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№8「高血圧」

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№8「高血圧」
東 順子の症例研究
№8「高血圧」
(平成 16 年 4 月 12 日の田園調布教室「東順子のからだ講座」における講義録)
前回は、血圧のメカニズムについてお話しました。血圧のメカニズムがわかれば、何故血圧
が高くなったり、低くなったり変動するのかということが、大体おわかりいただけたと思います。
そして、血圧は、私たちが生きていくために絶対に必要なエネルギーのひとつであり、しかしそ
れは高すぎても低すぎてもいけないということがおわかりいただけたと思います。
そして今回のテーマは、“高すぎる原因は何なのか”“高すぎたらどうなるのか” “どう対処す
ればよいのか”ということです。
私たちにとってとてもポピュラーな疾患「高血圧」について考えていきましょう。
高血圧はありふれた病気です。ご家族やお友達にも血圧の高い人は何人かおられるでしょう。
どのくらいありふれているかといいますと、
○最高血圧が 160mmHg以上か最低血圧が 95mmHg以上の人 または
○既に高血圧と診断されて薬を飲んでいる人
の割合は 65 歳以上の人の約 50%、全人口の約 25%です。
そんなにありふれていれば、血圧が高いのが正常で低いのがむしろ異常ではないのかと思
いたくなるのですが、そういうものではないようです。
血圧が高いというそれだけでは、一般的に症状がないのが特徴で、検診などで測ってビック
リというケースが多いようです。症状がないので放置されることも多く、心臓病や脳卒中など、
重大な合併症を引き起こしてから気づくことも少なくありません。
高血圧は命にかかわる病気です。
これが、サイレントキラー(静かなる殺人者)と呼ばれるゆえんです。
本態性高血圧と
本態性高血圧と二次性高血圧
高血圧は、さまざまな病気に関係しています。何かの病気が高血圧という症状を引き起こす
ということもありますし、高血圧が病気の原因になるということもあります。そのあたりの因果関係
というものが実に複雑でややこしいのですが、まずはじめに高血圧を大きく二つに分類してお
く必要があります。それは、「本態性高血圧」と、「二次性高血圧」です。
本態性高血圧とは、ひとことでいえば原因不明の高血圧です。一方、原因となる病気があり、
その病気のひとつの症状として血圧が高くなっている状態が二次性高血圧です。
日本では、二次性高血圧は全体の 5%(10%という資料もあります)に過ぎず、残りの 95%程
度、つまりほとんどの人は本態性高血圧です。本態性か二次性かで、いろいろとお話が違って
きますので、初めに頭に入れておいてください。
1
高血圧の
高血圧の診断
では、どのようにして、高血圧という診断が下されるのでしょうか。血圧を測定して、例えば最
高血圧が 170mmHgだから「ハイ高血圧デス、オ薬ダシマス」、というわけではないようです。か
なり多岐にわたった検査をするのだということが、今回勉強してわかりました。
詳しい項目は別紙でご紹介しますが、これは、実際これから高血圧の検査を受けに行こうと
している人でもなければ、熟読する必要はありません。資料として持っているだけでいいと思い
ます。
1.スクリーニング検査
スクリーニング検査
スクリーニングとは「ふるい分け」という意味で、高血圧が疑われるすべての人に対
して実施されます。
高血圧を治療する目的は、将来的に高血圧によって引き起こされる可能性がある
①狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患
②脳出血、脳梗塞などの脳血管障害
などを予防することにあります。
スクリーニング検査では、
①より正確な血圧値を把握する
②本態性高血圧か二次性高血圧かを鑑別する
③高血圧によって心臓、脳、腎臓、大血管など、主要臓器がどの程度障害されている
か
④循環器疾患の他の危険因子(高脂血症や糖尿病など)の有無の検査
などをおこないます。(別紙「スクリーニング検査の項目と診断基準」=表 1)
スクリーニング検査で合併症などが疑われたときには、合併症の種類、重症度の程度
を調べるために、さらに詳しい検査が必要になります。また二次性高血圧が疑われると
きも、より正確に診断するために、より詳しい検査をおこないます。
2.血圧値の
血圧値の評価
血圧はいろいろな条件で絶えず変動しているために、検診の場での 1 回や 2 回だけの
血圧測定では、その人の血圧を正確に把握できません。ですから、検診などで血圧が高
いと診断された人は、まず血圧測定を何度か繰り返して、その人の血圧値を正確に評価
することが必要になります。その際、次のような点を特に注意します。
○白衣性高血圧
医師の前に出るだけで血圧が 20~30mmHgも高くなってしまう人が、全体の 3~4 割もいるこ
とがわかっています。 このような患者では、外来血圧が高いからといって降圧薬を服用すると、
2
逆に血圧が下がりすぎてしまうことがあります。そのような場合には、家庭で測定した血圧を参
考に治療したほうがよいことも少なくありません。
○最高血圧と最低血圧
一般に最高血圧(収縮期血圧)の方ばかり注目する傾向がありますが、医師はどちらかという
と最低血圧(拡張期血圧)を重視します。最高血圧が精神的ショックや年齢などで変動しやす
いのに対して、最低血圧は比較的安定しているからです。ただし、高齢者などでは最高血圧
のみが高くなることがあり、そうした場合も治療の対象になります。
○年齢を考慮する
