...

補助金制度に対する相殺関税制度 米国・EU・日本

by user

on
Category: Documents
50

views

Report

Comments

Transcript

補助金制度に対する相殺関税制度 米国・EU・日本
05-ERA
70H-211AA
9
補助金制度に
補助金制度に対する相殺関税制度
する相殺関税制度
米国・
米国・EU・
EU・日本の
日本の制度比較および
制度比較および事例
および事例について
事例について
2006 年 3 月
日本貿易振興機構
経済分析部国際経済研究課
目次
はじめに
1
要約
3
第一部 補助金・
補助金・CVD とは
第1章
補助金・
補助金・CVD の概要
6
1.
「補助金及
」の
「補助金及び
補助金及び相殺措置に
相殺措置に関する協定
する協定(
協定(ASCM)
ASCM)
」の概要
経済的正当性(
アンチダンピングとの
との比較
比較)
2.CVD の経済的正当性
(アンチダンピング
との
比較
)
7
18
3.世界における
世界における CVD の傾向と
傾向と今後の
今後の見通し
見通し
23
第2章
WTO における代表的
における代表的 ASCM 判例と
判例と韓国 DRAM 事件
31
1.背景
2.韓国 DRAM 事件
31
33
第二部 各国の
各国の CVD 制度
第3章
米国の
米国の CVD 制度とその
制度とその運営
とその運営、
運営、発動に
発動に向けた環境
けた環境
40
1.米国の
米国の CVD 制度の
制度の特徴
2.米国の
米国の CVD 制度運用の
制度運用の特徴
米国の
3.米国
の CVD 環境
第4章
EU の CVD 制度とその
制度とその運営
とその運営、
運営、発動に
発動に向けた環境
けた環境
51
1.EC の CVD
CVD 制度の
制度の特徴
制度運用の
2.EC の CVD 制度運用
の特徴
3.EC の CVD 環境
第5章
40
45
48
51
56
58
日本の
日本の CVD 制度とその
制度とその運営
とその運営、
運営、発動に
発動に向けた環境
けた環境
60
1.日本の
日本の CVD 制度と
制度と運用の
運用の特徴
60
2.日本の
日本の CVD 環境
第6章
まとめ
1.CVD 比較検証
2.今後について
今後について
参考文献一覧
62
64
65
69
71
第三部 補足:
補足:中国・
中国・韓国・
韓国・インドの
ンドの産業政策・
産業政策・補助金制度
第 1 章 中国
中国の
の補助金制度
第 2 章 韓国の
韓国の補助金制度
第 3 章 インドの
インドの補助金制度
75
94
114
はじめに
年 6 月 16 日にエルピーダメモリ社およびマイクロンジャパン社の申請を受けた日
本政府は、同年 8 月 4 日に韓国ハイニックス社の輸入 DRAM(Dynamic Random Access
Memory、半導体メモリの一種)製品に対して相殺関税(Countervailing Duty、以下 CVD)
調査を開始、調査延長期間を含む約 1 年半の年月を経て、2006 年 1 月 20 日に 27.2%の措
置発動を決定した(同月 27 日発動)。韓国政府が政府・民間銀行に対して当時財政難に陥
っていたハイニックス社向け融資の「委託・指示」を行い、その結果補助金により競争力
を得た輸入 DRAM 製品が日本企業に損害を与えたことが主な理由であった。これは日本の
通商史上第 1 号となる CVD 措置であり、これまで貿易救済措置の活用に消極的であった日
本としては極めて画期的な案件であった。
2004
政府による企業への補助金の供与は、DRAM 製品の例のように結果的に輸入製品価格を
引き下げる可能性があることから、そのような輸入製品が押し寄せれば国内生産者にとっ
ては損害となりえる。また、今回のケースでは韓国政府の補助金により、破産寸前だった
ハイニックス社が生き残るという結果を招いた。これは、自由競争のなか淘汰されるはず
であった弱体化した企業に政府が息を吹き込んだものであり、自由経済主義や自由貿易主
義の理念に必ずしも合致しない。
日本では過去の苦い経験からもう一つの貿易救済措置であるアンチダンピング(Anti
Dumping、以下 AD)の名の方が知られているが、欧米は貿易救済措置先進国として以前
から多くの CVD を発動してきた。そういう意味では日本は貿易救済措置に関しては発展途
上であるといえる。
今後、中国,韓国,インド等アジア諸国の対日輸入攻勢が拡大していくと予想されるな
か、これらの国の不公正な貿易制度・慣行をただすことで日本企業が公平な立場で海外と
競争できる環境を築いていくことが重要だと思われる。そのためには、保護主義的な理由
による貿易救済措置は認められないが、日本はもっとこの WTO ルールを積極的に活用する
ことが求められるのではないか。
本調査は、こうした背景・問題意識を念頭に置きながら、貿易救済措置先進国である米
国や EU と日本の CVD 制度・運用、申請手続き、CVD を取り巻く環境等を紹介すること
を通じて欧米と日本の CVD 制度を比較検証し、日本の今後のあり方について検討すること
を目的としている。
1
本調査報告書は以下のように構成されている。第一部では CVD とはそもそも何なのかに
ついて第 1 章と第 2 章で説明する。第1章では WTO の「補助金及び相殺措置に関する協
定(Agreement on Subsidies and Countervailing Measures、以下 ASCM)」上の CVD の
定義・対象となる補助金や CVD の経済的正当性、さらには世界における CVD 調査や発動
の傾向と今後の見通しについて触れる。第 2 章では過去の WTO 紛争解決機関(DSB)に
おける ASCM に関する代表的な判例を紹介、そのなかで特に米国と EU の韓国 DRAM 事
件を具体的に説明した上で日本のケースに触れる。
第二部では米国政府、欧州委員会(European Commission、以下 EC)、日本政府の CVD
制度・運用、手続き、CVD を取り巻く環境等を紹介、最後に比較検証を行い日本の制度の
あり方を検討する。具体的には第 3 章では米国、第 4 章では EC、そして第 5 章では日本の
CVD 制度、調査・発動プロセス、政治・経済的インセンティブを紹介し、最後に第 6 章で
は本調査報告書のまとめとしてそれぞれの国の CVD 制度を比較し、今後日本が築いていく
べき制度・環境作りについて簡単に触れる。
第三部では補足的な情報として、アジア主要諸国である中国、韓国、インドの産業政策・
補助金制度に関する情報を掲載する。
本報告書は通商政策、特に貿易救済措置に関心を持つ関係者の参考になれば幸いである。
2006
2
年 3 月 日本貿易振興機構
経済分析部
国際経済研究課
要約
第 1 章 補助金・
補助金・CVD の概要
の ASCM は加盟国の補助金や CVD 制度を規定する協定である。基本的には輸出補
助金および輸入代替補助金を禁止、相殺可能な補助金については輸入国に損害を与える場
合のみ一定の条件下でその国に CVD 発動を許可している。また、同協定は CVD 調査やレ
ビューといった運営方法についても規定している。
WTO
政府による補助金の供与は、企業のダンピング慣行と比べて経済的正当性に欠ける。そ
のため、補助金はその国の市場を歪めるだけでなく、輸出を通じて他国の市場にも影響を
与える可能性がある。このことは加盟国の CVD 措置にある程度の正当性を与えている。
年以来、世界の CVD 措置は欧米によって先導されてきた。米国の CVD 発動件数は
圧倒的に多く、EU も 90 年代後半から米国に続いている。CVD の増減要因はさまざまであ
るが、なかでも補助金の規律による減少要因と各国の産業構造の変化による増加要因が今
後の行方を占う上で重要である。また、中国が欧米に市場経済国と認定されれば、集中し
て CVD が発動される可能性が高い。
1995
第 2 章 WTO における代表的
における代表的 ASCM 判例と
判例と韓国 DRAM 事件
では ASCM 発効以降数件の CVD 提訴が行われてきた。判例主義をとる WTO 法に
とって、曖昧な協定内容を明確にしていくためにも判例は非常に重要となる。その中でも
以下の過去の ASCM 案件は極めて重要である。
WTO
i.
ii.
iii.
iv.
v.
vi.
米国-韓国 DRAM 事件(DS296):政府の指示、委託の明示なしで政府から銀行へ
の指示があったか否かが焦点。
EU -韓国 DRAM 事件( DS299 ): i の事件の争点に加え、損害認定における
“Non-attribution”ルールが十分であったか否かが焦点。
EU 鉄鋼(イギリス)事件(DS138)
:国営企業の民営化における「市場価格」をど
う扱うかが焦点。
カナダ軟材事件( DS236 ):川上産業( Upstream )での補助金を川下産業
(Downstream)でどう便益を計算するか、また適当な市場がその国に存在しない
場合、他の国の市場価格を参照できるが争点。
米国綿花事件(DS267):ASCM と農業協定の関連性が焦点。
ブラジル-カナダ航空機事件(DS71):利益計算のベースは補助金額と損害額のど
3
ちらが「適当(Appropriate)」か、が焦点。
このなかで i と ii が日本にとって重要となってくる。日本は米国や EU の韓国ハイニック
ス社に対する CVD 発動に続き、一連のプロセスを経て 2006 年 1 月 27 日に歴史上初めて
となる CVD を発動した。
第 3 章 米国の
米国の CVD 制度とその
制度とその運用
とその運用、
運用、発動に
発動に向けた環境
けた環境
米国の CVD は他国と比較して特徴的である。特に「レッサー・デューティー」や「知り
えた事実」、さらには「行政レビュー」や「サンセット・レビュー」は相手国企業にとって
非常に厳しい内容であり、各国の非難の的となっている。また、米国当局による CVD 制度
の運用は極めて機械的である。当局は他の企業や消費者に耳を貸すことなく、淡々と調査
を進める。また、米国当局は数百人にのぼる貿易救済措置スタッフを抱えており、通商専
門弁護士の数も世界でもっとも豊富である。さらに、長年かけて築き上げた政府と企業の
パートナーシップが同国の CVD 発動をさらに効率的にしている。
第 4 章 EU の CVD 制度とその
制度とその運用
とその運用、
運用、発動に
発動に向けた環境
けた環境
の CVD 制度は ASCM に準じている。最大の特徴は「共同体の利害(Community
Interest)
」を導入していることであろう。「共同体の利害」テストにより、損害を被った企
業に対する CVD の利益は他の二次的ユーザーや消費者に対する CVD の損害とバランスさ
れる。また、EU では CVD 発動の最終決定の際に欧州理事会(European Council)の採決
が必要であり、政治的な色合いが濃いことが特徴。過去に受身であった EC は近年域内企業
の信頼を勝ち取り、官民パートナーシップを構築してきた。
EU
第 5 章 日本の
日本の CVD 制度とその
制度とその運用
とその運用、
運用、発動に
発動に向けた環境
けた環境
日本の CVD 制度はおおむね EC のそれに類似しているが、米国寄りの「レッサー・デュ
ーティー」や「共同体の利害」のような概念がないことが EC とは異なる。日本の CVD 発
動に向けた環境の整備は欧米に遅れをとっている。日本の環境は(1)乏しい貿易救済措
置関連スタッフ数、(2)乏しい通商専門弁護士数、(3)政府と企業の間の高い壁が大き
な特徴。
第 6 章 まとめ
今後一層アジア諸国からの安価な製品の輸入が増加すると予想されるなか、日本は WTO
4
ルールを十分意識して外国の不公正貿易に対処していかなければならない。そういう意味
では今回の韓国ハイニックス社の DRAM 製品に対する CVD 発動は画期的であったが、今
後更なる発動に向けて環境整備を行っていく必要がある。そのためには政府だけでなく企
業が WTO ルールを意識して、相互に協力していかなければならない。
5
第一部 補助金・
補助金・CVD とは
第1章 補助金・
補助金・CVD の概要
この章では、そもそも CVD とは何なのか、CVD の対象となるのはどのような補助金な
のかといった基本的な内容を解読する。まずは ASCM の概要を簡単に説明、次に CVD の
経済的正当性について AD と比較しながら検証、最後に世界における CVD 調査・発動件数
の動向や今後の見通し等について、国、地域、対象製品等に着目しながら解説する。
6
1.
「補助金及
」1の概要
「補助金及び
補助金及び相殺措置に
相殺措置に関する協定
する協定(
協定(ASCM)
ASCM)
加盟国の CVD 制度は WTO 協定の「GATT 第 6 条:ダンピング防止税及び相殺関
税(Anti-dumping and Countervailing Duties)」と「補助金及び相殺措置に関する協定
(ASCM)」により規定されている。GATT 第 6 条は 1947 年に合意された「関税及び貿易
に関する一般協定(The General Agreement on Tariffs and Trade)」の一部であり、1986
年から 94 年まで続いたウルグアイラウンドで合意された ASCM のベースとなる条文であ
る。
WTO
策定の経緯は以下のとおりである。1973 年から 79 年まで続いた東京ラウンドに
おいて複数国間(plurilateral)交渉により補助金協定(Subsidies Code)が合意に至り、
米国、欧州諸国、カナダ、オーストラリア等の主要国が署名した。しかし、それまでの米
国の度重なる CVD 発動にアレルギー反応を起こしていた開発途上加盟国は同協定への加入
を辞退した。この協定では、工業製品の輸出補助金の規律強化や鉱山資源の輸出補助金の
禁止、さらには CVD 調査の手続きに関するルール等が規定された。ウルグアイラウンドで
は補助金協定の規律の強化等が求められた末、1994 年に一括受諾(single undertaking)
方式 により全加盟国が ASCM に署名した。
ASCM
2
は表 1 にあるとおり、前文、11 部 32 箇条と 7 の附属書で構成されている。以下
では ASCM の主要な条文について解説する。
ASCM
(1)補助金の
補助金の定義
第1条1項は補助金の定義が示されている。政府の補助金と見なされるためには
「政府又は公的機関が資金面で貢献していること」もしくは「何らかの形式による所得又
は価格の支持があること」、そしてその措置により「利益がもたらされること」という条件
が必要となる。つまり、政府の企業に対する資金面での貢献に加え、その貢献により企業
が利益を得ていることが条件である。
ASCM
本調査は ASCM の範囲に限定しており、農業補助金を扱う「農業協定(Agreement on Agriculture)」
についてはとりあげていない。農業協定は ASCM と比較して緩い規律となっていることが特徴。
一括受諾方式では、WTO 設立協定及び附属書 1~3 について WTO 加盟国は一括して受諾しなければな
らない。一方、附属書 4(政府調達協定、民間航空機協定)だけはその特徴から複数国間として、締約国
間においてのみ効力を有する。
1
2
7
表 1.
「補助金及
」の
「補助金及び
補助金及び相殺措置に
相殺措置に関する協定
する協定(
協定(ASCM)
」の構成
前文
第一部
一般規定
第
1条
補助金の定義
第
2条
特定性
第二部
禁止される
される補助金
禁止
される補助金
第
3条
禁止
第4条 相殺措置の
救済措置
の対象となる
補助金 の動向と
相殺措置
対象となる補助金
となる
(第三部
2)世界における
における相殺関税
相殺関税の
世界
における
相殺関税
動向と今後の
今後の見通し
見通し
第
5条 悪影響
第
6条 著しい害
第
7条 救済措置
第四部
相殺措置の
の対象とならない
相殺措置
対象とならない補助金
とならない補助金
第
8条
相殺措置の対象とならない補助金の特定
第9条 相殺措置
協議及び承認された救済措置
第五部
第
10条 千九百九十四年のガット第六条の規定の適用
第
11条
調査の開始及び実施
第
12条
証拠
第
13条
協議
第
14条
補助金を受ける者の利益による補助金の額の算定
第
15条
損害の決定
第
16条
国内産業の定義
第
17条
暫定措置
第
18条
約束
第
19条
相殺関税の賦課及び徴収
第
20条
遡及
第
21条 相殺関税及び約束に係る期間及び見直し
第
22条 公告及び決定の説明
第
23条 司法上の審査
第六部
機関
第
24条 補助金及び相殺措置に関する委員会及び補助機関
第七部
通報及び
通報及び監視
第
25条 通報
第26条開発途上加盟国
監視
第八部
第27条経過措置
開発途上加盟国に対する特別のかつ異なる待遇
第九部
第
28条 既存の制度
第
29条 市場経済への移行
第十部
紛争解決
第
30条
第十一部
最終規定
第
31条 暫定的な適用
第32条 その他の最終規定
附属書
1 輸出補助金の
の例示表投入物の
輸出補助金
附属書
2 生産工程における
における投入物
の消費に
に払戻制度の
関する指針
生産工程
における
投入物
消費
する指針
附属書
3 輸出補助金としての
としての代替物
代替物に
に
係
る
の計決定に
に関する指針
輸出補助金
としての
代替物
払戻制度
決定
する指針
附属書
4 産品の
の
価額に
に
対
する補助金
補助金の
の
総額の
の
割合の
の
算
(
6.1(a))
産品
価額
する
補助金
総額
割合
附属書
5 著しい害
に関にする情報
情報を
を収集するための
手続
しい害規定
する
情報現地調査に
収集するための手続
するための
附属書
6 12.6 の規定に
基
づく現地調査
に
関
する手続
手続
づく
現地調査
する
附属書 7 27.2(a)に規定する
規定する開発途上加盟国
する開発途上加盟国
出典:経済産業省対外経済政策総合サイト WTO 協定集
(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto_agreements/marrakech/html/wto13.html)
また、第1条は補助金とみなされる政府資金を具体的に例示している。政府資金は(1)
直接的な移転(贈与、貸付、出資)、債務を伴う措置(債務保証等)、(2)政府の収入とな
るべきものの放棄又は徴収しないこと(税額控除)、(3)一般的な社会資本以外の物品ま
たは役務の提供、または物品の購入、(4)政府の資金調達機関への支払い、または民間団
体に対する委託もしくは指示、が含まれる。
さらに、補助金の定義のうち「利益をもたらすもの」については、ASCM 第 14 条にある
8
補助金額の算定のなかで明示されている 。第 14 条によると、基本的に補助金は政府による
出資、貸付け、債務保証、物品や役務が市場や民間での取引と差がない限りは利益をもた
らすものとはみなさなれない。政府の補助金による利益は、常に民間や市場との比較によ
り割り出される(benefit-to-recipient)。
3
政府資金やモノが最終的に補助金とみなされるためには、ASCM 第 2 条の「特定性」を
有する必要がある。この「特定性」は ASCM 以前に使われていた補助金の定義を狭くして
いる。これはウルグアイラウンドにおいて、各加盟国が一定の政策の幅を確保したいとの
思惑があったためである。補助金が特定性をもつためには、「交付当局又は交付当局の適用
する法令が補助金の交付の対象を明示的に特定企業に限定している場合には、当該補助金
は、特定性を有するものとする」ことが条件である。一方、当該補助金が「交付を受ける
資格及び補助金の額を規律する客観的な基準又は条件を定めている場合には、特定性は存
在しないもの」としている。また、ASCM 第 3 条で禁止されている「輸出補助金」と「輸
入代替補助金」は、無条件で特定性があるものと決められている。
これらを要約すると、補助金が存在するとみなされるためには、補助金の存在があり、
それらが利益をもたらすものであり、さらには特定性を有していなければならないことに
なる。
(2)補助金の
補助金の種類
補助金の種類は、「禁止される補助金(prohibited)」、「相殺可能な補助金(actionable)」、
「相殺不可能な補助金(non-actionable)」の 3 つに大別される。「禁止される補助金」は一
切の使用を禁止されている補助金、「相殺可能な補助金」は輸入国が損害を受ければ CVD
等の相殺措置を講じることが可能な補助金、「相殺不可能な補助金」は補助金の存在にもか
かわらず、他国はいかなる措置も講ずることが許されていない補助金である。以下では各
補助金について具体的に説明する。
① 禁止される
禁止される補助金
される補助金
「禁止される補助金」には「輸出補助金(export subsidies)」と「輸入代替補助金」があ
る。「輸出補助金」は ASCM 第 3 条 1 項(a)で「輸出が行われることに基づいて交付される
ASCM 第 14 条は、GATT 第 6 条 3 項にある「いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸
入されるものは、原産国又は輸出国においてその産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与え
られていると認められる奨励金又は補助金(特定の産品の輸送に対する特別の補助金を含む)の推定額に等
しい金額をこえる相殺関税を課せられることはない。」を具体化したものといえる。
3
9
補助金」と定義されているが、これは各国の国内法に書かれている、いわゆる「条文上(in
law)
」と、国内法には書かれていないが、実際に輸出補助金を与える政府の行為である「事
実上(ipso facto)」のどちらの場合でも当てはまる。また、ASCM 附属書 1 の「輸出補助
金の例示表」は輸出補助金の種類を具体的に例示している 。もう一つの「禁止される補助
金」である「輸入代替補助金」とは、ASCM 第 3 条 1 項(b)にある「輸入物品よりも国産物
品を優先して使用することに基づいて交付される補助金」のことである。
4
ある加盟国の「禁止される補助金」の使用を他の加盟国が見つけた場合、その加盟国は
補助金を供与している国に協議を要請することができる(ASCM 第 4 条 1 項)。さらに、相
互に解決が見られなかった場合は、小委員会(パネル)、上級委員会、監視といった紛争解
決機関(DSB)の一連のプロセスを進めていくことになる。パネルは「禁止される補助金」
に関し、常設専門家部会へアドバイスを要請することができ、この場合パネルは同部会の
結論を受け入れなければならない。もしパネルが「禁止される補助金」を認定した場合、
被提訴国は同補助金を「遅延なく(without delay)」廃止しなければならない。
一連の紛争解決プロセスを経てもなお補助金供与国が「禁止される補助金」を廃止しな
い場合、また、ASCM 第 7 条 1 項に表記されているように、当該補助金が他国の「国内産
業に対する損害、無効化若しくは侵害又は著しい害をもたらしていると信ずるに足りる理
由がある場合」には、その加盟国は協議のうえ紛争解決機関に提訴することができる。そ
してパネルもしくは上級委員会がその悪影響を認めた場合、提訴国は「存在すると決定さ
れた悪影響の程度(appropriate)及び性格に応じた対抗措置をとること」、もしくはその補
助金が提訴国の産業に著しい害を与えている場合は CVD を賦課することが許される。
② 相殺可能な
相殺可能な補助金
上述した「禁止される補助金」の輸出補助金や輸入代替補助金には該当しないが、ASCM
第 5 条にある「悪影響」 を他国の利益に及ぼしている補助金は「相殺可能な補助金」と呼
5
主に(b)外貨資金特別割当制度、(c)輸出貨物を国内貨物より有利に扱う国内運送料金、(e)輸出に関連させ
た直接税や社会保障負担の全部もしくは一部免除、(f)輸出または輸出実績に関連付けた直接税の控除、(g)
輸出される産品の生産/流通に関し、国内消費向け販売の間接税の額を超える額の間接税の免除または軽
減、(i)輸出産品の生産に消費される輸入投入物に対して課される輸入課徴金を超えて輸入課徴金の軽減ま
たは払い戻しを認めること、が含まれる。
「悪影響」の定義は具体的には以下のとおり:
(a) 他の加盟国の国内産業に対する損害
(b) 他の加盟国に対し千九百九十四年のガットに基づいて直接又は間接に与えられた利益、特に、千九百
九十四年のガット第二条の規定に基づく譲許の利益の無効化又は侵害
(c) 他の加盟国の利益に対する著しい害
一方、農業協定第 13 条に列挙されている農産品への補助金について上記は適用されない。
4
5
10
ばれる。
加盟国は、他国の「相殺可能な補助金」が悪影響を及ぼしている事実を証明できれば、
補助金供与国はその悪影響を取り除くに適当な措置を講ずるか、もしくは補助金自体を廃
止しなければならない。もしその国がこうした措置を実行しない場合、提訴国は補助金供
与国の合意を得たうえで補償を得ることができる。もしその補償について合意がなされな
かった場合、提訴国は CVD の申請権利が与えられることになる。また、禁止された補助金
と同様に、もし相殺可能な補助金が自国産業へ著しい害を与えている場合は DSB への協議
申請の代わりに CVD を発動することが可能である。
③ 相殺不可能な
相殺不可能な補助金
上記した禁止される補助金と相殺可能な補助金以外の補助金が「相殺不可能な補助金」
に分類される。「相殺不可能な補助金」は ASCM 第 2 条の特定性のない補助金、もしくは
ASCM 第 8 条の「相殺措置の対象とならない補助金」で列挙されている、特定性を有する
ものの、一定の条件で(1)「企業が行う研究活動又は高等教育機関若しくは研究機関が企
業との契約に基づいて行う研究活動に対する援助」、(2)「地域開発の一般的な枠組みに基
づいて加盟国の領域内の不利な立場にある地域に対して与えられる援助」、(3)「既存の施
設を、法令により課される新たな環境上の要件(企業に対し一層大きな制約及び財政的な負
担をもたらすもの)に適合させることを促進するための援助」、といった特徴を有する 3 つの
補助金である 。しかし、これら 3 つの「相殺措置の対象とならない補助金」は有効期限が
ASCM 発効後 5 年間とされていたところ、結局延長されなかったため 1999 年 12 月 31 日
をもって失効した。
6
(3)CVD の調査・
調査・発動
上記したように、禁止される補助金もしくは製品輸入が国内市場に悪影響を及ぼす相殺
可能な補助金に面している輸入国には 2 つのオプションが与えられている。一つは紛争解
決手続きによる解決、もう一つは補助金による悪影響をオフセットするために CVD を発動
することである。GATT 第 6 条 3 項では CVD を「産品の製造、生産又は輸出について直接
又は間接に交付される補助金を相殺する目的で課する特別の関税」と定義している。補助
金付き輸入製品が著しい損害もしくはその恐れを輸入国内産業に及ぼす場合のみに限りそ
ただし、ここに列挙された補助金についても、ASCM 第 9 条 1 項により、「当該加盟国の国内産業に対
して回復し難い損害を生ずるような著しい悪影響を及ぼしていると信ずるに足りる理由がある場合には、
補助金を交付し又は維持している加盟国に対し協議を要請することができ」、さらに ASCM 第 9 条 4 項に
より、DSB の勧告を補助金供与国が実施しなかった場合に限り、「協議を要請した加盟国に対し、存在す
ると決定された当該悪影響の性格及び程度に応じた適当な対抗措置をとること」が許されていた。
6
11
の発動が許可される。
① CVD 発動の
発動の要件および
要件およびプロセス
およびプロセス
を発動するために調査当局(米国では商務省、EU では EC 貿易総局、日本では経
済産業省、財務省および産業分野によりその他所管省庁が管轄している)は調査を実施し
なければならない。調査により補助金、損害等の十分な証拠を提示してはじめて CVD 発動
が可能となるのである。
CVD
調査開始
第 11 条は CVD 発動に向けた調査および実施に関する規律を設けている。当局は
基本的には国内産業による申請に基づいて調査を開始する。国内産業が当局に提出する申
請書は以下の証拠が十分に含まれなければならない。
ASCM
a.
b.
c.
