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山田 昌弘著 『なぜ日本は若者に冷酷なのか』 各地域における地方創生を

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山田 昌弘著 『なぜ日本は若者に冷酷なのか』 各地域における地方創生を
山田 昌弘著
子は、私たちが身近に接したり、飲食店などの町
『なぜ日本は若者に冷酷なのか』
中でも日常的に垣間見ることができるのである。
( 東 洋 経 済 新 報 社 、 2013 年 12 月 刊 、 1,620 税 込 )
非正規雇用者は男女合わせて2千万人近くまで増
え 、 う ち 男 性 で は 約 630 万 人 で 役 員 を 除 く 男 性 の
評者
(一社)地域問題研究所
雇 用 者 総 数 の 22% に 達 し て い る ( 平 成 26 年 総 務
田辺則人
省 「 労 働 力 調 査 」)。
著者は、非正規雇用者でもパラサイト・シング
ルとして親と同居したままなら生活が成り立つが、
各地域における地方創生を巡る議論では,出生
結婚願望があっても経済的理由もあり中高年シン
率を上げる対策について当然出ている。ある市町
グ ル 、さ ら に 親 の 介 護 に 家 族 と し て 対 応 で き る が 、
村のアンケート調査では未婚の若い男性の5割が,
親が死亡すると社会的孤立を迎えると負のライフ
結婚しない理由として「経済的な不安」を挙げて
ステージが進むと説明している。このところ、高
おり、雇用促進や起業支援などが対策として検討
齢者の生活の破たんを懸念する報道が目につく。
さ れ て い る 。 し か し 、「 若 者 が 夢 を 持 て な い 社 会 」
子育て期から家計が極度に苦しければ、高齢者に
になったことが大きな問題の一つであり、その解
なっても厳しい生活に陥り、さらに子どもの世代
決こそ根本的に必要ではないか、と本書を読んで
まで貧困が受け継がれる連鎖が発生しやすいので
考えさせられた。本書は、若者にやさしい社会と
はないか。こうした層が、このままの制度や雇用
して「親に頼らずとも低収入になっても、人並み
情勢ではますます増えることは予想に難くない。
の 生 活 が で き 、自 立 し て 子 ど も を 育 て ら れ る 社 会 」
著者は制度改革が急務となっている年金制度の
改革についてはもちろん、セーフティネット構築
を目指すことが必要であると提言している。
山田先生はかつて「パラサイト・シングルの時
のために流動的で非正規雇用にならざるを得ない
代 」、 さ ら に 『「 婚 活 」 時 代 』 を 著 し 、 こ れ ら の 造
単純労働者の生活を安定させるしくみが必要と訴
語は有名過ぎる。既に本書よりも近刊が出版され
える。
ているが、本書が人口対策を考える上で若者を取
「第5章
日本再浮上のために」においては、
り巻く環境を包括的に分析しており、著者の代表
8つの観点で提言がなされている。女性が働けば
作になるであろう。
共働きが消費活動を旺盛にするため、経済が活性
本書では、ちょうど私の子ども達もこれから直
化するという分析にはうなづいた。
「日本やEU財
面していくが、若者の人生に大きな影響がある就
政危機国で高い男女の就業率のギャップ」という
職は大学進学により保証されない、さらに、結婚
表が掲載されているが、我が国のギャップ値は財
は婚活によって保障されないという状態に陥って
政危機が話題になっているスペイン、アイスラン
きたと分析している。前者に対しては、新卒一括
ド、ギリシャと類似している。さらに、結婚して
採用の慣行を改めることにより若者のリスク分散
子育て世代の実収入が減っているという面も、出
を図り、教育への投資を無駄にせず社会的損失を
生率が高まらない要因の一つとして挙げている。
低くすべきと提言している。結婚したくてもでき
さらに「
、お金が家族のあり方に結構絡んでくる」
ない大きな理由としては、
「結婚したら夫が家計を
と、家族社会学と経済学の専門家が一緒に知恵を
維持する」という意識が強い中、若年男性の収入
出し合うべきと提言し、既に共同研究を手がけて
が不安定になっていることを挙げる。すると、女
「家族の衰退が招く未来」を著した。
性もパートナーを探すために苦心することになる。
「若者が夢を持つことができる社会」を築くた
雇用と家族のことになると、本書冒頭で日本社
めには、自治体において欧州で進められている社
会の実態について「社会は若者に冷たく、親は子
会的包摂の政策を目指すことは検討に値する。社
供にやさしい」というシンプルな言葉が著者の現
会の持続性を高める取組みを構築するための学際
状認識であり、真実と感じる。我が国は、非正規
的な検討を『計画行政』の読者である有識者の先
社員とならざるを得ない若者が増えた。彼らの様
生方にぜひお願いしたい。
日本計画行政学会「計画行政」
書 評 ( 2016.01 印 刷 中 )
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