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監査リスクと監査上の重要性

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監査リスクと監査上の重要性
監査基準委員会報告書第5号(中間報告)
監査リスクと監査上の重要性
平 成 7 年 3 月 28日
改正 平 成 14年 5 月 30日
日本公認会計士協会
本報告書の目的
1.本報告書は、監査リスクと、それと密接な関係にある監査上の重要性に関する実務上の
指針を提供するものである。監査リスクと監査上の重要性は、実施する監査手続、実施の
時期及び範囲の決定並びに監査手続の実施により入手した監査証拠の評価において検討さ
れる。
監査リスク
2.監査リスクとは、監査人が財務諸表の重要な虚偽の表示を看過して誤った意見を形成す
る可能性をいう。
3.監査人は、不正及び誤謬による財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないように監査を
実施するために、監査リスクを合理的に低い水準に抑えなければならない。
4.監査は、勘定や取引を対象として実施されるので、財務諸表全体として決定された監査
リスクの水準を、個々の勘定や取引又は監査要点の監査リスクの水準として用いる。
監査リスクの構成要素とその評価尺度
5.監査リスクは、固有リスク、統制リスク及び発見リスクの三つの要素で構成される。な
お、これらのリスクの程度の評価又は決定は、画一的な尺度に照らして行われるものでは
なく、監査人の職業的専門家としての判断に基づいて行われるものであるため、その評価
結果は相対的なものであるといえる。
固有リスク
6.固有リスクとは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、財務諸表に重要
な虚偽の表示がなされる可能性をいい、企業内外の経営環境により影響を受けるリスク及
び特定の勘定や取引が本来有する特性から生ずるリスクからなる。
固有リスクの要因
7.監査人は、監査計画の策定に当たって、財務諸表に存在している可能性のある重要な虚
偽の表示を看過しないようにするため、固有リスクの要因を検討し、固有リスクを識別す
る。監査人は、識別した固有リスクが実際に重要な虚偽の表示の原因となっているかどう
かを監査証拠を入手して判断できるように監査計画を策定しなければならない。
8.固有リスクの要因には、例えば次のものがある。
(1) 企業内外の経営環境
- 1 -
・
企業が属する産業の状況
・
景気の動向
・
企業の社会的信用
・
競争の状況
・
製品・サービスに関連する技術革新の影響
・
消費者の需要動向の変化
・
事業の特殊性
・
業界に特殊な会計慣行
・
新たな会計基準の採用
・
採用している情報技術(IT)及び情報システム
・
複雑な資本構成
・
関連当事者の重要性
・
経営者の誠実性
・
経営理念及び経営方針
・
経営者の会計・開示制度に関する知識の程度
・
任期途中の経営者や幹部の交代
・
経営者に対する異常な圧力
・
経営組織や人的構成
・
取締役会の監督又は監査役会若しくは監査役の監査の機能
(2) 特定の勘定や取引が本来有する特性
・
専門家を必要とするような特殊又は複雑な取引及び事象
・
年度末又はその近くでの多額又は複雑な取引
・
通常の処理によらない例外的な取引
・
経営者の見積りや判断を必要とする項目
・
現金や有価証券等の資産の流用の可能性
なお、固有リスクの要因により識別される固有リスクの例は、付録に示している。
固有リスクの評価
9.監査人は、固有リスクの評価に際して、会社の事業内容を理解することが重要である。
会社の事業内容を理解するため、種々の情報を入手し、検討しなければならない。また、
会社の過年度の財務諸表数値、当年度の予算数値等及び今後の会社の事業計画等を十分に
把握するとともに、監査計画段階の分析的手続を実施しなければならない。さらに、継続
監査においては、過年度の監査で発見された虚偽の表示の発生原因、内容及び金額なども
併せて検討することが必要である。
10.監査人は、固有リスクについて、勘定や取引の監査要点ごと又は勘定や取引ごとに、監
査人の職業的専門家としての判断により評価する。例えば、ある勘定や取引の監査要点ご
とに評価できる場合には、特定の監査要点に係る固有リスクの程度を高いとし、その他の
監査要点については中位又は低いとする。また、勘定や取引ごとに評価する場合で、固有
- 2 -
リスクの程度を高いとしたときには、その勘定や取引に関連するすべての監査要点につい
