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目次、本文 - 独立行政法人 中小企業基盤整備機構

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目次、本文 - 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
目
次
頁
はじめに
1
1-1
調査研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
調査研究の目的
1
1-1-1 調査研究の背景
1-1-1-1 業務の目的
1-1-1-2 調査のスキーム
1-1-1-2-1 ブロック構成
1-1-1-2-1-1 第1ブロック(産業構造やビジネスモデルの実態把握調査)
1-1-1-2-1-2 第2ブロック(市場環境とその競争環境をふまえたマーケティング課題の調査)
1-1-1-2-1-3 第3ブロック(海外事例にみるマーケティング戦略のあり方に関する調査)
1-1-1-3 調査研究の進め方
1-1-1-3-1 調査研究業務フロー
1-1-1-3-2 スケジュール
1-1-1-4 委員会構成メンバー
2
2-1
調査提言の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
わが国の繊維・アパレル産業の歴史的変遷と今後のマーケティング課題
6
2-1-1 縮小するわが国の繊維・アパレル産業
2-1-2 繊維・アパレル産業におけるマーケティング活動の概況
2-1-3 わが国の繊維・アパレル産業におけるマーケティングの歴史的変遷
2-2
繊維・アパレル産業が直面する経営的・マーケティング課題
23
2-2-1 百貨店、量販店、既存流通の低迷
2-2-2 価格競争の激化とデフレスパイラル
2-2-3 外資によるファストファッションの上陸
2-2-4 海外市場に訴求できるブンランドの欠如
2-2-5 業界標準ビジネス基盤とICT活用の遅れ
2-2-6 海外市場におけるマーケティング戦略の欠如
2-3
新たな産業・業界構造を前提とする強みの獲得と弱みの克服
2-3-1 日本のテキスタイル企業の強みと弱み
2-3-2 強みの獲得と弱みの克服によるグローバルなテキスタイルビジネス
2-3-2-1
オンリーワン戦略による世界市場進出
2-3-2-2 生産から消費までのダイレクトなビジネスモデル
2-3-2-3 日本と中国の連携による新しいビジネスモデル
30
2-3-2-4 日本とイタリア連携による新しいビジネスモデル
2-3-3 日本のアパレル企業の強みと弱み
2-3-4 強みの獲得と弱みの克服によるアパレルビジネス活性化
2-3-4-1 デザイナーとのコラボレーション
2-3-4-2 クールジャパンの輸出プロジェクト
2-3-5 国際化市場に対応するための組織体制
2-3-5-1 本社の国際化
2-3-5-2 現地法人の現地化
2-3-6
2-4
ジャパンブランド、ジャパンクオリティを証明するトレーサビリティ
国際市場に対応する市場アプローチ(テキスタイル)
46
2-4-1 国内市場への対応
2-4-1-1 大手アパレル・商社・企画会社とのチームに参入
2-4-1-2 個性的なデザイナーアパレル、専門的アパレル
2-4-2 欧米市場への対応
2-4-2-1 欧米アパレル
2-4-2-2 イタリアとのコラボレーション
2-4-3 中国市場への対応
2-4-3-1 中国の高級アパレルに向けたテキスタイル販売
2-4-3-2 中国とのコラボレーションによる中国市場攻略
2-5
国際化市場に対応する市場アプローチ
59
2-5-1 国際化する国内市場
2-5-1-1 百貨店の活性化
2-5-1-2 メガストア対応ブランド開発&編集
2-5-1-3 インターネットの活用
2-5-1-4 新人デザイナー、ベンチャー企業の育成
2-5-2 世界が注目する中国等、アジア市場
2-5-3 独資での参入、直営店戦略
2-5-4 中国企業とのコラボレーション
2-6
具体的な政策・取り組みと期待される効果
2-6-1 テキスタイル産業高度化への支援と取り組み
2-6-1-1 ジャパンテキスタイルのブランド戦略
2-6-1-2 展示会・イベント
2-6-1-3 海外市場開拓
2-6-1-4 人材育成・ベンチャー育成
2-6-2 アパレル産業高度化への支援と取り組み
2-6-2-1 グローバル経営の推進
96
2-6-2-2 高級品市場再構築
3
繊維企業の市場開拓活動に関するアンケート調査結果 ・・・・・・・・・・・・ 128
3-1
アンケート調査の概要
128
3-2
アンケート結果の要約
129
3-3
アンケート結果の詳細(テキスタイル)
136
3-4
アンケート結果の詳細(アパレル)
167
3-5
数量化 3 類、クラスター分析等から導き出されたアンケート結果
197
4
国内ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 201
4-1
テキスタイル編
201
4-2
アパレル編
214
5
海外ヒアリング調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 223
5-1 調査期間
223
5-2 調査地域
223
5-3 調査結果
223
5-3-1 はじめに
5-3-2 ヒアリング概要
5-3-2-1 ビエラ地区
5-3-2-2 ミラノ地区
5-3-2-3 コモ地区
6
インテリアファブリックス産業の可能性とマーケティング課題 ・・・・ 235
6-1
日本人のライフスタイル変化とインテリアファブリックス産業の発展
235
6-2
インテリアファブリックス業界が抱える課題
239
6-3
インテリアファブリックス業界のマーケティング戦略と可能性
242
6-3-1 現状の課題と取り組み
6-3-2 国内市場の活性化、需要創造
6-3-3 中国市場・欧州市場進出による市場拡大
6-4
インテリアファブリックス産業の動向と可能性に関するアンケート調査
6-4-1 調査の概要
6-4-2 調査の結果の概要
6-4-3 調査の結果詳細
254
[添付資料]
テキスタイル・アパレル
アンケート集計表
アンケート調査票(テキスタイル)
アンケート調査票(アパレル)
インテリアファブリックスアンケート集計表
アンケート調査票(インテリアファブリックス)
は
じ
め
に
我が国の繊維産業は、世界から高い評価を得ているハイテク技術に支えられた高機能素
材や匠の技で作られた感性価値の高いテキスタイルの開発力、ファッション・クリエーシ
ョンではパリコレクション等での日本人デザイナーの活躍、更に、東京のストリートファ
ッションが世界的に注目されていること等、新しい可能性を秘めている一方で、繊維産業
全体の規模は縮小の一途です。
国内市場が人口減・高齢化の進展等により需要増を見込めない中で、日本の衣料品の輸
入浸透率(数量ベース)は9割を超えるとともに、ラグジュアリーブランドに加えて、同
じく外国資本のファストファッションブランドの相次ぐ直接上陸、また、そのこと等に起
因した単価引き下げ競争の激化、さらにテキスタイルに関しては、アジア競合国の品質向
上に伴い日本からの持ち帰り用中国向け輸出並びに欧米・中東への純輸出の減少、自動車
産業や家電産業向け需要の縮小等、日本の繊維産業は益々厳しい状況におかれています。
こうした中で、今後の日本の繊維・アパレル産業の成長・活性化にとって、グローバル
な販路の開拓は不可欠です。中でも、洗練された高品質な商品を求める新中間層の顕著な
増加が見込める中国、ASEAN諸国等のアジア新興国市場の開拓は、最重要課題の一つ
です。
今後、日本のテキスタイル企業もアパレル企業も、グローバル市場の中で、日本の特徴
であるモノ作りへのこだわりや、品質の高さを維持しつつ、同時に、他と差別化した魅力
ある商品作りとその的確なプレゼンテーション、各々の国や地域に合ったビジネス体制や
マーケティング手法の選択・組み合わせ等を、改めて再編・構築する必要が生じています。
また、国内市場においても、従来の日本市場に最適化した産業のあり方、業界構造、ビ
ジネスモデル、取引システム・慣行等は機能不全を起こしつつあります。
このような背景のもと、本調査事業において、川上から川下に至る繊維・アパレル産業
の構造変化やビジネスモデルの実態を把握した上で、マーケティング力の強化含めた国際
競争力のあり方と課題、事業戦略とその方向づけ、新たなビジネスモデルの構築等に向け
た具体的方策を提案します。
なお、事業の方向づけや提言立案にあたっては、委員会を組織して指導を仰ぎました。
最後に、本調査にご協力賜りましたの関係各機関の皆様、並びに本書作成にご尽力賜り
ました委員の方々に深甚な敬意を表します。
平成22年3月
独立行政法人中小企業基盤整備機構
経営基盤支援部
繊維産業支援室
1
調査研究の概要
1-1
調査研究の目的
1-1-1
当調査研究の背景
1-1-1-1
業務の目的
日本のテキスタイルや染色整理分野において、世界に誇る技術を有しているにも関わら
ず、自社ブランドの構築がなされていないため十分な収益を確保できていない事例が散見
される。日本は創造性、技術的こだわり、ものづくりへの探究心を有しており、品質への
こだわりは世界最高水準にあると言える。しかしながら、国内では流行や売れ筋フォロー
型のアパレルからの委託加工やOEM生産が主流になっていたこともあって、自社商品の
市場ターゲットや市場ポジショニングを自ら設定して、自らPRもしつつ自ら売り込んで
いく等のマーケティング戦略や活動を主体的に行っている企業が総じて少なかった。
日本の繊維産業が国際競争力を高め、海外市場開拓の推進を進めていくためには、顔の
見える自社ブランドの確立も含めて、消費者に対する責任を持って市場に参入する努力が
必要であると考える。
平成21年度事業において、日本繊維関連企業が自社ブランドを構築する上で障害にな
っている問題点、課題等を洗い出し、また、企業を取り巻くマーケットの環境・特性を明
かにすることにより、自社ブランドの必要性、
「Made in Japan」あるいは地域ブランドや
自社ブランドの形成、「ジャパンクオリティ」の確立に向けた方策などを調査分析し、マー
ケットの特性をふまえた適切なマーケティングのあり方について考察し、提言をする事業
を実施する。
また、本調査においては、「事例紹介」として「インテリアファブリックス産業」を取り
上げ、当該産業の動向調査及びマーケティングの調査分析を行い、『繊維産業におけるマー
ケティングの在り方に関する調査分析』報告書を纏めると共に、日本の生活文化や感性価
値を国内外に発信するツールとして『インテリアファブリックス創造の世界』というビジ
ュアル資料集を作成する。
1-1-1-2 調査のスキーム
本調査研究は、次の3ブロックで構成して分析を進めることにより、川上から川下に
至る繊維・アパレル産業の構造変化やビジネスモデルの実態や動向を把握し、その状況
をふまえて、マーケティング力の強化含めた国際競争力のあり方、事業の方向づけ、新
たなビジネスモデルの構築、
「ジャパンクオリティ」の確立に向けた具体的方策と課題を
明確化する。本調査研究の方向づけや実態分析に際しては「繊維・アパレル産業におけ
るマーケティング検討委員会」を立上げ意見を仰いだ。
-1-
1-1-1-2-1 ブロック構成
1-1-1-2-1-1 第1ブロック:
「産業構造やビジネスモデルの実態把握調査」
最近のテキスタイルからアパレルに至る日本の産業構造やビジネスモデルの実態や動
向とその背景について、テキスタイル関連企業とアパレル企業を対象に、文献・ヒアリ
ング調査を実施し、その状況を整理した。
1-1-1-2-1-2 第2ブロック:
「市場環境とその競争状況等をふまえたマーケティング課題の調査」
日本のテキスタイルやアパレル産業を取り巻く市場環境や今後の対象市場と競争状況
等をふまえ、その中での国際競争力の源泉やブランド戦略を含めた具体的なマーケティ
ング方策のあり方や課題を見極めるために、テキスタイル関連企業とアパレル企業対象
にアンケート及びヒアリング調査を実施した。
1-1-1-2-1-3 第3ブロック:
「海外事例にみるマーケティング戦略のあり方に関する調査」
イタリアにおける「Made in Italy」あるいは自社ブランド(テキスタイルブランドの
訴求含めた)の形成確立に向けた戦略や具体的方策等を、イタリアのコモ、ビエラ、ミ
ラノの各産地企業と産地支援機関を対象にヒアリング調査を実施し、わが国の繊維アパ
レル産業のブランド確立含めた高い国際競争力の形成のための今後のあり方についての
参考とした。
-2-
1-1-1-3 調査研究の進め方
上記3ブロックの構成の下、本調査研究をとりまとめるに当たり、下記調査業務フロー
により、調査・分析整理を実施した。
1-1-1-3-1 調査研究業務フロー
調査分析研究は、次の業務フローで実施した。
第1回 委員会(平成 21 年 7 月 31 日)
内容:①分析調査目的・事業計画内容・スケジュール等説明・検討
②ヒアリング・アンケート調査概要の説明・検討
③調査研究・提言の前提・とりまとめ方等の検討
第2回 委員会(平成 21 年 8 月 24 日)
内容:①ヒアリング・アンケート調査内容吟味・検討
②産業構造・ビジネスモデルの方向性とブランド戦略、
高い国際競争力形成ための論点整理・検討
第1ブロック
内容:産業構造・ビジネ
スモデルの実態調
査
方法:①文献調査
②各業種業態対象
企業ヒアリング調査
第2ブロック
内容:今後の対象市場の見
極めとブランド・マ
ーケティング課題や
国際競争力アップの
方策等の調査・整理
第3ブロック
内容:イタリアの高度なモ
ノづくりとブランド
訴求・マーケティン
グ戦略等の調査・整
理(海外調査)
方法:①文献調査
②各業種業態対象アンケ
ート調査
方法:①文献調査
②イタリア産地企
業・産地支援機関等
対象ヒアリング調査
第4ブロック(事例研究の一つ)
内容:インテリアファブリックス産業を取り巻く状況等の調
査・整理(ビジュアル冊子含む)
方法:インテリアファブリックス関連企業対象アンケート調査等
-3-
第3回 委員会(平成 21 年 12 月 3 日)
内容:調査結果報告と報告書の方向づけ
方法:①第1~3ブロックの調査結果報告
②第4ブロックの中間報告
③報告原案の検討(委員への原案報告と意見収集)
第 4 回 委員会(平成 22 年 1 月 25 日)
内容:最終報告案の検討
①第3回委員会の結果を踏まえた修正報告案の検討
②その他
報告書とりまとめ
1-1-1-3-2 スケジュール
2009 年
7月
★
1.委員会
8月
★
2.マーケティング調査分析作業
文献調査
国内ヒアリング調査
実施
集計分析
海外ヒアリング調査
実施
集計分析
アンケート調査
実施
集計分析
-4-
9月
10 月
2010 年
11 月
12 月
★
1月
★
2月
1-1-1-4 委員会構成メンバー
委員長
信州大学
名誉教授 繊維学部 特任教授
委員
株式会社アバンティ
代表取締役社長
第一織物株式会社
代表取締役社長
イオントップバリュ株式会社
トップバリュ商品本部商品開発部 素材戦略担当
青山学院大学経営学部マーケティング学科
准教授
パナソニック株式会社
スペース&メディア創造研究所先行開発室チーフプランナー
有限会社ファッションリンクス
代表取締役
日本繊維輸出機構
代表
日本毛織物等工業組合連合会
専務理事
日本ファッション・ウィーク推進機構
JFW-JC 事務局長
-5-
大谷
毅
渡辺 智恵子
吉岡 隆治
杉本 忠
東
伸一
村上
福永
米良
兼巻
川島
幸
成明
章生
豪
朗
2
調査提言の内容
2-1
わが国の繊維・アパレル産業の歴史的変遷と今後のマーケティング的課題
*ここではマーケティング活動を、
「潜在ニーズを含めて顧客の求めているものを探り出し、
①売れる商品を作り出すこと、②その商品が売れていく仕組みを作り出すこと」と捉え、
それらを実現するためにどうすればよいかという観点から対策を記述している。
2-1-1 縮小するわが国の繊維・アパレル産業
繊維・アパレル産業におけるマーケティング含む今後の事業課題を抽出し、国際競争力
強化のための具体的な対策を提案するための前提となる繊維・アパレル産業の実態の経年
推移について、経産省の「工業統計」からまず概括する。ここでは 1985 年を基準にしてい
るが、1985 年はプラザ合意の年であり、ここから円高、バブル景気に一気に向かうととも
に、テキスタイル産業が一気に縮小局面に向かう一方で、アパレル企業が急成長を遂げる
ターニングポイントとなる時期でもあった。
1985 年の従業員4人以上の繊維製造業(繊維工業:製糸、製織、染色整理等)の事業所
数は 35,424、アパレル製造業(衣服繊維製品製造業等)の事業所数は 30,750 だった。その
後、繊維製造業は減少を続けるが、アパレル製造業は 1995 年まで成長を続ける。1995 年の
繊維工業の事業所数は 16,045(1985 年対比 45.3%)と半減しているが、一方アパレル製造
業は 33,163(同 107.8%)と増加している。バブル崩壊後に、韓国東大門市場等から商品調
達することで、目まぐるしく変わる東京のストリートファッションをベースに、極論すれ
ば 1 週間単位で商品を切り替える 109 系アパレルが特に急成長した時期である。
その後は、繊維・アパレル産業共に減少を続ける。
2007 年の繊維製造業の事業所数は 6,785
(同 19.2%)、アパレル製造産業は 12,748(同 41.5%)、合計で 19,533(同 29.5%)と実に7
割減となっている。
事業所数が減少しても従業員数が維持されているならば、健全な競争が行われ、淘汰と
成長が行われたことになるが、事業所数と従業員数はほぼ同じカーブで減少している。
従業者数を比較すると、1985 年、従業員4人以上の繊維製造業の従業者数は 609,462 名、
アパレル製造業の従業者数は 539,538 名、合計が 1,149,000 名、2007 年の繊維製造業の従
業者数は 125,321 名(同 20.6%)、アパレル製造業の従業者数は 224,278 名(同 41.6%)、合
計が 349,599 名(同 30.4%)とトータルで7割減になっている。
出荷額についてもほぼ同様の推移を見せている。1985 年、従業員4人以上の繊維製造業
の出荷額は 8 兆 869 億 65 百万円、アパレル製造業の出荷額は 3 兆 6,511 億 63 百万円、合
計が 11 兆 7,381 億 28 百万円、2007 年の繊維製造業の出荷額 2 兆 2,166 億 77 百万円(同
27.4%)、アパレル製造業の出荷額は 2 兆 764 億 62 百万円(同 56.9%)、合計が 4 兆 2,931 億
39 百万円(同 36.6%)となっている。出荷額の減少が事業所数、従業者数の減少よりも緩
-6-
やかなのは、中小零細企業の淘汰・転廃業が進む一方で、比較的事業効率の高い中堅以上
の企業が生き残ったためだと見られる。
2007 年と比較して現在は更に減少しており、今後も減少傾向は続くことが予想される。
このまま放置すれば、繊維・アパレル産業は、産業として国内では維持できなくなる懸念
さえある。そうした事態を克服し、今一度国際競争力を取り戻すためのトータル的なマー
ケティング戦略の見直しと事業再構築の提案、そして具体的な処方箋や戦術まで含めた提
案を以下に行うものである。
繊維・アパレル産業の事業所数、従業者数、出荷額の推移
従業者数4人以上の事業所数
1985年
1990年
繊維
35,424
30,515
アパレル
30,750
31,986
計
66,174
62,501
1995年
16,045
33,163
49,208
[出所]経産省の「工業統計」
2000年
11,384
23,735
35,119
2005年
8,167
14,915
23,082
2007年
6,785
12,748
19,533
従業者数4人以上の事業所の推移(1985年を100)
1985年
1990年
1995年
2000年
2005年
2007年
繊維
100.0%
86.1%
45.3%
32.1%
23.1%
19.2%
アパレル
100.0%
104.0%
107.8%
77.2%
48.5%
41.5%
計
100.0%
94.4%
74.4%
53.1%
34.9%
29.5%
繊維・アパレル事業所数推移 1985年=100%
(従業者数4人以上の事業所対象)
120.0%
100.0%
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
繊維
アパレル
計
1985年
100.0%
100.0%
100.0%
1990年
86.1%
104.0%
94.4%
-7-
1995年
45.3%
107.8%
74.4%
2000年
32.1%
77.2%
53.1%
2005年
23.1%
48.5%
34.9%
2007年
19.2%
41.5%
29.5%
従業者数4人以上の従業者数
1985年
1990年
繊維
609,462
529,736
アパレル
539,538
577,623
計
1,149,000 1,107,359
1995年
264,528
593,893
858,421
2000年
184,004
386,727
570,731
2005年
136,425
243,927
380,352
2007年
125,321
224,278
349,599
従業者数4人以上の従業者の推移(1985年を100)
1985年
1990年
1995年
2000年
2005年
2007年
繊維
100.0%
86.9%
43.4%
30.2%
22.4%
20.6%
アパレル
100.0%
107.1%
110.1%
71.7%
45.2%
41.6%
計
100.0%
96.4%
74.7%
49.7%
33.1%
30.4%
繊維・アパレル従業者数推移 1985年=100%
(従業者数4人以上の事業所対象)
120.0%
100.0%
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
繊維
アパレル
計
1985年
100.0%
100.0%
100.0%
1990年
86.9%
107.1%
96.4%
1995年
43.4%
110.1%
74.7%
従業者数4人以上の出荷額(単位:100万円)
1985年
1990年
1995年
繊維
8,086,965
7,838,172 4,230,098
アパレル
3,651,163
4,531,836 5,146,169
計
11,738,128 12,370,008 9,376,267
2000年
30.2%
71.7%
49.7%
2005年
22.4%
45.2%
33.1%
2000年
3,008,079
3,478,957
6,487,036
2007年
20.6%
41.6%
30.4%
2005年
2,231,734
2,108,708
4,340,442
2007年
2,216,677
2,076,462
4,293,139
従業者数4人以上の出荷額の推移(1985年を100)
1985年
1990年
1995年
2000年
2005年
2007年
繊維
100.0%
96.9%
52.3%
37.2%
27.6%
27.4%
アパレル
100.0%
124.1%
140.9%
95.3%
57.8%
56.9%
計
100.0%
105.4%
79.9%
55.3%
37.0%
36.6%
繊維・アパレル出荷額推移 1985年=100%
(従業者数4人以上の事業所対象)
160.0%
140.0%
120.0%
100.0%
80.0%
60.0%
40.0%
20.0%
0.0%
繊維
アパレル
計
1985年
100.0%
100.0%
100.0%
1990年
96.9%
124.1%
105.4%
-8-
1995年
52.3%
140.9%
79.9%
2000年
37.2%
95.3%
55.3%
2005年
27.6%
57.8%
37.0%
2007年
27.4%
56.9%
36.6%
2-1-2 繊維・アパレル産業におけるマーケティング活動の概況
戦後輸出ブーム下のマーケティング
第二次世界大戦終結後、世界経済はアメリカのリーダーシップの下で、貿易と為替の自
由化を強力に進めていた。敗戦国日本も、アメリカの庇護の下で戦後復興と国際社会への
復帰を目指していた。このような状況下で繊維製品も含めて、アメリカ向け中心に日本の
輸出は急増した。特に繊維については、コスト競争力と安定した品質により世界市場を席
捲した。当時、合繊企業や紡績は、海外の輸出拠点に営業支援のためのマーケティング全
般を担う海外駐在員を配置し、日本の本社輸出部や商社と連携し、商社の販売先の一次問
屋や末端流通企業等とコンタクトを持ち、需給動向の把握とその情報の本社へのフィード
バックや現地販売先のプロモーション支援等を行った。また技術サービス員を長期出張の
移動大使のように数名ずつ常時派遣し、クレーム処理の調査・判断や、(特に東南アジアに
おいて)合繊加工を新たに手掛けるユーザーに対する技術指導等を行った。これは日本の
繊維企業による技術サービス含めた広義の海外マーケティング活動の事例と言えよう。
日本の商社も多くの海外駐在員を配置して、上記のように日本のメーカーと連携をとり
つつまた独自で、日本製品輸出拡大の一翼を担い大きく貢献したのは言うまでもない。
対米貿易摩擦と日米繊維交渉
1960 年代に入って、天然繊維や合繊のテキスタイル、さらには 1 ドル・ブラウス(ワン
ダラーブラウス)に象徴される安い日本製綿製品の対米輸出の急増により、アメリカ繊維
産業が大きな影響を受けたとして、繊維の対米輸出が最初の日米貿易(摩擦)問題として
顕在化した。そして 1970 年の「日米繊維交渉」において、日本(佐藤首相―田中通産相)
がアメリカ(ニクソン大統領)の繊維産業保護策を受け入れ、以降日本の対米輸出は大き
く規制されることとなった。それを契機に日本の繊維産業の輸出は壊滅的打撃を受け、業
界淘汰・再編を経て、以降、日本の繊維産業は内需志向を強めていく。
財務省のデータによると、我が国のアパレル輸入額が、2008 年で約 2 兆 6 千億円の規模
であるのに対して、輸出額は一部雑貨含めても 2008 年で約 610 億円であり、一方、我が国
のテキスタイル産業については、2008 年のテキスタイル純輸出額(持ち帰り輸出分等除く、
日本生機・日本染色加工品の輸出のみ)は、同じく財務省データから推計すると精々多く
見積もっても約 300 億円程度である。これらの数値はまさしく日本の繊維・アパレル産業
が今なお内需主体構造を脱していない証左の一つと言えよう。
日本の繊維ファッション産業の国際競争力を強化するには、テキスタイルやコスチュー
ム・デザインのさらなるクオリテイ・アップと機能性アップはもちろんのことではるが、
ブランド力、マーケティング力を含めた総合的な提案・発信力が今求められている。
-9-
国内市場最適化モデルとマーケティング不在
その後の日本の繊維・アパレル産業は、ひたすら国内市場向けの最適化モデルを追求し、
成長・成熟してきた。その成功モデルは、10 年ほど前までの日本市場の中では、非常に有
効であったが、厳しい国際市場の中で生き残ったグローバル企業との競争に晒されている
現在の内外の市場においては、その成功体験モデルが新たな市場対応を妨げている面があ
る。今までのビジネスモデルは、システムとして完成度が高く整合性がとれていることか
ら、一部を変えようとしても難しい。一度成功が続くと、業界・企業の制度設計が全てそ
の仕組みに適合することから、そのシステムから脱するのは難しい。特に日本の繊維アパ
レル産業が内需だけを対象にしていた時期は、目に見える競合相手が国内企業だけであり、
消費者の嗜好も同じ日本人であり十分把握できていたこともあって、ことさらマーケティ
ング活動を意識して行う必要がなかった。
ビジネスのグローバル化とパラダイムシフト
今や繊維・アパレル産業だけでなく、50 年ないし 100 年に一度の危機とも言われる金融
システムの混乱を契機に、世界的なスケールで政治・経済・産業・社会全体のパラダイム
が激変している。また景気の回復や金融システムの混乱がおさまった後も、決して数年前
の産業の在り方、競争の場やルールには戻らないと思われる。
21 世紀の最初の 10 年間を経て、繊維・アパレル産業においても、21 世紀が今までとは「質
的」に全く異なる世界になりつつあることが、日本におけるユニクロの戦略的経営に基づ
く市場の拡大、世界的なラグジュアリーブランドの低迷と一方でのファストファッション
の台頭、人口動態的要因に起因する内需の縮小と新興国における中間層の増大等から予測
される。
日本、特にテキスタイル企業や産地の古き良き時代、即ち、「モノづくり」で世界の優位
に立ち、阿吽の呼吸で商売ができた時代とは変化している。これまでの高コストかつ非効
率な業界構造・流通形態・取引慣行のままでは、国内市場に対象にするにしろ、海外市場
に進出するにしろ、日本の企業に競争優位性は乏しい。マーケティングに長けたグローバ
ル企業を競合相手として、スピードとダイナミズムが益々求められる今後の市場競争・事
業環境の中では、商品の高品質だけではなく、広く世界を見ながら自社の強み・弱みを見
極めつつ、自社が優位性を発揮できる市場や提携・協働を含めた最適な方法を選択して勝
負する戦略的なマーケティングが求められる。
- 10 -
ファッションビジネスのパラダイムシフト
ファッションビジネス は先進国が中心
ファッションビジネスの多核化、ネットワーク化
ファッションは上流階級から降りて いく
ファッションはストリ ートから生まれる
先進国の人口は減少=市場の縮小
新興国の中間層増加=市場の拡大
アパレルは、国内生産国内消費が中心
コストの最低地域で生産、最高地域で販売
需要>供給、モノ作り 主導の時代
需要<供給、市場主導の時代
問屋中心の繊維流通
グローバルかつダイレクトな繊維流通
海外市場に対応するにはマーケティングが不可欠
特に、海外市場に進出する際は、外交政策的な要素を含む広義のマーケティングなくし
て、現地に拠点を持って中長期的にビジネスを安定的に継続させていくことは難しいとい
う認識が必要である。
欧米市場はもちろんのこと、現在、日本のアパレル企業、テキスタイル企業が最も高い
関心を持っている中国市場進出には、特にマーケティングが不可欠である(「アンケート調
査結果」:輸出努力したい地域としての中国;アパレル 89.1%、テキスタイル 65.2%)。
中国は日本の製造業のノウハウを導入し、日本市場へ輸出することで経済発展の礎を築い
た。日本向けに加工輸出を行っているだけの中国企業は、日本人が企画した日本市場向け
の商品を生産するだけであり、マーケティングは必要なかった。
日本企業も低廉な中国生産という新たな生産システムに熱心に取り組んだが、マーケテ
ィングへの関心は薄かった。ここ 10 年あまりは、消費者に安くて品質の良い製品を供給す
ることが、最大のマーケティングであり、中国生産はそれを可能にしたのである。つまり、
中国生産の商品を日本市場で販売するというビジネスモデルにおいては、日中共にマーケ
ティングの必要性がなかったのである。
しかし、時代は変化し、中国は世界の工場であるだけでなく、世界の市場として認識さ
れるようになった。つまり、中国生産の商品を中国市場で販売する。あるいは、日本製品
を中国市場で販売するという新たなビジネスモデルを模索するに至ったのである。
これは、中国内販を行っている中国企業も同様である。輸出向け OEM 生産では、マーケ
ティング活動は必要ないが、中国市場で販売するには中国在住の消費者に対してマーケテ
ィング活動が必要になる。
- 11 -
消費の成熟度に対応したプロモーションを
進出した市場の成熟度を含めた実態に即したマーケティングが必要であるのは言うまで
もない。日本の業界や市場が進んでいるからといって、日本の現在のやり方をそのまま他
の国の市場に当てはめても上手くいかない。現在、日本のアパレル企業、テキスタイル企
業が最も高い関心を持っている中国市場に関してみると、多くの中国ファッション業界関
係者から「日本企業は中国市場でプロモーションを行っていないので、中国での認知度が
低く、それが売れない原因だ」という話を頻繁に聞く。しかし、課題はプロモーションだ
けではなく、総合的なマーケティング活動が必要なのであり、特にプロモーションが足り
ないとの指摘である。
現在、中国はマスプロモーション全盛の時代である。テレビ CM など、マス市場に向け
たマスプロモーションが効果的である。利益のほとんどをプロモーションに注ぎ込み、一
気に知名度を上げて、大成功した中国企業も少なくない。つまり、日本でかつてマーケテ
ィングが有効に機能していた時代と同じ次元にあると言える。
日本企業のノウハウにより日中相互発展が可能、日伊連携による新たなテキスタイルを
現在、日本の繊維・アパレル企業が最も高い関心を持っている現在の中国市場では、ス
ケールアップとスピード優先のビジネスが際立つが、同時に、世界の一流企業、一流ブラ
ンドは着実なマーケティング戦略の下に着実に中国市場に進出している。今のところ、経
験の少ない中国企業でも市場全体の成長に支えられ、順調に成長を続けているが、今後、
海外企業や海外ブランドとの厳しい競合が待っているのは間違いない。
こうした中で、マーケティングを含む高度なビジネスノウハウの欠如を補うために、海外
企業とのライセンスビジネスや提携、海外デザイナーとの提携を進めている中国アパレル
企業は多い。
日本では、アパレル企業が未熟な段階には、過去の輸出ビジネスで資本やノウハウを蓄
えた大手合繊企業や工業用ミシン企業等が、アパレル企業に対してマーケティング的なノ
ウハウを提供支援していた。しかし、中国では全てのサプライチェーンを構成する企業が
同時にスタートしている。中国現地企業が自らのノウハウや資本を蓄積する前に、海外か
ら競合企業が押し寄せ、急成長する国内市場の中でグローバルなビジネス競争が起きてい
る。
その意味では、かつての日本の大手合繊企業が当時の日本で行ったように、日本企業が
中国企業にノウハウを与えることで、win-win関係により共に成長する機会が生じ
てくる可能性がある。
また、後に詳述するが、イタリアと日本は、世界でもトップクラスの高級で上質なテキ
スタイルを生産する技術を持った国である。イタリアはヨーロッパの歴史と文化を背景に
したアート、デザインに特徴があり、日本は最先端のハイテク技術と厳格な品質管理等に
- 12 -
特徴がある。加えて、日本、イタリア両国には優れた職人による匠の技術が存在している。
イタリアのハイタッチ素材と日本のハイテク素材のボンディング、イタリア素材を日本の
ハイテク加工で処理する等新たな可能性を生む可能性がある。日本とイタリアの両者の強
みを融合させて生まれた素材を中核として、日本とイタリアが連携して、欧米市場、日本
国内市場、中国市場戦略を構築するという可能性もある。
マーケティングチームによる海外市場の販売活動
現在の日本企業は、ユーザーへのプレゼンテーションにおいて、社会背景や消費者意識
やライフスタイルの変化を解説するよりも、商品そのもののスペック、性能、価格に絞っ
て提示することを重視している。日本国内の商談では、社会潮流の変化やトレンドの背景
分析等、余計な解説が必要でない時期が長く続いた。
しかし、中国では事情が異なる。例えば、欧米のある合繊企業は、中国アパレル企業に 5
~6 名のチームで訪問し、そして、マーケティングのレクチャーを行う。その内容は、マー
ケット環境の変化、海外トレンド情報の分析、競合企業の動向の背景を説明した上で、自
社の商品開発コンセプトを解説し、その後、初めて具体的な商品をプレゼンテーションす
るのである。
欧米企業マーケティングチームによる営業活動
現地マーケット環境の変化
シーズンテーマ
海外トレンド情報の分析
カラーパレット・配色
オリジナル商品
消費者ライフスタイルの変化
素材トレンド、風合い
競合他社の動向
こうしたマーケティングチームの訪問は、中国企業にとって勉強になるため歓迎され、
更に、教える者と教わる者との間に信頼関係が生じる。同じ生地を仕入れるのならば、勉
強になる相手と付き合いたいし、そういう企業から素材を仕入れたいと考えるのは不思議
なことではない。
一方、日本企業は中国でもイタリアでも日本国内と同様のアプローチを行っている場合
が多い。すなわち、いきなり生地サンプルを見せ、スペックや価格を説明し、品質の高さ
を訴求する。しかし、多くの中国アパレル企業の経営者や仕入担当者にはまだまだ専門知
識が不足しており、どれも同じように見える合繊生地の区別はつかない。従って、どこが
他の素材と違っていて、なぜ、価格が高いのかを丁寧に説明する必要がある。
- 13 -
一方、次元が違うが、欧州アパレルに対しても、トレンドの分析やその展望、プレゼン
テーション対象相手先のブランドコンセプトや市場ポジショニング、相手先ブランドの数
シーズン前からの主力素材の分析、相手先ブランドの競合分析等の理解と披露・提示もな
きまま、いきなり生地の単品サンプルを見せ、そのスペックや価格を説明するだけで、商
談が空回りしてケースが少なくない。
また、中国では、本業であるアパレルの企画生産について、多くの課題と悩みを抱えて
おり、彼らが欲しているのは、テキスタイル製品の説明よりも先に、自らが悩みや直面し
ている課題に対する多面的な支援やアドバイス[=ソリューション]を欲しているのであ
る。
「信頼できない相手との取引、勉強にならない相手との商談は避けたい」というのが、
一般的な中国アパレルの担当者の発言である。中国には中国のニーズがあり、中国でビジ
ネスをするからには、中国のニーズを知ることが必要である。
どの国でも現地消費者とのコミュニケーションが不可欠
日本の業界人は日本市場を熟知しており、国内市場だけをターゲットにしている間は、
大げさな市場調査の必要はなかった。常に、店頭と顧客、ファッション雑誌をチェックし
ていれば、市場動向や消費者の嗜好の変化の多くを理解できた。しかし、他国の市場への
参入を目指すなら、当然のことながら、その国の取引先や消費者とのコミュニケーション
が不可欠である。ビジネスにおけるコミュニケーションとは、単に言語が理解できるとい
うレベルだけでは不十分で、もし欧米市場参入を目指すなら、自社あるいは相手先の企画
コンセプト、自社としてのトレンド咀嚼の着眼点・商品への反映のさせ方、商品開発に際
しての想定市場ターゲット、技術展望含む市場展望等についての遣り取りが対等にできな
くてはならない。あるいは、もし中国市場参入を目指すなら、中国市場・業界の特性や消
費者を理解するための効果的且つ効率的な方法論を研究し会得した上で、中国業界・消費
者とのコミュニケーションが不可欠である。日本人にとって中国市場は未知の市場であり、
日本市場とは異なることを認識すべきである。
マーケティングにおいて、自分の国のビジネスシステムが、どの地域でも有効とは限ら
ない。ビジネスの成熟度、消費者の成熟度、メディアの成熟度等によって、有効な方法を
選ぶべきである。それには、マーケティング戦略立案の基礎となる客観的な調査が必要に
なるのである。
企業間連携によるマーケティングチームを
最終製品を扱っているアパレル企業は、海外市場において最終消費者まで対象にしたマ
ーケティング活動が不可欠であるが、中間素材を扱うテキスタイル企業やコンバーターは、
一層のマーケティングが必要である。特に中国市場を狙うなら、テキスタイル情報を中国
- 14 -
の最終消費者に伝達するには、アパレル企業や小売企業との連携が不可欠であり、かつて
の日本の大手合繊企業が行ってきた手法を再び展開する必要がある。更に、現在は今まで
以上に多面的で高度な専門知識が求められており、アウトソーシング等を活用しながら、
マーケティングチームを組むことが必要であると考える。そして、より高度なマーケティ
ングチームには、これまで以上のコストが必要となることから、数社連携によるマーケテ
ィング推進も有効と考えられる。
マーケティングチームの役割として、
・ 中国アパレル企業が課題と感じている様々なビジネス環境の分析
・ トレンド情報分析
・ シーズンテーマの設定や具体的な MD 手法
・ 店舗演出や店舗運営のノウハウの伝授
・ 商品開発を行い、複数のテキスタイルメーカーやコンバーターの製品の訴求
等
更に、企画会社、デザイナー、パターンメーキングの会社等もそのチームに加わることで、
中国アパレル企業に対して、ソリューション型のサービスを提供することが可能になる。
プロモーションも、市場カテゴリー毎に数社纏まって展開していく方が、各企業が単独で
行うよりも、スケールメリットが生じ、有利な点となり得る。
こうした企業の横連携的なマーケティング活動は、既に中国市場に出遅れた感が強い日本
企業の打開策として、1 社当たりの経費負担も少なくて済むこともあり、中国マーケティン
グを目的とした企業間連携チーム活動の可能性を探る必要がある。
企画会社
テキスタイルメーカー
企業間連携によるマーケティングチームのイメージ
商品MDの手法
パターン制作会社
店舗デザイナー
内装企業
店舗デザイン、 VMD
什器、マネキンメーカー
販売員インストラクター
販売管理システム
店舗運営、販売管理
VMDコンサルタント
- 15 -
ソリューションチーム
2-1-3 わが国の繊維・アパレル産業におけるマーケティングの歴史的系譜
■ 1950~1960 年代(合繊の黎明・台頭期):
合繊企業による市場創造へのマーケティング活動
①
消費者キャンペーン:1960 年代になり、ファッションの洋装化が急激に進み、既製服
への需要が高まった。しかし、当時の既製服企業は小規模企業が多く企画やプロモー
ション等の機能が十分ではなかったことと、合繊という馴染みのない新商品を市場に
導入するために、東レは直接消費者に働きかけるキャンペーン(プルマーケティング)
をマスメデイアや小売店等を巻き込んで行った。
②
小売店の組織化と連携:1960 年代に米国のチェーンストア理論が日本に紹介され、日
本の流通業界は大きな変革へと踏み出そうとしていた。そこで東レは量販店、専門店
を「セールスチーム」(東レサークル)として組織化し、経営課題解決支援、商品企画
提案等を行った。
③
アパレル企業を対象としたセミナー:アパレル企業対策として、アメリカ既製服企業、
小売業のノウハウを紹介し、同時に、商品企画提案、素材提案を行った。
④
繊維マーケティング部の発展的解消:その後、アパレル企業がファッション流通の主
導権を握るようになり、合繊企業である東レ等の繊維マーケティング部の役割も変化
していった。アパレルの商社への委託生産が一般化する中で素材手当てが商社による
海外現地手当ての比率が高まったこともあって、2001 年に国内市場に限定して主にテ
キスタイル事業の販促機能を担っていた繊維マーケティング部を発展的に解消した。
■ 1960~1970 年代(アパレルの黎明期・台頭期)
:
大手アパレル(百貨店卸)の対百貨店マーケティング活動
57 年、専門店アパレルのキャラバンが「参考上代・掛け率制、テリトリー制、返品制」
のアパレル取引商慣行の3点セットをスタートし、相前後してオンワード樫山が同様の枠
組みで百貨店アパレル取引商慣行を確立した。1960 年代半ばまでに繊維二次製品卸の9割
がその手法を導入し、アパレルと百貨店との取引は、ほぼ現在の形態になった。
①
参考上代・掛け率制:百貨店卸しが上代決定権を握り、掛け率ダウン(当初は 80%、
その後5年ごとに5%ずつダウン、現状 60%前後)を小売価格に転嫁していった。
②
テリトリー制:百貨店はアパレルに対して競合他店との取引を牽制したが、アパレル
は、海外ライセンスブランドの積極的導入を核に多ブランド化展開することによって、
その壁を乗り越えて行った。
③
派遣販売員制:アパレルはマネキン(派遣店員)斡旋会社との契約により派遣販売員
制を確立する中で、百貨店の売場は、企業単位・ブランド単位のコーナー展開が一般
- 16 -
化していった。
④
多頻度小口納品制:日常的な納品については、各百貨店に担当者を配置し、日参する
中で対応した。売場と在庫管理を百貨店とアパレルが重複して行う体制である。
⑤
取引口座制:アパレルは取引口座制を既得権益化し、百貨店の売り場支配力を強めて
いったため、百貨店への納入業者の入れ替え・新陳代謝は活発とはいえない状況にな
った。
⑥
多ブランド制:アパレルは、当初基本的に1社1ブランドだったが、62 年に小杉産業
がジャンセン社と、日綿実業がホワイトスタッグ社との提携したのを皮切りに、アパ
レル企業はライセンスブランドの積極的導入を軸に続々と多ブランド戦略をとるよう
になった。
以上のような取引システムが確立した結果、百貨店は、商品在庫リスク、人件費負担の
心配等が大きく軽減された。一方アパレルは百貨店の店頭(マーチャンダイジング)をコ
ントロールする体制を獲得することができた。こうした取引システムの中で、アパレルは
次第に百貨店流通における企画・生産・流通・販売の主導権を確立していった。
■ 1970~1980 年代(量販店の台頭):
量販店によるマスマーチャンダイジング
・ 70 年代は、量販店の進出が目覚ましく、
「流通革命」が提唱された。そこでは、量販店
の急速な発展によって、店舗の標準化・大型化・チェーン化が進み、伝統的な独立自営
商業の淘汰が進んだ。「小売流通においてチェーンオペレーションによる大量販売が実
現すれば、卸商の排除が進んで、流通経路が短縮される」等いわゆる問屋無用論が論議
を呼んだ。
・ 米国流の合理的なチェーンストア理論を導入して多店舗化を急速に進めた日本の量販
店ではあるが、仕入れ面では日本型商慣行に縛られた。アメリカの量販店は「大量発注・
大量販売を背景に低価格での買取仕入れを行い、設備・人員・利幅の低減化を図ること
で廉価販売を実現」したが、日本の量販店では、当初は米国型の買取り仕入れ体制でス
タートしたが、時代を経るに従い実質的には百貨店の取引形態を継承したケースも少な
くない。「上代は量販店の指し値で、百貨店並の掛け率取引、値引き要求、返品あり」
だったために、初期の量販店卸は倒産や取引縮小が相次いだ。
・ その後、量販店商法に納得ずくで取引する量販卸が参入した。それにより、アメリカの
量販店が「普通の商品を安く売る」のに対し、日本の量販店は「安い価格なりの商品を
売る」ことが主流となった。1963 年にレナウンが量販店向けブランドを初めて投入し、
当時のアパレル業界はこれに倣うことになった。その結果、アメリカの量販店では、P
Bに加えて百貨店や専門店で販売しているブランド商品を安く販売する業態であるが、
日本の量販店は、少なくともアパレル製品ではそれができないという慣行が 1960 年代
- 17 -
半ばまでに固まったと言えよう。
日本の量販店とアメリカの量販店の違い
アメリ カのチェーンストア理論
×
日本の百貨店の取引形態
量販店卸
量販店ブランド
日本の量販店
流通革命・問屋無用論
×
百貨店・専門店ブランド
店舗の標準化・大型化・チェーン化
○
スケールメリッ トによる安売り
*日本の量販店は、百貨店との棲み分けし、別ブランド展開。
アメリカの量販店は、百貨店と同一ブランドの安売り。
■ 1970~1980 年代(専門店アパレル全盛期):
専門店アパレルによる市場創造期
・ 量販店が当時志向した大量生産大量販売を前提とした画一的な商品づくりと一線を画
する多様性・個別性を前提としたモノ作りを模索し始めた一群のアパレルが台頭し、サ
ンディカグループをはじめとして専門店アパレルを形成し、一般洋品店との連携を強め
ていった。婦人服では鈴屋、三愛、タカノを、紳士服ではヴァン、ジュン等を先導とし
ながら、専門店という新しい業態が確立されていった。
・ 専門店もまた、テリトリー制の中で売上を伸ばすために、多ブランド戦略を押し進めて
いった。1966 年のオールスタイル、1967 年のワールドを端緒に、多ブランド化の流れ
は、アパレル業界で一般化した。多ブランド化には、一つの大型・中型小売店に多ブラ
ンドを投入する形態と、1店1ブランドのオンリーショップの形態があった。
・ このマーケティング戦略が推進された背景の一つとして、前述した東レ主催「ファッシ
ョン産業セミナー」や、その後の旭化成主催「FITセミナー」で提唱された「マーケ
ットセグメント(市場細分化)戦略」があった。米国流のTPOによる市場細分化、フ
ァッションタイプ別市場細分化、ライフスタイル別市場細分化を紹介し、多ブランド戦
略の理論的根拠と手法を提供することとなった。
- 18 -
アンチ量販店から生まれた専門店アパレル
アメリカのチェーンストア理論
日本の量販店の急成長
流通革命・問屋無用論
店舗の標準化・大型化・チェーン化
危機感&アンチ量販店
・ 70 年代半ばに入ると、マーチャンダイジングやブランド戦略の主流は、アイテム(服
種)別単品ブランドから、トータルコーディネートブランドに変わっていった。この段
ファッション専門店
専門店アパレル
階でアイテム別売り場の販売員ではコーディネート販売に対応できなくなり、コーディ
チェーン化
多ブランド戦略
ネート販売のプロ販売員のいる専門店が消費者の人気を集め、
このことが派遣販売員に
依存していた百貨店との差別化にもつながった。(この系譜は、DCアパレルにおける
ハウスマヌカン、109系アパレルにおけるカリスマ店員まで脈々と続いていく)
・ 70 年代半ばから 80 年代にかけて、大都市や周辺都市で地下街、ファッションビル、S
Cが開発された時期でもある。そうしたファッション商業集積の主役は専門店が担うこ
ととなった。第一次オイルショック期の狂乱物価の頃でさえ婦人服市場は成長を続け、
「婦人服だけがなぜ売れる?」と世間の耳目を集めた。
■ 1980 年代(DCアパレルの台頭からSPAモデルの確立期へ)
:
DCアパレルの直営/FCショップ+商品のパッケージ販売
・ 1970 年にパリで高田賢三がデビューし、70 年代半ばには日本でも同世代のデザイナー
達が、続々とコレクションを行い、ブティック(直営店)を立ち上げた。個性的なデザ
イナーズブランドが人気を集め、80 年代になると原宿近辺のマンションメーカーと呼
ばれる個性的なアパレルと共にDCブランドブームを巻き起こした。DCブランドは、
直営店とFC展開を基本としたため、通常のアパレル卸よりも粗利益率が高いビジネス
モデルを構築することになった。後に、このビジネスモデルを大手アパレルも導入し、
SPA型アパレルへと発展していった。
・ DCブランドの特徴は、トータルコーディネートされたフルアイテムの商品と、個性的
なブティック=ショップ展開であり、ショップと商品をセットにして、百貨店、ファッ
ションビル、全国の商店街や地下街に市場シェアを拡大していった。
・ 70 年代半ばから、百貨店のリニューアルの第一期がスタートした。この頃までの百貨
店は、いわゆる百貨店アパレルのベーシックなNB(ナショナルブランド)中心の品揃
えだった。一部の百貨店で試験的に導入を始めたデザイナーズブランド売場は人気を集
め、80 年代には、百貨店のリニューアルはDCブランドの導入を意味するようになっ
- 19 -
た。DCブランドは商品だけでなく、売り場環境の提案も行ったために、百貨店にとっ
ては、DCブランドを導入するだけで、売り場の印象を変えることができたのである。
・ また、DCブランドはファッション雑誌によるプロモーション戦略にも特徴があった。
プレスルームと呼ばれるサンプルの展示スペースを設け、ファッション雑誌に無料でサ
ンプルを貸し出すサービスを始めたのである。そして、広告、編集タイアップ、編集ペ
ージの中で露出を高めていった。その後、大手アパレルを含めてプレスルームの設置が
一般化していった。
DCブランド・パッケージの導入による売場の活性化
DCブランド・パッケージ(環境+商品MD)
80年代の百貨店リニュ ーアル
トータルコーディネートのフルアイテム商品
ファッションビルのテナント
個性的なショッ プデザイン
FC展開による商店街、 地下街
ファッション雑誌と連携したプロモ ーション
消費者
ファッション雑誌へのパブリシティ、 広告
プレスルーム・ プレス担当の設置
■ 1990 年代(SPAビジネスモデルの一般化と問屋流通の崩壊へ)
:
SPA型アパレルと製品の商社調達
・ DCアパレルの直営店モデルは、大手アパレル、専門店アパレル等も採用するようにな
り、製造卸から「SPA」と呼ばれる製造小売りへの業態転換に発展した。
・ SPA型アパレルは、商品企画・生産管理・営業・店舗開発・接客販売という非常に幅
の広い業務を行うようになった。また、次第に中国を中心とする海外生産が増加し、価
格競争も激しくなった。そこで、経営効率のために生産管理を商社に移管し、商社から
製品調達するという取引モデルに変わっていった。
・ 80 年代以前のアパレル製造卸は、生地問屋(テキスタイルコンバーター)から生地を
仕入れ、縫製工場に加工賃を払って、アパレル製品に加工し、それを小売店に販売する
という形態だった。しかし、SPA型アパレルとなってからは、商社がテキスタイル企
業から生地を仕入れ、縫製工場に加工賃を支払って加工し、製品をアパレルに販売する
ことになった。こうした中で、生地問屋の存在意義が薄れ、生地問屋の淘汰が進んだ。
・ SPA型アパレルは、経営資源をブランドプロデュース(商品企画、店舗開発、広告宣
- 20 -
伝)と店舗運営等に集中的に投資することで、高い利益率を確保した。一方で直営店戦
略を取らず、製造卸に留まった多くのアパレル企業は 1990 年代から 2000 年代にかけ
て淘汰されていった。
・ 当初は、商社への生産管理機能のアウトソーシングだけだったが、次第に商社傘下の企
画会社に製品の企画提案までを委託し、商社の提案サンプルから商品をセレクトしてバ
イイングするだけのアパレル企業も増えてきた。このような企画機能のアウトソーシン
グと過度の店頭売れ筋フォロー型のマーチャンダイジングが主流となったこともあっ
て、素材やデザインの同質化が起こり、価格競争に陥るという悪循環が起きている。
アパレル製造卸からSPA業態への変化に伴う商品調達の変化
SPA型アパレル
アパレル製造卸
商品企画
生産管理
営業
約束手形
接客販売
現金(縫製工賃)
生地問屋
(テキスタイルコンバーター)
×
店舗開発
約束手形
(製品仕入れ)
縫製工場
商社にアウトソーシング
■ 2000 年代~(ラグジュアリーブランドの低迷とファストファッション台頭期):
産地問屋・産地メーカー
中国外貿ア パレル
ユニクロの圧倒的価格戦略と差別化素材戦略
中国テキスタイルメーカー
・ H&M、ZARA、FOREVER21等低価格でトレンディなファッションをグロー
バルソーシングで供給販売するファストファッション企業が世界的に台頭する中で、ユ
ニクロはファストファッション企業と一線を画したビジネスモデルで成長を続けてい
る。地方専門店で低価格のカジュアル商品を販売していたユニクロは、1998 年に初の
都心店であるユニクロ原宿店をオープンした。フリースのジャケット 1,900 円という圧
倒的な価格競争力と、アイテムの絞り込みと高質なショップ演出とプロモーションによ
り、一気に全国的なユニクロブームを引き起した。
・ ユニクロは、小売店で初めて、素材企業、紡績、機織、染色等のスペースを押さえて計
画生産によるマスマーチャンダイジングを実現した。ユニクロは、日本の繊維川下企業
では唯一日本の製造業の強みを取り込んだビジネスモデルを確立した。他のアパレル企
業が生地や製品のリスクヘッジを志向する中で、ユニクロは計画的な大量生産を行い、
合繊企業と直接連携し、オリジナルな差別化素材を次々開発している。また、中国等の
縫製工場に日本人技術者を派遣して、技術指導を行うことで品質の高い商品を供給して
いる。
- 21 -
・ 欧米のアパレル専門店が、トレンドに対応したデザイン訴求が中心であるのに対し、ユ
ニクロは差別化素材によるオンリーワンの高品質のベーシック商品を格安で販売する
というビジネスモデルを構築し、成功を収めている。中国、韓国、香港、イギリス、フ
ランス、アメリカ等にも出店し、世界中の顧客から支持されるようになっている。
・ また、大型専門店によるデザイナーとのコラボレーションによる市場活性化の試みとし
て、H&Mとユニクロの成功事例がある。H&Mは、流行をいち早く取り入れ、リーズ
ナブルな価格で提供するファストファッションブランドとして知られているが、もう一
つの特徴が有名デザイナーとのコラボレーションである。カール・ラガーフェルド、ス
テラ・マッカートニー、ヴィクター&ロルフ、ロベルト・カヴァッリ、コムデギャルソ
ン、ジミー・チュウなど、一流のファッションデザイナーと次々とコラボレーションを
行い、話題を集めている。
・ ユニクロも、2009 年に世界的なファッションデザイナーであるジル・サンダー氏との
協業による「+J」を発表。高感度でリーズナブル価格の商品の展開を始め大きな成功
を納めている
・ こうした試みによる安くて高感度な商品を限定的に展開することで、これまでラグジュ
アリーブランドを購入していた顧客層をも取り込みつつある。現在は、デザイナーがラ
グジュアリーブランドで腕を振るうというこれまでの手法だけでなく、ユニクロやH&
Mとコラボレーションする時代に移っている。
- 22 -
2-2
繊維・アパレル業界が直面する経営的・マーケティング的課題
従来の日本市場に最適化した産業のあり方、業界構造、ビジネスモデル、取引システム
等は、国際化する国内市場及び海外市場戦略においては、機能不全を起こしている。
その結果、アンケート結果にもあるように、ここ 3 年ほどの経営状況(売上、利益)は厳
しく、アパレルよりもテキスタイルの方がより厳しくなっている。
特に、テキスタイルからアパレルにいたるあらゆる流通段階で、リスクヘッジが行われ、
商品が同質化し、価格競争に陥っている。行き過ぎた在庫削減は、素材開発やデザインの
リードタイムを削り、オリジナルの商品企画力を低下させている。
先進国では、アップル社のアイフォーンに代表されるように、デザインやサービス部門
が重要性を増している。技術がモノ作りをリードするのではなく、デザインがモノ作りを
リードする傾向が強まっている。魅力的なデザインに基づいて、必要な技術や部品は、世
界中から調達しようという考え方である。コストの高い先進国企業にとって、コスト競争
だけでは新興工業国企業には勝てない。そこで、デザイン戦略が重視されているのである。
一方で、日本のアパレルビジネスにおいては低価格戦略ばかりが目立っている。そして、
デフレフパイラルに陥り、全ての流通段階で売上と利益が減少し、一層のコストカットを
行うという悪循環に陥っている。
加えて、外国資本のファストファッションブランドが次々と上陸している。彼らは、世
界のファッショントレンドを分析し、世界で最もコストの安い地域で生産し、世界で最も
購買力の高い地域で販売するというビジネスモデルを採用している。世界スケールの大量
生産大量販売を実現しており、非常に高い価格競争力を有している。
そうした状況の中で、日本独特の間接的な商品調達、間接的な顧客とのコミュニケーシ
ョン、国際的なスケールメリットとソーシングの適材適所を追求できない非効率なサプラ
イチェーン全体が機能不全に陥るおそれがある。
繊維アパレル業界が直面する6つの課題
百貨店、量販店等、既存流通の低迷
価格競争の激化とデフレスパイラル
外資によるファストファッシ ョンの上陸
海外市場に訴求できるブランドの欠如
業界標準ビジネス基盤とICT活用の遅れ
海外市場におけるマーケティング戦略の欠如
- 23 -
2-2-1 百貨店、量販店等、既存流通の低迷
・90年代のバブル崩壊以後、消費はラグジュアリーとコモディティに二極化された。百
貨店はファサード部分を欧州のラグジュアリーブランドに譲り渡し、一方で、低価格商
品の品揃えを強化した。
・東京地域を事例に上げると、バブル崩壊による地価下落により、ラグジュアリーブラン
ドの路面店が銀座・青山地区に出店した。同時に、都心部には、新丸ビル、六本木ヒル
ズなどの新しい商業集積が誕生した。同時に、JRグループを中心に、駅ビル、駅ナカ、
駅チカにも新しい商業集積が誕生した。郊外にはイオングループ、セブン&アイグルー
プの大型SCやアウトレットモール等が開発された。これらの商業集積には、主にSP
A、セレクトショップが出店した。こうした動きは、東京地域のみならず全国でも起き
ている。
・同時に、ユニクロやしまむら、大型紳士服専門店のように中国工場と直接、あるいは商
社経由で商品調達する大型専門店が増え、急激な成長を遂げた。
・こうしたファッション流通の変化の中で、百貨店、量販店は低迷を続け、百貨店、量販
店を主な販売先にしているアパレル企業も営業成績が低迷している。
*百貨店、量販店低迷の要因は、以下のように整理できる。
➀販売管理費の負担:
・百貨店は、アパレル企業別に売場が構成され、それぞれに派遣販売員(マネキン)紹介
所から派遣された派遣販売員がついている。但しSPA業態のアパレルは自社で養成し
た自社社員を配置している。いずれにしてもその人件費はアパレル企業が負担している。
・レジは百貨店の社員が担当しているため、売場構成上、大型専門店のようなセルフサー
ビス、集中レジによる人件費削減ができず、このことも全体的に商品価格を押し上げて
いる要因となっている。
②多段階の流通コスト:
・百貨店、量販店の商品調達は、問屋としてのアパレル企業に依存している。更に多くの
アパレル企業は、商社経由で商品調達を行っている。つまり、「工場-商社-アパレル企
業-百貨店」という多段階の流通経路をたどることになる。そのため流通コストが圧縮
できず、価格競争力が弱い。
・大型専門店等(カテゴリーキラー、SPA業界等を含む)は、「工場-商社-大型専門
店」であり流通経路が相対的に短い。また、量販店はPB戦略によるダイレクトな商品
調達を開始しており、価格競争力を取り戻しつつある。
③顧客への情報伝達力、コミュニケーション力の欠如:
・百貨店、量販店共に、一部催事や地階の菓子・食品コーナーを除くと、テレビ、新聞、
雑誌等に取り上げられる機会が少ない。
- 24 -
・莫大な経費をかけて、ハウスカード等を発行しているものの、割引サービスだけであり、
顧客へのレスポンスはほとんどない。情報発信についても、バーゲンセールの案内等に
限られており、顧客にとって魅力的とは言えない。
・百貨店はアパレル企業に顧客管理を許していないため、集客を促す手段を持っていない。
・百貨店、量販店共に、現状ではインターネット上の存在感は希薄である。具体的には、
催事情報くらいしか検索できず、プロパー売場の情報がインターネット上で検索できな
いのが現状である。
・SCや駅ビル等では、イベントや全体的なプロモーションはデベロッパーが行い、顧客
管理はテナントに任せている。そのため、テナントの努力により、顧客管理、顧客サー
ビスの提供が可能な仕組みになっている。
④商品を売り切る力が弱い:
・百貨店も量販店も、小売業の基本である接客販売ができる社員(人材)が不足している。
百貨店は派遣販売員に依存しているため、自社が直接調達した商品を売り切る力がない。
・量販店はセルフサービスであり、接客が必要な商品群を売り切る力がない。基本的な接
客販売力の欠如が、自主MDやPB販売を困難にしている。
⑤イベント性の欠如:
・新しい商業施設がオープンすると人が押し寄せる。ある意味で、新規オープンは魅力的
なイベントであり、メディアも取り上げる機会が多い。百貨店もメディアが取り上げる
のは、何らかのイベント(物産展、展覧会、伝統工芸、セール、福袋等)がある場合に
限定されている。本来ならば、定期的かつ継続的なイベントの実施が必要だが、スペー
ス、人材、企画力、運営力等が不足しており、魅力的なイベントを打つことができない。
・量販店もチラシによる食料品の安売り等の他には、これといったイベントがない。
2-2-2 価格競争の激化とデフレスパイラル
・90年代に入り、中国生産の技術レベルが向上し、日本への輸入が急増した。当初は、日
本生産のコストに合わせた価格設定をしていたが、次第に、中国生産のコストを基準に小
売価格が設定されるようになり、商品価格は劇的に低下した。
・中国生産の価格が基準になったため、国内企業への価格圧力も強まった。まず中国生産を
決定し、中国の工場スペースで対応しきれず溢れたもの、小ロットのもの、複雑な加工・
手間のかかる加工等、採算性の悪い加工のみが国内で行われるようになり、国内企業は
次々と淘汰された。
・劇的な小売価格の低下は、当然、消費者の支持を得た。ラグジュアリーブランドを含め、
日本国内の百貨店、専門店、量販店等で販売されているアパレル製品、繊維製品のほとん
どの価格が下落した。商品単価が下落しても、販売数量が比例して伸びないことから、売
上・利益共に下落することとなり、サプライチェーン全体が厳しい状況に追い込まれた。
・企業は人件費の削減を図るためにリストラを加速し、非正規社員の比率を高めた。結果的
- 25 -
に、全般的に所得水準が下がり、消費者の購買力が低下し、一層、低価格志向が強まると
いうデフレスパイラルに突入していった。
・それでも、2008年9月のリーマンショックまでは、日本経済全体は、中国経済の成長
等に牽引される形で輸出産業が好調であった。しかし、リーマンショック以降は、円高の
影響と相まって輸出産業も打撃を受け、ますます価格競争が激化している。
2-2-3 外資によるファストファッションの上陸
・日本が中国に生産基地を移転したように、アメリカは中南米へ、ヨーロッパは東欧、ト
ルコ等に生産基地を移転した。先進国の生産基地が周辺新興工業国に移転したことによ
り、新興工業国では所得が向上し、中間層が増加した。これまでファッションを楽しむ
余裕のなかった低所得者層が中間層に移行したことで、世界的な大衆ファッションブー
ムが起きた。そこから生まれたのが、低価格でファッショントレンドを取り入れた「フ
ァストファッション」である。
・一方、先進国ではインターネットが普及し、ライフスタイルが変化した。アメリカ東海
岸の権威的なパワースーツから、西海岸のIT系企業に代表されるカジュアルなスタイ
ルが主流になった。ファッションに支出するなら、パソコンやインターネットに支出す
る方がクールだと考えるようになったのである。
・そうした背景から、ZARAやH&Mというブランドがニューヨークでも人気を集め、
世界中に拡大していった。
・日本でも、2008年11月にH&M原宿店が、2009年4月にはフォーエバー21 原
宿店がオープンし、一気にブームとなった。
・ファストファッションは、世界で最もコストの安い地域で大量生産し、先進国を中心に
した大型店舗網で大量販売することで、世界統一価格による低価格を実現している。
・ファストファッションの上陸は、渋谷109系のアパレルにも影響を与えている。2009
年は初めて前年比 20%程度の売上ダウンとなり、過剰在庫に悩むアパレル企業が増えて
いる。
- 26 -
2-2-4 海外市場に訴求できるブランドの欠如
・戦後、日本の企業は終身雇用・年功序列給を基本とした雇用形態を採用しており、国民
の所得は外国と比べても格差が少なかった。いわゆる「一億総中流」と呼ばれる、均質
な市場を形成していた。
・1970 年以降、日本のアパレル企業はアメリカの既製服メーカー(婦人服)のノウハウを
導入したが、日本独特の市場特性により、アメリカのように大量生産した服を色・サイ
ズで大量陳列するという手法は受け入れられなかった。
・ヨーロッパ人にとってアパレル製品とは、オーダーを基本にした手工業製品であり、一
方、アメリカ人にとってアパレル製品とは、大量生産を基本とした工業製品である。こ
れらに対して、日本人は周囲との調和を大切にする一方で微細な差異を好むという嗜好
が強く、多品種少量生産がマッチしたと言えるだろう。
・また、日本の業界人の多くにとって、ファッショントレンドとは海外から輸入するもの
であり、英国調、フランス調、イタリア調、アメリカ東海岸調、アメリカ西海岸調など、
次々とテーマを変えることで、消費者の購買意欲を刺激する手法が採られた。同時に、
前述したように、流通チャネルに応じてブランドを細分化したために、ラベルを隠せば
どのブランドだか分からない、と言われるほど、商品が同質化することになった。
・ブランドの違いよりも、トレンドの違いが大きいのが、日本のアパレル製品の特徴であ
り、言い方を変えれば、他ブランドと差別化できるような明確なブランドアイデンティ
ティが確立していないと言える。
・こうした手法は日本市場に最適化したものの、海外市場では通用しない。ヨーロッパの
ジェネラル・ファッショントレンドに単に合わせるのでなく、ブランドとしてテーマを
明確に設定し、主張することが求められる。このことは、テキスタイルにも共通してい
る。海外のテキスタイル企業は、各々個性を有しており、ターゲットとするブランドも
明確に設定されている。
・現在、ヨーロッパでは日本のアニメやマンガを日本のオリジナル文化として、また、寿
司、和食も健康志向とも関連して人気を集めている。しかしながら、アパレル製品、テ
キスタイル製品の中で、このように日本オリジナルのブランドや製品として訴求できる
ものは少ない状況にある。
2-2-5業界標準ビジネス基盤とICT活用の遅れ
・欧米では、同じ業界の中で、業界内の業務フロー、組織・職制と役割分担、評価と報酬
システム等がビジネスの基盤として標準化が進んでいるため、最小限の引き継ぎで業務
を継続することができ、スムーズに会社を転職しながらキャリアアップを図れる。
・日本では、終身雇用を基本としていたために、各社各様の業務フロー、組織と役割分担、
評価と報酬システム等が存在しており、共通の基盤を持っていない。そのため転職した
- 27 -
場合でも、その会社独自のルールを覚えるのに時間が掛かり、業務の引き継ぎがスムー
ズに行えない。
・欧米では、こうした業界のルールを社内教育で行うよりは、専門教育機関を設立した方
が合理的と考え、業界主体で設立している。これらの専門教育機関は、単なる人材育成
ではなく、業界の基盤となる業務フロー、組織・職制と役割分担、評価と報酬システム
等を標準化するという機能を持っている。
・日本では、長らく業界標準で各企業共通のビジネス基盤を整備するという発想がなく、
同時に、各社独自の業務体系を維持してきたために、専門教育機関を設立しても、十分
にその機能を果たすことかできなかった。
・また、大手企業を中心に共通伝票の採用などの改善も見られるものの、中小企業が多い
繊維アパレル業界では、各社各様の専門伝票や台帳を使用することが多く、商取引の電
子化、業界共通の業務用システムの構築も遅れている。各社各様の情報システムが独立
して存在し、それらが連携しないために、巨大な無駄が生じ、企業の競争力を弱めてい
る。
・欧州では、環境や人権への配慮から、サプライチェーンの公開、健康に影響のある染料
や薬品のデータの公表を義務づけている。米国、中国でも、欧州の基準を採用する動き
があり、衣料品についてもトレーサビリティの整備が重要な課題になろうとしている。
