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ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向
2 -1 第 1 部 第 2 部 メディアとアプリケーション [ ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向 ] ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向 澤 紫臣 アマツ株式会社 取締役CCO 第 3 部 第 4 部 第 第 5 6 ゲームの姿をしたオンラインコミュニティーの大幅拡大 端末の多様化に合わせたビジネス戦略が鍵を握る 2010 年半ばから2011 年初頭にかけてのソーシャルア 部 プリを中心とする国内 SNS プラットフォーム事情は、数 2009 年 か ら 2010 年 に か け て、国内 SNS プラット 字的に拡大期ではあったが、垂直的な成長が主であっ フォーマーがこぞってオープン化を果たし、一気にソー た。2009 年から市場に上向きのインパクトを与えた国内 シャルアプリビジネスの主戦場となった。テレビ CM も 主要 SNSプラットフォーマーによる「オープン化」のよう 大量に放映され、ケータイでゲームをすることが国民の な革新的な市場の変化は今のところ見られない。 娯楽として浸透していく過程を感じた人も多いことだ トピックとして、スマートフォンの普及は市場の変化 部 ろう。 を匂わせるものであり、今後も重要になっていくだろ また、増加するユーザーに多くのゲームを提供した う。しかし、技術的なイノベーションや、ユーザーのニー り、サービスの安定性を高めたりするために、ソーシャ ズから生まれた動き、あるいはアイテム課金登場時のよ ルアプリ事業に携わる開発系エンジニアの人材争奪も うな収益モデルの深化を含んでいるとは言い難く、ケー 激化し、数百万円の「入社支度金」制度を準備し、優秀 タイキャリア主導の機種変更需要以上の起爆剤はない。 な開発者を誘致しようという動きも盛んになった。 SNS やソーシャルアプリのためにスマートフォンに乗り こういった話題によって業界を賑わし、国内ソーシャ 換えるという事態にまでは至っていないという印象だ。 ルアプリ市場を牽引しているのは、ディー・エヌ・エー、 しかしながら、端末の多様化がユーザーのサービス利 用スタイルに影響を与えていることは事実である。例え グリー、ミクシィの 3 社である。 mobage(旧:モバゲータウン)を運営する DeNA は、 ば、タブレット型端末で、それまで PC やゲーム専用機で 同社の決算資料(2011 年 5 月)によると、2011 年 3 月期 しか楽しめなかった本格的な MMORPG(多人数接続 の営業利益が 560 億円(163%増)という成長を遂げて 型オンライン RPG)がいつでもどこでもプレイできるよ いる。もちろん、9 割以上がソーシャルメディア事業と うになったり、PC ではよりカジュアルで大規模なソー なっており、会員数も 2714 万人と国内最大のソーシャ シャルゲームが登場したりするなど、これまでの延長線 ルプラットフォーマーとなっている。 上とはいえ、グラフィカルで親しみやすいユーザーイン ヤフーと共同で 2010 年秋にオープンしたサービス、 ターフェースでのコミュニケーションが、コアなゲーマー 「Yahoo! モバゲー」についても、利用者数が 2011 年 5 月 だけでなく、普段ゲームにそれほど親しんでいなかった に 400 万人を突破するなど、PC 向けサービスとしては 層にも浸透してきていることは事実だ。 かなりの勢いで伸ばしてきていると言える。 本稿では、ソーシャルアプリやオンラインゲームの動 104 国内ソーシャルアプリ動向 また、今後増加するスマートフォン向けアプリの礎と 向を通じて、これからのインターネットに求められるコ して、スマートフォン開発の米エヌジーモコを買収し、 ミュニティーのあり方を見つめていこうと思う。 