て固有リスクの程度は高いとする。
11.監査人は、固有リスクを識別したときには、実際に財務諸表の重要な虚偽の表示となっ
ているかどうかを実証手続により確かめるため、可能な限り、識別した固有リスクを特定
の勘定や取引又は関連する監査要点に関連付けることが必要である。
12.識別した固有リスクを特定の勘定や取引又は関連する監査要点に関連付けることができ
ない場合には、監査人は、固有リスクの程度を高いとする必要はないが、職業的懐疑心を
高めるとともに、実施する監査手続、実施の時期及び範囲並びに往査する事業所の数につ
いて検討し、さらに当該リスクに関連する知識や経験を有する監査補助者の配属又は専門
家の利用及び監査補助者への指導監督の程度の強化の必要性についても考慮しなければな
らない。なお、このような場合、監査人は、勘定や取引又は関連する監査要点の固有リス
クの程度を中位とすることが多い。
13.識別した固有リスクを特定の勘定や取引又は関連する監査要点に関連付けることができ
ない場合でも、監査の実施の過程で、特定の勘定や取引又は関連する監査要点に関連付け
ることができることがある。このような場合、当該固有リスクの程度を修正し、高いとし
なければならない。
14.監査人は、特定の勘定や取引が本来有する特性を検討して、特定の勘定や取引又は関連
する監査要点において重要な虚偽の表示が発生する可能性について評価しなければならな
い。例えば、棚卸資産が高価な貴金属品の場合、その盗難の可能性等を考慮して、当該棚
卸資産又は関連する監査要点である実在性に係る固有リスクの程度を高いとする。
また、企業内外の経営環境が、特定の勘定や取引又は関連する監査要点に及ぼす影響を
考慮しなければならない。例えば、景気が後退期にあるため、陳腐化した棚卸資産が増加
し、与信先の業績悪化により回収不能債権が増加すると予想される場合、棚卸資産、売掛
金及び受取手形又はそれぞれに関連する監査要点である評価の妥当性に係る固有リスクの
程度は高いとする。経営者が積極的な経営方針を掲げ、厳しい販売目標を設定している場
合で、従業員が、その圧力に耐えられず、押込販売を行ったり、架空売上を計上する可能
性があると監査人が判断したときは、売上高又は関連する監査要点である実在性の固有リ
スクの程度を高いとする。
15.監査人は、固有リスクの評価に当たって、事業所の数が多い企業又は子会社及び関連会
社の数が多い企業グループを監査する場合、往査する事業所等の決定に次の事項を考慮し
なければならない。
・
事業所等の資産や取引の内容及び金額の重要性
・
記録の保存や情報処理の集中度
・
統制環境の有効性、特に事業所等の責任者に委譲した権限に対する経営者の直接的な
コントロール及び事業所等に対する経営者による管理の有効性
・
事業所等に対する又は事業所内での監視活動の頻度、タイミング及び範囲
・
事業所等に対する重要性の基準値
- 3 -
統制リスク
16.統制リスクとは、財務諸表の重要な虚偽の表示が、企業の内部統制によって防止又は適
時に発見されない可能性をいう。
統制リスクの評価
17.監査人は、内部統制の理解に基づいて統制リスクの程度を暫定的に評価し、内部統制の
整備及び運用状況に係る統制評価手続を実施して、取引サイクルに関連する監査要点ごと
に統制リスクの程度を評価しなければならない。監査人は、内部統制が未整備等のため内
部統制に依拠して監査を実施できないと判断し、実証手続のみによって監査を実施すると
きには、統制リスクの程度を高いとしなければならない。
18.取引サイクルの監査要点は、関連する勘定や取引の監査要点に関連付けられなければな
らないことに留意する。
19.監査人は、統制評価手続の実施の結果が統制リスクの暫定的評価を裏付けるものでない
ときには統制リスクの程度を中位又は高いに修正するとともに、発見リスクの程度を改訂
して実証手続を実施しなければならない。
発見リスク
20.発見リスクとは、企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な
虚偽の表示が、実証手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。
21.監査人は、発見リスクの程度に適合するように、実施する実証手続、実施の時期及び範
囲を決定しなければならない。監査リスクへの対応は、発見リスクの程度に適合した実証
手続の実施にあることに留意する。
発見リスクの決定
22.監査人は、発見リスクの程度を、勘定や取引の監査要点ごとに、監査リスクの合理的に
