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若手国際研究拠点(International Center for Young Scientists)

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若手国際研究拠点(International Center for Young Scientists)
若手国際研究拠点(International Center for Young Scientists)
pp. 2-3 インタビュー
研究のポテンシャルの維持に宮沢賢治の世界が 西澤潤一
幼児期からの外国語教育と国際化とは結びつかない pp. 4-5 日本独自の成果を挙げることこそ真の国際化 外村 彰
若者には成功体験をもってほしい 栗原和枝
ICYSの人材育成と国際化は期待できる
●米国アルフレッド大学Cormack教授の視点
フィンランドORC-TUTの産学提携
pp. 6-7
NIMS新任研究員のICYS研修プログラム
国際性・自立性を磨くICYSのもう1 つの試み
メゾスコピック界の細工師たち ICYSリサーチフェローの研究成果 Bi(ビスマス)ナノラインの豊かな将来性 James H. G. Owen
メソポーラス窒化物の合成・構造の探求 Ajayan Vinu
p. 8
ICYS Workshop 2005 / ICYSカレンダー / ただいま国際化実験中! /
コーヒーブレイク
ICYS Workshop 2005
寝食を共にし真剣な討論、
新たな展望が開ける
3月2日(水)∼4日(金)、静岡県三島市の東レ総合研修セン
ターで「ICYS Workshop 2005」を開催した。ICYSリサーチ
フェローの成果報告が主な目的で、2泊3日の期間中、すべ
てのリサーチフェローとNIMSの新任研究員が参加した。成
果の発表と討論を通じて、互いに刺激しあいながら新しい研
究の展望を見出すことができた。
またNIMS内外の第一線で活躍する4人の先生を招き、講
演をお願いするとともに討論に参加していただいたことで、
ワークショップはさらに有意義なものになった。
計54件の研究発表があり、十分な討論も交わされて、所
期の目的は達せられた。忌憚のない意見交換や懇親会などを
通じ、リサーチフェロー間の結びつきも強まった。年に1度
の恒例行事として来年以降も開催の予定である。招待講演者
とその講演題目は次の通り。
青野正和教授(大阪大学、NIMSフェロー) Field and
Current Induced Chemical Reactions on the Nanoscale
●香川 豊教授
(東京大学生産技術研究所) Tough Surface
Composite Layer for the Protection of Highly Brittle
Structural Materials
● 前川 透教授
(東洋大学バイオ・ナノエレクトロニクスセ
ンター) Self-organisation in Nano/Micro Systems
●高柳邦夫教授
(東京工業大学) TEM-SPM for Materials
Science: Towards 4D Analysis at Very High-resolution
ICYSカレンダー
ただいま国際化実験中!
2005年
1・25 文部科学省科学技術・学術政策局主催の戦略的研究拠
点育成プログラムにおける意見交換会に岸理事長およ
び各拠点運営責任者が出席。NIMS全体としての長期
的展望や拠点育成過程での問題点などについて議論
日仏ワークショップ(ナノサイエンス・ナノテクノロ
2・25
ジー)フランス側代表団が ICYS を訪問
3・2-4 静 岡 県 三 島 市 の 東 レ 総 合 研 修 セ ン タ ー で I C Y S
Workshop 2005を開催
3・7-11 Prof. Catherine Brechignac(前・フランスCNRS所長)
ICYS訪問。ICYSセミナーで講演
´
第1回NIMS/ICYS-UPenn(ペンシルバニア大学)ワーク
4・18
ショップ開催。Klein教授引率。セミナーや研究室訪問
-20
を通じてICYSリサーチフェロー、NIMS研究者と交流
4・28 Kroto教授(ICYSエグゼクティブアドバイザー)、3回目
の来訪。8名のICYSリサーチフェローと個別面談実施
ライブドアのパブリック・ジャーナリスト、中村厚一郎氏の「文化
論の話」の中に興味ある一節を見つけた。「同質性が高いコミュニティー
では、お互いが似通っているため、お互いの差異が気になり、人が成
功したときにねたみに走る割合が高くなる。一方、異質性の高いコ
ミュニティーでは、あまりにお互いがかけ離れているため、成功した
人を見ると尊敬し、自分もそうなりたいと努力しようと考える人の割
合が増える」という。ICYSはこれまでにない、まったく異質な集団か
もしれない。そのための苦労もあるが、異質性の高いコミュニティー
の良い面を、我々にもたらすと信じたい。 (サーヤ)
●
A 英語でしゃべらないと
で1年間やってみたら
BC
若手国際研究拠点の売り物の 1 つが英語の公用語化です。英語の
コミュニケーション能力があるスタッフをそろえ、事務手続きが直
接できるように書類を英語化し、情報は英語で流す、など初期の計
画は、発足から1 年半を過ぎてほとんど満たされてきました。今は
これで十分なのか検証する時期に入っています。結論には早いですが、
現状で思うことをあげてみます。
●日本語はどうなるのでしょうか?
