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19世紀イギリスのヘゲモニー

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19世紀イギリスのヘゲモニー
大阪大学歴史教育研究会・第 43 回例会(2010/06/19)
院生によるグループ報告:近現代のグローバル・ヒストリー③
19世紀イギリスのヘゲモニー
≪1.18世紀におけるイギリス帝国の形成≫
西洋史 M1
中村
優希
共生文明論 M1 高橋
果江
≪2.パクス・ブリタニカ≫
≪3.パクス・ブリタニカと日本≫
共生文明論 M2 矢景
裕子
≪0.はじめに≫
・ウォーラーステインの定義
19 世紀中葉のイギリスをヘゲモニー国家→ただし具体的な議論はせず
オブライエンらとの定義の違い
・現行の教科書の記述
イギリス国内の状況と海外進出の取り扱い
≪1.18世紀におけるイギリス帝国の形成≫
【時代背景】
(1)17 世紀の状況
・「17 世紀の危機」…ヨーロッパ全体における社会、経済的な不安定
イギリスの場合
人口増加が最適点をむかえる
→穀物生産・木材、燃料用資源不足(資源・食料・エネルギーの危機)
毛織物輸出不況
(2)17 世紀後半の流行、嗜好
・アジア産の繊維製品の人気(キャラコや絹織物)
・綿布産地のインドに拠点を置くイギリスにとっては有利
⇒帝国の形成、商業革命
1
【帝国の形成】
(1)財政・軍事国家の成立
・イギリス―オランダ関係
オランダとの貿易関係の比重の低下
→アムステルダムの衰退、イギリス人の直接取引の増加
・名誉革命体制の成立→内外への信頼感を高める
1694 年
イングランド銀行の設立(『財政革命』)
18 世紀初頭
東インド会社が安定
→有利な投資先として、オランダの資金の流入(オランダ人の公債保有の割合は6割を超える)
・イギリス経済…戦争によって、停滞していない
→オランダ資金によって、経済活動に負担をかけることなく戦争を遂行
・租税収入のほとんどを軍事費として用いる=財政・軍事国家
(2)植民地帝国の形成
・「第二次英仏百年戦争」
九年戦争→スペイン継承戦争→オーストリア継承戦争→七年戦争→アメリカ独立戦争
→フランス革命戦争→ナポレオン戦争
…世界システムのヘゲモニーをめぐる争い
・七年戦争(1756~1763)
パリ条約…北米とインドで優位に(フレンチ・インディアン戦争とプラッシーの戦い)
⇒世界市場の支配権の獲得、莫大な財政負担
「イギリスが世界帝国を作り上げたために、当面、フランスには帝国形成の可能性がなくなった」
(By
E.J.ホブズボーム)
【商業革命】
(1)環大西洋経済圏の確立
・1660 年からの貿易の激増
→経済構造、イギリス人の生活や社会の構造、政治の趨勢の変化
・イギリス商業革命…貿易量の飛躍的拡大、貿易相手の激変、商品構成の根本的変化
貿易量:総輸出額は約3倍
貿易相手の変化:ヨーロッパ→アジア、新世界
商品構成:<輸出品>雑工業品、ヨーロッパ外の商品、輸入品の再輸出
<輸入品>砂糖、茶、煙草など
・三つの三角貿易
西インド諸島が重要な地点として機能する
→生活革命、産業革命 (工業化)につながる
2
(2)生活革命と産業革命(工業化)
・生活革命
海外商品による生活の急激な変化
民衆の生活へも広がる(砂糖入りの紅茶など)
・産業革命(工業化)
要因
世界市場の確保…1786 年:イーデン条約(フランスとの貿易の自由化)
生活革命によるアジア産品にたいする需要の拡大
→大量生産の必要性
解決策
①輸入品の国産化をはかる(産業革命そのもの)
綿織物:流行→需要の拡大→飛び杼の応用→紡績機の開発
②プランテーションの展開
【小括】
・17 世紀の状況から帝国の形成、商業革命は起こるべくして起こった
・財政・軍事国家の成立、それによって実現した帝国の形成、そして大西洋経済圏の成立の
3つによって、イギリスはヘゲモニー国家となった
・生活革命、産業革命(工業化)は商業帝国が成立したことが大きな要因となって起こった
≪2.パクス・ブリタニカ≫
【19 世紀イギリス帝国の勢力と構成】
(1)重商主義政策から自由貿易、そして帝国主義へ
・世界規模での海洋支配権の獲得
→世界市場で優位に
・穀物法の廃止、貿易独占権の廃止、航海法の廃止
・自由貿易政策を世界中に拡張、強要
→自由主義的な改革の時代へ
→自由貿易帝国主義
(2)イギリス帝国の海外膨張
・公式帝国
[カナダ連邦・オーストラリア・ニュージーランド(白人定住植民地)、英領インド、シンガポール、
エジプトなど]
・非公式帝国
例)中国
[アルゼンチン・ブラジルなど南アメリカ諸国、オスマン帝国、中国(清朝)など]
アヘン戦争、南京条約
