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日本における電子政府/電子自治体に関する現状と展望

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日本における電子政府/電子自治体に関する現状と展望
日本における電子政府/電子自治体に関する現状と展望
に e-Japan 重点計画(2001.6)においては「行政情
1.はじめに
本レポートは、弊社がぎょうせい総合研究所とガ
ートナージャパンと共同で実施した「わが国の電子
政府/電子自治体の実態」に関するアンケート調
査を取りまとめたものである。
本アンケートは、以下の 3 つの点を把握することを
目的に実施したものである。一つ目は、国が進めよ
うとしている電子政府/電子自治体に対する全国自
治体の取り組み状況の把握、また電子政府/電子自
治体の進展が新たな地域格差・デジタルデバイドを
生む可能性について把握することである。二つ目
は、現在、全国各地で真剣な検討がなされている
市町村合併の支援及び合併のメリットの一部を実
現するために電子政府/電子自治体を用いた新た
な広域連携体制としての『バーチャル広域自治体』
が寄与する可能性について把握することである。も
う一つは、電子政府/電子自治体を実現していくた
めの体制としてのベンダーの役割、ベンダーに対
する期待感について把握することである。本レポー
トでは前二点について整理を行う。
報の提供、申請・届出等手続の電子化、文書の電子
化、ペーパーレス化及び必要な業務改革を重点的
に推進し、2003 年度までに、電子情報を紙情報と同
等に扱う行政を実現」することが掲げられている。
その他、電子政府実現に向けた環境整備として
は「総合行政ネットワーク」の整備や「住民基本台帳
ネットワーク」の構築、「政府認証基盤(GPKI)」の整
備などが進められているところである。
わが国における電子政府へ向けた主な取り組み
<法律など>
○ミレニアムプロジェクト(2000.4)
○IT 戦略会議(200.7)
○IT 基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本
法)
(2000.11 成立、2001.1 施行)
○e-japan 戦略、e-japan 重点計画
<基盤整備など>
○「総合行政ネットワーク」の整備(都道府県・政令指定
都市:2001 年度まで、その他市町村:2003 年度まで)
○「住民基本台帳ネットワーク」の構築(2003.8 までに実
現予定)
○「政府認証基盤(GPKI)」の整備
アンケートは、全国の都道府県、市町村及び東京
都特別区の合計 3,294 市町村に対して留置き方法
により実施し、1,878 自治体から回答を得ている。
アンケート調査の概要
調 査 主
体
調 査 方
法
発送
回収
調 査 期
間
3.自治体における電子自治体の取り組
み実態
ここではアンケートから得た回答について、都道
日本の電子政府/電子自治体を考える共
同研究会(価値総合研究所、ぎょうせい総合
研究所、ガートナージャパン)
留め置き方法によるアンケート調査
全国 3,294 自治体(都道府県、市町村、東京
都特別区)
1,878 自治体(回答率:57.0%)
2001 年 9 月~10 月
府県と市町村での取り組みの違いを中心に、その
一部を抜粋して整理する。
<インフラ整備面には大きな差はみられない>
ホームページの整備率や庁内 LAN の整備率な
どは共に高く、大きな差はみられない。特にホーム
ページについてはアンケートでは回答のあった
1,655 市区町村のうち 9 割弱で整備をしているとい
う結果となっている。
2.国の進める電子政府化への道筋
しかし外部との窓口となるべき職員のメールアドレ
2001 年 1 月には IT 基本法が施行され、2003 年
スについてはセキュリティ対策などの面もあるため
に世界最高水準の電子政府を実現することを目標
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page 1
2 割弱と低い状況である。
か市区町村では都道府県に比べて低く、回答都道
府県の 8 割が「1 人 1 アドレス」と回答しているのに
対して市区町村では 3 割弱の自治体にとどまって
