育児ストレ
在している状態といえよう。とくに,この家族組織の柔
スの下位尺度同士でも関連していなかったことがある。
軟性というものは,柔軟度が低過ぎると統制・規制が強
子ストレスとは,子どもの成長のことが気がかりだった
くて家族員が苦痛を感じ,柔軟度が高過ぎても,きまり
り,しつけ・養育といった子どもへの関わりでの不安,
があっても守られないというようないい加減な状態にな
懸念を中心としたものである。特徴として,子ストレス
る(西出,1993)。つまり,柔軟性が中間領域にある状態
は,対象児の出生順位が遅いと低く(γ=-.41,p<、005),
の家族は,状況に応じたきまりを自然につくれたり,ま
結婚期間が長いと低く(r=-.33,p<、05),子どもの数
が多いほど低く(γ=-.338,p<,005),父母の年齢が高
たその遵守も状況によって考えられるという状態であろ
う。これを幼児を持った家族で考えてみると,性役割分
いほど低かった(父:γ=-.35,p<、01,母:r=-.28,
担を明確に打ち出すよりは,育児・子関わりの上で,父
p<、05)。つまり母親の育児経験が豊富なほど低くなって
母が適応的にやりとりをしている可能性が高いのではな
いるといえよう。
いだろうか。そして,家族のそのような雰囲気は,子ど
逆に,親ストレスが子ストレスと関連していないばか
もへの関わりの敏感性を高める作用もあるのではないだ
りか,子ストレスよりも有意に高い(t=9.78,p<、001)
ろうか。それゆえに,家族組織の柔軟性は,子どもの愛
ことは興味深い。子どものことでの悩みや不安が,親と
着安定性との関連を示したのかもしれない。
しての自分自身のストレスと関連していないわけである。
夫婦関係と愛着の安定性の関連で,今回の結果は,前
どうしてであろうか。このことと関連して,6ヶ月児を
回のNakagawa[Kazui]らの研究(1992)とは,逆の結
持つ母親を対象にした育児ストレスの研究から,子ども
果となった。こうした結果の相違をもたらした要因のひ
関連のストレスの増加が,母親関連の育児ストレスを増
とつとして,物理的に家族をとりまく状況の違いがあげ
加させているという報告がある(佐藤・菅原・戸田・島・
られると考えられる。Nakagawa[Kazui]らの研究は,
北村,1994)。本研究の結果とは一見対照的であるが,子
日本人といっても,アメリカに一時滞在している日本人
どもの発達を視野にいれると,この被験児が3歳半に近
を対象としており,その家族を取りまく状況が,日本で
いということは,何かと細かいことが気になる乳児期に
普通に生活している家族とは,かなり違うことは予想に
比べて,子どもの状態がそれほど問題として認識されな
難くない。そこから起因すると考えられるサンプル上の
くなるのではないだろうか。乳児期には,成長や病気,
特徴として,アメリカにおいて現地滞在中の日本人の方
乳を飲む.飲まない,夜寝る・寝ない,抱き癖など,独
に協力をお願いした時は,子どもや自分のことで気がか
特の状況が考えられる。子どもが成長し,ましてや保育
りなことを,研究に参加をすることを通して,研究者に
園や幼稚園などに通い出すと,そのような「生存」に関
相談するような状況があったし,せまい日本人同士のつ
わるような部分での心配などは減るであろう。しかし,
きあい上,研究に協力することが面倒であっても断れな
子どもへの関心へ心を砕く部分が減った分,自分のこと
い(知人の知人にたのまれたなど)という状況があった
へ注意が向くのかもしれない。そのため,親役割などで
と考えられる。ある意味では,日本にいたら,まずその
の悩みを抱えている人は,その部分の比重が多くなるこ
ような研究には協力しなかった人たちからの協力を得た
とが想像される。つまり,育児ストレスと一言でいって
のかもしれない。それは,例えば子どもの愛着の安定性
も,子どもの成長に伴って,その内容やストレスの比重
の得点の違いからも推測される。今回のサンプルの平均
もまた変化することを留意しなければならないだろう。
値(.59)が,アメリカで集めたサンプルの平均値(、35)
最後に,夫婦関係は父子・母子という子どもへの直線
よりも有意に高い(Z=4.38,p<,001)のである。今回
的な関係ではないが,子どもの心理的な状態と関連して
研究協力をお願いするときに,親の反応で目立ったこと
いることが示された。今まで,子どもの心理状態を母親
は,保育園,または,幼稚園に入ったばかりで,子ども
との関係へ帰することをしてきた私共を含む研究者へ,
が不安定なので,今回は見送りたいという回答が多かっ
子どもの発達を家族という文脈でみなければならないと
たことである。子が不安定な時には研究者との接触は避
いうことをこの結果は強く示唆したと考える。つまり,
けたいというところであろう。他に相談をするところも
親子関係の研究は多分に母子関係の研究であったのであ
ないがゆえに,不安定だから相談をしたいという態度で
り,この研究も母親の認識した夫婦関係という要因で,
子どもの発達と母子関係・夫婦関係
3
9
夫(父)がはいってはいるものの,直接的に夫・父が親
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子,家族としては顔を出していない。自戒を含めて,家
族・親子関係というからには,父親の変数もいれ,家族
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を1つのユニットとして扱う研究が今後の課題であると
考える。
文 献
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約集,225.
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Shea,E、,&Tronick,E、Z.(1988).Thematemalself-report
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付記
本研究は,平成5年度の安田生命社会事業団研究助成金の補
助を受けました。
assessingmatemalself-esteem・InH・EFitzgerald,B、
愛着の観察,質問紙の得点化などを手伝って下さった重村
M・Lester,&MEYogman(Eds.),乃eo7ya刀.
朋子さん,宇佐美芳子さん,徳田治子さんには,心より感謝
7弓esezzγ℃ノカノ刀6e加りわmZPedmt7向j℃s:VbZ、千(pp、
申し上げます。また,この研究を可能にして下さった母子48
101-139).NewYork:Prenum,
組の方々へは感謝の気持ちとともに,良好な夫婦,親子関係
Spanier,GB.(1976).MeasuIingdyadicadjustment:New
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2
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鈴木浩二(監).(1991).易ぞ族に学ぶ家族療法.東京:金
を願わずにはいられません。
また,白百合女子大学の柏木恵子先生,鶴見大学女子短期
大学の斎藤晃先生,島根大学の田中昭夫先生に,貴重なご助
言をいただきました。以上の皆様には心より感謝申し上げま
す
。
剛出版.
Kazui,Miyuki(IbarakiUniversity,FacultyofEducation),Muto,Takashi&Sonoda,Natsumi
(OchanomizuUniversity,DepartmentofDevelopmentalandClinicalStudies).TheRoZesq/、Mzγ伽Z
Q"αZ卿α"αP”e城7ZgSZ所essj〃Mb伽7−P花ScノzooZeγ此Zα"o"s肺s:A肋伽ZySWe?'zsPe叩ec伽e、
THEJAPANEsEJouRNALoFDEvELoPMENTALPsYcHoLoGY1996,Vol、7,No.1,31−40.
Thepresentstudyanalyzedtheassociationsamongmaritalquality,parentingstress,andmother-child
attachmentrelationships・Forty-eightmothersandtheirpreschoolersparticipated、Mothersfilledout
5questionnaires,andresearchersobservedmother-childinteractionsathomefbr2hours、Whenmothers
reportedhighlevelsofparentingstressandlowlevelsofmaritalquality,theirchildren,ssecurityof
attachmentswerelikelytoberelatedinsecurely,Inaddition,highlevelsofsocialsupportandadaptive
levelsoffamilyfunctioningwerealsoassociatedwithpositiveaspectsoffamilysystems,Matemal
psychologicalwe1-beingasweⅡastheirchildren,ssecurityofattachmentswererelatedtomothers,
relationshipswiththeirhusbands・ThesefindingshaveimplicationsfOrtheunderstandingofmarital
qualityinthecontextofparenting.
【KeyW0rds】Maritalquality,Parentingstress,M0ther-childattachments,Preschoolers
1994.11.2受稿,1995.10.9受理
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,41-51
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
大芦治岡崎奈美子山崎久美子
(倉敷芸術科学大学)(白百合女子大学)(東京医科歯科大学)
本研究は,虚血性心疾患の危険因子として知られるタイプA行動パターンの発達モデルを検討しようと
いうものである。検証したモデルは,両親の有名大学を志向する社会・文化的な価値観が子どもに対して
学習,進学に関する過干渉,過保護を主とした養育態度を生起させ,それが,子どものタイプA行動パター
ンの発達を促進するというものである。被験者は,大学生(子ども)とその両親である。子ども側には,
タイプA行動パターンに関する質問紙を,両親側には有名大学を志向する価値観の質問紙,養育態度に関
する質問紙をそれぞれ実施した。結果はパス解析を用いて分析された。仮定されたモデルはほぼ支持され
たが,子どもが男子の場合と女子の場合で若干差がみられた。すなわち,男子では母親からの影響が,女
子では父親からの影響がそれぞれ大きかった。この'性による違いを考察する中で,本研究で扱った進学や
教育に関する要因以外に様々な社会・文化的な要因が介在することが予想され,今後に検討課題を残すこ
ととなった。
【キー・ワード】タイプA行動パターン,発達モデル,両親の態度,養育態度,性差
はじめに
近年,わが国でも,ビジネスマンの過労死が社会問題
ところで,タイプAが原因となり実際に心疾患を発症
させるのは,主として,中年期以降である。しかし,
Visintainer,&Matthews(1987)によれば,児童期,青
となっているが,こうした死亡の原因の多くは,狭心症
年期に形成されたタイプAは,成人期まで持続し維持さ
や心筋梗塞といった虚血‘性心疾患によるものだという。
れる可能性が高いという。一見,タイプAは中年期以降
また,虚血性心疾患の擢病者の中に,タイプA行動パター
の健康心理学的課題と思われがちだが,このVisintanier,&
ンを示す者が多いこともよく知られている。
Matthews(1987)の指摘を踏まえれば,成人期以前にタ
タイプA行動パターン(以下,タイプA)とは,RH
イプAが発達する過程を明らかにする研究も決して無意
RosenmanやMFriedmanらによって指摘された概念で,
味ではないと思われる。
タイプAを示す者(以下,タイプA者)の特徴としては,
①達成への強い持続的欲求,②競争に対する強い執着と
ると,子どもがタイプAを発達させる過程で,両親が何
さて,国内外のタイプAの発達に関する研究を概観す
熱中,③時間的切迫感などが,知られている。タイプA
らかの影響を及ぼしていることを明らかにしようという
者は,これらのような諸特性のゆえに,普段からストレ
試みが散見される(たとえば;Kliewe喝&Weidne喝1987;
ス状態を招きやすく,心疾患の原因を醸成しているとい
Matthews,Stoney,Rakaczky,&Jamison,1986)。
われている(Friedman,&Rosenman,1982)。
心疾患は,生命に直接かかわる疾病であり,これを防
わが国では山崎(1989)が,幼稚園児とその父母を対
ぐためにも,タイプAは,予防,修正されなくてはなら
象にした研究を行っている。ここでは,幼稚園の担任に
評定してもらった幼児のタイプAと,父母のそれぞれに
ない。タイプAが獲得されたものなのか遺伝的に規定さ
実施した田研式両親態度診断検査との関係が検討された。
れているものなのかは,必ずしも全面的に明らかにされ
その結果,タイプAと診断された幼稚園児のうち,まず,
たわけではない。しかし,これまでの諸研究を総合する
男児に関して述べれば,母親は田研式両親態度診断検査
限り,遺伝的影響よりもむしろ学習によって獲得された
めざすにあたっては,その獲得,形成過程を明らかにす
の不安,溺愛,盲従の各尺度の得点が低く,父親は不安,
溺愛,態度の不一致の各尺度の得点が低かった。一方,
タイプAと診断された女児の母親は田研式両親態度診断
検査の不安の尺度得点が低かったが,父親に関しては特
ることが有効な知見となりうる。また,タイプAのよう
に差は見いだされなかった。
な行動特'性が形成,獲得されることがおそらくは数年以
上の長期に渡るであろうことを考えれば,その研究は発
大芦・岡崎・山崎(1994)の研究でも,タイプAの発
達と両親の養育態度の関係が検討された。ただ,この研
達的な研究となる。
究は,これまでの研究が幼児期,児童期におけるタイプ
可能‘性が大きいとされている(Price,1982)。タイプAが
学習によって獲得されたものならば,その予防や修正を
4
2
発達心理学研究第7巻第1号
Aの発達に焦点をあてていたのに対し,青年期を対象と
リカのような教育の機会均等が保障されている国では,
している点で,若干,形態を異にする。この研究では,
誰もが,上昇志向からより高等な教育をめざし激しい競
大学の新入生とその両親が被験者とされた。両親は,子
争となる。また,学校もこの競争に勝ち抜くための達成
どもの中学,高校時代の親子関係を回想することによっ
志向を子どもが小さいうちから身につけさせ,タイプA
て養育態度を評定した。その結果,タイプA得点の高い
を発達させる原因となっていると指摘している。しかし,
大学生の母親は,その大学生が中学,高校時代に過干渉,
これは指摘にとどまり,Priceは,具体的な実証的研究を
過保護な態度で接していたことが明らかになったが,な
全く紹介していない。また,このPriceの指摘から10年以
かでも,学業に関連する事柄で過干渉,過保護が目立っ
上たった今日に至るまで,タイプAの形成に寄与する社
た
。
会.文化的要因の1つとして教育に関する要因を取り上
ところで,タイプAの発達的研究を行うにあたって,
社会・文化的な要因の影響は無視できないものがある。
げ,焦点をあてた研究は,日本,欧米を問わずほとんど
知られていない。
Price(1982)は「自由主義経済において望ましいと考え
そこで,本研究は,この教育に関連した社会・文化的
られている社会・文化的な信念は,タイプAの発達を促
要因に焦点をあてたタイプAの発達モデルを提起し,そ
進するもっとも重要な役割を果たしている(p、42)」と述
の検証を行うこととした。
べている。また,橋本(1990)によると,現在の日本や
目 的
欧米諸国のような激しい競争社会では,社会的に評価さ
れ,報酬を得て,自尊心を満足させるためには,タイプ
ここまでの論拠に基づき,本研究の目的を述べる。本
A者の強い達成欲求や競争心は病理的なものとみられる
研究では先に紹介した大芦ら(1994)の研究を手がかり
どころか,むしろ,必要なものとされている。実証的な
とし,以下に示すようなタイプAの発達モデルを仮定し
研究としては,たとえば,Zyzanski(1978)によれば,タ
検討する。すなわち,両親が,子どもが小学校高学年か
イプA傾向と職業水準,教育水準の間には正の相関がみ
ら中学,高校時代のいわゆる受験期に「有名大学を志向
られるという。
する価値観(学歴志向)」を持っている場合,子どもに対
このようにタイプAの獲得,形成過程に社会・文化的
して「学習,進学に関する過干渉,過保護を主とした養
な要因が大きく影響していることは,明らかである。従っ
育態度」で接し,それが,「子どものタイプA」の発達を
て,その発達的研究においても,旧来の研究では社会・
促進するという因果関係を確認することである。
文化的な要因はあまり考慮されていないが,もっと大き
方 法
く取り上げられるべきであろう。すなわち,既存の研究
が示すように両親の養育態度と子どものタイプAの発達
1.被験者
に関係が見られるのならば,その関係もその両親と子ど
東京周辺の医療系国立大学1校,私立総合大学1校,
もの属する社会や文化の中にあり,何らかの形でその影
私立女子大学1校,計3つの大学の1年生(一部2年生
響下にあることを積極的に考慮する必要がある。
も含む)344名(男子195名,女子149名),および,そ
さきに,大芦ら(1994)の研究において,母親が学業
の両親(父親304名,母親337名)。ただし,このうち両
に関して過干渉,過保護な養育を行い,それが,子ども
親のいずれか片方の調査協力が得られなかった場合,回
のタイプAの発達に寄与している結果が見いだされたこ
収された質問紙に大幅な不備が見られた場合などは対象
とを紹介したが,これも,タイプAの発達における社会・
者からはずし,分析の対象にされた被験者は,子ども'),
文化的な要因を踏まえることで,より理解できるように
父母の3人すべてが揃った276組の親子となった。すな
思われる。すなわち,学歴社会といわれ,世界でも有数
わち,最終的な被験者数は,子ども276名(男子147名,
の進学競争の激しい国といわれるわが国では,両親は学
女子129名),および,その両親552名(父親276名母
歴を志向する社会・文化的な価値観を身につけ,それが,
親276名)の,合計828名となった。
特に母親の進学,学習面での過干渉,過保護を特徴とす
2.調査内容
る養育態度に反映され,子どものタイプAの発達を促し
(1)父母を対象とした質問紙
ていると考えられるからである。
学歴志向質問紙両親が身につけている社会・文化的
実は,タイプAの発達に現代社会の教育制度が関与し
な価値観として学歴志向を取り上げ,これを測定する質
ているという指摘は,すでに,Price(1982)によってな
問紙を構成した。学歴志向とは,ここでは,わが国のよ
されている。Priceは,タイプAの形成に寄与している社
うな学歴社会に特徴的な,①高い学歴を求め,名門大学
会・文化的要因の1つとして,経済的物質主義,都市化
などと共に「教育システム」を取り上げている。教育は
個人の社会経済的な上昇を可能にするものであり,アメ
l)以下,本論文では大学生の被験者を「子ども」と称するが,
これは両親に対する「子ども」という意味であり,幼児,
児童などをさすわけではない。
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
に進学することを価値あるものとする態度,②高学歴,
名門大学進学などを自分の子どもに期待する態度,③高
学歴を求め名門大学に進学する手段としての受験産業,
進学競争の存在を積極的に是認する態度,の総称として
扱う。上記の①から③の概念を表す質問文24項目を作成
し,学歴志向質問紙とした。なお,実際の評定にあたっ
て両親は,子どもが小学校高学年から中学,高校時代の
ことを回想して評定してもらう方法をとった。
養育態度質問紙両親の養育態度を測定する質問紙は,
主として,子どもが小学校高学年から中学,高校時代に
学業に関して,過干渉,過保護な養育態度を行ったかど
うかを回想的に問う質問で構成されたが,これらの項目
は以下の手続きで収集されたものである。まず,大芦ら
(1994)の研究において,子どものタイプA傾向との間に
有意な相関係数の得られた両親の養育態度項目21項目を
取り出し,これに検討を加え,一部の項目の字句,表現
を変更した。次に,先に選んだ21項目中に含まれないが
学業に関する過干渉,過保護の項目として適切な項目を
20項目ほど新たに作成した。そして,これらを,先に選
んだ21項目とあわせ検討し,文意の近似する項目などは
合併,削除するなどの修正を加えた。さらに,必ずしも
学業面に言及してはいないが過保護,過干渉を示す内容
として必要と思われる項目なども含め,最終的に39項目
を選択した。
(2)子どもを対象とした質問紙
4
3
迫感」や「食事をとる速度の速さ」などを問う質問項目
が含まれていない。従って,これらの特性を質問する項
目が多く含まれているJASのA−Bスケールを実施する
ことでこの点を補った。JASの3つの尺度のうち,A−
Bスケールのみを実施したのは,①JASは,全項目数が
44項目と多く,また,質問の形式が複雑で回答に長時間
を要し,被験者に負担をかける2),②A−Bスケール以外
の2尺度のうち,Hスケールで測定される敵意や攻撃性
は欧米人のタイプAの特徴としては顕著なものであるが,
日本人を対象とした場合タイプAの主要な特性としてあ
まり重要でないとされ(桃生・木村・早野・保坂.柴田,
1990),一方,Sスケールは,タイプA行動パターン評価
尺度の下位尺度「仕事熱心」の内容にほぼ重複すること
から,ともに省略可能と考えられる,という理由による。
3.手続き
上で紹介した父母を対象とした2種類の質問紙と,子
どもを対象とした2種類の質問紙を1つの小冊子に綴じ
たものを子どもに配布した。子どもが,これを自宅に持
ち帰り,子ども自身,及び,父母はそれぞれの該当する
箇所を記入した。記入の順序は,子ども,父母のいずれ
から記入してもよいこととし,特に指定しなかった。
なお,子ども側の2つの質問紙は現在のことについて
記入してもらった。一方,父母側の2つの質問紙は,調
査対象になっている子どもが小学校高学年から中学,高
校時代ごろのことを回想して記入してもらった。
子どもには,タイプAを測定するために2種類の質問
結 果
紙が実施された。
タイプA行動パターン評価尺度この尺度は,山崎・
大芦・塚田(1994)によって作成されたもので,①「攻撃
性を伴った話し方」(以下,「話し方」と略す。),②「敵意
を伴った仕事熱心」(以下,「仕事熱心」と略す。),③「情
動性」の3つの下位尺度から構成されている。各尺度の
項目数は,「話し方」が9項目,「仕事熱心」が4項目,「情
動性」が2項目で合計15項目である。
JenkinsActivitySurveyJenkinsActivitySurvey
(以下,JASと略す)は,タイプAを測定する質問紙とし
てもっとも広く知られたもので,①タイプA傾向を測定
するA−Bスケール,②敵意,攻撃性などを測定するH
スケール,③ものごとを過剰なスピードでこなそうとす
1.統計処理について
結果の統計処理は,すべて,統計パッケージ,PC−SAS
のRelease6、04(以下,SASと略す。)を用いて行われた。
2.学歴志向質問紙の妥当性,信頼性について
学歴志向質問紙24項目は,父母の別に因子分析を実施
した。因子分析は,SASのFACTORプロシジャにより,
主因子法,共通'性の推定値はSMCとし,バリマックス回
転を行った。SASのデフォルトの設定に従い因子を抽出
した。
まず,父親では5因子が得られた。因子負荷量が比較
的高い(、4以上)の項目を手がかりに検討したところ,
第2因子まで取り出すことが適当と思われた。最終的に
る欲求を測定するSスケールの3尺度から構成されてい
は,因子負荷量.4以上の項目のうち複数の因子に負荷し
る。本研究では,大学生用JAS(fOrm-T)の日本語版(橋
本,1981)のうちA−Bスケール21項目のみを用いた。
タイプAの測定にあたって上記の2種類の質問紙が選
ばれたのは,以下の理由による。まず,タイプA行動パ
ターン評価尺度は,全項目数が15項目と少なく,簡便さ
ない項目を取り出し,これらの項目の粗点(1から4点)
の合計点を各因子の得点とした。項目と回転後の因子負
においてすぐれており,臨床的妥当性も検討されている
(山崎ら,1994)ので採用された。ところが,この尺度に
は,旧来からタイプAの特徴とされている「時間的な切
荷量はTablelに示す。
第1因子(9項目)は,高学歴,有名大学進学などを
積極的に志向する内容の項目が高い因子負荷量を示し,「学
歴志向」の因子とした。父親の第2因子(4項目)は,子
2)予備調査で大学生数名に実施したところ全44項目を終了す
るまで約30分程度を要した。
発達心理学研究第7巻第1号
4
4
Tablel学歴志向質問紙の項目と回転後の因子負荷量
母親
父親
項
目
第1因子第2因子
1.進学競争が激しいのは,現代の社会の流れでありやむを得ないこ
3.無理に有名大学に進学するよりも,どちらかといえば,自分の趣
味にあった生き方をして欲しいと思っていた。
4.世の中に出て他人から笑われないだけの大学に進学して欲しかっ
11lrl−llJ
ひどく気になることがあった。
l8−7−9−
−3−5l3l
−5l2’6−
2.子どもが,学校や予備校などでどのくらいの成績をとっているか,
288
F﹂一・戸﹂
とだと思った。
5.親の側から見ても,進学競争の激しさには賛成しかねることが多
ていた。
と思ったことがある。
10.世間に出て納得されるだけの学歴を身につけてやることは,やは
り,親のつとめだと思っていたし,子どもにもできるだけそうし
てやった。
−.078
FZp51.000
.
