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平成 27 年度 証券ゼミナール大会

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平成 27 年度 証券ゼミナール大会
平成 27 年度
証券ゼミナール大会
5
第 5 テーマ
A ブロック
「日本における投資信 託の現状と今 後の課題 」
10
青山学院大学
白須ゼミナール
2015 年 12 月 11 日
15
要旨
本 稿 で は 、投 資 信 託 の 動 向 と し て 、景 気 動 向 に 合 わ せ て 設 定 額 、解 約 額 が
変 動 す る 傾 向 に 着 目 し て 実 証 分 析 を 行 っ た 。ま た 、変 動 要 因 と し て 日 本 の 収
益 構 造 に 着 目 し 、対 面 型 証 券 会 社 と イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 会 社 の 特 性 に 焦 点 を
あ て て 実 証 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、投 資 信 託 の 普 及 の た め に 若 い 世 代 に 広
20
め る こ と が 重 要 で あ る こ と が わ か っ た 。そ こ で 、イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 に お い
て 、個 人 投 資 家 の 投 資 信 託 を 選 択 す る 際 の サ ポ ー ト を す る ツ ー ル を 提 言 す る 。
目次
序 章 ....................................................................................................... 3
第 1章
日 本 の 投 資 信 託 に つ い て ............................................................. 3
1-1.日 本 の 投 資 信 託 の 定 義 と 仕 組 み ........................................................ 3
5
1-2
日 本 の 投 資 信 託 の 種 類 .................................................................. 5
1-3.
日 本 の 投 資 信 託 の 変 遷 ................................................................. 7
第 2章
日 本 の 投 資 信 託 の 現 状 .............................................................. 10
2-1.家 計 金 融 資 産 と 投 資 ...................................................................... 11
10
2-2.
国 際 比 較 .................................................................................. 18
2-3.
個 人 資 産 と 投 資 信 託 .................................................................. 21
第 3章
販 売 チ ャ ネ ル と イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 ........................................... 22
3-1.
手 数 料 と 販 売 体 制 ...................................................................... 22
3-2. イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 会 社 の 現 状 .................................................... 25
第 4 章.
15
4-1.
議 論 ....................................................................................... 29
公 募 株 式 追 加 型 投 資 信 託 に お け る 短 期 化 の 問 題 点 ......................... 29
4-2.投 資 信 託 に お け る 対 面 証 券 の 問 題 点 ............................................... 31
第 5章
回 帰 式 ..................................................................................... 32
5-1.公 募 株 式 追 加 型 投 資 信 託 に お け る 短 期 化 の 回 帰 式 ............................ 32
5-2.ネ ッ ト 証 券 に お け る 回 帰 式 ............................................................ 34
20
5-3.
デ ー タ ...................................................................................... 36
第 6章
実 証 分 析 の 結 果 ........................................................................ 37
6-1.公 募 株 式 追 加 型 投 資 信 託 に お け る 短 期 化 の 分 析 結 果 ......................... 37
6-2 .ネ ッ ト 証 券 に お け る 回 帰 分 析 の 結 果 .............................................. 39
第 7章
25
施 策 提 言 ................................................................................. 41
お わ り に .............................................................................................. 42
参 考 文 献 一 覧 ・ U R L ........................................................................ 43
30
2
序章
近 年 、貯 蓄 か ら 投 資 へ の 政 策 的 な 施 策 が と ら れ て い る 。NISA な ど は 投 資 に 個
人資産を誘導するための施策として税制と相まって始動し、徐々にその額を伸
5
ば し て い る 。 投 資 信 託 は そ の う ち NISA の 買 い 付 け 額 の う ち 50% を 占 め る 。
日本人の貯蓄を好みリスク資産を避ける傾向から、個人金融資産のなかで投
資信託の比率は低い。日本の投資信託は、長期保有資産としてまだ定着してお
らず、買い替え・短期化傾向がある。
また資産規模に比べファンド数が多く、ファンド当たりの資産が小さく投資
10
信託の特性を生かした運用ができずにいる。販売チャネルは証券会社と金融機
関が大半をしめ、投資信託の運用会社はその企業に系列化され 、個人投資家の
立場にたった独立系ファイナンシャル・プランナーが育って いない。個人を安
心してリスク資産の一種である投資信託に誘導する基盤が 整っていない。
本稿では、まず投資信託の仕組み、歴史、制度、国際比較をする。第四章に
15
おいて、日本の長期投資信託の少なさ、第五章では、新たな販売チャネルとし
て イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 に つ い て 説 明 を す る 。日 本 の 投 資 信 託 の 短 期 化 の 問 題 点 、
対面証券会社とインターネット証券会社の比較に関して実証分析を行い、イン
ターネットを通して、個人投資家の活性化を図る。
20
第 1章
日本の投資信託について
1-1.日 本 の 投 資 信 託 の 定 義 と 仕 組 み
日本の投資信託の定義として、投資信託(ファンド)は、投資家から集めた
25
お金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投
資・運用する商品で、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配さ
れ る 仕 組 み の 金 融 商 品 で あ る 。 図 1-1 は 投 資 信 託 協 会 の 「 そ も そ も 投 資 信 託 と
は?」のページの図である。この図において、投資信託とは何かがわかりやす
く説明されている。
30
投 資 信 託 の 運 用 成 績 は 市 場 環 境 な ど に よ っ て 変 動 す る 。投 資 信 託 の 購 入 後 に 、
3
図 1- 1
投資信託の概要
出 典 : 投 資 信 託 協 会 < http://www.toushin.or.jp/> ( 2015/9/4 ア ク セ ス )
5
投資信託の運用がうまくいき利益が得られることもあれば、運用がうまくい
かず投資した額を下回って、損をすることもある。このように、投資信託の運
用 に よ っ て 生 じ た 損 益 は 、そ れ ぞ れ の 投 資 額 に 応 じ て す べ て 投 資 家 に 帰 属 す る 。
つまり、投資信託は銀行の預金と違って、元本が保証されている金融商品では
ない。
10
投 資 信 託 に は 「 共 同 出 資 」、「 分 散 投 資 」、「 専 門 家 に よ る 運 用 」 の 三 つ の 特 徴
が含まれている。例えば、個人で株式に投資しようとした場合、まとまった資
金がなければ欲しい株式が買えなかったり、十分な収益を挙げられなかったり
す る 。し か し 、投 資 信 託 の 場 合 、多 く の 投 資 家 か ら 少 額 資 金 を 集 め「 共 同 出 資 」
のようにして投資を行う為、少ない金額からでも投資が可能である。又、共同
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出資によって集まった資金を複数の株式や債券の銘柄を対象に「分散投資」す
るので、リスクを分散することができ、より投資の安定性が増す。投資の運用
においては個人投資家に代わって、
「 専 門 家( フ ァ ン ド・マ ネ ー ジ ャ ー )に よ り
運用」される。専門家であるファンド・マネージャーは、経済状況などの様々
なデータを駆使して分析を行い、集めた資金の投資先を選定、組み換え、その
20
後の運用をする。これらの特徴から、投資信託は他の金融商品と比べると投資
初心者にとっても購入しやすい金融商品であるといえる。
日 本 の 投 資 信 託 の 仕 組 み と し て 、投 資 信 託 は 、
「 投 資 信 託 運 用 会 社 」で 作 ら れ 、
4
主に証券会社・銀行・郵便局などの「販売会社」を通じて販売され、多くの投
資家からお金を集める。投資家から集めたお金は一つにま とめられ、資産管理
を専門とする「信託銀行」に保管される。運用会社は、集めたお金をどこにど
うやって投資するのかを考え、その投資の実行を信託銀行に指図する。したが
5
って、投資信託は、販売・運用・資産の保管などの業務を行う、それぞれ専門
機 関 が 役 割 を 果 た す こ と で 成 り 立 つ 金 融 商 品 と 言 え る だ ろ う 。 図 1-2 は 、 投 資
信託協会の「投資信託の仕組み」のページの図である。この図から、 契約型投
資信託の仕組みがどういうものがわかる。
10
図 1- 2
投資信託の仕組み
出 典 : 投 資 信 託 協 会 < http://www.toushin.or.jp/> ( 2015/9/4 ア ク セ ス )
1-2
日本の投資信託の種類
15
(1)投 資 信 託 の 制 度 上 か ら の 種 類
①契約型と会社型
投資信託の形態は各国により様々であるが、基本的には契約型と会社型とに
大別される。
20
契約型には信託形態をとるものや組合形態をとるものがあるが、我が国では
5
信託形態が採用されている。わが国では運用会社と信託銀行が信託契約を結ぶ
ことで組成されている。
会社型は、主として特定資産への投資を目的とする投資法人を設立し、投資
者はこの法人の発行する投資証券を所有して投資主となり、運用の成果等を受
5
けるものである。組織をもって運営される。
②単位型と追加型
単位型は、投資者の資金が信託財産に入るのが、ファンドが新規に設定され
る際の当初募集期間に限定される。つまり、投資者は新規設定時点しかファン
ドを購入できない。これに対して追加型は、投資者の資金が信託財産に入るの
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が、当初募集期間はもとよりファンドが運用を開始してからも 購入が可能な投
資信託である。
③公募と私募
公募型は、
「 公 募 と は 、新 た に 発 行 さ れ る 受 益 証 券 の 取 得 の 申 込 み の 勧 誘 の う
ち、多数の者を相手方として行う場合として政令で定める場合に該当するもの
15
( 適 格 機 関 投 資 家 私 募 等 を 除 く 。) を い う 。」
私 募 型 は 、1998 年 の 法 改 正 に よ り 、投 資 信 託 の 定 義 が そ れ ま で の「 不 特 定 且
つ 多 数 の 者 に 取 得 さ せ る こ と を 目 的 と す る も の 」か ら「 複 数 の 者 に 取 得 さ せ る
こ と を 目 的 と す る も の 」へ と 変 更 さ れ 、公 募 に 加 え て 私 募 に よ る 投 資 信 託 の 設
定が可能となった。
「 適 格 機 関 投 資 家 私 募 等 」と は 、新 た に 発 行 さ れ る 受 益 証 券
20
の取得の申込みの勧誘のうち、適格機関投資家の みをあるいは特定投資家のみ
を相手方として行う場合で、政令で定める場合に該当するものをいう。
④オープン・エンド型とクローズド・エンド型
投資信託は受益者(投資法人にあっては投資主)からの払い戻し請求に投資
信託(ファンド)が応ずるかどうかで、オープン・エンド型とクローズド・エ
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ンド型に区分される。オープン・エンド型は「受益者が、運用期間の途中で信
託 財 産 に 対 し 、一 部 を 解 約 し て 換 金 す る よ う 請 求 す る 」応 じ る 投 資 信 託 で あ り 、
オープン・エンド型は、払い戻し請求に応じない投資信託である。
⑤株式投資信託と公社債投資信託
約款に株式に投資できる旨が記載されているかどうかで区分される。この区
30
分により収益にかかる税率が異なる重要な区分である。株式投資信託には約款
6
に株式に投資できる旨が記載されている。公社債投資信託は、約款に株式に投
資しない旨が記載されている投資信託である。
(2)運 用 対 象 で の 分 類
5
投 資 信 託 の 運 用 対 象 は 大 き く 購 入 期 間 に よ る 分 類 、投 資 対 象 地 域 に よ る 分 類 、
投資対象資産による分類に大別できる。
投資信託が立ち上がる期間後に購入することができるかどうかの区分により、
前述した単位型と追加型に分類することができる。
また投資対象地域により国内、海外、内外の3つに大別される。目論見書ま
10
たは投資信託約款において、組入資産による主たる投資収益が実質的に源泉と
する資産について上記区分の記載がなされている。
さ ら に 投 資 対 象 資 産 に よ り 株 式 、 債 券 、 不 動 産 投 信 ( リ ー ト )、 そ の 他 資 産 、
複合資産に大別される。目論見書または投資信託約款において、組入資産によ
る主たる投資収益が実質的に組み入れ源泉とする資産について上記区分の記載
15
がなされている。
1-3.