低い水準並びに固有リスク及び統制リスクの評価の結果に基づいて決定しなければならな
い。
23.監査人は、監査リスクの構成要素のうち、固有リスク及び統制リスクの程度を評価する
ことはできるが、これらのリスクの程度そのものを直接変動させることはできない。固有
リスク及び統制リスクの程度がともに高い場合、監査リスクを合理的に低い水準に抑える
ために、発見リスクの程度を低くする必要がある。また、固有リスク及び統制リスクの程
度がともに低い場合、発見リスクの程度を高くしても監査リスクを合理的に低い水準に抑
えることが可能となる。このように、発見リスクの程度は、一定の監査リスクの水準の下
では、固有リスク及び統制リスクの程度と逆の関係になることに留意する。
24.決定された発見リスクの程度は、監査計画の策定に際して、勘定や取引の監査要点に対
して選択適用する実証手続、実施の時期及び範囲の決定を行う場合の基礎となる。
監査リスクの評価に関する監査調書の作成
25.監査人は、監査計画の策定の基礎とするために、合理的に低い水準に決定した監査リス
クの水準、固有リスクと統制リスクの程度の評価結果及びこれらによって決定された発見
- 4 -
リスクの程度について、監査調書に記録する必要がある。
構成要素の相互関係
26.固有リスク及び統制リスクの程度と監査人が設定する発見リスクの程度との相互関係を
表にまとめると、次のとおりである。この相互関係は、監査要点ごとに適用される。なお、
固有リスクと統制リスクについて、監査人は、通常、これらのリスクを個別に評価するが、
両者を結合して評価することもできる。
−構成要素の相互関係−
固有リスクの程度
高い
中位
低い
高い
(注) 表中の高、中、低は、監査人が
低
設定する発見リスクの程度を表わ
中
す。
中位
統制リスクの程度
低
低: 発見リスクの程度を低く抑える
低
中
高
ような監査手続が要求される。
中: 発見リスクの程度を中水準に保
低い
つ監査手続でよい。
中
高
高
高: 発見リスクの程度を高くしても
よい程度の監査手続でよい。
この監査リスクの構成要素の相互関係を論理モデル式で示すと次のようになる。
監査リスク
=
発見リスク
=
固有リスク×統制リスク×発見リスク
監査リスク
固有リスク×統制リスク
この論理モデル式は、算式ではないことに留意する。
発見リスクの程度と適用する実証手続との関係
27.発見リスクの程度を低い水準に抑えるためには、通常、以下の対応が必要となる。
(1) より強い証明力を有する監査証拠を得るための実証手続を選択する。
(2) 貸借対照表日により近い時期に実証手続を実施する。
(3) 実施する実証手続の範囲を拡大する。
なお、発見リスクの程度を高くしてもよいときには、推定値を利用した分析的手続を適
用することにより、それ以外の実証手続を実施しないか又は縮小すること等の監査の効率
化を図ることが可能となることに留意する。
監査計画の修正
28.監査人は、当初の監査計画に基づいて監査を実施している過程で発見した虚偽の表示の
- 5 -
兆候を検討した結果、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過する可能性が高いと判断した場
合等で、監査の実施の過程で固有リスク又は統制リスクの評価を変更するときには、当該
変更が監査リスクの水準に及ぼす影響を考慮し、監査計画の見直しの必要性を検討しなけ
ればならない。
監査上の重要性の判断基準
29.監査人は、監査リスクを考慮する場合には、監査上の重要性を検討しなければならない。
監査上の重要性は、財務諸表全体に与える虚偽の表示の影響を考慮して判断されるが、発
見された虚偽の表示が個別に又は集計して重要であるかどうかの判断に当たっては、財務
諸表の利用者の経済的意思決定に影響を与える程度を考慮しなければならない。
監査上の重要性と監査リスクとの関係
30.監査人が考慮する監査上の重要性と監査リスクとの間には、相関関係がある。他の条件
が一定であれば、当初決定された監査上の重要性のもとで評価された監査リスクは、監査
上の重要性が変更されると、それに応じて変化することになる。すなわち、監査人が監査
上の重要性を、当初よりも大きくした場合には、監査リスクは当初の水準よりも低くなり、
また、監査上の重要性を、当初よりも小さくした場合には、監査リスクは当初の水準より
も高くなる。
31.監査人は、監査計画の策定において、実施する監査手続、実施の時期及び範囲を決定す
るため、この監査上の重要性と監査リスクの合理的に低い水準との相関関係を勘案する。
重要性の基準値の決定
