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財政学特講 - 高崎経済大学

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財政学特講 - 高崎経済大学
財政学特講
@埼玉大学経済学部
1
第12回
租税(8)消費税(後)
2014年7月3日(木)
担当:天羽正継(経済学部経済学科専任講師)
2
日本の消費税の現状(1)
 2012年度決算における消費税の収入額は10.4兆円で、税収に占める割合は24.2%、一般会計全体に占める割
合は9.6%。
 税収としては所得税(14.0兆円)に次ぎ、法人税(9.8兆円)を上回る規模。
 税率は8%で、そのうち1.7%が地方分(地方消費税)。
 創設当初(1989年4月)の税率は3%で、その際には地方分はなし。1997年4月に5%に引き上げられた際に、そのうち
1%が地方分とされる。現在の税率は2014年4月から。
 課税対象は、原則として国内におけるすべての財・サービスの取引(国内取引)と、外国貨物の取引(輸入
取引)。
 国内取引でも課税されない取引が一部にある(非課税取引)。
 輸入品には課税されるが、輸出品には課税されない(輸出免税取引)。
 原産地原則に対する仕向地原則(後述)。
 納税義務者は個人事業者および法人。
 前段階からの仕入額として、機械等の資本財の購入額も控除することを認める消費型付加価値税。
 政府支出と外国貿易を捨象した場合、GNP = C + I ⇔ C = GNP -I であることからこのように呼ばれる。世界で最も
普及している付加価値税。
3
日本の消費税の現状(2)
 日本の消費税では、前段階(仕入)の税額控除はインボイスを用いずに帳簿上で行う。
 EUの付加価値税では、インボイスに税額が明記されているので、正確な前段階税額控除が可能。
 インボイスを用いていない以上、日本の消費税は純粋な前段階税額控除方式ではなく、事実上の前段階売上高控除方式。
 単一税率の下では、インボイスがなくても前段階の税額の計算に支障はないが、複数税率の下では、インボイスがなけれ
ば正確な計算は困難。
 前段階の税額の計算をより正確にするために1997年の改正で、帳簿とともに取引の相手方が発行した請求書等を保存する
ことを義務付けた(請求書等保存方式)。
 小規模事業者に対する特例措置
 前々年(年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税(免税点制度)。
 ただし2013年1月より、前年(年度)上半期の課税売上高が1,000万円を超える事業者には納税義務が発生することに。
 課税売上高が5,000万円以下の事業者は簡易課税制度を利用可能。納税の事務手続きが大きな負担となる小規模事業者への
配慮。
 売上げにかかわる消費税額に「みなし仕入率」を掛け合わせた額を、前段階の税額として控除できる制度。
 しかし、みなし仕入率が、売上額に対する実際の仕入額の比率を上回る場合、実際よりも多くの税額を控除できるため、納税額が少な
く済んでしまい、その分が事業者の利益となる(益税)。
 毎年度の予算総則において、国の消費税収のうち地方交付税交付金に充てる部分以外は、基礎年金、高齢者医療、
介護の三経費に充てることを明記(福祉目的化)。
4
日本の消費税の現状(3)
消費税制度改正の歩み
注:平成23年度において、免税点制度は、前年または前事業年度上半期の課税売上高が1,000万円を超える事
業者は不適用とする改正が行われている(法人は平成25年12月決算から、個人は平成25年分から適用)。
出所:財務省ホームページ
5
日本の消費税の現状(4)
日本の消費税の課税対象
課税取引
資
産
の
譲
渡
等
国
内
取
引
輸出免税取引
非課税取引
資産の譲渡等に該当しない取引
(不課税取引)
輸入取引
例:土地の譲渡、貸付け
例:寄附金、配当
課税取引
(課税貨物の引取り)
非課税取引
例:有価証券の輸入
国外において行う取引
(不課税取引)
出所:宇波弘貴編著『図説日本の税制 平成25年度版』財経詳報社、187ページ。
6
日本の消費税の現状(5)
日本の「請求書」とイギリスの「インボイス」
出所:財務省ホームページ
7
日本の消費税の現状(6)
業種
第1種事業(卸売事業)
第2種事業(小売業)
第3種事業(製造業等)
第4種事業(その他の事業)
第5種事業(サービス業等)
みなし仕入率
90%
80%
70%
60%
50%