2
2
1
131
L-.里9」、326
.
0
1
4
166
-.095−.072
[
二
.
亜
]
266
[二亜]p41
一.087
EZ1聖jp78
、
2
4
9
.
0
5
6
151
.195.128
060
、415、460、098
128
、147、001、153
287
[二.亜]、139‐、052
1J
一.261、004、117
035
−.238
-.194
1
2
1
−.191
.
0
5
1
078
098
012
267
、157
「ー一一一可
L
.
4
2
2
J
、
0
6
6
.154、333
|の色一
−44−
一Q竺
寺1−
1J
031
−●一
175
067
rl−lJIJ
021
●
218
●
166
086
068
059
035
●
一記−
−5−
rL
7J
●
−F。一
尺U一
丁1−
一一
rL
QJ−4垂の○
勺1弓’一戸O
068
一戸卜−.4lJ
053
360
ワム’44一nU
125
可J
●
一︵b一
一44一
rL
可J
●
lnU一
169
[
。
Z
l
堅
]
180
050
321
260
、
2
3
8
.373「
て45m
トー一一一一一一」
292
128
に従った。
22.子どもがもし大学まで進学できなかっとしても,親として後悔し
、415、251
297
局d一
宗b|
18.とにかく,最低限,知名度のある大学には進んで欲しかった。
19.中学や,高校の進学指導では,親の望んでいる学校にはとても入
学するのは難しいと思ったことがある。
20.勉強よりも,何か好きなことを身につけて欲しかった。
21.受験ということについては,世間一般に普通に行われていること
であり,特に反対することも,賛成することもなく世の中の流れ
rL
ある。
306
−2−
−6−
−4−
−●一
11.子どもの心身の健康のためにはよくないと思いながらも,ついつ
い,無理な学習塾通いをさせてしまうことがあった。
12.自分の子どもが,有名大学に入れなかったら,近所や知人や親類
の手前,やっぱり恥ずかしかっただろう。
13.仮に,近所の子どもや友達が進学塾に通うなど受験の準備をして
いるのに自分の子どもがそうしたことを何もしていなかったとし
ても,あまり不安にはならなかったと思う。
14.子どもの進学や受験のことには,はじめから関心はなかった。
15.中学,高校時代は育ち盛りだから本当は好きな趣味やスポーツに
打ち込んで欲しかったというのが本音である。
16.中学生,高校生が勉強するのは,受験や進学のためという以前に
当たり前のことだと思っていた。
17.子どもが進学競争に巻き込まれないように極力努力したつもりで
一.154
1J
9.学校の勉強だけでは親の望んでいる学校にとても入れそうにない
、039[二・亜]
−4−
同色一
戸○一
一●一
子どもにもそのように話していた。
一戸lllllllllllIIIlL
8.有名校に進学することだけが人生の目的ではないと思っていたし,
可lllllイlLLIイーlllllI︲llllllI1II−lL
7.進学競争が激しいといっても,知名度のある大学にすすめば,将
来の道も開けるわけであり,受験勉強はやむを得ないことだと思っ
●
つもりである。
rlllllL
6.大学受験に有利な中学,高校に進めるようにできるだけ努力した
−1
05
2一
−2
1−
−1
35
46
48
2一
−8
7
’
−
55
4●
6一
−●
2
●一
一2
■−
●5
●5●
074
かった。
165
万
’
一1
一6
一一
」
た
。
第3因子
第1因子第2因子
なかっただろう。
23.進学競争は,必要悪だと思っていた。
24.こんな進学競争の激しい時代に生まれた子どもを可哀そうだとし
ばしば‘思った。
125
194
136
152
139
045
000
049
12.0
寄与率(%)
6
.
7
318
[二・亜]
6
.
2
注.点線で囲まれた因子負荷量は,その項目がそこの因子に属するものとして加算されたことを示す。
どもの受験や進学に対して積極的に関わろうとしない態
分析を実施したところ4因子が得られたが,因子負荷量
度を示す内容の項目が含まれており,「子どもの進学,受
が比較的高い(.4以上)の項目を手がかりに検討する限
験に対する無関心(以下,略して「無関心」)」の因子と
り実質的に抽出することの意味があるのは3因子までで
命名した。また,各因子の信頼'性係数(Cronbachのα係
数)は,第1因子が.827,第2因子が.672であった。
一方,母親の方であるが,父親と同様の手続きで因子
あった。したがって,因子負荷量.4以上の項目のうち複
数以上の因子に負荷しない項目を取り出し,これらの項
目の粗点(lから4点)の合計点を各因子の得点とした。
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
なお,負の因子負荷量をもつ項目は粗点を反転してから
合計に加えた。ところが,この3つの因子について,信
頼性係数を算出したところ第1因子.754,第2因子.534,
第3因子.593と,第2因子,第3因子ではその値が低く
4
5
には「甘やかし」の主成分といえる。
なお,各主成分の得点は,各主成分に該当する項目の
粗点(1から4点)の合計点を用いた。
この質問紙の信頼性であるが,Cronbachのα係数を算
信頼性にやや問題があったた。そこで,因子の抽出数を
出したところ父親の第1主成分は.917,母親の第1主成
変えて2度ほど因子分析を試みたが,3因子までに負荷
分は.925,第2主成分は.714であった。なお,各主成分
する項目には差がなかった。従って,第2因子,第3因
の基本統計量をTable3に示した。
子の信頼性係数は必ずしも高くはないものの因子分析の
4.タイプA行動パターンを評定する2つの尺度の集計
結果は安定的であるので,当初の解をそのまま採用する
ことにした。項目および回転後の因子負荷量は父親の場
結果について
次に,タイプA行動パターン評価尺度とJASのA−B
合と同様にTablelに示されている。第1因子(7項目)
スケールの集計結果をみてみる。平均値,標準偏差など
は,父親の第1因子と若干項目内容は異なるものの,高
の基本統計量はTable3の通りだが,このうち,タイプA
学歴,有名大学進学などを積極的に志向する内容であり,
行動パターン評価尺度の3つの尺度の得点は,この尺度
父親と同様の「学歴志向」の因子とした。次に,第2因
の標準化データ(山崎ら,1994)の得点とほぼ等しかっ
子(3項目)は,受験戦争の激しい現在の社会状況を容
た。ただ,標準化データの標本は中年を対象としており
認する内容の項目が含まれることから「受験戦争容認」
(男'性241名,女性260名の計491名で平均年齢48.8歳),
の因子とした。さらに,第3因子(5項目)は,むしろ,
本研究の被験者とはかなり異なる。しかし,大学生とい
受験戦争を否定的なものと捉えようとする項目を含み,「反
う青年期に属する発達段階にあっても,すでに中年期の
受験戦争」の因子と命名した。
タイプAと同じ得点に達していることが分かる。
以上の学歴志向質問紙において抽出された父親の2つ
JASのA−Bスケールの得点は,石原(1990)が大学生
の因子,母親の3つの因子のいずれも,学歴志向の概念
3995名(男子2556名,女子1439名)を対象として得た得
からみてほぼ妥当な内容と思われる。
点とほぼ等しかった。このことから,本研究の被験者の
また,各因子の基本統計量をTable3に示した3)。
3.養育態度質問紙の妥当性,信頼性について
養育態度質問紙は,ほぼ全項目が過保護,過干渉など
の内容を示す項目で構成されており内容的には全項目が
タイプAの程度は,これまで報告されている大学生を対
象とした研究の被験者の場合と,大きな差はないと考え
られる。
5.パス解析によるタイプAの発達モデルの検討
1次元の尺度上にあるとみなすことも可能ではあったが,
ここでパス解析によって検討するモデルは,「目的」で
これを合成得点として利用するにあたって,主成分分析
述べた両親が「有名大学を志向する価値観」を持ってい
を実施しその妥当性を確認する手続きをとった。主成分
る場合,子どもに対して「学習,進学に関する過干渉,
分析は,SASのFACTORプロシジャを用い,父母の別に,
過保護を主とした養育態度」で接し,それが,「子どもの
養育態度質問紙全39項目に対して実施した。固有値1以
タイプA」の発達を促進するというものである。
上の主成分を取り出したところ,父は,10個の主成分が,
(1)パス解析の実施について
母は9個の主成分が取り出された。これを項目内容など
パス解析は,共分散構造分析によって実施した。共分
を考慮しながら検討したところ,実質的に合成得点とし
散構造分析は,SASのCALISプロシジヤで行われた。
て利用できるのは,父親は第1主成分のみであり,母親
計算にあたって,最適化計算の方法はニュートンラフソ
の場合も第1主成分,第2主成分の2つのみであった。
ン法により,収束基準は.00001としたが,他の設定はSAS
項目および主成分分析の結果をTable2に示す。
のデフォルトに従った。LINEQSステーツメントによっ
父親の第1主成分は第2主成分以下に最も高い負荷量
て構造方程式を記述する方法を用いた。
をもった項目6,12,34を除いた36項目から構成されて
次に,モデルと実際に本研究で用いられた変数の対応
おり,「過保護,過干渉」の主成分といえる。母親の第1
について述べる。「有名大学を志向する価値観」には学歴
主成分は第2主成分以下に最も高い負荷量をもった項目
志向質問紙の父親の2つの因子,母親の3つの因子をあ
6,12,31,33,34,35の6項目を除いた33項目でこれ
て,「学習,進学に関する過干渉,過保護を主とした養育
も「過保護,過干渉」の主成分といえる。母親の第2主
態度」には養育態度質問紙の父親の1つの主成分,母親
成分は,項目番号12,31,33,34,35の5項目で内容的
の2つの主成分を充当した。一方,子どものタイプAに
ついては,タイプA行動パターン評価尺度のうち「話し
3)なお,今回の被験者となった大学生は,いわゆる有名大学
の学生であり,その両親から得られたこの基本統計量が,
同世代の子どもをもつ両親の一般的な傾向を示すものかど
うかは不明である。
方」,「仕事熱心」の2つの下位尺度,および,JASのA
Bスケールの合計3つを観測変数とする潜在変数として
捉えた。
4
6
発達心理学研究第7巻第1号
Table2養育態度質問紙の項目と主成分分析の結果
項
目
父親
第1主成分
1.子供の成績や作品などをけなしたり,ひやかしたりしたことがありましたか。
母親
第1主成分第2主成分
「Z
亜I
「 n5 }−.226
2.「あれはだめだ」「これはいけない」などと子供のすることを禁止したことがありましたか。
|
、
5
8
6
’
1.616’−.212
3.子供の勉強の仕方について,ついつい干渉してしまうことがありましたか。
|,6201
1.7141−.314
4.子供の行動や成績をよく批判していましたか。
1
.
6
9
1
1
1
.
5
8
7
1
1.7441−.289
1.6481-.282
L−−−−J
5.親の思い通りにならなし、ときは,厳しく叱っていましたか。
6.子供の健康には絶えず気を使っていましたか。
7.子供の勉強や成績を気にしたり,催促したりしていましたか。
L一一一一」
、
1
3
6
、046、080
「 魂61
「 両ラー1-.147
8.子供の生活の中で力を入れていたのは学業に関することでしたか。
1.5151
1.5771、114
9.子供の成績を他家の子供と比較して気にしていましたか。
1.5771
1.6431−.007
1
.
5
3
1
I
1
.
5
8
7
1
L−2』迎」
L-型-|・301
10.子供のテストや成績に対して不満を感じていましたか。
11.子供の成績を上げるために機嫌をとったり,ほめたり,物やお金を与えたりしていまし
.たか・
12.子供が悪いことをしても,叱れなかったことが多くありましたか。
13.子供の進学や進路について親としての考えをもち,少々無理をしてもそれを到達させよ
うとしていましたか。
14.子供の学業について努力をしないと叱ったことがありましたか。
15.子供が遊びに熱中しているのに無理矢理途中でやめさせて勉強に向けたことがありまし
たか。
、
1
9
6
「功
II
.
0
1
3
L
.
Z
l
Z
l
観
・l79L
」
「 魂91.052
|
、
5
9
9
1
1.6251−.275
1.6751
1.5681−.018
16.子供の身の回りのことを黙ってみていられないで干渉することがありましたか。
17.子供の将来のためを思って自分や妻(夫)のことを犠牲にしたことがありましたか。
1
.
6
0
7
1
1.5901−.206
1.3651
1.3571.332
18.交友関係について,やかましく干渉していましたか。
1
.
5
8
6
1
1
.
3
3
4
1
1.4401−.110
19.宿題や製作物などに目を通したり手を加えたりしていましたか。
20.小遣いの使い方などを細かく詮索していましたか。
21.礼儀,勉強,試験などについてやかましくいうことがありましたか。
22.子供の進路についてあれこれと指図を加えたことがありましたか。
23.子供の食事のことや,栄養についてやかましくいっていましたか。
24.家族でなにかをするときは,子供の進学や将来のことを念頭にいれるようにしていまし
’
、
5
4
9
1
.
0
3
7
1.4171
1.4181−.012
1
.
6
6
4
1
1
.
6
2
4
1
1.7201−.207
1.3431
1.3061.007
1.6261−.110
1
.
3
3
9
1
1.4261、229
25.子供の勉強時間について,細かく指示することがありましたか。
1
.
7
0
9
1
1.6481−.094
26.子供の生活のリズムが崩れないようにと気を使うことがありましたか。
27.学校の成績が下がるのではないかと気をもむことがありましたか。
1
.
3
0
9
1
1.3531、047
1.5431
1.6141
28.子供のしていることを監督することがありましたか。
1
.
5
9
7
1
1.6851.014
1.4141
1.4551.239
たか。
29.子供が外で良くないことや,危険なことをしているのではないかと,気になることがあ
りましたか。
30.子供が遊ぶ暇もないほど勉強をさせたり,進学塾に通わせたりしていましたか。
31.子供の将来のためを思って,ついつい甘やかしてしまうことがありましたか。
32.学業の差し支えにならないように,無駄な時間は使わさせないよう気を配っていました
か。
33.お使いや家事の手伝いは,あまりさせないようにしていましたか。
34.決めてあることでも子供が嫌がれば許してやっていましたか。
’
.
4
3
1
1
.
1
4
8
.
1
0
0
1.3461
L
幽
北
_
−
−
−
−
,
・
3
1
0
L
−
−
_
・
塾
Q
」
’
、
5
5
7
1
[二画365
L_:_通」
、
2
8
5
.289r
耐亜}
、1551.6481
35.何事も子供本位にだけ考えていましたか。
「孤
回|
36.子供は信用できないと思ったことがありましたか。
|
,
4
2
3
1
「
羽
前
当
理
」
1.4431
1
.
3
6
4
1
したか。
、
0
4
8
38.服装や身だしなみについて,細かく干渉することがありましたか。
1
.
5
2
7
1
1.5281
39.学校や進学塾のことを子供に細かく聞くことがありましたか。
L
f
i
塾
_
’
L“§」
25.4
26.7
寄与率(%)
注.点線で囲まれた因子負荷量は,その項目がそこの主成分に属するものとして加算されたことを示す。
81
2
0
80
5
00
37.子供が嫌がるのに無理矢理,進学塾に行かせたり,模擬試験を受けさせたことがありま
.
