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本田 学 脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合

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本田 学 脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合
「先進的統合センシング技術」
H22 年度
平成19年度採択研究代表者
実績報告
本田
学
独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第七部・部長
脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステム
§1.研究実施の概要
情報環境と脳との不適合によって発生する特異なストレスは、生命活動を制御する基幹脳(脳
幹・視床・視床下部などからなる生命の基幹的機能を担う脳部位)の機能異常を導き、情動・自律
神経系や内分泌・免疫系の不調を介して様々な現代病の原因となる。本研究では、安全・安心な
情報環境の創出に資するために、多チャンネルバイタルセンサからのシグナルを統合することによ
り、小型軽量で高確度なウェアラブル基幹脳機能センシング技術を創成し、日常生活空間で簡便
に使用できるシステムの実用化を目的とする。
研究4年次にあたる平成22年度は、当初計画どおり、これまで各研究機関で個別に開発してい
た要素がほぼ完了し、開発要素を評価用シミュレータ内に統合して、実証試験を行うための調整
を開始した。具体的には、基幹脳活性指標再構成技術の開発については、磁気共鳴画像-脳波
同時計測システムを用いて、ウェアラブルセンサの実用的形態としてメガネ型センサも視野に入れ
た検討を行い、前額部と耳介後部にある乳突部に設置した電極から記録される脳波成分からも高
い精度で基幹脳活性を推定しうることを見出した。また、呼吸や心拍などのヴァイタルデータの導
入についても検討した。ウェアラブルセンサシステム開発では、基幹脳活性指標(FBA-index)導
出のためのデジタル信号処理技術の開発を進め、システムへの実装を行い基本性能を確認した。
システム校正・臨床評価用シミュレータの構築については、基幹脳活性変動効果をもったシステム
校正用音響映像統合ソフトウェアを制作した。また、シミュレータにおいて呈示する音響・映像情
報の調整を行ない、健常者および臨床例で探索的検討を開始した。さらに、非拘束化 PET 装置
について、より被験者の自由度を高めるための PET 支持機構の検討を行った。
今後は、システム校正・臨床評価用シミュレータを用いた実証試験を実施し、各開発要素にフィ
ードバックをかけていく予定である。
1
§2.研究実施体制
(1)「国立精神・神経医療研究センター」グループ
① 研究分担グループ長:本田 学 (独立行政法人国立精神・神経医療研究センター神経研究
所疾病研究第七部、部長)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステムの開発と臨床評価
(2)「情報通信研究機構」グループ
① 研究分担グループ長:片桐 祥雅 (独立行政法人情報通信研究機構、専攻研究員)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステムの設計と試作
(3)「国際科学振興財団」グループ
① 研究分担グループ長:大橋 力 (財団法人国際科学振興財団、主席研究員)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータにおける基幹脳活性化統合ソ
フトウェア構築
(4)「放送大学」グループ
① 研究分担グループ長:仁科 エミ (放送大学、教授)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータの視覚情報環境構築と運用
(5)「アクション・リサーチ」グループ
① 研究分担グループ長:前川 督雄 ((株)アクション・リサーチ研究開発部、部長)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータ構築
(6)「神戸高専」グループ
① 研究分担グループ長:山本 誠一 (神戸市立工業高等専門学校電気工学科、教授)
② 研究項目
・基幹脳機能統合センシングシステム校正用 PET の非拘束化設計と運用
2
§3.研究実施内容
(文中に番号がある場合は(4-1)に対応する)
研究全体の4つの柱(1.基幹脳活性指標再構成技術の開発、2.ウェアラブルセンサシステムの
開発、3.システム校正・臨床評価用シミュレータを用いたシステム校正とフィードバック、4.臨床
試験の実施)のうち、今年度に実施した1~3について平成 22年度の研究実施内容を項目ごとに
述べる。
1.基幹脳活性指標再構成技術の開発
本プロジェクトで開発中のウェアラブルセン
サから時々刻々と計測される脳波をもちいて基
幹脳活性の代用指標をリアルタイムで導くため
に、自発脳波α帯域成分と fMRI によって記録
される基幹脳活性との間の時間的関係に着目
して解析を行った。前年度までの検討では、後
頭部から記録された脳波α波から基幹脳活性
図 1 メガネ型センサで使用可能な前額部および
乳突部に設置した電極から記録された脳波α帯域
成分と基幹脳活性との相関
を推定可能であることを示したが、領域代表か
ら、ウェアラブルセンサの実用的形態として特
にメガネ型センサの実用性が高いことであろう
との示唆を頂いた。そのため本年度は、メガネ型センサの開発も視野に入れて、前額部と耳介後
部にある乳突部に設置した電極から記録される脳波成分から基幹脳活性を推定することが可能か
どうか検討した。その結果、眼球運動などの補正を行えば、これらの電極から記録される脳波成分
も、高い精度で基幹脳活性を推定しうることを見出した(図 1)。
呼吸や心拍など、自律神経系の活動を反映すると言われている簡便に計測可能なヴァイタルデ
ータを統合することによって、基幹脳活性のより正確な推定が可能になるかどうかを検討するため、
呼吸及び心電図の位相および振幅データが脳のどの部位の活性と相関するかを検討した。その
結果、呼吸および心拍の位相成分は、脳の中の髄液の信号と、また振幅成分は、ほぼ脳実質全
体の信号と非特異的に相関することが示された。このことは、通常の相関解析における説明変数と
して単に心拍や呼吸のデータを組み込むことは、脳全体の活性を反映する点では有効であるもの
の、脳の基幹脳の活性をピンポイントで特定するには適していないことを示しており、呼吸や心拍
変動などのヴァイタル・シグナルの取り込み方にはさらに工夫が必要であることが示唆された。
2.ウェアラブルセンサシステムの開発
