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電磁波や超音波を使った速度測定装置の製作

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電磁波や超音波を使った速度測定装置の製作
電磁波や超音波を使った速度測定装置の製作
飯 島
昌*・脇 島
1.はじめに
物体の2点間の平均の速さは,その距離を進むの
に要した時間で割ることにより求められる.
そして,
進む距離を微小にし,その区間と,進むのに要した
時間で割ったものを瞬間の速さとみなすことができ
る.身の回りには自動車の速さや投手の投げる球の
速さなど,瞬間の速さを表示する機器があり,普段
からそのような瞬間の速さになれ親しんでいる生徒
にとって,平均の速さから瞬間の速さを求めようと
することに理解をなかなか示さない.そこで,瞬間
の速さを測定する電磁波や超音波1)を用いた方法が
どのような仕組みでできているのか,実際に身近な
ものを使って瞬間の速度測定装置ができないかと考
えた.
図1 波長の違いによる反射
ることができる.周波数 40kHz で波長は 0.85cm と
なり,1cm 程度のものまで測定が可能である.
(2) 電磁波
電磁波は電界と磁界の作る波で,音のように空気
などの,振動を伝えるための媒質はなくても伝搬す
る.光も電磁波の一つである.音と電磁波は波の性
質をもつが,速さの違い以外にいくつか異なる点が
ある.それは,音は密度が小さい物質から密度の大
きな物質に入るとき速くなる.電磁波は真空中がも
っとも速く,物質中では遅くなる.
電磁波も物体の大きさと波長との関係で音と同様
の反射が起きる.電磁波の波長を表1に示す.実験
に使用したマイクロ波の波長は3cm である.
2. 超音波と電磁波
(1) 超音波
音波の中の超音波について説明する.音の速さは
温度に依存し,t℃における速さ(V)は,
V = 331 . 5 + 0 . 6 × t ( m / s ) ・・・(1)
で表される.周波数は可聴波(20Hz~20kHz)より
も高い.物体の速さは,後に述べるドップラー効果
を利用し,音源を物体に載せて物体を動かしたとき
周波数がどう変化するかを調べるか,また,音波を
物体に当てその反射波の周波数の変化を調べること
で知ることができる.ところで,音波を物体に当て
たとき,音波の波長により反射しない場合がある.
例えば,温度 15℃,1kHz の音波の波長(λ)は
・・・(2)
V = f・ λ
によりλ=34(cm)程度となり,この大きさ以下の物
体では音波が反射しない(図1)
.小さい物体に当て
る場合,波長の小さい音波が必要となる.周波数の
高い超音波を用いることで小さい物体でも反射させ
*
**
修**
表1 電磁波の振動数と波長との関係
豊中市立第十一中学校
大阪府教育センター
31
電磁波
振動数 (Hz)
波長
VHF
3×107~3×108
10~1m
マイクロ波
3×108~3×1012
1~10-4m
遠赤外線
3×1012~1013
100~30μm
赤外線
1013~1014
30~3μm
可視光
3.9×1014~7.9×1014
0.77~0.38μm
紫外線
7.9×1014 以下
0.38μm 以下
X線
~3×1017
~1nm
3. ドップラー効果を使った速度測定
(1) ドップラー効果
ある周波数の波が,
物体にあたって反射するとき,
反射する物体が静止していれば反射した波も同じ周
波数で反響するが,物体が移動している場合,その
波は周波数の変調をおこす.例えば,救急車などが
近づいてくるとき,そのサイレンの音が実際の音源
の音より高く聞こえ,横を通り過ぎた後は音が低く
聞こえることがドップラー効果である.周波数f0
の音源がvで観測者に近づいてくる場合と遠ざかる
場合を考える.観測者が聞く周波数fs±は音速をV
とすると,
f S± =
V
・f0
V ±v
いる場合,その物体から反射して返ってくる波はド
ップラー効果により,周波数は変化する.物体の速
度が音速に比べて小さい場合は,発信した波と,反
射した波の間でうなり(ビート)を生じる.2つの
音の周波数(f1とf2)の合成波のビート(Δf)
はΔf=|f1-f2|で表される.たとえば,f1
=340 Hz の波とf2=350 Hz の波の2つの波によ
って得られるビートは,1 秒間に 10 回生じ,これが
うなりとして聞こえる.
そこで今回,既存の 10GHz のマイクロ波発振器で
電磁波を用いた速度測定,低周波発振器と超音波セ
ンサー(40kHz 付近の感度が最大)を用いた速度測
定の2つの方法で,物体の運動が測定できるか実験
を行った.
・・・(3)
で表される.fS+は音源が遠ざかる場合で,周波数
低くなる.fS-は近づく場合で,周波数は高くなる.
観測者が音源に対してuで移動する場合は
f O± =
V ±u
・f0
V
4. 実験
(1) 準備物
実験を行うに当たっては,基準となる速度の分か
る装置が必要である.図3のようなターンテーブル
を用い,
「基準速度計」とした.