補助金の存在
損害の存在もしくはその恐れ
補助金付き製品の輸入と損害との間の因果関係
当局は、当該申請が国内産業により、もしくは国内産業の意思を反映していると決定し
ないかぎり調査を開始することが出来ない。これを証明するためには、申請を支持してい
る国内生産者の生産高合計が、当該申請について支持または反対のいずれかを行っている
国内産業の生産高合計の 50%を超える必要がある。当該申請を支持している国内生産者に
よる生産が、国内産業によって生産される同種産品合計の 25%未満である場合には、当局
は調査を開始できない。
暫定措置
第 17 条の規定により、当局は調査期間中に補助金による損害の防止が必要と認め
た場合、暫定的な措置を講ずることが可能である。暫定措置は(1)暫定的に算定された
補助金の額と等しい現金の供託もしくは債権等による保証の形式をとる。また、暫定措置
は調査開始から 60 日が経過するまではとることができず、出来るだけ短期間に限定(4ヵ
月を超えてはならない)される。
ASCM
調査の
調査の終了
12
第 11 条 9 項によると、当局は調査の途中であっても補助金か損害のいずれかにつ
いて証拠が十分でないと認める場合には、すぐに調査を取りやめなければならない。補助
金の額が僅少(de minimis)となっている場合でも直ちに終了する 。それに加えて、当局
はもし輸出国政府が当該補助金を撤廃もしくは制限をするか、輸出企業が補助金による損
害を除去する価格設定を行った場合、調査の終了を考慮することになっている。
ASCM
7
証拠と
証拠と利害関係を
利害関係を有する加盟国
する加盟国・
加盟国・全ての者
ての者
調査に際し、「利害関係を有する加盟国及び当該利害関係を有するすべての者(interested
member and interested parties) 」は書面による証拠の提出に必要なあらゆる情報および
機会を与えられる(ASCM 第 12 条 1 項)。この加盟国や利害関係を有する者は回答のため
に少なくとも 30 日間を与えられる。当局はこうして提出された証拠を十分検討しなければ
ならない。また、当局は ASCM 第 12 条 6 項により、当局は他の加盟国の領域において反
対のない限り調査を行うことができる。ASCM 第 12 条 7 項は、当局のこうした努力にもか
かわらず、利害関係を有する加盟国及び企業が「妥当な期間内に必要な情報の入手を許さ
ず若しくはこれを提供しない場合又は調査を著しく妨げる場合には、知ることができた事
実(「知りえた事実(facts available)」)に基づいて仮の又は最終的な決定(肯定的であるか
否定的であるかを問わない)を行うことができる」としている。
8
補助金の
補助金の算定と
算定と損害の
損害の決定
当局による相殺関税発動に向けた調査は、補助金の算定と損害の決定が中心である。補
助金は受益者の利益に基づいて算定される(benefit-to-recipient)(ASCM 第 14 条)。この
算定方法については、各加盟国の国内法令または実施規則に任されているが、その実施に
は透明性が確保されることおよび適切な説明が義務付けられている。また、同国内法令お
よび実施規則は以下の指針に適合していなければならない。
(1) 政府による出資 → 民間投資者の通常の慣行と適合しないものと見なされない限
り利益とみなさない。
産品価額の1パーセント未満である場合には、僅少だと見なされる。一方、開発途上加盟国からの輸入
産品の場合僅少の額は基本的には 2 パーセント未満となっている。
利害関係を有する者は以下を含む(ASCM 第 12 条 9 項):
(a) 調査の対象となる産品の輸出者、
外国の生産者、輸入者又は貿易業者の団体若しくは業界団体であって、
その構成員の過半数が当該産品の生産者、輸出者若しくは輸入者であるもの
(b) 輸入加盟国における同種の産品の生産者又は貿易業者の団体若しくは業界団体であって、その構成員の
過半数が輸入加盟国の領域において同種の産品を生産しているもの
7
8
13
(2) 政府による貸付 → 商業的貸付に対して支払う額との間に差がない限り利益とみ
なさない。
(3) 政府による債務保証 → 政府による保証なしに同等な商業的貸付を受ける場合に
差がない限り利益とみなさない。
(4) 政府による物品の提供 → 当該提供が妥当な対価よりも少ない額の対価で行われ、
又は当該購入について妥当な対価よりも多い額の対価が支払われるものでない限り
利益とみなさない。
当局は損害の決定にあたって、基本的には補助金付き輸入製品の輸入量とこれら輸入製
品の国内における同種産品の価格に及ぼす影響、国内生産者に及ぼす影響の 3 つを検証し
なければならない。具体的には、補助金付き輸入製品の輸入量については当該製品輸入の
著しい増加、価格に及ぼす影響については輸入製品価格のなかで国内産品価格を著しく下
回るものがあるか、もしくは価格が著しく押し下げられていないか、また国内生産者に及
ぼす影響については ASCM 第 15 条 4 項にあるように、「当該国内産業の状態に関係を有す
るすべての経済的な要因及び指標(生産高、販売、市場占拠率、利潤、生産性、投資収益若
しくは操業度における現実の及び潜在的な低下、資金流出入、在庫、雇用、賃金、成長、
資本調達能力若しくは投資に及ぼす現実の及び潜在的な悪影響又は国内価格に影響を及ぼ
す要因並びに農業については助成に関する政府の施策に係る負担の増大の有無を含む)」を
調査しなければならない。
また、ASCM 第 15 条 5 項では補助金付き輸入が当該補助金を立証しなければならず、当
該輸入と国内産業に対する損害との因果関係は、当該輸入以外の要因であって、国内産業
に対して同時に損害を与えるいかなる要因についても検討し、これらの他の要因が当該輸
入による損害に帰してはならない(non-attribution rule)、と規定されている。WTO 紛争
解決機関ではよくこの基準を満たしたか否かが争われるケースが多い 。
9
調査期間
当局は特別の場合を除くほか、開始後 1 年以内に調査を完結しなければならず、いかな
る場合でも、その開始後 18 ヶ月を超えてはならない。
CVD の賦課と
賦課と遡及
9
例えば、韓国
に対する EC の相殺関税(WT/DS299)においてもパネルは EC 当局の損害認定に、
の方法が不十分として違憲の判決を下した。
DRAM
non-attribution
14
調査の結果、補助金とその額が存在し、国内産業に損害を与えていることが判明すれば、
当局は CVD 発動にかかる最終的な決定を行うことができる。ただし、相手国が補助金を廃
止していれば発動できない。CVD の最終的な額については ASCM 第 19 条 2 項で奨励され
ているように、補助金の額もしくは損害を除去するのに十分であればそれよりも少ない額
を当局が課すのが望ましい(「レッサー・デューティー(lesser duty)ルール」) 。
10
は補助金と国内産業への損害の存在が調査により判明した後の当該輸入製品に対し
て課すことができるが、暫定措置を講じていた場合はその期間に遡及して CVD を課すこと
が可能である 。また、短期間で大量の輸入が「回復し難い損害(injury which is difficult
to repair)
」を与えているといった危機的な事態が存在する場合において、相殺関税を遡及
して課す必要がある場合は、暫定措置決定日前の 90 日以後消費のために輸入された産品に
対して課すことができる。
CVD
11
行政レビュー
行政レビュー(
レビュー(Administrative Review)とサンセット・
サンセット・レビュー(
レビュー(Sunset Review)
当局が自主的に、もしくは利害関係を有する者の要請があった場合は行政レビューを行
う。この結果、当局が CVD を維持する必要がないと決定する場合はただちに撤廃する
(ASCM 第 21 条 2 項) 。
12
行政レビューに加え、ASCM 第 21 条 3 項(サンセット・レビュー)は、いかなる確定的
な CVD も、その賦課の日、第 21 条 2 項の規定に基づく最新の見直しの日、または当項の
規定に基づく最新の見直しの日から 5 年以内に撤廃する旨規定している。しかし、この規
定は当局に CVD の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定す
る場合は、延長することが認められている 。
13
途上国への
途上国への特別待遇
への特別待遇
第 3 章以下で紹介するが、米国や日本(韓国 DRAM のケース)は「レッサー・デューティー」ルール
を採用していないため、最終的な相殺関税額は補助金額に等しい額となっている一方、EU は補助金額と
損害を除去するに十分な額を比較し、少ない方を採用している。
ただし、最終的な CVD の額が暫定措置額を上回る場合はその差額は徴収できない。一方、下回る場合
は超過額を迅速に還付する必要がある。
行政レビューの際に使う証拠の判断基準は、調査に使う判断基準と異なる標準であることに注意。例:
米国のビスマス炭素鉄鋼に対する CVD(DS138)。
後述するように、米国は損害の存続または再発をもたらす「可能性(likely)」の基準を高く設定し、実
際にこれまでほとんどの案件について延長を決定している。この慣行によりほとんど永続的に CVD を課せ
られている輸入製品も少なくない。一方、EC や日本は基本的には 5 年で CVD を廃止する。
10
11
12
13
15
第 27 条は、補助金の存在が開発途上加盟国 の経済開発計画において重要な役割
を果たすという理由から、ある程度の特別待遇を認めている。ASCM 第 27 条 2 項は、これ
ら途上国を「後発開発途上国(LDC)」と「その他の開発途上加盟国」に分類し、それぞれ
に異なる待遇を与えている。
ASCM
14
「後発開発途上国」と「その他の開発途上加盟国」は輸出補助金の禁止を免除される。
つまり、これらの国々は輸出補助金を政策の一環として企業に供与することが許されてい
る。しかし、「その他の開発途上加盟国」には輸出補助金の許可は 1995 年の WTO 発足か
ら 8 年間の猶予と、やや厳しい制約が課されている 。また、「その他の開発途上加盟国」
は補助金の水準を 1995 年のレベル以上に引き上げることを禁止されている。
15
輸入代替補助金の待遇は輸出補助金より厳しい内容となっている。「後発開発途上国」は
8 年間の猶予期間後効力を失い、
「その他の開発途上加盟国」については 5 年間の猶予とな
っている。
さらに、「後発開発途上国」は、ある産品の輸出が 2 年間連続で世界貿易の 3.25%以上を
占めた場合競争力を得たと見なされるため、その後 8 年間で斬進的にその補助金を撤廃し
なければならない。一方、「その他の開発途上加盟国」はこの場合 2 年間で補助金を撤廃し
なければならない。
また、僅少(de minimus)ルールについても開発途上加盟国は優遇されている。ASCM
第 27 条 10 項は、開発途上加盟国を原産とする輸入製品の CVD 調査は当該製品に付与され
た補助金が単位あたりで価額の 2%以下もしくは一定の制限つきで当該製品の輸入量が輸
入国の同種産品輸入量の 4%未満であれば当局は調査を終了しなければならない、としてい
る。
さらに、債務の免除及び社会費用負担のための補助金交付が民営化計画の枠組みで行わ
れ、これらの補助金が民営化計画と直接結びついている場合には禁止される補助金に対す
開発途上加盟国は、(1)後発開発途上国(LDC)と(2)その他の開発途上加盟国に分類される。(1)
には国連が LDC に分類している WTO 加盟国及びボリビア、カメルーン、コンゴ、象牙海岸共和国、ドミ
ニカ共和国、エジプト、ガーナ、グアテマラ、ガイアナ、ホンデュラス、インド、インドネシア、ケニア、
モロッコ、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、セネガル、スリランカ、ジンバブエが
含まれる。ただし、これらの国の一人あたり GNP が 1000US ドルに達すれば次に定義する(2)と同様
の規定が適用される。(2)には LDC 以外の開発途上加盟国が含まれる。ただし、これらの国は 1995 年
の WTO 発足から 8 年間を期限として特別待遇が与えられたため、2006 年現在ではすでに失効している。
ただ、8 年の期間を超えて輸出補助金の交付が必要な場合は、満了 1 年前までに委員会と協議ができる。
14
15
16
る他国の救済措置発動は認められない。
ただし、上記した開発途上加盟国の優遇措置はいずれも「相殺可能な補助金」である。
したがって、損害を被っている輸入国は ASCM 第五部の手続きを経て CVD を発動するこ
とが可能である。
17
2.CVD の経済的正当性(
経済的正当性(アンチダンピングとの
アンチダンピングとの比較
との比較)
比較)
経済学者は総じて、貿易救済措置の経済的正当性について懐疑的な目で見ることが多い。
WTO 設立の目的が世界の自由貿易の促進にあり、そのための貿易制限の削減を目標として
いるため、ダンピングに対する AD 措置や損害を及ぼす補助金に対する CVD 措置が、果た
して正当な救済措置手段なのかがこれまで経済学者の多くの議論を呼んできた。
貿易救済措置の正当性を検証するためには、ダンピング慣行や政府の補助金自体が経済
的正当性を有するか否かを検証すべきである。もしこうしたビジネス慣行や政府の政策が
不当なものと判断されれば、被害を受ける輸入国の貿易救済措置は(正確な損害数量等が
計算可能との条件つきで)正当性を持つものであるといえる。それとは逆に、これらが経
済的に不当なものと見なされなければ、輸入国政府の貿易救済措置は正当性を持たないと
換言できる。
ここでは、まずダンピングの正当性に関するクルーグマン等経済学者らの否定的な見解
を紹介し、それと比較しながら補助金の正当性について検証する。多くの経済学者はダン
ピングにおいては独占企業による略奪的価格設定(predatory pricing)が唯一の不当なビ
ジネス慣行であり、さらにこの慣行は理論的には AD ではなく(域外適用が可能であれば)
反トラスト法で解決すべき旨主張している。しかも、これまでの研究では、米国の AD 案
件のなかで略奪的価格設定によるダンピングを理由としたものはあまり多くない。つまり、
理論的な見方をすれば、AD 措置は殆どの場合正当化されないことになる。一方、政府の補
助金、もしくは規模の経済(economy of scale)によるスピル・オーバー効果や(特に途上
国の)幼稚産業(infant industry)育成のための産業政策は、すでにグリーン補助金のよ
うに ASCM で認められている部分もあるが、そもそも補助金による経済効果を計ることは
不可能な点や、各国にとってどの産業が将来有望なのかという基本的な疑問に答えること
は不可能なため、補助金付き製品が輸入国に損害を与えている場合に限り CVD 措置は正当
化される可能性が高い。
(1)AD の状況と
状況とダンピング慣行
ダンピング慣行の
慣行の例
は輸出国企業のダンピング 慣行による製品が輸入され、それが輸入国市場に損害を
与えている場合に輸入国に発動が許されている救済措置である。古くから日本は欧米の AD
措置の餌食であった。WTO が設立された 1995 年から 2005 年 6 月までに日本は 121 件の
AD
16
ダンピングとは、採算を度外視しているか否かに関わらず、外国に国内販売価格より安く輸出する企業
の慣行のことを指す。WTO のダンピングの定義は本来のダンピングの意味とは「採算を度外視しているか
否かに関わらず」という部分で異なっている。
16
18
調査(うち米国が 31 件、EC が 8 件)と 85 件の発動措置(うち米国が 20 件、EC が 7 件)
を受けている 。
17
ドーハラウンドでは、加盟国政府による AD の濫用を防ぐためにルール交渉が行わ
れている。加盟国は AD の利用についてはダンピング慣行を阻止するための重要な貿易救
済措置との意識を持っている反面、被 AD 対象国である日本や韓国 らは「AD フレンズ」
を結成して AD 発動国の濫用を防ぐために、正常価額の決定やレビューの規律の強化を求
めている。
WTO
18
以上で述べたように、経済学者の間では AD の経済的正当性は低いものと認識されてい
る。ダンピングの発生には様々な原因が考えられるが、そのなかでは(1)独占企業の企
業戦略、(2)市場進出のための価格設定、そして(3)市場開放の速度の違いから生じる
価格差が主な原因である。以下ではこれらの具体例を挙げる。
① 独占企業による
独占企業によるダンピング
によるダンピング
不完全市場の結果として生じる独占企業の企業戦略がダンピング慣行につながる。クル
ーグマン によると、ダンピングは(1)市場が不完全(imperfect market)であり、企業
が価格を決定できる、(2)市場が分割(segmented)されており、国内消費者は輸出製品
を簡単に購入できない、という条件下で発生する。つまり、不完全競争のなかで生じた独
占企業はこうした条件下ではダンピングをおこなえば利益が得られると判断する。通常、
輸出先国の市場の価格弾力性(price elasticity)が国内のそれより高ければ高いほど、また
限界費用(marginal revenue)が限界収入(marginal cost)を下回る限り、この企業には
輸出製品の価格を下げて輸出するインセンティブが働く。
19
これは価格差別(price discrimination)というわれる企業行動の一つであるが、例えば
航空機チケットの学割のように、企業は戦略の一つとして価格差別を行うのが通例である。
国内市場と輸出先の国内市場の特徴が(価格弾力性の違いのように)異なれば、企業はそ
日本は、被 AD 調査国・被 AD 措置発動国としては全体で 5 位(調査では 1 位:中国(434 件)、2 位:
韓国(212 件)、3 位:米国(158 件)、4 位:台湾(155 件)、措置発動では 1 位:中国(317 件)、2 位:
韓国(123 件)、3 位:台湾(94 件)、4 位:米国(88 件))となっている。
出典:WTO 事務局資料(http://www.wto.org/english/tratop_e/adp_e/adp_e.htm)
AD フレンズは、日本と韓国の他ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、香港、イスラエル、ノル
ウェー、台湾、シンガポール、スイス、タイの計 13 カ国で構成されている。
17
18
19
Krugman, Paul R., and Obstfeld, Maurice, “International Economics: Theory and Policy, Sixth
Edition.” 2003. Addison Wesley. Massachusetts.
19
の状況に適合しながら戦略を展開する。
この反面、アンチダンピング措置を正当化する企業慣行も存在する。独占企業のなかに
は略奪的価格設定(predatory pricing) を通じて競争を排除しようとするインセンティブ
があり、これが国際貿易において実行されればダンピングが成立する。国際経済研究所
(IIE)のグラハム上席研究員によると、この略奪的価格設定に対するアンチダンピング措
置は経済的に正当化される唯一の条件と述べる一方、下記するとおり多くの経済学者は AD
ではなく半トラスト法で制限すべき旨論じている。
20
② 新規ハイテク
新規ハイテク企業
ハイテク企業による
企業によるダンピング
によるダンピング
(完全、不完全競争を問わず)試行錯誤(learning-by-doing)している新規ハイテク企
業が海外の市場に進出する際、後々生じる利益を見越して原価割れ覚悟で低い価格設定を
行う場合がある。こうした企業は大きな設備投資、R&D 等が初期投資として必要である一
方、海外市場での地位をある程度確立するためには価格をなるべく下げる必要がある。こ
れは必要な企業戦略の一つといえようが、輸入国は不当貿易としてアンチダンピング措置
を発動することがある。
③ 市場開放スピード
市場開放スピードの
スピードの違いによるダンピング
いによるダンピング
それぞれの国における市場開放の速度の違いを原因として生じるダンピングもある。例
えば、政府系企業が民営化され、それまで政府調達規制での国内産業に制限されていた部
品調達を海外企業と競争させるようになった国と、未だ調達先を国内産業に限定している
国がある。この場合、製造企業は国内では高目の価格設定が可能であるが、海外で競争す
る場合は安く設定しなければ競争に勝てない。この論理ではダンピング慣行は自然に生じ
る。
(2)AD 措置の
措置の経済的正当性
以上で述べたように、企業によるダンピング慣行は、ほとんどの場合経済的合理性に基
づき行われる。新規ハイテク企業にとって海外市場の開拓は重要な戦略の一つであり、コ
スト割れを覚悟で安売りすることにより海外市場参入を狙うのは自然ともいえる。また、
民営化された企業が、各国間の市場開放スピードのずれにより海外で安売りしてしまうケ
市場が不完全な場合、価格は所与ではなく企業が決定できるため、独占企業は一時的に製品価格を下げ
ることで競争相手(Potential)の市場参入を妨げることが可能である。詳しくは John S. Vickers. “The
Economics of Predatory Practices,” Fiscal Studies, 1985, 6(3), 24-36.を参照されたい。
20
20
ースも十分考えられることである。一方、独占企業の略奪的価格設定は不当な慣行といえ
るが、そもそも独占企業は国内であれば反トラスト法の適用で対処することが可能である。
しかし、反トラスト法の域外適用は未だ発展途上段階にあるため、被害を受けている国は
AD で対処することが許されるであろうが、これまでにこの略奪的価格設定によるダンピン
グ慣行は例が少ないとの調査結果がある。
つまり、ほとんどの場合ダンピング慣行は経済的正当性が認められるため、あくまで理
論上であるが、AD 措置の正当性は低いことになる。それでも世界における AD 発動件数が
多いのは、現在の WTO の AD 協定が経済的合理性に欠けるか、または AD の発動が経済的
な理由以外で決定されることが多いことを示している。
(3)CVD 措置の
措置の経済的正当性
これまではアンチダンピングの経済的正当性について見てきたが、政府の補助金に対す
る CVD 措置には正当性はあるのであろうか。CVD は相手国政府による補助金額に相当す
る額の関税を上乗せすることで公正化を図るものであるが、政府の補助金自体に不公正の
要素が含まれなければ CVD の正当化は出来ないことになる。
補助金の正当性については、まずどこまでの補助金が正当化される範囲なのか、そして
好ましくない補助金はどれなのかを考えることが重要である。市場経済国では政府が無差
別に国内企業に補助金を与えることは論外であるが、困窮ビジネスを支援する目的で政府
が補助金を与えることも市場における自由競争の当然の結果としての企業の撤退を回避す
ることであり、正当性はない。一方、経済学者のあいだでは特殊な性格をもつ経済主体に
対する補助金は正当性があると信じられている。具体的には以下の補助金は理論的には正
当性があると考えられている。
① 環境等外部性(positive externality)を伴う補助金、
② 潜在的な規模の経済(unrealized scaled economy)の存在によるスピル・オーバー効果
を伴う補助金、
③ 幼稚産業(infant industry)の育成に必要な補助金。
ASCM
で規定されている CVD の対象とならない補助金、いわゆるグリーン補助金 はお
21
第 8 条 2 項により以下の正確をもつ補助金はグリーン補助金に分類されていた。
(1) 企業もしくは高等教育機関もしくは研究機関が企業との契約に基づいて行う研究活動に対する補
助金、
(2) 地域開発の一般的な枠組みに基づいて不利な立場に与えられる補助金で、その地域内で特定性を
21
ASCM
21
おむね上記の考えに基づいて生み出された。しかし、前出のグラハム上級研究員によると、
研究開発等が実際にスピル・オーバー効果を生み出すことが出来るかといえば必ずしもそ
うとはいえない。例えばエアバス社がこの考えに基づいて補助金を供与されたが、航空機
製造業界の外で航空機製造の技術が利用されているかといえばそうでもない(自動車製造
技術がスピル・オーバー効果の一つの例と考えられるが、現時点ではコストが高くついて
しまい、販売までは至らない)。
また、幼稚産業育成を目的とした補助金は、将来的にその補助金対象産業の成長が実現
できるかどうかは供与した時期では分からない。例えば、1970 年代にガーナ政府が鉄鋼産
業育成のために多大な補助金を自国産業に供与したが、ガーナの鉄鋼産業の成長を見た者
はいない。一方、同時期に韓国政府が補助金を与えた鉄鋼、造船、セミコンダクターとい
った産業が今では世界を代表する産業へと成長している。さらに、ブラジル政府は鉄鋼、
コンピューター、航空機製造等幅広い産業に対して補助金を与えたが、そのうち航空機産
業(Embraer 社、小・中型ジェット機の製造)だけが成長したといえる。つまり、幼稚産
業育成のための補助金が正当化されるか否かは長い目で見た判断が必要となり、その時々
で補助金を与えるか否かの議論はとても難しいものである 。
22
結論としては、ほとんどの AD は経済的理論では正当化されない一方、CVD の発動につ
いては政府の補助金の正当性がさほど見受けられないことから、(国内産業が輸出国補助金
により損害を被っている場合に限り)正当化しやすい。むしろ問題があるとすれば CVD 調
査における補助金額であろう。AD は無論 CVD が最終的に正当化されるためには補助金額
の正確な計算が必要となる。実践ベースでの政府の CVD は、セカンドベストとして CVD
と補助金額の乖離を可能な限り小さくする計算方法が導入されるべきである。
有しないもの、
(3) 法令により課される新たな環境上の要件(企業に対し一層大きな制約及び財政的な負担をもたら
すもの)に既存の施設を適合させることを促進するための補助金。
しかし、グリーン補助金は 2000 年に廃止されている。
一方、ASCM のなかでレッド補助金として禁止されている輸出補助金のなかにはスピル・オーバー効果
を生み出すものもある。これらの例としては Embraer 社への輸出補助金等が挙げられる。
22
22
3.世界における
世界における CVD の傾向と
傾向と今後の
今後の見通し
見通し
ここでは世界における CVD の傾向を紹介する。その後、今後の見通しを検証する。これ
までの大まかな流れとして、ASCM が発効された 1995 年から 2004 年の過去 10 年間にか
けて米国や EU が積極的にこの措置を利用している。カナダも 2004 年に世界で初めて中国
に対して CVD 調査を開始する等、措置の積極的な利用が見られる。一方の途上国は AD と
比較するとそれほど CVD を利用していない。また、CVD 件数の推移としては、1999 年に
は調査件数が、翌年 2000 年には発動件数がそれぞれピークを迎え、その後は減少傾向にあ
る。
各国 CVD の最大のターゲットはインドである。対インドの CVD 調査・発動件数はそれ
ぞれ 41 件、25 件と他の被調査・発動国と比較して突出している 。また、CVD の調査対
象となる製品は各国によって異なるが、一般的には卑金属が最も多く、次に食品・飲料水
やプラスチック・ゴム製品の順となっている。当然ながら CVD の発動対象となる製品もこ
れに類似しており、その他野菜や化学製品が主な発動対象製品となっている。
23
今後の傾向としては、ドーハラウンドにおけるルール交渉の行方次第では ASCM の規律
強化が実現し、全体的に件数が減少していくといった見方や、産業構造の変化により特に
主要途上国による CVD 発動が増加するといった見方がある。また、この先中国が市場経済
国と見なされるや否や、欧米等に集中的に CVD 発動をされる可能性が高い。
(1)主要 CVD 調査・
調査・発動国
米国は CVD の先駆者的存在であり、過去における最大のユーザーである。AD 措置の件
数には及ばないものの、米国はこれまでに多くの CVD 調査・発動を実施してきた。図 1 は
1995 年 1 月から 2004 年 12 月にかけて CVD 調査を頻繁に行ってきた、いわば CVD 主要
国による調査件数を表している。1995 年に WTO が発足して以来最大の調査国は米国で、
調査件数は計 70 件にのぼる。第 2 の調査国は 42 件の調査を行った EU であり、そのあと
カナダが 16 件、南アフリカが 11 件、ニュージーランドが 6 件、オーストラリアが 6 件と
続いている。
補足 A では、アジア諸国のなかで過去に多くの CVD 対象となったインドと韓国、さらに現在は非市場
経済として対象から外れているが、将来的には主要対象国となるであろう中国の主要補助金制度を紹介す
る。
23
23
図 1.国別 CVD 調査件数(
調査件数(1995 年~2004 年)
80
70
70
60
50
42
数件40
30
16
20
11
10
6
6
ニュージーランド
オーストラリア
0
米国
EU
カナダ
南ア
調査国
出典:WTO 事務局資料より作成
主要国のなかで南アフリカ以外は先進国であるが、後述するようにメキシコやブラ
ジルは 1995 年にそれぞれ 7 件と 5 件の CVD を発動していることから、1994 年にはかな
り調査が行われていたことになる。
CVD
次に発動件数を主要国別でみると図 2 のような傾向となっている。発動措置件数でも米
国がトップで 45 件、続いて EU が 22 件、カナダが 8 件、メキシコが 7 件、ブラジルが 6
件となっている。
図 2.国別 CVD 措置発動件数(
措置発動件数(1995 年~2004 年)
50
45
45
40
35
30
数
件25
22
20
15
10
8
7
6
カナダ
メキシコ
ブラジル
5
0
米国
EU
発動国
出典:WTO 事務局資料より作成
メキシコやブラジルの発動件数が調査件数を上回っている理由は、両国が 1995 年にそれ
ぞれ 7 件と 5 件の CVD を集中的に発動している。通常調査には最低 1 年はかかるため、1994
年にはデータには含まれていないかなりの数の調査が行われたと見てよい。
調査と発動件数の推移を見てみると(図 3)、調査は 1999 年の 41 件、発動はその 1
年後である 2000 年に 19 件とピークを迎えた。2000 年以降は調査、発動ともに減少傾向と
CVD
24
なっており、調査件数は増減が激しいが、発動件数は徐々に減少している。
図 3.CVD 調査と
調査と発動件数の
発動件数の推移(
推移(1995 年~2004 年)
45
41
40
35
30
数件25
20
19
5
0
10
7
5
3
調査件数
発動件数
19
18
16
15
10
27
25
14
6
14
14
9
15
6
8
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
年
出典:WTO 事務局資料より作成
図 4 は米国と EC の 1995 年から 2004 年にかけての CVD 発動件数推移を表したもので
ある。これによると、米国は WTO 発足当時から 5 件の発動を行っており、その後 1996 年
から 1998 年にかけてほとんど発動していないが、1999 年に 11 件の CVD を発動した。そ
の後、2001 年と 2002 年にもそれぞれ 10 件の CVD を発動した。一方の EC は米国に出遅
れたが、90 年代後半より積極的な姿勢を見せ、2000 年になると 9 件の CVD を発動した。
しかし、それ以降は年間に 0 件から 3 件の発動に留まっている。
このように、CVD 調査・発動件数の傾向は、主に先進国が CVD を頻繁に利用し、その
推移は 1999 年から 2000 年にかけてピークを迎えている。このなかで米国の CVD 利用頻
度は圧倒的であり、例えば 1999 年の全体で 14 件の発動件数のうち 11 件、2001 年と 2002
年は全体で 14 件の発動件数のうちそれぞれ 10 件を占めている。
(2)被 CVD 調査・
調査・発動国
調査・発動の対象となっている国はどこであろうか。これまで頻繁に CVD の対象
となっている国は、その国の政府補助金が他国から問題視されてきた国といえる。また、
もしその国が途上国であれば、ASCM の途上国特別待遇にもかかわらず狙われるほどに補
助金の問題を抱えている国、と置き換えることもできる。図 5 の対象国別 CVD 調査件数と
図 6 の同発動件数から明らかなように、インドに対する CVD が圧倒的に多い。これまでの
インドに対する調査件数は 41 件であり、2 位韓国の 14 件と比較しても突出している。ま
た、インドに対する発動件数は 25 件であり、2 位イタリアの 9 件と比較して圧倒的である。
CVD
25
図 4. 米国と
米国と EC の CVD 発動件数の
発動件数の推移(
推移(1995 年~2004 年)
12
11
10
10
10
9
8
数6
件
EC
米国
5
4
3
2
1
0
0
1995
0
1996
3
2
2
2
2
0
1997
2
2
1
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
年
出典:WTO 事務局資料より作成
図 5. 対象国別 CVD 調査件数(
調査件数(1995 年~2004 年)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
数件
41
14
13
ド 国 ア
イン 韓 イタリ
10
9
8
8
7
6
6
6
EU シア タイ ナダ 台湾 南ア ンス ジル
カ
フラ ブラ
ドネ
イン
対象国
出典:WTO 事務局資料より作成
(3)セクター別
セクター別 CVD 調査・
調査・発動
セクター別で CVD の傾向を見ると、図 6 と図 7 が示しているとおり、卑金属関連製品が
最大の対象品目となっている。卑金属の調査件数は 71 件、発動件数は 56 件と群を抜いて
いる。このうち、米国は卑金属について 42 件の調査を行い、そのうち 32 件について発動
を行っている。EC は卑金属について 13 件の調査を行い、7 件について発動を決定してい
る。いずれの国にとっても卑金属が最大の対象セクターとなっている。最大の CVD 対象国
であるインドについてもやはり対象セクターは卑金属であり、調査では 15 件、そのうち 14
件が発動対象となっている。この傾向は調査対象国第 2 位の韓国についても同じである。
26
図 6. セクター別
セクター別 CVD 調査対象品目(
調査対象品目(1995 年~2004 年)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
71
数件
23
属
卑金
17
飲料 ム製品
・
食品 ック・ゴ
工
加
スチ
プラ
11
繊維
11
10
製品 学製品
物
動
化
セクター
出典:WTO 事務局資料より作成
図 7. セクター別
セクター別 CVD 発動対象品目(
発動対象品目(1995 年~2004 年)
出典:WTO 事務局資料より作成
60
56
50
40
数件30
20
12
8
10
0
属
卑金
料
・飲
品
食
加工
7
野菜
5
繊維
製品
ム
ク・ゴ
ッ
スチ
プラ
セクター
出典:WTO 事務局資料より作成
(4)世界における
世界における CVD の傾向まとめと
傾向まとめと今後
まとめと今後の
今後の動向
上記した CVD の傾向は以下のとおりにまとめることができる。WTO 発足以来 10 年に
わたり、米国と EC に牽引されるかたちで先進国が主な CVD ユーザーであった。一方 AD
を積極的に利用していた途上国は CVD についてはその利用を控えてきた。その反面、CVD
調査・発動の対象となる国はインドや韓国といった主要発展途上国が中心であった。つま
り、CVD ユーザーの先進国とその対象国となった途上国という構図が必然的に浮かんでく
る。
27
また、調査・発動対象品目は卑金属がトップであり、特に米国と EC がこの品目を狙い撃
ちする傾向がある。被調査・発動国としてのインドと韓国の対象セクターが卑金属である
ことから、まさに過去 10 年の CVD の傾向は米国・EC がインド・韓国の卑金属を狙った
構図となっている。米国や EC にとって卑金属をはじめ加工食品、繊維、プラスチック製品
等はセンシティブ品目に挙げられることが多く、WTO 設立以降の関税率引き下げ等による
国内市場の自由化に伴いこれらの分野の企業による CVD 調査申請が増加したことが少なか
らず読み取れる。
また、1997 年にアジア諸国を襲った経済危機は 1999 年から 2000 年の CVD 調査・措置
の急増に大きな影響を与えたと考えられる。第一に、アジア経済危機を原因としてアジア
各国が相次いで通貨を切り下げたために先進国向け輸出が急増した 。米国や EC の卑金属
製造企業はアジアからの輸入急増の恐れ、もしくは実質的な輸入急増により政府に対して
救済措置の申請を行ったものと思われる。第二に、アジア経済危機後に先進国による CVD
が増加していることから、外需に牽引された経済回復を目指したアジア各国政府が、経済
危機により経営が悪化した企業に対して補助金を供与したケースが考えられる。最近米国、
EC、日本が相次いで韓国ハイニックス社の DRAM に対して CVD を発動したが、この案件
はアジア経済危機の際に経営困難に陥った同社に対して韓国政府が政府・民間銀行を通じ
て融資を行ったことを原因としている。また、インドの各種補助金は 1997 年以降に供与さ
れたものが多い。これらの理由のため、先進国による CVD 調査・発動件数は増加したもの
と考えられる。
24
24
1995
年から 2004 年にかけてのアジア地域の対先進国輸出額推移は以下の図のとおりとなっている。
アジアの対先進国輸出額の推移(1995年~2004年)
1000000
)$ 800000
US万 600000
001
( 400000
額出
輸 200000
0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
年
出典:IMF Direction of Trade Statistics より作成
1997 年から 1998 年の輸出額の伸びは 1%であったが、1998 年から 1999 年にかけては 7.5%、1999 年か
ら 2000 年では 17.8%の成長率となり、1998 年以降の為替切り下げの輸出拡大効果が顕著である。
28
今後の見通しとしては以下の 2 通りのシナリオが考えられる。まずは米国や EU といっ