→武力による自由貿易の押しつけ、砲艦外交
⇒公式支配、非公式支配による自由貿易帝国の拡張
【パクス・ブリタニカ期の経済】
(1)イギリス工業の相対的衰退
・19c.中葉
工業製品輸出
↔ 原料・食料品輸入
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→「世界の工場」イギリスを中心とする国際分業体制
・19c.後半
・19c.末
ドイツ、アメリカ合衆国の工業化の急進
第一次産品国が世界市場に編入
→資本財の生産でイギリスを凌駕
→世界の一体化が促進
(2)貿易外収支の構造の変化--多角的決済機構
・19 世紀イギリスの恒常的な貿易赤字、工業面での米・独の台頭でさらに悪化
・海運・保険などのサービス業での収入で埋め合わせ
・ジェントルマン資本家主導の資本輸出、海外投資の急増・・・「世界の銀行」へ
→利子、配当収入による貿易収支の赤字の埋め合わせ
・英領インドへの消費財の集中的輸出(インドの「安全弁」)
→インドの貿易黒字の吸い上げ
⇒イギリス工業は欧米諸国の追随により相対的に衰退
世界の一体化に伴い金融においてヘゲモニーを保持、ポンドの世界循環システムの成立
「世界の工場」から「世界の銀行」へ
【英領インド】
(1)インドにおける自由貿易帝国主義政策
・鉄道建設
→政治的・軍事的必要性、商業的開発、本国投資家にとっての有利な投資機会
・綿製品輸入関税率の変動
→本国の経済利害により操作
(2)英領インドの「安全弁」
・インドの対欧米諸国、日本への第一次産品(原棉・ジュート・茶・小麦など)輸出による貿易黒字
→イギリスの消費財輸出でインドの黒字を吸い上げ
・インド財政の「本国費」の円滑な支払い
⇒パクス・ブリタニカの経済を支える最大の貢献者。「ポンド体制」の最大の安定要因
(3)英領インド軍
・陸軍戦力として海外派兵され本国陸軍を補完
・植民地財政、本国費の約 1/4 により駐印本国陸軍とインド軍の維持経費をまかなう
・海外派兵の経費負担
→中国への派兵経費は本国が負担、インド周辺地域への派兵・駐屯経費はインドが負担
インド軍利用による安価な帝国・植民地防衛、外交戦略が可能
⇒王立海軍による海洋での軍事力に加え、パクス・ブリタニカの安全保障構造の重要な役割を担う
【小括】
・生産力と海洋支配の優位を背景に自由貿易を拡張し、自由貿易帝国イギリスを世界中に展開
・諸外国の工業化の発展に伴い、工業・商業から金融面でのヘゲモニー維持へ
・パクス・ブリタニカの経済、安全保障においての英領インドの重要性
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≪3.パクス・ブリタニカと日本≫
【はじめに】
・100 年前に世界を席巻した「日本車」とは?
【アジア間貿易】
自律性
アジアの需要に、アジアの原料・アジアの
役割分担で応える
依存性
貿易の発達は、欧米からの資本財輸入なし
には考えられず
→「相対的自律性」を保つにとどまる
【日本の工業化とイギリス】
日本は 1880 年以降工業化進行
→1900 年の段階で綿糸工業が生糸生産に次ぐ外貨獲得産業に成長
日英同盟(1902)
→シティ資本家の対日投資の後押し
(1)相互依存
・日本の対中国綿製品輸出の増加
→イギリス製機械・金属製品の対日輸出増加、イギリス資本財産業は儲かる
・日本の工業生産力強化、貿易黒字
→対外債務の返済、国際金融市場の新たなる資本投資を促す
・日本の工業化の進行
→原料の対日輸出額増加(特にインドから)
→日用品シェアでは負けても、高級商品の輸入は増大する(はず)
・ポンド通貨圏の形成
→日「低水準レートで取引、輸出有利」⇔英「ポンドの機軸価値性が高まり価値安定」
(2)対立
・アジア市場(中国・インド)で日本産綿製品とイギリス産綿製品がシェア争い
中国……1930 年段階で日本産の圧勝(日本 26.9%、英 9.3%)
ただし満州事変後日本製品の排斥が進む
インド…満州事変後、日本産綿布の流入によりイギリスのシェアを圧迫
イギリス優遇の特恵関税で対抗するが 1935 年段階で日本産に抜かされる
→日本の工業化とイギリスのヘゲモニーは必ずしも深刻に矛盾するものではない
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【パクス・ブリタニカと拡大する日本】
アジア内のみならず、日本の製品や日本人はパクス・ブリタニカに乗って拡大
◆ 例:ザンジバルの日本
・ザンジバル
アフリカ大陸東海岸、インド洋の群島
1890 年にイギリス保護領となり、内陸との中継貿易港として栄える
・日本からザンジバルへ
日本-ムンバイ:日本郵船
ムンバイ-ザンジバル:
British India Steam Navigation Co.