注:2015年4月以降、金融業・保険業は第4種事業から第
5種事業、不動産業は第5種事業から第6種事業に。
8
日本の消費税の現状(7)
消費税の使途(2011年度予算)
出所:財務省ホームページ
9
日本の消費税の歴史(1)
 戦前には、酒税、砂糖消費税、揮発油税、物品税などの個別消費税が存在。
 特に地方税には、電柱税、芸妓税、自転車税、荷車税、金庫税、扇風機税、犬税などの雑多な税が存在。
 一般消費税として初めて導入されたのが、1948年の取引高税。しかし、シャウプ勧告により1949年度に廃止。
 シャウプ勧告:1949年、連合国軍最高司令官に示された、シャウプ(C. S. Shoup 1902~2000)を長とする日本税制調
査団の勧告。国税は直接税を基本とし、地方税は独立税とするなど、第二次大戦後の日本税制の基礎となった(『広辞
苑』)。
 シャウプ勧告は、都道府県税として付加価値税の導入を勧告。しかし、その仕組みがよく理解されなかったた
め、導入は実現せず。
 「付加価値税は『不可解税』」とも言われた。
 一般消費税導入検討開始の経緯
 高度成長期は財政赤字を出さない均衡予算が続いていたが、1970年代に二度のオイルショックに見舞われると、財政赤
字の傾向が定着。
 当時存在していた消費税は個別消費税のみであったため、物品間の課税のアンバランスが生じるとともに、サービスに
対する課税が行われていなかったため、消費の多様化・サービス化に対応できず。
 所得税の捕捉率の問題(クロヨン問題)から、水平的公平の実現が政治的課題としてクローズアップされることに。
 クロヨン問題:所得の捕捉率が給与所得者(サラリーマン)9割、自営業者6割、農漁業従事者4割と、業種間で差があるという問題。
10
日本の消費税の歴史(2)
 1979年に大平内閣が、一般消費税の導入に向けた動きを開始するが、政界内部や世論の反発にあい、挫折。
 1987年に中曽根内閣が、売上税を導入する法案を国会に提出するが、またしても政界内部や世論の反発にあい、
廃案。
 1988年に竹下内閣が、消費税を導入する法案を国会に提出し、成立。
 しかし、小規模事業者の納税負担を緩和するために、①インボイスを使用しない帳簿方式、②簡易課税制度、③免税点
制度、④限界控除制度を導入。
 限界控除制度:課税売上額が免税点を超えることによって税負担が急激に上昇することを避けるために、特例を設けて税負担が漸
進的に上昇するようにする制度。
 さらに、消費税導入に対する国民の反発を回避するために所得税や法人税を減税したため、全体としての税収は減少。
11
世界の付加価値税(1)
 付加価値税が世界で初めて導入されたのは1954年のフランス。その後、1960年代にEC諸国で域内取引を円滑
にするため、相次いで導入される。
 EC委員会が加盟国に対して付加価値税の導入を指令するとともに、付加価値税の導入をECへの加盟条件とした。
 その後、アジア、アフリカでも付加価値税を導入する国が広がる。
 しかし、アメリカは州税として小売売上税が存在するため、現在に至るまで導入せず。
 現在のEUでは、各国間で付加価値税の統一性をある程度維持するため、遵守すべき基準を設定。
 標準税率は15%以上。
 軽減税率は5%以上で2本以下。
 軽減税率を実施する場合、一般に生活必需品が対象となるが、具体的に何を対象とするのかを決めるのは非常
に困難。
 例:ハンバーガーを店内で食べる場合は「外食」となり、標準税率が適用されるが、持ち帰りの場合は「食料」となり、
軽減税率が適用される。
12
世界の付加価値税(2)
付加価値税率(標準税率)の国際比較
注1:日本については2014年4月時点の税率、その他の国については2014年1月時点の税率を記載。注2:日本の消費税率8%のうち1.7%相当は地方消費税(地方税)である。注3:カナダにおい
ては、連邦の財貨・サービス税(付加価値税)の他に、ほとんどの州で州の付加価値税等が課される(例:オンタリオ州8%)。注4:アメリカは、州、郡、市により小売売上税が課されてい
る(例:ニューヨーク州及びニューヨーク市の合計8.875%)。出所:財務省ホームページ
世界の付加価値税(3)
13
非課税
標準
税率
ゼロ
税率
税率
軽減
税率
付加価値税における非課税、税率構造の国際比較(2013年1月現在)
日本
イギリス
ドイツ
フランス
土地の譲渡・賃貸、住 土地の譲渡・賃貸、建 不動産取引、不動産賃 不動産取引、不動産賃
宅の賃貸、金融・保
物の譲渡・賃貸、金融・ 貸、金融・保険、医療、 貸、金融・保険、医療、