2
7
8
1
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
4
7
Table3研究で用いた尺度の基本統計量
平均値
標準偏差
最小値
最大値
タイプA行動パターン評価尺度
話 し 方 1 9 . 0 4 5 . 4 6 9 3 6
仕 事 熱 心 1 1 . 4 1 2 . 4 0 4 1 6
情 動 性 5 . 4 2 1 . 6 4 2 8
−一一一一一一一一−−一一一一−−--−−一一ー一一一一一一一一一−−−−一一一一一一一一一一−−一一一一一一−−一一一一−−−−一一−−一一一一一一−−一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一−−一一一一−−一一一−一一−−−−--一一一一一一一一一一一一一一一一--−−−−一一
JenkinsActivitySurvey
A - B ス ケ ー ル 4 . 9 6 3 . 0 2 0 1 4
−一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一−−ーー一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一=一一一一一一一一一一−−ーー−−--−ー一一一一一=ーー一一−−一一=一一一−−一一-−一一一一一一一一一一−−−−一一ー‐−−−−一一−−一一一一
学歴志向質問紙
父 親 の 第 1 因 子 ( 学 歴 志 向 ) 2 1 . 8 2 5 . 6 5 9 3 5
父 親 の 第 2 因 子 ( 無 関 心 ) 1 0 . 5 4 2 . 7 9 4 1 6
母 親 の 第 1 因 子 ( 学 歴 志 向 ) 1 0 . 0 7 2 . 9 3 4 1 6
母親の第2因子(受験戦争容認)9.691.70312
母親の第3因子(反受験戦争)13.272.87520
−一一一一一一一一一一‐‐一一一一一一−−一一=一一一−−−−一一一一−−−=-−一一一一一一一一−−ーーーー−−−−−−一一ー一一一−−一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一−−一一一一−−ーー一一一一一一一一一ー−−一一一一一一ー一一一一一一一一一ー一一一-=一一−−
養育態度質問紙
父親の第1主成分(過保護,過干渉)66.2815.8636119
母親の第1主成分(過保護,過干渉)66.4216.6237115
母 親 の 第 2 主 成 分 ( 甘 や か し ) 9 . 1 8 3 . 0 0 5 1 8
注.被験者数はいずれも276名
また,タイプA行動パターン評価尺度の「情動性」の
の第2主成分である「甘やかし」の観測変数は,モデル
下位尺度を観測変数から削除したが,これは,①タイプ
Aを測定する4つの観測変数の相関行列を算出してみた
から削除された。また,女子の場合,学歴志向質問紙に
ついては,父親,母親ともに第1因子の得点のみがモデ
ところ,「情動性」を除いた3つの観測変数間では相互に
ルに組み込まれ,他の因子は削除された。
およそ・3から.5の有意な相関係数が得られたのに対し,「情
動'性」の下位尺度は他の3つの観測変数との相関係数が
モデル評価の諸指標は,男子のモデルではGFI=、94,
AGFI=、85,RMR=.06であり,女子のモデルではGFI
ほとんど.1を満たさず有意でなく,異質の内容を測定し
=、94,AGFI=.85,RMR=、08であった。これらの値は,
ているように思われたこと,②「情動性」の尺度は項目
データとモデルの適合が妥当とみなせる範囲にある。
がわずか2項目であり,標準化データ(山崎ら,1994)
(3)モデルの部分的評価
においても信頼性に問題があるとされている,などの理
由による。
次に,モデルの部分的評価を行いながら,諸変数間の
関係をみてゆく。
なお,分析は,これまでのタイプA研究において‘性差
まず,子どものタイプAに該当する潜在変数から2つ
が指摘されている(Price,1982)ことも考慮し,男女別
のタイプA尺度の合計3つの観測変数に至るパス係数は
に行った。
いずれも.50を越えており,潜在変数と観測変数の対応は
(2)モデルの全体的評価
適切である。よって,本研究で3つの観測変数の上位概
共分散構造分析でいうモデルの全体的評価とは,デー
念としてタイプAを仮定したことの妥当性が確認された。
タが仮定されたモデルにどれくらい適合的かという程度
次に,父母の養育態度とタイプAの関係を検討してみ
を吟味することである。通常,モデルの全体的評価を行
る。養育態度質問紙の第1主成分である「過保護,過干
う場合,GFI(適合度指標),AGFI(修正適合度指標),
渉」は,男女いずれの場合も潜在変数であるタイプAに
RMR(残差平方平均平方根)などが用いられる。本研究
有意な影響を与えている。ただ,男子の場合は母親から
でもこれらの指標を考慮しながら,観測変数の取捨選択
のパスが有意であるのに対し,逆に,女子の場合は父親
を行い再計算を繰り返した。そして,男女とももっとも
からのパスが有意となっている点で,男子と女子の違い
適合の程度が高くなったモデルを採用した。Figurel,
がうかがえる。すなわち,これまでの結果からも予想さ
Figure2にパスダイアグラムを示す。図中では,係数が統
れたように両親の勉学に関する過保護,過干渉な態度は
計的に有意な箇所については太線で示した。また,煩雑
子どものタイプAの形成に影響を与えているものの,子
さを避けるために誤差変数の係数については省略して表
どもが影響をうけるのは,主として異性の親からで同性
記しなかった。
の親からではないことが明らかになった。
男子の場合も,女子の場合も,養育態度質問紙の母親
さらに,この父母の養育態度には,父親には父親の,
4
8
発達心理学研究第7巻第1号
e
b
l
と
比
Figurel男子のパスダイアグラム
e
唱
e
,
6
5
どもの
イブA行動
ターン
"‐ピヱ
e
、
i
I
、
、
GFI:、94
AGFI:、85
RMR:、06
−P<、05
■■■■■P<、01
Figure2女子のパスダイアグラム
母親には母親の,「学歴志向」の因子から有意なパスがも
たらされており,両親の勉学に関する過保護,過干渉な
態度の背後に有名大学を志向する価値観があるという予
想が確認された。
考 察
竹内(1991)によれば,わが国では明治30年代から受
験戦争が激しくなり,そのためにもたらされる諸々の弊
ただし,女子についていえば,父親の「学歴志向」は
害が指摘されてきた。そして,この傾向は,幾度かの制
母親の養育態度に,母親の「学歴志向」は父親の養育態
度上の改変を経ながらも今日に至るまで続いている。さ
度にそれぞれ影響を与えるという関係も見いだされた。
らに,近年では,都市部を中心として私立小学校,私立
なお,学歴志向質問紙のうち「学歴志向」の因子以外
中学校の進学競争が激化し,これまで主として高校受験
は,女子の場合モデルの適合を高めるために削除された
生,大学受験生が中心であった受験戦争に低年齢化をも
が,モデルに組み入れている男子の場合もほとんど養育
たらしている。こうした社会的な状況が,子どもの発達
態度との関係は認められなかった。
に及ぼす影響を明らかにすることは,今後,ますます重
要になってくると思われる。
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
本研究は,このような社会・文化的な影響を考慮した
4
9
│まやや疑問も残る。
タイプAの発達モデルを仮定しそれを検証した。すなわ
また,これも先ほど紹介したが,山崎(1989)の研究
ち,両親が子どもが小学校高学年から中学,高校時代の
でも,タイプAとされた幼児の父母は,両親態度診断検
いわゆる受験期に「有名大学を志向する価値観(学歴志
査の不安,溺愛などの得点が低くなることが確認された
向)」を持っている場合,子どもに対して「学習,進学に
が,これも主として男児の場合のみであった。
関する過干渉,過保護を主とした養育態度」で接し,そ
一方,Kliewer,&Weidner(1987)の研究では,両親
れが,「子どものタイプA行動パターン」の発達を促進す
のうち父親の態度のみが子どもの男女を問わずタイプA
るというのがそれである。そして,おおむね仮説を裏付
の発達に影響を与えている。
ける結果が得られた。
受験戦争に打ち克ち有名大学に進学することは今日の
このように子どものタイプAの発達にあたえる両親の
影響の性による違いについては,現在のところ一貫した
日本のような社会においては適応的なことで,望ましい
見解は見いだされていない。とはいえ,これらの研究に
とされてきた。しかし,そのように社会的な適応を果た
おける被験者の発達段階に目を向けるならば,大芦ら(1994)
すことが,結果として,タイプAのような健康をそこな
の研究では子どもは青年,Kliewer,&Weidner(1987)
う行動傾向を招いていることは,やはり問題視されなけ
の研究では児童,山崎(1989)の研究では幼児とすべて
ればならない。とはいえ,だからといって受験制度の改
異なっており,また,それぞれの研究で用いている測定
革を早急に行えばタイプAがなくなるかといえばそうと
指標も同一のものでないことも考えれば,そもそも一貫
も言えないであろう。競争心や達成への持続的欲求といっ
した結果を期待すること自体難しいのかもしれない。従っ
たタイプAの特徴は,受験戦争に対してのみ適応的なの
て,本論文では,以下,タイプAの研究文脈にとらわれ
ではなく,今日のわが国のような社会では広く一般に望
ることなく親子関係の性差の問題を検討し,本研究の結
ましいとされているものだからである。つまり,広く捉
果に考察を加えたい。
えれば,タイプAの発達を促し強化しているのは社会全
渡辺(1995)は,親の子どもに対するしつけが,子ど
体の価値観にあり,社会全体に目を向けてゆくことが必
もの性別によって差があるかどうかを展望しているが,
要なのである。ただ,社会全体の価値観について論ずる
それによると,わが国では,諸外国の研究結果と比較し
ことは本研究の範囲を越えることになるので,以上を指
ても,かなり明瞭にしつけの性別化が確認される。また,
摘するだけにとどめる。
なお,タイプAの予防,修正に対しては現場の臨床家
この中でも,教育に関する項目についていえば,わが国
では依然として女子より男子の上級学校への進学を期待
の間でも必要に迫られた様々な実際的試みが行われてい
し,それに沿ったしつけをする傾向がみられるという。
る(たとえば保坂,1994を参照)。今後は,そうした臨床
この見解は,本研究の結果のうち母親についてみれば確
的な試みと本研究のようなより基礎的な因果関係を追求
かに当てはまる。母親の進学競争を是認する態度がしつ
する試みの双方が相互に知見を提供し合うことで,研究
けを通して子どものタイプAの発達と関係しているのは
が進んでゆくことを期待したい。
主として男子についてであり,ここに母親の態度の’性別
次に,発達モデルの検証において見いだされた子ども
化がみられる。
の性による違いについて考察してみたい。すなわち,両
しかし,以上の解釈は母親についてのみあてはまるも
親の勉学に関する過保護,過干渉な態度は子どものタイ
ので,父親の態度が女子のタイプAの発達に影響を与え
プAの形成に影響を与えているものの,子どもが影響を
ていたことの説明にはならない。一般に,現代のわが国
うけるのは,同‘性の親からではなく異’性の親からである
の家庭における父親について論ずるとなると,たいてい
ことが明らかになった点についてである。
ところで,子どものタイプAの発達にあたえる両親の
の場合は父親の存在が希薄であるということに力点がお
かれている。従って,父親の態度を積極的に扱った研究
影響を,両親,及び,子どもの性の違いという点から分
もその数は少なく,十分なことは言えない。ただ,近年
析した研究は,数は少ないながらいくつかが知られてい
の女性のキャリア選択に焦点をあてた研究の中には,専
る
。
たとえば,先に紹介した大芦ら(1994)の研究では,
門的職業を継続して持ち続けた女性が職業選択において
父親の影響を受けていることを報告するものもある(た
父親,母親の過保護,過干渉な態度はともに子どものタ
とえば,岡崎・柏木,1993)。女性の有職者が専業主婦に
イプAの発達に影響を与えていることが確認されたが,
比べタイプA傾向が強いことはすでに報告されているが
それは,男子のみに対してであり,女子に対する影響は
(Haynes,Feinleib,&Kannel,1980),そのことも含め
ほとんど見いだされていない。ただし,この研究では,
て考えると,父親の態度が女子のタイプAの発達に影響
対象者数が男子164人に対し女子は104人とかなり少な
を与えていたことも理解できるように‘思える。しかし注
く,男子に比べ女子に対する影響力が弱いと即断するに
意しておく必要があるのは,女子の場合,母親の「学歴
5
0
発達心理学研究第7巻第1号
志向」は父親の養育態度に影響を与えており,母親が全
aspirations:Astudyofparents,andchildren'sgoal
く影響を与えていないと断定することもできない。現状
setting、DeUeZQPme刀taZPsyc加ZQg3&23,204-209.
からいえるのは,女子の場合,男子に比べ父親の果たす
Matthews,K、A、,Stoney,CM.,Rakaczky,C・』.,&
役割が大きく,その影響を積極的に考慮する必要がある
ことを認識することであろう。
さて,ここまで,タイプAの発達にあたえる両親の影
Jamison,W、(1986).Familycharacteristicsandschool
achievementoftypeAbehavior.Hセα肋PSychoZQgシ,
5,453-467.
響の性差について若干の考察を加えてみたが,この問題
桃生寛和・木村一博・早野順一郎・保坂隆・柴田仁太
の背後にはわが国固有のしつけの性別化の問題や女性の
郎.(1990).日本人に適した新しいタイプA行動パター
キャリア選択に関連した問題など様々な社会・文化的な
要因が介在されることが予想された。いうまでもなく,
本研究はタイプAの発達に関わる社会・文化的な要因を
検討するために行われたものだが,今回扱ったのは,そ
ン評価法(JCBS)の開発.タイプA,1,19-29.
岡崎奈美子・柏木恵子.(1993).女性における職業的達
成とその環境要因に関する研究.発達研究,9,31-72.
大芦治・岡崎奈美子・山崎久美子.(1994).虚血性心
の中でも主に進学や教育に関するもので,それ以外の要
疾患の危険因子の形成に及ぼす父母の養育態度の影響.
因は研究の計画段階でもほとんど考慮されなかった。た
日本発達心理学会第5回大会発表論文集,224.
だ,タイプAという概念が様々な要因を多面的に考慮せ
Price,V、A、(1982).乃lPeA6eノZα伽rPatZeア":Amo〃
ずには語ることができないのは,明らかなことである。
/brr巴sea,℃ノM"dP7zzc此e・NewYork:Academic
従って,今後は,本研究で扱った進学や教育に関する要
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因以外の様々な社会・文化的な要因の検討が,必要にな
るはずである。
竹内洋.(1991).立志・苦学・出世:受験生の社会史.
東京:講談社.
文 献
Friedman,M、,&Rosenman,R,H,(1982).nPeA
behazノjorα"dyo"rheart(BallantineBooksed.).New
York:RandomHouse・
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ストレスの対処性の効果について.同志社大学人文学,
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橋本宰.(1990).健康心理学とタイプA行動.呼吸と
循環,38,12,1185-1191.
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Qp77ze砿58,1586-1591.
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性の発達.現代のエスプリ,333,35-56.
山崎勝之.(1989).TypeA行動の形成と親の養育態度.
日本心理学会第53回I大会発表論文集,178.
山崎久美子・大芦治・塚田豊弘.(1994).タイプA行
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石原俊一.(1990).学生用JenkinsActivitySurveyOAS)
の検討.日本健尉心理学会第3回大会発表論文集,4ひ
4
1
.
Kliewer,W,,&WeidnerW.(1987).TypeAbehaviorand
付記
本論文の審査過程において査読者から有益なコメントをい
ただきました。記して感謝いたします。
タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響
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1995.2.20受稿,1995.10.11受理
発達心理学研究
原 著
1996,第7巻,第1号,52−61
ビー玉獲得課題を用いた2人ケーム遊び方略の発達
栗 山 容 子 荻 原 美 文 足 立 実 絵
(国際基督教大学教養学部)(国際基督教大学教育研究所)(国際基督教大学教育研究所)
他者との関わりが不可欠なビー玉獲得課題を用い,社会的相互交渉の活動を通して自己・他者・対象
の三項関係が成立し,目標志向的な社会的行動へと統合される過程を,遊び方略の変化として検討し
た。被験児は同性,同年齢の2人1組で,低年齢群(3:7−5:6),中年齢群(5:7−7:6),高年齢群
(7:7−9:6)の各28組,計84組であり,10試行2セッシヨンのゲーム過程はすべてVTRに記録され,
所定のカテゴリにより分析した。ビー玉獲得数は低年齢群に多く,中年齢群では一旦減少し,高年齢群
では第2セッションで増加する傾向がみられ,『順番』に関する行動が獲得数に関わっていること,『順
番』に関する行動は,やり方やルールの提案により効果的となることが明らかにされた。相互交渉は,
僅少,一方的なものが相互的になり,認知・行動面及び感情の表出においても発達的特徴が明らかにさ
れた。これらの認知的,社会的,情緒的な総体としての社会的行動を特徴づける発達的概念として遊び
方略を定義し,3つの発達水準を恭順獲得方略,個人獲得方略,相互的競争方略と互恵的獲得方略とし
て,発達的特徴を明らかにした。
【キー・ワード】保育園児・小学生,2人ゲーム,遊び方略,社会的相互交渉,三項関係
問題と目的
Madsen,&Connor(1973)はゲーム相手と協力的に行
動するとビー玉が獲得できるというゲーム課題(Marble
-PullGameMPGと略す。詳細は後述)を用いて,6∼
7歳,11∼12歳の正常児と発達遅滞児における協同的,
競争的行動の相違を検討している。その結果,子どもの
社会的行動は協同的行動から競争的行動へと発達的に変
化することが明らかにされた。彼らはPiagetの道徳性の
発達理論を踏まえながら,それを陵駕する社会的な要因
によって,競争的な行動が生じてくると解釈している。こ
のような視点からゲーム課題を用いて,異なる社会文化
的環境における子どもの社会的行動の差異を明らかにす
る研究が多く行われてきた(Kagan,&Madsen,1971;
Madsen,1967;Miller,&Thomas,1972;Shapira,&
Madsen,1969)。
McClintock&Moskowitz(1976),McClintock(1978)
の一連の研究では,5∼8歳半の子どもを対象に,「低年
齢では相互性の理解がなく,自分の獲得を最大にしよう
とする。しかし,他者との相互依存性を経験することに
よって,自分がたくさん獲得するために,相手を考慮す
る方略をとるようになる。さらに社会的動機によって,
自分と相手の双方の獲得を考慮に入れた方略をとるよう
になる」という発達的変化を仮定して協同的,競争的行
動に検討を加えている。相互に影響しあう自己と他者の
関係への気づきという点に着目して検討を加えているこ
とがこれまでの研究になかった視点であろう。
我が国では阿部(1982)がMPGを使って幼稚園年少児
と小学生(9∼11歳)を対象に協同行動に関する研究を
行っている。この研究では幼稚園児に,ビー玉を分かち
あって取るという協同的な分配行動が多くみられた。一
方,小学生群ではビー玉を競って取り合う行動が増大し
ていた。しかし,小学生群では順番ルールを教示すると
その後は協同的な分配行動が有意に増加したことから,
初め,原初的な意味で「関係」だった行動が,「個」に支
配されるようになり,再び,社会的な意味で「関係」に
移行すると解釈している。
協同的,競争的な社会的行動に関する研究は,子ども
のゲーム課題の認知や方略の選択と変更に関するものや,
動機・情緒との関連などの問題に発展してきている。
Schmidt,Ollendick,&Stanowicz(1988)の6∼13歳を対
象児とした研究では,年齢が高くなると協同的教示と競
争的教示という異なるゲーム目標条件に対して,適応的
に行動方略を選択し,変更できるようになることを実証
している。また,Handel(1989)はMPGを用いた6∼
12歳児を対象とした研究で,挑戦を教示するゲーム条件
と,やり方を教示するだけのゲーム条件におけるビー玉
獲得における行動の比較をしている。挑戦を教示する群
はビー玉を獲得しようとする動機づけを強める教示群で
ある。その結果,挑戦の条件下では協同的行動が増加す
ることを見いだし,たくさん獲得するという動機づけが
社会的行動に効果を及ぼすことを示している。さらに,
協同的,競争的行動と感情との関連については,Levine,&