日本の投資信託の変遷
日 本 の「 契 約 型 公 募 証 券 投 資 信 託 」は 、 1951 年 6 月 の「 証 券 投 資 信 託 法 」施
20
行 に よ り 発 足 し た 。当 時 の 日 本 は 、3 年 前 の 1948 年 に 証 券 取 引 法 が 公 布 施 行 さ
れ、経済復興への第一歩を踏み出していたが、財閥解体により市場に株式があ
ふれ、その一方で買い手不在という状態であった。市場の株式を吸収し、企業
に必要な資金調達を行うことが国にとっての急務であり、その解決策として投
資信託の活用が考えられたのである。
25
このように、日本の証券投資信託誕生の背景には、多分に政策的な意図があ
ったが、その後、時代の要請を受けて、以下のような成長 、発展を遂げていく
ことになる。
(1)免 許 制 へ の 移 行
1953 年 に は「 証 券 投 資 信 託 法 」が 一 部 改 正 さ れ た 。そ れ ま で は 、資 本 金 5,000
30
万 円 以 上 の 株 式 会 社 で あ っ て 一 定 の 要 件 を 満 た し て い れ ば 、当 時 の 主 務 官 庁 で
7
ある大蔵省に登録することで、投資信託委託会社としての業務を開始すること
ができた。しかし、大衆の資金を扱う投資信託委託会社として実質的に不適格
な者でも登録を拒否できない場合が起こり得るとして、登録制から免許制に改
められることとなった。また、投資信託委託会社に対する大蔵大臣の監督権限
5
も強化される等の措置が、同時に行われた。
(2)証 券 不 況 と 制 度 改 革
1964 年 に 入 る と 、日 本 経 済 は 引 締 め 政 策 の 実 施 に よ り 大 き な リ セ ッ シ ョ ン に
見 舞 わ れ 、 株 価 も 著 し く 下 落 し た 。 証 券 市 場 は 「 40 年 ( 昭 和 40 年 ) 証 券 不
況」と呼ばれる長期の低迷期に陥り、大手証券会社が破綻する等、大変苦しい
10
時期となった。証券投資信託においても、組入れ株式の値下りによって基準価
額が投資金額を甚だしく下回るものが出るに至り、設定額は不振で解約額 が増
加し、純資産額の著しい減少を招いた。かかる苦難期において、関係者におい
て 証 券 投 資 信 託 の 制 度 並 び に 運 用 の 両 面 に わ た る 改 善 策 の 検 討 が 行 わ れ 、「 委
託会社の受益者への忠実義務、組み入れ証券にかかる議決権行使、ディスクロ
15
ー ジ ャ ー 義 務 」な ど の 規 定 や 証 券 投 資 信 託 協 会 に 関 す る 規 定 等 を 盛 り 込 ん だ「 証
券 投 資 信 託 法 の 一 部 を 改 正 す る 法 律 」 が 1967 年 8 月 に 公 布 さ れ 、 同 年 10 月 よ
り施行された。
(3)中 期 国 債 フ ァ ン ド の 誕 生 と 株 式 投 資 信 託 の 拡 大
証券投資信託は、その後も個別の問題についてさまざまな制度改善が行われ
20
た。このような諸対策と関係者の経営努力に加え、その後おおむね順調に上昇
過程をたどった株式市場の状況と相まって、証券投資信託の 純資産総額は増加
基 調 と な っ た 。 中 で も 1980 年 に 誕 生 し た 中 期 国 債 フ ァ ン ド は 、預 貯 金 に 類 似
する利便性を有し、かつ好収益が期待できる商品性が広く投資者のニーズにマ
ッチし、証券投資信託マーケットの活性化に大きく寄与した。
25
ま た 、1985 年 以 降 は 株 式 市 況 の 好 調 を 背 景 に 、証 券 投 資 信 託 の 中 で も 株 式 に
投資する株式投資信託に投資者のニーズが高まり、証券投資信託は著しい成
長 ・ 発 展 を 示 し 、 1988 年 に は 純 資 産 総 額 が 50 兆 円 を 超 え 、 数 あ る 個 人 向 け
金融商品の中でも重要な地位を占めるようになった。
(4)投 資 信 託 委 託 業 者 の 新 規 参 入 等
30
一方、証券投資信託の拡大・発展とともに、我が国の金融・資本市場におけ
8
る自由化・国際化が急速に進展し、投資信託を巡る環境も大きく変化した。こ
の よ う な 状 況 を 踏 ま え 、 大 蔵 省 は 1988 年 に 投 資 信 託 研 究 会 を 設 置 し 、今 後 の
投資信託の在り方として、新規参入問題をはじめ投資信託が抱える諸問題につ
い て 基 本 的 な 見 直 し を 行 い 、 1989 年 12 月 、「 投 資 信 託 委 託 業 務 の 免 許 基 準 の
5
具体的適用の在り方」を明らかにした。適格者の参入については内外を問わず
前向きに対応することとし、外資系の参入も可能と した。
新 規 参 入 に つ い て は そ の 後 も 、1992 年 4 月 に 免 許 基 準 を 各 面 に お い て 大 幅 に
緩 和 し 、一 層 の 明 確 化・弾 力 化 を 図 っ た 。ま た 、1995 年 1 月 に は 投 資 一 任 業 務
を営む投資顧問会社が、投資信託委託業務の免許を取得する併営が認められた。
10
さ ら に 1996 年 1 月 に は 、 支 店 形 態 で 我 が 国 に 進 出 し て い る 外 資 系 投 資 顧 問 会
社が設立した投資信託委託業者に限り、役職員並びに施設を併用することが認
め ら れ た 。そ の 間 1990 年 代 の 株 式 市 況 は 不 振 で 低 迷 し 、金 融 市 場 の 信 用 収 縮 か
ら証券投資信託の残高は減少している。
15
(5)近 年 の 制 度 改 革
① 1998 年 金 融 シ ス テ ム 改 革
1990 年 代 後 半 に 政 府 主 導 で 進 め ら れ た「 直 接 金 融 か ら 間 接 金 融 へ 。個 人 資 産
の効率向上へ」という狙いを持った金融ビックバンの中で、投資家と投資信託
の 接 点 を 広 げ る た め 1998 年 に 銀 行 等 に よ る 投 資 信 託 販 売 が 始 ま り 、 2005 年 に
20
は郵便局も参画した。銀行窓口販売は、投資信託広告の増大による効果を含め
投資信託の認知度を飛躍的に向上させた。
また金融ビックバンの一環として、運用の外部委託が可能になり、特に海外
運 用 会 社 の 活 用 が 増 加 し 、運 用 の グ ロ ー バ ル 化 を 進 展 さ せ る 素 地 と な っ た 。2000
年 代 に 至 り 、外 貨 建 て 資 産 の 比 率 は 40% 代 に 達 し て お り グ ロ ー バ ル 投 資 は 定 着
25
したといえる。また 1 ファンドの運用を複数の会社に分割するマルチマネージ
ャ ー 制 の 採 用 も 可 能 と な り 、1999 年 の フ ァ ン ド・オ ブ・フ ァ ン ズ の 解 禁 と 相 ま
って、地域別などの運用専門化が進んだ。
② 投 資 信 託 の 2014 年 改 革
金 融 審 議 会 の「 投 資 信 託・投 資 法 人 の 見 直 し に 関 す る ワ ー キ ン グ・グ ル ー プ 」
30
の 報 告 を 受 け て 大 き く 変 わ ろ う と し て い る 。主 な 改 正 点 は 、<1>資 産 運 用 に つ い
9
て の リ ス ク 規 制( 信 用 リ ス ク 分 散 、デ リ バ テ ィ ブ の リ ス ク 量 制 限 な ど )の 導 入 、
<2>デ ィ ス ク ロ ー ジ ャ ー の 改 善( ① 交 付 目 論 見 書 に リ ス ク の 分 か り や す い 表 示 の
導 入 、 ② 運 用 報 告 書 を 2 段 階 化 し 交 付 運 用 報 告 書 に つ い て 内 容 を し ぼ る )、 <3>
投資家ごとにトータルリターンを定期的に通知する制度の導入などである。こ
5
れらの実施により、投資家保護が促進されるとともに、投資家の投資信託につ
いての理解が進むことが期待される。
一 方 、2014 年 か ら 始 ま っ た N I S A の 対 象 に は 株 式 投 信 が 入 る 。今 ま で で 未
開拓であった若者マーケット向け資産形成プラン、あるいは確定拠出年金の補
完手段として活用することも考えられ、NISAの活用により投資信託への中
10
長期投資が推進されることが期待される。
第 2章
日本の投資信託の現状
2014 年 度 か ら NISA( 少 額 投 資 非 課 税 制 度 )制 度 が 開 始 さ れ て 、個 人 の 投 資 の
15
活 発 化 が 期 待 さ れ て い る 。し か し な が ら 、日 本 銀 行 の「 資 金 循 環 統 計 2015 年 第
1 期 四 半 期 ( 1~ 3 月 期 ) を 見 る と 、 図 2-1 の 通 り 個 人 金 融 資 産 の お け る 現 金 ・
預 金 等 の 占 め る 比 率 は 51.7% と 依 然 高 い 。
図 2-1
資 金 循 環 統 計 2015 年 第 1 期 四 半 期 ( 1-3 月 期 )
20
出 典 : 個 人 金 融 資 産 動 向 : 2015 年 第 1 四 半 期
http://www.nicmr.com/nicmr/r eport/repo/2015/2015sum06web.pd( 2 0 1 5 / 1 0 / 3 0 ア ク セ ス )
10
前年からの株価上昇や円安進行により保有資産の時価評価が増したことや、
投 資 信 託 や 株 式 ・ 出 資 金 の 資 金 流 入 に よ り 個 人 金 融 資 産 残 高 は 1707 兆 5130 億
円 ( 2015 年 3 月 末 ) と 過 去 最 高 と な っ た 。 個 人 金 融 資 産 残 高 は 前 年 比 の 5.2%
の 増 加 し 、そ の な か で 投 資 信 託 や 株 式・出 資 金 の 比 率 は 16.4% と な り 、金 額 ベ
5
ー ス で も 20% を 超 え る 伸 び を み せ て い る 。 し か し な が ら 、 現 金 ・ 預 金 、 保 険 ・
年 金 準 備 金 、国 債 ・ 地 方 債 ・ 金 債 等 の 債 券 で 79.3% を 占 め 、日 本 の 家 計 の 安 全
志向は極めて強いといえる。
一 方 金 融 庁 の 2015 年 3 月 末 時 点 の NISA 口 座 の 開 設 利 用 状 況 の 調 査 に よ れ ば 、
2014 年 12 月 比 口 座 数 で 6.5% の 増 、 買 付 額 は 48.2% 増 と な っ て い る 。 買 付 額
10
は 4 兆 4109 億 と な り 、構 成 比 の 大 き な 変 化 は な い が 、上 場 株 式 が 約 1/3 と 投 資
信 託 が 約 2/3 を 占 め て い る 。 現 在 の と こ ろ 投 資 に 誘 導 す る と う い う 点 で 一 定 の
効果がみられる。
2-1.家 計 金 融 資 産 と 投 資
15
( 1) 家 計 金 融 資 産 の 変 遷
家 計 金 融 資 産 の 推 移 を み た と き に 戦 前 か ら 戦 後 の 1960 年 代 ま で は 家 計 の
株式投資比率が高かった。これらの時期においては、個人の株式保有率が高か
った理由としては、華族や財閥、豪農等の富裕層が株式を多く持っていた戦前
20
と、戦後当初証券民主化運動が進められたことを野村アセットマネジメントの
竹崎竜二氏が指摘している。
1970 年 以 降 、個 人 金 融 資 産 が 株 式 か ら 預 貯 金 に シ フ ト し た 要 因 と し て 、預 貯
金優遇、郵便貯金(定額貯金)の拡大、持ち家推進などの政策がある。
株 価 が 上 昇 し た バ ブ ル 期 (1980 年 後 半 )に お い て は 、現 在 と 比 較 す れ ば 家 計 の
25
株 式 比 率 は 高 か っ た 。し か し な が ら 株 式 と 出 資 を 合 算 し た 投 資 比 率 は 1963 年 度
末 に は 23%に 及 び 、現 在 の 10.8%の 約 2 倍 強 と な っ て い る 。1965 年 か ら 2015 年
ま で で 、金 融 資 産 は 32 兆 円 か ら 1708 兆 円 と 大 き く 増 加 す る 中 で 、家 計 の 株 式・
出 資 へ の 新 規 投 資 は 限 定 的 で あ っ た の で 、投 資 比 率 は 低 下 し て い っ た 。し か し 、
株式投資比率の増減は、時価変動の影響を大きく受け入ている。
30
1980 年 代 の 投 資 比 率 の 拡 大 や 、1990 年 代 の 投 資 比 率 の 低 下 は 時 価 変 動 の 影 響
11
が大きい。個人に対しての株式や投資信託等への投資をすすめる先駆は、橋本