国際市場に参入するには、こうした基盤整備が不可欠である。
2-2-6 海外市場におけるマーケティング戦略の欠如
・アパレル企業、テキスタイル企業共に、人口の減少、単価デフレ等により国内市場の拡大
は見込めず、海外企業、輸入品の増大により、国産品の市場シェアは減少傾向である。
・アンケート調査結果にもあるように、輸出がある企業の割合はテキスタイルが多く、アパ
レルは少ない。また、輸出先はテキスタイル、アパレル共に中国、欧州が多い。
・大手を中心に一部のアパレル企業は、中国市場に進出しているが、日本市場の成功モデル
を中国市場に当てはめても、機能しないことが多い。
・今回のヒアリング調査からも、海外市場における様々な問題が浮かび上がっている。消費
者の成熟度、顧客の嗜好、中国アパレルビジネスの商慣習、ファッション情報を伝達する
メディア、プロモーション手法、政府機関とのコミュニケーション、中国人社員の雇用・
評価・報酬等々、が日本とは異なり、その情報収集、戦略立案等も遅れている。
・アンケート調査でも、テキスタイル、アパレル共に輸出の問題点として、①輸出体制作り、
②輸出商品開発、③輸出条件が大きな問題点となっている。輸出体制については、テキス
タイルでは「希望価格に合わせられない」、アパレルでは「外国語が出来る人材不在」が
最大の問題点となっている。輸出商品開発については、テキスタイルでは「価格不適合」、
アパレルでは「好適デザイン不明」が最大の問題点であり、輸出条件では、テキスタイル、
アパレル共に「価格」が最大の問題点という回答を得ている。
- 28 -
・日本のテキスタイル企業は、欧州のラグジュアリーブランドへの売り込みを考えているが、
十分な成果は上がっていない。もちろん欧州で売れるに越したことはないが、むしろ欧州
市場で評価を得て、そのお墨付きで日本国内の商売を優位に進めたとする企業も、これま
で少なくなかった。
・海外調査におけるヒアリング調査結果からも、展示会以外でのプレゼンテーションや営業
フォロー・商談の体制や準備もできず、展示会出品商品も着分見本対応用の手持在庫さえ
持っていない例が指摘された。また、欧州側として、遠隔地である日本から輸入するには、
コストも時間も懸かかり過ぎるという問題点があり、距離感を感じさせない仕組みと対応
が必要とされている。
・中国も欧州もビジネスの前提として、緊密な人間関係が求められる。日本企業は、現地駐
在員として社員を出向させても、2~4年程度で帰国させることが多く、現地社会に溶け
込み切れていない。韓国企業等の場合は、家族を帯同した赴任含めて海外に根付く覚悟で
ビジネス活動を行うことが多い。
- 29 -
2-3
新たな産業、業界構造を前提とする強みの獲得と弱みの克服
投資を引き出すような「企業の強み」の訴求を
世界的に製造業は先進国から新興工業国へと移転している。同時に、北アメリカを中心
とする中南米、ヨーロッパを中心とする東欧、中近東、アフリカ、日本・韓国を中心とす
る中国と東南アジアと経済圏がブロック化しつつある。
一方で、中国資本がヨーロッパのワイナリーや日本の家電量販店を買収し、日本の商社
が中国企業に出資するなど、世界中のファンドが国境を超えて、成長性の高い企業や市場
に投資している。
こうした経済環境下では、外国資本を否定し、自前主義を貫くばかりではなく、企業と
して投資を引き出すような「企業の強み」を訴求する必要がある。
欧米のキャッチアップからの脱却
日本経済は既に成熟しており、欧米をキャッチアップする時代は過ぎている。日本市場
に外国資本が参入する以前であれば、日本市場のビジネスにおいて欧米をキャッチアップ
することも有効だった。しかし、現在の日本市場は外国資本が次々と参入し、国際的な競
争状態にある。また、海外市場についても同様であり、欧米のキャッチアップをしても、
欧米企業には勝てず、コスト的には新興国の方が競争力は強いのである。
今後は日本独自の強みを発揮しなければならない。欧州市場に認めてもらって、ステイ
タスを得たとしても、世界のどの市場で勝負するかを明確に設定しなければならない。
国際水準の情報公開、国際機関の企業認証
欧州に輸出するのであれば、欧州基準の環境、人権、法令遵守等の情報公開や企業認証
が必要になる。こうした基準は、アメリカ、中国等も追随しようとしており、国際的な基
準になりつつあることを理解しなければならない。展示会に出展するだけであれば、何の
問題もないが、実際の商取引が始まれば、様々な手続きが必要になる。海外市場で継続的
なビジネスを展開するには、国際水準の情報公開や国際機関の認証等が最低条件になる。
特定の技術だけではビジネスは完結しない
アンケート調査結果からは、日本製テキスタイルの強味は「こだわりと技術力」と考え
ている企業が多い。その具体的内容は、品質管理、物性の安定性、染色・整理など、「品質
の良さ」に集中しており、色・柄など「感性要素」は評価されていない。逆に、イタリア
製テキスタイルは、色・柄や流行、風合いなど「感性要素」が評価されていて対照的であ
- 30 -
る。
この結果からも類推されるように、
「特定の技術」だけでビジネスが完結することは稀で
ある。商品は、価格、品質、納期、デザイン、トレンド性等の全てを満足していなければ
取引は成立しない。どんなに部分的な技術が優秀でも、完成品としての商品に魅力がなけ
れば、販売にはつながらない。また、ビジネスの基本として、販売先へのプレゼンテーシ
ョンとコミュニケーョンのスキル、経営者同士の人的ネットワーク等が商取引の前提条件
になる。海外展示会においても、自社が打ち出す商品の絞り込みとカラーや風合い等を含
む的確な提案が必要であり、それを魅力的に伝えなければ、バイヤーに商品の魅力は伝わ
らない。
個人の魅力、個人同士のつながりがファッションビジネスの基本
多くの日本企業は、日本の中で、信用を前提とした商売に順応しており、特別に個人的
な関係がなくても自由に商売することができたが、欧米も中国もインフォーマルなつなが
りとビジネスは不可分の関係であり、個人の資質が問われる。ファッションビジネスはエ
モーショナルなビジネスであり、それを扱う人のファッションセンスも重要な意味を持つ。
センスのないファッションで展示会場に立っていれば、その会社の商品にセンスがないと
連想させてしまうことも覚悟しなければならない。
中国は個人のつながりと政府機関とのコミュニケーションが重要
中国に関しては、以上に加え、中国政府、地方政府、業界団体、メディア等の政府関連
機関等とのコミュニケーションが重要なポイントである。日本では、自治体相手のビジネ
スや、許認可が必要な業種でない限り、政府と企業が関係を持つ機会はない。しかし、中
国は共産党一党国家であり、政府と企業、政治とビジネスは不可分の関係にある。
海外進出しない企業にも海外企業との競合が待っている
日本企業は日本市場で最適化している。しかし、国際ビジネス環境・市場においての基
本的な基盤整備も戦略立案もできていない状況である。今後は、海外進出しない企業であ
っても、国内市場で海外企業と競合しなければならない。少なくとも、日本と中国を含む
海外市場をも想定した企業体制、企業戦略、マーケティング等が必要になる。
2-3-1
日本のテキスタイル企業の強みと弱み
以下の強みと弱みについては、今回のアンケート結果、内外のヒアリング調査、委員会
での協議等からそれぞれの要素を抽出し、まとめたものである。
- 31 -
○日本テキスタイル企業の強み
・ヨーロッパのテキスタイル企業にはない自由な発想、自由な糸使いと複合織物。
・合繊企業、綿紡績、撚糸加工業者等との連携による差別化原料の使用。(最近では合
繊企業が次々と国内生産を中止しており、その強みは失われつつある)
・機械メーカーとの連携による新しい生産技術の開発。
・合繊メーカー、撚糸、機織、染色、整理、刺繍等の分業構造を活用した複合技術。
・分業構造でありながら、高度な連携による高い品質管理。
・伝統工芸等に見られる非常に高いレベルのハンドクラフト技術。
・品質やデザインに対する厳しい選択眼を持つ消費者の存在。日本の消費者に通用す
る品質レベルであれば、品質面においては世界市場にも通用する。
・消費地に近い立地。流通経路の短縮による高利益型ビジネスの可能性がある。
・各工程に蓄積された技術ノウハウ。日本企業は、過去の膨大な資料やアーカイブを
基本にオリジナルのモノ作りが可能だが、中国等の新興工業国では機械設備はあっ
ても過去の資料やデータがないので、コピー生産するしかない。
・日本人の職人気質。より良いモノを作ろうという向上心。生産現場の高いモラル。
・半製品としての生機の企画生産については非常に優秀であり、的確な企画に基づく
指示と綿密なコミュニケーションがあれば、非常にレベルの高いテキスタイル製品
を開発することが可能。
●日本テキスタイル企業の弱み
・人件費の高さと価格競争力の弱さ。
・技術者の高齢化と後継者難による成長に対する意欲低下。
・製造企業、問屋企業の分業により、テキスタイルの完成品をトータルに企画販売す
る機能が低い。従って、完成品としてのテキスタイルを販売する欧州の展示会では
ビジネスが成立しない。
・産地製造企業に、市場調査、トレンド収集等の能力が低い。特に、下請け的な受け
身体質がしみ込んでいる企業は、トレンド情報分析やカラーリングを自分の仕事と
認識していないため、その必要性も感じていない。半製品を展示すれば、誰かが完
成品としての加工を指示してくれる、と考えている。
2-3-2
強みの獲得と弱みの克服によるグローバルなテキスタイルビジネス
現在の繊維・アパレル業界の不況は、循環的なものではなく、構造的に発生している
ものであることを理解しなければならない。その上で、構造変化に対応するための変革
が求められている。
これまでの繊維・アパレルビジネスは、生産から消費まで全て国内で完結していた。
- 32 -
しかし、生産基地はアジアに拡大し、ターゲットとなる消費市場もアジアに拡大してい
る。
一方で、世界で最も人件費の低い地域で生産し、最も購買力の高い地域で販売すると
いうファストファッションが次々と日本に上陸している。
こうした地理的な距離を超えたオペレーションを支えているのは、インターネット等の
ICT(情報通信技術)である。インターネットによるコミュニケーションにより、日
本の産地よりも中国工場の方が緊密なコミュニケーションが取れることもある。
日本のテキスタイル企業が生き残るためには、少なくとも海外の競合他社と同等の意
識とICT活用が必要であり、その上で差別化を行わなければならない。
2-3-2-1
オンリーワン戦略による世界市場進出
「ハイテク」と「本物」
、複合による差別化
欧米のアパレルが日本のテキスタイルに期待しているのは、「ハイテク」と「本物」で
ある。「ハイテク」とは、日本の合繊企業や紡績の技術を生かしたテキスタイルであり、
分業構造のメリットを生かした様々な複合技術である。
「本物」とは、匠の技術を生かしたモノ作りである。伝統工芸の技術やデザインを生
かしたモノ作り。あるいは、旧式の機械と匠の技による上質のテキスタイルである。
革新織機等の高速の機械は、常に糸にテンションが掛かっており、均一ではあるが、
平板で変化のないテキスタイルになってしまう。しかし、旧式の機械は速度が遅く、糸
にもテンションが掛からないために、糸の形状を生かして微妙な表面効果や自然な伸縮
性が現れる。
また、旧式の機械は既に生産が中止されており、その意味でも希少価値があり、オン
リーワンの商品を生み出しやすい。
一方、中国には最新の機械設備が導入されており、大量生産体制が確立しつつある。
また、日本の産地から中古の機械も数多く輸出されているが、技術者が育成されていな
いために、高度な織物を作り出すのは困難な状況である。
日本のテキスタイルの優位性は、日本の合繊企業、紡績による差別化原料、染色・整
理等の加工技術、優秀な国内機械企業、そして匠の技術によるところが多い。加えて、
伝統工芸の分野では、日本独自の色、柄等が含まれる。
差別化原料・原糸については、日本の合繊企業が次々と国内生産を中止しており、ま
すます厳しい状況になっている。糸が海外生産されれば、当然、海外のテキスタイルメ
ーカーにも販売されるので、差別化原料とはなりにくくなっている。
また、染色・整理工場も海外進出しており、こちらも差別化は困難である。機械企業
も同様で、既に織機や編機の主要な市場は中国等に移っているのである。
したがって、個々の要素技術だけでオンリーワンを訴求することは困難になっている。
- 33 -
いくつかの要素を組み合わせ、複合することで初めてオンリーワンのモノ作りが可能に
なるのである。
今後は、これまでのような欧米のキャッチアップ、売れ筋の後追いだけでなく、常に
中国製品との差別化を意識したモノ作りが求められる。そして、テキスタイルが中国と
の差別化を実現すれば、アパレル製品も中国製品との差別化が可能になる。
その意味でも、どこでも生産できる定番素材を使った価格訴求商品は、テキスタイル、
アパレルの双方の企業にとって、最終的にはマイナスの作用しかもたらさないだろう。
日本独自の文化、デザインによるオンリーワン商品
現在は、十分な対応が行われていないが、日本独自のデザイン、キャラクター、モチ
ーフ等を活用したテキスタイルにも可能性がある。
海外には、日本のアニメやマンガに憧れている日本マニアも少なくない。また、日本
は観光立国を目指しており、海外からの観光客も増加の一途である。日本料理・寿司が
世界に受け入れられ、世界中に日本マニア市場が誕生しようとしている。
世界市場への対応を考えるならば、欧米に新しいトレンドを探すのではなく、日本独
自の文化を再発見し、それを世界に打ち出さなければならない。日本独自の文化に基づ
いたモノ作りこそ「日本オリジナル」である。
伝統的技術・意匠と現代のハイテク、欧米のライフスタイルの中に活かせる日本文化
の商品化を目指し、来日した海外からの観光客市場及び世界の日本マニアへの輸出を目
指すというビジネスモデルも成立するだろう。
この新しいビジネスを構築するには、既存の企業が自主的に連携するだけでは不十分
である。国際感覚、国際ビジネスセンスのある外部の人材と積極的に交流連携し、技術・
コンテンツ・意匠等を編集しなければならない。また、日本文化の魅力を外国人にダイ
レクトにプレゼンテーションし、食生活以外の日本的生活様式のプロモーションを戦略
的に行う必要がある。
2-3-2-2
生産から消費までのダイレクトなビジネスモデル
日本市場のトレンド、消費者の嗜好の把握
日本テキスタイル企業ーの強みは、巨大な消費地、市場である日本国内に位置してい
ることである。しかし、日本テキスタイル企業はその優位性を十分に生かしているとは
言えない。長年、多段階の流通による情報分断が行われ、消費者やアパレル企業の情報
を十分に把握することができないのである。また、ビジネスモデルそのものが問屋等に
依存しているために、積極的に消費者と接する努力もなされていなかった。
問屋やアパレルに言われた通りのモノ作りをするのであれば、市場トレンドや消費者
- 34 -
意識の変化に気を配る必要もない。工場に閉じこもって、生産に専念していれば良かっ
たのである。
実は、イタリアの企業も同様であり、下請けの時には、トレンド情報の収集や市場調
査は必要なかった。しかし、自立した商品企画が必要になった段階で、トレンド情報や
市場調査の重要性に気がつき、組合等が共同で行ったという歴史を持っている。
日本市場のトレンド、日本人消費者の嗜好等を把握し、次のシーズンを予測し、テキ
スタイルとして提案できれば、アパレル、商社等とのサプライチェーンのチームの一員
として参加することが可能になる。
反対に、日本市場の特性を理解し、
「何を作るか」が分かっていれば、中国企業を外注
として使うことも可能である。メーカーの仕事は、アパレルや商社の注文や指図に基づ
いて「いかに作るか」から、自らの判断と意志で「何を作るか」に変わっているという
気構えを持たねばならない。その上で、日本国内に位置していることのメリットと強み
を生かしたモノ作りをしていくことが重要になる。
消費者との距離を縮めたビジネス
通常日本のアパレル製品の商品原価率は 25%程度。その 25%の中に、縫製工賃、生地
代、付属代等が含まれる。一方、流通コストが 75%である。アパレル企業や流通企業は、
その商品原価率を下げるために中国生産を行い、素材を現地素材に切り替える等の動き
となる。しかし、テキスタイル企業も、自社で最終製品まで作り、小売店に直接販売す
れば、工賃の内外の価格差等は十分に吸収できる可能性がある。国内テキスタイル企業
が、生地売りからストール、マフラー等の製品売りに切り換えて、利益を上げているケ
ースがある。
最終製品まで手がけなくとも、これまでテキスタイルコンバーターや商社を経由して
いたものを直接販売することも選択肢の一つである。但し、その際には、商品企画や営
業など、これまで行っていなかった業務を自身で担う必要がある。
素材企業が最終製品を直接販売する場合、魅力のない商品、価格訴求だけの商品を作り
がちである。それは「商品企画~生産~営業」に関する全ての機能を自社内で行おうと
して、中途半端な人材の自社内配転等で対応するためである。流通チャネルを短縮する
には、企画や営業など、それなりの機能を自身で持たなければならない。そして、その
機能の多くは、社内の人材では必ずしも対応できな場合が少なくない。
また、川下に行くほど、注文は細かくなることにも注意が必要である。一つの製品の
原価率だけを見ると川下ほど利益が高いが、品種が多くなり、数量は細かくなる。複雑
な流通システムとは、大量生産の商品を在庫し分配するという機能を担っている。流通
短縮するということは、より少量短サイクル対応を強いられるのである。
消費者との距離を縮めるビジネスを実現するには、二つの要素が必要になる。
- 35 -
・第一は、自社に不足している機能を補う専門家、専門的人材とのネットワークと成功報
酬のシステム。
・第二は、少量短サイクル生産体制の確立である。この場合も、効率を優先した革新織機
よりも、旧式の織機の方が有利である。あるいは、あえて手作業を加えることも考える
余地はある。いずれにしても、スケールメリットによるコストダウンではなく、スケー
ルダウンによるコストアップを覚悟し、在庫負担を減らすという意識の転換が必要にな
る。メーカーとして、流通コストを削減できたらその分安く売るという発想をしてはな
らない。自ら背負う在庫負担も考えるべきである。
以上の二つのことを実践するのも、ICT活用が欠かせない。インターネットの活用に
よるネットワークの構築と、コンピュータ制御の機械による短サイクル少量生産である。
流通短縮モデルに必要な設備投資は、スケールメリットと効率追求ではなく、少量短サ
イクル生産のための設備投資であると考えるべきである。
2-3-2-3
日本と中国の連携による新しいビジネスモデル
日本のアーカイブ(デジタルを含む)と専門家ネットワークを活用した連携
中国企業は最新の設備と豊富な労働力を有しているが、過去のアーカイブやノウハウ
等の不足で、その設備を十分活用できていない。日本企業は、アーカイブやノウハウは
あるもののコストが高く、日本にある設備で生産していては競争力が弱い。日本企業が、
アーカイブを基本にした企画ノウハウや技術ノウハウを提供して、中国で量産した製品
を世界市場、アジア市場、中国市場、日本市場で販売するモデルが考えられる。
その場合、日本のテキスタイル企業はテキスタイルブランドのライセンス、技術ライ
センス、企画ライセンス等が考えられる。たとえば、日本でしかできない複合技術を駆
使した商品と、中国の大量生産体制で作る商品のブランドを分けて展開する。そして、
それらをセットにして販売することで相乗効果が上がるだろう。
また、日本のテキスタイル企業の多くは指示通りのモノ作りはできるが、自らが企画
して完成したテキスタイル製品を開発できない。そこで、テキスタイルデザイナー、テ
キスタイルプランナー等と共に素材開発を行い、世界市場のトレンドや消費傾向を理解
した上で、日本独自のモノ作りと、中国量産用サンプルを作成することが必要になる。
アジアスケールのテキスタイルコンバーター(日本で企画、試作、営業、中国で量産)
香港企業は、香港では企画、生産管理、プレゼンテーションと営業を行い、量産は中
国大陸で行っている。同様に、日本にヘッドクォーター機能を持ち、アジア各国へ販売
するという発想が必要になる。
こちらのモデルは、テキスタイルコンバーターが生産基地をアジア全域に持つイメー
- 36 -
ジに近い。企画や中国での量産により、日本の高コストを解消し、海外市場への販売の
可能性が高まる。
2-3-2-4
日本とイタリアの連携による新しいビジネスモデル
イタリアのクリエイティブディレクターを活用した欧州市場参入
日本のテキスタイル企業は、テキスタイル先進国であるイタリアに販路を求め、数回
の展示会を行っている。しかし、欧州のテキスタイル展示会が色柄を含めた「完成した
テキスタイル」の販売会であるにも関わらず、日本のテキスタイルメーは過去の資料や
試織サンプルだけを持参することが多い。
日本企業は、イタリアの企業やバイヤーに評価を受け、ヒントを得てからモノ作りを
しようとするので、展示会の段階では、糸の手配や整経の準備を行っていないことが多
く、そのため展示会場では、現物生産の可否、価格や納期を問われても回答できないこ
とがある。欧米のバイヤーは、その段階でビジネスをする気がないと判断し、日本のテ
キスタイル企業側が期待するようなヒントを与えてはくれない。欧米バイヤーは、「テキ
スタイル企業が生地を買ってもらいたいアパレルの商品を調査し、どこのアパレルに向
けて商品提案するかを決定してから、展示会に出てくるのが当然ではないか」と考えて
いる。このようなミスマッチを数回繰り返せば、欧米は日本のテキスタイル企業のブー
スに立ち寄ることを時間の無駄と考えるようになる。
本気で欧州市場に販売したいのであれば、欧州のテキスタイル企業同様、企画機能を
持ち、顧客ターゲットを設定し、絞り込んだ提案をしなければならない。
たとえば、イタリアのクリエイティブディレクターを起用し、欧州市場に合った出展
企業を選択し、トレンド分析、カラー設定、展示会の演出等をトータルに依頼すること
で、ヨーロッパ水準の展示会は可能になる。
更には、クリエイティブディレクターがセレクトした日本の生機を、トレンドに基づ
いたカラー指定をして、ビエラやコモの染工場に染色&整理を外注することも考えられ
る。
現地において、ビジネスをするのであれば、展示会出展だけでは不十分であり、現地
法人を設立し、現地において現地企業同様のきめ細かいコミュニケーションとプレゼン
テーションを実践することが必要である。
2-3-3
日本のアパレル企業の強みと弱み
以下の強みと弱みについては、アンケート結果、ヒアリング調査、委員会の協議等か
らそれぞれの要素を抽出し、まとめたものである。
○日本アパレル企業の強み
- 37 -
・一つのテーマ、一つのプロトタイプから、多くのデザインバリエーションを展開す
る能力が高い。また、情報収集から製品化までのサイクルが早い。
・品質管理能力が高い。均一な製品を供給する能力が高い。
・SPA企業は、商品企画、ブランドプロモーション(ファッション雑誌中心)
、店舗
出店、店舗運営のノウハウを持っている。
・専門性の高い、ショップデザイナー、グラフィックデザイナー、販売員教育インス
トラクター、VMDオペレーター等の専門職との連携が可能。
・セレクトショップ業態を展開している企業は、オリジナル商品と仕入れ商品、アパ
レルと雑貨等のMDバランスを取り、ショップブランドを訴求することができる。
・POSデータを分析し、仕入れと在庫をコントロールして、仕入れ(生産)計画を
立案し、ロスを最小限にするノウハウがある。
・質の高い接客、サービスの展開が可能である。
・複数のライセンスブランド等をコントロールしながら、商品企画から販売までを行
うことができる。
●日本アパレル企業の弱み
・日本国内市場だけで成長してきたために、海外市場展開の経験が乏しい。
・百貨店、専門店卸しからスタートしている企業が多いため、各ブランドの商品MD
が10~15坪程度を基本にしていることが多い。そのため人件費がかさみ、効率
的な売場運営ができないでいる。同時に、H&M、FOREVER21、ユニクロ
のような大型売場を構築することができない。
・百貨店との取引においては、顧客情報は百貨店が入手しているが、ほとんど活用さ
れていない。また、派遣販売員が接客販売しているために、顧客管理に基づく接客
もサービスができず、アパレル企業も顧客管理を行っていない。こうした取引慣行
が、顧客を店頭に呼び込む手段を奪っている。また、顧客管理ができていないため
に、WEB 活用も遅れている。
・ブランドアイデンティティが希薄。ブランドの違いはあっても、ブランドの個性を
保つより、トレンドに左右されるケースが多い。
・企業内に、明確な業務フロー、職制、役割分担が充分に整備されていない。業界標
準の業務フロー、職制、役割分担、評価&報酬制度が規定されていないために、外
部の人材を登用しにくい。他社へ転職しても、各会社の仕事の作法が異なるために、
引き継ぎに時間が掛かる。
・輸出入の貿易業務も商社に依存していることが多く、社内に貿易業務セクションが
ない企業が多い。海外企業は基本的に社内に貿易セクションを持っている。
・日本以外のビジネスモデルを理解していない。展示会、見本市によるビジネスのノ
ウハウがない。
・日本国内は基本的に相互信頼を基本とした商取引であり、正式な契約書等を交わす
- 38 -
ことが少ない。そのため、海外取引においても契約等のトラブルが多い。
・アパレル企業の多くは、問屋業態からスタートしており、縫製工場を所有していな
い場合が多い。そのため、パターンメーキング、縫製等のノウハウが不足している。
同様に、ニットやカットソーの生産技術についても知識が乏しい。また、生地も商
社、コンバーター(生地問屋)を経由して調達することが多く、テキスタイルの専
門家も少ない。そのため、素材やパターン段階からの商品差別化が困難。
・多くのアパレル企業は、基本的に社内デザイナー制であり、外部のデザイナーと契
約するケースは少ない。そのためブランドイメージを変えることが難しく、デザイ
ナー交代によるブランドリニューアルよりも、新ブランド開発を行うことが多い。
しかし、前述したように個性的なブランドを構築するよりも、売れ筋後追い型のブ
ランドになることが多い。大手アパレル企業でも、オリジナルブランドよりもライ
センスブランドの方が売上を見込める、というのが現状である。
2-3-4
強みの獲得と弱みの克服によるアパレルビジネス活性化
2-3-4-1
デザイナーとのコラボレーション
デザイナーコラボによるブランドステイタスの向上とイベント効果
欧州のラグジュアリーブランドも昨年秋のリーマンショック以降、世界中で売上が低
迷している。それに追い打ちをかけるように、H&M、ユニクロ等が世界的有名デザイ
ナーと続々とコラボレーションを発表している。コラボレーションの特徴は、シーズン
限りの契約であり、限定数量のみを販売することにある。ファストファッションは、ト
レンドを取り入れたモノ作りをしているが、低価格ゆえに、品質面でネガティブなイメ
ージを感じさせることは否めない。しかし、世界的有名デザイナーとコラボレーション
することでショップイメージが上がり、同時に、コラボレーション商品の販売は一つの
イベントとして集客に貢献している。
デザイナーの新たなビジネスモデル提供とデザイナー育成
これまでのビジネスモデルは、一人のデザイナーと契約し、トータルアイテム商品を
ショップ展開し、数年間維持するというものだった。現在の市場では、クリエイティブ
な作品が商業的な成功を納めるとは限らず、デザイナービジネスは非常にリスキーなも
のと考えられているが、コラボレーション企画ということであれば、デザイナーも自分
のイメージを致命的に損なうことなく、取り組むことができる。
これまでの日本のデザイナービジネスは、アパレル製品の販売だけで利益を確保でき
るケースは稀であり、多くはライセンスで利益を確保していた。ライセンスビジネスの
- 39 -
収入でコレクションを行い、コレクションの成果でブランドイメージを高めて、ライセ
ンシーを獲得して稼ぐというビジネスモデルであった。
デザイナーコラボは、デザイナーにとって第二のライセンスビジネスであり、新たな
収益源になるとみられる。アパレル製品以外のライセンスではなく、デザイナーズブラ
ンドとして自ら展開している分野とは異なるカテゴリー(カジュアルウェア、スポーツ
ウェア、アンダーウェア等)のアパレル製品の期間限定のライセンスである。その収益
で、コレクションを行い、自らのブランドゾーンの商品をビジネス展開することで、継
続的な創造活動が可能になる。即ち、デザイナーコラボは、アパレル企業とデザイナー
の双方に利益をもたらすものと言える。
この手法を応用し、中国市場進出であれば、中国人デザイナーとのコラボレーション
企画を行い、また、日本市場であれば、日本人デザイナーとのコラボレーション企画を
発表することで、既存ブランドの活性化と集客と共に、デザイナーの育成にも貢献する
たとができる。
また、デザイナーとコラボレーションすることで、オリジナル性の訴求が苦手な日本
アパレル企業の課題が解決できるというメリットもある。これまでの百貨店ブランドは
「ラベルを取れば、商品の区別はつかない」とも言われたが、デザイナーとのコラボレ
ーションによって、イベント性と明確なブランドらしさを訴求することが期待できるで
あろう。
2-3-4-2
クールジャパンの輸出プロジェクト
日本マニアが欲する商品と日本企業が売りたい商品のミスマッチ
禅、和食、寿司、アニメ、マンガ等、日本の伝統文化から現代のサブカルチャーまで、
特異な日本文化が「クールジャパン」として人気を集めている。欧州のグループ観光客
は、日本に憧れ、日本文化に触れるために来日している。
欧州では、錦鯉が生きた芸術品として高い評価を受けている。また、スペインでは、
日本の畳と布団が人気だ。秋葉原から生まれたメイド喫茶も世界各地に広がっている。
しかし、どれも日本人が積極的にプロモーションしたのではなく、欧州の人が日本文
化に憧れ、日本文化を発見し、自らのライフスタイルに取り入れたものである。
日本人が世界に売りたいと考えるモノや文化と、世界の各地域の人が好むモノや文化
は必ずしも一致してない。海外に持っていけば売れる商品を扱っている日本の企業の多
くは海外市場に興味を示してないし、海外市場での販売を期待して展示会に出している
商品の多くは、海外の人々に興味をかきたててはいない。
海外の日本マニアに日本製品の販売権を与える
- 40 -
日本企業が海外進出するのではなく、日本文化を自国で紹介したいという人達に投資
し、日本文化、日本製品、日本デザインを紹介し、販売してもらうというプロジェクト
は考えられないだろうか。
たとえば、アメリカ、ヨーロッパ、アジア各国の大学で、日本文化を研究している学
生とのクールジャパン、日本のファッション文化等をテーマにした交流を仕掛け(講座
のスポンサー後援やシンポジウム主催)、それぞれの意見を吸い上げながら、ビジネスに
つなげるのである。
最初の段階では、本プロジェクトの趣旨を英語のWEBで紹介し、各国の大使館等に
働きかけ、プロジェクトの企画を募集する。優秀な企画には、たとえば日本への航空券
と滞在費を進呈し、商品の発見と発掘、ビジネスモデルの構築までのプレゼンテーショ
ンを行う。最優秀賞として、自国での公式「日本文化代理店・文化大使」等の認証を与
え、自国での展示会出展サポート、起業資金の提供などを行う。
これにより、世界各国の日本マニアの若者に対して起業支援を行い、日本商品の輸出
振興を同時に推進しようという狙いである。これまでの輸出振興は、日本企業が海外で
活動するというイメージしかなかった。しかし、海外の人に日本文化に基づく製品の販
売権を与えるという発想を持てば、日本企業は海外に進出しなくても、市場拡大が可能
になるはずである。
2-3-5
国際化市場に対応するための組織体制
2-3-5-1
本社の国際化
多くのテキスタイル企業、アパレル企業は、海外市場進出しても、営業・販売担当だ
けが対応している場合が多い。しかし、海外市場に対応するとは、総務、経理、人事、
企画、流通等の全ての部署が国際化に対応しない限り成功しないのである。
たとえば、海外とのビジネスでは海外の法律を理解しなければならないし、各国で現
地採用した優秀な人材を活用することも不可欠である。それぞれの国の雇用システムや
評価&報酬システム等を理解し、日本本社を国際水準に近づける努力が必要である。
欧米のテキスタイル企業、アパレル企業は、自社内に貿易担当を置くことが一般的で
ある。日本では商社に依存することが多いが、商社もビジネスであり、金額的な取り扱
い規模により対応できない場合もある。商社を活用する場合でも、社内に貿易担当を設
置し、自社内でできることは自社で行うことが望ましい。
日本国内だけのビジネスを想定した組織ではなく、海外市場を含めた組織、業務フロ
ーと役割分担、人材獲得及び人材育成、雇用、報酬と評価等を整備しなければならない。
2-3-5-2
現地法人の現地化
- 41 -
日本の現地法人の多くは、管理職に日本人をあて、現地採用の社員は管理職になれな
いケースが多く見られる。
日本企業の多くは、人件費が低い製造拠点として、海外進出し海外現地法人を設置し
てきた。そのため、現地法人に本社並の待遇をするという発想はなく、現地企業や現地
の物価の水準で給与を決めている。その結果、中国においては、欧米系現地法人と日系
現地法人では大きな給与格差が生じている。
結果的に、日系現地法人は出世の見込みもなく、給料も低いということになり、優秀
な人材を獲得することができないばかりか、従業員の定着率も低くなっている。こうし
た悪条件を解消することも国際企業になるためには必要なことと言えよう。
少なくとも、欧米や韓国企業のように、現地法人のトップマネジメントを含めた管理
職に現地採用の社員を積極的に登用し、社員の勤労意欲と会社への忠誠心を育成するこ
とが必要である。また、中国では社員を積極的に表彰し、名誉を与えることで会社の社
員の結びつきをより堅固なものにしている。こうした表彰制度や様々な報奨金制度等の
整備もまた、地元に根付いた企業となるために必要不可欠である。
2-3-6
ジャパンブランド、ジャパンクオリティを証明するトレーサビリティの整備
国内生産保護のための情報公開
これまで日本においては、消費者は百貨店や問屋の信用で商品を購入しているとされ、
製造工場、加工先等を表示する必要がなかった。むしろ、問屋は産地の工場を秘すのが一
般的であった。
しかし、生地問屋が淘汰され、産地企業が激減し、日本人が消費するアパレル製品の大
部分が中国製であることを考えると、最早、工場の情報を隠すことに大きな意味はないと
言えるだろう。むしろ、欧米のブランド企業のように、サプライチェーンの工場を認定し、
その情報を公表することで、消費者に対する品質保証になるのではないだろうか。製造企
業にとっては、こうした情報公開により、最低限の国内生産を守るというメリットも生じ
るだろう。
現在の繊維・アパレル製品は、法的に義務づけられている素材の混用率と、洗濯表示、
原産国表示が最終製品に表示されているに過ぎない。(一部では、素材と製品の原産国を分
けて表示している)
たとえば、日本製のテキスタイルを使用していても、縫製が中国で行われれば「中国製」
と表示される。日本の合弁工場で、日本の技術指導と、日本基準の検品が行われた場合と、
市場で仕入れた「中国製」と表示そのものは変わらない。また、中国から生機を輸入し、
日本の高レベルで安全な染色・整理加工を行った商品も、欧州で禁じられている染料を使
った他国の染色加工場の商品も全く区別がつかない。
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日本のアパレル企業が自社ブランドの製造工場を確認し、全てのサプライチェーンで環
境、人権、法令遵守等を厳守していることが確認できれば、消費者にとっても安心感を提
供することができるだろう。また、国内製造業が製品作りに関与していることが表示され
れば、様々なプロモーションも可能になる。
ジャパンクオリティの客観的評価の公表
日本のアパレル企業、テキスタイル企業は、「メイド・イン・ジャパン」「ジャパンブラ
ンド」
「ジャパンクオリティ」を高品質のこだわり商品の代名詞のように使っている。また、
中国製品より日本製品の方が、品質が良いと考えている。
アンケート結果でも以下のような結果が出ている。メイド・イン・ジャパンの表示が輸
出に役立つかについて、88.6%のテキスタイル企業が役立つと考えている。これに対し、地
域ブランドが役立つと考える企業は 57.5%と過半ではあるものの、メイド・イン・ジャパ
ンほど多くはない。
日本製品の品質の高さは定評があるところであるが、経験上や実感上の評価だけでは不
十分であり、消費者、特に海外の消費者に継続的に訴求するには、ある。そのための基準
や規制の整備が重要になってくる。
環境面で世界をリードするために、繊維製品の部分でも、地球環境や安心・安全の観点
に立ち、持続可能な産業にするための基準、規制を整備する必要も生じると思われる。
また、日本が持つQRコード(日本企業、デンソーウェーブの特許技術)等を活用して、
アパレル製品から必要な情報(サプライチェーンを構成する企業、染料情報等)を読み取
れるようにすることで、日本製品の信用は高まるだろう。
既に、食品のトレーサビリティは法制化が進んでいる。おそらく今後は衣料品もその対
象になるに違いない。コスト負担を理由に法制化に反対するよりも、中国製品等との差別
化に活用するために積極的にトレーサビリティの実現に向けて努力することが求められる。
[安全基準、トレーサビリティの資料]
(1)欧米の繊維製品安全基準
①欧米が制定した繊維製品の安全に関する法令・規制
ⅰ)1994 年 7 月
ドイツ連邦「繊維製品アゾ系染料」使用禁止令公布
ⅱ)2006 年 7 月
EU-RoHS 指令(電子・電気機器における特有有害物質)
ⅲ)2006 年 12 月
EU-PFOS 規制(撥水剤、防水剤、防汚剤などに使用)
ⅳ)2007 年 6 月
EU-REACH 規制(化学物質規制)
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ⅴ)2009 年 1 月
EU-DMF 規制(防かび剤・殺菌剤として乾燥剤などに利用)
ⅵ)2009 年 2 月
USA-CPSIA 施行(消費者向け製品安全改善法)
*EU の現状事例は、下記の「RAPEX」WEB を参照。
http://ec.europa.eu/consumers/dyna/rapex/rapex_archives_en.cfm
*USA の現状事例は、下記の「US-CPSC」WEB を参照。
http://www.cpsc.gov/
②流通企業の動向
ⅰ)スイス MIGROS 社:1996 年から ECO(安全)SOCIAL-モニタリング実施
ⅱ)USA
Wal Mart 社:2008 年 10 月宣言
・サプライチェーンにおける社会・環境面の法令遵守把握
・商品の品質安全性管理とトレース-2012 年までに
・商品製造過程におけるエネルギー消費 20%削減-2012 年までに
③中国政府の動向
ⅰ)EU 指令(REACH 規制など)の影響と中国独自の中国版 REACH 規制を強化する動き
あり。(繊維製品輸出国として、EU 指令を導入する)
④日本政府の動向
ⅰ)繊維製品の安全性については、2009 年 2 月から日本繊維産業連盟にて調査開始。
(2)企業及びブランドによる工場認定
欧米のブランド企業は、OEM 生産先であっても、環境問題、人権問題(チルドレンワーカ
ー等)、法令遵守等に違反した場合、消費者団体、環境団体、人権団体等から不買運動を起
こされることがある。そのため、自社ブランドの製品を OEM 生産する際にも、必ず全ての
サプライチェーンを確認し、自社ブランド製品の生産工場として認証している。工場にと
っては、その認証が自社の技術水準を示し、同時に会社のステイタスを証明するものでも
ある。
(3)製造工程とエコ基準について
参考までに、繊維製品の各製造工程とエコ基準が設けられている項目を紹介する。原則
的に、EU で規制されている染料、薬剤等は日本でも輸入禁止になっているので、原則とし
て国内生産において問題が生じることはない。しかし、中国では、EU で規制されている染料
や薬剤が使用されており、そうした製品が EU で摘発されている。
EU では、全ての繊維製品情報を登録し、検索できる業界標準のデータベースが作成され
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ている。日本もこうした繊維業界のトレーサビリティのシステム構築が急がれる。
①原材料:殺虫剤、塩素加工、抗菌・防臭加工に使われた薬剤等
②紡績、撚糸:平滑剤、添加剤
③織織・編立て:糊剤、防腐剤
④染色・整理:禁止アゾ系染料、発癌性染料、呼吸器障害染料、重金属、柔軟剤、洗剤、
ホルムアルデヒド、プリント時の塩化ビニル、フタル酸、職場の安全・衛生、排水、エネ
ルギー
⑤アパレル生産、縫製加工:エネルギーと廃棄物、副資材の責任保証、労働条件
⑥付属、副資材:禁止アゾ系染料、ニッケル放出、塩化ビニル、フタル酸系、カドミウム
日本の品質管理、物性試験等は、サンプル試料の検査を行っているが、サンプル試料と
現物が異なる場合や、全ての工程の薬剤や、人権、環境等の問題をチェックできないこと
から、欧米ではサプライチェーンの管理手法が主流になりつつあり、その代わり、単品毎
の試料検査は行わない。
サプライチェーン管理は、文章のデータの読み取り検証、検査レポートの精査、国の強
制法令と規制確認、工場現地監査等により、認定証を交付し、公開すべきデータはWEB
で検索できるように整備されている。
- 45 -
2-4
国際化市場に対応する市場アプローチ(テキスタイル)
厳しいビジネス環境
国際的環境要因
・紡績、合繊メーカーの海外移転
・国内産糸の生産中止、縮小
・内外コス ト差による価格引き下げ圧力
・世界的なデフレ傾向等
業態転換
・中間素材から最終製品へ
・モノ作りと観光の融合(産業観光)
・ホビーニーズ等、 個人消費への対応
・インターネッ ト販売、加工等
国内市場
企画生産チーム の一員になる。常に連絡、相談しな がら作り込む。
大手アパレル・商社・企画会社
・中国製品との差別化(複合、後加工等)
・コスト対応(中国生産の活用/生機輸入、企画技術提携等)
・クイッ ク対応(現物在庫、 生機在庫、プリント等)
・企画提案(製品提案、トレンド提案等)
デザイナー、 個性的なア パレル
・個性的な商品、 オンリーワン商品
・柔軟な対応(別注、小ロット短サイクル等)
・企画提案(アイディア、後加工提案等)
・コミュニケーション能力
欧米市場
相手に合わせた商品を提案。買うか、買わないかの商談。
欧米アパレル(ラグジュアリーブランド、その他)
・相手ブランドの調査(ターゲッ ト、ア イテム、価格帯、 企画テ ーマ等)
・欧州テキスタイルトレンドの理解
・イタリア等の欧州素材との差別化
・展示会後の柔軟な対応
・着分の用意、生機、整経糸の用意等(受注後、2カ月で現物デリバリー)
イタリアとのコラボレーション
・欧州市場を熟知した現地の企画ディレクターの活用(商品企画、プレゼンテ ーション等)
・イタリアの染色加工場の活用
中国市場
取引することのメリットを訴求。中国素材との明確な差別化。
中国の高級アパレル
・現地エージェントの活用(地域による独占販売権。統一価格で販売する。)
・日本製品を使用するメリットを訴求(他ブランドとの差別化、ステイタス 等)
・中国製品との差別化(複合、後加工等)
・短納期対応(現物、生機の用意等)
・日本製品は完璧な品質を求められるので、検品体制の強化が必要
中国とのコラボレーシ ョン
・中国のテキスタイルメーカーに企画提供し、輸入販売
・中国のテキスタイルメーカーの販売ルートを活用して中国市場に参入
- 46 -
2-4-1
国内市場への対応
既存の(問屋主体の)テキスタイル企画は、製造企業が過去のサンプル、試作品等を問
屋やアパレルの担当者に提示し、アドバイスやヒントを受け、それに基づき、改良を加え、
少しずつ製品化していくというプロセスだった。しかし、最近ではテキスタイルの専門知
識を持つ担当者が少なくなり、こうしたプロセスを維持することが困難になっている。
しかし、テキスタイルの重要性は変わっていない。テキスタイルの独自性は、アパレル
製品差別化の最大の要素である。そこで、一部のアパレル企業は、シーズンテーマやトレ
ンド分析の段階で、テキスタイル企業を参加させ、テキスタイルの開発から企画を進めよ
うという試みを始めている。このようにアパレル企画チームの一員となれば、安定した取
引が見込める。
日本市場のテキスタイルビジネスにおいては、サプライチェーンにおけるチームの一員
として認知されることが重要もある。そのためには、何が必要なのかを考えなければなら
ない。
2-4-1-1
大手アパレル・商社・企画会社とのチームに参入
ブランドコンセプトに基づくトレンドアイテムの素材提案
かつては、テキスタイルコンバーターが中心となって、アパレル企業とテキスタイル企
業をつないでいた。現在はコンバーターの淘汰が進み、コンバーター経由だけでなく、よ
りダイレクトなテキスタイル流通が定着しつつある。
大手アパレル、SPAアパレル等は、商社に生産管理機能を移し、製品仕入れの形態に
移行している。同時に、ヤング向けブランドを中心に、商社傘下の企画会社に商品提案を
依頼するケースも増えている。テキスタイル企業は、商社・企画会社のチームの一員とし
て参加できるかが問われている。
アパレルがテキスタイル企画チームに望むのは、アパレルの企画担当者と共通の言語で
話せることである。具体的には、各ブランドのコンセプトや顧客ターゲットを理解した上
で、トレンドアイテムを想定した素材提案ができることである。たとえば、フリルのスカ
ートがトレンドであれば、それに相応しい軽い素材を提案しなければならない。この時に
重要なのは、素材の企画開発段階からアイテムを想定しておくことである。
展示会のスケジュールに合わせた素材提案と商談
アパレルは、展示会単位(納期毎)、アイテム単位で企画を進める。テキスタイル企業も、
8月に秋冬物が立ち上がるとすれば、8月、9月、10月、11月、12月のプロパー販
- 47 -
売に則した、素材の順序、素材の組み合わせ(コーディネート)を提案しなければならな
い。
提案する素材は、中国素材といかに差別化するかがポイントになる。最近のアパレル企
画の傾向としては、最初に価格訴求のボリューム商品を中国調達素材で組み立てて、その
後で国産の素材をあてはめるケースも増えている。また、国産素材で企画を組み立てた後
で、中国調達を進める場合もある。複合素材によるコーディネート提案、後加工の変化に
よるコーディネート提案など、一貫生産の中国では作りにくい素材提案が必要になる。
可能ならば、カラー提案も効果的である。各社のブランドコンセプトと、欧州のテキス
タイルトレンドを基本にカラーパレットを組み立てられる人材は少ない。展示会毎のカラ
ー提案ができれば、商談の確率は高まるだろう。
また、アパレルの展示会スケジュールと素材決定のタイミング、着分サンプル納期と、
原反納期を想定した商品構成を行い、提案しなければならない。商談のタイミングが1週
間ずれただけで、展示会には掛からなくなることもある。
テキスタイル商談は、何の準備もせずに、過去のサンプルや実績商品だけをトランクに
詰めて、大量のサンプルを見せようとすることである。それは、相手の貴重な時間を奪う
行為であると認識しなければならない。
2-4-1-2
個性的なデザイナーアパレル、専門店アパレル
テキスタイルによる差別化を企画の柱に
小規模で個性的なデザイナーアパレル、専門店アパレルは、国内生産にこだわり、丁寧
なモノ作りをしているケースが多い。中国生産するほどの生産ロットではなく、生産管理
や品質管理ができることに重点を置いている。また、大多数が中国生産となっている現在
では、国産素材にこだわることもセールスポイントとなっている。
一部のアパレル企業は、欧州の輸入素材と国内のオリジナル素材をミックスして使って
いる。あるいは、オリジナル素材だけで構成しているケースも多い。
個性的な商品だけに、デザイナーや企画担当者との相性が最も重要になる。アパレル企
業のモノ作りに感動、共感してテキスタイル企業がチームに参加することが望ましい。
個性的な商品の素材なので、当然、差別化商品、オンリーワン商品を求められる。アパ
レルの営業担当者や販売員がセールストークの材料になるような特徴を訴求することが大
切である。職人の手仕事、自然な整理、風合いを重視した天日干し、草木染めなど、伝統
工芸的な要素も根強い人気がある。
規模の小さいアパレル企業は発注数量も少ないが、素材の特徴がセールスポイントにな
っていれば、それなりにまとまった受注も期待できる。深い関係性を構築するまでが勝負
であり、中途から参入する場合は、粘り強いコミュニケーションが欠かせない。
- 48 -
2-4-2
欧米市場への対応
カラーを含めた完成したテキスタイルコレクションのプレゼンテーション
生機販売、相手からの企画を受託してのOEM生産を期待するのであれば、香港等で開
催されるOEM企業を対象にした展示会に出展すべきである。欧米市場の商談は、日本の
ように相手と相談しながら企画を詰めていくことはできない。
テキスタイル企業が自らのテーマを決めて、カラーを含めた企画を行い、コレクション
を制作して、それをプレゼンテーションする。バイヤーであるアパレルは、自分のコレク
ションのテーマに合えば、仕入れ、そうでなければ仕入れない。
欧州のテキスタイル企業も、社内に企画提案機能がない場合には、テキスタイルデザイ
ナーやクリエイティブディレクターに依頼し、企画費用を支払って展示会に出展している。
また、ファッション先進国の欧州ではテキスタイルとアパレルの緊密な関係があり、基
本的に自国の商品を優先する。コレクションの中心は、欧州テキスタイルを使い、アクセ
ントとして日本製テキスタイルを使うケースが多い。そのため、コレクションのテーマに
合えば仕入れるが、そうでなければ取り上げられない。継続的な取引を実現するには、そ
れなりの時間とコミュニケーションが必要であり、互いの信頼関係を構築する必要がある。
欧州テキスタイル展への出展には明確な目的意識を持つこと
欧州の展示会への出展は目的を明確に設定することが必要である。即ち、本当に欧州市
場に参入したいのか。それとも、欧州の展示会に参加したというステイタスを得て、日本
市場でのプロモーションに活用したいのか等。もし、前者であれば、展示会の前後の営業
体制作りや商談が必要であるし、後者ならば売上を期待してはならない。ビジョンのない
参加は避けなければならない。
2-4-2-1
欧米アパレル(ラグジュアリーブランド、その他)
半年のビジネスを決定する真剣勝負への入念な準備
欧米アパレルは、基本的に年2回のコレクション(ファッションショー、展示会等)で
ビジネスをしている。したがって、一度のコレクションが不調であれば、半年のビジネス
を失うことを意味している。テキスタイルも同様に半年に一度のコレクションが勝負であ
る。したがって、欧州の展示会出展者は半年分のビジネスをかけて、真剣に企画し、商談
に臨むのである。
一方、日本の商取引では地理的にアパレル企業とテキスタイル企業の拠点が東京、大阪
等集中しており互いに近い距離にあるため、毎月のように展示会が行われ、またテキスタ
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イル企業の営業担当者は、足しげくアパレル企業やアパレル企業の企画代行企画会社の担
当者の元に通い、少しずつ信頼関係を深め、企画を組み上げていく。両者の違いは、集中
か改善かであり、欧米のビジネスを志向するならば、集中的な取組みが必要ということに
なる。
以下は、展示会等で、アパレル企業のバイヤーから確認される事項である。これに答え
られなければ、商談は覚束ない。事前に解答できるように準備することが必要である。
(今回のアンケート調査結果からも、テキスタイル企業にとって今後育成が必要な人材の
一番多い回答は、「アパレル企画担当者とコミュニケーションできる人材」51.4%)
[バイヤーとの想定問答集]
①企画コンセプトの確認
バイヤーはまず、テキスタイル企業の企画コンセプトを確認するはずである。どういう
視点でどういう商品企画を展開したか。大量のサンプルがあれば、どれが一押しなのか。
最も得意な商品、即ち、半年分のビジネスをかけた商品はどれなのかを聞き出したいはず
である。
②相手先に対応した商品の提示
アパレル企業の担当者は、自社ブランドに対して何を勧めるかを確認する。この時に、
相手のブランドイメージを理解していなければ効果的なプレゼンテーションをすることは
できない。
即ち、展示会以前の企画段階で、どういったアパレル企業にターゲットを絞った企画を
立てるかを決定しなければならない。日本であれば、テキスタイル企業は「生地を提案す
るだけであり、どのように使うかはアパレル次第」ということでも通らないこともない。
しかし、欧州では、ターゲットのアパレル企業のMDを分析した上で、自社の独自性、当
該シーズンの一押しテーマや商品等を提案しなければならないのである。ここに市場ニー
ズ調査の必要性が生じるのである。
③今シーズンのテーマ、昨シーズンとの違い、トレンドの解釈
バイヤーは当該シーズンのテーマを聞いてくる。昨年の同シーズンとトレンドはどのよ
うに変化しているのか。トレンド変化を踏まえた上で、各テキスタイル企業が、どのよう
に解釈し、具体的なモノ作りに生かしたかを確認する。
欧州のトレンド情報は、他社の動向を含め、企画の基本として押さえておかなければな
らない。しかし、トレンド情報通りのモノ作りをすればいいのではない。イタリア素材に
あるものは、イタリアから調達する。トレンドを解釈した上で、日本テキスタイル独自の
もの、あるいは各社の特徴を訴求する必要がある。
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④アイテム用途と価格
それぞれの素材毎に、どのようなアイテムを想定しているのか確認される。ジャケット
用に厚い生地を提案しているのか、透けるような生地を提案しているのか。それにより、
アパレルの企画担当者は、テキスタイル企業がどのような生地の組み合わせでコーディネ
ートしようとしているか、を理解しようとする。その時、どのような用途に使うかを明示
する必要がある。
また、ターゲットのアパレル企業やアイテムを想定している場合、アパレルの製品価格
を想定した上で生地の価格を設定して提案するのが基本である。コレクションの中核とし
て提案するならば、それなりにこなれた価格を設定しなければならないし、アクセントと
して使うのであれば価格は高くても良いが、その場合には量は期待していない、という意
志表示と同義となる。
展示会の事前打ち合わせと事後のフォロー
展示会の事前打ち合わせと事後フォローも重要である。最近の傾向として、有名アパレ
ル企業は展示会以前に素材を決定し、決定した素材は展示会には出させないことが多い。
その場合、展示会場は契約というセレモニーの場となる。
パリコレクションやミラノコレクションで作品を発表する有名デザイナーは、専門のエ
ージェントを抱えており、彼らが素材を集め、最終的にデザイナー(スティリスト)が採
用を決定する。エージェントは、素材を選ぶプロだが、素材を作るプロではない。従って、
分かりやすい説明やプレゼンテーション、演出が必要である。
「テキスタイルのプロだから、
生地サンプルだけ見せればわかるはずだ」という訳にはいかない。
彼らは、日本のテキスタイル企業に対しても、ヨーロッパのテキスタイル企業と同様の
対応を求めている。即ち、柔軟でクイックな対応と、言語を含むコミュニケーションであ
る。
そのためには、展示会前の企画段階の打ち合わせ、展示会後の細かなフォローが必要に
なる。但し、これは日本国内アパレル企業への対応と同様・同等レベルのコミュニケーシ
ョンが取れなければビジネスになりにくい。現地オフィス、現地ショールーム、現地エー
ジェントとの契約等が必要になるであろう。
2-4-2-2
イタリアとのコラボレーション
生機輸出、イタリア染色仕上げ、欧州市場販売
既に合繊織物では、日本の生機をイタリアに輸出し、イタリアで整理加工、仕上げを行
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い、欧州のテキスタイル企業のテキスタイル製品として市場に出ているものも多い。合繊
織物の多くは、北陸産地で製織され、北陸のテキスタイル企業は基本的に生機、白生地で
販売するケースが多かったので、生機での輸出も抵抗がなかったに違いない。
合繊ばかりでなく、天然素材についても、同様のオペレーションの可能性はある。今回
の海外ヒアリング調査(イタリア産地調査)で分かったことは、イタリアの染色・整理工
場は素材を選ばず、どんな素材でも染色・整理加工が可能ということである。
浜松、播州等の綿織物産地のテキスタイル企業も、生機で産元に販売し、産元が染色・
整理工場への賃加工で仕上げていた。合繊同様、天然素材、天然素材中心の複合素材もま
た、生機輸出の可能性はある。
この場合の課題は、ビジネスの主導権である。単純にイタリアのテキスタイル企業に生
機を輸出するだけのか。あるいは、自ら染色加工を指図・発注し、自らが欧州市場で販売
するのか、が問われる。生機の輸出だけであれば、価格競争力において中国製の生機に負
ける可能性がある。
日本のテキスタイルを継続的に販売するのであれば、リスクを覚悟し、自らが加工し、
販売するというビジネスモデルが必要になる。
現地クリエイティブディレクター、日本側のキーマンの連携
イタリア市場で販売する場合、イタリアのアパレル業界に詳しく、業界内の人間関係が
できている人の協力が不可欠である。
イタリアのアパレル企業やデザイナーは、どんな素材を日本企業に期待しているのか。
それは継続的な需要なのか。それともスポット的な需要なのか。あるいは、どの程度の品
質と価格が要求されるのか。企画打ち合わせ、商談等のタイミングはいつなのか。展示会
出展だけでいいのか、それとも展示会以外の活動が必要なのか。商談以前のこうした基本
的知識を把握しないことには商談は成立しない。また、イタリアのアパレル企業の立場に
立つと、日本と継続的な取引をする場合には、日本のテキスタイル事情に詳しいキーマン
が必要である。たとえば、展示会だけを見ても、それが日本のテキスタイルを全て網羅し
ているのか、一部かが分からない。日本にはハイテクから伝統工芸まで幅広いテキスタイ
ルがあるのは分かっているが、その情報が全くないし、どこに問い合わせたらいいのかも
分からない、というのが現状である。
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日本のテキスタイル事情に詳しいキーマンがいれば、次のコレクションテーマに相応し
い日本テキスタイルの提案や、イタリア市場に合わせた企画やアレンジを依頼することも
できる。イタリアのアパレル企業のテキスタイル担当者から、「日本のテキスタイルを継続
的に使うには、間に立つキーマンの存在が不可欠だ」という指摘を受けている。
現地のクリエイティブディレクター(クリエイティブ・ダイレクター)と日本側のテキ
スタイルに詳しいキーマンが連携すれば、イタリア市場に適応しやすいテキスタイル企業
をリストアップし、事前にイタリアアパレルのトレンド情報や日本に期待するテキスタイ
ルの特徴を知らせ、それに基づく開発を日本側のキーマンと共に行った上で、イタリアア
パレルに分かりやすい形で演出、プレゼンテーションが可能になる。
現在の海外展示会出展には、この仲介の機能が欠落している。これまで日本のテキスタ
イル企業は、海外市場に関しては問屋や商社等に依存していたために、海外アパレルとの
商談に、どのような機能が必要で、どのような事前準備が必要なのかも理解せずに、展示
会だけを繰り返してきた経緯がある。
この問題は、イタリアだけでなく中国にも、日本国内のビジネスにも共通している。ア
パレル側に立ち、アパレルのニーズを把握しているクリエイティブディレクターと、テキ
スタイル側に立ち、そのセレクトと企画指導やコンサルティングを行うキーマンが連携す
るシステムがないのである。
最も重要なことは、展示会のようなマッチングの環境整備だけでなく、こうした人材の
発掘と登用である。
イタリアアパレルにアプローチするための体制
日本テキスタイル販売チーム
イタリア
アパレル企業
日本
テキスタイル企業
日本テキスタイルの
キーマン
イタリア
アパレル企業
イタリア
アパレル企業
*日本・イタリア双方の
専門家連携が必要
イタリアの
クリエ イティブディレクター
展示会
日本
テキスタイル企業
日本
テキスタイル企業
イタリア
アパレル企業
日本
テキスタイル企業
イタリア
アパレル企業
日本
テキスタイル企業
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イタリア・日本の複合テキスタイルの開発
イタリアと日本は、世界でもトップクラスの高級で上質なテキスタイルを生産する技術
を持った国である。イタリアはヨーロッパの歴史と文化を背景にしたアート、デザインに
特徴があり、日本は最先端のハイテク技術と厳格な品質管理等に特徴がある。加えて、日
本、イタリア両国には優れた職人による匠の技術が存在している。
しかしこれまでは、イタリアがラグジュアリーブランドを中心にしたハイエンドの高級
品に集中していたのに対し、日本は高品質の中級品を得意としていた。互いに市場の棲み
分けができていたのである。そのため、日本とイタリア両国のテキスタイル業界が提携、
協働することはほとんどなかった。
しかし現在は、ラグジュアリーブランドが機能素材を使用し、量販商品が高級素材を使
用する例も見られ、次第に日本とイタリアが得意な分野の境界が曖昧になりつつある。イ
タリアのテキスタイル企業も高級素材とハイテク素材の複合や、高級素材のハイテク加工
を考えている。また、日本のテキスタイル企業もハイテク素材にデザイン性を加えること
で、スポーツ分野やワーキング分野だけでなく、高級アパレル市場に対しても参入を強め
ようと考えている。
イタリアのハイタッチ素材と日本のハイテク素材のボンディング、イタリア素材を日本
のハイテク加工で処理するなど、新たな可能性が生まれてきている。単に日本のテキスタ
イルをイタリアのアパレルに販売するというビジネスモデルだけでなく、日本とイタリア
の連携により、世界の高級アパレル企業に販売していくというビジネスモデルも考えられ
る。
日本とイタリアのコラボレーションによる中国富裕層市場攻略
前述した日本とイタリアの提携、協働で生まれた素材を中核に、日本とイタリアが連携
して中国市場戦略を構築するという可能性もある。
イタリアの大手アパレル企業、大手テキスタイル企業は、既に中国市場に参入している
が、テキスタイル関連の中小企業はこれからという段階である。しかも、地理的に距離が
遠いこともあり、中国市場に関する情報も十分に把握できていない。
そこで、日本とイタリアが連携して、中国市場に進出することは、日本とイタリア双方
にメリットがあると思われる。更に、中国市場参入というテーマでイタリアと連携しなが
ら、欧州市場にも照準を合わせるという戦略も成立する可能性がある。
中国市場への対応は、日本のみならずイタリアにとっても重要な課題である。また、日
本とイタリアが連携して中国政府機関等に対応することは、単独で行うよりも大きな相乗
効果が期待できるだろう。
- 54 -
2-4-3
中国市場への対応
日本製テキスタイルを使う明確なメリットを訴求する
中国及び東南アジア市場は、今後最も経済成長が予測される有望な市場である。東南ア
ジア諸国は、華僑が経済の主導権を握っていることが多く、中国市場への参入が図れれば、
東南アジア市場への参入は比較的容易であると考えられるため、ここでは、最も規模が大
きく、有望な市場という意味でも、中国市場に焦点を絞って考察を進めたい。
中国のアパレル市場は未だ成熟していない。一般の消費者も微妙な風合いや素材の機能
性を気にするのではなく、
「知名度があるか否か」でアパレル製品を選んでいる段階である。
また、中国は「世界の工場」と呼ばれ、特に繊維産業は世界の生産基地となっている。
日本市場においても、中国製品のシェアが圧倒的である。その中国市場でテキスタイル製
品を販売するには、中国のアパレル企業に対して、明確なメリットを訴求する必要がある。
微細な違いに高いコストを支払う消費者は存在しないのである。
中国アパレル企業のレベルアップに貢献する
現在、中国のアパレル企業は国際的な大競争時代を迎えようとしている。これまでは、
作れば売れる時代だったが、今後は外資企業、国内企業間の厳しい競争が始まるのだ。中
国企業の多くは、内部の充実を図る前に成長してしまった。数千店舗を展開するアパレル
企業も、経営スタッフや業務内容を見ると家族経営のままという例も少なくない。中国ア
パレル企業は、国際企業の水準にレベルアップし、オリジナルブランドを確立することを
目指している。
そうした状況の中で、日本のテキスタイル企業から高い素材を仕入れるのは、大きなメ
リットを感じる場合に限定される。たとえば、日本のテキスタイル企業と付き合うことで、
国際的な企業へのレベルアップが図れるならば、多少価格が高くても生地を仕入れるだろ
う。また、日本製のテキスタイルであることが、アパレル製品のセールストークにつなが
れば、同様に仕入れてもらえる。即ち、日本製のテキスタイルを仕入れる明確な目的を訴
求することが重要になる。
中国でコピーできない製品に特化する
かつて、日本のアパレル企業やテキスタイル企業も、ヨーロッパからのインポート素材
を参考に、多少のアレンジを加えて、コピー生産していた時期がある。現在の中国も同様
であり、中国国内でコピーできるテキスタイルであればコピーする。テキスタイルそのも
のの魅力だけを訴求するのであれば、中国ではできない製品に特化する必要がある。
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2-4-3-1
中国の高級アパレルに向けたテキスタイル販売
同一素材は同一価格で販売する(1社1エージェントが原則)
アンケート調査では、輸出にはエージェントの存在が必要不可欠とされている。その必
要性はテキスタイルの方がより強く感じているが、アパレルでも過半数が必要と感じてい
る。エージェントは国内所在の方が現地よりも望まれており、情報交換の頻度や言語問題
が反映しているものと推察される。エージェントは営業活動を代行し、取引の中に入るべ
きと考える企業が多く、対価は輸出実績に応じて支払うと考えている企業が多い。今後、
輸出に注力したいとする企業はテキスタイル、アパレルとも 70%前後と多い。
これまで国内ビジネスのみに特化してきた日本のテキスタイル企業にとって、エージェ
ントが不可欠な存在であることは間違いないが、一方で、中国のアパレル企業は日本のテ
キスタイル企業と付き合うことで、日本のアパレルビジネスのノウハウ吸収を期待してい
る。極論すれば、テキスタイル製品そのものが、どうしても欲しいわけではない。類似商
品ならば、中国でも入手可能だからだ。その意味では、彼らはできるだけ、信頼できる人
間とダイレクトに付き合いたいと考えている。
この二つの課題を解決するには、エージェントの絞り込みも考えなければならない。中
国のあるアパレル企業より、「日本のテキスタイル製品は流通が混乱している。イタリア製
の生地ならば、1社1エージェントなので価格は統一されている。しかし、日本の生地は、
様々なエージェントが同じ生地を持ってくるが、それぞれの価格に差がある」という指摘
があった。
テキスタイル製品が高くても、全ての企業が同じ価格で購入するのならば高くても構わ
ないが、自社だけが高く売りつけられたということになると、クレームになる。日本では
販売相手によって価格を変えることは珍しくないが、海外ではアンフェアな取引とされる。
特に、中国では「面子を傷つけられた」と理解することもあるので注意しなければならな
いだろう。
日本製テキスタイル使用であることを最終製品に表示する
イタリアの高級テキスタイル企業は、最終製品にイタリア製の素材であることを表示す
るための織ネームを一緒に販売している。アパレル企業は、織ネームを最終製品に表示す
ることで、イタリア製の素材を使っているということを消費者に伝え、セールスポイント
にするのである。
日本製のテキスタイルに価値があるのであれば、イタリア製に習い、日本のブランドで
あることを最終製品に表示することも意義がある。しかし、無差別に「日本製=高付加価
値」という表示をしていると、クレームが発生した場合に一気に信用を失うことになる。
イタリアのビエラ産地では、「紡績・製織・染色整理」のどれか二つの工程をビエラで行
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っていれば、ビエラ製を示すブランド「Biella The Art of Excellence」を発行している。
たとえば、日本でも「紡績・製織・染色整理」のどれか二つの工程を日本で行ったものを
特定のブランドとして表示するという考え方もある。また、「安心・安全」を訴求したいの
ならば、前述したような基準や規制をクリアしていることを明示することが必要になる。
また、「日本製は完璧な品質」を要求されることも多い。ある意味で、日本製の素材は品
質が高いというイメージが定着していることの証でもあるが、中国製の素材ならクレーム
対象にならない微細な欠点も指摘されることも多い。特別な表示をする場合は、検品等も
厳しい基準を設け、特別な対応が要求されるだろう。
2-4-3-2
中国とのコラボレーションによる中国市場攻略
優秀な現地エージェントの獲得がビジネス成功の鍵
ヨーロッパのテキスタイル企業が日本市場に参入する場合、ほとんどの企業が輸入商社
等のエージェントを活用している。また、中国の展示会に出展する場合も、ブースに立っ
て商談するのは、香港のエージェントであることが多い。
日本のテキスタイル企業も例外ではなく、状況の分からない海外で販売するには現地の
事情に詳しいエージェントに依頼することを検討する必要はある。
但し、ここで注意しなければならないのは、日本の大手商社と現地エージェントは異な
るということである。日本の大手商社が、中国のアパレル企業にテキスタイル製品を販売
する場合には、商社が現地エージェントを使う場合が多い。そのため複数のエージェント
が同一のアパレル企業に、異なる価格設定をして売り込みに行くという事態が生じている。
しかし、商社を責めることはできないだろう。限られた人数で、大きな売上予算を持っ
ている商社が、小さな商談に時間を割くことはできないのである。