初めのころは、業務時間中のスタッフ同士の会話も会議も全部英
語にすると考えていました。一部の会社や先進的な研究所はこの考
え方を取り入れているようです。ICYSでは、日本語ができない人も
公平に仕事ができる環境を作ること、が現在のコンセンサスとなっ
ています。
●ICYSの外国人研究者は日本語が不必要なのでしょうか?
日本に住む以上、日本語なしではかなり不自由です。切実なとこ
ろでは、最寄りの銀行のATMで英語が使えないことがあります。運
転免許試験場でも場合によって困難があるようです。これらは日本
で生活を始めるために必要な手続きなので、早く改善が望まれます。
一方、外国人研究者やその家族は日本語を勉強していますし、ICYS
もそのお手伝いをしています。
● 最終的には、言語の面で日本の国際化はどうなればよいのでしょ
うか?
英語が国際共通語であるとして、お手本になるのは国中でほとん
ど英語が通じる、オランダやスウェーデンなどです。世界とお付き
合いをするうえで政治、経済、研究、学問の分野で英語がほとんど
通じるようになれば、世界への貢献度を高め、日本の存在感を増す
ことにつながると思います。ICYS の活動は、その 1 歩です。 (MO)
若手国際研究拠点は、文部科学省科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラムの支援により運営されています。
melting pot No. 4 2005年6月1日発行
発行責任者:板東義雄
発行:若手国際研究拠点
(International Center for Young Scientists,ICYS)
〒305-0044 茨城県つくば市並木1-1
独立行政法人物質・材料研究機構内
029-860-4709
(代)http://www.nims.go.jp/icys/
編集協力:有限会社東京セルテックブリッジ 清水正秀、木幡 士、小林敏雄
デザイン:有限会社レゾナ 志摩祐子・西村絵美・富山剛仁
製版:株式会社メイテックス 印刷:ツルミ印刷株式会社
melting pot:さまざまな国籍・文化を背景にもつ若者たちが1つの空間に密に集うことで発
生する創造的摩擦熱、その灼熱の空間を材料創製に用いる坩堝(るつぼ)になぞらえた
C
掲載記事・図版の無断引用・掲載はご遠慮下さい。
トルスケール(原子1個分か2個分)しかない、
NIMS新任研究員のICYS研修プログラム
国際性・自立性を磨くICYSのもう1つの試み
直線状の構造です。
図示したナノ構造には、多様な応用が考え
られます。磁性体や、金属添加フラーレンの
ようなスピン活性分子を蒸着することで一連
のスピン活性材料が得られ、スピントロニク
NIMSのICYSプロジェクトは、国際的な
否めません。しかし現場で見る限り、その手
■融合研究や共同研究
スや量子コンピュータへの応用の可能性が生
研究活動や若手人材の育成の動きをより効果
ごたえは十分に感じ取れ、また明らかに効果
● ICYSセミナーや茶話会などを通じて、広
まれるものと考えられます。本技術の利点の
的に促進するシステムの構築を目指し、世界
も見て取れています。
範な分野の最先端の研究、現象について知る
1つは、均質性の高いテンプレートが得られ
にも先例のない活動を続けています。NIMS
2005年5月までに10名の新人を迎え、都
ことができ、研究に対する考え方も広がった
るところにあります。上記のようなナノ粒子
に新規採用された若手研究員が、最初の1年
合18名のNIMS研究員がICYSに在籍してい
●異分野間の融合研究や共同研究の機会をつ
は、テンプレート上で拘束され、直径の上限
間をICYSに所属し世界21ヵ国から採用され
ます。今後、同プログラムが新任研究員に違
かめた
が約1.4nmに抑えられます。テンプレート
たICYSリサーチフェロー*2と共に過ごし、
和感なく迎えられるようになり、定着し、
●他のメンバーの進捗状況を知ることができ、
上でのナノ細線の形成により、クロスバー
外国人研究者比率67%、英語を公用語とす
ICYSでの国際、融合、自立などのセンスが
よい意味で競争心を感じるなど、刺激が得ら
アーキテクチャー(クロスバー機能階層化)
る環境下で、国際性や自立性を磨いてもらう
NIMS本体の意識の改革にも確実に寄与して
れた
のような種々のナノエレクトロニクスアーキ
という研修プログラムもその 1 つです。
いくものと期待されます。
● ICYS関連の内外の研究者など、共同研究
テクチャーの基盤となる均一な1nm幅のナ
ICYSリサーチフェローのシステム(管理者
以下は、このICYS“卒業生”たちにアン
の相手が多く見つかった
ノ細線アレイを得ることもできます。