若い人では最高血圧が 160mmHg以上になると降圧薬を服用するのが一般的ですが、80 歳
以上の高齢者では、最高血圧が 170~180mmHgになっても、降圧薬服用の対象とならない場
合も少なくありません。高齢者の場合、無理に血圧を下げすぎると、重要な臓器の血流が低下
し、かえって腎臓や脳の血管などに障害を起こす危険性があるのです。
ほかにも、「高血圧の鑑別診断」や「合併症の程度を調べる重症度診断」などがありますが、検
査の内容は多岐にわたりますので、省略します。
血圧の
血圧の異常とはどんな
異常とはどんな状態
とはどんな状態か
状態か
1.高血圧の
高血圧の診断基準
血圧は普通、年齢とともに徐々に高くなります。そして、高くなればなるほど、脳血
管や心臓の病気を引き起こす危険度も増してきます。けれども、あるラインを越すと急
に危険度が増すといった数値の基準はありません。高血圧と正常血圧との間に境界線を
引くことは不可能なのです。
ですから、「正常」といわれる範囲内でも、高いより低いほうが脳卒中や心臓病にな
る危険性は少ないし、年齢や合併症の有無などによっても、どの程度血圧を下げたらよ
いのかという基準は違ってきます。
WHO を初め、いくつかの血圧基準がありますが、これらは臨床データをもとに、あ
くまで人間が決めたものです。血圧基準は、ひとつの目安と考えたほうが良いようです。
WHO/
WHO/ISH による高血圧基準
による高血圧基準(1999
高血圧基準(1999 年)
分
類
至適血圧
正常血圧
正常高値血圧
高血圧グレード 1(軽症)
(境界域高血圧)
高血圧グレード 2(中程度)
高血圧グレード 3(重症)
ISH:国際高血圧学会
最高血圧(mmHg)
120 未満
130 未満
130~139
140~159
140~149
160~179
180 以上
最低血圧(mmHg)
80 未満
85 未満
85~89
90~99
90~94
100~109
100 以上
3
140 以上
140~149
収縮期高血圧
(境界域高血圧)
90 未満
90 未満
測定された最高血圧と最低血圧が異なる分類にあるときは、より高いほうの分類としま
す。
mmHg
110
100
高血圧グレード 3
高血圧グレード 2
高血圧グレード 1
90
80
正常高値血圧
正常血圧
最低血圧
至適血圧
最高血圧
120
140
境界域高血圧
160 180 mmHg
これ以外にも、「米国高血圧合同委員会の高血圧の定義と分類/1993 年」や、「東大
3 内科高血圧重症度分類/1984 年」など何種類かの定義があり、高血圧の分類のしか
たが多少違っています。前にもお話しましたように、血圧は常に変動し、しかもそれ以
外の条件も合わせて判断すべきものですから、上記の定義は絶対的なものではないとい
うことを理解していただければよいと思います。
さまざまな資料でも、こうした基準にとらわれすぎないようにと注意を促しています。
2.低い場合はどうなのか
場合はどうなのか
上記の基準は、「これ以上小さい値であれば良い」ということですので、血圧はどん
なに低くてもよいということになります。
しかし、最高血圧が 50mmHg だとしたらどうでしょう。立った姿勢で心臓から頭ま
で血液を持ち上げるだけで 40mmHg(50 ㎝水)以上の血圧が必要です。50mmHg で
も脳に十分な血液が流れず、失神してしまうでしょう。
3.診断基準が
診断基準が確立していない
確立していない「
していない「低血圧」
低血圧」値
低血圧は高血圧の逆の状態を考えればよく、心臓の機能の低下や血管系の過剰な拡張
などによって引き起こされます。特別な原因があって適正な血圧が維持できないという
ような症候性低血圧を除いては、低血圧のほうが高血圧より寿命が長いといわれていま
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すので、一般には低血圧をあまり問題にはしない傾向があります。
このため低血圧については国際的な診断基準が確立していません。
通常の血圧測定では、
・最高血圧が 100mmHg 以下、最低血圧が 60mmHg 以下の場合を低血圧
としていることが多いようですが、特に強い自覚症状がない場合には、血圧が低いか
らという理由で治療をすることはありません。
低血圧の症状(倦怠感、疲労感、めまい、頭痛など)に対しては、血圧を上げるとい
うより、むしろ血圧が低くなる原因を考え、治療すべき要因があればそれを治療すると
いうことがおこなわれます。
4.幼児、
幼児、小児の
小児の血圧
一般に子供の血圧は大人と比べて低いことは明らかですが、子供の血圧は遺伝的な因
子と環境によって左右されます。したがって、小児で高めの血圧が測定される場合には、
特に将来高血圧にならないよう食習慣などに注意を払うことが望ましいといえます。
(家庭用の血圧計では腕帯が太すぎて不向き。小児科では子供用の腕帯を使います)
5.高齢者の
高齢者の血圧
年齢が高くなっても、生理的な機能として血圧を増加させるような調節系が働くこと
はありません。加齢とともに血圧が上昇するのは、動脈硬化や糖尿病に代表される生活
習慣病の多くが血圧上昇を伴うからです。
また、統計的にも、高血圧の患者の比率が年齢の高い層に多く含まれることで、血圧
は年齢とともに増加するという結果が得られることになります。
しかし、WHO の基準にも「年齢」は含まれません。このことは、年齢に関係なく血
圧が基準値よりも高くなれば高血圧症となるということです。病院などで「年相応です
から」などといわれるのは、今すぐ治療の必要がないというだけで、血圧が高くても良
いということではありません。
6.血圧が
血圧が高いとなぜいけないのか?
いとなぜいけないのか?