内閣が推進した金融ビッグバンである。
金融システム改革は、個人の金融資産のより有利な運用や成長産業への円滑
な資金供給を図るために、我が国の金融システムの効率性、利便性を高めるこ
5
とを目指す我が国の金融市場の根本的な改革である。貯蓄から投資への文言が
登場したのは、小泉内閣時代である。今後の経済財政運営及び経済社会の構造
改革に関する基本方針概要を閣議決定した。この中で、聖域なき構造改革を挙
げて、不良債権問題の解決と、七つの分野(民営化・規制改革、チャレン ジャ
ー支援、保険機構強化、知的資産倍増、生活維新、地方自立・活性化、財政政
10
策)のうち、従来の預貯金中心の貯蓄優遇から、株式投資などの投資優遇とい
う金融の在り方の切り替えや、企業・創業の重要性を踏まえ、税制を含めた諸
制度の在り方を検討した。
金融ビッグバンによって株式売買手数料の自由化、取引所集中義務の撤廃、
運用商品の規制緩和、証券・金融などの業務関係の規制緩和によって手数料の
15
大 幅 な 低 下 、様 々 な 新 商 品( 私 募 投 信 、不 動 産 投 信 、 ETF 等 )、銀 行 で の 投 資 信
託 販 売 が 実 現 し た 。投 資 信 託 の 2014 年 改 革 で は 投 資 家 に 向 け た 情 報 の 開 示 を 主
眼とした取り組みが組み込まれている 。
図 2-2
金融資産の保有目的
20
出 典 : 金 融 広 報 中 央 委 員 会 「 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 」( 2014 )
ht t ps ://www.s hi r up or ut o.j p /fi na nc e/c hos a /yor on20 14 fut /p d f/ yor on f14 .p d f
12
(2 015 /10 /15 ア クセス )
( 2) 家 計 金 融 資 産 が 貯 蓄 に 向 か う 動 機
日本の人々が貯蓄に向かう動機として、金融広報中央委員会の「家計の金融行
動 に 関 す る 世 論 調 査 」 に よ れ ば 、 図 2-2 の 通 り 病 気 や 不 時 の 災 害 へ の 備 え 、 老
後の生活資金、子供の教育資金、安心感を持ちたい等、さまざまな意見がある
5
の が わ か る 。 特 に 「 病 気 や 不 時 の 災 害 の 備 え 」「 老 後 の 生 活 資 金 」 目 的 が 10 年
間 を 通 じ 60% を 常 に 超 え て い る の が 特 徴 的 で あ る 。
同調査の老後の不安についての質問に対して「非常に心配で ある」とする回
答 は 40% を 超 え 、 心 配 で あ る と す る 回 答 を 合 わ せ る と 8 割 を 超 え て い る 。
また同調査によると元本割れを起こす可能性 のある商品を保有しようと思わ
10
な い 人 が 80% を 占 め る 状 態 が 続 い て い る 。こ の こ と は 、貯 蓄 性 の 高 い 日 本 の 状
況を裏付ける結果となっている。
図 2-3
家計の金融行動に関する世論調査
元本割れを起こす可能性があるが、
収益性が高いと思われる商品の保有
2008年
2010年
2012年
2014年
0%
20%
40%
60%
80%
100%
そうした商品について、積極的の保有しようと思っている
そうした商品について、一部保有しようと思っている
そうした商品を保有しようと全く思わない
無回答
15
出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
http s:/ /w w w .s hir up or uto .j p /f inance/c ho sa/yo r on 2014fut/p d f /yor onf14 .p d f (2015/ 10/15 ア ク セ ス)
年 令 別 の 分 類 で は 、 図 2-4 に あ る よ う に 20 歳 、 30 歳 代 の 資 産 を 保 有 し て い
ない割合は高く、一方総務省の家計調査(貯蓄・負債編)からみると、家計金
20
融資産の保有構成比は高齢者層が過半を占めている。このことから、株式や株
13
式 投 信 で は 60 歳 代 以 上 が 主 な 保 有 者 で あ る こ と が 推 定 さ れ る 。
今 後 の 資 産 形 成 の 意 味 で は 、今 後 元 本 割 れ の リ ス ク の 軽 減 と 若 年 者 層 の 貯 蓄 へ
の 誘 導 の た め 動 機 づ け が 課 題 と な る 。 先 に ふ れ た N I S A の 口 座 開 設 で は 、 20
歳 代 、30 歳 代 で も 低 率 で は あ る が 、2014 年 3 月 末 よ り 2015 年 3 月 末 で は 1.2% 、
5
2% と そ れ ぞ れ 増 加 し て い る 。
図 2-4
金融資産保有していない回答の年齢状況
出典:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」
10
ht t ps ://www.s hi r up or ut o.j p /fi na nc e/c hos a /yor on20 14 fut /p d f/ yor on f14 .p d f
(2 015 /10 /15 ア クセス )
( 3) 日 本 の 投 資 信 託 の 特 徴
日 本 の 投 資 の 仕 組 み と し て 、2000 年 代 の 日 本 の 株 式 市 場 に お い て は 、外 国 人
投資家の売買フローや保有残高は増加した。売買代金回転率については、個人
15
投資家の回転率が上昇している。
図 2-4 は 投 資 信 託 協 会 の「 公 募 投 資 信 託 の 資 産 増 減 状 況( 実 額 )」月 次 の デ ー
タより作成した図である。この図から、 投資信託に関していえば、投資信託協
会 に よ る 公 募 投 資 信 託 全 体 で は 、 2009 年 頃 か ら 平 均 し て 月 に 4000 億 円 前 後 の
資金流入が生じた一方で、公募株式投信の設定額や解約額は高水準 に推移して
20
いる。リーマンショックの時期を除いて、設定額、解約額ともに増え高水準で
推 移 し て い る 。も っ と 以 前 の 時 期 か ら 見 れ ば 、バ ブ ル 期 に 含 ま れ る 1990 年 代 初
頭も、投信の設定、解約額が高水準であり、当時の投資家による投信取引その
ものが短期化した可能性がある。
14
図 2-4
設定額
解約額
兆円
公募投資信託の設定と解約状況
設定額
(A)
解約額
(B)
解約率
解約率
14.00
25.0%
12.00
20.0%
10.00
8.00
15.0%
6.00
10.0%
4.00
5.0%
2.00
0.0%
1990年1月
1991年1月
1992年1月
1993年1月
1994年1月
1995年1月
1996年1月
1997年1月
1998年1月
1999年1月
2000年1月
2001年1月
2002年1月
2003年1月
2004年1月
2005年1月
2006年1月
2007年1月
2008年1月
2009年1月
2010年1月
2011年1月
2012年1月
2013年1月
2014年1月
2015年1月
0.00
出 典 : 投 資 信 託 協 会 「 公 募 投 資 信 託 の 資 産 増 減 状 況 ( 実 額 )」 月 次 デ ー タ よ り 作 成
https://www.toushin.or.jp/statistics/statistics/data/ ( 2015/9/15 ア ク セ ス )
5
現在はそれをいずれも上回っているため、投資信託の平均保有期間の短期化は
さ ら に 続 い て い る で あ ろ う 。リ ー マ ン シ ョ ッ ク 以 降 に 、投 信 向 け 投 資 フ ロ ー が 、
高めのインカムゲイン目的の高齢層が中心ながら、短期的な視点での取引をし
ていたのだと思われる。
日 本 の 投 資 信 託 は 、ま ず 1951 年 に 株 式 と い う 無 期 限 で 価 格 変 動 の 大 き い 証 券
10
を 組 み 入 れ る に も 関 わ ら ず 、短 い 償 還 期 限 を 設 け た 単 位 型 株 式 投 信 で 始 ま っ た 。
戦後の復興と債券に必要な増資を行うことが困難な状況であったため、証券民
主化の一翼を担うべく投資信託制度を活用することになった。こうした証券の
民主化によって、個人が購入しやすく、また業者も販売しやすい単位型ファン
ドを毎月新設する方式が採用された。定期預金並みの短い期間とともに、募集
15
期間 1 か月の新しいファンドを毎月設定する方式により、日々変動する時価で
は な く 、 常 に 固 定 ・ ラ ウ ン ド 金 額 を 販 売 で き る 方 法 を 取 り 入 れ た 。 1952 年 に 、
15
追加型ファンドも始まった。しかし、販売の主力は、毎月募集の単位型ファン
ドであることには変わりはなかった。
1990 年 代 後 半 あ た り か ら 、追 加 型 フ ァ ン ド を 日 々 変 動 す る 時 価 に よ り 投 資 信
託 と し て 販 売 す る 欧 米 並 み の 方 式 が 主 流 と な っ た 。2011 年 3 月 末 に お い て 株 式
5
投 信 残 高 の 98%は 追 加 型 が 占 め て い る 。
( 4) 日 本 の 投 資 信 託 の 販 売 面
販売面では、日本の投資信託は、受益証券が証券取引法上の有価証券である
こ と か ら 、証 券 会 社 だ け で ス タ ー ト さ せ 、そ の 状 態 は 1993 年 に 投 資 委 託 会 社 に
よ る 直 接 販 売 が 始 ま る ま で の 42 年 間 に わ た っ て 続 い た 。
10
し か し 、1990 年 代 後 半 に 政 府 主 導 で 進 め ら れ た 直 接 金 融 か ら 間 接 金 融 へ の 資
金 運 用 の 効 率 向 上 を 狙 う 金 融 ビ ッ グ バ ン の 中 で 、1998 年 に 、銀 行 等 の 投 信 販 売
が 始 ま り 、2005 年 に は 郵 便 局 も 参 入 し た 。銀 行 で の 販 売 は 、投 資 信 託 の 広 告 の
増大による効果を含めて、投信の認知度を飛躍的に向上させたといえる。 しか
し、銀行での窓口販売が始まったが給与振込口座から毎月引き落として投資信
15
託 を 買 い 付 け る と い っ た 「 積 立 」 は ま だ 普 及 し て い な い 。 図 2-5 は 投 資 信 託 協
会 の 「 販 売 別 純 資 産 残 高 の 状 況 ( 実 額 )」 の 年 次 デ ー タ よ り 作 成 し た 図 で あ る 。
図 2-5
公募ファンド全体の販売チャネル別残高構成比
1999
90.3%
2001
80.2%
2004
17.1%
65.4%
2007
33.8%
56.8%
42.6%
2.7%
0.8% 証券会社
0.6%
銀行等
直販
2010
59.4%
40.0%
0.6%
2013
66.3%
33.0%
0.7%
2014
66.5%
32.9%
0.6%
0%
20
5.5% 4.3%
20%
40%
60%
80%
100%
出 典 : 投 資 信 託 協 会 「 公 募 投 資 信 託 の 資 産 増 減 状 況 ( 実 額 )」 月 次 デ ー タ よ り 作 成
https://www.toushin.or.jp/statistics/statistics/data/ ( 2015/9/15 ア ク セ ス )
16
販 売 が 始 ま っ た 当 初 に お い て は 、 95.8%が 証 券 会 社 で 0.5%が 銀 行 等 で の 販 売
と い う 状 態 で あ っ た が 、 図 2-5 の 通 り 、 翌 年 1999 年 で 証 券 会 社 が 90.3% で 銀
行 が 5.5% 、 2001 年 は 17.1%と 大 き く 伸 び て い る 。 さ ら に 、 2004 年 に は 銀 行 等
は 33.9%、2010 年 に は 、証 券 会 社 が 59.4%で 、銀 行 等 が 40.0%と な っ た が 、そ の
5
後 2014 年 に は 銀 行 等 は 32.9% と な っ て い る 。 推 移 か ら 見 て も 、 銀 行 で の 投 資
信託の販売は当初より大きくのびたが、近年は伸び悩んでいる。
投 資 信 託 の 顧 客 は 個 人 が 中 心 で 、日 本 銀 行 資 金 循 環 統 計 の 2015 年 第 2 四 半 期