日本のテキスタイル企業が海外市場に販売するには、優秀なエージェントを見つけるこ
とが成功の条件である。既に輸出に実績のある数多くの日本企業は、
「優秀なエージェント
との出会いがビジネス成功の要因」と回答している。また、優秀なエージェントを獲得す
るためには、自社商品の特徴が明確であり、中国市場における市場性が高いことを提示し
なければならない。ここでも、中国製品との差別化が重要な要素となる。
中国テキスタイルメーカーとの生産・販売ライセンス
エージェント活用以外にも、中国のテキスタイル企業とのコラボレーションという可能
性が考えられる。
たとえば、テキスタイルのブランドライセンスである。中国のテキスタイル企業の最も
深い悩みは企画開発である。機械設備と労働力、原料、エネルギーは完備されていても、
何を作ればいいのかが分からない。そこで、日本のテキスタイル企業が中国のテキスタイ
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ル企業と、技術や企画のライセンス契約を結ぶことにより、市場分析、トレンド分析、シ
ーズンテーマの設定、カラー、素材間コーディネート等を中国のテキスタイル企業に指導
し、日本の企画した商品(日本で試作まで行っても良い)を中国で量産し、販売すること
が可能になる。あるいは、中国に指図して生産したテキスタイル製品を日本に輸入するこ
とができる。
中国ではできない日本のテキスタイル製品は輸出し、ライセンス製品と一緒に、中国の
テキスタイル企業に販売を委託する。日本市場においては、自社製品と一緒に、価格のこ
なれた日本企画中国生産のテキスタイル製品を自社で販売するのである。
日本企業は、中国企業に企画を盗まれるという不安を口にするが、コピーされないため
にも、特定の相手との提携やライセンス契約は有効である。ライセンスを組んでおけば、
ライセンス先が自社の利権を守るために、中国国内のコピー生産を取り締まるだろう。し
かし、このような契約がないと日本市場で購入したサンプルを分解し、コピー生産される
可能性は高まる。
中国市場ビジネスにおいては、自社と共通の利害関係を有するパートナーを設定するこ
とが必要である。中国のテキスタイルビジネスを活性化させ、その見返りとして中国での
ビジネスを展開させてもらうという意識が必要である。
日本から中国 へ輸出
企画・技術指導
企画生産指図
サンプル
中国
市場
中国
テキスタイルメーカー
日本
テキスタイルメーカー
技術ライセンス料
企画ライセンス料
ブランドライセンス料
中国から日本 へ輸入
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日本
市場
2-5
国際化市場に対応する市場アプローチ(アパレル)
グローバルファッションビジネスへの対応
国際的環境要因
・ドメスティッ クなビジ ネスからグローバルなビジネスへ
・世界調達、世界販売(中国調達、日本・中国販売)
・本社の国際化、現地法人の現地化
・雇用の国際化、国際的な評価と報酬システム
・グローバルな資金調達
国際化する国内市場
百貨店の活性化
・新興工業国への生産移転、新興市場の誕生
・世界的なデフレ傾向
・ファストファッションの台頭
・インターネッ ト、携帯通販の成長
・グローバルファッション企業との競合激化
・デフレスパイラルへの対応、 デフレスパイラルからの脱却。
・新しい価値観、生活スタイルへの対応。
・ダイレクトな流通システム、業態の台頭。
・ICT活用による新しいメディアの登場と顧客とのコミュ ニケーション。
・高級品市場の活性化(環境、商品、 サービス、メディアの再構築)
・百貨店店頭への集客戦略( イベント×メディア 等)
・インバウンド対応、新しい観光名所に
・百貨店とアパレルの連携による顧客管理、顧客サービス等
・エコロジ ー&オーガニック、ハイデザイン等、 新しい価値観の売場、 ブランド開発
メガストア対応ブランド開発&編集
・大型店舗への対応
・明確なアイデンティテ ィを持つブランド構築
・グローバルなSCM構築(企画、生産、物流、販売まで)
・顧客とのシンクロによる市場創造
・既存ブランドリニュ ーアルと再編集
インターネットの活用
・ブログ、SNS 等によるパブリシテ ィ
・店舗販売とインターネット販売の連動
・絞り込んだ商品の展開(マニア向け、ア イテム限定)
・リアルなイベントとインターネットの連携
新人デザイナー、 ベンチャー企業の育成
・アパレル産業全体の活性化を目的としたファッションベンチャー振興
・デザイナーコラボレーシ ョンのコンペテ ィション等
・インキュベーシ ョンオフィス&ショップ
・ショールーム(営業代行オフィス)の育成
世界が注目する中国市場
・日本国内のビジネスモデルは通用しな いことも多い。
・各国の商習慣、流通、市場特性、消費者の嗜好への対応。
・単独進出と現地企業とのコラボレーシ ョンによる進出。
独資での参入、直営店戦略
・中国政府機関とのコミュ ニケーション(法律、経済計画、各種統計等)
・経済成長に見合ったスケールとスピード
・ブランド知名度向上とプロモーシ ョン
・直営店と代理商
・中国市場、中国消費者への対応(サービス、商品、情報発信等)
中国企業とのコラボレーション
・中国内販アパレル企業へのライセンス契約
・中国流通企業等との合弁
・中国内販アパレル企業への投資、M&A
- 59 -
2-5-1
国際化する国内市場
デフレスパイラルの進展と戦略的な価格戦略
世界的にアパレル生産拠点が、先進国からコストの低い新興工業国へと移転した結果、
アパレル製品の価格が下落している。単価の下落は売上、利益の下落、経営の悪化を招い
ている。企業は更なるコストダウンを目指し、生産コストを下げるために、ますます低価
格商品に集中するという傾向となっている。
こうしたデフレに対応し、更なるコストダウンを図り、低価格商品にシフトするのか、
あるいは、デフレから脱却するために、差別化戦略、高付加価値戦略をとるのかを戦略的
に検討しなければならない。
かつてアパレル業界は、細分化した市場に対応するために、多ブランド戦略を採用した。
他社との競合の中で、なし崩し的に価格下落の傾向に追随することは、企業経営の面から
も危険であり、今後はより明確なブランドコンセプトとポジショニングによる価格戦略が
必要になる。
「安心・安全」はステイタスに代わる新たな価値観
現在、食の分野では「安心・安全」が注目され、低価格食品と高価なオーガニック食品
に、消費の二極化が進んでいる。アパレル分野においても、高額商品を購入する動機が、
社会的ステイタスから、個人の安心・安全、地球環境の安心・安全等に移るかもしれない。
イタリアのテキスタイル業界もこの社会的トレンドに注目しており、
「Associazione Tessile
eSalute(健康を考えたテキスタイル協会)」を設立し、テキスタイル業界と医療機関、皮膚
科医などが共同で、健康を考えたテキスタイル開発を進めている。ステイタスに投資する
消費者よりも、安心・安全な生活に投資する消費者が増加していくと予測しているのであ
る。
「日本製品は安心・安全」と訴求するには、それを保証する基準の策定や認証が必要に
なる。消費者、どこで生産したかが分からない商品よりも、全ての生産工程を情報公開し
た商品を選ぶだろう。こうした基準策定は欧州が先行しており、アメリカ、中国も欧州基
準に追随する動きがある。日本としても適切な基準が必要となってくるであろう。
世界的な商品調達とダイレクトな流通が加速
最近、アパレル製品の調達ルートが変化しており、卸企業から商品を仕入れていた小売
店が、商社、企画会社経由で、直接中国アパレル企業から商品調達する流れが加速してい
るのである。
特に、適度にトレンドを取り入れながら、低価格の商品を展開しているファストファッ
- 60 -
ションは、世界でコストの低い地域で生産し、高く売れる地域で多店舗展開しており、そ
のスケールメリットを含めて、国内アパレル企業にとって大きな脅威になっている。今後、
この種の直接調達はあらゆる小売流通に波及することが予測される。一方で、問屋に依存
している小売流通は、価格競争の中で淘汰される可能性が高いということになる。
アパレル企業はSPA業態の開発により小売業の性格を強めているが、反面で百貨店、
量販店等の小売店への卸売も行っており、今後は直営店販売と卸しをどのように棲み分け
ていくかが課題になるだろう。
ICT活用による新しい購買行動と顧客コミュニケーション
アパレル市場全体が縮小する中でも、インターネット通販、携帯通販等は成長を続けて
いる。しかし、既存のアパレル流通企業は、十分な ICT(情報通信技術)投資もままなら
ない状況が続いている。これまでのように店舗に集中的に投資すれば、利益が上がるとい
うモデルは崩れつつある。情報サービス、顧客とのコミュニケーションへの投資をしなけ
れば顧客を囲い込めない時代が到来しつつある。
一般の消費者も、インターネットで検索してから、買い物に出かけるという行動スタイ
ルが増えている。こうした流れが主流になると、検索に引っかからないショップ、商品、
ブランドは売れないということになる。リアルな世界への展開だけでなく、バーチャルな
世界でプレゼンスを高めることがより重要となっている。
日本国内市場のビジネスも国際化に対応しなければならない
生産~流通までのサプライチェーン、海外資本の競合ブランド、外国人観光客への対応
など、国内アパレルビジネスにも国際化の波が押し寄せている。今後は、日本国内市場だ
けでビジネスをしていても、世界の状況を理解し、世界市場の中の日本市場という位置づ
けで考えることも必要である。
2-5-1-1
百貨店の活性化
これまで日本の高級品市場の中核的役割を果たしてきた百貨店業態が急速に衰退してい
る。アパレル業界においても、その影響は深刻である。特に百貨店と共存共栄で成長して
きた大手アパレル各社は百貨店の業績悪化に伴い、自らの業績も悪化している。
百貨店を補う高級専門店等も存在するものの、その規模は不十分であり、海外のラグジ
ュアリーブランドにおいても、販売を支えているのはバッグ、靴、アクセサリー、服飾雑
貨等が中心であり、アパレル製品の比率は少ない。
日本のアパレル企業にとっても、日本のテキスタイル企業にとっても、流通経路の多チ
ャンネル化は進んでいるものの、百貨店市場の縮小・衰退は、高級テキスタイル市場や高
- 61 -
級ファッション市場の縮小・衰退を意味するものである。そこで、「百貨店の活性化」=高
級品市場の活性化という観点から、以下提言する。
■高級品市場の活性化(環境、商品、サービス、メディアの再構築)
アンチ・ファストファッションの可能性
百貨店の業績が低迷を続け、不採算店の閉鎖や売却が進んでいる。百貨店不振は、百貨
店企業だけの問題ではない。日本の高級ファッション市場全体の問題とも言える。日本の
消費者全員がファストファッションやカジュアルファッションで満足できるはずもなく、
ここに新たな可能性が生まれつつある。
過去の歴史を見ても、量販店が空前のブームを迎えた時期に、アンチ量販店の専門店ア
パレルと専門店が誕生した。そして、その専門店が全国の商店街や駅ビルに拡大したので
ある。たとえば、アンチ・ファストファッション、アンチ・カジュアルファッションの流
れが、雑誌媒体と連携し、インターネット販売という形態で生まれることもあるだろう。
高齢化社会とヤング偏重ファッションの需給ギャップ
日本の市場は高齢化が進んでおり、ヤング中心のファストファッションブームとの間に、
大きな需給ギャップが生まれようとしている。リーズナブルなプロパー商品を欲し、上質
な生活を志向するミセス層は、バーゲン競争の中で置き去りにされている。バーゲンセー
ル偏重は顧客の価格信頼性を崩壊させ、バーゲンセールの前倒しは、ますますバーゲンセ
ールの売上比率を高め、価格信頼性を失わせていく状況となる。
限定商品による価格信頼性の回復
価格信頼性、あるいは商品の価値観は、需要より供給を抑えることで生まれる。高級品
市場は、「100 の需要があれば 99 供給する」ことにより維持されている。限定商品に人気
が集まるのも同様の理由による。
百貨店とアパレル企業は、売り逃しを抑えるために期中生産を強化してきたが、そのこ
とが逆に商品のコモディティ化を促進し、「バーゲンまで待っても欲しい商品は残ってい
る」状況を生み出している。この状況を打開するには、これまでの常識を打破しなければ
ならない。即ち、売り逃し防止よりも、限定商品による価格信頼性の回復の優先である。
アパレル業界と百貨店業界は、互いに連携しあい、再度、高級品市場の再構築を目指す
べきである。
- 62 -
コモディティ商品における大手アパレル企業の競争力は乏しい
百貨店も大手アパレル企業も、コモディティ商品の販売については競争力を持っていな
い。70 年以降のブランド導入についても、その時代に対応した高級ブランド、高感度ブラ
ンドを導入してきた。百貨店の立地、歴史等を考えても、やはり高級品を中心に扱うべき
と思われる。現状の百貨店の経営を考えると、これまでのビジネスモデルを持続すること
が困難に思われる。
「自主MD戦略」と「ミセス向け中心の高級品テナント集積」
百貨店の存在は、直接アパレル産業にも影響を与えるので、低迷を続ける百貨店の再構
築が必要になってくる。高級品の商業集積としての百貨店の再生を考える場合、二つの方
向性が考えられる。
第一は、従来通り、百貨店を大型小売店と考える。自ら仕入れて、自ら販売するという
基本に戻ること。即ち、自主MDの展開である。しかし、かつての自主MDと今後行うべ
き自主MDの内容は大きく異なる。以前は、自主MDといえども、問屋からの仕入れを基
本に考えられていた。しかし、今後は海外企業からのダイレクトな調達が中心になる。も
ちろん、量販店との差別化を考えなければならないので、高級品に限定したダイレクト仕
入れを進めることになる。
第二は、ミセスを中心顧客とした高級品に絞ったテナント集積をすること。ショップ毎
にレジを置き、顧客管理もテナントに任せる。原則的に、制服着用も廃止し、それぞれの
ブランドの服を着て販売する。テナントの一つとして、自主MDを展開するのも可能であ
り、セレクト業態も可能である。
もちろん、第一と第二のミックス型もあり得るだろう。いずれにせよ、売場運営はシス
テム化し、一層のコスト削減を行うことが求められる。また、百貨店の改革は、百貨店だ
けでなくアパレル企業も含めて取り組まなければ進展は難しい。
地域社会、地域商業における百貨店の役割を重視した事業展開
これまでの百貨店が閉店に至るまでのプロセスを見ていると、既存のままで営業を続け、
最終的には相手を選ばずに、テナント貸ししてしまうことも少なくない。
仮に、不動産業に徹するとしても、百貨店が果たすべき地域社会の役割を考え、高級品
を中心にした展開が望ましいのではないだろうか。
時代の変化と共に、高級品の定義も変わっている。前述したように、社会的ステイタス
のニーズよりも、安心・安全に対するニーズが増えている。たとえば、売場環境、商品、
サービス等についても徹底的に安心・安全にこだわる。また、安心・安全な商品に関する
情報を常に発信する。そうした消費者が納得して買い求める商品やサービスを提供してい
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くことが求められている。
■百貨店店頭への集客戦略(イベント×メディア等)
ファッションブランド集積が百貨店の集客力を維持してきた
戦後の高度経済成長時代において、百貨店は「豊かな生活」のテーマパークであり、巨
大ショッピングセンターであり、文化や芸能の拠点だった。当時の百貨店は、大量の顧客
を集客するためにあらゆる努力と工夫をしていた。
やがて、ターミナル百貨店の登場と百貨店の大型化が進み、商品内容も効率の良いファ
ッション商品に集中するようになった。かつて、百貨店で販売されていた家電製品、家具、
カメラ、時計等の商品は、百貨店の売場が縮小し、やがては姿を消したものも少なくない。
それらのアイテムは、カテゴリーキラーの大型専門店、大型量販店が中心となって販売し
ていった。
百貨店はあらゆる商品が揃う百貨店から、次第にファッション専門大店の性格を強めて
言った。人気の高いファッションブランドの集積は、それだけで集客力につながったので
ある。DCブランド、インポートブランド、ラグジュアリーブランドとその内容を変えな
がら、ファッション商品が百貨店の集客力を維持してきたのである。
しかし、ファッションブランドの集積は、百貨店だけではない。再開発による都心の大
型商業集積、駅ビルや駅チカのショッピングゾーン、郊外のSCなど、ファッションブラ
ンドの集積は拡大し、同時に拡散していった。最早、ファッションブランドの集積だけで
集客することは次第に困難になっている。
モノではなく、イベントに顧客が集まる時代へ
百貨店は、再度、集客を考えなければならない時期に来ている。商品だけを陳列しても、
集客はできない。日本では、新しい商業施設がオープンすると人が殺到する。しかし、多
くは観光目的であり、商品を購入するわけではない。そして、オープン景気が続く期間は
短縮化する傾向にある。内装をリニューアルしても、その効果は半年も持たない。新しい
施設のオープン、リニューアルに限らず、イベント性があるものに人は集まる。
話題の映画の封切り、新しいゲームの発売等、イベントとしての話題を盛り上げること
で集客を果たしているのである。百貨店においても、駅弁や物産展というイベントには顧
客が集まる。しかし、肝心の商品の販売については、イベント性が欠如している。
アパレル企業としても、百貨店の集客を考えなければならない。たとえば、欧米の百貨
店のように、シーズンの立ち上がり時期に、優良顧客を招待してフロアショー(トランク
ショー)を行う。話題のモデルや芸能人が出演すれば、テレビのワイドショー等でも取り
上げられるだろう。
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あるいは、警察署や消防署が行っている一日店長をイベントとして発信する。韓流スタ
ーが一日店長になれば、顧客は殺到するだろう。
イベントを展開できるスペースの確保と、イベント情報を伝達するメディアの整備
イベントにはスペースとメディアが必要である。現在の百貨店は、限られた店舗面積の
効率を上げようと、売場は商品で埋めつくされている。イベントを行うスペースも確保で
きない。しかし、商品の量を増やせば売れるのは、供給より需要が多い時代だけである。
現在はむしろ、商品の量を減らし、ゆとりのある空間を確保し、同時にイベント等が行え
るスペースを確保しなければならない時代である。
郊外の大型SCでも毎週のようにイベントが行われている。百貨店も、商品管理や顧客
管理は取引先に任せてでも、イベントの企画、運営等を行い、積極的に集客に努めなけれ
ばならない。
また、イベントを告知するメディアも必要になる。現在の百貨店は、インターネット上
の存在感が希薄である。イベントの企画と同時に、その告知を顧客に行うことが集客につ
ながるのである。
■インバウンド対応、新しい観光名所に
外国人富裕層の観光客のニーズへの対応
既に、都内の有名百貨店や秋葉原電気街では「銀聯カード」が標準仕様となっている。
外国人観光客、特に中国人観光客の購買意欲は非常に高い。中国人観光客の日本ツアーの
主な目的は、温泉と買い物である。同じブランドが中国にあっても、日本の店で買い物を
するのは不思議だが、「日本の店の商品なら本物に間違いない」「中国では味わえない上質
な接客サービスが受けられる」等の理由で、日本での買い物を楽しんでいる。現在の観光
客の中心は富裕層であり、一人で数十万円の買い物をすることも珍しくない。
しかし、現状を見る限り、外国人観光客を意識した商品の品揃えやサービス等が充実し
ているとは言い難い。たとえば、中国人富裕層が日本の百貨店に期待しているのは中国に
はない高級なファッション商品である。ところがデフレへの対応で、中国製の安価な商品
が増えており、ここにも大きな需給ギャップが存在する。
都心百貨店を魅力的な観光スポットに
日本の百貨店は、日本人の顧客だけを相手にしてきた。一方、ラグジュアリーブランド
は、世界中の都市で様々な国の顧客を相手にしてきた。そのため、都内のラグジュアリー
ブランドのショップは、中国語を話せる販売員を積極的に雇用しているが、百貨店は対応
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が遅れている。フロアガイドは中国語で作成しているものの、日本のフロアガイドを中国
語訳しているに過ぎない。
富裕層の観光客は、それぞれの土地だけで購入できる、上質なお土産を探している。パ
ッケージや価格設定、商品の品揃えについても、まだまだ改善の余地はあるだろう。
また、アパレル業界としても、高級品、高額商品が売れない市場環境の中で、富裕層の
観光客をターゲットにすることで、価格競争に巻き込まれない新しいビジネスの可能性が
広がる。アパレルと百貨店の双方が連携し、都心の百貨店を魅力的な観光名所にすること
を検討する価値は高い。
■百貨店とアパレルの連携による顧客管理、顧客サービス等
百貨店、アパレル双方共に顧客への有効なアプローチが不足
アパレル企業へのヒアリング調査でも指摘されているが、各百貨店はハウスカードを発
行し、割引サービス等を展開しているものの、顧客情報を有効に活用しているとは言い難
い。また、百貨店は自店の顧客情報をアパレルに提供することはない。アパレル企業も顧
客情報を収集することは認められていない。そのため、百貨店、アパレルの双方が顧客へ
の有効なアプローチができていない。
一方、JRグループの「ルミネ」では、スイカ機能のついたクレジットカードを発行し、
テレビCM等も行い、ビル全体のプロモーション活動を展開している。ルミネカードの所
有者には、ルミネから情報発信を行い、各テナントも独自の顧客管理を行い、DM等を発
行している。顧客には、ルミネとテナントから二重に様々な情報が届くのである。
百貨店単独で顧客管理や顧客への情報発信が困難であれば、むしろアパレルとの連携に
よりサービスを充実させるべきだろう。アパレル業界として、百貨店に対して顧客サービ
スの充実を提案することも検討しなければならない。
顧客管理、商品検索、店頭とWEBの連携等によるサービスの欠如
また、カタログ通販を行っている百貨店では、店頭で販売される商品とカタログとはリ
ンクしていない。通販事業部がWEB通販を行っていても、店頭とリンクしていないため、
WEBで検索してから店頭で買い物するという行動は起きていない。ユニクロでは、店頭
とWEBと同一商品を販売しているため、試着するなら店頭に行き、定番や色違い商品は
WEBから購入することが可能である。
百貨店は、顧客管理、商品検索、WEBと店頭の連携など、一般の駅ビルや大型専門店
が行っているサービスができていないことを認識しなければならない。その上で、駅ビル
や大型専門店等を上回るサービスを展開することが必要である。
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■エコロジー&オーガニック、ハイデザイン等、新しい価値観の売場、ブランド開発
健康やスキンケアなど人間の内面に投資する消費志向が強まる
ファッションマーケティングの基本は、常に消費者の生活に対する価値観の変化を予測
し、商品やサービスを提案することである。百貨店はリニューアルの度に、時代の変化に
対応した新しいファッションブランドを導入することで、新鮮さを保ってきた。しかし、
ラグジュアリーブランドの導入は、ある意味で変化の頂点に達し、それ以降の変化を困難
にしたとも言えよう。
現在、消費者はラグジュアリーブランドに対しても見直しを始めている。次々と上陸す
るファストファッションは、トレンドを取り入れながらも価格は低い。手軽にファッショ
ンを楽しみ、むしろ健康やスキンケアなど、人間の内面に投資するという消費志向が強ま
っている。
ラグジュアリーブランド撤退は、百貨店のイメージを変える大きなチャンス
百貨店の多くはファサードにラグジュアリーブランドを配置し、店格を演出している。
しかし、ラグジュアリーブランド側も、消費が冷え込む日本市場への投資を抑え、中国市
場に集中的に投資するという事例が増えている。実際に、百貨店からの退店が始まってい
るのである。
百貨店にとっては、ある意味で大きなチャンスである。ファサードにラグジュアリーブ
ランドを構えたことは、百貨店全体が高級品を扱う店であるという印象を顧客に与えた。
ラグジュアリーブランドの撤退は、百貨店全体のイメージを変える大きな機会とも言えよ
う。ラグジュアリーブランドの次に、何をもって百貨店の顔にするのか。それにより次の
10 年間の百貨店イメージが決まるのである。
継続的なリニューアルによる新しい情報発信
たとえば、エコロジー&オーガニックをテーマにした百貨店を考えてみる。一度に全て
の商品MDを変えるのは困難だが、10年計画で全ての商品をエコロジー&オーガニック
に変えると宣言することなら可能だろう。そして、エコロジー&オーガニックをテーマに
した商品に変えた売場から、情報発信していくのである。百貨店の集客力が弱い理由の一
つは、イベント性の欠如である。現在は、大がかりなリニューアルをしても、その効果は
半年と持たない。それならば、継続的に少しずつリニューアルを行い、その都度、マスコ
ミや雑誌媒体にプレスリリースを流し、WEBを構築し、顧客への露出を高めていくとい
う戦略も考えられるだろう。
あるいは、「ハイデザインな日常生活」というテーマを想定してみる。これまでの百貨店
- 67 -
は、よそいきのファッションが多かったが、もっと日常生活に密着した普段着の商品を展
開していく。しかし、どれもデザインにこだわった品揃えにする。日常で使うものであり、
ブランド商品ではないが、デザインそのものが楽しく、魅力的なものに絞り込む。できれ
ば、全て限定商品として販売する。店頭には一定期間陳列し、その後はWEBで販売を継
続する。商品をセレクトする担当者も、外部から有名人を募ってはいかがだろうか。バイ
ヤーというよりキュレーターのような存在である。
このケースも、一度に全ての商品MDを変えることは難しいので、最初は限定的な売場
からスタートし、5年、10年計画で全ての商品を変えていくという手法が有効だろう。
百貨店の明確なテーマ設定とアパレル企業の新ブランド開発
百貨店が明確なテーマを打ち出せば、アパレルも新ブランド開発の方向性が明確になる。
あるいは、アパレル業界として、数社がグループを組み、同じテーマで新ブランドを開発
するので、百貨店側に新たなゾーニングを作り出してもらうということも考えられる。
これまでのアパレルは、新ブランド開発、新売場開発をしても、自社の売場シェアが削
減されるため、積極的な提案は行いにくかった。しかし、ここまで昨年割れが続くのであ
れば、思い切った改革が必要である。既得権を守るという発想から脱却し、消費者ニーズ
に対応した売場を、百貨店とアパレル企業が共同で開発するという視点が求められる。
2-5-1-2
メガストア対応ブランド開発&編集
■大型店舗への対応
販売管理費のコストダウンにはショップの大型化が必要
百貨店からラグジュアリーブランドが撤退を始める一方で、H&M、FOREVER2
1、ユニクロ等をインショップとして誘致する動きが出ている。また、採算割れの百貨店
は店舗を家電量販店、大型家具店等に売却する事例も増えている。
日本の百貨店は、売場の坪効率を上げるために、売場を細かく分類し、アパレルもそれ
に対応してきた。しかし、テナントして考えると、狭い売場は人件費が掛かる。面積が小
さい売場でも、販売員のローテーションを考えると、最低限の人数は確保しなければなら
ない。百貨店は自社で販売員の人件費を負担しなくなったために、売場の細分化も進んだ
のである。
一方で、ファストファッション、大型専門店など、価格競争力のある専門店は広い売場
に商品を展開し、いかに販売員を減らすか、という運営を行っている。郊外型SCモール
の専門店も、同様の理由で広い面積のショップを構えている。アパレル企業としては、百
貨店を基本にした売場面積ではなく、販売管理費を含めた運営経費の面から売場面積を設
- 68 -
定しなければならない。
ファミリー、カップルのワンストップショッピングに対応
ファストファッション、大型セレクトショップ、ユニクロ、無印良品等は、メンズ、レ
ディス、チルドレン、インティメイト、雑貨等で構成されている。メンズ、レディスは、
更にカジュアル、ビジネス、パーティー等に分類されている。
これは、ファミリー、カップル、友人同士のグループ等によるショッピングを想定した
ものであり、ワンストップショッピングを可能にしている。
今後、大型店舗への対応を強めていくのであれば、家族やカップルで買い物に来ること
を想定した商品構成の検討も必要になるだろう。
メガストアに対応したブランド開発とブランド編集
しかし、これまでのアパレルのブランドの多くは、大型店舗を想定せず、ターゲットを
細分化しているのが現状である。そこから脱却するためには二つの方法が考えられる。
第一は、大型店舗を想定した新ブランドの開発である。
第二は、既存のブランドを整理、編集して、大型店舗に対応する方法である。この場合
は、既存ブランドのリニューアルが必要になるだろう。あるいは、大型店舗に対応するた
めに、メンズアパレルとレディスアパレル、子供アパレル等との連携、買収等も必要かも
しれない。
■明確なアイデンティティを持つブランド構築
「ブランドの差異<トレンドの差異」と着回し対応
日本のファッション市場は、「ブランドの差異<トレンドの差異」である。ブランドの違
いより、トレンド(流行)の違いの方が大きい。各アパレルは、常に市場動向を調査し、
売れ筋を意識した商品を展開している。そのため、ブランドが違っても、同質化した商品
が売場に並ぶ。したがって、ショップやブランドが異なっても、比較的コーディネートが
しやすいという利点も生まれている。
海外のように「ブランドの差異>トレンドの差異」であれば、一つのブランドでトータ
ルコーディネートする方が容易であり、ワンストップでトータルコーディネートができる
という利便性がある。かつて、DCブランドが個性を競い合っていた頃は、単一ブランド
のトータルコーディネートが一般的だった。
しかし、個性よりも合理的な着回しが提唱され、ベーシック志向が強まるにつれ、次第
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にセレクトショップに人気が集まり、異なるブランドによるコーディネートが一般化して
いった。逆に言えば、日本のファッション特性が「着回し」という言葉を生み出したとも
言える。
しかし、着回し重視というニーズは日本市場に限定されている。世界の市場(中国市場
も含む)では単一ブランドによるコーディネート提案が一般的であり、ファストファッシ
ョンも単一ブランドでのトータルコーディネートを志向している。
無印良品、ユニクロは、ベーシックアイテムに絞ることで、多ブランドとのコーディネ
ートを容易にしている。合理的な大型店舗を展開しつつ、日本のファッション市場特性に
もマッチさせていると言えよう。
クリエイティブディレクターと企画チームの組織化
日本市場だけを考えているのであれば「ブランドの差異<トレンドの差異」でも良いの
だが、海外市場を含めたブランド戦略を考えるならば、ブランドのキャラクターを明確に
打ち出す必要がある。それを実現するには、欧米のデザイナーやクリエイティブディレク
ターのように、一人の人間の目をフィルターとして、統一感を表現しなければならない。
一方で、ブランドのキャラクターを明確に打ち出し、同時に大型店舗に対応するという
ことになれば、前述したようなメンズ、レディス、チルドレン、ビジネス、カジュアル、
スポーツ、インティメイト等に分類し、編集することが求められる。この場合は、全ての
アイテムを一人のデザイナーが担当することは難しいので、企画チームが必要になる。
この二つの要素を両立させるには、ショップ全体、ブランド全体の方向性を決定するク
リエイティブディレクターと、メンズ、レディス等のそれぞれのデザイナーによる企画チ
ームを構成しなければならない。
日本の雇用システムを考えると、クリエイティブディレクターは外部人材と契約し、デ
ザイナーは社内デザイナーが担当する。そして、イメージを変える場合には、クリエイテ
ィブディレクターを代えるという方法もあり得る。また、常にトレンド情報を収集し、ク
リエイティブディレクターやデザイナーに伝える市場調査の担当セクションも必要になる
かもしれない。
いずれにせよ、ブランドのあり方を変えることは組織や職制を変えることにもつながる。
また、そうしないと新しい時代に対応するための抜本的な改革にはなりえないだろう。
■グローバルなSCM構築(企画、生産、物流、販売まで)
中国生産の商品をアジア地域で販売するマーケティング戦略
日本のアパレル製品の輸入依存率は、アイテムによっては7~9割に達しており、その
うち9割近くが中国製である。しかし、多くの場合、日本から生地を輸出し、製品に加工
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してから輸入する「再輸入」か、中国で素材を調達し製品輸入するという形態である。こ
れだけ多くの製品を中国で生産していながら、その多くは、日本市場で販売されており中
国市場で販売するというビジネスモデルはごく僅かに過ぎない。
今後、アパレル企業が日本市場のみならず、成長を続ける中国等のアジア市場に参入し
ていくのであれば、中国で生産して、中国等のアジア地域で販売することを前提にしたマ
ーケティング戦略を考える必要がある。
アジア市場を想定した企画、生産、物流、販売のオペレーション
日本が中国生産を開始した頃は、中国は外国から資本を導入し、経済発展を進めるとい
う戦略であったために、輸出向けで認可を受けた工場で生産した商品を中国国内販売する
ことは困難だった。しかし、中国は 2006 年には外貨準備高が世界一になり、同時に輸入振
興政策が開始されている。次第に制限は緩和され、流通業に対しても、市場開放の動きが
強まっている。
中国で生産しながら、中国市場への販売が遅れている理由の一つは、商社が中国内販の
ビジネスモデルを構築できないでいるからである。アパレルのOEM生産だけを受託して
いる以上、中国内販を考える必要はない。また、中国国内の市場環境・構造を十分に把握
しているとは言い難い。
今後は、中国生産の商品を日本市場、中国その他のアジア市場で販売することを想定し
た企画、生産、物流、販売のオペレーションの構築が必要になる。
現地の価値観、生活様式等に対応したファッションの提供
欧州ブランドは、欧州の伝統的な文化に立脚するファッション商品を展開している。ま
さに、欧州ファッション文化の伝道師であり、グローバルスタンダードの戦略である。
日本アパレル企業は、市場に対応する力があるが、それはグローバルスタンダードに基
づくものではない。日本アパレル企業の強みを生かすのであれば、欧州ブランドのように
自国の文化を押しつけるのではなく、現地の価値観、生活様式、独自の流行に対応したフ
ァッションを提供することも考えられるだろう。
アジア各地のデザインチームとアジア地域でのデザイナー育成
企画を担当するデザインチームも日本だけでなく、中国や香港、シンガポールに設置す
るという考え方もできる。
更に積極的に現地化を進めるのであれば、各国のデザイナーを育成し、自社ブランドに
登用することも考えられるだろう。そういう戦略を各国の政府機関や教育機関と連携しな
がら、進めていくのであれば、日本アパレルの進出は歓迎されるに違いない。
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こうした構想を進めるならば、今から留学生の採用を積極的に行い、企業そのものを多
国籍化していく努力が必要になる。日本国内の商慣習に守られてビジネスをしているだけ
では、今後の大きな発展は期待できないだろう。
アジア全域を見据えた物流体制の整備
物流も非常に重要な要素である。これまでは、国内市場だけが対象だったので、日本の
物流会社に委託していれば良かった。しかし、今後は連携及び自前での整備も必要になる
かもしれない。今後は、海外の物流事情の調査や、海外の物流会社との取組みも増えてく
るに違いない。
アジア販売を想定したマニュアル作成の準備作業
販売についても、現地採用の販売員を活用しなければならず、そのためのマニュアル整
備、販売員教育のプログラム等が必要になる。
日本市場においても、海外からの観光客等に対応するには、外国人の販売員の活用も考
えなければならない。
こうしたことを実践するには時間と入念な準備が必要である。現在の業務フローや責任
分担をチェックし、誰にでも分かりやすい図表や文章としてまとめることが必要である。
こうした作業は、日常業務改善にもつながり、また、将来的なマニュアル整備の基礎資料
になるはずである。
アパレル業界団体の新たなミッションとしての取り組みを
国内ビジネスからアジア全域を視野に入れたビジネスでは、あらゆる業務を見直さなけ
ればならない。基本的には各企業が対応することになるが、共通する課題を整理し、業界
団体等がリードして、マニュアル策定等を行うことも考えられる。
また、アジア全域のサプライチェーンを構築するためには、各国との経済的な交流や連
携、海外の業界団体等との交流や連携も必要になる。こうしたことを各企業だけで展開す
るのは困難であり、アパレル関連の業界団体等の新たなミッションとして取り組むことが
求められる。
■顧客とのシンクロによる市場創造
世界共通の統一したブランドによる世界市場攻略
日本アパレルのブランド戦略には、二つの選択肢があると考える。
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第一は、欧州アパレルのように、統一したブランドと商品で世界市場に対応する。
この場合は、世界的に共有できる何らかの独自のテーマ、スタイルが必要になる。個性
的なデザイナーズブランドや、ユニクロのように日本の強みであるハイテク素材採用を中
心にしたベーシックアイテムの展開。あるいは、無印良品のような天然素材中心で、日本
独特のミニマリズムをベースにした展開。アニメやマンガと連動したクールジャパンの訴
求等である。
顧客とのシンクロによる市場創造
第二は、徹底的な市場ニーズへの対応により、顧客とシンクロしながら、共に新たな市
場を創造していくという手法である。80 年代のDCアパレルは、デザイナーズブランドと
してスタートした頃は、それぞれのブランドの個性を主張していたが、やがて、顧客のフ
ァッションとシンクロしながら、独自のファッション市場を創造していった。ある種のム
ーブメントを起こしたのである。これはプレッピーからスタートして後のセレクトショッ
プとして発展したビームス、シップス、ユナイテッドアローズも同様であり、また、渋谷
109系のファッションも同様である。
顧客、メディア、売場、ブランドの緊密な連携
後者の手法は顧客、メディア、売場、ブランドが密接に連携しあうところに起点がある。
海外市場の場合は、そうした市場に密着し、市場の中に溶け込むことができるかが、大き
な課題である。
注目すべきは、日本のファッション雑誌がアジアでも人気を集めていることである。こ
れまでもアパレル業界とファッション雑誌は互いに成長を遂げてきたが、アジア市場攻略
においては、更に緊密に連携する必要があるだろう。日本のファッション雑誌が日本のア
パレルブランドと連携することは、提携した中国の出版社にとっても、中国の読者にとっ
てもメリットがある。他の雑誌では取り上げられない記事が独占的に紹介できるからだ。
日本では雑誌同士、アパレル同士の競合があり、互いの関係を保つのが難しい。また、
アパレルと雑誌媒体が癒着し、なれ合っている印象を読者に与えることもマイナスに影響
する。しかし、中国においては雑誌もアパレルも、まず中国の雑誌やアパレルとの差別化
が問われる。アパレルのブランドと、ファッション雑誌が緊密な関係を築くことは、双方
にメリットが生じるのである。
たとえば、ファッションショーや展示会もファッション雑誌とタイアップして行うこと
で、より効果的になるだろう。日本では有名なブランドも中国市場では無名であり、ブラ
ンドデビューに等しい宣伝広告が必要である。しかも中国市場はマスプロモーション全盛
であるために、コストも掛かる。しかし、ファッション雑誌とのタイアップであれば、よ
り低コストで効果的な宣伝広告が可能である。
- 73 -
日本のファッション雑誌と日本のアパレルブランドが緊密に連携し、日本のファッショ
ン文化を海外に根付かせるという意味で、双方が戦略的に協力することも有効な手段であ
ると考える。
■既存ブランドリニューアルと再編集
海外市場に対応したブランドコンセプトの見直しと新たなアイデンティティの構築
日本アパレル企業の強みの一つは、多ブランド戦略によって、構築された数多くのブラ
ンドである。日本以外の国で、一つのアパレル企業が数十のブランドを展開している例は
ほとんど見られない。欧州では、時代のニーズに合わせて、ブランドそのものを次々と開
発することはない。スティリスト(デザイナー)の交代により、ブランドイメージを変え
ていくという手法を採っている。
しかし、日本アパレル企業が所有しているブランドは、日本市場に対応したものであり、
海外市場を視野に入れたものではない。今後は、日本国内市場も国際化が進み、また、同
一ブランドで、日本市場とアジア市場の双方に展開する場合、ブランドコンセプト等を見
直し、アジア市場を見据えたブランドアイデンティティを確立しなければならない。
細分化したブランドを編集し、再統合する
市場環境が急激に変化しつつある現在において、アパレル企業にとっては、ブランドの
見直しは不可欠である。前述したブランド開発だけでなく、既存ブランドのリニューアル
が必要になっている。そして、単独でのショップ展開だけでなく、大型店、あるいは、い
くつかのブランドをセレクトショップ形態で展開することも考えられるだろう。
市場に合わせて、細分化されたブランドを再びグループ分けし、それぞれのブランドコ
ンセプトを調整するという作業が必要になっている。
たとえば、ターゲット別にいくつかのグループ(ミセス向け、キャリア向け、ヤング向
け等)に分類し、それぞれが最低でも100坪程度の売場を構成できるように再編集して
いく。多くのアパレル企業は、雑貨アイテムが弱いので、雑貨はセレクト形態で仕入れる
か、雑貨ブランドの開発が必要になる。
また、ファストファッションの多くは、メンズ、レディス、子供、下着、雑貨等で構成
され、それぞれが、ビジネス、カジュアル、パーティー、リゾート等のライフシーン別に
編集されている。必要に応じ、このスタイルを参考に不足しているMDを開発、セレクト
編集、コラボレーションして補うこと等も重要と考える。
- 74 -
2-5-1-3
インターネットの活用
■ブログ、SNS等によるパブリシティ
マスプロモーションからファッション雑誌、そしてインターネットへ
60 年代のアパレル企業のプロモーションは、テレビなどのマスプロモーションが中心だ
ったが、次第に顧客の嗜好が細分化し、それぞれの嗜好に合わせたファッション雑誌が多
数発行されるようになった。70 年代(アンアンは70年創刊、ノンノは71年創刊)以降
は、アパレルビジネスはファッション雑誌と共に歩んできたと言える。ファッション雑誌
に最新のサンプルを貸し出し、誌面に掲載されることで、雑誌の人気が高まり、雑誌に商
品が掲載されることで、そのブランドの人気も高まった。ショップが雑誌に紹介されると、
更にショップに人が集まり、その人気ぶりが雑誌に紹介されるという好循環を起こしたの
である。
インターネットが普及し、携帯電話からの接続も可能になり、次第にインターネット上
のファッション情報が増加し、影響力を増していった。その影響力が決定的になったのは、
タレントや芸能人によるブログである。人気アイドルやモデルが、ブログでブランドや商
品を紹介すると、たちまち商品が店頭から消えるという現象が起きたのである。
タレントを展示会に招待し、ブログによる口コミを狙う
最近では、109系アパレルを中心に、タレントブログの影響を重視し、展示会にタレ
ントを招待し、個人買いさせる事例が増えている。一般の人は入れない展示会に入り、最
新流行の服を誰よりも先に見て、割引で購入することができる。タレントのプライドも満
足するだろう。そして、展示会の様子や、商品が届いたら、自分で着用し、ブログで紹介
してくれる。
バイヤーも展示会場に人気アイドルやモデルが来ていれば、そのブランドの人気ぶりが
分かるし、展示会の様子を店の顧客に話すに違いない。それが口コミになって、更に、顧
客のブログで伝達される。
70 年以降、マスプロモーションからファッション雑誌へとより細分化したメディアに移
行したが、2000 年以降はより個人的なメディアであるブログに移行したと言えよう。
しかし、多くのアパレル企業はこうした媒体を十分に活用しているとは言い難い。特に、
上場企業は、WEBを株主に対する情報発信媒体と位置づけていることが多い。しかし、
最早、直接顧客に語りかける媒体になっているのである。
同様に、IT系企業の社長は、自身もブログを書き、情報発信している。インターネッ
ト上にいかに大量の情報を蓄積し、検索されるようにしておくかを考えているのである。
その反対に、インターネット上における百貨店や大手アパレルの存在感は薄い。社長ブロ
- 75 -
グもないし、店長ブログもない。ようやく会社のホームページが整備された段階であり、
個人単位の情報発信はこれからという状況である。
次々と登場する新しい個人対象のメディア(ブログからSNS、ツイッターへ)
個人を対象にしたメディアは、ブログからMIXIのようなSNS(ソーシャル・ネッ
トワーキング・サービス)へと移行し、2009 年になると、140字に文字数を制限したリ
アルタイムのミニブログとも言われる「ツイッター」が急激に会員を伸ばした。テレビで
もツイッターの特集番組が組まれ、ツイッターに関する単行本が次々と発行されている。
こうした新しいメディアには時代のトレンドに敏感な人達が集まる。常に新しいサービ
スをチェックし、同時に、素早く情報発信を行い、新しい可能性を試してみることが必要
である。
■店舗販売とインターネット販売の連動
インターネット、携帯でアパレル製品が売れている
アンケート調査においても、ネット販売により従来の取引先を飛ばしてその先のユーザ
ーに売っている企業は多くはないが存在することが指摘されている。また、ネットで消費
者直販している企業は、テキスタイルでは 12.8%だが、アパレルでは 26.3%と比較的多い
ようだ。
多くの若者は、商品を購入する際、まず、ネットで検索して調べる。
「google で検索する」
ことを「ググル」と呼び、ネットで検索するという作業は既に生活に定着している。した
がって、ネットで検索に引っかからない情報は広まらないし、購買行動に結びつかない。
更に、インターネットや携帯でアパレル製品を購入する人が急激に増加している。これ
まで、アパレル関係者は口を揃えて、「素材に触れず、試着もできないのだから、アパレル
製品はインターネットでは売れない」と言っていた。しかし、オンシーズンの商品を人気
ファッション雑誌モデルが身につけてステージを歩く東京ガールズコレクションでは、そ
の場で顧客が携帯から商品を発注する。同様に、人気ブランドの商品であれば、雑誌の画
像やインターネット上の画像だけでも発注するのである。
人気ブランド、人気ショップの商品ということ、人気モデルが着用することが、ある種
の商品保証として機能しているのである。
検索し、購入してから、返品するかを決める
また、商品が届いてから、気に入らなければ、
「クーリングオフ制度」により返品ができ
ることも浸透しており、気軽に購入してから、気に入らなければ返品するという行動が定
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着しつつある。
即ち、情報化の進展により、「検索して購入する」「購入してから、返品する」等の新し
い購買行動が生まれており、インターネットでの情報発信、検索のしやすさ、発注から返
品のしやすさ等が重要になっている。
これまでの日本の流通業では、百貨店と量販店、店頭販売と通販では、それぞれ異なる
商品を販売していた。販売チャネルにより、問屋や製造企業が分かれ、ブランドが細分化
されていたのである。しかし、次第に流通による商品の棲み分けは曖昧になっている。前
述したように、検索してから買い物に出かけるという顧客の購買行動に対応するには、店
頭で販売している商品も検索の対象にならないと売れなくなる。また、店頭で販売されて
いることが保証となり、インターネット販売を後押しすることもある。
今後は、店頭でインターネット上の商品が棲み分けるのではなく、店頭も一つのメディ
アと考え、インターネット上のメディアと連動しながら、相乗効果を高めることが必要で
ある。
■絞り込んだ商品の展開(マニア向け、アイテム限定)
商品MD、売場面積、販売方法等の密接な関係
商品MD、売場面積、販売方法等は常に密接な関係がある。
かつて、百貨店のアパレル商品は、ブラウス売場、セーター売場、ドレス&コート売場、
ボトム売場というように、平場(壁面を持たない通路に囲まれた売場)にアイテム別の売
場が構成されていた。アパレル企業も、ニットアパレル、ブラウス専業アパレル等のよう
にアイテム別に分類されており、店頭とアパレル企業は高い相関関係を有していた。
平場は、柔軟な構造を持っており、ハンガーや棚の数を調整することで、在庫量を調整
することが可能である。そのため、アパレルもシーズンに応じて、型数や生産数量を調整
することができた。
80 年代の DC ブランドブームは、百貨店の売場を平場中心から箱売場(壁面に囲まれた売
場)中心へと変化をもたらし、アイテム別の売場分類から、ブランド別の売場分類へと変
化した。
アパレル企業は、「アイテム別からトータルアイテム展開」「シーズン商品から年間展開
商品」への転換が求められるようになった。また、最低でも5~10坪の売場を維持でき
る商品MDの展開が求められるようになったのである。そして、個々の商品の演出よりも、
ブランドとしてのアイデンティティが問われるようになったのである。
一方、量販店は棚割で商品が展開されるため、個々の商品が主張しなければ周囲に埋没
してしまう。量販店の商品は、派手なカラー、大きな商品名とロゴ、分かりやすい商品説
明が必要とされる。このように、販売方法と商品には大きな相関関係がある。
- 77 -
インターネットに適した商品MDと商品情報
同様に、インターネット上では、インターネット向きの商品MDが要求されている。
たとえば、一般の売場であれば、視覚的なボリュームが必要になる。同一商品を展開す
るならば、ある程度の面積に商品を並べなければ顧客には伝わらない。ブランドショップ
であれば、ある程度の面積を占めるショップが不可欠である。
インターネット上のWEBサイトにおける視覚的ボリュームとは、消費の数量ではなく、
商品にまつわる情報である。つまり、商品に関する情報の質や量が大きければ大きいほど、
競合のWEBを圧倒することができる。
商品の品揃えよりも、商品の奥行きが必要であり、個々の商品の魅力を分厚い情報で伝
えなければならない。こうした流通に向いているのは、マニア向け商品、アイテム限定の
商品である。通常ならば、目につかない商品でも「検索」にヒットされれば、大型店舗、
有名ブランドよりも上に表示される。インターネット通販や、ネットオークションに人気
が集まるのは、通常の店頭では扱えない商品、扱っても採算が取れない商品が見つかるこ
とである。
インターネットの特性を生かした限定商品で脱価格競争を
食料品のお取り寄せブームはこのことを証明している。たとえば、一日 100 個しか作れ
ないプリンを販売するには、インターネットが最適である。固定の店舗では、経費が掛か
り過ぎて採算が取れない。店頭販売で採算を取るには、大量生産大量販売の仕組みを作ら
なければならない。そして、大量に販売するための広告宣伝、物流等が必要になり、それ
らの間接経費を捻出するために、商品原価率を下げることになる。結果的に、原材料コス
トや生産や加工における人件費を抑えなければならないのである。
現在、店頭販売を中心にするアパレル市場が同質化と価格競争に苦しんでいるのは、大
量生産大量販売を前提にしているからである。そして、店頭の商品が同質化しているため
に、ますますインターネット上の特殊な商品が注目されるのである。
インターネット販売に適した商品は、特徴のある差別化商品であり、多くの場合、大量
生産ではなく限定商品になる。そのため同質化による在庫過多や価格競争に陥ることが少
ない。
今後は、大手アパレル企業であっても、インターネットの特性を生かした限定アイテム
や特殊な商品を展開することで、新しいビジネスチャンスの可能性が広がるだろう。
たとえば、通常の店頭では販売していないイレギュラーサイズのアイテム、特殊なカラ
ーやプリントの商品、手作業の限定アイテム等が考えられる。
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■リアルなイベントとインターネットの連携
店頭販売はイベント性が重要
現在、ほとんどの商品はインターネットで検索して購入できる。しかも、コンビニ決済、
宅配便の代引きなど、決済システムも多様化しており、日進月歩で利便性が増している。
そういう環境が整備される中で、店頭販売はどのように生き残ったら良いのだろうか。
たとえば、一時期の量販店の食料品売場は、年間を通じて規格品のようなハウス栽培の
野菜が販売されていた。野菜で季節感を感じることができなかったのである。しかし、最
近の量販店は「地産地消」ということで、地元の農家から直接仕入れた野菜などを販売す
る事例が増えてきた。季節の旬な食材であれば、見るだけでも楽しい。また、農家の人が
店頭に立っていれば、日常では得られない情報を得ることもできる。昔の商店街に普通に
存在していた、こうした人とのつながりや季節感を感じることで、買い物という行為が労
働から楽しみに変わるのである。毎日変わる商品は、ある意味で旬の食材を展示するイベ
ントであり、イベント性の高い売場ほど賑わいも演出しやすい。
アパレル市場でも同様の現象が現れている。百貨店のリニューアルオープンや新しい商
業施設のオープニングには大勢の人が集まる。多くの人は、買い物が目的ではなく、どん
な施設なのか、を見物に出かける。ある意味では観光であり、時間消費でもある。しかし、
その効果は長くは続かない。
しかし、デザイナーコラボ商品など、新企画の商品が限定的に販売されると人は行列を
作る。顧客は商品だけを求めているのではなく、ある種のイベント、賑わいを欲している
のである。
商品だけなら、検索して購入することができる。しかし、イベントを体験するには店頭
に出かけなければならない。アパレル企業も百貨店も、これまでは「商品を展開すれば顧
客は集まる」という固定概念があった。しかし、現在は、新商品を並べただけでは、顧客
は集まりにくい。何らかのイベント性が必要であり、店頭に行かなければ体験できない要
素が必要なのである。
そして、そうしたイベントを告知するメディアは、マスメディアだけでなく、インター
ネット検索やブログ、SNS、携帯メール等、個人対応のメディアも大きな役割を果たす
だろう。
アパレル企業と百貨店が協力し、時代の変化を体験できる店頭イベントを
こうした集客戦略を展開するには、アパレル企業と百貨店など小売流通の協力が必要で
ある。ファッション商品は最も季節感を反映できる商品であり、最も時代の変化、トレン
ドの変化を表現できるアイテムである。しかし、そうした変化の情報が顧客に発信されて
いない。また、そうした変化を体験できる店頭イベントが存在していない。
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今後の、アパレル企業及び百貨店等の小売流通企業は、商品を陳列するだけでなく、商
品を紹介する何らかのイベントを実施することも戦略の一つであろう。そのためのイベン
ト情報を伝える情報メディアを確保することも重要な要素となる。
2-5-1-4
新人デザイナー、ベンチャー企業の育成
■アパレル産業全体の活性化を目的としたファッションベンチャー振興
アパレル業界内部に新陳代謝を促す仕組みが必要
ファッションビジネスとは、常に新しい変化を生み出し、既存の商品を陳腐化させ、新
しい欲求を喚起し、消費につなげるというビジネスモデルである。従って、ファッション
業界、アパレル業界は、常に新陳代謝を行う仕組みを内包しなければならない。
欧米はトレンド情報発信とデザイナー交代により継続的な変化を具現化
欧州のファッションビジネスは、トレンド情報の発信により、シーズン毎の変化を先導
している。カラー、糸、テキスタイル、アパレルのそれぞれの段階で、トレンドテーマを
打ち出し、ファッションの変化を促すと同時に、ある種の情報戦略を展開している。
また、欧州のアパレル企業はデザイナーを代えることでブランドイメージを新鮮に保っ
ている。デザイナーも契約先であるメゾンやアパレル企業を次々と変え、それがキャリア
アップの方法になっている。業界全体が常に新しいデザイナーを発掘し、育成することで、
ブランドを活性化し、ファッションビジネスを魅力あるものにしているのである。
その代表的なものが、パリコレ等のコレクションである。コレクションを批評、評価し、
常に新しい才能を発掘し、ビジネスにつなげる仕組みを、アパレル企業の資本家や経営者、
デザイナー、ファッションジャーナリズム等が連携して作り上げている。
一般のアパレル企業とクリエイティブなデザイナー間の深い溝
日本社会では、欧米のように強い主張を持つ個人よりも、周囲との調和を重視する個人
が評価される。ファッションも同様であり、一応のトレンドを取り入れながらも、周囲と
の調和を常に重視する人が多い。そのため、無から有を生み出すクリエイションよりも、
トレンド情報を収集分析し、デザインバリエーションとして展開する商品企画が重視され
ている。
また、日本のアパレル企業には、ブランドの陳腐化を防ぐために、外部デザイナーを起
用するという慣習がない。日本のアパレル企業は、ブランドが陳腐化するとデザイナー交
代ではなく、ライセンスを含めた新しいブランド開発を考えることが多いのである。そし
- 80 -
て、ブランド開発の場合でも、コレクションで新しい才能を探すのではなく、実績のある
ブランドやデザイナーを選ぶことが多い。
こうした日本特有の事情により、一般のアパレル企業と個性的な商品を打ち出すデザイ
ナーの間には「深い溝」があり、互いに独立した存在になっている。そのため、日本の繊
維アパレル業界は、日本国内のコレクションやデザイナー育成への積極的な動機を見出せ
ないでいる。
ファッションベンチャー企業の台頭による新陳代謝
歴史的に見ても、アパレル業界は常に新しいプレイヤーが参入することで、市場を刺激
し、大手企業も含めた持続的成長が可能にしてきた。日本では、新規参入のプレイヤーは、
多くの場合、個人のデザイナーではなく、ファッションベンチャー企業だった。
80 年代のDCブランドや 2000 年代の109系アパレルといったベンチャーアパレル企業
が多数誕生し、その活動と共にファッション市場が活性化し、また、百貨店はそうしたベ
ンチャーアパレル企業のショップを取り入れることで、新鮮な魅力を演出してきたのであ
る。
アパレル業界への新規参入は困難になっている
アパレル業界には、これまで自然発生的に新しいプレイヤーが参入した。しかし、現在
は次第に困難になっている。
その背景には、繊維アパレル産業全体が不況業種のように扱われており、資金調達が難
しいこと、一部の人気ブランドを抱えるアパレルや人気ショップを展開している専門店企
業にはファンドが投資しているが、あくまでも一部の企業が利益追求しているに過ぎない
こと、ファッションベンチャー企業の販売先となる専門店などの小売流通と商品を生産し
てくれる縫製工場やニッターの双方が減少・弱体化していること等がある。そのため、ベ
ンチャー企業の商品を仕入れる小売店も商品を生産してくれる工場も見つけにくい状況が
強まっている。また、海外生産が増えるにつれ、個人経営の企業や中小零細企業では対応
が難しくなっている。
アパレル業界全体として新規参入を促す仕組みが必要
多くのアパレル企業にとって、競合関係になりうるファッションベンチャー企業を育成
することは、自社の利害に合わないと感じるだろう。しかし、このまま日本国内に新規参
入のプレイヤーが出て来ない状況が続けば、日本の繊維アパレル市場は外国資本企業の草
刈り場と化す可能性もある。業界全体の活性化のために、新規参入のための仕組みを整備
する必要がある。以下にいくつかの提案をまとめることとする。
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■デザイナーコラボレーションのコンペティション等
クリエイティブなデザイナーを起用したビジネスはリスキー
前述したように、多くの日本のアパレル企業は、社内デザイナーを中心に活動しており、
外部のデザイナーと契約を行うことが少ない。経営者にとって、クリエイティブなデザイ
ナーが企業の利益に貢献してくれるという保証はなく、一人の個性的なデザイナーを起用
し、ブランドを立ち上げ、その売場を継続するという事業は非常にリスキーである。
アパレル、流通双方にリスクの少ない期間限定のデザイナーコラボ
そこで、H&Mやユニクロが行っているデザイナーとのコラボレーションを、アパレル
企業と小売り流通企業が連携し、繊維アパレル業界として展開することを提案したい。
たとえば、百貨店、SCモール等は、期間限定の売場を用意する。ある意味で販売促進
イベントである。そして、アパレル企業は、既存のブランドが使用している素材や縫製工
場等を活用して、コラボレーション商品を数量限定で生産し、販売する。デザイナーには、
企画料として一定のロイヤリティを支払う。
アパレル企業にとって数量と期間限定の商品であり、専用の売場が用意されれば、例え
売れなくても大きな損害を被ることはない。もし、実際に商品が売れれば、継続して契約
することも可能である。
小売流通企業にとっては集客イベントであり、新人デザイナーの育成という社会的意義
も消費者に訴求できる。百貨店であれば、既存の顧客層ではないヤング層を集客できる可
能性も高い。また、スペースを提供するだけなのでリスクはほとんどない。
販売についても、学生のインターンシップで行うという方法もある。こちらも産学連携
の社会的活動としての訴求ができるはずである。
このように大きな負荷なしに新人デザイナーにチャンスを与える仕組みが求められてい
る。
デザイナーコラボのコンペティションのイベント効果
更にイベント性を付加するならば、デザイナーコラボレーションのコンペティションを
行う。但し、デザインコンテストではない。あくまで、商業的生産を前提にしたコンペテ
ィションであり、テーマを与え、デザイナーを選ぶのはアパレル企業である。
できれば、このコンペティションをテレビ、ファッション雑誌、WEBメディア等と連
携して行うことが望ましいだろう。それによりイベント効果は更に高まるはずである。
また、既存のデザインコンテスト等に、デザイナーコラボのコンペティションの要素を
加えることも検討の余地があるだろう。
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■インキュベーションオフィス&ショップ
産地と連携した収益事業が可能なインキュベーションオフィス&ショップ
これまでも展示会の支援は試みられてきた。しかし、展示会を開催しても、実際にはリ
スクを張って新人デザイナーの商品を展開する専門店はほとんど存在しない。従って、展
示会に出展しても成果が上がらない。
また、地方自治体等では、インキュベーションオフィスの実験も行っている。しかし、
オフィスだけでは利益を生まない。ショップやカフェといった利益を生み出せる施設の併
設が望ましいのだが、立地や管理上の問題があり、ショップを併設したインキュベーショ
ンオフィスの例は少ない。
ファッションにターゲットを絞り、地域の商店街や行政と連携し、インキュベーション
オフィスとインキュベーションショップを設置する。また、モノ作りの支援については、
産地と連携する。
こうした立体的な取組みを、繊維アパレル業界の活性化という目的として、業界が支援
していくことが重要になっている。
■ショールーム(営業代行オフィス)の育成
デザイナー、アパレルの営業代行機能を持つミラノのショールーム
今回のイタリアの調査において、日本にはない「ショールーム」の責任者からヒアリン
グを行った。この仕組みを応用することで、新人デザイナーやベンチャー企業の育成策が
考えられる。
ショールームは、世界のセレクトショップのバイヤーが集う国際ファッション都市、ミ
ラノだから成立している業態である。ショールームの機能は、オーナー(特定の個人)が
アパレルのブランドを選択し、そのサンプルを一定期間預かり、営業代行を行い、営業経
費として売上の一定歩合を受け取るという業態である。オーナーは、世界中のセレクトシ
ョップをクライアントに持っており、互いに信頼関係がある。無名のブランドやデザイナ
ーでも、信頼できるショールームのオーナーが評価したものなら、バイイングを行うので
ある。コレクションを構成するために、オーナーはイタリア中の展示会やマスコミ等にア
ンテナを張り、常に有望なデザイナーやブランドを探している。また、クライアントのセ
レクトショップにも直接出かけ、常に顧客がどんな商品を欲しているかを理解している。
もちろん、デザイナーからの売り込みもあるが、オーナーが有望と感じないものは、ショ
ールームには商品を置かない。
バイヤーからのオーダーシートは、全てアパレルに送られる。そして、手数料として一
定の歩合をショールームに振り込むのである。また、バイヤーの反応や評価についても、
- 83 -
アパレルにフィードバックする。
ベンチャーアパレル企業が単独で営業をしようとしても、セレクトショップのリストも
なければ、信用もない。しかし、有名なショールームを通すことでビジネスができる。ま
た、バイヤーも広い展示会場の膨大なブランドを一つ一つ確認しなくても、ある種のフィ
ルターを通したブランドの商品をワンストップで仕入れることができる。
多くの展示会は、出展費用さえ払えば誰でも出展できる。しかし、バイヤーは自分で呼
び込まなければならない。ショールームは、あくまでオーナーの選択眼を通して、一定水
準を超えたブランドしか扱わない。その選択や編集がノウハウであり、セレクトショップ
のバイヤーはそれを信頼しているのである。
現地ショールーム設置による輸出振興
ショールームの機能を応用することで、次のようなことが考えられる。
アパレル製品を欧州に輸出したいのであれば欧州に、中国市場に輸出したいのならば中
国に日本製品のショールームを設置する。但し、ここで重要なことは欧州市場を熟知した
コーディネーターの選択眼により、ブランドをセレクトすることである。セレクトするこ
となしに単にサンプルを展示したのでは、ビジネスにつながる可能性は低くなるだろう。
また、コーディネーターの選任が非常に重要である。現地市場に詳しく、専門知識とビ
ジネス経験を持った現地の人が望ましい。また、現地コーディネーターはショールーム内
に閉じこもるのではなく、世界各国のショップにも出かけて、バイヤーとのコミュニケー
ションを図り、潜在的ニーズを探らなければならない。
業界団体や組合では、会員企業を平等に扱わなければならないので、フィルターを通す
という作業が苦手である。どうしても、誰でも平等に参加できる展示会を優先させてしま
う。しかし、誰もが参加できる展示会ほど次第にマンネリ化し、魅力も薄くなってくる。
やはり厳しい事前審査等のフィルターがあることで、魅力ある展示会のレベルが維持でき
るのである。
ショールーム構想は展示会を更に発展させ、直接ビジネスにつなげるものである。展示
会の次の手段としての検討が期待される。
2-5-2
世界が注目する中国等、アジア市場
日本市場と中国市場は異質であり、日本のビジネスモデルは通用しない
日本市場は人口も減少しており、既に供給過剰の状態が続いており、今後、大きな国内
市場の拡大は期待できない。むしろ、海外資本企業の参入等により、市場シェアの縮小も
予想される。企業として成長を続けるならば、海外市場に活路を見出すしかない。その中
でも、世界で最も急激な成長を見せ、注目を集めているのが、中国等のアジア市場である。
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日本は世界的なデザイナーを何人も生み出し、中国より早く、大衆ファッションブーム
を経験している。また、日本の大手アパレル企業の売上規模は世界的に見ても巨大である。
アパレル企業の技術レベル、きめ細かな店舗管理や品質管理等、日本のアパレル企業のノ
ウハウは世界的に見ても秀でていると言えよう。
一方で、中国は本格的なアパレル企業が誕生したのは 1980 年代であり、歴史も浅く経験
も少ない。もちろん、消費者の選択眼やファッション感度を比較しても、日本の方がはる
かに勝っている。
しかしながら、中国市場に進出したものの、苦戦している日本企業は多い。その多くは、
日本のビジネス手法、ビジネスモデルをそのまま中国に持ち込んだケースである。
プロモーション手法、消費者の購買動機等の十分な調査が必要
確かに、日本市場は中国市場より成熟している。市場も細分化しており、ファッション
雑誌のような顧客がセグメントされた媒体を活用した広告宣伝、広報活動が望ましいと考
える。
一方、中国のファッション市場は日本のように成熟しておらず、消費者の選択眼も甘い。
マスプロモーションによる刷り込み効果により、店頭では知名度の高いブランド商品を選
ぶ。従って、中国市場ではまずブランドの知名度を上げなければならない。中国では、有
名タレントやスポーツ選手など、知名度の高い有名人をイメージキャラクターに起用し、1
億円以上の契約金を支払うことも珍しくない。
日本市場と中国市場を比較すれば、日本市場の方が先端的であり、成熟していることは
自明である。しかし、マーケティング戦略を考える場合は、それぞれの地域のファッショ
ン成熟度、消費者の購買動機、生活に対する価値観に対応しなければならないにもかかわ
らず、多くの日本企業は、十分なニーズ調査もしないまま、日本でのビジネス手法をその
まま持ち込んでしまったため、うまく中国市場において事業展開ができなかったのである。
メーカーと代理商、潤沢な資金を調達
中国のアパレル企業の多くは、メーカーである。元々、輸出向けのOEM生産を行って
いたメーカーがオリジナルブランドを展開するようになった例が多い。従って、多くのア
パレル企業は巨大な縫製工場を所有している。最近では、日本のように縫製工場を所有し
ない業態も誕生しているが、主流がメーカーであることに変わりはない。