を置かず、自分自身の裁量により研究計画を
ケート形式で寄せてもらった率直な感想・意
■研究者間のネットワーク
立て、それを推進していく)を、NIMS新任
見です。
●交流の機会が多く持てたことで、積極的に
メソポーラス窒化物の合成・構造の探求
など広範な応用可能性を秘めています。
Ajayan Vinu, India
MCN-1は、多様なメソポーラス窒化炭素
インドのManonmanium Sundarnar大学で化学を専攻、2003年にアンナ大学から物理化学の博士号を取得。
2004年1月よりICYSリサーチフェロー。
の新たな生成法への可能性を開くものと考え
今後のプログラムの実施において留意する
私の目下の研究領域は、炭素、ホウ素、ガ
ション性、硬度などで他に類を見ない特性を
●海外の著名な研究者がICYSを訪れ、彼ら
べき以下のような意見も寄せられました。
リウム、アルミニウム、インジウムなどの窒
備えていることから、いっそう幅広い用途が
を身近に感じることができた
●日常的に研究を行っている千現地区と
化物の合成、特性解明および応用です。
見込める素材ですが、現在までその種の素材
*1 分子ふるい作用:細孔の口径を基に、分子を大き
さごとに分離する働き
*2 メソポーラス:口径が2∼50nmの細孔
(メソポア)
を持つ多孔性物質
ケーションの円滑化を図る毎日のコーヒーブ
● ICYSリサーチフェローと同室ラボで実験
ICYS本部(並木地区)が離れているため、
この種の材料は、分子ふるい作用 *1 をも
の報告はありません。
レイク(茶話会)
、海外からの著名な研究者
しており、自分が経験したのと同じ国際的な
実験の本格化と共に居室(ICYS内)に居る
つ斬新なメソポーラス *2 窒化物として高い
私は、エチレンジアミンと四塩化炭素との
環境で研究ができることに満足している
機会が減り、他のメンバーとの交流の時間を
関心を集めているものです。
単純な重合反応を使って、均一径の細孔が整
います。
■自立的研究能力
多く取れなかった。
メソポーラス炭素素材は周期性シリカ・
然と分布した構造のメソポーラス窒化炭素物
この 4月には当プログラムにより、2004
●自由裁量で使える研究費が支給されること
●日常会話・雑談をスムーズにできる英語力
テンプレートから作られ、ナノメートル・ス
質MCN-1を生成する一般的合成法を見出し
年度の 1年間をICYSで過ごした9人の研究員
で、自分のアイデアで自立的に研究を推進し
があればより一層交流が深められた。
ケールの細孔をもっていて、サイズ選択的な
ました。
がNIMS内の研究グループに配属されました。
ていくセンスが身に付いた
いし形状選択的な吸着媒体、触媒など幅広い
生成したMCN-1の秩序だった構造は、粉
このプログラムはまだ最初のサイクルを終
●グループ内の目標や方向性などに強く縛ら
用途が見込めることから、広く関心を集めて
末X線回折法(図1)と窒素ガス吸着法で確
えたばかりでもあり、研究員には戸惑いを憶
れることなく、自分の好きなことをやれたの
います。
認されました。
えたりや疑問を感じたりする人もいたことは
は良かった
金属窒化物(MN)は、構造上は炭素に近く、
MCN-1は、細孔同士が壁面内にできた超
1600℃まで化学的に不活性で、高耐熱性保
微細孔でつながっており(図2)、特有の表
護コーティング材料として極めて有望です。
面積と細孔容積、均一なメソポア径分布を示
特に2 次元細孔系をもつメソポーラス窒化炭
し、触媒の担持材、ガス貯蔵材料、潤滑剤、
素(MCN)は、半導性、インターカレー
バイオ分子吸着材、薬物送達システム用素材
研究員にも 1年間適用するという、特筆に値
■国際感覚
研究討論ができた
する研修プログラムです。
●研究においても、コミュニケーションにお
●興味のある分野で個人的にディスカッショ
ICYSでは、これら新任研究員に個室を与え、
いても英語力が向上した
ン、コラボレーションの相談ができた
自由裁量の研究費を配分するほか、研究支援
● 英語で行われた毎週のセミナーやワーク
●NIMS新任研究員同士、同期意識で結びつ
コーディネーターや特許作成スタッフによる
ショップは有意義だった
きが強まった
研究サポート、週1回のセミナー(ICYSの全
●今後積極的に国際学会で発表をしたい
若手研究員や招待研究者・客員アドバイザー
などのゲスト)の開催、研究者間のコミュニ
との個別ミーティング、懇親会などを行って
*1 NIMS新任研究員:任期付き、あるいはパーマネ
ントの正職員
*2 ICYSリサーチフェロー:1年更新の特別研究員(応
募資格は博士号取得後10年まで)
メゾスコピック界の細工師たち
ICYSリサーチフェローの研究成果
ています。
(a.u.)