Hoffman(1975)が7歳男児を対象として,Barnett,
Matthews,&Howard(1979)は4歳児を対象にして,
競争的行動,協同的行動と共感'性の間に関連があること
ビー玉獲得課題を用いた2人ゲーム遊び方略の発達
を見いだしている。
以上の研究は,いずれも協同的,競争的という社会的
行動の枠組みの中で,特定の実験条件下における獲得数
5
3
るようになること,などの行動が相互に関連づけられて,
目的志向的な社会的行動へと変化していくことと捉え,
子どもたちの社会的相互交渉を観察する。
や行動の結果の比較検討を行っている.このために,異
換言すると,遊び方略を認知的,社会的,’情緒的な総
なる発達水準における子どもの認知的,社会的,情緒的
体としての社会的行動を特徴づける発達的概念として位
な行動の総体としての社会的行動が明らかにされていな
置づける。さらに自己・他者・対象の三項により成立す
いという問題が指摘できよう。
最近,丸野(1991)はゲーム課題を用いた研究で,社
るゲーム事態(広義には社会的事態)において,実際の
社会的相互交渉の活動を通して,各項が分化し,社会的
会的相互交渉における問題解決事態の意義を,課題認知
に適切な行動へと統合される過程を,遊び方略の発達的
的視点の変化と対人的視点の変化の2次元から捉えて検
変化と考える。また,このようなゲーム事態における社
討している。4歳7ケ月∼6歳6ケ月の対象児の中から
会的行動の出現と発達的変化に関わる基本的な能力要因
手続き的知識水準の異なる3名をグループに構成して行
として,認知能力と行動の制御能力,コミュニケーショ
動観察を行い,協同的な課題解決過程を詳細に分析した。
ン能力と相互交渉能力,感情の制御能力,及びこれらを
さらに相互交渉形態の特徴分析を行った結果,社会的相
統合する能力が発達水準に照応して潜在していると推測
互交渉が手続き的知識の変化や自己一他者視点の理解水
する。
準の変化に影響を及ぼすことが明らかになった。社会的
このような観点から遊び方略を総合的に捉えるために,
相互交渉によって,他者の存在を自分と同一の目的志向
網羅的なカテゴリによって実際に出現した行動のすべて
的な行動主体として認識し,行動目標達成のために相互
を記録した後に,発達的に意味があると判断された社会
に影響しあう存在であることに気づくようになって,ゲー
的行動を分析対象とした。実際の行動観察においては個
ム事態に応じた適切な社会的方略を発達させることがで
人的と考えられる行動も出現すると予想されるが,この
きるのであろう。課題認知的視点と対人的視点という2
ような相手のあるゲーム事態では,一般に個人的な行動
つの異なる側面を具体的に検証した意義は大きいと思わ
であっても,相互に何らかのインパクトを与えていると
れる。
また,阿南(1989)は半統制的自由遊び場面の観察に
いうこと,言い換えれば,相互依存的であると考えて検
討の対象とした。
より,小学校1年生から3年生の遊びのルール共有過程
以上の検討の後に,自己・他者・対象の三項関係にお
を分析し,自己・他者・ルールの関係の統合と調整とい
けるゲーム事態の社会的行動の発達の水準を仮説的に構
う視点から遊びの発達を検討している。その結果,相手
成して,遊び方略の発達を理論的に明らかにすることを
の主張に対して自分も主張するといった真の相互交渉が
試みる。
生じるようになるのは小学校3年生頃であることを見い
本研究で用いるゲーム課題については,(1)発達水準に
だしている。また,相手が違反すると自分も違反すると
応じた行動が同一の装置,材料,教示によって低年齢か
いうパターンが多いことから,自分と他者の対等関係を
ら高年齢の子どもに同一条件下で観察できること,(2)ゲー
重視し,ルールには柔軟‘性を示すのではないかと推論し
ム目標が明確であり,ゲーム結果が確認できること,従っ
ている。
て,(3)社会的相互交渉が生じやすいこと等を考慮して,
ゲーム課題と半統制的遊びという違いはあるが,これ
ビー玉を取り合うMPG装置を使ったゲーム遊び場面を設
らの2つの研究はいずれも,直接的な社会的相互交渉に
定した。ビー玉獲得数に関しては,先行研究で明らかに
おいて,自己・他者・対象(ゲーム事態やルール)とい
されたように,低年齢群では獲得数が多いが,その後減
う三項の関係の理解が進むことを示唆している点で,同
少傾向がみられ,さらに年齢が高くなると,再び増加す
一の結果を得ていると考えられる。
るという発達的傾向が追認されると予想する。
本研究では,目標達成のために,他者との関わりが不
可欠な2人ゲーム遊びにおける遊び方略の内容と特徴を,
方 法
それぞれの発達水準において明らかにし,また各水準間
(1)被験児保育園年少・年中・年長児,小学1.2.3年生
の発達的変化に,どのような能力要因が機能的に関わっ
を同'性,同年齢で月齢の近い2人1組として84組。分析
てくるのかを検討することを目的とする。即ち,遊び方
にあたっては低年齢群(3歳7ケ月∼5歳6ケ月),中年
略の発達とは,ゲーム課題を正しく認知し,目標達成の
齢群(5歳7ケ月∼7歳6ケ月),高年齢群(7歳7ケ月∼
適切な手段を発見すること,言語的コミュニケーション
9歳6ケ月)の3年齢群各28組,または学年による6群各
を適切に図り,社会的相互交渉を通して社会的ルールを
14組を構成した')。いずれも同じクラスか遊び仲間である。
産出したり,共有して運用していくこと,他者の動機や
感情に気づいたり,文脈に即した適切な感'情表出ができ
l)学年別群では小1群に年長児群の最年長ペア男女各1組
を加えて各群同数とした。
5
4
発達心理学研究第7巻第1号
(2)手続きMadsen(1971)の一部を改訂したMPG装置
(Figurel:本体60cm×40cm×15cm)を用いて2人ゲーム
遊びを行わせた。装置の中央にあるホルダーの中にビー
玉を1つ入れ,両側に座った子どもたちが紐を引き合っ
て穴の中にビー玉を落とすとビー玉は装置の中の経路を
に今
乏動
通って前方の箱に出てくる。透明な筒の中にこれらのビー
玉を集めることが目標となる。ホルダーの中央は切断さ
れ,磁石で付いているだけなので2人が一緒に引っ張る
FigurelMarbIe-PuljGame(MPGノ装置
と外れてしまい玉は穴に入らない。実験者は試行に先立
ち,紐を実際に引いて,穴にビー玉を入れて見せ,さら
とを強調し,自分の成果だけを志向する個人獲得(競争)
に穴から出て箱に収まったビー玉を筒に入れて,どのよ
と2人が共に取り合うというペア獲得(協同)のいずれ
うにしてビー玉を集めるかを実行してみせた。また,両
を志向するかは,子どもの側の要因とした。1セッショ
方が一緒に引っ張るとホルダーが外れてビー玉は取れな
ン10試行を2セッション実施するが,第2セッシヨンの
いことも実演してみせた。たくさんビー玉を集めると後
前に,獲得数を確認し,はじめと同じ説明を繰り返した。
でご褒美があると告げた。遊び方略の検討という目的か
終了後に2人に同じ報酬を与えた。ゲーム遊び場面はVTR
ら,ゲーム目標としては,2つの筒にたくさん集めるこ
で録画され,ゲーム結果やゲーム中の子どもの特徴を記
Tablel行動分析のためのカテゴリ
行動コード(主コード)
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
叙述行為見る探索要求質間ふざける応答非難提案模倣感情
評価(ゲームに関わる価値判断をすること)譲歩(自分より先に相手にビー玉を獲得させようとすること)
違反(故意にルールに反すること)願望(ビー玉獲得に関する期待を述べること)
内容コードとその例
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
やり方:ゲームを遂行するためのやりかたや工夫。ルールまで至らなし、。
。「弱くしたらどうなるかな,おれやってみる。」(小2)
順番:順番について述べたり,交代で紐を引く(自分の番)/引かない(相手の番)。
双方の1回目は『行為一やり方』とする。交代で引いている途中で交代が崩れたときも同様にする。
。「今度私,いい?」(小2)
状況:ゲームの経過や見通し。。「あとふたつしかない。」(年中)
結果:ゲームの結果に関すること。。「またはずれちやった。」(年中)
装置:ゲーム盤・磁石(ホルダー)q紐・穴・ビー玉のルート,ゲームの性質に関すること。
。(ホルダーが外れて)「はずれちゃうんだもんね。」(年長)
進行:現在の進行過程に関すること。
。(紐を引きながら)「きてますビー玉が。ひっぱられております。」(小3)
ルール:ゲームの目的を達成するためのひとまとまりの考え。
。「じゃ,じやんけんして決めようか。」(小2)
その他:ゲーム遂行と直接関連しない発話や行動。
意味不明:音声の不明瞭な発話。意味不明な発話。
オプションコード
一 − − 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
『応答』にのみ用し、るもの1.agree(肯定的応答)2.disagree(否定的応答)3.others(その他)
『感情』にのみ用いるもの
l、positive:喜びや嬉しさ,満足の表現
2.negative:悔しさや不満の表現
3.neutral:驚きや不可解さや予想に反したときの感情表現
対象−1.相手2.実験者3.装置
分析の対象となったカテゴリ名(32カテゴリ)
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一−
1.叙述一やり方2.叙述一順番3.叙述一状況4.叙述一結果5.叙述一装置6.叙述一進行
7.叙述一ルール8.叙述一その他9.行為一順番10.見る−装置11.探索一装置
12.質問一やり方一相手13.質問一やり方一実験者14.質問一状況15.質問一装置16.質問一その他
17.応答一agreel8・応答一disagreel9・要求一やり方一相手20.提案一やり方21.提案一ルール
22.非難一相手23.非難一装置24.譲歩25.模倣26.願望27.評価28.感情一positive
29.感情一negative30.感情一neutral31、ふざけ32.違反
■
ビー玉獲得課題を用いた2人ゲーム遊び方略の発達
録した。
(3)分析方法ゲーム遊びの行動分析:VTRの記録から
言語的・非言語的行動のトランスクリプトを作成した後,
有意味な最小の行動のまとまりを行動単位として分割し
た。これらの全行動単位をコード化するために,16の行
動コードを主カテゴリとし,7つの内容コードを組み合
わせた。さらにオプションとして,行動の向けられた対
象及びカテゴリ固有の下位コードを設定した。これらの
具体的なコードについてはTablelにその内容を示した。
例えば,『提案一やり方』とは,やり方という内容で提案
という行動をとることを示す。行為にことばが伴うとき
は原則としてことばをコード化し,文脈を考慮しながら
1つのコードを付与した。開始前,セッション間におい
ても意味のある行動が生じているので,これらの行動も
分析対象としてコード化した。実験者がビー玉をホルダー
に入れて,「始め」の合図をしてから次の合図までを1ユ
ニットとして,各ユニットごとにコード化した。持続す
る行動(例えば感‘情表現など)もユニットが変わった時
には,新たな行動単位として処理した。出現頻度数が少
ないものを除外して,発達的に意味のある32カテゴリを
分析対象とした。これにビー玉獲得数を加えた33変数が
発達的検討に用いられた。3人の著者のうち2人ずつの
組合せでコード化の二者間一致率を算出した。その結果,
一致率は74%から93%にばらつきがあったが,一致しな
いものは検討の上で,最終的には全ての点で一致した。
結 果
(1)ビー玉獲得数の年齢差ゲーム課題がどのように達成
されたかを知るために,セッションごとのビー玉獲得数
における年齢差を検討した。Figure2にセッション別の
3年齢群の平均獲得数を示した。分散分析の結果,第1,
第2セッションともに有意な年齢差があった(F(2,81)
=5.80,P<、01;F(2,81)=3.67,P<、05)。さらにt−検
定により群間の有意差の検定を行った結果,第1セッショ
ンでは,低年齢群が中年齢群よりも有意に多くのビー玉
平均獲得数
65 432
1
5
5
を獲得していたが(t=3.36,P<、01,df=47),中年齢
群と高年齢群の間には有意差がなかった。一方,第2セッ
ションでは,第1セッションと同様に,低年齢群から中
年齢群では獲得数が有意に減少していたが,中年齢群か
ら高年齢群では獲得数の増加がみられた(t=-2.55、p<、OL
df=54;t=2.37,P<、05,df=54)。しかし,第2セッショ
ンの低年齢群と高年齢群の間には有意な差がなかった。
(2)社会的相互交渉における諸行動の発達的特徴ゲーム
課題達成に必要とされる諸行動が各発達水準においてど
のように出現し,発達するのかを明らかにするために,
発達差のあった行動カテゴリの出現頻度数を分散分析に
よる検定結果と共にTable2に示した。分散分析は低,中,
高の3年齢群による場合(3Groupと表示)と,就学前児
と小学生の2群による場合(2Groupと表示)を実施した。
またTable3には,年齢群別に獲得数によって3区分して,
行動カテゴリのlペアあたりの出現頻度数をまとめた。
l)ゲーム課題の解決に直接関連する行動として『順
番』と『提案』に関するものがあげられる。前者につい
ては,順番について述べる行動(『叙述一順番』)と順番
に引く行動(『行為一順番』)に発達差があり,後者につ
いては,やり方及びルールの提案(『提案一やり方』,『提
案一ルール』)の行動に発達差がみられた。『行為一順番』
に関しては,ビー玉獲得数と類似した傾向,すなわち,
低年齢群では多かった順番に引く行動が一旦減少し,再
び増加するという発達傾向が見られた。小1群では順番
について述べる行動(『叙述一順番』)が最も多いにもか
かわらず,実際に行動の上で順番に引くことが最も少な
かった。『提案一ルール』というまとまった自分の考えを
他者に示す行動は,小学生のみにみられた。獲得数の区
分でみると,全く獲得できなかった高年齢群のペアでは
『提案一ルール』『提案一やり方』が全くみられず,獲得
のための主要な行動であることがわかる。
2)他者との関わりに直接関連する社会的な相互交渉
行動については,『要求』,『非難』,『応答』,『譲歩』の行
動に顕著な発達的差異がみられた。『要求』,『非難』とい
った自己から他者に向けられた一方向的な行動や『応
答一agree』のような行動は低年齢群にもみられるが,『応
答一disagree』や『譲歩』の行動は,低年齢群には僅少で
あった。ルールに『違反』する行動にも有意な年齢差が
あり,小学生群のみに出現している。高年齢群でも獲得
数が多い群では相互交渉が多いが,獲得数の少ない群で
は相対的に相互交渉は少なく,相互交渉過程において,
獲得のための適切な方法が模索されていることが窺われ
る
。
0
低年齢群中年齢群高年齢群
図セッション1回セッション2
Figure2セッション別の3年齢群の当平均獲得数
3)個人行動であるが,他者視点が投入される行動カ
テゴリとして,『評価』する行動がある。獲得数の多少と
いう単純な比較の段階から勝敗に関わる評価や勝敗が感
情面に及ぼす効果への言及など質的,量的の両面におい
発達心理学研究第7巻第1号
5
6
Table2年齢別の主要カテゴリ生起頻度数と,低・中・高年齢群3グループと就学前・後2グループに分けた
分散分析検定結果
2Group
3Group
低年齢中年齢高年齢F就学前就学後F
年少年中年長小1小2小3M(SD)M(SD)M(SD)2院)M(SD)M(SD)l(塩)
1
提案一ルール000
6
89
提案一やり方100
3Ⅲ
解決行動[統合する能力]
,02(.13).02(、14).20(、55)5.1**、01(、11).14(、47)6.0*
、00(、00).11(、37).34(、88)5.5**、00(.00).30(.77)12.5***
、14(、49).62(1.8)
NS
5
.
2
*
* 2.5(3.5)2.2(3.5)
1.9(3.2)
+
3
.
6
*
2.6(3.5)1.5(2.8)
1.3(2.8) 3.7(4.3)
+
3
.
1
*
2.3(3.5)3.0(4.0)
1.0(2.5)
FO
、
5
0
(
1
.
4
)
、
4
5
(
1
.
7
)
1.2(2.6) 2.8(3.9)
*Q︺Q︶Q︶
叙述一順番381241810.20(、59)
行為一順番76953728481103.1(3.6)
セッション1405021722323.2(3.6)
セッション23645162126782.9(3.7)
6NNN
順番行動[認知・行動の制御能力]
3
39
31
10
49
1
応答一agree
駆妬8別u
譲歩
61
61
11
11
4
1
非難一相手
要求一相手
88263
3皿070
52030
対人的行動[相互交渉・コミュニケーション能力]
応答一disagree
299
306
328
質問一装置11
u96
旧40
装置[認知能力]
探索一装置14
非難一装置0
7
.
2
*
*
* 、19(、50)1.2(2.8)10.4**
、
1
4
(
.
4
4
)
.43(、83)1.5(3.3)
、
2
5
(
1
.
5
)
、43(1.0)1.1(2.3)
4
.
4
*
、26(1.3).95(2.0)7.1**
、
0
0
(
、
0
0
)
、23(、81).34(、67)
4
.
5
*
、02(、22).36(.82)12.9***
、
1
8
(
、
6
4
)
、30(、78)1.1(1.5)
、00(、00)
、30(1.0).54(、99)
1
1
.
6
*
*
* 、
19(、65).85(1.4)15.5***
、04(、33).52(1.1)15.2***
6
.
0
*
*
9.5**
、
5
7
(
1
.
3
)
.
2
5
(
、
6
4
)
、
0
9
(
、
3
5
)
4
.
4
*
.
5
1
(
1
.
2
)
、
1
0
(
、
3
3
)
、
2
7
(
、
7
5
)
、
2
0
(
、
5
5
)
、
0
7
(
、
3
8
)
NS
、29(、74)
.
0
7
(
、
3
4
)
5
.
8
*
、00(、00)
、
2
5
(
、
7
7
)
、
2
7
(
、
7
7
)
3
.
2
*
、07(、34)
、
2
7
(
、
8
3
)
4
.
3
*
感情[感情の制御能力]
(
%
)
1471341081094.2(4.6)5.0(4.5)3.9(3.6)NS4.5(4.5)4.2(4.0)NS
1
1
0
1
2
3
感情一positive
0
.
5 58.858.350.250.5
87.9 7
感情一negative
(
%
)
感情一neutral
(
%
)
32356152.52(1.2)1.3(1.8)2.0(3.1)6.6**、76(1.7)1.8(2.6)8.6**
4
2
5
2
.
9
1
6
.
0
12.815.228.424.1
71614655.61(、99)2.1(2.4)1.8(2.6)7.7***1.1(1.6)1.9(2.6)6.6*
2
1
1
3
9
.
3
13.5 28.426.521.425.5
注.*P<、05,**P<、01,***P<、001+(df=2,81)
順番行動
行為
0.8015.20 0 . 1 0 0 . 1 0 0 0 . 3 0 0
1.302.73
0.841.110.680.840.68
0.210.210.37
8.892.634.58
0 0
0.880.3800.130.50
1.250.880.88
12.262.135.25
1
7
2.1717.67
0.502.831.334.172.70
02.170
4.3301.17
1.003.47
4.802.730.732.131.33
0.2700.47
9.203.804.53
0 0
1.430.8600.430.86
0.1401.14
7.578.003.71
。 ① ①
晒 匡
言ぐ①
︵﹃
リコ
ニ
ト
゙
●
四
●
装置
装置
ー
〔
タ
コ
装置
手 手
0 口 ”
﹃⑦①
番 番
相 相
旬①⑦
順 順
四 四 。 =
探 質 非
索 問 難
| ’ ’
ロ ロ 。
]ぐ⑦
1
1
1
−0−10
0
非 要 譲 応 応
難 求 歩 答 答
|’
箆
一
■ ■ ー = q − 一 ー ー ー 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 =
0.081.46
−2一
8
0
0
感 情
装 置
対 人 的 行 動
提案lルール 一000−030−
−0−0−00
拝C
一に悲一に悲一に額
−低年齢群一中年齢群二局年齢群
−110−110−110
弁(」
’30
提案lやり方 −0“0−0“0−36
獲得個数
井(]
叙述
解決行動
0.400
5.600.200.40
1.400.500
0.381.0800.460
0.850.310
9.000.921.69
0.400.2000.200
1.401.200
12.003.001.60
0 0 0
3.0003.00
− 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − −
013.00
1.000000
一ケース数一mB5−1田8−6巧7−
Table3各年齢群別獲得個数による3区分におけるIケースあたりのカテゴリの辻I現回数
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
1【
ビー玉獲得課題を用いた2人ゲーム遊び方略の発達
5
7
Table4r行為一順番Jに関する重回帰分析結果
中年齢群
β高年齢群
β
提案一やり方
、
3
5
*
*
重相関係数
、
3
5
非難一相手
自由度調整済み重決定係数
.
1
1
譲歩
−.35**
述べる−結果
−.24**
、
8
3
*
*
*
応答一agree
、
3
3
*
*
提案一ルール
−.69***
述べる−装置
−.22**
感情一negative
−.22*
感情一neutral
−.22**
重相関係数
、
8
6
自由度調整済み重決定係数
.
