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“光”新世代ビジョン

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“光”新世代ビジョン
特 集
“光”新世代ビジョン
“光”新世代ビジョン
―ブロードバンドでレゾナントコミュニケーションの世界へ―
和田 紀夫
NTT代表取締役社長
NTTは,5年先の光による本格的ブロードバンド&ユビキタス
時代の社会生活・企業活動の変革を展望するとともに,NTTグ
ループの取り組みをとりまとめた「
“光”新世代ビジョン」を発
表しました.ここでは,昨年11月に開催された「NTT R&Dフォー
ラム2002 in 武蔵野」において,和田紀夫NTT代表取締役社長が
講演した「
“光”新世代ビジョンとR&Dの取り組み」について紹
介します.
VI & P構想を提唱し,光アクセス技術
特に,ここ数年は,フレッツ系サービ
を用いた広帯域サービス実験や無線
スや企業向けIPサービスであるワイド
アクセス技術を用いたパーソナル通信
LANサービスなど新しいブロードバンド
NTTは,技術革新に基づく将来構
サービス実験を中心とする総合実験を
サービスを開発・提供し,市場のニー
想をビジョンとして作成するとともに,
通じて,技術の蓄積を図ってきました.
ズにこたえてきました.
これに沿うかたちで基礎研究や実証実
VI & P構想をより具体化して,マル
ITに対する世の中の期待度が,これ
験を行い,その成果を新しいサービス
チメディアが世の中に与えるインパク
までどのように変化してきたかを図1
として花開かせてきました.
トを明示したマルチメディア基本構想
に示します.
ブロードバンド&ユビキ
タス時代の到来
6
1979年のINS構想では,それまで
を1994年に発表し,これに基づき新
ちょうどNTTがVI & P構想を発表し
の電話時代から高度情報化社会の多
しい利用方法,利用技術(アプリケ
た90年代初頭に,米国においてイン
様なニーズに対応できるISDN(サー
ケーション)の開発・創造を目的とす
ターネットの商用利用が拡大し始め,
ビス総合ディジタル網)構築に向けて
るマルチメディア共同利用実験を行い
それまでの電話中心のコミュニケー
技術的検証や利用方法の開拓を行い,
ました.この成果に基づき,IP系サー
ションから,インターネットによるコン
1988年に世界に先駆けて国際標準に
ビスの先 駆 けであるO C N ( O p e n
ピュータ通信の普及へ,という大きな
準拠したINSネットサービスを開始し
Computer Network) を開 発 ・ 提
変化が始まりました.そして,マルチ
ました.
供するとともに,1998年の情報流通
メディア基本構想を発表した直後の
1990年には,ネットワークのディジ
構想により,ディジタルネットワーク
1995年ごろから,“.com(ドットコ
タル化の推進を背景に,グローバルな
を活用した異分野技術との融合による
ム)”と呼ばれるインターネットを利用
高度情報通信社会の実現を目指した
新しい領域の開拓を進めてきました.
した新しいビジネスを立ち上げようと
NTT技術ジャーナル 2003.2
特
集
1979年
INS構想
1998年
情報流通構想
1990年
VI&P構想
2002年
“光”新世代ビジョン
1994年
マルチメディア基本構想
期
待
度
日本,欧州
1999年IPO
投資家の興味減退
米国1997∼98年
IPO
“.com”企業の
株価暴落と淘汰
“.com”
の始まり
企業の
興味減退
電話中心の
コミュニケーション
本格的ブロードバンド&
ユビキタス時代の到来
インターネット,
Web
テクノロジの
黎明期
1975∼1980∼1985∼1990∼1995
過度な期待
のピーク期
1997
1998 1999
2000
幻 滅 期
2001 2002 2003 2004
啓蒙活動期
2005 2006 2007
安定期
2008 2009 2010
Gartner資料をベースに作成
図1 ITへの期待度の変化
いう企業が数多く生まれました.この
1つ目は,現在インターネットが
3つ目は,この“光”新世代に向け
ころから,ITの可能性を信じて投資家
「ナローバンドからブロードバンド」へ
た,NTTグループの取り組みについて
の期待度が急上昇し,日本でマザーズ
の大きな変革期を迎えており,いわゆ
明らかにすることです.つまり,副題
やナスダックジャパンが生まれた1999
るIT革命の第2フェーズに入ってきた
に掲げた「光によるレゾナントコミュ
年にはそれがピークに達しました.そ
重要な時期にあることです.その際,
ニケーション環境」の実現に向けて研
の後は,過度に膨らんだITへの期待が
主流となるサービスは,映像による双
究開発を推進するとともに,グローバ
急速に減退するとともにそれまでの過
方向コミュニケーション型であり,そ
ル情報流通事業に携わるものとして果
剰投資が大きく影響し,“.com”企業
の意味から高速・広帯域,常時接続,
たすべき役割・ミッションについてそ
の淘汰,さらには米国大手通信事業
双方向性に優れた光がこれからのネッ
の方向性を明らかにすることです.