・・・(4)
で,fO+は観測者が近づく場合,fO-は観測者が遠
ざかる場合である.
次に,音源からの波が,速度wで動いている物体
に反射して戻ってくる音波の周波数を考える
(図2)
.
物体が速さwで音源に近づく場合に物体の位置で測
定される周波数を求め,さらにその周波数で反射さ
れた波が速さwで観測者に近づいていると考えると,
音の周波数は式(3),(4)から
f =
V +w V
・
・f0
V
V −w
・・・(5)
図3 ターンテーブル
2)
と表わされる .
物体
使用したターンテーブルは,円盤の半径が 25cm
あり,
12Vの直流電流で,
最高速で回転させたとき,
10 回転するのに平均 9.19 秒(10 回の平均値,最大
9.25 秒,最小 9.11 秒)かかった.このことにより,
このターンテーブルの最外周の速度は 1.71 m/s で
ある.
(2) 実験1電磁波(マイクロ波)を用いて
まずマイクロ波送信器(図4)で 10GHz のマイク
ロ波(波長λ=3×10-2m)を出し,それをターンテ
ーブルに取り付けた金属製の反射板に当て,反射し
てきたマイクロ波とのビートをオシロスコープを用
いて測定する.
このとき,
このマイクロ波送信器は,
反射してきた波をマイクロ波ダイオードで同時に受
音源周波数 f0
速さw
反射
観測周波数f
図2 動く物体に反射する音波
(2) うなり(ビート)
電磁波や超音波を物体に向けて発信したとき,そ
の物体が止まっている場合,受信波は送信波と同じ
周波数のものが返ってくる.しかし,物体が動いて
32
信する(図5)
.ドップラー効果の出力の信号を見る
だけで,送信波と受信波とのビートが測定できるも
のである(図6)2).
光(電磁波)のドップラー効果は光速をc,光源と
観測者の相対速度をuとすると,
f± =
1± u / c
1 − (u / c) 2
・f0 ・・・(6)
と表せる.f+は光源と物体がuで近づく場合,f-
は逆に遠ざかる場合である.ビートの周期T,ビー
ト周波数Δfとの関係は物体の速度uがマイクロ波
の速度cより非常に小さいので,式(6)より
Δf =
と近似できる.マイクロ波は高周波のため低周波の
雑音を容易に除けるので,測定が行いやすい.回転
の速度変化が,ビートの変化にも現れている.式(7)
に実験で求めたT=8ms とf0/c=1/λ(λ=3
×10-2m)を代入するとu=1.88m/s となり,前述の
ターンテーブルの最外周の速度 1.71 m/s より 0.17
m/s (9%)の相違はあるが,満足できる値が得られ
た.
(3) 実験2超音波を用いて
超音波送受信ユニット(村田製作所製)と既存の
低周波発振器を用いて,超音波による速度測定装置
を製作した.ビートを測定するという原理は実験1
と同じである.超音波を送信し物体に当て,その反
射を測定した.反射波を集める場合,送信側の出力
が強ければ,反射波も大きくなる.しかし,当たる
物体の大きさや反射率などにもよるが,反射波は普
通減衰して返ってくるので,効率よく反射波を集め,
入力信号を増幅するという二点が重要となる.
①パラボラ 3)アンテナの製作
電波や超音波の送受信において,電波や超音波の
送信の出力を上げたり,受信器の感度をあげたりす
るために,パラボラアンテナが必要となる.パラボ
ラは図7に示すような放物線状の形をした面
(Paraboloid)である.焦点(0,a)の放物線の式は,
図 4 マイクロ波送信機 操作パネル
受信部
図 5 マイクロ波送信機 送受信口
y=
7ms
1
u
≅ 2 f0 ・・・(7)
T
c
1 2
x
4a
・・・(8)
で表される.これを y 軸を中心に回転させたものが
放物面である.身近な物でこのパラボラアンテナを
製作することを考え,市販の傘(直径約 70cm)に,
台所用アルミ板(レンジ周りに油飛散を防ぐもの)
を貼ったものを作成した.これは,このサイズの傘
のカーブが一番その面に近かったからである.
8ms
図6 マイクロ波のビート
33
200k
放物線
1k
0.1μ
0.1μ
out
put
3.0V
P
in
56k
図9 製作した増幅回路
4S,
(受信)MA40S4R(村田製作所製)を用いた.
それに前方向への指向性を高めるため,パラボラを
装着した.また,受信の感度も高めるため,受信側
にもパラボラアンテナを装着した.
回転する反射板は直径 77mm の円形の金属製
(アル
ミニウム製)
の板を真ちゅう棒に取り付けたもので,
高さ 158mm である.これを,ターンテーブルに固定
し,実験1と同様に 12Vで回転させた.また,ター
ンテーブルの回転速度は,誤差を少なくするために
100 回転するときに要した時間と,円周から求めた.