単に血圧が高いというだけでは直接それが生命の危機につながることはありません。
正常な動脈血管は 300mmHg の血圧にも耐えるように丈夫な構造を持っているからで
す。しかし、疫学的データでは明らかに高血圧の人に心臓疾患や脳血管疾患が多く現れ
ることを示しています。このため、高い血圧であるほど寿命も短くなることが知られて
います。
5
その理由としては、
(1)高い圧力で血管が破壊される
(2)血圧が高い状態が長く続くと、血管や心臓にさまざまな障害が現れる
(3)血圧は循環の異常を反映する鏡である
などが考えられます。各項目については、「高血圧はどこへ行くのか」の項目で詳しくお話しま
す。
高血圧はどこから
高血圧はどこから来
はどこから来るのか
1.本態性高血圧の
本態性高血圧の危険因子
本態性高血圧は、遺伝的な素因が最も大きな要因となり、両親が高血圧である場合には子
供の約半数が高血圧になる可能性があるといわれています。
しかし必ずしも遺伝的な素因だけが作用するわけではなく、食生活、喫煙などの環境的な因
子が重なって起こると考えられています。両面で考えていきましょう。
(1)本態性高血圧の
本態性高血圧の遺伝因子
①食塩(
食塩(NaCl)
NaCl)に対する感受性
する感受性
塩分を取りすぎれば血圧が上がるのは確かですが、減塩によってすべての高血圧が治
るわけではありません。
高血圧患者の中で、食塩の制限によって血圧が改善する人は約 40%。残りの 60%の人は
減塩によって血圧は下がりません。
食塩は体内組織の浸透圧に関係していて、血液内で一定の濃度に保たれる必要がありま
す。このため、血液中の食塩量が多すぎると、それを薄めるため、水分を増やします。塩辛い
ものを食べるとのどが渇くのはこのためです。水分が増えるということは血液の全体量が増える
ということですから、血圧が上がります。
しかし、本来腎臓には血中ナトリウム濃度を調節する機能があり、余分なナトリウムは排泄し
ますので、一時的にのどが渇いて水分を取り込んだとしても、やがてナトリウムも余分な水分も
尿として排泄され、普通の血圧に戻るはずなのです。
こうした調節機能に生まれつき異常のある人が食塩感受性高血圧といいます。
しかし、塩分はからだに必要な成分です。3g 以下の極端な減塩では、食欲をなくし
たり、老人ではボケの症状を起こすこともあり、注意が必要です。
②インスリン感受性
インスリン感受性
膵臓から分泌されるインスリンは体内の糖の代謝に働き、血糖値の調節に欠くことのできな
いホルモンです。糖尿病はこのインスリンの分泌が不足したり、インスリンがよく働かない場合
6
に起こります。血糖値が上がると、細い血管が詰まったり動脈硬化の原因ともなりますので、血
圧が上がります。インスリンは糖代謝以外にもナトリウム代謝や脂質代謝などにも関係していま
す。今現在糖尿病でなくても、遺伝的にからだの組織がインスリンに対して正常に働かない場
合も、高血圧のひとつの危険因子になっているようです
これ以外にも、血圧に関するさまざまな臓器や組織で遺伝的素因の有無が研究されていま
す。
(2)本態性高血圧の
本態性高血圧の環境因子
本態性高血圧に
本態性高血圧に関係するさまざまな
関係するさまざまな要因
するさまざまな要因
本態性高血圧では、原因が特定
できません。しかし、右図のような生
本態性高血圧
活習慣や環境が血圧の上昇をもた
らすことが知られています。
①肥満
肥満とは、体内
体内に
脂肪が 過剰に
過剰に
体内 に 脂肪が
肥満
ストレス
遺伝的素因
蓄積し
蓄積し過体重になっている
過体重になっている状態
になっている状態を
状態
いいます。
食塩の
食塩の摂取
単に太っているとか、からだが大
喫煙習慣
きいというだけで「肥満」というわけ
ではありません。蓄積した脂肪率を
問題にしているのです。
体重の適正値としては、例えば
標準体重=
標準体重=身長(
身長(m)×身長(
身長(m)×22
程度に保つことが望まれます。
体重に関しては、他にもいろいろな指標があります。
肥満が高血圧をもたらすメカニズムについては、まだはっきりとしたことは判明していないの
ですが、肥満の人には高血圧が多く、やせると血圧が下がることは事実です。肥満は、特に拡
張期(最低)血圧を上昇させる傾向がみられます。
また間接的には、脂肪による動脈硬化の促進、インスリンに対する感受性の低下などが起
こり、いずれも血圧を上げる因子として働きます。
②食塩の
食塩の摂取
遺伝的素因でもあります。前ページ「食塩に対する感受性」の項目を参照してください。
③アルコール
1 日 1~2 合程度の飲酒習慣のある人では、全く飲酒しない人に比べて血圧がむしろ低いという
データもあり、これには飲酒による精神的緊張の緩和、すなわちストレスの解消が関係すると推測
されます。
しかし、統計的にはアルコールを多くとっている人ほど血圧が高い傾向があります。また、長期に
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わたるアルコールの摂取は、過剰なカロリーの摂取、肝臓への作用など代謝系を介して循環系に
も悪影響を及ぼし、血圧を上げる結果となります。
④喫煙
タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させる作用がありますので、血圧を上げます。さら
に、喫煙によって吸い込まれる一酸化炭素、各種の有毒物質は直接的に血圧を変化させる
だけでなく、心臓や血管に対して悪影響を与えます。
有害物質が動脈硬化を促進させ、ひいては狭心症、心筋梗塞などの心臓病や、脳血管疾
患の原因になります。
タバコはどのような意味においてもからだに有害です。
⑤ストレス
ストレスとは、暑いとか寒い、あるいは仕事の量が多すぎるなどの、からだの外部の条件をい
うのではなく、これに対する「からだの反応」をいいます。
私たちのからだは、外部環境に適合するため、自律神経系によって調節されています。温