32.監査人は、監査計画の策定において、財務諸表において重要であると判断される虚偽の
表示の金額を重要性の基準値として決定しなければならない。重要性の基準値は、十分か
つ適切な監査証拠を入手するための重要な要素であるため、その決定においては、虚偽の
表示の質的影響にも注意を払わなければならない。しかし、監査人は、財務諸表には全体
として重要な虚偽の表示がないということについて合理的な保証を入手できるように監査
を計画し、実施しなければならないが、金額的に重要でない虚偽の表示のすべてを発見す
るように監査計画を策定することは想定されていない。したがって、監査計画の策定にお
ける重要性の基準値は、通常、金額的影響を考慮して決定される。
33.監査計画の策定に際しての重要性の基準値の決定に当たっては、通常、前年度の財務諸
表数値や当年度の予算に基づく財務諸表数値等を基礎とし、一般的には次に掲げる事項が
考慮される。
・
売上高に与える影響
・
経常利益、当期純利益等の各段階の損益に与える影響
・
総資産に与える影響
・
自己資本に与える影響
なお、当年度の財政状態や経営成績が異常である場合には、上述の事項について単に当
年度における影響のみを考慮するのではなく、過年度の数値を参考として正常な財政状態
及び経営成績を算定し、それらも併せて考慮する必要がある。
- 6 -
34.監査人は、重要性の基準値を基に、勘定や取引ごとの重要性の値を考慮する必要がある。
この値は、監査人の職業的専門家としての判断により、重要性の基準値より相対的に小さ
い金額として決定する。これは、特定の勘定や取引において発見した虚偽の表示の金額が
重要性の基準値を超えていない場合であっても、発見したすべての虚偽の表示の金額を合
計すると重要性の基準値を超える場合も考えられるからである。
重要性の基準値の改訂
35.監査計画の策定において決定された重要性の基準値は、その後において改訂される場合
がある。重要性の基準値の決定に際して用いた過年度の財務諸表数値又は当年度の予算に
基づく財務諸表数値と当年度の財務諸表数値の実績との間に大きな乖離が生じている場合
には、監査人は、必要に応じて重要性の基準値を改訂しなければならない。
36.監査人は、重要性の基準値を改訂した場合、その改訂が発見リスクの程度に及ぼす影響
を考慮するとともに、それまでに実施した監査への影響も検討し、監査計画の見直しを行
い、必要に応じて、統制評価手続又は実証手続を追加して実施しなければならない。
重要性の基準値における質的側面の検討
37.重要性の基準値の決定においては、通常、金額的影響が考慮されるが、虚偽の表示の質
的影響にも注意を払わなければならない。監査人は、特定の勘定や取引又は監査要点、あ
るいは特定の監査対象領域について、質的影響から重要であると判断した場合、当該特定
の勘定や取引等に関して重要性の基準値を小さくして監査手続を実施することがある。
38.監査人は、監査の実施の過程で金額的には重要でないが、質的影響から検討を要する虚
偽の表示を発見した場合、当該虚偽の表示が発生した原因を把握し、固有リスク及び統制
リスクの再評価を行うとともに監査計画を見直し、同様の虚偽の表示が他の勘定や取引又
は監査対象領域にも含まれていないか、又は影響を及ぼしていないかどうかを確かめなけ
ればならない。
監査意見表明に当たって考慮すべき監査上の重要性
39.監査意見形成に係る重要性は、監査計画の策定に際して決定する重要性の基準値と密接
な関係にある。しかし、両者は、監査計画の策定の時点で基礎とした予算等による数値と
当年度の実績数値との間に乖離が生じる場合がある等の理由により必ずしも同一ではない。
40.監査人は、監査意見表明に当たって、財務諸表における項目の金額、小計額又は合計額
と適宜関連付けて未訂正の発見した虚偽の表示を集計し、その集計した虚偽の表示が財務
諸表全体にとって重要であるかどうかを評価しなければならない。この評価に際して、金
額的影響のみならず、質的影響についても考慮しなければならない。監査人は、考慮すべ
き監査上の重要性における金額的影響について、重要性の基準値(改訂されているときは
改訂後の基準値)又は財務諸表の実績数値に照らして検討する。なお、ごく少額の虚偽の
表示でそれが集計しても財務諸表全体に重要な影響を及ぼさないことが明らかな場合には、
当該虚偽の表示を未訂正の発見した虚偽の表示の集計から除外することができる。
- 7 -
監査人が推定する虚偽の表示
41.監査人は、未訂正の発見した虚偽の表示の集計には、実際に確かめられた虚偽の表示と
ともに、以下の監査人が推定する虚偽の表示を含めなければならない。
