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情報と株価形成 (米花稔博士記念号)

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情報と株価形成 (米花稔博士記念号)
Kobe University Repository : Kernel
Title
情報と株価形成(米花稔博士記念号)(The Influence of
Information Change on Stock Price Behavior (Beika
Commemorative Issue))
Author(s)
小野, 二郎
Citation
国民経済雑誌,136(3):94-110
Issue date
1977-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00172141
Create Date: 2017-03-29
情
報
と 株
Ⅰ は
価
形
小
野
じ め
成
郎
に
周知のよ うに,現在株式市場に関 して取上げ られてい る最 も大 きな問題 の 1
つに,株式市場の効率性
(
ef
nci
ency) がある。
すなわち,株式市場は,比較的純粋の競争市場に近い構造を もってお り, 国
民経済におけ る限 られた資金-
したが ってまた,人的物的資源-
を適正に
配分す る横能を果す, または,少な くとも理想的な形においては, そ うい う機
能を果す ことがで きると考え られ るが, そのためには,価格形成が,企業 の将
来の投資機会 と期待利益 とについて利用 しうる情報すべてを完全に反映 して行
なわれ, その資金配分のための シグナル とな らなければな らない。
L
何故な ら,企業が資金調達のために株式を発行す る場合,その株式には 「フ
ェア (
f
ai
r
)」
な価格が与え られていて始めて適切な-
国民経済的にみて-
量 の資金を うることができるし,投資家 もまた,適切な投資選択を行な うこと
ができるか らであ る。
この場合,市場が, いかに うま ぐ情報を適切かつ迅速に処理 して株価に反映
させ るか,その機能を市場効率 とい う。 また, (
1)
株式市場において取引 きされ
る株式の価格が利用 し うる情報すべ てを完全に反映 して形成 され,かつ(
2)
その
株価が新 しい情報 に対 して,即座にあるいは殆ん ど即座に,偏 りのない形で反
1
応す る場合, その株式市場は効率的であると定義 され る。つ ま り,経済全体の
必要か らみて将来成長すべ き企業の株価は高 く形成 され, そのよ うな企業には
1 Dyc
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,1
97
5,p.4.
情 報
と-株 価 形 成
95
ヨ リ多 くの資金が流入 して発展を促す。逆に,将来縮少すべ き企業の株価は低
くな って ヨ リ少ない資金 しか流入 しない。 このよ うに,株式市場が資金の最適
配分機能を果すためには,そ こで形成 され る株価は,常に企業お よびその環境
条件に関す る情報を反映 していなければな らないが,その よ うな市場が効率的
市場 と称 され るのである。
もちろん,経済全体の活動の中には,株式会社が担当 しえない もの, あ るい
は表面的には株式会社が行なっていても, その必要度が予想利益を通 じて株価
に反映 しえない ものがある。 この よ うな,営利原則に基づ く自由な る価格決定
機構の中でその活動を調整す ることので きない経済活動については,政策的措
置な ど,他の調整手段ない しは資金配分手段が必要 となる。 しか し,現在なお,
アメ リカを始め とす るい くつかの先進資本主義国において,株式会社企業がそ
の国民経済磯能の大部分を担当 していることは否定 しえない事実 であ り, そ こ
では,株式市場に上の よ うな ヨ リ積極的な意義づげを与えること, あ るいはそ
の ような ヨ リ積極的な意義づげを もった株式市場を作 り上げてゆ く土とは極め
て重要 である。
ところで, この よ うに効率性を株式市場の情報処理能力 とみ,そ して,それ
が国民経済全体におけ る資金の最適配分に重要な役割 りを果す もの と考える場
令, これは,具体的には株式市場 の情報 システムが どの ように評価 され るべ き
か とい う問題 とも密接 な結びつ きを もって くる。例えば, アメ リカのナス ダッ
NASDAC s
ys
t
e
m)や 日本の クイ ック ・システム (
OUI
CK s
ys
t
e
m)
ク ・システム (
は, コンピュータと高速 データ通信を核 とした,株式に関す る全国的な情報 シ
ステムであるが, この よ うな株価情報 システムまたは株式取引 システムがしたが ってまた, セソ トラル ・マ-ケッ ト・システム (
Ce
nt
r
l Ma
a
r
ke
tSys
t
e
m)
の よ うな,超大型 コンビュ-タに拠 る全国統一市場機構が- 経済的に どのよ
うな メ リッ トを もつか とい うよ うな問題になると,単に大量の取引を迅速に処
理す ることがで きるとい うだけでは評価 しえないのであって,やは り, それが
株式市場の効率性を高め ることに よって, 国民経済全体におけ る資金配分に ど