者の経営破たんという事態に至りまし
トワークの本命になります.
レゾナントとは,「共鳴する,共振
た.私たちは,ITは現在幻滅期にある
2つ目は,光による映像の双方向コ
する,響く」の意味を持つ英語で,レ
と認識していますが,これからの本格
ミュニケーションを基本とする種々の
ゾナントコミュニケーションとは,「人
的ブロードバンド&ユビキタス時代に
アプリケーションが,
「時間と距離の制
や企業など世の中のあらゆるものが」
向けた市場の活性化が始まると確信し
約」の解消によるグローバルな“知”
ています.
の共有化,“知”のビジネス化を可能
ティブ)に」「“いつでも,どこでも,
とし,安全で豊かな社会生活の実現や
誰(何)とでも”ユビキタスにネット
企業活動の生産性・競争力の強化に
ワークに結ばれ」「“安全・確実・簡
資すること,また,現在の日本が抱え
単”でユーザビリティに優れ」,世の中
“光”新世代ビジョンを策定した背景
る少子高齢化や環境問題等の社会的
と「共鳴」しながら進歩する,光によ
と目的について3つのポイントを述べ
課題を解決する重要なファクターの1
る新世代のコミュニケーション環境を
ます.
つになり得ることです.
意味するものとして,ネーミングした
“光”新世代ビジョン
これらの歴史的変遷を踏まえ,今,
「ブロードバンドで双方向(インタラク
NTT技術ジャーナル 2003.2
7
“光”新世代ビジョン
業が持つ知(知識)の共有化,リア
ものです.
レゾナントコミュニケーション環境
ります.
リティの共有化,商(商取引)のボー
図4は,シニアの社会参画を事例と
ダレス化が進展します.これにより個
して取りあげています.宮崎県にお住
人や企業は,世界中に存在する“知”
まいの高校の美術の先生を定年退職し
の最適な選択・組み合わせ,つまり
たご主人と奥さんのご夫婦がモデルで,
「知の協創」が可能となり,社会生活
子供夫婦は東京に住んでいます.ご主
や企業活動を大きく変革する新たな2
人は,フランスのバーチャル大学にネッ
つの行動モデルが出現すると考えます.
ト留学し,絵画の歴史を学んでいます.
1つ目が,個人の「個倍化」という
自動通訳・翻訳が装備されているの
行動モデルです.個倍化とは,1人の
で,言語の壁はありません.また,自
人間が複数の立場になるという意味の
宅で絵の創作活動を続け,バーチャル
造語で,大きく次の3つの特徴を持っ
展覧会に出展したり,ネットを通じて,
ています.
全国の絵を趣味とする人に,週2回有
・ビジュアルなFace-to-Faceのコ
料で絵画の指導を行っています.地元
ミュニケーションによる人と人と
郷土料理が得意な奥さんも,料理好
のリアルな交流
きの若い主婦ネットワークのコミュニ
レゾナントコミュニケーション時代
の社会では,ナローバンドでは実現で
きなかった,映像等の利用によるリア
・グローバルに地域・世代を超えた
ルで自然なコミュニケーションを可能
新たなコミュニティの形成
ティメンバに頼まれて,レシピ解説や
つくり方を映像で公開しています.
とし,通信本来のミッションである
・主婦やシニア等の社会・経済活動
東京で生活している息子夫婦と孫た
「時間と距離の克服」を実現したいと
への参画が可能となり,個人が有
ちには,夏休みに会うだけでなく,互
する「知(知識)」や「価値」の
いのダイニングを大画面テレビ映像で
ビジネス化が大きく進展
つないで食卓を共にし,いつもコミュ
考えます(図2).
