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内部統制システムにおける取締役の監督監視義務 (三)(終

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内部統制システムにおける取締役の監督監視義務 (三)(終
Kobe University Repository : Kernel
Title
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終
)(Duty to Monitor of The Director in the Internal Control
System (3))
Author(s)
鐘, 白璐
Citation
六甲台論集. 法学政治学篇,62(2):63-76
Issue date
2016-03
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81009214
Create Date: 2017-03-29
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内部統制システムにおける
取締役の監督監視義務(三)(終)
鐘 白 璐(1)
第四章 中国法への示唆と検討
1 中国法における内部統制システムと取締役の監視義務
中国会社法(公司法)は、2005 年 10 月 27 日に中国全国人民代表大会常務委員会第 18 回会
議において改正が採択、公布され、2006 年 1 月 1 日から施行されている。会社法第 5 条は、
「会
社が経営活動を行なうにあたっては、必ず法律、行政法規を遵守し、社会公徳、商業道徳を
遵守し、誠実に信用を守り、政府および社会公衆の監督を受け、社会的責任を負わなければ
ならない。」と規定する。
会社が社会的責任を果たすべき存在でなければならないということは、下記内部統制規範
制定の立法背景に共通するものであり、内部統制規範の理念であるともいえる。
1.1 中国版 SOX 法—企業内部統制基本規範
中国における内部統制システムに関する研究は、日本や米国よりも遅れている。すなわ
ち、内部統制理論に関する研究は 1980 年代から始まり、90 年代以降は政府が企業内部統制
を推進し。1995 年に国家財政部(2)が発表した「会計法」では、企業は「内部会計統制の監
督」を強化すべきであると規定した。これは中国法上初めての内部統制についての規定であ
る。1996 年に公表された「独立会計監査具体的基準第 9 号̶内部統制と会計監査リスク」に
おいて、内部統制は以下のように定義された。すなわち、内部統制とは、会計監査の対象と
(1)
神戸大学法学研究科博士後期課程(商法)。Bailu Zhong, Ph.D. Program (Commercial Law), Kobe
University Graduate School of Law.
(2) 日本の財務省に相当し、財政を担当する官庁。
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第 62 卷 第 2 号
なる企業の業務活動や資産の安全性を確保し、違法行為を防止・発見・是正し、会計資料の
真実性・適法性・完全性を確保するために、制定また施行される施策である。つまり、内部
統制の主たる目的は、会計の安全性、信頼性、適法性を保証することである。
2001 年、財政部が「内部会計統制規範̶基本規範」を始め、7 つの内部統制に関する規則
を発表した。2002 年中国人民銀行(3)は、金融機関の内部統制を管理するために、「商業銀行
内部統制ガイドブック」が公表した。これは、中国における内部統制の大きな展開である。
2005 年には、銀行業監督管理委員会(4)によって、「商業銀行内部統制評価試行方法」が制定
された。その後、2006 年に、中国財政部、国有資産監督管理委員会、証券監督管理委員会、
会計監査署、銀行監督管理委員会、保険監督管理委員会が共同で「企業内部統制標準委員
会」を設立し、同年 11 月に、この企業内部統制標準委員会が「企業内部統制規範̶基本規範」
の意見募集稿を公表した。同時に、上場会社における内部統制を推進するため、上海証券取
引所(以下「上証」という)や深圳証券取引所(以下「深証」という)は「上場会社内部統
制ガイドブック」を公表し、「上海証券取引所上場会社内部統制ガイドブック」では、内部
統制の目的は会社の経営効果や効率を向上し、会社の情報開示の確実性や会社活動の適法性
を確保することであるとされた。2 年後の 2008 年 6 月 28 日、前記国有資産監督管理委員会以
(5)
外の 5 部門が共同で「企業内部統制基本規範」(以下は「本規範」と略す)
を公表し、2009
年 7 月 1 日から上場会社の範囲内で実施された。2010 年 4 月財務部等は「内部統制規範の実
施基準である企業内部統制ガイドライン」を公表した。同ガイドラインはまず 2011 年 1 月 1
日より国内と国外で同時に上場している会社に適用され、2012 年 1 月 1 日からは上海証券取
引所と深圳証券取引所のメインボードに上場されている会社にまでその適用範囲は拡大され
た。その後、財政部が本規範の解釈として、2012 年 2 月 23 日に「企業内部統制規範体系実