現 在 の 速 報 に よ る と 、投 資 信 託 の 保 有 者 別 構 成 は 、個 人 が 61%、保 険・年 金 16.0%、
金 融 法 人 が 16%で 、 そ の 他 が 7%と な っ て い る
10
個 人 投 資 家 は 、高 値 買 い 、安 値 売 り に 走 り や す く な る こ と が 想 定 さ れ る 。 金
融 庁 モ ニ タ ン リ ン グ レ ポ ー ト 2015 年 7 月 報 告 100 頁 で は 、金 融 機 関 の 問 題 点 と
して、販売手数料が高く、リスクの比較的高い販売が上位を占めているとして
いる。さらに、顧客の安定的な資産形成に資する商品提供に向けた取組が十分
浸透しているとは言い難いとしている。
15
( 5) 日 本 の 投 資 信 託 の 運 用 面
運用面においては、投資対象の多様化とグローバル化が進展した歴史であっ
た 。ま た 、1998 年 に 運 用 の 外 部 委 託 が 可 能 と な っ た こ と よ り 海 外 運 用 会 社 の 活
用が進んだ。投信の運用対象は、発足した当時には国内株中心ではあったが、
社債市場の発達、さらに、国債発行の開始など債券市場の拡大とともに債券組
20
み 入 れ が 増 加 し た 。投 信 全 体 の 資 産 構 成 の 変 化 を 見 る と 、1962 年 に 債 券 が 株 式
を 上 回 る に 至 り 、以 降 、株 価 ピ ー ク 時 の 1989 年 お よ び 1990 年 の 2 年 間 を 除 き 、
常 に 債 券 の 保 有 金 額 が 株 式 を 上 回 っ た 。デ リ バ テ ィ ブ に つ い て い え ば 、1987 年
に ヘ ッ ジ 目 的 と し て 先 物・オ プ シ ョ ン の 利 用 が 始 ま り 、1995 年 に は ヘ ッ ジ 目 的
以外にも利用可能となり、基準価額が前年比で株価等指数の2倍・3倍に動く
25
ブル・ファンドや、指数の逆方向に動くベア・ファンドも生まれた。
1970 年 に は 、日 本 の 対 外 証 券 投 資 自 由 化 の 先 陣 を 切 っ て 投 信 に よ る 海 外 投 資
が始まった。しかし、国内証券のリターンが高かったこともあって、投信の外
貨 建 て 資 産 へ の 比 率 は 1985 年 ま で 1 割 以 下 で 推 移 し 、や っ と 1986 年 に 一 時 10%
を 超 え る に 至 っ た 。そ の 後 、2000 年 代 に 入 り 、日 本 の 超 低 金 利 ・ 株 価 低 迷 の 長
30
期 化 の 中 で 、債 券 を 中 心 に 外 貨 建 て 投 資 が 急 増 し た 。2011 年 3 月 末 で 、外 貨 建
17
て 資 産 の 比 率 は 、債 券 で 63.1%、株 式 で 41.1%、投 資 資 産 全 体 で は 43.1%に 達 し
ている。日本の投信のグローバル投資は定着の傾向を見せている。
2-2.
国際比較
5
投信の規模等を国際比較すると主要な先進国に比べて日本の投信の普及度は
非常に低いことは明らかである。
図 2-6
1.6%
5.6%
10.8%
51.7%
日本
アメリカ
日米家計金融資産構成比率比較
13.3%
4.5%
12.9%
35.0%
ユーロエリア
0%
20%
現金・預金
債券
34.3%
4.9%
8.0%
16.8%
40%
投資信託
60%
株式・出資金
26.0%
4.3%
32.1%
2.8%
32.6%
2.7%
80%
100%
保険・年金準備金
その他
10
出 典 : 日 本 銀 行 調 査 統 計 局 「 資 金 循 環 の 日 米 比 較 」 ( 2015 年 7 月 )
http://www.shouken-toukei.jp/statistics/pdf/10_03.pdf
図 2-6 の グ ラ フ は 、 2015 年 の 日 本 、 ア メ リ カ 、 ユ ー ロ エ リ ア の 現 金 ・ 預 金 、
15
債券、投資信託、株式・出資金、保険・年金準備金、その他の家計金融資産構
成比率の割合の示したものである。
現 金 ・ 預 金 の 割 合 は 、 日 本 は 51.7%に 対 し て 、 ア メ リ カ は 13.3%、 ユ ー ロ エ
リ ア は 35.0%と 低 い 割 合 に な っ て い る 。
一 方 で 、投 資 信 託 の 割 合 は 、日 本 が 5.6%に 対 し て 、ア メ リ カ は 12.9%、ユ ー
20
ロ エ リ ア は 8.0%と 高 い 割 合 に な っ て い る 。同 様 な こ と が 株 式 や 出 資 金 に 関 し て
も い え る 。 日 本 で は 、 10.8%だ が 、 ア メ リ カ で は 34.3%で 、 ユ ー ロ エ リ ア で は
16.8%に な っ て い る 。
18
ユーロ圏でも、例えば、イギリス、フランス、ドイツを比べると、かなりそ
れぞれの特徴が異なることがわかる。
特に、イギリスにおいては、フランスやドイツに比べて、投資信託の比率は
低いが、年金と保険の比率は高く、年金制度が充実していることがグラフから
5
読 み 取 れ る 。 図 2-7 は 2012 年 の 統 計 で あ る が 、 そ の 比 率 を 表 し て い る も の で
ある。つまり、日本は他国に比べて現金・預金を保有する安定を求めるが、投
資信託には積極的には手を出していないことが明らかである。
図 2-7
家計金融資産の国際比較
55.70%
日本
14.50%
アメリカ
28.00%
28.80%
イギリス
29.20%
フランス
30.40%
3.80%
現金・預金
年金・保険
債券
11.90%
上場株式
53.10%
3.10%
非上場株式
投資信託
37.70%
40.90%
ドイツ
0%
20%
6.90%
35.70%
40%
60%
出資金
その他
8.40%
80%
100%
出典:日本:日本銀行「資金循環統計」、ドイツ:Deutsche Bundesbank"Financial Accounts for Germany"、
米国:Federal Reserve Board "Flow of Funds Accounts",イギリス:Office for National Statistics "United
Kingdom Economic Accounts",フランス:Baque de France "Quarterly financial accounts France" より
10
出 典 :金 融 庁 資 料 平 成 24 年 度 11 月 8 日 より作 成
http://www.fsa.go.jp/frtc/kenkyu/gijiroku/20121108/03.pdf ( 2015/9/ 1 5 ア ク セ ス )
次 に 、フ ァ ン ド 数 の 比 較 を す る 。日 本 は 米 国 に 比 べ る と 、フ ァ ン ド 数 が 多 い 。
15
日 本 と 米 国 の 投 信 残 高 ・ フ ァ ン ド 数 ・ 新 商 品 設 定 本 数 は 図 2-8 の 4 の 通 り で あ
る 。 図 2-8 は 日 本 と ア メ リ カ の 投 資 信 託 残 高 と フ ァ ン ド 数 と 新 商 品 数 の 比 較 し
たものを表している図である。
米 国 と 日 本 の 純 資 産 を 比 較 し た と き に 、米 国 で は 901.49 兆 円 に 対 し て 、日 本
は 57.33 兆 円 で あ る 。 新 商 品 の フ ァ ン ド 数 で は 、 米 国 で は フ ァ ン ド 数 は 7637
19
図 2-8
日米の投資信託残高・ファンド数・新商品数の比較
日米の投資信託残高・ファンド数・新商品数の比較(2011年)
純資産
ファンド数
1ファンドあたりの
金額
米国
901.49兆円
7637
1,180億円
日本
57.33兆円
4196
137億円
(注)米国の純資産残高は、2011年末の1ドル=77.57円で円換算した。
「出典」米国ICI、日本の投資信託協会データにもとづき杉田浩治作成
本 で あ る の に 対 し て 、日 本 の フ ァ ン ド 数 は 4196 本 と な っ て お り 、日 本 の フ ァ ン
5
ド数はかなり多いということがわかる。つまり、純資産の規模に比べて、ファ
ンド数が多いということだ。
販売面においての比較としては、ファンドと投資家を結ぶチャネルとして欧
米のような独立フィナンシャルプランナーの 存在が確立されていないこと、及
び米国におけるような確定拠出型年金市場が未発達であることが指摘される。
10
日 本 の 投 信 の 解 約 率 が 高 い こ と は 先 ほ ど も 述 べ た が 、過 去 10 年 間 の 投 信 の 平
均保有期間を日・米について比較すると明らかである。日本の投信の平均保有
期 間 は 2009 年 以 降 、 一 貫 し て 短 期 化 し て お り 、 2013 年 に は 1.7 年 に 落 ち 込 ん
だ 。こ れ も 米 国 に 比 べ て 半 分 以 下 で あ る 。2013 年 に は 、株 価 上 昇 に 伴 っ て 大 い
に 売 ら れ て 、株 式 優 遇 税 制 廃 止 前 の 駆 け 込 み 売 却 と い う 2 つ の 特 殊 要 因 が あ る 。
15
こ れ を 改 善 す る た め に も 、 NISA が 一 つ の 解 決 策 と な る こ と が 期 待 さ れ て い る 。
NISA は 投 資 年 も 年 初 か ら 5 年 間 非 課 税 措 置 が 有 効 だ か ら 、そ の 期 間 フ ル に 保 有
し続けることが非課税の有効活用になる。日本では、株価が長期に低迷したこ
ともあって、長期に対する不信感も強いが、投資環境が好転していることや、
NISA が 海 外 投 資 フ ァ ン ド に も 適 用 さ れ て い る こ と も 生 か し て 、投 信 へ の 中 長 期
20
投 資 を 推 進 す る 有 効 な 手 立 て と い え る 。 英 国 で は ISA 口 座 で 保 有 さ れ て い る 投
信 の 平 均 保 有 期 間 は 2013 年 現 在 で 8.1 年 と 計 算 さ れ 、 英 国 投 信 全 体 平 均 の 2
倍となっている。
オープン投信全体の資金回転率の推移を見 ると、この資金回転率の数値が大
20
きいほど投資期間が短いことがわかる。資金回転率とは、年間の設定額および
解約額の合計を前年度末純資産総額および当年度末純資産総額の合計で除した
ものである。
一 つ 目 の 問 題 点 と し て 当 信 託 協 会 の 資 金 回 転 率 の 推 移 よ り 、2006 年 か ら 2009
5
年 に か け て 資 金 回 転 率 は 約 40%で あ っ た 。 一 方 2010 年 度 以 降 に 約 60%に 上 昇 し
て投資資金の滞留期間が短期化している。多くのオープン投信は長期運用を主
体としているが、直近の二年間において資金回転率が上昇している。
二つ目の問題点として、当初の設定額の小型化が進んでいる。当初の設定額
が 10 億 円 未 満 の オ ー プ ン 投 信 の 占 め る 割 合 が 、 2006 年 以 降 、 年 々 高 く な っ て
10
お り 、 2006 年 度 に は 10 億 円 未 満 の 割 合 は 約 48%か ら 2011 年 に は 約 72%と 顕 著
になっている。
一 方 で 、 当 初 設 定 額 が 100 億 円 以 上 の オ ー プ ン 投 信 の 占 め る 割 合 は 年 々 低 く
な っ て い る 。2006 年 度 に は 100 億 円 以 上 の 割 合 は 、約 14%だ っ た が 、2011 年 に
は 約 7%に 半 減 し て い る 。こ う い っ た 特 徴 が 、近 年 の オ ー プ ン 投 信 に お け る も の
15
とわかる。
オ ー プ ン 投 信 で は 、 毎 年 400 本 程 度 も 新 規 設 定 さ れ て 、 設 定 額 が 解 約 率 を 上
回り続けるといったような成長も見られる。オープン投信の構成割合をみたと
き、債券やリートに偏っており、毎月分配型に代表されるような高頻度で高い
分配を行うオープン投信を選考する傾向が、日本の投資家には多く見られる。
20
そして、投資信託は長期の金融資産形成を図るための金融商品 として、長期保
有が望ましい。そのため、バランスよく資産分散してリターンなどの過去のパ
フォーマンスの動きに照らして個々の資産形成の目的に応じた投資選択をすべ
きである。しかし、日本の投資家の現状は資産構成に隔たりが あり、リターン
より分配利回りの高さを優先し、投資 期間も短期化している。個人の金融商品
25
に対する意識も重要となる。
2-3.