度や音、接触などの物理的な刺激だけでなく、心理的な(あるいは情動的な)刺激に対しても
自律神経系が応答します。
自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の 2 系統でできています。これらは互いに手綱
のように、シーソーのように、拮抗的に働きます。
交感神経系は、ストレスや外敵に対して緊張状態を作り出します。心臓をたくさん動かして、
血液を筋肉や心臓に集めます。そのかわり、皮膚や消化器系などの血管は収縮し、血流は減
ります。この反応で、からだ全体からみて血管抵抗が上がります。心拍出量と血管抵抗が上が
りますので、血圧が上がります。
一方、副交感神経系はリラックスした状態を作り出す働きを持っています。ゆったりした精神
状態、環境によって、からだにエネルギーが蓄積され、からだを回復させる方向に向かいます。
風呂からあがってのんびりしている状態を想像してみましょう。このとき、消化器系や皮膚の血
管は広がり、血流が増えます。心拍数も低下しますので血圧も緊張時とくらべて大幅に下がり
ます。
神経系だけでなく、いろいろなホルモンもストレスに対して反応します。ホルモンにはさまざ
まな働きがありますが、結果としてストレスに対しては緊張状態を作り出しますので、同じように
血圧が上がります。
2.二次性高血圧の
二次性高血圧の原因疾患
若い人、重症の高血圧、最近になって急に高血圧が発症した場合などは、二次性高血圧
の可能性が高いといえます。
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二次性高血圧の
二次性高血圧の原因疾患
腎性高血圧
内 分 泌 性
高血圧
心・大動脈
病変による
高血圧
神経性高血
圧
その他
その他
疾患名
腎実質性高血圧
(急性・慢性糸球体
腎炎、慢性腎盂腎
炎、糖尿病性腎症、
水腎症、膠原病な
ど)
腎血管性高血圧
(動脈硬化、繊維筋
性異形成、大動脈
炎症候群など)
高血圧の原因
腎臓は体液の組成を一定に保つ働きをしています。し
かし、左のような病気があると、このような調節機能が低
下し、ナトリウムや水の排泄がうまくできず、体液が増加
します。さらに血圧を下げる物質が減少するなどいくつか
の因子がからみ、血圧を上げます。二次性高血圧で最も多
いのがこの疾患です。
腎動脈が狭くなると、腎臓へ送られる血液の量が減少
します。すると腎臓は、レニンという酵素を分泌して血圧を上
げます。また、副腎からナトリウムを体内に蓄積させるアル
ドステロンというホルモンの分泌を促進します。ナトリウム
が増加すると、体液が増え、血圧が上がります。
副腎皮質の腫瘍などの病変によって、アルドステロンと
原発性 アルドステ
いうホルモンが過剰に分泌される病気です。
ロン症
ロン症
副腎髄質に腫瘍ができ、アドレナリンやノルアドレナリンというホル
褐色細胞腫
モンが過剰に分泌されます。これらのホルモンは、血圧を上げま
す。
主に脳下垂体などに腫瘍ができたために副腎皮質刺激
クッシング症候群
クッシング症候群
ホルモンが過剰分泌、その結果血糖値も高くなり、中心性肥満
などの諸症状が現れます。
エネルギー代謝や循環器機能が亢進します。心拍出量
甲状腺機能亢進症
は増加しますが、末梢血管抵抗は減少するので、収縮期
(バセドウ病など)
(最高)血圧が上がり、拡張期(最低)血圧は下がります。
女性に多く、男性の 3~5 倍。20~30 歳代に多い。
左心室と大動脈の間にある大動脈弁が拡張期に完全
大動脈弁閉鎖不全
大動脈弁閉鎖不全
に閉じないため、血液の一部が左心室に逆流します。拡張
期(最低)血圧が下がるので、それを補って心拍出量を保
とうとして、収縮期(最高)血圧が上がります。
先天的に大動脈に狭さくがある病気。上半身が高血圧
大動脈縮窄症
で、下肢は低血圧という特徴があります。
脳炎
脳を包む脳脊髄液の圧力が亢進した場合に血圧の上昇
脳腫瘍
が見られます。
脳卒中
交感神経系の働きや各種のホルモンによって、からだが緊
ストレス
張状態になるため。
原因は不明ですが、妊娠という大きなからだの変化に
妊娠中毒症
腎臓や血管系の機能が適応できないためではないかと
推測されます。
経口避妊薬、ステロイド、エリスロポエチン(腎性貧血治
薬剤性高血圧
療薬)など
赤血球やヘモグロビンが正常値より多くなる病気で、しば
多血症
しば血圧が上がります。
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高血圧はどこへ
高血圧はどこへ行
はどこへ行くのか~高血圧によっておこるいろいろな
高血圧によっておこるいろいろな病気
によっておこるいろいろな病気
1.脳血管障害
【主な脳血管障害】
脳血管障害】
出血性
(1)脳出血
(2)クモ膜下出血
クモ膜下出血
①脳塞栓症…
脳塞栓症…心臓内の
心臓内の血栓が
血栓が流れてきて詰
れてきて詰まる
心臓や頸部の動脈分岐部にできた血栓がはがれて血流に乗り、脳の動脈に
つまるために起こります。心房細動という不整脈があると、心臓内に血栓が
できます。
②脳血栓症
血栓症…太い動脈の
動脈の動脈硬化による
動脈硬化による
虚血性
(3)脳梗塞
(3)脳梗塞
動脈の内壁にコレステロールなどの脂質がたまり、粥腫[じゅくしゅ](アテロ
ーム)と呼ばれるふくらみを形成し、同時に動脈壁の平滑筋が増殖して内膜
を狭くし脳や心臓の病気の原因となる典型的な動脈硬化、アテローム変性
(粥腫型)。
③ラクナ梗塞
ラクナ梗塞…
梗塞…細い脳動脈の
脳動脈の動脈硬化による
動脈硬化による
脳梗塞の症状はなにもないにもかかわらず、MRI で梗塞が見つかることが
ふえてきました。これを無症候性脳梗塞と呼びます。これは直径が1.5cm 以下
の、いわゆるラクナ梗塞と呼ばれるものがほとんどです。高齢者には4分の1
の割合であらわれるとする報告もあります。
(1)脳出血