施中関連問題解釈第 1 号」を公表し、同年 9 月 24 日に「企業内部統制規範体系実施中関連問
題解釈第 2 号」を公表した。
1.1.1 法制定の背景
1992 年から 1993 年にかけて、原野事件・長城事件・海南新華事件の三大事件が生じた。
これらの事件に共通するのは、会社財産が架空計上されており、帳簿・契約書・証明書等の
(3) 中国人民銀行(People’s Bank of China)は中華人民共和国の中央銀行である。中国銀行(Bank of
China)は市中銀行である。
(4) 中国銀行業監督管理委員会(China Banking Regulatory Commission, CBRC, 銀監会)は、2003 年
成立し、最高国家行政機関によって授権され、銀行、金融資産管理会社、信託会社及びその他の金
融機関の権利を保護し、運営を監督する機関である。
(5) Notice of the Ministry of Finance, the CSRC, the National Audit Office and the CIRC on Issuing the
Basic Internal Control Norms for Enterprises。
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改ざんなどの方法で粉飾決算を行っていたということである。原野事件とは、中国初の上場
会社である深圳原野実業株式会社の経営者による横領事件である。帳簿の改ざん等により経
営者自ら株主となり、新株発行による増資の際に、経営者に株式を割り当てるなどの手段を
用いて、経営者の持分比率を上げて会社を支配しようとした。しかしながら、出資の履行は
行われず、所有者持分と現金預金勘定が架空に計上されたのである(6)。長城事件とは、北京
市長城機電科技産業会社が月 2 %の高い利息で他社から広く投資資金を詐欺した事件である。
技術開発契約書に記載された投資計画が非合理的である上に、社債を発行する際に、財務諸
表に虚偽記載をなし、虚偽の驗資報告(資産検査報告書)を会計事務所に提出させ、架空の
現金預、棚卸資産、固定資産などを計上するとともに、外部から調達した 2.1 億中国元の借
入金を資本金に組み入れた事件である。これら事件の発覚は、中国における企業内部統制に
関する法制定のきっかけとなったといわれている(7)。
その後、2001 年から 2002 年にかけて、鄭百文事件や銀広夏事件の発覚により、企業不祥
事が大きな社会問題となり、会計不正行為などの防止に関する立法が開始された。
鄭百文事件とは、1996 年に上場した鄭州百文株式会社による会計不正事件であり、1999
年の欠損額が 9.8 億元とワースト 1 位を記録するなど業績の悪化が深刻になったことで事件
が広く知られるようになった。中国証券監督管理委員会の調査によれば、上場前の 1994 年
から 1995 年までの間に架空利益 1908 万元が計上され、上場後の 1996 年の決算についても
1000 万元あまりの架空利益が計上されたという。さらに、上場後 3 年間の架空利益も合計で
1.44 億元となることが明らかとなった(8)。
銀広夏事件とは、広夏銀川実業株式会社による会計不正事件であり、その目的は株価の
高値を維持することであった。外資企業への架空輸出取引を売上高に計上したり損失を子
会社に移転させたりすることによって、利益を大幅に水増ししたのである。1999 年、2000
年、2001 年前半に計上した架空利益は、それぞれ、1.78 億元・5.67 億元・0.09 億元であった
が、実際には、それぞれ、0.5 億元・1.49 億元・0.25 億元の損失があった。会社は虚偽の税
関申告書や契約書を作成することで会計士監査を切り抜けるとともに、会計士としても問題
となった子会社に対する往査時間が極めて少ないなど過失が軽微であった。結局株価が急激
に上昇していて、いわゆる「株価神話」に値する上昇率であった。ところが 2001 年にふた
を開けてみれば、日本円にして 120 億円近い粉飾決算をしていたことが発覚し、上場廃止と
(6) 劉峰・呉風・鐘瑞慶「会計準則能提高信息質量嗎−來自中國股市的初步證據」會計研究(2004 年)
5 期 15 頁。
(7) 高山「”長城風波” 回望」税収与企業(1995 年)5 期 46 頁。
(8) 鄔義均・魏成龍「中國上市公司的持續發展−以鄭百文事件為例」中南財經政法大學學報(2002 年)
1 期 17 頁。
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なった(9)。
米国のエンロン事件と同じように、中国の証券取引市場にも銀広夏などの粉飾決算事件
が後を絶たなかったため、2008 年 7 月 28 日、すなわち上海証券交易所綜合株価指数が 5.29%
暴落した翌日に、内部統制に関して新たなルールが公表された。その構成は、前述のよう
に、中国財政部・中国証券監督管理委員会・会計検査署・銀行監督管理委員会・保険監督管
理委員会など、政府 5 機関の連名による「五部・委員会による内部統制に関する通知」(財
会[2008]7 号)、その添付資料である「企業内部統制基本規範」、および、同じタイミング
で財政部弁公室より公表された「企業内部統制応用ガイドライン」、「企業内部統制評価ガイ