ngCore と呼ばれる SDK(ゲーム開発環境)を提供する 第 2 部 ネットビジネス動向 メディアとアプリケーション [ ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向 ] 資料 2-1-3 オ ン ラ イ ン ゲ ー ム 市場規模 の 推移[ 2004 年 -2009 年] (億円) 1,400 1,296 1,239 資料 2-1-4 オンラインゲームユー ザーアカウント数の推移 [2004 年 -2009 年] 9,000 1 部 第 2 部 第 3 部 第 4 部 第 5 部 第 6 部 8,608 8,000 7,545 1,015 1,000 第 (万) 10,000 1,200 1,122 2-1 7,000 820 5,905 6,000 800 5,000 600 4,198 579 4,000 2,808 3,000 400 2,000 1,942 200 1,000 0 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 0 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 出所 日本オンラインゲーム協会の調査 出所 日本オンラインゲーム協会の調査 という形で、スマートフォンプラットフォームに興味のあ ミクシィは、バーチャルグラフ(主にソーシャルアプリ る開発会社を支援している。その一方、NTTドコモと 上で築かれた人間関係) よりもソーシャルグラフ (現実世 の業務提携により、最もエンドユーザーに近いキャリア 界の人間関係)を重視していることが特徴で、会員数は との結びつきを強めることでソーシャルアプリへの導線 2337 万人(2011 年 5 月)と前述の 2 社に迫り、ソーシャ を固めるなど、よりプラットフォーム色を濃くしていく ルアプリを介した課金手数料などの収益よりも、広告 方向のようだ。 収益のほうが高いという特徴がある。また、2 社との大 一方、グリーは、2011 年 5 月に通期の見通し(決算期 きな違いは、プラットフォームをアプリケーション提供の が 6 月のため)として営業利益を 270 億円〜 300 億円と みに用いるのではなく、 「ミクシィ年賀状」に代表される 発表した。会員数は 2506 万人とのことで、DeNA とと ような、実生活に結びついた E コマースやデジタルコン もに国内 SNS の双璧と言っても過言ではないだろう。 テンツへと展開している点である。 スマートフォン用のソーシャルアプリネットワークを手 ソーシャルアプリについても、ミクシィはもともと PC がける米オープンフェイントを完全子会社化し、対戦機 版で人気を博してきたこともあり、ゲームだけでなく、 能やユーザー同士を結ぶフォーラムといったアプリ間の 占いや診断系、ネタ系といった、友人同士の話題となっ 連携機能を深めながら、オープンフェイントが抱える世 たり、より一層結びつきを強くするものが好まれる傾向 界の 7500 万ユーザーをベースに海外展開を狙っていく にある。 と考えられる。 また、3 社とも日本を代表するソーシャルプラット どちらも 300 〜 400 社前後の開発会社がプラット フォーマーとしての強みを生かし、東日本大震災では義 フォームに何らかのアプリを提供しており、800 以上の 援金の募集に早期から動いたほか、サイト上での安否 タイトルを擁している。 確認機能 (ミクシィ) を提供したり、被災者を対象とした 第 2 部 ネットビジネス動向 105 2 -1 第 第 第 1 2 3 メディアとアプリケーション [ ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向 ] 契約社員の雇用枠を設ける(ディー・エヌ・エー)など 部 の取り組みをしたことも記憶に新しい。 部 部 4 部 これからの SNS プラットフォーマーには、自社会員へ ゲームである。斜め見下ろし型のマップの上に、道路を 敷き、道沿いに家や商店を並べることで人口を増やす な事業との結びつき、あるいは SNS が社会にどういっ のだ。商店の運用に必要な資材は畑や港を作ることで た役割を提供していけるか、さらにはこれまでの日本の 得ることができる。 ウェブサービスが苦手としていた海外への進出、その成 これだけだと、従来のテレビゲームでもあったシミュ 功を通じて、社会的な存在としての良質さが求められ レーションゲームの簡易版でしかないのだが、なんとフ ていくことと思う。 