動脈硬化症などでもろくなった血管に、高い血圧がかかると血管が破裂します。
脳の動脈(特に細動脈)が破れて血液が脳の中に流れ込むために脳が破壊されるもので
す。脳出血の際には血圧が200mmHg を超えることが多く、強い圧で血液がやわらか
い脳組織に噴出し、その時点で脳が破壊されます。活動時など血圧が上がっているとき
に生じることが多いのが特徴です。
(2)くも膜下出血
くも膜下出血
脳の外側は「頭蓋骨」という硬い殻で覆わ
れていますが、実際にはその内側の「硬膜」と
呼ばれるしっかりした膜に包まれています。
硬膜の内側には「くも膜」「軟膜」があります
が、くも膜の下側の「くも膜下腔」には比較的
太い血管がたくさん走っています。この部分
で出血が起こった状態を「くも膜下出血」とい
います。
くも膜下の出血によってこの部分が膨らみ、
10
脳を圧迫し、脳の機能低下をもたらします。
(3)脳梗塞
脳は、脳自身でエネルギーを蓄えておくことができません。このため、脳には24時
間グルコース(ぶどう糖)と酸素が供給されています。動脈が閉塞して血行がとだえる
と、5分で神経細胞は死んでしまいます。これが脳梗塞です。
①脳塞栓症
心臓や頸部の動脈分岐部にできた血栓がはがれて血流に乗り、脳の動脈につまるため
に起こります。心房細動という不整脈があると、心臓内に血栓ができます。
②脳血栓症
脳血栓症は脳の動脈が動脈硬化によって、あたかも古い水道管のように内腔が狭くな
り、高血圧や喫煙などを契機に血管がつまるものです。
③ラクナ梗塞
ラクナ梗塞
脳ドックや MRI が広まるにつれて、これまで脳梗塞の症状はなにもないにもかかわ
らず、MRI で梗塞が見つかることがふえてきました。これを無症候性脳梗塞と呼びま
す。これは直径が1.5cm 以下の、いわゆるラクナ梗塞と呼ばれるものがほとんどです。
高齢者には4分の1の割合であらわれるとする報告もあります。
高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化症のリスクファクターがある場合に
は一般の脳梗塞に準じて治療が必要です。ただし、高齢に伴って出現したものは経過を
観察するだけでよいようです。
2.動脈硬化症
血管が健康なそれにくらべ、硬くなったり、もろくなったりしている状態をいいます。臨床的
には血管に脂質やカルシウムの沈着が起こって硬くなったり、厚みが増したり、内腔が狭くなっ
た状態を動脈硬化の指標として使っています。
動脈硬化は血管の老化現象ともいえ、加齢によって血管に生じる構造的な変化が原因とな
ります。しかし、加齢が動脈を病変させるわけではありません。長い間の高血圧、食生活(脂肪
や糖の取りすぎ)、喫煙習慣など血管に対する危険因子が作用した結果であることは明らかで
す。
また、これらの危険因子の働きの強さには個人の遺伝的な素因が作用します。このため、実
際には若い頃から動脈硬化の傾向を持つ人もいれば、動脈硬化になりにくい人もいるわけで
す。動脈硬化の危険因子は高血圧に対する危険因子とほとんど重なっています。しかも、動
脈硬化と高血圧はお互いに危険因子です。 つまり、動脈硬化と高血圧は互いに悪循環して
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同時進行するのです。
3.左室肥大
心臓の左心室が肥大することです。高血圧が長く続くと心筋に過度の負担を与えます。適
正な血流量を維持するために、心臓はより強く働くことが要求されます。このため、心筋が過剰
に強くなるのです。高血圧症の診断のひとつとして、血圧測
定以外に心臓の大きさを調べるのはこのためです。心筋が
肥大すると、より多くの冠血流(心臓自身を動かす血液)を
必要としますので、心臓はもっと働く必要があります。結果と
して予備力が小さくなります。つまり、運動などで「頑張りが
きかなくなる」ということです。
そして心筋梗塞
心筋梗塞を引き起こしやすくなります。この状態が
心筋梗塞
さらに続けば、心臓が十分に機能を果たせない「心不全」に
陥ることもあります。 心不全とは、心臓
心臓が
心臓が十分に
十分に血液を
血液を送
り出せなくなった状態
せなくなった状態です。
状態
左心室で心不全が起こると血液は肺に滞留しますので肺
水腫などを起こし、呼吸器系にも影響が出ます。右心不全
では全身の静脈系で血液が滞り、からだ全体がむくみま
す。
心不全の状態では血圧が低下していることが普通です。
この場合には、以前は高かったのに、最近血圧が下がって
きたといって安心してはなりません。 血圧の低下に伴って、
心拍数の増加や脈圧の低下などが現れることもあります。
左室肥大というと、左室が全体的に大きく
なっているイメージがあると思いますが、
心臓の壁が肥大しているのであって、内腔
はむしろ狭くなっています。このため 1 回の
収縮で送り出す血液量は減少し、ますます
心臓は頑張らなければいけないのです。
動悸や息切れ、むくみに注意します。
4.虚血性心疾患
心臓の冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る血管)に動脈硬化がおき、結果として血流障害を
起こす場合を虚血性心疾患と呼びます。虚血性心疾患は、大きく分けて下表のようになりま
す。
(1)狭心症
虚血性心疾患
①労作性狭心症
②安静時狭心症
(2)心筋梗塞症
心筋梗塞症
(3)無症状性心筋虚血
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(1)狭心症
冠状動脈の血液の流れが一時的に不足し、その間、胸に痛みや締めつけられる感じ、
動悸などを感じ、心電図にも異常があらわれますが、血液不足の状態がもとに戻ると、
すべてもとどおりに治ってしまう病気です。
①労作性狭心症
寒い日の外出、階段や坂道の昇降や重い荷物を持ったときなどに、前胸部に締めつけ
感、