た主要国が相殺関税の利用に消極的になる一方、他国による措置発動が増加するといった
見方。もうひとつはドーハラウンドにおけるルール交渉次第では規律強化が実現し、全体
的に件数が減少していくといった見方である。
最近になって米国や EC による CVD 発動件数が減少している。米国商務省輸入管理課
(Import Administration)や EC 貿易総局によると、この減少は(1)相手国の補助金、
企業データは入手が難しく、CVD の調査は AD と比べて難しい、(2)企業のみを対象とし
た AD と異なり補助金の調査は相手国政府との直接的なやり取りを必要とするため、外交
的にやりにくい面がある、といった点を理由としている。また、ASCM が発効して以来、
先進国はこの協定に準じて損害を及ぼすような補助金を廃止する傾向にあったことも件数
が減っている原因の一つである。今後の産業構造の変化や市場の自由化程度によるところ
もあるが、米国や EC では CVD ではなく他の貿易救済措置が使われていく可能性がある。
一方、他の先進国は米国や EC と比較して未だ関税率が高めなことから 、今後自国の市場
自由化の余地はまだ多く残されており、自由化が進むに連れて貿易救済措置の利用が増え
る可能性が高い。また、途上国のなかでも経済成長率が極めて高いブラジルやインド、中
国といった主要途上国は、将来的には先進国が経験したような産業構造の変化、すなわち
資本集約的産業・ハイテク産業の成長と労働集約的産業の衰退が起こるかもしれず、こう
なれば他の遅れた開発途上国からの労働集約的産業製品(鉄鋼や繊維等)が衰退産業に損
害を及ぼしていくことは十分に考えられる。これは将来的には主要途上国の CVD 発動が増
える可能性を示唆している。
25
上記の見方とは異なり、CVD 発動件数は今後全体的に減っていくであろうというのが第
二のシナリオである。今後 WTO ドーハラウンドのルール交渉がある程度進展し、AD フレ
ンズが主張しているような厳しい規律が導入されれば、各国の同措置の濫用が難しくなる 。
また、これまで多くの CVD が開発途上国の補助金付き輸出製品に向けられてきた。今後
ASCM の「特別のかつ異なる待遇(S&D)
」が強化されることにより、これらの国にとって
は産業政策における補助金の供与を行いやすい環境が整っていく可能性がある。これらの
条件が整えば、全体的に CVD 発動の件数は減少していくであろう。
26
しかし、これらのシナリオに加え、今後中国が米国や EC に市場経済国と見なされれば、
民営化されるであろう国営企業や引き続き補助金が与えられる民間企業に対して次々と
例えば、鉱工業製品の平均関税率(譲許税率)は、米国が 3.2%、EC が 3.9%(日本は 2.3%)である一方、
カナダは 5.3%、オーストラリアは 11%、ニュージーランドは 11%と高い。
現在のルール交渉では AD の議論が中心となっているが、CVD の規律は AD の議論で決まった決定と
同様な決定が行われる。
25
26
29
が発動される可能性もある。現在でも米国や EC は中国の補助金に対して批判を行っ
ており、近い将来集中的に措置が発動されるかもしれないことも付け加えておく。
CVD
30
第 2 章 WTO における代表的
における代表的 ASCM 判例と
判例と韓国 DRAM 事件
1.背景
協定は外交的な手段により各国の利害を超えて合意された国際条約であることか
ら、条文には国内の法律より曖昧な箇所が圧倒的に多い。WTO には 150 以上の国が加盟し
ており、全ての加盟国の意見を一致させて条文化することはいわば至難の業であり、結果
としての曖昧な条文はむしろ当然といえる。
WTO
の紛争解決機関(以下、DSB)は利害関係国間の協議、小委員会(以下、パネル)、
そして上級委員会(Appellate Body、以下 AB)で構成される。DSB に提訴した加盟国は
まず利害関係国と協議を行い、そこで合意が得られない場合はパネル設置要請を行う。そ
の後、パネルの決定に不服な提訴・被提訴国は AB に申し立てることができる。AB は訴え
のあった法律の解釈のみを行い、最終報告書を DSB の承認にかける。
WTO
上記したとおり WTO 協定条文には曖昧な箇所が多いことから、パネルや AB の条文解釈
は先例法として非常に重要な働きをしている。これら DSB による条文解釈はほぼ例外なく
事実上の法令となるため、事後のパネルの解釈に大きな影響を与えるのである。
も例外ではなく、過去の DSB による ASCM 関連の判決はそれ以後の案件に重要
な影響を与えてきた。過去の注目すべき ASCM 関連案件としては以下のリストにある判例
が挙げられる。
ASCM
(1) 米国-韓国 DRAM 事件(DS296):政府の指示、委託の明示なしで政府から銀行へ
の指示があったか否かが焦点。
(2) EU-韓国 DRAM 事件(DS299):(1)の事件の争点に加え、損害認定における
“Non-attribution”ルールが十分であったか否かが焦点。
(3) EU 鉄鋼(イギリス)事件(DS138):国営企業の民営化における「市場価格」をど
う扱うかが焦点。
(4) カナダ軟材事件(DS236):アップストリームでの補助金をダウンストリームでど
う便益を計算するか、また適当な市場がその国に存在しない場合、他の国の市場価
格を参照できるかが争点。
(5) 米国綿花事件(DS267):ASCM と農業協定の関連性が焦点。
(6) ブラジル-カナダ航空機事件(DS71):利益計算のベースは補助金額と損害額のど
ちらが「適当(Appropriate)」か、が焦点。
31
年 1 月に韓国ハイニックス社製 DRAM 製品に対して第一号となる CVD を発動した
日本にとって、上記リストのうち i と ii の事例は非常に重要となる。韓国は同年 3 月 14 日
に日本の対ハイニックス社 CVD に対して WTO 提訴を発表、6 ヵ月以内に二国間協議で合
意できなければパネル設置という流れになる。過去に韓国は WTO 提訴案件のほとんどをパ
ネルに託している。さらに、韓国政府は本件が過去のパネルや AB では明確にされなかった
論点の決着をつけるための最高の機会と見ていることから、パネル設置の可能性は高いと
みられる。
2006
したがって、この章では米国-韓国 DRAM 事件(DS296)と EU-韓国 DRAM 事件
(DS299)を具体的に紹介、その上で日本のハイニックス社製 DRAM 製品に対する CVD
発動について簡単に紹介する。
32
2.韓国 DRAM 事件
(1)米国 – 韓国 DRAM に対する CVD(DS296)
協議要請日:2003 年 6 月 30 日
パネル報告:2005 年 2 月 21 日
AB 報告:2005 年 6 月 27 日
背景:
年 11 月 1 日、米国のマイクロン・テクノロジー社(Micron Technology, Inc.)は、
米国商務省(以下、DOC)及び国際貿易委員会(以下、ITC) に韓国企業の輸入 DRAM
製品に対する CVD 調査要請を提出した。これにしたがい同年 11 月 8 日に ITC は損害認定、
27 日には DOC が補助金認定の調査を開始した。
ITC は 2000 年から 2003 年、
DOC は 2001
年 1 月 1 日から 2002 年 6 月 30 日を調査対象期間とした。また、米国当局は DRAM を調
査対象製品、その製造会社であるハイニックス社(Hynics Semiconductor Inc.)及びサム
スン社(Samsung Electronics Co. Inc.)を調査対象企業とした。
2002
27
は 2002 年 12 月 27 日に暫定的な損害認定、翌年の 2003 年 8 月 11 日には最終損害
認定を公表した。一方、DOC は 2003 年 4 月 7 日にハイニックス社のみに対して暫定的な
補助金認定を行い、57.37%の暫定 CVD を賦課、その後 6 月 23 日には同社に対して最終補
助金認定を発表、同年 8 月 11 日に最終的に 44.29%にのぼる CVD を課した。
ITC
韓国は 2003 年 6 月 30 日に DOC の暫定・最終補助金認定、ITC の暫定・最終損害認定
を不服として DSB に米国との協議を要請した。しかし、両国に折り合いが付かず、同年 11
月 19 日に韓国はパネル設置要請を行った。
パネルの判断:
本件は、韓国政府が政府系金融機関や民間金融機関に対して当時経営が悪化していたハ
イニックス社に融資を行うよう「委託(entrustment)」もしくは「指示(direction)」して
いたか否かが焦点であった。ASCM 第 1 条(a)(1)(iv)は補助金について「-省略- 政府が
民間団体に対し、-中略- 政府が通常とる措置と実質上異ならないものをとることを委
託し若しくは指示すること」と定義している。パネルは「委託」や「指示」が政府の金融
的貢献(financial contribution)と見なされるためには、(1)政府による肯定的な行動、
救済措置の申請が企業から提出された場合、DOC(具体的には輸入管理課(IA))が補助金の存在、金
額について、ITC が損害の認定を担当する。
27
33
つまり「委任」もしくは「命令」があり、(2)特定の者に向けられており、(3)特定な
業務もしくは任務を目的としなければならない、という 3 つのテストを必要とした。韓国
は米国-輸出制限事件(US-Export Restraints)を引用してパネルに対して政府の肯定的
な行動は「明示的(explicit)」でなければならず、これをテストの基準に組み込むよう主張
したが、パネルは「明示的もしくは暗示的(implicit)、フォーマルもしくはインフォーマ
ル」でもよいが、各金融機関への委任もしくは命令が「証明力(probative)」がありかつ抗
しがたい(compelling)」証拠がなければならない、とした。
続いてパネルは上記のテストに事実を照らし合わせた上で以下の結論を述べた。DOC が
主張している韓国政府がハイニックス社の再建を支援する政策はあり、また同政府は金融
機関への影響力を有しているが、実際に政府が「委託」もしくは「指示」を金融機関に対
して行ったという証拠が不十分であり、DOC の CVD 調査は WTO に違反している。また、
パネルは「委託」もしくは「指示」がなかったことから、利益および特定性もなかったと
の判決を下した。
の判断:
AB はパネルの「委託」もしくは「指示」が「委任」もしくは「命令」を意味するとの判
断を「狭すぎる(too narrow)」と判断、「委託」には政府が民間に対して責任を与える行
為、「指示」には何者かに(政府の)権限を行使するという意味が含まれていると述べた。
この定義は ASCM が定義する「委託」と「指示」を広く定義し、当局が補助金認定を行い
やすくする。
AB
さらに、AB は米国が上訴していたパネルによる DOC の証拠の審査方法について、DOC
が証拠全体(in totality)に基づき補助金認定を行ったにもかかわらず、パネルは個々の証
拠をそれぞれ別に審査を行っており、DOC と異なる手法(de novo)を使ったとしてパネ
ルの判断を誤りとした。
(2)EC-韓国 DRAM に対する相殺関税
する相殺関税(
相殺関税(DS299)
協議要請日:2003 年 7 月 25 日
パネル報告:2005 年 6 月 17 日
背景:
年 7 月 25 日、EC は域内最大の DRAM 製造会社であるインフィニオン社
(Infineon)の申請により韓国ハイニックス社およびサムソン社製 DRAM に対して
CVD 調査を開始した。米国マイクロン社(Micron)はこの申請のサポートと調査協力
2002
34
を行った。補助金調査対象期間は 2001 年 1 月 1 日から 12 月 31 日まで、損害調査対象
期間は 1998 年 1 月 1 日から 2001 年 12 月 31 日までであった。
年 4 月 24 日、EC は暫定措置を発表、ハイニックス社製 DRAM に対して 33%
の暫定 CVD を発動した。一方のサムソン社についてはデミニミスと判定、調査対象か
ら外した。そして 2003 年 8 月 22 日、EC はハイニックス社に対して最終的に CVD を
発動した。暫定措置の対象となった 2 つの融資プロジェクトに加え、最終決定では結局
5 つの融資プログラムが相殺関税可能な措置とされ、34.8%の関税を賦課した。
2003
パネルの判断:
パネルは韓国の多数の訴えを退けた一方、EC の損害認定は補助金付き輸入製品が損害を
及ぼしている、つまり当該輸入と国内産業の損害との因果関係の立証が不十分との判断を
下した 。パネルによると、ASCM 第 15 章 5 項の“non-attribution”ルールは単なる形式
上(pro forma)だけのものではなく、それゆえ調査当局は単に同項のリストをチェックす
るだけでは十分とはいえない。EC は需要の低下、過剰生産、第三国からの非補助金付き輸
入製品の損害効果といった他の要因を分析していない。また、パネルは輸入と損害の因果
関係を立証する手段として定性的主張ではなく、可能な限り影響を数量化する努力を行わ
なければならないと強調した。
28
また、パネルは“non-attribution”ルールは AD のケースでも同様に扱われると述べた。
(3)日本の
日本の対ハイニックス社製
ハイニックス社製 DRAM に対する CVD の発動について
発動について29
日本では 2004 年 6 月 16 日にエルピーダメモリ社とマイクロンジャパン社が韓国ハイニ
ックス社製 DRAM 製品に対する CVD 調査を申請した。これを受けて同年 8 月 4 日に財務
これは“non-attribution”ルールと呼ばれる。ASCM 第 15 章 5 項参照。「補助金の交付を受けた産品
の輸入が当該補助金の及ぼす影響によりこの協定に定義する損害を与えていることが立証されなければな
らない。当該輸入と国内産業に対する損害との因果関係は、当局が入手したすべての関連する証拠の検討
に基づいて明らかにする。当局は、当該輸入以外の要因であって、国内産業に対して同時に損害を与えて
いることが知られているいかなる要因も検討するものとし、また、これらの他の要因による損害の責めを
当該輸入に帰してはならない。この点について関連を有することがある要因には、特に、当該補助金の交
付を受けていない同種の産品の輸入の量及び価格、需要の減少又は消費態様の変化、外国の生産者及び国
内生産者の制限的な商慣行並びに外国の生産者と国内生産者との間の競争、技術の進歩並びに国内産業の
輸出実績及び生産性を含む。」
詳細については経済産業省貿易救済措置のウェブサイトを参照。
貿易救済措置:http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm
大韓民国ハイニックスセミコンダクター社製半導体DRAMに係る相殺関税
賦課の調査の結果について:
28
29
http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/cvd/dram_main.pdf
35
省と経済産業省が共同で調査を開始、2005 年 8 月 2 日に 6 ヶ月の延長を決定したが、最終
的には 2006 年 1 月 20 日の閣僚会議での承認を経て、同月 27 日に 27.2%の CVD を発動し
た。
本件では韓国政府の公式文書が存在しなかったため、日本政府は韓国政府が金融機関に
対して当時経営危機に陥っていたハイニックス社に金融支援を「委託」もしくは「指示」
したかについて証明することが必要であった。公式文書が存在していたならそれをもって
政府の財政的支援(financial contribution)を証明できたであろうが、それがなかったた
めに日本政府はいくつかの客観的な証拠から総合的に判断して韓国政府の財政的支援を証
明しようとした。
具体的には、米国や EU のケースと同様以下のような事実が補助金の存在の証拠として
使われた。第一に、韓国政府がハイニックス社の正常化を経済政策の一つとして位置づけ
ていた事実。第二に、韓国政府が銀行に対して関与できる法的枠組み、また政策が銀行の
与信政策に影響を及ぼす可能性があった事実。第三に、当時のハイニックス社の経営状況
では市場からの資金調達は困難だった事実。第四に、政府がハイニックス社を支援するよ
うな発言が相次いだ事実。そして最後に、銀行による与信判断に非商業性の特徴があった
事実である。
新規融資、協調融資、輸出保険、転換社債の引受、債務の株式転換弁済期延長等韓国の
金融機関によるハイニックス社に対するさまざまな支援措置が調査対象となったが、その
なかで調査対象期間である 2003 年まで続いている支援融資が CVD 率計算の対象となった。
具体的には公的金融機関、民間銀行による 2001 年 10 月措置と 2002 年 12 月措置によるハ
イニックス社の利益の合計である 27.2%が CVD として賦課されることとなった。
また、日本政府は輸入量の著しい増加、プライス・アンダーセリング及び価格の押し下
げ、各種国内経済指標、その他賃金や雇用の減少等、補助金付きハイニックス社製 DRAM
製品の輸入が日本に及ぼした損害や因果関係を証明した。
韓国政府は日本の CVD 発動に対して 2006 年 3 月 14 日に WTO 提訴の意向を示した。
韓国政府に通じた情報筋によると、韓国政府が以前米国と EU の CVD を提訴した際に米国
の CVD に関する上級委員会の判決はパネルにおける個々の補助金の証拠(evidential)に
基づく判断を誤りとしただけであり、証拠の中身についてはまだ決着していない。また、
EC のケースではこの部分について重要な判決が出ていないことから、韓国政府はこの証拠
の部分は ASCM の弱点であり、DSB による明確な判断の必要性を感じていたところ、日本
が CVD を発動したことはむしろ好機だと感じている。また、韓国政府は、DRAM 輸入と
36
損害の因果関係についての日本の証明は、米国や EC のそれと比較して説得に欠けると考え
ている。したがって、韓国政府は補助金の「証拠」と損害認定両方について日本政府を攻
撃すると思われる。
37
II. 各国の
各国の CVD 制度
第 1 章でみたとおり、米国と欧州は他の加盟国と比較して圧倒的に多くの CVD 調査・発
動を行ってきた。一方、日本は 2006 年 1 月の対韓国ハイニックス社製 DRAM に対する発
動が CVD 第 1 号であった。経済構造上の違い、救済措置に対する考え方、救済措置以外の
方法による産業支援、輸入製品競合企業の競争力・・・その他いろいろな理由はあろうが、
これまでの日本は救済措置の利用にあまりにも消極的であったといえる。そのような消極
性によって、日本企業が過去に他国政府の不当な政策や他国企業のダンピングにより実際
には損害を被ってきたが、それは見過ごされてきただけかもしれない。
米国・EU・日本の CVD 制度とその運用は異なる。WTO の ASCM が存在しながら、そ
の条約文が曖昧なため、加盟国は自分独自の解釈を行ってきたことに起因している。米国
の CVD 制度は「1930 年関税法第 7 編」を起源としており、同法は 1995 年 1 月 1 日に ASCM
の発効に伴い改正された。EC は ASCM をベースとして 1997 年に「理事会規定第 2026/97」
を発効、その後何度か修正を重ねてきた。日本は 1910 年の「関税定率法」第 7 条で CVD
の規定を設け、その後「相殺関税に関する政令」、「相殺関税及び不当廉売関税に関するガ
イドライン」という流れで整備されてきた。
また、この 3 国は CVD 発動に向けた環境においても非常に異なる面を有している。米国
はいわば「CVD の父」であり、WTO 設立前から他国にその措置をフルに活用してきた。
こうした長い歴史と豊富な経験は当局だけでなく企業や政治家の間でも浸透し、多くの通
商専門弁護士を生み出してきた。一方、米国に出遅れた EC は 90 年代後半より積極的に企
業に対して各国の不公正貿易を訴え、企業とのパートナーシップ構築に成功した。日本は
貿易立国として、また AD の最大の被害国として、むしろこうした救済措置には消極的な
立場をとってきたため、完全に出遅れたといえる。
前章で紹介したとおり、ASCM は徐々にではあるが過去の判例を通じて整備されてきた。
また、加盟国はパネル・上級委員会の判定により国内法の整備に尽力している。ドーハラ
ウンドにおいて各国は AD 協定とともに ASCM の規律強化に向けて交渉を進めている 。
このように、補助金・CVD に関する規律が強化されると共に、公正な土台で加盟国が自由
貿易を求めていくのであれば、かなりの程度で CVD 制度の活用は正当化される。様々な問
題が残るが、不公正貿易を正す、という目的は普遍である。
30
AD 協定、ASCM、セーフガード協定の規律強化はルール交渉において進められている。日本は韓国や
スイスといった加盟国と「AD フレンズ」を結成、米国の救済措置の乱用を防ぐことを目的としている。「知
りえた事実(Facts Available)」、「レッサー・デューティー(lesser Duty)」、「サンセット・レビュー(Sunset
Review)
」等が主な交渉議題。
30
38
第 3 章では、米国の CVD 制度とその運用、発動に向けた環境を紹介する。米国の制度は
その特異性のため多くの加盟国から非難を浴びている。そのため制度自体は問題がないと
はいえないが、同国の積極性は日本が見習うところが多い。第 4 章では、EC の CVD 制度
とその運用、発動に向けた環境に触れる。EC は米国と比較すれば ASCM に適合した制度
を有していると同時に、「共同体の利害(Community Interest)」の概念を取り入れており、
公正な制度とその運営を行っているといえる。一方、透明性が低いという点がネックとな
っている。第 5 章では、日本の CVD 制度とその運用、発動に向けた環境を説明する。日本
の制度は大筋 EC のそれを似通っているが、環境は全く異なる。最後に第 6 章では米国・
EU・日本の CVD を比較検証する。この 3 国の制度はどう異なるのか、運用の仕方は違う
のか、CVD をとりまく政府・政治家・ビジネスの関係はどのように違うのかについて検証
する。そして、最後に今後日本がどうあるべきかを簡単にまとめる。
39
第 3 章 米国の
米国の CVD 制度とその
制度とその運用
とその運用、
運用、発動に
発動に向けた環境
けた環境
この章では、まず米国の CVD 制度とその運営、さらにはそれをとりまく環境について紹
介する。世界で最もこの制度を多用してきた米国には何か特別な制度が存在するのか、
ASCM との関係はどうか、政府当局は効率的な運営を行っているのか、また、政府当局と
政治家やビジネスとの関係、さらに通商専門弁護士は豊富なのか等に着目しながら総合的
な環境を分析する。
1.米国の
米国の CVD 制度の
制度の特徴
(1)米国の
米国の CVD 制度の
制度の歴史
米国の CVD 制度 は「1897 年関税法」の発効に遡るが、1970 年頃まではほとんど紛争
事件は見当たらなかった。当時、米国は輸入相手国の補助金問題を見つけた際は二国間協
議等をつうじて外交的な手段で問題解決を試みていたからである。
31
「1974 年通商法」により CVD に関する規則が一部変更された。これは損害の認定を条
件として、GATT 加盟国からの免税輸入への相殺関税適用を認めた他、調査・発動手続き、
発動期間等を明確にした。当時管轄していた財務省と ITC はこの新たな法・規制をベース
に救済措置をフルに活用し始めた。
米国では 1978 年頃までに救済措置の発動がかなり本格化となり、同時期にはコロンビア、
マレーシア、シンガポール、タイ等からの繊維製品輸入に対して頻繁に CVD を発動した。
年代には米国や EU は独自の CVD 制度を東京ラウンドの議題に組み込み、複数国
間(plurilateral)ベースで補助金・相殺措置協定(Subsidy Code) の合意に至った。同
協定には米国、カナダ、オーストラリア等の先進国が加盟した一方、それまでの米国の度
1970
32
実際は「1890 年関税法」が起源、ただし、対象は砂糖のみ。「1897 年関税法」ではすべての輸出補助
金が CVD 対象となり、本格化した。現在の米国 CVD の法的根拠は 1930 年関税法(スムート・ホーリー
関税法)第 7 編、規則は商務省規則(CFR)パート 351、国際貿易委員会規則パート 201 及び 207、1997
年最終手続規則、1998 年最終 CVD 実質規則、その他数回改正あり。
本協定の主な規定は以下のとおり。
(1) 第一次鉱業製品だけでなく、それ以外のものについての輸出補助金の禁止、
(2) 国内販売価格よりも輸出価格を低くする結果となるものであるという従来の用件を廃止した輸出
補助金の説明、および補助金慣行のアップデートされた例示的リストの付加、
(3) 損害を引き起こす場合には国内補助金であっても救済措置が認められる、
(4) 補助金制度の実施には世界貿易および生産の条件を考慮、
(5) 開発途上国による輸出補助金の使用および段階的解消を定める規定、
(6) 存在または因果関係のテスト等。
31
32
40
重なる CVD 発動に嫌気がさしていた途上国は加盟を避けた。米国は「1979 年通商協定法」
を発効、Subsidy Code の国内法手続きを完了した。これにより、「1930 年関税法」に CVD
法の新規定を含む新しい第 7 編が加わった。
その後、鉄鋼業界を含む 30 にのぼるブラジル産業に対して CVD を発動するなど貪欲に
同制度を利用していた米国は、ウルグアイラウンドで EU と共同して補助金協定(ASCM)
を発効することに成功した。ASCM は一括受諾(single undertaking) により全加盟国に
より合意された。1994 年、米国は ASCM に基づき「ウルグアイ・ラウンド協定法」を発効、
「1930 年関税法」第 7 編が一部改正された。
33
ASCM
が発効された 1994 年以降の米国の CVD 発動・調査件数は図 9 のとおりである。
図 9. 米国の
米国の CVD 調査・
調査・発動件数の
発動件数の推移(
推移(1995 年~2004 年)
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
18
12
数件
1111
10
4
3
1
調査件数
発動件数
7
6
5
10
2
0
1
2
5
2
3
2
95 996 997 998 999 000 001 002 003 004
19
1
1
1
2
2
2
2
2
1
年
出典:WTO 事務局資料より作成
図 9 によると、調査・発動件数ともに 1999 年~2001 年にかけて増加した後、2000 年代
は減少している。CVD 件数の増減の原因には米国の経済循環、他国の経済循環、輸出入の
状態、外交的な問題、各国の補助金制度の動向とありとあらゆる要素があると考えられ、
今後このまま件数が減っていくとは限らない。実際に米国の WTO 事務局通報によると
2005 年だけで 21 件の調査を開始している。
(2)米国 CVD 制度
一括受諾により、WTO に加盟するには一部例外を除いた全ての協定に加盟しなければならなくなった。
ウルグアイラウンド以前のラウンドでは、加盟国は都合のよい協定だけを選んで加盟していた。
33
41
上記した CVD 法の修正によって米国の制度は変化を遂げてきた。現在の法はおおむね
ASCM に準拠しているといえるが、その曖昧な条文から米国独自の法解釈による調査・発
動慣行が実施されており、各国の非難の的となっている。ここではこうした米国独自の制
度、ASCM の法解釈を中心に取りあげる。
知りえた事実
りえた事実(
事実(facts available)
第 12 条 7 項によると、CVD 調査において、相手国・企業が調査中の国が求める
情報を提供しない場合または調査を著しく妨げる場合には、知ることができた事実(facts
available)に基づいて仮決定あるいは最終決定を行うことが出来る。米国は相手国・企業
が情報を開示しない場合、“worst information”、つまり相手にとって徹底的に不利となる
自らの情報を使う傾向がある。米国の考え方は相手国が情報を開示しない場合には、何か
都合の悪い情報を隠していると考え、それに対する罰を与える。
ASCM
アップストリーム補助金
アップストリーム補助金
アップストリーム補助金とは、米国に輸出された最終製品の製造段階で使われる原料等
インプットに対する政府補助金であり、1930 年関税法第 771(a)によると、利益が原料製造
者に供与されている場合に存在する。このタイプの補助金は ASCM には表記されておらず、
米国独特の定義である。
レッサー・
レッサー・デューティー
第 19 条 2 項では「補助金の額よりも少ない額の相殺関税の賦課が国内産業に対す
る損害を除去するために十分である場合には、相殺関税の額は、その少ない額であること
が望ましい」とされ、レッサー・デューティーの原則が奨励されているが、米国では採用さ
れていない。つまり、どの案件においても米国は補助金による利益を売り上げで除した数
値を CVD 率として算出する。
ASCM
行政レビュー
行政レビューと
レビューと遡及的徴収
米国の CVD 制度下では図 9 のようにレビュー後に税率が引き上げられた場合遡及的
(retroactive)に課税することが可能である。つまり、CVD 措置の発動後に行われる行政
レビューで関税率変更もしくは撤廃の調査を実施、その結果税率が引き上げられれば 1 年
目の暫定税率についても遡及して、利子を加えたうえで徴収する。この制度では過去に遡
って徴収が行われるため、対象企業(徴収は輸入企業から)にとっては不確実性が残る。
42
違反である可能性も高く、(AD 含む)このレビュー制度に対してメキシコは 400 に
のぼる箇所を WTO 違反として提訴する準備をしていた。もしこれが WTO 違反と認定され
れば米国は制度を根本から改める必要が生じる。
WTO
図 10.行政レビュー
行政レビューにおける
レビューにおける遡及的徴収
における遡及的徴収の
遡及的徴収のメカニズム
90日分遡ってボンド10%発効
ボンド10%発効
ボンド20%発効
1年目
申請書提出
暫定措置
相殺関税率10%
商務省最終決定
相殺関税20%
ITC最終決定
キャッシュ徴収20%
10%プラス利子の徴収
キャッシュ徴収20%
2年目
必要あらば行政レビュー
3年目
必要あらば行政レビュー
レビュー後の相殺関税率30%
出典:ホワイト&ケース法律事務所ワシントン事務所のインタビューより作成
サンセット・
サンセット・レビュー
年のウルグアイラウンド合意以前、米国では CVD を無効にするメカニズムが存在
しなかった。したがって、相手国が米国に CVD を止めさせる唯一の方法は補助金を完全に
廃止するか、もしくは米国産業に損害を与えないようにすることであった。ウルグアイラ
ウンド交渉の末、米国はサンセット・レビューに合意し、相殺関税発動後 5 年以内にレビ
ューを行うこととなった。
1995
のサンセット・レビューによれば、レビュー時に CVD を無効とすることで相手国
が補助金を引き続き(continuation)当該企業に供与するか、もしくは補助金による損害が
引き続き残る可能性がある(Likelihood)場合 、引き続き賦課することが出来る。ここで
の問題は米国の“likelihood”の解釈である 。米国の慣行では “likely”が“probably”
ではなく“possibly”と置き換えられている。“possibly”だとかなり低い可能性を含むが可
能であり、これは殆どの措置の延長を引き起こす。各国はこの解釈について批判している
ASCM
34
35
ASCM 第 21.3 条では「いかなる確定的な相殺関税も・・・。ただし、当局が、自己の発意に基づいて・・・
(中略)・・・相殺関税の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、
この限りではない」と表記されている。
米国では 1930 年関税法第 751 条(c)で規定されている。
34
35
43
が、米国は特別これについての説明を行っていない。ITC や DOC は裁判所が“likelihood”
を“probable”と解釈すべきとの判断を下しても、引き続き“possibly”を使っているとい
う状況である。
や DOC のサンセット・レビューにおける救済措置延長の判断基準として輸入量が調
査前と比較して増えるか否かというのがある。もし増えると判断されればそれはダンピン
グとして考えるというのが米国の主張であり、これをクリアーすることは殆ど不可能であ
る。一方、ITC や DOC は相手国が当該補助金に関する全てのプログラムを終了すれば相殺
関税を廃止する。過去にアルゼンチンの蜂蜜と石油パイプライン管のたったの 2 件がこの
条件により失効となっている。
ITC
44
2.米国の
米国の CVD 制度運用
制度運用の特徴
(1)CVD 調査・
調査・発動の
発動の流れ
米国当局の CVD 調査・発動の流れは図 10 のようになっている。
図 11.米国の
米国の相殺関税申請から
相殺関税申請から発動
から発動までの
発動までの流
までの流れ
0日目
20日目
約30日目
45日目
約60日目
85日目
申請書提出 調査開始 相手国政府・企業 ITC暫定損害認定 質問状の回収
商務省暫定補助金認定
へ質問状送付 損害なし
補助金なし
(回答期限30日) →調査中止
→調査中止
損害あり
補助金あり
→引き続き調査
→輸入送金停止
→補助金額相当のボンド発効
約100日目
約130日目
160日目
相手国政府・企業への確認
公聴会
商務省最終決定
補助金なし
→発動中止
補助金あり
→ボンド額の調整
205日目
ITC最終決定 相殺関税発動令公布
損害なし
→発動中止
損害あり
→発動令準備
出典:ホワイト&ケース法律事務所ワシントン事務所のインタビューより作成
調査は DOC 自らの発意、もしくは利害関係者(輸入の増加により損害を受けてい
る国内企業もしくはその業界団体)により申請がなされる 。申請は補助金認定を担当する
DOC と損害認定を担当する ITC 両方に提出されなければならない。双方は申請書を受領し
てから調査開始に十分かどうかを検討 し、十分な場合は 20 日以内に調査を開始する。
CVD
36
37
は調査開始後 45 日以内に仮決定を行う。ITC は損害認定を担当しているので、申請
者は ITC に対して証明責任を有する。もし ITC が当該案件について損害なしとの判断を下
せばその時点で調査は終了する。逆に、判断が肯定的であれば調査を続行する。一方、DOC
は補助金認定を担当する。DOC は調査開始から数えて 65 日以内に補助金が供与されてい
る、もしくは「疑うに足る合理的な基礎」があるか否かを決定する。(ITC が既に損害仮決
定を行っていたとして)もし DOC の仮決定が肯定的であれば、最終決定に向けた調査が続
ITC
申請は以下の者により提出される。(米国 1930 年関税法第 7 編第 771(9))
(1) 同種製品の米国製造者、生産者または卸売者、
(2) 影響を受ける産業を代表する労働者組合、
(3) 同種製品を製造する業者の過半数、
(4) 個別の申立適格をもつ企業、組合または業界団体の連合体、
(5) 加工農産品の場合は加工者連合もしくは業界団体代表者、
(6) 小規模企業の場合は DOC が技術援助。
申立適格基準は以下の条件を満たす必要がある。(ASCM 第 11 条 4 項、米国 1930 年関税法第 7 編第 702
条(a)(4)(A)(i)及び(ii))
(1) 当該提訴を支持する国内生産者または労働者による生産が同種産品総生産の 25%以上であり、
(2) 当該提訴を支持する国内生産者または労働者による生産が、当該提訴への支持または反対のいず
れかを表明している国内産業の一部が生産する同種産品総生産の 50%を超える。
米国 1930 年関税法第 7 編第 702 条(c)(1)(A)により当該申請書の調査十分性及び上記した代表性が確保
されなければならない。
36
37
45
212日目
けられると同時に、推定準補助金額と等しい額のボンド等を発効することを調査対象企業
(正確には輸入業者)は命ぜられる。
は補助金の仮決定から 75 日以内に最終決定を行う必要がある。最終決定が否定的
な場合には調査は終了、すべての適当なボンドは払い戻しされる。一方、最終決定が肯定
的な場合には新たな関税率に基づくボンドの発行を命ずる。ITC は DOC の最終決定から
45 日以内に損害の最終認定を行う。
DOC
の最終損害認定後 7 日以内に DOC(この場合長官)は CVD 賦課命令を発布する。
賦課命令の発出後輸入業者は関税に相当する現金預託を行わなければならない。
ITC
(2)機械的な
機械的な調査・
調査・発動
米国の CVD 制度運営の特徴として、DOC や ITC の裁量が非常に狭く、よって調査・発
動・見直しのプロセスが非常に機械的(technical)であることが挙げられる。例えば EC
のようにエンド・ユーザーや消費者の声を発動の有無に反映させることは皆無に等しい。
DOC や ITC では米国産業・企業から調査開始の申請書に十分な証拠が見つかれば、他の要
因は考慮されず、極めて機械的に調査が進められる。これは「1974 年通商法」で手続き面
の法律が大幅に拡大されたことに起因している。
(3)科学的手法(
科学的手法(scientific method)の利用
過去の長い経験から、調査において米国当局は損害テストにおける“non-attribution”
ルールの証明から補助金額の算定に至るまであらゆるところで計量経済学やその他の科学
的手法(scientific method)を使う。質的(qualitative)や記述的(descriptive)論証が調
査の多くを占める他の加盟国とは異なり、あくまで数値を中心に証明を行うのが米国流で
ある。特に“non-attribution”といった複雑な計算を必要とする部分は経済学者に委託す
る場合が多い。
(4)透明性
米国の CVD 制度の運営で最も特徴的な点は極めて高い透明性であろう。米国では調査過
程において行政保護命令(Administrative Protective Order:APO) が発効されたうえで、
当局と弁護士等が機密情報全てを共有する。したがって、CVD 調査申請書を当局に提出し
38
38
DOC
は案件に関連した機密情報を関係者や弁護士に開示する代わりに守秘義務の約束を強いる。
46
た企業は、APO を通じて弁護士等に機密情報を供与する。これは米国には国外の機密情報
漏を罰する法令があるから可能となるが、それがない国にとって APO に類似した情報公開
を導入することは難しい。
(5)司法審査
米国では、最終的な CVD の決定または審査に不服のある利害関係者は米国国際貿易裁判