中国のアパレルメーカーが急激に成長を遂げたのは、生産するアパレルメーカーと、シ
ョップを展開する代理商が、車の両輪のように互いの機能を補完したことによる。代理商
は、特定の地域(省単位、市単位等)での独占販売権を与えられた代理店である。該当地
域の中で人気ブランドを独占的に販売する権利を有するので、安心して店舗に投資するこ
とができる。アパレルメーカーも、資金の全てを設備投資に集中し、大量生産体制を構築
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することができた。しかも、これまでは需要の方が圧倒的に大きかったために、作れば売
れるという状況が続いていたのである。
しかも、中国は世界中から投資が集まり、資金が潤沢であった。従って、アパレルメー
カーも代理商も比較的容易に銀行からの資金調達が可能だったのである。
中国ビジネスは政府機関と密接に関係している
また、中国は資本主義社会に見えても、共産党一党独裁国家であり、政府とビジネスが
密接に関係している。政府機関から表彰されることは、社会的な信用を得ることであり、
あらゆる場面で優遇される。そのため、中国のアパレル企業は、常に政府機関の動向に敏
感であり、協力的な姿勢を見せている。展示会やイベントの意味も、日本のように単純に
商売だけが目的ではなく、政府機関とのコミュニケーションも含まれている。
自己主張が強く、装飾性を好む中国人消費者
また、消費者の嗜好も日本とは異なっている。日本人が自分の個性を主張するよりも、
周囲との調和を重視するのに対し、中国は欧米同様に、個性を主張することを重視してい
る。従って、中国ではアパレルのブランドを明確なコンセプトやキャラクター性が要求さ
れるし、商品も日本人の好みからすれば、装飾過多であり、しつこい印象を受ける。反対
に中国人が日本のアパレルブランドを見ると、何か寂しい、物足りないという印象を受け
るのである。
つまり、日本と中国のアパレル市場は異質であり、中国でビジネスをするには、中国の
特性に対応しなければならないということである。どちらが進んでいるという視点は、少
なくともビジネスにおいて、何の役にも立たない。
「中国ビジネスは独資の現地法人に限る」という考え方が浸透
日本企業の中国進出は中国生産から始まった。進出当初は、合弁企業しか認められず、
また、中国国内販売は認められなかった。当時の中国企業は、国営企業の気風が色濃く残
っており、全く日本の常識が通じなかった。国営企業は、企業の利益よりも中国人民の利
益に貢献することを目的としていた。そのため、中国側は、なるべく多くの従業員を雇用
し、なるべく多くの給与を支払うことを優先しようとした。それに対し、日本側は利益を
出すためにコストダウンを優先しようとした。互いの目的意識が全く異なるのだから、運
営がうまくいくはずがない。当時の合弁企業の経営者は非常に大きな苦労を強いられたの
である。
やがて、日本の資本だけの会社、独資企業の設立が認められるようになり、合弁企業か
ら独資企業への切り換えが行われた。もちろん、会社運営がスムーズになったことは言う
- 86 -
までもない。このような体験から、
「中国ビジネスをするなら独資企業に限る」という考え
方が浸透していった。
日本市場進出の欧米企業は日本との合弁販売会社を設立
一方で、欧米企業が日本市場に進出してきた時のことを考えると、ほとんどのケースで
日本の商社等と合弁企業を設立している。日本の法律では、海外の企業が単独で法人を設
立することも可能である。それでも、販売目的の日本現地法人には、日本企業との合弁と
いう形態をとり、多くの場合は日本人の社長を据えたのである。欧米企業にとって、日本
は特殊な市場であり、言葉も商習慣も分からない外国人が参入しても成功しないと考えた
のである。欧米人にとって日本市場が特殊なのであれば、日本人にとって中国市場も同様
に特殊だろう。
製造業は独資でも、流通参入は合弁という考え方も
製造工場の場合は、多くの場合、販売先は日本企業であり、日本の消費者だった。確か
に労務管理等では苦労しただろうが、商品については、熟知していたはずである。しかし、
市場参入は、中国の流通企業、中国人の消費者を相手にするビジネスである。どんな商品
を作ればいいのか、どのようにビジネスを展開すればいいのか、という基本的なことを一
般の日本人は理解していない。
いずれにしても、中国では中国のやり方を踏襲しなければならないし、企業運営には中
国人の協力が必要不可欠である。そう考えると、単純に独資企業を選択するのではなく、
あえて合弁企業という選択肢もあり得るだろう。
このことは、アパレル企業のヒアリング調査でも指摘されている。
販売権譲渡による輸出という発想もある
また、中国市場進出は、中国に現地法人を設立しなければビジネスができないと考える
人が多いが、輸出でも市場参入は可能である。その場合も、バイヤーに販売するという考
え方ではなく、たとえば、中国での独占販売権を販売する、あるいは中国での独占販売権
を譲渡するという考え方もできる。
展示会でバイヤーを探す場合、相手のバイヤーにとって、独占的な販売権を手にするこ
とはできない。自分以外のバイヤーにも販売することが予測されるからだ。しかし、独占
販売権を譲渡するということになれば、話は変わってくる。真剣にそのブランドが売れる
のかを考え、自分なりに戦略を構築するに違いない。
この「権利を販売する」という発想は、中国人にとって非常に分かりやすいのだが、日
本人にはなじみがない。しかし、こうした発想が可能になれば、中国企業とのコラボレー
- 87 -
ションや連携も可能になる。たとえば、日本のアパレル企業が、中国の内販企業に販売権
とセカンドブランドのライセンス生産及び販売権を与えることもできるのである。
2-5-3
独資での参入、直営店戦略
■中国政府機関とのコミュニケーション(法律、経済計画、各種統計等)
中国の各種統計資料は、政府機関に集中
最初に、中国市場進出を独資で行う場合を考えてみたい。中国市場進出で最も重要なこ
とは、中国の実態を理解することである。そのためには市場調査等が必要になるが、中国
では各種統計は政府機関に集中している。また、政府機関内では、様々な委員会があり、
中国企業だけでなく外資企業も参加している。参加する理由は、様々な情報の入手である。
中国は現在でも計画経済の要素を残している。地域開発、商業施設の建設等は、全て政府
機関が描く計画に沿って行われている。そのため、今後、どの地域が重点的に整備される
のか、また、どの地域に住宅や商業集積が配置されるのかを知るには、政府機関とのコミ
ュニケーションが不可欠になる。
日本企業進出による中国社会のメリットを明解に主張する
日本企業の多くは、中国政府機関とのコミュニケーションが不足している。日本企業が
進出することで、中国社会にどんなメリットが生じるのか。それを明解に主張し、ビジネ
スに協力してもらうことが必要である。
たとえば、日本のアパレル企業が中国市場に参入することで、中国のアパレル業界は、
日本のアパレルビジネスのノウハウを吸収し、国際的なレベルアップが図れるということ
もできるだろう。もちろん、こちらは企業だから利益を上げなければならない。しかし、
「情
報やノウハウは積極的に公開します」と言えば、中国のアパレル業界でも歓迎されるはず
である。しかし、政府や業界と接触せずに、自社の利益だけを考えているという姿勢では、
中国市場、中国社会を敵に回すことになる。
自社が中国に対して、どんな社会貢献が可能かを明確に主張し、それを実現するために、
堂々と政府に協力を要請するという姿勢が望ましいと言えよう。
■経済成長に見合ったスケールとスピード
停滞期の日本ではリスクヘッジによる慎重な経営が評価される
日本のアパレル業界も、高度経済成長時代には、毎年売上倍増で急成長する企業が珍し
- 88 -
くなかった。そういう時期には、細かいことを気にするよりも、一気に成長の波にのらな
いと時代についていけない。同業者、小売り流通業者もそれを観ているし、その勢いこそ
が企業の力と認識されるのである。高度経済成長時代に、思い切った投資もせず、いたず
らに慎重で意思決定が遅い企業が、注目されることもない。
日本のアパレル市場は高度経済成長を過ぎ、安定期から停滞期に入りつつある。従って、
費用対効果を考え、リスクを避け、慎重に経営する経営が正しいとされている。
成長期の中国ではリスクテイクによる大胆で迅速な経営が評価される
しかし、日本では正しい経営かもしれないが、高度経済成長時代下の中国に参入した多
くの日本企業は、あまりにもスピードが遅く、スケールが小さいという印象を与えている。
日本企業が中国市場に参入する場合、中国経済の成長、中国市場の成長の速度に対応す
るようなスピードとスケールが必要になる。日本とは異なり、大胆で迅速な経営者が注目
され、尊敬されるケースが多いのである。あまりに慎重な姿勢は、市場の中で存在感を表
せないばかりか、中国の流通業界からの評価も低くなってしまうだろう。
「スピードとスケールの経営」が自社だけで不可能であれば、中国企業とのコラボレー
ション、あるいは中国の代理商との連携も視野に入れなければならないだろう。
■ブランド知名度向上とプロモーション
マスプロモーション全盛の中国でブランドデビューする
前述したように、中国のアパレル市場は未だ発展途上であり、市場全体の商品の水準も
低いし、消費者の商品選択眼のレベルも低い。こういう時代には、マスプロモーションが
重要である。人気タレントやスポーツ選手等をイメージキャラクターに起用して、テレビ
CMや新聞広告、イベント、地下鉄や街頭のポスター等で一気に知名度を上げることで、
市場シェアを伸ばせる。現在の中国は、まだこの時期である。
これから、中国も供給過剰になり、日本のように市場も成熟し、マスプロモーションの
効果が薄くなり、ファッション雑誌のようなセグメントされた媒体が市場への影響力を増
す時期が来るであろう。
日本でどんなに有名なブランドでも、中国市場では全く無名である。中国市場に参入す
る場合、日本で新規ブランドを立ち上げる時以上の広告や広報活動が必要である。しかも、
時代は高度経済成長時代のマスプロモーション全盛時期であることを認識しなければなら
ない。
- 89 -
■直営店と代理商
優秀な代理商獲得と思い切ったプロモーションがポイント
代理商は、特定の地域(省単位、市単位等)での独占販売権を与えられた代理店であり、
中国のアパレル企業が急激に成長を遂げたのは、生産するアパレル企業と、ショップを展
開する代理商が、車の両輪のように互いの機能を補完したことによるものであることは既
に述べた。
極論すると、現在の中国アパレルビジネスは、優秀な代理商獲得と、思い切ったプロモ
ーションによるブランド知名度の向上に集約される。やがて、市場が飽和状態になれば、
日本のように品質管理に力を入れ、リピーター顧客を重視する戦略に変わるだろうが、今
は、成長期であり、リピーターより新規顧客獲得が優先されている。
CHIC(中国国際服装服飾博覧会)の目的はブランドイメージ訴求と代理商獲得
日本のアパレル企業も参加しているCHIC(中国国際服装服飾博覧会)は、
中国最
大のアパレル展示会だが、そこに出展する目的は、ブランドイメージの発信と代理商の獲
得である。即ち、個々の商品を売買する場ではなく、ブランドイメージをプレゼンテーシ
ョンする場である。従って、一部の中国企業は豪華なブースとコンパニオンを並べるだけ
で、商品さえ展示していない。極論すれば、商品を展示するだけでは、そのブランドが売
れるかどうかを代理商は判断できないのである。むしろ、どんなプロモーションを行って、
ブランド知名度を上げようとしているのか。それにより、自分の利権が確保できるか否か
を判断する人が多いのである。
そもそも代理商とは、独占販売権による権利ビジネスであり、何らかの手段で富を築い
た人が投資目的で始めることが多い。従って、ファッションの知識もないし、商品の選択
眼もない。レストランに投資するか、ファッションのショップに投資するかという発想で
ある。
代理商ビジネスも転換期であり、新たな直営店戦略も
代理商ビジネスの基本は、独占販売権を与える代りに、店舗経費、販売経費は全て負担
し、商品は返品なしの完全買取りである。最近は、需給バランスが変わり、競合が激しく
なっているので、次第に代理商の在庫負担が増え、利益を圧迫するようになっている。中
国における代理商システムは、変革の時期を迎えていると言えよう。
アパレルにとって、代理商という販売会社により、工場の設備投資とプロモーションに
集中することかできた。しかし、最近ではブランドイメージを守るために、直営店の比率
を上げるという企業も出てきている。
- 90 -
大都市でブランドイメージを訴求、地方都市で利益を上げる
中国のアパレル企業の多くは、北京や上海という大都市部は、店舗賃料や人件費も高く、
採算が取りにくいと考えている。しかし、ブランドイメージを上げるためには、不採算で
も北京や上海に出店し、利益は、地方都市で上げようという戦略をとる企業もある。日本
アパレル企業の多くは、地方都市での展開が遅れており、最も採算の悪い大都市のみで展
開しているケースが少なくない。
日本アパレル企業の多くは、直営店戦略を採用している。日本市場においては、アパレ
ル製造卸から、製造小売業であるSPA業態に転換した成功体験を持っている。従って、
日本企業は卸か直営店か、という選択肢しかないと考え、代理商の活用という発想が欠如
しているとみられる。
直営店の管理には、地域ごとに販売会社が必要
中国アパレル企業も直営店戦略を採用しているケースもある。代理商の最大の欠点は、
売りっぱなしであるため、店頭の価格コントロール、イメージコントロールが徹底できず、
ブランドイメージを損なうことである。
しかし、広大な国土を持つ中国と日本では管理方法が異なる。日本ならば、東京の本社
が日本全国を管理することも不可能ではない。しかし、中国では法律も各省により異なる
場合もあり、多くの場合は地域ごとに販売会社を設立し、全体で企業集団を構成している
例が多い。
中国企業の組織は、日本のようにボトムアップではなく、欧米のようなトップダウンが
基本である。現場社員の教育レベルも日本のように均一で高いレベルを期待することはで
きず、会社への忠誠心を期待することはできない。従って、管理者の目が届く範囲の組織
にしておかないと、様々なトラブルが発生する可能性を有しており、従って、管理者の資
質は非常に重要となる。更に、地方政府との人間関係、社員とのコミュニケーション能力
が問われるのである。
つまり、直営店であっても、日本国内と同様の手法では事業運営が難しいことを認識し
た上で、中国事業全体の計画を立てなければならない。
■中国市場、中国消費者への対応(サービス、商品、情報発信等)
中国の消費者が日本ブランドに期待するものは何か
中国市場に限らずどの国や地域でも、消費者の実態やニーズを把握し、それに対応する
ことが最も重要なことである。現地の嗜好だけの問題ではなく、消費者の期待も含めて考
える必要がある。
- 91 -
たとえば、欧州の高級アパレルに対して、中国風のデザインを期待する人はいない。欧
州の歴史や伝統に基づく高級品を期待しているのである。ファストファッションには、グ
ローバルスタンダードな商品と価格を期待しており、ローカライズした商品を期待してい
るわけではない。しかし、どちらの場合も、サイズや体型については対応して欲しいと考
えるはずである。
同様に、日本のアパレル製品、日本のブランドに対して、中国の消費者が何を期待して
いるのかを把握しなければならない。その調査も必要になる。
中国語のWEBサイトの用意も重要
たとえば、自分の住む町に、日本ブランドのショップができたとしよう。80 年代以降に
生まれた中国人なら、すぐにインターネットでブランド名、ショップ名を検索するはずで
ある。その時に、中国語のWEBが用意されていれば、日本のブランドと理解することが
できる。
中国にはファッションに関するポータルサイトも多数存在しており、ファッション雑誌
以上の影響力を持っている。そうした媒体に広告を出してあれば、それなりの信用を得る
ことが可能になる。
中国市場におけるブランドコンセプト、顧客ターゲット、着用シーンの設定
日本人と中国人のライフスタイルも異なっている。かつては、日本のアパレル業界でも
TPOに合わせたスタイルが提唱された。しかし、現在の日本市場では、ファッションは
個性の表現と考える人が多く、TPOの意識は希薄になっている。しかし、中国では日本
以上にTPOの意識は強く、昼間と夜のシーンでは着替えることも珍しくない。つまり、
ファッションのカテゴリーや分類そのものが異なるのである。日本市場におけるブランド
コンセプトや顧客ターゲット設定のままでは通用しない。同じブランドであっても、顧客
のターゲット年齢や着用シーン設定の変更が必要な場合も少なくない。
中国人消費者から見て、自社のブランドはどのように理解・解釈されるのか。そして、
地元の中国アパレルではなく、わざわざ日本のアパレルの商品を購入する必要性をターゲ
ット層に明確に伝えることが重要である。
2-5-4
中国企業とのコラボレーション
■中国内販アパレル企業へのライセンス契約
海外市場攻略には現地の事情に詳しい現地の人材が不可欠
- 92 -
中国市場を含む海外市場において、その市場特性や流通システム、商慣習等を理解し、
営業活動をすることは非常に難しい。従って、欧米企業も積極的に合弁の販売会社を設立
し、現地採用の社長を据えている。日本に存在する有名ブランドの販売会社も多くの場合、
日本人社長である。同様のことは、世界中どの国でも共通している。日本企業が中国に独
資の販売会社を設立し、日本人社長を任命した場合は、中国人社長を据えるより中国のア
パレル業界の仲間に入ることは簡単ではないし、政府機関とのコミュニケーションも入手
できる情報も少なくなるのが一般的である。販売会社は本社の指示に基づいて行動するこ
とが基本だが、与えられた範囲の中で柔軟に現場対応しなければならない。その面では、
現地に詳しい人材活用が必要になる。
ライセンスビジネスから直接参入へ、という欧米アパレルの長期戦略
日本の大手アパレル企業や服飾雑貨企業等は、欧米のライセンスブランドで成長した。
日本国内のライセンス生産と販売の権利を得ることで、百貨店等の売場の確保が容易にな
った。また、売上面だけでなく、様々なノウハウを吸収することもできたのである。
しかし、日本市場が成長するにつれ、ライセンス契約を打ち切り、直接進出に切り換え
るケースが増えている。市場が未成熟の段階では、ライセンスビジネスで利益を上げなが
ら、ブランドの知名度を浸透させる。市場が成熟し、ブランド名が浸透した段階で直接進
出に切り換えるという長期的戦略が見て取れる。
中国内販アパレルへのライセンス供与による中国市場進出
同様のことが日本アパレル企業でも考えられないだろうか。たとえば、既に中国国内に
販売実績のある内販アパレルに、ライセンス生産と販売の権利を与える。もちろん、販売
だけでも良いが、日本アパレル企業がそうであったように、ライセンスは販売だけでなく、
リプロ販売により利益が確保できる。
中国内販アパレルとのライセンス契約は次のようなイメージになる。日本アパレル企業
は、基本的なテーマ、素材、プロトタイプ、パターン等を提供する。これは、欧米アパレ
ルと日本アパレルのライセンス契約と同様で、ケースバイケースの対応になる。
そして、アプルーバルを行い、合格した商品は中国で販売するわけだが、品質レベルが
十分ならば、日本市場で販売することも可能だろう。即ち、中国内販アパレルは日本販売
分と自社販売分をプラスして生産する。そして、中国販売分のライセンス料を日本アパレ
ルに支払う。
- 93 -
中国内販アパレルへのライセンス供与
ブランドライセンス
リプロ&中国市場の販売権
中国
市場
中国
内販アパレル企業
日本
アパレル企業
日本
市場
ライセンス料
中国から日本へ製品輸入
もちろん、中国アパレル企業はライセンス料の必要のないオリジナルブランドを育成し
ようとするだろうし、日本側は市場に浸透した段階で、直接進出に切り換えるかもしれな
い。しかし、当面は互いにWIN-WINの関係を築けるのではないだろうか。
少なくとも直接進出とのコスト比較等、検討する余地はなるだろう。また、ブランドに
より、直接進出との棲み分けも可能である。日本のテキスタイルや、日本縫製のブランド
は直接進出を優先する。中国での素材調達、中国縫製主体のブランドであれば、ライセン
スも検討するなどが考えられるだろう。
■中国流通企業等との合弁
中国流通企業との合弁による中国市場進出
中国企業は常に新規事業の可能性を探っている。現在、百貨店等の流通小売業を展開し
ている企業も、中国国内の販売パートナーとなる可能性がある。但し、この場合も地域等
を限定した独占販売権の設定が必要になるだろう。
日本の流通小売企業がブランドを囲い込みたいように、中国の流通小売企業も同様のこ
とを考えている。また、日本のアパレル企業は、自社でショップを運営しているケースも
多いので、ショップデザインや販売員教育という面でも提携が可能かもしれない。
中国の流通小売業は、外資企業を含む厳しい競争下にある。その競争に勝ち抜くために
は、海外企業のノウハウ取得が必要と考えているのである。
一部の欧米アパレル企業が日本市場に参入する場合、最初は百貨店のPBからスタート
し、一定期間が経過した後で、他店への出店を行う事例も少なくない。もし、代理商等を
活用した急激な拡大ではなく、ブランドイメージを重要視するのであれば、中国流通小売
業との連携もありうる。
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合弁、出資は、本気で取り組む証である
中国人は連携であっても合弁を望むことが多い。その理由は、出資してこそ本気で取り
組んでいると考えるからである。自分のリスクは負わず、相手だけに依存するという姿勢
は、いつでも逃げられる体制と解釈される。ある意味で、信頼できるパートナーを探すの
ならば、合弁という形態に行き着くとも言えよう。
互いの信頼関係を構築するためにも、合弁という形態は有効と言えるだろう。
■中国内販アパレル企業への投資、M&A
中国内販アパレルへの投資と日本アパレル企業のノウハウ導入
中国アパレル企業は、パワーがあるがノウハウがない。また、中国企業経営者は日本人
以上に投資家としての要素が強い。これ以上、事業が発展しなければ、事業を他社に売却
し、別の部門に投資することは珍しくない。ある程度の規模までは発展したが、これ以上
の発展は難しいと考えている企業も少なくないのである。
慣れない中国市場で、一からスタートするよりも、既存の企業に投資し、パートナーと
して事業を進める方が成長は早いだろう。あるいは、有望なベンチャーアパレル企業やデ
ザイナー企業に投資し、日本のアパレル企業のノウハウにより、事業を育成することも可
能である。むしろ、こうした取組みは、中国のアパレル業界への貢献にもつながる。前述
したように、中国政府機関への協力も得やすいのである。
今後、成長が期待される中国デザイナーズブランドへの投資
中国アパレル業界は今後大きく発展するに違いない。日本の 70~80 年代のように、中国
人デザイナーズブランドがブームになる可能性もある。そうした将来性のある事業に投資
することで、中国ビジネスに参入するという選択肢もあるのではないだろうか。
アパレル企業のヒアリング調査でも、同様の意見が出ていた。
中国では投資ファンドがアパレル事業に投資することも珍しくない。しかし、日本の投
資ファンドはアパレルビジネスのノウハウがないために、投資に参加することは難しい。
むしろ、日本のアパレル企業が投資する側に回る方が成功の可能性は高いだろう。
企業売買という可能性を考えれば、中国での事業展開の可能性は広がる。何もかも自前
で参入するという選択肢だけでなく、投資、企業買収という選択肢も検討の余地はある。
- 95 -
2-6
具体的な政策・取り組みと期待される効果
2-6-1
テキスタイル産業高度化への支援と取り組み
○行政・公的機関の支援 ◆企業の取り組み
内 容
ブランド戦略
・「ジャパンクオリティ」の基準策定
・「ジャパンテキスタイル」の表示
・トレーサビリティの対応
・健康とテキスタイル研究とブランド化
・環境、エコ基準策定とブランド化
○「ジャパンクオリティ」の基準策定
○「ジャパンテキスタイル」の表示
○トレーサビリティの対応
○健康とテキスタイル研究とブランド化
○環境、エコ基準策定とブランド化
◆ジャパンクオリティへの積極的な取り組み
◆テキスタイルブランド戦略の推進
展示会・
イベント
海外市場開拓
・日本のトレンドカラー(流行色情報セ
ンタースと染工場との連携)
・日本のトレンド発信(ストリートトレ
ンド:雑誌、スタイリストとのタイ
アップ、新素材トレンド:合繊メー カー、紡績)
・展示会の目的を明確化:
・アパレルに対して新しい提案 (新
作限定の展示会)
・全国展、産地展、企業展の機能分担
・テーマ展(エコテキスタイル、健康
テキスタイル、グラフィックテキス
タイル等)
・展示会とWEBの連動(MD細分化に
対応)
・統一バーコードによるスワッチ管理
・編集型展示(アパレルニーズに対応)
○テキスタイル展示会の国際競争力アップ
○WEB展示会の基盤整備
○展示会の棲み分けの検討(全国展、産地展
等の整理)
○展示会とメディアの連携促進
○海外展示会出展マニュアル整備
○展示会運営体制強化と人材育成
・欧州、中国等の主要輸出先に日本テキ
スタイルビジネスセンター(ショールー
ム機能、営業代行機能)を設置
・素材提供による海外若手デザイナー支
援
・各国政府機関、業界団体との交流によ
る素材開発コラボレーション推進
○欧州、中国等の主要輸出先に日本テキスタ
イルビジネスセンター(ショールーム機能、
営業代行機能)を設置
○素材提供による海外若手デザイナー支援
○各国政府機関、業界団体との交流による素
材開発コラボレーション推進
◆展示会のトレンドカラー対応(染工場との
連携)
◆企画機能の充実(内部人材育成、外部人材
活用)
◆展示会と連動したICT活用(WEB、バー
コード)
◆オンリーワン技術の獲得、オンリーワン商
品の開発
◆海外のテキスタイルビジネスへの対応強化
◆海外交流等への積極的な参加
人材 育成・
ベンチャー育成
・権威があり、ビジネスにつながるテキ
スタイルデザイン・コンペティション
の創設
・産地マイスター(仮称)制度
・テキスタイル・ディレクター検定(仮
称)
・海外テキスタイルエージェント(仮称)
育成
・若手デザイナー、ファッション教育機
関等への素材提供支援
○産学連携によるコンペティションの創設
○産地マイスター(仮称)制度の創設
○テキスタイル・ディレクター検定(仮称)
○海外テキスタイルエージェント(仮称)
育成
○若手デザイナー、ファッション教育機関
等への素材提供支援の基盤整備
◆企画提案型メーカーへの脱皮
◆外部人材活用の推進
- 96 -
2-6-1-1
ジャパンテキスタイルのブランド戦略
ジャパンテキスタイル(メイド・イン・ジャパン、ジャパンクオリティ等)としてのブ
ランド戦略を構築し、実践する。各企業は、その基準を満たした独自のブランド戦略を構
築し、実践する。
■「ジャパンクオリティ」の基準策定
「日本製品は品質管理が行き届き、安心・安全」というイメージを客観的に証明し、訴
求するための基準を策定する。欧州では既に独自の基準があり、アメリカ、中国等もその
基準に追随する動きが出てきている。欧州に押しつけられた基準を遵守するという考え方
ではなく、厳しい基準を策定し、ジャパンクオリティを保証するという発想を持つことが
重要である。少なくとも欧州水準、できれば欧州より厳しい水準を策定し、認証する仕組
みを構築する。
現在の国際機関による認証は費用も高く、中小企業が対応するのは困難である。そこで、
基準は厳しいが取得費用を抑えた独自の認証を行い、欧州やアメリカ、中国等にもその有
効性を働きかける。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ ジャパンクオリティ基準策定支援
・ リーズナブルな費用で認証が可能な運営支援
・ 日本基準の世界各国への告知及び、欧州、アメリカ、中国等の市場でも有効にする
ための折衝
[各企業に期待される取り組み]
・ 日本基準策定の理解と推進の協力
・ 積極的な日本基準取得への取り組み
■「ジャパンテキスタイル」の表示
ジャパンクオリティの基準が策定され、その基準を満たすテキスタイルをアパレル最終
製品等に表示できるようにする。表示するか否かはアパレル企業が決めることになるが、
海外市場等での販売においては明確な差別化ツールとして機能することが期待される。
偽物防止策を講じた統一の織ネーム等を制作し、テキスタイル製品と共に販売する。既
に、欧州のテキスタイルでは同様の施策が行われているので、必要があれば、その実態調
査等も行う。
- 97 -
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 「ジャパンテキスタイル」織ネーム等の統一デザイン策定
・ 偽物防止の対応、管理の検討
・ 運用モデル策定
[各企業に期待される取り組み]
・ 「ジャパンテキスタイル」織ネームの積極的活用
■トレーサビリティの対応
現在、日本市場においては、アパレル製品に関するトレーサビリティを義務づける法令
は存在しない。しかし、欧州では安全基準や様々な規制が法令で定められ、その情報公開
が義務づけられている。日本も食料品については、厳しい情報公開が求められており、今
後はアパレル製品についても発癌性染料の使用等の情報公開が求められる可能性が高い。
前述したジャパンクオリティが策定された場合、最終製品にQRコードや特定のコード
を表示し、消費者が商品情報、SCM情報等を検索できるようにすることが求められる。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ トレーサビリティに関する基準及び運用基準等の策定
・ トレーサビリティを可能にする商品データベースの構築
・ 消費者に対するトレーサビリティの告知及び啓蒙
[各企業に期待される取り組み]
・ トレーサビリティへの積極的な取り組み
■「健康とテキスタイル」研究とブランド化
欧米では、肌に触れるテキスタイルの経皮毒の問題に関心が高まっている。社会的ステ
イタスを表現するために高額商品を購入していた消費者も、安心・安全を保証する商品に
シフトする傾向が強まっている。
イタリアのテキスタイル業界も「健康とテキスタイル」をテーマにした財団を組織化し、
健康に良いテキスタイル基準等の策定を開始している。これまでイタリア製品は優れたデ
ザイン性を訴求してきた。安心・安全のイメージは日本製品の方が強かったのだが、イタ
リアも社会的なトレンドに対応していると言えよう。
日本には繊維に関するハイテク加工技術があり、「健康に良いテキスタイル」というテー
マで開発が進めば、国際的なニーズに対応することが可能になり、海外との国際競争力に
も大きなメリットになるだろう。そのための研究とブランド化の準備を進め、できるだけ
- 98 -
早い時期に実践することが求められている。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 医療関連の研究機関と連携した「健康に良いテキスタイル研究」の推進
・ 「健康に良いテキスタイル」の基準策定と認証に関する検討及び決定
・ イタリア等、海外の同種プロジェクトの調査及び交流等
[各企業に期待される取り組み]
・ 「健康に良いテキスタイル」をテーマにした繊維技術、加工技術の開発
■環境、エコ基準策定とブランド化
既に、環境に優しい素材、エコ素材等については、消費者の関心も高く、各社の開発も
進んでいる。しかし、環境、エコという要素は非常に範囲が広く、その基準やブランド化
が十分に整備されているとはいえない。
そこで、前述した「健康に良いテキスタイル」同様、環境、エコについても研究及びブ
ランド化を推進することが、海外市場を含むマーケティングには有効である。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 合繊企業、紡績等の研究機関、大学等と連携した「環境、エコ対応テキスタイル研
究」の推進
・ 「環境、エコ対応テキスタイル」の基準策定と認証に関する検討及び決定
・ 海外の同種プロジェクトの調査及び交流等
[各企業に期待される取り組み]
・ 「環境、エコ対応テキスタイル」をテーマにした繊維技術、加工技術の開発
2-6-1-2
展示会・イベント
アンケート調査からは、展示会は「有効」との意見の方が若干多く、国内展より海外展
の方がより有効と見られている。
既に、日本のテキスタイル展示会としては、全国レベルの「JFWジャパンクリエーシ
ョン」があり、各産地展、グループ展示会、企業展示会等を行っている。しかし、どの展
示会も共通した出展者であり、出展商品にも大きな差はない。多くは出展者の都合で分類
されているだけで、ユーザーニーズに対応したものではない。
そのため、現在の展示会は、目的、ターゲット、シーズン等で分類されておらず、漠然
とした印象を与えている。たとえば、コレクションに参加するデザイナーを主な対象にし
- 99 -
た別注限定のクローズドな展示会、あるいは、基本的に在庫を構えて商売をしている現物
中心の展示会、エコ素材や機能素材等の明確なテーマを持った展示会等々に分類し、然る
べき時期に開催することはできないのだろうか。様々な事情があるために、容易に整理統
合がなされることはないかもしれないが、少なくとも各展示会の責任者による懇談会等を
設置し、それぞれの棲み分けを模索する価値はあるだろう。
一方で、アパレル企業の企画担当者の元には、コンバーターの営業担当者が通い、商談
をしている。多くのアパレルは展示会のサイクルに合わせて、生地を選択しており、コン
バーターはそういった展示会サイクルを熟知しており、アパレルの都合に合わせて、商品
を選択しているのである。もし、アパレル企業の展示会の時期や素材収集時期が情報公開
されていれば、スワッチの送付やWEBを活用したプレゼンテーションも可能になる。
また、インターネットによるテキスタイル販売も次第に増加しているが、こちらも展示
会との連携が取れていない。最近、海外の展示会等でも、展示会後にバイヤーにWEBの
URLを通知し、WEBから追加発注や企画変更等を確認することができるようになって
いる。展示会とWEBを組み合わせることで、更に利便性を高めることも可能である。
展示会やイベントは、情報発信、商談の二つの意味でとても重要である。しかし、分類
や目的が曖昧なままだと次第に展示会としての魅力が薄れてしまうだろう。
■日本のトレンドカラー(流行色情報センターと染工場との連携)
海外展示会に参加した出展者が苦労するのは、カラーである。日本のテキスタイル企業
の多くは、カラー設定はコンバーターやアパレルが行うべき領域であり、自分の仕事と考
えていない。しかし、同じサンプルでも色が良ければ手に取る確率は高いし、色が悪けれ
ば注目されることもない。
日本には、流行色情報センター(元、日本流行色協会)という機関があり、毎シーズン
トレンドカラーを発表している。しかし、アパレル、テキスタイル業界ではその機能を認
めておらず、同時に有効に活用しているとは言い難い。カラーの決定プロセスや選定カラ
ーに問題があるとすれば、その点を改善すべきであり、それにはまず積極的な活用を考え
るべきではないだろうか。
たとえば、流行色情報センター等が発表するトレンドカラーを全国の主要な染色加工場
に配布し、事前にデータを採っておく。展示会のサンプルはなるべく、そのカラーの中か
ら選択するというルールを決めておけば、異なる素材でもカラーコーディネートしやすく
なるし、ビーカーの確認も必要なくなる。いずれにせよ、最終的にはコンバーターやアパ
レルが色を決定するだろうが、展示会サンプルがある程度共通のカラーで展示されること
で、常に展示会のイメージも新鮮に見えるだろう。また、トレンドカラーの影響力も増す
はずである。
- 100 -
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 流行色情報センター等と全国の染色加工場の調整。
[各企業に期待される取り組み]
・ 展示会サンプルは、なるべくトレンドカラーをつけるように努力する。
■日本のトレンド発信
欧州のトレンド情報は、常に変化を続けながら、新たな欲求を誘発させるための仕掛け
であり、ある種の情報活用戦略である。ある程度の統一したトレンドを打ち出すことで、
常に新しいイメージを創造し、消費をリードしているのである。従って、トレンド情報を
発表しても、製造企業がその方向性を意識しなければ何の意味もない。
また、欧州展示会の来場者はトレンド情報に強い興味を持っている。出展商品よりもト
レンド情報をチェックするのが目的というバイヤーも少なくない。
欧州アパレル企業、欧州テキスタイル企業のモノ作りは、
「初めにテーマありき」でスタ
ートする。また、伝統的なテキスタイル企業は、特定の商品しか作らないケースも多く、
その場合には色の打ち出しが最大の差別化となる。アパレル企業も、基本的にはトレンド
変化よりも、ブランド間の差異の方が大きいので、極端に素材やシルエットを変えるので
はなく、テーマに沿った色やディテールで変化をつけることが多いのである。
一方で、日本の産地の製造企業は下請け的な体質が強く、市場をコントロールするとい
う積極的な姿勢は弱い。むしろ、市場動向に合わせてモノ作りをするという意識が強く、
積極的にトレンドを発信し市場をリードするという意識が乏しい。
欧州市場と日本市場には違いがあることから、テキスタイルトレンドの打ち出し方も欧
州の手法を当てはめるのではなく、日本市場に適した手法の活用を考える必要があると考
える。
たとえば、合繊企業、紡績、染色加工場等が新開発の素材を技術トレンド、開発トレン
ドとして展示する。各社が新素材の発表を共通の展示会で行えば、世界中から新素材に興
味のあるアパレル企業のバイヤーが集まるであろう。
あるいは、代表的なファッション雑誌とタイアップして、ファッション雑誌別のトレン
ドを打ち出す。たとえば、編集者やスタイリストのファッション予測などを含めても有効
と思われる。日本のストリートファッションには世界のトレンドセッターも注目しており、
日本のストリート情報を打ち出すことで、その展示会の情報価値も高まるかもしれない。
いずれにせよ、来場者が注目したくなるような情報発信が望まれており、それを日本独自
のトレンド(潮流)として展示することは効果的ではないだろうか。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ ファッション雑誌編集部等をまきこんだ日本独自のトレンド発信の検討
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・ 合繊企業、紡績、染色加工場等による新技術、新商品の同時発表の促進
[各企業に期待される取り組み]
・ トレンドに則した商品開発、展示演出
■展示会の目的を明確化
これまで展示会の目的は「商談」とされていたが、商談という言葉の持つ意味は幅広い。
欧米アパレルが年2回の企画サイクルを基本にしているのに対し、日本のアパレルの企画
サイクルは細分化している。そのため、年2回の展示会や商談会で集中して発注するとい
う商習慣はない。
日本のテキスタイル展示会の目的は、アパレル企業のバイヤーから見ると、以下の三つ
に大別される。
第一は、新規取引先とのマッチングである。アパレル企業は、常に新鮮なイメージを与
えてくれる新しいテキスタイル企業を探している。
第二は、テキスタイルの情報収集である。どんな素材が打ち出されているか。どんな素
材を見て新しいと感じるのか。どんな素材に人気が集まっているのか。商品企画のヒント
になるような素材はないか、等々である。
第三は、既に取引のあるテキスタイル企業とのコミュニケーションと、新しいテキスタ
イルの確認である。親しい担当者であれば、同業他社の動向や全体の傾向なども教えても
らえるだろう。
上記のどのケースも、展示会のための素材探しという意味では共通しており、ブースに
入り、サンプルを選び、スワッチ請求を行い、素材の生産、背景、納期等を確認すること
も共通している。しかし、欧米のテキスタイル展示会のように、その場でオーダーシート
を切ることはほとんどない。
「商談が目的」という言葉の中にはいくつもの意味が含まれている。商談の中身につい
て更に詳しく分析する必要があるだろう。
第一の新規テキスタイル企業とアパレル企業のマッチングであれば、過去のアーカイブ、
企業の設備や得意分野、企業紹介が重要になる。また、クローズドなブースよりも、オー
プンなブースが望ましい。ただ、これは常設の展示やWEB上の情報発信でも可能かもし
れない。少なくとも、年2回の展示会という限定された時間で行うべきことであるかは検
討の余地がある。
第二の情報収集に対応するには、新作に限定した展示会が望ましい。また、インデック
スコーナーやトレンドコーナーのように、分かりやすい分類が望ましい。毎年同じサンプ
ルを繰り返し展示すると、新しいモノが埋没してしまう恐れがある。
第三の既存の取引先との商談の場合は、クローズドな環境でじっくり話し合いをしたい
というニーズがある。この場合も、古いサンプルを展示する必要はない。バイヤーにとっ
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て、過去に見たサンプルは意味がないのである。
出展者には、別注主体、あるいは在庫を積んだオープンな販売など、それぞれの性格が
異なる。しかも、上記のニーズを、狭いブースの中で全て対応しようとするために、全体
に漠然とした印象を与えることになっている。
展示会そのものの国際競争力を高め、魅力あるものにするには、常に新しいテキスタイ
ル見本が出品されなくてはならない。日本のテキスタイル展示会がアパレル企業に対して
の新しい提案だとすれば、少なくとも「新作限定の展示会」というコンセプトが必要だろ
う。
全国展は、日本のテキスタイル業界の主要な人間が集まる場であるが、海外の展示会で
は、業界人が一堂に集まることを大変重視しており、展示会の場で主要企業の経営者が自
社の新たな戦略や新製品を発表する場となっている。また、展示会期間中は、公式・非公
式な朝食会、昼食会、夜のパーティー等が会場周辺で開催され、様々な意見交換と交流が
行われる。
大型展示会は、通常のビジネスでは競合相手である他社の経営者と共に業界全体の方向
性を確認し、協議する重要な場になっているのである。そして、国際的なコンベンション
センターには、ホテルやレストラン、パーティー会場が併設されていることが多い。
しかし、日本では比較的業界トップが顔を合わせる機会が多いこともあって、展示会は
商談だけを目的と考えられている。しかし、海外企業の出展等が増えれば、本来の人的交
流がより重要になるだろう。逆に言えば、業界のトップが集うような展示会でなければそ
の価値は低い。人的交流をお祭りとして排し、これまでの商慣習には見られなかった展示
会での集中的商談を目的としたことにより、日本の展示会はその存在意義を非常に曖昧な
ものにしてしまったのである。
今後、日本の全国展の運営では、商談だけでなく、本来の人的交流を重視したプログラ
ムが求められる。また、一方で国際的な参加者が増えれば、本来の集中的な商取引の場と
しての機能が要求される。国際的な商取引の場であれば、出展者の参加資格を問わなけれ
ばならない。どちらを選択するかが、その展示会の性格を決定する。曖昧なままの展示会
では、どちらの効果も現れないのである。
産地展は、次第に存在意義が問われるようになっている。かつて、日本の繊維産地は、
あたかも一つの企業のように産地内で機能が完結し、分業が進んでいた。産地毎に明確な
特徴を持ち、産地単位で行動することに意味があった。
しかし、現在の産地は生産量の減少と共に分業体制を維持できず、全ての工程を産地内
で完結することが困難になっている。そういう意味では、産地の展示会というよりは、産
地内のテキスタイルメーカーの展示会になっているのが現状である。それでも、特徴的な
産地は同業種の出展者が集まることで集積のメリットは残っている。
一方で、こうした産地の現状を踏まえ、異なる産地企業が連携し、新たなグループを結
成し、展示会を開催するケースも増えている。
今後は、更にテーマを絞ったテキスタイル展も期待されている。たとえば、環境に優し
- 103 -
いエコ対応のテキスタイル、健康に良いテキスタイル、グラフィックデザインを生かした
テキスタイル等である。こうしたテーマ展が普及しないのは、展示会運営のオーガナイザ
ーの問題が影響している。多くの産地展等は公的助成を受けており、その受け皿の多くは、
産地組合である。産地組合は地域単位の組織であり、全国的な活動が難しい。また、民間
が自主的に展示会を行うには、事業として成立しにくいのである。時代性にあった明確な
テーマを持つ展示会のオーガナイザーを公募し、そこに公的助成をつけることができれば、
更なるビジネスマッチングが発生し、テキスタイルビジネスの活性化も期待できる。
また、全国展、産地展に共通した課題としては、展示会運営や演出の人材不足が上げら
れる。組合等は製造企業の経営者によって構成され、展示会運営では素人である。そのた
め、展示会はマンネリ化に陥りやすく、演出や告知等が不十分なものが多い。こうした展
示会運営体制を強化し、専門の人材育成も考えなければならない。
全国展、産地展の他にも、各企業単位で展示会を開催するケースも多い。この場合は明
確に商談が目的であり、多くが国内取引を対象にしている。それでも展示会だけで商談が
完結する訳ではなく、展示会と訪問商談を併用しながら、密度の濃いサプライチェーンを
構築し、営業活動を行っているのである。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ テキスタイル展示会の国際競争力アップのための、運営体制強化と人材育成
・ 既存展示会の見直しと目的の明確化
・ テーマを絞った新しい展示会の企画と助成
・ 海外展示会出展マニュアル整備
[各企業に期待される取り組み]
・ 常に新しい商品を出展するための企画機能の充実(内部人材育成、外部人材活用等)
・ オンターワン技術の獲得、オンリーワン商品の開発
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■展示会とWEBの連動(MD細分化に対応)
展示会がリアルな出会いの場であり、フェイス to フェイスの場であれば、WEBは24
時間対応の連絡窓口の機能を有する。展示会後にバイヤーにURLを連絡すれば、バイヤ
ー専用WEBを通じて、仕様変更、追加発注等が可能になる。
アンケート調査によれば、
「ホームページを開設している企業の割合はテキスタイルに比
べアパレルの方が多い」
「外国語を併設している企業の割合は少なく、使用外国語はほとん
どが英語である」
「ネット販売により従来の取引先を飛ばしてその先のユーザーに売ってい
る企業は多くはないが存在する」「ネットで消費者直販している企業は、テキスタイルでは
12.8%だが、アパレルでは 26.3%と比較的多い」
「ネット販売による輸出を行っているテキ
スタイル企業はまだ少ない」等の結果が出ている。いずれからも、可能性はあるものの現
実的な対応が遅れている様子が読み取れる。
日本のアパレル企業は細分化したシーズンの展示会を中心に回っているために多頻度の
訪問営業が欠かせない。WEBを活用すれば、双方の時間の無駄を防ぐことができるだけ
でなく、アパレルの企画担当者も複数のテキスタイル企業の商品検索やリクエストが可能
になるなどのメリットが生じる。
展示会とWEBとの連動については、過去にも試みられたが、当時は回線やサーバー維
持のコストの問題、商品登録の手間が掛かることなどから普及を見なかった。
しかし、現在ではITインフラの整備が進み、クラウドコンピューティング普及が期待
されるなど、実現性が高まっている。テキスタイル・アパレル業界双方にとって、コスト
ダウンや互いの情報交換による企画力の向上などのメリットが期待できる。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 展示会を補完するWEBシステムの構築
・ WEB上の展示会のためのルール策定、共通仕様の整備
[各企業に期待される取り組み]
・ ICT活用のリテラシーの向上
・ 積極的なICT活用の促進
■統一バーコードによるスワッチ管理
アパレル企業、テキスタイル企業の双方にとって、テキスタイルのスワッチサンプルの
管理は負担が大きい。特に、各社各様の品番をつけているために、非常に管理しにくく、
システム化の妨げにもなっている。
仮に、全国規模の展示会のスワッチサンプル全てに共通のバーコードがついていれば、
共通のバーコードリーダで読み取りが可能になり、各社に連絡することができる。
- 105 -
たとえば、トレンドコーナー等でも気に入ったサンプルのバーコードを読み取れば、そ
のリストが作成できる。また、同一の素材をカラーでメンズ、レディスに分けた場合でも
一括で管理できる。アパレル側もバーコードを読み取ることで、記録やファイルを作るの
に便利になるだろう。
バーコードの中に、あらゆるデータを入れようとすると負担も重くなるが、会社コード、
事業部、シーズン、品番、色番程度のデータであれば、それほど難しくはない。詳細なデ
ータは各社のデータベースとリンクしておけば良いし、もちろん更に詳細なデータを入力
することも可能である。
また、テキスタイル企業が複数の外部クリエイティブディレクター等を起用した場合の
管理等にも有効である。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 共通バーコードの仕様検討及び決定
・ 共通データベースの整備
[各企業に期待される取り組み]
・ バーコード添付のための最低限のソフトとハードの購入と作業
・ スワッチをデータベース化することで可能になる戦略的な営業アプローチ
■編集型展示(アパレルニーズに対応)
テキスタイルコンバーターは、アパレル企業の展示会のタイミングに合わせ、各ブラン
ドとの適正を考えた上でアパレル側に提案している。テキスタイル産地は、主に原料別に
分類されており、アパレル企業はシーズンに合わせて、様々な産地の素材をコーディネー
トして使用する。
従って、テキスタイル企業がダイレクトにアパレル企業に販売しようとするならば、幅
広い糸を使い、それぞれのコーディネートを考えた提案が求められる。また、染色加工場
も、なるべく多くの素材を扱えるようにしておく必要がある。
しかし、そうした対応には時間が掛かる。経過措置として、アパレル側に立った提案は
できないだろうか。
たとえば、紳士、婦人、子供等のターゲット別にテキスタイルを分類し、更にジャケッ
ト・コート、ブラウス、パンツ等のアイテム別に編集して提案できれば、アパレル企業に
とっては選びやすいのではないか。
あるいは、前述したように、エコ素材だけ編集することも考えられるだろう。同じ生地
でも色使いにより、メンズ、レディスの双方に提案することも可能だろうし、アイテムも
重複するかもしれない。その場合は、一つの素材を複数の分類で提示するわけだが、前述
したバーコードの管理ができれば、それほど問題はないだろう。バーコードの活用により、
- 106 -
様々な編集で提案することが可能になるのである。
こうした提案方法は、コンバーターでは一般的に行われている。しかし、メーカーの展
示会ではアイテム別編集の提案はできなかったが、バーコード管理等の工夫によって可能
になるだろう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 多くの原料を使用したテキスタイル生産の指導
・ 染色加工場に対して多原料少量染色の啓蒙及び促進、支援
[各企業に期待される取り組み]
・ アイテムを想定したテキスタイル開発
・ 多くの原料を使用し、コーディネートを意識したテキスタイル開発
2-6-1-3
海外市場開拓
現在の日本アパレル市場はデフレ傾向が強く低価格商品へのニーズが高い。しかし、経
済成長著しい中国等のアジア諸国では新たに富裕層や中間層が誕生しており、日本製品へ
の需要も決して少なくない。
日本の展示会にも、中国やアジアのアパレル企業が買いつけに来ているし、中国等の展
示会に出展している製造企業からは「日本より価格が通る」という声も聞く。「潜在的需要
はありそうだが、十分な対応ができていない」のが現状である。
どこの海外市場も各々日本と商慣習が異なることを適切に認識し対象とする海外市場の
十分なマーケット調査や準備が欠かせない。また、業種業態、自らの事業領域等について
も、柔軟な対応が求められる。今後、戦略的なマーケティング活動を継続し、自らが国際
ビジネスに対応できるように変革することで、将来的には新たな発展が期待できるだろう。
海外市場進出は、現地エージェントと契約するか、現地に販売会社を独資あるいは合弁
で設立することがスムーズな事業展開を助けるものとなる。現地エージェントなしに、出
張ベースで展示会に出展してもビジネスにつなげるのは困難である。アパレル・テキスタ
イル間のビジネスは継続的かつ緊密な取り組みが必要であり、最近はますますクイックで
柔軟な対応が求められている。
また、各国政府は基本的に自国産業の保護を重視しており、海外企業を優先することは
ない。その中で、日本製のテキスタイルを購入してもらうためには相手国への貢献の姿勢
を強く示すことが必要である。
更に、日本の強みである技術力を生かすには、一方的な輸出だけでなく、技術ライセン
スや、相手国とのコラボレーションも視野に入れるべきだろう。それにより、現地社会、
現地の業界団体等とのコミュニケーションが可能になり、ビジネスに必要不可欠な現地で
の協力体制やビジネス情報が集まることにつながるのである。
- 107 -
■欧州、中国等の主要輸出先に日本テキスタイルビジネスセンター(仮称)を設置
本格的に現地エージェントと契約する以前に、自社の商品が現地市場に合うのかを調査
し、テストマーケティングする必要がある。あるいは、まず現地アパレル等のニーズを調
査した上で、輸出が可能である会社を探した方が成功する可能性は高い。
また、単独企業で進出するよりは、何社かの同業者が固まって進出した方が集積のメリ
ットもあり、バイヤーに選択肢を与えることにもなる。
そこで、「日本テキスタイルビジネスセンター(仮称)」の設置を提案したい。この機関
は、最新の見本を展示し、現地ニーズに対応した日本テキスタイルコレクションを作成す
る。そして、営業代行を行い、営業手数料を受け取るというビジネスモデルである。営業
手数料を受け取るからにはビジネスであり、何でも扱うわけではない。あくまで、審査の
上、現地のニーズにあった企業を対象に活動を行う。
逆に、この機関の担当者は日本国内の展示会等をリサーチし、海外市場に適した製造企
業を常に開拓する。できれば、海外拠点の担当者と日本の担当者が連携して、活動するの
が望ましい。
この活動は展示会を一歩進めたものである。展示会のように、出展料を支払えば出展で
きるというのでは、この機関の存在意義がなくなるだろう。
また、この機関で重要なのは、現地のアパレル事情に詳しい専門家と、日本のテキスタ
イルに詳しい専門家の連携である。担当者が素人ではビジネスにはつながらないだろう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 欧州、中国等の主要輸出先に日本テキスタイルビジネスセンター(ショールーム機
能、営業代行機能)を設置
・ 現地のファッション事情に詳しい現地採用のコーディネーターと、日本のテキスタ
イル事情に詳しい日本のコーディネーターの採用、契約、評価
[各企業に期待される取り組み]
・ 海外テキスタイルビジネスへの対応強化。市場調査、言葉の問題の解決等。
■素材提供による海外若手デザイナー支援
海外ビジネスは、まず海外への貢献から始まる。どの国も若手手ザイナーの育成は、ア
パレル業界の大きな課題である。そして、テキスタイルの良さを最も的確に判断できるの
はデザイナーである。
海外で日本がテキスタイル生産国であることを更にインプットするためにも、現地でデ
ザイナー育成という社会的事業に対して、テキスタイルの提供等という形で参画し、自国
- 108 -
産業を保護する政府機関ともコミュニケーションを取りながら、海外市場に浸透していく
ことが有効である。
また、素材を提供してもらった若手デザイナーは将来の重要な顧客にもなり得る。こう
した長期的な取り組みは、民間企業だけで実行するのは難しく、官民協力して展開するこ
とが望ましい。もっとも、これは日本国内でもすべき話しである。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 素材提供による海外若手デザイナー支援。相手国との折衝
[各企業に期待される取り組み]
・ 最新素材の提供。
・ 海外交流等への積極的な参加。
■各国政府機関、業界団体との交流による素材開発コラボレーション推進
テキスタイル産業の衰退は、先進国共通の悩みである。新興工業国との価格競争を余儀
なくされ、同時に、経済発展著しい新しい市場への参入という課題も抱えている。
たとえば、日本、イタリア両国にとって、生産国の最大のライバルは中国であり、進出
すべき最大の市場も中国である。また、日本とイタリアは、品質とデザインという別の要
素で、中国人消費者から高い評価を得ている。中国という共通の目標を持ったことで、日
本とイタリアは連携、協働の可能性が出てきたとも言えよう。
たとえば、日本のハイテク技術とイタリアの感性を融合したテキスタイルを開発し、中
国市場にアプローチする。あるいは、日本とイタリアが連携しながら、中国市場における
プロモーションやイベントを展開する。今回のイタリア調査において、こうした連携や協
働の可能性を強く感じることができた。
しかしこうした構想は、単独企業ではなしえない。官民一体となった取り組みが重要で
ある。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 各国政府機関、業界団体との交流による素材開発コラボレーションの推進
[各企業に期待される取り組み]
・ 海外のテキスタイルビジネスへの対応強化。
・ 海外交流等への積極的な参加。
2-6-1-4
人材育成・ベンチャー育成
- 109 -
テキスタイル産業としての発展を考えると、常に新規参入があり、新陳代謝を行ってい
ることが重要になる。しかし、現状を見る限り非常に難しいが、視点を変えれば、日本の
立地は非常に有利であると言える。世界の工場であり、世界の成長市場である中国を隣国
に持ち、国内にはテキスタイル産業としての技術やノウハウの蓄積のある産地を抱えてい
る。また、日本市場は世界にも類を見ないほど、成熟した市場である。また、デザイナー
を目指す日本の若者の能力は高く、基本的な教育も行き届いている。
製造業モデルでの起業は難しくても、企画、デザイン、流通、貿易等の分野でビジネス
を組み立てることは可能である。問題は、旧来の固定概念に囚われず、柔軟にビジネスを
発想することである。国内の既存製造業者にとっても、製造業の周辺で若者が起業するこ
とはプラス効果を生み出すだろう。
■権威があり、ビジネスにつながるテキスタイルデザイン・コンペティションの創設
日本にはデザイン系の大学や専門学校が数多く存在し、多くの学生は積極的にコンテス
トやコンペティションに応募している。学生にとってコンペティションは社会との接点で
あり、非常に重要な意味を持っている。
また、デジタルデザインの進展は、テキスタイル、グラフィック、イラストレーション
等の際を崩している。あらゆるデザイナーが、あらゆる分野の活動に挑戦できるのである。
しかし、残念ながらテキスタイルデザインの分野では、権威があり、ビジネスにつなが
るようなコンペティションが存在しない。
現在は、デジタルプリント技術も発展しており、製品化が容易になっている。単純なデ
ザインコンペティションではなく、デザイナーコラボのように製品化して販売することも
比較的容易である。
テキスタイル業界が、若者に夢を与えられるようなコンペティションを創設することで、
業界に優秀な人材を集め、業界の発展に寄与できると考えられる。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ コンペティションの創設、企画運営の委託等。
・ テキスタイル関連業界団体、主要テキスタイル関連企業への協力要請。
[各企業に期待される取り組み]
・ 冠スポンサーとしての協力。
・ 若い才能あるデザイナーの積極的な活用。
- 110 -
■産地マイスター(仮称)制度
日本の繊維産地に対する興味を持たせ、産地機能を活用したニュービジネスの起業を誘
発させるための資格認定制度の創設。できれば、インターンシップ制度と連動させて、産
地の歴史や特徴を教えると同時に、産地内企業で研修を行い、修了者には産地マイスター
の資格を授与する。
また、産地マイスターは、前述した「日本テキスタイルビジネスセンター(仮称)」との
連携しながら、輸出促進等の活動にも従事できるようにする。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 産地マイスター制度の整備(産地マイスターの基準作り。教育カリキュラム、教材
作成等)
・ 産学連携による産地インターンシップのコーディネート。
[各企業に期待される取り組み]
・ 産地マイスターのためのインターンシップ受け入れ。
・ 産地マイスターの積極的なビジネス活用。
■テキスタイル・ディレクター検定(仮称)
アパレルの商品企画を理解し、ブランドコンセプト、シーズンテーマ、顧客ターゲット、
価格帯等を考えながら、カラー設定、テキスタイルの選択とコーディネートができるテキ
スタイルの専門家を育成する。産地内には各工程、各分野の専門家はいるが、アパレル企
業との接点となる総合的な知識を有し、技術を理解する人材は少ない。
こうした人材の育成により、日本のテキスタイル企業はその技術やノウハウをビジネス
に生かすことができるようになるだろう。テキスタイル業界として、テキスタイル・ディ
レクターの人材育成に取り組むべきである。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ テキスタイル・ディレクター検定制度の整備(テキスタイル・ディレクターの職能
基準、教育カリキュラム、教材作成、検定試験の実施等)
・ デザイン系大学、専門学校等への普及啓蒙。
[各企業に期待される取り組み]
・ テキスタイル・ディレクター資格取得者の積極的活用。
・ 社員教育としてのテキスタイル・ディレクター資格取得。
- 111 -
■海外テキスタイルエージェント(仮称)育成
クールジャパンの影響からか、最近は海外で日本語、日本文化を学ぶ学生が増えている。
あるいは、日本から海外の大学や専門学校へ留学する若者も多い。
これまでの輸出振興はあくまでテキスタイルメーカー自身が輸出を行うという前提で行
われてきたが、発想を変えて、日本テキスタイルを海外で販売し起業する人材を育成する
のはどうだろうか。もちろん、容易に実践力となる人材が育ち、簡単にビジネスに直結す
るわけではないが、長期的視点による国際的産学連携事業として取り組むという発想であ
る。
日本語の知識を生かしながら、現地の消費者やアパレル企業の立場で、日本テキスタイ
ル製品の販売エージェントとしての資格を与えるという構想である。もちろん、具体的な
ビジネスの段階では、各企業が資格取得者の中から選抜してエージェントとして契約する
ことになる。
たとえば、資格取得者の中で成績優秀な者には、日本での研修を特典として与えるのも
良い。日本製品のファンを増やしながら、起業のチャンスを与え、日本製品のセールス担
当を長期的に増やすことは業界にとってもプラスになるだろう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 海外テキスタイルエージェント制度の整備(教育カリキュラム、資格認定等)
・ 日本語教育を行っている海外の大学への広報活動。
[各企業に期待される取り組み]
・ 教育カリキュラム作成等の積極的協力。
・ 研修の受け入れ等。
■若手デザイナー、ファッション教育機関等への素材提供支援
日本全国の産地では、毎年大量の残布を産業廃棄物として捨てている。この生地を活用
した人材育成及び海外へのプロモーションを行おうという構想である。
たとえば、各産地内の空き倉庫に、テキスタイルリユースセンター(仮称)を設置し、
廃棄する残布を集積し、種別に分類し、反物と着分に分け、デジタルアーカイブ化した上
で販売用に並べ、低廉な価格で販売する。ここまでの作業がボランティアベースでできれ
ば実現は可能である。あるいは、インターンシップの活用もある。ここで一定期間ボラン
ティア活動を行えば、報酬として生地が受け取れるということでも良いだろう。
近隣の教育機関、趣味サークル等に通知し、現地に実際に確認してもらってから、梱包、
配送となる。最終的には、圧縮してウェス等として海外輸出で処理する。
各産地のリユースセンターが整備されれば、それぞれがネットワークを組み、情報交換
や生地の交換等もできるようになるだろう。
- 112 -
全国の産地の残布を一度に処理することは困難だが、少しずつ処理を進めるということ
であれば実現性は高い。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ テキスタイルリユースセンターの整備(企画立案~計画、施設の確保、運営委託)
・ デザイン系大学、ファッション系専門学校等との連携
[各企業に期待される取り組み]
・ 生地データ入力、残布の提供等の協力体制。
- 113 -
2-6-2
アパレル産業高度化への支援と取り組み
内 容
○行政・公的機関の支援 ◆企業の取り組み
○海外における就職説明会、会社説明会等の共
同開催
○外国人向け社員研修
○貿易実務、外国語等の研修
○欧州以上の安全基準等の整備
○トレーサビリティ対応のためのデータベース
構築
○ジャパン文化輸出イベント
・百貨店、アパレル企業連携による顧客
管理、顧客サービスの展開
・店頭イベント展開、デザイナーコラボ
・限定品MD展開(店舗&WEB)
・富裕層インバウンド対応の高級品MD
展開
・健康、エコ対応の上質MD展開
・「売り逃し防止」から「プロパー消化
率向上」への転換
○百貨店・アパレル業界による「高級品市場
再構築フォーラム(仮称)」開催
○百貨店観光拠点化プロジェクト
○健康&エコ対応ブランド研究
SCMにおけるICT活用
・アパレル/小売店間のICT活用
・アパレル/テキスタイル間のICT活
用
・アパレル生産管理のICT活用
・顧客管理に連携した携帯マーケティン
グ
・店頭商品検索システムの構築
・デジタルサイネージによる店頭活性化
・海外ライセンスビジネスのICT活用
○異業種(食料品等)のICT事例研究とア
パレルへの応用実験
○WEB展示会の基盤整備(テキスタイルで
解説)
○店頭商品検索システムの研究、実証実験
○海外ライセンスビジネスのICT活用研究
ベンチャー育成
・新人デザイナーとのコラボレーション
推進
・インキュベーションオフィス&ショッ
プの整備
・営業代行機能つきのショールーム設置
○インキュベーションオフィス&ショップの整
備
○営業代行機能つきのショールーム設置
グローバル経営
・日本本社の国際化推進
・国際的に通用する採用、教育、評価、
報酬等の制度整備
・優秀な外国人人材の活用
・海外調達、貿易機能の取得
・グローバルなSCM構築
・世界で調達、生産し、世界で販売す
る体制つくり
・トレーサビリティの対応
・ジャパン文化の海外プロモーション
(ファッション、エンターテイメント、
ゲーム、アニメ等のトータルな文化輸
出)
高級品市場再構築
- 114 -
◆国際ビジネスに対応する採用、教育、評価、
報酬等の制度研究及び整備
◆外国人社員の採用、活用
◆貿易、海外生産管理等の機能取得
◆ジャパン文化輸出への積極的な対応
◆顧客担当創設(顧客管理、顧客サービス等)
◆店頭イベント展開、デザイナーコラボ
◆富裕層インバウンド対応高級品MD展開
◆健康、エコ対応ブランド開発
◆アパレル/小売店間のICT活用
◆アパレル生産管理のICT活用
◆顧客管理に連携した携帯マーケティング
◆デジタルサイネージによる店頭活性化
◆デザイナーコラボレーションの推進
2-6-2-1
グローバル経営の推進(日本国内からアジア地域へのビジネス拡大)
日本のアパレル企業は、日本市場に最適化することで成長を遂げた。日本市場は成熟し
ており、これ以上の成長の可能性は少ない。そこで中国等の海外市場に目を向けるアパレ
ル企業が増えているが、多くは日本国内の一都市への出店と同様に対応している例が多い。
しかし、海外市場参入とは、日本国内ビジネスからグローバルビジネスへの転換を意味
するものであり、担当部署のみならず、全社的に現地に対応する体制が不可欠である。
中国市場の問題では、「中国が特殊である」という意見も多いが、多くの問題は中国だけ
に限ったことではなく、どの国に参入する場合でも、程度の差はあっても、同様の課題が
発生する。従って、中国における様々な課題を解決できれば、他の国への参入も容易にな
るだろう。そういう意味でも、中国進出をグローバル市場進出の第一歩と捉えることもで
きるる。
中国市場等、海外市場に進出すると、日本国内では必要のなかった法務問題、雇用問題、
政府関係機関との交渉等々、解決しなければならない問題が非常に多い。また、それらの
問題が起きてから、現場で解決するのは困難である。予め調査を行い、海外ビジネスに対
応できるような社内体制を整備してから進出する必要がある。
上記の課題は、個々の会社が直面する問題だけでなく、アパレル業界全体に共通する課
題でもある。そこで業界が連携して、国際ビジネスへの対応に必要な措置を講ずることが
望まれる。
■日本本社の国際化推進
海外市場に進出するのであれば、独資、合弁に関わらず、外国人の人材を活用しなけれ
ばならない。むしろ、積極的に外国人を登用し、本社そのものが国際化する必要がある。
そして、日本人、外国人を対等に扱う雇用、社員教育、評価報酬制度を整備しなければな
らない。こうしたことは、グローバル企業では当然のことだが、国内ビジネスに最適化し
てきたアパレル業界にとっては未経験のことと言える。
また、国内市場を中心に考えるならば、国内での運営に人材を集中的に配置するために、
海外との交渉や貿易業務について、商社等にアウトソーシングすることが有効な手段であ
った。しかし、自らが国際ビジネスに参入するのであれは、海外市場においても国内市場
同様のオペレーションが必要となり、どんな機能を社内に持ち、どんな機能をアウトソー
シングするかを再検討しなければならない。海外アパレル企業の多くは、貿易部署を社内
に抱えている。これは商社を外すという意味ではなく、商社を活用するとしても、どんな