第 136 巻
96
第
3 号
の よ うに貢献す るか とい う角度か らも検討を加え ることが必要にな るのである。
この よ うな意味 で,株式市場 の効率性 に関す る研究 の手始めに, 本稿 におい
ては, まず会計情報が株式市場において どの よ うに価格形成に反映す るかにつ
いて考察を加えてみたい と思 う。
Ⅰ
Ⅰ 効率的市場仮説と会計情報
2
既にみた よ うに,効率的株式仮説には 3つの形態 の ものがあ る。
(
1) ウィー ク形態 (
we
a
kf
br
m)
。周知 の ランダム ・ウ ォ- クの理論 の レベルで
把 えた株価の情報-の適応性を, ウィー ク形態の効率的市場仮説 とい う。
ランダム ・ウォ- クの理論 とい うのは,時 の経過中に生 じる株価の変化は相
互に独立 であ ることを主張す る。すなわち,株価は, あ る時点では, そ こで利
用 し うる情報すべ てを即時に反映 し, したが って将来 の期待利益に基づ く真実
価値 (
i
nt
r
i
ns
i
cval
ue
)に近い値 を もって形成 され,何等かの新 しい情報が加わ ら
ない限 り現存す る情報だけに よっては, それ以上 の影響を受け ることはない。
つ ぎの時点の真実価値す なわち株価の変化の方 向 とその大 きさとは,新 し くも
た らされ る情報に よってのみ影響を受け るか ら,現在 までの株価 の動 きとは全
く無関係に ランダムな動 きを示す。 と くに,現在の株価は既に過去の連続 した
株価の動 きか ら与 え られ る情報 を も完全に反映 して形成 され てい るか ら,将来
の株価がその過去 の情報-
今 までの株価動 向が示す-
情報に よって動か さ
れ ることはない。 つ ま り,新 しい情報が漸次行 き渡 ってゆ くものであ り, それ
が少 しずつ株価に反映す るもの とすれば,連続的 な株価 の変化は相互依存性を
示すが,株価の情報 に対す る適応 は, 即時かつ同時的に行 なわれ るか ら,連続
的な株価の変化は ランダムにな り,相互に独立である とい うことにな る。
(
2) セ ミ ・ス トロング形態 (
s
e
mi
S
t
r
ong f
or
m)
。 これは,株価は,常に,企業
の情報 の うち,一般に利用可能 な公表 された ものは,すべ て これを同時に織込
んで形成 されてい るとい うことを主張す る。 と くに, 会計情報は, それが何等
2
拙稿 「
効率的市場仮説と会計情報」国民経済雑誌,昭和51年 8月号 ,55-64真金照O
情 報
97
と 株 価 形 成
か の形 で公表 され, そ して, それが何等かの経済的意義を もってい る限 り, 同
時に株価に反映す るか ら,事後的にそれに拠 って分析を進めて も特別な利益は
え られない とす る。
これは極 めて重要 な仮説 の提起 であ る。 とい うのは, 多数の 素 朴 な 投 資 家
(
nai
vei
nve
s
t
o
r
) は,専門的会計知識を もってお らず, その分析方法 も知 らない
か ら, 常に誤 った投資決定を行 な う可能性がある。 また,会計報告 の中には,
そのデ ータを使 う投資家の 自由な解釈 と分析 に委ね られ ている項 目も多 く, 個
々の投資家は, 極めて主観的 な決定を行 なわ ざるをえない ことがあ る。市場が
この よ うな素朴 な投資家の集 団であ るとすれば,会計情報 が発表 され てか ら少
な くとも一定期 間は不適切な株価形成が行 なわれ るはず である。 しか し, セ ミ
・ス トロング形態 の効率的市場仮説は, この見解 とは反対 に,個 々の投資家 の
行動が ど うい うものであれ,市場全体 としては-
まず, 証券 アナ リス トや機
関投資家 の ファン ド・マネ-ジャな どの専 門家が即座に反応 し,一般投資家大
衆が何 も分か らない ままにそれに追従す る とい う形 で-
会計情報を即座に消
化 し, 同時に株価を均衡価格に達せ しめ る機能を有す ると主張す る。株式市場
の効率性 とい う点か らい って も重要 な主張 であ るが,企業会計の在 り方 を考 え
る上 で も看過 しえない問題提起 であ る。
(
3
) ス トロング形態
(
S
t
r
ongf
or
m)
。 これは,株価は公表 されてい ると秘密に
され てい るとを問わず,常に企業に関す るあ らゆ る情報を反映 して形成 され て
い る と主張す るものであ る。資本市場 が完全 な効率性を有す るときには, この
よ うな純粋に理論的 な条件 も成立 し うるであろ うが,現実市場を前提 とす る限
り, 問題は仮説 の完全な成立如何 とい うことではな くて, どの程度 この よ うな
仮説が妥当す るか とい うことにな る。
以上, 3つ の形態 の うち, ウィー ク形態 の効率的市場仮説,す なわ ち ランダ
ム ・ウォー クの理論については,実務的 なテ クニカル ・アナ リシスの立場か ら
は若干 の反論 も存す るか もしれないが,理論上は,既に多 くの実証研究に よっ
てその妥当性が認め られ てい る。長期的 な株価の動 向は別 として,数週間程度
98
第 136 巻
第
3 号
の短期間については, この型の効率的市場仮説は成立す ると考 えてよい。 しか
しなが ら, こl