<都道府県、市区町村で優先度に差がみられる
いる。半数弱の市区町村は「全庁で数アドレス」と回
具体的なシステム内容>
優先的に取り組む分野(上位 5 分野回答)につい
答している。
ては、都道府県、市区町村ともに上位 2 つは「電子
申請システム」「総合文書管理システム」となってい
<方向性、策定体制が定まらないまま進む可能
性がある電子自治体整備>
るが、都道府県での「電子申請システム」について
アンケートにおいて、電子自治体推進計画の策
の優先度は際立って高くなっている。3 位以下につ
定状況について聞いている。都道府県では「策定
いては、都道府県では「電子調達システム」「電子
済み」「策定予定」を合わせれば、ほぼ全数である
情報公開システム」が次いでおり、市区町村では
のに対し、市区町村では全体の半数弱が「策定予
「住民情報系システム」「内部情報系システム」「電
定なし」と回答している。その理由としては「専門人
子情報公開システム」「電子予約・抽選システム」な
材の不足」「策定知識の不足」との回答が高くなっ
どがほぼ同レベルで続いている。
ているが、「必要ない」との回答も約 3 割に達してい
また、「電子申請システム」と「電子調達・入札シス
る。このままではハードとしての整備は進むものの、
テム」については市区町村に比べて都道府県で優
それを用いて何をすればいいのか、どうしていきた
先度が高く、「統合型 GIS システム」については逆
いのか、という方向性を見定めないままの整備が進
に都道府県に比べて市区町村で優先度が高くなっ
む可能性もあり投資の効率性や効果などについて
ている。都道府県では既に個別 GIS の整備が進ん
疑問が残る。
でいることが市区町村に比べて低い原因と考えら
また CIO(情報統括責任者)を設置している自治
れるが、複数部署、全庁での「統合型 GIS」につい
体については都道府県でも約 3 割、市区町村では
0.00
0.50
ての関心は高い。
1.00
1.50
2.00
4.00
3.56
1.58
住民情報系システム
0.63
1.49
内部情報系システム
0.41
1.42
1.56
電子情報公開システム
1.35
1.33
電子予約・抽選システム
0.97
0.26
0.80
0.81
電子相談システム
市区町村
都道府県
0.58
0.19
0.43
電子調達・入札システム
問い合わせ対応職員支援システム
3.50
2.26
2.44
総合文書管理システム
生活基盤系システム
3.00
2.52
電子申請システム
統合型GISシステム
2.50
1.96
0.30
0.41
注.アンケートの回答で 1 位を 5 点、2 位を 4 点、…というように得点化して平均点として求めたもの
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page 2
0%
10%
20%
30%
都道府県
31%
6%
70%
5万人以上
3万人以上
2万人以上
30%
18%
3千人以上
14%
28%
4%
28%
23%
別々に
3%
行政改革を優先的に
17%
23%
ITによるシステム化優先
8%
61
76
135
23%
154
21%
167
145
33%
25%
250
35%
19%
3%
5%
12%
15%
15%
9%
29%
13%
行政改革・IT推進を一体的に
7%
25
1,765
10%
15%
17%
19%
31%
8%
14%
16%
6%
5%
22%
13%
5%
32%
14%
5千人以上
7%
38%
24%
1万人以上
5%
11%
38%
19%
12%
100%
27%
34%
28%
90%
4%
34%
33%
80%
17%
46%
10万人以上
3千人未満
60%
20%
20%
20万人以上
7千人以上
50%
56%
市区町村計
1万5千人以上
40%
240
31%
194
37%
178
38%
165
いずれも具体的な取り組みをしていない
推進による行財政効率化などへの取り組みについ
<構築姿勢には大きな差>
電子自治体の大きな目的は住民サービスの向上
ては、従来型の支援策で改善できるものではなく、
と行政内部の効率化である。その他、電子自治体
その結果、電子自治体の整備が進むことにより新た
を実現する段階で様々な行政組織の改革や業務
な地域格差が生じる可能性もあると思われる。
の取り組み体制の変更、行政評価との関連付けな