業務を商社に委託し、何を社内で担当するかという役割分担の問題である。少なくとも、
これまでのように海外業務は全て商社に委託というわけにはいかないだろう。人材、社内
組織を含めた全社的な再構築が必要である。
- 115 -
[行政・公的機関に期待する政策]
・ グローバル経営に関する研究会、セミナー等の開催(法務、貿易、採用、人権、環
境等)
・ 海外における就職説明会、会社説明会等の共同開催
・ 外国人向け社員研修
・ 貿易実務、外国語等の研修
[各企業に期待される取り組み]
・ 国際ビジネスに対応する採用、社員教育、評価、報酬等の制度研究及び整備
・ 外国人社員の採用、活用
・ 貿易、海外生産管理等の機能取得
■グローバルなSCM構築
既に、アパレル企業が展開する事業はグローバルに拡大しているにもかかわらず、自ら
の役割は従来のまま国内に限定しているケースが多い。しかし、最終商品の責任はアパレ
ル企業にあり、全てのサプライチェーンを把握する必要がある。もし、アパレル企業や商
社の知らない外注先で生産された素材を使用し、そこから禁止されている染料や薬剤が検
出されれば、最終的に損害を受けるのはアパレル企業である。こうした問題は食品業界で
既に起きている。
また、一部の欧米アパレル企業は、自社製品の縫製工場等に対して独自の認証を行って
いる。これにより、自社製品の縫製工場を把握し、サプライチェーンの責任を負っている
のである。生産管理を商社に委託することは悪くないが、商社の先の縫製工場や原料調達
先を把握していないことは問題である。
また、中国を含め物流網が整備されていない国も少なくない。今後は、生産コストだけ
でなく、検品、物流体制を含めたトータルなコストを管理する必要がある。
いずれにしても、現在のグローバルなSCMの中で自社のポジションと果たすべき役割
を再確認し、欠落している機能を補うことが求められている。
また、世界はSCMの情報公開に動きだしている。小売店が環境、人権、法令順守等を
保証されない商品は販売しないという動きは、欧州から始まり、アメリカ、中国でも本格
的な導入が予定されている。日本のアパレル業界も、その準備や対応が迫られている。日
本国内の法律が改正されなくても、中国の法律が変われば対応せざるをえなくなる。
規制や基準を守るとい受動的な姿勢ではなく、規制や基準を利用してより高い品質と信
頼を獲得する戦略を展開するという姿勢が必要である。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 日本独自の戦略的な基準、規制の検討及び策定
- 116 -
・ トレーサビリティ対応のためのデータベース構築
[各企業に期待される取り組み]
・ グローバルなSCMにおける自社のポジョンと機能の見直し及び再構築
・ トレーサビリティ対応の準備
■ジャパン文化の海外プロモーション
韓国の映画、テレビドラマ、エンターテイメント等の人気スターは日本でも中国でも「韓
流」と呼ばれ、高い人気を誇っている。その背景には、韓国文化観光体育部による積極的
なコンテンツ輸出推進がある。その影響力は大変大きく、中国市場では「韓流」のイメー
ジにリードされ、韓国ブランドも人気を集めている。また、中国国内では韓国調の髪形や
アクセサリーも流行している。
ファッションとは、独立しているものではなく、その背景にそれぞれの国の生活文化が
ある。日本に憧れて日本語を学習し、日本観光旅行に来る海外の若者は日本のアニメによ
り日本への興味を深めた。また、80 年代の中国は日本ブームだったが、それも当時のアイ
ドル、歌手の人気が高かったためであり、それが日本ファッション人気にも大きく影響し
ていた。
日本のファッションビジネスを海外に拡大するには、アパレル業界が単独で取り組むだ
けではなく、
「ファッション、エンターテイメント、ゲーム、アニメ等のトータルな文化輸
出」という発想が必要になる。そして、アパレル業界だけでなく、映画、テレビ、エンタ
ーテイメント、ゲーム、アニメ等の各業界との一層緊密な協力及び連携したプロモーショ
ンが必要になる。
既にフランスでは、フランスの会社 SEFA により、ジャパンエキスポ(Japan Expo)が開
かれている。ジャパンエキスポは、2000 年に日本のアニメ、マンガ、J-POP、ファッション
などを中心に取り上げるイベントとしてスタートし、その後、アニメやマンガ人気に牽引
され、その規模を拡大している。2009 年 7 月にパリ市郊外のノール ヴィルパント展示会場
で開催されたジャパンエキスポ(Japan Expo)の来場者数は 16 万 4000 人に達した。また、
このイベントには、経済産業省の JAPAN 国際コンテンツフェスティバル(コ・フェスタ)
や外務省、観光庁など日本の行政機関も参加している。
この種のイベントをアパレル業界が主要な進出先として考えている中国等でも行うこと
ができれば、非常に大きな日本ブランドのプロモーションとなるだろう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ ファッションを中心としたジャパン文化プロモーション企画
・ 中国側主催者との折衝(イベント開催権等)
- 117 -
[各企業に期待される取り組み]
・ ジャパン文化輸出への積極的な対応
2-6-2-2
高級品市場再構築
百貨店の低迷、ラグジュアリーブランドの失速、ファストファッションの台頭など、ア
パレル市場もデフレ傾向が強くなっている。しかし、日本のアパレル業界にとって、コス
ト競争の消耗戦を続けていたのでは国際競争力は獲得できない。相対的に高い経済成長を
続けるアジア地域の富裕層市場もふまえて、高級品市場獲得にあったビジネスモデルを構
築する必要がある。
百貨店は、これまで日本の高級品市場をリードしてきた。百貨店の活性化は、アパレル
業界においても重要な課題である。百貨店の衰退は、企業単位の問題だけではなく、国産
テキスタイルや国内縫製業含めた日本の高級品市場そのものの問題でもある。そこで、ア
パレル業界と百貨店業界が連携し、単価デフレの価格競争から脱却し、日本国内に健全な
高級品市場を再構築することを提案する。
■百貨店、アパレル企業連携による顧客管理、顧客サービスの展開
派遣販売員という制度が確立した 1960 代には顧客管理という発想はなかった。百貨店も
外商や法人需要の比率が高く、店頭販売をそれほど重視していなかった時期でもある。
しかし、その後、量販店にアンチテーゼを唱える形で、専門店アパレルと専門店業態が
確立し、ファッションの主役を担ったことは既に述べた通りである。単品売場からトータ
ルコーディネート売場へと変化した専門店では、これまでの補助的な販売員ではなく、コ
ーディネートを指導できるプロの販売員が必要となり、その流れはDCアパレルのハウス
マヌカン、109系のカリスマ販売員という形で継承されていった。
百貨店は特選売場やイージーオーダー売場を除いては、こうしたプロ販売員の育成に乗
り遅れてしまったと言える。
また、マネキン紹介所からの派遣販売員に店頭を依存しているために、ハウスカード発
行等による顧客管理の手段を持ちながらも、日常の販売活動に有効に活用できていない。
また、アパレル企業とも顧客情報を共有していないために、アパレル企業も顧客管理がで
きていない。つまり、百貨店もアパレル企業も顧客管理不在の状態が続いているのである。
現在の百貨店は、いかに顧客を店頭に呼び込むかが重要な課題であり、それには顧客管
理と顧客への情報サービスが欠かせない。また、顧客に情報を伝達するための媒体の整備
も必要である。
百貨店とアパレル企業が連携し、顧客に対してどのようなコミュニケーションを行うか
を業界として検討することを提案したい。その一案として、機会損失と過剰在庫、顧客管
- 118 -
理のあり方、来店促進等のテーマを検討し、日本の高級品市場を再構築するための「高級
品市場再構築フォーラム(仮称)」を提案したい。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 百貨店・アパレル業界による「高級品市場再構築フォーラム(仮称)
」開催
[各企業に期待される取り組み]
・ アパレル、百貨店共に顧客担当を創設する(顧客管理、顧客サービス等)
■店頭イベント展開、デザイナーコラボレーション
百貨店の集客を促進するためには、何らかのイベント性が必要である。そして、常に集
客できている店舗は、何らかのイベントを企画している。イベントと言っても、量販店や
大型専門店では、チラシ広告による安売りや食品の詰め放題等が主だが、百貨店はそのス
テイタスに相応しいイベントを実践することが求められる。
現在の百貨店がファッション商品の集積であることを考えれば、もっとファッションイ
ベントがあっても良いのではないだろうか。
たとえば、H&Mやユニクロで行っているデザイナーコラボを応用して、百貨店限定発
売のコラボレーション商品の販売はできないだろうか。但し、期間限定、アイテム限定で
ある。デザイナーの選択には、ベテラン、中堅、新人と様々な考え方ができるだろう。
デザイナーコラボレーションは、新人デザイナーの発掘の意味もあり、社会的にも意義
があるイベントと言える。現在のコンテスト等とリンクすることも可能である。
いずれにせよ、百貨店の店頭で常に魅力あるイベントが行われ、集客することを検討し
なければならない。
[各企業に期待される取り組み]
・ アパレル企業と百貨店が連携した店頭イベント展開
・ デザイナーコラボレーションの実施(コンテスト等との連携も視野に入れる)
■限定品MD展開(店舗&WEB)
デフレ、価格競争からの脱却には、需給バランスの調整が必要である。供給過剰の状態
が続く限り価格の低下傾向は改まらない。
量販店、大型専門店との差別化を徹底するならば、極論すれば、百貨店は限定商品だけ
を販売しても良いだろう。前述したイベント性を演出するにも限定品の方が相応しい。
また、限定品はインターネット販売にも適している。常に在庫数を表示することも可能
である。店頭とインターネット販売を連動させた限定商品の販売は非常に有効な手段と言
- 119 -
えよう。
店頭で期間限定の販売を行った後も、WEB販売が可能であり、もちろん、店頭と同時
にWEBで販売することもできる。また、限定商品の販売そのものがニュースになり、計
画的な企画と生産が可能であれば、雑誌媒体等とのタイアップもできる。
数量限定であれば、これまでは活用できなかった伝統工芸的な手法等も使えるし、大量
に販売することが予測できないために使用されなかった高級な素材を使うことも可能にな
るだろう。いつでも店頭に商品が並んでいる売場から、今日行かないと、見られない商品
を展開する売場へ転換することで、集客につなげるという試みである。
[各企業に期待される取り組み]
・ 様々な限定商品の開発と販売。
・ 百貨店と連携したプロモーションと集客。
■富裕層インバウンド対応の高級品MD展開
日本の百貨店は、富裕層の海外からの観光客という新しい顧客への対応を迫られている。
現在の中国人観光客は富裕層中心であり、団体で行動し、まとまった金額のお土産を購入
する。東京の銀座、青山は買い物の自由行動のエリアとなっており、多くの店は中国のデ
ビットカードの機能を持つ「銀聯カード」に対応している。
しかし、富裕層のお土産ニーズに対応した商品MDの開発、売場開設には到っていない。
今後は、中国人富裕層のニーズを調査し、アパレル企業と百貨店が連携して、新たな売場
を構築することが求められている。
これまでの百貨店は、海外店舗を含めて、日本人を主な顧客としていたが、今後は海外
進出も含めて外国人顧客にも対応しなければならない。その課題はアパレル業界にも共通
している。外国人顧客への対応という意味では、アパレル企業も百貨店も利害は対立して
いない。
たとえば、観光庁、地域の商店街等とも連携しながら、地域の観光拠点として百貨店を
見直すことも重要である。また、売場の構築には、百貨店とアパレル企業が連携して対応
しなければならない。
既に、新たな需要が存在しており、需要に対応した売場構築、商品開発ができれば十分
に売上増が期待できるだろう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 地域と連携した百貨店観光拠点化プロジェクトの推進
[各企業に期待される取り組み]
・ 富裕層インバウンド対応高級品MD展開
- 120 -
■健康、エコ対応の上質MD展開
国際的に環境問題への関心が高まっている。自動車はガソリン車からハイブリッドを経
て、電気自動車の時代を迎えようとしており、世界的規模で産業全体が環境革命の大きな
うねりの中に巻き込まれようとしている。
こうした時代の気分は、ファッションにも大きく影響する。アメリカのセレブがハイブ
リッド車に乗るようになったことと、ラグジュアリーブランドから、古着のリフォームを
扱うセレクトショップに人気が移ることとは無関係ではない。イタリアのファッション業
界でも、ラグジュアリーブランドの次の流れとして、健康、エコ対応への関心が高まって
いる。健康とエコ対応は、世界的なトレンドになろうとしている。
日本市場からもラグジュアリーブランドは撤退を始めており、百貨店のファサードを独
占していた欧米のラグジュアリーブランドの動向にも留意しなければならないだろう。
これまでも百貨店の顔は 10 年単位で変わっている。今こそ、百貨店はラグジュアリーブ
ランドの次の 10 年を考えるべき時であり、日本のアパレル業界にとっては百貨店のファサ
ード部分を奪回する絶好のチャンスとも言える。
高齢化が進む日本において健康は最も重要な課題となっており、テレビCMも健康と美
容関連のものがシェアを高めている。ブランドにはお金を使わない消費者も健康のために
は投資を惜しまない。
アパレル業界と百貨店業界が協力して、健康、エコ関連の上質な売場、ブランド、商品
を開発し、デフレから脱却する必要がある。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 健康&エコ対応ブランド研究(海外事例、医療機関との連携、素材研究等)
[各企業に期待される取り組み]
・ 健康、エコ対応の売場、ブランド、商品開発
③SCM(サプライチェーンマネジメント)におけるICT(情報通信技術)活用
繊維アパレル産業はコンピュータ、インターネットが整備される前に産業として成熟、
互いのビジネス連携についても伝統的なアナログ手法が定着している。そのため新しい産
業界と比較してもICTの遅れが目立っている。
また、多くの日本企業は終身雇用制度が主流であり、人材の移動が少なかったために、
各企業固有のビジネスルールが確立された。同じ職種、同じ業務でも、その進め方や手続
きは各社によって異なるのである。
また、アパレル製品は、他の業種の商品と比較しても、バーゲンによる値下げや価格変
更、プロパーとセール時の納入かけ率が異なるなど、一物一価ではない。更に、委託、返
- 121 -
品、歩積み、歩引きなど、複雑な取引形態が存在することもICT化を遅らせている要因
である。
大手企業は社内業務に関してはICT活用が進んでいるが、他社との取引についてはシ
ステム連携が進んでいない。
こうしたICT活用の遅れは、複雑な流通構造とも相まって、SCM全体の効率を阻害
している。社内だけではなく、他社との取引や情報のやりとりに関してもシテテム連携が
進むことが望まれる。
■アパレル/小売店間のICT活用
コンビニエンスストアは店頭売上がリアルタイムで本部に伝達されるため、売れ筋の分
析が可能であり、多頻度流通による自動補充も可能になっている。もし、売上管理システ
ムと情報ネットワークがなければ、店舗側は常に発注業務や棚卸し業務に追われるだろう。
また、本部も売上分析や品揃えの改善に膨大な時間を要するに違いない。しかし、仕入れ
先とのネットワーク化が進んでいない多くの小売店は、接客販売以外の商品管理業務に追
われているのが実態である。
たとえば、百貨店とアパレルの取引についても、リアルタイムの単品売上データが共有
できれば、店頭の在庫確認、店間移動の指示、商品補充の手配などの省力化が進み、同時
に顧客満足も高まるに違いない。
また、全ての納品、売上、在庫管理がシステム化できれば、商品データベースと連動し、
店頭在庫を検索することも可能になる。消費者が検索してから店頭に出かけるという購買
スタイルにも対応できるのである。
更に、納入掛率を変動制にすることにより、互いの利益配分を適正に維持することも可
能である。こうした数えきれないほどのメリットがありながら、システム化は遅々として
進まないのが現状である。
一方で、コンビニエンスストア、大型専門店、ファストファッション等は、本部と店頭
とのシステム連携が進んでおり、無駄のない生産・物流を実現している。このままではシ
ステム化できないサプライチェーン全体が淘汰されてしまうだろう。
アパレル/小売店間のシステム連携はサプライチェーン全体の入口であり、アパレルの
企画精度を上げる重要な起点である。最も迅速なシステム化が求められていると言えよう。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 異業種(食料品等)のICT事例研究とアパレルへの応用実験
[各企業に期待される取り組み]
・ アパレル/小売店間のICT活用
- 122 -
■アパレル/テキスタイル間のICT活用
アパレル/小売店間のICTがアパレルの計数管理の要であるとすれば、アパレル/テ
キスタイル間のICTは、商品企画、モノつくりの要である。アパレルの仕入れ担当者や
企画会社によるテキスタイル決定のための商談は、展示会に対応して多頻度に行われる。
しかも、発注を引きつけ、少しでもリスクを軽減したいという考えから、常に時間に追わ
れている。これを効率的に無駄をなくすには、アパレル/テキスタイル間のICT活用が
必要である。
また、今後は海外での素材調達も増える傾向にあり、ますます、緊密なコミュニケーシ
ョンが必要不可欠になることが予測される。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ WEB展示会の基盤整備(テキスタイルの章で解説)
[各企業に期待される取り組み]
・ アパレル/テキスタイル間のICT活用
■アパレル生産管理のICT活用
アパレル企業の中で、生産管理事務は非常に複雑かつ煩雑な業務である。複数の仕入れ
先の伝票を品番に分け、裁断枚数を確認しないと最終的な原価計算ができない。また、ア
パレル企業によっては、その原価を基幹業務システムに入力しなければならない。
多くのアパレル企業は、商社に生産管理業務を委託し、その煩雑な業務から解放された
が、今度は商社内で同様の事務作業が発生している。どこで行うにしても、煩雑な業務は
人件費を発生させ、それは商品原価に乗ることになる。サプライチェーン全体の無駄をな
くすためには避けることはできない。
生産管理、原価管理は、最もシステム化を進めるべき業務でありながら、最もシステム
化が遅れている業務とも言えよう。クラウドコンピューティングの研究も進みつつある現
在こそ、テキスタイル卸、付属卸、縫製工場をつなぐシステム化を実現する好機である。
[各企業に期待される取り組み]
・ アパレル生産管理システムの研究、構築(アパレル、テキスタイル、付属、縫製工
場を連携)
■顧客管理に連携した携帯マーケティング
ファーストフード店、コンビニ等を中心に携帯サイト、携帯メールを活用したマーケテ
- 123 -
ィング活動が進んでいる。携帯は個人対応のメディアであり、確実に情報伝達が可能であ
る。
アパレル製品はサイズ、体型、嗜好など、個人単位で管理するものであり、情報発信も
個人対応できるメディアが最も相応しいと言えよう。顧客管理、購買履歴等が取れる体制
が整えば、携帯と連携することで様々な個別のサービスや情報の提供が可能になる。
[各企業に期待される取り組み]
・ 携帯マーケティングの活用(顧客管理、購買履歴等との連動)
■店頭商品検索システムの構築
「アパレル/小売店間のICT活用」の章でも述べたように、納品、売上、在庫のデー
タがあれば、商品データベースと連携することで、店頭商品の検索が可能になる。
現在の百貨店は検索不可能であり、どんな商品が展開されているのか、実際に出掛けな
ければわからない。百貨店を訪れる習慣がなければ、店頭の商品は顧客の目に触れないま
まで終わってしまうのである。
今後はますますネット検索が重要になり、店頭商品が検索できることが大きな課題にな
る。また、商品だけでなくサービスや情報もデータベース化が可能であり、検索すること
が可能である。また、検索できるということは、インターネット販売も可能になることを
意味する。店舗とインターネットの双方で販売することで、様々な情報の付加やサービス
提供が可能になる。
[各企業に期待される取り組み]
・ 店頭商品検索システムの研究、実証実験
■デジタルサイネージによる店頭活性化
デジタルサイネージ(Digital Signage=電子看板)とは、モニターやプロジェクターに
より表示する広告媒体であり、インターネット回線の充実やハードウェアのコストダウン
により、個人商店でも使用できるレベルになっている。
ファッション商品の売場では、店頭にモニターを置き、ファッションショーのビデオを
流すことも多かったが、デジタルサイネージでは、カタログ画像を次々と表示したり、イ
ンターネット回線を使って全国の店頭に同時にファッションショーの動画を放映するなど、
様々な運用が可能である。また、タッチパネルモニターと組み合わせることで、発注や商
品情報の取得も可能である。
ファッションショーも閉鎖的な会場で行うのではなく、スタジオで撮影し、全国のショ
ップ店頭で公開し、店頭から発注することも可能になる。視覚的なファッション商品とデ
ジタルサイネージは非常に相性が良く、今後の発展が期待できる。
- 124 -
[各企業に期待される取り組み]
・ デジタルサイネージ活用研究及び店頭活性化
■海外ライセンスビジネスのICT活用
海外ビジネス、特に中国市場ビジネスの章では、現地エージェント、現地パートナー企
業、現地の代理商との連携について述べたが、課題となるのが現地の売上や在庫管理であ
る。こうした数字が正確に把握できないと、ライセンス料等の算出ができなくなる。
しかし、ICT活用により現地の実態を把握することが可能である。全ての商品と金銭
の管理をシステム経由で行うようにルールを決め、マニュアル化するのである。
むしろ、システムを構築することなしに、中国ビジネスを展開するのは非常に危険であ
る。また、各社が個別にシステム開発するよりも、数社で中国用のシステム開発すること
でコストダウンを図ることも可能である。
[各企業に期待される取り組み]
・ 海外ライセンスビジネスのICT活用研究
④ベンチャーアパレル育成
ファッションビジネスは変化を続けることに特徴がある。ファッション業界も常に新陳
代謝を促すような仕組みを持つべきである。次世代を担うベンチャーアパレルを育成する
ことは、業界全体に利益につながるのである。
そこで次世代のベンチャーアパレルを育成するためのいくつかの提案を以下に紹介する。
■新人デザイナーとのコラボレーション推進
これまでの新人デザイナー育成では、ファッションショー、展示会支援が主流だった。
しかし、ファッションショーも展示会も作品を発表する場ではあるが、受注や引き合いが
ない限り、発表するだけで終わってしまうことが多い。そこで、実際に作品を商品化し、
店頭で販売するというプロジェクトを提案したい。
まず、新人デザイナーの選択は、コンテスト形式、面接形式等いろいろを方法が考えら
れるが、重要なことは作品の審査ではなく、あくまでアパレル企業が商品化することを前
提にした審査を行うということである。そして、期間限定、アイテム限定、素材限定で商
品化し、店頭で販売する。
限定的な商品化ということで、企業側にはリスクを軽減し、デザイナーには具体的なビ
ジネスが体験できる。店舗は社会的イベントとしての集客効果が期待できる。
- 125 -
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 新人デザイナーのコラボレーション制度の確立(社会的に認知された制度にする)
[各企業に期待される取り組み]
・ 新人デザイナーとのコラボレーションの取り組みへの参画
■インキュベーションオフィス&ショップの整備
ショップ機能を持ったインキュベーションオフィスにより収益が期待できる。これまで
のインキュベーションオフィスは事務所スペースの貸与だけであり、収益を上げることは
難しかった問題を解消。
デザイナーメゾンの基本は、オフィスとショップであり、数人のデザイナーのオフィス
とセレクトショップの組み合わせの可能性もある。地方自治体との連携により、商店街の
空き店舗、撤退した大型店の一部、問屋街のオフィスビル等をリノベーションして活用す
ることも可能である。
[行政・公的機関に期待する政策]
・ インキュベーションオフィス&ショップの整備
■営業代行機能つきのショールーム設置
イタリアのミラノに見られる営業代行機能付きのショールームを整備することで、新人
デザイナー、ベンチャーアパレルを育成する。この施策のポイントは、マーケット寄りの
立場に立つコーディネーターがセレクトショップのようなコレクションを組み立てること
である。誰でも平等に参加の権利は有するとしても、特定の「個人の目」でフィルターを
掛けなければならない。日本の多くのケースは複数の委員による委員会を組織し、そこで
決定することが多いが、まとまりのあるコレクションを構成するには「チーム」ではなく
「個人」の判断が必要である。(委員会組織が認定した個人が定めるということでも良い)
そして売上がそのコーディネーター(個人)の評価であり、評価が低ければコーディネ
ーターを交代させる。コーディネーターの資質がプロジェクトの成功の鍵であり、コーデ
ィネーターが見つからなければ、施設だけを作っても機能しない。
施設の設置よりも、ショールーム(名称は要検討)のコーディネーターを公募し、必要
があれば一定の教育を行うことが必要だろう。
ショールームは世界中のバイヤーが集まる都市、世界的なアパレル展示会、コレクショ
ンが開催される都市に設置すべきである。アジアでは、東京、香港、上海、シンガポール
等、ヨーロッパならミラノ、パリ、アメリカはニューヨーク等が候補地となる。
- 126 -
[行政・公的機関に期待する政策]
・ 営業代行機能つきのショールーム設置
・ ショールームのコーディネーターの公募、育成講座、教育プログラムの策定等
- 127 -
3
繊維企業の市場開拓活動に関するアンケート調査結果
注1:質問文末尾の(択 1)は「1 項目のみを選択」、(択 2)(択 3)はそれぞれ「2 項
目まで選択」
「3 項目まで選択」、(択複)は「いくつでも選択」を意味する。
注2:回答割合(%)は、その質問に回答した企業の数を分母として算出した。したが
って、1 項目のみ選択の質問の場合、回答割合(%)の合計は 100 になる(四捨五
入の関係で正確に 100%にならないことはある)が、複数項目を選択する質問の場
合は、回答割合(%)の合計は 100 を越えることがある。
3-1
アンケート調査の概要
①目的:本調査分析事業(「繊維産業(川上・川中・川下各段階)におけるマーケティング
調査分析事業」)に必要な、テキスタイルおよびアパレル企業の実態および企業経営の考
え方など基礎的情報の収集を目的とした。
②種類:アンケートは、事業内容や実態に違いが大きいことを考慮し、テキスタイル企業
対象とアパレル企業対象の 2 種類を設計した(共通部分を多くするよう配慮)。
③方法:発送、回収とも郵送法によった。
④時期:2009 年 10 月 1 日(木)に発送し、10 月 23 日(金)を先方投函期限として回収
した。なお、遅れて到着した回答も時間の許す限り集計に取り入れた。
⑤依頼先:東レ経営研究所保有の繊維企業名簿をもとに、メーカーおよび卸商を対象に、
テキスタイルメーカー・卸商 714 社、アパレルメーカー・卸商 820 社に依頼した(うち、
281 社はテキスタイル、アパレル両方を取り扱っていると目されたため、両方のアンケー
ト票を送付)
。宛先不明による返送等があり、実質 666 社+768 社=合計 1434 社が対象。
⑥回収状況:テキスタイルについては 195 社、アパレルについては 154 社から有効な回答
あり(合計 349 社)。回収率はテキスタイル 29.3%、アパレル 20.1%、全体では 24.3%
であった。
テキスタイル企業
アパレル企業
合
計
依頼数 有効数 回収数 依頼数 有効数 回収数 依頼数 有効数 回収数
テキスタイル用のみ発送
433
406
134
アパレル用のみ発送
両方発送
合
計
回収率
433
406
134
539
508
118
539
508
118
281
260
61
281
260
36
562
520
97
714
666
195
820
768
154
1534
1434
349
29.3%
- 128 -
20.1%
24.3%
3-2
アンケート結果の要約
本項では、テキスタイルとアパレルの結果をなるべく対比させつつ、多かった回答を紹
介するで要約(白抜き部分)するとともに、各質問グループに見られる特徴的な事項を要
約紹介(網掛け部分)した。本項に続く第 3 項(「アンケート結果の詳細(テキスタイル)」)
と第 4 項(「アンケート調査の詳細(アパレル)」)では、回答結果をグラフ化し簡潔なコメ
ントを付した。
注:各記述末尾の(
)内はそれぞれのアンケートにおける質問番号を示す。
丸番号は回答の多い順位を示す。
%はその質問に回答した企業数を分母として算出している。
項目\アンケート区分
テキスタイル
アパレル
1.回答企業について
*「こだわりや特色」があるとする企業の割合はテキスタイルが多い。
*ここ 3 年ほどの経営状況(売上、利益)は厳しいが、アパレルよりもテキスタイルの方
がより厳しい。
1)企業のこだわりや特色
あり 71.7%
内容は、
あり 58.7%
内容は、
①技術面 35.4%
①企画・デザイン面 58.8%
②企画・デザイン面 31.3%
②技術面 38.8%
③製品面 24.5%(3-1)
③製品面 36.5%(3-1)
①売り切り 65.9%
①売り切り 73.0%
②賃加工 37.4%
②返品条件付き売買 48.2%
(4-2)
(4-4)
3)売上(最近 3 年間)
10%以上減 70.6%(4-3-1)
10%以上減 39.6%(4-5-1)
4)利益(最近 3 年間)
10%以上減 62.1%(4-3-2)
10%以上減 41.5%(4-5-2)
5)国内競合
非常に激しい 61.7%(4-4-1) 非常に激しい 66.9%(4-6-1)
6)国外競合
非常に激しい 55.2%
2)取引形態
非常に激しい 38.3%
(輸出なし 23.4%)(4-4-2) (輸出なし 60.5%)(4-6-2)
7)後継経営者
あり 66.9%(4-5)
あり 75.0%(4-7)
8)従業員過不足感
3 年後若干不足感(4-6-1,2) 3 年後若干不足感(4-8-1,2)
2.ブランドの状況について
*登録商標を持つ企業はテキスタイルでは少なく、アパレルでは多い。
*テキスタイル、アパレル共に保有商標数が少ない企業と多い企業に二極分化している。
*テキスタイル企業で商標を持たない理由は、①製品がテキスタイルで二次製品ではない
こと、②下請や委託生産であることなど。
1)登録商標
あり 31.8%(5-1)
2)登録商標ありの主要製品 ①高感性テキスタイル 45.5%
②高機能テキスタイル 30.9%
(5-2-1)
- 129 -
あり 75.2%(5-1)
項目\アンケート区分
3)登録商標をつける目的
テキスタイル
アパレル
①マーケティング上有利
82.1%(5-2-2)
4)保有商標数
多・少の二極分化傾向
多・少の二極分化傾向
(5-2-3)
(5-2)
あり 23.0%(5-3)
5)海外ブランドとのライセ
ンス契約
6)商標を持たない理由
①製品がテキスタイル 55.1%
②下請・委託生産 33.9%
(5-3-1)
3.輸出の状況について
*輸出がある企業の割合はテキスタイルが多く、アパレルは少ない。
*輸出先はテキスタイル、アパレル共に中国、欧州が多い。
*テキスタイルの輸出品は高感性の染上り品が多く、用途はミセス婦人服が多い。ブラン
ドを付けているケースは少ない。製品アパレルは一部ないし全量が日本に輸入されている
ケースがある。
*アパレルの輸出品はミセス婦人服が多い。
*輸出のきっかけは、テキスタイルはエージェント頼みの傾向が強く、アパレルは自力開
拓の傾向が強い。
*海外拠点所在地はテキスタイル、アパレルとも中国がもっとも多い。
*輸出がない企業の理由は取引条件不適合、輸出取引が出来る人材の不在など。今後輸出
努力したい企業は多いが、外部協力頼みの傾向が強い。
1)輸出の有無
あり 53.2%(6-1)
2)輸出形態
①国内エージェント経由 76.8% ① 直 接 現 地 小 売 り に 輸 出
3)輸出先地域
あり 14.7%(6-1)
(6-2-1)
60.0%(6-2-2)
①中国 57.4%
①欧州 52.4%
②欧州 51.1%
②中国 47.6%
③アジア 42.6%(6-2-2)
③④北米・アジア各 38.1%
(6-2-3)
4)輸出アイテム
5)テキスタイル輸出用途
①高感性染上り品 51.1%
①ミセス婦人服 57.1%
②普通染上り品 38.3%
②紳士服 38.1%
③高機能染上り品 25.5%
③ヤング婦人服 33.3%
(6-2-3)
(6-2-4)
①ミセス婦人服 73.1%
②ヤング婦人服 38.7%
③紳士服 32.3%(6-2-4)
6)輸出テキスタイル使用ア ①海外のみ 41.6%
パレルの販路
②一部日本へ 36.0%
④全量日本へ 9.0%
(6-2-5)
- 130 -
項目\アンケート区分
テキスタイル
アパレル
7)輸出テキスタイルのブラ あり 18.9%(6-2-6)
ンド表示
8)輸出のきっかけ
①国内エージェントがあっ ① 海 外 展 示 会 に 参 加 し た
38.1%
た 63.3%
②高感性テキスタイルが評 ②製品が評価された 33.3%
価された 25.5%
②先方から日本に買い付け
②海外展示会に参加した
に来た 33.3%(6-2-5)
25.5%(6-2-7)
9)輸出ブランドの形態
①国内と共通の自社ブラン
ド 71.4%
② 相 手 先 ブ ラ ン ド 23.8 %
(6-2-6)
10)現在の輸出傾向
11)輸出の目的
12)輸出のための情報源
僅かに減少傾向だが、企業に 変化なしだが、企業によって
よって区々(6-2-8)
区々(6-2-7)
①売上向上に貢献 76.0%
①売上向上に貢献 76.2%
②利益向上に貢献 46.9%
②利益向上に貢献 38.1%
③企業ステータス 18.8%
③企業ステータス 28.6%
(6-2-9)
(6-2-8)
①国内エージェント 66.0%
①海外出張 55.0%
②海外出張 43.3%
②現地エージェント 35.0%
③展示会 37.1%(6-2-10)
③展示会 35.0%(6-2-9)
13)輸出継続に重要と考える ①適品開発 59.4%
こと
②取引先情報交換 55.2%
①適品開発 52.4%
①市場情報入手 52.4%
③ 国 内 エ ー シ ゙ ェ ン ト 40.6 % ①取引先との情報交換
(6-2-11)
52.4%(6-2-10))
14)保有海外拠点
中国が最多(6-2-13)
中国が最多(6-2-11)
15)海外協力工場
中国が最多(6-2-14)
中国が最多(6-2-13)
16)輸出がない理由
①取引条件 32.9%
①人材不在 29.0%
②製品不向き 29.1%
②取引条件 24.3%
③人材不在 26.6%(6-3-1)
③国内エージェント不在 19.6%
③方法不明 19.6%(6-3-1)
17)輸出がない企業の海外出 あり 30.3%(6-3-2)
あり 12.6%(6-3-2)
展経験
18)輸出がない企業の今後の 積極的に努力 9.1%
輸出努力
外部協力あれば努力 53.2%
外部協力あれば努力 33.9%
(6-3-3)
(6-3-3)
19)輸出努力したい企業の注 ①欧州 65.2%
目地域
積極的に努力 9.2%
①中国 89.1%
①中国 65.2%
②アジア 43.5%
③北米 50.0%(6-3-4)
③欧州 34.8%(6-3-4)
- 131 -
項目\アンケート区分
テキスタイル
アパレル
4.輸出の問題点について
*テキスタイル、アパレル共に、①輸出体制作り、②輸出商品開発、③輸出条件が大きな
問題点。
*輸出体制については、テキスタイルでは「希望価格に合わせられない」
、アパレルでは「外
国語が出来る人材不在」が最大の問題点。
*輸出商品開発については、テキスタイルでは「価格不適合」、アパレルでは「好適デザイ
ン不明」が最大の問題点。
*輸出条件では、テキスタイル、アパレル共に「価格」が最大の問題点。
1)輸出の問題点
①輸出体制作り 29.6%
①輸出体制作り 26.3%
②輸出商品開発 23.1%
②輸出条件 17.5%
③輸出条件 22.5%
③輸出商品開発 14.0%
( 輸 出 努 力 な し 27.2 % ) ( 輸 出 努 力 な し 48.2 % )
(7-1)
(7-1)
2)展示会をうまく活用でき ①経費高 70.0%
ない理由
①好適展示会不明 75.0%
②好適展示会不明 36.7%
②商談方法不明 50.0%
③協力エージェント不在 23.3%
③協力エージェント不在 25.0%
③適材社員不在 23.3%(7-2) ③適材社員不在 25.0%(7-2)
3)商品開発の問題点
①価格不適合 68.4%
①好適デザイン不明 42.9%
②スペック不適合 28.9%
②コスト不適合 35.7%
③好適織編組織・デザイン不明 ③サイズ不明 28.6%(7-3)
26.3%(7-3)
4)輸出体制の問題点
①希望価格に合わせられな ①外国語が出来る人材不在
い 47.7%
44.4%
②客先との頻繁な情報交流 ②現地エージェント不在 25.9%
不能 34.1%
②輸出実務が分かる人材不
③輸出実務が分かる人材不 在 25.9%
在 25.0%(7-4)
5)輸出条件の問題点
①価格 81.1%
①価格 78.9%
②支払い条件 24.3%
②支払い条件 47.4%
③④ロット小さすぎ、納期各
③納期 15.8%(7-5)
18.9%(7-5)
5.輸出促進について
*展示会は「有効」との意見の方が若干多く、国内展より海外展の方がより有効と見られ
ている。
*輸出を先導するエージェントの必要性はテキスタイルの方がより強く感じているが、ア
パレルでも過半数が必要と感じている。エージェントは国内所在の方が現地よりも望まれ
ており、情報交換の頻度や言語問題が反映しているものと推察される。
*エージェントは営業活動を代行し、取引の中に入るべきと考える企業が多く、対価は輸
出実績に応じて支払うと考えている企業が多い。
*今後輸出に注力したいとする企業はテキスタイル、アパレルとも 70%前後と多い。
- 132 -
項目\アンケート区分
テキスタイル
アパレル
1)国内展示会と海外展示会 共に「有効」との意見が若干 共に「有効」との意見が若干
(日本主催)の輸出促進効果 多いが、海外展の方がより有 多いが、海外展の方がより有
効と見られている(8-1,2)
2)エージェント(商社)の 必要 81.9%(8-3)
効と見られている(8-1,2)
必要 60.5%(8-3)
必要性
3)エージェントの望ましい 国内 47.5%、現地 30.9%
国内 43.9%、現地 39.4%
所在地
(8-4-1)
(8-4-1)
4)エージェントの機能
①営業活動代行 75.0%
①営業活動代行 81.5%
②サンプル保有してユーザーに売 ②新規顧客開拓 55.4%
り込み 57.9%
③サンプル保有して顧客に売り
③新規ユーザー開拓 48.6%
込み 38.5%
(8-4-2)
(8-4-2)
5)エージェントは取引に入 入るべき 88.8%
入るべき 71.0%
るべきか
6)エージェントへの対価支 ①輸出実績に支払う 83.1%
払い
①輸出実績に支払う 91.8%
②努力に支払う 9.6%
②努力に支払う 1.6%
(8-4-4)
(8-4-4)
7)今後の輸出への注力予定 注力予定 73.2%(8-4-5)
注力予定 69.9%(8-4-5)
6.「メイド・イン・ジャパン」「地域ブランド」について
(テキスタイル企業にのみ質問)
*メイド・イン・ジャパンの表示が輸出に役立つかについて、88.6%の企業が役立つと考え
ている。これに対し、地域ブランドが役立つと考える企業は 57.5%と過半ではあるもの
の、メイド・イン・ジャパンほど多くはない。
1)メイド・イン・ジャパン 役立つ 88.6%(9-1)
の表示は輸出に役立つか
2)地域ブランドの表示は輸 役立つ 57.5%(9-2)
出に役立つか
7.情報化、ダイレクト販売について
*ホームページを開設している企業の割合はテキスタイルに比べアパレルの方が多い。
*外国語を併設している企業の割合は少なく、使用外国語はほとんどが英語である。
*ネット販売により従来の取引先を飛ばしてその先のユーザーに売っている企業は多くは
ないが存在する。
*ネットで消費者直販している企業は、テキスタイルでは 12.8%だが、アパレルでは 26.3%
と比較的多い。
*ネット販売による輸出を行っているテキスタイル企業はまだ少ない。
1)ホームページ開設状況
開設 52.3%
開設 72.4%
うち、外国語併設 11.7%(英 うち、外国語併設 13.0%(英
語、中国語)
(10-1,2)
2)ネット販売による中間段 している 7.3%
階飛ばし
する予定 21.5%(10-3)
- 133 -
語、中国語、韓国語)
(9-1,2)
している 11.6%
する予定 22.5%(9-3)
項目\アンケート区分
テキスタイル
3)ネット販売による消費者 している 12.8%
への直販
する予定 17.3%(10-4)
4)ネット販売による輸出
している 5.0%
アパレル
している 26.3%
する予定 28.6%(9-4)
する予定 14.5%(10-5)
5)ネットによる生産情報交 している 27.9%
する予定 16.8%(10-6)
換
8.製品の国際比較
*日本製テキスタイルの強味はこだわりと技術力と考えている企業はテキスタイル企業で
もアパレル企業でも多い。
*その具体的内容は、品質管理、物性の安定性、染色・整理など、「品質の良さ」に集中し
ており、色・柄など「感性要素」は評価されていない。
*逆に、イタリア製テキスタイルは、色・柄や流行、風合いなど「感性要素」が評価され
ていて対照的である。
*テキスタイルブランドの必要性はテキスタイル企業の過半が認めており、アパレル企業
も半数近くが認めている。
*アパレル製品へのテキスタイルブランドの表示は半数近くが現在実施していると回答し
ている(注:これは市場の実態から見て多すぎる数字であり、品質表示と誤認した企業
が多かったのではないかと推察される)。
1)日本製テキスタイルの強 そう思う 77.7%
そう思う 77.4%
味はこだわりと技術力か
(11-1)
(10-1)
2)こだわりの具体的内容
①品質管理 51.0%
①品質管理 59.4%
②物性の安定性 39.9%
②物性の安定性 58.5%
③染色・整理 37.8%(11-2) ③染色・整理 33.0%(10-2)
3)国産よりイタリア製テキ ①色・柄 74.7%
スタイルが優れている点
4)即納要求への対応状況
①色・柄 76.0%
②流行に敏感 51.1%
②流行に敏感 41.3%
③風合い 20.7%(11-4)
③風合い 14.0%(10-3)
①短納期生産体制 53.0%
②③生機在庫、提案力向上
各 27.1%(11-4)
5)テキスタイルビジネスへ 必要 58.7%、理由は
のブランドの必要性と理由
①マーケティング上有利 77.4%
②責任感向上 54.7%
③消費者直販に有利 20.8%
(11-5,6)
6)アパレルのデザイン開発
①社内デザイナー70.8%
担当者は誰か
②契約個人デザイナー 23.8%
③企画会社・デザイン会社
23.1%(10-4)
- 134 -
項目\アンケート区分
テキスタイル
アパレル
7)外国でのアパレルビジネ
①国内デザインをモディファイ
ス展開におけるデザイン開
63.4%
発はどうするのがよいか
②現地デザイナーを起用 33.0%
③国内デザインのまま 29.5%
(10-5)
8)日本アパレルの国際展開
①価格・品質のバランス 46.1%
に必要なことは何か
②安心・安全・環境配慮商品
42.2%
③ 高 品 質 テ キ ス タ イ ル 38.3 %
(10-6)
9)アパレル販売においてテ
重要 47.7%
キスタイルブランドは重要
(10-7)
か
10)アパレルへのテキスタイ
現在ある 45.5%
ルブランドの表示状況
過去あったが今はない
27.6%(10-8)
11)アパレルへのテキスタイ
①高品質を謳う 74.0%
ルブランド表示の目的
②高機能を謳う 56.3%
(10-9)
12)アパレルへのテキスタイ
①効果なし 53.6%
ルブランド非表示の理由
②テキスタイルにブランドなし
28.6%(10-10)
13)今後育成が必要な人材
①アパレル企画担当者とコミュニケー ①市場に精通したマーチャンダイ
ションできる営業マン 51.4%
ザー 61.5%
②独創的開発のできるテキスタイ ②売場や顧客を理解したデ
ルデザイナー 49.1%
ザインが出来るデザイナー 56.2%
③海外出張して売り込める ③戦略的な経営ができる経
営業人材 40.6%(11-7)
営スタッフ 50.0%(10-11)
9.自由記述
*テキスタイル企業では輸出への支援・補助策を求める意見が多いのに対し、アパレル企
業ではこれまでの輸出支援・補助策の見直しを求める意見が多い事が特徴的。
*輸出に対して悲観的な意見は少ない。
1)自由記述分類
①輸出への支援・補助希望 ①輸出アプローチや援助方
53.6%
法再検討論 58.3%
②輸出悲観論 17.9%
②輸出への支援・補助希望
③商品開発等への支援希望 25.0%
14.3%
③為替安定化希望 16.7%
- 135 -
3-3
アンケート結果の詳細(テキスタイル)
テキスタイル企業に対するアンケート結果をグラフ化し、簡潔なコメントを付けた。集
計結果(回答数・回答割合)は添付別表を参照願いたい。
質問 2 貴社の概要について伺います。
1)創(設)立年
46.2%
23.6%
11.8%
5.6%
19
90
年
19
91
年
以
降
以
前
以
前
19
60
年
19
30
年
19
00
年
以
前
以
前
3.6%
T 質問2-1)回答社数177
創(設)立年を 30 年きざみに見ると、
「1931~1960 年」に創(設)立された企業がもっ
とも多く、二番目に多いのは「1961~1990 年」である。これに対し、後述のアパレル企業
では、「1961~1990 年」に創(設)立された企業がもっとも多く、テキスタイル企業に比
べて新しい企業の割合が多くなっている。
2)資本金
43.1%
29.2%
11.3%
5.1%
3億
円
超
円
以
下
3億
円
以
下
1億
円
以
下
5千
万
1千
万
円
以
下
4.6%
T 質問2-2)回答社数182
もっとも割合が多いのは「1 千万円超 5 千万円以下」、次は「1 千万円以下」で、中小・
- 136 -
零細規模の企業が多いことが分かる。後述するアパレル企業では、「3 億円超」の割合も多
くなっており、中小・零細企業と大企業の二極分化の傾向が見てとれる。
3)従業員数
33.3%
30.3%
10.3%
12.3%
4.1%
30
0人
超
30
0人
以
下
10
0人
以
下
50
人
以
下
30
人
以
下
10
人
以
下
3.6%
T 質問2-3)回答社数183
「10 人以下」がもっとも多く、次が「30 人以下」と、中小・零細企業が多い。後述する
アパレル企業では、
「10 人以下」から「300 人超」まで幅広くばらついており、テキスタイ
ル企業に比べ中~大企業の割合が多い。
4)業種(択 1)
回答数
回答割合
繊維(原糸・原綿・紡績)製造業
11
5.6%
テキスタイル(織物)製造業
85
43.6%
テキスタイル(編物)製造業
26
13.3%
テキスタイル染色整理業
14
7.2%
テキスタイル(織編物)卸売業、コンバーター
26
13.3%
商社(総合、繊維)
19
9.7%
輸入専門商社
1
0.5%
テキスタイル企画会社
0
0.0%
その他
5
2.6%
無回答
8
4.1%
195
100.0%
計
製造業 136 社、卸売業 51 社、無回答 8 社という内訳であった。
質問 3 貴社の特色について伺います。
- 137 -
1)貴社には国内他社や外国企業にはないと思われる特色やこだわりがありますか。(択 1)
分からな
い
10.9%
ない
17.4%
ある
71.7%
T 質問3-1)回答社数184
国内他社や外国企業にはない特色やこだわりが「ある」と考えている企業は 71.7%で、
「な
い」と考えている企業の 4 倍以上に達している(アパレル企業では 58.7%)。
2)前問で「ある」と回答された方に伺います。それはどの分野における特色やこだわりで
すか。(択複)
技術面
35.4%
企画・デザイン面
31.3%
24.5%
製品面
設備面
17.7%
販売面
12.5%
人材面
経営面
7.8%
4.7%
T 質問3-2)回答社数192
特色、こだわりを持つ分野は、
「技術面」
「企画・デザイン面」
「製品面」がトップ 3 であ
り、後述のアパレル企業と比べると「技術面」と「企画・デザイン面」の順位が入れ替わ
っている。
なお、回答した企業は平均 1.6 項目について特色・こだわりをもっているという結果で、
アパレル企業の平均 1.3 項目よりも多くなっている。
- 138 -
質問4
貴社の経営状況について伺います。
1)貴社のテキスタイル事業の販売先(委託加工の場合は受託先)の業種について伺います。
(択複)
テキスタイル卸売業(コンバーター、生地問屋)
69.6%
アパレル製造卸業(SPA含む)
38.0%
テキスタイル(織物・編物)製造業
32.1%
アパレル縫製加工業(縫製工場)
26.1%
輸出
26.1%
紡績、合繊メーカー(繊維製造業)
21.7%
小売業(百貨店、量販店、専門店、アウトレット等)
14.7%
通販業者(カタログ、インターネット、テレビショッピング)
9.8%
テキスタイル染色整理業
9.2%
消費者
3.3%
その他
T 質問4-1)回答社数184
9.8%
回答企業にはテキスタイルの製造業と卸売業があるが、全体としてみるともっとも多い
販売先は「テキスタイル卸売業」であり、次は「アパレル製造卸売業」となっている。割
合は少ないが「小売業」や「通販業者」などもあり、消費者に近付く努力をしている企業
も見られることが判明した。「輸出」している企業は 26.1%である。
2)前問の取引先との取引形態について伺います。(択複)
売買取引(売り切り)
65.9%
委託加工取引(賃加工)
37.4%
委託加工取引(原料買い・製品売り)
28.0%
売買取引(返品条件付き)
T 質問4-2)回答社数182
その他
11.5%
1.1%
取引形態については、
「売買取引(売り切り)」がもっとも多く、次が「委託加工取引(賃
加工)」である。182 社が 262 件の回答をしたので、1 社あたり平均 1.4 の取引形態がある
ことになる。
- 139 -
3)貴社のテキスタイルの売上(または加工賃収入)と利益の動向について伺います。ここ
3 年程度の状況をお答え下さい。
3-1)売上(加工賃)(択 1)
70.6%
7.8%
2.2%
い
る
変
わ
っ
て
い
な
い
多
少
増
え
て
い
10
%
る
以
上
増
え
て
い
る
6.7%
少
減
っ
て
10
%
以
多
上
減
っ
て
い
る
12.8%
T 質問4-3-1)回答社数180
ここ 3 年間程度の売上の推移は「減少」したとする企業が 83.4%(うち、
「10%以上減少」
した企業は 70.6%)に上り、経営は厳しい状況にあることが判明した。しかし、こうした
中でも売上が「増加」した企業が 8.9%存在している。
3-2)利益(択 1)
62.1%
12.6%
6.0%
1.1%
変
わ
っ
て
い
な
い
多
少
増
え
て
10
い
%
る
以
上
増
え
て
い
る
て
い
る
多
少
減
っ
10
%
以
上
減
っ
て
い
る
18.1%
T 質問4-3-2)回答社数182
利益についても「減少」した企業は 80.2%(うち、「10%以上減少」した企業は 62.1%)
に上り、厳しい状況にあることが判明した。しかし、こうした中でも利益が「増加」した
企業が 7.1%存在している。
前問と合わせ、テキスタイル企業の経営は厳しい状況にあることが分かるが、その中で
も売上、利益を伸ばしている企業があることは、一縷の希望と言えよう。
- 140 -
4)貴社のテキスタイルの競合状況について伺います。
4-1)国内市場における競合(択 1)
61.7%
23.3%
1.1%
激
し
ど
い
ち
ら
と
も
言
え
な
い
あ
ま
り
激
し
く
な
い
全
く
激
し
く
な
い
5.0%
少
し
非
常
に
激
し
い
8.9%
T 質問4-4-1)回答社数180
国内市場における競合状況については、「厳しい」との意見が 85.0%と圧倒的である。
4-2)外国市場における競合(択 1)
42.3%
23.4%
15.4%
13.7%
1.1%
少
し
激
ど
し
ち
い
ら
と
も
言
え
な
あ
い
ま
り
激
し
く
な
い
全
く
激
し
く
な
い
輸
出
し
て
い
な
い
非
常
に
激
し
い
4.0%
T 質問4-4-2)回答社数175
外国市場における競合は、「輸出していない」企業を除外すれば、75.4%の企業が「厳し
い」と回答しており、「厳しくない」との回答 6.7%を大幅に上回っている。
- 141 -
5)後継経営者の状況について伺います。(択 1)
36.6%
30.3%
14.3%
13.7%
5.1%
その他
後継経営者は
不要(自分の
代で終わる)
まだ決まって
おらず、あて
もないが、欲
しい
まだ決まって
いないが、あ
てはある
既に決まって
いる
T 質問4-5)回答社数175
後継経営者については「すでに決まっている」企業は 36.6%と多くはないものの、
「あて
はある」を加えれば 66.9%と多くなっている。これに対し「自分の代で終わる」という悲
観的な見方をしている企業は 13.7%で、後出のアパレル企業における 6.8%と比べると倍以
上となっている。前問の企業経営状況の厳しさを反映した回答内容と言えよう。
6)従業員の状況について伺います。
6-1)現在の状況(択 1)
6-2)3 年後の予想状況(択 1)
48.3% 47.1%
現状
3年後
30.6%
18.6%
15.6%
21.5%
し
不
足
し
て
い
非
る
常
に
不
足
し
て
い
る
丁
度
よ
い
余
っ
て
い
る
4.1%
0.0%
少
少
し
非
常
に
余
っ
て
い
る
8.7%
5.6%
T 質問4-6-1&2)回答社数180&172
従業員の充足状況について、現在と 3 年後の予想を対比してみると、いづれも「丁度よ
い」がもっとも多い回答となっている。しかし、
「余っている」との回答が現状の 36.2%か
ら 3 年後では 27.3%に減るのに対し、「不足している」との回答は現状の 15.6%が 3 年後
では 25.6%に増加している。従業員の高齢化・引退が進む状況を反映したものと考えられ
る。
- 142 -
質問 5 ブランドの状況について伺います。
1)貴社ではテキスタイルに関して登録商標を持っていますか。(択 1)
持ってい
る
31.8%
持ってお
らず、将
来も持つ
つもりは
ない
48.0%
持ってい
ないが、
将来は持
ちたい
20.1%
T 質問5-1)
テキスタイルのブランド(登録商標)を「持っている」企業は 31.8%にとどまり、
「持つ
意志のない」企業の方が 48.0%と上回った。テキスタイルは生産財、原材料であることを
反映した結果と言えよう。しかし、
「将来は持ちたい」という、現在は持っていなくてもブ
ランドに関心がある企業も 20.1%あることが判明した。
2)登録商標を「持っている」企業に伺います。
2-1)登録商標を付けている主要な製品は何ですか。(択複)
高感性テキスタイル
45.5%
高機能テキスタイル
30.9%
普通品
その他
29.1%
12.7%
T 質問5-2-1)回答社数55
登録商標を付けているテキスタイルは「高感性テキスタイル」がもっとも多く、次が「高
機能テキスタイル」となっている。特色あるテキスタイルを具体的に際だたせる用具とし
て登録商標が使われている様子が窺える。
- 143 -
2-2)登録商標を付ける目的は何ですか。(択複)
82.1%
マーケティング上有利だから
30.4%
企業としての責任を示すため
12.5%
中国等海外で先に登録・使用されると困るから
3.6%
他社も付けているから
8.9%
その他
T 質問5-2-2)回答社数56
商標を付ける目的は、
「マーケティング上有利だから」とする回答がもっとも多く 82.1%
に達しており、「企業の責任を示す」という回答は比較的少なく 30.4%にとどまっている。
2-3)テキスタイル関連の登録商標数はどれほどですか。
29.6%
25.9%
14.8%
5
1 0超
4
11.1%
6~ 1 0
3.7%
3
2
1
3.7%
11.1%
T 質問5-2-3)回答社数54
登録商標数は「1~3」が 70.3%と圧倒的に多く、
「6 以上」は 22.2%と比較的少ない。後
述するアパレルでは「6 以上」が 37.1%あるのと対照的といえる。
3)登録商標を「持っていない」企業に伺います。
3-1)登録商標を持たない理由は何ですか。(択複)
55.1%
製品がテキスタイルで、アパレルではないから
下請や委託生産だから
33.9%
商標をアパレル製品に付けて貰えないから
24.6%
機能や感性などに特色のある製品ではないから
その他
9.3%
3.4%
T 質問5-3-1)回答社数118
登録商標を持たない理由としては、「製品がテキスタイル」すなわち原材料であること、
社業が「下請や委託生産」であり独自性を主張する立場にないことなどが多く上げられた。
- 144 -
質問 6 テキスタイル輸出の状況について伺います。
1)貴社はテキスタイルの輸出はありますか。(択 1)
ない
46.8%
ある
53.2%
T 質問6-1)回答社数188
テキスタイル輸出については過半の 53.2%の企業が「ある」と回答している。これは後
述のアパレル企業における「ある」の 14.7%と比較すると非常に大きな割合である。次項
の「エージェント経由でユーザーに輸出」の形態が延べ 102.1%に達していること、次々項
の輸出先地域で「中国」「アジア」が多いことなどを併せ考えると、「テキスタイル輸出・
製品輸入」のオペレーションが多いことが推測される。
2)テキスタイルの輸出が「ある」企業に伺います。
2-1)テキスタイル輸出の形態はどのようですか。(択複)
国内エージェント経由でユーザーに輸出
76.8%
33.7%
当社が直接ユーザーに輸出
現地エージェント経由でユーザーに輸出
25.3%
T 質問6-2-1)回答社数95
輸出形態でもっとも多いのは「国内エージェント経由で海外のユーザーに輸出」する形
態で、「現地エージェント経由」に比べ約 3 倍となっている。エージェントを通さず、「直
接ユーザーに輸出」している企業も 33.7%存在している。
- 145 -
2-2)テキスタイルの輸出先地域はどこですか。
(択複)
57.4%
中国
51.1%
欧州
42.6%
中国以外のアジア
38.3%
北米
18.1%
中近東
その他
3.2%
T 質問6-2-2)回答社数94
輸出先は「中国およびアジア」がもっとも多く、次いで欧州、北米の順となっている。
2-3)輸出テキスタイルのアイテムは何ですか。
(択複)
織編物染上り品(高感性品)
51.1%
織編物染上り品(普通品)
38.3%
25.5%
織編物染上り品(高機能品)
織編物生機(高感性品)
12.8%
織編物生機(高機能品)
9.6%
織編物生機(普通品)
9.6%
2.1%
その他
T 質問6-2-3)回答社数94
輸出アイテムとしては、「生機」は少なく、「染上り品」が多い。中でも「高感性品」が
多いという結果である。次いで多いのは「普通品」で、テキスタイル輸出・製品輸入のオ
ペレーションに対応しているものが多いと推測される。
2-4)輸出テキスタイルの用途は何ですか。(択複)
婦人服(ミセス向け)
73.1%
婦人服(ヤング向け)
38.7%
32.3%
紳士服
婦人服(下着、肌着)
子供服
ベビー服
その他
7.5%
3.2%
0.0%
17.2%
T 質問6-2-4)回答社数93
輸出テキスタイルの用途は圧倒的に婦人物が多く、ミセス向け、ヤング向け併せて延べ
111.8%に上っている。
- 146 -
2-5)貴社の輸出テキスタイルを使用したアパレルの販路がお分かりならお示し下さい。
(択 1)
41.6%
海外でのみ販売
一部は日本にも輸出
36.0%
12.4%
販路は不明
9.0%
すべて日本に輸出
その他
1.1%
T 質問6-2-5)回答社数89
輸出したテキスタイルを使用して生産されたアパレルの販路は、もっとも多いのが「日
本に持ち帰り(一部持ち帰り+全量持ち帰り)」で計 45.0%に達している。
「海外でのみ販売」
は若干少なく 41.6%となっている。
2-6)輸出テキスタイルのブランド表示はどのようですか。
(択 1)
社名、品
名、品番
等以外に
登録商標
(ブラン
ド)を表
示
18.9%
登録商標
(ブラン
ド)は表
示してい
ない
81.1%
T 質問6-2-6)回答社数90
輸出テキスタイルについてブランド表示を「している」企業は 18.9%と少数派である。
2-7)テキスタイル輸出のきっかけは何ですか。
(択複)
63.3%
国内エージェント(商社)があった
25.5%
高感性テキスタイルが評価された
25.5%
海外展示会に参加した
22.4%
先方から日本に買い付けに来た
19.4%
現地エージェントがあった
18.4%
高機能テキスタイルが評価された
輸出実務が分かる幹部・社員がいた
11.2%
国内展示会に参加した
11.2%
外国語ができる幹部・社員がいた
8.2%
海外出張して飛び込み営業をした
8.2%
その他
8.2%
T 質問6-2-7)回答社数98
- 147 -
テキスタイル輸出を開始したきっかけとして、圧倒的に多いのが「国内エージェント(商
社)があった」で 63.3%に上っている。「(海外、国内)展示会に参加した」も延べ 36.7%
と比較的多く、展示会参加の有効性が認められる結果となっている。
参加した海外・国内展示会で具体名の回答があったのは次の通りである。
※海外展示会名
プルミエールビジョン展
ジェトロ・ミラノ展
ジョイント尾州展
ジェトロ・パリ座談会
上海インターテキスタイル展
テキスタイルワールド
パリ個展
計
回答数
3
3
1
1
1
1
1
11
回答割合
27.3%
27.3%
9.1%
9.1%
9.1%
9.1%
9.1%
100.0%
回答数
5
1
6
回答割合
83.3%
16.7%
100.0%
※国内展示会名
ジャパンクリエーション展
ジョイント尾州展
計
2-8)テキスタイル輸出の現在の傾向はどうですか。(択 1)
23.7%
24.7%
23.7%
23.7%
大
き
く
拡
大
傾
向
に
若
あ
干
る
拡
大
傾
向
に
あ
あ
る
ま
り
変
わ
ら
若
な
干
い
縮
小
傾
向
大
に
き
あ
く
る
縮
小
傾
向
に
あ
る
4.1%
T 質問6-2-8)回答社数97
テキスタイル輸出の傾向は、グラフに見るとおり意見が大きくばらついており、総体的
に見れば「若干減少傾向」と読み取ることが出来よう。
- 148 -
2-9)テキスタイル輸出の目的は何ですか。(択複)
売上向上に貢献する
利益向上に貢献する
企業としてステータスになる
18.8%
代金回収が確実
その他
76.0%
46.9%
15.6%
5.2%
T 質問6-2-9)回答社数96
テキスタイル輸出の目的は、「売上貢献」が最大のものであり、次が「利益貢献」となっ
ている。これらは後述するアパレル輸出においても同じである。
2-10)貴社ではテキスタイル輸出のためにどのような情報収集をしていますか。
(択複)
国内の輸出エージェント(商社)から情報を得る
海外出張して得意先と情報交換する
展示会に出展して得意先その他の意見を聞く
37.1%
30.9%
現地の協力エージェントから情報を得る
ファッション雑誌等から情報を得る
10.3%
公的機関等から情報を得る
6.2%
情報提供専門機関から情報を買う
6.2%
T 質問6-2-10)回答社数97
66.0%
43.3%
その他
8.2%
テキスタイル輸出のために行っている情報収集活動として、もっとも多いのは「国内の
輸出エージェントから情報を得る」で、次は「海外出張して得意先と情報交換する」とな
っている。
「展示会での情報収集」も 37.1%とかなりの重要性を持っている。これらに対し。
「公的機関から情報を得る」は 6.2%と少ない。
2-11)貴社ではテキスタイル輸出継続のためには何が重要と考えていますか。(択 3)
適品の開発
59.4%
取引先(顧客・仕入先)との密接な情報交換
55.2%
優秀な国内エージェント(商社)との連携
40.6%
優秀な現地エージェントとの連携
37.5%
35.4%
ジャパン・クオリティーの打ち出し
コスト低減
30.2%
市場情報の適切な入手
24.0%
納期短縮(在庫保有も含む)
13.5%
小ロット化
トレーサビリティーの確立
T 質問6-2-11)回答社数96
その他
10.4%
0.0%
2.1%
- 149 -
テキスタイル輸出継続のために重要なこととしては、「適品の開発」「取引先との情報交
換」といった基本的な事項が重視されており、次いで「国内外のエージェントとの連携」
が重視されていることが判明した。
2-12)貴社は海外にテキスタイルの自社工場(100%出資)や合弁工場(一部出資)、支社・
駐在員事務所を持っていますか。(択複)
52.0%
あ
所
務
事
員
支
社
・
駐
在
自
合
社
弁
工
工
場
場
あ
あ
り
り
り
32.0%
28.0%
T 質問6-2-12)回答社数25
海外の事業拠点については、もっとも多かった回答は「支店・駐在員事務所」で、半数
以上が保有しているとの回答せある。次は「合弁工場」、第 3 位は「自社工場」である。
2-13)前問で「持っている」場合、地域別に何社くらいですか。(注:回答社数を集計)
自社工場、合弁工場、支社等(各択複)
9
自社工場
合弁工場
支社等
6
4
3
3
2
2
1
0 0 0
中
国
以
外
そ
の
他
0 0
米
国
欧
州
0
の
中
国
ア
ジ
ア
0
T 質問6-2-13)回答社数4,7,9
前問で「持っている」の場合の、地域別の拠点数を聞いた。回答数は少なかったが、自
社工場、合弁工場、支社とも「中国」が多いという結果である。この傾向は後述するアパ
- 150 -
レルでも同様となっている。
2-14)貴社は海外にテキスタイルの協力工場(資本関係なし)を持っていますか。(択 1)
持ってい
る
25.3%
持ってい
ない
74.7%
T 質問6-2-14)回答社数79
次に海外における資本関係のない協力工場の有無を聞いたところ、「持っている」のは
25.3%との結果であった。これは、後述するアパレルでは 66.7%と多かったのと対照的で
ある。
2-15)前問で「持っている」場合、地域別に何社くらいですか。(択複)(注:回答社数を
集計)
中国
16
中国以外のアジア
6
欧州
1
北米
1
T 質問6-2-15)回答社数17
協力工場の所在地は「中国」が圧倒的に多くなっている。
3)テキスタイルの輸出が「ない」企業に伺います。
3-1)テキスタイルを輸出していない理由は何ですか。(択複)
32.9%
取引条件(価格・ロット・納期等)が合わない
製品が輸出に向いていない
29.1%
26.6%
輸出商談できる人材がいない
協力してくれる国内エージェント(商社)がいない
20.3%
輸出ワークの方法が分からない
協力してくれる現地エージェントがいない
その他
T 質問6-3-1)回答社数79
- 151 -
13.9%
6.3%
21.5%
テキスタイルを輸出していない企業にその理由を聞いた結果、もっとも多かった回答は
「取引条件が合わない」で、これに「製品が輸出に向いていない」「輸出商談できる人材が
いない」などが続いている。
「(国内・外に)エージェントがいない」は延べ 26.6%である。
3-2)貴社は海外展示会に出展されたことはありますか。(択複)
69.7%
14.5%
18.4%
2.6%
海外展示会に出
展したことはな
い
自社の海外展示
会を開催したこ
とがある(共催
含む)
日本主催の海外
展示会に出展し
たことがある
外国主催の海外
展示会に出展し
たことがある
T 質問6-3-2)回答社数76
現在輸出していない企業の海外展示会への出展経験は、
「ある」が延べ 35.5%である。後
述するアパレルでは 12.6%なので、テキスタイル企業の方が輸出努力をしている企業の割
合が多いことになる。
3-3)貴社では今後、テキスタイルの輸出努力をする予定はありますか。(択 1)
努力する
予定はな
い
37.7%
積極的に
努力して
みたい
9.1%
T 質問6-3-3)回答社数77
適切な外
部の協力
があれば
努力して
みたい
53.2%
今後の輸出努力については、
「努力してみたい」との意見が計 62.3%と過半を占める結果
である。しかし、その多く(53.2%)は「外部の協力」を希望しており、必ずしも真剣な取
り組み姿勢とは言えない恨みがある。後述するアパレルでは「努力してみたい」は 43.1%
とテキスタイルよりもかなり少なく、テキスタイルと同様に外部協力への希望が多いとい
う結果である。
- 152 -
3-4)前問で「努力してみたい」に○を付けた方に伺います。今後の輸出先として注目する
地域はどこですか。(択複)
欧州
65.2%
中国
65.2%
50.0%
北米
19.6%
中国以外のアジア
13.0%
中近東
2.2%
その他
T 質問6-3-4)回答社数46
現在輸出のない企業が注目している地域は、
「欧州」
「中国」がもっとも多く、次いで「北
米」となっている。
質問 7 テキスタイル輸出の問題点について伺います。テキスタイル輸出がない方もできる
だけお答え下さい。
1)テキスタイル輸出における問題点は何ですか。(択複)
29.6%
23.1%
27.2%
22.5%
18.3%
14.8%
17.8%
2.