ウエアラブル基幹脳機能センシングシステムの主要機能の設計・試作を終え、プロトタイプによ
る機能評価を行いつつ、全体計画では次年度から着手する臨床システムとしての最適化の検討
を前倒しで現在進めている。
3
まず、前年度までの研究成果をふまえ、脳波α波の 25 秒以上のゆっくりとした周期をもった変
動成分から基幹脳活性指標(FBA-index)を構成する手法の検討をおこなった。そしてこれを実現
するためのデジタル信号処理技術の開発を進め、FBA-index 導出アルゴリズムを開発し、システム
への実装を行った。このシステムの基本性能を確認した。
また、前項で述べた研究成果を踏まえ、前額部と乳突部とにお
いたディスポーザル電極から脳波を記録することが可能で、アンプ・
送信機・電源を内蔵しスタンドアロンで使用できるヘアバンド型ウェ
アラブルセンサの開発を行い(図 2)、実用化に向けた高確度校正
を行った。さらに、メガネ型センサへの実装を目指すため、高密度
実装による基板の小型化の設計を完了し、現在試作基板作
製中である。加えて、本検討内容を技術移転し社会実装を実
図2
ヘアバンド型脳波センサ
現するために、パートナー企業との打合せを開始した。
また多人数同時測定技術を基盤とし、多チャンネルワイヤレス脳波計および標準 12 誘導心電
計測システムをバイプロダクト(技術移転対象)として実現し、医療福祉分野への活用を進めてい
る。
3.システム校正・臨床評価用シミュレータを用いたシステム校正とフィードバック
これまでに収集してきた基幹脳活性化効果をもつ音源の候補について、前年度までに開発し
た、情報の物理構造を定量的に評価する手法 4)を用いて解析し、複雑性や音律構造などを明らか
にした
3,6,7,8)
。その中から、特に高い複雑性と超高周波成分を有する音源を選択して、独自に開
発した編集システム
2)
を用いて、基幹脳活性変動効果をもった音響ソフトウェアを制作した。また、
基幹脳活性化効果をもつ映像ソフトウェアと統合したシステム校正用音響映像統合ソフトウェアを
制作した。
また、基幹脳機能統合センシングシステ
ム校正・評価用シミュレータにおいて呈示
する音響情報の調整を行った。具体的に
は、可動性に優れた音響パネルモジュー
ル方式(特許出願済)をもちいて室内音
響特性の調整を行った。また、シミュレー
図 3 超広帯域音響呈示用スピーカーの指向特性
および過渡応答特性
タに実装しているスピーカーの特性を改善するため、円形リング型スーパーツイーターによって可
聴域上限をこえる空気振動まで広い指向性を確保するとともに、電気信号から空気振動への変換
器として、過渡応答特性、位相特性などの物理特性の向上をはかった(図 3)。同時に、基幹脳活
性化を導き得る感覚感性面の表現能力の向上をはかった。さらに、視覚情報についても、シミュレ
ータ内で呈示可能な条件の下で、空間密度を変えることにより基幹脳活性がどのように変動する
かを検討し、その結果に基づいて校正用シミュレータの映像呈示システムを調整した。
また、前年度までに既に開発済の、被験者の拘束度を低減した PET 装置(PET-Hat)5)について、
4
小型化と性能の高度化を検討
1)
して論文発表を行うとともに、被験者の自由度をより高めるための
PET 支持機構の検討を行い、特許を取得した。
§4.成果発表等
(4-1) 原著論文発表
●論文詳細情報
1.
S.Yamamoto,
M.Imaizumi,
T.Watabe,
H.Watabe,
Y.Kanai,
E.Shimosegawa,
J.Hatazawa, Development of a Si-PM-based high-resolution PET system for small
animals, Physics in Medicine and Biology, vol.55, No.19, pp.5817-5831, 2010.
(DOI:10.1088/0031-9155/55/19/013)
2. E.Nishina, M.Morimoto, A.Fukushima, R.Yagi, Hypersonic sound track for Blu-ray
Disc “AKIRA”, ASIAGRAPH Journal, vol.4-1, pp.53-58, 2010.
3. N.Kawai, M.Morimoto, M.Honda, E.Onodera, E.Nishina, N.Kawai, T.Oohashi, Study
on the Sound Structure of Georgian Traditional Polyphony (1): Analysis of the
Temperament Structure, The Fifth International Symposium of Traditional
Polyphony Proceedings. (in press).
4. M.Morimoto, M.Honda, E.Nishina, N.Kawai, T.Oohashi, Study on the Sound
Structure of Georgian Traditional Polyphony (2): Quantitative Analysis of
Fluctuation
Structure, The
Fifth International
Symposium of Traditional
Polyphony Proceedings. (in press).
5. S.Yamamoto, M. Honda, T. Oohashi, K. Shimizu, M. Senda, Development of a brain
PET system, PET-Hat: a wearable PET system for brain research, IEEE
Transaction on Nuclear Science. (in press).
6. 福島亜理子, 仁科エミ, 大橋力, 茅原拓朗, 広田光一, 廣瀬通孝, コンテンツ特性がステレオ
バランス感覚におよぼす影響についての音量調整行動を指標とする評価, ヒューマンインタフ
ェース学会論文誌, pp.91-98, Vol.13, No.1, 2011.
7. 八木玲子, 中村明一, 仁科エミ, <江戸の音>の超知覚構造――尺八の響きを対象として,
民族藝術, vol.27, pp.110-115, 2011.
8. 森本雅子, 河合徳枝, グルジア伝統ポリフォニーの音律構造について, 民族藝術, vol.27,
pp.124-129, 2011.
(4-2) 知財出願
① 平成22年度特許出願件数(国内 3 件)
② CREST 研究期間累積件数(国内 8 件)
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