個人資産と投資信託
家 計 の 領 域 に お い て 、 過 去 20 年 ~ 25 年 の 間 に 起 き た 最 も 大 き な 傾 向 の 一 つ
30
に、金融サービス離れの動きがあり、 今や世帯主たちは、複雑で重要な金融上
21
の意思決定をしなくてはいけなくなった。資産運用に関する最も重要な例とし
て、退職に対する備えが挙げられる。
これまで雇用者には、雇用主から確定給付型年金プランが提供されてきた。
確定給付型年金には、退職時給付の一定割合をもとに給付が算定される。その
5
ため、世帯主に意思決定が、求められることがなかった。
しかし、最近では、雇用者が投資割合を決定しなくてはならない確定拠出型
年金プランが、これらのプランにとって代わりつつあることがわかる。今日に
おいては、世帯主にとってあまりに多くの機会と、金融商品の選択肢が存在す
る 。た く さ ん の 投 資 信 託 と 金 融 保 険 商 品 が あ る か ら だ 。多 く の 選 択 肢 の 中 か ら 、
10
よりよいものを選択することは困難だ。効率 的なプランを実行するために、必
要とされている知識や専門的なことを入手する方法にはいくつか存在する。イ
ンターネット上のアドバイス用のホームページを使用して、退職プランを組み
立てるための指導に力を入れることも大事ではあるがそれだけでは良い結果は
生まれない。
15
我々がこれまでよりも理解しやすい商品、個人の特性に合った商品、効率的
なリスクの選択と管理を可能とする商品 が必要とされていく。
第 3章
販売チャネルとインターネット証券
20
3-1.
手数料と販売体制
先に述べたように販売面では、金融ビックバンで銀行等が投資信託販売に参
入 し た が 、証 券 会 社 と 銀 行 等 が 90% 以 上 を 占 め て い る 。ア メ リ カ で は が 活 発 に
25
独立フィナンシャル・アドバイザーが 活発に利用され、我が国のようにごく一
部の独立系投信会社のみが直販しているのとは異 なって、ほとんどの投信会社
が直接販売を行っており、投信会社から直接購入することも一般的になってい
る。一方日本での販売体制の特徴として、販売会社と運用会社の系列構造が指
摘 で き る 。 図 3-1 は 、 販 売 会 社 と 運 用 会 社 の 系 列 構 造 の 例 を 示 し て い る 。
30
22
図 3-1
販 売 会 社 と 運 用 会 社 の 系 列 構 造 ( 朝 倉 2011)
出 典 : 朝 倉 智 也 (2011) 「 投 資 信 託 に 関 す る 現 状 の 課 題 と 対 応 」
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/w_group/siryou/20111216/01.pdf
5
日本を代表する世界的な証券会社やメガバンクが、かなり広く系列子会社を
組み入れホールディングカンパニー化しているのがみてとれる。それらの企業
が、多くの顧客をもち販売するということは、構造的に手数料優先の営業スタ
イルと販売姿勢が発生しやすく、投資家保護がされ難く不利な環境になりやす
い 構 造 を 内 包 し て い る と い え る 。 前 出 の 金 融 庁 モ ニ タ ン リ ン グ レ ポ ー ト 2015
10
年 7 月 報 告 95 頁 で は 、 顧 客 は 不 満 と し て 、「 元 本 保 証 が な い 」 次 い で 「 手 数 料
が高い」という不満を報告している。
図 3-2 は 日 本 と ア メ リ カ の 販 売 手 数 料 率 の 推 移 を 表 し て い る 図 で あ る 。 こ れ
らの図で示すように販売手数料率の平均値は複雑な仕組みの投資信託の販売が
増えていることを背景として、年々上昇傾向にある。他方、米国においては、
15
日本よりも手数料水準が低く、年々低下傾向にある。この背景としては 、販売
手数料がかからない確定拠出年金勘定経由の購入増加と販売手数料から預り資
産に対する報酬にビジネスモデルが転換していることが考えられる。
日本の投資信託については、前章で述べたように米国に比べるとファンド数が
多く資産額が小さいという日本の構造的特徴からも、効率性等が影響し経費が
20
かかることも考えられる。
23
図 3-2
日米の販売手数料の推移比較
出典:金融庁
モ ニ タ リ ン グ レ ポ ー ト 2015 年 7 月
http://www.fsa.go.jp/news/27/20150703 -2/01.pdf
5
日 本 の チ ャ ネ ル は 、大 き く 証 券 会 社 、銀 行 等 の 金 融 機 関 、直 接 販 売 が あ る が 、
手数料を比較するのに同じ証券会社を従来型の対面販売を行う証券会社とイン
ターネット証券会社に大別し比較してみる。
図 3-3 で 示 し て い る よ う に 投 資 信 託 関 連 収 入 を 販 売 手 数 料 と そ れ 以 外 の 信 託
10
報酬等費用に分けると、対面証券会社は販売手数料の比率が高くなっているこ
とがわかる。インターネット証券会社は、一人ひとりの顧客に営業マンがつい
て説明するというスタイルではなく、ネット証券で投資しようとする個人が、
サイトをみて自分自身がコンテンツを研究して利用するため、経費的に大きな
差がでることが考えられる。
15
インターネット証券の顧客の多くが個人投資家であることを考えると、販売
手数料の差は利用者を増やす大きなインセンティブになりうると考えられる。
従来インターネット証券会社は、
「 証 券 会 社 」と し て 対 面 型 証 券 会 社 と 同 じ 分 類
で論じられることが多いが、異なる特徴をもつ販売チャネルの一つとして、将
来の可能性を考えることができる。
20
24
図 3-3
販 売 会 社 の 収 入 構 造 ( 朝 倉 2011 年 )
出 典 : 朝 倉 智 也 (2011) 「 投 資 信 託 に 関 す る 現 状 の 課 題 と 対 応 」
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/w_group/siryou/20111216/01.pdf
5
3-2. イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 会 社 の 現 状
オ ン ラ イ ン 証 券 は 1996 年 の 大 和 証 券 の 参 入 に は じ ま る が 、 1998 年 に 金 融 ビ
ックバンにより「免許制」から「登録制」になり、インターネットという チャ
10
ネルを活用し、相対的に投下資本が少なくて すむオンライン証券事業へと、海
外や異業種からの多くの企業があいつで参入することとなった。続いて、 投資
信 託 の 販 売 手 数 料 は 1998 年 3 月 に 自 由 化 さ れ て い た が 、1999 年 10 月 に は 株 式
手数料が自由化し、オンライン証券業の競争に大きな影響を与えた。
オンライン専業会社は既存会社に遅れて参入し主要なプレーヤーになってい
15
くが、既存の従来からの顧客がいる対面証券会社は手数料に大きな差をつけな
い体系をとらざるをえなかった。オンライン参入業者は、証券取引のなかった
若い世代や忙しくて証券会社に足を運べない ビジネスマンといったあらたな顧
客層を取り込もうと、激烈な競争をして行くこと となる。
日 本 証 券 業 協 会 の「 イ ン タ ー ネ ッ ト 取 引 に 関 す る 調 査 結 果( 平 成 27 年 3 月 末 )」
20
に よ る と 、 こ の 10 年 間 を み る と 口 座 数 は 3 倍 に な り 、 図 3-4 の と お り 2015 年
3 月 末 現 在 2088 万 口 座 で あ る が 、有 残 口 座 数( 残 高 が 1 円 以 上 の 口 座 )は 、そ
25
図 3-4
インターネット取引口座数
2,500
2,000
1,500
1,353 1,414
2,088
1,968 2,022
1,896
1,779 1,816
1,696 1,757
1,608 1,647
1,574
1,542
1,501
1,000
500
0
出 典 : 日 本 証 券 業 協 会 H27.6.2[イ ン タ ー ネ ッ ト に 関 す る 調 査 結 果 に つ い て ]
http://www.jsda.or.jp/shiryo/chousa/files/netcyousa2015.3.pdf (2015/10/15 アクセス )
5
の う ち 1430 万 口 座 68.5% と な っ て い る 。
ま た 平 成 26 年 10 月 か ら 平 成 27 年 3 月 ま で の 6 か 月 間 に お け る イ ン タ ー ネ ッ
ト を 経 由 し た 株 式 現 金 取 引 、信 用 取 引( ETF 及 び REIT 等 を 含 む )の 売 買 代 金 は 、
171 兆 1,026 億 円 で あ っ た 。 日 本 証 券 業 協 会 全 会 員 の 株 式 委 託 取 引 の 売 買 代 金
10
の う ち イ ン タ ー ネ ッ ト 取 引 の 売 買 代 金 の 割 合 は 、 23.2% を 占 め て い る 。
図 3-5
30才未満
30才代
70才以上,
3,256,668 ,
15%
年代別口座数および口座数比率
40才代
50才代
60才代
70才以上
30才未満,
30才代,
992,499 , 5%
3,344,643 ,
16%
60才代,
4,181,546 ,
20%
40才代,
4,920,459 ,
24%
50才代,
4,101,478 ,
20%
出 典 : 日 本 証 券 業 協 会 H27.6.2[イ ン タ ー ネ ッ ト に 関 す る 調 査 結 果 に つ い て ]
15
http://www.jsda.or.jp/shiryo/chousa/files/netcyousa2015.3.pdf (2015/10/1 アクセス)
26
またインターネット取引は個人資産の投資が主体である。その利用者を年代
別 に み る と 、図 3-5 の よ う に 口 座 保 有 者 は 40 才 代 が 492 万 口 座 と 最 も 多 く 、次
い で 60 才 代 の 418 万 口 座 で あ っ た 。 30 才 未 満 は 99 万 口 座 で 5% 程 度 に な っ て
おり、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」の金融資産を
5
保 有 し て い な い 年 令 層 の 20 才 代 が 40% と い う 統 計 傾 向 が 表 れ て い る 。 イ ン タ
ーネット証券会社は若者層を開拓しているとは言えない状況である。
図 3-6 は イ ン タ ー ネ ッ ト 取 引 に よ る 国 内 投 資 信 託 の 募 集 の 取 扱 高 を 示 し て い
る 。 投 資 信 託 の 状 況 は 、 図 3-6 の 通 り ネ ッ ト 証 券 会 社 統 計 と し て は 大 き く 取 扱
高をのばしているが、投資信託全体の取扱高からみれば、比率は低い。しかし
10
な が ら 、 個 人 資 産 に 占 め る 投 資 信 託 の 割 合 は 5% 程 度 で あ り 、 大 手 ネ ッ ト 証 券