所(USCIT)に提訴することが可能である 。司法審査を求めるには、利害関係者は CVD
賦課最終決定から 30 日以内に申立てを行う必要がある。審査の基準は決定が「記録上の実
質的証拠」によって支持されているか否か、また「その他の法律に従っていないか」であ
る。USCIT の存在があるため、米国当局は CVD 最終決定に関しより一層裁量を失うこと
になる。
39
NAFTA によりカナダおよびメキシコ産品にかかる最終決定については CIT ではなく NAFTA パネルが
審査を行う。同パネルは米国法や司法審査基準に準じて判断する。
39
47
3.米国の
米国の CVD 環境
米国はその長い CVD の歴史から、他国と比較して CVD を発動しやすい条件が整ってい
る。第一に、当局の救済措置を担当する豊富なスタッフの数と効率性の高い運営体制が挙
げられる。第二に、ワシントンのみならず全米各地で企業支援、経済分析を担当する豊富
な通商専門弁護士や経済学者である。第三に、企業を代弁する業界団体の組織力とその数、
そしてこれら業界団体・企業と政府のパートナーシップが挙げられる。以下ではこれらに
ついて具体的に紹介する。
(1)DOC の救済措置体制
救済措置体制
米国では補助金認定は DOC の輸入管理課(Import Administration、以下 IA)が担当し
ている。彼らの情報によると、貿易救済措置を担当しているスタッフだけでも専属弁護士
を含めて約 300 人に達する 。これは日本の貿易救済措置を担当している経済産業省特殊関
税等調査室のスタッフ数と比較するとその違いが明らかである。2006 年 2 月 22 日に WTO
事務局に通知された米国の AD と CVD 案件表によると、AD 賦課中の案件が 270 件、サン
セット・レビュー後に継続している案件が 37 件、現在調査中の案件が 231 件、CVD 賦課
中の案件が 52 件、サンセット・レビュー後に継続されている案件が 35 件と非常に多くな
っている。これなら DOC だけでも数百人のスタッフが従事していることは無理がないとい
える。
40
の救済措置体制の利点は人数だけではない。1980 年頃に IA は Subsidy Enforcement
と呼ばれる各国の補助金データベースを構築し、その時に結成された補助金チームが過去
の関連案件調査や WTO 事務局への各国補助金通報、各国政府の情報協力、各国政府ウェブ
サイト、その他関連記事から他国の補助金制度に関する情報をデータベース化している 。
これは各国の補助金について縦軸上は相殺可能補助金、相殺不可能補助金、そしてすでに
廃止された補助金に分類、横軸には一般的な補助金リストと産業別補助金リストに分類さ
れている。このデータベース内の補助金情報は毎年連邦議会に提出する年間補助金議会報
告書(Subsidies Enforcement Annual Report to the Congress)のベースとなるだけでな
く、省内や米国政府内で共有され、IA 以外の部署・省庁からの情報が収集可能である。ま
た、ウェブ上でも掲載されるため、ビジネス界がこの情報を簡単に閲覧できる。
IA
41
貿易救済措置に関わっている 300 人のスタッフのうち、流動的ではあるが、現在 CVD に関わっている
スタッフは調査およびレビューを含めて約 35 人となっている。
ウェブでは http://ia.ita.doc.gov/esel/eselframes.html に掲載されている。
40
41
48
この他、IA は貿易救済措置調査の効率化に向けて実践していることを以下のとおり挙げ
ている。第一に、各国政府当局とのコーディネーションを効率的に行うこと。これにより
正確かつタイムリーな情報を収集することが可能となる。この他、IA は毎年各国の米国大
使館に WTO の通報、米国の懸念事項等のリマインドを欠かさず行うことにより、各国が問
題意識を常に共有するよう努力している。第二に、救済措置調査にはきっちりとしたプラ
ンニングの重要性を重んじている。正しいリソースをいかに効率的に利用するかをしっか
りとプランニングする。これにより、万が一調査延長が必要となっても、それをあらかじ
め考慮に入れ、確実に期限を守って作業を進めることが可能となる。第三に、歴史で培っ
た豊富な経験、テクニック、専門家を積み上げてきたため、現在ではかなりのノウハウや
高いスタンダードが確立しているが、それをフルに活用して企業が CVD 発動に向けて作業
を進めるうえで、可能な限り積極的に参加するように努力している。
(2)通商専門弁護士と
通商専門弁護士と経済学者
米国の貿易救済措置調査の効率性は DOC の体制だけではない。過去のこの分野の高い需
要から通商一般・救済措置法を専門とする弁護士が豊富に存在する。弁護士検索サイトの
FindLaw によると、
救済措置・反トラスト専門弁護士はワシントン DC だけでも 250 人(DC)
にのぼる 。これらの弁護士は企業側弁護士だけでなく、米国政府と深い関係をもつ弁護士
等で一大ネットワークを形成している。
42
また、前述のように米国の CVD 調査は高度な計量経済が多用される傾向が強い。特に
“non-attribution”ルールでは WTO 上級委員会でも過去に計量分析による論証が望まし
いとの判断がなされているように、高度な経済分析を利用することは案件に説得力をもた
せる意味でも、さらには WTO に提訴された時のためにも重要である。
米国には豊富な数の経済学教授や経済研究者が存在する。ワシントン DC だけでも国際
経済研究所(IIE)、ブルッキング研究所、ヘリテージ財団といった経済研究所やジョージ
タウン大学、ジョンズホップキンズ大学、アメリカン大学といった大学機関があり、DOC
はこれら研究機関の研究者に高度な経済分析を依頼している。
上述のように、米国では APO 制度を利用して弁護士や経済学者は企業の機密情報を政府
から得られるため、他の国よりも質の高い報告書の作成が可能である。
(3)業界団体と
業界団体と官民パートナーシップ
官民パートナーシップ
42
詳細は www.findlaw.com を参照。
49
シェイファー・ウィスコンシン大学教授によると、ワシントン DC にはありとあらゆる
問題を扱う業界団体が存在、全国レベルと地方レベルの団体を合計するとその数は実に
87,000 以上と驚くべき数字となっている。これに加え、米国企業はアドホック・ベースに
より外国の特定の貿易障壁に的を絞った団体を組織する。一般的に大企業や過去に経験豊
富な企業以外では単独で DOC に調査申請を行うことは難しい場合が多い。そこで業界団体
の存在が重要となってくるわけだが、業界団体は日頃から政府や政治家に対してロビー活
動を行い、企業と政府とのパイプ役として機能している。
米国における業界団体・企業と政府のパートナーシップは長い歴史のなかから築かれて
きた。政府は企業の代弁者として貿易救済措置や外交交渉を通じて海外にメッセージを発
信する。一方業界団体・企業から政府はこれら措置に関する有益な情報を得る。お互いが
利益を与え合うことにより、パートナーシップは強固なものとなる。「透明性」や「効率性」
を前提としたシステムを基にして官民の太いパイプ形成がなされてきたのである。
その他、IA は小規模な企業・産業が同制度を活用したい際にはなるべく公平な立場で申
請書作成の手伝いを行う。申請書の作成はそもそも企業側の責任であるが、IA は情報を提
供したり、アドバイスを行うことで、正確かつタイムリーに申請書を提出できるような環
境を築いている。
50
第 4 章 EC の CVD 制度とその
制度とその運用
とその運用、
運用、発動に
発動に向けた環境
けた環境
この章では、EC の CVD 制度とその運用、そして発動に向けた環境について紹介する。
米国の後を追うように CVD を多用してきた EC はどのような制度が存在するのか、ASCM
との関係はどうか、政府当局はどのような運用を行っているのか、また、政府当局と政治
家やビジネスとの関係、さらに通商専門弁護士等に着目しながら総合的に CVD をとりまく
環境を分析する。
1.EC の CVD 制度
(1)EC の CVD 制度の
制度の歴史
欧州の国々は 19 世紀後半くらいから二国間の通商条約により相手国の輸出補助金を牽制
していた 。実際に輸出補助金に対する CVD を賦課しはじめたのは米国の 1890 年関税法
から遅れて 20 世紀初頭あたりからであった。1892 年にベルギー、1906 年にスペイン、1920
年にフランス、1921 年にはポルトガルといった国々が次々に CVD 制度を導入していった 。
43
44
の CVD 制度は 1997 年の「理事会規則第 2026/97 号(Council Regulation No. 2026/97)、
以下 EC 規則」で大幅に変更された。この規則は「欧州共同体加盟国外からの補助金付き輸
入製品に対する保護( on protection against subsidized imports from countries not
members of the European Community)
」を目的としている。この規則は 35 条と 4 つの附
属書から構成されており、内容はほぼ ASCM に準じているといえる。
EC
その後、1998 年に補助金算定のガイドラインが発表されたほか、2004 年に「理事会規則
第 461/2004 号」により最終的な発動に関する理事会の承認決定プロセスの一部修正 がな
された。
45
ASCM
発効後から 2004 年までの EC の CVD 調査・発動件数の推移は図 12 のとおりで
中川 淳司「経済規制の国際的調和(6)3 通商救済制度の国際的調和(2)補助金相殺関税」『貿易と関税』
号、32-43 ページ(2003)
実際、これら欧州の国々の CVD 発動対象となったのは砂糖のみである。ヴァイナーによると、これは
規定が相手国に抑止的な効果があったこと、輸入国当局が賦課に消極的であったことが原因。これは頻繁
に CVD 賦課を行っていた米国とは対照的。
「EC 規則」では欧州理事会の最終発動は、加盟国の単純多数決(simple majority)により承認手続き
を行っていたが、棄権(abstention)加盟国の票が考慮されるため、効率的ではなかった。「理事会規則第
461/2004 号」では棄権を表明した加盟国が除外されることになった。
43
51(5)
44
45
51
ある。
は 1995 年、96 年と殆ど CVD 調査を行っていなかったが、97 年頃より本格的に開始
した。2000 年には 19 件にのぼる調査を行った。発動のピークは調査のピークであった 2000
年の翌年で 9 件にのぼった。その後、2002 年の調査案件 6 件から徐々に減少しはじめ、2004
年には再びゼロ件となった。2005 年の 1 月から 6 月までに EC は 4 件の調査を開始した。
EC
図 12. EC の CVD 調査・
調査・発動件数の
発動件数の推移(
推移(1995 年~2004 年)
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
19
数
件
調査件数
発動件数
9
8
6
4
00
1
0
1
2
3
3
0
0
2
3
1
2
0
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
19 19 19 19 19 20 20 20 20 20
年
出典:WTO 事務局資料より作成
(2)EC の CVD 制度
は ASCM に基づき 1997 年の「EC 規則」でそれまでの CVD 制度を大幅に変更した
関係で、現在の制度は比較的 ASCM に準じているといえる。EC は長い歴史において米国
の救済阻止の乱用に批判的な立場をとってきた 。EC は現在のドーハラウンドのルール交
渉において「中間グループ」として、米国の救済措置の乱用に一定の歯止めをかける努力
をしている。従って、以下では EC の CVD 制度の特徴を ASCM からの乖離に加え、米国
EC
46
「中間グループ」は「AD フレンズ」と米国の中間に位置し、ルール交渉では以下のような提案を行っ
ている。
46
(1) AD や CVD 調査が開始されると同時に輸出企業が WTO にすぐさま提訴できる、
(2) 損害と原因の証拠内容が未だにブラックボックスであることから、これに一定の規律を設ける、
(3) レサー・デューティーや“community interest”の義務化(米国やオーストラリア等多くの国は
この提案に対して強く反対、これは community interest により他の加盟国に対して当該国の一般
的福利(general welfare)を公開することになるため。
52
の CVD 制度と比較しながら説明する。
知りえた事実
りえた事実(
事実(facts available)
米国が ASCM 第 12 条 7 項の「知りえた事実」を利用して質問事項を提供しない調査対
象国・企業に対して罰を与える目的で発動に非常に有利となる情報を使うのに対し、EC 当
局によると、「EC 規則」第 28 条により、EC はそのような場合には様々な点を考慮して
reasonable に対処、相手の企業を特別攻撃することはない考慮を行う。同規則第 28 条は第
6 項で「利害関係者が協力しない、あるいは単に部分的に協力するにとどまる場合、-中略
- 結果は協力が得られていた場合と比較して利害関係者に不利になる可能性がある、」と
ことわっておく一方、第 2 項から第 4 項では相手国・企業が提出する情報、伝達手段に対
する対処法が記してある。例えば第 2 項では電子化された情報を提出しない場合、必ずし
も非協力的とはみなさない、と規定している。
レッサー・
ッサー・デューティー
第 19 条 2 項の「レッサー・デューティー」ルールにもかかわらず、米国の CVD
制度では、国内企業に与える損害が補助金額以下で除去できる場合であっても補助金額を
ベースに CVD が計算される。一方、EC は「レッサー・デューティー」ルールを「EC 規
則」第 15 条 1 項で義務化している。つまり、EC は ASCM で奨励されているとおり、比較
的低い方を CVD の計算に使用する。
ASCM
具体的な手順としては、まず当該補助金について検証し、相殺可能補助金にあたるか否
かを検討する。つぎに、EC は補助金の利益マージンと損害マージンを算出し、最終的に低
い率を使用する。損害マージンの基本的な考え方は、同規則にあるように損害を抑えるた
めに必要十分な税率であることで、たいてい調査対象期間以前の利益を通常利益とする。
そして、販売額、販売量、価格等に基づき、企業が通常利益を得るには税率を何パーセン
ト引き上げればよいかを検討する。その結果、損害マージンが 20%で、補助金マージンが
25%(単位あたり)であれば、損害マージンを CVD 率に選ぶ。
共同体の
共同体の利害(
利害(community interest)
の CVD 制度で最も特徴的なのは「共同体の利害(community interest)」の義務化で
ある。「共同体の利益」は「EC 規則」第 31 条で規定されている。この制度は、CVD 発動
決定に際し、輸入業者、輸入品ユーザー、消費者等に与える様々な影響を考慮する。業界
団体や消費者団体といったグループの意見を聞き入れ、CVD 発動による EC の利益を総合
EC
53
的な見地から判断するのである 。
47
「共同体の利害」の判断結果は、そのウエイトに応じて税率を変更するのではなく、当
該案件を中止するか否かに用いられる。EC は現在ドーハラウンドのルール交渉においてこ
うした影響を幅広く分析して発動決定の考慮に入れるよう、ASCM 条文の修正を提案して
いる。
損害認定
の CVD 制度と ASCM の異なる点として損害認定が挙げられる。「EC 規則」の損害
認定は ASCM と比較して 2 点違う点がある。一つ目の違いは、補助金付き輸入製品が域内
の同種産業に及ぼす影響を検証する際に考慮すべき要因が「EC 規則」第 8 条5項では
ASCM 第 15 条 4 項には挙げられていない以下の 2 つをリストアップしている。
EC
(1) 域内産業が過去の補助金やダンピングの損害からの回復過程にある事実、
(2) 相殺可能補助金の量の程度。
これは、EC の損害認定が ASCM よりも厳しい規律であることを示している。
二つ目の違いは、ASCM 第 15 条 8 項にある「損害を与える恐れ(threat of injury)」で
ある ASCM は「損害を与える恐れ」のある補助金付き輸入製品に対しては「特別の注意」
をもって検討するとしている。一方、「EC 規則」ではこの条項は設けられていない。EC は
実践で「損害を与える恐れ」を基にした CVD 発動は一切行っていない。
48
行政レビュー
行政レビューと
レビューと将来的徴収
米国と同様に EC の CVD 制度にも行政レビューがあり、そこで関税率の変更もしくは廃
の「共同体の利害」検証に考慮される団体は具体的には以下の通り。
(1) 当該案件申し立てて中の産業
(2) 他の生産者
(3) ユーザー
(4) 消費者
(5) 輸入企業
(6) 貿易従事者、その他
EC の他、カナダや韓国も「共同体の利害」の考えを発動決定要因に加えている。
ASCM 第 15 条 8 項は
「補助金の交付を受けた産品の輸入が損害を与えるおそれがある事案に関しては、
相殺措置の適用は、特別の注意をもって検討し及び決定する。」と規定している。
47
EC
48
54
止が決定される。米国と EC の行政レビュー(EC では「中間レビュー(interim review)」
と呼ばれる)の決定的な違いは、米国が変更に伴い遡及的(retroactive)暫定関税の徴収
を行うのに対し、EC はレビュー後の関税しか変更しない。したがって、企業にとっては米
国よりは確実性が高いことになる。
ただし、EC が補助金を受け取っていないと判断した企業(例えば韓国 DRAM のケース
ではサムスン社にあたる)に対して発動当時は税率を引き上げなかったとしても、後々の
中間レビューで補助金が見つかった場合、追加的にその企業に対して CVD を課すことがあ
る。一方、米国は、発動時に補助金がないと判断した企業に対しては、再度調査を行うこ
とはない。
サンセット・
サンセット・レビュー
は基本的に発動から 5 年経てば自動的に課税を廃止する。この点は厳格なスタンダー
ドにより殆どの案件を延長する米国とは異なる。実際に EC がとる方法は、WTO 加盟国の
間ではマジョリティーである。
EC
55
2.EC の CVD 制度運用の
制度運用の特徴
(1)CVD 調査・
調査・発動の
発動の流れ
EC
の CVD 発動に至るまでの一般的な手続きの流れは図 13 のとおりである。
図 13.EC の相殺関税申請から
相殺関税申請から発動
から発動までの
発動までの流
までの流れ
0日目
45日目
60日目
85日目
申請書提出 調査開始
利害関係国・企業が 利害関係国・企業、輸入企業
利害関係国・企業に ECへ確認
の質問状回収
通達
損害、“Community Interest”
提出期限
申請書検討
公聴会開催申請期限
103日目
315日目
435日目
相手国政府・企業 暫定措置発動 相殺関税発動
の質問状回収
最終期限日
最終期限日
情報・データの分析
欧州委員会承認
出典:ホワイト&ケース法律事務所ブリュッセル事務所のインタビューより作成
の調査は、認定担当部署が分かれている米国と異なり補助金認定と損害認定両方とも
に EC 貿易総局が担当する。EC 貿易総局は ASCM に準じて申請書の検証、調査、利害関
係者への質問、必要に応じて暫定措置、そして最終的に CVD を発動する。EC の調査期間
は暫定的決定までは最大で約 9 ヶ月、最終決定までは原則 1 年、最大で約 13 ヵ月を要する。
これは米国の調査期間よりも長い 。
EC
49
具体的には、まず 0 日目に企業(殆どの場合業界団体を通じて)が申請書を EC 当局(貿
易総局)へ提出する。申請書提出後すぐに EC 当局は申請審査を行うための調査を開始する。
EC 調査当局は企業に対して申請書のガイドライン等を渡すなど、申請書作成を容易化する
ための支援を行っている。ガイドラインには好例などが詳細に記してあり、企業にとって
申請書を作成しやすい内容となっている。また、EC は企業が申請書を提出する前に内容確
認を行うなど、コンサルタントサービスを提供している。これは米国においても同じであ
る。
申請書が提出された日から 45 日以内に EC は調査を開始する。調査は米国のような APO
がないため、低い透明性を特徴としている。これは、調査において EC 当局に広い裁量を与
えることを意味している。また、ブリュッセル在住の通商専門弁護士によると、EC 当局は
米国政府と比べて相殺関税申請後の質問状の量が少ない。米国の質問状は膨大な質問で構
成されており、返答する側はだいたい 4 週間くらいかかるところ、EC のそれは 3 日間で完
成できる。
ASCM 第 11 条 11 項によれば、調査については、
「特別の場合を除くほか、その開始の後 1 年以内に完
結させなければならず、かつ、いかなる場合においても、その開始の後 18 ヵ月を超えてはならない。」
49
56
上述のとおり、EC は調査をすすめながら「共同体の利害(community interest)」を検
討する。「共同体の利害」において損害を受けている域内企業以外のプレイヤー、例えば輸
入製品のユーザーや消費者団体などは、調査開始後 40 日を期限として自分らの要望を提出
する。
調査開始から約 9 ヵ月以内に暫定的措置を発動するか否かが検討される。ここでのポイ
ントは、米国は必ずといっていいほど暫定的な関税を課すが、EC の場合はそうとは限らな
いことである。
が CVD 発動を決定した後は欧州理事会(EU Council)による承認を仰ぐことになる。
EC が提案したプロポーザル対して、EU 加盟国 25 カ国の代表で構成された欧州理事会に
より当該案件の承認が行われる。EC 当局によると、過去の例では相殺関税が理事会に承認
されなかったケースはゼロであり、これまでは理事会の強いサポートを得ているといえる
(AD は過去に 2、3 件承認されなかったケースがある)。欧州理事会は調査内容の質を重視
する傾向が強く、質が高ければ発動承認を出すし、低ければ出さない。EC は欧州理事会の
前に担当理事と非公式の場で議論を続け、承認されそうかどうかをうかがう。理事会は調
査の方法に対して何も意見しない。
EC
欧州理事会による承認は単純多数決(simple majority)で決定される。
(2)透明性
全般的に EC の調査における透明性は、米国と比較して低いといわざるを得ない。EC 当
局は情報を共有しないため、関係者にとって大きなベールに包まれていることが多い。一
方、これは EC 当局に広い裁量を与えているということになる。これは米国のような「行政
保護命令(APO)」が存在しないからであろう。APO は企業やその他に関する機密情報を
企業担当弁護士や経済学者らと共有する制度であるが、EC の場合、弁護士は機密ではない
公開情報しか与えられず、機密情報は発動決定権をもつ EC だけが握っている。
57
3.EC の CVD 環境
の CVD 制度をとりまく環境は米国ほど充実・組織化されているわけではないが、90
年代後半に集中的に行われた救済措置活用のためのビジネス界へのいわゆる WTO 促進運
動が功を奏してか、結果として救済措置件数の増加に伴って体制も強化されてきた。
EC
(1)EC の CVD 体制
当局によると、貿易総局の貿易救済措置は 7、8 名の専門家と約 150 名にのぼるスタ
ッフという体制で運営されている。規模としては米国の約半分に満たないが、過去の救済
措置案件数を考慮すれば妥当な数字だといえる。さらに、EU 本部が位置するブリュッセル
にはワシントンと同様に豊富な通商専門弁護士が在住している。
EC
補助金付き輸入製品により損害を被ったと信じる企業は業界団体のサポートを求めるが、
EU では欧州鉄鋼産業連盟( European Confederation of Iron and Steel Industries、
EUROFER)や欧州肥料製造業者協会(European Fertilizer Manufacturers Association、
EFMA)といった高い組織力を誇る業界が非常に多い。これらの協会は政府との強いパイ
プ、影響力を有しており、頻繁に AD 委員会や欧州理事会へロビー活動を行っている。
このように、総じていえば EC はかなり充実した体制が整っているといえる。
(2)政治的な
政治的な影響
極めて機械的に進む米国の CVD 調査と異なり、EC はその制度上の理由から調査のプロ
セスで政治的なインセンティブが働く要素が強い 。その第一の要因として上述した「共同
体の利害」が挙げられる。この制度は域内企業が補助金付き輸入製品から被る損害と他の
プレイヤーの発動による被害をバランスさせて総合的に判断する意味では賞賛に値するも
のであろうが、これらのプレイヤーがロビー活動や欧州理事会との強いパイプを活かして
政治的に活動することは純粋な意味でのバランスを失いやすい結果となってしまう。第二
の要因としては欧州理事会の承認による貿易救済措置の最終決定方法である。EC 当局は通
商法その他に関するその豊富な経験や知識により、欧州理事会への説明・説得を通じてか
なりの程度のコントロールが可能であるといわれている。また、欧州理事会の承認判断基
準は調査の質に限られている。しかし、ある EU 加盟国にとって損害となっても、他の加
盟国にとっては利益となる案件は存在するのは間違いなく、そのギャップが大きければ大
50
このことは何も米国の救済措置に政治的影響がないことを意味しているわけではないことに注意。ここ
でいう政治的影響とは、CVD 調査の結果が政治的なパワーにより影響されるか否かに限定されている。
50
58
きいほど欧州理事会の決定の政治色は濃くなる。
(3)官民パートナーシップ
官民パートナーシップの
パートナーシップの形成
米国のように長い歴史はないものの、EC は官民のパートナーシップ形成のために尽力し
てきた。シェイファー教授によると、EU では EC の通商政策には必ず欧州理事会の承認が
いることや、域内企業が未だ圧倒的に加盟国内に軸足を置いたままであることから、EC と
欧州企業には高い壁があった。
こうした理由から、1995 年くらいまで EC の通商政策は比較的受身の対応を迫られてい
た。また、WTO の各ラウンド交渉においても EU 加盟国間のポジションの違いから米国に
主導権を握られるケースが圧倒的に多かった。この結果、WTO 設立直後に米国がすばやく
WTO ルールに適応したのに対して、EC は完全に出遅れたかたちとなってしまった。
年に EC は「市場アクセス戦略」を発表、海外の貿易障壁を特定して外国政府に対
して圧力をかけはじめた。一方で EC は貿易救済措置の利用を活発に行うため、「市場アク
セスユニット」を結成し、外国の貿易障壁に関する情報を活用して企業に貿易救済措置の
活用を広めた。同ユニットはこの広報活動に精を出した。
1996
のこうした努力は欧州企業の支持をとりつける結果となった。欧州企業は今まで以上
に EC を信頼し、積極的に通商法を利用したり、WTO 提訴を申請するようになった。こう
した流れは好循環を生み出し、EC の機能の拡大も呼ぶことになった。
EC
59
第 5 章 日本の
日本の CVD 制度
日本は明らかに貿易救済措置途上国である。日本にとっては 2006 年 1 月に韓国ハイニッ
クス社の DRAM 製品に対して撃った CVD が記念すべき第 1 号であった 。過去に積極的
に CVD 制度を活用してきた欧米とは非常に対照的である。なぜここまで実績に差が生じた
のであろうか。
51
この章では欧米の制度やそれを取り巻く環境と日本のそれを比較し、なぜ日本はこれま
で貿易救済措置に関する通商法の利用にここまで消極的であったかを中心に検討する。最
初に日本の CVD 制度と調査の運用について簡単に触れた後、それをとりまく環境について
紹介する。
1.日本の
日本の CVD 制度と
制度と運用の
運用の特徴
日本の CVD 制度の法的根拠は「関税定率法第 7 条」の規則および「相殺関税に関する政
令」と「相殺関税・不当廉売関税ガイドライン」の細則から成り立っている。「関税定率法」
は 1910 年に発効され、その後多くの改正を重ねてきた。1994 年に「相殺関税に関する政
令」が施行され、その 10 年後の 2004 年に施行された「相殺関税・不当廉売ガイドライン」
と共に「関税定率法」の円滑的な運営を可能にする。
日本の CVD 制度とその運用慣行は、全体的に見ればどちらかといえば米国よりは ASCM
に準じている EC の CVD 制度寄りであるといえる。具体的には以下の点が EC の制度に類
似している。
第一に、「知ることができた事実(facts available)」である。日本は「相殺関税・不当廉
売関税ガイドライン」第 11 条のなかで利害関係国・企業が質問状に回答しない場合や正当
な理由なく調査を著しく遅延させている場合等に限り「知ることができた事実」を使って
最終的な決定ができるが、その際に当局が従うべき条件が列挙されている。例えば、日本
当局は利害関係国・企業から回答の延長要請がなされた時は、可能な限り延長を認めたり、
質問状への回答が不備または不明な場合は更なる情報提供を求めたりと、利害関係国・企
業に「知ることができた事実」の使用を避ける機会を多く設けている。
第二に EC のようにレビュー時の関税変更を伴う遡及的な徴収がない点が挙げられる。米
CVD 発動は今回が初めてであるが、
過去に日本は 2 件の調査の実施もしくは申請書を受け取っている。
回目は 1983 年にパキスタン産綿糸に対する調査、2 回目は翌年 1984 年にブラジル産フェロシリコンに
対する調査要望書の申請、しかしこの申請は取り下げられている。
51
1
60
国が行政レビューの結果として、CVD の変更を決めた際に暫定的関税に遡及して徴収を行
うシステムではなく、CVD の変更を決めれば単にレビュー以降の関税のみ変更を加える。
第三に「サンセット・レビュー」である。日本の「サンセット・レビュー」は「関税定
率法」第 27 条で規定されている。CVD の賦課期間は最大で 5 年間とされており、原則 5
年が経過した時点で CVD は廃止される。上述したとおり、この反対が米国の「サンセット・
レビュー」である。米国は「サンセット・レビュー」に厳しい判断基準を設定しており、
実質ほとんどの案件が延長される結果となっている。
一方、日本は「レッサー・デューティー」や「共同体の利害」といった点ではむしろ米
国の制度に類似している。「レッサー・デューティー」では、日本は米国のように補助金額
をベースに CVD を割り出し、損害を除去するに最低限な関税については一切考慮しない。
また、EC の CVD 制度の特徴である「共同体の利害」について日本は米国と同様に考慮し
ない。
図 14 は日本の CVD 申請要望から発動までの期間を表している。
図 14.日本の
日本の CVD 申請から
申請から発動
から発動までの
発動までの流
までの流れ
0日目
60日目以内
申請書提出
調査開始
仮決定
中止か継続の判断
調査開始から1年以内
延長18ヶ月
最終決定
最終決定
暫定措置
利害関係者への質問状送付・回答書提出
回答の分析・検証
6ヶ月間
4ヶ月以内
6ヶ月以内
出典:経済産業省ウェブサイトから作成
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/ad/ad_flow.pdf)
これまでの調査実績が 1 件のみのため、日本政府が図 14 で示した調査期間を遵守してい
るかは判断できないが、今年 1 月の韓国ハイニックス社の DRAM 製品に対する CVD 発動
までのプロセスは表 2 に示したとおり、2005 年 8 月に調査の延長がなされたが、調査期間
は最大で 18 ヵ月可能であり、図 14 の制度に準じて調査が進められたと評価できる。
表 2.韓国ハイニックス
韓国ハイニックス社
ハイニックス社 DRAM 製品輸入に
製品輸入に対する相殺関税調査
する相殺関税調査の
相殺関税調査の流れ
年月日
2004 年 6 月 16 日
内容
申請者による相殺関税賦課申請
8月4日
財務省・経済産業省が共同で調査開始
9 月~12 月
利害関係者への質問状送付・回答書提出
61
2005 年 1 月~2 月
質問状回答の分析・検証等
2 月末~4 月はじめ
韓国内および国内現地調査(対韓国政府、利害関係者)
8月2日
調査期限延長(18 年 2 月 3 日まで)
10 月 21 日
重要事実を利害関係者に開示
11 月 14 日
韓国政府との二国間協議(1 回目)
11 月 21 日
利害関係者からの重要事実に対する反論の提出期限
11 月 28 日
利害関係者からの反論に対する再反論の提出期限
12 月 1 日
韓国政府との二国間協議(2 回目)
17 年 12 月~18 年 1 月
反論・再反論の分析・検証
18 年 1 月 20 日
相殺関税賦課の最終決定
出典:経済産業省資料
2.日本の
日本の CVD 環境
のみならず、日本の貿易救済措置を取り巻く環境は政府・企業両方で欧米と比較し
て遅れている。この貿易救済措置環境の整備の遅れには様々な要因があろうが、主要な原
因は歴史的、物理的、さらには官民間にある壁に分類される。以下ではこれらについて簡
単に触れる。
CVD
(1)歴史的な
歴史的な原因
歴史的な観点では、戦後の日本は先進国の欧米諸国に「追いつけ追い越せ」の姿勢で技
術革新を軸に対欧米輸出を拡大してきたことで、日本製品の質が向上するたびに欧米企業
は日本製品に対してアレルギーをもつようになり、貿易救済措置の対象になりやすかった。
欧米の AD 措置といった貿易救済措置やその他の保護的な通商法の餌食であった日本企業
にとって、貿易救済措置にはネガティブな反応が多く、日本政府にとってもラウンド交渉
ではむしろ欧米による乱用を抑える方に努力が向いてしまい、それを「利用する」方向に
は進まなかったことであろう。これにより、政府・企業ともに貿易救済措置の活用につい
ては非常に消極的になってしまったことが歴史的な原因の一つであろう。
(2)物理的な
物理的な原因
物理的な観点では、こうした歴史的理由を原因として、貿易救済措置にかかわる人的資
源を充実できなかったことであろう。欧米政府には数百にのぼるスタッフが日頃救済措置
に関わっているのに対し、日本は案件がほとんどないために担当省である経済産業省や財
務省のスタッフはそれぞれ十数名という状況である。今回の DRAM 案件にこれらスタッフ
62
をフルにつぎ込んだとすれば、とても一度に数件の調査を取り扱える体制ではない。また、
日本には通商法を専門とした弁護士の数が欧米と比較して極端に少ない。今後貿易救済措
置を要望する企業が代弁者である弁護士を利用しようとしても、その受け皿がないために
米国や EU 在住の弁護士に頼らなければならないかもしれない。これは高いコストだけで
なく、言語の壁から企業がなかなか積極的になれない原因となるかもしれない。
(3)官民間の
官民間の壁:官民パートナーシップ
官民パートナーシップの
パートナーシップの欠如
日本は過去の消極性から、企業は貿易救済措置発動の要望を政府に対して示すことはな
いだけでなく、この存在すら日頃の業務の中で意識することがあまりない。これまでの企
業の意見を聞いていると、企業の政府に対する信頼はあまり高いものとはいえないのも確
かである。「敷居が高い」とか「政府は動いてくれない」との意見が企業からしばしば聞か
れる。今回の韓国ハイニックス社の DRAM 製品に対する CVD 発動が一つの大きな契機と
なってくれればよいが、政府と企業の貿易救済措置に対する考えのギャップを埋めるには
ある程度の時間を要するであろう。
官民パートナーシップを築いていくためには政府と企業の両方が相互に努力していく必
要がある。日本政府はシェイファー教授のいう 1990 年代後半に EC が勝ち得た「市場アク
セス戦略」を通じた企業の信頼をモデルに、外国政府の貿易障壁をネタに救済措置の企業
への普及活動を行うと同時に、企業との情報交換の場を積極的に設けていく必要がある。
一方の日本企業は世界の経済構造変化の流れから今後中国や韓国を含む東アジアからの輸
入攻勢は一層拡大していくという現実を十分に認識した上で、政府に対して貿易救済措置
を撃てる環境の整備を促し、また協力していくことが大事ではないか。
63
第 6 章 まとめ
第 3 章から第 5 章までは米国、EU、日本それぞれの CVD 制度、その運用方法や慣行、
そして CVD を取り巻く政府や企業の環境等を見てきた。これらの国はそれぞれこれまでに
法令の修正を重ねてきた結果、現在ではおおむね ASCM に合致している制度を有している
といえる。ただし、詳細な法律、ガイドライン、慣行等は互いに異なる内容となっており、
さらに CVD を取り巻く環境は全く違う面を有している。
本章では、米国、EU、日本で異なる CVD 制度とその運営、そして相殺関税を取り巻く
環境について比較する。そして、最後にこれらの比較をもとに貿易救済措置途上国である
日本の今後のあり方を提言として簡単に触れて本調査報告書の結びとする。
64
1.CVD 比較検証
(1)CVD 制度と
制度と運営比較
表 3 は米国、EU、日本の CVD 制度の主な違いを示したものである。
表 3.米国、
米国、EU、日本の
日本の相殺関税制度の
相殺関税制度の比較表
ASCM
条文
利害関係を有する加盟国又
は者が妥当な期間内に必要
な情報の入手を許さず若し
くはこれを提供しない場合
ASCM12.7条
又は調査を著しく妨げる場
「知ることができた事実」 合には、知ることができた
事実に基づいて仮の又は最
終的な決定を行うことがで
きる。
相殺関税の賦課は、すべて
の加盟国の領域において裁
量行為であることが望まし
く、また、補助金の額より
も少ない額の相殺関税の賦
ASCM19.2条
課が国内産業に対する損害
を除去するために十分であ
「レッサー・デューティー」 る場合には、相殺関税の額
は、その少ない額であるこ
とが望ましい。
ASCM21.2条
「行政レビュー」
当局は、相殺関税の賦課を
継続することの必要性につ
き、正当な理由がある場合
には、-中略-見直しを行
う。
米国
EC
日本
当局の情報提示の要求 公平な手続きに基づ 公平な手続きに基づ
にも関わらず調査対象 き二次的情報・デー き二次的情報・デー
国・企業が提出しない タを採用する。 タを採用する。
のは不利な情報を隠し
(EC寄り)
ているため、との考え
に基づき、発動に有利
な二次的情報・データ
を使用する。
考慮に入れない。最終 損害がなかった時の 調査対象国の補助金
的な相殺関税額は調査 利益/損害を被って 額をベースに計算。
対象国が企業に提供し いる時の利益の差と (米国寄り)
ている補助金額をベー 補助金額を比較、低
スに計算。