1.
展
示
会
の
輸
活
出
用
商
品
3.
の
開
輸
発
出
体
制
作
4
り
5.
.
輸
輸
出
出
条
エ
件
ー
ジ
ェ
6.
ン
ト
関
税
が
8.
高
輸
い
出
7.
努
そ
力
の
は
他
し
て
い
な
い
10.7%
T 質問7-1)回答社数169
テキスタイル輸出における問題点としては、
「輸出体制作り」がもっとも多く指摘されて
いる。次いで多いのは「輸出商品の開発」「輸出条件が合わない」などとなっている。
- 153 -
2)1)で「1」に○を付けた方に伺います。展示会をうまく活用できない理由は何ですか。
(択 2)
70.0%
展示会出展経費が高い
36.7%
どの展示会に出たらよいのか分からない
会場で協力してくれるエージェント(商社)がいない
23.3%
外国語ができるアテンダント(社員)がいない
23.3%
輸出商談の仕方やポイントが分からない
20.0%
準備期間が短い
その他
13.3%
0.0%
T 質問7-2)回答社数30
前問で「展示会の活用に問題がある」と回答した企業にその理由を聞いた結果、「出展経
費の高さ」が最大の問題として認識されていることが判明した。次いで多い回答は「どの
展示会に出たらよいのか分からない」である。出展経費は致し方ないとしても、どの展示
会に出るのが効果的かの判断や、出展のための準備や心構え、現場での商談のあり方など
は公的機関などでセミナー等の方法により指導することが可能であり(これまでも行われ
てきているが)、今後さらなる指導の充実が期待される。
3)1)で「2」に○印を付けた方に伺います。商品開発の問題は何ですか。(択 2)
68.4%
コストが先方希望価格と大幅に食い違う
28.9%
要求される生地幅などスペックに合わせられない
26.3%
輸出に適する織編組織・デザインが分からない
13.2%
輸出に適する色・柄が分からない
その他
7.9%
T 質問7-3)回答社数38
「輸出商品の開発に問題がある」を指摘した企業にその具体的な内容を聞いた結果、も
っとも多い指摘は「コストが先方希望価格と大幅に食い違う」となった。「織編組織、デザ
イン、色、柄などがあわない」という指摘も延べ 39.5%ある。輸出先国・地域の消費動向
や嗜好などについては、詳細な紹介は無理としても、概括的な傾向などに関しては公的機
関が指導する余地があるのではないかと考えられる。
- 154 -
4)1)で「3」に○印を付けた方に伺います。輸出体制にどのような問題がありましたか。
(択 2)
希望価格に合わせる体制がとれない
47.7%
34.1%
客先との頻繁な情報交流ができない
25.0%
輸出実務が分かる幹部・社員がいない
20.5%
外国語ができる幹部・社員がいない
希望数量を供給する体制がとれない
15.9%
希望納期に間に合わせる体制がとれない
15.9%
各種実務をしてくれるエージェントが国内にいない
各種実務をしてくれるエージェントが現地にいない
その他
11.4%
6.8%
2.3%
T 質問7-4)回答社数44
輸出体制に関する問題点としてもっとも大きかったものは「希望価格に合わせる体制が
とれない」の 47.7%、次は「客先との頻繁な情報交流ができない」の 34.1%となっている。
また、「人材」については輸出実務、外国語関連で延べ 45.5%の指摘があり、「エージェン
ト」に関しては国内、現地あわせて延べ 18.2%の指摘である(アパレルでは延べ 48.1%と、
テキスタイルよりも多い)。
5)1)で「4」に○印を付けた方に伺います。輸出条件でどのような問題がありましたか。
(択 2)
価格が合わない
81.1%
24.3%
支払い条件が合わない
ロットが合わない(要求が小さすぎる)
18.9%
納期が合わない
18.9%
ロットが合わない(要求が大きすぎる)
T 質問7-5)回答社数37
その他
8.1%
5.4%
輸出条件に関する問題点では、先述した輸出体制における問題点と同様、「価格が合わな
い」が最大の問題点として指摘されている。
- 155 -
質問 8 テキスタイルの輸出促進について伺います。テキスタイル輸出がない方もできるだ
けお答え下さい。
1)テキスタイルの輸出促進を主目的とする国内展示会についてどう見ていますか。(択 1)
2)テキスタイルの輸出促進を主目的とする日本主催の海外展示会についてどう見ています
か。(択 1)
45.1%
国内展示会
29.0%
27.4%
30.1%
日本主催の
海外展示会
24.4%
15.4%
8.6%
8.5%
8.0%
あ
え
ま
な
り
い
有
効
で
は
全
な
く
い
有
効
で
は
な
い
と
も
言
で
あ
る
ど
ち
ら
程
度
有
効
あ
る
お
お
い
に
有
効
で
あ
る
3.4%
T 質問8-1&2)回答社数176&175
国内展、海外展両方の回答を 1 つのグラフにしたのが上図である。国内展示会について
は「有効」との回答は計 38.6%、これに対し「有効ではない」との回答は計 32.4%で、有
効と考える企業の方が若干多いという結果になっている。
日本主催の海外展示会については、
「有効」との回答は計 53.1%、これに対し「有効では
ない」との回答は計 18.8%にすぎず、有効と考える企業の極めて多いという結果である。
3)テキスタイル輸出の実現、育成には、輸出に協力してくれるエージェント(商社)のよ
うな存在が必要と思いますか。(択 1)
43.8%
38.1%
12.5%
必
要
で
あ
る
お
お
い
に
2.8%
あ
る
程
度
必
要
で
あ
ど
る
ち
ら
と
も
言
え
な
い
あ
ま
り
必
要
は
な
い
全
く
必
要
は
な
い
2.8%
T 質問8-3)回答社数176
- 156 -
輸出エージェントの必要性については、「必要」との回答が 81.9%、「必要ではない」と
の回答は 5.6%で、「必要」との意見が圧倒的に多くなっている。
4)前問で「1、2 必要である」に○を付けた方に伺います。
4-1)エージェント(商社)は国内、現地どちらにあるのがよいと思いますか。(択 1)
どちらでも
よい
21.6%
日本国内に
あるのがよ
い
47.5%
現地にある
のがよい
30.9%
T 質問8-4-1)回答社数139
輸出エージェントがどこに所在するのがよいと考えるかについては、「日本国内」が
47.5%、
「現地」が 30.9%で、国内の方がよいとする意見が若干多くなっている。連絡や情
報交換の便を考えての意見と考えられる。
4-2)エージェント(商社)が持つべき機能は何ですか。(択複)
75.0%
具体的な営業活動を代行する
57.9%
各企業のサンプルを保有し、ユーザーに売り込む
新規ユーザーの開拓を行う
国内企業の出張アテンドをする
48.6%
20.0%
T 質問8-4-2)回答社数140
輸出エージェントが持つべき主要な機能を 4 項目示して聞いた結果、
「具体的な営業活動
の代行」が 75.0%と圧倒的に多く(アパレルでも 81.5%と第 1 位)、2 番目に多かったのは
「サンプルを持ってユーザーに売り込む」である。アパレル企業では「新規顧客の開拓」
が第 2 位に来ており、製品(テキスタイル、アパレル)の入れ替わりのスピードの違いが
反映しているものと推察される。
- 157 -
4-3)エージェント(商社)は取引の中に入る(契約当事者になる)べきと考えますか。
(択 1)
その他
1.5%
取引に入
るべきで
ない
9.7%
取引に入
るべき
88.8%
T 質問8-4-3)回答社数134
輸出エージェントが取引に入るべきかどうかについては、
「入るべき」が 88.8%と圧倒的
に多くなっている。「入るべきでない」という回答、すなわちエージェントがブローカーと
して手数料ベースで活動することは望まれておらず、売り込みから代金回収までエージェ
ントに頼りたいという希望が多いことになる。
4-4)エージェント(商社)の行うマーケティング活動に対し対価を支払いますか。(択 1)
輸出の可
否にかか
わらず、
努力に対
して支払
う
9.6%
支払わな
い
7.4%
輸出実績
に見合っ
て支払う
83.1%
T 質問8-4-4)回答社数136
輸出エージェントが行うマーケティング活動の対価は「輸出実績に見合って支払う」と
いう回答が 83.1%を占め、「輸出の可否にかかわらず努力に対して支払う」という回答は
9.6%にすぎない。この結果は、前問における「エージェントは取引の中にはいるべきでな
い」という回答に対応しているように考えられる。
- 158 -
5)貴社では今後輸出にどの程度注力していく予定ですか。
(択 1)
48.6%
24.6%
21.0%
3.6%
2.2%
輸出からは撤退
する予定である
ある程度力を抜
いてゆく予定で
ある
現状維持程度の
予定である
ある程度注力し
てゆく予定であ
る
おおいに注力し
ていく予定であ
る
T 質問8-5)回答社数138
今後の輸出への注力については、「注力する」が計 73.2%と多く、「力を抜く、あるいは
撤退する」は計 5.8%と少数派である。輸出に期待感を持っている企業の割合が大きいこと
が判明した。
質問 9 「メイド・イン・ジャパン」や「地域ブランド(産地ブランド等)」について伺い
ます。
1)テキスタイル輸出において「メイド・イン・ジャパン」の表示はメリットになると思い
ますか。(択 1)
48.9%
39.7%
1.6%
ッ
ト
に
ど
な
ち
る
ら
と
あ
も
ま
い
り
え
メ
な
リ
い
ッ
ト
に
全
な
く
ら
メ
な
リ
い
ッ
ト
に
な
ら
な
い
2.2%
る
程
度
メ
リ
あ
お
お
い
に
メ
リ
ッ
ト
に
な
る
7.6%
T 質問9-1)回答社数184
輸出においてメイド・イン・ジャパンの表示が「メリットになる」との回答は計 88.6%
に上り、「メリットにならない」との回答 3.8%にすぎない。メイド・イン・ジャパンの表
示がマーケティングツールの一つとして重視されていることが窺える。
- 159 -
2)テキスタイル輸出において「地域ブランド」の表示はメリットになると思いますか。
(択 1)
38.7%
27.1%
18.8%
10.5%
に
ど
な
ち
る
ら
と
あ
も
ま
い
り
え
メ
な
リ
い
ッ
ト
に
全
な
く
ら
メ
な
リ
い
ッ
ト
に
な
ら
な
い
メ
リ
ッ
ト
る
程
度
あ
お
お
い
に
メ
リ
ッ
ト
に
な
る
5.0%
T 質問9-2)回答社数181
地域ブランドについても聞いた結果、やはり「メリットになる」との回答が計 57.5%に
上り、これに対して「メリットにならない」との回答は 15.0%と少数にとどまっている。
メイド・イン・ジャパンほどではないにせよ、地域ブランドもマーケティングツールとし
ての価値があるものと期待されているようである。ただし、現状、繊維製品で地域ブラン
ド(地域団体商標)を取得しているのは和装関連が大半であり、輸出品目についてどのよ
うに地域ブランドを設定し、どのようにマーケティング活動に活用するかについては議論
も経験もほとんどないのが実情といえよう。
質問 10 貴社の情報化やダイレクト販売の状況について伺います。
1)貴社はインターネットのウエブサイト(ホームページ)を開設していますか。
(択 1)
開設して
いない
47.8%
外国語も
入れて開
設
11.7%
日本語だ
けで開設
40.6%
T 質問10-1)回答社数180
ウエブサイトの開設状況は「開設している」が 52.3%に対し「開設していない」は 47.8%
とほぼ拮抗している。
「外国語も入れて開設している」との回答は 11.7%と少数にとどまっ
ている。輸出を念頭におくとき、企業の概要や特色を説明する外国語ウエブサイトを持つ
- 160 -
ことは必須条件とも言え、さらに多くの企業が外国語サイトを持つことが期待される。
2)前問で「3」
(外国語も入れて開設)に○を付けた方に伺います。外国語は何ですか。
(択
複)
100.0%
英語
14.3%
中国語
その他
0.0%
韓国語
0.0%
T 質問10-2)回答社数21
使用している外国語は、各社とも英語であり、ごく少数の企業が中国語でもサイトを構
築している。その他の言語を用いている企業はなかった。
3)貴社はインターネットを利用して、従来の取引先の先にいるユーザー企業にテキスタイ
ルを直販していますか。
(択 1)
している
7.3%
今はして
おらず、
今後する
予定もな
い
71.2%
今はして
いない
が、今後
する予定
がある
21.5%
T 質問10-3)回答社数177
インターネットを利用して販路の短縮を行っているかを聞いた結果、「現在している」企
業は 7.3%と少数であるものの、「今後する予定がある」企業も加えれば計 28.8%の企業が
販路短縮に取り組んでいることが判明した。
- 161 -
4)貴社はインターネットを利用して消費者にテキスタイルを直販していますか。
(択 1)
している
12.8%
今はして
おらず、
今後する
予定もな
い
69.8%
今はして
いない
が、今後
する予定
がある
17.3%
T 質問10-4)回答社数179
消費者へのテキスタイルの直販(ネット販売)についても、
「現在している」企業は 12.8%、
「今後する予定がある」企業まで加えると 30.1%の企業が消費者へのネット販売に取り組
んでいることが判明した。しかし、この数字は後述するアパレル(54.9%)と比べればかな
り少ない数字である。
5)貴社はインターネットを利用してテキスタイルの輸出をしていますか。(択 1)
している
5.0%
今はして
いない
が、今後
する予定
がある
14.5%
今はして
おらず、
今後する
予定もな
い
80.4%
T 質問10-5)回答社数179
ネット利用のテキスタイル輸出については「現在している」企業は 5.0%と少数にとどま
っており、
「今後する予定」まで加えても 19.5%と、国内における販路短縮や消費者直販の
動きと比較すると少ない数字となっている。
- 162 -
6)貴社はインターネットを介して取引先と製造工程の情報をやり取りしていますか。
(択 1)
今はして
おらず、
今後する
予定もな
い
55.3%
している
27.9%
今はして
いない
が、今後
する予定
がある
16.8%
T 質問10-6)回答社数179
ネット利用による製造情報交換は「している」と「今後する予定がある」とをあわせる
と計 44.7%に上っている。
質問 11 テキスタイルの国際比較等について伺います。
1)外国製に比べて日本製テキスタイルの強味はこだわりと技術力と言われますが、貴社の
見解をお示し下さい。(択 1)
43.5%
34.2%
13.6%
2.2%
分
か
ら
な
い
1.6%
思
わ
な
い
わ
な
い
全
く
そ
う
え
な
い
あ
ま
り
そ
う
思
う
思
ら
と
も
言
ど
ち
ま
あ
そ
う
大
い
に
そ
う
思
う
4.9%
T 質問11-1)回答社数184
日本製テキスタイルの強味がこだわりと技術力とする意見に対して「そう思う」という
回答は計 77.7%に上り、「そう思わない」の 6.5%を大きく上回っている。後述するアパレ
ル企業対象のアンケートにおいても、日本製テキスタイルの強味がこだわりと技術力にあ
るという意見に 77.4%の企業が「そう思う」と回答しており、繊維業界全般にこの認識が
行き渡っていることが判明した。
- 163 -
2)前問で「1、2」に○印を付けた方に伺います。「こだわり」の具体的内容は何だと考え
ますか。(択 2)
品質管理
51.0%
39.9%
物性の安定性
染色・整理
37.8%
後加工
23.1%
原材料(糸)
23.1%
機織
色・柄
その他
12.6%
9.8%
7.0%
T 質問11-2)回答社数143
前問におけるこだわりの具体的内容については、「品質管理」「物性の安定性」「染色・整
理」等であるとする回答が多く、
「色・柄」といった感性的な面はあまり評価されていない。
後述するアパレル企業対象のアンケートでも、同様の回答傾向となっている。
3)国産テキスタイルに比べて、イタリア製テキスタイルが優れている点はありますか。
(択 2)
74.7%
色・柄が日本にはないものを持っている
51.1%
世界の流行に敏感なものづくりをしている
20.7%
風合いがよい
17.2%
日本の規格にはない糸を使っている
染色堅牢度など、物性がよい
0.6%
その他
5.2%
T 質問11-3)回答社数174
とかく比較の対象となるイタリア製テキスタイルの優れた点については、
「色・柄」や「流
行」など感性的な面を評価する回答が多く、「物性」について評価する回答はほとんど見ら
れない。日本製テキスタイルとは正反対の評価と言えよう。
この回答傾向はアパレル企業においても同様である。
- 164 -
4)即納が求められるビジネスが増えているようですが、貴社ではどのように対応しておら
れますか。(択複)
53.0%
短納期生産体制を取っている
生機在庫を持っている
27.1%
27.1%
流行傾向を調べ、アパレルへの提案力を高めている
22.1%
染め上がり在庫を持っている
従来通りのビジネスを行っている
17.1%
10.5%
アパレルの企画チームとして参加している
その他
1.1%
T 質問11-4)回答社数181
即納ビジネスへの対応方法としては、「短納期生産体制」がもっとも多い回答となってい
るが、「生機在庫保有」や「流行の先取りと提案」なども比較的多い回答である。「アパレ
ルの企画チームとして参加」という企画段階からの SCM を実現しているケースも少数なが
ら存在している。
5)貴社はテキスタイルビジネスにブランドが必要とお考えですか。(択 1)
32.1%
32.6%
26.6%
8.2%
で
あ
ど
る
ち
ら
と
も
い
え
あ
な
ま
い
り
必
要
で
は
な
全
い
く
必
要
で
は
な
い
ま
あ
必
要
お
お
い
に
必
要
で
あ
る
0.5%
T 質問11-5)回答社数184
テキスタイルビジネスにおけるブランドの必要性については「必要」とする回答が計
58.7%と過半を占め、「必要ではない」との回答は 8.7%と少数派にとどまっている。これ
を質問 5-1)の登録商標保有の有無と比較すると、登録商標を「持っている」31.8%、「今
後持ちたい」20.1%、計 51.9%とほぼ対応する。
- 165 -
6)前問で「1、2」に○を付けた方に伺います。必要と考える理由は何ですか。(択複)
77.4%
信用が増し、マーケティング上有利
54.7%
自社の責任感が高まる
20.8%
消費者への直販に有利
海外での商談に必要
15.1%
業界慣行で伝統的に付けている
その他
7.5%
1.9%
T 質問11-6)回答社数106
ブランドが必要と考える理由は、「マーケティング上有利」「自社の責任感が高まる」な
どが多い回答となっている。
7)今後のテキスタイルビジネスにおいて必要とされる人材はどのような人材ですか。
(択複)
アパレル企画担当者とコミュニケーションが取れる営業マン
51.4%
49.1%
独創的な開発の出来るテキスタイルデザイナー
40.6%
海外出張して売り込みができる営業人材
アパレルMDを理解した企画開発担当者
40.0%
戦略的な経営ができる経営スタッフ
その他
38.3%
2.9%
T 質問11-7)回答社数175
今後のテキスタイルビジネスで必要とされる人材は、営業マン、デザイナー、企画開発
担当、経営スタッフなど幅広く多岐に亘ることが判明した。
質問 12 輸出を中心とする市場開拓活動に関し、国や中小企業基盤整備機構に対してご要
望等ありましたらお書き下さい。
53.6%
輸出への支援・補助希望
輸出悲観論
17.9%
14.3%
商品開発等への支援希望
10.7%
税制等が厳しい国への緩和・撤廃要請
10.7%
為替安定化希望
輸出アプローチや援助方法再検討論
3.6%
10.7%
その他
T 質問12 回答社数28
28 社が書き込みをした内容を分類すると、輸出への支援・補助の希望がもっとも多くな
っている。
- 166 -
3-4
アンケート結果の詳細(アパレル)
アパレル企業に対するアンケート結果をグラフ化し、簡潔なコメントを付けた。集計結
果(回答数・回答割合)は添付別表を参照願いたい。
質問 2 貴社の概要について伺います。
1)創(設)立年
39.0%
31.2%
9.1%
19
91
年
以
降
19
00
年
以
前
19
90
年
以
前
19
60
年
以
前
5.2%
19
30
年
以
前
5.8%
A 質問2-1)回答社数139
創(設)立年を 30 年きざみに見ると、
「1961~1990 年」に創(設)立された企業がもっ
とも多く、二番目に多いのは「1931~1960 年」である。テキスタイル企業に比べ歴史の新
しい企業が多いことが判明した。
2)資本金
27.3%
29.2%
17.5%
13.0%
3億
円
超
3億
円
以
下
1億
円
以
下
5千
万
円
以
下
1千
万
円
以
下
7.8%
A 質問2-2)回答社数146
もっとも割合が多いのは「1 千万円超 5 千万円以下」、次は「1 千万円以下」で、比較的
小規模企業が多い。しかし、テキスタイルと違い「3 億円超」の企業の割合も多くなってお
り、中小・零細企業と大企業の二極分化の傾向が見てとれる。
- 167 -
3)従業員数
19.5%
18.2%
16.9%
13.6%
13.0%
30
0人
超
30
0人
以
下
10
0人
以
下
50
人
以
下
30
人
以
下
10
人
以
下
11.0%
A 質問2-3)回答社数142
「10 人以下」から「300 人超」まで幅広くばらついており、テキスタイル企業に比べ中
~大企業の割合が多い。
4)業種(択 1)
回答数
アパレル縫製加工業(布帛、カットソー)
回答割合
30
19.5%
1
0.6%
アパレル製造卸
78
50.6%
アパレル製造小売業(SPA)
10
6.5%
アパレル企画+OEM生産
7
4.5%
アパレル製品輸入卸
3
1.9%
13
8.4%
アパレル製造通信販売
0
0.0%
その他
4
2.6%
無回答
8
5.2%
154
100.0%
ニッター(ニット製品製造業)
商社
計
製造および製造卸業 126 社、卸売業 20 社、無回答 8 社という内訳であった。
- 168 -
質問 3 貴社の特色について伺います。
1)貴社には国内他社や外国企業にはないと思われる特色やこだわりがありますか。(択 1)
分からな
い
14.0%
ない
27.3%
ある
58.7%
A 質問3-1)回答社数143
国内他社や外国企業にはない特色やこだわりが「ある」と考えている企業は 58.7%と、
「な
い」企業の 2.2 倍にのぼっている。しかし、テキスタイル企業に比べると「ある」企業の割
合はかなり少なくなっている。
2)前問で「ある」と回答された方に伺います。それはどの分野における特色やこだわりで
すか。(択複)
企画・デザイン面
58.8%
技術面
38.8%
製品面
36.5%
販売面
設備面
経営面
人材面
23.5%
14.1%
11.8%
10.6%
A 質問3-2)回答社数85
特色、こだわりを持つ分野は、
「企画・デザイン面」、
「技術面」、
「製品面」がトップ 3 で
あり、テキスタイルと比べ「企画・デザイン面」と「技術面」の順位が入れ替わっている。
なお、回答した企業は平均 1.3 項目について特色・こだわりをもっているという結果であ
る。
- 169 -
質問4
貴社の経営状況について伺います。
1)貴社のアパレルの生産(または仕入)状況について伺います。(択複)
テキスタイルを生地問屋、コンバーター、商社などから仕入
れて製品化
62.9%
テキスタイルを織編物製造企業から仕入れて製品化
35.0%
商社から製品(アパレル)を仕入れ
32.2%
テキスタイルの支給を受けて縫製加工
30.1%
OEMアパレルから製品(アパレル)を仕入れ
企画会社から製品(アパレル)を仕入れ
17.5%
7.0%
その他
16.1%
A 質問4-1)回答社数143
回答企業には下請生産している縫製メーカー、自主的に商品企画し自主生産しているア
パレルメーカー、その他さまざまな業態が含まれているが、全体としてみるとテキスタイ
ルを卸商から仕入れてアパレルを生産している企業の割合がもっとも多く、次がテキスタ
イルをメーカーから仕入れてアパレルを生産している企業となっている。
2)前問で「2~6」に○印を付けた方(=テキスタイルを仕入れている企業)に伺います。
使用するテキスタイルの発注方法はどのようですか。
コンバーターや商社の手持ち生地、色・柄を中心に発
注
66.7%
自社リスクで、オリジナルの生地や色・柄を企画・発
注
63.2%
サプライヤーとの協同によりオリジナルの生地や色・柄を
企画・発注
その他
61.4%
7.0%
A 質問4-2)回答社数114
テキスタイルの仕入については例示した 3 つの方法それぞれが同程度に採用されている。
1 社あたり平均 2.0 種類の仕入方法をとっていることになる。
- 170 -
3)貴社のアパレル事業の販売先(委託加工の場合は受託先)の業種について伺います。
(択複)
1.アパレル製造卸
45.8%
2.商社
13.4%
3.百貨店
37.3%
43.7%
4.量販店
5.専門店(セレクトショップ以外)
48.6%
6.専門店(セレクトショプ)
28.2%
7.ディスカウントストア(アウトレット等)
9.9%
8.通販企業
25.4%
9.輸出
6.3%
27.5%
10.直営小売店(自社販売)
11.通販(自社販売)
9.9%
12.その他
14.1%
A 質問4-3)回答社数142
販売先は極めて多様である。中でも「専門店」
(セレクトショップその他)は計 76.8%に
上り、トップとなっている。「量販店」、「百貨店」はこれに比べると大分少ないが、それで
も 43.7%と 37.3%を占めている。
「輸出」は 6.3%と、テキスタイルの 26.1%に比べると大
幅に少ない。
4)前問で「1~8」に○を付けた方に、貴社の販売先との取引形態について伺います。
(択複)
売買取引(売り切り)
73.0%
売買取引(返品条件付き)
48.2%
消化仕入れ取引
34.8%
委託加工取引(原料買い・製品売り)
その他
22.7%
1.4%
A 質問4-4)回答社数141
取引形態については「売買取引(売り切り)
」がもっとも多く、次が「売買取引(返品条
件付き)」となっている。
5)貴社のアパレルの売上(または加工賃収入)と利益の動向について伺います。ここ 3 年
程度の状況をお答え下さい。
- 171 -
5-1)売上(択 1)
39.6%
30.6%
11.1%
7.6%
10
%
以
上
減
っ
て
い
る
多
少
減
っ
て
い
る
変
わ
っ
て
い
な
い
多
少
増
え
て
10
い
%
る
以
上
増
え
て
い
る
11.1%
A 質問4-5-1)回答社数144
ここ 3 年間程度の売上の推移は、
「減少」したとする企業が 70.2%(うち、「10%以上減
少」した企業は 39.6%)に上り、経営は厳しい状況にあることが判明した。しかし、テキ
スタイル企業と比較(「10%以上減少」した企業は 70.6%)すると、その厳しさは緩やかと
言えよう。これを反映して売上が「増加」した企業は 18.7%に上っている(テキスタイル
では 8.9%)
。
5-2)利益(択 1)
41.5%
28.9%
12.0%
7.7%
10
%
以
上
減
っ
て
い
る
多
少
減
っ
て
い
る
変
わ
っ
て
い
な
い
多
少
増
え
て
10
い
%
る
以
上
増
え
て
い
る
9.9%
A 質問4-5-2)回答社数142
利益が「減少」した企業は 70.4%(うち、「10%以上減少」した企業は 41.5%)と、売
上と同様の厳しさである。これに対し利益が「増加」した企業は 19.7%存在している。
前問と合わせ、アパレル企業の経営は厳しい状況にあるものの、テキスタイルに比べれ
ば売上、利益を伸ばしている企業の割合はかなり多く、経営の取り組み如何ではまだ伸び
る余地があるらしいことが判明した。
- 172 -
6)貴社のアパレルの競合状況について伺います。
6-1)国内市場における競合(択 1)
66.9%
18.6%
11.7%
0.7%
少
し
非
常
に
激
し
い
激
し
ど
い
ち
ら
と
も
言
え
な
い
あ
ま
り
激
し
く
な
い
全
く
激
し
く
な
い
2.1%
A 質問4-6-1)回答社数145
国内市場における競合状況については、
「厳しい」との意見が 85.5%と圧倒的多数となっ
ている。
6-2)外国市場における競合(択 1)
60.5%
15.1%
13.4%
あ
ま
り
も
言
0.8%
激
し
く
な
い
全
く
激
し
外
く
国
な
に
い
は
出
し
て
い
な
い
2.5%
え
な
い
し
い
し
激
少
ど
ち
ら
と
非
常
に
激
し
い
7.6%
A 質問4-6-2)回答社数119
外国市場における競合は、「輸出していない」企業を除外すれば、57.4%の企業が「厳し
い」と回答しており、「厳しくない」との回答 8.5%を大幅に上回っている。
- 173 -
7)後継経営者の状況について伺います。(択 1)
42.4%
32.6%
12.1%
6.8%
6.1%
その他
後継経営者は
不要(自分の
代で終わる)
まだ決まって
おらず、あて
もないが、欲
しい
まだ決まって
いないが、あ
てはある
既に決まって
いる
A 質問4-7)回答社数132
後継経営者については「すでに決まっている」企業は 32.6%と多くはないものの、
「あて
はある」を加えれば 65.0%と多くなっている。これに対し「自分の代で終わる」という悲
観的な見方をしている企業は 6.8%と少ない。
8)従業員の状況について伺います。
8-1)現在の状況(択 1)
8-2)3 年後の予想状況(択 1)
50.4%
45.7%
現状
3年後
32.1%
26.8%
21.3%
14.6%
4.7%
不
い
る
非
少
し
常
に
不
足
し
て
足
し
て
い
る
よ
い
丁
度
余
っ
て
い
る
0.7%
少
し
非
常
に
余
っ
て
い
る
2.2%
1.6%
A 質問4-8-1&2)回答社数
従業員の充足状況について、現在と 3 年後の予想を対比すると、いづれも「丁度よい」
がもっとも多い回答となっている。しかし、「余っている」との回答が現状の 34.3%から 3
年後では 22.9%に減るのに対し、「不足している」との回答は現状の 15.3%が 3 年後では
31.5%に増加している。テキスタイル企業と同様、従業員の高齢化・引退が進む状況を反映
したものと考えられる。
- 174 -
質問 5 ブランドの状況について伺います。
1)貴社ではアパレル商品に関して商標登録したブランド(自社ブランド)を持っています
か。(択 1)
持ってお
らず、将
来も持つ
つもりは
ない
15.2%
持ってい
ないが、
将来は持
ちたい
9.7%
持ってい
る
75.2%
A 質問5-1)回答社数145
ブランド(登録商標)を「持っている」企業は 75.2%と多く、テキスタイル(31.8%)
とは好対照をなしている。「持つ意志のない」企業は 15.2%に過ぎない。「現在は持ってい
ないが、将来は持ちたい」という企業が 9.7%あるが、下請生産からの脱却を考えている企
業であろうと推測される。
2)自社ブランドが「ある」企業に伺います。現在使用している自社ブランドの数はどれほ
どですか。
21.0%
18.1%
19.0%
6~ 1 0
1 1~
13.3%
11.4%
9.5%
7.6%
5
4
3
2
1
A 質問5-2)回答社数105
保有している自社ブランドの数は「1~2」と少ない企業が 34.3%、
「6 以上」と多い企業
が 37.1%と、二極分化の傾向があることが読み取れる結果である。
- 175 -
3)貴社では海外ブランドとの提携(ライセンス契約など)をしておられますか。
(択 1)
している
23.0%
しておら
ず、将来
も提携す
るつもり
はない
65.2%
していな
いが、将
来は提携
したい
11.9%
A 質問5-3)回答社数135
海外ブランドとの提携については、「現在している」が 23.0%、「現在はしていないが将
来は提携したい」が 11.9%で、合計 34.9%の企業が提携に前向きということになる。
*提携している場合のブランド数
8
7
5
3
3
2
1
1 1~
6~ 1 0
5
4
3
2
1
A 質問5-3)回答社数29
提携しているブランド数は、
「1~2」および「6 から 10」が多く、両極分化の傾向が見ら
れるようである。
- 176 -
質問 6 アパレルの輸出の状況について伺います。
1)貴社はアパレルの輸出はありますか。(択 1)
ある
14.7%
ない
85.3%
A 質問6-1)回答社数143
アパレル輸出が「ある」企業は 14.7%と、テキスタイル企業(「ある」が 53.2%)に比べ
て非常に少ない。
2)アパレルの輸出が「ある」企業に伺います。
2-1)輸出開始は何年頃ですか。
12
7
20
01
年
以
降
19
91
~
19
90
年
19
81
~
19
80
年
以
前
20
00
年
1
0
A 質問6-2-1)回答社数20
輸出開始年度を 10 年きざみに区切ってみると、2001 年以降に開始したとする回答がも
っとも多く。次は 1991~2000 年であり、アパレル輸出の歴史は古くはないことが判明した。
- 177 -
2-2)アパレル輸出の形態はどのようですか。(択複)
当社が直接、現地小売企業に輸出
60.0%
当社が直接、現地卸売企業に輸出
25.0%
当社の海外直営店で現地販売
20.0%
現地エージェントを経由して輸出
20.0%
国内エージェントを経由して輸出
10.0%
A 質問6-2-2)回答社数20
アパレルの輸出形態は、「現地小売企業への直接輸出」がもっとも多く、「現地卸売企業
への直接輸出」の 2 倍以上となっている。
2-3)アパレルの輸出先地域はどこですか。(択複)
欧州
52.4%
中国
47.6%
北米
38.1%
中国以外のアジア
38.1%
中近東
9.5%
その他
23.8%
A 質問6-2-3)回答社数21
輸出先地域は、欧州がもっとも多く、次は中国である。
2-4)輸出アパレルのアイテムは何ですか。(択複)
57.1%
婦人服(ミセス向け)
38.1%
紳士服
33.3%
婦人服(ヤング向け)
9.5%
スポーツ
ベビー服
0.0%
子供服
0.0%
婦人服(下着、肌着)
0.0%
その他
9.5%
A 質問6-2-4)回答社数21
輸出アイテムは、「ミセス向け婦人服」がもっとも多く、次が「紳士服」となっている。
婦人服はミセス向け、ヤング向けを合わせると延べ 90.4%に達する。
- 178 -
2-5)アパレル輸出のきっかけは何ですか。(択複)
38.1%
海外展示会に参加した
製品のデザイン、キャラクターなどが評価された
33.3%
先方から日本に買い付けに来た
33.3%
19.0%
外国語ができる幹部・社員がいた
製品の縫製技術が評価された
19.0%
使用テキスタイルが評価された
14.3%
国内エージェント(商社)の紹介があった
9.5%
国内展示会に参加した
9.5%
4.8%
海外出張して飛び込み営業をした
現地エージェントがあった
0.0%
輸出実務が分かる幹部・社員がいた
0.0%
23.8%
その他
A 質問6-2-5)回答社数21
アパレル輸出のきっかけは「海外展示会に参加した」が 38.1%でもっとも多く、海外展
示会の有効性が証明された形である。これに対し「国内展示会に参加した」は 9.5%と少な
い。
参加した海外・国内展示会で具体名の回答があったのは次の通りである。
*海外展示会名
アトモスフェール展
ISPO展
パリコレクション
ワークショップトラレイ
計
*国内展示会名
ルームス展
計
回答数
4
1
1
1
7
回答割合
57.1%
14.3%
14.3%
14.3%
100.0%
回答数
1
1
回答割合
100.0%
100.0%
2-6)輸出アパレルのブランドはどのような形態をとっていますか。(択複)
自社ブランド(国内と共通)
71.4%
相手先ブランド
自社ブランド(海外専用)
23.8%
0.0%
その他
4.8%
A 質問6-2-6)回答社数21
輸出アパレルのブランドの形態は、「国内と共通の自社ブランド」がもっとも多く、次が
「相手先ブランド」となっている。
- 179 -
2-7)アパレル輸出の現在の傾向はどうですか。
(択 1)
42.9%
38.1%
19.0%
0.0%
大
き
く
拡
大
傾
向
に
若
あ
干
る
拡
大
傾
向
に
あ
る
あ
ま
り
変
わ
ら
若
な
干
い
縮
小
傾
向
大
に
あ
き
る
く
縮
小
傾
向
に
あ
る
0.0%
A 質問6-2-7)回答社数21
アパレル輸出の現在の傾向は、「若干拡大傾向」「と「若干縮小傾向」の 2 傾向に別れて
いると言えよう。先述したテキスタイルよりは安定していると言いうる。
2-8)アパレル輸出の目的は何ですか。(択複)
売上向上に貢献する
76.2%
利益向上に貢献する
38.1%
企業としてステータスになる
代金回収が確実
28.6%
4.8%
その他
0.0%
19.0%
10.0%
20.0%
30.0%
40.0%
50.0%
60.0%
70.0%
80.0%
A 質問6-2-8)回答社数21
アパレル輸出の目的は、「売上貢献」が最大のものであり、次が「利益貢献」となってい
る。
- 180 -
2-9)貴社ではアパレル輸出のためにどのような情報収集をしていますか。(択複)
海外出張して得意先と情報交換する
55.0%
現地の協力エージェントから情報を得る
35.0%
展示会に出展して得意先その他の意見を聞く
35.0%
ファッション雑誌等から情報を得る
15.0%
商社(国内エージェント)から情報を得る
10.0%
情報提供専門機関から情報を買う
5.0%
0.0%
公的機関等から情報を得る
その他
15.0%
A 質問6-2-9)回答社数20
アパレル輸出のために行っている情報収集活動として、もっとも多いのは「海外出張」
で、次は「現地エージェント」である。「展示会」も現地エージェントと並び重視されてい
る。「公的機関」は指摘がない。
2-10)貴社ではアパレル輸出継続のためには何が重要と考えていますか。(択 3)
適品の開発
52.4%
市場情報の適切な入手
52.4%
52.4%
取引先(顧客・仕入先)との密接な情報交換
優秀な現地エージェントとの連携
38.1%
コスト低減
38.1%
23.8%
ジャパン・クオリティーの打ち出し
9.5%
小ロット化
納期短縮(在庫保有も含む)
9.5%
優秀な国内エージェント(商社)との連携
4.8%
トレーサビリティの確立
4.8%
その他
0.0%
A 質問6-2-10)回答社数21
アパレル輸出継続のために重要なこととしては、「適品の開発」「市場情報の適切な入手」
「取引先との情報交換」といった基本的な事項が重視されており、次いで「現地エージェ
ントとの連携」「コスト低減」などが重視されている。
- 181 -
2-11)貴社は海外にアパレルの自社工場(100%出資)や合弁工場(一部出資)、支社・駐
在員事務所を持っていますか。(択複)
58.8%
52.9%
・
駐
在
員
事
務
所
支
社
自
社
工
場
合
弁
工
場
あ
り
あ
り
あ
り
41.2%
A 質問6-2-11)回答社数17
海外の事業拠点については、もっとも多い回答は「合弁工場」で、半数以上が保有して
いることが判明した。次は、
「支店・駐在員事務所」、第 3 位は「自社工場」となっている。
2-12)前問で「持っている」場合、地域別に何社くらいですか。(注:回答社数を集計)
自社工場、合弁工場、支社等(各択複)
9
自社工場
合弁工場
支社等
7
6
4
3
2
1
1
米
国
欧
州
0
0 0 0
中
国
以
外
の
中
国
ア
ジ
ア
0 0
そ
の
他
2
A 質問6-2-12)回答社数6,10,8
前問で「持っている」の場合、地域別の拠点数を聞いた。自社工場、合弁工場、支社と
も「中国」が多いという結果であった。
- 182 -
2-13)貴社は海外にアパレルの協力工場(資本関係なし)を持っていますか。(択 1)
持ってい
ない
33.3%
持ってい
る
66.7%
A 質問6-2-13)回答社数30
次に海外における資本関係のない協力工場の有無を聞いた結果、「持っている」企業が
66.7%と多い。
2-14)前問で「持っている」場合、地域別に何社くらいですか。(択複)(注:回答社数を
集計)
中国
17
中国以外のアジア
その他
5
4
A 質問6-2-14)回答社数19
協力工場の所在地は「中国」が圧倒的に多くなっている。
3)アパレルの輸出が「ない」企業に伺います。
3-1)アパレルを輸出していない理由は何ですか。(択複)
輸出商談できる人材がいない
29.0%
取引条件(価格・ロット・納期等)が合わない
24.3%
協力してくれる国内エージェント(商社)がいない
19.6%
輸出ワークの方法が分からない
19.6%
製品のデザイン等が現地市場に合わない
15.9%
協力してくれる現地エージェントがいない
製品のサイズが現地市場に合わない
13.1%
7.5%
その他
40.2%
A 質問6-3-1)回答社数107
アパレルを輸出していない企業にその理由を聞いた結果、もっとも多い回答は「輸出商
談できる人材がいない」で、「取引条件が合わない」がその次である。また、「エージェン
トがいない」は国内・外を併せて延べ 32.7%に上っている。
- 183 -
3-2)貴社は海外展示会に出展されたことはありますか。(択複)
87.4%
9.0%
2.7%
0.9%
海外展示会に出
展したことはな
い
自社の海外展示
会を開催したこ
とがある(共催
含む)
日本主催の海外
展示会に出展し
たことがある
外国主催の海外
展示会に出展し
たことがある
A 質問6-3-2)回答社数111
輸出のない企業における海外展示会への出展経験は、「ある」が延べ 12.6%と少ない。
3-3)貴社では今後、アパレルの輸出努力をする予定はありますか。(択 1)
積極的に
努力して
みたい
9.2%
努力する
予定はな
い
56.9%
A 質問6-3-3)回答社数109
適切な外
部の協力
があれば
努力して
みたい
33.9%
今後の輸出努力については、
「努力してみたい」との意見が計 43.1%ある。しかし、その
多く(33.9%)は外部の協力を希望しており、必ずしも真剣な取り組み姿勢とは言えない恨
みがある。
- 184 -
3-4)前問で「努力してみたい」に○を付けた方に伺います。今後の輸出先として注目する
地域はどこですか。(択複)
中国
89.1%
中国以外のアジア
43.5%
欧州
34.8%
北米
中近東
その他
19.6%
4.3%
0.0%
A 質問6-3-4)回答社数46
現在輸出のない企業が注目している地域は、
「中国」がもっとも多く、それよりはるかに
落ちて「中国以外のアジア」「欧州」等が続いている。
質問 7 アパレル輸出の問題点について伺います。アパレル輸出がない方もできるだけお答
え下さい。
1)アパレル輸出における問題点は何ですか。(択複)
48.2%
26.3%
17.5%
14.0%
7.0%
15.8%
8.8%
2.
1.
展
示
会
の
輸
活
出
用
商
品
3.
の
開
輸
発
出
体
制
作
4.
り
5.
輸
輸
出
出
条
エ
件
ー
ジ
ェ
6.
ン
ト
関
税
が
8.
高
い
輸
7.
出
努
そ
力
の
は
他
し
て
い
な
い
5.3%
A 質問7-1)回答社数114
アパレル輸出における問題点としては、
「輸出体制作り」がもっとも多く指摘されている。
次いで多いのは「輸出条件が合わない」「輸出商品の開発」などで、テキスタイル企業とほ
ぼ同様の回答傾向といえよう。
- 185 -
2)1)で「1」に○を付けた方に伺います。展示会をうまく活用できない理由は何ですか。
(択 2)
どの展示会に出たらよいのか分からない
75.0%
輸出商談の仕方やポイントが分からない
50.0%
会場で協力してくれるエージェント(商社)がいない
25.0%
展示会出展経費が高い
25.0%
外国語ができるアテンダント(社員)がいない
0.0%
準備期間が短い
0.0%
その他
0.0%
A 質問7-2)回答社数4
前問で「展示会の活用に問題がある」と回答した企業にその理由を聞いた結果、「どの展
示会に出たらよいのか分からない」
「輸出商談の仕方やポイントが分からない」などが多く
指摘され、輸出取り組みの基礎が分かっていない企業が多いことが判明した。どの展示会
に出るのが効果的か、また出展のための準備や心構え、現場での商談のあり方などは公的
機関などでセミナー等の方法により指導することが可能であり(これまでも行われてきて
いるが)、今後さらなる指導の充実が期待されよう。
3)1)で「2」に○印を付けた方に伺います。商品開発の問題は何ですか。(択 2)
42.9%
現地に適するデザインが分からない
35.7%
コストが先方希望価格と大幅に食い違う
28.6%
現地に適するサイズが分からない
21.4%
現地に適するテキスタイルなど材料が分からない
現地に適する色・柄が分からない
その他
7.1%
7.1%
A 質問7-3)回答社数14
「輸出商品の開発に問題がある」を指摘した企業にその具体的な内容を聞いた結果、「現
地に適するデザインが分からない」がもっとも多く指摘された。これと「サイズ」「材料」
「色、柄」などの問題点をあわせると、延べ 100%に上る。テキスタイルの項でも述べたが、
輸出先国・地域の消費動向や嗜好などについては、詳細な紹介は無理としても、概括的な
傾向などに関しては公的機関が指導する余地があるのではないかと考えられる。
- 186 -
4)1)で「3」に○印を付けた方に伺います。輸出体制にどのような問題がありましたか。
(択 2)
外国語ができる幹部・社員がいない
44.4%
各種実務をしてくれるエージェントが現地にいない
25.9%
輸出実務が分かる幹部・社員がいない
25.9%
各種実務をしてくれるエージェントが国内にいない
22.2%
客先との頻繁な情報交流ができない
22.2%
希望価格に合わせる体制がとれない
14.8%
希望数量・サイズを供給する体制がとれない
14.8%
14.8%
希望納期に間に合わせる体制がとれない
その他
0.0%
A 質問7-4)回答社数27
輸出体制に関する問題点としてもっとも大きかったものは「外国語ができる幹部・社員
がいない」で、これと「輸出実務が分かる幹部・社員がいない」をあわせると延べ 70.3%
に達する。テキスタイルでは最大の問題点とされた「希望価格に合わせる体制がとれない」
は少数意見となっている。
「エージェント」に関しては国内、現地あわせて延べ 48.1%とテ
キスタイルに比べ指摘が多い。
5)1)で「4」に○印を付けた方に伺います。輸出条件でどのような問題がありましたか。
(択 2)
価格が合わない
78.9%
支払い条件が合わない
47.4%
納期が合わない
15.8%
ロットが合わない(要求が小さすぎる)
10.5%
ロットが合わない(要求が大きすぎる)
10.5%
その他
0.0%
A 質問7-5)回答社数19
輸出条件に関する問題点では、「価格が合わない」が最大の問題点として指摘され、次い
で「支払い条件が合わない」が大きな問題点となっている。
- 187 -
質問 8 アパレルの輸出促進について伺います。アパレル輸出がない方もできるだけお答え
下さい。
1)アパレルの輸出促進を主目的とする国内展示会についてどう見ていますか。(択 1)
2)アパレルの輸出促進を主目的とする日本主催の海外展示会についてどう見ていますか。
(択 1)
35.7%
42.6%
38.4%
24.3%
国内展示会
20.9%
12.5%
は
な
い
5.4%
5.2%
全
く
有
効
で
は
な
い
い
有
効
で
あ
ま
り
ど
ち
ら
と
も
あ
る
程
有
効
で
あ
度
有
効
で
あ
言
え
な
る
る
8.0%
7.0%
お
お
い
に
日本主催の
海外展示会
A 質問8-1&2)回答社数115&112
国内展示会については「有効」との回答は計 31.3%、これに対し「有効ではない」との
回答は計 26.1%で、有効と考える企業の方が若干多いという結果である。
日本主催の海外展示会については、
「有効」との回答は計 43.7%、これに対し「有効では
ない」との回答は計 12.9%にすぎず、有効と考える企業の極めて多いという結果である。
3)アパレル輸出の実現、育成には、輸出に協力してくれるエージェント(商社)のような
存在が必要と思いますか。(択 1)
41.2%
24.6%
19.3%
10.5%
い
く
必
要
は
な
全
は
な
い
必
要
い
あ
ま
り
言
え
な
る
ど
ち
ら
と
も
要
で
あ
あ
る
程
度
必
お
お
い
に
必
要
で
あ
る
4.4%
A 質問8-3)回答社数114
輸出エージェントの必要性については、「必要」との回答が 60.5%、「必要ではない」と
の回答は 14.9%で、
「必要」との意見が圧倒的に多い。しかし、テキスタイルと比較すると
- 188 -
「必要」の度合いは少なくなっている。
4)前問で「1、2 必要である」に○を付けた方に伺います。
4-1)エージェント(商社)は国内、現地どちらにあるのがよいと思いますか。(択 1)
どちらでも
よい
16.7%
日本国内に
あるのがよ
い
43.9%
現地にある
のがよい
39.4%
A 質問8-4-1)回答社数66
エージェントがどこに所在するのがよいと考えるかについては、「日本国内」が 43.9%、
「現地」が 39.4%で、ほぼ拮抗した。
4-2)エージェント(商社)が持つべき機能は何ですか。(択複)
81.5%
具体的な営業活動を代行する
55.4%
新規顧客の開拓を行う
38.5%
各企業のサンプルを保有し、顧客に売り込む
国内企業の出張アテンドをする
24.6%
A 質問8-4-2)回答社数65
エージェントが持つべき主要な機能を 4 項目示して聞いた結果、
「具体的な営業活動の代
行」が 81.5%と圧倒的に多くなっている。2 番目に多いのは「新規顧客の開拓」である。
4-3)エージェント(商社)は取引の中に入る(契約当事者になる)べきと考えますか。
(択 1)
取引に入る
べきでない
29.0%
取引に入る
べき
71.0%
A 質問8-4-3)回答社数62
- 189 -
エージェントが取引に入るべきかどうかについては、
「入るべき」という意見が 71.0%と
多くなっている。「入るべきでない」すなわちエージェントがブローカーとして手数料ベー
スで活動することを希望する意見は 29.0%とすくないが、テキスタイルに比べれば多いと
いう結果である。
4-4)エージェント(商社)の行うマーケティング活動に対し対価を支払いますか。(択 1)
輸出の可否
にかかわら
ず、努力に
対して支払
う
1.6%
支払わない
6.6%
輸出実績に
見合って支
払う
91.8%
A 質問8-4-4)回答社数61
エージェントが行うマーケティング活動の対価は「輸出実績に見合って支払う」との回
答が 91.8%を占め、「輸出の可否にかかわらず努力に対して支払う」との回答は 1.6%と僅
かである。
5)貴社では今後輸出にどの程度注力していく予定ですか。
(択 1)
54.0%
23.8%
15.9%
3.2%
3.2%
輸出からは撤退
する予定である
ある程度力を抜
いてゆく予定で
ある
現状維持程度の
予定である
ある程度注力し
てゆく予定であ
る
おおいに注力し
ていく予定であ
る
A 質問8-5)回答社数63
今後の輸出への注力については、「注力する」が計 69.9%と多く、「力を抜く、あるいは
撤退する」は計 6.4%と少数派である。輸出に期待感を持っている企業の割合が大きいこと
が判明した。
- 190 -
質問 9 貴社の情報化やダイレクト販売の状況について伺います。
1)貴社はインターネットのウエブサイト(ホームページ)を開設していますか。
(択 1)
開設してい
ない
27.5%
外国語も入
れて開設
13.0%
日本語だけ
で開設
59.4%
A 質問9-1)回答社数138
ウエブサイトの開設状況は「開設している」が 72.4%に対し「開設していない」は 27.5%
であり、戦術のテキスタイルと比較すると開設している企業の割合が多くなっている。し
かし、
「外国語も入れて開設している」との回答は 13.0%と少数派にとどまった。輸出を念
頭におくとき、企業の概要や特色を説明する外国語ウエブサイトを持つことは必須条件と
も言え、さらに多くの企業が外国語サイトを持つことが期待される。
2)前問で「3」に○を付けた方に伺います。外国語は何ですか。(択複)
英語
100.0%
中国語
韓国語
その他
27.8%
5.6%
0.0%
A 質問9-2)回答社数18
使用している外国語は、各社とも英語であるが、27.8%の企業では中国語でもサイトを構
築している。韓国語も僅かながら存在する。その他の言語を用いている企業はない。
- 191 -
3)貴社はインターネットを利用して、従来の取引先の先にいる小売企業にアパレルを直販
していますか。(択 1)
以前から小
売企業に
売っていた
3.1%
している
11.6%
今はしてお
らず、今後
する予定も
ない
62.8%
今はしてい
ないが、今
後する予定
がある
22.5%
A 質問9-3)回答社数129
インターネットを利用して販路の短縮を行っているか聞いた結果、
「現在している」企業
は 11.6%と少数であるものの、
「今後する予定がある」企業も加えれば計 34.1%の企業が販
路短縮に取り組んでいることが判明した。
4)貴社はインターネットを利用して消費者にアパレルを直販していますか。(択 1)
している
26.3%
今はしておら
ず、今後する
予定もない
45.1%
今はしていな
いが、今後す
る予定がある
28.6%
A 質問9-4)回答社数133
消費者へのアパレルの直販(ネット販売)については、「現在している」企業は 26.3%、
「今後する予定がある」企業まで加えると過半の 54.9%の企業が消費者へのネット販売に
取り組んでいることが判明した。
- 192 -
質問 10 アパレルやテキスタイルの国際比較等について伺います。
1)外国製に比べて日本製テキスタイルの強味はこだわりと技術力と言われますが、貴社の
見解をお示し下さい。(択 1)
48.9%
28.5%
15.3%
2.9%
分
か
ら
な
い
0.7%
ど
ち
う
ら
と
も
言
え
あ
な
ま
い
り
そ
う
思
わ
な
全
い
く
そ
う
思
わ
な
い
あ
そ
う
思
ま
大
い
に
そ
う
思
う
3.6%
A 質問10-1)回答社数137
日本製テキスタイルの強味がこだわりと技術力とする意見に対し、
「そう思う」という回
答は計 77.4%に上り、「そう思わない」の 4.3%を大きく上回っている。
2)前問で「1、2」に○印を付けた方に伺います。「こだわり」の具体的内容は何だと考え
ますか。(択 2)
品質管理
59.4%
物性の安定性
58.5%
染色・整理
33.0%
後加工
21.7%
原材料(糸)
18.9%
色・柄
機織
その他
14.2%
6.6%
3.8%
A 質問10-2)回答社数106
そのこだわりの具体的内容については、「品質管理」「物性の安定性」
「染色・整理」等で
あるとする回答が多く、
「色・柄」といった感性的な面はあまり評価されていない。
- 193 -
3)国産テキスタイルに比べて、イタリア製テキスタイルが優れている点はありますか。
(択 2)
色・柄が日本にはないものを持っている
76.0%
世界の流行に敏感なものづくりをしている
41.3%
風合いがよい
34.7%
日本の規格にはない糸を使っている
染色堅牢度など、物性がよい
その他
14.0%
0.0%
5.8%
A 質問10-3)回答社数121
とかく比較の対象となるイタリア製テキスタイルの優れた点については、
「色・柄」や「流
行」など感性的な面を評価する回答が多く、「物性」を評価する回答は見られない。日本製
テキスタイルとは正反対の評価と言えよう。
4)貴社では、アパレルのデザイン開発は誰が行っていますか。(ブランドにより違う場合
は、半数以上のブランドのケースを。択複)
社内のデザイナー
70.8%
社外の契約デザイナー(個人)
23.8%
企画会社、デザイン会社
23.1%
営業担当・店長が兼任
ライセンス元の外国アパレルのデザイナー
その他
17.7%
4.6%
9.2%
A 質問10-4)回答社数130
アパレルのデザイン開発者は、「社内デザイナー」が 70.8%ともっとも多く、「社外の個
人契約デザイナー」や「企画会社、デザイン会社」など国内の外部デザインも延べ 46.9%
ある。「外国デザイナー」は 4.6%と少数派で、基本的にデザインは国内で開発されている
ことが判明した。
5)中国など市場が急拡大している外国でのビジネス展開を考えるとき、デザイン開発はど
のようにするのがよいと考えますか。(択複)
国内デザインを現地に合わせてモディファイ
63.4%
現地デザイナーを起用して商品化
33.0%
国内デザインをそのまま商品化
29.5%
ライセンス元のデザインを現地に合わせてモディファイ
16.1%
ライセンス元のデザインをそのまま商品化
3.6%
その他
2.7%
A 質問10-5)回答社数112
外国市場向けのデザインについては、
「国内デザインを利用」との回答が延べ 92.9%あり、
「現地デザイナーを起用」との回答を大きく上回っている。「ライセンス元のデザインを利
- 194 -
用」との回答は少数派である。
6)日本のアパレル商品を国際展開するには、どのようなことが必要と考えますか。
(択複)
価格と品質のバランスが高水準
46.1%
安心・安全・環境に配慮した商品
42.2%
テキスタイルが高品質
38.3%
テキスタイルがジャパン・クオリティ
37.5%
縫製がジャパン・クオリティ
31.3%
独自性に秀でた優れたデザイン
30.5%
縫製が高品質
28.9%
25.8%
縫製がメイド・イン・ジャパン
機能性に優れたパタンメーキング
23.4%
テキスタイルが日本製
21.9%
1.6%
その他
A 質問10-6)回答社数128
日本アパレルの国際展開に必要な事項について、回答は多岐に亘っているが、
「価格」
「品
質」「安心・安全・環境」
「ジャパンクオリティ」や「使用テキスタイルが日本製、高品質」
などが重要キーワードとして認識されていることが判明した。
7)アパレル製品の販売上、使用するテキスタイルにブランドがあることは重要とお考えで
すか。(択 1)
28.8%
18.9%
30.3%
18.9%
と
も
い
え
あ
な
ま
い
り
重
要
で
は
な
全
い
く
重
要
で
は
な
い
で
あ
る
ど
ち
ら
ま
あ
重
要
お
お
い
に
重
要
で
あ
る
3.0%
A 質問10-7)回答社数132
アパレルの販売上、使用テキスタイルにブランドがあることが重要かどうかについて、
「重要」との回答は 47.7%、
「重要ではない」は 21.9%で、重視する回答の方が 2 倍以上と
いう結果である。
- 195 -
8)貴社ではお取り扱いのアパレル製品にテキスタイルのブランドを表示(テキスタイルの
ネーム縫いつけなど)したことがありますか。
(択 1)
1.現在ある
45.5%
3.過去にも
現在もない
26.9%
2.過去には
あったが、
現在はない
27.6%
A 質問10-8)回答社数134
取り扱いアパレルにテキスタイルブランドを表示したことがあるかについては、
「現在あ
る」が 45.5%の高率を示している。しかし、現実に小売店頭を見回しても、テキスタイル
のブランドが付いているアパレル商品は、高級紳士服や高機能スポーツウエアなど限られ
ており、その他の商品にテキスタイルブランドが表示されているケースはほとんどない。
この回答結果は家庭用品品質表示法に基づく素材表示も含まれている可能性がありそうで
ある。
9)前問で「1、2」に○を付けた方に伺います。テキスタイルブランドを表示した目的は何
ですか。(択複)
使用テキスタイルの高品質を消費者に理解して貰う
74.0%
使用テキスタイルの高機能を消費者に理解して貰う
その他
56.3%
3.1%
A 質問10-9)回答社数96
テキスタイルブランド表示の主目的は、テキスタイルの「高品質」
「高機能」をマーケテ
ィングツールとして利用することにあると言えよう。
10)前頁の質問 8)で「3」に○を付けた方に伺います。テキスタイルブランドを表示しな
い理由は何ですか。(択複)
テキスタイルブランドを付けても効果がない
53.6%
使用テキスタイルにブランドがない
28.6%
17.9%
その他
A 質問10-10)回答社数28
- 196 -
テキスタイルブランドを表示しない理由としては、「効果なし」が最も大きな理由となっ
ている。使用テキスタイルについての情報がないので推測となるが、高感性や高機能テキ
スタイル以外のものを使用しているとすれば、
「効果なし」の説明にはなる。
11)今後の人材育成について、貴社ではどのような人材の育成が重要とお考えですか。
(択複)
市場に精通したマーチャンダイザー
61.5%
売場や顧客を理解したデザインができるデザイナー
56.2%
戦略的な経営ができる経営スタッフ
50.0%
クオリティーの高いパターンを製作できるパタンナー
37.7%
26.2%
海外市場開拓のできる営業人材
独創的なデザインができるデザイナー
その他
20.0%
0.0%
A 質問10-11)回答社数130
今後のアパレルビジネスで育成すべき人材は、「マーチャンダイザー」「デザイナー」「戦
略経営ができる経営スタッフ」などが主要なニーズであることが判明した。
質問 11 輸出を中心とする市場開拓活動に関し、国や中小企業基盤整備機構に対してご要
望等ありましたらお書き下さい。
輸出アプローチや援助方法再検討論
58.3%
輸出への支援・補助希望
25.0%
為替安定化希望
16.7%
税制等が厳しい国への緩和・撤廃要請
8.3%
輸出悲観論
0.0%
商品開発等への支援希望
0.0%
8.3%
その他
A 質問11
前項のテキスタイルでは「輸出への支援・補助希望」がもっとも多い要望事項となっ
ているが、アパレルにおいては輸出に関し「これまでのアプローチや援助方法を再検討
すべき」との意見が多くなっている。いかなる形でのアプローチや援助が有効なのか、
業界との話し合いや調査が必要と考えられる。
3-5
数量化3類・クラスター分析、χ二乗分析、テキストマイニング結果から導
き出されたアンケート調査結果のまとめ
3-2項で分析したポイントに加えて、有効な着眼点を得るために、数量化3類・クラス
ター分析、χ二乗分析、テキストマイニングの手法を用いてアンケート結果を分析した。
- 197 -
本項の分析は、大谷委員長のご厚意により信州大学繊維学部の高橋正人教授に担当願った。
◆テキスタイル企業の現状と輸出動向
・輸出のある企業(全体の 53.2%)とない企業とでは、輸出のある企業の方が資本金が大
きい傾向にあり、商標をもっている割合が高い。また、取引の形態も委託加工より売買
取引のほうが多く、自社には特色があると認識している企業が多い。
・テキスタイルの製造業と卸売業とを比較をした場合、製造業では、30 人以下の小規模企
業が多く、資本金も 5000 万円以下が全体の 85%に及ぶ。また、輸出エージェントを必
要としている企業も製造業の方が多い。
・輸出している企業の割合は卸売業のほうが大きく、資本金が大きいほど直接輸出を行っ
ている割合が高い。
・展示会は国内よりも海外で開催されるものの方が有効であり、地域ブランド名よりもメ
イド・イン・ジャパンを強調することのほうが効果的であると考えている。
・テキスタイル業界全体としては、経済状況を反映したものか、あるいは業界全体の高齢
化を表しているのかは不明であるが、現在は従業員数がやや余っているものの、3 年後に
は不足すると考えている企業が多い。
(以上、χ二乗分析結果)
・輸出営業活動は、商社に任せるとともに、総じて新規取引先の開拓に対してはそれほど
積極的ではない。
・企業が有する特色としては、技術や企画面をあげる企業が多く、経営面で自信のある企
業はほとんどない。
・輸出アイテムに関しては、生機よりも染め上り品のほうが多く、染め上り品の中では高
機能品、高感性品が多い。
・イタリア製品との比較では、イタリアの方が世界の流行に対して敏感であると感じてい
る。輸出の障害になるものとしては、外国語や輸出の実務に精通する社員がいない、協
力の得られるエージェントが国内外にない、数量、価格、納期などの点で相手方の希望
条件にあわせることができないと考える企業が多い。
・輸出したい地域としては中国が最も多く、アジア、欧州などが続く。中近東をあげる企
業はほとんどない。
(以上数量化 3 類とクラスター分析結果)
・PR の場が欲しい、メイド・イン・ジャパンを強調して欲しい、国やジェトロが開催する
展示会については、テーマが大括り過ぎて焦点が漠然としている、テーマをシャープに
絞り込む必要がある。
(以上テキストマイニング結果)
◆アパレル企業の現状と輸出動向
・市場の競争は、国内の方が激しく、海外はそれほどでもないと考えている企業が多い。
- 198 -
・従業員数に関して 3 年後にやや不足すると考えている企業が多い。
・輸出のある企業(全体の 14.7%)の 9 割が自社には特色があると考えており、逆に輸出
していない企業では特色があると考えている企業は約半数に過ぎない。
・ライセンス契約を含めた海外ブランドとの提携は、輸出している企業の半分ぐらいが行
っているのに対して、輸出していない企業の 80%は提携なしと回答している。理由は不
明だが、輸出している企業では、資本金の大きなところと小さなところに両極端に 2 分
する傾向がある。従業員数についても同様の傾向が見られる。
(以上χ二乗分析結果)
・輸出先地域は中近東以外の全てに及ぶが、欧州寄りの傾向が見られる。
・アパレル企業から見た日本製テキスタイルの特徴としては、品質管理と物性の安定性を
上げる企業が多い。
・企画・デザイン面で自信を持つ企業が多い反面、経営面で自信のある企業は少ない。技
術面に関しては幾分強みがあるものの、設備・人材面では弱いと考えている。
・輸出をしない理由として、輸出の実務がわからない、協力を得られるエージェント(国
内外)がないことをあげる企業が多い。
・これから輸出をしたいと考えている相手としては、中国が圧倒的で、一部欧州や北米な
どが上がっている。
(以上数量化 3 類とクラスター分析結果)
・国内の大部分の産地製造業は請負型でやってきたため、輸出ノウハウを持っていない。
・為替の安定化と関税や税の適正化が必要であると考えている。
(テキストマイニング結果)
注:テキストマイニングについて
- 199 -
テキスタイル、アパレルの各アンケート票の最後に設けた「国や中小企業基盤整備機構
に対する要望等」の自由記述欄から有用な情報を引き出すため、テキストマイニングによ
る分析を行った。
テキストマイニングでは、文中の用語で出現頻度の高いものについて、出現頻度および
文中でのそれらの位置関係を明らかに出来る。上例では、1.欲しい、2.エージェント、3.