(1) 推定値を用いた分析的手続の重要な差異について調査を実施したにもかかわらず、十
分な回答が得られなかった場合又は回答の合理性を確かめられなかった場合の重要な差
異の金額
(2) 統計的サンプリングを用いて実証手続を実施した場合、母集団の推定誤謬額からその
推定の基礎となったサンプル中に発見した虚偽の表示の金額を控除した金額
(3) 会計上の見積りの監査において監査人が独自の会計上の見積りを行った場合、会社に
よる見積額と監査人の許容範囲との差額(会社見積額が許容範囲の上限を超える場合に
は超過額又は下限に満たない場合には不足額)
過年度における虚偽の表示
42.監査人は、過年度の未訂正の虚偽の表示が当年度の財務諸表に影響を与えている場合、
未訂正の発見した虚偽の表示の集計には、その影響も含めなければならない。
虚偽の表示の集計への監査人の対応
43.監査人が未訂正の発見した虚偽の表示の合計額が重要であると判断した場合には、財務
諸表に存在する虚偽の表示が実際に確かめられた虚偽の表示よりも大きい可能性があり、
実施した監査が十分でなかった可能性が残る。このため、経営者に確定した虚偽の表示を
訂正することを求めるかどうか、又は監査人が推定する虚偽の表示が実際に虚偽の表示で
あるかどうかを確かめるために実証手続を追加して実施するかどうかを検討する必要があ
る。
44.監査人は、経営者が監査人の求めに応じて行った訂正又は追加した実証手続の実施の結
果を考慮しても、未訂正の発見した虚偽の表示の合計額が重要であると判断した場合、表
明する監査意見への影響を検討しなければならない。なお、監査人が推定する虚偽の表示
は実際に確かめられた虚偽の表示ではないため、監査人は、十分かつ適切な監査証拠によ
る裏付けがある場合を除き、監査人が推定する虚偽の表示を除外事項として取り扱うこと
ができないことに留意する。
発効及び適用
45.本報告書は、平成7年3月28日に発効し、平成7年4月1日以後開始する事業年度に係
る監査から適用する。
46.「監査基準委員会報告書第5号(中間報告)「監査上の危険性と重要性」の改正につい
て」(平成14年5月30日)は、平成15年3月1日以後終了する事業年度に係る監査から適
用する。
- 8 -
〔付 録〕
固有リスクの例
1.企業内外の経営環境の影響を受けて、例えば、次のような固有リスクが生じる。
・
景気の後退期になると、棚卸資産の在庫が増加し、陳腐化した棚卸資産が滞留する可
能性がある。また、与信先の業績が悪化し、債権が回収不能になる可能性もある。
・
会社が技術革新のテンポの著しく速い産業に属する場合には、生産設備の陳腐化が著
しく、遊休資産の発生の可能性が高い。また、棚卸資産が陳腐化し販売不能となる可能
性も高くなる。
・
商慣習が確立していない業界に会社が属する場合には、売上計上時点が不明確であっ
たり、代金の回収も規則的に行われなかったりして、異常が識別しにくいので、不正が
行われる可能性がある。
・
為替相場の変動が激しい状況のもとでは、為替取引や金融商品取引にかかわっている
会社の場合、先物為替予約や通貨オプション取引などの失敗により巨額の損失が発生す
る可能性がある。
・
受注産業に属する会社の場合、熾烈な受注競争が展開されると、裏リベート等の支出
が発生する可能性がある。
・
不動産、宝飾品又は美術品などが商取引の対象となる場合には、その取引価格に必ず
しも客観性があるわけではないので、利益操作の道具とされる可能性がある。
・
顧客が特定少数である場合には、顧客が不特定多数の場合より、親密な関係が構築で
きるので、不正が発生する可能性が高い。
・
取締役会や監査役の監視機能が十分に作用していない場合には、経営者や従業員が不
正を行う可能性がある。
・
経営者が積極的な経営方針を掲げ、厳しい販売目標を設定している場合、従業員が、
その圧力に耐えられず、押込販売を行ったり、架空売上を計上する可能性がある。
・
経営者が開示制度の重要性を十分に理解していない場合、会計方針の採用につき、適
切な判断ができなかったり、会計方針を適当に変更して利益操作を行う可能性がある。
2.特定の勘定や取引が本来有している特性によって、例えば、次のような固有リスクが生
じる。
・
現金や有価証券は、盗難の危険性が高く、また、経営者や従業員の横領の対象となる
可能性がある。
・
資産の評価や引当金の計上は、経営者の見積りや判断を必要とするので、実際の商取
引に基づく会計記録より虚偽の表示の生じる可能性が高い。
- 9 -
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