い方の額を基に最終
的な相殺関税額を計
算。
レビュー時の関税率変 レビューで関税率が レビューで関税率が変
更に準じて暫定相殺関 変更されれば、その 更されれば、その後の
税まで遡って変更率の 後の関税額に変更が 関税額に変更が行わ
分を徴収る。これによ 行われるのみ。暫定 れるのみ。暫定相殺関
り、対象企業にとって 相殺関税まで遡って 税
は不確実性が生じる。 徴収することはな まで遡って徴収するこ
い。
とはない。(EC寄り)
いかなる確定的な相殺関税 補助金及び損害の存続 相殺関税は基本的に 相殺関税は基本的に
も、その賦課の日、21.2の 又は再発をもたらす可 は5年で終了。 は5年で終了。(EC
規定に基づく最新の見直し 能性(Likely)の確率は
寄り)
の日(ただし、当該見直しが 高いと見なすため、結
補助金及び損害の双方を対 果的にほとんどの案件
象としていた場合に限る。) が延長される。
又はこの21.3の規定に基づ
く最新の見直しの日から五
ASCM21.3条
「サンセット・レビュー」 年以内に撤廃する。ただ
し、当局が、ー中略ー相殺
関税の撤廃が補助金及び損
害の存続又は再発をもたら
す可能性があると決定する
場合は、この限りでない。
出典:WTO、DOC、EC 貿易総局、経済産業省とのヒヤリング、資料から作成
表 3 で示したとおり、米国、EC、日本の制度面での最大の相違点は「知ることができた
事実」の解釈、「レッサー・デューティー」の取り扱い方、「行政レビュー(EC と日本は中
65
間レビュー)」と「サンセット・レビュー」における変更に伴う徴収方法と延長判断の基準
である。この他、米国や日本では EC の「共同体の利害(community interest)」のような
制度がない。これは CVD を総合的に評価する上で重要な判断基準であるが、この制度を欠
く米国や日本ではどうしても損害を被っているとする企業のみに有利性が働いてしまうこ
とになる。
具体的には、まず、米国は利害関係者が情報を提出しない、あるいは調査を意図的に遅
延させるような行為に対しては、「罰」として相殺関税発動に有利となる情報を「知ること
ができた事実」として使う傾向があるが、EC と日本はそれぞれの制度で「知ることができ
た事実」の取り扱いに対して条件をつけており、結果的に利害関係者にとって比較的公正
な手続き内容となっている。
つぎに「レッサー・デューティー」に関し、米国や日本は CVD 額の算定に際して補助金
額のみを求めるのに対し、EC は補助金額に加えて「損害を除去するに十分な額」を計算し
て額の低い方を CVD 額に採用する。ASCM ではこの「レサー・デューティー」は義務では
なく奨励のみにとどまっているが、EC はこの考えを取り入れており、米国や日本の制度よ
りは ASCM に準じているといえる。
米国の「行政レビュー」は関税額の変更によって遡及的な暫定関税の徴収を行うため、
相手国・企業にとっては不確実性が高い制度であるが、EC や日本は遡及的な追及は行わな
いため、CVD の変更はレビュー後に限定されている。WTO 加盟国の多くは EC や日本と
同様の制度を採用しており、米国の「行政レビュー」はむしろ独特なものである。これは、
DOC がレビューに「正確性(precision)
」を念頭に置いているのに対し、EC や日本は「確
実性(certainty)」を重視しているところから差が生まれている。
次に重要な相違点は「サンセット・レビュー」にある。米国は「サンセット・レビュー」
において CVD の廃止が国内企業への損害を与える「可能性(likeliness)」の判断基準を厳
しくしている。つまり、実際の米国の「サンセット・レビュー」ではほとんどの案件が「ク
ロ」であり、よって延長される結果となっている。一方、EC や日本の制度では全ての CVD
賦課期間は基本的に 5 年を最長としているため、ほとんどの案件が 5 年を最後に廃止され
る。
最後に、「共同体の利益」の有無が大きな相違点である。EC は CVD の最終決定前には必
ずこの制度に基づく判断を行い、損害を被っている企業だけでなく他のユーザー産業や消
費者等の利益とバランスさせ総合的な見地から共同体にとっての損益を模索する。一方、
米国や日本は損害を被っている企業の損益のみを重視するため、CVD を発動する結果とし
66
て他の産業が被るであろう損害は無視される。
(2)CVD を取り巻く環境の
環境の比較
欧米と日本では CVD を取り巻く環境に決定的な違いが存在する。これは多くの点で貿易
救済措置先進国である欧米と途上国である日本を分けるものである。CVD をスムーズに運
営するには制度だけでは不十分なのは明白であり、今後日本が貿易救済措置を積極的に利
用する意志があるのであれば、欧米の環境の良い点を積極的に取り入れる必要がある。以
下では欧米と日本の環境を比較する。
第一に欧米と日本では人的資源に圧倒的な差がある。すでに述べたとおり、DOC では救
済措置に関わっているスタッフは専門家を含めて約 300 人にのぼる。また、ワシントン DC
在住だけでも 250 人以上の通商専門弁護士やその他多くの国際経済学者がいる。EC 貿易総
局は DOC ほどではないが、約 150 人にのぼる救済措置スタッフを抱えている。ブリュッセ
ルには多くの通商専門弁護士が住んでおり、企業や政府の CVD 手続きや運営をサポートし
ている。一方、日本の CVD 運営に関わる人的資源は残念ながら少ない。経済産業省と財務
省それぞれに十数名の調査スタッフを抱えるだけであり、東京在住の通商専門弁護士は数
える程度である。これではとてもではないが数件の案件を同時並行で調査する環境ではな
い。
第二に欧米と日本では企業の貿易救済措置に関する知識・意識が異なる。欧米では、高
い関心をもつ企業はロビー活動を通じて政府や政治家に積極的に働きかける。特に米国で
は貿易救済措置の活用を経営戦略の一つに位置づけている企業も存在するという。また、
欧米では業界団体がよく組織されており、これらの業界団体は、企業に対して情報提供や
企業を代表して積極的に政府に対して貿易救済措置を働きかけるというシステムが効率的
に運営されている。欧米企業と比較すると日本の企業は貿易救済措置の知識・意識が低い。
これは日本企業が過去に欧米による貿易救済措置の格好の獲物であったことが大きく、一
部企業では「撃たれる側」としての意識はあっても「撃つ側」の意識はほとんどないのが
現実である。
最後に欧米と日本では官民のつながりに圧倒的な差がある。米国は豊富な経験から、EC
は 90 年代後半の政府の努力により官民パートナーシップを構築してきた。両国において企
業は問題があれば WTO ルールを最大限に活用しようと政府に働きかける。そこには官民間
の一定の信頼が確立されており、情報の共有といった相互協力までもが見られる。これと
は対照的に日本では未だに政府と企業の間に大きな壁が存在する。CVD を含む救済措置は
企業からの申請を前提としているため、日本の官民間にある壁は貿易救済措置発動のスム
67
ーズな運営にとって大きな壁である。
68
2.今後について
今後について
今後一層アジア諸国の安価な製品が日本に押し寄せてくると予想される。自由貿易の見
地からいって輸入の拡大自体はなんら問題ではない。国際経済理論によれば貿易の自由化
に伴い各国が有利性をもつ産業に特化するのは国民の効用(utility)の増加につながり、高
い厚生(welfare)をもたらすことから、その国が有利性を持たない製品についてはむしろ
輸入が奨励されるべきである。
しかし、外国の政府が、不当な補助金を企業に供与することで日本への輸入を増加させ
ることによって日本企業の損害を招いているとすればそれは問題である。上述のとおり補
助金の経済的正当性は説得力がない場合が多く、また淘汰されるべき弱体企業を政府が補
助金により延命させることは自由経済の理念に反していることから、補助金付き製品の他
国への輸出が国内企業へ損害を及ぼしているのであれば修正を行うべきである。CVD 等の
措置を講ずることにより、不当な貿易を正していくことは自由貿易を提唱する WTO 加盟国
としての責務でもあるかもしれない。
過去に日本に対してそうした外国による不公正貿易が行われていた事実を証明できるわ
けではないが、損害を受けていた企業が単に見過ごしていただけかもしれない。それは、
その企業が自助努力により問題解決を行っただけかもしれないし、WTO 加盟国として利用
可能な権利自体を知らなかったかもしれない。どちらの場合にしても、日本は WTO ルール
をあまり活用しているとはいえない。自助努力による問題解決は、外国政府・企業の不公
正貿易を見逃す結果となりうるし、本来利用できる WTO ルールに関する企業の意識が低い
ことは、機会費用の損失かもしれない。
今回の韓国ハイニックス社の DRAM 製品に対する日本政府のとった行動は、日本企業に
とってこれまで消極的にみえた政府の貿易救済措置適用が実際に発動された第一歩である。
世界的に貿易自由化が進みこれまで以上に公正なルールに基づく自由貿易の重要性が叫ば
れるなか、主要貿易国としての日本が不公正貿易や他国政府による不当な自国企業救済措
置の乱用防止に動いたという対外的な牽制の意味でも、いわば日本企業にとって「ウェイ
クアップ・コール」になりえることから、非常に画期的であった。
しかし、上述のとおり現在の日本には貿易救済措置を積極的に利用していく基盤が十分
に整備されているとはいいがたい。この遅れた状況はなにも政府だけの課題ではない。WTO
ルールを活用してこなかった企業の課題でもある。歴史的な原因、物理的な原因、そして
官民間の壁という 3 つの障壁は政府だけの責任で生まれてきたものではない。過去の日本
の経済情勢、産業政策、企業経営戦略を含む多数の要因が混ざり合って現在の状況を創り
69
出してきたのである。
今後は政府と企業それぞれがこれまで以上に WTO ルールを意識し、最大限に活用する状
況に導いていく必要がある。そのためには双方自らの役割を意識するのだけではなく、相
互に協力しあえる環境を整備していくことが重要であると考える。政府は貿易救済措置の
スタッフを増やすだけではなく、通商専門家の育成や企業への情報提供や促進活動に努力
する。一方で企業は海外における企業活動を展開するなかで、WTO ルールを意識しながら
常に外国の不公正貿易に対して常にアンテナを高くして、政府に伝えていくといった体制
作りが重要である。
そのためには政府と企業の間に信頼関係を築くことが前提となる。上述のとおり EC と域
内企業の関係も薄い時期があった。それが 5 年も経たないうちに政府は企業の信頼を勝ち
得た。日本も米国や EC に習い政府と企業のパートナーシップを築き上げることが世界との
競争に勝ち抜く一つの絶対条件ではないかと考える。
70
参考文献一覧
グレゴリー・シェイファー 田村暁彦解説・訳 〔2005a〕 「WTO 紛争解決システムを
巡る「官民パートナーシップ」の形成(上)」 国際商事法務 Vol. 33, No. 8 pp. 1041~
1044
グレゴリー・シェイファー 田村暁彦解説・訳 〔2005b〕 「WTO 紛争解決システムを
巡る「官民パートナーシップ」の形成(中)」 国際商事法務 Vol. 33, No. 9 pp. 1211~
1218
グレゴリー・シェイファー 田村暁彦解説・訳 〔2005c〕 「WTO 紛争解決システムを
巡る「官民パートナーシップ」の形成(下)」 国際商事法務 Vol. 33, No. 10 pp. 1367
~1379
経 済 産 業 省 〔 2002 〕「 WTO 協 定 集 」 経 済 産 業 省 ウ ェ ブ サ イ ト
(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto_agreements/index.html).
経済産業省 〔2005〕 「不公正貿易報告書
月、 経済産業省通商政策局編
WTO
協定から見た主要国の貿易政策」
4
経済産業省 〔2006〕 「相殺関税の発動手順」 経済産業省ウェブサイト
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/cvd/cvd_flow.pdf).
経済産業省 〔2006〕「関税定率法」 経済産業省ウェブサイト
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm)
.
経済産業省 〔2006〕「相殺関税に関する法令」 経済産業省ウェブサイト
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm)
.
経済産業省 〔2006〕「相殺関税及び不当廉売関税に関する手続き等についてのガイドライ
ン」 経済産業省ウェブサイト
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm)
.
経済産業省 〔2006〕「貿易救済措置」 経済産業省ウェブサイト
(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm)
71
公正貿易センター 〔2000a〕「米国アンチダンピング関連規則集 -商務省アンチダンピ
ング関連規則- -国際貿易委員会アンチダンピング関連規則-」
公正貿易センター 〔2000b〕「米国アンチダンピング法・相殺関税法 -1930 年関税法 第
7編-」
中川 淳司 〔2003〕「経済規制の国際的調和(6)3 通商救済制度の国際的調和(2)補助金相殺
関税」貿易と関税 51(5)号、32-43 ページ
福島 栄一 〔2005〕「米国通商関連法概説 米国下院歳入委員会編」日本貿易振興機構
ポール ウェアー、エドウィン ベルムースト(氏家 輝雄訳)〔2001〕「UR 後の EC 相殺関
税法及びその運用について」貿易と関税 49(1)号、25-45 ページ
Department of Commerce,
〔2005〕”Electronic Subsidies Enforcement Library, Subsidy
Program
by
Investigated
DOC,”
Department
of
Commerce
Web
Site
(http://ia.ita.doc.gov/esel/eselframes.html) .
Department of Commerce,
〔2005〕”Subsidies Enforcement Annual Report to the
Congress,” Department of Commerce.
Department of Commerce
〔2005〕”Antidumping and Countervailing Duties Statistics,”
Department of Commerce Web Site (http://ia.ita.doc.gov/stats/iastats1.html).
European Union “Anti-Subsidies, Legislation, Reports, and Texts,” European Union
Web Site
(http://europa.eu.int/comm/trade/issues/respectrules/anti_subsidy/legis/index_en.htm).
European Union “Anti-Subsidies, List of Cases, Timetables and Statistics,” European
Union Web Site
(http://europa.eu.int/comm/trade/issues/respectrules/anti_subsidy/stats.htm).
Hoda, Anwarul and Ahuja, Rajeev,
〔2005〕”Agreement on Subsidies and Countervailing
Measures: Need for Clarification and Improvement,” Journal of World Trade, Vol. 39,
December 2005, pp1009-1069.
72
Krugman Paul, R. and Obstfeld, Maurice,
〔2002〕 International Economics Sixth
Edition, Theory and Policy, Addison Wesley, Boston.
Mavroidis, Petros C., Howse, Robert and George Bermann,
〔2004〕”Chapter 13:
Subsidies and Countervailing Duties,” The Law of the World Trade Organization (WTO),
Text, Cases and Materials, Volume 2.
World Trade Organization (WTO)
〔2005〕”Subsidies and Countervailing Measures,”
WTO Web Site (http://www.wto.org/english/tratop_e/scm_e/scm_e.htm) .
World Trade Organization (WTO)
〔 2005 〕 ”Anti-dumping,”
(http://www.wto.org/english/tratop_e/adp_e/adp_e.htm) .
73
WTO Web Site
III. 補足:
補足:中国・
中国・韓国・
韓国・インドの
インドの産業政策・
産業政策・補助金制度
ここでは中国、韓国、インドの産業政策・補助金制度を参考資料として取りあげる。中
国は、米国、EC、日本等主要国により市場経済国として認められていない。従って過去に
同国が CVD の標的となったケースは少ないが、将来的に市場経済国と認定されれば集中的
な発動を受ける可能性がある。韓国は米国、EC、日本の DRAM 事件で注目を集めたため、
同国の他の補助金制度についても取りあげてみた。インドの補助金はこれまでのところ主
要国の最大の標的である。特に同国の輸入にかかる課徴金・間接税の払戻制度に対する米
国や EC の補助金認定の件数は少なくない。
本報告書で触れたように、米国では商務省輸入管理課が「補助金データベース」を構築、
議会や企業とのデータの共有に努めてきた。EC 貿易総局は「市場アクセス戦略」という各
国の不公正貿易に関するデータ・情報を収集、企業に対して普及活動を行った。下にあげ
た中国、韓国、インドの補助金制度に関する情報が役に立つかは分からないが、日本製デ
ータベース構築の第一歩となれば幸いである。
74
第三部 補論
第1章 中国の補助金制度
1.中国の補助金体系
中国では他の多くの国と同様に、完全な補助金体系が確立されているわけではなく、大
部分の補助金は、もともとある分野の問題を解決するために導入されたものである。その
ため、これらの補助金制度をまとめて体系化して総括するには難しい面がある。特に、輸
出に対して直接的に補助する制度は少なく、他の政策措置が間接的に補助金の効果をもた
らしているというものがほとんどである。
表 1 に主要な補助金制度をまとめているが、直接的な輸出促進政策は、機械・電気製品
と輸出ブランド商品の輸出支援に限定されているとの声もある。その他の国有企業への補
助金、外商投資企業への優遇政策、特定産業への支援政策、科学研究と技術開発の奨励政
策などはいずれも輸出の間接的な補助金制度とみなしうる。
表1 中国の主要な補助金制度
政策
対象
直接的な
輸出促進
政策
機械・電気
製品輸出企
業、輸出ブ
ランド企業
国有企業 赤字国有
への補助 企業
金
背景または目的
①機械・電気製品が中国の輸出総額
の 50%以上を占め、中国の貿易に
おいて重要な位置づけにある。中国
政府が優遇政策で機械・電気製品の
輸出を奨励し、中国の輸出貿易の安
定的成長を図っている。
②輸出向けブランドを育成し、中国
の自主的ブランドの国際競争力を
高める。
①90 年代半ば頃以降、歴史的な原
因や市場環境の変化により、多くの
国有企業が経営不振に陥り、その深
刻な赤字体質が顕在化した。このよ
うな背景の下、国有企業改革が一層
加速した。しかし自力で株式化や再
編などの改革を行うのが困難な国
有企業に対しては、政府がリストラ
された従業員を支援し、補助金を出
75
今後の見通し
近年、中国の急速な輸出増加が貿易黒
字を大幅に拡大させ、同時に貿易摩擦
をもたらしている。それは中国の対外
貿易政策に大きな影響を及ぼしてい
る。そのため、中国は単に輸出の規模
を増大させる政策措置を徐々に減ら
し、輸出構造や輸出製品の技術内容を
重視するようになっている。このよう
な背景下で、機械・電気製品輸出企業
の技術向上を奨励することや、輸出ブ
ランドを育成することは今後しばら
くの間、中国の重要な輸出促進政策と
して継続するとみられる。
国有企業改革の進展や国有企業の経
営改善により、国有企業が賄っていた
公共的機能も順次切り離され、赤字国
有企業の数も大幅に減少した。また、
2006 年以降国有企業の「下崗」
(レイ
オフ者)制度が完全に失業制度に統合
され、社会保障制度に組み入れられる
につれて、政府の赤字国有企業への補
助金は徐々に減少する傾向にある。と
はいえ、国有資産委員会の計画では、
外商投資
企業に対 外商投資企
する優遇 業
政策
特 定 産 業 ウ主にソフト
アと
に 対 す る IC ェ産業の
支援政策 企業
科学研究
と技術開
発に対す
る奨励政
策
研究開発機
関、ハイテ
ク企業、技
術向上を実
施する企業
など
している。
②一部の国有企業は経営状態が悪
いものの、公共的機能や雇用機会創
出において重要な役割を果たして
いるため、政府はこれらの国有企業
に対し補助金を支給し、その正常な
運営を維持させようとしている。
①外商投資を誘致し、中国の経済成
長を促進する。
②外資導入に伴い先進的技術を導
入する。
①ソフトウェアと IC 産業は国家安
全保障などに係わる重要なハイテ
ク産業とされているため、中国政府
は国産ソフトウェアと IC 産業への
支援を通じて、米国など先進国に対
する依存度を低めたい。
②交通、水利等のインフラ整備への
投資期間は長いため、政府が優遇措
置によって資金をこれらの分野へ
導かせたい。
中国の科学技術水準はまだ低く、具
体的にはコア技術の自給自足率が
低いこと、自主的開発能力が弱いこ
と、企業がコア競争力に欠けている
こと、産業技術の重要分野で対外技
術依存度が高いこと、多くの高技術
製品と高付加価値製品が輸入に頼
っていることなどに現れている。中
国政府が奨励政策をもって、研究開
発機関と企業の科学研究、技術開発
を促進し、中国の科学技術水準を高
めようとしている。
2.中国の補助金給付方法
76
国有企業改革は 2015 年~2020 年の
間にようやく完了する見込みであり、
それまでは、赤字国有企業への補助金
は依然として存続するであろう。
企業所得税の優遇は、従来から中国の
外商投資企業への主要な優遇政策措
置である。その中で最も注目されてい
るのは、2006 年8月に財政部から全
国人民代表大会常務委員会に提出さ
れる予定の『企業所得税法草案』で、
中国国内企業と外資企業の所得税が
統合されるか否かという点である。外
商投資企業の所得税優遇が続くか否
かについては、2006 年にその方針が
固まるとみられる。
ソフトウェアと IC 産業の重要な位置
づけに鑑み、中国政府は今後相当な長
期にわたり、支援を継続するであろ
う。
交通、水利等のインフラ整備は中国経
済の長期的発展のための基盤である
ため、優遇政策も長期的に継続すると
みられる。
今後かなり長期にわたり、中国の研究
開発機関と企業の科学研究・技術開
発・自主開発能力の向上、中国の対外
技術依頼度の低減が中国政府の重点
課題となっていくであろう。最近は
「自主創新」戦略(自主的開発・自主
的ブランドの創出戦略)も打出してい
る。これらの分野に投じる予算も増加
し続けるであろう。とりわけ、財政部
が発表した 2006 年予算では、中央財
政の科学技術支出は 716 億元と、2005
年より 115 億元も増加した。
中国の補助金の給付方法には、主として、直接現金給付、優遇貸出または利子補給、税
金減免の3つの方式がある。
表2 補助金の給付方法
補助金の給付方法
対象補助金の内容
赤字国有企業への補助金、輸出ブランド企業への補助金、研究開発機関
直接現金給付
と一部企業に給付する潜在力発掘・改造資金と科学技術三項目費用など。
優遇貸出および利子補 政策性銀行による貸出、中央政府対外貿易発展ファンドによる機械・電
給
気製品輸出企業など貿易企業への貸出利子補給など。
税金減免
大多数の補助金は、税金の減免措置の方式をとっている。
77
3.中国の主要な補助金一覧
中国の主要な補助金を以下の通り一覧表の形で示した。
(1) (1)赤字国有企業への補助金(中央予算)
① 補助金の名称
② 適用期間
赤字国有企業への補助金(中央予算)
1949 年~現在。中国が逐次に撤廃と約束
赤字国有企業の構造調整を促進するとともに、合理化の促
③ 政策の目標または補助金の目的 進や安定的生産の維持などによって雇用を確保(社会保障
制度の不備への補足とする)
④ 補助金の実施主管機関
財政部
⑤ 補助金付与の法的根拠
中央予算サポート
⑥ 補助金の形態
給付と税金免除
生産した製品の価格が固定化、または資源開発コスト上昇
⑦ 補助金給付対象
によって赤字が深刻化した国有企業
⑧ 産業別年度補助金額(億元)
1999 年
2000 年
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
工業企業
-
36.89
25.02
34.76
21.69
23.75
外国貿易企業
-
6.83
6.88
5.62
5.09
5.50
農林、水産、気象企業
-
2.86
3.77
2.24
2.04
2.04
その他の企業
-
2.05
2.61
2.97
3.52
4.66
合 計
51.65
48.63
38.28
45.59
32.34
35.95
(2) (2)赤字国有企業への補助金(地方予算)
① 補助金の名称
② 適用期間
赤字国有企業への補助金(地方予算)
1949 年~現在
赤字国有企業の再編を促進するとともに、合理化の促進や安
③ 政策の目標または補助金の目的 定的生産の維持などによって雇用を確保(社会保障制度の不
備への補足とする)
④ 補助金の実施主管機関
財政部と地方政府
⑤ 補助金付与の法的根拠
地方予算サポート
⑥ 補助金の形態
給付と税免除
生産した製品の価格が固定化、または資源開発コスト上昇に
⑦ 補助金給付対象
よって赤字が深刻化した国有企業
78
⑧ 地域別年度補助金額(億元)
1999 年
北京市
570,789
天津市
65,000
河北省
40,991
山西省
54,277
内モンゴル自治区
遼寧省
吉林省
黑龍江省
上海市
江蘇省
浙江省
安徽省
福建省
江西省
山東省
河南省
湖北省
湖南省
広東省
広西チワン自治区
海南省
重慶市
四川省
貴州省
雲南省
チベット自治区
陜西省
甘粛省
青海省
寧夏回族自治区
新疆ウイグル自治区
合 計
2000
年
2001
年
2002
年
2003
年
2004
年
541,807
532,229
516,958
510,546
506,057
50,000
40,000
30,000
30,000
25,000
38,442
35,354
20,581
15,560
12,545
31,298
48,418
21,335
17,987
18,313
13,696
6,800
14,436
3,463
6,149
3,990
112,000
96,570
47,195
35,166
33,307
28,718
54,899
63,860
62,176
60,074
62,948
53,227
35,538
29,919
24,646
22,525
21,795
20,653
448,451
372,325
362,320
355,213
361,866
275,106
91,507
75,362
75,366
73,069
73,058
132,037
355,434
547,970
766,221
590,513
472,124
462,042
36,145
26,703
68,275
21,486
22,920
21,107
5,260
3,553
4,260
3,088
2,944
2,472
3,336
2,645
2,286
636
2,192
2,025
58,284
63,177
88,303
64,039
48,894
43,871
21,099
20,593
114,599
22,443
17,060
13,681
72,435
50,036
47,861
41,138
42,408
26,059
54,176
49,152
59,121
54,789
39,804
35,596
98,797
59,686
52,048
56,199
28,582
22,599
12,937
9,420
17,988
16,055
15,372
9,772
4,131
5,136
3,129
0
0
0
27,264
31,376
27,670
26,344
23,319
21,114
29,363
25,379
27,937
27,809
27,401
25,899
11,609
6,302
5,242
5,533
5,369
3,825
31,299
27,211
28,677
19,829
23,597
17,891
10,076
10,156
9,703
8,522
9,186
9,123
36,104
26,890
21,169
24,531
13,006
14,531
11,540
13,259
11,942
12,964
12,904
12,192
784
374
121
40
40
41
2,153
967
557
241
11
0
14,442
15,096
18,345
5,515
84
265
2,383,816
2,301,464
2,617,594
2,140,098
1,940,433
1,819,751
79
(3) (3)経済特区の優遇政策(除く上海浦東地区)
①
②
③
④
補助金の名称
適用期間
政策の目標または補助金の目的
補助金の実施主管機関
⑤ 補助金付与の法的根拠
深セン市、珠海市、汕頭市、厦門市、海南経済特区の外商
投資企業への所得税優遇政策
1984 年~現在
地域発展の促進、外国投資の誘致
国家税務総局と地方税務主管機関
1991 年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所得
税法』。
1991 年以降、
『外商投資企業と外国企業の所得税法』(1991
年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』
(1991 年公布)。
優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
a. 経済特区で設立された外商投資企業、および経済特区で生産と経営活動を行う外国企業は、
15%の優遇企業所得税率を適用。
b. 経済特区都市の旧市街で設立された外商投資生産型企業は、24%の優遇企業所得税率を適用。
さらに、労働集約型、知識集約型のプロジェクト、外商投資 3,000 万ドル以上で、投資回収時間が
長いプロジェクトおよびエネルギー、交通、港湾プロジェクトは、企業所得税率は 15%まで減免す
ることが可能。
c. 外商投資が 500 万ドル以上、経営期間が 10 年以上のサービス企業は、利益が出た後、最初の
1 年間は企業所得税免除、その後の 2~3 年目は企業所得税を半分免除。
d. 海南経済特区で設立された空港や港、埠頭、鉄道、道路、発電所、炭鉱、水利などインフラ整
備を行う外商投資企業、および農業開発経営に従事する外商投資企業は、経営期間が 15 年以上の場
合、利益が出た後、最初の 5 年間は企業所得税を免除、6~10 年目は企業所得税を半分免除。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特になし)
(4) (4)上海浦東経済特区の優遇政策
①
②
③
④
補助金の名称
上海浦東経済特区外商投資企業に対する所得税優遇政策
適用期間
1991 年~現在
政策の目標または補助金の目的 地域発展の促進、外国投資の誘致
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
80
年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所
得税法』
1991 年以降、
『外商投資企業と外国企業の所得税法』
(1991
年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』
(1991 年公布)
優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除
1991
⑤ 補助金付与の法的根拠
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
a. 上海浦東経済特区で設立された外商投資生産型企業及び区内でインフラ整備に従事する外
商投資企業は、15%の優遇企業所得税率に適用。
b.上海浦東経済特区で設立され、飛行場や港、鉄道、発電所などエネルギー・輸送整備に従事
し、経営期間が 15 年以上の外商投資企業に対しては、利益が出た後、最初の 5 年間は企業所得
税を免除、6~10 年目は半分免除。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(5) (5)経済技術開発区の優遇政策
① 補助金の名称
大連、秦皇島、天津、煙台、青島、連雲港、南通、寧波、福州、広州、湛江、上海(閔行、虹
橋、曹河涇)、北海、瀋陽、温州、ハルピン、長春、杭州、武漢、重慶、蕪湖、蕭山、惠州、南
沙、昆山、栄橋、威海、営口、東山の経済技術開発区の外商投資企業に対する所得税優遇政策
② 適用期間
1984 年~現在
③ 政策の目標または補助金の目的 地域の対外発展の促進、外国投資の誘致
④ 補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
1991 年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所
得税法』
⑤ 補助金付与の法的根拠
1991 年以降、
『外商投資企業と外国企業の所得税法』
(1991
年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』
(1991 年公布)
⑥ 補助金の形態
優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除
⑦ 補助金給付対象
a. 経済技術開発区で設立された外商生産型企業は、15%の優遇企業所得税率を適用。
81
経済技術開発区都市の旧市街で設立された外商投資生産型企業は、24%の優遇企業所得税
率を適用。さらに、労働集約型、知識集約型のプロジェクト、外商投資が 3,000 万ドル以上で投
資の回収時間が長いプロジェクト、エネルギー、交通、港湾プロジェクトに対して、企業所得税
率は 15%まで減免することが可能。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
b.
(6) (6)外商投資企業に対する優遇政策
①
②
③
④
補助金の名称
中国における外商投資企業の所得税優遇政策
適用期間
1985 年~現在
政策の目標または補助金の目的 地域発展の促進、外国投資の誘致
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
1991 年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所
得税法』
⑤ 補助金付与の法的根拠
1991 年以降、
『外商投資企業と外国企業の所得税法』
(1991
年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』
(1991 年公布)
⑥ 補助金の形態
優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除
⑦ 補助金給付対象
a. 経営期間が 10 年以上の外資生産型企業に対しては、利益が出た後、最初の 2 年間は企業所
得税を免除、3~5 年目は半分免除。
b. 港湾と埠頭の建設に従事する中外合弁企業は、15%の優遇企業所得税率を適用。このうち、
経営期間が 15 年以上の企業に対しては、省・自治区・直轄市の税務機関の許可を得て、利益が
出た後、最初の 5 年間は企業所得税を免除、6~10 年目は半分免除。
c. 外資の先進技術企業に対しては、税法に基づき企業所得税が減免される期間が満了後、依然
として先進技術企業である場合、さらに 3 年間法定税率の半分免除が延長可能。
d. 農業、林業、牧業に従事する外商投資企業、および経済が遅れているへき地に設立した外
商投資企業に対しては、減免期間が満了後、国務院税務主管機関の許可を得て、その後の 10 年
間は引き続き 15~30%の優遇企業所得税を適用。
e. 外国投資が奨励される業種とプロジェクトに対しては、省・自治区・直轄市政府が実際の状
況に応じて、企業所得税の地方部分の減免を決定することが可能。
82
外商投資企業の外国投資者に対しては、企業の利益を同一企業へ再投資し、または資本金と
してその他の外商投資企業へ再投資し、経営期間が 5 年以上の場合、税務機関の許可を得れば、
再投資部分にかかる既納付企業所得税の 40%の還付が可能。このうち、外商投資者が中国国内で
製品輸出企業と先進技術企業の設立や拡大に再投資した場合、または外商投資者が海南経済特区
の企業から取得した利益を海南経済特区内のインフラ整備と農業開発企業へ再投資した場合、再
投資部分にかかる既納付企業所得税を全額還付することも可能。
g. 外資の輸出企業に対しては、税法に基づいた企業所得税の減免期間が満了後でも、輸出額が
同年の企業収入の 70%以上を占めた場合、税法の税率より半分免除することが可能。
h. 中国国内で機関、拠点を設置していない外国企業は、中国国内で取得した利益、利息、賃
料、特許権使用費とその他の所得は 20%の優遇所得税率を適用。機関と場所を設置したが、機関、
場所と係わりを持たない利益、利息、貸賃、特許権使用費とその他の所得も 20%の優遇所得税
率を適用。科学研究、エネルギー開発、交通事業発展、農林牧業生産および重要技術開発に専門
技術を提供して得た特許権使用費は、国務院税務主管部門の許可を得れば、10%の企業所得税率
を適用。うち技術が先進でまたは条件が優れている場合、所得税の免除は可能。また、外国投資
者が中国で投資した企業から得た利益は所得税免除。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
f.