こでい う情報 とい うのは,市場におけ る過去の株価の動 きに関す
る情報が主である。 もっと一般的に企業に関す る情報 と株価形成 との関係に焦
点を合わせて考察を進め ようとす るわれわれの立場か らは, この仮説は考察対
象か ら外 してもよいであろ う。
また,ス トロング形態 の効率的仮説は,既に述べた よ うに, ある理論を展開
す る上での抽象的仮説 としては重要な存在意義を もつけれ ども,公表 されてい
ない情報を取上げ ることは一般の研究者の立場か らは困難 であるし, また, そ
の成果は限 られた視点か らしか意味を もたないであろ う。 したがって, この形
態の効率的仮説 も,本稿においてほ対象 とは しない。
それ故, ここで検討 しよ うとす るのほ, セ ミ・ス トロング形態の効率的市場
仮説であって, とくに会計情報が株価形成に どの よ うに結びつ くか とい うこと
である。 これについても,既にみた よ うに, ファーマや シ ョールズを始め とす
る多 くの論者が,株式分割,利益報告,新株発行,合併な どいろいろな角度か
3
ら研究を進め, この形態 の効率的仮説の正当性を実証 してい る。
会計情報は企業に関す る情報の中で も代表的な定量的情報 であ り,次節でみ
るようにい くつかの問題を もつ とはいえ,理論的に定式化す ることが可能であ
る。そ して,公開 されてい るか ら,会計情報 と株価 との結びつ きについても実
証的研究を行な うことが可能である。会計情報を対象に積み重ね られた研究成
果は,恐 らく,会計情報そのもののあ り方,その公表 の仕方, したが ってまた,
上に触れた証券情報 システムの機構や全国統一市場の構造について新 しい創造
的提案を もた らす であろ うが,それ と同時に,他の種類 の企業情報 と株式市場
との関係についても重要な示唆を もた らす もの と思われ る。
本稿においては, この ような意味において会計情報を取上げるのであるが,
ただ し, ここでは会計情報 と株価形成 との論理的な逼 りに重点がおかれ る。い
3 Dyc
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n,Downesa
nd Magee;o
p.c
i
i
.
,pp.23- 30,Lor
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y T.Ha
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m
t
i
o
n; The
59-63頁参照。
情 報 と 株 価 形 成
99
わば,本格的実研究のための基礎作業を行なわん とす るものである。
ⅡⅠ 会計上の利益と資本資産価格形成モデル
ポール ・ブラウンが企業会計の測度 と企業証券 リス クの レベル との関係が重
4
要 であると指摘 しているように, まず考えなければな らないのは,市場におい
て形成 され る株価, あるいは株式投資か らえ られ る利益 と会計上 の利益 との論
理的な関係を明 らかに してお くことである。かつては,株価は単純に将来の期
待配当ない し期待利益を一定 の資本化率 で割引 くことに よって求め られた。 ま
た,現在で もウィ トペ ック ・キ ソー ・モデルのように,株価収益率 と,成長率
5
・配当性向 ・利益 の標準偏差 との間の回帰方程式か らなっている評価式がある。
た しかに, この よ うな考え方では会計上 のデータと株価 とは直接的に結びつけ
られ る。 しか し, これ らは,個 々の投資家に とってのその株式の投資価値を表
わす ものであって,市場におけ る株価形成 または株式投資か らの利益 とは一応
切離 して考え られなければな らない。
そ して,現在 この ような点で最 もよく使われてい るのが周知の資本資産価格
形成 モデル または市場 モデルである。
t時点におけ る株価を P"i
+1 時点における株価を Pl+1,その値において
投資家が取得す る配当をβとす ると,株式投資か らえ られ る 1 ドル当た り利益
Rは ,
R=
Pl
+D
P,
PL+1
l
(1)
で表われ る。
この別 ま確率変数 であ り,その分散は投資 リス クを表わす と考え られ るo R
の期待値
E(
R) ち,その分散 6
2
(
R)も各株式に よって異なるが,各投資家は,
その資金をいろいろな株式に分散投資 してポー トフォ リオを作 り一定の
E(
R)
4 Ba
l
l
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1
9
6
9,p・31
5参照Q
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p・c
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・
,p・1
3
0参照.
1
0
0
第 136 巻
第
3 号
に対 して C2
(
A) を最小にす るよ うに, または一定 の 62
(
R)に対 して E(
ゑ)を
最大にす るよ うに行動す るであろ う。分散最小化基準を とると,
Mi
ni
mi
z
e6
2(
Rp) (
x再 まi株式に対す る投下資金比)
(2)
Xi
p
i
-1
,
2
,
・
・
.