会 社 4 社 の シ エ ア も 1.6% に と ど ま っ て い る 。 ネ ッ ト 証 券 の 株 式 の 売 買 取 引 と
の割合と対比したとき、投資信託におけるネット証券の位置づけはまだかなり
低いと言える。
15
図 3-6
インターネット取引による国内投資信託の募集の取扱高
12000
11053
(億円)
10000
8706
8000
2000 1121
6077
5783
6000
4000
7355
6893
3410
3002
3578
3686
3033
1908
3935
4586
7058
4676
3371
3464
2137
0
出 典 : 日 本 証 券 業 協 会 H27.6.2[イ ン タ ー ネ ッ ト に 関 す る 調 査 結 果 に つ い て ]
http://www.jsda.or.jp/shiryo/chousa/files/netcyousa2015.3.pdf (2015/10/15 アクセス )
27
3-3.イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 会 社 と 対 面 証 券 会 社
インターネット証券会社と対面証券会社 を比較してみていくために、まず、
インターネット証券会社の特徴をみる 。
5
口 座 数 と 資 産 残 高 は 図 3-7 の よ う に 対 面 証 券 会 社 よ り 、 ネ ッ ト 証 券 会 社 は 口
座数に比し残資産高は小さい。販売手数料・信託報酬等費用が販売に与える影
響が対面証券会社より大きいことが予測される。
図 3-7
規模状況
インターネット証券会社
SBI証券
口座数
残資産高(億円)
カブドットコム
対面 証券会社
楽天証券
マネックス証券
野村証券
SMBC日興
3,149,253
905,390
1,785,488
1,426,994
5,256,000
2,605,000
11,550
1,739
6,197
20
194,000
77,855
各社決算説明資料より作成
(2015年3月現在)
10
ま た 図 3-8 の 通 り イ ン タ ー ネ ッ ト 証 券 会 社 は 取 扱 い フ ァ ン ド が 多 く 、 対 面 証 券
会社は会社規模に比べ取扱いファンド数は少なくなっている。これは顧客層 に
違いがあり、ネット証券は取扱い者の取引量は比較的小口であることが予想さ
れる。インターネット証券会社は、個人投資家が多 いが、取扱いファンド数は
15
多く、顧客の商品選択の幅が広く、利便性を与えているといえる。
個 人 の 投 資 に お け る 傾 向 を み る の に 、 現 在 NISA が 参 考 に な る と 思 わ れ る 。
NISA の 利 用 状 況 は 、 金 融 庁 「 NISA 口 座 の 開 設 利 用 状 況 」( 平 成 27 年 3 月 現 在 )
に よ る と 、 買 付 額 は 2 兆 9,154 円 で NISA 全 買 付 額 の 50% を 占 め て い る が 、 20
才 代・30 才 代 の 買 付 額 は 4,523 億 円 余 り で 全 体 の 10.2% に し か な ら な い が 、金
20
額 面 で は 順 調 に 増 加 し て い る 。一 方 、NISA の 野 村 総 合 研 究 所 の「 NISA の 利 用 実
態 調 査 ( 第 5 回 )」 に よ る と NISA 口 座 を 開 設 後 に 金 融 機 関 を 変 更 し た し た い と
いう希望があり、そのなかでネット証券の人気は高い。一般証券会社での口座
開設者の不満に「手数料が高い」また一般銀行の不満に「商品の品揃えがいま
いちだから」といった理由がある。
25
今後雇用制度の変化による退職金制度や企業年金の変化、確定拠出年金型が
増える傾向等、公的年金問題と相まって個人資産形成が大きな課題になる。 し
かしながら、最初投資信託を買おうとするときに何を選べばよいかわからない
28
ため、対面型証券会社あるいは一般銀行に相談し、ある程度慣れた段階でネッ
ト 証 券 に う つ る こ と が 先 の NISA の 野 村 総 合 研 究 所 の 調 査 か ら も 考 え ら れ る 。
インターネット証券会社は利用者の投資信託選びのサポートをするツールを
工夫する必要がある。サイトでの初心者向けコンテンツや、目当てのファンド
5
が探せる検索機能、投資スタンスにあったコンテンツ、個人ポートフォリオの
分析・診断機能等、インターネットになじんでいる若い層を投資信託に誘導す
る機能をもって、ファンド数を多く持つ利点を生かしていくことが一層必要と
される
10
図 3-8
投資信託取り扱いファンド数
インターネット証券会社
対面 証券会社
SBI証券
カブドットコム
楽天証券 マネックス証券
野村証券 SMBC日興 大和証券
国内株式
372
146
332
145
117
130
68
国内債券
36
21
38
20
9
25
6
国内REIT
34
17
31
15
18
11
8
国際株式
501
181
475
240
201
206
108
国際債券
654
232
590
237
279
204
109
93
48
81
52
52
31
18
252
79
247
81
59
131
30
コモディティ
24
9
19
15
12
6
7
ヘッジファンド
19
3
17
10
11
9
3
ブル・ベア
26
9
12
13
39
4
8
2011
745
1842
828
797
757
365
国際REIT
バランス型
計
モーニングスター検索機能にて集計(2015年10月)
出 典 : モ ー ニ ン グ ス タ ー http://www.morningstar.co.jp/FundData/DetailSearch.do
(2015/10/10 最 終 作 成 )
15
第 4 章.
4-1.
議論
公募株式追加型投資信託における短期化の問題点
金 子 久 (2003)は 、 ま ず 公 募 契 約 型 の う ち 追 加 型 株 式 投 信 に 着 目 し て い る 。 そ
20
の理由としては、投資信託協会などの資料から金額ベースを見て 9 割程度を個
人投資家が保有するものだと推定しているためだと述べている。
29
また、追加型株式投資信託は、株式売買とは異なり、投資家から見れば、投
資信託の購入と売却にあたる設定額・解約額は一般的に同金額にはならないと
している。ここで、予想投資収益率は直近の投資対象資産の価格変化率とほぼ
比例していると考えている。それにしたがって次のように考察する。
5
通常の場合としては、個々の投資信託の設定・解約は、投資家の予 想投資収
益率が高い時期には、設定額が増えると同時に、解約は減る。 逆に、予想収益
率が低い時期には、設定が減るとともに解約額が増えると想定される。 さらに
いえば、保有している投資信託の価格が上がって、利益が出ているときには、
早めに売却して利益を確定して、逆に価格が下がって、損失が出ているときに
10
は、損失が出ているときには、損失の確定を先送りして保有し続ける。
し か し 、 図 4-1、 野 村 総 合 研 究 所 NRI-FPI の 国 内 株 式 ・ 一 般 の パ フ ォ ー マ ン
スと購入額・売却額の変化を表す図からは、次のような状況となっている。
図 4-1
設定額と解約額と純資産の比較
15
出 典 : 個 人 投 資 家 の 投 資 行 動 と 普 及 へ の 展 望 ( 2015/9/15 ア ク セ ス )
< http://www.saa.or.jp/journal/prize/pdf/kaneko.pdf >
30
IT バ ブ ル 時 に お い て 、予 想 投 資 収 益 率 が 高 い 時 期 に は 設 定 額 が 増 え る と と も
に解約が増えている。投資収益率が低い時期には、設定額が減るとともに解約
額が減っている。つまり、個人投資家が必ずしも合理的な行動をとっていない
ことわかる。そこで、不合理性が生じる原因として、 その構造要因を考えるこ
5
とした。それは個人投資家、販売会社、運用会社の関係性に潜んでいるのでは
ないかと考えた。
予想投資収益率が高くなるときに、家計の資産が増加するとともに個人投資
家の投資活動を高めて、保有投信ファンドを解約して、新たに買い換えるとい
う投資行動が起こるのではないかと考えた。
10
よ っ て 、議 題 1 は 、景 気 が 良 く な る こ と で 、 さ ら な る 投 資 を す る た め の 買 い
替 え 、新 商 品 が 多 く な り 、日 本 の 投資 信 託 の 短 期 化 を 招 く 。景 気 が 良くな る こ
とで、家計の富が増え、資産効果が働き、さらなる投資をするために買い替え
を行う。また、運用会社は次々と新商品の本数を増やすことで、消費者の購買
意欲を高めて、投資金額を増すことを狙いとする。このように、投資家が買い
15
替えを行い、一方で新商品を増やすというところに日本の投資信託の短期化の
問題があるのではないかと考えられる。
4-2.投 資 信 託 に お け る 対 面 証 券 の 問 題 点
20
朝 倉 (2011)に よ れ ば 、 主 要 な 対 面 会 社 と ネ ッ ト 証 券 会 社 の 投 資 信 託 関 連 の 手
数 料 の 内 訳 の 中 で 、 投 資 信 託 販 売 手 数 料 に 着 目 し た 。 図 3-3 の よ う に 、 対 面 証
券 と し て 野 村 証 券 と SMBC 日 興 証 券 が 挙 げ ら れ て い る 。そ れ ぞ れ の 全 体 に 対 す る
手 数 料 の 構 成 比 は 、野 村 証 券 が 77.81%、SMBC 日 興 証 券 が 70.90%と な っ て い る 。
そ れ に 対 し て 、 ネ ッ ト 証 券 の 具 体 例 と し て SBI 証 券 、 マ ネ ッ ク ス が 挙 げ ら れ て
25
い る 。 同 様 に み た と き に 、 SBI 証 券 は 、 46.34%で 、 マ ネ ッ ク ス は 30.55%と な っ
ている。対面証券とネット証券を比較したときに、明らかに、ネット証券の方
が投資信託の販売手数料が低くなっている。また、日本証券業協会によれば、
ネット取引の口座数等に着目したときに、年々増加していることが 先に示した
図 3-4 で 明 ら か で あ る 。平 成 20 年 か ら 平 成 27 年 度 に か け て 1353 口 座 か ら 2088
30
口座まで伸びている。
31
大 木 (2014)の レ ポ ー ト に よ れ ば 、 投 信 市 場 の 動 向 を み た と き に 、 公 募 投 信 の
純資産残高のシェアにおいて、証券会社シェアの上昇が続いており、証券会社
が相場変動のある金融商品に長けており、 また銀行が証券子会社チャネルの活
用を、一層進めてきているとしている。
5
よ っ て 、 [議 題 2]と し て ネ ッ ト 証 券 の 投 資 信 託 の 規 模 が 拡 大 す れ ば 、 対 面 証
券に対して競争に打ち勝つことができる と設定する。
第 5章
回帰式
10
5-1.公 募 株 式 追 加 型 投 資 信 託 に お け る 短 期 化 の 回 帰 式
先 の [議 題 1 ]は 、景 気 が 良 く な る こ と で 、さ ら な る 投 資 を す る た め の 買 い 替