7
0
注.*P<、05,**P<,01,***P<、001
て発達的に変化がみられた(F(2,162)=7.2,P<、001)。
動を明らかにするために,3年齢群ごとに獲得数を基準
4)ゲーム装置の認知に関わる行動にも発達差がみら
変数,分析カテゴリを説明変数として重回帰分析2)を行っ
れた。指でビー玉の経路やビー玉が出てくる箇所を丹念
た結果,3年齢群とも『行為一順番』が最もウエイトの
に探索するといった『探索一装置』行動,実験者への装
あることが明らかとなった(低年齢群:標準偏回帰係数
置に関する質問(『質問一装置』)などの行動は,低年齢
β=、89,P<、000,重決定係数(自由度調整済み)R2=、83,
の子どもに多く見られたが,装置を非難する行動(『非難一
みると,低年齢群では獲得数の大小にかかわらず装置の
重相関係数R=、92,中年齢群:β=.86,p<、000,R2
=.75,R=、87,高年齢群:β=、88,P<、000,R2=、91,
R=、96)。高年齢群では『叙述一順番』(β=、16,p<、001)
探索行動(『探索一装置』)が多いが,中年齢群ではビー
が第2説明変数として有意であった。以上の結果から,
玉を獲得できないペアで『探索一装置』『質問一装置』『非
ビー玉の獲得は順番に引く行動によることが一層明らか
難一装置』といった行動がみられた。高年齢群では獲得
となった。そこで,次に順番に引くという行動がどのよ
装置』)は年齢の高い子どもに多かった。獲得数の区分で
数の多いペアに『質問一装置』が多く,獲得できないペ
うな要因行動により可能になるのかを検討した。低年齢
アでは『非難一装置』が目だつ。
群から中年齢群の変化,中年齢群から高年齢群への変化
5)情緒面については『感清一positive』『感│青一negative』
に関わる能力要因がそれぞれ中年齢群,高年齢群の行動
『感’清一neutral』の3つの次元から表出頻度を算出して
カテゴリに出現しているという仮定から,『行為一順番』
検討した。年齢による分散分析結果では,『感情一negative』
(F(2,162)=6.6,P<、01),『感'清一neutral』(F(2,162)
=7.7,P<、001)に有意差があったが『感情一positive』
帰分析を行った。結果をTable4に示した。中年齢群はビー
については差がなかった。各感情の表出割合をみると低
『提案一やり方』が効果をもっていることがわかる。また
を基準変数,残りの行動カテゴリを説明変数として重回
玉獲得数が最も少なかった群だが,獲得できたペアでは
年齢群では『感'清一positive』が高いのに対し,加齢に従
高年齢群の獲得数の増加は,『提案一ルール』や『応答一
い『感情一negative』『感情一neutral』の割合が増加して
いる。特に『感情一neutral』(驚きや不可解な感'情表現)
agree』によるものである。一方,『非難一相手』の行動は
は中年齢群で増加している。また高年齢群では『感情一
も相手にビー玉を与える行動で,自分のビー玉獲得には
neutral』『感情一negative』がほぼ同じ割合で表出されて
いた(x2=84.8,p<、001,df=4)。『ふざける』行動
も加齢に従い増加していた(F(2,162)=3.5,p<、05)。
結びつかない行動である。『叙述一結果』,『叙述一装置』
ビー玉が獲得できないときに出現する行動であり,『譲歩』
もビー玉獲得に必要な面に注意を向けていないことから,
ビー玉獲得に結びつかない行動と解釈された。
これは経験を共有し合い,ゲームを楽しむという一面で,
考 察
『感情一positive』を伴うものであった。獲得数の区分でみ
ると低,中年齢群では獲得数が少ないにもかかわらず,
『感情一positive』が表出されていた。また,中年齢群では
(1)ビー玉獲得数と獲得に関わる行動についてゲーム課
題の目標達成の指標であるビー玉獲得数における発達的
獲得数が少ないほど『感情一neutral』の表出が多い。高
変化は,先行研究(阿部,1982)と一致して,低年齢群
年齢群では獲得できない群で『感'情一negative』の表出が
において多かった獲得数が中年齢群では減少し,高年齢
顕著である。
(3)獲得に関わる行動の検討ビー玉獲得に関わる要因行
2)ステツプワイズ法(変数増減法,F値.05,トレランス
値.01)。
5
8
発達心理学研究第7巻第1号
群で再び増加する傾向があった。社会的相互交渉の分析
発達の重要な面である。評価する行動では「2人とも2
から順番に引くという行為が高年齢群の第2セッション
つ。」(年中),「やつぴ−,勝った,勝った。」(年長)とい
で増加していることが明らかであり,第1セッションに
う単純な比較,勝敗に関するものが多い。中年齢群では
おける相互交渉のつまずきが自発的な方略変更を促進し,
「難しいよ。」「わかんない。」(小1)などゲーム課題に関
獲得数の増加に結びついたと考えられる。このように自
する評価がみられ,この発達水準の自己一対象の関係へ
発的に柔軟に方略を変えることができるようになるため
の傾斜が窺われる。高年齢群では「いい勝負だ。」「いい
には小学3年生ぐらいまで待たなければならないことも
戦法だった。」(小2)というようにゲーム内容に関する評
示唆された。阿部は順番ルールを教示することで高年齢
価をしたり,結果を予測してゲームを総合的に評価する
群(9∼11歳)の獲得数が増加したことを明らかにして
ようになる。「あんまり勝負みたいにやらない方がいいん
いるが,これよりも早い年齢で子ども自身が気づいて方
じやない。」「そういうふうにするとさ’負けた方がなに
略を変更していることは重要だろう。順番に引き合うの
かさ,いやになつちやうよ・」(小3)のように,自分と相
ではゲームらしくないと,じやんけんで引く者を決める
手の気持ちを推し測って協調的な行動をとるなど,勝敗
という方略も高年齢群に特徴的であった。小1群では,
という客観的事象を共感との関わりにおいて評価する傾
順番について述べる行動が最も多いにもかかわらず,実
向も,高年齢群になって可能となることが示唆される。
際に行動の上で順番に引くことが最も少なかった。認知
ゲーム事態でのこのような協調的な行動への志向や,じゃ
の水準ではどうしたらよいかが理解されても,個人的獲
んけんによる公平さを志向する傾向は集団の和を志向す
得に強く動機づけられて,行動制御が困難であったこと
る傾向のあらわれかもしれない。
が窺われる。
(4)感情の発達的特徴ゲーム事態ではさまざまな感情が
(2)社会的相互交渉にみられる社会的行動の発達的特徴
経験されると考えられるが,これまで検討されることは
社会的相互交渉における行動の発達的特徴の面では,低
少なかった。本研究では,感情が表出されやすい事態で
年齢群では,一方的に要求したり,非難することや,相
あることと,ユニット単位にカテゴリを付与するという
手を意識しているものの相手が応じられない要求(「静か
手続きをとったことにより大まかではあるが情緒面に関
にやれ。」「ゆっくりやりなよ・」)がみられる。高年齢群
する検討を行うことができた。ゲーム遊びであるために,
では,相手が順番のルールを違反しそうになるために先
positiveな感情が表出されやすいと考えられるが,競争事
手を打った要求,譲歩してから要求(「この一回あげるか
態として認知した場合にはnegativeな感‘情も表出される
らあと2つちょうだいよ・」),間接的な要求(「今度はお
と思われる。本研究の結果をみると,低年齢群では,ホ
れにおごれよ。」),非難された相手が反論するなどの応答
ルダーが外れるのも面白いというような,大まかなゲー
的な行動など,他者視点を投入した行動への質的,量的
ム事態を認知してpositiveな感情に支配されている。しか
な発達的変化が窺われた。「先やっていいよ」(小3)など
し,個人獲得に動機づけられていて,しかも適切な手段
にみられる一旦自分を引いてから相手に向かう譲歩の行
を伴わず,漠然とした期待を持っているような場合,結
動や,否定的な応答などの自分と相手の考えの相違を明
果が期待とずれてしまうことから,驚きなどのneutralな
確にする行動など,他者との緊張した関係が生じるよう
感情が表出されるのだろう。高年齢群にみられるように
な相互交渉に関しては小学生になって可能になると思わ
個人獲得に動機づけられたり,競争課題として認知する
れる。
小学生にみられた違反する行動も同様に,ルールに背
ようになると,期待に外れた結果については、egativeな
感情が表出されるようになる。このように感情分化と共
くことによって生ずる緊張した対人的関係のある行動で
に,事態に即した表出がなされるようになることが明ら
ある。相手が引く順番の時に,故意に自分の方に引いて,
かとなった。このような感情の表出は社会的な相互交渉
ホルダーがはずれると「ごめん,ごめん。」とふざけて謝
における対人的行動に影響すると考えられ,事態に適切
るなど,明らかに他者を意識した行動が高年齢群にみら
な感情表出が可能になるように発達することも遊び方略
れた。ルールを相互の約束と認知できることが違反する
の発達の1つの側面であるといえよう。
行動となったとも考えられ,このようなゲーム課題やルー
(5)各発達水準の特徴と変化要因についてこれらの結果
ルの認知との関わりが指摘される。
の相互関連からゲーム遊び方略の発達水準を次のように
(3)ゲーム事態の評価の行動についてゲーム事態におい
仮説的に構成した。
ては,自分や相手の行動と,その行動の結果が明確であ
低年齢群では相互交渉が少なく,順番によって引く行
る。また,評価の行動は個人的行動であるが,他者視点
動が特徴的で,教示や指示に従う傾向があり,ビー玉獲
が不可欠であり,ゲーム事態の認知に関わる行動でもあ
得の動機は弱いといえよう。要求や非難など対人的な行
る。従って,ゲーム事態における原因や結果,及びその
動は一方的であり,ゲーム装置についての関心は高いが,
関係を,子どもがどのように評価するようになるかは,
それは認知の未熟さに起因するものであり,ゲーム課題
ビー玉獲得課題を用いた2人ケーム遊び方略の発達
Table5遊び方略の発達的特徴
遊び方略の
恭順獲得方略→個人獲得方略
相互的競争方略互恵的獲得方略
発達水準
交代で獲得する引き合って獲得互いに競って同数獲得のルール
できない
取り合うで公平に取り合う
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
[基本となる能力要因]
認知・行動ゲーム装置へのゲーム課題の認知とゲーム事態の認知に基づいて目標志向認知能力
面の特色高い関心から探行動にギャップがあ的に行動する
行動の制御能力
素的に行動するる
社
会
等社会的相互僅少他者に向けて一方向ルール構築を志向し,相互的な交渉行コミュニケーション能力
動交渉的に発言・行動する動をする
相互交渉能力
感情表出positive感情がneutral感情が表出negative,positive,neutral感情が表出感情の制御能力
支 配 す る さ れ る さ れ る
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
者
が
認る
識
さ相
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る
認
識
さと
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視
点を
の
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得
)
窯
皇
昌
毒
他
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認
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自
分
と
対
立
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時
他
互
依
存
的
な
自
分
他
者
関
係
と
し
て
他
者
認
識
る
能
力
ない
さ
量自己・他者分化していない自己・対象の二項が肥他者・対象の三項が成立諸能力を統合する能力
関・対象の三
係項関係
成立
の認知は不十分である。また,情緒面では大まかなpositive
び方略に分化すると仮定し,この異なって動機づけられ
な感情の表出がみられる。以上からこの第1の発達水準
た第3の発達水準の2つの遊び方略を,相互的競争方略
の遊び方略を恭順獲得方略とする。中年齢群では第1,
第2セッションとも獲得数が最少で,共に引き合ってし
まうという個人獲得に動機づけられている傾向が顕著で
ある。また社会的な相互交渉がみられるものの,一方的
と互恵的獲得方略とする。
であったり,不適切であることも多い。また認知レベル
ここで自己と他者及びゲーム課題やルールの三項関係
として発達的特徴をまとめておきたい。第1の発達水準
では,ゲーム課題への認知は不十分であり,また自己と
他者の関係も未分化であって,三項関係は成立していな
で理解できても,行動の上では制御できないという発達
い。第2の発達水準では,自己視点から個人的獲得に動
のアンバランスもみられ,情緒面では,neutralな感情表
機づけられてゲーム課題に取り組むが,他者視点を入れ
るには至らず,自己一対象の二項の関係に留まっている。
出が特徴的である。以上からこの過渡的特徴をもつ第2
の発達水準の遊び方略を個人獲得方略とする。高年齢群
においては,第1セッションでは,個人獲得に動機づけ
運用していくことから,三項関係が成立し,この関係に
次の第3発達水準では,他者視点を投入して,ルールを
られ,中年齢群と同様のビー玉獲得傾向であるが,第2
おいてゲーム事態を認知できるようになると考えられる。
セッションでは,ビー玉の獲得数が有意に増加していた。
これらの遊び方略の発達的特徴をTable5にまとめた。
これはルールを産出し,提案して柔軟に運用するなど,
社会的な行動が発達することによるものと考えられる。
けられた行動も少なくない。社会的相互交渉は活発で,
社会的行動は,社会的相互交渉を通して具体的な行動
として出現するが,遊び方略の変化に関わる要因として,
基本となる能力要因が潜在すると仮定した。そこで低年
齢群から中年齢群の変化に関わる能力要因が中年齢群の
他者視点を投入した行動や,他方で協調的,共感的な行
行動カテゴリに潜在し,中年齢群から高年齢群への変化
しかし,一方でルールに違反するなど個人獲得に動機づ
動がみられるなどゲーム事態の認知に応じた行動をとる
に関わる能力要因が高年齢群の行動カテゴリに出現して
ようになる。この事態の認知の相違によって,競って取
いると考えて分析を行った。その結果,低年齢群から中
年齢群ではゲーム事態がゲーム装置の認知や自己視点に
り合うという方略と協同して公平に取るという異なる遊
発達心理学研究第7巻第1号
6
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その能力が限定されるため,獲得に結びつく行動は少な
Levine,L,E,,&Hoffman,ML.(1975).Empathyand
い。ビー玉獲得が可能となるためには,やり方の提案な
cooperationin4-year-olds・DezノeZQPme7zZaZEsツc加一
どゲーム課題の認知面の発達が大きな意味を持つことが
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示された。高年齢群への発達的変化には,社会的交渉能
Madsen,M、C・(1967).Cooperativeandcompetitive
力の発達や感情の発達面が大きな意味を持つようになる
motivationofchildreninthreeMexicansub-cultures・
ことが明らかとなった。特に,自他の対立した状況で,
他者を常に心理的な視野にいれて,ことばを介して相互
便Syc肋ZQg北aZRePoγts,20,1307-1320.
Madsen,M、C、(1971).Developmentalandcross-cultural
交渉を行うようになるには,就学の機会が大きい意味を
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もつことが示唆された。小1に見られた順番という効果
ofyoungchildren・Jbz‘"αZq/、Cγoss-C哩伽γzzZ
的な方法に気づきながら,実際には引き合ってしまうと
及sychoZqg弧2,365-371.
いった認知面と行動面のギャップや,neutralな感情の増
Madsen,M、C、,&Connor,C,(1973).Cooperativeand
加にみられる認知面の期待とのズレなどは,転換期の一
competitivebehaviorofretardedandnonretarded
時的混乱といえるかもしれない。
childrenattwoages・Ch〃dDeUeZQP77ze砿44,175−
以上,社会的行動の発達の水準を遊び方略の観点から
1
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8
.
仮説的に構成し,特徴を明らかにした。これらの発達水
丸野俊一.(1991).社会的相互交渉による手続き的知識の
準の移行にかかわる能力要因については認知,社会'性,
改善と“自己一他者視点の分化・獲得''・発達心理学研
情緒の各側面における各能力の分化と事態に応じた各能
力の統合の過程であることが示唆された。しかし,本研
究で用いたゲーム課題では解決行動の多様性が乏しく認
知的,社会的行動の出現の豊富さに限界があった。包括
的な社会的遊び方略の発達水準を定義するためにはさら
に多様な社会的遊び場面での検討が必要であろう。
文 献
究,1,116-127.
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付記
本研究実施にあたり,データ収集,解析に権藤桂子(国際
基督教大学)が参加した。
ビー玉獲得課題を用いた2人ゲーム遊び方略の発達
6
1
Kuriyama,Yoko,Ogihara,Mifumi&Adachi,Mie(InternationalChristianUniversity).ADeUeZQP77ze7ztaZ
St"dyQ/PZayS”tegjesj〃αMzγ6〃P"〃Game勿肋姉Q/、Ch〃γe刀.THEJAPANEsEJouRNALoF
DEvELoPMENTALPsYcHoLoGY1996,Vol,7,No.1,52−61.
Thisstudyexploreddevelopmentalchangesanddifferencesinplaystrategies,Itfbcusedonthe
processofestablishingself,partnerandobjectthroughsocialinteractionasthe3componentsof
thegameplaysituation.Participantswere28samesex/sameagepairsofchildrenofthefOllow‐
ingages:(1)3years,7monthsto5years,6months;(2)5years,7monthsto7years,6months;
and(3)7years,7monthsto9years,6months・TwolO-trialsessionsofthe“marble-pullgame
werevideotapedforbehavioralanalysis・Childreninthefirstagegroupearnedsignificantlymore
marblesthanchildreninthesecond,andchildreninthethirdagegroupeamedmoremarbles
thanchildreninthesecond,butonlyinthelattersession・Regressionanalysisindicatedthat
ツツ
"takingturns”hadthemostbeneficialeffectonearningsand“proposingrules”wasrelatedtoef‐
fectivenessof“taking-tums”inthethirdagegroup、Thediscussionconcernedtheintegrationof
cognitive,socialandemotionaldevelopmentintogoalorientedsocialbehavior・Threedevelopmen‐
tallevelsofgameplaystrategywereproposedasfollows:(1)obedience;(2)individualismand
competitiononentation;and(3)mutualbenefitorientationdependingonthecontext.
【KeyWords】Presch0olchildren&Schoolchildren,Playstrategies,Dyadicinteraction,
Socialdevelopment,Marble-PullGame
1994.12.2受稿,1995.10.11受理
発達心理学研究
1996,第7巻,第1号,62-72
原 著
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
おもちやを取るための方略の分類
高坂聡
(富山女子短期大学幼児教育学科)
おもちゃを巡るいざこざ場面で幼稚園の年少組に属する3歳児がどのように相手に対し働きかけている
のかを自然場面で観察した。全部で65のエピソードが収集され,それらは特定の働きかけ(方略)が生起
しているエピソードを1単位として,エピソードの生起頻度の点から分析された。その結果,子ども達は
言語方略以外にもおもちやを相手から遠ざける,おもちやをしっかり握って離さない,おもちやを持って
逃げるなどの行動方略を多く用いていることが明らかになった。また,おもちやを所持している子ども(ホ
ルダー)と使おうとする子ども(テイカー)とでは,ホルダーの方がおもちゃを所持する割合が高いこと,
用いる行動方略がそれぞれで異なることから両者の非対称性が示唆された。さらに,おもちやに「接触」
するとテイカーがおもちやを所持する割合は高くなっていることを示した。これらの結果から3歳児は用
いる方略をおもちやの特'性やいざこざ時の立場に合わせていると考えられた。
【キー・ワード】幼稚園児,いざこざ,方略,おもちゃ,社会性の発達
問題と目的
(朝生・木下・斉藤,1986;木下,斉藤,朝生;1985)。
ここでは社会的葛藤場面の中でも,実際におもちやの使
子どもは自分と他者との対立をどのようにして調整す
用を巡って対立する社会的葛藤場面をとくに「いざこざ」
るのであろうか。この問題は仲間関係の研究において,
場面と呼ぶことにする。そしてこのおもちゃの使用を巡
社会的葛藤(socialconflict)として取り上げられてきた
るいざこざを本研究は実験室内ではなく自然場面で観察
(Shantz,1987)。従来,社会的葛藤は否定的な評価を受
した。というのは,実験室内ではおもちやや遊び相手,
けていたけれども,近年までの理論の変遷やデータの蓄
遊ぶ場所などがあらかじめ制限されており子ども達の多
積により社会的葛藤が社会性の発達へ寄与する側面も指
様な対処行動が発生しにくいと考えたためである。また
摘されるようになり,それにともない肯定的な評価をす
子どもがおもちゃを所持するための行動はおもちやの種
る見方がでてきた(斉藤,1992)。その見方によると,社
類により異なると考えられる。したがって今回はいざこ
会的葛藤をうまく処理することは子ども達が遊びを形成
ざの焦点となることが多く,おもちやを使用している状態
することや長期的な仲間関係を築くために必要なことと
を観察しやすいという理由からブロックや積み木,ママご
されている。また,自他の対立を調整する能力は社会的
とセット,シャベルなどの保育室や砂場などで使用されて
葛藤を通じて発達するとも考えられている(荻野,1986)。
いるおもちゃを巡るいざこざを取り上げることにする。
それでは,幼稚園に入り初めて集団生活をする3歳児は
社会的葛藤場面でどのような行動をしているのだろうか。
ところで,いざこざを解決しようとする一連の行動は
方略(strategy)または行動戦略という観点から理解する
幼稚園で集団生活をする内に子ども達はおもちゃを仲よ
ことができる(柴坂,1989)。本研究では,おもちやを使
く使うためのさまざまなルールを使っていくだろう。そ
用・所持するためになされる相手への身体的・言語的な
のため,幼稚園の年長.年中児ではいざこざの発生は少
なく,発生してもすぐ解決するだろう。それに対して,
働きかけを方略とする。そして,おもちゃのいざこざ場
面における方略を記述し整理することにする。その際に
初めて集団に入る3歳児ではそのようなルールをまだ完
以下の3点に注意を払うことにする。
全に理解していないと考えられる。そのような状態で,
まず,おもちやの使用を巡るいざこざにおいては誰が
子ども達はどのようにして自分と他者との対立を調整し
先におもちやを使っていたのかという点である。この問
ているのであろうか。この点を調べるために,本研究は
題を無視して,そこでの方略だけを切り離して論ずるの
社会的葛藤における3歳児の行動を記述し分類すること