国、4.現地、5.輸出、6.中国、7.する、8.仕事、9.企業、10.内容などの用語がこ
の順番で出現しており、これらの用語と文中の名詞どうしの位置関係から、輸出のための
エージェントや海外での展示会の開催、PR 活動が重要であること、そのための手助けを国
や中小企業基盤整備機構に求めていること等を読み取ることが出来た。
- 200 -
4
国内ヒアリング調査結果
「繊維産業の国際競争力強化とマーケティング・ブランド戦略について」ヒアリング
4-1
テキスタイル編
1.株式会社サンウェル
代表取締役社長
今泉治朗氏
[2009 年 10 月 22 日、株式会社サンウェル東京支社]
①日本製品の強みとこだわりについて
・
市場ニーズをとらえ、素材と加工の新しい組み合わせを模索している。異素材の
組み合わせを、加工により商品に作り上げる技術力は評価に値すると思う。絶対
的な価格競争力を失う中で、限られた分野、需要層では通用している。但し、量
的に大きな期待は持てない。
・
イタリア製品はコピーのできないハンドクラフト的商品。中国製品は価格競争力
を武器とした汎用品。日本製品は高感性の工業製品。日本製品の強みは、商品の
安定性と再現性。弱みは、工業製品であるため同質化に陥りやすいことと、本物
の匂いに欠けること。ブランド訴求するには難しい商品。
・
技術指導は、機械のオペレータの指導が中心。機械が生産の鍵を握る紡績、織布
の分野で、汎用品に関しては、中国工場は既に独り立ちしている。但し、工場運
営の面で個人の意識のバラツキにより、品質・納期管理等で問題を残している。
また、染色加工技術については技術移転が難しく、汎用品以外では商品開発力を
含め未だ差がある。汎用品で規模のメリットを打ち出す中国と開発力、加工技術
を武器にする日本という棲み分けは終わっている。むしろ、日本側の加工場の継
続性と技術の継承が大きな問題であり、将来的に不安を残している。
②テキスタイル輸出について
・
国際ルールを確実に理解し、客先の信頼を得ているサプライヤーと、国内が
不調だから輸出に活路を求めようとするゲリラ型が混在している。ゲリラ型
の業者は、結局買いたたかれることが多く、品質面の問題、信用問題等も生
じやすい。やはり、コツコツと実績を積み重ねていく方が有利だという実感
だ。
・
欧米の中流以上の顧客は有望な市場である。アジア、中国の高級アパレルは、
日本製品にとって大いに有望と感じている。適正規模、価格、商品の組み合
わせが機能する市場と認識している。
・
ラグジュアリーブランドとコミュニケーションが取れる人材と出会いを作る
ことが重要である。
- 201 -
・
中国市場で評判が良いのは、中国でできない技術で作られた商品。製品洗い
などの後加工、複雑なニットファブリック、高機能の合繊など。
・
日本では、流通が分断されていてもそれぞれの役割だけでなく、相手のこと
を思いやり、カバーしようとするので、品質が保たれる。しかし、中国では、
経営者から現場まで、相手のことを思いやるという習慣がないために、トラ
ブルが起きる。
・
中国の顧客は、「日本の製品だから」と完璧な品質を求める傾向が強い。中国
製には甘い基準でも、日本製には非常に厳しい基準を適用する。中国製品は
バラツキはあるものの、品質そのものは高いレベルになっている。
・
日本人は中国の商習慣がおかしいと言い、中国人は日本人の商習慣がおかし
いと言う。独資にしろ、合弁にしろ、中国法人の主体が中国人であることは
間違いない。中国市場では中国の商習慣に従うのが当然であり、それを日本
人が行うのは困難である。日本人は一流の職人だが、商人としては二流、三
流だと思う。
③展示会について
・ 数年前まで、インテキ上海には産地単位で出展するケースも見られたが、十分な
説明ができず、着分、現物オーダーもできないことが多かった。展示会後の、商
談、物流、決済機能を持たないメーカーも多かった。すなわち、商売する機能を
持っていないので、商売ができない。
・ 商社に依存しても、商社は営利目的であり、複数のエージェント経由で販売する
ために、価格がバラつくという苦情も出ている。
・ 弊社は、基本的に直接中国のアパレルに販売しているが、たまに、国内の販売先
から輸出されることもある。日本の商売方法、商流がネックとなり、中国市場で
苦戦する例も多く見られる。
・ 海外の展示会は「商談会」という明確な目標があるが、国内展示会は販売促進の
ツールであることを忘れ、それ自身が目的化している。未だに、販売会なのか求
評会なのかが曖昧である。そのため国内展示会の位置づけが明確ではなく、出展
者と来場者のミスマッチが発生し、展示会の魅力そのものを失わせている。
・ 展示会以後のフォローアップ不足と、国際的コミュニケーション能力が不足して
いるために、実績が上がらない企業が多い。
④テキスタイルブランドについて
・
素材の寡占化と需要家の協同によるブランド化は可能だと思うが、アパレルの
ようなブランドは困難。一時期のテンセル会などは成功事例。しかし、素材企
業が次々と国内生産を打ち切っており、素材での差別化は日本で困難になる一
方である。
- 202 -
・
テキスタイルは、素材とアパレルの中間素材であり、単独では独自性を発揮し
づらい。また、競合他社によるコピーが容易であり、市場での過当競争を引き
起し、市場をつぶし合うという歴史を繰り返している。
⑤テキスタイル流通について
・ 繊維に携わる人間の自信喪失により、信念を持つことができず、全員がリスク回
避に走り、リスクの押し付合に終始している。信念を持って動いているユニクロ
が成功しているにも関わらず、手をこまねいている状態である。
・ 問屋自体が本来の問屋機能を果たさず、つなぐだけの間(あいだ)屋に成り下が
っている。問屋の淘汰が進み、機能を進化させた問屋がテキスタイル流通のイニ
シアティブを握る日が来ることも予測できる。
・ リスクを取らないOEM型テキスタイル販売という薄利のビジネスは採算が取
れず、各商社共にテキスタイル部門を縮小している。コンバーター業態は、金融
機能とアパレルの組み立て能力を生かせるかが鍵を握る。
・ テキスタイルビジネスにおいて、それぞれの商社の果たす役割と責任が明解にな
っておらず、国内メーカーのつまみ食い的な対応が日本のテキスタイルの力を削
いでいる面がある。
・ リスクの押しつけあい、不平等条約を排除し、それぞれが責任を持って役割を果
たし、最終消費者からの利益の最大化を図ることが重要だ。
・ 国内テキスタイルメーカーは、問屋に依存し、賃加工で定収入というビジネスモ
デルが命取りになってしまった。
⑥テキスタイル企画について
・ 各社はそれなりに、魅力あるテキスタイル製品の提案を行っている一方で、マー
ケット追随型に偏り、主張が薄れ、結果的に同質化する傾向にある。また、折角
の企画商品を最終商品として市場に打ち出していくパワーが不足している。素材、
商品、市場をバランスよく理解し、商品化していける人材の育成が必要。
⑦QR生産について
・ QR生産の強みは、売れ筋商品のフォローアップと過剰在庫の回避。弱みは、コ
スト競争力はあるが、無難な商品ばかりになり、魅力に欠けること。適切なリス
ク分散と応分のコスト負担をすることで、マイナス点をカバーした商品をQR生
産することが重要だ。
⑧人材について
・ グローバルな視点を持ち、バランスが良く、それぞれの専門分野の人々とチーム
を組める人材。モノ作り、商品、市場に対し、好奇心と興味を持ち、決められた
- 203 -
範囲の中で自己責任で行動できる人材を育成したい。
・ 現在、中国人社員は、上海事務所に30人ほどいる。日本本社でも4~5人採用
したが、定着していない。女性は日本人と結婚し退職する人が多い。
2.瀧定大阪株式会社
経営戦略室長
瀧
直人氏
[2009 年 10 月 28 日、国際フォーラムにて]
①日本製品の強みとこだわりについて
・ 技術には二つある。第一は、科学技術のように数値化できるもの。第二は、匠の
技術のようなノウハウで数値化しにくいもの。こちらの技術はどんなに高度でも
市場に合うか、合わないかが問われる。また、その技術を維持するのが困難であ
り、現実的に技術の継承ができない状態にある。したがって、「ジャパンブラン
ド」は幻想かもしれないと思う。
・ 弊社の強みも、拠点が一つで非定型な情報が集積しているところにある。その強
みを発揮するには、欧州やアジアに拠点を増やすことは難しい。日本の強みも似
た部分があり、産地という非定型な情報が集積する場に依存しているのではない
か。
②テキスタイル輸出について
・ 欧米市場では、7~80億の売上がある。本気になれば、もっと売上は伸びるか
もしれないが、現状、拠点を日本以外に構えることは考えておらず、それほど急
激な成長は見込めないだろう。
・ 中国生産が増えるにつれ、アパレル企業は調達先が増えた。テキスタイルも販売
先を増やさなければならず、有望な市場である中国市場進出も考えている。
・ 中国上海に今年4月から事務所を開設していたが、7月頃から日本のやり方その
ままでは、機能しないことに気がついた。そこで、11月から正式に現地法人「瀧
定商貿(上海)有限公司」を立ち上げて、業務をスタートさせる。
・ 中国市場も片手間では成功しない。しかし、日本と中国の二カ国で同時に運営す
るには様々なハードルをクリアしなければならない。情報システムの問題一つで
も、中国語に置き換えるなどの手間がかかる。
・ 日本のアパレル業界では、瀧定という社名は有名だが、中国では全くの無名であ
り、マーケットプロモーションが重要になる。まず、瀧定がどんな会社であるか
を知らせるところからスタートしなければならない。
・ 日本では展示会を開けば、黙っていても顧客が来場してくれるが、中国では顧客
を呼び込まなければならない。そのアパレル企業の名簿もない状態であり、15
名から20名のスタッフが店頭で売れているブランドを調査し、そこからアパレ
ル企業を調べ、顧客リストを作成し、DMを出した。
- 204 -
・ 今年のインターテキスタイル上海と同時期に、自社展を開催した。出展商品の8
割は日本製である。
・ 展示会会期中の3日間、トレンドセミナーを開催したが、初日はそれほど集客で
きなかったが、二日目からは口コミで人が集まり、三日目には満席になった。中
国のアパレル企業は、非常に貪欲に勉強しようという姿勢が見られた。
③展示会について
・ 展示会に来場する顧客は何を期待して来るのか。プルミエールビジョンのパスケ
会長は「面白くないモノまで出展している」ことを懸念していた。出展者は、自
社製品や自社技術の幅の広さを見せようとする。それは、どんなオーダーにも対
応できるというOEMメーカーの発想である。展示会で見せるべきものは、モノ
ではなく、情報であり、メッセージでなければならない。
・ JCは「何でも出展していい」から駄目になっているのではないか。ヨーロッパ
は、その部分をトレンドという仕組みで解決している。プルミエールビジョンも、
トレンドというメッセージを確認する場となっている。
④テキスタイルブランドについて
・ 瀧定のブランド戦略も考えている。ブランド戦略のマイルストーンとして、プル
ミエールビジョンへの出展を考えている。プルミエールビジョン出展の条件は、
ユニークなコレクションであること。弊社では、5社のメーカーを指定して、他
社に真似のできない古い機械で、ヨーロッパのトレンドを意識したモノ作り行い、
欧州向けのブランド構築を考えている。
・ ブランドとは、最終消費者を意識して、生産現場までのストーリーを作ることで
ある。
⑤テキスタイル流通について
・ テキスタイル流通が激変する中で、弊社の優位性とは何かを考えなければならな
い。これまでの閉鎖的な環境の中では、何でも言える。今後は、閉鎖的な商習慣
を変えなければならない。
・ 弊社は、百貨店アパレル企業への売上に依存してきたが、気がついたら、日本以
外のサプライヤーの商品が増えていた。
・ 今後は、積極的に製品化ビジネスを考えていかなければならない。弊社は、百貨
店アパレルには生地供給、SPA企業には製品供給を行ってきた。また、社内組
織は基本的に素材別に構成されていたが、来春からは、マーケット別事業部への
再編成及び事業部の独立採算制に移行する予定である。
- 205 -
⑥テキスタイル企画について
・ これまでは、企画がトレンドマーケティングを行い、各課の中に商品企画担当と
営業担当がいた。企画と営業も厳密に機能分担しているわけではなく、営業担当
が実質的な企画を行うケースも多かった。
・ 今後は、トレンドマーケティングだけでなく、事業戦略レベルの企画も含めた、
マーケティング部(仮称)を創設する予定である。
3.財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター
一般社団法人ジョイント・尾州ブランド
事務局長
事務局長
加藤
柴田
正康氏
巌氏
[2010 年 2 月 9 日、財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンターにて]
①テキスタイル輸出について
・ 欧州テキスタイル市場の中心であるプルミエールビジョンに出展することを目
標に、「ジョイント・尾州」プロジェクトを平成15年からスタート。有限責任
中間法人ジョイント・尾州ブランドを経て、平成20年一般社団法人ジョント・
尾州ブランドを17社で設立。内11社が活動している。
・ プルミエールビジョン出展には審査が必要であり、これまでは実績づくりを含め
て、海外での展示会を行ってきた。
(下記、資料参照)
・ しかし、実態はほとんどビジネスになっていない。平成 19 年には 3,800 万円の
売上を記録したが、採算には乗っていない。平成 20 年は 750 万円になり、平成
21 年度も同程度に留まっている。
・ 尾州の機屋は大手アパレルの指示通り作れば売れるという時代を長く過ごした
ため、輸出ビジネスが分かっていない。その意味では、イタリアよりも輸出競争
力が劣っている。
・ イタリアの機屋は、展示会に際して、コレクションを組み立て、色を着け、着分
対応の用意が出来ている。ほとんどの日本の機屋はこれができていない。
・ 国内の売上が減少しているために、輸出のための企画、試織、着分の用意等がで
きないのが現状。国内市場が縮小しているから、海外市場開拓が必要と言うが、
ある程度の国内の売上がなければ輸出する資金力がない。
・ 海外ビジネスでは、優秀なエージェントがポイントになるが、大手商社、専門商
社も海外拠点を撤退しているのが現状。
②展示会について
・ 当初は欧州市場を目指していたが、現在は中国市場が有望と考えている。実際に、
中国の展示会の方が、反応が良い。
・ 展示会は、JCよりも産地展の方が商談になるので、産地展に集中したい。
・ 欧州の展示会もただ出展しても成果が上がらない。事前の打ち合わせ、事後の対
- 206 -
応が必要。また、最低限、イタリアの機屋並の着分準備等は不可欠。本気で市場
進出するのならば、現地オフィスを構え、イタリアの機屋に準じる対応が必要。
③テキスタイル企画について
・ 欧州市場では、欧州のトレンドを理解した上で、日本独自のものが求められてい
る。ジョント・尾州では、ネリーロディのトレンドセミナーを受けている。多く
の日本のアパレル企業もネリーロディのセミナーを受講しており、共通理解が得
られるのでプラスになっている。また、現地展示会での演出など、展示会でのフ
ォローも協力してもらっている。
・ ただ、欧州のトレンドに沿ったものを作っても、イタリアの素材との差別化には
ならない。やはり独自性が求められており、それが何なのかを模索している状態
である。
[資料]JB(ジョイント・尾州)海外展事業これまでの経緯と実績
○平成15年度
一宮地場産業ファッションデザインセンター(FDC)が尾州ブランド研究会を設立。
「尾
州ブランド」という共通の価値をイメージするブランドを立ち上げ、ブランド化による差
別化の時代に備える。
・ 内容:尾州ブランド構築に向けたコンセプト、仕組み、マーク、運用体制等につ
いて検討。(開催5回)
・ 参加者:毛工連、選出企業 23 社の代表、関連業界代表、その他
・ コーディネーター:名古屋工業大学大学院研究科(情報戦略高額)助教授
加藤
雄一郎氏
○平成16年度
JB(ジョイント・尾州)ブランドのコンセプトとロゴマーク等を設定し、環境を配慮
した 2006 年春夏物ファッション素材(織物)165 点を開発、パリのルーヴル美術館ギャラ
リーで展示会(産地単独展)を開催し、欧州でのJBブランドのお披露目とした。(商談な
し)。来場者 368 名。
○平成17年度
ジェトロの小規模事業者海外販路開拓支援事業の支援を受け、ウール・環境をテーマに
した素材を中心に 2006/07 秋冬婦人物ファッション素材を新たに開発。これをもって第2
回JBパリ展示会(産地単独展)を9月に開催した。また、年度後半には 2007 春夏婦人物
- 207 -
ファッション素材を開発し、欧州のメジャーなアパレル企業を訪問して素材提案を行った。
成約件数 4 件。サンプル請求 74 社 846 点、着分見本請求 11 社 15 点。
○平成18年度
一貫したブランドメッセージ発信のためJBオフィシャルHPK開設や欧州に専任の駐
在員を置くなど、広報、情報収集力の強化に努めるとともに、JBブランドの価値を象徴
したフラッグシップ素材を新たに開発。欧州のアパレル企業との信頼関係をより強固にす
るため第3回JBパリ展示商談会を開催した。
成約件数 19 件。サンプル請求 53 社 956 点。着分見本請求 22 社 72 点。
○平成19年度
広報・情報収集力の強化とJB素材の評価を高めるため、欧州ファッションデザイナー
とのコラボレーションによるパリコレクションへのデビューを果たした。また、開発を強
化したJBフラッグシップ素材により第4回JBパリ展示商談会に加え、新たにミラノで
も展示商談会を開催し、欧州でのとへブランドの足場を強化した。
・
開発の強化:素材(織物)開発2シーズン合計 230 点を開発
・
欧州デザイナーとのコラボレーション用素材 10 マーク
・
第4回JBパリ展示商談会(9/5~7、エスパス・シャトレ・ビクトリア)来場
者数 96 名、サンプル請求 867 点
第1回ミラノ展示商談会(9/11~13、パラッゾ・アッファリ)来場者数 70 名、
・
サンプル請求 327 点
成約件数:22 件(仏 15 件、伊 7 件)推定成約金額 38,438 千円、@28.0 ユー
・
ロ×156 円×50m×平均受注 8 反×22 件
サンプル請求 65 社 1,194 点、着分請求 29 社 97 点
・
○平成20年度
本年度のJBブランド海外展の目標は、欧州でのJBブランドのビジネスを本格化させ
ると共に、アジア市場に橋頭堡を築くことであり、目標達成のため下記事項を実施する。
・
JB素材開発の強化:アジア市場のニーズ収集のため、現地駐在の専門家に
調査を委託。従来のファッショントレンド情報や参加企業の強みを活かした
開発素材に加え、JBブランドの価値を象徴したフラッグシップ素材の開発。
・
2009/10 秋冬婦人服素材 112 点、2010 年春夏婦人服素材 55 点以上。フラッグ
シップ素材のカラーバリエーションを顧客ニーズ、市場性を加味して充実。
・
展示会等の継続開催:世界のファッションをリードする主要都市で単独の展
示会及び出展事業を開催。欧州市場ではパリ、ミラノでの単独個展を継続。
これまでの展示会商談会集中からプレ提案、展示商談会、フォロー提案と波
状的な事業展開に強化。アジア市場では香港の展示会に新規出展。
- 208 -
・
7 月中旬:プレ提案
これまでの主要取引先企業に、空きの展示会にさきがけ提案。パリでの企業訪問
(7/15・16)、ミラノでの企業訪問(7/17・18)。提案素材と件数:34 点、サンプル請
求 45 点。
・ 9月:欧州での展示商談会の継続開催
第2回JBミラノ商談会(9/15~16、ジョリィ・ホテル・ミラノ・プレジデンド)。
来場者数 30 名。サンプル請求 80 点。
第 5 回JBパリ展示商談会(9/17~19、エスパス・シャトレ・ビクトリア)。来
場者数 73 名、サンプル請求 596 点、着分見本請求4点。
・ 10月中旬:エージェントによるフォロー提案。
・ 2月上旬:SS提案欧州企業訪問
・ 10月と3月:インターストッフ・アジア・香港点への出展(10/8~10、香港コ
ンベンション&エキシビションセンター)。来場者数 104 名、サンプル請求 466
点。
・ ブランド価値の向上:欧州ファッションデザイナーとの提携により、パリコレク
ションへの継続進出。コラボレーションでコレクション用の素材開発 20 マーク。
協働してJB素材を使い、スーツ等を生産し、世界の百貨店等で販売。提携先:
シャロン・ワコブ女史。
4.中外国島株式会社
代表取締役社長
伊藤
正樹氏
[2010 年 2 月 9 日、中外国島株式会社にて]
①日本製品の強みとこだわりについて
・ 国内テキスタイル製品の強みは、ハイテクな合繊を含む「原料背景の多様化」と
「整理技術の多様化」。それによる複合テキスタイル。
・ 現状の中国等では、メイド・イン・ジャパンのブランド価値、信頼性はまだある
と思う。しかし、将来的にはどうなるのか分からない。その魅力と関税、増値税
が加わった価格が見合うかが問題だ。
②テキスタイル輸出について
・ 既に、昭和 13 年、天津に進出し、工場を建設していた。しかし戦争で全てを失
った。そういう経験のある企業は中国進出については慎重だ。しかし、弊社は、
1995 年に上海中外国島を設立した。当初は、企画と営業は日本で行い、生産の
みを中国で行っていたが、最近は、中国内販に向けて企画、営業機能も上海の会
社に持たせようと考えている。
- 209 -
・ 20年以上前から、IWSメンズウェアクラブとして、インターストッフに出展
していた。その時には商社に頼んだが、現在は直接取引をしている。
・ 本格的に輸出を再開したのは、1990 年から、トランクを引っ張って文字通りの
行商を行った。基本的には、各国に販売エージェントを置いている。やはり、現
地の状況に詳しい人がいないと商売にならない。
・ プルミエールビジョンが日本企業に門戸を開いた2002年から継続して出展
している。当時日本から6社が出展したが、継続しているのはニッケと弊社のみ
になってしまった。
・ しかし、プルミエールビジョン出展もメリット、デメリットがある。メリットは
新規得意先の開拓。デメリットは、公の展示会に出展してしまったことで希少性
が薄れてしまった。それが原因で、それ以前から付き合っていたエージェントの
いくつかは去って行った。
・ 弊社の輸出は全体の 15%だが、今後は増やしていきたい。暫定8条という持ち
帰り輸出の優遇制度があるが、実際には、特恵関税の生地を輸入し、それを暫定
8条を使って免税している例がある。これでは国内製造業の保護にはならない。
原産国表示等の義務もないのが現状。
③展示会について
・ 展示会は、最初は新規顧客が見つかるので良いが、次第に新しい顧客が見つから
なくなる。あるいは、新規顧客が小粒になってくる。これは、JCもプルミエー
ルビジョンも同様である。プルミエールビジョンもそろそろ出展をやめて、もっ
と密度の高いビジネスに切り換えた方が良いのかもしれない。それでも、プルミ
エールビジョンというブランド価値もあるので継続しているが、今後は検討しな
ければならない。
・ 海外の展示会に出ても成果が上がらないのは、後のフォローの問題が大きい。見
本だけ出して、商談を全て他人任せにしていたのでは、ビジネスにならない。展
示会に出すからには、カラープライス、生産ロットなど全て整えて準備しなけれ
ばならない。
・ 国内の展示会においては、ジョント尾州、ジョイント尾州メンズなど、産地の展
示会に絞っている。JCはあまりにも範囲が広くなり、ビジネスが難しくなって
いる。目的意識を持って来場されるバイヤーを相手にした方が良い。
・ 昔は、総合商社にも専門的な技術や知識を持つ人材がいたが、現在は頼りになる
人はいない。従って、全て自社で行わなければならない。自力で売る、行商で売
るということだ。
・ 各国にエージェントを置いているが、スカイプやメールがあるので、非常にコミ
ュニケーションが楽になっている。
- 210 -
④テキスタイルブランドについて
・ 弊社では、「COBO」というブランドで欧州市場に進出している。次第にブラ
ンドは定着している。日本のアパレル企業も噂を聞いて、調べたら「なんだ中外
国島さんのか」と言われることもある。
・ ブランドというのはある程度個性が出てくるので、広がりが出しづらいという問
題がある。これは日本と欧米のビジネスのスタイルが異なることも影響している。
日本では、要求されるものを全て受けなければならないが、欧米では、絞り込ん
だコレクションを販売するという考え方である。
・ 尾州産地としては「尾州染織布」という産地ブランドに取り組んでいる。尾西毛
工の紳士服地部会で進めている。タグにQRコードをつけ、トレーサビリティも
意識して行っているが、販路の設定等が難しい。最初は、高級品のみに限定しよ
うということだったが、デビューは百貨店の催事企画だった。
⑤キスタイル企画について
・ 欧州市場に対しては、欧州のトレンドに合ったものをつくっても誉めてもらえる
だけで、商売にはならない。弊社の代表的な商品は、タータンチェックに有松絞
りを加えたものであり、日本独自の商品であり、その背景に独自の技術がなけれ
ば価格も通らない。
・ 現在、イタリアの技術者とのコラボを進めている。日本と上海工場を活用して、
欧米市場に販売するという構想である。もちろん、日本市場、中国市場も視野に
入れている。
・ テキスタイルの企画については、市場調査、エージェトからの情報、雑誌や新聞
など、あらゆる情報源から情報を入手し、分析して進めている。しかし、最も大
きいのは、ヨーロッパで実際に自社のテキスタイルが製品となって店頭を飾って
あるのを見ることである。周囲の商品の状況等を含め、参考になるし、モチベー
ションも上がる。
5.ソトー株式会社
取締役社長
高岡
幸郎氏
[2010 年 2 月 9 日、ソトー株式会社にて]
①日本製品の強みとこだわりについて
・ 弊社は染色、整理の委託加工が主流だったが、今後は他産地の商品を取り入れて、
開発・提案型に移行していかなければビジネスにならないということで、3年前
からテキスタイル事業部を立ち上げた。今回のいわなかの事業継承もその一環で
ある。
・ モノを作れば売れるという時代は終わった。20 年前から下り坂だが、それでも
利益が出ていたが、今では利益も出なくなってきた。国内市場だけでなく、海外
- 211 -
市場も視野に入れたい。それには、市場シェアを高めなければならない。そうい
う意味でも、いわなかの吸収は大きな意味を持っている。
・ 日本のテキスタイルの強みは、根底に日本人の器用と品質管理にある。糸染め、
整理、撚糸、補修等のそれぞれに素材別加工技術があり、その応用がきく。また、
様々な柔軟な変更が可能である。それは受け身であるからこそとも言える。
・ また、糸の開発力と加工技術も日本の強みである。
・ 弱みは「ノー」と言えないこと。極論すれば採算割れでも引き受けてしまう。そ
のため、機屋さんもコンバーター依存が強まり、こだわり、独自性がなくなりつ
つある。
・ その結果、尾州産地全体が縮小している。産地としても営業力が弱い。
②テキスタイル輸出について
・ 現地の状況を調査して、現地の人材を活用してグローバル展開を進めたい。これ
まではマーケティングや販売の努力をしなくてもよかった。しかし、今後は市場
に入り込んでやっていくことが必要である。
・ 欧州輸出は、ダイドーインターナショナルを経由している。中国はいろいろなル
ートで輸出している。
③展示会について
・ 国内展は中止した。JCは時期ターゲットが曖昧になっている。レディス、メン
ズ等を全て一度でやるのには無理がある。また、学生が圧倒的に増えて、バイヤ
ーが減っている。知っている人は来場してくれるけど、挨拶だけして帰ってしま
うので商談にならない。展示会出展は、プルミエールビジョンのみを考えている。
・ 中国の展示会には出展したいと考えている。
④テキスタイルブランドについて
・ これまでは、アパレル、コンバーター主体できたため、ブランド力、提案力が弱
い。
・ ブランドと言っても、特定のブランドというよりも会社名をブランド化すること
かもしれない。いずれにしても、原料からの差別化、同質化しないブランド力が
必要である。
⑤テキスタイル流通について
・ 問屋経由の取引は少ない。アパレル直の取引がほとんど。ダイレクトな情報交換
と、ダイレクトな取引が重要である。
- 212 -
⑥テキスタイル企画について
・ 現在は、日本人のテキスタイルデザイナーと契約してモノ作りを行っているが、
中国市場は中国人デザイナー、欧州はイタリア人デザイナー等というような取り
組みも必要になるだろう。
⑦人材について
・ 今後海外ビジネスが増えれば、海外の人材活用が必要になる。現地法人での活用、
あるいは本社での人材育成も必要になるかも
- 213 -
4-2
アパレル編
1.株式会社オンワードホールディングス
執行役員
広報・環境部長
宣伝・マーケティング室長
保元
道宣氏
[2009 年 9 月 14 日、オンワードホールディングス本社にて]
①ライセンスビジネスについて
・ 弊社は、一部上場企業であり、全員が同じ方向に集中できる規模ではなくなって
いる。SPA型だけに特化することはできないし、ライセンスビジネスも百貨店
ビジネスも是々非々でやっていかなければならない。要は、契約条件次第であり、
条件が良ければ、ライセンスビジネスも収益が上がるし、百貨店ビジネスも同様
である。
②オリジナルブランドについて
・ コレクションには膨大なコストがかかり、企業にとって投資効果があるのかは疑
問。現状を見ると、「ハイリスク・ローリターン」になっている。独自のコレク
ションを展開するより、TGC(東京ガールズコレクション)等でコラボ参加し
た方が効果的。
・ コレクションからブランドを確立するというのは、コストも時間もかかる。また、
ブランドの意味が時代と共に変化している。ブランドビジネスなどの広がりを考
えると、服はその一部に過ぎない。そう考えると、ライセンスの意味も出てくる。
・ 自分の好きな服を作る新人デザイナーよりも、クリエイティブディレクターとし
て全体を統括する専門家が欲しい。
・ 現在の市場を見る限り、デザイナーをブランド化するのは難しい。ストアブラン
ドの時代になっていると思う。
・ 東京コレクションを維持するのであれば、行政やNPOなどの第三者機関が支援
する必要があるかもしれない。
③海外市場について
・ オンワードグループ全体では、売上の15%が海外市場であげている。そのほと
んどは、M&Aした現地企業の売上である。
・ 中国市場は、有望であると同時に、世界の最激戦区であると認識している。現在
は、日本スタイルで富裕層を狙い、200店舗までになった。しかし、中国市場
もリーマンショック以降、一時期の勢いはなくなっている。ローカル企業の台頭
も難しく、ローカライズしないとこれ以上の成長は難しいのかもしれない。
・ 基本的に、アパレル製品は自動車や家電のようにスペックで語れる商品ではなく、
固有の文化やライフスタイル、気候風土等にも強い影響を受ける。日本市場に進
- 214 -
出しているラグジュアリーブランドも中心商品はバッグ等であり、必ずしもアパ
レル製品が売れているわけではない。現在の状況を見ても、売れているのは大規
模SPAに限定されている。
④ファストファッションについて
・ 弊社は、付加価値の高いファッション商品を展開してきた企業であり、これから
ファストファッション市場に参入しても、競争力がないと認識している。現在の
段階で、ファストファッション市場に参入する計画はない。
・ ファストファッションはコモディティ的な商品であり、商品の質、ボリュームが
大きく異なり、世界的に人件費の低い地域で生産している。ブランドによって戦
略は異なるが、ミッシー・ミセスのブランド等では、逆の強みを追求すべきでは
ないか、と考えている。すなわち、国内産地を生かした差別化である。
⑤「クールジャパン」等への対応
・ クールジャパンの現象は理解しているが、どのようなビジネスモデルによりビジ
ネス化すべきかが漠然とした状態だ。日本独自の高品質な素材、ストリートファ
ッション等の着こなし等では可能性があるかもしれない。
⑥その他
・ 百貨店と我々の共通の問題点は、顧客をダイレクトにつかみきれていないこと。
アパレルは百貨店店頭における顧客管理を許されていない。しかし、百貨店も顧
客との 1to1 のコミュニケーションを十分に果たしていない。結果的に、顧客と
のコミュニケーションは、店長個人が自身の判断でDMのはがきを出す等に留ま
っている。JRのルミネ等は、全体のプロモーションをルミネが行い、個々の顧
客管理は各テナントが行うという役割分担ができている。百貨店とアパレルの関
係では、そこが曖昧なまま放置されている。
・ 流通等では、成長戦略ではなく生き残り戦略に終始している。既存の分野が減少
するのは間違いないだろう。それを、新しい人材と新しい仕組みでカバーしてい
かなければならない。オンワードグループとしては、既存事業の立て直しを行い
ながら、M&Aをテコにした成長戦略を描いていきたい。
・ 日本からアジアばかりでなく、ヨーロッパからアジア市場に進出するという方法
もある。
・ アパレルの周辺分野、たとえば、ペット関連なども注目している。
2.株式会社サンエーインターナショナル
マーケティング統括本部
事業開発部
クリエイティブディレクター
- 215 -
佐々木
聡氏
[2009 年 9 月 15 日、株式会社サンエーインターナショナル本社にて]
①ライセンスビジネスについて
・ 世界の潮流は、ライセンスビジネスに否定的だ。「ライセンスではなく、商品を
買ってくれ」と言っている。これまでは、ライセンサーとしてロイヤリティ収入
だけでも良いと考えていた企業が、製造者利益を確保したいと考えるようになっ
ている。
②オリジナルブランドについて
・ 「FREE'S MART」(フリーズマート)」が好調。ここ5年間の新規事業の中で、
最も明るい話題だ。
・ 現在の状況は、80年代中頃の不況感に似ている。既存勢力が不調であり、こう
いう時に新興勢力が出てくるものだ。残念ながら、今回の新興勢力は黒船(外資
企業)だった。
・ 流通再編はアパレルの変化も伴う。現状をひどいと思っているのは企業側だけで
あり、若い人たちはひどいと思っていない。企業の疲弊と産業の沈滞は、新陳代
謝を怠ると起きる現象であり、未来の展望が必要になる。
・ ファッションビジネスには、
「製造」
「クリエイション」
「小売り」の要素がある。
日本の異業種でも製造の分野での成功事例は多い。ユニクロも日本の製造業の強
みをアパレルに持ち込んだ。アッセンブルの強みである。「クリエイション」で
の成功事例は少なく、弊社はそれを目指したい。
・ ユニクロは、製品価格の中で製造原価が占める割合が大きい。ラグジュアリーブ
ランドは、製造原価の占める割合が低く、情報価値、感性価値が占める割合が大
きい。最近は、消費者が情報価値、感性価値の部分に「ノー」を突きつけている。
・ 業界の人間はユニクロの製品価格が低すぎると言うが、ユニクロの価格は、郊外
生活者のアパレル支出水準に対応したとも言える。
③海外市場について
・ 中国市場で日本企業が成功できないのは、マーケティング視点がないことが大き
な要因だ。米企業は、CMO(チーフマーケティングオフィサー)が中国法人の
代表になることが多いが、日本では商社系のモノ作りの担当者が、中国に詳しい
ということで中国法人の代表者になることが多い。そのため、どうしてもモノに
興味が行ってしまい、ブランディングがおろそかになる。
・ 中国で売れないとすぐに、「ローカライズしなければならない」と言うが、間違
いだと思う。中国市場に合わせるのではなく、日本ブランドの持つ強みで勝負し
なければならない。ブランディング戦略が必要なのに、サイズや色など、商品M
D改善だけに走ってしまう。グローバルなブランドはローカライズしていない。
- 216 -
H&Mが中国だけに対応した色とかサイズを展開しているだろうか。
・ 海外ライセンス、オリジナルブランドの区別なしに、成長するには海外市場に出
るしかない。
・ 現在、中国ビジネスの中で、華僑と組む動きがあるが、本当に良いのかは分から
ない。短期的に、中国法人と組むのは良いと思うが、最終的にはパートナーが重
荷になる場合が出てくるだろう。いずれにせよ、最終的には、製造業の強みとプ
ロモーションで勝負することになる。
・ 日本企業が海外市場で苦戦する最も大きな要因は関税だ。アメリカは繊維製品の
貿易については、保守的であり輸入関税が高い。日本は繊維製品の輸入関税がほ
とんどない。完全に不公平な条件であり、そのことが外資の上陸を促している側
面は否定できない。日本市場の価格水準のままで、海外市場に展開できれば、競
争力はあると思う。しかし、輸出した場合、関税が加わるので、日本のマスマー
ケットの価格がブリッジゾーンの価格になってしまう。
・ 一方で、「ヒステリックグラマー」というブランドは、アメリカ市場でも売れて
いる。高価格に関わらず評価されている例もある。
・ 日本は「匠の世界」に入りすぎている。イタリアは「匠の世界」を演じながらも、
最新の設備に投資している。日本の繊維製造業も、現代的な設備を使わなければ
市場では通用しない。
・ 元気な時には、良い人材が集まる。「人」というキーワードで考えることも重要
ではないか。たとえば、中国はこれから日本の「TD6(東京コレクションの前
身で、トップデザイナー6人の意味)」のようなものが始まると思う。その段階
で、日本の素材メーカーとアパレルがノウハウを提供して、中国の若手デザイナ
ーを育成する。アジア経済圏の中でいかにWIN-WINの関係を築くかが重要
になる。
・ 最近、社内にも「リアル」ということを強調している。我々にとって「リアル」
とは「女の子の笑顔」だ。会社が大きくなると、だんだん笑顔から遠ざかってい
く。デザイナーも自分が喜んではだめで、お客様を喜ばすことを考えなければな
らない。
・ ファッションとは、常に現状否定することだ。つまり、見たことのないものを創
造すること。見たことのないものを創るということは、馬鹿げた作業でもある。
馬鹿げたことを許容できない会社からは新しいものは生まれない。
④ファストファッションについて:特にコメントなし
⑤「クールジャパン」等への対応
・ 中国で成功するには、「渋谷109」を丸ごと持っていけばいい。セクシーとい
う切り口で、一つの館を構成するスケール感が必要だ。「渋谷109」全体を一
つのファストファッションブランドと見ることもできる。
- 217 -
⑥その他
・ 業界では話題にならないが、日本の古着の人気が高まっている。日本人はアメリ
カのブランドに関して古着を通じて知った人も多いと思う。アメリカの古着に人
気があったのは、当時の世界の中で、最も品質の良いアパレル製品がアメリカ市
場に集中していたため、古着も質も良かった。80年以降、世界の中で最も高品
質なアパレルが集中していたのは日本であり、現在、日本の古着は世界でも最も
人気がある。アメリカの古着が1トン1万円なのに対し、日本の古着は1トンで
2万円。古着の99%は輸出、国内消費は1%程度。したがって、膨大なアパレ
ル製品が輸出されていることになる。今後、アジアでは古着を通じて日本のファ
ッションを知る人が増えるだろう。日本の業界は、そのことを理解し、利用する
べきだと思う。このリユースビジネスを、どのように発展させるかが業界の課題
でもある。
3.マツオインターナショナル株式会社
副社長
吉田
和男氏
[2009 年 9 月 18 日、マツオインターナショナル株式会社本社にて]
①ライセンスビジネスについて
・ ライセンスビジネスの内容が時代と共に変化している。かつてのブランドホルダ
ーはブランドを立ち上げた人だった。現在はファンドが対象になっている。
・ ライセンスブランドについて、消費者が特定のイメージを持っている以上、ライ
センスの価値はある。問題は、どのようにマーケティングをするかだ。
・ バブル経済の頃、日本のアパレル企業には豊富な資金があった。それでM&Aを
した事例も少なくない。しかし、現在では経済環境が変化している。
・ 「アニエスβ」はリセ向けの良質で普通の服だが、そこにライフスタイル、深い
価値がある。しかし、その価値を創造したのは、アニエスβ自身だけでなく、そ
れをビジネスにした人の功績だと思う。
・ ボジョレーヌーボーのような不味いワインをビジネスにしたのも、ビジネスの大
きな功績である。世界中で最も早くボジョレーヌーボーを飲むツアーなどもある
が、ワインそのものの価値ではなく、その時期にボジョレーヌーボーを飲むとい
う行為に価値がある。
②オリジナルブランドについて:特にコメントなし
④ファストファッションについて
・ 日本のDCブランドは、オートクチュールからの流れではなく、欧米から見れば
亜流に過ぎない。
・ パリでもミラノでも、コレクションの立ち上げ時には、後ろで官が支えている。
- 218 -
官がプラットホーム、土台を作り、その上で個が情熱を発揮しなければ成功しな
い。
・ 弊社は、ファストファッションの逆を行こうと考えている。また、ユニクロのよ
うに安くて品質の良いベーシックな商品だけでも選択幅が少なく、人生が楽しく
ならない。ファッションとは多様性であり、多様性を確保するためには、自社の
利益だけを考えても駄目だと考えている。
・ 弊社が主催している「匠の会」では、テキスタイルメーカーを集めてビジネスマ
ッチングを行っている。また、9月16日に新宿高島屋にオープンした「ノリエ
ム・デザイナーズ」は「ニューグローバルスタンダード」をコンセプトにした、
デザイナーブランドのバイイングアイテムを中心にしたセレクトショップであ
り、外部デザイナーとの連携を強めている。
・ また、10月中旬には、CFDとのコラボレーションによる展示会を計画してい
る。
③海外市場について
・ 歴史的に見て、日本人が世界に出て行った経験は少ない。しかし、YKK、シマ
ノ、マブチモーターのように、世界に進出して成功している事例もある。
・ 海外市場に進出するには、リテールのノウハウが必要である。しかし、日本の行
政機関、産地支援機関等は製造業を基本にしており、製造業に関するデータはあ
るが、リテールやプロモーションに関する情報やデータは皆無の状態である。
・ 海外の展示会に出展しても、まずは独りよがりで「素晴らしいだろう!」と言っ
て、展示会後のフォーロを行わない。これではビジネスにならない。
・ 弊社では、パリのマレー地区に出店し、リテールの拠点としている。当初は、サ
ントノーレ地区へ出店を考えたが、主な顧客層が観光客であり、地元の顧客に対
応したいということから、マレー地区を選んだ。ここでは、フランス人の生活に、
和の要素をいかに持ち込むかがコンセプトである。今回の出店に関しても、社長
の松尾と副社長の吉田の個人的なコネクションで進行した。
⑤「クールジャパン」等への対応
・ ルイヴィトンの広告に、ペルシャ刺繍のショートパンツが紹介されていた。ペル
シャの刺繍だが、ヨーロッパ人の生活の中で使えるグローバルな製品になってい
る。一方で、日本の陶器はヨーロッパ人の生活の中で使われるだろうか?飾り物
としては良いが、食器洗い機による高温での洗浄に耐えられなければ実用にはな
らない。このように、日本の伝統的なモノをそのままヨーロッパに持って行って
も生活の中には受け入れられない。
・ 日本が国際化できないのは、海外のことを「知らない」から。西欧社会は、自ら
が作ったルールに自らが行き詰まっている。その閉塞状況を打破するために、東
- 219 -
洋的な発想が必要だと考えている。
・ 東洋的発想の一例が「スーパーフラット」なマンガである。西欧は、歴史的に平
面に立体を再現する遠近法を重視しており、一つの視点でモノを観る癖がついて
いる。日本のマンガは、主体と客体の視点を併せ持っており、これは彼らの発想
にはない。
・ 現代の西欧社会の生活にいかに「和」を取り込むのか、という視点が必要であり、
それには西欧人のライフスタイルを理解する必要がある。まさにマーケティング
であり、それは中国市場でも共通している。
4.株式会社ワールド
社長室室長
畑崎
充義氏
[2009 年 9 月 24 日、株式会社ワールド本社にて]
①ライセンスビジネスについて
・ 元子会社のオリゾンティ(現在は伊藤忠商事傘下)はライセンス、インポートを
扱う会社だったが、ワールド本体はライセンスをしたことがない。。
・ 上場していた頃から、「安定した経営のためにはライセンスはすべきではない」
という考えを持っていた。
・ 現在、ライセンスと言えるのは「ハロッズ」のメンズラインのみ。為替が120
円/ドルの頃は、日本の良質な商品を英国に輸出しようという話もあったが、円
高になってその話は立ち消えになった。
②オリジナルブランドについて
・ 弊社では外部デザイナーを積極的に起用し、社内デザイナーとのコラボレーショ
ンを行っている。ブランドコンセプトは同じでも、外部デザイナーの視点により
角度が変わる。
・ 社内デザイナーの良さは、工場を熟知していること。その反面、マンネリ化しや
すいという欠点もある。一時期、あまりにも外部デザイナーに依存していたため、
現在は全体的には社内回帰の方向にある。
・ 基本的には、独立採算の事業部制であり、事業部が外部デザイナーを起用するか
を決定する。契約当初の報酬は低くスタートし、実績に応じて報酬を増額してい
くことが多い。
・ 弊社はニットからスタートしているので、基本的には布帛もニット製品同様に
「製品買い」で仕入れた。それができない縫製工場には、別会社のワールドテキ
スタイル(現在は解散)が商社的な役割を果たしていた。現在でも、ミセスブラ
ンドのニット国内生産比率は4~5割ある。
・ 弊社には「モノ作りが原点」という考え方があり、上場前には「メーカー宣言」
を出したこともある。現在は、店頭重視の方針を打ち出している。
- 220 -
・ 欧米のコレクションには、人数や資格などで枠がある。そのため、どんなに優秀
でも時代の流れに乗らないデザイナーはコレクションに出ることはできない。そ
ういう制限があるから、コレクションデザイナーが評価されているのではないか。
また、数千万のコレクションの費用は、一企業には負担が重い。ワールドでも、
何か節目の時にはコレクションを行うが、定期的には行っていない。
・ ファッション専門学校の留学生比率が上がっている。業界として彼らに投資して
も良いのではないか。目先の利益という意味ではなく、母国に帰ってから、日本
に良い印象を持っていれば、互いにビジネスが発展するだろう。
・ ユニクロの一人勝ちは、他の企業が工業としてのアパレルビジネスを徹底できな
かったことによると思う。
③海外市場について
・ 為替の問題が非常に大きい。繊維業界にとって、現在の為替は円高に振れ過ぎて
いると感じている。
・ 現在は、アジアで店舗展開を行っている。アジアにライセンス供与するという考
えは持っていない。短期的には良いかもしれないが、長期的に考えると弊害が出
てくるのではないか。直営展開ができないのに、ライセンスをすべきではない、
と考えている。
・ ライセンスビジネスの場合、アプルーバルが大切な作業になるが、かなり時間が
かかる。アプルーバルのためにスピードダウンすることは、会社の方針に合わな
い。
・ ワールドは、直営店と代理商の二本立てで中国市場展開を行っている。弊社にと
って代理商は日本の地方専門店と似ている。しかし、権利意識が強いので、代理
商と直営店のエリアを分けておかないと、トラブルが起こる。
・ 弊社の中国法人は、日本人の社長だけが日本人で副社長は台湾人、あとは現地採
用のスタッフ。中国在住の日本人、中国人スタッフの意見を重視して、商品企画
を進めている。
・ ローカル企業を進化するために日本人が必要とされている。現地の状況を分から
ない日本人が全てを決定しなければならない仕組みには無理がある。
④その他
・ 弊社の百貨店比率は 39%。百貨店以外に、高級品としてのプライスレンジを維持
できる流通はない。しかし、百貨店も立地により、商品内容やサービスを変える
べき。量販店でも、地元では百貨店の機能を果たしているところもあるし、百貨
店でも量販店や専門店の機能を求められる場合もある。百貨店という業態にこだ
わるのではなく、立地条件によって業態を変えることが必要だと思う。前向きな
百貨店には協力を惜しまないつもりだ。
- 221 -
・ 企業によっては、インターネットでの売上が一番店を超えている。現状を見ると、
価格ラインが低い商品が中心だが、インターネット販売には大きな可能性を感じ
ている。
- 222 -
5
海外ヒアリング調査結果
[前提]
本調査は、主に品質へのこだわり、技術力がある日本のテキスタイルメーカーが、何年
にもわたり海外展示会に出展しても成果を出せないという現状を踏まえ、世界の高級品と
して定着しているイタリアのテキスタイル商品がいかに付加価値を高め、グローバル市場
の中でブランド価値を訴求しているかを、多面的に調査分析し、日本のテキスタイル企業
のブランド育成、国際的競争力の向上に役立てることを目的としている。
2008 年秋の国際的金融不安以降、ラグジュアリーブランドの失速、ファストファッショ
ンの台頭など、イタリアテキスタイル業界にも大きな波が押し寄せている。中国などの新
興市場への進出についても、日本と同様の課題を抱えている。上記目的に加えさらに、同
じテキスタイル先進国である日本とイタリアの共通する悩みを探り、日本とイタリアが連
携して、中国市場等に対する新しいマーケティング戦略の可能性について探ることも併せ
て、本調査・本項の目的としたい。
5-1
調査期間
2009 年 11 月 23 日 ~ 2009 年 11 月 28 日 (6 日間、内現地調査 4 日間)
5-2
調査地域
イタリア共和国
5-3
ビエラ市、ミラノ市、コモ市
調査結果
5-3-1
はじめに
今回の調査に当たり、ミラノ市在住 20 年で日本向けビジネスサポート会社"SpaceWorks +
Q"を運営する数井允裕氏にイタリアの有力テキスタイルメーカー及びテキスタイル協会
(組合)等の産地支援機関とのアポイントとスケジュール組みを依頼したが、昨年9月の
リーマンショック以降、イタリアのテキスタイル業界は、有力企業の事務所閉鎖やリスト
ラなど、混乱を極めており、今回の調査目的がイタリア企業の直接的メリットにつながら
ないことから、アポイントは困難を極めた。中には、「この時期にイタリアの何を調べたい
のだ」と怒りを露にされたこともあったという。
マンテロ社(コモ)とはアポイント取れたものの日程が合わず、他、ルイジ・ボット社
(ビエラ)、ローロピアーナ社(ベルチェリ)、ラッティ社(コモ)等の有力メーカーには
ことごとく訪問を拒否されてしまった。
- 223 -
そこで、一方的なヒアリングだけでなく、彼らのメリットになるような提案をしてアポ
イントを取るという作戦に切り換えた。日本とイタリアが連携して中国市場を攻略する可
能性がないだろうか、という提案である。イタリアも日本と同様、急成長する中国市場に
は興味を持っているが、地理的な問題、生活習慣の違い等から、中国市場参入には苦労し
ている。そこで、地理的に近く、ハイテクと品質管理の日本と、芸術、デザインのイタリ
アが連携することで、中国市場に対しても有効なプレゼンテーションができるのではない
か、という提案を行ったのである。その結果、組合やいくつかの企業、また、日本には見
られない専門職である「クリエイティブディレクター」、ブランドをバイヤーに紹介する「シ
ョールーム」
、新進アパレル企業など、いくつかのアポイントを取ることに成功した。その
ことが、むしろ多角的なテキスタイル戦略の参考になったと考えている。
また、調査して分かったことは、過去の日本の調査が、専門知識のない調査員による型
にはまったヒアリングに終始しており、イタリアの業界人にとって、ヒントや刺激になる
こともなく、仕方なく付き合ってきたという現状である。これは、展示会等にも言えるこ
とだが、ビジネスにつながらないイベントを繰り返すことは、次第に互いの溝を深めてい
くことにもなり、今後の調査のあり方等についても深く考えさせられるものだった。
5-3-2
ヒアリング概要
5-3-2-1 Biella(ビエラ)地区
Tintoria Finissaggio 2000 s.r.l.(ティントリア フィニサッジョ 2000 社)を訪問。セ
ールス・ディレクターの Marco Bardelle(マルコ・バルデッレ)氏及び Dino Masso(ディ
ーノ・マッソ)氏と面談。
ティントリア・フィニサッジョ 2000 社は 1973 年設立の染色及び仕上げ(加工)工場で、
中高級クラスの顧客を持ち、顧客の生機を工賃で染色・仕上げ(加工)する形態の会社。
70%がニット(ジャージー)を扱い、残り 30%が生地を扱っている。
- 224 -
世界的にラグジュアリー・スーパーブランドが苦戦し、ZARA や H&M に代表されるファス
トファッションが市場を席巻している今日、スーパーブランドとともに歩んで来たビエラ
産地としてはどう生き残りをかけるのか?の問いに対して、①今までどおり品質をわかる
層に売っていく。価格競争はしない。②新興国(ロシア、中国等)の富裕層に売っていく
という明確な答えと、現在のファストファッションは生地の品質を追求していないので、
消費者はそのうちファストファッションにも品質を求めるはずとの、ある種余裕の返答。
彼らが工賃ベースで染色、加工を請け負う下請け的な立場であるということも、あまり
ファストファッションを意識していない言動の表れだとも思う。
ただ、現在までのスーパーブランドの値段と付け方もおかしいとも。スーパーブランド
はコストに対して、10 倍~12 倍の上代をつけて商売をしており、この値段の付け方は間違
っているともコメント。
また現在のモノ作りは、スタイリストから始まっておらず、生地を買いつけする人は、
バック資本(昨今はファンドの進出が顕著)の意見に左右され、コストをさげることに夢
中なので、その点も消費者との時代感覚のズレもある。また生地から発想できないような
デザイナーも増え、質が落ちている。
このイタリアの状況は、日本でも、素材からデザインの発想が湧かず、出来上がったサ
ンプルを見ないとデザインできないデザイナーが増えている状況と似ている。
ビエラは現在、“Biella The Art of Excellence”という財団を立ち上上げ、ビエラ地区
の産業を守ろうとの動きがある説明も受けた。
“Made in Italy“という言葉が独り歩きしすぎ、いわゆる Made in Italy= 高級品とい
うイメージを消費者が持つ中、世界最高峰の毛織物を生産してきたという自負のあるビエ
ラとしては、
“Made in Biella”という自分たちの市域をブランド化することで、他の地域
の商品と差別化し、他の産地に対して、優位性を持とうとビエラ・アート・オブ・エクセ
レンス財団がブランド管理をしている。
きっかけは、百貨店の PB ブランドに Made in Biella を付けたかったということからス
タート。現在は一介の生地メーカーに留まらず、ブランドとして名をはせているゼニア社
- 225 -
もローロピアーナ社も皆ビエラ地区の会社なのに、”Made in Italy”は知れ渡り、それに
対してビエラという名前が消費者の間に浸透していないので、その名を広めたいというあ
るようだ。
またビエラ地区では、”Associazione Tessile e Salute”(生地と健康協会)なる皮膚
科の医療機関と生地協会が組んだ政府機関からも承認されるような取り組みも始めており
(5~6 年前から)、このフィニサッジョ 2000 社では、この生地と健康協会から承認される
染料(皮膚に害を与えない)を使っている。
つまり、モードもさることながら、人々の健康に関わっていくこともビエラ産地の方向
性ととらえている。この協会はヨーロッパ中の医療系のデータベースを持っており、日本
政府とのコラボレーション(連携)も可能とのこと。この点でも、ビエラ地区を守る為の、
他の新興国とのモノ作りに対する違いの哲学を表しているように思う。
最後に日本のテキスタイルについての質問には、日本は、ハードは良いが最終“手”が
加わらないと欧州では売れないだろうとのコメント。この“手”とは正に彼らの仕事であ
る“染色”“仕上げ加工”のことでここのイタリア人の感性という“手”のソフト部分が隠
されており、最終メイク(化粧:加工仕上げ・風合出し)の仕上げで欧州に売れるかどう
かが決まってくるという意味らしい。
実際、このフィニサッジョ 2000 社も半年くらい前から名古屋の“ノリタケ”(ニット)
社の生機を輸入し、染色・加工をして欧州に販売するといったコラボレーションをスター
トさせている。
なぜ日本のテキスタイルが世界に出て行けないか?のストレートな問いかけには、
・
ビエラには世界に向けての歴史がある。
・
日本の生地ブランドやデザイナーが世界市場で認識されていない。
・
欧州の生地メーカーは欧州デザイナーアパレルの欲しがるものを知っているが、日本
のメーカーは知らない。つまり売り先のニーズを充分に理解したモノ作り、提案がなさ
れていないという意味に解釈できる。
Pierangelo D’agostino 氏と面談。
彼はビエラ生まれで、ビエラに存在する“CERVO”(チェルボ)という 1862 年設立のボ
ルサリーノと同じくらい古い帽子メーカーで面談。
- 226 -
彼は、アート・ディレクターという立場で仕事をしており、現在までずっとフリーラン
スの立場で、Cariaggi(カリアッジ)というカシミアを扱う古い生地メーカーの再生、また
hlam(ラム)というニットメーカーのオーナー件デザイナー、スウェーデンのブランド
“J.LINDEBERG”(J.リンドバーグ)のアート・ディレクターという多岐の仕事をこなして
いる。
また、ローロピアーナのアート・ディレクターも 6~7 年務めていたようでブランドビジ
ネスを熟知している。
彼からの日本のテキスタイルビジネスについてのアドバイスとして、
・ 日本が持っている(メーカーが持っている)情報をオープンにし、経験を交換
することで、イタリアとコラボレーションできる。
・ 日本とイタリアの共通点として、両国とも工場(産業)があり、また伝統技術
を持つ職人がいる。ただ、日本とイタリアの決定的な違いは、イタリアはこの
工場と職人が同時に世界に進出して行ったので、世界に認められた。反対に日
本は、トヨタの車、ソニーの家電、合繊メーカーのように工場の部分は世界に
進出できたが、テキスタイルの世界の染色技術、機織技術の中にある職人と職
人技術は国内に取り残されたままで、世界に進出しなかった。
・ モノを作る前に市場をイメージする。(マーケティング)
・ そこからイタリアのメーカーは直ぐに市場に対してアクションを起こす。ゼニ
アもローロピアーナもショップを作り、消費者に積極的に対峙していった歴史
がある。マーケットをみて、何を作れば受け入れてくれるかを考えて、ブラン
ドを作り、直ぐにアクションを起こす。
このことは、今日まで日本の生地メーカーが海外の生地展に出展してもなかなか成約に
結びつかない事実。あるいはエージェントに頼んでも欧州の生地に売り負けする現実に他
ならない。
すなわち、売りたい相手が見えていない。その相手に対して研究がなされていない。(少
なくともイタリアのメーカーの方が、相手が欲しいものを知っている。)というマーケティ
- 227 -
ング不足に他ならないと感じた。
Unione Industriale Biellese (ビエラ工業組合)
Biella The Art of Excellence
団の副会長
(ビエラ・ザ・アート・オブ・エクセレンス)
財
Mr. Marco Della Croce di Dojola(マルコ・デラ・クローチェ氏)と海外事
業部長 Mrs.Claudia Ferrero(クラウディア・フェレーロ女史)と面談。
このマルコ・デラ・クローチェ氏は、ちょうど今月前半に来日し、11/11 にイタリア貿易
振興会主催の“ビエラの創造性”というセミナーに出席している。このビエラ・アート・
オブ・エクセレンス財団は、“ビエラ”というブランドを管理し、販売促進していくために
ビエラ工業組合によって設立された財団で、主に以下の活動を行っている。
①
ビエラの秀逸した品質を証明すること。ビエラ地区において、紡績、機織、加工仕
上げの 3 工程のうち、2つの工程が行われれば、“Biella of Art of Excellence”
のブランドマークをつけることができる。
②
製品及び、製造過程を販売促進すること。
③
地域の歴史・経験を広く対外に知らしめること。
④
ビエラ地区の産業文化を守っていくこと。
約 20 日前に来日したことでもわかるように、この財団は日本市場への興味が高い。その
理由は以下の2点。
・ 日本市場が品質への要求が高い。
・ 日本が世界第 2 位の貿易国である。
今回の日本でのセミナーにこの財団は前述のフィニサッジョ 2000 社のマルコ・バルデッ
リ氏も同行させており、何故染色・加工工場を同行させたかという理由について、マルコ・
デッラ・クローチェ氏のコメントとして、ビエラ=高級毛織物という固定概念に加え、ビ
エラの高度な染色・加工仕上げ技術を知らしめる意図があったとのこと。
また、今回提案してみたイタリアと日本のコラボレーションにより中国市場へ販売促進
についての問いに対しては、
・ 大いに興味有り。
・ ただし、現在は世界中が中国市場に目を向けているが、大きな市場であるととも
に、反面、危険な市場でもある。
・ 中国市場とはまだまだ文化的なギャップがある。中国人はいいものを知らない。
・ ゼニア社の場合、20 年投資し続けたからブランドとして今日の成功がある。
・ 地政学的にイタリアにとって中国は遠すぎるので、地理的に歴史的に近い日本か
ら学ぶことは有意義で、日本側から提案してくれるのであれば、中国市場に向け
て、一緒に行動することには興味がある。日中の政府レベルで、売る道を作って
- 228 -
欲しい。
こちらからの提案として、
①
日本のハイテク繊維(技術)とイタリアのハイセンス生地の合体商品をイタリアで
作り、中国へ販売。
②
日本はアジアで最初にイタリアの品質に触れ、理解した国なので、この経験を中国
市場での販売に活かす。
具体的には、上記プロジェクトの素材を中国の若手デザイナーに供給し、中国でイベン
トやショーを行い、イタリア+日本が中国の若手デザイナーを育て、市場を作る。
その為には、日伊両国とも周りの団体・政府のも賛同してもらい、大きなプロジェクト
にしていく。
この面談で理解したことは、イタリアといえども中国市場は遠すぎて、市場参入には苦
労しているということ。従って、地理的に近い日本の中国市場での経験・ノウハウがイタ
リアには参考になる。日本のハイテク繊維技術とイタリアのもの作りの感性(染色、加工、
時に機織も)のマッチングによる商品作りは、中国市場向けばかりではなく、他のマーケ
ットでも通用するのではないかという可能性。それが少し見えた面談だった。
5-3-2-2 Milano(ミラノ)地区
RODA 社(ローダ社)
10 年前にブランドを立ち上げたアパレルメーカーのショールームを訪問。
営業担当 Mauro Andrea Stevan(マウロ・アンドレア・スティーヴン)氏と面談。
スタート時はネクタイブランドとしてスタート。4 年前からメンズトータルブランドへと
成長。イタリア国内向け売り上げが 65%、残り 35%が海外向け、内 10%は日本向けのブラ
ンド。価格帯はスーツで Euro900-1000(上代)ジャケット Euro700-750 と中高級ブランド
で、70%はオリジナル生地を使用している。生地メーカーもビエラの小さなメーカーと組み、
オーナーの Roda(ローダ)氏のコンセプトを理解してくれているので、小さくてもオリジナ
- 229 -
ルの生地を作れるとの談。
この 10 年間のけっして経済環境の良いとはいえない時代に創業し、なぜ成長できたの
か?それはイタリアだからできるのかの問いには、
①RODA 社のケースはイタリアでも非常にレアなケース。そうそう簡単にブランドは生まれ
ない。
②成功の秘訣は、
(1) 焦点をあて、特化する。
(RODA の場合は最初はネクタイに専念)
(2) サプライヤー(生地・縫製メーカー)を厳選すること。
(3) そのサプライヤーにきちんとコンセプトを理解してもらい、協力を仰ぐ。
(4) 毎回必ずコレクションのテーマを決める。
ファストファッション全盛の今日に於いても、ミディアムクラスの商品を買っていた
層が下に流れているだけと意に介していなかった。
* ただ今回の経済危機で、消費者の価値観が変わってきている。タンスの中は洋服
で一杯で、物を買わなくなってきている流れは承知しているが、服を作るものは
もっとエモーショナル(感情的)でならねばならないと、服作りの哲学はしっか
り持っていた。
* イタリア人は服を着、着せるが、他の国の人は服を包んでいるだけと自信のコメ
ントだった。
Breramoda(ブレラモーダ)
洋服のブランドを扱うショールーム。ミラノはショールームが多く存在しており、新
進のデザイナーは彼らのように世界中のバイヤーたちとネットワークのあるショールー
ムに、自らのブランドの販売を委託する。
いわば営業代行。彼らは、受注高に応じて、ブランド側よりコミッションをもらうシス
テム。顧客を持たないブランドが、一気に世界に販売できるチャネルとなっている。
* ここの共同経営社の Mrs.Maria Lannotta(マリア・ランノッタ)さんと面談。
*
2010 年 S/S の受注状況としては、メンズはダウン、レディースはアップしている
とのこと。
* 昨年来の経済危機によって、スーパーブランドの売上が落ちてき為、こういうショー
ルームが扱う無名ブランドの買い付けが増えてきている。
某有名スーパーブランドのテキスタイル仕入担当者との面談
この夏に JETRO の招きにより、大阪で行われた日本テキスタイル商談会にも招かれた有
名ブランドのバイヤーが匿名を条件に取材に応じてくれた。ミラノで JETRO 展をオーガナ
イズされている横田早苗様も同席され、今までの日本のテキスタイルの展示会のやり方、
販売の仕方について、単刀直入に問題点を話していただいた。
- 230 -
・ まず、日本も生地は柄物が少ない。無地モノが多いという印象。その点、ビエラ
の生地は柄があり、選択肢が拡がるらしい。
・ 日本にはいい職人がいるのに、その職人をいかに使うかを知らないようだとの印
象を持っている。
・ 日本のテキスタイルと欧州のブランド(アパレル)をビジネスで結びつけるには、
イタリアの市場を知っていて、日本の生地生産背景を知っている一人のキーパー
ソンが必要。
・ 日本の生地の展示会を覗いても、メーカー側が試作品等持ち込むケースが多々あ
り、サンプルは作っても量産できないという品番がある。
・ BULK の生産背景の無いものを持ち込んで、展示会をやろうという考え方が理解で
きない。生地背景のあるものだけを展示してほしい。
・ 通常は、生地の厚さによって作られるアイテムが決まってくるものだが、日本の
テキスタイル製造企業の場合、企業側からその意図が伝わってこない。
・ モノ作りにしても展示会にしても、テーマを決め、哲学を持ち、わかり易い見せ
方が必要だが、日本の生地メーカーにはそれが欠如している。
・ 日本で行われた JETRO 展(大阪)のテーマは“日本の職人に出会う”はずだった
が、何でもありの展示会だった。来日するイタリアブランド側のリサーチが足り
ず、相手が何を欲しがっているかを考えないままの展示会ゆえ、お互いに時間の
無駄だった。ビジネスマッチングになっていなかった。こういう展示会であれば、
いくらやっても無駄との認識(イタリアで行おうが、日本で行おうが)。
イタリアにモノを売りたいのであれば、商談ができるスペースがイタリア内に欲しいし、
またブランド側の欲しい商材をクイックに納品できるレスポンスも必要。サンプル反は遅
くても、1 ヶ月以内の納品を求めるし、Bulk であれば、60 日~70 日で納品してほしいとい
うこと。
5-3-2-3 Como (コモ) 地区
Unione Industriali Como (コモ工業組合)を訪問
コモ工業組合には 600 の企業が登録、その内の 250 社がテキスタイル関係。テキスタイ
ル部門の責任者 Mr. Guido Tettamanti (グイド・テッタマンティ)氏とテキスタイル部門
の中で 20 名いるアドバイザーの中の一人、Mr. ErnestoCastiglioni(アーネスト・カステ
ィリオーリ)氏と面談。
- 231 -
コモ地域はイタリア 3 大テキスタイル産地の中の一つで、規模的には第一位の Prato(プ
ラトー)、第二位の Biella(ビエラ)についで第三位。シルク産業がコモの顔となっている。
・ コモはシルクというアイテムを中心に、染糸、染色、織機といった工程を中小の
企業が連携している関係で、産業としての強みを発揮している。
・ 近年、1985 年あたりから中国のシルク製品との競争が始まった。
(特に生機)逆
にこのことで、ポリエステル他、新しい素材にもトライすることができ、よかっ
た。
どういったことにトライしたか?