時間の克服により,人の可処分時間
が,そして距離の克服により人や企業
図3は子供を持つ主婦の例で,「ビ
ニケーションを欠かしません.一方,
の活動範囲が飛躍的に拡大し,国,
ジネスウーマン」「母親」として時間や
毎日自動送信される健康管理データを
地域,業際や世代を超えて,人や企
知識を最大限活用することが可能とな
基に,定期的に双方向映像による主治
ユビキタス
・いつでも
・どこでも
・誰/何とでも
時間と距離
の克服
企業
ブ
ロ
ユーザ要望に応じた
エンド・ツー・エンドの
コネクティビティ
個人
コマース
情報
拡
大
個人 個人
ビジネス
企業
映像
コミュニ
ケーション
レゾナント
コミュニケーション
環境がもたらすもの
モニタ
リング
プレゼンテーション
)
械
機
物(
り
人
が
個
広
の
ド
ン
バ
業
ド
企
ー
安全・確実・簡単で
シームレスな
ユーザビリティ
リ
ア
リ
テ
ィ
・
感
・高速・広帯域
・常時接続
・双方向(インタラクティブ)
ブ 性の
交
ロ
流
ー
ド 情
バ
報
ン
の
ド
伝
達
化
ブロードバンド
コミュニティ
情報発信
情報
情報
「知」の共有化
可処分時間
の拡大
「リアリティ」の共有化
個人
コラボ
レーション
情報検索
企業
企業
情報
eCRM
映像ライブ
個人
企業
個人
企業
「商」のボーダレス化
活動範囲
の拡大
「知」の協創
ビデオオンデマンド
情報
:要素間の“結びつき”
図2 レゾナントコミュニケ−ション環境
8
NTT技術ジャーナル 2003.2
特
集
“ 個 倍 化 ”のイメージ
知の共有
リアルな交流
−在宅勤務−
−介護支援−
リアルな交流
−単身赴任−
個倍化の実現!
特 徴
・ビジュアルなFace-to-Faceコミュニケーション
による人と人とのリアルな交流 リアリティの共有
−モニタリング−
・主婦やシニア等の社会・経済活動への参画によ
る,個人が有する“知”“価値”のビジネス化
価値のビジネス化 コミュニティの形成
−趣味の仲間−
−英会話の指導−
・グローバルに地域・世代を超えた新たなコミュ
ニティの形成
図3 新たな行動モデル“個倍化”の出現
フランスの大学で
美術史を教える教授
可処分時間の
活用
リアリティ
の共有
バーチャル大学
で世界の美術史
を学ぶ
(自動通訳)
子どもや孫と
食卓を
共にする
大画面テレビ
で息子家族と
〔東京〕
〔フランス〕
地元郷土料理が
得意な奥さん
ビジュアルな Face-to-Faceによる
リアリティの共有
毎日,自動送信さ
れている健康管理
データで診断
元高校美術教師
〔宮崎〕
医者に健康
相談する
世代を超えた
“知”
の共有
料理好きのコミュ
ニティメンバ
家庭料理を
教える
油絵を教える
“知”
のビジネス化
〔大学病院〕
:レゾナントコミュニケーション環境による結び付き
〔全国〕
〔全国〕
図4 シニアの社会参画モデル
医による健康診断を受けています.
2つ目は,企業活動の視点です.グ
ローバルに存在する知(知識)
,リアリ
ティが共有され,商(商取引)のボー
ダレス化が進み,消費者,企業など各
種の価値の連鎖が生み出す「Web的
連鎖」という行動モデルが出現します
(図5)
.これにより,企業の生産性向
上や新たなビジネスの創出が進みます.
「Web的連鎖」は,次の3つの特徴を
持っています.