ドライン」、
「企業内部統制監査ガイドライン」の 3 つのガイドラインである。 この中の「通
知」には、「上場企業については、2009 年 7 月 1 日以降、自社の内部統制の有効性について
自己評価を実施し、年度自己評価報告を開示することが義務(非上場の大中型企業は推奨)」
である旨が記載されている。
1.1.2 具体的な内容
企業内部統制基本規範は 7 章 50 条からなっており、米国の COSO 内部統制フレームワー
クを参考とし、米国レポートの枠組みを基礎として制定され、米国の SOX 法(企業改革法)
をモデルとしているので、
「C ̶ SOX 法」とも呼ばれる。さらに、本規範は中国の事情(10)を
考慮して作成されたものである。
ここで少し説明を要する点は、「企業内部統制基本規範」は狭義の法律ではなく、行政規
(11)
章
であるということである。では、なぜ行政規章なのか。この点については、中国の法
改正が困難であることによるものと考えられる。会社法や証券法などの法律の改正は非常に
困難であり、制定から今まで、ほとんど改正されていない。その代わりに、司法解釈(12)や
行政規章などをもって「改正」されている。
①適用範囲について、中国の国内企業は内部統制構築を一気に受け入れることはできない
ため、会社に過重な負担を負わせないようにするために、基本規範は緩やかに進めていく方
(9) 邵鋒「一個神話的破滅−從銀廣夏事件看銀行對上市公司的風險控制」金融經濟(2005 年)2 期 15 頁。
(10) 中国は、日米と違って、社会主義を取っている国であり、国情や法制度や経済制度などの違いも
ある一方、国有企業未だにも多数に存在するのを加えて、中国独特な事情が多くあるのである。
(11) 行政規章とは、特定の行政機関が法律法規に基づき、法定の形式で制定した一般的な拘束力を有
する規則である。
(12) 中国の「司法解釈」とは、法律解釈の一つであり、公権的な解釈である。すなわち、中国の司法
機関による法律、法規の具体的な適用に関する問題についての説明である。中国最高人民裁判所や
中国最高人民検査院による司法解釈は、下級裁判所や下級検査院に対して拘束力を有する。ただし、
憲法や法律に違反する司法解釈は無効である。ある特定の事件に法律を適用する際に示された解釈
は当該事件についてのみ効力を有し、一般的な拘束力はない。
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終)
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式を採用した。すなわち、中国国内において設立された中規模以上の企業に対しては義務的
に適用されるが、小企業やその他の組織は本規範を参照して内部統制システムを構築するこ
とができる(13)と定めている(規範第 2 条)。
②そして、目標としては、企業経営にかかる法令遵守、資産の安全性、財務報告及び関連
情報の真実を確保することが定められている(規範第 3 条 2 項)。本規範は COSO の枠組み
を参照した上で、中国の現状を考慮して、「資産の安全性」という目標を規定している。
③構成としては、「内部統制環境」
・「リスクの評価」・「統制活動」・「情報と伝達」・「内部
監視活動」の五つの部分に分けられている(規範第 6 条)。具体的には、コーポレート・ガ
バナンスを構築し、意思決定・執行・監督を行う職責を有するのは、取締役(会)・監査役
会・経理(14)と規定されている。つまり、取締役会は内部統制の構築や有効な運営について、
監査役会は取締役会の上記職責の監督について、経理は、内部統制の具体的な運営について
責任を負う(規範第 11、12 条)。企業は、取締役会の下で「独立会計監査委員会」を設置し
なければならない。会計監査委員会は、内部統制の審査、有効な運営の監督及び自己評価の
責任を負う(規範 13 条)。独立会計監査委員会と監査役会の職責はほぼ同じであり、あえて
規定して設置する意味についてはなお検討する必要があるだろう。
④本規範の附則であり、内部統制の実施基準である「企業内部統制ガイドライン」は、
「企
業内部統制応用ガイドライン」と「企業内部統制評価ガイドライン」、「企業内部統制監査ガ
イドライン」の三つによって構成される。 そのうち「企業内部統制応用ガイドライン」は
23 項目に細分化され、それぞれ構築すべき内部統制の具体的な内容が示されている。23 項
目には組織構造、発展政略、人的資源、社会責任、企業文化、資金管理、調達業務、資産管理、
販売業務、研究と開発、プロジェクト、担保業務、業務アウトソーシング、財務報告、全面
の予算、契約の管理、内部情報の伝達が含まれる。
1.1.3 内部統制の現状(三鹿グループ(15)の内部統制体)
2011 年に、中国国内の上場会社 214 社と、国内と海外証券取引所で同時に上場している 68
社は、「企業内部統制基本規範」と「企業内部統制ガイドライン」に従い、内部統制システ
ム構築を実施した。2011 年上場会社内部統制自己評価報告の提出状況については、上証や
(13) 小企業の場合は、内部統制システムを構築する義務があるのではなく、ただ本規範をモデルとし
て使う意味である。
(14)「経理」とは、経営管理者を略した言葉であり、英語の Manager と同じ意味である。日本で言う、
事業部長にあたる役職である。