圧迫感、胸やけ感を感じます。休息すれば 3~5 分で痛みは消失します。
息切れ、むかつき、顎のしびれ、肩こり、胸のしびれなどは自覚できても心臓病だと気づかな
い場合があり、あとになって重症の心筋梗塞に移行することもあります。
②安静時狭心症
①と同じような症状が、安静時、特に夜間睡眠中あるいは早朝起床時に起こります。
安静時狭心症は、軽度の動脈硬化に血管の攣縮(れんしゅく=筋肉が何かの刺激で急に収
縮する)を伴っておきることが多く、比較的若い年齢にみられます。
高年齢者の場合は、冠動脈の動脈硬化によって狭心症になりますから、労作性のことが多
く、重症になると安静時にも発作を起こすようになります。
(2)心筋梗塞症
心筋梗塞症
冠状動脈硬化のある人で、なにかのはずみで冠状
動脈が、血のかたまりや動脈硬化のくずれたものなど
でつまってしまうと起こる病気です。
冠状動脈の血流不足の状態が強く、30分以上も続
くと、心臓の壁の一部の細胞が死んでしまいます(壊
死[えし])。この病気を心筋梗塞症といい、この病気
にかかって数週間を急性心筋梗塞といい、非常に死
亡率の高い病気です。
この期間を過ぎると、壊死した組織は筋組織でない
結合組織に置き換わってしまいますので、心臓の壁と
しての機能は一応維持することができます。しかし、収縮の機能は持ちませんので、心臓の血
液拍出機能は低下します。
数時間から数日間、次々と注射してもらうことになるので、病院、特に持続的に心電図を監視
できる特殊な設備をもつ病棟(CCU)のある病院に入院することをおすすめします。心筋梗塞
の疑いがあれば、患者は絶対安静、体位を変えるときは手伝ってもらいます。できれば酸素吸
入をし、医師が到着するまでは、だれかがそばについていて、急な変化を観察します。特に、
意識がなくなったときには、心臓の音を聴くか脈をみて、心臓がとまっているようなら、心臓マッ
サージや人工呼吸をおこなって急場をしのぐことが必要です。患者のもっとも楽な姿勢をとら
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せます。
5.腎臓病
高血圧が長期間続いて腎障害を合併した場合を高血圧性腎症と呼びます。
高い血圧から糸球体を護るため、腎臓は入り口の細動脈の血管抵抗を上げます。しかし、こ
の状態が長期間続くと、防衛的な変化として、細動脈の血管壁が厚くなり、内腔が狭くなります。
その結果、細動脈から血流を受ける糸球体は虚血におちいり、糸球体硬化を起こします。
つまり、腎臓病によって高血圧になることもあるし、高血圧によって腎臓病になることもあるの
です。
高血圧の
高血圧の治療とコントロール
治療とコントロール
1.足の施術と
施術と高血圧
血圧は、心拍出量(心臓が送り出す血液量)と、末梢の血管抵抗によって決まります。
足を揉むということは、極端に痛がらせない限り、安静を得られますので、心拍出量は減少
します。そして、各臓器の血行がよくなり、末梢の血管が開いて血流が促進されますので、血
圧は下がります。
実際、私は高血圧気味のお客様の血圧は継続してチェックしておりまして、施術前と施術後
では多い場合は最高・最低とも 30mmHg 程度下がることもあります。そして、定期的に施術に
通っていただくことで、低めに安定していきます。
ただし、必ずその場で血圧が下がるかというと、そうとも限りません。おそらくは、その高血圧
の原因が何かでも違うでしょうし、その時に十分にリラックスできたかどうかでも違うでしょう。お
客様によっては、施術者に話しかけて、いろいろおしゃべりをしたい人もいます。やはりおしゃ
べりをしていると、血圧はあまり下がらないようです。
また、足の施術がからだの各機能を「正常化」するといっても、低血圧の人がその場で上が
るというのは、ほとんどありません。低血圧の人は全体的な体調を整えることによって長期的に
改善していくということだと思います。
いずれにしても、施術室に血圧計を備えておくのは大切なことだと思います。お客様は、ご
自分が高血圧なのに、普段家庭で血圧チェックをしていない人が意外に多いのです。ですか
ら、来店されるごとに血圧を測定して記録しておくことは意義のあることだと思います。私は
時々データをお客様に差し上げて、次に病院にいくときの参考にしていただきます。そして、
少しずつでも薬を減らしていただければよいと思います。
薬についてですが、施術を継続するとほとんどの人は血圧は低めに安定してきますので、
必ず主治医と相談して薬を再検討していただきたいのです。お客様の中には、血圧が下がっ
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ているにもかかわらず、「心配だから今までどおりに飲んでおこう」と、飲み続けたところ、血圧
が下がりすぎて体調が悪くなったという例があります。薬はその時の状態に合わせて飲んでい
ただきたいのです。もちろん主治医と相談した上でですが。
病院では、高血圧の治療についてどのように方向付けをしているかは次の通りです。
軽症高血圧の
軽症高血圧の治療指針
初回
2 回の異なった機会に 3 回血圧を測定し、平均の拡張期血圧が 90~104mmHg
その後 4 週間のうちに少なくとも日をかえて 2 回血圧測定を繰り返します
4 週間後
最初の 3
ヶ月以後
次の 3 ヶ
月以後
拡張期血圧が 90mmHg 未満
3 ヶ月の間隔で 1 年間
血圧測定を繰り返す
拡張期血圧が 90-104mmHg
非薬物療法を開始、血圧の
経過観察
拡張期血圧が 90~94 mmHg
非薬物療法の強化、血圧の
経過観察
拡張期血圧が 95~99 mmHg
非薬物療法の強化、他の危
険因子がある場合は薬物療
法を考慮
拡張期血圧が 100mmHg 以上
非薬物療法の強化、薬物療
法の開始
拡張期血圧が 90~94 mmHg
他の危険因子が共存しない
場合、非薬物療法を続け、血
圧の経過観察
拡張期血圧が 90~94 mmHg