反射板を置いた位置は半径 22.5cm の円周上で,一周
0.92 秒要している.これより回転速度は平均 1.55
m/s となる.観測したビートの例を図 10 に示す.音
速は 345 m/s(室温を 23℃)で T=2.8ms となり,
ターンテーブルの回転速度として,式(7)からv=
1.54 m/s を得た.回転速度を変えビートの周期を測
定すると物体の速度と反比例の関係にあることが分
かる.
(図 11)
.
また,受信した信号をマイク端子を通してコンピ
ュータに取り込んで観測することもできる(波形表
示のソフト使用)
.その波形を図 12 に示す.コンピ
Q
図7 パラボラアンテナの形
焦点距離は 20 cm 前後
であった.しかし,ビ
ニール製の生地にアル
ミニウムフィルムをは
ったものでは,音波を
反射させるには軟らか
く,光などの電磁波を
反射させるには反射率
が不十分であることが
分かり,パラボラアン
テナの材質を金属製に
図8 自作のパラボラ
変更した.光の反射率
の高いものということ
で,ステンレス製ボールと玉杓子をつなげたアンテ
ナを作製し,集音効果をみた(図8)
.このパラボラ
アンテナは傘で作ったものに比べて曲率半径が小さ
いため,焦点が極端に内部に位置するが,集音効果
はよかった.
②増幅回路の製作
実験を行う中で,集音した入力信号の中に,60Hz
の低周波の振動がノイズとして入っていることがビ
ートの測定に大きな障害となった.そこで,回路に
コンデンサーと抵抗をつないで低周波をカットオフ
する回路が必要となった.
次に,低周波をカットオフした上で高周波を増幅
する回路を製作した.増幅回路にはトランジスター
(2SC1815)
を使い,
約 100 倍に入力信号を増幅した.
図9に今回作成した増幅回路図を示す.
使用したのは,空中超音波センサー(送信)MA40S
図 10 ターンテーブル上の反射板のビート
34
10.00
9.00
8.00
T(ms)
7.00
6.00
5.00
4.00
3.00
2.00
1.00
0.00
1
2
3
4
v(m/s)
5
6
7
図 11 ビートの周期と物体の速度との関係
図 14 歩行速度の測定
ュータに取り込む時,高い周波数はカットされ,ビ
ートのみが観測される.
得られたデータをコンピュータに取り込み,波形を
見たものが図 15 である.
対象が大きいので比較的明
確にビートが現れ,その間隔は 3.3ms となった.秒
速 1.31 m/s と求めることができ,時速に換算すれ
ば約 4.7 km/h となる.
8
10ms
図 12 コンピュータに取り込んだ波形
(4) 実験3小さい速度の測定
図 13 に示すように小さいパラボラに超音波の送
信部を,大きいパラボラに受信部をそれぞれ設置し
た.この装置に近づくように歩いた.超音波の反射
を良くし,出力を大きくするために,木の板を持っ
て歩いた(図 14)
.
図 15 歩行時のビート
5.おわりに
ドップラー効果を利用した速度計を製作し,測定
を行った.市販のものは,24.15GHz~24.25GHz の電
磁波を使ったもので,測定範囲が1km,測定可能速
度は時速 48~250 km に及ぶものであり,また,32.8
kHzの超音波を使ったものでは,
測定範囲が13~15 m,
測定可能速度は時速 50~180 km の性能である.製作
した装置は市販のものには及ばないが,原理等を理
解するには大いに役立った.ドップラー効果を使っ
たビートの測定に基づく速度測定については高校の
物理でも深くは取り扱われていない部分であるが,
超音波送信部や受信部のセンサー等は市販されてい
るので,学校でも製作が可能である.今回の実験で
図 13 測定装置の概観
35
測定した速さは秒速にして1m~3mぐらいまでで,
それ以下それ以上になると誤差が大きくなるため増
幅率を上げるなどさらに改良を要することが分かっ
た.
オシロスコープ上で周波数の差(ビートの間隔)
を読み取る誤差が大きく,精度のネックになった.
速度を測る対象の大きさが小さいと,反射波も小
さくなるのでSN比(信号と雑音との割合)が悪く
なる.課題を整理すると,
・速度の早いものの測定には出力を大きくすること
や,入力の効率を高める必要がある.
・計測対象の物体が小さい場合にはSN比が悪い.
・オシロスコープからビートを見る精度が低い.
・当初より装置のサイズが大きくなった.
36
などである.
しかし,この実験を通じて,電気や波動といった
部分への関心を深めることができたことで,今後の
授業の中で生かすことができると思う.
引用・参考文献
1)http://www.hi-net.zaq.ne.jp/ant/NEW/UST
/UST2.htm (2008.1.8)
2)有山 正孝編:基礎物理学選書 24-振動・波動演
習,裳華房(1985)p.157~158
3)阿部 英太郎:物理工学実験 11-マイクロ波技
術,東京大学出版会(1979)p.148
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