(15) 三鹿集団という、中国の石家庄三鹿有限公司とニュージーランド生活協同組合フォンテラとの合
弁会社である。粉ミルクを中心とした乳製品の製造を行っていた。同社の粉ミルクの中国国内にお
ける市場占有率は 18 パーセントで、15 年連続首位を記録した。
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深証で上場された合計 2340 社の中では、1844 社が内部統制自己評価報告を提出し、全体の
78.80 %を占めている(16)。
以下、中国で、一時大変話題になった三鹿グループの事件を参考にして、中国企業の内部
統制の現状を検討する。
石家庄三鹿グループの前身は 1956 年に設立された幸福乳業合作社である。当初は僅か 32
頭の乳牛と 170 匹の乳羊からスタートしたが、50 年の発展過程を経て、三鹿グループは乳
牛牧畜、乳製品加工、科学研究開発が一体となった大手企業グループに成長し、連続 6 年間
中国企業ベスト 500 にランクインした。三鹿粉ミルク、液体ミルクは国家検疫免除製品に指
定された。2005 年 8 月、「三鹿」ブランドは、世界ブランドラボラトリーにより中国の 500
の最も価値あるブランドの一つに選ばれ、2007 年には中国商務部により最も市場競争力が
あるブランドに選ばれた。「三鹿」ブランドは「中国知名商標」に認定された。2006 年には
「フォーブス」により「中国の先端企業ベスト 100」に選ばれ、乳製品業界では第 1 位に選
ばれた。2006 年 6 月 15 日、三鹿グループと世界最大の乳製品メーカーの一つであるニュー
ジーランド生活協同組合フォンテラによる合弁会社が正式に操業を開始した。2007 年、グ
ループは販売収入 100.16 億元を実現した。三鹿粉ミルク生産販売量は連続 15 年続けて中国
全国一位を達成し、ヨーグルトは全国二位、液体ミルクは全国三位となった。2008 年の初め、
三鹿グループは、消費者から同社の乳製品の中に人体に有害な物質(原料ミルクの中にメラ
ミンが添加されていた)が含まれているという苦情を継続して受けるようになった。2008
年 9 月中旬から、三鹿が生産した乳製品を食用したことにより被害を被った消費者が、三
鹿グループへ賠償を要求し始め、代表取締役が逮捕された。2008 年 12 月 24 日、石家庄市裁
判所は三鹿へ破産命令を出し、その資産は清算の法的プロセスに入った。2009 年 02 月 12 日、
石家庄市裁判所は、三鹿グループの破産を正式に宣言した。
三鹿粉ミルクが招いた「粉ミルク事件」は、中国全土に衝撃を与え、人々の健康を損ねた
だけでなく、中国の食品の安全に対する信用を著しく損ねるという結果をもたらした。本事
件は、乳製品業界全体に重大な影響を与えただけではなく、競争の主体、製品構成、企業構造、
供給網等の面に再編をもたらし、さらに国家の危機対応体制、社会道徳及び企業の責任等の
問題に関する社会的議論と反省を引き起こした。本事件は、企業の内部統制面における瑕疵
及び不足を露呈し、中国の企業は如何に健全で有効な内部統制メカニズムを構築しなければ
ならないかという自省を促した。三鹿粉ミルク事件は表面的に見れば、主に原料の調達段階
に存在するリスクに起因して発生したと言えるが、事件の発生及びその展開から分析すれ
(16) 深圳市迪博企業風険管理技術有限公司「中国上市公司 2012 年内部控制白皮书」2 頁。
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終)
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ば、監督管理環境、業界の特徴、内部統制等の各レベルにかかわっていることは明らかであ
る。内部統制の設計については、食品原料の調達検収段階に瑕疵、指標設計の不備があった。
内部統制の執行については、リスク事項の識別及び評価に関する科学的で合理的な方法論と
指導が不足しており、情報と伝達の速度、有効性に対する認識不足、内部環境の構築、特に、
積極的で向上心を持った価値観及び社会的責任感の育成の面でさらなる改善が望まれる(17)。
1.2 取締役の監視義務
中国会社法においては、取締役は、会社に対して、忠実義務と善管注意義務を負うと規定
されている(中国会社法 148 条)。忠実義務違反になる行為は、①職権をもって違法な利益
を得ること、②収賄又は合意したその他の利益を受けること、③会社と競業すること、④会
社との間で取引をすること、⑤会社の秘密を漏らすこと、⑥会社の機会を奪うこと(18)、⑦忠
実義務を違反すること、その他の行為である。中国会社法では、取締役の善管注意義務につ
いて、何を基準として判断するのかについては規定されていないため、日本法や米国法にお
ける経営判断原則(Business Judgment Rule)は学説(19)以外では、未だ受け入れられていない。
現在の理論では、善管注意義務(勤勉義務)違反については、主観面と客観面を区別して判
断する。すなわち、主観的には、取締役は、誠実に会社業務を執行しなければならない。客
観的には、取締役は、自分の知識、経験に相応しい行動をもって業務を執行しなければなら
ない。
取締役(会)は、会社の経営を決定すること、内部管理機関を設置すること、役員の任免、