・企 業 におけるビジネスプロセス
(バリューチェーン)の変革による
効率化や競争力強化
・SOHO型経営等バーチャルカンパ
ニー化による新たなビジネス機会
の創出
・業際を超えたグローバルな新たな
NTT技術ジャーナル 2003.2
9
“光”新世代ビジョン
“ Web的連鎖 ”のイメージ
顧客
設計
販売店
Web 的連鎖
〔コミュニティ等〕
Web的連鎖
〔コミュニティ等〕
モニタ顧客
商品開発
デザイナー
マーケティング
Face-to-Face のコミュニ
ケーションによるマーケ
ティング力の強化
マーケッター
(在宅勤務)
・企業におけるビジネスプロセス(バリュー
チェーン)の変革による効率化,競争力の強
化
Web 的連鎖
の広がり
販売
コラボレーション による
商品開発力の強化
工場
製造
“ Web的連鎖 ”
の実現
顧客サポート
カスタマ
センタ
特 徴
生産現場のモニタリング
による危機管理の強化
および一体感の醸成
営業・販売
Face-to-Face の対応によ
るカスタマリレーション
の強化
販売店
映像表現による商品
訴求力向上とEC系
チャネルの強化
メンテナンス
Web的連鎖
・SOHO型経営等バーチャルカンパニー化に
よる新たなビジネス機会の創出
材料会社
Web 的連鎖
〔EC等〕
・業際を超えたグローバルな新たなビジネスモ
デルの創出
顧客
Web 的連鎖の広がり
図5 新たな行動モデルの出現(企業の“Web 的連鎖”)
「商品開発プロセス」のリードタイムの短縮
米国のデザイナーと設
計者が,3D映像を使っ
てデザイン設計
自動車会社の事例
調達・製造
3D映像
Web連鎖の
広がり
販売店
“見える開発”
コラボレーション
“見える技術”
市場
調査
グローバルに広がる研
究所と新技術の適用に
ついての打ち合わせ
“見えるニーズ”
評 価
生産
準備
プロダクト
プロデューサ
調達
物流
事業者
Web連鎖
の広がり
商品
企画
部品会社
Web連鎖
の広がり
新車のデザイン等を
映像で見せながら,
顧客ニーズを収集
Face-to-Face
開発・
設計
研究所
保守・修理
国内外
顧客
設計
事務所
商品開発
営業・
販売
CG画像
DB
デザイナー
リアルタイム
“見える調達”
試作・評価
計測
コラボレーション
工場 “見える評価”
(国内)
プロ
ドライバー
工場
(海外)
設計画面,写真,映像データ等の部品
情報を用いて工場との生産打ち合わせ
図6 企業におけるビジネスプロセスの効率化モデル
ビジネスモデルの創出
新車のコンセプトづくりからデザイン
タ顧客や販売店の方に具体的なコンセ
図6は,企業のビジネスプロセスの
設計・試作・評価などの商品化まで
プトデザイン案等をお見せしながら,
効率化という視点で,自動車会社を
のすべてを,プロダクトプロデューサと
より具体的な顧客のニーズを収集でき
事例として取り上げています.2年は
いう責任者を中心に取り組みが行われ
ます.
かかるという新車の開発プロセスでは,
ます.企画プロセスでは,映像でモニ
10
NTT技術ジャーナル 2003.2
開発・設計プロセスでは,世界各地
特
集
の契約デザイナーと新技術担当の研究
教育問題では,都市と地域間にお
料金で利用できることから,大きく発
技術者や設計技師との間で,3D映像
ける教育レベルの格差是正や教育機会
展してきていますが,ユーザ要望が高
等のビジュアルなデータベースやモック
の多様化が期待されます.
度化するにつれて,セキュリティ,品
アップを用いて,会議や打ち合わせな
どの移動に時間を費やすことなく効率
質,ユーザビリティの面で今なお課題
経済発展への活用
を抱えている状況にあります.ブロー
的な開発を進めることができます.生
経済的発展への活用では,産業競
産準備プロセスでは,グローバルに広
争力の強化に加えて,業際を超えたコ
は,どちらも満足するサービスを望ん
がる研究所との間で,新車の生産への
ラボレーションや新たなビジネス創出
でいます.それがレゾナントコミュニ
新技術の適用について,Face-to-Face
により,2007年には日本経済へのレゾ
ケーション環境の意味するものです.
の打ち合わせが行われます.このよう
ナントコミュニケーション環境が与え
なレゾナントコミュニケーション環境に
るインパクトは約64兆円/年規模とな
より,商品開発にかかわる多くの人々
ります(表1).
の“知”がグローバルに共有され,商品
開発の大幅な短縮が可能となります.
社会的課題解決への活用
レゾナントコミュニケーション環境
に向けたNTTグループの取り組み
ブロードバンドに関するアンケート
ドバンドに対するユーザの要望(図7)
レゾナントコミュニケーション環
境のネットワークイメージ
NTTグループが描く,光によるレゾ
ナントコミュニケーション環境は,ユー
ザに対して,今後とも進化するPC・
携帯電話・情報家電等の端末群や,
レゾナントコミュニケーション環境
結果(図7)によると,光による本格
多種多様な地域LAN・無線LAN等の
は,社会生活や企業活動に大きな恩恵
的ブロードバンドのニーズはすでに顕
アクセス手段など,ユーザの利用環境
をもたらすので,現在の日本が抱える
在化しており,リアルな双方向コミュ
にかかわらず,“安全”“確実”“簡単”
数々の社会的課題の解決にも活用で
ニケーションやセキュリティ・個人情
に不特定多数の通信相手と接続し,
きると考えています.