え 、新 商 品 が 多 く な り 、日 本 の 投 資 信 託 の 短 期 化 を 招 く 。景 気 が 良く なる こ と
15
で、家計の富が増え、資産効果が働き、さらなる投資をするために買い替えを
行う。運用会社は次々と新商品の本数を増やすことで、消費者の購買意欲を高
めて、投資金額を増すことが可能になる。ここに、日本の投資信託が短期化す
る要因あるのではないかと考え、そのことについて、実証的に分析をする。
議題 1 において、回帰式を立てるにあたって補足 をする。投資家が投資をす
20
る際には、投資信託を解約して、買い替えを行い、新たにファンドを購入して
設定額を増やす。そのため、被説明変数として、解約率、設定率をおいた。さ
らに、資金流入額と流出額の差額として、解約額・償還額と設定額の差を表し
た 資 金 増 減 額 (NET)を み る 。資 金 増 減 額 は 、新 規 に 入 っ て き た 合 計 額 の 増 減 を 表
すため重要な指標となる。
25
議題 1 のモデル式は以下のように表す。
解 約 率 = TOPIX β 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 運 用 増 減 率 β 3
設 定 率 = TOPIX β 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 運 用 増 減 率 β 3 + 1 フ ァ ン ド 当 た り の 純 資 産 β 4
NET= TOPIXβ 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 1 フ ァ ン ド 当 た り の 純 資 産 β 4
30
32
説明変数について一つずつ説明する。まず、一つ目として 、景気が良くなる
指 標 と し て TOPIX が 代 理 変 数 と し て 挙 げ ら れ る 。 TOPIX は 、 国 内 株 の 代 表 的 な
インデックスであり、ファンドの利回り向上のためには大事な指標である。
TOPIX が 上 昇 す る こ と に よ っ て 、 所 得 が 増 え る に つ れ 、 今 も っ て い る 金 融 商 品
5
を解約して新しい金融商品に手を出そうとする。
二つ目として、家計の富と資産効果をみるにあたっての代理変数として、家
計資産額をあげることができる。インターネット取引の普及 等の取引手法の多
様化で、売買代金回転率が高くなる。
三つ目として、運用増減率を説明変数としておく。運用増減率は、投資信託
10
のファンドを運用した後に入ってくる金額である。
運用増減率が高くなるこ
とは、ファンドの運用による結果で、運用の巧拙が現れているため、 個人投資
家はその結果に反応するものと考えられる。 そのため、説明変数として、運用
増減率をおいた。被説明変数を解約率、設定率とおいたときには、説明変数に
運 用 増 減 率 を お い た 。た だ し 、資 金 増 減 額( NET)を 被 説 明 変 数 と お い た と き に
15
は 、運 用 増 減 率 を 説 明 変 数 と し て お か な い 。資 金 増 減 率 (NET)と 運 用 増 減 額 の 合
計 が 、純 資 産 増 減 額 を 示 し て い る 。資 金 増 減 率 (NET)と 運 用 増 減 率 が 連 動 し て い
る 恐 れ が あ る た め に 、非 説 明 変 数 に 資 金 増 減 額 (NET)を 置 い た と き に 、運 用 増 減
額を説明変数としておかないことにした。
四つ目として、1 ファンド当たりの純資産額を説明変数とした。これは次々
20
と新商品を投入して、投資信託の小規模化 の要因とその影響を考えるために変
数 と し た 。 杉 田 (2013)に よ る と 、 フ ァ ン ド 1 本 当 た り の 規 模 の 拡 大 に よ る コ ス
ト削減効果について述べられている。この中で、日米の比較がなされている。
表 5-1 は 杉 田 浩 治 が 米 国 投 資 信 託 協 会 と 日 本 の 投 資 信 託 協 会 の デ ー タ を 基 づ い
て、作った日本とアメリカの純資産残高の比較である。
25
表 5-1
純資産残高
日米純資産残高比較
ファ ンド
数
1 ファンド当た
りの純資産残高
年間の新ファン
ド設定本数
米国
901.49 兆 円
7,637
1180 億 円
580
日本
57.331 兆 円
4,196
137 億 円
506
出 典 : 米 国 ICI,日 本 の 投 信 協 会 の デ ー タ に 基 づ き 杉 田 浩 治 作 成 ( 米 国 の 純 資 産 残 高 は 、 2011 年 末 の 1 ド ル =77.57 ド ル )
33
表 5-1 に よ る と 、米 国 の 純 資 産 額 が 901.49 兆 円 で 、フ ァ ン ド 数 7637、1 フ ァ
ン ド 当 た り の 金 額 が 1180 億 円 、年 間 の 新 フ ァ ン ド 設 定 本 数 580 で あ る の に 対 し
て 、 日 本 は 、 57.33 兆 円 、 フ ァ ン ド 数 4196、 1 フ ァ ン ド 当 た り の 金 額 が 137 億
円 、 年 間 の 新 フ ァ ン ド 設 定 本 数 が 506 と な っ て い る 。 1 フ ァ ン ド 当 た り の 金 額
5
が 、米 国 は 日 本 の 約 10 倍 で あ る の に 、年 間 の 新 フ ァ ン ド 設 定 本 数 は 大 差 が な い
ことから、日本では特に 1 ファンド当たりの純資産額が小規模化している事態
になっていると考えられる。ファンド数を削減して、 1 本当たりの規模の拡大
をして米国等との競争力強化につながるといえる。そのため、ファンドの規模
として、1 ファンド当たりの純資産を説明変数の代理変数としておいた。
10
以上の説明変数をおき、3 つの回帰式をたてて、分析する。
5-2.ネ ッ ト 証 券 に お け る 回 帰 式
ネット証券における投資信託の規模が拡大すれば、結果的に、ネット証券の
15
収益率があがり、対面証券に対する競争力を強化できる。
そのため、まずネット証券の販売会社における受入手数料に着目した。主要
な販売会社の楽天証券、野村証券の二つの損益計算書において、営業収益に着
目 し よ う と し た が 、営 業 収 益 は 、受 入 手 数 料 、ト レ ー デ ィ ン グ 損 益 、金 融 収 益 、
その他の営業収益と細かく分類されている。そのため、この営業収益の中で、
20
営業収益の中の割合で過半数をしめている受入手数料を、ネット証券の収益の
投資信託における代理変数としておいた。
受入手数料の内訳のうち、募集取扱手数料は、投資信託の販売が市場の環境
の方向性に左右されやすい特性をもっているため、預かり資産の重視をするよ
う に な っ た 。 大 木 (2015)に よ れ ば 、 受 入 手 数 料 は 、 投 信 の 預 か り 資 産 の 代 行 手
25
数 料 だ け で な く 、M& A フ ィ ー や 子 会 社 の ア セ ッ ト マ ネ ジ メ ン ト 会 社 収 益 等 も 含
まれているとある。そして、近時では株価の上昇や円安等による時価増大だけ
でなく、ストック重視の営業戦略の実践を通じて、預かり資産増大を通じた代
行手数料の増加も相応に寄与していると考えられていることから、受入手数料
の重要性がわかる。
30
さ ら に 、対 面 証 券 と ネ ッ ト 証 券 を 比 較 す る た め に 、対 面 証 券 の 代 表 的 な 例 と し
34
ての野村証券と、ネット証券の代表例として楽天 証券のそれぞれの受入手数料
を被説明変数として 2 つ回帰式を設定する。
議題 2 のモデル式を以下のように表す。
5
野 村 証 券 の 受 入 手 数 料 =人 件 費 𝛽1+物 件 費 𝛽2+信 託 報 酬 𝛽3+販 売 手 数 料 𝛽4
+純 資 産 残 高 𝛽5+口 座 数 𝛽6
楽 天 の 受 入 手 数 料 =人 件 費 𝛽1+物 件 費 𝛽2+信 託 報 酬 𝛽3+販 売 手 数 料 𝛽4
+純 資 産 残 高 𝛽5+口 座 数 𝛽6
10
それぞれの説明変数について説明していく。
一つ目の説明変数としては、人件費を証券会社におけるコストの代理変数と
おく。証券会社を運営する際にはそこに勤務する社員等の人件費や固定費等が
かかる。しかし、対面証券では営業担当が顧客に対応するが、ネット証券の運
15
営ではその必要がなく、その結果対面証券 と比較して、人を雇う費用がかから
な い は ず と 考 え ら れ る 。ま た 、こ の こ と は 証 券 会 社 を 利 用 す る 顧 客 に と っ て も 、
安価な手数料の実現というメリットをもたらす。
二つ目としては、販売・一般管理費(人件費を除く)を説明変数におく。大
木 (2014)の レ ポ ー ト に よ れ ば 、 大 手 証 券 会 社 で は 、 事 業 再 構 築 に よ る 不 採 算 部
20
門の縮小や販管費の削減を進めた後に、市場環境が好転を受けて大幅に改善し
た と あ る 。ま た 、二 上 (2013)に よ れ ば 、自 動 受 発 注 を 可 能 と す る 売 買 シ ス テ ム 、
勘定系・情報系システムのたえざる更新・メンテナンスが必要で、事務費や減
価償却費などのシステム関連費用が相対的にかさばるとある。よって、販管費
から人件費を除いたその他のコストがどのくらいかかったのかをみる。
25
三つ目の説明変数として「その他の受入手数料」を説明変数としておく。大
木 (2015)に よ る と 、 投 信 の 預 か り 代 行 手 数 料 の こ と が 「 そ の 他 の 受 入 手 数 料 」
で あ り 、 こ れ が 信 託 報 酬 を さ し て い る と あ る 。 ま た 、 朝 倉 (2011)に よ れ ば 、 信
託報酬とは、信託財産の純資産総額に年率を乗じて得た額として出される。投
信のファンド残高が増えても、信託報酬の軽減はない。そのため、投信の全体
30
の販売会社の中での割合としてみることにする。
35
四つ目の説明変数は、ネット証券の手数料の自由化がインターネットの自由
化とともに普及したことから販売手数料を説明変数として おける。しかし、販
売 手 数 料 の デ ー タ を 10 年 分 と る こ と が 難 し か っ た た め 、販 売 手 数 料 の 代 理 変 数
として、
「 投 信 販 売 等 の 募 集 取 扱 手 数 料 」を お く 。二 上 (2013)に よ れ ば 、ネ ッ ト
5
証券は、外務員の勧誘・営業行為を省略して、インターネットを通じて、注文
を受けつけることで手数料の大幅な割引を可能にしたとある。つまり、外務員
が顧客にアドバイスを与えて、勧誘して注文をせずに、いつでもアクセスでき
るように顧客の欲する銘柄の売買注文をいつでも行える便宜さがある。
五つ目の説明変数として純資産残高をみる。これは販売会社の規模の大きさ
10
見るにあたっての指標として重要になるためだ。ネット証券の投信の規模を見
るうえで、どれだけの資産を持っているか がわかる変数としておいた。
六つ目の説明変数としての口座数は、その販売会社の口座数がどのくらいの
割合であるのかを示している。口座数も規模を表すおおきな指標とする。
以上の六つの説明変数をもとに二つの回帰式を立てることにした。
15
5-3.