,n
ただ し,
吉l
X
I
P
E(
Rl
)=E(
R
a
ax
l
p
=1
p)
の制約条件を被 る。E(
Rp) は一定 レベルの期待利益 である。
R)平面におい
周知 の ように, この有効 ポー トフ ォ 1
)オの集合は,E(
R)-q(
て,上方に凸な カーヴを措 くが,それ と投資家効用 の無差別曲線 (
下方に凸)
との接点が, そ の投資家に とっての最適 ポー トフ ォ リオを示す。
ところで, ここまでは危険資産すなわ ち株式のみか らポー トフ ォ リオの こと
であ るが, これに無危険資産 (
r
i
s
kf
r
e
ea
s
s
e
t
)
た, 固定利子証券-
国債 の よ うな元本を保証 され
を導入す ると, 有効 ポー トフ ォ リオは,つ ぎの直線上に
刺
位置す ることにな る。ただ し, Rfは無危険資産か らの 1ドル当た り利益 (
RM) は株式のみのポ
子率)
,E(
RM) は株式 のみ ポー トフ ォ リオか らの利益, q(
ー トフォ リオの利益の標準偏差 である。
E(
Rr
)-Rf+〔
E(
RMト Rf
〕埜
o
r
(
RM)
(5)
この直線上 のポ - トフォ リオは,無危険資産を導入 した場合 の有効 ポ ー トフ
ォ リオを表わす。 ところで, 当初 この よ うな直線は, 各投資家について個 々に
考 え られ るが, それぞれの投資家が合理的に-
一定 の利益に対 して リス クを
最小にす るよ うに, または一定 の リス クに対 して利益を最大にす る ように行動す るもの とすれば,市場 では株価 の騰落を通 じて調整 が行なわれ, 結局均
衡状態 では株式す なわ ち危険資産 の最適 ポ- トフ ォ リオは,市場に存在す るす
べ ての株式か ら構成 され る ことにな り,各株式は,株式全体 の市場価値総額に
情 報
と 株 価 形 成
1
0
1
対す る当該株式の市場価値総額 の比で もって,そのポー トフォリオに組入れ ら
れ る。つ ま り,危険資産の最適なポー トフォ 1
)オは,市場活動を通 じて,均衡
状態 では 1つ与え られ ることになる。 これを市場 ポー トフォ1
)オ とい う。
それ故 また,無危険資産を導入 した場合の上の直線 も, この市場 ポー トフォ
リオに対 して 1つ成立す ることになるが, これを資本市場直線 (
c
a
pi
t
alma
r
ke
t
l
i
ne
)と称す る。全投資家に対 して期待利益 と リス クとの関係を示す,いわば 1
つ の投資機会直線 である。
そ して, この資本市場直線は,上 の危険資産の有効 フロンティアと,市場 ポ
ー トフォ リオの点で接す るか ら,そ こに含め られ るべ き個別株式 iの期待利益
を E(
Rl
),その市場 ポー トフォ リオの利益 との共分散を cov(
Rl
・
,
RM) とす る
と,
E(
Rl
)
-Rf+〔
E(
RM)-Rf
〕C
O
V(
R"RM)
6
2(
RM)
-Rf+〔
E(
RM)-Rf
〕
βi
M
(6)
な る関係がえ られ る。 これを証券市場直線 (
s
e
c
ur
i
t
yma
r
ke
tl
i
ne
) といい,個別
証券の期待利益 とシステマテ ィック ・リス クとの関係を表わす。
個別株式 したが ってまた個別企業の問題を取上げ るときには,上の(
6)
式に よ
らなければな らない。
システマティック ・リスクとい うのは,上式か ら明 らかな ように,Riの リス
クの うち市場 の利益
RM の変化に結びついた ものである。例えば,上式(
6
)
にお
)オを入れ ると c
ov(
RM,
RM) -02
いて,個別証券 iの代わ りに市場 ポー トフォ T
(
RM) であるか ら βLM は 1,E(
R.
・
)-E(
RM) とな る。式(
6)
は,市場 ポー トフォ
リオを基盤 として,それ との比較において期待利益 と リス クとの関係を表わ し
てい る。そ して, システマティック ・リス ク以外の部分の リス クを非 システマ
6)
は,個別証券の期待利益が無危険証券
テ ィック ・リス クとい う。つ ま り, 求 (
の利益 Rf と 1
)ス ク ・プ レミアムとか らな ることを示すが,実はその リス クと
い うのは,証券 iの リス ク全体ではな くて,市場 と結びついた部分の リス クの
1
02
第 136 巻
第
3 号
6
みを意味 してい るのである。
このことは,上 の式(
6)
とシャ-プの市場 モデル
(
m ar
ketmodel
) との関係を考
えれば ヨリ明らかにな る。市場モデル とい うのは,個別株式の利益 と市場 ポー
トフォ リオの利益 との問には リニアな関係があるとい う仮説を定式化 した もの
であって,
R.