他の危険因子が共存する場
合、薬物療法を考慮
拡張期血圧が 95~99mmHg
他の危険因子の有無にかか
わらず、薬物療法を考慮
(1989 年 WHO/ISH)
2.ライフスタイルの改善
ライフスタイルの改善(非薬物療法)
高血圧の要因は食事や生活習慣が重要なかかわりを持っています。上の治療指針でもわか
るように、軽症の高血圧の場合は、直接薬物療法に行くのではなく、まずはじめにライフスタイ
ルの改善を指導されるようです。
(1)食塩:1 日のめやすは 6~8g といわれています。
(2)肥満:糖質と脂肪摂取を制限して、適度の運動をすることがすすめられます。
(3)アルコール:1 日ビール 1 本または酒 1 合程度まで。
(4)運動:早歩き、自転車、ジョギング、水泳などの全身運動。運動の強さは最大運動能力の
約半分の軽いもの。1 回 30~60 分、週 3~5 回。ただ、運動は高血圧患者のすべてに有効と
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いうわけではなく、合併症のある人や著しく血圧の高い人は医師の指示に従ってください。
(5)喫煙:長期の喫煙は動脈硬化の危険因子でもあり、高血圧患者には強く禁煙をすすめる
必要があります。
(6)ストレス:各自がストレスを自覚し、自分なりの解消法を見つけることが大切です。
3.薬物療法
重篤な合併症が起こっている重症高血圧の患者には、降圧薬を投与して直ちに降圧しなけ
ればなりません。軽症、中等症高血圧の治療では、前述の非薬物療法をおこなったうえで、あ
るレベルの血圧に達したならば降圧薬治療を開始するのが適切です。しかし、心血管系のリス
クが明らかな場合には、速やかに薬物療法を開始することが必要です。
用いる降圧薬は、降圧作用がゆるやかで、副作用の少ないものが望まれます。そのような第
一選択薬として、降圧利尿薬
降圧利尿薬、β
遮断薬、Ca
Ca(
カルシウム)拮抗薬、ACE
拮抗薬 ACE(
降圧利尿薬 β‐遮断薬
Ca(カルシウム)
ACE(アンジオテンシン
変換酵素)
変換酵素)阻害剤、α
阻害剤 α‐遮断薬があります。
遮断薬
(1)降圧利尿薬
腎臓に作用してナトリウムや水を排泄させて循環血液量を減少させます。
副作用:高脂血症、耐糖能異常、高尿酸血症、電解質異常など
(2)β‐遮断薬
遮断薬
降圧剤としてだけでなく、不整脈や労作性狭心症にも用いられます。
(3)Ca(
Ca(カルシウム)
カルシウム)拮抗薬
本来狭心症の治療薬として開発されましたが、血管拡張作用があり降圧作用があることか
ら、降圧薬として使用されるようになりました。
副作用:顔面紅潮、頭痛、動悸など
(4)ACE 阻害剤
心不全の治療薬としても用いられます。減塩療法や利尿薬との併用により降圧効果が高く
なります。
副作用:頭痛、むくみ、乾咳、発疹。腎機能障害のある場合は悪化することがある。
(5)α‐遮断剤
血清脂質を改善し、腎機能障害のある場合も使用可能。起立性低血圧をもたらすことがあ
るので、高齢者や利尿薬を併用している患者では注意が必要。
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(6)その他
その他
血管拡張薬がありますが、単独で用いると頻脈をきたすので、β‐遮断薬などと併用使用。
副作用:頻脈、顔のほてり、むくみ など。
4.合併症のある
合併症のある人
のある人の治療
虚血性心疾患、脳血管障害、腎臓病などの合併症がある人は、それらの病気を悪化させる
ことなく降圧を行うことが大切で、降圧の目標値や使用する降圧薬も病状により多少変ってき
ます。
また、これらの病気を悪化させる危険のある、糖尿病や高脂血症などがないか、考慮する必
要があります。
それぞれの疾患についてはまた別の機会にお話しますので、詳しい治療方法は省略しま
す。
小難しくヤヤコシイ
小難しくヤヤコシイ話
しくヤヤコシイ話はこのくらいにして、
はこのくらいにして、あとは気楽
あとは気楽な
気楽な雑学を
雑学を少しご紹介
しご紹介します
紹介します。
します。
高血圧・
高血圧・雑学コーナー
雑学コーナー
ストレスと血圧
ストレスと血圧
●運動会でスタートの順番を待っているときにドキドキするのは、闘争あるいは防衛本
能で、副腎からアドレナリンやノルアドレナリンという血圧や脈拍を上げるホルモンが
分泌されるためです。これらのホルモンはストレスホルモンと呼ばれています。
「あがる」という言葉がありますが、「あがっている」時も、血圧が上がっているこ
とが多いそうです。
●あるお医者さんの話。学会発表での「あがり」対策のため、あらかじめ「β‐遮断剤」
(高血圧の薬。交感神経の緊張を緩める作用)を服用したところ、まったくあがらずに
理路整然と発表できたが、終ったあとの感動もなかったそうです。
●1991 年 1 月の湾岸戦争勃発時、イスラエルに対し、イラクはミサイルを何発も打ち
込み、イスラエル国内は大混乱になりました。イスラエルでは、このミサイル攻撃を受
けた最初の数日間に、心筋梗塞の患者の数が前年度 7 人にくらべ、20 人と急増しまし
た。
戦争や地震など災害によるストレスは、虚血性心疾患や脳卒中の発症に関与している、
とデータが示しています。
ストレスによって、過度の血圧の上昇ばかりでなく、交感神経の極度な緊張、心臓や
脳の血管の収斂、血液の濃縮その他が複雑に組み合わさって、これらの病気を発症させ
たものと思われます。
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●赤い色を見ても血圧は上がりません。平仮名や漢字をその字と異なる色で表示(例え
ば赤という字を青色で書く)し、読ませるテストをすると血圧が上がります。これはス
トレスです。嘘をつくのもストレスです。それで嘘発見器ができたのです。
ではストレスをどうぞ→
ではストレスをどうぞ→
赤
青
黄
緑
いかがですか?