会社の基本的管理制度を定めることなどの権限を有する旨が規定されている。監査する義務
や内部統制システムを構築する義務は負わないものと解される。上場会社の場合は、取締役
会の業務執行や法令遵守等を監視監督するため、社外独立取締役が取締役会の 3 分の 1 以上
を占めなければならないと規定されている(20)。
現在、中国会社法の実務と学説のいずれにおいても、取締役の監視監督義務については議
論されていない。学説には、以下のように述べるものがある。「会社法に基づく統制構造に
は、監督機関としての監査役会と意思決定機関・執行機関を兼ねる董事会(21)が並立してお
(17) 梶田幸雄・熊琳・章啓龍『中国における企業内部統制』麗澤大学企業論理研究センター(2009 年)
121 頁
(18) 会社機会理論(Corporate Opportunity Doctrine)から生まれたものである。
(19) 蔡元庆「经营判断原则在日本的实践及对我国的启示」现代法学 2006 年第 3 期。
(20) 中国証券監督管理委員会「关于在上市公司建立独立董事制度的指導意見」第 1 条 3 項。
(21) 中国語で「董事」とは、取締役を意味する。
「董事会」とは取締役会であり、「執行董事」とは、
業務執行取締役や代表取締役を意味する。
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第 62 卷 第 2 号
り、さらに執行董事には、監督機関の一つとして監督権が付与されている。…新たに導入さ
れた独立董事の監督権と従来からの董事長の監督権の関係が問題になる。米英・日本では経
営執行の最高責任者は董事会の監視の対象である。…中国会社法は董事会に監視機能を与え
ていない。実質的に経営執行の最高責任者である董事長は、董事会に監視されるのではなく、
逆に監視するのである。これは言うまでもなく、執行と監督の分離という企業統治の国際的
な通念に適合していない。一方、独立董事の導入と専門委員会の設置によって、董事会は事
実上監督機能を付与されたことになり、董事会長は当然その監視を受けるものとして理解さ
れる。“独立董事指針”と “準則”のいずれも、両者の監督機能の位置づけを明確にしていない。
董事会長の業務執行の妥当性を監視する機能をどの主体が果たすのか、明確にする必要があ
(22)
るだろう」
。
2 中国法と日米法との比較。
上記中国における内部統制の規定と、日本や米国法制度とを比較してみると、以下のよう
な違いがある。
①内部統制の内容。中国法では、取締役会が、内部統制システムの構築義務を負うと規定
され、具体的な内容は「企業内部統制応用ガイドライン」と「企業内部統制評価ガイドライ
ン」、
「企業内部統制監査ガイドライン」で定められ、前述したように、23 項目に分けて、個々
詳細なガイドラインが公表されている。日本会社法及び会社法施行規則においては、内部統
制システムの内容についての規定は抽象的であり、会社が具備すべき「内部統制システム」
の具体的な内容やレベルを確定するための事柄について一切言及していない。米国法におい
ては、COSO レポート及び SOX 法などで、取締役が、内部統制システムを構築する義務が
あるのを定めるほか、判例法でも、いくつかの判例で構築義務があることが確認された、し
かし、日本法と同じ、内部統制システムに関する具体的項目は定めていない。
②適用範囲。中国法においては、上場会社や大会社、中会社に適用され、小企業は本規範
を参照して内部統制システムを構築する。日本法においては、会社法の内部統制に関する規
定は、大会社や委員会設置会社に適用され、金融商品取引法の規定は上場会社に適用される。
米国法においては、SOX 法は、「証券処方に基づいて行われる会社の開示の正確性および信
頼性を改善することにより投資者を保護することなどを目的とする法律」とし、内部統制シ
ステムは公開会社に適用されると考えられる。
③信頼性の範囲。中国規範でいう信頼性は、財務報告の信頼性だけを意味する。日本法に
(22) 劉平・今井健一「中国の企業統治と企業法制の改革」今泉真也・安倍誠『東アジアの企業統治と
企業法制改革』アジア経済研究所(2005 年)149 頁。
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終)
71
おいでは、財務報告だけでなく、非財務情報も含まれる。米国 COSO レポートで要求され
る報告も、内部報告と外部報告が規定され、信頼性については財務報告だけでなく、非財務
情報も含まれる。中国内部統制規範は、COSO レポートを手本として作られたものであるが、
中国の内部統制制度は未だ未熟であるため、一度に米国の制度の全体を取り入れることは困
難であると考えられる。米国においても、内部統制の発展はまず財務報告の信頼性から始
まったのである。
④重要な目標の違い。中国では、資産の安全性が主要な目標とされている。この点は、中
国の特色であるといわれる。すなわち、資産の安全性は、中国の国有企業にとって最も重要
なのである。組織再編における資産の流出によって間接的に政府が損害を被ることなどを考
慮して、安全性目標が重視されている。それに対して、日本法では、内部統制の目標は「業
務の有効性及び効率性」、「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる法令等の遵守」、「資産の