(ムンバイ-東アフリカ間の航路を独占運行、
2 週間に 1 便の定期貨客船)
・1924 年当時の日本の対ザンジバル輸出量は、本国イギリス、インド、タンガニカ(ザンジバル対岸)
に次いで 4 位
「日本ヨリノ輸入ハ大部分綿布類ニシテ右統計表面ニ於テ輸入額外國中第一位ヲ占ムルノミナラズ實際
ニ於テハ印度品トシテ計上サレタルモノヽ中本邦品モ相當含マレ居ル(中略)此輸入綿布中大部分ハ更ニ
東阿各地ニ再輸出セラルヽモノナリ」
・ザンジバルにもいた「からゆきさん」
【小括】
・アジア間貿易は欧米からの資本財により支えられており、「相対的自律性」を有する状態である
・日本の工業化とイギリスのヘゲモニーは深刻に矛盾するものではない
・日本の製品や日本人は、パクス・ブリタニカに乗りアジアを越えて拡大していった
≪4.まとめ≫
・財政/軍事国家として成功をなしとげ、商業帝国としてヘゲモニーを掌握
・自由貿易拡張の中で世界の一体化をすすめ、周辺国の工業化に伴い金融面でのヘゲモニーを行使
・アジア間貿易にも影響力を与え、日本もまたイギリスのヘゲモニーと密接にかかわりながら工業化
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【参考文献・用語一覧】
≪1.18 世紀におけるイギリス帝国の形成≫(担当:中村)
◆参考文献
加藤祐三・川北稔『世界の歴史 25 アジアと欧米世界』中央公論社(中公文庫)
、2010 年
川北稔・木畑洋一編『イギリスの歴史―帝国=コモンウェルスのあゆみ』有斐閣、2000 年
川北稔『工業化の歴史的前提―帝国とジェントルマン』岩波書店、1983 年
川北稔『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書、1996 年
ジョン・ブリュワ(大久保桂子訳)
『財政=軍事国家の衝撃―戦争・カネ・イギリス国家 1688-1783』
名古屋大学出版会、2003 年
角山榮『茶の世界史―緑茶の文化と紅茶の社会』中央公論新社、1980 年
パトリック・オブライエン(秋田茂、玉木俊明訳)『帝国主義と工業化 1415-1974』ミネルヴァ書房、
2000 年
[用語]
17 世紀の危機/財政・軍事国家/イングランド銀行/財政革命/第二次英仏百年戦争/七年戦争/パリ
条約/フレンチ・インディアン戦争/プラッシーの戦い/商業革命/三角貿易/生活革命/産業革命(工
業化)
≪2.パクス・ブリタニカ≫(担当:高橋)
◆参考文献
松田武・秋田茂編『ヘゲモニー国家と世界システム』山川出版社、2002 年
秋田茂「パクス・ブリタニカの盛衰」川北稔編『世界各国史 11 イギリス史』山川出版社、1998 年、295312 頁
秋田茂「イギリス帝国とアジア」『岩波講座
世界歴史 18』岩波書店、1998 年、165-186 頁
石坂昭雄・船山榮一・宮野啓二・諸田實『新版西洋経済史』有斐閣双書、1976 年
S・B・ソウル(久保田英夫訳)『イギリス海外貿易の研究』文眞堂、1970 年
P・J・ケイン・A・G・ホプキンス(竹内幸雄・秋田茂訳)『ジェントルマン資本主義と大英帝国』岩波書店、
1994 年
『新編高等世界史B』帝国書院、2007 年
[用語]
パクス・ブリタニカ/自由貿易帝国主義/公式帝国・非公式帝国/砲艦外交/多角的決済機構/ジェントルマン
資本家/英領インド
≪3.パクス・ブリタニカと日本≫(担当:矢景)
◆参考文献
秋田茂『イギリス帝国とアジア国際秩序 : ヘゲモニー国家から帝国的な構造的権力へ』名古屋大学出版
7
会、2003 年
横井勝彦編『日英経済史』日本経済評論社、2006 年
大阪商船株式会社『東アフリカ経済事情調査報告書』1926 年
南洋及日本人社「南洋及日本人」1926-1940 年(参照部分は 1926 年 4 月号)
[用語]
アジア間貿易/相対的自律性/日英同盟/シティ資本家
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