いかがですか?
高血圧性格
●1942 年ワイスという学者が次のように発表しました。
「高血圧患者では怒りがいつも抑制されており、いつも受動的で依頼心の強い性格で
ありながら、反対の攻撃的な衝動を持ちあわせている。そして、この相反する性格が心
の中で、いつも葛藤している」
●高血圧は性格と関係がないとする報告もあります。
●欧米では、虚血性心疾患に特有な行動パターンとして A 型性格が注目されています。
型性格
(血液型とは関係ありません)
A 型性格:競争心・攻撃性・責任感・緊張度が非常に強く、常に時間に追われ、目標
型性格
に向かって一生懸命に努力し、加速度的に思考し、そして行動する
B 型性格:競争心・攻撃性・責任感・緊張度があまりなく、時間をあまり気にせず、
型性格
目標に向かってあくせくすることなく、物事をのんびり考え、そして行動
する
●日本人 81 人の未治療の軽症高血圧患者に対して心理性格特性調査をしました。
「本態性高血圧の患者の性格は、几帳面で粘り強く、何事も徹底的にやらないと気が
すまない。反面、わりと人づきあいがよく、困っている人を見ると、黙って見過ごせな
い」という傾向がみられました。
A 型性格と違うのは、競争心、攻撃性ではなく、周囲の人に対して気を使うタイプで
型性格
あることです。狩猟民族と農耕民族の違いでしょうか。
体位と
体位と血圧
●人間の世界最高血圧の記録です。重量挙げのときどのくらい血圧が上がるかを直接法
で測りました。
挙げる前 120-70mmHg → 挙げた瞬間 345-245mmHg
(480-350mmHg まで上昇した例もあるそうです)
腕帯を巻いて測る間接法では、目盛が 300 mmHg までしかないので、重量挙げの最
中の血圧は、血管に管を入れる直接法でしか測れないのです。
●血圧は、一般的に睡眠中
睡眠中に一番低くなります。次に横
横たわった姿勢
座った姿
睡眠中
たわった姿勢が低く、座
姿勢
った姿
勢→立
立った姿勢
った姿勢→しゃがんだ
前屈姿勢
姿勢 しゃがんだ姿勢
しゃがんだ姿勢と高くなります。雑巾がけや田植えのときの前屈姿勢
姿勢
が最も高くなります。
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立った姿勢では、身体を支えるために大腿の筋肉が緊張し、交感神経が緊張します。
また、足の血管も収縮。血圧が下がらないように交感神経が緊張して、血圧を上昇させ
るのです。
呼吸と
呼吸と血圧
神経症や本態性高血圧で不安や緊張の強い人たちは、健康な人に比べて、呼吸の回数
が多いようです。
呼吸の回数が多くなると、血液中の炭酸ガスが呼気中に出てしまいます。この炭酸ガ
スは体を酸性にしますが、少なくなると逆にアルカリ性になってしまいます。体がアル
カリ性になると手足がシビレたり、かえって呼吸が苦しくなるという過呼吸症候群がお
こります。このほか動悸などの症状があり、心臓のことが気になって仕方がなくなる心
臓神経症という病気も、呼吸のパターンに異常が出るといわれています。
全てではありませんが、かなりの割合の高血圧患者は、深呼吸で血圧が下がります。
1 分間に 4 回から 10 回程度といった少ない呼吸回数の刺激が、脳の中枢(視床下部)
に影響を与えて、血圧を低いレベルにセットするのではないかといわれています。
おわりに
血圧の本は数え切れないほど出回っています。内容的にはそれほどの違いはないと思いま
すが、その中からどれを選んで勉強するかは大いに迷うところです。
さらにその中から、どんな内容をご紹介していくかが、再び迷うところです。出回っている膨
大な量の高血圧に関する情報を、いちいち読む暇のない方々がこの講義録を読んでくださる
のだと思いますので、あまりたくさんの内容を盛り込んでも、おそらく読みたくなくなってしまうで
しょう。
できるだけコンパクトに、必要最低限の知識をまとめようと、今回も試行錯誤の日々でした。
途中で投げ出さず、ここまで読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。
より詳しく勉強されたい方は、例えば最寄の公立図書館などに血圧関係の本がたくさんある
と思いますので、お時間があるときに読んでみてはいかがでしょうか。
参考文献
からだ読本シリーズ 「血圧」 嶋津 秀昭/著 山海堂/刊 ¥1,600(別)
「血圧はウソをつく~高い低いのなぞを読む」渡辺 尚彦/著 ネスコ・文芸春秋/刊 ¥1,400
「家庭の医学」時事通信社(デジタル版)
「高血圧~治療と予防」国立循環器病センター/編 尾前 照雄/監修 PHP 研究所/刊
¥2,300(込)
「サイレントキラーの恐怖」渡辺 尚彦/著 アドア出版/刊 ¥1,400(込)
日本医師会ホームページ
日本循環器管理研究協議会ホームページ
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