レンド(他のプレイヤー)の街を訪問し、観光客を送り込 5 る。そのちょっとした「嬉しいお節介」のやりとりが、 ンラインコミュニティーを基盤としたアプリケーション ソーシャルゲームの要素として用意されているのだ。 サ ービスも目立 っ て おり、例 え ば「 ポイントタウン」 部 6 リック一つで済むのだが)必要がある。こういった「いた サービスをソーシャルネットワーク化して会員同士の結 るところでフレンドが必要になる」デザインは、自然と びつきを強くするケースも見られるようになった。 Facebook 上で友人同士をゲームに勧誘する動機となっ より広く、大きくなっていく。 部 ている。もちろん、Facebook 上でフレンドがいなければ 「お金を払う」ことで解決できる。ビルを建てるときに、 「ソーシャルアプリ= SNS プラットフォーム上で提供 フレンドの支援がないと工事現場の最後の足場が外れ されるゲーム」というイメージが先行していたここ1 〜 2 ない上にそのビルからの収入が発生しないという、やや 年の話題性を超えて、既存の国内ウェブサービスがユー みっともない状況になるのだが、このみっともなさの加 ザーを結びつけるためのさまざまな「ソーシャルアプリ」 減が力強くプレイヤー数増加と支払いへの欲求へ働き を生み出し、市場の発展を担っていくことだろう。 かけているのである。 ソーシャルを徹底的に用いる海外アプリ Facebook は日本国内では SNSとしての使い勝手や、 エンドユーザーにある実名制への躊躇などさまざまな 海外のソーシャルアプリというと、なかなか国内から 要因によって、ミクシィに水をあけられているというイ では利用しづらいイメージがあるが、ゲーム分野におい メージがあるが、世界で愛用されている強みは、こう ては直感的に操作できることもあって、国内でも世界的 いったソーシャルアプリ一つ一つにも現れる 「フレンドの に流行しているソーシャルアプリを楽しむユーザーも増 必要性」を徹底しているところではないかと思われる。 Facebook を 1 つのソーシャルメディアとしてマーケ えてきた。 中でも、米ジンガの「CityVille」 (シティ・ビル)は 2011 ティングに活用するための方法がいたるところで議論 年 1 月に MAU(Monthly Active User:月間アクティブ されていたが、こういったソーシャルアプリの成功例を ユーザー数)が 1 億人を突破したということで、大変話 見るに、案外「強力な口コミ誘発」の一言がすべてを表 題になった。あくまで経験則であるが、1 か月にこれだ してくるようにも思える。 けのアクティブユーザー数がいるということは、1日あた そのほか海外の動向として、エンターテインメント分 り2000 万人近くがプレイしているという感覚である。 野に特化することで独自性を打ち出しつつもFacebook この「CityVille」は、世界的に流行している SNS の に迫れずにいた MySpace(米ニューズコープ)に買収話 「Facebook」にて提供されており、その数字の裏付けと が持ち上がるなど、淘汰の時代の始まりを予感させる して、とにかくソーシャルゲームの鉄則に忠実なゲーム 106 また、高層ビルや市役所といった重要な建物を設置 する際に、フレンドからの支援を受ける(といってもク し離れたサービスを展開して会員を抱えてきた企業が、 その点で、ソーシャルアプリケーションの意味合いは 第 んだり、畑からの収穫や家賃の回収を代行したりでき エージェント)や「ニコニコアプリ」 (ニワンゴ) といったオ (GMO メディア)のように、これまでソーシャルとはすこ 第 簡単に説明すると「CityVille」は箱庭的に街を作る のアプリサービス提供に終始するだけではなく、リアル また、この 3 社だけでなく、 「アメーバピグ」 (サイバー 第 デザインの強さがある。 第 2 部 ネットビジネス動向 出来事が起こっている。 メディアとアプリケーション [ ソーシャルアプリとオンラインゲームの最新動向 ] 国内オンラインゲームの動向 「オンラインゲーム」は言葉の意味が広いので、実際は おそらく、今後、ソーシャルアプリ市場、オンライン ゲーム市場それぞれの捉え方を変えなければならない ソーシャルアプリなども含むのだが、ここで取り扱うオ ほど、ソーシャルアプリやオンラインゲームといったコ ンラインゲームは、基本的に PC や家庭用ゲーム機でプ ミュニティーを含んだカジュアルなサービスはボーダー レイするものを指すことにする。 