どの行政改革と一体的に進めていくことが求められ
<電子自治体実現へ向けた阻害要因>
てきている。アンケートで、こうした電子自治体整備
さらにアンケートでは電子自治体の実現に向けた
に対する姿勢を聞いているが、「行政改革と IT 推
阻害要因ならびに国や県に対する要望についても
進を一体的に取り組む」と回答している自治体は都
聞いている。阻害要因としては、「予算・財政制約」、
道府県では約 6 割となっているものの、市区町村で
「専門人材の不足」が大きく、国や県への要望のな
は 2 割弱にとどまっている。
かでも同様の意見が寄せられている。また、都道府
また、本設問については人口階層別にみると人
県においては阻害要因として「庁内の理解・合意形
口 3 万人以上より下の階層では「いずれも具体的な
成」との回答も高くなっている。国・県に対する要望
取り組みを行っていない」との回答が 2 割を超え、
では、財政面に加え「長期的なビジョン・共通仕様
それ以下の人口階層では小さくなるにつれてその
を示して欲しい」「インフラ整備を含むデジタルデバ
割合が高くなり、人口 3 千人未満の自治体では 4
イドの解消」といった声もあげられている。
割となっている。自治体の規模による格差について
は本設問に限らず今後の分析でさらに明らかにし
ていきたい。
ハード面、インフラとしての電子自治体システムの
地域格差については様々な支援策などにより解決
が可能であると思われる。しかし、意識面や電子自
治体のソフトとしての活用、行財政改革と一体的な
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4.国が進めようとしている市町村合併
<急ピッチでの再編が求められている自治体>
国は、地方分権の推進や少子・高齢化の進展、
国・地方を通じる財政の著しい悪化など市町村行
政を取り巻く情勢が大きく変化しているなか、市町
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page 3
村の行政サービスの水準を維持・向上していくとと
しての『バーチャル広域自治体』という概念につい
もに、行政の効率化を図るため、市町村合併を進
て紹介し、こうした広域連携に対する期待感などに
めるべく合併特例法をはじめ様々な支援策を展開
ついて把握した。
している。
総務省の 2001 年 9 月末調査によれば、合併協
<『バーチャル広域自治体』とは>
議会等の設置数は全国で 324、関係市町村数は
本アンケート及びレポートを通じて我々が『バーチ
1,657 で全国自治体の過半数を超えている。本ア
ャル広域自治体』という新たな広域連携体制を提案
ンケートにおいても回答のあった 1,481 市区町村の
している背景には、「電子自治体の推進による新た
うち 113 自治体で「合併協議会ができ検討中」、
な地域格差の発生を減少させたい」「国が進めてい
681 自治体で「研究会などで検討中」との回答とな
る市町村合併をスムーズに進めることはできないも
っている。
のか」という 2 つの大きな問題意識がある。
『バーチャル広域自治体』は、これらの問題意識
<決して平坦ではない市町村合併の実現>
を持ちながら想定した新たな広域連携体制のあり
しかし具体的な合併については、これらの協議会
方である。具体的には、複数の自治体同士が電子
や勉強会のなかで、合併の是非も含めて検討され
自治体のインフラを共有しながらバーチャル空間上
るものであり、その道のりは平坦とは言いにくい。そ
で一体となり、行政サービスの提供や業務処理、業
の障害としては、例えば、それは目には見えない住
務運営などを行うことで市民サービスの向上、行財
民感情あったり、議員の身分保証あるいは関係自
政の総合的な対応能力の向上を目指し、電子自治
治体間の綱引きなど様々な政治的な思惑などであ
体システムの運営コストの低減などを図っていくも
る。合併に至るまでにそれらを解きほぐし、実現する
のである。
ことは容易ではない。21 世紀最初の大型合併で
また、『バーチャル広域自治体』を通じて、自治体
2001 年 5 月1日に誕生したさいたま市については、
間の住民が行政界にとらわれないで自分たちのま
幸いなことに弊社もその実現のための支援業務を
ちづくりを考え、自治体間の問題解決、住民意見の
行っている。合併に至る経緯を、関係者をサポート