は適当ではないと考えられる。なぜなら,おもちやを巡
を目的とする。
るいざこざにおいて子ども達はどちらがおもちやを使っ
さて,幼児期の社会的葛藤はさまざまな場面で発生し
ていたのかによってそれぞれ独自の立場を取ることが示
ており,その中でもとくに場所やものの使用を巡る社会
唆されているからである。Bakeman,&Brownlee(1982)
は1歳児と3歳児のいざこざ場面を観察し,3歳児では
的葛藤の発生する割合が高いことが明らかになっている
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
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おもちやを取ろうとする子どもの所有率は49%であるけ
略が用いられているのかを調べる必要があるだろう。
れども,いざこざに先立つ1分前にその子どもが焦点と
さらに本研究ではおもちやとの「接触」にも注目する。
というのは,おもちやと接触している状態を自分とおも
ちやが関わっている状態と捉えて,3歳児はおもちやの
なるおもちやで遊んでいると所有率は76%にまで上昇す
ることを明らかにした。そしてこの結果を,おもちやを
先に使っていた子どもにその使用の権利があるというこ
とを子ども達が認めていたために生じたと解釈し,これ
を「先行所有の規則(priorpossessionrule)」と名づけた。
また山本(1991)は1歳児と3歳児のおもちやの使用を
巡る相互交渉場面を観察している。そして,おもちやを
先に占有していた子ども(先占児)に対して獲得しよう
所有を判断していると考えられるからである。
Furby(1978)は,何かが自分のものであるとか,自分
に属するということについて幼児から大学生を対象とし
てインタビューを行い,その内容を分析した。その結果,
ものを使用することや使用をコントロールする権利(the
righttocontroluse)がどの年齢でも所有を特徴づけてい
とする子ども(非占児)が行う交渉は1歳から3歳で増
ることを見いだした。そして,所有者力§ものを持ったり,
加すること,両年齢とも先占児が抵抗を示すと非占児の
獲得率は低下することなどを示して,この現象を所有の
個体発生の点から論じている。このように,いざこざの
当事者間に立場の違いがあるならばそれぞれに特有の方
保持していることを幼児が所有の特徴として頻繁に答え
ていることから,単なる使用や接触,保管者であること
(custodianship)が幼児にとっての所有を定義する重要な
特徴であるとしている。つまり,幼児においては行為と
略があることも考えられる。そのため本研究ではこの立
してものを使用・所持するという状態と認知的に所有す
場の違いを重視して,いざこざが発生した時点でおもちや
を使用・所持している子どもを「ホルダー(holder)」と,
るという状態が分化していないと考えられる。
おもちやを使おうとして身体的・言語的働きかけをして
また,高坂(1993)は幼稚園の3,4歳児が不快な情
緒を発生する場面を記録したフィールドノーツから手で
いる子どもを「テイカー(taker)」と呼ぶ。そしてこのホ
持つこと(所持)と所有意識との関連を示唆するような
ルダーとテイカーの違いについて,両者がおもちやを使
事例をいくつか観察している。
用・所持することのできる割合や方略の相違およびその
事例1
有効性の側面から考察することにしたい。
チョコレートの空き箱で作ったトンカチをホルダーが
次に,言語方略以外にも行動方略にも注目する。従来
持っているとテイカーが「貸して」と交渉するが,ホル
のいざこざ研究は言語方略に相対的に高い関心を寄せて
ダーは「だめ−」と言ってトンカチを上にあげる。する
きたといえる(朝生・木下・斉藤,1986;Eisenberg,&
とテイカーは手を伸ばして取ろうとするが,取れないの
Garvey,1981;木下・斉藤・朝生,1985;倉持,1992;
で別の教室に行ってしまった。
倉持・無藤,1991など)。たとえば,Eisenberg,&Garvey
事例2
(1981)は2∼5歳の子ども達のいざこざ場面の会話を録
音して,子ども達はさまざまな方略を用いていることや
用いられる方略によりいざこざの終結する割合が異なる
ことを明らかにした。また倉持・無藤(1991)は3歳児
と5歳児のおもちやのいざこざ場面を言語面から分析し
て,3歳児の特徴として相手の交渉を単純に拒絶する方略
に反応が集中していること,いざこざが短時間で終了す
ることなどを明らかにした。さらに倉持(1992)は5歳
児のいざこざ場面を分析している。そして,いざこざの
ホルダーがブロックで鉄砲を作っているとテイカーが
やってきて鉄砲からブロックを勝手に取っていこうとす
る。するとホルダーは「あつ’だめ−。ばかやろ−.ふ
ざけんなよ」と激しく抗議するが,テイカーがブロック
を取り終わりその場を立ち去るとホルダーはもう抗議を
やめて別のブロックをさがしにいった。ブロックが相手
の手に渡るといざこざの決着がついて他の行動へと移行
したかのように感じられた。
事例3
当事者達が同じ遊び集団に属する場合はおもちやを先取
年中女児が2人並んでブランコに乗っていて,片方が
りしていたことを主張したり,おもちやの所有が展開さ
一時ブランコを離れようとした時に,隣の子どもに「ブ
れている遊びにとって必要であることを示す方略を使用
ランコ,とってて」と言った。すると言われた子どもは
していること,異なる集団に属する場合は貸すための条
空いたブランコの鎖の部分を手で持っていた。子どもが
件や借りる限度を示す方略を使用していることを明らか
ブランコから離れた状態で,自分の所有を確保するため
にした。しかし,実際に幼稚園でいざこざ場面を見てみ
に自分の代理の子どもにブランコを所持させていた。
ると言語方略だけを単独で用いているわけではない。言
事例1はおもちやに接触できないのでテイカーがおも
語方略の他にも,相手をたたいたり,おもちやを持って
もちやの所持に影響を及ぼしているという可能性も十分
ちやを諦めた事例と考えられないだろうか。また,事例
3はブランコの使用を目的とするのではなく,ブランコ
と関わっている状態にいることを示すための「接触」と
考えられる。したがって,自然場面でどのような行動方
いえないだろうか。そして,このようなFurby(1978)や
逃げたりするなどの行動方略を起こしており,それがお
発達心理学研究第7巻第1号
6
4
高坂(1993)の結果から幼児は接触している状態でもっ
察は,毎回標的児を決めてその子どもが関わる相互交渉
てその所有を主張すると考えられないだろうか。とくに
を筆者が8ミリビデオを用いて録画した。標的児1名を
本研究で扱うおもちやは大型の固定遊具と違って動かす
1日に約40分間録画することにした。さらに,マイクロ
ことが可能なので,手で触れるまたは触れないという状
カセットに接続したピンマイク(アイワ社製:製品番号
態がおもちやの最終的な所持にとって重要になるだろう。
CM-T6)を子どもの胸に付けて会話を録音した。
そのためおもちやを使用・所持している状態を示すもの
撮影と録音に際しては,子ども達の活動を妨害しない
として「接触」という変数を取り上げ,ここではとくに
ことと子どもが撮影を意識しないことを心がけた。その
ホルダーがおもちゃをテイカーに触らせたかどうかとい
ため,マイクロカセットとピンマイクを付けてから5∼
う点に焦点をあてることにする。
6分の間は保育室を退室して子どもの前から姿を消し,
遊びが十分始まったことを確認してから撮影を開始した。
方 法
1.対象
横浜市内の私立幼稚園年少組に属する園児14名(男子
10名・女子4名)。平均年月齢は3歳11カ月(範囲:3歳
そして,撮影中は常に子どもとの距離を2∼3mあけて
おいた。
4.分析
エピソード録画したテープの中から分析に使用するい
4カ月∼4歳3カ月)。この子ども達が通う幼稚園では2
ざこざが含まれている事例をここでは「エピソード」と
年保育と3年保育を行っている。年少組は2クラス,年
呼ぶ。分析するエピソードは,他の子どもが使用または
中・年長組はそれぞれ4クラスあり,総園児数は277名で
所持しているおもちやを使おうとして行った身体的・言
あった(1993年)。幼稚園の園舎と運動場の面積はそれぞ
語的行為に対し,不満や拒否・抵抗・無視などが身体的・
れ1200m2,1544,2であり規模の大きい幼稚園だと考えら
言語的行為でもって示された時点からそのやりとりの終
れる。保育形態は,年齢別保育を基本としながら時期的
了までとした。エピソードの終了は(a)子どものどちら
に学年別オープン保育や縦割りオープン保育もとり入れ
かがその場を離れた場合,(b)子どものどちらかが焦点と
ている。この幼稚園では,子ども達の個性を伸ばすため
なったおもちやを独占的に使用・所持した場合,(c)子ど
1人ひとりの子どもを正しく理解することと心と体と知
ものどちらかが他の行動に移行した場合とした。
性のバランスのとれた成長を促すことを基本方針として
分析項目エピソードの中から以下の項目を記録した。
いる。園児は登園してから10時頃まで自由に遊び,課題
(1)名前:ホルダーとテイカーの名前。当事者以外が介入
活動の後昼食をとる。そして2時の降園の時間まで自由
遊びや課題活動を行う。また,観察したクラスの担任教
諭は経験23年目であった。そしてこの担任教諭にインタ
した場合はその子どもの名前。
(2)方略:おもちやの使用のために相手に働きかける言語
方略と行動方略。
ビューしていざこざに関する指導方針を聞いたところ,
(3)接触:焦点となるおもちゃとの接触。
いざこざの当事者の組み合わせにより対応を変えている
(4)おもちゃの最終帰属。
ことがわかった。すなわち,男の子同士の場合は,おも
方略の分類項目は,行動方略は高坂(1993)の観察事
ちやを取り合ったり相手をたたいたりしてもある程度傍
例を,言語方略に関しては倉持(1992)を参考にして選
観した後で仲裁し双方の意見を聞く。また女の子同士の
択した。項目の定義と内容をTablelに示す。おもちやと
場合あまりいざこざをしないし,したとしても口だけの
の接触は,エピソードの開始からおもちやの帰属が決定
ことが多いので,介入しないかしたとしてもいざこざの
するまでの間におもちやを使用・所持したり,おもちゃ
相手を激しく責めないように指導をする。そして男の子
に腰掛けていたりするなどおもちやと子どもの身体が接
と女の子の場合は,男の子による暴力を言葉に置き換え
触した状態の有無を調べた。ただし,ホルダーが自発的
るように指導する。この教諭は子ども達のいざこざにあ
におもちやの提供を申し出たり,テイカーからの代替物
まり介入的に対処せずある程度子ども達に任せていると
となるおもちゃをホルダーが受けとったりした後での接
考えられる。
触は接触していないことにした。最終帰属は,子どもが
2.観察時期
おもちやを「所持」する状態から3つに分類した。子ど
1993年7月1日∼7月21日および9月2日∼9月9日
もが1人でおもちゃを全部使用または所持できた場合を
の期間。この期間中,観察は原則として週4∼5日の割
「専有」,おもちやの一部を所持したり自分で所持してい
合で,園児達が登園してくる9時20分頃から設定保育に
るが相手の指示や命令に従っておもちやを動かしたりし
入るまでの間に行った。
た場合を「分有」,おもちゃを全部取られて所持できなかっ
3.観察手順
た場合を「喪失」とした。
観察期間に先立ち,子ども達と一緒に遊びながら彼ら
そして,おもちやを専有または分有できたエピソード
と親しむとともに彼らの名前と顔・声などを覚えた。観
の全エピソードに対する割合を人物別にみたものを「所
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
6
5
持率」と呼び,とくにおもちやを専有できたエピソード
合は,それぞれの方略を1方略と数える。個々の方略の
の割合を「専有率」と呼ぶ。また,おもちやを所持でき
数ではなく,エピソードを分析単位として各方略の生起
たエピソードの割合を方略別でみたものを「有効度」と
頻度を調べることにする。
呼び,とくに専有できたエピソードの割合を「専有有効
1.方略の種類
度」と呼ぶ。
1つのエピソード内で用いられた方略の平均は,ホル
分析手順ビデオとマイクロカセットから分析する作業
ダーで2.14個(範囲:0∼5),テイカーで2.11個(範囲:
は,行動方略に関しては再生したビデオから直接分析カ
l∼5)でほとんど差はなかった。なお,ホルダーの無
テゴリーに分類したのに対し,言語方略はまず記録用紙
反応は意図的に無視をしているのか確定できないため,
にマイクロカセットの言語記録をすべて写し,それを後
ここでは方略として扱わず以後の分析からは除外してあ
から分類した。
る。観察された方略のエピソード単位の頻度結果をTablel
観察者間信頼性筆者と観察の訓練をした1名の大学院
に示す。なお,いくつかの言語方略は次のようにしてま
生との間で,観察された事例の約10%にあたる7エピソー
とめた。〈所有宣言〉やく使用中〉・〈未使用〉・〈命名〉は
ドに関して方略のカテゴリーと最終帰属,接触の有無の
現在自分が使っている状態を相手に提示する方略として
評定についての一致率を調べた。方略のカテゴリーの一
く現状説明〉とした。そして,〈先行所持〉とく入手経路〉.
致率は,エピソード内で一致した方略と不一致した方略
<使用目的〉はおもちやを所持または取ろうとするく理由〉
の合計数に対する一致した方略数の割合で算出した。最
を提示する方略とした。さらにく限定〉とく条件〉は貸
終帰属と接触に関しては,7エピソードにおける評定が
し借りする場面で時間や量をく詳細〉に提示する方略と
一致したエピソード数の割合により算出した。その結果
した。〈代替案〉とく代替物〉は代わりになるおもちやや
一致率の平均は,方略のカテゴリーで88.4%(行動方略
遊びを提示してく取引〉する方略として,またぐ順番〉
では86.4%,言語方略では90.3%),最終帰属と接触の有
とく一緒〉はおもちやをく共有〉する方略としてまとめ
無に関しては共に85.7%であった。なお,ここでのデー
た
。
タはすべて筆者の記録によるものである。
結果と考察
おもちやの使用を巡るいざこざは全部で85エピソード
観察された。そのうち教諭や第三者が介入したエピソー
表を見ると3つのことがわかる。まず,〈不'決な発声〉
やく攻撃〉・〈威嚇〉が少ないことである。この結果の1
つの解釈として,言語方略や行動方略を用いていざこざ
に対処することが3歳児であってもできるため悲しみの
表出や攻撃行動が少なくなったと考えられる。
ド(11ケース)およびテイカーがおもちやの所持ではな
次に,〈身体的力〉・〈距離化〉・〈逃げる〉などの行動方
く破壊を目的としたと思われるエピソード(6ケース)
略の使用率が高いことである。これらの行動方略が使用
と屋外の固定遊具を巡るいざこざ(3ケース)は分析か
されたのは全65エピソード中53エピソード(81.5%)で
ら除外してある。したがって,以下の分析に用いる全エ
あった。
ピソード数は65である。女児が含まれるエピソード数は
さらに,言語方略の種類に多様‘性がないことも指摘で
13事例(全体の20%)であり,エピソードの大半を男児
きる。言語方略ではく依頼〉・〈拒否〉・〈現状説明〉・〈欲
が占めていた。ただし,男女間のホルダーとテイカーに
求表出〉・〈取引〉が多かった。表に示されているように
なる割合と使用方略に関して顕著な違いは見られなかっ
子ども達はさまざまな方略を使用しているが,〈理由〉.
<詳細〉・〈共有〉は回数的にはあまり頻繁に使用されてい
たため男女を込みにして分析を行った。また,園児1人
あたりの平均エピソード数は8.9,分散は59.1であった。
ない。これは倉持・無藤(1991)の結果を支持する。
エピソードに含まれる最多の子どもで全65エピソード中
2.ホルダーとテイカーの比較
25エピソード(38.5%),最小の子どもで0回(0%)で
ここではホルダーとテイカーの比較を行い,その非対
称性を検討する。初めに,専有率と所持率の点から検討
する。テイカーがおもちやを専有できたのは,全65エピ
ソード中11エピソード(16.9%)であり,また分有でき
たエピソードを含めても21エピソード(32.3%)にすぎ
ない。ホルダーとテイカーは,所持率の点では対等では
なくてホルダーの方が引続き所持をすることが多かった。
あった。また1名の男児がホルダーよりもテイカーとし
てエピソードに登場することが顕著に多かった(エピソー
ドに含まれる回数24回中テイカーとして含まれる回数21
回;87.5%)。そこで最も登場が多い子どもとテイカーに
偏っている子どもをそれぞれおよび両方同時にサンプル
から外して分析しても観察頻度が10%以上の方略やその
有効度に大きな違いがないことを確認している。
この結果は,山本(1991)の結果の一部を支持するが,
以下の分析では,1つのエピソード内に同種類の方略
Bakeman,&Brownlee(1982)の結果とは少し異なる。し
が複数回生起した場合であってもそれを1方略と数える。
かし彼らがエピソードとして定義しているのは,ホルダー
また,1エピソード内に複数の異なる方略が生起した場
とテイカーが共に焦点となるおもちやと接触している事
6
6
発達心理学研究第7巻第1号
Tablel方略の種類と頻度
名 前
定義と内容
頻度(%)
く行動方略〉
接 近
おもちややおもちやを持っている子どもに接近する行動
使 用
取ることを目的とせずにおもちやを使う行動
9
(
1
3
.
8
)
攻 撃
たたく,つれる,ものを投げるなどの相手に身体的苦痛を与える行動
2(3.1)
威 嚇
攻撃を実行するような動きをして脅す行動
3(4.6)
2
6
(
4
0
.
0
)
・腕を上にあげたたく真似をする,にらむなど
身体的力
おもちやを保持しようとする行動や逆に相手との距離を大きくしようとして相手を引
3
4
(
5
2
.
3
)
き離そうとする行動
・おもちやから手を離さない,相手を押しやるなど
距 離 化
自分の位置は変えずに持っているものを相手から遠ざける行動
2
8
(
4
3
.
1
)
・おもちやを上にあげる,相手に背中を向けるなど
逃 げ る
おもちやを持っている子どもが自分の位置を相手から遠ざける行動
1
7
(
2
6
.
2
)
r0009080800000t00−00000060IO06
’’000001−00000000千0000010﹂
詳細一取引一共有一そ
声応一j出頼否令一言中用名一持路的 定 件 一 案 物 一 番 緒 一 他
一替替一
一植用使一研稲朋
︾鐸J諦雷依拒命一
一現
所状
使説
未明
命一
一先
理入
由使 限条一代代一順二の
・後ろにさがる,走ってその場を去るなど
泣きやぐずりなどの不快な音声を発すること
7
(
1
0
.
8
)
相手からの働きかけに反応しなかったり,黙っている
3(4.6)
「やりたい」,「いや」など自分の気持ちを表出すること
1
4
(
2
1
.
5
)
「貸して」,「ちょうだい」などおもちやを所持するために頼むこと
2
2
(
3
3
.
8
)
「だめ」,「∼したらだめ」,「∼するな」など相手の主張を拒否すること
3
2
(
4
9
.
2
)
相手にく拒否〉・〈依頼〉以外の命令や指示をすること
9
(
1
3
.
8
)
−−ー一一一一ー
ー−−−r
ー
ーーーーー
自分のものであることを相手に言うこと
4(6.2)I15
今使っていること,まだ使っていることを示すこと
4(6.2)I(23.1)
自分が持っていないことや使っていないことを示す
5(7.7)I
ものに命名したり,自分がものを見立てているその役割を示したりすること
6(9.2)I
先に自分が使用・所持していたことを示すこと
1(1.5)I5
おもちやを手に入れた経過を言うこと
一一
2(3.1)!(7.7)
使う目的を示すこと
2(3.1)’
一一一一一一一一一一一一一トー一一一一一=一一一一一一
「1つ貸して」,「ちょっとだけ」など時間的・量的な限定を示すこと
5(7.7)!5
貸すための時間的・量的な条件を示すこと
1(1.5)I(7.7)
代わりの遊びを提示すること
6(9.2)I12
相手に代わりのものを差し出してその使用を提示すること
8(12.3)I(18.5)
順番に使うことを提案すること
1(1.5)I2
一緒に使うことを提案すること
1(1.5)!(3.1)
−−−−−−−−−−=−−L−−−一一一一一一一一一一
その他の言語方略
7
(
1
0
.
8
)
注.表中の数字は全65エピソード中の当該エピソードの生起を示す。カッコ内の数字は全エピソードに占める割合をパーセントで示したもの。
例だけであり,ホルダーがテイカーにおもちやを触わら
ていた・その一方で,それぞれの側が特徴的に用いる方
せないでいざこざが終結したエピソードは含まれていな
略があった。テイカーが多く用いた方略は,〈依絢やく接
い。またホルダーに抵抗がない事例もエピソードとして
近〉・〈取引〉であった。それに対して,ホルダーが多く
いるため,ホルダーが自発的におもちやを渡した事例も
用いた方略は,〈拒否〉やく現状説明〉・〈距離化〉・〈逃げ
含まれることになる。このため,Bakeman,&Brownlee
る〉であった。〈拒否〉を使用しているのは全エピソード
(1982)ではテイカーの所持率が高くなったと考えられる。
の49.2%もあること,またその他の言語方略の使用エピ
さて次に,ホルダーとテイカーが用いている方略の点
ソードが少ないことを考えると,3歳児ではホルダーが
から検討する。ホルダーとテイカー別に見た主な使用方
テイカーにおもちやを所持する理由を詳しく説明するこ
略の使用頻度をTable2(上部)に示す。
〈身体的力〉は,ホルダーとテイカーの両方が多く用い
とは少ないと考えられる。そして,行動方略も他の言語
方略も生起しないく拒否〉だけのエピソードが3つあり,
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
6
7
Table2立場別の使用方略および先行方略と後続方略との関係
4 5
接 近
1 3 2 2 1 3 1 2 2 4 1
使 用
距離化
1
6 1 2 1 3 1 1
1
3
4
1
1
2
4
8 3
命 令
現状説明
理 由
1
1 1 2 1 1 2 1 2 1
1
1
4
1
1
1
1
1
1
詳 細
取 引
1
2
1 5 8 2 2 2 1 1 1
1
1 1
1
1
111
不快発声
依 頼
1
2 9 4 5 5 9 2 1 1 2 3 2
欲求表出
拒 否
2
121231
逃げる
1
1 1
4222
身体的力
511
威 嚇
5 3 3 1 2 7 3
150
133
1
23891
攻 撃
7
410
1
5
1
1 2
5 3 1 3 1 1 1 1 1
共 有
その他
2
1
1
2
1
1 3 3
71
14
57
27
68
66
94
12
13
7
4
8
2
2
3
3
2
1
511
5 2 1 4
1 3 1 4 2
02
9 1 3 2
テイカー269
39
2222515
23
62
20
接近使用攻撃威嚇帥的力距離化逃げる不椴声榊拙依頼拒否命令献洲理由詳細取引共有その他合計
ホルダー310
2
合計373615744232131716579195317116400
注・表中の数字は使用方略の生起(上部)と当該ダイアードの生起(下部)を示す。ダイアードは左の列が先行方略を上の行が後続方略を
表している。
そのいずれもおもちやを専有できていることからもホル
頼〉で27%(同,18%)となった。しかし,〈依頼〉を用
ダーの方が有利に専有を続けられる立場にいることが示
いている21エピソード中単独使用は2つあるがどちらも
唆される。
所持できていない。自分が使いたいという気持ちを「貸
して」という言葉に置き換えるだけでは,ホルダーから
おもちゃを借りることはできないのである。そして,使
用頻度が10%以下ではあるがく命令〉とく詳細〉方略で
は共に有効度75.0%(同,50.0%)を示している。おもちや
を使用している子どもの権利を認めて,おもちゃを一時
さらに,ホルダーのく理由〉の少なさが指摘できる。
全エピソード中わずか2つ(3.1%)にすぎない。またぐ理
由〉の下位カテゴリーのく先行所持〉は用いられていな
かった。〈先行所持〉とは他児よりも先に使っていたとい
ういざこざの発生以前の状態を所有の理由として相手に
言語化する方略である。本研究でく理由〉は少ないがく現
状説明〉が多いこと,また,倉持(1992)での5歳児が
約30%の観察事例で先に使っていたことを示す方略を用
いていたことを考えると3歳児ではいざこざの前の過去
的にだけ所持するためにホルダーに命令したり全部を借
に言及することはまだできないのかもしれない。
みるとく距離化〉で96.2%(同,76.9%),〈逃げる〉で
93.3%(同,86.6%),〈拒否〉で90.6%(同,71.9%),
<現状説明〉で81.8%(同,63.6%)となった。〈現状説
明〉の中のく命名〉方略では5つのエピソード全部で専
3.方略の有効度
ここでは,ある方略が生起した全エピソードに対する
おもちやを所持または専有できたエピソードの割合を調
べることにより方略の有効度を検討する。なお,分析の
対象とするのは全エピソードの10%以上の頻度で用いら
りようとするのではなく初めからその一部だけを借りよ
うとしていることを示すのが効果的であると考えられる。
それに対して,ホルダーの用いた方略の有効度を見て
54.8%(専有有効度で29.0%,以下同様),〈使用〉で
有できていた。〈命名〉方略は使っているおもちやを何に