保全」である。米国法では、最も内部統制の安全性が重要な目標として重視されている。
⑤監督機関。中国では、上場会社の場合は、必ず監督委員会を設置しなければならない。
中国の上場会社の場合は、そもそも、取締役会においては、社外独立取締役を 3 分の 1 以上
選任しなければならないと規定されているので、ここで、わざわざ取締役会の下に監督委員
会を設置するのは、内部統制システムの運営への監査監督を厳格にしようという趣旨であろ
う。そうであるとすれば、監査役会の監査は重複するものであり、不要であろう。中国法で
は、内部統制システムについて監督権限を有するのは、監査役(会)と監督委員会両者であ
るが、具体的な権限分配については問題が残されている(23)。もっとも、監査役会の他、監督
委員会を設置する必要があるか否かについては、疑問がある。日本法における監査等委員会
は、委員会設置会社の監査委員会と同じく、監督等委員会の構成員は取締役でもあり、しか
も、過半数は社外取締役でなければならないとして、独立性が保たれている。日本法では、
取締役が内部統制システムを構築して、監査役、または委員会設置会社においては監査委員
会が、内部統制について監督・評価を行う。今回、日本会社法の修正案提案においては、
「監
査等委員会」という機関形態が認められる見込みである。これは、今までにある監査役会設
置会社、委員会設置会社に加え、大会社である公開会社に対して第 3 の選択肢を作り出すと
いうことある(24)。つまり、日本法で、会社は、以上の 3 つの類型の中から選べるわけである。
監査役制度でない米国では、監査委員会(Audit committee)が会社の内部統制システムや
内部監査の責任を負う(25)。
(23) 佐藤孝弘「中日内部控制制度的比較」亜太経済 2013 第 3 期 86 頁。
(24) 前田雅広「監査役会と三委員会と監査・監督委員会」、江頭憲治郎編『株式会社法大系』(有斐閣、
2013 年)253 頁。
(25) Stephen M Bainbridge, Corporate Law (Foundation Press 2nd. ed.,2009), at 86.
72
第 62 卷 第 2 号
⑥責任の追及。内部統制システムの構築責任については、日本法は、会社法や金商法での
規定はほぼ一致しており、内部統制システム構築義務に違反し、損害を生じた場合には、株
主と第三者のいずれも取締役の善管注意義務違反に基づいて、責任を追及することができる。
日本法と同じく、米国法においても、取締役は合理的な情報報告システムの存在を確保しな
かった場合には、信認義務違反として責任が追及される。中国法では、前記規範第 45 条は、
内部統制の欠陥について、「構築欠陥」と「運営欠陥」とに分け、いずれについても重大な
欠陥があった場合には、責任者の責任を追及できる旨を規定している。ここで、矛盾すると
ころは、中国会社法では、取締役の責任を追及することができるのは会社と株主のみである
ということである。それに対して、内部統制システム構築義務は、会社や株主の利益を保護
するだけではなく、その他の合法的な利益も保護するものであるので、債権者のような第三
者の利益も保護しなければならない。さらに、会社や株主が「企業内部統制基本規範」をもっ
て、役員(取締役など)の責任を追及することは考えにくいのである。原因としては、二点
考えられる。一つ目は、2012 年まで、上場企業の中、国有持株会社(26)が 953 社であり、投票
権制限付き普通株(A Shares)の 38.5% を占め、全部合計 13.71 万億中国元で、A Shares 上
場会社の時価総額の 51.4% を示している(27)。中国の現行国有企業における内部統制システム
は、2003 年 5 月 27 日に公布された「企業国有資産監督管理条例」によって確立された。中
央政府と地方政府に属する特別機関である国有資産監督管理委員会が国有株主(出資者)を
代表して国有企業(金融関連除く)をガバナンスする責任を負う。そのガバナンスシステム
は、資産管理、人事管理、重要経営事項管理から成る。しかし、実際の運営上、株主の代表
としての権限は分散され、管轄権は企業内部に設置された共産党委員会が有し、財政権は財
政部が握るという二重構造になっている。二つ目は、企業に対して不満があるとしても、持
株比率が低く、訴訟を起こす余裕もないし、結果、株式を売却することとなる。いわゆる、
マーケットガバナンス(ウォール・ストリート ・ ルール)による解決である。
3 中国における問題点や法制度の導入について
中国においては、1990 年代初期まで国有企業が国民経済の中心を担っており、計画経済
の下では、これらの国有企業には現代的会計、監査、内部統制制度は必要がなかったものと
思われる。有限会社や株式会社の設立が可能となり、経済の発展とともに、上場会社の数も
(26) 国有持株会社とは、政府や国有企業が 50% 以上の株式を持ち、または、50% に不足にしても、会
社の支配権を有している場合(具体的には、会社の経営判断財産状況を支配できる)、もしくは、所
持株が、株主総会決議に対して、重大な影響力がある場合の企業を指す。
(27) 王穎春「2012 年国有控股上市公司数量达 953 家総市値占 A 股場 51%」 http://www.cs.com.cn/sylm/