集約、合意形成の場として機能していくことで、合
する立場でみていたが、新しい体制を作ることに対
併の効果の一部を先取りしつつ、最終的に合併と
して関係者の方々のかけてきた熱意・努力、エネル
いう手続きを踏む段階においても、本体制が合併
ギーは相当のものであった。こうした経験からみても、
のスムーズな実現に寄与することが期待できるもの
現在、全国各地で検討が進められている市町村合
と考えている。
併が具体化し、さらに短期間のうちに実現に至るこ
『バーチャル広域自治体』に期待されるメリットなど
とは相当に困難なことと感じている。
5.電子自治体構築による新たな広域連
携体制『バーチャル広域自治体』の可
能性
本アンケートのなかでは実態的な進展が困難な
市町村合併を側面的に支援すること、あるいは住
①生活圏の広域化に対応して各種申請や公共施設利
用に共同で対応できる
②小さな市区町村同士が連携することで、それぞれの専
門能力をもった人材を活用しながら行政サービスへの
対応能力を向上させる
③介護や医療・保健などに広域ネットワークで対応する
④広域圏でのまちづくりや観光計画による地域活性化
への対応
⑤共同購入によるコスト削減やシステム構築・運用費用
の低減化
民サービスの向上をより効果的に実現することを目
指したバーチャル上での広域連携体制のあり方と
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当方の仮説としては、「スケールメリットの実現」や
<『バーチャル広域自治体』に期待するもの>
アンケートで『バーチャル広域自治体』に対して期
「構築・運用コストの低下」などについての期待が高
待する分野について聞いたところ、「高齢者福祉や
いのではと考えていたが、そうした結果は得られて
医療の広域ネットワークでの対応」「生活圏におけ
いない。また、アンケートでは 3 段階で聞いており、
る広域サービスの対応」「行政サービスの対応能力
そのため大きな差が出なかったことも原因と考えら
の向上」などについての期待感が高くなっている。
れる。
0%
10%
20%
生活圏における広域サービス
(各種申請、公共施設利用)
行政サービスの対応能力の向上
(介護・福祉、医療・保健、まちづくり)
40%
50%
34%
構築・運用コストの低下
(システム要員、保守費用)
28%
80%
39%
35%
<過半数が『バーチャル広域自治体』に興味を
期待中
1,760
15%
14%
1,757
11%
1,754
21%
12%
1,752
20%
12%
1,749
13%
1,751
24%
期待小
100%
13%
10%
43%
期待大
90%
15%
41%
24%
28%
70%
41%
38%
スケールメリットの実現
(共同購入、定型業務の共同処理等)
60%
38%
30%
高齢者福祉、医療などの
広域ネットワーク対応
広域でのまちづくり
(観光、災害、環境)
30%
不明
いと思われる。アンケートの回答では「予算」、「自
治体間のリーダーシップ」や「自治体間の情報シス
示す>
『バーチャル広域自治体』に対して「非常に興味
テムの差異」などが高くなっている。
がある」と「興味がある」と回答した自治体を合わせ
ると過半数を超えており、仮にこうした概念を実証
するためのモデル事業があるならば、具体的に参
画したいとの意向も回答率としては低いが自治体
数では 100 を超えている。
本アンケートの説明と設問のなかだけでは我々の
開発調査事業部 経済・社会チーム
提案する『バーチャル広域自治体』の提案された背
チームリーダー 副主任研究員
景、意図及びの内容がうまく伝わらなかったことを
岩城 博之
差引いても、かなりの関心が得られたものと考えて
いる。
株式会社 価値総合研究所
〒108-0014 東京都港区芝五丁目 31 番 19 号
○実現に向けた課題
田町全日空ビル 9 階
当然、『バーチャル広域自治体』は自治体をまた
いだ連携体制であり、実現に向けての課題は大き
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Tel. 03-5441-4812
Fax. 03-5441-7661
URL: http://www.vmi.co.jp
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