-α+
β
RM +E" i
-1
,2
,
・
・
・
,n
(7)
α とβとは,その株式 iに個有のパ ラメータである。 E
iは,撹乱項であって確
e
i
)-0
,
c
ov(
e
i
,
RM) -0 であるO
率変数をな し,E(
ところで,上式か ら Ri と RM との共分散を求めてみ ると,
c
o
v(
Ri
,
RM
)-E(
RrE(
Rl
)
)(
RM-E(
RM
)
)
-E〔α+β
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rE(
α+β
RM+eJ〕〔
(
RM-E(
RM
)
)
-E〔
〈
β(
RM-E(
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)
)
+e
rE(
E
i
)
∼(
RM-E(
RM
)
)
〕
-0(R +COV(
E
"R
-β62(RM)
β
2
M)
M)
,
RM
)
∴β
-cov(Ri
となって,求 (
6)
におけ る
M と一致す る。
βB
1-β
)
Rf とす ると,
したがって,α-(
Ri
-(
1-β
)
Rf+β
RM+6
.
-(
1
-P
L
・
M
)
Rf+I
M
RM+E
L
P
∴ E(
Ri
)-(1-β
l
M
)
Rf+E(
RM
)
β
,
M
-Rf+〔
E(
RM
)-Rf
〕
β
▲
M
7
式(
6)
と(
7)
とは一致す ることになる。つ ま り,個別証券の期待利益は,市場 ポ
ー トフォ1
)オの利益 と l
)ニアな関係にあるが,それ と無危険利益 との差が シス
6 以上の説明は, シャープの資本資産価格形成モデルの理論の概略である。細かい点については拙
0
年 3月号,52-6
5
頁,お よび 「
証券の 1
)スクと利
稿 「
資本市場理論の基礎」国民経済雑誌,昭和5
2年 4月号,1
02-11
6
頁参照。
益」国民経済雑誌,昭和5
7 Fama,Euge
neF.
;Ri
s
k,Re
t
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n and Equi
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n
a
lo
fFi
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c
e
,
Ma
r
c
h1
96
8,pp・3
5-3
7参照。
情 報
と 株 価 形 成
1
0
3
テマティック ・リス クに比例 してい ることが確認 され うるのである。逆にいえ
ば,この ことは,非 システマテ ィック ・リスクは,それが如何に大 きなものであ
って もら-
ポ- トフォ リオを作 ることに よって消去 して しま うことができるか
個 々の株式 の期待利益を決定す る要因にはな らない ことを意味 してい る。
(
1
) 資本市場の効率性を測 定す るときには,上で述べてきたモデルの論理過
程がその まま検証に用い られ ることも少な くない。すなわち,上のモデルの成
立を現実の市場において常に確認す ることができれば,その市場は効率的 とい
え るわけである。 しか し,理論的展開に当た っては,-見極めて抽象的にみえ
る仮説が設け られてい る。そ こで, 間接的ではあるが,その仮説…
例えば無
危険資産が現実に存在す るか否か, また期待利益 と分散 (
または標準偏差) と
の 2つのパ ラメータのみで投資行動を説 明 しうるか どうか, な ど-
を現実の
データに よって検証す ることに よって資本資産価格形成 モデルが現実に成立 し
うるか否かを確め ようとす る。仮説の成立がすべて実証できれば, モデルは成
立 しうるか ら,資本市場は効率的 とい うことになるし,逆に否定 されればモデ
8
ルは成立 しえず, したが って現実の市場は非効率だ とい うのである。
(
2) また,求(
7)
に掲げた市場 モデルを用い,各企業について回帰直線を求め,
それに よって検討を行な う方法 もある。例えば,会計情報や会計処理方式の変
化が生 じる場合, その時点の前後において式(
7)
の最後の撹乱項 e
iまたは残差の
Ⅳ株式についての平均 とその累積値を求め る。 この累積値,つ ま り市場におけ
る異常利益
(
abnorm alper
f
わr
m ance)
の総計が会計情報の変更時点以前か ら認識
されていて変更時点以後においてほ増大 しな くなるとか, あるいはまた,変更
時点直後において認識 されても, その後は全 く増減な しとかい うときには,市
9
場 の情報処理能力は完全であ り,効率的市場仮説は成立す るとい うことになる。
もちえん, その会計情報や会計処理方式の変化が企業の経済的本質に何等 の影
8 Dyc
n a
k
n,Do
wne
sandMagee;o
p・c
i
l
・
,pp・53-7
6 参照。
9 例えば,Bl
al
,Ra
y;Cha
ngesi
n Ac
c
ount
i
ngTe
c
hni
que
sa
n d St
oc
k Pr
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l Re
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i
ng;Se
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97
2,Jo
u
r
na
lo
fAC
C
O
u
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i
n
gRe
s
e
a
r
c
h,pp.8- 1
8,
および Dyckman,Downes
p.c
i
E
.