1st
2
nd
ステップ - 100%のシルクの生機からシルクの複合にトライした。
ステップ
-
高品質を目指す。エルメスのシルクの生機の大半は中国製。
1990 年からコンピュータージャガード化してスピード化した。
多品種、小ロットにも対応できるようになった。
2001 年アメリカ同時多発テロの影響で、2002 年、2003 年と減益
したが、2007 年に 2001 年次に比べ 5-6%ダウンのところまで盛り
返したが、昨年から 30%の落ち込みをみる。
・ コモ産地を維持する為のプロモーションとして、
① 2001 年より、
“SERI.CO”をスタート。100 社がこのプロジェクトに参加。
より厳しいコモ基準を設けた。
② 現在は Milano
Unica の中に入っているが、“Idea COMO”(イデア・コモ)
でコモのテキスタイルを発表。
③ “Mare di Moda”(マーレ・ディ・モーダ)プロジェクト。
ヨーロッパの水着ショーのオーガナイズ。
④ “COMMON.CO”(コモン・ドット・コー)プロジェクト。
30 名のデザイナーに 1 週間イベントを行わせ、その後 6 週間をコモの
企業の中で働かせ、コモで人材を育てる。
・ 日本側より、ビエラの時と同じように、コモと日本で何かコラボレーションできな
- 232 -
いか?またそのコラボレーションで中国市場で何かできないか?の提案をすると、
大いに興味があるとの反応。
・ 旭化成が中国でやっているようなファッションショーのスポンサードははどうだろ
う?コモが中国人デザイナーをスポンサードするといった発想はどうだろう?との
問いかけには賛同し、企画書を出して欲しい旨の宿題を受け取った。プロジェクト
次第では、コモからビエラに投げかけてみて、イタリア(コモ+ビエラ)+日本の
組み合わせで、中国市場を攻略することも可能と大いなる興味だった。
・ やはり中国は大きな市場で、興味のあるところが、地理的に遠く、日本と組んで、
中国へという図式は新鮮だったようだ。
・ 先方は大いに興味があるところのプロジェクトなので、日本側がどういう形で動い
ていくか?どことコモを結びつけるか?かが、こちらの企画次第。
Ambrogio Pessina S.R.L.(アンブロージョ ペッシーナ)
コモで一番のシルク糸の染色工場。オーナーの Graziano Brenna(グラチアーノ
ブレン
ナ)氏は他にも麻・綿関係の染工場、ポリエステル、ナイロンを染める染色工場を経営し
ている。
現状を聞いてみると、糸は 95%が中国からの輸入、染料も 100%中国から輸入というあ
りさまで、染色用の水も以前はヨーロッパ一水深の深いコモ湖の水がシルクに適している
ということで栄えたコモのシルク産業が、現在は、水も浄水機を使っているということに
なると、何もコモでシルク製品を作る必然性が見えてこない。
最近では、直ぐにできるということで、インクジェットの機械を導入し、デザイナーや
メゾンの要望にクイック・小ロットで答えられるようにしていた。ただこのインクジェッ
トの機械も日本製なので、ますますコモの将来には不安を残す。
今回のビエラ・ミラノ・コモの調査で確認できたことで、今後の日本のテキスタイル産業
のブランド化(国際化)
、自立を考えるとすると、
1) 従来のように海外の展示会に参加し、国内型のプレゼンテーション方法
- 233 -
では、ビエラ、コモには勝てない。
せめて対抗していく為には、
① マーケティング。(市場調査及び相手調査)
海外進出の為、相手国を知り、日本のテキスタイル業界を知っている人材をプロ
ジェクトリーダーとし、テーマ、カラー等を絞り込み、日本の特異性をシンプル
に数少なくプレゼンテーションする。
(日本の職人技、技術をきちんとプレゼンテーションできる能力が必要)日本側の
意図をはっきりさせる。企画テーマ。
② クリエイティブディレクターの存在。
イタリアに売るのであれば、例えば、ビエラで出会ったピエランジェロ氏のよう
な、アート・ディレクターに相手アパレル(デザイナー)向けのマップを作って
もらうべくリーダーとし、彼をサポートする日本側のディレクターを配置し、そ
の方向性の下、生地メーカーに生地を作らせる。
③ 物流問題、サンプル提供、メールでのレスポンス等語学力も含め、クイックな対
応が必要。彼らは生地が良いと思ったら、すぐスワッチ、着分が欲しい。これに
答えられる体制が必要。
④ 日本の技術力(ハイテク繊維等)を誇れる生地を生機で輸出し、イタリアで染色、
加工し、日伊合作商品として売っていく。またそれを世界に販売するのが、中国
企業でもかまわないし、ただ日本単独でというより、時にアライアンス(同盟)
を結び、今までの競争相手国と組んで共存していくという発想を持つ。
こと等が重要であろう。
- 234 -
6
インテリアファブリックス産業の可能性とマーケティング課題
6―1
日本人のライフスタイル変化とインテリアファブリックス産業の発展
伝統的日本家屋から洋間の誕生によるライフスタイルの変化
伝統的な日本の家屋では、襖、障子、土壁等、木と紙と土により居住空間が構成されて
おり、インテリアファブリックスはあまり使用されなかった。しかし、大正~昭和初期に
なると、和館を居住空間、新たに洋館を建てて迎賓館的な使い方をする富裕層の建物スタ
イルが定着するとともに、中間層では、玄関脇に一部屋だけ洋間を設けて客間として応接
セットをおく住宅が生まれる中で、洋間のインテリアとしてカーテン、カーペット等のイ
ンテリアファブリックスの需要が生まれた。
第二次大戦後の公団アパートにおいて和洋折衷のスタイルが生まれ、その後、民間マン
ション等へとその様式は受け継がれて一般化していった。洋間の誕生が日本人の生活様式
をインテリアファブリックスに囲まれた椅子とテーブルのスタイルに部分的ながら変えた
のである。
そして現在、住空間は生活者の個性発揮による多様化や質の追求、高齢化やユニバーサ
ル志向、あるいは健康志向による安心・安全の追求など、さらなる進化を続けている。
欧米企業の上陸、新興工業国の台頭、和の見直し
日本のインテリアファブリックス産業は、それ以前には存在しなかった新しい洋風ライ
フスタルを導入し、日本国内でインテリアファブリックスを生産し、日本市場に販売する
というものだった。従って、ヨーロッパのトレンドに学びながら、日本における洋間空間
にアレンジして提案するというものだった。
しかし、日本人の伝統文化、日本特有の風土、自然観、色彩感等々は西欧と完全に同化
することはなく、日本市場に特化した洋間空間が発展していくことになる。
そうした中で欧米のインテリア関連企業が日本進出を果たし、本物の欧米ライフスタイ
ルを伝え販売するようになった。一方で、日本文化の見直しから和全般の見直しを始まっ
ている。欧米商品、欧米デザインのコピー商品であれば、中国等の新興工業国でも生産が
可能であり、価格競争も厳しくなっている。
新築建築に対応した工事付きのビジネス
日本のインテリアファブリックスは新築住宅や新築ビルに対応することで成長してきた。
カーテンは窓枠に対応した注文カーテン、壁紙は工事付きとすることで、新規参入が難し
い状況を作り出した。新築物件の数が安定すれば、それと共に安定的なビジネスが可能に
- 235 -
なる体制・態勢が形作られていったのである。
特に、マンション等の集合住宅においては、同じ商品を大量に販売することが可能であ
り、工務店がインテリアファブリックス商品込みの工事を受注するために、顧客は指定さ
れた見本帳から商品を選ぶ以外の選択肢は与えられなかった。
見本帳に掲載した商品は一定量を備蓄し、品切れがないようにする必要があり、メーカ
ーにとっては、安定的な生産につながった。また、工事付きであるために、比較的価格競
争にも巻き込まれることが少なく、国産商品の比率を高く保つことが可能だった。
新築市場の縮小と競合激化
しかし、人口減少と高齢化により、次頁の表のように、新築住宅市場は縮小している。
特にリーマンショック以降は落ち込みが激しく、それ以前の住宅系ファンドによる積極的
投資と合わせて考えると、今後の需要拡大は厳しいといわざるを得ない。
一方で、競合は激化している。外国資本の大型インテリア専門店(イケア等)、個人顧客
に対応した大型インテリア専門店(ニトリ等)、異業種からの参入(無印良品等)、大型ホ
ームセンター等の出店により、既存流通のビジネスは圧迫されている。
- 236 -
新設住宅着工床面積と市場規模数値の関係
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
平成18年
平成19年
平成20年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
着工床面積
138,140
157,014
123,751
110,978
119,562
117,523
108,801
103,438
104,945
105,531
106,651
108,648
88,361
86,345
前年比 7年比 市場規模 前年比 7年比
94.2 100.0
8,567 105.3 100.0
113.7 113.7
8,946 104.4 104.4
78.8
89.6
8,439
94.3
98.5
89.7
80.3
7,224
85.6
84.3
104.3
86.6
6,981
96.6
81.5
98.3
85.1
6,801
97.4
79.4
92.6
78.8
6,410
94.2
74.8
95.1
74.9
6,144
95.9
71.7
101.5
76.0
6,486 105.6
71.2
100.6
76.4
6,524 100.6
76.1
101.1
77.2
6,604 101.2
77.1
101.9
78.7
6,667 101.0
77.8
81.3
64.0
6,453
96.8
75.3
97.7
62.5
5,920
91.7
69.1
カーペット
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
平成18年
平成19年
平成20年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
[出所]
金額
前年比 7年比
3,381.0
96.2 100.0
3,444.0 101.9 101.9
3,354.0
97.4
99.2
2,975.0
88.7
88.0
2,741.0
92.1
81.1
2,841.0 103.6
84.0
2,672.0
94.1
79.0
2,563.0
95.9
75.8
2,899.0 113.1
85.7
2,960.0 102.1
87.5
3,043.0 102.8
90.0
3,141.0 103.2
92.9
3,048.0
97.0
90.2
2,773.0
91.0
82.7
カーテン
金額 前年比 7年比
1,875.0 103.6 100.0
2,047.0 109.2 109.2
1,876.0
91.6 100.1
1,611.0
85.9
85.9
1,579.0
98.0
84.2
1,507.0
95.4
80.4
1,472.0
97.7
78.5
1,470.0
99.9
78.4
1,504.0 102.3
80.2
1,433.0
95.3
76.4
1,463.0 102.1
78.0
1,434.0
98.0
76.5
1,375.0
95.9
73.3
1,202.0
87.4
64.1
上図:国土交通省「建築着工統計調査」
、
単位 面積
金額
壁紙
ブラインド
金額 前年比 7年比
2,114.9 100.9 100.0
2,213.0 104.6 104.6
1,990.9
90.0
94.1
1,567.4
78.7
74.1
1,589.6 101.4
75.2
1,396.1
87.8
66.0
1,272.8
91.2
60.2
1,137.3
89.4
53.8
1,121.8
98.6
53.0
1,132.3 100.9
53.5
1,135.7 100.3
53.7
1,108.9
97.6
52.4
1,059.6
95.6
50.1
1,019.9
96.3
51.2
金額 前年比 7年比
1,196.9 101.4 100.0
1,242.0 103.8 103.8
1,218.9
98.1 101.8
1,071.4
87.9
89.5
1,072.3 100.1
89.6
1,057.6
98.6
88.4
993.3
93.9
83.0
974.0
98.1
81.4
960.9
98.7
80.3
998.9 104.0
83.5
963.1
96.4
80.5
983.2 102.1
82.1
970.2
98.7
81.1
925.1
95
76
下図:日本インテリアファブリックス協会
- 237 -
千㎡
億円
カーペット・カーテン・壁紙・ブラインド類市場規模 平成7年比較表
単位:%
120.0
110.0
100.0
90.0
80.0
70.0
60.0
50.0
カーペット
カーテン
壁紙
ブラインド
着工床面積
平成7年
100.0
100.0
100.0
100.0
100.0
[出所]
平成8年
101.9
109.2
104.6
103.8
113.7
平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年
99.2
88.0
81.1
84.0
79.0
75.8
85.7
87.5
90.0
92.9
90.2
100.1
85.9
84.2
80.4
78.5
78.4
80.2
76.4
78.0
76.5
73.3
94.1
74.1
75.2
66.0
60.2
53.8
53.0
53.5
53.7
52.4
50.1
101.8
89.5
89.6
88.4
83.0
81.4
80.3
83.5
80.5
82.1
81.1
89.6
80.3
86.6
85.1
78.8
74.9
76.0
76.4
77.2
78.7
64.0
上図表:日本インテリアファブリックス協会
- 238 -
6―2
インテリアファブリックス業界が抱える課題
わが国の社会・経済は長引く不況の中で、急速な変貌を遂げつつある。各産業はそうし
た環境的事項を踏まえつつ活性化の道を探らなければならない。ここでは、インテリアフ
ァブリックス産業の視点から見て重要と考えられる環境的事項に絞り込んで 5 項目を掲げ、
それらがインテリアファブリックス産業にとってどのような意味を持つのかを概観する。
(1)新築住宅着工床面積の大幅な伸びは期待できない。
バブルの崩壊以降、わが国経済は低迷を続けており、インテリアファブリックス産業に
とって需要発生の大きな源泉である新設住宅着工床面積は、1996 年度 157,014 千㎡をピー
クに下降を続け、2008 年には 86,345 千㎡と 55%の規模に縮小している。この不況長期化
に加えて少子・高齢化の進展による新設需要減退要素が加わり、わが国の新設住宅着工床
面積は今後も下降傾向が続くものと予想されている。
このことは、インテリアファブリックス産業の活性化の観点から見ると、新築需要を核
とする供給側主導の資材型ビジネスへの注力は引き続き必要であるが、それとともに生活
者主導の新しいホームユース型ビジネスや輸出などへの注力の必要性を強く示唆している
(今回のアンケート調査結果:「今後の輸出意欲:伸ばしたい 90.9%」)。
(2)日本人のライフスタイルは今後も進化を続け、インテリアも進化・多様化が続く。
音楽、ファッション等の分野でも、単純に欧米のトレンドを輸入する時代は終わり、日
本人は独自の価値観と美意識を持つようになっている。また、その美意識ゆえに、「クール
ジャパン」等の評価を欧米人に受けるようになっている。インテリアにおいても、欧米の
コピーの時代は終わり、日本人は自らが快適と感じる居住空間を創造するようになってい
る。
その例として、古いビルを住宅に転用して生活する「リノベーション志向」や、自分の
部屋をひとつの趣味で固め、外出するよりも自宅で過ごすことを好む「いえなか志向」等
が見られる。
工務店のお仕着せの空間ではなく、各個人の趣味に対応した居住空間への志向は更に強
まると予想される。
(3)インターネット通販、インターネットに情報源を求める人は増え続ける。
ITの進化は目覚ましく、ネットワークを利用した情報のやりとりは日常茶飯事となり、
企業間の取引や生活者の購買活動にもネットワークが利用されるようになっている。経済
産業省および次世代電子商取引推進協議会、㈱NTTデータ経営研究所が実施した「平成16
- 239 -
年度電子商取引に関する市場規模・実態調査」によれば、2004 年のわが国B2B(Business
to Business;企業間取引)市場規模は、102 兆6,990 億円(EC化率14.7%)に達し、これ
は、前年の77 兆4,320 億円(EC化率11.2%)から33%の増加となっている。また、B2C
(Business to Consumer;企業・消費者間取引)市場規模は5 兆6,430 億円(EC化率2.1%)
となり、前年の4 兆4,240 億円(EC化率1.6%)に対して、28%の伸びを達成している。
B2C取引の内数である携帯電話を使ったモバイルコマースは、前年の7,770 億円から9,710
億円に増加しており、B2C取引に占めるモバイルコマースの割合は17%となっている。
この中で、インテリアファブリックスだけを切り出した数字はないが、それに近いもの
としてB2Bにおける繊維・日用品を見ると、2003年に2兆0,660億円であったものが2004年
には2兆4650億円(119.3%)、B2Cにおける趣味・雑貨・家具は2003年に2,490億円であった
ものが2004年には3,420億円(132.6%)と急成長している。
このような急成長の全てが、必ずしも新たな需要が生まれるからではなく、おそらく、
その多くは既存の取引方式からの転換であると考えられる。したがって、インテリアファ
ブリックス産業においても、資材的な取引が多い対企業取引と今後注力して行くべき対消
費者取引の両面で、電子商取引に積極的な対応が求められていると言えよう。
また、生活者がインテリアファブリックス商品に関する情報をはじめ、インテリア改修
や模様替え方法の情報、コーディネート情報、新しい生活スタイル情報など、多様な情報
をインターネットから得ようとする動きが強まることへの対応が急務と言えよう。
(4)高齢化の進展により、安全・安心な生活を求める傾向は更に強まる。
わが国では人口の高齢化が世界のトップを切って進展しており、高齢者が不自由なく活
動できるよう、バリアのない社会や生活環境の実現が強く求められるようになってきてい
る。また、ユニバーサル・デザインに象徴されるように、健常者、高齢者、身体障害者な
どが同じようにファッショナブルで、同じように活動できる服装、移動手段、居住空間な
どへの要求が強まっている。
このことは、居住空間やオフィス空間を提供するインテリアファブリックス産業への一
つのチャレンジであると同時に、同産業に大きなビジネスチャンスを提供するものである
ことを示唆している。
(5)廃棄物処理、リサイクルなどに対する社会的要請は今後さらに強まる。
オイルショックに触発された省エネに引き続き、オゾンホール問題や二酸化炭素による
気温上昇及び異常気象懸念などから環境意識が高まりを見せ、これらは今後の社会・経済
活動において基本的に配慮すべき事項となってきている。
これも、前項と同様、インテリアファブリックス産業への一つのチャレンジであると同
時に、おそらくわが国しか真剣に取り組まないであろう環境対応型商品の開発等を通じて
- 240 -
大きなビジネスチャンスをもたらすものであることを示唆している。今後も LCA(ライフ
サイクル・アセスメント)の実施など、基礎的なデータをおさえた上で、地球環境に優し
いライフスタイルに対応する製品の開発などを積極的に進める必要がある。
- 241 -
6―3
インテリアファブリックス業界のマーケティング戦略と可能性
◆現状の課題
成長しない国内市場
国内市場の活性化、需要創造
・人口減少&高齢化
・住宅着工件数減少
IT活用によるコストダウン
①省力化、システム化によるコスト ダウン
・EDIサービスシステム構築と運用
・コールセンターの集約によるコスト 削減
・物流コストの削減
②過剰サービス、過剰在庫の見直し
・現物サンプルの運賃有料化
・見本帳のW EB化
・見本帳の有料化、回収と再利用
流通革新
①業態・仕組み改革戦略
・顧客満足優先の仕組み作り
・価格信頼性の回復
・見本帳に依存しない直販戦略の開発
②取引正常化
・販売先・仕入先との取引ガイドライン策定
・内部統制強化への対応
新規市場参入による競争激化
・海外企業の定着
・大型専門店の直接海外調達
・異業種参入
・ホームセンターの台頭
・激安ネットショッ プの急増
複雑な流通システム
・代理店システム
・再販価格制
・見本帳
・ショールームのあり方
生活提案力低下、価格訴求偏重
・価格訴求偏重
・既存の顧客偏重(新築需要)
・ポリエステル偏重
・トータルなブランド訴求の欠如
商品の高付加価値化
①高付加価値戦略
・デザイナーズブランド、ライセンス ブランド開発(トータル展開)
・差別化素材開発
・高付加価値なエコ訴求
②FF&Eコーディネート強化
・“いえなか”消費対応
・アートワーク、小物とインテリアファブリックス のトータル訴求
・FF&Eコーディネーター養成
中国・欧州市場進出による市場拡大
海外政府機関、業界団体との交流
・業界団体と海外政府機関との交流推進
・海外展示会への共同出展
・海外合同ショールーム開設
国際競争力のあるブランド、商品開発
・日本文化を基本としたモノ作り
・国際的なデザイナーとの取り組み
国際ビジネスモ デルに対応できる体制づくり
・直営店を想定し、見本市を基本にしたビジネスの構築
・国際認証資格の取得
・外国人社員の雇用促進
- 242 -
6―3―1
現状の課題と取組み
(1)成長しない国内市場
マクロ的に見ると、下図のように、日本は高齢化が進み、人口が減少に転じている。日
本国内市場を楽観視する材料は少ない。
更に、原材料、運送費、中国の人件費の高騰が追い討ちをかけている。商品原価や経費
が上がるのと同時に、消費マインドは冷え込みを見せており、原料高製品安の状況が一段
と強まっている。
日本の人口構成の長期予測
0~14歳
15~64歳
65歳以上
140,000
120,000
100,000
65歳以上
80,000
(2050年:36%)
60,000
40,000
15~64歳
20,000
0~14歳
[出所]国立社会保障・人口問題研究所
- 243 -
(2048)
(2045)
(2042)
(2039)
(2036)
(2033)
(2030)
(2027)
(2024)
(2021)
(2018)
(2015)
(2012)
(2009)
(2006)
(2003)
(2000)
0
(2)新規市場参入による競争激化
国内市場が頭打ちになる中で、インテリア関連市場の競合は激化している。
大型家具インテリア専門店では、高級家具中心のIDC大塚家具、カジュアルな品揃え
のニトリ共に店舗数を拡大している。外資勢では、スウェーデンのイケアが、圧倒的なボ
リュームと低価格でシンプルなデザインで人気を集めており、今後も店舗拡大の動きを見
せている。ホームセンター各社も、それぞれの立地に対応した多様な業態開発を行うなど、
積極的な動きを見せている。異業種からの参入では、無印良品が「無印良品の家」プロジ
ェクトを開始するなど、建築インテリア部門への比重を高めている。
インテリア関連のインターネット通販も活発化しつつある。上記の小売店もほとんどが
インターネット通販に対応しているだけでなく、激安販売から専業メーカーによるオーダ
ーメイドまで、インターネットで買えない商品はないという状況になりつつある。
(3)複雑な流通システム
インテリアファブリックスの特徴の一つは、商品の購入と共に、工事が必要なことであ
る。そのため、工事を行う代理店を通じて販売することが多い。見本帳に記載されている
価格についても、工務店等が見積もりを採る必要から高めに設定してあり、実際の販売価
格は値引きが常態化している。このことが消費者の価格信頼性を失わせている。
代理店経由の販売においては、見本帳が営業担当の機能を果たしている。そのため、実
物サンプルを添付した大量の見本帳を代理店等に配布している。しかし、近年の市場縮小
の環境下では、見本帳の制作・配布及び廃棄コストの負担がメーカーの利益を圧迫してい
る。
また、各メーカーはショールームを開設しているが、代理店の利益を阻害しないように、
ショールームの販売は行っていない。アパレル業界では、製造卸から製造小売業へと転換
することで利益を確保してきた。インテリアファブリックス業界においても、コスト競争
が厳しくなり、市場からはよりダイレクトな流通のニーズが高まっている。
玩具業界では、1991 年に茨城県荒川沖に「トイザらス」第1号店が開店してから、玩具
問屋の再編と中小小売店の淘汰が進んだ。同様にたとえば、外資の大型インテリアファブ
リックスのカテゴリーキラーが上陸すれば既存の流通を維持することは困難になるだろう。
(4)生活提案力低下、価格訴求偏重
中国生産による生産コストの削減は、日本国内市場の製品価格水準を一気に下落させた。
そして、中国工場からダイレクトに商品を仕入れ、販売する企業が増加した。最近の 10 年
間、従来のインテリアファブリックス企業はその対応に終始したと言えよう。
一方で、環境意識の高まりによるオーガニックブーム、若い女性を中心にしたデコラティ
- 244 -
ブなインテリア等への対応は遅れている。その結果、同質化商品による価格競争に陥っている。
6―3―2
国内市場の活性化、需要創造
(1)ICT活用によるコストダウン
①省力化、システム化によるコストダウン
■受発注システム
受発注をシステム化することにより、入力ミスをなくし、人件費の削減、伝票レス化に
よる経費削減が可能になる。
■WEB、携帯端末の活用
商品データベースとWEB画面の連携により、WEB画面上から受発注処理、在庫確認
等が可能になる。同様に、携帯WEB画面との連携により、携帯から受発注、在庫管理確
認等が可能になり、業務の効率化と合理化が図れる。
■コールセンター整備によるコストダウン
各社の商品データベースが整備されることにより、コールセンターの集約化が可能にな
り、受注管理の人員削減が図れる。
■物流コスト削減
商品データベースとコールセンター集約化が整備されれば、物流センター、配送業務が
効率化され、物流コストの軽減が図れる。
②過剰サービス、過剰在庫の見直し
■備蓄生産型ビジネスモデルの再検討
最も重要な問題は、見本帳のコストだけではなく、見本帳に依存する備蓄生産型ビジネ
スモデルである。変化の早い市場の中で、2~3年も同じ商品を継続的に展開するのは無
理がある。現在の見本帳システムと並行して、見本帳に依存しないビジネスモデルの研究
も行わなければならない。
■見本帳のコスト、廃棄問題の検討
国内市場規模の横ばい、激しさを増す市場競争の中で、見本帳作成コストが経営を圧迫
している。見本帳の分別廃棄等のコストや環境面の問題を考えると過剰な見本帳の見直し
- 245 -
が必要。一方で、見本帳の活用により業績を伸ばしている企業もあり、事業戦略の一部で
ある見本帳については各企業の判断に委ねるべきという意見も根強い。
見本帳を無償で大量に配布した場合、見本帳の入れ換え時に回収した見本帳の処理問題
が生じる。様々な素材で構成される見本帳の廃棄には、分別廃棄が必要であり、そのコス
トが問題になっている。見本帳の軽量化、少量化、有料化は、業界としての環境問題貢献
という意味も含まれる。見本帳配布、現物見本送付等の発注の意志決定までのプロセスを
抜本的に再検討する必要がある。
■見本帳のデジタル化
現物サンプルが添付されている見本帳でも、それだけで購入が決められることは少ない。
見本帳の小さなサンプルだけでは、心配なので、大判の現物サンプルを配布して決定され
ることが多い。最終的に大判の現物サンプルを渡すのであれば、最初の見本帳は印刷だけ
ではいけないのか?デジタル化はできないのか?逆に最初から大きめのサンプルを添付す
ればそれだけで意志決定が早まらないのか?等を検討する必要がある。
また、見本帳をデジタル化することで、店頭でのデジタルサイネージや、携帯との連携
も可能になり、様々な情報サービスを展開することが可能になる。
(2)流通革新
①業態・仕組み改革戦略
見本帳と並行して、時代の変化に対応した新たなビジネスモデルが求められている
現在の市場原理を基本に考えると、オープン価格制度が一般的である。メーカーや卸商
は、小売店が決定する小売価格に干渉することはできない。そこで、付加価値の高い商品
を販売する場合は、直営店か価格をコントロールできるFC展開を行う。
最近、メーカーが新製品を出す場合、通信販売だけで展開する事例が増えているが、そ
れは流通経路、流通在庫、ブランドイメージ、価格等を完璧にコントロールできるからで
ある。
売上至上主義の大量生産大量販売であれば、多くの代理店を使い、代理店間の競争を奨
励することで強い販売網を構築することができるだろう。しかし、利益至上主義の多品種
少量生産、限定販売では、販売店を絞り込むことが求められる。
見本帳による販売は、見本帳さえあれば、経験のない営業担当者でも販売することが可
能である反面、安易な売上拡大戦略に走りやすい。また、素人でも売れるシステムでは、
能力のある人材を育成することは困難であり、そのことが付加価値の高い商品を売れない
理由の一つにもなっている。
- 246 -
ダイレクト販売システム
見本帳+代理店システム
・大量生産+備蓄在庫
→見本帳→デリバリー
・商品企画~見本帳作成~販売までの
リードタイムが長い
・2~3年間同じ商品を販売
・流通コスト、販売管理コストは高いが、
大量生産による生産コストを抑制
・代理店による値引き販売が常態化
・問屋業態
生産システム
リードタイム
販売期間
ビジネスの特徴
・多品種少量短サイクル生産
→ダイレクト販売
・商品企画~販売までのリードタイム短縮
・次々と新商品を投入
・生産コストは高いが、流通コスト、販売管理
コストは圧縮可能
・正札販売&計画的なバーゲンセール販売
・製造小売業態
②取引正常化
■取引正常化委員会の設置
例えばゼネコン業界とインテリア関連業界が共通のテーブルにつく委員会等を設置し、
「販売先・仕入先との取引ガイドラインの策定」
「中長期的なサプライチェーンの目標策定」
「現状の取引慣行上の課題抽出」「業界間のルールとシステム」等を検討し、国際的に通用
するルールとシステムを構築する。IT 活用を前提に考えた業界としての業務フローと業務
の標準化を行う。
■取引ガイドラインの策定
基本的な取引ルールの策定と明文化を行う。業務フローと役割分担、業務内容等を分析
する。取引における契約書のプロトタイプを作成し、業界リーダー企業による試験的運用
を行う。策定した「取引ガイドラインの普及啓蒙」を行う。
■監視体制の整備
ルール厳守のための監視機関を設置し、権限を保証し、具体的な警告及び罰則等の整備
を行う。取引正常化のための相談窓口を設置する。
■業界間の取引効率化推進
業界単位での業務マニュアル等を整備する。各職種別に、職能評価基準と報酬制度の再
構築を行い、人材の流動化に対応する。ルールを明確に設定し、ICT活用を行うことで、
情報共有と取引業務の効率化を推進する。
(3)商品の高付加価値化
①新ブランド開発
- 247 -
これまでインテリア業界では、アイテム別に企画~生産~販売が行われていた。しかし、
インテリア空間の中では、天井、床、壁、家具、カーテン等がトータルにコーディネート
されることが望ましく、トータル性を訴求することで、付加価値が高まることが期待され
る。
海外では、ファッションデザイナーやファッションブランドのインテリアやホームファ
ニシングコレクションを展開する事例が見られるが、日本ではほとんど見られない。
各社がデザイナーズブランド、ライセンスブランド等の開発に取り組むことで、一つの
ジャンルとしてトータルインテリアの市場創造を行うことが可能になるだろう。
各社が開発した新ブランドによる合同展示会等のイベントを行い、マスコミにプロモー
ションすることで、企業単独でのマーケティング戦略にはない相乗効果が期待できる。
②差別化素材開発
インテリアファブリックスはほとんどがポリエステル 100%である。物性品質が優れてい
ることは否定できないが、ポリエステル偏重は商品の差別化を困難にし、耐久性があるが
ゆえに買い換え需要を喚起することが困難である。
圧倒的な市場シェアをポリエステル製品が占めているということは、人気のある新素材
が登場すれば、かなりの買い換え需要が期待できる。
素材の差別化と前述したブランド戦略を組み合わせることで、新規性をアピールできる
可能性が高い。
素材開発は、単独で行うよりも、数社がグループで取り組むことで、生産面での効率化、
市場への影響力が期待できる。既存のルートではなく、先進的な建築デザイナー、インテ
リアデザイナーへの供給を優先させ、物性安定性偏重の素材からの脱却を図る。それによ
り、インテリアファブリックスの可能性を広げることが可能になる。
③高付加価値なエコ訴求
「環境に優しい」「地球に優しい」というトレンドは、消費者の関心も高く、あらゆる分
野に影響を及ぼしている。今後は、全ての商品やサービスが環境に優しいものなるに違い
ない。
エネルギー費や人件費が高騰するにつれ、大量生産商品の使い捨て文化は見直され、価
値ある商品を長く使うことが奨励されるだろう。また、上質な国内生産の製品を使うこと
は、日本人の雇用を確保することにもつながり、船や飛行機の燃料を削減することにもつ
ながる。
これまでの大量生産の製品と差別化し、上質なものを使い続けることがエコロジーにつ
ながるというコンセプトを提唱することが重要になる。
- 248 -
安全、安心、エコは、四川大地震以後、中国市場でも注目を集めている。また、海外市
場が日本製品に期待しているのは高い品質、デザインであり、高級品である。国内市場だ
けでなく、海外市場にも目を向けた商品戦略が必要である。
- 249 -
(2)FF&Eコーディネート強化
①FF&Eコーディネート訴求
*FF&E(Furniture,Fixtures and Equipments)とは、インテリア空間を構成する家具、カ
ーテン、カーペット、照明器具等の什器・備品の総称。
下図のように、「建築内部空間の表現力」において上位を占める要素は、感性に依存す
る部分が大きい。ビジネス的には不安定であり、人的要素に負うところが大きい。
下位の要素、床、壁、天井等は、より資材に近く、物性的な性能と価格競争力があれば、
ビジネス的にも安定している。そこで、これまでインテリアファブリックスメーカーは、
工事付資材の販売に重点を置いたビジネスを展開してきた。
今後の戦略として、上位概念を狙うのか、下位概念の部分を狙うのかが問われる。売上
よりも利益を重視するならば、上位概念に挑戦しなければならばならない。アートワーク、
小物とインテリアファブリックスのトータル訴求が重要な課題となる。
たとえば、若い世代は外出するよりも自分の部屋で過ごす時間を大切に考える人が増え
ている。外食から内食へ、外出着から部屋着へ、そして、自分の価値観に合うインテリア
も人気を集めている。こうしたニーズに応えるには、感性品質の高い商品から順に品揃え
していくことが必要になる。たとえば、特定の嗜好をベースに、現代アートや古美術を選
び、それに調和する小物雑貨やインテリアファブリックスを構成する。メーカーには、こ
うした手法でブランドを構築することが求められるし、インテリアコーディネートも見本
帳から壁紙、カーペット、カーテンを構成するだけでなく、まずアート、小物雑貨から選
択していくことが必要になる。
建築内部空間の表現力ランキング
感性品質
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
アートワーク
小物
インテリアファブリックス
家具
ライティング
床
壁
天井
躯体
物性品質
安定したビジネスだが、付加価値は低い
- 250 -
②FF&Eコーディネーター養成
インテリアファブリックス業界として、戦略的に「FF&E コーディネート」という概念を
普及させ、積極的に FF&E コーディネートを訴求するのであれば、
「FF&E コーディネーター」
という資格を設け、そのための教科書を作成し、セミナー等を開催し、資格認定を行うこ
とも考えられる。これまで通りに、自らの主たる経営領域を資材と設定するのであれば、
「FF&E コーディネーター」という概念も無用のものになる。
国際的に見ても、日本のインテリア業界に求められているものは、センスの良い FF&E コ
ーディネートであり、ハードとソフト双方の供給である。但し、インテリアファブリック
スの商品を販売するという発想ではなく、アートワークや小物雑貨を含めた、ユーザー視
点のインテリアコーディネートが求められる。
この資格は日本だけでなく日中両国で定着させることも考えられるだろう。日本と中国
の大学、専門学校等との産学連携も今後のマーケティング戦略に有効である。
6-3-3
中国市場・欧州市場進出による市場拡大
(1)海外政府機関、業界団体との交流
①業界団体と海外政府機関との交流推進
海外市場開拓期は、最初に業界団体が海外展示会主催団体等と協力関係を結び、その後
で企業レベルのビジネスに移行することが有利になる。
また、中国、欧州を問わず、どの国でも自国の産業を保護するのは当然であり、海外企
業を優遇することは稀である。そこで、相手国に対していかに社会貢献するか、という姿
勢が問われる。
また、日本国内市場では必要のなかった消費者調査、同業種の競合企業、業界構造や商
慣習、法律制度等の調査が必要であり、これも各社に共通する問題であり、業界団体が担
うことが望ましい。特に中国では政府機関が全ての情報を掌握しており、市場調査を行う
にも中国政府とのコミュニケーションが重要になる。
②海外展示会への共同出展
展示会出展も単独出展より、業界団体として交渉した方が有利になる。業界団体が中心
となり、ジャバンパビリオン出展を検討する。また、展示会のコーディネートに留まらず、
ビジネスに関する法律・契約に関する情報提供とアドバイスが必要になる。商標登録、エ
ージェントとの契約、売買契約、現地法人登記、許認可取得等でも、業界団体として信頼
できる特許事務所、法律事務所と契約しておくことが必要になる。
- 251 -
また、展示会後のプロモーションにおいても市場開拓期には、業界団体等が日本企業、
日本製品のPRをすることが必要である。
③海外合同ショールーム開設
展示会に出展する場合でも、事前、事後の商談が必要であり、地理的な距離を感じさせ
ないサービスの提供が求められる。各社が本格的に海外進出する前に、合同でショールー
ムを設け、エージェント等とのマッチング等の拠点とする。また、日本製品のプロモーシ
ョンの拠点として、地元のマスコミ等との連携も図る。
(2)国際競争力のあるブランド、商品開発
①日本文化を基本としたモノ作り
海外製品のコピー商法は、製造コストが安くなければ成立しない。既に、日本のコスト
はヨーロッパと比べても低いとは言えず、コピー生産の競争力はない。また、国内市場で
通用していた海外製品の類似品も、海外市場においては偽物、あるいはB級品と評価され
る。国際市場の中で、競争力を持つためには、ヨーロッパのコピーではなく、日本の文化
に根ざしたブランドの構築、オンリーワンのオリジナル商品が求められる。
インテリアファブリックスという概念そのものがヨーロッパからの輸入であり、日本の
インテリアファブリックス業界においては、商品企画の面でもヨーロッパのトレンドやヨ
ーロッパ製品を基本に組み立てられてきた。
しかし、海外市場を視野に入れるのであれば、再度、日本文化を見直し、日本文化に根
ざしたブランド、商品企画が必要になる。但し、日本人が押しつける日本文化ではなく、
海外の人々が生活の中に取り入れられることが条件となる。その意味でも、外国人を含む
チームが必要になる。
②国際的なデザイナーとの取り組み
日本ではアイテム毎の企画、生産、販売が基本だが、ヨーロッパ、中国等ではトータル
コーディネート、トータルデザインが求められる。そこで、国際的なデザイナーと契約し、
国際水準のトータルアイテムによる FF&E コーディネートを実現する。
(3)国際ビジネスモデルに対応できる体制づくり
①直営店を想定し、見本市を基本にしたビジネスの構築
直営店を展開するには、現在の代理店ルートとは差別化された商品、別ブランドが必要
- 252 -
になる。また、展示会受注販売というビジネスをベースに考える。
直営店運営ノウハウ取得のための研究を行う。
②国際認証資格の取得
ヨーロッパ等の市場では、人権、環境、法令順守等の国際的認証機関による認証資格取
得が条件となっている。また、アメリカ、中国もヨーロッパの基準を踏襲しようという動
きがあり、わが国でも、繊維産業連盟が調査を始める予定になっている。
今後は、インテリアファブリックス業界も単なる規制反対ではなく、規制を戦略的に活
用することが求められる。
③外国人社員の雇用促進
今後、ビジネスが国際化するに伴い、世界中から優秀な人材を獲得、育成する必要が出
てくる。各社での対応の他、業界団体等による外国人社員採用の支援が望まれる。合同会
社説明会、各社の人事担当者への外国人雇用に関するセミナー、採用マニュアル作成等に
ついて検討する。
- 253 -
6―4
インテリアファブリックス産業の動向と可能性に関するアンケート調査
注:回答割合(%)は、その質問に回答した企業の数を分母として算出した。したが
って、1 項目のみ選択の質問の場合、回答割合(%)の合計は 100 になる(四捨五入
の関係で正確に 100%にならないことはある)が、複数項目を選択する質問の場合は、
回答割合(%)の合計は 100 を越えることがある。
6―4―1
調査の概要
①目的:本調査分析事業(「繊維産業(川上・川中・川下各段階)におけるマーケティング
調査分析事業」)に必要な、インテリアファブリックス協会加盟企業の実態に関する基礎
的情報の収集を目的とした。
②方法:発送、回収とも郵送法によった(発送については日本インテリアファブリックス
協会の協力を得た)。
③時期:2010 年 1 月 5 日(火)に発送し、原則的に 1 月 20 日(水)を先方投函期限とし
て回収した。
④依頼先:日本インテリアファブリックス協会加盟企業 17 社。
⑤回収状況:16 社から有効な回答を得た。
6―4―2
調査結果の概要
各質問グループに見られる特徴的な事項を要約紹介(網掛け部分)する。本項に続く第 3
項では、回答結果をグラフ化し簡潔なコメントを付した。
質問グループ
1.企業概要
主な調査結果
*戦後に創(設)立された企業が多く、比較的新しい業界である。
*大企業が多い。
*売上的には窓関連と床関連商品が多い。
2.生産・仕入
*過半の企業が自社生産設備を保有している。
*取扱商品の中で国産品の占める割合は大きい。
*商品輸入先は欧州、アジア(中国、それ以外)が多い。
*過半の企業が海外に協力工場がある。
- 254 -
3.販売
*ここ 3 年の売上・利益は減少している企業が多い。
*競合状況は、国内では非常に激しいが、海外ではそれほどでも
ない。
*販路別の売上増減傾向は、問屋、小売店などは減少、輸出は増
加傾向にある。
4.ブランド戦略等
*使用しているブランドは、企業ブランドとアイテム別単品ブラ
ンドが多い。
*マーケティング活動においては製品ブランドを重点的に表示
する企業が過半。
*海外でも国内と同じ自社ブランドを使用している企業が多い。
5.経営課題と革新
*売上と利益では、利益を最優先課題とする企業が多い。
*取組中の経営革新としては、
「コストの合理化」
「生産・在庫管
理の徹底」
「販売チャネルの拡大」
「エコロジー対策の強化」など
が主要事項。その実現に業界としての取り組みが必要と考えてい
るのは、「エコロジー対策」「リフォーム等への注力」「見本帳の
削減」など。国の協力が必要と考えているのは、「エコロジー対
策」「輸出への注力」など。
6.輸出
*輸出がある企業が大半。
*しかし、売上に占める輸出の割合は極めて小さい。
*輸出地域は欧米、アジアと広い。
*輸出商品で多いのは窓関連、取引相手は卸売業が多く、直接輸
出が多い。
*輸出開始のきっかけは、「先方の来日」と「展示会出展」が多
い。
*輸出先の評価が高い要素はデザイン、品質、機能性など。今後
強化したい要素は価格、ブランド力、デザイン、感性など。
*ここ 2~3 年の輸出動向は、横這いないし若干の伸び。伸びて
いる市場は中国。
*輸出の問題点は、市場情報入手難と取引条件不一致。
*今後さらに輸出に注力したいとする企業が多い。
- 255 -
6―4―3
質問2
調査結果詳細
貴社の概要について伺います。
1)創(設)立年(数字記入)
日本インテリアファブリ
10
ックス協会加盟企業の創(設)
立は、第 2 次大戦終戦前が 5
社、戦後が 11 社あり、繊維
5
業界としてみれば比較的新
しい産業であると言える。
1
以前
5年
194
以前
5年
196
以降
6年
196 質問2-1) 回答社数16社
2)資本金(数字記入)
資本金は 1 億円以下から
5
50 億円超まで幅広く分散し
4
4
3
下
円以
1億
下
円以
億
0
1
下
円以
億
0
5
ているが、繊維産業の中では
大型企業の集団と言えよう。
円超
50億
質問2-2) 回答社数16社
3)従業員数(数字記入)
従業員数は 100 人以下か
5
4
ら 1000 人超まで広く分散し
ているが、前記資本金と同様、
4
3
繊維産業の中では大型企業
の集団と言える。
下
人以
100
下
人以
500
以下
0人
100
超
0人
100
質問2-3) 回答社数16社
- 256 -
4)取り扱い商品・サービス(いくつでも○印、記入)
81.3%
68.8%
62.5%
50.0%
37.5%
43.8%
ス
゙ス
工
品
商品
商品
商品
ーヒ ゙
サーヒ
.施
連商
・
・サ
オ
関連
関連
関連
関
品
ス
品
床
窓
壁
ック
.
.
.
連商
の商
ブリ
ア
イ
ウ
クス関
アファ
以外
ッ
ス
リ
リ
ク
テ
ッ
イン
ァブ
ブ リ
リアフ
の他
アファ
リ
そ
インテ
テ
.
イン
質問2-4) 回答社数16社
エ
取扱商品・サービスについては、取り扱いがあるものを指摘する方式で回答願った結果、
「窓関連」が最も指摘が多く、次が「その他インテリアファブリックス関連商品」という
結果であった。インテリアの施工を行っている企業は 37.5%あり、43.8%の企業はインテ
リアファブリックス以外の商品・サービスも展開している。
5)昨年度の貴社の取扱商品別の売上高をお示し下さい(連結子会社がある場合は連結の数
字)(数字記入)
28.4%
各社に商品分野別の売上
26.3%
高を回答願った結果、イン
テリアの売上は計 42 億 6
18.2%
15.9%
11.1%
千万円、その他事業の売上
は 8 億 1 千万円であった。
インテリアの内容を見ると、
「その他インテリア関連商
品
品
品
事業
商品
連商
連商
連商
関連
の他
ア
リ
窓関
床関
壁関
そ
ンテ
他イ
質問2-5) 回答社数16社
その
- 257 -
品」が、前問に見るように
取り扱い企業数が多い割に
売上が少ないことが分かる。
質問3
貴社のインテリアファブリックス関連商品の生産・仕入について伺います。
1)貴社はインテリアファブリックス商品を製造する自社設備をお持ちですか(「自社」に
は資本関係のある関係会社を含みます)。(該当するものに○印)
56.3%
自社設備を保有している企
43.8%
業は 9 社、うち海外にも保
有している企業は 2 社であ
った。保有していない企業
は 7 社で、回答社数の
12.5%
43.8%であった。
る
てい
っ
に持
国内
る
てい
っ
に持
海外
い
いな
て
持っ
質問3-1) 回答社数16社
2)自社設備がある場合、その製品は何ですか。
(いくつでも○印)
55.6%
自社設備による製品でもっ
と も 指 摘 が多 か っ た のは
33.3%
「 窓 関 連 製品 」 で あ り、
22.2%
55.6%の企業が指摘した。
0.0%
次いで「床関連」「壁関連」
の順であった。
連
窓関
製品
連
床関
製品
連
壁関
そ
製品
リ
インテ
他
の
関
ックス
ブリ
ァ
フ
ア
連製
品
質問3-2) 回答社数9社
- 258 -
3)自社設備がある場合、その製品はインテリアファブリックス関連商品の総売上高の何パ
ーセントくらいですか。
自社設備を保有している
企業に対し、その製品がイ
ンテリアファブリックス関
33.3%
連商品の総売上高に占める
22.2%
割合を聞いた結果、5%か
22.2%
ら 100%まで、回答は幅広
11.1%
11.1%
く分散した。20%きざみに
集計した結果が上のグラフ
であり、パーセントを単純
に合計して回答社数で割る
以下
20%
40%
以下
以下
60%
超
と 45.5%となる。製造設備
質問3-3) 回答社数9社
を保有している企業では売
以下
80%
80%
上の約半分を自社設備で製
造していると理解できる。
4)貴社がお取り扱いのインテリアファブリックス関連商品の内、国産品の割合は総売上高
の何パーセントくらいですか。
各社が取り扱っているイ
66.7%
ンテリアファブリックス関
連商品について、総売上高
に占める国産品の割合を聞
い た 結 果 、「 80 % 超 」 が
66.7%、「60%~80%」が
20.0%
20.0 % で あ り 、 こ れ ら で
13.3%
86.7%に上った。アパレル
0.0%
20%
以下
40%
以下
0.0%
60%
以下
等に比べ、インテリアファ
80%
以下
80%
超
質問3-4) 回答社数15社
- 259 -
ブリックスの国産率は非常
に高いと言えよう。
5)輸入品(海外生産品を含む)がある場合、その輸入先はどのようですか。(いくつでも
○印)
78.6%
海外生産品を含む輸入商
92.9%
85.7%
品について輸入先国・地域
を聞いた結果、もっとも指
摘が多かったのはインテリ
ア先進地域と目される欧州
21.4%
であり、ついで低コスト生
7.1%
中国
以外
ジ ア
のア
欧州
ジアおよび中国の順であっ
米国
中国
産地域である中国以外のア
の他
そ
質問3-5) 回答社数14社
た。米国からの輸入は少な
かった。
6)貴社は海外にインテリアファブリックス商品製造の自社工場(100%出資)や合弁工場
(一部出資)
、協力工場(資本関係なし)などを持っていますか。(いくつでも○印)
75.0%
海外に工場があると回答
した企業は 8 社で、自社工
場があるのは 1 社のみ、合
弁工場があるのは 3 社、資
37.5%
本関係のない協力工場があ
るのは 6 社であった。
12.5%
自
場
社工
あり
合
場
弁工
あり
協
場
力工
あり
質問3-6) 回答社数8社
- 260 -
7)前問で「持っている」場合、どの地域ですか。(いくつでも○印)
自社工場
合弁工場
協力工場
中国
0
2
4
中国以外のアジア
0
1
3
欧州
0
0
3
北米
0
0
0
その他
0
0
0
計
0
3
10
(0)
(3)
(6)
(回答社数)
自社工場については回答なし、合弁工場については 2 社が「中国」
、1 社が「中国以外の
アジア」を指摘した。資本関係のない協力工場については、4 社が中国、3 社が「中国以外
のアジア」、3 社が「欧州」を指摘した。
8)貴社は海外に支社・駐在員事務所・営業所などを持っていますか。
(1 つに○印、国名
記入)
持っている場合、その機能は何ですか。(いくつでも○印)
15 社が回答したうち、
「ある」との
回答は 26.7%(4 社)であった。
所在国については中国 2 社、米国 2
ある
26.7%
社との結果であった。
ない
73.3%
質問3-8)回答社数15
- 261 -
支社・駐在員事務所・営
業所等の機能については、
100.0%
4 社が 8 項目の指摘をし
たが、その結果は左のグ
50.0%
ラフのとおり、販売関係
50.0%
は各社ともその機能を持
たせており、その他に情
0.0%
報収集機能を持たせてい
る企業が 2 社、生産・仕
情報
収集
生
仕
産・
入
関連
販売
関連
そ
の他
質問3-8)機能 回答社数4社
入機能を持たせている企
業が 2 社という結果であ
った。
- 262 -
質問4
貴社のインテリア関連商品の販売について伺います。
1)貴社のインテリア関連製品の売上と利益の動向について伺います。ここ 3 年程度の状況
をお答え下さい。(それぞれ 1 つに○印)
ここ 3 年程度のインテ
68.8%
リア関連製品の売上と利
56.3%
売上
利益
益状況は、多少減ってい
25.0%
25.0%
18.8%
るとの回答がもっとも多
く、売上で 68.8%、利益
で 56.3%に達した。
0.0%
0.0%
0.0%
6.3%
しかし、グラフに見る
0.0%
とおり、減少は売上で著
10%
以
え
上増
てい
る
多
え
少増
て
いる
変
て
わっ
い
いる
ない
て
てい
減っ
減っ
少
上
多
以
10%
る
質問4-1)回答社数
しく、利益においては「多
少増加」との回答も見ら
れる状況である。
2)貴社のインテリア製品の競合状況について伺います。(それぞれ 1 つに○印)
競合状況は、国内市場と
75.0%
外国市場とでは様相がま
55.6%
国内市場
外国市場
では圧倒的に競争が「非
33.3%
常に激しい」とされてい
18.8%
11.1% 6.3%
ったく異なる。国内市場
るのに対し、外国市場で
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
は「少し激しい」から「ど
ちらともいえない」に回
い
い
い
い
ない
激し
えな
激し
くな
し
し
に
言
しく
少
激
も
常
激
り
非
らと
全く
あま
どち
答の中心が移っている。
なお、外国市場につい
質問4-2)回答社数16、14社
ては輸出がないとした 4
社の回答は除外している。
- 263 -
3)貴社の販売先とその割合(金額ベース)、および取引の増減傾向をお示し下さい。資本
関係のある販売店がある場合には、その販売店の販売先をお示し下さい。
(いくつでも○印)
A.販売先
76.9%
販売先業種として 5 業種
76.9%
を例示し各社に指摘願っ
た結果は、左のグラフの
とおり、卸売企業と小売
30.8%
30.8%
30.8%
企業の指摘が多く各
15.4%
企業
卸売
企業
小売
者
消費
輸出
会社
建築
76.9%の企業が指摘した。
他
その
質問4-3A)回答社数13社
B.金額割合
卸売企業
小売企業
消費者
建築会社
輸出
その他
80%超
44.4%
33.3%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
80%以下
11.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
60%以下
11.1%
22.2%
0.0%
0.0%
0.0%
66.7%
40%以下
0.0%
11.1%
25.0%
25.0%
0.0%
0.0%
20%以下
33.3%
33.3%
75.0%
75.0%
100.0%
33.3%
質問4-3B)回答社数3~9社
金額割合についてはパーセントを記入願い、その集計結果を 5 段階に分けて表示したの
が上のグラフである。卸売企業、小売企業への販売が大きなウエートを占めていることが
読み取れる。
- 264 -
C.増減傾向
増減傾向については、
回答企業数が少ない項
目もあり明確には言え
ないものの、卸売企業に
おける減少傾向を回答
卸売企業 小売企業
減
不変
増
100.0%
0.0%
0.0%
80.0%
10.0%
10.0%
消費者
建築会社
輸出
その他
した全企業が指摘して
75.0%
0.0%
25.0%
75.0%
25.0%
0.0%
0.0%
0.0%
100.0%
50.0%
0.0%
50.0%
いる。これに対し輸出に
質問4-3C)回答社数10~2
- 265 -
ついては増加との指摘
のみであった。
質問5
貴社のブランド戦略、知的財産権戦略について伺います。
1)貴社で使用されているブランドの種類はどのようですか。(いくつでも○印)
92.3%
ブランドを企業ブラ
92.3%
ンドと製品ブランドに
分け、製品ブランドをさ
らに 3 種類に分けて各
38.5%
30.8%
社の使用ブランドの種
23.1%
類を聞いた。
その結果、企業ブラン
ント ゙
ント ゙
ント ゙
ント ゙
ント ゙
の他
ブラ
フ ゙ラ
フ ゙ラ
フ ゙ラ
フ ゙ラ
ー
ト
品
ナ
.そ
ー
品
業
イ
ネ
単
エ
゙
ィ
製
企
゙
ム別
デ サ
コーテ
アイテ
ータル
ウ.
.
ト
.
ア
質問5-1)回答社数13社
イ
ドは 92.3%の企業が使
用、製品ブランドの中で
「アイテム別単品ブラ
ンド」を使用している企
業が 92.3%と多く、「ト
ータルコーディネート
ブランド」や「デザイナ
ーブランド」等の使用は
少ないことが判明した。
2)マーケティング活動(マスコミ広告、店頭広告、POP など)で重点的に表示されるブラ
ンドはどちらですか。(1 つに○印)
マーケティング活動において重点的
に表示しているブランドについては
企業ブランドよりも製品ブランドを
使用している企業の方がやや多く、
企業ブラン
ド
38.5%
61.5%であった。
製品ブラン
ド
61.5%
質問5-2)回答社数13社
- 266 -
3)貴社では商標登録したブランドを何件お持ちですか。(記入)
登録ブランドの保有
70.0%
数については、企業ブラ
ンドは 5 権威かとの回
企業ブランド
製品ブランド
50.0%
答が圧倒的に多く、製品
ブランドは 20 件以上と
の回答が多かった。
25.0%
20.0%
16.7%
ンド数の平均値は、企業
10.0% 8.3%
ブランド 17.1 件、製品
0.0%
5以下
10以下
各社が記入したブラ
20以下
20超
ブランド 95.2 件であっ
た。
質問5-3)回答社数 企業ブランド12社、製品ブランド10社
4)貴社では海外市場に対してどのようなブランド戦略を採っておられますか(今後海外開
拓する場合のお考えを含む)。(いくつでも○印)
海外市場に対するブ
76.9%
ランド戦略は、「国内と
同じ自社ブランド」を用
いるという回答が圧倒
的に多く、76.9%に達し
た。「国内とは違う自社
7.7%
ント ゙
フ ゙ラ
ント ゙
フ ゙ラ
7.7%
の
社
社
など
じ自
う自
店
同
違
と
と
小売
国内
国内
海外
ント ゙
フ ゙ラ
7.7%
ブランド」や「海外小売
企業などオブランド」と
の他
そ
いう回答は少なかった。
質問5-4)回答社数13社
5)貴社では特許を何件お持ちですか。(記入)
50.0%
特許については、保有
していない企業と多数
保有している企業との
33.3%
二極分化が見られた。
「20 件超」の中に含ま
れる 6 社の平均特許保
16.7%
有件数は 115.2 件であ
0.0%
0
った。
0.0%
れる。
下
5以
10
以下
20
以下
20超
質問5-5)回答社数12社
- 267 -
質問6
貴社の経営課題と革新について伺います。
1)貴社における最優先課題は何ですか。(1 つに○印)
経営の最優先課題は売上か利益か、そ
れともその他にあるのか聞いた結果、
「利益」という回答が多く 78.6%に
売上
21.4%
達した。
「売上」は 21.4%、その他の
回答はなかった。
利益
78.6%
質問6-1)回答社数14社
- 268 -
2)貴社では右に掲げたような経営革新に取り組んでおられますか。
(主要 5 項目まで○印)
3)実現に業界としての取り組みが必要なもの。
(いくつでも○印)
4)実現に国の協力が必要なもの。(いくつでも○印)
コストの合理化
生産・在庫管理の徹底
販売チャネルの拡大
0.0%
68.8%
6.7%
62.5%
0.0%
0.0%
0.0%
62.5%
6.7%
56.3%
エコロジー対策の強化
商品のデザイン向上
0.0%
25.0%
7.1%
0.0%
18.8%
自社施工の拡大
0.0%
0.0%
商品への感性工学採用
展示場の増設・内容充実
12.5%
12.5%
0.0%
0.0%
寝具など他業界との提携
6.7%
33.3%
7.1%
クリーニング受託等の展開
納期の短縮化
経営課題
業界取組必要
国の協力必要
12.5%
0.0%
0.0%
0.0%
26.7%
18.8%
20.0%
7.1%
見本帳の削減
消費者への直販
18.8%
7.1%
ネット販売の展開
0.0%
0.0%
0.0%
33.3%
18.8%
6.7%
0.0%
0.0%
取引条件の改善
商品のバラエティ豊富化
42.9%
25.0%
26.7%
21.4%
リフォーム等への注力
インテリアファブリック以外への進出
31.3%
20.0%
ITによる情報化の推進
新商品分野への進出
85.7%
31.3%
6.7%
輸出への注力
商品のトータルコーディネート化
73.3%
12.5%
12.5%
6.7%
12.5%
6.3%
0.0%
26.7%
7.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
13.3%
0.0%
販売ルートの中抜き
0.0%
0.0%
0.0%
その他
0.0%
6.3%
質問 6-2,3,4)回答社数各 16,15,14 社
7.1%
- 269 -
経営革新の課題として 23 項目を例示し、①各社の取組状況、②その中で実現に業界の取
り組みが必要な項目、③実現に国の協力が必要な項目について聞いた。
その結果、①多くの企業が取り組んでいる課題としては、「コストの合理化」「生産・在
庫管理の徹底」「販売チャネルの拡大」「エコロジー対策の強化」などであり、②その実現
に業界としての取り組みが必要と考える課題としては「エコロジー対策の強化」
「リフォー
ム等への注力」「見本帳の削減」など、③国の協力が必要と考える課題としては「エコロジ
ー対策の強化」「輸出への注力」「IT による情報化の推進」などであることが判明した。
とくに「エコロジー対策の強化」は、企業、業界、国三者の取り組みが必要と考えられ
ており、重視すべき課題と言える。
質問7
貴社のインテリア関連商品の輸出について伺います。
1)貴社はインテリア製品の輸出はありますか。
(1 つに○印)
回答した 15 社のうち、インテリア
製品の輸出ありという回答は 11 社
73.3%で、多くの企業が輸出を行って
ない
26.7%
いることが判明した。
ある
73.3%
質問7-1)回答社数15社
2)インテリア製品の輸出が「ある」企業に伺います。
2-1)現状の輸出額は貴社のインテリア製品売上の何%くらいですか。
(数字記入)
輸出している企業は多いものの、輸
出割合は多いとは言えない。インテリ
5%超
14.3%
ア製品の売上に対し輸出が「1%以下」
の企業が 71.4%、
「5%以下」が 14.3%、
「5%超」が 14.3%であるが、回答し
5%以下
14.3%
た 11 社の平均輸出割合は 2.3%に過
ぎない。
1%以下
71.4%
質問7-2-1)回答社数11社
- 270 -
2-2)輸出先はどの地域ですか。(いくつでも○印)
72.7%
63.6%
63.6%
輸出先地域について
63.6%
は、11 社が 31 件の回答
をした。最も指摘が多か
ったのは「中国以外のア
18.2%
ジア」であるが、その他
の「北米」
「欧州」
「中国」
も多く、あまり偏りなし
中国
欧州
北米
中国
以外
に輸出されているよう
ジ ア
のア
そ
の他
である。
質問7-2-2)回答社数11
2-3)輸出商品は何ですか。(いくつでも○印)
輸出商品については、
54.5%
左のグラフのごとく、
「窓関連商品」が多く、
27.3%
「床関連」「壁関連」が
27.3%
これに次いでいる。
9.1%
0.0%
連
窓関
商品
連
床関
商品
連
壁関
商品
その
ン
他イ
関連
テリア
施工
商品
質問7-2-3)回答社数11社
2-4)輸出先国の取引相手の業種は何ですか。(いくつでも○印)
輸出先国における取
90.9%
引先の業種は圧倒的に
「卸売業」が多く 90.9%
を占めた。「小売業」と
いう指摘はなく、「最終
ユーザー」が 18.2%あ
18.2%
18.2%
った。この場合における
最終ユーザーは消費者
0.0%
ではなく、建築業者等で
業
卸売
業
小売
最終
゙ー
ユーサ
その
他
質問7-2-4)回答社数11社
- 271 -
あると考えられる。
2-5)輸出の形態はどのようですか。
(いくつでも○印)
63.6%
輸出形態については
各企業が直接輸出を行
っている形態が多く
63.6%に達した。これは
27.3%
27.3%
インテリア業界には大
9.1%
企業が多いことが影響
しているものと考えら
れる。
直接
輸出
国内
起
トを
゙ ェン
シ
ー
エ
用
現地
起
トを
゙ ェン
シ
ー
エ
用
その
他
質問7-2-5)回答社数11社
2-6)輸出のきっかけは何ですか。(いくつでも○印)
輸出を開始するきっ
60.0%
かけが何であったかに
50.0%
ついては、4 項目を例示
40.0%
40.0%
30.0%
して聞いたが、先方が日
本に買い付けに来たと
いう回答がもっとも多
いという結果であった。
「展示会に参加した」と
み
張
加
加
け出
り込
に参
に参
付
会
売
会
に買
展示
展示
出張
日本
海外
海外
国内
その
他
質問7-2-6)回答社数10
いう回答は、国内展示会、
海外展示会をあわせれ
ば 80.0%と、展示会参
加も大きなきっかけに
なっていることが判明
した。
- 272 -
2-7)輸出先からは、貴社商品のどのような要素が評価されているとお考えですか。また、
今後輸出を伸ばすためにはどのような要素を強化するのがよいとお考えですか。
(各 3 つま
で○印)
商品のデザイン
品質
機能性
90.0%
22.2%
60.0%
0.0%
30.0%
価格
日本製であること
90.0%
33.3%
20.0%
インターナショナルな感性
33.3%
10.0%
当社のブランド力
日本的な感性
10.0%
11.1%
商品のバラエティ
10.0%
11.1%
10.0%
納期
現地にあわせた感性
0.0%
ロット
0.0%
66.7%
20.0%
0.0%
44.4%
高評価
要強化
22.2%
22.2%
11.1%
質問7-2-7)評価 強化 回答社数10、9社
輸出企業が輸出先から評価されていると考えている要素は、「商品のデザイン」
「「品質」
「機能性」などであり、今後の輸出伸長のために強化すべきと考えている要素は「価格」
「ブ
ランド力」「商品デザイン」「インターナショナルな感性」などであることが判明した。
2-8)ここ 2~3 年の輸出取引の動向について伺います。(1 つに○印)
36.4%
輸出動向については
企業によってさまざま
27.3%
であるが、「横這いない
18.2%
9.1%
年率
9.1%
加
ある
減少
増加
減少
上増
いで
以上
満で
満で
未
未
%
這
10
横
10%
10%
ほぼ
年率
年率
年率
以
10%
質問7-2-8)回答社数11社
- 273 -
し若干の伸び」という意
見が大半である。
2-9)前問で、特に動きが激しいのはどの国ですか。(記入)
増加が大きい国
中国
3
インド
1
オーストリア
1
減少が大きい国
北米
3
欧州
1
サウジアラビア
1
輸出動向で動きが大きいとされた国は、上表の通りである。アジアの好調、欧米の不調
が目立つといえよう。
2-10)輸出における問題点は何ですか。(いくつでも○印)
市場情報入手難
63.6%
取引条件不一致
45.5%
嗜好に合う商品開発困難
0.0%
建物のサイズ基準の相違
0.0%
その他
として 5 項目を例示し
て聞いた結果、最も大き
27.3%
スケルトン渡し
輸出における問題点
な問題点として「市場情
報入手難」が上げられた。
2-6) で は 展 示 会 参 加 の
有用性が示されていた
9.1%
質問7-2-10)回答社数11社
質問
)回答社
が、展示会を含め市場情
報へのアクセス方法開
発につき業界、国として
も協力が必要であろう。
2-11)貴社では今後、さらに輸出を伸ばそうと考えていますか。(1 つに○印)
未定
0.0%
縮小
0.0%
今後の輸出意欲については、質問
4-2)の国内市場における競合の激しさ
現状維持
9.1%
を反映してか、
「伸ばしたい」とする企
業が 90.9%に達した。
輸出増進については質問 7-2-7)や
2-10)に示されたような企業として強
化すべき要素や輸出市場情報へのアク
セス向上など、なすべきことが多いが、
伸ばした
い
90.9%
業界、国も協力しあって実現に努めた
いところである。
質問7-2-11)回答社数11社
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3)輸出がない企業に伺います。輸出しないのは何故ですか。(いくつでも○印)
輸出のない企業 4 社
製品が不向き
66.7%
取引条件不一致
に輸出しない理由を聞
いた結果、3 社から回答
33.3%
があり、もっとも多かっ
33.3%
輸出ワークの余裕なし
数量条件不一致
た回答は「製品が不向
き」であった。
0.0%
質問7-3)回答社数3社
質問8
インテリアファブリックス産業の活性化、あるいは今後の貴社の経営改革に関し、
日頃のお考えを箇条書きでお示し下さい。
<輸出関連>9件
5
輸出促進
2
海外市場調査の強化
展示会のあり方の再検討
1
アジアEPAの推進
1
<国内市場関連>9件
IFの新商品開発
2
IFの非住宅への販路拡大
2
NIFによる生活者へのアプローチ強化
2
スケルトン渡しの推進
1
ブランド力向上
1
IF以外の分野への進出(技術相乗効果)
1
<政策関連>3件
住宅購入への政策的援助
1
駅周辺農地などの宅地化推進制度
1
建築確認申請の簡素化・短縮化
1
質問8 回答社数8社
質問 8 に関しては合計 8 社から書き込みがあった。それらの内容を咀嚼し、分類した
のが前頁のグラフである。国内市場開拓関連の書き込み 9 件と並び、輸出促進関連の書
き込みが 9 件あり、輸出重視の姿勢がうかがえる。
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