報保護の強化とユビキタス機能に優れ
情報流通を可能とするネットワークサ
たユーザビリティに強い要望があるこ
ービスを提供するものです(図9).
少子高齢化問題では,これまで経済
活動等への参画が困難であった家庭の
このため,従来の高速・広帯域のベ
とがわかります.
主婦やシニアの方々,諸事情により地
レゾナントコミュニケーション環境
ストエフォート型通信(インターネッ
域から離れられない人々の自宅からの
の実現に向けたNTTの基本的考え方
ト)サービスに加えて,現在のインター
経済活動等への参画が可能となる結
を図8に示します.
ネットを構成するサーバクライアント型
果,労働需給のミスマッチの緩和,労
電話網は,信頼性,高品質という
では実現が困難なエンド・ツー・エン
働人口の確保や経済活動の活性化に
点で高い評価を受けてきましたが,高
ド型の高度の接続(リアルタイムコネ
役立つことになります.日本の人口は
コスト,多様化するユーザニーズへの
クティビティ)や,品質,セキュリティ
2006年をピークとし,その後は減少す
柔軟な対応の困難性から,衰退しつつ
が保証された信頼性の高いネットワー
ると予測されています.
あります.一方,インターネットは低
クサービス,企業や個人の方々の新た
環境・エネルギー問題では,
「移動」
表1 経済的発展への活用
するためのエネルギーが大きく節約さ
れ,環境への負荷が軽減されるほか,
東京一極集中の緩和にも役立つことに
貢献する分野
レゾナントコミュニケーション環境の活用イメージ
産業競争力の強化
地球規模での多様な企業・人材とのコラボレーションにより,バ
リューチェーンの変革,雇用の多様化が加速し,新たなビジネス
機会が創出され,産業競争力が強化
日本経済の活性化
・これまで経済化されなかった時間・才能・資金の経済活動への投入
・企業単位や業界単位での事業の垣根(業際)が消滅し,ビジネスを
構成する各種プロセス,社員,知識・ノウハウ単位でのコラボレーシ
ョンが進行するなど企業活動が大きく変革する過程で,新たなビジ
ネスが創出,2007年には日本経済へのインパクトが約64兆円/年規
模
なります.
安全・安心・セキュリティ問題で
は,双方向映像を用いた介護支援,
センサ技術等による予防医療の質の向
上と保険費用の低減,また映像モニタ
リングによる犯罪防止などの課題解決
が期待できます.
NTT技術ジャーナル 2003.2
11
“光”新世代ビジョン
(a) 本格的ブロードバンドへの期待
0
20
40
(b) ブロードバンドインターネットの課題
60
80
100%
0
20
40
60
80
100%
1.8
全体(N=4727)
47.9
44.8
4.9
現在の回線種別
3.3
ダイヤルアップ
(N=766)
46.1
44.5
5.4
0.8
フレッツ・ISDN
(N=644)
51.4
42.5
ネットワークの悪用,
88.6
乱用防止,対応策
93.8
ネットワークを利用した
87.6
犯罪の取り締まり,防犯
89.6
ネットワークセキュ
リティの強化
89.4
90.6
4.8
90.5
個人情報の保護
93.8
1.8
ADSL+CATV
(N=2901)
47.7
45.2
4.8
1.0
光ファイバ
(N=96)
大いに期待
あまり期待しない
44.8
47.9
ある程度期待
期待しない
著作権等情報発信者
の権利保護
46.6
情報通信利用環境の
バリアフリー化
47.6
非常時に備えたバック
アップ体制
51.1
55.2
59.4
6.3
どちらともいえない
不明
56.3
(c) 5年先のブロードバンドサービス
0
20
40
60
80
100%
0
20
40
60
80 100%
あらゆる端末から
ネット接続
在宅勤務の
TV・ミーティング
簡
便
性
在宅学習の遠隔指導
音声入力等で
端末操作が簡単
手間かけずに情報,
サービス利用
在宅面接,
オーディション
在宅型アルバイト
長編映画の
ホームシアター
高
機
能
コ
ン
テ
ン
ツ
3.1
(d) ユーザの利用環境に関するニーズ
家族や友人との映像電話
コ
ミ
ュ
ニ
ケ
ー
シ
ョ
ン
全体(N=4727)
光ファイバ(N=96)
1.1
その他
即
時
性
在宅ライブハウス
思いついたら即
情報,サービス利用
思いついたら即
コミュニケーション
電子新聞配達
融
通
性
お好み視聴選択
バーチャル秘書
時間や場所にあわせて
情報,サービス利用
相互の都合にあわせて
コミュニケーション
遠隔ヘルプデスク
在
宅
型
サ
ー
ビ
ス
生活環境が常に快適
遠隔相談サービス
安
全
性
在宅受講
生活環境が常に安全
お茶の間ブティック
いざというとき必要な
情報,サービス利用
お茶の間体験ツアー
かなり普及する
あまり普及しない
ある程度普及する
普及しない
まだ何ともいえない
不明
非常に期待
あまり期待しない
やや期待
期待しない
どちらともいえない
不明
出典:情報通信総合研究所
図7 ブロードバンドに関するアンケート調査結果
12
NTT技術ジャーナル 2003.2
特
集
レゾナントコミュニケ−ション環境
サーバ・クライアント型
エンド・ツー・エンド型
2つの方向性
の特長を活か
した幅のある
発展
これから
ブロードバンド
の進展
現在
★デメリット!