データ
今回、分析するにあたってのデータを議論 1 においては、投資信託協会の統
計 に お け る 公 募 投 資 信 託 の 資 金 増 減 状 況 (実 額 )よ り 株 式 追 加 型 投 信 の 分 類 内 訳
20
をデータとして扱った。
日本の法律に基づいて設定・運用される 投資信託を対象に当協会の会員であ
る投資信託委託会社から基礎データを収集して、各種統計を作成している。 株
式追加型投信の設定額、解約額、運増減額の直近のデータが 公開されており、
ここから入手した。さらに、説明変数としての家計資産額においては、金融中
25
央委員会からデータを抽出した。1 ファンド当たりの純資産額は、株式追加型
投 信 の 純 資 産 額 を フ ァ ン ド 数 で 割 っ た も の で あ る 。過 去 直 近 の 1991 年 の 1 月 か
ら 2015 年 の 8 月 ま で の 解 約 率 、設 定 率 、NET と そ の ほ か の 説 明 変 数 を 月 次 で 投
資 信 託 協 会 の 公 募 投 資 信 託 の 資 金 増 減 状 況 (実 額 )株 式 追 加 型 投 信 の 分 類 内 訳 よ
り 291 件 の デ ー タ か ら 分 析 を 行 う こ と に し た 。
30
議題 2 のネット証券の投資信託に関するデータは、対面証券の代表的な会社
36
である野村証券とネット証券の代表的な会社である楽天を例に説明する。それ
ぞれの会社の損益計算書を参考にして、人件費や販売・一般管理費(人件費を
除 く )や 募 集・売 出・売 付 け 勧 誘 取 扱 い 手 数 料 、そ の 他 の 受 入 手 数 料 、口 座 数 、
純 資 産 残 高 を と っ た 。楽 天 証 券 株 式 会 社 の 決 算 短 信 よ り 、2003 年 6 月 か ら 2015
5
年 3 月 ま で の 四 半 期 ご と の 48 件 の デ ー タ を 抽 出 し た 。さ ら に 、ネ ッ ト 証 券 の 投
資 信 託 と 比 較 す る た め に 、野 村 証 券 の 有 価 証 券 報 告 書 よ り 2004 年 6 月 か ら 2015
年 3 月までの四半期ごとのデータを抽出した。
第 6章
実証分析の結果
10
6-1.公 募 株 式 追 加 型 投 資 信 託 に お け る 短 期 化 の 分 析 結 果
モデル式 1 を再度表すと、
解 約 率 =TOPIX β 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 運 用 増 減 率 β 3
15
設 定 率 = TOPIX β 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 運 用 増 減 率 β 3 + 1 フ ァ ン ド 当 た り の 純 資 産 β 4
NET=TOPIXβ 1 + 家 計 資 産 額 β 2 + 1 フ ァ ン ド 当 た り の 純 資 産 β 4
それぞれの回帰分析の結果は以下となる。
20
ここから、それぞれの被説明変数における説明変数 について一つずつみてい
く 。 ま ず 、 被 説 明 変 数 が 解 約 率 の と き に お い て は 、 運 用 増 減 率 、 TOPIX の 係 数
は正の値であり、家計の資産額の係数は、負の値であるが、 t 値はいずれも有
意 で あ る 。 こ の 結 果 か ら 、 TOPIX の 指 標 が 高 く な れ ば 、 解 約 率 が 高 ま っ て い る
ことがわかる。
被説明変数 : 解約率
係数
切片
0.048007
運用額増減率
0.172186 ***
TOPIX
2.12E-05 ***
家計資産額
-2.4E-05 ***
25
補正 R2
0.266566
観測数
291
***は有意1%、**は有意5%を示す
37
t
3.245123
5.930222
4.806503
-3.0554
被説明変数 : 設定率
切片
運用額増減率
1ファンド当たり純資産
TOPIX
家計資産額
係数
-0.0087755
0.07601882
-1.8319277
4.3852E-05
1.9951E-05
***
***
***
**
t
-0.61455
2.872462
-8.03397
10.09097
2.415361
補正 R2
0.37966977
観測数
291
***は有意1%、**は有意5%を示す
被説明変数 : NET
切片
1ファンド当たり純資産
TOPIX
家計資産額
係数
-0.00964
0.183163
6.42E-06
7.4E-06
t
-0.75292
0.890047
1.647245
0.996854
補正 R2
0.00922
観測数
291
***は有意1%、**は有意5%を示す
5
したがって、景気が上がった時に、解約率が高まっている。そして、運用増減
率が上がっているときにも解約率は高く、投資信託を買い替え ていることが予
測できる。しかし、これに対して、家計資産額が増えたときに、解約率が下が
っていることから、家計資産額が増えたときにおいて も、投資信託の解約には
10
直接は結びつかないことがわかる。むしろ 、家計資産額が減った時に、解約率
が上がる恐れがある。
続 い て 、設 定 率 を 被 説 明 変 数 に お い た と き を み る 。運 用 増 減 率 、TOPIX、家 計
資産額の係数は正の値であり、1 ファンド当たりの純資産の係数は負の値にな
っ て い る 。 こ の と き の 、 t 値 は い ず れ も 有 意 で あ る 。 TOPIX の 指 標 が 高 く な り 、
15
家計の資産額が高くなった時において、投資家は投 資信託を積極的に運用して
いることがわかる。1 ファンド当たりの純資産が減ると、設 定率が高くなると
いうことは、投資信託の規模が小さく、ファンドの 本数ばかりが増えていると
推測することができる。投資信託が規模の小さいファンドばかり増えていると
38
いうことは、一つ一つのファンドを長期的に大事にするというよりは、短期的
に乗り換えていることがわかる。
最 後 に 、 資 金 増 減 額 (NET)を 被 説 明 変 数 に お い た と き を み る 。 TOPIX、 家 計 資
産 額 、1 フ ァ ン ド 当 た り の 純 資 産 額 の 係 数 は 、い ず れ も 正 の 値 を 示 し て い る が 、
5
き わ め て 低 い 値 に な っ て い る 。こ の と き の t 値 は い ず れ も 有 意 で は な い 結 果 が
出 て い る 。先 ほ ど も 述 べ た 通 り 、資 金 増 減 額 (NET)は 、設 定 額 と 解 約 額・償 還 額
の差を示す。
景 気 が 良 く な っ た こ と で 、 TOPIX の 指 標 が 高 く な り 、 家 計 資 産 額 が 増 え て 、
資産効果が働いたときにおいて資金の流出入の差の増えていると必ずしもいえ
10
な い 。資 金 増 減 額 (NET)は 、解 約 額 と 設 定 額 で 打 ち 消 し あ う た め 、資 金 の 流 出 入
の差が限りなく小さいため、それを相関で見ることはできない。そのため、証
明することができない。したがって、景気が上がった時に、解約率も設定率も
高 く な っ て い る た め に 、相 関 関 係 が 低 く な っ て い る の で は な い か と 推 測 さ れ る 。
1 ファンド当たりの純資産額が増えると、資金増減額が増えるというのも棄
15
却される。
以上のことをまとめると、景気が良くなった時に、家計の富が増えて、さら
に資産効果が働き、買い替えが行われれていることはわかる。しかし、投資家
の動きは、流出入を見る限り、絶対的相関をもっているとはいえないのも事実
である。
20
6-2 .ネ ッ ト 証 券 に お け る 回 帰 分 析 の 結 果
モデル 2 に関して再度確認する。
25
野 村 の 受 入 手 数 料 =人 件 費 𝛽1+販 売 ・ 一 般 管 理 費( 人 件 費 を 除 く )𝛽2+そ の 他 の
受 入 手 数 料 𝛽3+募 集 ・ 売 出 ・ 売 付 け 勧 誘 取 扱 手 数 料 𝛽4 +純 資 産 残 高 𝛽5+口 座 数 𝛽6
楽 天 の 受 入 手 数 料 =人 件 費 𝛽1+販 売 ・ 一 般 管 理 費( 人 件 費 を 除 く )𝛽2+そ の 他 の
受 入 手 数 料 𝛽3+募 集 ・ 売 出 ・ 売 付 け 勧 誘 取 扱 手 数 料 𝛽4 +純 資 産 残 高 𝛽5+口 座 数 𝛽6
30
39
野村
切片
募集・売出・売り付け勧誘取扱い手数料
その他受入手数料
口座数
純資産残高
人件費
販売・一般管理費(人件費を除く)
補正 R2
観測数
***は有意1%、**は有意5%を示す。
係数
-36331.5
1.020966 ***
1.239965 ***
-0.00054
0.652846 ***
0.330347
0.244039
t
-1.07933
4.2558
2.993674
-1.1182
3.689621
0.620216
0.514295
0.622412
44
楽天証券
切片
募集・売出・売り付け勧誘取扱い手数料
その他受入手数料
口座数
純資産残高
人件費
販売・一般管理費(人件費を除く)
補正 R2
観測数
***は有意1%、**は有意5%を示す。
係数
-588.003
0.636694
0.568452
-0.01059
0.009365
1.273209
-0.16554
***
***
***
***
**
t
-0.3456
3.624929
3.128898
-4.32319
3.227806
2.702921
-0.47484
0.938374
48
5
説 明 変 数 の 関 係 を 一 つ 一 つ み て い く 。野 村 証 券 に 関 し て い え ば 、募 集・売 出 ・
売付け勧誘取扱手数料、その他受入手数料、純資産残高は正の相関関係で、有
意であることがわかる。つまり、信託報酬、販売手数料、純資産残高が正の相
関 で あ る の と 同 様 で あ る 。純 資 産 残 高 の 数 値 が 0.652846 に 対 し て 、信 託 報 酬 と
10
販売手数料の方は、数値が 1 を上回っているために強い正の相関関係であるこ
とがわかる。口座数、人件費、販売・一般管理費(人件費を除く)は有意であ
ることを証明することができなかった。
ここから、やはり対面証券は、手数料かなり依存し ていることがわかる。手
数料の上昇が、収益率を高めることができるという事がわかる。純資産残高、
15
投信の規模が大きくなれば、収益率が高くなることもわかる。
40
次に、楽天証券についての結果を実証分析する。販売・一般管理費(人件費
を除く)以外すべて有意に出た。募集・売出・売付け勧誘取扱手数料とその他
受入手数料が 1 を上回っていない。正の相関ではあるものの、強い相関ではな
いため、ここから、販売手数料や信託報酬に大きく依存していないことがわか
5
る。口座数の係数がマイナスの値に、純資産残高はプラスの相関関係になって
いるため、特に口座数が増えれば、投信の収益は低くなっている。つまり、ネ
ット証券は手数料率を低くして、口座数を 増やしても会社全体としてある程度
の利益額を確保しているが率は低いと思われる。
人件費の係数は正の値であり、人件費が高くなるほど、ネット証券の投信が
10
高くなる。一見これは矛盾しているようだが、ここでは人件費を上回るだけの
収益を稼げていることがわかる。販売・一般管理費(人件費を除く )の係数は
負の値になっており、コストを抑えられているのではないかと推測される 。し
かし、t 値は有意ではないため、これは証明することができない。よって、人
件費を上回るだけのネット証券の収益の高さがわかる。以上から、ネット証券
15
の規模の拡大で、対面証券の規模に対しての競争力を強めることができたと証
明される。
第 7章
施策提言
20
日本の投資信託の短期化、販売会社や運用会社の癒着の問題 を挙げてきた。
そして、ネット証券において手数料が低く、コストがかからないという 論証を
してきたが、ネット証券には現状で大きな問題がある。
ネット証券を利用している利用者層は、金融知識がある経験者が多く、未経
25
験者が加入するには、対面販売でないため不利さがある。今後の若い世代をネ
ット証券に誘因し、投資信託を広めることが課題である。
ネット証券の金融知識がある者にとっては、直接的に株式投資をする利便さ
がネット証券にはある。より長期な運用を望むことの利点を顧客に明らかにす
ることが、投資信託の選択する顧客を増やすのに必要なことである。
30
先 に NISA を 経 験 し た 者 が 、ネ ッ ト 証 券 に 興 味 を も っ て い る こ と が 野 村 総 合 研
41
究 所 の NISA(少 額 投 資 非 課 税 制 度 )の 利 用 実 態 調 査( 第 5 回 )に あ る 。NISA の 買
付 額 の 50% が 投 資 信 託 で あ る こ と 考 え る と 、潜 在 的 に ネ ッ ト 証 券 利 用 者 に 投 資
信託を広めるニーズがあるとも考えられる。
日本の雇用制度が従来と変わりつつあり、退職金や企業年金が大きな影響をう
5
けていることを考えると、若い層のライフプランとして個人の資産形成が重要
な課題になる。
銀行が投資信託の販売ができるようになったとき、給与口座からの「積立 」
が増えるとの期待も考えられたが、実際そうなっていない。ネット証券は扱い
ファンド数が多く、少額から積立ができるという利点があり、若い層を開拓す
10
る工夫をすることがまず第一歩である。
そのためには、初心者向けの運用がわかるサイトを設置して 、ネットで実際の
利用まで入れるようにする。そして、安全度が高い商品で加入者を増やし、そ
の後の顧客の習熟度に応じ選べる段階サイトを用意する。また長期の老後まで
考えるようなサイトを用意するなど、若い人がアクセスするような工夫が必要
15
である。若い人はインターネットを利用する頻度が高いので、そのサイトに織
り込まれる広告を有効に利用する。
また証券会社での投資未経験者には、仮想の経験サイトを用意し、実体験が伴
わないようなリテラシーをあげるような底上げの工夫など、底辺を広げてリス
クと安全さのバランスをとれるようにすることが必要であると考える。
20
おわりに
本稿では、日本の貯蓄を好み、リスク資産を避ける傾向がある中で、長期保
有資産として投資信託が浸透しない現状から論点を展開した。まず 個人金融資
25
産の中で、投資信託の比率は低く、長期保有資産としてまだ定着しておらず買
い替えが多く短期化の傾向があること分析した。また、販売チャネルの実績は
証券会社と金融機関が大半を占め、個人投資家の立場にたった独立系ファイナ
ンシャル・プランナーが育っておらず、個人を安心して投資信託に誘導しきれ
ていない。ここから、投資信託の短期化や対面証券会社とインターネット証券
30
の比較に関しての実証分析を行い、インターネット証券を新しい販売チャネル
42
と位置づけ、その活用方法を考察した。 インターネットを通して、今後の個人
投資家の投資信託を選択する際のサポートをするツールを提言 した。
5
参考文献一覧・URL
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10
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http://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20150915 -1/01.pdf
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15
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45
Fly UP