(7) (7)輸出税金還付(減免)
①
②
③
④
補助金の名称
輸出税金還付(減免)
適用期間
1985 年~現在
政策の目標または補助金の目的 輸出企業の税負担を軽減
補助金の実施主管機関
税務主管機関と税関
国家予算サポート、『増値税暫定条例』(国務院 1996 年公
布)、『消費税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『輸出
⑤ 補助金付与の法的根拠
貨物税金還付(減免)管理方法』(国家税務総局 1994 年公
布)
⑥ 補助金の形態
税金の還付、または減免
⑦ 補助金給付対象
a.輸出製品の加工、組立と製造のために輸入した原材料、部品と包装材料に対しては、輸入関税
を免除。関税を徴収した場合は、輸出の最終製品の量に応じて既納付関税を還付。
b. 一部の輸出製品に対しては、既納付増値税を一部または全額還付。
⑧ 還付金の年度額(億元)
1996 年
1997 年
1998 年
1999 年
2000 年
2001 年
83
年度額
年度額
828
2002
年
1,150
555
2003
年
1,989
436
2004
年
627
1,050
1,080
3,484
(8) (8)国家政策性銀行貸出
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
補助金の名称
国家政策性銀行貸出
適用期間
1991 年~現在
政策の目標または補助金の目的 投資構造の調整、対外貿易、農業・農村の発展を促進
補助金の実施主管機関
国家開発銀行、輸出入銀行、農業発展銀行
補助金付与の法的根拠
(特に無し)
補助金の形態
貸出
補助金給付対象
a. 国家開発銀行は、主として中西部地区のエネルギー、輸送、電信、水利、資源開発などのイン
フラ整備、および一部企業の技術向上をサポート。
b. 輸出入銀行は、主として機械・電気製品やプラント、ハイテク製品の輸出、対外請負工事と海
外投資などのプロジェクトをサポート。
c. 農業発展銀行は、主として農業副産物の買付けと備蓄、林業開発と水利開発をサポート。
⑧ 政策性銀行別の貸出規模(億元)
期間
貸出供与額
累計 16,000 億元の貸出を供与。うち 2004 年は
国家開発銀行
1994 年~2004 年
4,532 億元。
累計 3,252 億元のサプライヤーズ・クレジット
輸出入銀行
1994 年~2004 年
を供与。うち 2004 年は 729 億元。(全貸出デー
タは公開されていない)
年間平均貸出供与額は 2,000 億元程度。うち
農業発展銀行
1994 年~2004 年
2004 年の食糧、綿花、油の買付貸出は 1,617 億
元。
(9) (9)企業潜在力発掘・改造資金、科学技術3項目費用
① 補助金の名称
② 適用期間
企業潜在力の発掘・向上資金、科学技術の 3 項目の費用(新
製品試作費、中間試験費、重大技術開発プロジェクト補助金)
1991 年~現在
84
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
政策の目標または補助金の目的
補助金の実施主管機関
補助金付与の法的根拠
補助金の形態
補助金給付対象
年度給付額(億元)
1999 年
年度給付額
766
(10)
科学研究と技術開発の奨励、科学技術の農村部での応用普及
財政部
国家予算支援
給付と貸出
科学研究機構と一部の企業
2000
年
2001
865
年
992
2002
年
968
2003
年
1,093
2004
年
1,244
(10)ハイテク企業に対する優遇所得税待遇
①
②
③
④
補助金の名称
ハイテク企業に対する優遇所得税待遇
適用期間
1994 年~現在
政策の目標または補助金の目的 ハイテク産業の促進
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業所
⑤ 補助金付与の法的根拠
得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局
2004 年公布)
⑥ 補助金の形態
所得税の減免
⑦ 補助金給付対象
国務院に認可されたハイテク開発区のハイテク企業は、15%の企業所得税を適用。このうち、新
規のハイテク企業に対しては、生産年度より 3 年間は企業所得税を免除。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(11)
(11)廃棄物利用企業に対する優遇所得税待遇
①
②
③
④
補助金の名称
廃棄物利用企業に対する優遇所得税待遇
適用期間
1994 年~現在
政策の目標または補助金の目的 資源リサイクルの奨励
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業所
⑤ 補助金付与の法的根拠
得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局
2004 年公布)
⑥ 補助金の形態
所得税の減免
85
⑦ 補助金給付対象
a. 企業が設計された製品以外に、その生産過程において生じた、『資源総合利用リスト』に明記
されている資源を主要原料として生産して得た収入に対しては、生産年度より 5 年間は企業所得税
を免除。
b. 企業が他社の大量のボタ、石炭灰、粉灰を主要原料として生産した建築材料の製品から得た収
入は、生産年度より 5 年間は企業所得税を免除。
c. 他社が廃棄した、『資源総合利用リスト』に明記されている資源を処理・利用するために新設
した企業は、主管税務機関の許可を得て、企業所得税を 1 年間減免可能。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(12)
(12)貧困地域企業に対する優遇所得税待遇
①
②
③
④
補助金の名称
貧困地域企業に対する優遇所得税待遇
適用期間
1994 年~現在
政策の目標または補助金の目的 貧困地域の発展の促進
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業所
⑤ 補助金付与の法的根拠
得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局
2004 年公布)
⑥ 補助金の形態
所得税の減免
⑦ 補助金給付対象
政府に認可された旧革命根拠地、少数民族地区、へき地、貧困地域などでの新設企業は、主管税
務機関の許可を得て、企業所得税を 3 年間減免可能。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(13)
①
②
③
④
(13)技術移転企業に対する優遇所得税待遇
補助金の名称
技術移転企業に対する優遇所得税待遇
適用期間
1994 年~現在
政策の目標または補助金の目的 技術移転の奨励
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
86
⑤ 補助金付与の法的根拠
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業所得
税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局 2004
年公布)
所得税の減免
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
技術移転及びそれに関わる技術コンサルティング、技術サービス、技術研修などより得た収入が
年間 30 万元以下の部分は、企業所得税を免除。30 万元以上の部分に対してのみ、企業所得税を徴
収。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(14)
(14)被災企業に対する優遇所得税待遇
①
②
③
④
補助金の名称
被災企業に対する優遇所得税待遇
適用期間
1994 年~現在
政策の目標または補助金の目的 被災企業への損失を補助
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業
⑤ 補助金付与の法的根拠
所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務
総局 2004 年公布)
⑥ 補助金の形態
所得税の減免
⑦ 補助金給付対象
台風、洪水、火災、地震などの深刻な自然災害に遭った企業は、主管税務機関の許可を得て、企
業所得税を 1 年間減免可能。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(15)
①
②
③
④
(15)失業者への雇用機会提供企業に対する優遇所得税待遇
補助金の名称
適用期間
政策の目標または補助金の目的
補助金の実施主管機関
失業者への雇用機会を提供する企業に対する優遇所得税
待遇
1994 年~現在
雇用機会の創出
国家税務総局と地方税務主管機関
87
⑤ 補助金付与の法的根拠
『企業所得税暫定条例』(国務院 1993 年公布)、『企業
所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務
総局 2004 年公布)
所得税の減免
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
同年の失業者採用者数が従業員総数の 60%以上を占める企業に対しては、主管税務機関の許可
を得て、企業所得税を 3 年間免除可能。失業者採用割合の計算式:同年失業者採用割合=同年失
業者採用数/(元従業員総数+同年失業者採用数)×100%
3 年間の免税期が満了する年に、新規採用の失業者数が元従業員総数の 30%以上を占める企業
に対しては、主管税務機関の許可を得て、その後の 2 年は企業所得税を半額に減税可能。同年失
業者採用割合の計算公式:同年失業者採用割合=同年失業者採用数/元従業員総数×100%
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(16)
(16)輸入技術、設備にかかる関税と輸入増値税の減免
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
補助金の名称
輸入技術、設備にかかる関税と輸入増値税の減免
適用期間
1998 年~現在
政策の目標または補助金の目的 外資の導入、国内企業技術革新の奨励、加工貿易の促進
補助金の実施主管機関
税務主管機関と税関
『輸入設備への税収政策の調整に関する通知』(国務院
補助金付与の法的根拠
1997 年公布)
補助金の形態
関税と輸入増値税の減免
補助金給付対象
a. 『外商投資産業指導目録』の奨励類に当たる外商投資プロジェクトで投資総額の枠内で輸入
した自家用設備に対しては、『外商投資プロジェクトの非免税輸入商品目録』に明記されている
商品を除いて、関税と輸入増値税を免除。
b. 外国政府ローンと国際金融機関ローンによるプロジェクトで輸入した自家用設備及び加工
貿易において外商が提供した価格のない輸入設備に対して、『外商投資プロジェクトの非免税輸
入商品目録』に明記されている商品を除き、関税と輸入増値税を免除。
c. 『当面の国家重点奨励対象の産業、製品と技術目録』に当たる国内投資プロジェクトで投資
総額の枠内で輸入した自家用設備に対しては、『国内投資プロジェクト非免税輸入商品目録』に
明記されている商品を除き、関税と輸入増値税を免除。
d. 上記の規定に合うプロジェクトで、契約どおりに設備と共に輸入した技術、部品とスペアに
対して、関税と輸入増値税を免除。
88
既設の、奨励類に当たる外資企業、外資 R&D センター、ハイテク企業と輸出型外資企業は、
認可された経営範囲内で中国で生産できないか、あるいは性能が要件を満たせない自家用設備と
関連技術、部品、スペアを技術向上のため輸入する場合、輸入関税と輸入増値税が免除される。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
e.
(17)
(17)機械・電気製品輸出企業に対する優遇待遇
①
②
③
④
補助金の名称
機械・電気製品輸出企業に対する優遇待遇
適用期間
1999 年~現在(一部の政策は 2001 年より実施)
政策の目標または補助金の目的 機械電気製品輸出を促進
補助金の実施主管機関
商務部、財政部、国家税務総局と地方税務主管機関
『機械・電気製品輸出をより一層支持・奨励する意見に関
する通知』(旧対外経済合作貿易部 1999 年公布)、『「十
五」期間中における機械・電気製品輸出の更なる促進に関
⑤ 補助金付与の法的根拠
する意見』(旧対外経済合作貿易部、国家発展改革委員会、
旧国家経済貿易委員会、財政部、情報産業部、人民銀行、
税関総署、国家税務総局、国家質量監督検験検疫総局 2001
年公布)
⑥ 補助金の形態
貸出利子補給、R&D 資金への補助、企業所得税の減額
⑦ 補助金給付対象
a. 1999 年より、機械・電気製品輸出企業の技術向上に用いられる貸出に対しては、財政部、商
務部の許可を得て利子補給を実施。(「中央外貿発展基金」から支出される。)
b.2001 年より、一部の機械・電気製品輸出企業の R&D 資金に対し補助を与える。(「中央外
貿発展基金」から支出される。)
c. 2001 年より、機械・電気製品輸出企業に対しては、その研究開発費の年間伸び率が 10%以
上となる場合は、研究開発費が管理費として計上でき、かつ研究開発費の 50%に当たる額が課税
所得額から控除可能。
⑧ 利子補給額と R&D 資金補助額
1999 年~2000 年
2001 年~2005 年
技術向上のための貸出利
6,000 万元
3 億元
子補給
R&D 資金への補助
-
1 億元
89
(18)
(18)ソフトウェア産業と IC 産業に対する税金優遇待遇
①
②
③
④
補助金の名称
ソフトウェア産業と IC 産業に対する税金優遇待遇
適用期間
2000 年~現在(一部は 2002 年より実施)
政策の目標または補助金の目的 ソフトウェア産業と IC 産業の促進
補助金の実施主管機関
国家税務総局と地方税務主管機関
『ソフトウェア産業と IC 産業の発展を奨励する税収政策
の問題に関する通知』(財政部、国務院、国家税務総局
2000 年公布)、『ソフトウェア産業と IC 産業の発展をよ
⑤ 補助金付与の法的根拠
り一層奨励する税収政策に関する通知』(財政部、国家税
務総局 2002 年公布)、『IC 増値税還付政策の廃止に関す
る通知』(財政部、国家税務総局 2004 年公布)
⑥ 補助金の形態
税金の減免と還付
⑦ 補助金給付対象
a. 2000 年 6 月 24 日より 2010 年末まで、自主的に開発・生産したソフトウェア製品を販売す
る一般納税者に対しては、17%の法定税率で増値税を徴収し、3%を超えた部分について徴収後即
時還付する。還付金は企業のソフトウェア製品の開発及び生産拡大に用いられる場合、企業所得
税の課税対象として扱われず、企業所得税が免除される。
b. 国内の新設ソフトウェア生産企業に対しては、利益が出た後、最初の 2 年間は企業所得税を
免除、3~5 年目は企業所得税を半額に減税。
c. 免税優遇が実施されなかった国家計画内の重点ソフトウェア生産企業に対しては、その年は
10%の税率で企業所得税を徴収。
d. 2000 年 6 月 24 日から 2004 年 3 月末までに、自主的に生産した IC 製品(単結晶シリコン
チップを含む)を販売する増値税一般納税者に対しては、17%の法定税率で増値税を徴収し、6%
(2002 年より 3%に減少)を超えた部分について徴収後即時還付する。還付金は企業の IC 製品
の開発及び生産拡大に用いられる場合、企業所得税の課税対象として扱われず、企業所得税が免
除される。
e. 2002 年より、線幅 0.8 ミクロン以下(0.8 ミクロンを含む)の IC 製品を生産する企業に対
しては、利益が出た後、最初の 2 年間は企業所得税を免除、3~5 年目は企業所得税を半額に減税。
f. 2002 年 1 月 1 日より 2010 年末までに、IC 製品生産企業の投資者が、税引き後利益を同一企
業に投資し、またはこの利益を資本金としてその他の IC 製品生産企業を設立し、経営期間が 5
年以上の場合、再投資部分にかかる既納付所得税の 40%が還付される。
g. 2002 年 1 月 1 日より 2010 年末までに、国内外の企業が、中国国内で税引き後利益を資本金
として、西部地域の IC 製品生産企業またはソフトウェア製品生産企業を設立し、経営期間が 5
年以上の場合、再投資部分にかかる既納付所得税の 80%が還付される。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
90
(特に無し)
(19)
(19)西部地域企業の税金優遇措置
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
補助金の名称
西部地域企業の税金優遇措置
適用期間
2001 年~2010 年
政策の目標または補助金の目的 西部地域の発展の促進
補助金の実施主管機関
商務部、財政部、国家税務総局と地方税務主管機関
『西部大開発税金優遇政策に関する通知』(財政部、国家
補助金付与の法的根拠
税務総局、税関総署 2001 年公布)
補助金の形態
所得税の減免
補助金給付対象
a. 西部地域で設立され、主要業務が『外商投資産業指導目録』奨励類に当たる外商投資企業、
及び西部地域で設立され、主要業務が『国家重点奨励産業、製品と技術目録』に当たる中国地場
企業は、2001~2010 年の間、15%の企業所得税率を適用(売上高が収入総額に占める比率は 70%
以上が条件)。
b.西部地域で新設立された交通や電力、水利、郵政、テレビ・放送などに従事する企業に対し
ては、業務収入が企業総収入の 70%以上を占めた場合、以下の企業所得税優遇政策を適用。即ち、
中国地場企業が設立年度から、最初の 2 年間は企業所得税免除、3~5 年目は半分免除。外商投資
企業で経営期間が 10 年以上の場合、利益が出た後、最初の 2 年間は企業所得税を免除、3~5 年
目は半分免除。
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(20)
(20)重点育成の輸出ブランドに対する優遇政策
①
②
③
④
補助金の名称
重点育成の輸出ブランドに対する優遇政策
適用期間
2005 年~現在
政策の目標または補助金の目的 輸出ブランド企業の成長を促進
補助金の実施主管機関
商務部、財政部、国家税務総局
『輸出ブランドのサポートに関する指導意見』(商務部、
⑤ 補助金付与の法的根拠
発展改革委員会、財政部、科技部、税関総署、税務総局、
工商総局、質量監督検験検疫総局 2005 年公布)
91
利息補給、R&D 資金、直接資金給付などを優先的に提供
(その他の具体的措置も後に順次公布)
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
a. 商務部が定めた『重点育成の輸出ブランド』名簿にある企業は、技術革新向上プロジェクト
の利子補給、輸出製品の R&D 資金及び直接資金給付などを優先的提供するといった優遇政策に
適用。
b. 各省市が定めた『重点育成の輸出ブランド』名簿にある企業に対しては、直接資金サポート
などの優遇政策を適用
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
(特に無し)
(21)
①
②
③
④
(21)中小企業の輸出拡大をサポートする優遇政策
補助金の名称
適用期間
政策の目標または補助金の目的
補助金の実施主管機関
⑤ 補助金付与の法的根拠
中小企業の輸出拡大をサポートする優遇政策
2001 年~現在
中小企業特に輸出向けハイテク製品の中小企業の輸出拡
大をサポート
商務部、財政部等
『対外貿易輸出拡大をより一層奨励するための関連政策
措置』(商務部、発展改革委員会、財政部、人民銀行、税
関総署、税務総局、品質検査監督総局 2001 年公布)
貸出利子補給
⑥ 補助金の形態
⑦ 補助金給付対象
中小企業特に輸出向けハイテク製品の中小企業
⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額
2001 年に、中央対外貿易発展基金の中で 5 億元の特別項目を設け、その後毎年中央対外貿易発
展基金の 10%で増額していく。
(22)
① 補助金の名称
② 適用期間
(22)中央対外貿易発展基金による貸付利子補給
中央対外貿易発展基金による貸付利子補給(上記の機械・
電気製品輸出と中小企業輸出を促進する特別項目基金が
含まれる)
1996 年~現在
92
③ 政策の目標または補助金の目的 輸出の拡大
④ 補助金の実施主管機関
商務部、財政部等
『中央対外貿易発展基金の整備に関する問題への回答』
⑤ 補助金付与の法的根拠
(国務院 1996 年公布)、『中央対外貿易基金有償使用管
理弁法(試行)』(旧対外経済合作貿易部 1996 年公布)
⑥ 補助金の形態
貸出利子補給
⑦ 補助金給付対象
輸出企業
⑧ 補助金総額
中央外貿発展基金の運用状況は極めて不透明で、ほとんど実態は公開されていない。2004 年
末までに累計 295 億元が使われたという程度のことしか判明していない。
93
第2章 韓国の補助金制度
1.韓国の補助金体系
本章では、韓国について、まず補助金の体系を示し、次に韓国の主要産業から鉄鋼産業
と電力産業を例に挙げて、それらの補助金制度と米国等の対応について過去の経緯を整理
し、最後に補助金関連で外国企業が直面した韓国の貿易・投資の問題点についてあげた。
(1)韓国の産業別補助金概要
韓国の補助金は WTO 補助金協定に基づき給付されており、産業別の概要は以下の通りで
ある。
産業
補助金名称
1)糧穀管理事業
①農業
2)果物・花卉販売促進事業
3)畜産業支援
1)合板およびボード類施設支援
②山林業
2)林産物利用
1)遠洋漁業開発支援
2)水産物加工・開発支援
3)漁業支援
③水産業
4)養殖漁業開発支援
5)旧式漁業船および装備の代替支援
6)漁船隻数の調整支援
④石炭産業
エネルギー・資源特別会計のうち石炭産業支援事業
1)外国人投資企業に対する支援
⑤製造業
2)航空機製造用部品関税減免
3)農業機械製造支援
1)環境改善融資事業
2)環境技術開発事業の研究開発支援
⑥環境・研究開 3)軽油自動車のための排出ガス低減装置の取り付けおよび低公害エン
ジン改造に関する事業
発
4)天然ガス使用供給事業
5)リサイクル施設と技術開発のための支援
6)情報通信振興研究開発支援
94
産業
⑦その他
補助金名称
7)科学技術振興基金
外国航路就航用船舶と遠洋船舶の製造と取得に関する地方税低減
(2)韓国の産業別補助金詳細
上記(1)の概要につき、補助金毎の詳細は以下の通りとなっている。
なお、表中の「変更前」は、2001 年と 2002 年の韓国政府の補助金に関する 2004 年5月
3日付の WTO 通報、「変更後」は、2003 年と 2004 年の韓国政府の補助金に関する 2006
年1月 18 日付 WTO 通報である。
①農業
1)糧穀管理事業
項目
補助金名称
適用期間
変更前
糧穀管理事業
政府買入制度は UR 交渉以前から
存続し、WTO に譲歩した AMS 範
囲内で買入制度継続存続計画
変更後
変更なし
【追加】
2005 年とその後生産された米に対
しては政府買入制度が適用されな
い
補助金付与の法的 糧穀管理法第 4 条、農水産物流通 変更なし
根拠
及び価格安定に関する法律第 10
条、
農漁村発展特別措置法第 14 条
補助金
農林部
変更なし
実施主管機関
補助金給付対象 米と麦
変更なし
豆
とうもろこし
政策の目標又は 食糧安保のための基礎農水産物の
補助金の目的
適正在庫維持
補助金の形態
政府買入(米、麦、豆、とうもろこ 政府買入(米、麦、豆、とうもろこ
し)
し)
-米、麦:政府予算
-米、麦:政府予算
-豆:基金(農業安定基金)
-豆、とうもろこし
-とうもろこし:政府予算
:基金(農業安定基金)
95
項目
変更前
変更後
(農漁村構造改善特別会計)
補助金額(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
米
8,709
8,241
985,218
麦
544
54,175
475
豆
153
23,958
112
とうもろこし
14
2,039
25
(注)直接補助金基準
売促進事業
項目
変更前
補助金名称
果実・花卉販売促進事業
適用期間
補助金存続期間なし
補助金付与の法的 農漁村発展特別措置法第 16 条
根拠
補助金実施主管機 農林部
関
補助金給付対象 果実・花卉・キムチなど輸出業者
政策の目標又は 農産物の品質向上及び流通費用減
補助金の目的
少
補助金の形態
補助金支給(grants)
補助金額(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
補助金
25,955
26,605
2)果実・
果実・花卉販
3)畜産業支援
項目
補助金名称
変更前
1.牛肉買入事業課
2 豚肉政府買入で区分
適用期間
補助金存続期間なし
補助金付与の法的 畜産法第 3 条及び第 26 条
根拠
補助金実施主管機 農林部
関
96
2004
1,013,827
48,000
46,636
1,303
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
2003
24,667
2004
25,571
変更後
牛肉品質改善及び安定促進支援
変更なし
変更なし
変更なし
補助金給付対象
畜産協同組合中央会、韓牛生産農
家など
政策の目標又は 韓牛の競争力強化及び牛肉消費
補助金の目的
減少に対応した韓牛の生産性維
持
補助金の形態
補助金支給(grants)
-畜産発展金
補助金額 (単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
去勢支援
15,783
18,528
小牛生産
800
韓牛生産
40,451
29,337
優良所生産
2,302
変更なし
牛肉消費減少に対応した韓牛の
生産性維持
変更なし
2003
2004
22,466
8,002
900
1,390
34,651
-
4,284
4,284
②山林業
1)合板およびボード類施設支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
政策の目標又は
補助金の目的
補助金の形態
変更前
合板及びボード類施設支援
補助金存続期間なし
林業振興促進法
変更後
変更なし
変更なし
林業振興促進法第 10 条
山林庁
変更なし
合板又はボード類生産業者
変更なし
間伐・小径材及び廃木材を利用す 間伐・小径材及び廃木材利用化
るボード類施設支援
融資
変更なし
-財源:財政投融資特別会計
(2001)、
農漁村構造改善特別会
計
単位:百万ウォン)
項目/年
2001
(2002)
補助金額(
補助金額(
2002
97
2003
2004
融資金
-(注)
(注)融資金金額明示されていない
林産物利用
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
2)
注
-( )
変更前
林産物利用プログラム
補助金存続期間なし
林業振興促進法第 10 条、
山林法第 10 条
山林庁
4,605
8,204
変更後
変更なし
変更なし
林業振興促進法第 10 条
変更なし
林産物加工施設を運営する個人 変更なし
又は法人
政策の目標又は 林産物利用施設の現代化で財政 変更なし
補助金の目的
的支援供給
補助金の形態
融資
変更なし
-財源:農漁村構造改善特別会計
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
融資金
-(注)
-(注)
27,680
(注)融資金金額明示されていない
2004
35,976
③水産業
1)遠洋漁業開発支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
変更前
遠洋漁業開発支援
補助金存続期間なし
水産業法第 87 条
変更後
変更なし
変更なし
林業振興促進法第 10 条
海洋水産部
変更なし
遠洋漁業者
政策の目標又は
補助金の目的
遠洋漁業経営支援
遠洋漁業者及び海外資源開発業
者
遠洋漁業の発展支援
98
項目
補助金の形態
変更前
融資
:1 年、支援金利 4.50-5.50%
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
融資金
331,000
300,000
2)水産物加工・開発支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
変更前
水産物加工・開発支援
補助金存続期間なし
農漁村発展特別措置法第 15 条、
第 16 条
海洋水産部
水産物処理・保存・加工に務める
業者
政策の目標又は 新製品開発促進、優良製品生産拡
補助金の目的
大、処理・加工施設の現代化
補助金の形態
補助金支給(grants)及び融資
-水産物加工業支援:1 年
-水産物処理・保存・加工
:5%の年利子率で 10 年間融資(3
年間据置後 7 年償還)
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
補助金
2,000
3,000
融資金
17,500
11,500
3)漁業支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
変更前
漁業支援
補助金存続期間なし
水産業業法第 87 条
変更後
融資
:1 年、支援金利 3-4.5%
2003
2004
11,130
11,080
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
水産物処理・保存・加工に務める
業者と従事者
製品の安全性要求及び品質の良
い製品供給
補助金支給(grants)及び融資
-補助金支給:費用の 20-70%
-融資
:4%の年利子率で 10-15 年融資
2003
7,830
10,159
13,032
24,776
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
99
2004
根拠
補助金実施主管機 海洋水産部
関
補助金給付対象 近海、内水面漁業経営者
変更なし
関連水産業法による免許を得た
漁業経営者
政策の目標又は 融資を提供することにより安定 低利の融資を提供することによ
補助金の目的
した漁業経営支援
り安定した漁業経営支援
補助金の形態
-融資
-融資
:1 年間 4.0-4.5%の年利子率
:1 年間 4%の年利子率
(近海漁業者、2003))
1 年間 4.5%の年利子率
(遠洋漁業者、2003 年)
1 年間 3%の利率(2004)
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
2004
融資金
12,050
14,050
1,094,269
1,125,056
4)養殖漁業開発支援
項目
変更前
補助金名称
養殖漁業開発支援
適用期間
2011 年まで
補助金付与の法的 農漁村構造改善特別会計法第 4 条
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
政策の目標又は補
助金の目的
海洋水産部
変更後
変更なし
補助金存続期間なし
漁業法第 87 条、
漁業協定による漁業人支援特別
法第 19 条など
変更なし
養殖漁業人
養殖漁業人
国内外漁業条件の弁護に応じて 変更なし
養殖漁場確立支援で安定した水
産物供給
補助金の形態
補助金支給(grants)及び融資
補助金支給(grants)及び融資
-補助金支給:費用の 40-100%
-融資
-融資
:5%の年利子率で 10 年間融資(3 :4%の年利子率で 10 年間融資
年間据置後 7 年償還)
補助金(単位:百万ウォン)
100
項目/年
補助金
融資金
2001
2002
2003
2004
1,000
1,400
5,176
8,908
5,500
11,400
26,872
18,550
5)遠洋漁船建造・取得に対する地方税減免(廃止)
5’)旧式漁業船及び装備の振替支援(新設)
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
政策の目標又は
補助金の目的
補助金の形態
変更前
-
-
漁業人
旧式漁業船及び装備の振替で安
全確保
補助金支給(grants)及び融資
-補助金支給:費用の 20-50%
-融資
:4%の年利子率で 15 年融資
-
補助金額(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
補助金
融資金
2002
補助金付与の法的根
拠
2003
2004
-
-
1,010
811
-
-
3,228
5,449
6)漁船隻数の調整支援(新設)
項目
補助金名称
適用期間
変更後
旧式漁業船及び装備の振替支援
-近隣海岸漁船:2011 年まで
-遠洋漁船:2007 年まで
- 農林漁業人生活の質向上及び農
山漁村地域開発促進に関する特
別法第 11 条
海洋水産部
変更前
変更後
漁船隻数の調整支援
-近海漁船:2008 年まで
-遠洋漁船:補助金存続期間なし
- 農林漁業人生活の質向上及び農
山漁村地域開発促進に関する特
-
101
項目
補助金実施主管機関
補助金給付対象
政策の目標又は
補助金の目的
補助金の形態
変更前
変更後
別法第 11 条
-漁業協定締結に伴う
漁業人などの支援及び
水産業発展特別法第 19 条など
海洋水産部
近海及び遠洋漁業人
漁業協定締結に伴う漁船隻数の
調整など漁業構造調整支援
補助金支給(grants)及び融資
- 補助金支給 : 漁船購買費用の
-
100%
融資
:4%の年利子率で 15 年融資(近海
漁業人)
5%の年利子率で 15 年融資(遠洋
漁業人)
-
補助金額(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
補助金
融資金
-
2002
2003
2004
-
20,420
30,873
-
2,604
2,149
(4)石炭産業
1)エネルギー・資源特別会計のうち石炭産業支援事業
項目
補助金名称
変更前
エネルギー・資源特別会計のうち
石炭産業支援事業
適用期間
2005 年まで閉館支援と融資支援
補助金付与の法的 石炭産業法第 26 条
根拠
補助金実施主管機 産業資源部
関
補助金給付対象 -石炭鉱業者と炭鉱勤労者に産災
保険料と学資金に対して補助金
支援
102
変更後
変更なし
補助金存続期間なし
変更なし
変更なし
変更なし
-
項目
政策の目標又は
補助金の目的
変更前
- 廃鉱地域代替産業創業資金を
5.25%の低率で融資
- 煉炭需用の減少により生産規模
を縮小する石炭産業構造調整事
業を支援
- 構造調整で萎縮する地域経済活
性化のために地域経済対策推進
-生産費と販売価格の差額支援
変更後
-削除
変更なし
-
削除
-
変更なし
-
補助金の形態
補助金支給(grants)と融資
補助金支給(grants)
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
補助金
314,810
269,385
299,027
融資金
20,000
16,000
-
2004
235,895
-
(5)製造業
1)外国人投資企業に対する支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
変更前
外国人投資企業に対する支援
補助金存続期間なし
租税特例制限法第 121 条
外国人投資促進法
補助金実施主管機 財政経済部、産業資源部など
関
補助金給付対象 -産業支援サービス業及び高度技術
首班事業に対する外国人投資
- 外国人投資地域に入居する外国人
投資企業(輸出自由地域含む)
政策の目標又は 外国人直接投資の活性化
補助金の目的
補助金の形態
租税減免
-外国人投資企業の
103
変更後
変更なし
変更なし
租税特例制限法第 121-2 条と第
121-3 条
外国人投資促進法第 9 条と第 13 条
変更なし
変更なし
- 外国人投資地域に入居する外国人
投資企業、経済自由地域、自由貿易
地域、済州国際自由都市
外国人直接投資の活性化
【追加】
-現金補助金支給(grants)
租税減免
-外国人投資企業の法人税・所得税
-
項目
変更前
法人税・所得税
:事業開始後最初所得発生年度から
7 年間 100%減免、その次の 3 年間
50%減免
変更後
:事業開始後最初所得発生年度から
5 年間 100%減免、その次の 2 年間
50%減免
( 高度技術産業或いは外国人投資地
域)
事業開始後最初所得発生年度から 3
年間 100%減免、その次の 2 年間
50%減免
(経済自由地域、自由貿易地域、済州
国際自由都市)
-外国人投資企業が取得・所有する土 -外国人投資企業が取得・所有する土
地・建物などに対する取得税・登録 地・建物などに対する取得税・登録
税・財産税・総合土地税
税・財産税・総合土地税
:最初所得発生年度から 5 年間 100% :最初所得発生年度から 5 年間 100%
減免、その後 3 年間 50%減免
減免、その後 2 年間 50%減免
( 高度技術産業或いは外国人投資地
域)
最初所得発生年度から 3 年間 100%
減免、その後 2 年間 50%減免
(経済自由地域、自由貿易地域、済州
国際自由都市)
外国人投資企業が租税減免対象事 -変更なし
業営為のために 3 年以内に導入する
資本財に対する関税・特別消費税・
付加価値税
:100%で減免
国有財産の賃貸料減免
変更なし
【追加】
現金補助金支給(grants)
:最小投資金額以上の条件で投資し
た場合現金を補助する
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
2004
現金補助金
-
104
税金減免
-(注)
-(注)
-(注)
-(注)
(注)統計資料の不備で推計金額は把握できないものの、多くの外国人投資企業らが関連
法人税などを減免してもらっている
2)航空機製造用部品関税減免
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
変更前
航空機製造用部品関税減免
補助金存続期間なし
関税法第 89 条
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
財政経済部
変更なし
航空宇宙産業開発促進法により 変更なし
航空機製造業又は修理業の許可
を得た者
政策の目標又は 国内で供給されない部品に対す -変更なし
補助金の目的
る生産費減少を通じて輸入促進
補助金の形態
税金減免
関税減免
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
関税減免
250
255
228
3)農業機械製造支援
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
政策の目標又は
補助金の目的
変更前
農業機械製造支援
補助金存続期間なし
農業機械化促進法第 4 条
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
農林部
変更なし
新技術農業機械製造業者と開発 変更なし
者
営農期に需要が集中する農業機 -変更なし
械の供給と農業機械の製造業援 【追加】
105
2004
259
項目
変更前
助
補助金の形態
融資
-財源:農漁村構造改善特別会計
補助金額
別添参照
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
融資金
40,000
20,000
変更後
-農業機械の自動化・現代化のため
の財政的支援を通じて韓国人が
製造した高品質農業機械製造・供
給促進
変更なし
別添参照
2003
2004
10,000
10,000
4)エネルギー・資源特別会計中石材産業支援事業(廃止)
(6)環境、研究開発
1)環境改善融資事業
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的
根拠
補助金実施主管機
関
補助金給付対象
変更前
環境改善融資事業
補助金存続期間なし
環境政策基本法第 34 条
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
環境部
変更なし
環境装備を設置、運営、改善する 公害防止装置と設備を設置運営
中小企業
する会社
政策の目標又は補 私企業の環境投資促進
変更なし
助金の目的
補助金の形態
-融資
-融資
:4.78%の年利子率で 3 年据置 7 年 :4.34-4.63%の年利子率で 3 年据
償還
置 7 年償還
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
2003
2004
融資金
600
700
60,000
70,000
2)環境技術開発事業の研究開発支援
106
項目
補助金名称
変更前
環境技術開発事業の研究開発支
援
適用期間
補助金存続期間なし
補助金付与の法的 環境技術開発及び支援に関する
根拠
法律第 5 条
補助金実施主管機 環境部
関
補助金給付対象 政府投資研究機関、大学、環境改
善事業に参加する私企業など
政策の目標又は 最新の環境技術を開発を通じて