・セキュリティ,品質
の不安
これまで
5∼10年後
★メリット!
・低コストによる発展
★メリット!
★デメリット!
・信頼性,品質の確保
・多様化するユーザ要望へ
の柔軟な対応が困難
・高コスト
インターネット時代
電話時代
デメリットによる停滞・衰退
メリットによる発展
自律・分散型
デメリットによる停滞・衰退
集中・管理型
図8 レゾナントコミュニケ−ション環境に向けたNTTグループの取り組み
“知”“価値”のビジネス化
商品開発コラボレーション
動画コンテンツ配信ビジネス
家庭教師
設計者
インターネット
企業LAN
ホームLAN
企業LAN
インターネット コンテンツ
インターネット
企業LAN
アクセス
ユーザマネジメント
(認証,状態管理等)
他ネットワーク
GW
他ネットワーク
コネクティビティ
(エンドエンド,同報,多地点等)
GW
クオリティ
(速度・セキュリティ・遅延等)
GW
GW
ネットワーク
プラットフォーム
他ネットワーク
GW
他ネットワーク
GW
リアルタイムコネクションな
エンド・ツー・エンド型
ネットワーク
企業LAN
ホームLAN
遠隔地の現場管理
屋外
ホームLAN
ライブ配信ビジネス
自宅
ユビキタスにコンテンツ閲覧
祖母と孫の会話
図9 レゾナントコミュニケーション環境のネットワークイメージ
NTT技術ジャーナル 2003.2
13
“光”新世代ビジョン
なビジネス機会の創出をサポートする
による光ルータ技術などの研究開発成
課金などの機能やエージェント機能等
果を用いることにより光ネットワーク
さらに,なりすまし防止や通信内容
のプラットフォームサービスを実現して
基盤の大容量化を図り,拡張性に優
を秘匿するダイナミックセキュアチャ
いきます.また,ネットワークと連携
れた経済的なネットワークを構築して
ネル技術などを用いることにより,セ
した端末の開発や,柔軟なエリア展開
いきます(図1 0 ).
キュリティの確保が可能となり,さま
が可能となります.
や高品質で信頼性の高いサービスを可
サービスの実現にあたっては,ユー
ざまなユーザ要望にこたえることがで
能とする,新たなアクセスネットワー
ザの利用環境を認識し,これを管理す
きるサービスが実現できると考えられ
クの構成方法についても検討を進めま
るプレゼンス機能やユーザどうしを接
ます.
す.さらに,これらのネットワーク機
続をするためのセッション制御機能,
能を自由に選択でき,低廉で多様な料
ユビキタス通 信 を可 能 とするための
金によるサービスの提供を実現します.
IPv6技術をベースとしたMobile IP
レゾナントコミュニケーション環
境のネットワーク構成イメージ
NTTグループは,これまで構築して
先進的ビジネスモデルの開拓
先進的ビジネスモデルの開拓につい
機能などを付加していくことにより,
て,NTTグループは,光の需要開拓や
ユーザビリティに優れたエンド・ツー・
ビジネスソリューション等の取り組み
エンドのコネクティビティを実現してい
を通じて先進的ビジネスモデルを積極
きます.