jsbd/201301/t20130110_3813430.html
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終)
73
増えつつある。また、上場していない中大規模以上の企業も多数存在するようになってきた。
しかしながら、関連する法制度の不備により、様々な問題が生じている。会社法、証券法、
会計法などの未熟さから、監査、内部統制制度の構築はなかなか進展せず、結局今日に至ま
で中国では体系的な会計・監査・内部統制に関する制度が構築されていない。日本など内部
統制の立法化が進んでいる国の中でも、中国では内部統制の立法化は早い時期に行われたも
のの、それまで構築が遅れていた監査・内部統制のキャッチ・アップを一つの目的としたも
のであったように思われる。中国国内企業運営の歴史は浅く、企業には多かれ少なかれ、内
部統制意識の薄弱、内部統制制度の不完全、内部会計監査制度の不十分、監督メカニズムの
機能不全、相応のインセンティブ・制約メカニズムの欠如、会計及び管理者のレベルの低さ
など一連の問題が存在している。中国社会に相応しい内部統制制度を制定するためには、日
本や米国法を参照し、以下の課題を解決する必要があると考える。
①内部統制が重視されていない。
つまり、適切で、有効な企業内部統制システムが構築されていない。前述のように、中国
企業は、内部統制システムを構築すること自体を重要としていない。もとより、会社の経営
者は、内部統制システムを構築するという意識が低いのである。現在の中国では、多くの企
業は企業内部統制基本規範や中国証券監視監督委員会、あるいは証券取引所の規定に従って
内部統制システムを構築し、企業内部規定の形で公開しているにすぎない。つまり、企業の
風土に合っているか否か、有効に機能しているか否かなど、様々な問題があるものの、多く
の企業はこれらの問題を直視したくない。一方、中国では、統一な内部統制評価基準がなく、
他方で、企業は、内部統制についての評価を必要としておらず、もしくは、評価するコスト
の高さに対して、収益を短期的に回収することができないと考えて、内部統制システムを重
視しないのである。日本においては、内部統制が重視される背景には、大手企業の不祥事が
相次ぎ、証券市場の信頼低下、市場の混乱を招いたという事情がある。さらに、2006 年 5 月
に施行された会社法と 2008 年 3 月に実施された金融商品取引法(J-SOX 法)において、内部
統制が求められる。米国において内部統制が重視される背景には、これまでに企業が起こし
てきた様々な事件がある。エンロン事件をはじめ、ワールドコム社の粉飾決算などによって、
米国要件市場の信頼は大きく損なわれた。中国においても、不祥事が多発し、市場への信頼
性が低下している現状のもとでは、会社法や証券法の改正によって本規範に対応する規制を
構築しなければ、問題の解決は困難であると考えられる。
②内部統制システムの実効的運営が保証されていない。
内部統制システムを構築したとしても、それを有効に運営しないかぎり、何の意味もな
い。内部統制システムを有効に運営するためには、管理監督部門の外部監督の補助作用が非
常に重要であるにもかかわらず、法律上から企業内部統制システムの評価と、監督部門によ
る、内部統制の有効性の保護するに関しても、明確な規定がない。本規範 13 条の規定によ
74
第 62 卷 第 2 号
ると、上場会社であれば、監査役会のほか取締役会の下に、監督委員会を設置しなければな
らない。二重の監視体制となっているが、権限の分配などが規定されていないため、内部統
制システムの確保が確実なものとならない。また、取締役会は、内部統制システムの整備運
用に関して最終的な責任を負うものであり、経営者に委任する場合であっても、その内容の
適切性の確保につき相当の責任が果たさなければならない。日本法や米国法のように、取締
役らに、業務執行者の監視監督義務を負わせるべきである。
③内部統制システムを実行する者(経営者)の質が高くない。
企業は独自の適切な内部統制システムを構築すると同時に、経営者は社会的責任を持ち、
自分の素質、能力を向上するよう努力をする必要がある。
④情報開示の遅滞等。日本、米国、中国においても上場企業の場合、法律によって、一定
の情報を必ず開示しなければならない。しかも、情報の正当性、真実性が求められる。情報
がスムーズに伝達することは、内部統制システムの効率的で効果的に運営に対して有効であ
る。中国の企業組織構造では、情報システムを構築が軽視され、企業内において、情報の遅
滞、虚偽などが少なくない。日本法では、投資家への正確な情報開示が義務づけられる。米
国ににおいでは、COSO レポートの一つ要素として、「情報と伝達」の内部統制における重
要性は疑いのないところであり、SOX 法でも、財務報告に係る内部統制の有効性を評価し、
内部統制報告書を作成することが義務づけられている。
⑤取締役の監視監督責任につての規定が不明確である。これは最も重要な点である。具体
的には、内部統制システムの不備による企業不祥事が発生した場合の取締役や監査役など
の責任ついて、法律上も実務上とも不明確である。つまり、取締役が、「企業内部統制評価
報告書」を作成する義務と、
「内部統制自己評価報告書」で署名する義務があると定められ