険、医療、教育、福祉 保険、医療、教育、郵 教育、郵便等
教育、郵便等
等
便、福祉等
5%
20%
19%
19.6%
(地方消費税を含む)
食料品、水道水、新
なし
なし
なし
聞、雑誌、書籍、国内
旅客輸送、医薬品、住
宅の建築、障害者用機
器等
家庭用燃料および電力 食料品、水道水、新
旅客輸送、肥料、宿泊
なし
等…5%
聞、雑誌、書籍、旅客 施設の利用、外食サー
輸送、宿泊施設の利用 ビス等…7%
等…7%
書籍、食料品等…5.5%
新聞、雑誌、医薬品等
…2.1%
なし
なし
なし
なし
割増
税率
出所:宇波弘貴編著『図説日本の税制 平成25年度版』309ページ。
14
世界の付加価値税(4)
食料品に対する付加価値税の課税状況(2008年1月現在)
イギリス
ドイツ
19%
17.5%
標準税率(19%)
ゼロ税率
標準税率(17.5%)が適用される品目を限定列挙
軽減税率(7%)が適用される品目を限定列挙
・一定の生きた動物(家畜用の牛、豚等)
・肉類、魚類(観賞用魚を除く)、甲殻類(イセエビ及
びロブスターを除く)及び軟体動物(牡蠣及びエスカ
ルゴを除く)
・牛乳及び乳製品、卵等並びに天然はちみつ
・飼牛や飼鶏の胃腸等
・生鮮の植物及び根菜
・果実、野菜(果汁及び野菜汁を除く)
・コーヒー、茶、マテ茶及び香辛料
・穀物、澱粉、パン及び果実粉等
・動物性又は植物性の食用油脂で加工されている
ラード及びマーガリン等
・砂糖及び砂糖製品
・ココア含有の調整食料品
・食塩(水溶液にしたものを除く)
・食酢
・牛乳を75%以上含む乳飲料等
・宅配による飲食物の提供、建物内における飲食物
の提供及び温かい持ち帰り用食品の提供
・アイスクリーム、フローズンヨーグルト等の冷凍菓子
類
・菓子類(ケーキ及びチョコレートでコーティングされ
ていないビスケットを除く)
・アルコール飲料
・その他の飲料(フルーツジュース及び瓶詰め水を含
む)及びシロップ類
・ポテトチップス等のスナック菓子類
・ペットフード
・自家醸造のための原材料品
(注)上記標準税率適用品目から除外される品目(ゼ
ロ税率適用品目)
・冷凍された状態では消費に適さないヨーグルト
・干したさくらんぼ
・砂糖づけの果皮
・茶、マテ茶、ハーブ茶等及びこれらの加工品
・牛乳及びその加工品
・「食肉、酵母及び卵」の加工品
出所:石弘光『消費税の政治経済学―税制と政治のはざまで』71ページ。
15
外国貿易と付加価値税(1)
 国境を越えて財の取引が行われる場合に、付加価値税をどのように課すか。
 仕向地原則:財の最終消費地に税収が帰属する。輸出非課税、輸入課税。
 原産地原則:財の原産地に税収が帰属する。輸出課税、輸入非課税。
 仕向地原則の例(スライド16)
 A国の製造業者は卸売業者に価格50の財を販売し、代金50および税額5(50×10%)を受け取って税務署に納税する。
 A国の卸売業者は価格50の財に付加価値50を上乗せし、価格100でB国に輸出。輸出は非課税なので、納税額は前段階の
製造業者に支払った税額5を差し引いて0-5=-5となり、その分が税務署から還付される。
 以上より、A国の税収は差し引き0となる。
 輸入された財には税関でB国の税率が適用され、輸入した小売業者は税額5(100×5%)を税関に納付する。
 B国の小売業者は価格100の財に付加価値200を上乗せして販売し、代金300と税額15(300×5%)を消費者から受け取
る。そして税額15から、税関に納付した税額5を差し引いた10を税務署に納税。
 以上より、B国の税収は15となり、消費者の税負担額と一致。また、消費地と税収の帰属地はB国で一致。
 仕向地原則では、国産品も輸入品も、価格が同じであれば税額も同じになる。そのため、各国間で税率を統一
する必要がない。
 原産地原則では、たとえ価格が同じでも各国間で税率が異なれば、国産品と輸入品の税額は異なる。
16
外国貿易と付加価値税(2)
(A国)税率10%
(B国)税率5%
輸出免税
A事業者
(製造)
輸入課税
A'事業者
(卸売)
50+税5
納税
5
100
還付
5(0-5)
A国
税務署
B事業者
(小売)
A国
税務署
税収0
出所:持田信樹『財政学』188ページに一部修正。
消費者
300+税15
納税
5
納税
10(15-5)
B国
税関
B国
税務署
税負担15
外国貨物の引取り
に係る消費税額を
控除
税収15
消費者はB国の消費税のみ負担
(消費税と税収の帰属地一致)
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