的に開拓するとともに,国内外を問わ
きた光ファイバのネットワーク基盤を
また,ネットワークとユーザ側にある
ないさまざまな分野のビジネスパートナ
最大限に活用し,光ファイバの伝送容
端末等との連動をベースとして,コネ
との連携を通じて,サービス,新たな
量と伝送距離を拡大する大容量WDM
クションごとの優先制御・セッション
ビジネスモデルを創出していきます(図
技術や,光波長レベルの高速転送を
制御技術を用いることにより,ユーザ
1 1 ).具体的なプランとしては,
可 能 とするG M P L S ( G e n e r a l i z e d
ネットワークまで含めたエンド・ツー・
・国や自治体等の施策や実証実験
Multiprotocol Label Switching)
エンドでの速度,品質,信頼性の確保
に研究開発の早い段階から参画
プレゼンス
機能
認証
課金
ネットワーク
セッション Mobile
プラットフォーム
IP機能 セキュリティ
制御機能
コアネットワーク
・優先制御・セッション制御技術
・セキュリティ技術
・IPv6技術など
…
他ネット
ワーク
・大容量WDM技術
・光ルータ技術など
GW
光ネットワーク基盤
エッジノード
光アクセス
DSLアクセス
地域LAN
光アクセス
企業
ネットワーク
光アクセス
無線アクセス
ホームネットワーク
図10 レゾナントコミュニケーション環境のネットワーク構成イメージ
14
NTT技術ジャーナル 2003.2
特
集
マーケティング
ビジネス
データベース
ビジネス
対面販売
金融ポータル
ビジネス
ネットゲーム
ビジネス
映像クリエータ
サポートビジネス
オンライン出版
ビジネス
eラーニング
ビジネス
旅行EC
〔サービスアグリゲート〕
サービス提供者
アセットマネジメント
サポートビジネス
コミュニティ
ビジネス
映像カルチャー
ビジネス
モニタリング
ビジネス
映画配信
ビジネス
ビ
新たな
ジネス
遠隔介護
ビジネス
ソリューション
ビジネス
各種コンサル
ティングビジネス
予防医療
ビジネス
リサイクル
ビジネス
コラボレーション
ビジネス
創出
〔データマイニング〕
〔エージェント〕
新たな
ビジネ
サービス提供者
〔マッチング〕
サービス提供者
サービス提供者
ス創出
…
レゾナントコミュニケーション環境との共鳴による相乗効果
レゾナントコミュニケーション環境
企業
モノ
個人
個人
個人
企業
プラットフォームサービス
個人
企業
企業
移動体等の他ネットワーク
サービス
企業
団体
〔課金・認証 等〕
個人
エンド・ツー・エンド型ネットワークサービス
〔コネクティビティ/品質・信頼性/セキュリティ等〕
個人
個人
モノ
企業
図11 先進的ビジネスモデルの開拓
することによる,社会的課題等の
解決に向けた取り組み
表2 レゾナントコミュニケーション環境の実現に向けた研究開発の取り組み
取り組み分野
取り組み内容
次世代ネットワーク
・エンド・ツー・エンド型のリアルタイムコネクティビティによる
双方向通信,品質制御,セキュリティ保証や端末・サービスの多
様性に対応するRENAの研究開発の推進
・各種産業の企業の方々と連携し
た,新たなソリューションやビジ
ネスモデルの開拓
・欧米やアジアの国々と連携した,
アーキテクチャ
(RENA)
レゾナントコミュニケーション環境
RENA: REsonant communication Network Architecture
のグローバルレベルの展開
・コミュニティ活動の支援を通じた
ビジネス機会の創出
・放送業界等との連携によるディジ
タル放送と光とを組み合わせた新
・ネットワーク大容量化・経済下のための光関連技術,ネットワー
クサービス制御技術を先導するとともに,パートナ技術との連
携・活用による開発の加速化
上位レイヤ
基盤技術
先端技術
・ヒューマンインタフェース,エージェント,暗号・セキュリティ,
分散データベース等の基盤技術をベースに,多様なビジネスソ
リューションをサポートするプラットフォームサービス実現に向
けた研究開発の推進
・10年先を見据えた先端技術の研究開発の推進
たなサービスやそれに付随するプ
ラットフォームの提供
フトウェアデザインに基づく次世代ネッ
対応していくためには,研究開発の取
トワークアーキテクチャ(RENA)と
り組みについても変革が必要となって
各種サービスを実現する基盤技術の研
きています.このような時代にマッチ
究開発に取り組むとともに,10年先を
したNTT R&Dの変革に向けた取り組
レゾナントコミュニケーション環境
見据えた先端基礎技術の研究にも積
みについて以下で述べます.
の実現に向けて,NTTグループでは,
極的に取り組んでいきます(表2).
などに取り組んでいきます.