,pp.22-3
0.参照。
n dMagee;o
a
1
0
4
第 136 巻
第
3 号
響を も及ぼ さない ものであれば, 効率市場においては,上 の残差 も, そ の累積
1)
のテス トでは会計情報 その ものには余 り関係がな
値 も生 じないはず であるO (
いが, この(
2)
の検証 では ヨ リ直接的に会計情報が取上げ られ ることにな る。今
迄 の ところ, この型のテス トが最 もよ く用い られ てい るよ うであ る。
(
3) さらに市場 モデルに準 じて会計上 の利益 と利益 の市場指標-
式(
1)
で定
義 した株式投資利益を初め,営業利益,純利益, 1株 当た り利益な どい くつか
の ものが考 え られ る-
との回帰分析を行ない, 相関係数 と決定係数を求め る
方法 も考 え られ てい る。 これに よって,会計利益が市場 ととの くらい結 びつい
てい るか,すなわ ち,会計利益 の動 きが市場利益 の動 きを どの程度説 明 しうる
かを検討す る。 クロス ・セ クシ ョナルな分析において, その程度が大 きい こと
が 明 らかに されれば,市場は利益 の変化な ど会計情報の変化に対 して, 極めて
迅速に反応 してい るとい うことにな る。 ボ-ル ・ブラウンは,会計上 の営業利
益 の階差 と市場利益 との相関係数が0
.
4
6-0
.
6
4に もな るとし, したが って会計
0-2
5
% くらい までを営業利益 の変化に よ
上 の市場 の間にみ られ る同 じ動 きの2
5-4
0
%を説 明 し
り説 明 しえ, したが って また, システマテ ィック ・リス クの3
1
0
うると述べ てい る。
この方法は, ヨ リ直接的 であ り,未だ問題点 も多い と思われ るが, い ろいろ
な レベルの収益, 利益や費用項 目の変化 と市場利益 の変化 との関係を明 らかに
し, それに よって市場 の効率性を判断す るのに適用 しうるであろ う。
Ⅰ
Ⅴ 会計情報の変化と株価
以上述べ てきた ところか らも明 らかな よ うに,個別株式 の市場におけ る投資
利益 と個 々の企業 の会計情報, とくに会計上の利益 とを直接的に結びつけ る論
理的なモデルは, 末だ見出され ていない よ うであ る。そ して, その困難 の原因
の 1つに市場 の利益 または株価 と個 々の企業の利益 との関係が不 明確だ とい う
ことがある。
1
0 Ba
lla
n
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o
wn;Po
r
t
fo
l
i
oTl
l
e
O
'
ブa
ndAc
c
o
u
nt
i
ng,pp.317
-3
2
0参照.
情 報
と 株 価 形 成
105
この点の 1つ の説 明 として, -マ ダお よび 1
)ッツェソバ -ガ- ・ラオのモデ
l
l
ルを検討 してみ よ う。
6)
を展開 してゆ くと,
式(
E(
R8
)-Rf+〔
E(
R M) -Rf
〕C
OY(
R"RM)
62(
RM)
-Rf+ 〔
E(
RM)-Rf
〕 ・ γB
MC
(
RB
)
a(
RM
)
6(
RM)
6(
RM)
ただ し,
γB
M
は Riと RM との相関係数 。1-
E(
RM) -Rf とす る と,
6(
RM)
Ri
)-Rf+妬 Mq(
RL
)
E(
(8)
ここで, 求 (
1)
から
E(
Pt
+1
)-Pt
+E(
Dl
)
E(
Ri
)
この企業 には成長性がな く, したが ってキ ャピタル ・ゲイ ン Pc+1- P
1
-0で
あ り,会計上 の利益 46はすべ て配 当 D再こ充当 され るもの と仮定す ると,
R
l
)
E
J
p
A
f,ま
たq
(
Rl
)哩
P
,
P
L
P
A
J
l
E(
これを(
8
)
式に代入す る と,
R
l
)
翠
E(
/
. Pl
-
-Rf.
琴平
E(
Ai
l
)- 妬 Mq
(
Al
l
)
Rf
(9)
これは, リッツェソバ ーガー ・ラオの企業評価 モデルであ るが, この よ うに
R.
・
) と会計上の利
単純化す ることが できれば,株価 PEない しは投資利益 E(
Aり) との関係は明快にな る。 )は,市場利益 E(
RM),無危険利益 Rlと
益 E(
市場 リス ク
6(
RM)
か ら測定 され うる し, また γi
M を測定す ることもそ う困難
ll Hama
da,R.S.