見立てているのかを提示するものである。たとえば,木
製の野菜をお団子としたり,チョコレートの空き箱をプ
レゼントとして命名していた。倉持(1992)の5歳児は
くイメージ〉方略を用いておもちやの見立てを提示しおも
44.4%(同,0%),〈交換〉で33.3%(同,33.3%),〈依
ちやが展開している遊びにとって必要であることを訴え
れている方略とする。
テイカーの使用した方略の有効度は,〈身体的力〉で
6
8
発達心理学研究第7巻第1号
ていた・ここでのく命名〉方略はそのような必要性を訴
Iま9.7%(3/31,31エピソード中3エピソード;表示の仕
える段階まで到達していないけれども,命名した名称を
方以下同様),〈逃げる〉では5.0%(同,1/20)でしか接
提示することにより自分が使っているという状態を自分
触されていなかった。これからホルダーのく距離化〉と
の見立てた世界からテイカーに告知していると考えられ
く逃げる〉はおもちやを接触させない方略として実際に機
る。したがって3歳児でこの方略が有効なのは,まだく命
能していると考えられるだろう。さらにく距離化〉とく逃
名〉していないテイカーにく命名〉を提示することによ
げる〉の直後にエピソードが終了したかどうかを調べて
りおもちやがホルダーに属するという状態を知らせてい
みた。その結果く距離化〉では25.8%(同,8/31),〈逃げ
るためと考えられる。
る〉では60.0%(同,12/20)の割合でホルダーがおもちや
さらにShibasaka(1987)を参考にして,方略が生起し
を所持した状態でエピソードが終了していた。したがっ
た場合としない場合との有効度の上昇を比較してみた。
て,これらの方略はいざこざの対立を終結する機能があ
方略が生起していない場合の有効度は,当該方略が生起
ることも示唆されるであろう。
していないエピソードにおける所持できたエピソードの
割合として算出した。その結果,方略が導入されること
ではどうしておもちやに接触させないことがいざこざ
において有効なのであろうか。1つの解釈として次のよ
による所持率の上昇は,当該方略なし・ありの順で次の
うに考えられる。3歳児において,いざこざ場面では2
ようになっていた。ホルダーのく距離化〉で75%から96%
種類の方略が存在すると考えられる。1つは,言語方略
に,〈逃げる〉で80%から93.3%に,〈拒否〉で75.8%か
に代表されるようなおもちやの持ち主であるホルダーに
ら90.6%に,〈現状説明〉で83.8%から81.8%になった。
ことばで働きかけて相手の意志のもとにおもちやを取る
テイカーのく身体的力〉で11.8%から54.8%,〈交換〉で
という「間接的」な方略であり,もう1つは行動方略に
32.1%から33.3%に,〈依頼〉で34.1%から28.6%に,〈使
代表されるようなおもちゃそのものを取ったり取らせな
用〉で32.1%から44.4%になった。ホルダーでは,〈距離
かったりする「直接的」な方略である。テイカーの多用
化〉やく逃げる>,〈拒否〉で所持率が大幅に上昇してい
していた直接的な方略は「身体的力」であり,その有効
た。一方,テイカーではく身体的力〉とく使用〉で所持
度が高いことから,ホルダーはテイカーとのおもちゃの
率が上昇していた。しかし,テイカーのく使用〉が生起
取り合いを回避するために接触させていないのではない
しているエピソードの中に有効度の高いく身体的力〉も
かと考えられる。実際,テイカーにおもちやを接触させ
同時に生起しているものがあった(9個中2個)。そのた
るとホルダーの所持率は下がるし,またホルダーとテイ
め,そのようなエピソードを抜かして算出するとく使用〉
カーの両者がく身体的力〉を用いたエピソードでもホル
の所持率は減少した(28.6%)。これから,〈使用〉は有
ダーの所持率や専有率は低くなるのである(63.2%と
効な方略とは考えにくい。よって,テイカーではく身体
的力〉が,ホルダーではく距離化〉とく逃げる〉・〈拒否〉
などが有効な方略と考えられる。ただし,ここでの有効
度に関する分析には全般的にエピソード数が少ないこと,
単独の方略が全エピソードで用いられているわけではな
いこと,さらに複数の方略の中のどれが実際に有効であっ
たかは観察だけでは確定できないことなどの技術論的制
47.4%)。そして,子ども達が直接的な方略を使う背景に
は前述したようにおもちやに接触することで所有を判断
する傾向をもっているためと考えられる。
5.おもちゃのサイズと数量の違い
次に,おもちやのサイズと数量の違い(単数複数の区
別)をテイカーのおもちゃへの接触や所持率と関連させ
て分析を行うことにしよう。ここでは,いざこざの焦点
限がある。
となるおもちゃが空間的な広がりを持ち,そのすべてを
4.おもちゃとの接触
手で持つことが困難な場合を「広がった」おもちや,そ
いざこざの間にホルダーがテイカーにおもちやを接触
うでない場合を「まとまった」おもちやとした。広がっ
させたかどうかで分けて分析すると,ホルダーの所持率
たおもちやには大きいブロックで作った乗り物やママご
は83.1%であったが、接触させないと90.3%に,接触さ
とセットが,まとまったおもちやにはシャベルや小さい
せると47.1%にまで下がる。また,専有率は67.7%であっ
ブロックで作った剣や鉄砲などが含まれる。また,おも
たが,接触させないと90.3%に,接触させると76.5%に
ちやが複数の部品からなっている場合と分割できないお
なる。参考までに,テイカーに接触させたかどうかとお
もちゃを複数持っている場合を「複数」おもちやのエピ
もちゃの所持状態でx2検定を行うと有意な連関が認めら
れた(X2=13.9,N=65,df=1,p<,01,専有だけの場
合では有意な連関は認められなかったx2=2.2,N=65,
ソードとし,それ以外を「単数」おもちやのエピソード
df=1,p>・10)。
ちやをエピソードから除外してあるため,まとまった単
次に,ホルダーのく距離化〉とく逃げる〉の直後にテ
イカーが接触したかどうかを調べてみると,〈距離化〉で
数のおもちゃ,まとまった複数のおもちゃ,広がった複
とした。
本研究では大型の固定遊具などの広がった単数のおも
数のおもちやの3つに分類できた。その結果,テイカー
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
6
9
がおもちやに接触した割合を見てみると,広がった複数
した方略を「初発方略」と呼び,全エピソードにおける
のおもちやで92.3%(12/13,13エピソード中12エピソー
特定方略の生起の割合から検討する。方略間分析に関し
ド;表示の仕方以下同様),まとまった複数のおもちやで
ては次のようにする。時間的に先行する方略とそれに後
64.3%(同,9/14),まとまった単数のおもちやで34.2%
続する相手側の方略の組み合わせを「ダイアード(dyad)」
(同,13/38)で接触があった。まとまったおもちやだと
と呼ぶ。テイカーの初発方略とホルダーの初発方略,ホ
ホルダーはおもちやを動かして守ることができるためテ
ルダーの初発方略とテイカーの第2方略というようにダ
イカーは接触しにくいが,広がったおもちやだと動かし
イアードを形成していく。ホルダーの初発方略以降はダ
にくいためテイカーは接触しやすいようだ。接触させる
イアードの後続方略になると同時に次のダイアードの先
とホルダーは部分的におもちゃを喪失することもあった。
行方略となる。また,相手側の方略の後で行動方略と言
たとえば,次のようなエピソードが観察されている。テ
語方略が同時に生起していている場合,それぞれを1つ
イカーがホルダーの作っているおもちやに乗ってきた。
のダイアードと見なす。さらに,連続して異なるカテゴ
ホルダーは嫌がって「まだ作ってんの。まだ。まだ」と
リーの方略が続いた場合,後で生起した方略も相手側の
抗議するがテイカーはどこうとしないのでホルダーは仕
方略により生起したものと見なして後続方略として複数
方なくテイカーの乗っている状態で遊びを続けた。この
のダイアードをつくるものとする。ただしこの場合,次
ように広がったおもちやでテイカーが使用してもホルダー
のダイアードの先行方略となるのは2番目に生起した方
の方でも遊びを続行できる場合にはテイカーの使用を許
略だけとする。
すのかもしれない。
エピソードの開始最初に,テイカーとホルダーがそれ
また,テイカーの所持率は高い方から順に,広がって
ぞれ初めに使う方略を検討しよう。テイカーの初発方略
複数(46.2%;同,6/13),まとまって複数(42.9%;同,
の全65エピソードに対する内訳は,〈接近〉の生起が32.3%,
6/14),まとまって単数のおもちやのエピソード(23.7%;
<依頼〉が26.2%,〈身体的力〉が27.7%であった。とく
同,9/38)であった。これから,複数のおもちやをテイ
に,〈依頼〉は全方略数28個の内60.7%にあたる数が初
カーが所持できる割合が高くなっていることがわかる。
発方略として使われていることになる。〈依頼〉が多いこ
おもちやが複数である場合,テイカーが接触してそのま
とから,おもちやはホルダーの権利内にあることをまず
まおもちやの一部を分有してしまうことがあった。テイ
認めてテイカーは自分が借りたいという気持ちを持ち主
カーが積み木を乗り物から2つ取るとホルダーは「どう
であるホルダーに伝えていることが示唆される。それと
して取るのよ−」とテイカーを非難しつつ積み木を1つ
同時に,言語方略だけではなく行動方略を用いておもちゃ
だけ取り返すとまた乗り物を作り始めた。そのためテイ
を所持しようとしていることもく接近〉やく身体的力〉
カーは積み木を1つ所持することができた。別のエピソー
が多いことからわかるだろう。
ドでは,ブロックを取られそうになるとテイカーをたた
一方,ホルダー側の初発方略の内訳を見てみるとく拒
いたり,「やめて−」と言ったりしていたホルダーがブロッ
否〉が36.9%,〈距離化〉が32.3%となっている。初発方
クを取られてしまうと取り返そうともしないで近くにあ
略としてく拒否〉が多いことからホルダーはまず最初に
る別のブロックを使い始めていた。このように複数のお
自分はおもちゃを貸すつもりはないということをく拒否〉
もちやでホルダーの方も部分的におもちやを所持できる
という形ではっきりと表明することが多いと考えられる。
ような場合にテイカーがおもちやを取ると,ホルダーは
また,〈距離化〉の全方略数31個の71.0%にあたる数が初
全部のおもちやを取り返そうとしないため結果としてテ
発方略として用いられていること,〈距離化〉と同じく相
イカーはおもちやの一部を所持できると考えられる。こ
手との対立を回避するための方略であるく逃げる〉は全
れらの事例からテイカーに触られたからといって全部の
初発方略の7.7%しか用いられていなかったことから,ホ
エピソードでホルダーがすぐにおもちやを諦めるわけで
ルダーはいざこざの発生した時点ではその場に留まりな
はないことがわかる。ホルダーはおもちやを取り返そう
がらいざこざを回避しようとしているのではないだろう
とするが,その中にはおもちやが広がっていたり,複数
か。
であるためにホルダーとテイカーが一緒に使ったり,分
方略間分析結果をTable2(下部)に示す。まず,行動
有している場合もあった。
方略から見ていこう。相手のく接近〉に対してはく距離
6.エピソード内の方略分析
化〉やく逃げる〉が多かった。これから相手の接近しよ
ここではエピソード内でどのように方略が使われてい
うとする試みに対抗してく距離化〉やく逃げる〉が使わ
るのかについて,エピソードの開始と方略間の関係の2
れていることがわかる。また,〈距離化〉やく逃げる〉が
点から考察する。なお,ここでの分析単位はエピソード
導入された後には相手はく接近〉することが多くおもちや
と個々の方略の生起頻度の両方とする。エピソードの開
に触れないでいることが示唆される。そしてく身体的力〉
始に関する分析は,子どもがエピソード内で最初に使用
の後には相手もく身体的力〉を用いていることが多い。
7
0
発達心理学研究第7巻第1号
相手が直接的におもちやを取ろうとしてくるとそれに対
うか。本研究ではく身体的力〉がく攻撃〉やく威嚇〉よ
抗して自分の方も直接的におもちやを守ろうとしている
りも頻繁に使用されていた。たとえば,次のようなエピ
のではなかろうか。さらにく使用〉の後にはく使用〉が
ソードが観察された。ホルダーの子どもが大きいブロッ
生起することが多かった。おもちやを取ろうとするので
クで車をつくってそれに乗っていると,テイカーの子ど
はなく操作しているく使用〉の状態ではまだいざこざは
もがその車を取ろうとしてハンドルの部分を引っ張った。
本格化していないのかもしれない。
するとホルダーはテイカーを車から引き離そうとしてテ
次に言語方略を見てみよう。〈依頼〉の後にはく拒否〉
イカーを手で押し返した。しばらくの間もめていたけれ
が多いことからく拒否〉は相手のく依頼〉に対する返答
ど,テイカーは車を諦めてその場を去っていった。これ
として用いられていることがわかる。また,〈拒否〉やく取
は次のように考えられないだろうか。〈身体的力〉は前述
引〉の後にはく身体的力〉が多かったことから交渉場面
したようにおもちやそのものに働きかける直接的な方略
では交渉相手の他におもちやそのものにも注意が向いて
である。一方,〈攻撃〉やく威嚇〉は危害を加えたり加え
いることが示唆される。なおここでの分析には,ダイアー
ようとして相手におもちやを放棄させた上で獲得しよう
ドが相互に独立ではないこと,ダイアードの総数が少な
とする点で言語方略と同様に間接的な方略である。そし
いので言語方略間の関係をはっきりと捉えられていない
て,3歳児はまだおもちゃそのものに関心が向きやすい
ことなどの問題点がある。
統括的議論
ため,間接的なく攻撃〉やく威嚇〉よりも直接的で即効
的なく身体的力〉を取りやすいのだろう。そのため3歳
児によって頻繁に使用されていたのではないだろうか。
本研究は,自分と他者との対立の調整という問題を幼
そして,〈身体的力〉が頻繁に使用される利点があるとす
稚園児のいざこざ場面を用いて調べた。その結果から,
3歳児の特徴をホルダーとテイカーの立場別にみると次
れば,相手の承諾を得ずに一方的におもちやを所持しよ
のようになると考えられる。ホルダーは単にテイカーが
動よりも激しくない範囲にいざこざの処理様式を抑えて
おもちやを借りようとするのを拒否するだけではなく,〈現
いることかもしれない。
うとする点で言語方略より主張的でありながら,攻撃行
状説明〉やく理由〉などを言っていた。これは,テイカー
さらに,〈身体的力〉が多用されていたのは幼稚園とい
が借りようとしているのに対し相手を説得しようとして
う環境の影響も考えられる。子ども達がいざこざの焦点
いたためであろう。ただしホルダーの理由づけは,いざ
としたおもちやは幼稚園に属するものであり本来は誰の
こざが起こった時点での断る理由であり,いざこざが起
ものでもない。また幼稚園には皆で仲よくおもちゃを使
こる前の状態(遊び)と関連してはいなかった。相手の
おうというきまりもある。このような制約の下ではテイ
意図に気づいているものの,関心はいざこざに終始して
カーにおもちやを使う権利がまったくないとはいえず,
まだいざこざ以前の遊びと関連させることは少ないため
仮にテイカーがく身体的力〉で強引におもちやを取った
と思われる。そして,テイカーを説得しようとすること
としてもホルダーが自分の所有の正当性を絶対的に主張
の他にく距離化〉やく逃げる〉といったおもちやを相手
できないだろう。場合によっては貸してあげないホルダー
から遠ざけたりすることも多かった。これは,テイカー
の方が取ろうとするテイカーよりも非難されることもあ
がおもちやを取ろうとする行動に対しておもちやを触ら
るだろう。幼稚園において,テイカーがおもちやで遊び
せない状態をホルダーが重視していると考えられる。
たいという気持ちから強引におもちやを取ってしまった
一方,テイカーはく依頼〉という形態でホルダーの了
としても,テイカーにも遊ぶ権利があるのだから3歳児
承を取った上でおもちやを借りようとしていた。またホ
では許される行動と先生が判断する場合(たとえば,長
時間ホルダーがおもちやを使っていたり,子ども達でお
ルダーにく拒否〉されるとすんなり諦める場合もあった。
これからテイカーはホルダーの権利を尊重していると考
もちゃを分有できる場合など)もあるだろう。そのため
えられる。と同時に,テイカーは「貸して」という表現
テイカーのく身体的力〉だけを一方的にやめさせるべき
を添えているものの直接おもちやを取りにいこうとする
と考えるのではなく,いざこざが激しくなったり危険に
く身体的力〉を用いることが多かった。これは,ホルダー
の意志を尊重しているけれども,まだ自分の遊びたいと
ならないならば放っておくこともあるだろう。このよう
なこともあってく身体的力〉は3歳児で頻繁に使われて
いう気持ちがそのまま行動に出てしまったと考えられる。
いたと考えられる。
自分がどのようにまたはどの程度おもちゃを使いたいの
では,次にいざこざの調整技能の発達について考えよ
かという使用方法や使用量を言うことは少なかった。こ
う。おもちやに接触している状態を関わっているとする
こで本研究の結果から,〈身体的力〉の使用といざこざ調
傾向があったのは,3歳児では関心がまだおもちやに向
いているためだと考えられる。今後,子どもの関心はお
整技能の発達に関して考察しよう。
どうして子ども達はく身体的力〉を使用するのである
もちやから人に広がると考えられる。そのため仲間同士
幼稚園児のいざこざに関する自然観察的研究
7
1
でおもちやをどのように使うのかという取り決めが重要
govemingobjectconflictsintoddlersandpreschoolers,
になってくるであろう。その際,たとえば,自分が決定
InRubin,K、H,&ROSS,H、S、(Eds.),〃eγ”Zα"o7zsノZiPs
したかどうかという関わりや能力を基準とした関わり(竹
α"dsocjaZs〃Zsj〃ch伽加od(pp,99−111).New
馬で遊べる人がそれを持つべきだなど),さらに視点の大
York:SpringerVerlag・
きい関わり(幼稚園のものはみんなのものだから,誰で
Eisenberg,AR,&Garvey,C、(1981).Children'suseof
も使える)などが取り決めとしていざこざを調整するルー
verbalstrategiesinresolvingconflicts.DおcozJ7悪e
ルに組み込まれていくことが考えられる。したがって子
ども達がおもちやの使用に関してどのような取り決めを
しているのかを調べる必要があるだろう。
そしてさらに,本研究で取り上げたおもちゃと接触す
Pmcesses,4,149−170.
Furby,L(1978).Possessions:Towardatheoryoftheir
meaningandfunctionthroughoutthelifecycle・In
Baltes,P.B・(Ed.),L沈一Spa〃dezノejQP刀ze"tα".
ることを関わっているとする傾向が年長になっても続く
be加U/orfVbZ.Z(pp297-336).NewYork:Academic
としたら,遊び集団内の取り決めだけを調べるのではな
Press・
く,実際の使用はどうなっているのかも合わせて調べる
木下芳子・斉藤こずゑ・朝生あけみ.(1985).3歳児に
必要があるだろう。たとえば,「かわりばんこ」と取り決
おける「けんか」の成立と発展.日本教育心理学会第
めながらも実際は少ししか相手に使わせていなかったり,
皆で交換し合って使おうと言いつつも,それぞれ自分で
27回総会発表論文集,284-285.
倉持清美.(1992).幼稚園の中のものをめぐる子ども同
前に使っていたおもちやや場所に固執したりするなどと
士のいざこざ:いざこざで使用される方略と子ども同
いったことも考えられる。このように,ルールを取り決
士の関係.発達心理学研究,3,1−8.
めていたとしても,自分がおもちやを使ってきたという
ことに遊びの展開が引きずられるということもありうる
倉持清美・無藤隆.(1991).「入れて」「貸して」へど
う応じるか.保育学研究,132-144.
かもしれない。これらのことを調べるためには,いざこ
荻野美佐子.(1986).低年齢児集団保育における子ども
ざ場面だけに分析を限定するのではなく,いざこざの発
間関係の形成.無藤隆・内田伸子・斉藤こずゑ(編),
生以前におもちやを複数の子ども達でどのように使って
いるのかも取り上げなければならないだろう。
最後に本研究の問題点を指摘しよう。まずサンプルの
少なさと歪みである。エピソード数が少ないために方略
の有効度や方略間の関係を十分に解明することができな
かった。またエピソードに含まれる子ども達の大半が男
子ども時代を豊かに(pp,18-58).東京:学文社.
斉藤こずゑ.(1992).仲間・友人関係.木下芳子(編),
新・児童心理学講座8:対人関係と社会性の発達(pp、
29-82).東京:金子書房.
Shantz,C,U、(1987).Conflictsbetweenchildren・CMd
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児であり女児が非常に少なかった。さらに全エピソード
ShibasakaHisako.(1987).Children'saccessstrategiesat
に占める特定の子どもの割合が大きく,すべての子ども
theentrancetotheclassroom,MZz刀一E”jm7zme7zt
を均質に取り上げることができなかった。したがってこ
こで得られた結果が3歳児一般にどれくらいあてはまる
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7
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.
柴坂寿子.(1989).子どもたちの行動戦略.糸魚川直祐・
のかは今後の課題としなければならないだろう。次に,
日高敏隆(編),応用心理学講座11:とユーマン・エ
ここでの分析はいざこざ場面に限定されており,仲の良
ソロジー(pp、166-185).東京:福村出版.
さや順位性(dominance)といった子ども達同士の関係性
高坂聡.(1993).3,4才児の幼稚園生活における不
および言語能力や役割取得技能などの子ども自身の属性
快な情緒の発生.日本発達心理学会第4回I大会発表論
を取り上げていない。さらにおもちゃの所持や方略の使
文集,166.
用を子ども自身がどのように捉えているのかという認知
山本登志哉.(1991).幼児期に於ける「先占の尊重」原
的側面も扱っていない。このような変数がいざこざと関
則の形成とその機能:所有の個体発生をめぐって.教
連してることは十分考えられることである。したがって
育心理学研究,39,122-132.
1つに限定するのではなく多様な方法を用いていざこざ
という現象をさらに解明していくことが必要であろう。
文 献
朝生あけみ・木下芳子・斉藤こずゑ.(1986).4歳児に
おける「けんか」の原因と終結.日本教奇心理学会第
28回総会発表論文集,96-97.
Bakeman,R、,&Brownlee,JR.(1982).Socialrules
付記
論文作成にあたり,ご指導いただいた東京都立大学須田治
助教授と平成3年から7年まで長期にわたり子どもの観察を
許可して下さった横浜市しのはら幼稚園金子実園長先生をは
じめとする諸先生方に感謝いたします。
7
2
発達心理学研究第7巻第1号
TakasakaSatoshi(DepartmentofEarlyChildhoodEducation,ToyamaWomen,sCouege).AMzt"γαZ
O6seγUat伽St"dyo〃Pγesc加oZeγCo7q/7元Zs:aass抗Cat伽q/、S”tegjeS仙妨Cノシ〃だ〃恥eto
GeztoTbys,THEJAPANEsEJouRNALoFDEvELoPMENTALPsYcHoLoGY1996,Vol、7,No.1,62-72.
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wereobservedinfreeplaysituationswhereatotalof65conflictsoccuredoverpossessionTheresults
wereasfOllows・First,childrenusedbothverbalstrategiesandnon-verbalbehavioralstrateg,essuch
asdistancing,grasping,andrunningwithtoys、Second,ahigherproportionofchildrenwhoheld
toys(holders)thanthatofchildrenwhoattemptedtotaketoys(takers)possessedtoysafteraconflict・
Thestrategiesofholdersweredifferentfromthoseoftakers・Finally,fortakers,touchingoftoys
playedanimportantroleintoyacquisitionThreeyearoldsappeartoadapttheirstrateglestothe
characteristicsoftoysandtotherolesofholderandtaker.