レゾナントコミュニケーション環境
の実現に向けた研究開発の取り組み
上位レイヤから端末までの総合的なソ
技術革新や市場環境の早い変化に
NTT技術ジャーナル 2003.2
15
“光”新世代ビジョン
NTT R&Dの取り組み
「死の谷」の克服
基礎研究段階から製品の市場投入
容
易
資
金
調
達
の
容
易
さ
困
難
の間に存在する実用化開発の段階で
米国ではこのギャップを「死の谷(The
は,技術が事業化可能かどうかの見極
Valley of Death)」(図1 2 )と呼び,
めが難しく,市場からの資金調達が容
これを克服するために実用化に向けた
易でない状況があるといわれています.
研究開発の支援や技術開発プロジェク
研究開発段階から市場に移るまでのギャップ
死の谷
The Valley
of
Death
基礎研究 実用化開発 市場投入
出典:米国商務省
図12 死の谷(The Valley of Death)
従来の事業分野
新たな事業分野 (より豊かなコミュニケーション)
(人に役立つ,環境にやさしく) NTTビジネス
NTTビジネス
NTTビジネス
社会経済活動
④
・社会経済活動への活用
-少子化,高齢化
-環境
・日本の科学技術の発展に貢献
①競争優位
③グローバル展開,
市場牽引
②新たな分野の事業開拓
死の谷
実用化開発
NTT R&D
人
的
貢
献
コア技術
R&D戦略
サービスコンセプト
アーキテクチャ
図13 レゾナントコミュニケーション環境を支えるNTT R&Dの役割
16
NTT技術ジャーナル 2003.2
事業
研究開発
特
集
事業会社ニーズ
市中技術・製品
・関連業界とのアライ
アンスによる実用化
市中技術・製品
総合プロデュース機能
市中技術・製品
・
・
・
⋮
研究
研究
研究
・目利き
・市場・技術動向調査分析
・マーケティング
・開発企画,提案
・マーケットクリエーション
コア技術開発
コア技術開発
・事業会社での応用 R&D
実用化開発
事業導入
実用化開発
(個別ニーズ対応)
市場動向
図14 総合プロデュース機能による「死の谷」の克服
トを実施して競争力の回復を目指して
その役割を見直します(図1 3 ).具
い,これらを組み合わせ,先進的な実
います.日本でも経済財政諮問会議に
体的には,次の4つの役割を考えてい
用化開発や事業化等の企画・提案を
おいてこの「死の谷」が議論されるな
ます.
行うとともに,実際の実用化開発,事
ど,日本経済活性化に向けた重要な
課題と認識されています.
NTT R&Dにおいても,研究開発に
よる新技術創出の活動と事業会社に
・競 争 優 位 の核 となる基 盤 技 術
業導入までをプロモートします.これ
(コア技術)開発のさらなる重点
に伴い,市場・技術動向のリサーチや
化により,グループ各社のビジネ
マーケティングにも本格的に取り組み
スを支援
ます.
この総合プロデュース機能により,
よる新ビジネス創出の活動とが必ずし
・研究開発成果を活用し,通信分
もかみ合っておらず,研究開発成果を
野以外 の新たな事業を積極的に
NTT R&Dの最大の課題である「死の
事業につなげるための事業化プロセス
開拓
谷」を克服し,研究開発成果を事業
の欠落,すなわち「死の谷」が存在し
ています.これを,研究開発を推進す
・グローバル市場への展開と市場
牽引
につなげることを推進します.また,各
事業会社のニーズが個別化,多様化す
るうえでの最重要課題と認識し,この
・社会的課題解決(少子高齢化,
る中で,実用化開発のリスク負担や責
「死の谷」を克服するための取り組み
環境問題など)
,日本経済活性化,
任の所在を明確化し,技術の実用化
および科学技術の発展に貢献
をより着実かつ効率的に進めることが
を実施します.
レゾナントコミュニケーション環
境を支えるNTT R&Dの役割
総合プロデュース機能による
「死の谷」の克服
これまでNTT R&Dは,NTTグルー
これらの4つの役割を果たすため,
プ求心力の源泉として多くの成果を創
持株会社に「総合プロデュース機能」
出し,グループ事業を牽引してきまし
を整備します(図1 4 ).
たが,電話技術からIP技術へのパラダ
NTT研究所が創出するコア技術や
イムシフトなどの環境変化に対応して
市中技術・製品に対する目利きを行
重要です.さらに,関連業界とのアラ
イアンスによる実用化などを通じて研
究開発成果を活用し,新たな事業の
開拓に積極的に取り組んでいきます.
NTT技術ジャーナル 2003.2
17
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