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e,Jo
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r
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F
Fi
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c
e
,Ma
r
c
h1
969,pp.1
3-31
,および L
it
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e
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,R.H.and C.U.Ra
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cAn
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,Mar
c
h1
97
2,pp1
1
443- 1
4462参照。なお,この節の換討は,柴川林也著 「
財務管理」同文館,昭和52,年99-lo
o
首,
および127- 130貢に負う所が大きい。
1
0
6
第 136 巻
第
3 号
ではない。 しか も,企業の会計上の利益の変化が投資利益に直接結びつ くこと
のみな らず,他の株の市価の変化, したが ってまた他企業の会計利益の増減が,
M の変化を通 じて当該株式の投資利益や市価の変化に影響を与え うるこ
)や γi
とを も示 している。会計利益の リスクもは っき りした形で株式 の 利 益 E(
Rl
)
の定式化に導 き入れ られてい る。
しか しなが ら,成長性お よびキ ャピタル ・ゲインの無視は, モデルの現実適
応性に大 きな疑問をいだかせ る。
1
2
そ こで式(
8
)
に戻 る。
E(
Rl
)-Rf+ 妬 MO
r
(
RB
)
い ま, 自己資本のみか らな る企業 Uの期首 と期末の 自己資本をそれぞれ Su
,
E(
Su
),期待配当を E(
D) とす ると,株主のために必要な会計上の利益率 R仏
は,
E
(
S
) _E
X
)
S
u
S
E(
D)
+
E(
Ru
)
u-S血
( u
u
(
1
0)
ただ し, X弘は営業利益。他方,他の条件は全 く同 じで,資本構成だけが異な
るL企業の期待会計利益率は,
E(
Xu
)-Rf
B
E(
RL)
SL
(
l
l)
ただ し, Bは負債額,Rfは利子率。すなわち無危険利益に等 しい.
8)
を式(
1
胴こ代入す ると,
上式(
E(
Xu)
Su
-R f+ スγ
u
Mγ(
Ru
)
E(
度u
)
/. Sh
-
Rf+}r
u
MU(
Ra
)
=柑
)_棚
Rf
Rf(
Rf+れ MU(
R払
))
Mq(
Ru
)
_ E(
Xu
)-Su
Aγu
Rf
1
2 以下の論述は,榊原茂樹稿 「
ポ- トフォ1
)オ ・アプローチに よるMM命題の再検討」国民経済雑
1
年 6月,56-76頁による所が大 きいO
誌,昭和5
情 報
と 株 価 形 成
107
これに q(
Ru
)-去q(
xu
)を代入す ると,
I
:
J
L
:
、
-
ヾ亮
一ト
_ E(
X払
)-1
r
u
MO(
度払
)
Rf
(
12)
同様に して, エ企業の 自己資本価値は, 求 (
8は 式(
l
l
)
とか ら求め られ る。
RL
)=E X
i A B
- =Rf+lrL
Mq(
RL
)か ら
E(
SL
-E(Xu)- R f
B
SL
R
であ る。 ところ で
2
(
C RL
)=一
塊
・
R
-S L} γLMq(
RL)
f
(
13)
Lの分 散 を 求 め る と,
SL2
6
(
RL
)
-雫 よ
これを式 (
1
3
)
に代 入す ると,
SL-
E(
X 払)-Rf
B- 1
rL
M
q(
Xu
)
Rf
= E(
Xu)
-1γL
M
q(
Xu
) _β
Rf
(
14)
1
3
れ M-1γL
M であるか ら,式(
1
2
)
と(
1
4
)
とか ら,
SL-Su
-B, または Su
-SL+B
で両者の企業価値 または総資本の価値は,資本構成 とは無関係に等 しくなる。
この結論か ら推察 され るよ、
ぅに,上のモデルは, ポー トフォ リオ理論 の立場
か ら,MM命題を立証 しようとした ものであって,会計上の利益 と市場におけ
る株価 とを結びつけ ようとした ものではないが, しか し,上の Su
,SLはそれ
1
2
)
(
1
3
)
(
1
掴ま,株式
ぞれ株価を表 明す るもの と見倣 して よいであろ うか ら,上の式(
評価 モデル と考 え ることができる。そ して, ここでは,企業の営業利益 Xuと
Xu
)が株式評価に導 き入れ られてい る。つ ま り,会計情報 と
その標準偏差 q(
1
3 榊原茂樹稿 ;前掲論文,参親.