補助金の目的
国内環境改善
補助金の形態
政府寄付金
補助金額
別添参照
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
政府出捐
700
500
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
補助金支給(grants)
別添参照
2003
75,000
2004
85,000
油自動車のための排出ガス低減装置の取り付けおよび低公
3)自動車低公害技術開発→軽
ジ
害エン ン改造に関する事業
項目
補助金名称
変更前
自動車低公害技術開発支援
変更後
排出ガス低減装置の付着及び低
公害エンジン改造に対する補助
金
適用期間
2004 年から 2014 年まで
1998-2001
補助金付与の法的 -大気環境保全法第 31.2
-首都圏大気環境改善に関する
根拠
- 環境技術開発及び支援に関する 特別法第 25 条
法律第 5 条など
補助金実施主管機 環境部
変更なし
関
補助金給付対象 下の 4 つの技術を開発する研究機 公害減少装置を設置した軽油自
関
動車所有者
-高圧燃料噴射技術開発
-排気ガス再循環器術開発
-性能マッチング技術開発
107
項目
変更前
- 中小型大衆バスに考案された複
合自動車
政策の目標又は補 大型軽油自動車の低公害技術開
助金の目的
発
補助金の形態
研究開発費出演
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
政府出捐
15
15
天然ガス使用供給事業
項目
変更前
補助金名称
天然ガス自動車調達及び燃料費
支援
適用期間
2000 年から 2007 年まで
補助金付与の法的 -大気環境保全法第 36.2 条
根拠
補助金実施主管機 環境部
関
補助金給付対象 -環境保全法による天然ガスを購
入する人
- 環境保全法による燃料で天然ガ
スを使う自動車のために天然ガ
スを供給する人
政策の目標又は補 都市地域の大気質改善のために
助金の目的
補助金の形態
補助金支給(grants)
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
補助金(grants)
141
139
4)
リ
項目
補助金名称
ための支援
5) サイクル施設と技術開発の
変更後
首都圏地域で軽油自動車の公害
減少
補助金支給(grants)
2003
2004
-
7,900
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
2003
2004
31,500
36,200
変更前
変更後
リサイクル産業の促進のための 変更なし
108
項目
変更前
融資
適用期間
補助金存続期間なし
補助金付与の法的 -資源の節約とリサイクル促進に
根拠
関する法律第 31 条
-環境改善特別会計法第 4 条
補助金実施主管機 環境部
関
補助金給付対象 -リサイクル施設設置事業者
- 資源リサイクルのための技術開
発者
-リサイクル事業者
-リサイクル品を流通・販売する者
政策の目標又は補 低金利融資を提供することによ
助金の目的
りリサイクル産業を育成
補助金の形態
融資
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
融資金
600
600
情報通信振興研究開発支援
項目
変更前
補助金名称
情報通信研究開発支援融資
適用期間
補助金存続期間なし
補助金付与の法的 情報化促進基本法第 34 条
根拠
補助金実施主管機 情報通信部
関
補助金給付対象 情報化通信事業者
政策の目標又は 危険度が高い大型情報通信化事
補助金の目的
業を研究、開発
補助金の形態
融資
補助金額
別添参照
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
6)
109
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
【追加】
-廃棄物減少装置を設置した者
変更なし
変更なし
2003
2004
60,000
60,000
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
別添参照
2003
2004
融資金
2,740
2,680
興
7)科学技術振 基金
項目
補助金名称
適用期間
補助金付与の法的根拠
補助金実施主管機関
補助金給付対象
変更前
科学技術振興基金
補助金存続期間なし
科学技術基本法第 22 条
科学技術部
高度技術産業に関し研究開
発を遂行する機関
政策の目標又は
私企業の研究開発活動を支
補助金の目的
援
補助金の形態
融資
-4.75-5.25%の年利子率で 3
年据置 7 年償還
補助金(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
2002
融資金
1,080
1,020
1,930
2,180
変更後
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
変更なし
2003
2004
115,000
105,000
(7)その他
路就航用船舶と遠洋船舶の製造と取得に関する地方税減少(新設)
項目
変更前
変更後
補助金名称
外国航路就航用船舶と遠洋船舶
の製造と取得に関する地方税減
少
適用期間
2006 年 12 月 31 日まで
補助金付与の法的
地方税法第 284 条
根拠
補助金実施主管機
行政自治部
関
補助金給付対象
- 国際船舶登録法の規定による国
際船舶で登録するために取得す
る船舶に対しては取得税を免除
-課税基準日現在、国際船舶と登録
1)外国航
110
項目
変更前
変更後
されている船舶に対しては共同
施設税を免除し、財産税の 100 分
の 50 を軽減
-船舶の取得日から 6 ヶ月以内に
国際船舶で登録しない場合には
免除された取得税を追徴
外国航路就航用船舶と遠洋船舶
の取得に関する税額の負担を軽
減して船舶産業の促進図る
税額減免
政策の目標又は
補助金の目的
補助金の形態
補助金額(単位:百万ウォン)
項目/年
2001
税金減免
-
2002
2003
2004
-
20,673
14,870
鉄鋼、電力産業に対する補助金制度と米国等の対応
2.韓国の
ここでは、韓国有数の主要産業の一つである鉄鋼と電力に焦点を当てて、韓国の当該産
業への補助金給付の状況と、それに対する米国側等の反応を取りまとめた。
過去に韓国の鉄鋼産業や電力産業への補助金のうち、米国等による提訴において特定性
があると判定されたものの経緯は、以下の通りである。
ただし、韓国産業資源部によると、近年は政府から鉄鋼産業や電力産業に対して給付さ
れる補助金はないとのことであり、他に、例えば機械産業に対して給付される補助金など
も、環境・研究開発のための補助金などに限られるとのことである。
鉄鋼
(1)
米国鉄鋼業界は、韓国の光陽工業団地の建設に関連して、鉄鋼メーカー等が支配的な使
用者であり、特に工業団地造成に関連して入居企業を特定業種に制限したのは、一般的な
社会間接資本の提供の範囲から外れた特定的補助金だと主張した。
これに対し韓国政府は、①工業団地別誘致業種の選定は特定産業の選別支援のためでは
なく、狭い国土の効率的な利用のための国土開発の側面で決定されるものである、②光陽
湾地域の開発は鉄鋼会社だけのためのものではなく、光陽工業団地に入居する組立、金属
などその他の製造業の誰でも無差別的に利用できる、と主張しその特定性を否認した。
111
これに対し、米国商務部は 1992 年の韓国産冷延鉄鋼製品に対する相殺関税調査において、
①光陽工業団地の入居が鉄鋼会社および関連会社に制限されており、②鉄鋼会社が社会間
接資本施設のほとんどを使っており、③他社が社会間接資本施設に対して客観的な基準に
より同じ恩恵を享受できると立証できなかったなど、3点の理由をあげて、1991 年以前の
光陽湾社会間接資本施設による政府支援を補助金と判定した。それ以後、米国商務部は 1998
年の韓国製ステンレス厚板製品に対する相殺関税調査において、1991 年以前分に対しては
1992 年判定を根拠に補助金と判定した。ただし、1992 年分以降は補助金と認定しなかった。
年の韓国製ステンレス厚板製品に対する米国の相殺関税調査について、外国鉄鋼会
社らは、国内価格には一般内需価格と原資材ローカル価格があり、原資材ローカル価格は
輸出を前提に同じ製品に対して国内需要者に別途の価格を策定して供給するため、補助金
に該当すると主張した。
1998
これに対し韓国政府は、個別企業の価格決定のような日常的企業活動には一切介入して
おらず、二重価格制度は輸入原資材を使って生産する会社の二重的な費用構造に符合する
個別企業の価格体系であるため、内需価格と原資材ローカル価格の隔たりを補助金と見る
のは不合理だと主張した。
しかし、この問題に対しては、米国商務部は調査期間中に浦項製鉄(ポスコ)の最大株
主が政府であり、株主の第2位と第3位も政府の統制下にある銀行であり、浦項製鉄会長
の前職が行政府長官出身である点と、社外取締役の半分を政府および政府統制下の韓国産
業銀行で任命する点などをあげて、浦項製鉄が政府統制下の企業(Government-Control
Company)と判定した。
したがって、政府統制下の企業である浦項製鉄の同一製品に対する二重的価格体系は、
その製品を低価格で供給されて輸出する企業に対する財政的寄与であり、これは WTO 補助
金および相殺措置に関する協定付属書 I(d)項の例示に該当する補助金だと米国商務部は判
定した。
(2)電力
年に韓国電力が導入した負荷調整割引制度は、一部少数の企業だけが利用できる補
助金であると外国提訴者らは主張した。
1990
これに対し韓国電力側は、負荷調整割引制度は大量電気使用者が韓国電力との契約を通
112
じて、一定使用量の範囲内で若干の割引を受けることで、これは電気使用制限にともなう
不便さを補償する性格であり、補助金という主張には同意できないと主張した。また、事
業の種類や特性に無関係に適用される電気料金割引制度は特定性が欠如しているので、補
助金とはいえないというのが韓国企業の主張であった。
これに対し米国商務部は、1998 年のステンレス相殺関税調査の際に、規定上では負荷調
整割引制度に何の特定性も存在しなかったものの、実質的に 1997 年に 44 社の少数の企業
だけが本制度による恩恵を受けたことを根拠に特定性があるとみて補助金と判定した。
3.補助金関連で外国企業が直面した韓国の貿易・投資の問題点
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)に寄せられた、外国企業が韓国で直面した貿易・投資
に関する補助金関連の問題点は、以下の通りとなっている(カッコ内は申し入れ国名)。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
仁川経済自由区域内助減税恩恵隘路支援要請(ドイツ)
高度新技術の租税減免規程(米国)
租税減免関連支援要請(日本)
増額投資に伴うキャッシュ・グラント恩恵の可能性検討要請(フランス)
外国投資企業輸入資本財関税減免制度調査要請(スイス)
外国人投資地域指定基準の義務期間の延長支援要請(米国)
租税減免対象技術有無(米国)
租税減免対象有無(米国)
R&D センター設立敷地選定(米国)
工場敷地(自由貿易地域)選定関連苦情
キャッシュ・グラント適用可否調査要請(米国)
キャッシュ・グラント申請支援要請(スイス)
キャッシュ・グラント恩恵推進協議要請(日本)
現金支援金に対する苦情(ドイツ)
113
第3章 インドの補助金制度
はじめに
本章は、WTO 貿易政策検討制度(TPRM:Trade Policy Review Mechanism)の対イン
ド審査における WTO 事務局レポート(WTO Trade Policy Review, India, Report by
Secretariat)
(2002 年5月 22 日付 WT/TPR/S/100)について、補助金関連部分のみを抜粋
して仮訳したものである。
とは、WTO 各加盟国の貿易政策等を定期的に審査する制度で、1989 年から実施
されている。審査の頻度は、世界貿易額上位の4加盟国・地域が2年毎(2004 年の貿易額
では、EU、米国、中国、日本)、続く 16 加盟国・地域が4年毎(2004 年の貿易額では、
カナダ、香港、韓国、メキシコ、台湾、シンガポール、マレーシア、スイス、オーストラ
リア、タイ、インド、ブラジル、トルコ、UAE、ノルウェー、インドネシア)、その他の加
盟国・地域が原則6年毎となっている。
TPRM
インドについては、WTO 発足の 1995 年以降は、1998 年と 2002 年に審査が実施されて
おり、次回審査は 2006 年内に実施される予定である。したがって、本章では 2002 年6月
審査の際の WTO 事務局レポートを使っている。前回審査から4年経過していることから、
現在の内容は部分的に変わっている可能性が高い。しかしながら、仮訳にもある通り、そ
もそもインドの補助金政策は複雑化しわかりにくいこと、政策の基本的な構造には大きな
変化はないと想像されることから、参考情報として捉えていただければ幸いである。
検討制度対インド審査 WTO 事務局レポートの補助金関連部分抜粋仮訳“Ⅲ
WTO 貿易政策
Trade Policies and Practices by Measure, WTO Trade Policy Review, India, Report by
Secretariat, 22 May 2002, WT/TPR/S/100
1.概要
年代初頭以降、インドは、輸入代替品と公共部門の生産を通じた工業化戦略から、
よりオープンな市場主導の貿易・投資制度へ徐々に移行している。しかし、現在でも政策
によって国内生産者を外国との競争から保護しており、効果的な資源配分に悪影響が生じ
ている。また、輸出よりも収益性の高い巨大な国内市場で販売を行っているため、そのよ
うな政策によってインドの貿易制度に反輸出バイアスがかかり、輸出を通じて成長を達成
する経済的能力が阻害されている。国内生産者を外国との競争から保護し、国内生産を規
制しながら、同時に輸出を促進するために、さまざまな貿易政策措置を講じ、輸出入制度
1990
114
が必要以上に複雑になっている。
輸出制度は複雑化している。輸出制度には、関税の免除と払い戻しに加え、輸出加工区
(EPZ)や経済特区(SEZ)などの制度が含まれる。これらの措置は、組み合わせて適用さ
れ、輸入規制が輸出者の競争力に及ぼす悪影響の緩和などを目的として導入されてきた。
また、輸出を制限または禁止する措置も講じられている。ただし、最近の政府発表による
と、これらの制限は軽減される予定である。
政府によるその他の介入も重要である。価格統制は、補助金の要素を含むことが多く、統
制を段階的に廃止する規定が実施されてはいるが、必要な要素として維持されている。ま
た、補助金は幅広く交付されており、情報不足のため、その範囲と費用を把握することは
難しい。
直接影響を及ぼす措置
2.輸出に
で適用される措置
現在、インドからの輸出品は、WTO への届け出どおり、40 件の反ダンピング措置およ
び 13 件の相殺措置の対象となっている 。商工省が実施した調査によると、いくつかの輸
出品は、インドの主要市場で非関税措置に直面している。関係する製品には、以下が含ま
れる。香辛料、茶、タバコ、肉・鶏肉、ピーナッツなどの農産品、生花、シリアル・シリ
アル製品、青果、乳製品、海産物(主に SPS/TBT および関税割当の理由から)、繊維製品・
衣料品(反ダンピング関税)、化学品および関連製品(登録要件、割当規制、TBT、反ダン
ピング措置)、鉄鋼線材、高品質の溶接炭素鋼鋼管、熱間圧延鉛およびビスマス炭素鋼製品
などの工学製品、自動車、鉄鋼(関税割当、保障措置、相殺関税、TBT、政府の調達規制)、
電化製品(反ダンピング措置)、皮革・履物(SPS/TBT、労働基準、保障措置) 。インド
における医薬品、工学製品、皮革、海産物、およびマンゴーの輸出が直面する非関税措置
のさらに詳細な分析は、イギリス連邦事務局(Commonwealth Secretariat)による最近の
調査の中で実施された 。
(1)輸入国
52
53
54
(2)関税および税金の減免
払い戻し
1962 年関税法第 74 条および第 75 条に基づき、関税の払い戻しを受けられる。1962 年
関税法第 75 条に基づき、輸出される製品の製造に使用される輸入投入財に対して、払い戻
①税
52
53
54
WTO 反ダンピングおよび相殺データベースに基づく
商工省(2001 年)を参照
イギリス連邦事務局(2001 年)
115
しが認められる。払い戻し率は、中央政府(財務省(Ministry of Finance))により、予算
の議会提出後、毎年告示される。「全産業共通レート(all-industry rate)」と呼ばれる払い
戻し率は、特に、投入財の消費量、支払い済みの関税および税金、消耗量、および輸出製
品の FOB 価格を広範に平均した値に基づいて算出される 。当局によると、全産業共通レ
ートでは、投入財に対して支払った税金全体の 70~80%が相殺される。全産業共通レート
が適用できないか、またはそれによって払い戻される税額では、投入財に対して支払った
輸入税が十分に補償されない場合、輸出者は「特定品目別レート(special brand rate)」の
設定を申請することができる 。当局によると、特定品目別レートでは、投入財に対して支
払った税金合計の最大 90~95%の関税を相殺することを目指している。しかし、全産業共
通レートは投入財の消費量と支払った税金の平均レートに基づくのに対し、特定品目別レ
ートは製品や輸出者別に設定されるため、税金の支払いを詳細に証明する書類を輸出者が
提出しなければならない。
55
56
関税法第 74 条に基づき、元々インドに輸入され、輸入税の支払いから 2 年以内に輸出さ
れた製品に対しても、払い戻しは適用される。未使用の状態で輸出された製品については、
輸入税の 98%が払い戻される。使用後に輸出された製品については、製品の輸入から輸出
までの期間によって、払い戻される税金の割合が異なる 。払い戻しによって還元された関
税は、1997/98 年度の 366 億ルピーから 2000/01 年度の 432 億ルピーへ増加した。
57
そ 他
間接課税制度に含まれる反輸出バイアスを軽減または撤廃し、輸出促進を図るため、輸
入者が(特に投入財に対する)関税免除の恩恵を受けられるように、いくつかのスキーム
が設定されている。これらのスキームは、特定の産業または利用者向けに用意されている
(最終利用者スキーム)。これらのプログラムのうち、事前ライセンス(Advance License)
スキームや輸出促進のための資本財輸入(EPCG:Export Promotion Capital Goods)スキ
ームなどでは、投入財に対する関税が減免され、関税受給パスブック( DEPB : Duty
Entitlement Passbook)
スキームや中間財の免税証明書(DFRC:Duty Free Replenishment
Certificate)スキームでは、輸入投入財に対する輸入関税が事後的に払い戻される。また、
いくつかのスキームには、一定の輸出義務が伴う。払い戻しを除き、これらのスキームは
② の の関税および税金の減免
払い戻しは、基本関税と特別追加関税を含む「関税割当」と、現地生産された投入財に対する追加関税
と物品税を含む「中央物品税割当」から構成される
中央物品税関税局、Duty Drawback [オンライン]。参照先:
www.cbec.gov.in/cae/customs/dbk-schdule/dbk-mainpg.htm [2001 年 7 月 20 日]
割合は、インドでの保管期間が 6 か月間未満の製品に対する輸入税の 85%から、インドでの保管期間が
30~36 か月間の製品に対する輸入税の 30%まで、幅がある。この規定に基づく払い戻しは、衣料品、茶箱、
インド映画検閲委員会(Board of Film Censors in India)から承認された露光済み映画フィルム、未露光
の写真フィルム・印画紙・感光板、X 線フィルム、および 4 年間以上使用された自動車には適用されない
(通告番号 19/65–税関、1965 年 2 月 6 日付)
55
56
57
116
通常、商工省外国貿易局が管理する。また、財務省は、自由貿易区内の輸出者および企業
に適用される法人税免除スキーム(Income Tax Exemption Scheme)を管理する(後述の
セクション(4)を参照)。
数年間にわたり、これらのスキームを利用する輸出者は増加しているようである。これ
らのスキームがインドの輸出振興に役立っているかどうかは不明である。当局から提供さ
れたデータによると、これらのスキームの適用対象となる輸出が輸出全体に占める割合は、
1997/98 年度の 37%から、1999/00 年度の 71%まで着実に増加したが、その 2 年間、イン
ドの輸出が GDP に占めた割合は、そもそも約 8.6%と 8.2%にすぎない 。また、これらの
スキームの結果として還元された関税は、1997/98 年度の約 890 億ルピーから 2000/01 年
度の 1,730 億ルピー程度まで(関税収入の約 22%から 35%まで)増加した(ただし、当局
は、EPZ は免税特区であるため、実際に関税が還元されたわけではないと指摘している) 。
むしろ、輸出が GDP に占める割合が 1990 年の約 5%から現在の 8%まで増加したのは、輸
出促進スキーム自体よりも、1991 年以降実施してきた自由化政策によるところが大きいと
考えられる 。諮問機関から計画委員会(Planning Commission)に最近提示された調査で
は、そのような輸出促進スキームは多岐にわたるため、スキームの管理が複雑化し、時間
の浪費につながっていることが指摘されている 。
58
59
60
61
表 払い戻しやその他の減免措置の対象となる輸入、2001/02 年度
スキーム
対象者
減免措置
関税の払い戻し
品目別レートの設定
最終用途関税
全輸出者
後から輸出する製品の製
造に使用される投入財の
輸入に対して支払った関
税の払い戻し。産業別の
平均的な払い戻し率に基
づく
輸出業務を行なう製造業 個々の輸出者の特定品目
者
に対する払い戻し
各種企業およびその他利 特定の輸入品に対する関
用者
税の減免
実績要求
n.a.
n.a.
n.a.
このデータには、事前ライセンス、事前中間ライセンス(Advance Intermediate Licence)、特別前払
いライセンス(Special Imprest Licence)、DEPB、および EPCG の各スキームが含まれる
還元された関税に関するデータは、事前ライセンス、輸出加工区、輸出志向企業、EPCG、特別前払い
ライセンス、および DEPB について入手可能
Panagariya(2000)
。このレポートは、ある歪み(ここでは反輸出バイアス)を別の歪み(輸出促進ス
キーム)によって是正するのは、本来の歪みを残すよりも好ましくないと指摘する。というのも、「是正」
のための歪みを導入すれば、圧力が排除され、本来の歪みが解消される一方で、利権争いと汚職のせいで、
2 つの歪みが相加的に作用する可能性があるためである
計画委員会(2001b)
58
59
60
61
117
スキーム
対象者
減免措置
輸出促進のための資本財 輸出業務を行なう製造業 輸出義務の対象となる治
輸入(EPCG)
者(サポートする製造 具、固定具、ダイス型、
者・ベンダーの有無を問 鋳型、スペア部品を含む
わない)、サポートする製 資本財輸入に対する 5%
造者やサービスプロバイ の関税の適用
ダへのつながりを持つ輸
出者
関税の免除
-事前ライセンス
輸出業務を行なう製造業 輸出品生産用の投入財の
者、および貿易業者
輸入に対する関税を免除
実績要求
資本財の CIF 価値(FOB
ベース)の 5 倍、または
資本財の CIF 価値(NFE
ベース)の 4 倍の輸出義
務を許可取得から 8 年以
内に実現する
a
公表された投入財と生産
高の基準に基づく輸出義
務
-中間財に対する事前ラ 最終輸出者に商品を供給 輸出品生産用の投入財の 公表された投入財と生産
イセンス
する製造者、別の事前ラ 輸入に対する関税を免除 高の基準に基づく輸出義
イセンスを所有するみな
務
し輸出者
-みなし輸出に対する事 主契約業者または下請け 同上
公表された投入財と生産
前ライセンス
業者
高の基準に基づく輸出義
務
関税軽減スキーム
-中間財の免税証明書 商品の製造に使用される 輸出製品の製造に使用さ 輸出の割合に応じた関税
(DFRC)
投入財を輸入する貿易業 れた投入財の輸入に対す の償還。輸出品に使用さ
者または輸出業務を行な る関税(基本関税と特別 れ、SION で公開された投
う製造業者
追加関税、ただし物品税 入財に基づき 33%の最低
と同等の追加関税は含ま 価値を追加
ず)を輸出後に軽減
-関税受給パスブック 同上
輸出者は、輸出品の FOB 輸出の割合に応じた関税
(DEPB)スキーム
価格の一定割合に応じ、 の償還
輸入関税に対するクレジ
ットを利用できる(払い
戻しは受けられない)
通年事前ライセンス
前年に 1,000 万ルピーの 資格要件を満たす輸出者 n.a.
輸出実績がある、輸出業 には、ライセンスを受け
務を行なう製造業者
た過去 1 年間における輸
出の平均 FOB 価格の
200%に該当する通年事
118
スキーム
対象者
減免措置
みなし輸出
インドで製造され、事前
ライセンス DFRC に照ら
して EOU または EPZ・
SEZ・STP・EHTP 内の
企業に供給された商品。
EPCG ライセンス所有
者。多国間または 2 国間
機関から融資を受けたプ
ロジェクト
ダイヤモンド、宝石、お
よび宝飾品の輸出促進
-免税ライセンス
宝石・宝飾品の輸出者
前ライセンスを受ける権
利が与えられる
中間財またはみなし輸出
に対する事前ライセン
ス、最終物品税(Terminal
Excise Duty)の払い戻
し、みなし輸出に対する
払い戻し
n.a.
指定された宝石の輸出に 輸出の割合に応じた関税
使用される輸入投入財の の償還
FOB 価格の 55~95%の
CIF で、投入財の輸入に
対する税金を事後的に免
除するライセンス
(Appendix 30A)
-宝石に対する免税ライ ダイヤモンドの原石、貴 18 か月間有効なライセン
センス
石、準貴石、人工宝石、 ス
真珠、および空のジュエ
リーボックスの輸入に対
し、輸出後に適用
-ダイヤモンド加工ライ ダイヤモンド原石の輸入 ライセンスを受けた過去
センス
者
3 年間に達成したカット
および研磨済みダイヤモ
ンドの最も優れた輸出実
績と同等の輸入、または
資格保有者が前年に達成
したカットおよび研磨済
みダイヤモンドの輸出の
最高 5%のカットおよび
研磨済みダイヤモンドの
119
実績要求
輸出の割合に応じた関税
の償還
税関による輸入品通関か
ら 5 か月以内に、免税額
の 65%に反比例する輸出
義務を達成
b
スキーム
対象者
減免措置
輸入に適用されるライセ
ンス
ライセンス額は、ライセ
ンスを受けた過去 3 年間
に申請者が達成したカッ
トおよび研磨済みダイヤ
モンドの年間平均輸出額
の 50%以内。ライセンス
取得者は、前回一括ライ
センス額の 75%に相当す
るダイヤモンド原石を供
給することを証明すれ
ば、一括ライセンスの期
限が切れる前にライセン
ス継続を申請できる
-ダイヤモンド原石の一 ムンバイの M/s
括ライセンス
Hindustan Diamond
Company Ltd.(HDCL)
、
ニューデリーの MMTC
Ltd.、ライセンスを受け
た過去 3 年間におけるカ
ットおよび研磨済みダイ
ヤモンドの年間平均輸出
額(FOB ベース)が 7 億
5,000 万ルピー以上の輸
出者、過去 3 年間(ライ
センスあり)におけるダ
イヤモンドの年間平均取
引高が 15 億ルピー以上の
インド支社を持つ海外企
業
-金、銀、プラチナの宝 金・銀・プラチナ宝飾品 必要な投入財は、指定機
飾品に関するスキーム およびその商品の輸出者 関(MMTC Ltd.、
実績要求
輸入したダイヤモンド原
石を有効な免税ライセン
スまたはダイヤモンド加
工ライセンスの所有者、
EOU、または EPZ に供給
するか、あるいは輸出す
る義務。この販売は、ラ
イセンス発行日から 12 か
月以内または輸入日から
3 か月以内のどちらか遅
い期日までに完了しなけ
ればならない
n.a.
Handicraft and
Handloom Export
、国有貿易公
Corporation
社(State Trading
Corporation)
、Project
and Equipment
、お
よびインド準備銀行の公
認機関)から非課税で購
入できる
その作業に必要なあらゆ
る物品(バスマティ米と
その玄米を除く)の輸入
に対する関税が免除され
る。国内一般関税地域
Corporation of India
輸出志向企業(EOU)
金・銀・プラチナ宝飾品
およびその商品の製造を
含む製造・サービス・取
引・修理・リメーク・再
調整・再設計、ならびに
120
製造業部門については、
25 万ドルまたは輸入資本
財の CIF 価格の 3 倍のど
ちらか高い方から、350
万ドルまたは輸入資本財
スキーム
対象者
減免措置
農業、それらの商品生産 (DTA)からの輸入につ
やサービス全体の輸出の いては中央物品税が免除
請負に従事する企業
され、大量の紅茶や、DTA
からの燃料その他の物品
に対して支払われた関税
については、中央販売税
(CST)と中央物品税が
償還される。サプライヤ
ーに対する輸出実績が免
除される。所得税法第
10A 条および第 10B 条に
基づき、所得税が免除さ
れる
実績要求
の価格の 3 倍のどちらか
高い方までの最低輸出義
務、IT 対応サービスを除
くすべてのサービスにつ
いては、50 万ドルまたは
輸入資本財の CIF 価格の
3 倍のどちらか高い方の
最低輸出義務、宝飾品、
貿易、およびその他すべ
ての分野については、100
万ドルまたは輸入資本財
の CIF 価値の 3 倍のどち
らか高い方の最低輸出義
務をそれぞれ 5 年間にわ
たり負う。最低 NFE 義務
も課せられる
同上
SEZ に関し、農産品の輸
出者は、指定された輸出
および NFE 実績レベル
を達成すれば、エクスポ
ートハウス、トレーディ
ングハウス、スター・ト
レーディングハウス、ス
ーパースター・トレーデ
ィングハウスとしての承
認を受けられる場合もあ
る、
最低輸出実績は設定され
ない。NFE をプラスにす
ることが義務付けられる
a
輸出加工区(EPZ)
農業輸出区
同上
同上
農業および類似分野にお EPCG に関し、事前ライ
ける製品の輸出者
センス・DFRC・DEPB
の各スキームに基づく肥
料・除草剤・殺虫剤・梱
包材を含む投入財の輸入
a c
経済特区(SEZ)
金・銀・プラチナ宝飾品
およびその商品の製造を
含む、商品の製造および
サービスの提供、生産、
加工、組み立て、取引、
修理、リメーク、再調整、
再設計
121
輸入に対する関税が免除
される。DTA からの輸入
については中央物品税が
免除され、大量の紅茶や、
DTA からの燃料その他の
物品に対して支払われた
関税については、中央販
a
スキーム
対象者
減免措置
売税(CST)と中央物品
税が償還される。サプラ
イヤーに対する輸出実績
が免除される
同上
ソフトウエア・テクノロ
ジー・パーク(STP)
エレクトロニクス・ハー
ドウエア・テクノロジ
ー・パーク(EHTP)
エクスポートハウス、ト
レーディングハウス、ス
ター・トレーディングハ
ウス、スーパースター・
トレーディングハウス
同上
実績要求
EOU
に対して設定
EOU
に対して設定
貿易業者、輸出業務を行 特別輸出ライセンス
規定された各種の輸出実
なう製造業者、サービス (2001 年 4 月 1 日に廃 績レベル
プロバイダ、EOU。なら 止)
びに EPZ(農業輸出区を
含む)、SEZ、エレクトロ
ニクス・ハードウエア・
テクノロジー・パーク、
およびソフトウエア・テ
クノロジー・パーク内の
企業。一定の輸出および
外貨獲得レベルを満たす
ことが条件
n.a. Not applicable(適用なし)
a NFE とは、輸出品の FOB 価格から、すべての輸入投入財の CIF 価格、資本財、および最初の 5 年間に
おける特許権使用・手数料・配当・対外借入利子の外貨での支払いを引いた値と定義される。
b たとえば、65 ドルの CIF 価格に対してライセンスが発行された場合、輸出義務の FOB 価格は 100 ドル
となる。
c 輸出実績の範囲は、ライセンスを受けた過去 3 年間および過去 1 年間における平均 FOB 価格が、エク
スポートハウスではそれぞれ 4,000 万ルピーと 6,000 万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ 2 億
ルピーと 3 億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 10 億ルピーと 15 億ルピー、スーパー
スター・トレーディングハウスではそれぞれ 30 億ルピーと 45 億ルピーとなっている。ライセンスを受け
た過去 3 年間および過去 1 年間における平均的な NFE 獲得範囲は、エクスポートハウスではそれぞれ 3,000
万ルピーと 5,000 万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ 1 億 5,000 万ルピーと 2 億 5,000 万ルピ
ー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 7 億 5,000 万ルピーと 12 億 5,000 万ルピー、スーパース
ター・トレーディングハウスではそれぞれ 22 億 5,000 万ルピーと 37 億 5,000 万ルピーとなっている。
d 輸出実績の範囲は、ライセンスを受けた過去 3 年間および 1 年間における平均 FOB 価格が、エクスポ
ートハウスではそれぞれ 1 億 5,000 万ルピーと 2 億 2,000 万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ
7 億 5,000 万ルピーと 11 億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 37 億 5,000 万ルピーと
56 億ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 112 億 5,000 万ルピーと 168 億ルピー
となっている。ライセンスを受けた過去 3 年間および過去 1 年間における平均的な NFE 獲得範囲は、エ
クスポートハウスではそれぞれ 1 億 2,000 万ルピーと 1 億 8,000 万ルピー、トレーディングハウスではそ
れぞれ 6 億 2,000 万ルピーと 9 億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 312 億ルピーと 450
億ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 937 億ルピーと 1,350 億ルピーとなって
d
122
いる。
出典: 商工省(1997)、Export Import Policy 1997-2002
③輸出補助金
インドでは、輸出に対し、税金や輸入関税の免除(上述のセクション②を参照)を含む
間接補助金を交付しているが、輸出に対する直接補助金は交付していない。
社
WTO への届け出によると、インドは、多くの小規模農家や部族地域で栽培される特定の
農産品や林産品に関し、これらの製品のマーケティングを効率化し、価格変動を防止し、
安定して国内に供給するため、国有貿易公社に輸出特権を認めている。灯油や液化石油ガ
ス(LPG)など、国内で燃料として利用され、安定した国内供給が必要となる他の製品も、
国有貿易公社を通じて輸出しなければならない 。輸出が国有貿易公社の取り扱い対象とな
る製品のリストには、若干変更が加えられた。1998 年以降、ジェット燃料、ビチューメン、
高速ディーゼルなど、一部石油製品の輸出がリストから削除され、Kudremukh Iron Ore
Company Limited 製造の鉄鉱石製品がリストに追加された。
(3)国有貿易公
62
表 国有貿易公社の取り扱い対象となる輸出、1997 年および 2002 年
2002 年 4 月 1 日時点の製品
1997 年 4 月 1 日時点の製品
国有貿易公社
の含有割合が 40%以下のクロム鉄鉱 2002 年と同じ
石の塊鉱石
2002 年と同じ
Cr O の含有割合が 52%以下、シリカの含
有割合が 4%以上の低シリカ鉄鉱石の破砕
石・粉鉱石
Cr O を 52~54%、
シリカの含有割合が 4% 国有貿易公社の取り扱い対象に
以上の低シリカクロム鉄鉱石の破砕石・粉 含まれない
鉱石
カラヤガム
2002 年と同じ
Cr2O3
Mineral and Metals
Trading Corporation of
2
3
India Limited
2
3
MMTC
(MMTC)
Tribal Cooperative
Marketing Federation of
マイカの加工によって生じ、サイズと色が
加工済みマイカの規格以下と見なされるマ
イカのくず(工場での切削くずを含む)お
よび断片
62
WTO
マイカの加工によって生じ、サイ
ズと色が加工済みマイカの規格
以下と見なされるマイカのくず
(工場での切削くずを含む)およ
び断片
文書 G/STR/N/7/IND、2001 年 10 月 8 日
123
India Limited
MMTC
(TRIFED)
2002
年 4 月 1 日時点の製品
以下を除く鉄鉱石:
(i)鉄の含有量にかかわらず、中国、ヨー
ロッパ、日本、韓国、および台湾に輸出さ
れるゴア産鉄鉱石
(ii)レディ産鉄鉱石、鉄の含有量は問わな
い
(iii)鉄の含有割合が 64%以上のすべての
鉄鉱石
(iv)輸入された原材料を使用した後、製
造工程で生じた、以下を条件とする鉄鉱石
の破片および類似物の不合格品
(a)そのような不合格品の輸出量が、輸入
された原材料(すなわちペレット)の 10%
を超えない場合、かつ
(b)不合格とされたペレット破片(微粉)
のサイズが 6 mm 未満である場合
鉄の含有割合が 40%以下の低品位の鉄鉱石
の選鉱や濃縮によって作成された
Kudremukh 製の鉄鉱石濃縮物
Kudremukh Iron Ore Company Ltd.製の
濃縮物から同社によって製造された鉄鉱石
ペレット
マンガン鉱石(マンガンの含有割合が 46%
以上の粗いまたは混合されたマンガン鉱石
を除く)
鉱石および濃縮物、すなわち:
-(イットリウムを含む)希土類の鉱石、
濃縮物、およびその混合物
-samerskite、urraniferrous allanite、お
よびラジウム鉱石を含むその他の鉱物およ
び濃縮物
- Indian Rare Earths Limited および
Kerala Minerals and Metals Limited によ
って製造された顆粒状のシリマナイト
国有貿易公社の取り扱い対象に含まれない
1997
年 4 月 1 日時点の製品 国有貿易公社
(iv)以外は 2002 年と同じ
国有貿易公社の取り扱い対象に
含まれない
国有貿易公社の取り扱い対象に
含まれない
従来は MMTC による輸入の対象
に含まれていたこと以外は、
2002 年と同じ
2002 年と同じ
MMTC
Kudremukh Iron Ore
Company Limited
Kudremukh Iron Ore
Company Limited
Manganese Ore India
Limited
Indian Rare Earths Limited
および Kerala Minerals
Metals Limited
焼成ボーキサイトとアルミナ含
124
Indian Rare Earths Limited
2002
年 4 月 1 日時点の製品
1997
年 4 月 1 日時点の製品 国有貿易公社
有割合 Al O が 54%未満の西海
岸産低品位ボーキサイトを除く
あらゆるグレードのボーキサイ
ト
2002 年と同じ
2
ニガー種子
3
、National
TRIFED
Agricultural Cooperative
Marketing Federation of
(
)、
India Limited NAFED
National Dairy
Development Board
(NDDB)、Madhya Pradesh
State Cooperative Oilseeds
Growers Federation
、および Karnataka
Limited
State Agricultural Produce
Processing and Export
タマネギ(バンガロールローズ・オニオン
とクリシュナプラム・オニオンを除くすべ
ての種類)
2002
年と同じ
Corporation
、National
NAFED
Cooperative Consumers'
、
Federation of India Ltd.