【KeyWords】Preschoolchidren,Conflict,Strategies,T⑪ys,S0cialdevelopment
1993.12.1受稿,1995.10.13受理
発達心理学研究
意 見 論 文
1996,第7巻,第1号,73-77
発達心理学会の発展を願って
落合良行
(筑波大学)
編集委員長をちょうど終えたところで,この意見欄の
以上,本学会が質的変化期にあることを,例をあげて
投稿依頼があった。無藤初代委員長の長期にわたる尽力
により,発達心理学研究は,学術誌として立派に成長し
述べてみた。
てきた。それを引継ぎ委員長をさせていただいたのであ
(2)発達心理学とは何かが問われている
るが,その任期中に感じたことを,この機会に述べさせ
ていただくことにする。
言いたいことを一言でまとめると,発達心理学会は急
速な発展をし,今思春期に入ったところだと思うという
ことである。本学会は順調に発展してきたので,今適切
な発達課題にぶつかっていると思われる。それについて,
以下3段落に分けて述べることにする。
(1)質的変化期にきている
(1)で述べた発達心理学の定義に関わる問題である。こ
れが切実な問題になったのは,投稿されてきた研究が,
発達心理学の研究と言えるかどうか,それが論文の採否
に大きく関わるという事態であった。発達心理学とは何
かということは,分かっているつもりでいた。しかし,
いざ具体的な論文にあたると,それが発達心理学の研究
なのか,疑問になり検討を要したということである。例
をあげるのは,差し障りがあるかもしれないが,この問
題がでてくるのは,ここで例にあげる分野だけではない
量的にみれば,本学会の会員数は,急激に増加してき
ことを明記した上で,あえて例をあげさせていただくこ
ている。その当然の結果として,発達心理学研究への論
文投稿数も多くなってきている。編集委員長をしている
とにする。霊長類の行動観察の研究は,発達心理学の研
究といえるのかといったものである。ここでは,発達心
理学の定義が問われることになる。発達心理学の内包と
か,外延とか言ったことが問われるのである。この点に
ときに,事務局の整備が行われた。それに伴い,編集に
関する事務員も常置された。有能な事務員であることも
あり,編集事務は順調に処理されてきている。それでも,
機関誌編集に関する質的な問題が生じている。これは,
ついて,発達心理学者,少なくとも発達心理学会の会員
おそらく学会全体の質的変化の一端として生じているこ
が現状であろう。発達心理学とは何かということが問わ
れることは,学会が成長してきた一つの現れと言えよう。
というのは,いわば発達心理学会の自己定義・アイデン
となのであろう。編集に関する質的な問題の例を3つほ
どあげておく。
その一つは,発達心理学研究の定義に関わる問題であ
に,必ずしも共通のコンセンサスがあるとは言えないの
ティテイに関わる問題にぶつかっていると言えるからで
る。この点については,次の項を立てて少し紙面をとっ
ある。こう考えると,発達心理学会は思春期に入ってき
て述べることにする。第二点目は,英文のアブストラク
たと言えよう。
トの扱いについてである。会員数が増加し投稿者も多様
になってきている。そのため,外国語に慣れていない会
(3)発達心理学の定義は研究によって決まる
員が論文を投稿しようとすると,英文アブストラクトが
なるというのは,本末転倒だと思われる。従来の学会の
ように大学や研究所に所属している者にとっては,この
問題は大したことではないかもしれない。しかし,そう
でない者にとっては重大なことにもなるのである。三つ
発達心理学とは何かということが問われているのだが,
その答はどうやって得られるのか。一つは,発達心理学
以外の学問との関係でその定義がされるであろう。また
一方では,発達心理学に関わる者の中で決定していくも
のでもある。この両者に最も深く関わっているのが,学
会の性質を決定していく総会や常任理事会であろう。こ
こでは他学会との関連,また学会設立の理念など,種々
めは,研究の倫理問題である。編集委員長をしている間
の要因を考慮し検討されていくであろう。
に,このことに関わる論文がいくつか投稿されてきて,
学会内では,編集委員をしていると,先述したような
論文審査にあたって,発達心理学とは何かという問題に
切実にぶつかることになる。そのため,編集委員会も発
達心理学とは何かという問に答を出すことになる。しか
し,最も適切にこの間に答を出していくのは,会員の研
書きにくく,投稿にあたって高いハードルになってしま
う。論文の内容ではなく,形式のために投稿がしにくく
審査上でも問題になった。研究資料のとり方・発表上で
の人権やモラルに関わる問題である。学会が大きくなる
ことと時代の流れの中で,この問題はいずれ避けて通れ
ないと予想してはいたが,その走りがでてきたのである。
発達心理学研究第7巻第1号
7
4
究である。とくに,学会誌に投稿される論文である。心
学とは何かという問の答が得られていくであろう。その
理学は机上の学問ではない。データをもとにして発展し
過程の中で,発達心理学会は自己定義を行ない,アイデ
てきた学問である。発達心理学とは何かという問の答も
ンティティを確立していくものと思われる。
また,データによって決定されていくであろう。そのデー
発達心理学会は,幅広い多種・多量の投稿論文に基づ
タとは,学会員が行う研究である。これからの発達心理
いて,自己定義を検討していく時期にきているのではな
学研究には,多種・多量の研究が投稿されることが望ま
いだろうか。本学会は,青年期の入口にたどりついたよ
れる。その論文の掲載の是非をめぐって,編集委員会ば
うに私には思える。今望まれているのは,会員が積極的に
かりではなく,掲載された論文が発達心理学研究として
発達心理学研究に論文を投稿することではないだろうか。
妥当かどうかを会員が検討することによって,発達心理
1996.5.8受稿,1996.6.4受理
「発達心理学研究」のこれまでとこれから
中津潤
(千葉大学)
発達心理学の位置
人間の生涯にわたる発達的変化の過程を理解すること
きた日本教育心理学会の「教育心理学研究」の同じく1990
年から1995年までの6巻308論文についても分析してみた。
は,心理学において基本であり,発達心理学は心理諸科
被験者をみると,「発達心理学研究」では幼児(31:40.8%)
学の中でも基礎的な領域である。しかし,日本の発達心
が最も多く,次いで児童(12:15.8%),乳児(7:9.2%),
理学は必ずしもそのような位置を与えられてはこなかっ
成人(6:7.9%),大学生(5:6.6%),障害児(4:5.3%),
たように思う。現在でも,伝統的な文学部の心理学科に
中高生(3:3.9%),老人(3:3.9%),動物(2:2.6%)
発達研究者がいることは稀である。また発達心理学は,
の順で,その他として生体を対象としないテレビや教科
日本では教員免許に関わり教育学部に設定されることが
書の分析や展望論文がある(3:3.9%)。
多く,そのため教育心理学と密接な関連を持ってきた。
一方,「教育心理学研究」では大学生(96:31.2%)が
そのことは,発達心理学を教育心理学内の1分野とする
最も多く,次いで児童(69:22.4%),幼児(59:19.2%),
見方をもたらしがちであったように思われる。ある大学
中高生(31:10.1%),成人(15:4.9%),障害児・者(15:
では1年生前期に教育心理学,後期に発達心理学が必修
4.9%),乳児(4:1.3%)の順で,その他として数理モ
とされている。発達的な知識を先に与えた方が教育心理
デルや展望論文などがある(19:6.2%)。
学の理解も進むと思うのだが,これなども基礎科学とし
「発達心理学研究」では「教育心理学研究」に比べ幼児
ての発達心理学の位置付けがまだあいまいな例であろう。
対象の研究の割合が高く,大学生対象の研究が少ない。
また,乳児や成人を対象とする研究の割合は相対的に高
「発達心理学研究」のこれまで
さて,日本発達心理学会が発足して6年。人間でいえ
く,中高生を対象とする研究は相対的に低い。さらに,「教
育心理学研究」に見られない老人と動物研究がある。こ
ばやっと児童期になったばかりではあるが,この学会が
れらは,発達心理学が学校教育という枠を超え,より幅
日本の心理学界にどのようなインパクトを与え得たのか,
広い対象を扱っていること,すなわち生涯性を示すもの
また発達研究者にどのような場を与え得たのかを考えて
であろう。
もいい時期かもしれない。ここでは,その一つの試みと
わずか2編ではあるが,「教育心理学研究」に見られな
して学会活動の重点の1つである「発達心理学研究」を
い動物研究は,基礎科学としての発達研究の一端を示す
とりあげてみたい。東(1990)は「発達心理学研究」の
ものであり,同時に学際性のあらわれと考えられる。ま
発刊にあたり,発達心理学の新たな流れについて,生涯
たテレビや教科書の分析にも学際的な視点への広がりを
性,科学性,学際性をキーワードとして示した。果たし
てこれまでの「発達心理学研究」にこのような流れが反
見ることができよう。乳幼児を対象とする研究でも,乳
児院の処遇の改善効果を検討するといった福祉学と密接
映されているのだろうか。
な関連を持つ実践的・学際的な研究が見られる。
「発達心理学研究」が刊行された1990年から1995年ま
研究法をみると特徴的と思われることは,「発達心理学
での6巻に掲載された76論文の被験者と研究法を,ラフ
研究」では観察(日誌法を含む)を用いた研究が多いこ
ではあるが分類してみた。比較として,発達心理学会が
とがあげられる。21論文(27.6%)が観察法を用いてい
できるまで,多くの発達研究者に論文発表の場を与えて
るのに対し,「教育心理学研究」では30論文(9.7%)で
意見論文
ある(このうち中心的な研究法として観察を用いている
ものは20論文(6.5%)にすぎない)。乳児,幼児,動物
などが対象となることで,観察という科学研究のより基
礎的な手法が重要となることを示している。それととも
に,面接データに基づくものや,シングルケースなど,
個々の対象との関係’性を大切にした研究法が積極的に用
いられていることも「発達心理学研究」の特徴である。
これらの記述的なデータによる研究は,従来の統計的な
数値データの分析手法に必ずしも頼らず,しかも単なる
事例研究を超えた,普遍的な発達の基礎過程を抽出しよ
うとしている点で,科学的研究の新たな局面を切り開こ
うとするものである。
7
5
がこれら領域での研究者の拡大につながってほしい。
保育・教育,福祉や霊長類などでの研究はみられるが,
今後さらに多様な領域との学際研究が掲載されることを
期待したい。例えば,ハイリスク児の発達経過や母子関
係における小児科学や母子看護学・保健学との連携,施
設や公園の設計における建築学や造園学との連携,遊具
や装置の開発における人間工学との連携,事象記憶に関
する法学との連携など,人間の発達特性をふまえようと
する諸科学にとって発達心理学の情報は重要であろう。
そのような学際的研究の成果の発表の場として「発達心
理学研究」の役割は大きい。
このように,「発達心理学研究」のこれまでは,対象や
手法などからみて,発達研究の独自性や特'性を発揮して
きたし,その中で生涯性,科学’性,学際性を示してきた
また,さらに多様な研究法が反映されることも期待さ
れる。乳児を対象とした精密な実験研究や認知発達のコ
ンピュータ・シミュレーションなど発達研究法の可能性
はまだまだ大きいはずである。また縦断的な視点からの
といえるだろう。
研究についても充実が期待される。
「発達心理学研究」のこれから
現在,「発達心理学研究」の年3号化への準備が進めら
れているが,今後は投稿論文だけでなく,欧米の研究誌
にあるような特集論文を組むことも考えていいのではな
では「発達心理学研究」はこれで十分なのかといえば,
そうとは言えないだろう。「発達心理学研究」のこれから
に,何を期待すべきだろうか。
上述のように,これまでは幼児を対象とする研究の割
合がかなり高い。幼児期に人間発達の基礎をみようとす
る志向が強いことが示唆され,それ自体は発達というこ
との1つの捉らえかたであるといえる。ただ,生涯性と
いう観点からすれば,乳児,青年や成人,老人の研究が
さらに増加することを期待したい(青年期や老人期には
それぞれに専門学会誌もあり単純な増加は難しいかもし
れないが)。そのためにも,特に,乳児や成人,老人といっ
た領域での発達研究者の層を厚くする必要がある。従来
の幼児から青年までを対象とする学校教育の枠を超え,
発達科学や生涯発達,発達臨床など,生涯発達を視野に
入れた学部や学科が大学に作られつつあるが,このこと
いだろうか。年4号化にでもなれば1号をそれにあてる
などし,公募あるいは編集委員会の決定などにより,ど
なたかに編集を依頼するのである。そうすれば,その中
で,対象や手法の多様化を図ったり,特に関心の高いテー
マを取り上げることができるだろう。児童期を迎えた「発
達心理学研究」は,単に受け身の形で論文を載せていく
だけではなく,ある意味で能動的な研究誌になって欲し
いと思う。
文献
東洋.(1990).発刊にあたって.発達心理学研究,
1
,
1
.
1996.5.13受稿,1996.6.4受理
フィールド
わが国心理学界における現場心理学のありかたを巡って
佐藤達哉
(福島大学)
はじめに
は,混乱のある点についての整理を行ってみたい。
近年のわが国では,1970年代以降社会学において活性
化したフィールドワーク・ルネッサンス(佐藤,1992)
に影響されつつ,それと連動する形で,フィールドワー
ク的な心理学,あるいは現場心理学(山田,1982)が活
発になされるようになってきた。筆者自身もこの流れに
期待し,また自らも研究を行おうとしているものの,方
法論的な問題に悩まされるようになった。そこで本論で
フィールド
フィーノLド
現場心理学の特徴は,もちろん,研究の「現場性」Iこ
あるがそれはいったい何を指すのだろうか。
1995年1月17日におきた兵庫県南部地震は,その爪痕
を人間の心理にも深く残している。このような事態にお
いて,何らかの研究を行いそれを実践に活かしていくフィー
ルド的な研究が望まれていることは論をまたない。さて,
心理学関連のいくつかの学会では震災後の心理学的研究
発達心理学研究第7巻第1号
7
6
のことを取り上げていたが,それらについて常に話題に
出すこともあれば,自然な条件における行動の数を数え
なっていたのは,研究の行い方の問題であった。つまり,
るといった形でデータを生み出すこともある。集められ
今回の震災は現場での研究の必要性を喚起したが,その
たデータは多くの場合何らかの処理を施され,かつデー
要請に応えられるだけのテクニックが必ずしも備わって
タが生成された諸条件との関係によって解釈されること
いなかったことが指摘され続けていたのである。現場で
になる。データ主義的の対語はテクスト主義的である。
フィールド
研究を行えば現場心理学的な研究が行えるわけではなし、
テクストとは狭い意味での文書の類ではなく,ここでは
「読み解かれるもの」という意味である。つまり,既に存
のである。
おそらく,現場性が象徴することは単なる場所的概念
在するものについて,その意味を全体的に解釈していこ
ではなく,研究の視点や方法についてさまざまな問題が
うという姿勢である。
含まれている交絡(confounding)的な概念であると思わ
れる。そこで以下では,現場心理学的研究の意義を考え
(2)現場心理学的であるということ
フィールド
フィールド
スタイルを「鏡」として,それとの対照で考えてみるこ
「先行知見重視的・人工的・定量的・仮説検証的・反復
的・データ主義的」な研究に対する一種のアンチテーゼ
とにしたい。
として,現場心理学が提唱・実践されているとして,こ
るため,この研究志向が乗りこえようとする既存の研究
フィールド
こで問題になるのは「先行知見重視的・人工的・定量的・
フィールド
(1)現場心理学の反面教師とその特徴
フィールド
現場心理学的研究が乗りこえようとする研究は,簡単
仮説検証的・反復的・データ主義的」の「・」の部分で
ある。この「・」は全て「&」の意味を持つのであろう
に言えば「従来的で型にはまり面白くない研究」のこと
か。そうではないだろう。そのような想定をするならば,
であるが,言うまでもなくこのような記述では意味がな
現場心理学は単なるアンチテーーゼであり,単純な二項対
い。乗りこえようとした研究のことを「先行知見重視的・
立に陥ってしまう。
人工的・定量的・仮説検証的・反復的・データ主義的」
な研究として捉えてみよう。
先行知見重視的とは,これまでに発表された関連論文
から研究の問題意識を発見するあり方のことを言い,そ
フィールド
りょうが
もちろん多くの点で従来の研究を凌駕してし、る研究(た
とえば麻生,1990など)が重要であることは言うまでも
ない。この研究は「実践的・生態的・定性的・仮説生成
的.1回的」な研究であり学界への貢献は大きい。
の対比としては実践的という言葉があたるだろうし,自
その一方でやまだ(1995)の試みは「データ主義的」
らの体験を重視するということもある。もちろん,同じ
ではなく「テクスト主義的」であるところに,わが国の
学問分野の先人が行った研究成果を尊重するのは最低限
心理学に与える大きな意義の可能性を感じることができ
のマナーである。しかし,そのことと海外で行われてき
るのである。金子(1993)のように,「実践的」で切実な
た研究知見の問題意識を素朴に受け入れて追試すること
問題を扱うからこそ,「定量的」「データ主義的」な研究
とは別である。
を行うことに高い意義が与えられる場合だってあるだろ
人工的とは,抽象的な条件設定を行ってデータをとろ
うとすることである。生態的がその対語である。
定量的とは,研究の結果を量に還元することで評価し
ようとする姿勢であり,条件を整えた実験や調査によっ
て可能になることが多い。対語としては定性的となる。
仮説検証的とは,研究者が設定した仮説を検証するこ
とを研究の目的とする姿勢であり,その対極は仮説生成
的ということになる。また,記述的ということがあたる
う。佐々木(1993)のようにその一部に実験的観察を盛
り込んだ「人工的」「データ主義的」な面のある研究,遠
藤(1991)のように数を数えるという意味で「定量的」「デL一
タ主義的」研究もまた,新しい流れのものとして位置づ
けることができる。
(3)おわりに
フィールド
今回,現場心理学のあり方を捉えるために用し、た概念
かもしれない。
は,相互に関連しあっていて,決して独立したものでは
反復的とは,現象が再現されうることを重視し追試が
可能である事態を研究しようとする志向であり,1回的
な事象は扱わないとする態度である。なお,反復的とは
ある意味で現象の普遍性を強く意識している態度のこと
であるから,被験者の数が少数であっても多数であって
も,その結果は他の多くの人びとにも適用できると考え
ない。しかし,だからこそ,概念を細分化することで見
る
。
えてくる部分があるのではないかと考えたのである。個
人的には,現場的研究を行いながらも数量的なデータを
とりたがる自分の性癖に悩んでいたし,あるいは,映画
の解読が心理学に寄与しうるのかということにも頭を悩
ませていた。
しかし,それらは杷憂なのである。もちろん,現場に
データ主義的というのは,研究者がデータを作り出し
いさえすればいいのではない。問題設定を現場に即した
て検討することである。実験のように自らデータを作り
ものにして,様々な可能性を楽しみながら,研究を行っ
7
7
意 見 論 文
要なことは彼らの志向そのものではなく,むしろ,後続
ていけばよいのだろう。
一般に物事の認識は,「混沌一分化一統合」という順序
の心理学者がその志向を受け継がなかったことである。
フィールド
で進んでし、く。現場心理学は「分化」の段階に進み,多
その主要な理由の一つは,実験的な心理学の方が後続の
様な可能性を考えるべきところにきている。知りたい現
研究者にとって研究を遂行しやすかったからではないか
象について自由にアプローチする研究こそが,フィール
と考えられる。
フィールド
ドワーク・ルネッサンスにふさわしい研究であると言え,
そこで培われた技術こそ,現場性のある問題が生起した
現場心理学はかつての轍を踏まないように方法論的な
議論を活発に行っていく必要がある。
ときにも役立つのではないかと考えられる。
もちろん,考察すべき点もまた多く残されている。た
文献
フィールド
とえば,現場心理学における論証のあり方である。研究
が「データ主義的」なものであるならば,従来の論証方
法がふんだんに使用できる。しかし,データが「テクス
ト主義的」であったりあるいは研究対象となる現象が
「1回性」の強い事象である場合には,必ずしもその論証
麻生武.(1990).“口,,概念の獲得過程.発達心理学研
究,1,20-29.
遠藤司.(1991).体を起こすことと外界を受容するこ
と.発達心理学研究,2,32-40.
金子龍太郎.(1993).乳児院・用語施設の養育環境改善
方法が整備されているわけではない。この点について南
に伴う発達指標の推移.発達心理学研究,4,136-144.
(1991)は,ハバーマスの考え方を援用して裁判における
南博文.(1991).事例研究における厳密性と妥当性.
論証のあり方を参考にする可能‘性を提案している。
学問は単なる自己満足や井戸端会議ではなく,知識の
発達心理学研究,2,46-47.
佐々木正人.(1993).「発話にともなう手振り」の現れと
フィールド
積み上げと体系化が求められる。現場心理学が新しし、心
視覚的他者.発達心理学研究,4,1−12.
理学のあり方を目指すとするなら,その論証方法につい
佐藤郁哉.(1992).フィールドワーク.東京:新曜社.
ても合意的(consensual)かつ妥当な方法の整備が必要だ
山田洋子.(1982).モデノレ構成をめざす現場心理学の方
フィールド
し,その点についての提案もなければ,単なるアンチテー
ゼか,一部の人の名人芸に終わってしまう。
心理学史をひもとくと,近代心理学の祖W・ヴントや
わが国心理学の父松本が,フィールド的な研究を志向し
ていたことが分かって非常に興味深い。だが,ここで重
法論.愛知淑徳短期大学研究紀要,25,31-50.
やまだようこ・(1995).『羅生門』にみる当事者・目撃者・
傍観者の物語り.日本心理学会第59回大会発表論文集,
.
1
1996.5.16受稿,1996.6.4受理
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