1
0
8
第 136 巻
第
3 号
その リス クとの市場におけ る株価 との逼 りが明 らかに され てい るのであ る。 ま
た,γを通 じて市場におけ る他企業の株価 の変化 な り会計利益 の変化な りが,
当該企業の株 の評価に影響を及 ぼす ことも示唆 され てい る。 この意味では実証
分析に適用 しうるものの よ うに思われ る。
E(
Rw
)な り,E(
RL) な りの定義において,企業の営業利益 と, 醍
ただ し,
当 プラス自己資本の増加 (
キ ャピタル ・ゲイ ン)資利益 と同 じ-
求(
1)
で定義 しf
C株式の投
とが同置 されて しまってい る。会計上 の営業利益は, 少な く
とも今の段階 では, この よ うな ものではないo リッツェソバ -ガ- ・ラオの よ
うに, キ ャピタル ・ゲイ ンを全 く無視 しないで成長性を考慮に入れてきた点は
評価 できるけれ ども,やは り, この よ うな点 ではなお若干の疑念をいだかせ る
もの といえ よ う。
Ⅴ 会計処理手続きとリスクの変化
前節におけ る検討が示す ように,会計情報が株価 または投資利益に どの よ う
に結びついてい るかを 明確に定式化す ることは, なおかな り難 しい問題を含 ん
でお り,その こと自体 が非現実的な前提条件を必要 とす るか, あるいは論理を
飛躍 させなければ できない よ うに思われ る。結局,第 Ⅲ節 で触れた よ うに,早
純 な市場 モデルを拠 り所 として,投資利益 と会計上 の さまざまな変化 との間の
回帰分析を行ない, それに よって問題を考 えざるをえない とい うのが現状 の よ
うである。 ところが, ここに注 目すべ きことがあ る。 ボ ールが指摘 してい る会
計処理手続 きの変化-
企業の経済的本質には変化がない と考え られ る ときの
1
4
が, システマテ ィック ・i
)スクを増減 させ る可能性があるとい う点 である。
即に述べた よ うに, ボ -ルほ市場 モデルその中に含む-
システマテ ィック ・リス クβを
を使 って,会計処理手続 きが株式投資利益 に どの よ うに関係
す るかを分析 してい るのであるが, その研究 の中で対象 とした 2
5
9カ月 もの長
い間, βが コンス タン トと考え るのは困難 であ るとしてい る。 とい うのは,会
1
4 Ba
l
l
,Ra
y;Chan
gcS i
nA c
c
ou
n
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i
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g T
e
c
h
n
i
q
u
e
∫
,p
p
・1
8
-2
6参照O
情 報
1
0
9
と 株 価 形 成
計処理手続 きを変更 した企業 では,その リスクは必ず しも一定 していない よう
に思われ るか らである。例えば,会計処理手続 きは業種毎に特性づけ られ るこ
とが多いが, リスク, とくに βは業種に より異なると考え られ る。つ ま り,会
計処理手続 きの変化は,業種構成の変化 と結びついてお り, したが ってまた業
o
)βの変化 とも結びつ く。そ してこの場合には, 当然,
種別に とられた標本企業/
資本資産価格形成モデルあるいは市場 モデルは,時の琴 過の うちに異なった β
値を とらなければならない ことになる。 もし, リス クが コンスタン トであると
仮定 され ると,投資利益の値は混乱 して くるのである。
この ような論拠に よって, ボールは, まず市場 モデルにおけ るβ値を求めて,
その変化の跡を辿 ったのであるが, しか し,そ こでは βが 1に接近す る傾向が
あるらしい とい うことだけで,会計処理手続 きの変化が明確に βに作用す ると
い うことは確認できなか った。
そ こで,つ ぎに クロス ・セ クシ ョナルな分析に戻 って,その中に変化 してゆ
くβ値を入れ て投資利益を求め,撹乱項あるいは残差が どの ように時の経過 と
ともに変化す るかを検討 した ところ,会計処理手続 きの 5年程前か ら,下向き
の動 きがはっき り表われ てい ることが分 った。 もっとも,会計処理手続 きその主なものは減価償却法お よび棚卸法の変化であるが-
が, この ようにか
な り以前か ら投資利益に影響を与え るとい うのは, いささか不 自然な説 明であ
るよ うに もみえる, と述べている。
この よ うに, ボール 自身は会計処理手続が,株価 ない し投資利益に非常に強
く影響を与えるとは考えていない よ うであるが,会計情報 と株価 との結びつ き
を考えるときには,上の実証分析の意味は看過 しえない よ うに思われ る。 とい
うのは,βは, もともと-
会計処理手続 きの変化がな くとも-
不安定な も
のであ り,その変動過程を市場 モデルに入れ て くることは重要 である。 また,
会計処理手続 きの変化が納税額の増減を通 じて企業 のキ ャッシュ ・フローを変
化 させ,それが株価に影響す ることも考えられ る。 さらに, コス トの上昇,経
常利益 の減少を もた らす よ うな ときたは, これ もまた株価に作用す るであろ う。
1
1
0
第 136 巻
第
3 号
ただ し, これ らの影響は,他の企業に も作用す るか ら,当該企業の株価ない し
投資利益に必ず しも直接的には表われて こない。極めて複雑な形になるのであ
る。
前節で述べた,株価ない し投資利益 と会計情報 との関連を ヨリ直接的に示す
モデルない しは理論の開発が望 まれ る所似であ る。
ⅤⅠ む
す
び
以上,本稿では資本市場 の効率性を検証す るのに,会計情報 と株価 との関係
を測定す るヨリ精綾なモデルが必要であること,そのためには, 2パラメータ
・モデルに基づ く資本資産価格形成 モデルに企業の会計情報を組込 んでゆかな
ければならない こと,につ\、
て考察を進めてきた。
会計情報は,少な くとも現在 の段階では資本市場に与えられ る唯一のオ-ソ
ライズされた企業情報である。資本市場の効率性を検証 して,その改善を促進
し, かつ, ヨリ大規模な全国統一市場 とそれに伴 う証券情報 システムの設計を
行なってゆ くためには, この問題の解 明は極めて重要な意義を もつ もの と考え
られ る。今後の資本市場は,将来の産業構造の変革に備えて,資金の最適配分
を行な うとい う大 きな役割を課 され るか らである。
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