Andhra Pradesh State
、
Trading Cooperation Spices
、
Trading Cooperation Ltd.
Maharashtra State
Agriculture Marketing
(MSAMB)、および
Board
Gujarat Agro Industries
(GAIC)
Corporation
-バンガロールローズ・オニオン
a
Karnataka State
Cooperative Marketing
Federation Ltd.
-クリシュナプラム・オニオン
石油製品 :
-原油
b,c
Andhra Pradesh Marketing
石油製品、すなわち:
-ジェット燃料
125
Federation
Indian Oil Corporation
Limited
2002
年 4 月 1 日時点の製品
1997
年 4 月 1 日時点の製品 国有貿易公社
-ビチューメン(アスファルト)
-原油
-燃料油
-高速ディーゼル
-灯油
-液化石油ガス(LPG)
-ガソリン
-生石油コークス
-ナフタ
a インド政府商工省、通告番号 37(RE-99)1997-2000、1999 年 12 月 1 日付。タマネギの輸出は、外国
貿易局から随時発表される告示に従い、他の国有貿易公社を通じて行うことができる
b インド政府商工省、通告番号 10(RE-98)1997-2002、1998 年 7 月 22 日付
c Exim Policy 2002-2007 では、国有貿易公社の取り扱い対象となる製品のリストから、液化石油ガス
(LPG)と灯油が削除された(商工省(2002 年)、Export-Import Policy 2002-2007、Schedule II – Export
Policy)
出典: WTO(1998 年)、『Trade Policy Review – India』、Export Import Policy, 1997-2002、WTO 文
書 G/STR/N/7/IND(2001 年 10 月 8 日付)、および商工省通告
インドに関する前回調査以降、国有貿易公社による輸出額は 1996/97 年度の商品輸出の
2.9%から 2000/01 年度の 5.3%(約 1,050 億ルピー)まで増加し、そのうちの 79%を石油
製品が占める 。
63
由
インドは、輸出加工区(EPZ)、輸出志向企業(EOU)、最近では経済特区(SEZ)など
の自由貿易区の設置を通じて輸出振興に努めている。EPZ は、1965 年に初めて設置された
。これらの自由貿易区(EOU を除く)では、土地、低料金の電力と水道、通信設備など
のインフラ設備に加え、現地での輸出入通関手続が提供される。さらに、原材料・資本財・
消耗品の輸入に対する関税の支払い免除、国内供給源から調達した物品に対する中央物品
税の支払い免除、新設企業に対する最長 2010 年までの法人税控除、国内で調達した物品に
対して支払った中央販売税の償還、関税の支払い対象となる国内一般関税地域(DTA)で
生産品の一部を販売する許可など、さまざまな優遇措置が適用される 。2001 年に SEZ が
設置されたことに伴い、複数の EPZ が SEZ に変更された(下記参照)。EPZ、SEZ、およ
び EOU には、エレクトロニクス、エンジニアリング、化学品・類似製品、宝石・宝飾品、
(4)自 貿易区
64
65
文書 G/STR/N/7/IND、2001 年 10 月 8 日に基づく
年、グジャラート州カンドラに初の輸出加工区が設置され、その後 1974 年、マハラシュトラ州サ
ンタクルーズにサンタクルーズ・エレクトロニクス輸出加工区が設置された
免税期間は、1999 年に 5 年間から 10 年間に延長された。ただし、2001 年 4 月 1 日より、利益から控
除する方式に変更された
63
64
WTO
1965
65
126
繊維製品・衣料品、農産品・林産品、プラスティック・ゴム製品など、各種の産業が含ま
れる。現在、EPZ では約 700 社が事業を営んでいると推定される。
農産品輸出を促進し、農業に基づく農村経済を改善するため、政府は 2001 年、農業輸出
区を設置した。農業輸出区には、あらゆる農産品および類似製品の生産が含まれ、農業輸
出区は国家政府によって管理される。このスキームに基づいて設立されたすべての企業に
は、資本財投入の 5%という輸入関税の減免を含む EPCG プログラムを利用する権利が与
えられる。農業輸出区に設立された企業には、輸出額に応じてエクスポートハウス、トレ
ーディングハウス、「スター」トレーディングハウス、「スーパースター」トレーディング
ハウスの資格が与えられる。
年に初めて導入された輸出志向企業(EOU)スキームでは、基本的に EPZ と同等
の設備が提供されるが、立地をより幅広く選択できる。インフラ設備を除くと、EOU では、
基本的に EPZ や SEZ と同じ優遇措置を受けられる。2001 年 3 月時点で、主に繊維・撚糸、
食品加工、エレクトロニクス、化学、プラスティック、花崗岩、鉱物・鉱石の各分野に従
事する推定 1536 社の EOU がインドに展開する。EOU の輸出額は 1997/98 年度の 1,028
億ルピーから着実に増加し、2000/01 年度には 1,590 ルピーに達する見込みである(輸出全
体の約 8%と比較的一定) 。還元された関税は 1997/98 年度の 2,000 億ルピーから 2000/01
年度の 4,000 億ルピーまで増加した。ただし、前述のとおり、当局は、EOU/EPZ/SEZ は
税関が管轄する免税特区であるため、実際に関税が還元されたわけではないと指摘してい
る。
1981
66
政府は、スキームを継続的に設定して輸出を促進してきたが、それらのスキームがイン
ドの輸出振興に役立つことを示す証拠はほとんどない。EPZ からの輸出額は、1997/98 年
度の 482 億ルピーから 2000/01 年度の推定 860 億ルピーまで絶対的に増加しているが、輸
出全体に占める割合は、わずかしか増加していない(1997/98 年度の 3.7%から 1999/00 年
度の 4.2%まで) 。還元された関税は、1997/98 年度の 120 億ルピーから 2000/01 年度の
122 億ルピーへ微増した。輸出が停滞している理由として、一部の EPZ が EPZ の輸出利益
全体の大部分を占め、一方で他の EPZ が占める割合は低下していることが考えられる。こ
の優れた輸出実績は、優遇措置自体よりも、一部の EPZ が備えるインフラおよび立地面の
利点に関連している可能性がある 。さらに、政府が輸出優遇措置の段階的廃止のための
2000/01 年度予算を発表したことから判断して、EPZ と EOU に与えられる優遇措置も同様
67
68
66
67
68
商工省(2001a)、および当局から提供された最新情報
商工省(2001a)、および当局から提供された最新情報
Kundra および Sharan(2000 年)
127
に段階的に廃止されると考えられる 。当局は、実施中の免税措置は、輸出される製品に使
用される投入財に課せられた関税を相殺するために実施するものであり、優遇措置と呼ぶ
べき性質のものではないと主張する。
69
経済特区(SEZ)は、2000 年に発表された輸出入政策の中で打ち出され、物品の製造お
よびサービスの提供、組み立て、取引、修理、リメーク、再調整に関して設置される 。SEZ
には、EPZ よりも条件の良い優遇措置が適用される。また、既存の EPZ は、商工省発行の
通告により、SEZ に変更される場合がある 。現在までに、カンドラ、サンタクルーズ・エ
レクトロニクス、コーチン、およびスラトの各 EPZ が SEZ に変更された 。 当局によ
ると、SEZ の規模は従来の EPZ の規模よりも大幅に拡大し 、SEZ では完全な統合とより
充実したインフラが実現され、さらに SEZ はシングルウィンドウ通関設備を備えるという
理由から、SEZ からの輸出が輸出の「飛躍的増加」につながることが期待される 。Exim
policy 2002-2007 では、SEZ 内にオーバーシーズ・バンキング・ユニット(OBU:Overseas
Banking Unit)を設立することが発表された 。
70
71
72
73
74
75
その他の輸出促進スキームには、保税倉庫、エクスポートハウス、トレーディングハウ
ス、スーパースター・トレーディングハウスなどがある。トレーディングハウスの資格は、
Export Import Policy に規定された条件に従い、指定の輸出実績レベルを満たした輸出者に
与えられる。
パ ォ マ ス 求
消費財 22 業種に対する従来の「配当バランス」要求は、2000 年 7 月に撤廃された 。た
だし、インドの自動車製造業者による輸入品と、自動車の輸出品の実際の CIF 価格の間の
(5) フ ー ン 要
76
EOU は、中央政府から任命された委員会によって「100%輸出志向企業」と定義される必要があるため、
生産高のほぼすべてを輸出しているが委員会の承認は受けていない企業では、この条件にバイアスがかか
る可能性がある(計画委員会、2001b)
商工省(2001b)、第 9-A 章
既存の EPZ は、商工省による通告の発行を通じ、SEZ に変更される場合がある。SEZ への変更を希望
しない EPZ は、EOU への変更または「保税倉庫からの引き出し」が可能だが、SEZ 外に退去しなければ
ならない(9-A.24)
さらに、Positra(グジャラート州)と、国家政府により Dronagiri(マハラシュトラ州)、パラディー
プおよびゴパルプール(オリッサ州)、Kulpi およびソルトレーク(西ベンガル州)、Bhadohi(グレーター
ノイダ)およびカンプール(ウッタルプラデシュ州)、カキナダ(アンドラプラデシュ州)、ナングネリ(タ
ミルナドゥ州)、インドール(マディヤプラデシュ州)、ハッサン(カルナタカ州)での SEZ の設立が承認
された
たとえば、承認された SEZ の一部は、4,500~20,000 ヘクタールの予定地に設立される。これは、現在
の EPZ(100~300 エーカー)よりもはるかに広い
商工省(2001a)
商工省(2002 年)
商工省、Press Note No. 7(2000 series)、[オンライン]。参照先:http://indmin.nic.in/vsindmin/policy/
changes/press7_00.htm [2001 年 7 月 24 日]
69
70
71
72
73
74
75
76
128
バランス要求は継続されている模様である。CKD/SKD キット/部品の輸入に関するインド
の政策は、貿易関連投資措置委員会(Committee on Trade-Related Investment Measures)
で日本と米国から質問として提起された 。インドとの協議に続いて、米国と欧州共同体は
GATT の III:4 条および XI:1 条、TRIM 協定の 2.1 条および 2.2 条への違反を申し立て、
WTO 小委員会の設立を要求した 。小委員会は 2001 年 12 月 21 日、インドが GATT 1994
の III:4 条および XI 条の義務に反していると判断し、WTO の紛争解決機関に対し、インド
に WTO 協定の義務に準拠するための措置を要求するよう勧告した。
77
78
輸入時の減免措置を規定する輸出促進スキームには、輸出実績要求も規定されている(上
述のセクション(2)②を参照)。
保険、保証
(6)輸出金融、
①輸出金融
国内銀行には、優先セクターの貸付基準に加え、年間貸付総額の 12%を輸出に割り当て
ることが求められる。輸出信用は、ルピーまたは兌換可能な外貨のいずれかで提供される。
ルピーでの信用は、RBI から発表された利子減免率で提供される。これらの減免率は、イ
ンドの実質金利が高いせいで輸出金融に高額の費用がかかる問題を緩和するのに役立つ。
外貨での信用は、国際的に競争力のある利率で提供される。輸出者は、ルピーまたは外貨
のうち、都合のよい通貨で現金を借り入れることができる。この取り決めに従い、銀行に
は、2001 年 5 月 4 日まで、1 年につき 10~13%の割合で輸出信用を提供することが求めら
れる。2001 年 5 月 5 日付で、インド準備銀行(Reserve Bank of India)から、最優遇貸出
金利よりも最大で 1.5%低い利率を設定するよう求められる 。輸出信用にかけられる利子
の上限は、2001 年 9 月 26 日から 2002 年 3 月 31 日にかけて、全面的にもう 1%低減され
た。
79
保険と保証
商工省の行政監督下に置かれるインド政府の公共企業、インド輸出信用保証公社
(ECGC:Export Credit Guarantee Corporation of India Limited)は、1957 年に Export
Risk Insurance Corporation Limited という名前で設立された。この公社は、輸出者に政
治的または商業的な理由により輸出手続きが実行されないリスクに対する保証を提供し、
銀行に各種の保証を提供し、銀行が輸出者に対する信用枠を「寛大に」拡大できるように
②輸出
WTO 文書 G/TRIMS/W12、1998 年 4 月 9 日、および G/TRIMS/W/13、1998 年 4 月 6 日。提起された
質問に対するインドの回答は、WTO 文書 G/TRIMS/W/15、1998 年 10 月 30 日、および G/TRIMS/W/16、
1998 年 10 月 30 日に記載されている
WTO 文書 WT/DS/175/4、2000 年 5 月 18 日、および WT/DS/146/2、2000 年 10 月 13 日
銀行・開発部(DBOD:Department of Banking Operations and Development)、回覧番号
Dir.BC.108/13.3.00/ 2000-01、インド準備銀行、2001 年 4 月 18 日
77
78
79
129
するためのその他の金融制度を提供する 。
80
促進とマーケティング支援
政府は、関税減免措置による輸出支援に加え、主に商工省を通じて、マーケティング展
開支援を提供し、インド製品の輸出促進を図っている。1996 年に設立された India Brand
Equity Fund(IBEF)トラストは、引き続きインド・ブランドの振興を支援し、インドが
世界クラスの品質を備えた製品とサービスの信頼できる供給元となることを目指す。並行
して、中期的なソフトローンを提供し、世界クラスの品質と性能水準を達成した製品のイ
ンド・ブランド振興を進めている。商工省は、マーケティング展開支援スキーム(Marketing
Development Assistance Scheme)を制定し、輸出者が海外市場を開拓し、公認された製
品別の輸出振興委員会(Export Promotion Council)、商品別委員会(Commodity Board)、
輸出振興局(Export Development Authority)を通じて輸出を促進する作業を支援してい
る。このスキームを補うため、特にマーケティング情報データの収集を支援し、輸出者に
よる製品の展示に協力することで、選択した国でインドの輸出品を販売促進することを目
的として、2001/02 年度に市場アクセス・イニシアチブ(MAI:Market Access Initiative)
が開始された。政府はマーケティング展開支援スキームと MAI のもとで、それぞれ 4 億ル
ピーと 1 億 4,500 万ルピーを支出した。
81
(7)輸出
いくつかの機関が輸出促進に従事している。商工省管轄の主要な貿易振興機関として、
インド貿易振興局(ITPO:India Trade Promotion Organization)が挙げられる。この機
関は、インド国内および外国の見本市と展示会を組織し、買い手と売り手の商談を手配し、
製品と市場に関する情報を提供する。2001/01 年度に ITPO は、ヨーロッパ、アメリカ、東
南アジアを含む外国で 47 件のイベントに参加した。輸出を促進するその他の機関には、イ
ンド貿易研究所(IIFT:Indian Institute of Foreign Trade)や国立貿易情報センター
(NCTI:National Centre for Trade Information)がある。1964 年に設立された IIFT は、
経営幹部に研修を提供し、市場調査と製品調査を実施している。NCTI はインド会社法
(Indian Companies Act in 1995)で企業として登録され、特に ITPO、商工会議所、輸出
振興委員会、商品別委員会の代表者が在籍する。NCTI は市場調査を実施し、外国での引合
に関する情報を提供する。また、いくつかの輸出振興委員会と商品別委員会からも、輸出
者にマーケティング支援が提供されている。
生
影響を及ぼす措置
3. 産と貿易に
租
そ 他
セ ィ /
(1) 税措置と の のイン ンテ ブ 補助金
80
81
商工省(2001a)
特に指定のない限り、本セクションの大部分は商工省(2001a)に基づく
130
そ 他 セ ィ /
インドでは、現在も補助金が重要な政策手段となっている。予算の非計画支出 では、
2001/02 年度の明示的な補助金は GDP の 1.2%と見積もられている 。計画支出 における
各省庁の「補助金要求」にもいくつかの補助金が示されているが、特定することは難しく、
ほとんどの場合、支出は明確にされていない(次表参照) 。加えて、「暗黙的な」補助金
(利子や信用の補助金、減税、資本補助金など)が存在し、予算で明細が明らかにされな
いまま広範に利用されている 。これらは本来、監視することが難しく 、当局では 2001/02
年度で GDP の 0.08%前後に相当すると見積もっている。州レベルで認められた補助金も重
要であるが、詳細な情報は入手しづらい。たとえば、州電力公社(SEB:State Electricity
Board)は、農業セクターに補助金を支給するため、産業利用者に高い料金を請求する。こ
の内部相互補助は 1992/93 年度には GDP の 1.1%であったが、1999/00 年度には 1.7%に増
加した 。統制価格メカニズム(APM:Administered Price Mechanism)を通じて提供さ
れる指定の石油製品(灯油と LPG)に対する補助金も予算外で捻出される(セクション 2.(2)
を参照) 。
① の のイン ンテ ブ 補助金82
83
84
85
86
87
88
89
90
表 明示的な(計画)補助金(2001~2002 年度予算)
省庁
補助金
農務省(Ministry of Agriculture)
-農業協同局(Department of
Agriculture and Cooperation)
園芸開発計画(Horticulture
Cold Storage に対する設備投資補助金も
Development Programme)
行われた
(100 万ルピー)
計画された総支出
(2001~2002 年度予算)
650.00
本セクションの「補助金」という用語は、補助金および相殺措置に関する WTO 協定(WTO Agreement
)の意味ではなく、インドの予算とその他の公式文書に従っ
て使用している。本セクションには、セクション(3)(iii)に記載の輸出支援は含まれない。そのセクシ
ョンに記載の補助金の一覧は完全ではない
非計画支出は、5 カ年計画に含まれない支出を指す
財務省(2001c)、Vol. I に基づく事務局独自の計算
計画支出は、計画委員会(Planning Commission)、財務省、中央政府の支出省庁、さらに関係する場
合は州政府によって共同で決定される。これらは主に開発プロジェクトの費用からなり、投資経費および
経常経費の両要素を含む
財務省(2001c)、Vol. I
CAG(日付なし)
「Management of Subsidies」[オンライン]。
参照先:http://www.cagindia.org/reports/civil/2000_book1/chapter6.htm [2001 年 7 月 25 日]
年次報告書の中で、会計検査院長官(CAG:Comptroller and Auditor General)がいくつかの暗黙的
な補助金について分析している(CAG(日付なし)「Report of the CAG on the Union Government for the
year ended March 2000」[オンライン]。参照先:http://www.cagindia.org/reports/civil/
2001_book1/index.htm [2001 年 10 月 25 日])
IMF(2001 年)
2002 年 4 月に統制価格メカニズムが廃止された後、この補助金が予算に計上される予定である
82
on Subsidies and Countervailing Measures
83
84
85
86
87
88
89
90
131
省庁
補助金
北東部およびシッキム州向けの計 種子輸送のための補助金
画/スキームのための一括提供
商工省-産業政策促進局
(Department of Industrial
Policy and Promotion)
一定期間免税区域(Backward 投資補助金
Area)の開発
製造業企業への輸送補助金
工業団地
東北部への設備投資補助金
中央利子補給スキーム:製造業企業が量産
に入った後、東北部にある新規の企業にワ
ーキングキャピタル・ローンの 3%の補助
金を 10 年間提供する
東北部向け総合保険スキーム:1997 年 12
月 24 日以降に東北部で設立された新規の
工業ユニットに、(全インド火災保険協定
料率(All India Fire Tariff)に従って)火
災保険「C」を含む総合保険を提供する。
このスキームでは、インド政府がインド損
害保険公社(General Insurance
Corporation Ltd)を通じて、10 年間分の
保険料の全額を償還ベースで負担する
非在来型エネルギー資源省
(Ministry of Non-Conventional
Energy Sources)
太陽エネルギー・プログラム
太陽灯、住宅照明システム、街路灯、ソー
ラーポンプに補助金が提供される
その他のエネルギー源
実現可能性調査、プロジェクト報告書の詳
細な作成、これらのプロジェクトの設備に
対する利子補給について、財政支援が提供
される
電力省(Ministry of Power)
電力融資公社(Power Finance
Corporation)への利子補給:既存の火力
132
計画された総支出
(2001~2002 年度予算)
10.00
40.20
900.00
400.00
50.00
20.00
2.20
677.50
2,715.00
3,500.00
省庁
補助金
地方開発省(Ministry of Rural
Development)
Swaranjayanti Gram Swarozgar
Yojana
小規模産業省(Ministry of Small
Scale Industries and Agro and
)
Rural Industries
発電所の近代化と改修、発電所の長寿命化
に対し、中央政府から与えられる利子補給
を通じ、減免された貸出金利で電力会社に
支援を提供する
地方開発局(District Rural Development
Agencies)
:銀行信用供与支援やマーケテ
ィング支援などを通じた財政支援
地方の住宅:1999 年 4 月 1 日に発効した
貸付つき補助金スキーム
(Credit-cum-subsidy Scheme)が施行さ
れており、年収 32,000 ルピー以下の地方
世帯に住宅建設資金を提供している。資格
のある世帯には、1 万ルピーまでの補助金
と 4 万ルピーまでのローンが提供される
小規模産業スキーム:中小企業の技術増強
を目的とする貸付補助金
利子補給スキーム:Khadi & Village
Industries Commission は、KVIC/KVIB
に設備投資とワーキングキャピタルが登
録された Khadi および Polyvastra の産業
に 4%の利率で補助ローンを提供する。銀
行の最優遇貸出金利(PLR)と 4%の差額
を銀行への利子補給として供給する。この
スキームでは、KVIC が団体の資金提供の
必要性を評価し、程度に応じた利子補給資
格証(ISEC:Interest Subsidy Eligibility
Certificate)を発行する。銀行機関は ISEC
に基づき、その団体に対して可能な貸付を
行う
農村産業:地方雇用創出プログラム
(REGP:Rural Employment Generation
133
計画された総支出
(2001~2002 年度予算)
77,450.00
5,067.00
5.00
190.00
50.00
省庁
補助金
)のもとで、保証金が提供され
る。この補助金の内訳は、100 万ルピーま
でのプロジェクトについてはプロジェク
ト・コストの 25%、100 万~250 万ルピー
のプロジェクトについては 25 万ルピー+
プロジェクト・コストの 10%となる
海運省(Ministry of Shipping) Shipping Corporation of India への補助
金:Shipping Corporation of India は、本
土とアンダマン・ニコバル諸島間、本土と
ラクシャドウィープ諸島間で旅客サービ
スを運営している。これらのサービス運営
に関する運営損失を満たすため、補助金が
提供される
その他のプログラム:船舶補助サービス、
国立船舶設計研究センター(National Ship
Design and Research Centre)
、造船の研
究開発スキームを展開するための補助金、
および帆船産業への補助金
観光文化省(Ministry of Tourism その他のプログラム:1 つ星、2 つ星、3
and Culture)
つ星ホテルの建設プロジェクトに資金を
提供するためのローンについて、特定の金
融機関に金利格差を支払う
水資源省(Ministry of Water
指令地域開発:地ならし、整地、スプリン
Resources)
クラー、点滴潅水について、IRDP パター
ンの小規模および零細農業生産者にロー
ンへの補助金を供給する
..
該当なし
出展: 財務省(Ministry of Finance)(2001c)、2001/2002 年度予算
計画された総支出
(2001~2002 年度予算)
Programme
..
2.00
90.00
..
明示的(非計画)補助金の支出は、1997/98 年度以降大幅に(24%)増加し、主要および
その他の補助金もほぼ同じ割合(約 24%)で増加している(次表を参照) 。食糧と肥料(減
免措置を受けた肥料の販売も含む)への補助金は、引き続き最重要である(それぞれ、補
91
91
ルピーの実質値で見た増加率も同様である
134
助金支出合計の 45.9%および 47.6%を占める) 。
92
表 明示的(非計画)補助金、1997/98 年度および 2001/02 年度 (米ドルおよび%)
1997/98 年度 2001/02 年度 増加率(%)
a
補助金合計
主要補助金
食糧補助金
肥料(国産および輸入)
農業生産者への減免措置を受けた肥料販売
輸出促進と市場開発
その他の補助金
NAFED を通じたコプラの買い支え
国際航空会社(Air India を含む)に販売した航空燃料の売
上税の代わりとなる州政府に対する支払い
メッカ巡礼者向けのチャーター便運行の補助金
配当軽減およびその他の減免に対する鉄道会社への補助金
貧困層向けの保険スキーム
暴動犠牲者に対する利子免除
東北部のヘリコプターに対する補助金
砂糖の緩衝在庫の保守
食用油輸入で生じた損失に関する国有貿易公社への償還
不採算航路に対する Shipping Corporation of India への補
助金
造船所への補助金
b
5,285.6
6,565.2
24.2
4,941.7
6,134.3
24.1
2,125.7
3,012.6
41.7
1,998.1
1,862.9
-6.8
699.6
1,258.8
79.9
118.4
n.a.
-
322.9
399.4
23.7
0.3
5.5
2,054.6
0.0
n.a.
-
20.6
34.0
65.0
141.6
n.a.
-
3.2
n.a.
-
1.1
0.1
-94.9
2.3
2.2
-3.9
47.1
0.2
-99.5
5.4
11.0
104.7
3.0
n.a.
-
12.8
10.6
-17.1
Cochin Ship Yard Ltd
2.8
4.4
57.3
Hindustan Shipyard Ltd
3.5
0.9
-74.9
6.5
5.3
-17.9
17.1
0.2
-98.7
7.9
..
-
8.1
..
-
1.1
..
-
37.4
323.1
763.8
4.9
32.6
571.3
船舶の取得-金利格差
手織物の補助金
手織物に対する特別払い戻し金
ジャナタ布に対する補助金
その他
為替差損の補償
インド産業開発銀行(Industrial Development Bank of
2000 年 2 月の予算演説に続いて設立された経費改革委員会
(ERC:Expenditure Reforms Commission)
は、食糧補助金を削減し、肥料補助金を合理化する一連の措置を提案した(財務省、2001a)
92
135
1997/98
)
インド産業信用投資公社(Industrial Credit and
Investment Corpn. of India)
国立住宅銀行(National Housing Bank)
住宅開発金融公社(Housing Development Finance Corpn.)
NRI 債券スキームの為替差損
印僑向け債券の為替差損
PDIL に未払いのインド政府ローンの利子と遅延利息の償却
J & K の借り手に対する債務救済スキーム
Central Electronics Ltd.のローン償却
アッサム・ガス・プロジェクトへの補助金
保証料の補助金
年度
a
2001/02
年度 増加率(%)
b
India
19.2
12.6
-34.5
0.8
1.8
125.2
12.6
14.3
14.1
n.a.
1.8
-
n.a.
259.9
-
12.1
n.a.
-
13.5
10.1
-24.7
5.5
n.a.
-
n.a.
0.0
-
n.a.
2.1
-
Heavy Engineering Corporation
n.a.
0.6
-
Hindustan Cables Ltd.
n.a.
0.2
-
Bharath Bhari Udyog Nigma Ltd.
n.a.
0.1
-
Hindustan Machine Tools Ltd.
n.a.
1.0
-
Praga Tools Ltd.
n.a.
0.1
-
n.a.
0.2
-
20.9
31.6
50.8
Hindustan Steelworks Construction Ltd.
補助金
利子補給
の保証料に対する
該当なし
該当なし
修正
予算に計上
注: 2001/02 年度に使用したルピー/米ドルの為替レート=2000/01 年度 4~12 月のみ(=45.39244)
出展: 財 務 省 の オ ン ラ イ ン 情 報 。 www.nic.in/indiabudget/budget98-99 お よ び
www.nic.in/indiabudget/ub2000 で参照
n.a.
..
a
b
インド食糧公社(FCI:Food Corporation of India)は、一定の調達価格(最低保障価格
または供出価格とも呼ばれる)で穀物を購入する。この穀物は、公共配給制度(PDS:Public
Distribution System)により、各州を通じて「中央発行価格」で配給される。経済費用(取
得費用と配給費用) と中央発行価格の差額が補助金となる。肥料補助金には、国産および
輸入尿素への補助金、尿素の輸送にかかる運賃への補助金、その他の肥料(価格統制され
ていない肥料)の減免価格での販売がある。国産尿素への補助金は、農業生産者に「手頃
93
取得費用には、最低保障価格、税、梱包費用、穀物の調達に付随するその他の雑費が含まれる。配給費
用には、輸送費、倉庫料、調達機関(インド食糧公社)の一般管理費が含まれる
93
136
な」価格で肥料を提供しながら、肥料製造者に投資に対する「妥当な」利益 をもたらすこ
とを目的とする(セクション 2.(2)を参照)。国内生産では需要を十分に満たせないため、尿
素の輸入にも補助金が支給される。さらに、3 種類の肥料をバランスよく組み合わせて使用
することを奨励するため、1992 年に価格が自由化されたリン酸肥料とカリウム肥料も減免
された価格で販売される。
94
利子補給は 2001/02 年度に補助金全体の 0.5%を占め、1997/98 年度から 50%増加してい
る。これらのスキームのもとで、政府は減免した利率でローンを提供したり、特定のケー
ス、たとえば PSE に利子の支払いを免除する 。これらの利子補給は、インドの高い実質
金利の影響を軽減するのに役立つ。利子補給は、さまざまな省庁(財務省、重工業・民間
企業省(Ministry of Heavy Industries and Public Enterprises)、鉄鋼省(Ministry of Steel)、
情報放送省(Ministry of Information and Broadcasting)など)が管轄し、非常に幅広い目
的で供与される。たとえば、財務省は、Goan Bank と国営銀行に補助金に基づく利率でロ
ーンを提供している。重工業・民間企業省は、再生スキームの一環として、Hindustan Paper
Corporation Ltd.、Heavy Engineering Corporation Ltd.、Hindustan Machine Tools Ltd.
に利子補給を供与している。Steel Authority of India Ltd.は、政府との間で締結した財務・
事業再構築協定の一環として、自主退職制度(VRS:Voluntary Retirement Scheme)の
実施に向けたローンの利子を支払うため、50 億ルピーの補助金を受けた。さらに、Steel
Authority of India Ltd. は、政府から損失続きの子会社である Indian Iron and Steel
Company に供給されたローンの利子放棄も受けた。この利子放棄は、産業・財政再建委員
会(BIFR:Board for Industrial and Financial Restructuring)に一任された 。
95
96
尿素に対する最低留保価格付き補助金スキーム(RPS)では、政府によって規定された標準的な稼動率
に基づき、平均的な実際の費用と経費を加えた 1 トンあたりの固定留保価格を個々の製造者に提示する。
妥当な収益率は税引き前の純資産利益率として定義され、12%の税引き後利益率に相当する
財務省(2001c)、Vol. I
より多くの例については、連邦政府予算(Union Budget)2001~02 [オンライン]を参照。参照先:
http://indiabudget.nic.in/ub2001-02/eb/vol2.htm [2001 年 10 月 30 日]
94
95
96
137
Fly UP