ているが、実際に、損害が発生した場合に、何を依拠して責任を追及するのが不明確であ
る。日本においては、大和銀行株主代表訴訟事件判決において示されたように、内部統制シ
ステム構築は経営者の善管注意義務の一内容として位置づけられている。米国においても、
Caremark 事件判決が「監督を履行する取締役会の継続的または組織的懈怠が認められる場
合、例えば、合理的な情報報告システムを全く確保しようとしなかった場合には、責任を認
めるための必要条件である誠実性の欠如を構成する」と示したように、監督責任の懈怠は信
認義務違反と判断された。前述したように、現在の中国では取締役が監視監督義務を負うか
否かについて、学説上もほぼ議論されていないし、裁判上も争われていないのである。
なお、中国の現在の規定のもとでは、前述したように、会社又は代表訴訟による株主は、
取締役の信認義務違反の責任を追及することができるとしても、債権者などの第三者は、直
接に取締役らの責任を追及することができず、これは中国会社法の規定や内部統制基本規範
の精神と反するものである。そこで、日本の会社法 429 条のように、役員の第三者に対する
損害賠償責任追及規定を設ける必要があると考える。
内部統制システムにおける取締役の監督監視義務(三)(終)
75
第五章 おわりに
中国は、WTO 加盟に伴い、先進資本主義国から市場経済に適応した会社法制の整備を要
請され、これに対応して会社法が 2005 年 10 月 27 日改正、公布され、2006 年 1 月 1 日から施
行されている。中国自身もこれにより市場経済化を推進し、中国企業の国際競争力を高めた
いとの考えがあった。しかし、会社法は改正されたもののなお多くの問題が存在している。
中国において、企業統治とは、中国語で「公司治理」という。この概念は、単に会社の内部
機構の問題だけではなく、外部の市場システムともかかわりがあるという意味を含んでいる。
「企業内部統制基本規範」の制定は、中国企業コーポレート・ガバナンスにおいて大きな一
歩を踏み出したものであるといわれる。民間企業や外資企業の増加とともに、国の行政力の
みで企業統制することは不可能であり、健全な内部統制に関する立法がなされる一方で、責
任追及制度を整備しなければ、規制に違反しても責任者(取締役)は何らの責任も追及され
ないこととなり、内部統制が形骸化する恐れがある。そもそも、中国では取締役の責任を追
及について、取締役の監視監督義務については、議論されてこなかったのであり、内部統制
システムの領域における監視監督義務だけではなく、取締役の監視監督義務を一般的に検討
する必要があるのであろう。
米国においては、当初、デラウェア州最高裁判所は、Graham 事件において、取締役の内
部統制システム構築義務に対して、否定的な立場をとっていた。しかしながら、海外不正支
払防止法の制定や連邦量刑ガイドラインの制定により、取締役の情報報告システム構築義務
に対する評価が変化していった。1996 年の Caremark 事件判決において、取締役は内部統制
システム構築義務を負うことが明確にされた。その後、取締役の誠実性の重視・誠実義務に
対する認識の変容によって、取締役の内部統制システム構築義務を含む監督義務は忠実義務
として位置づけられるようになった。1992 年に公表した(2013 年改正した)COSO レポー
トや、2002 年 SOX 法では、経営者に対し、年次報告書の開示が適正である旨の宣誓書提出
の義務づけ、財務報告に係る内部統制の有効性を評価した内部統制報告書の作成の義務づけ、
公認会計士による内部統制監査の義務づけなどによって、企業内部統制について厳格に規定
している。この法律は、その後米国内だけでなく、欧州や日本を含めた各国の上場規則など
に大きな影響を与えている。デラウェア州では、Stone 判決を通じて、取締役の監視監督義
務違反を判断する際に誠実性を前面に押し出し、取締役具法令遵守体制構築義務は誠実義務
として位置づけられた。現在、世界各国が会社の機関設計およびリスク管理という観点から、
米国の SOX 法および COSO フレームワークを模範として、独自のモデルを定めている。一
方、日本では、同じ問題に対応する為に、2005 年 6 月に従来の商法から独立させる形で、
「会
社法」という法律を制定し、2006 年 5 月に施行された。中国では、日本とほぼ同期に、会社
法を大幅に改正して、2006 年 1 月に施行された。企業内部統制、コーポレート・ガバナンス、
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第 62 卷 第 2 号
コンプライアンスなどの規制を強化し、新たに条例を制定した。日本法と米国法は,いずれ
においても、危険信号(Red Flags)が企業内に発見された場合については、取締役会は慎
重な検討を行った上で、積極的な行動をとることが求められるに対して、中国企業は、企業
統制機関が不完全であり、会社の信用制度が確立されておらず、会社の不祥事が多発する等、
至急解決すべき問題が存在している。
中国の内部統制制度は両国より遅れているため、日米の先進的な法制度や裁判例などの経
験を参考にした上で、内部統制システム充実のための関連制度の整備が望まれている。
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