レス化が進むと考えられる。 とりわけ PC 用オンラインゲームは、そのビジネスモデ ルにおいて、ソーシャルアプリに先駆けて「基本無料+ ソーシャルアプリ、オンラインゲームの今後 アイテム課金制」を採用しているものが多く、2009 年の SNS プラットフォームのソーシャルゲーム登場によっ 調査では 308タイトル中 206タイトルとなっている (日本 て、それまでゲームに消極的であった層が、一気に娯楽 オンラインゲーム協会調べ) 。市場規模としては、2008 として、あるいは暇つぶしの手段としてゲームに親しん 年が 1239 億円で、2009 年が 1296 億円と約 5%の増加を だ結果、冒頭に述べた国内 SNSプラットフォーマーの大 している。延べユーザーアカウント数も 2009 年の 8600 きく垂直的な成長につながってきた。 万から 2010 年には 9500 万(予測)を突破するなど成長 が続いている。 また、アイテム課金制で必ず注目される「ARPPU」 (Average Revenue Per Payed User:課金ユーザー1 人あたりの月間売上高)の平均が 5000 円を超えており、 これも前年に対して 200 円ほど増加している。 今後もオンラインゲーム分野は拡大していくと考えら じわじわとしたスピードではあるが、従来型のケータ 似たような数多くのゲームを繰り返し遊ぶスタイルか 部 第 2 部 第 3 部 第 4 部 第 5 部 第 6 部 ら、端末性能が向上したスマートフォンで「仮想世界」や 「フレンドの箱庭」に気軽に出入りする時代が来ると考 えられる。 に明確に区分できるものの、インターネット環境を用い プラットフォームとして、その上で人付き合いをするた てプレイするゲームという意味合いでは、すでにケータ めに用いるもの」という性質を持っていくと考えられ イやスマートフォンなどとの隔たりはほとんどなくなっ る。オンラインコミュニケーションにとって、ゲームとい てしまっている。 うのは、細かなルールを除けば「ソーシャルな活動をす るためのインターフェースの姿の 1 つ」でしかない。 また、そういう時代になっても、現在も時折ニュース イで楽しめる 「アークファンタズムオンライン」 (ドワンゴ) などで取り上げられる課題、とりわけ未成年者の保護 は、これまで PC 用オンラインゲームが得意としていた、 や、不正アクセスへの対策は引き続き重要になる。なぜ ポリゴンによって 3D 表現された剣と魔法のファンタ なら、スマートフォン時代になり、エンドユーザーが自在 ジー世界に多人数のオンラインプレイヤーがひしめいて に端末にアプリケーションをインストールすることができ 自在に冒険することができる、という内容の MMORPG るようになった反面、悪意あるソフトウェアやサービスに である。すでに端末による区分けは、ほとんど意味をな さらされる危険性が増えてきたからだ。こういった局面 さなくなってきているのだ。 では、長年、PCをベースにしたインターネットサービスと こういったものの登場は、エンドユーザーのオンライ して不正アクセスや不正行為と闘ってきたオンライン ンゲームに対するプレイスタイルを大きく変える可能性 ゲーム業界のノウハウが転用され、役立つことになるだ を秘めているといえる。 ろう。 昨年までのインターネット白書ではオンラインゲーム 1 の形態としてそう遠くない時期に、現在のブラウザーで そうなった場合に、ソーシャルアプリは「仮想世界を 「オーダー&カオスオンライン」 (ゲームロフト)や、ケータ 第 イからスマートフォンへの移行が進んでおり、サービス れるが、現在は PC や家庭用ゲーム機といった端末ごと 例えば iPhone や iPad など の iOS 端末 で 楽し める 2-1 今後 の 市場 の 成長 とともに、オンラインコミュニ とソーシャルアプリの項は明確に分かれていたのだが、 ティーの変容をしっかりと捉え、エンドユーザーが一つ 今回から 1 つになったというのも、そういった市場の状 の 「社会」 としてソーシャルアプリを安全に利用していけ 況を織り込んでのことである。 るように導くことが肝要であろう。 第 2 部 ネットビジネス動向 107