強
度
MCN-1
SBA-15
0
2
4
6
角度 2θ
8
10
(度)
図 1 MCN-1およびSBA-15(=シリカテン
プレート)のX線回折曲線 メソポーラス窒化
炭素(MCN-1)の回折曲線(上)には 3 つの
ピークが見られる。これらは、円柱状細孔が 6
角形の配列をとるメソポーラス・シリカテンプ
レート(SBA-15)のX線回折曲線(下)と類
似している。
ナノテクノロジーが対象とするメゾスコピックな世界には思いがけない構造や性質が潜んで
いる。そうした秘密を解き明かし、応用に結びつけていくICYSリサーチフェローたちの成
果の一端を紹介する。
Bi(ビスマス)ナノラインの豊かな将来性
James H. G. Owen, UK
英オックスフォード大学で冶金材料科学科を卒業。オックスフォード大学より博士号を取得。
2004年11月よりICYSリサーチフェロー。
私の研究目標は、ナノテクノロジー分野に
ラインを 1 次元テンプレートに使い、金属
あります。特に、リソグラフィー技術では作
などの材料で導電性細線、磁性ナノ粒子や
製不可能な、1桁台のナノメートルの自己集
光学活性ナノ粒子、活性分子などを作る研
合した構成要素の活用が私の関心事です。
究に取り組んでいます。
ICYSでは、ナノスケールの自己集合 Bi ナノ
ここで「ナノライン」とは、幅がナノメー
6
No.4, Jun. 2005
Bi ナノラインSTM像 背景の暗部はアンモニ
アで終端処理したシリコン。灰色の線が、線幅
が約 1.5 nm の Bi ナノライン。最長500 nmに
も及ぶ構造で、真っ直ぐで欠陥もない。B i ナ
ノラインの 1 つを赤色のラインで示し、高さ約
0.5nm の銀ナノクラスター(約 20 個の原子に
対応)がよく見えるようにしてある。銀や白金
はビスマスとの間の親和性が小さく、連続細線
よりはクラスターになりやすい。
図 2 MCN-1の高分解能透過型電子顕微鏡像
MCN-1の細孔は、壁面の超微細孔を通じてつ
ながっている。
No.4, Jun. 2005
7
このコーナーでは、若手育成や新規テーマ発掘における内外の研究者・関係者の
若者には成功体験をもってほしい
フィンランドORC-TUTの産学提携
考え方、各研究機関・組織の取り組みを紹介する。
栗原和枝・東北大学多元物質科学研究所教授
人口500万人のフィンランドは、1980年代以降、IT
人材育成と国際化、そして女性研究
産業に力点を置いためざましい躍進で知られ、教育水準
の地位を維持したい。
者に向けて、理念的な話よりは、実践的・
の高さと国際化を誇る国でもある。そうしたフィンラン
米国に行ってアメリカの優れた人に指導を受け、良い成果を
具体的な話をしたいと思います。
ドで注目すべきは、産学官共同研究を活発に展開してい
挙げることが国際化ではありません。こんな“国際化”なら中
研究室では、毎日若い研究者や学生
るタンペレ市サイエンスパークにある T a m p e r e
私が日立製作所に入社した1965年当時、
国、インドなどのアジア諸国は実績もあり、日本はかなわない。
と過ごしています。研究室に入ってく
University of Technology(TUT)と姉妹関係にある研
企業の中で人を育てるのが普通でした。
米国ではできない日本独自の成果を挙げることこそ真の国際
る学生には、指導者としては全員に成
究ユニット、Optoelectronics Research Center(ORC)
博士号をもっている人なんか少なかった。
化です。日本からの発信基地を設けたいと思いますが、障害は
功してほしいわけです。
である
(http://www.oru.tut.fi)
。
高卒の人も入ってから自分たちで教育し
言葉です。英語国になれば解決する話かもしれませんが、それ
今の学生は、突き詰めて考えて行くという点でもの足りなさ
ORCの主たる研究領域は半導体と光電子及び光ファ
ようと……。
では日本語文化はなくなってしまいます。私は、ポスドクにも
がありますが、成長につれ変わっていくので、志が大事だと思
イバーの研究・開発である。EUはORCを2000∼04年
電子顕微鏡の世界は実験に継ぐ実験の
共同研究で来る教授にも、日本では日本語を話すよう特訓して
い「志があればだれでもいい研究者になれる…」と、学生にも
の Marie Curie Doctoral Training Centre(本誌2
伝統が、代々引き継がれてきました。し
もらっています。つくばで開かれる日本顕微鏡学会(6月開催)
つねづね話しております。
号5ページ)に指定している。現在55人の所員が在籍、
日本独自の成果を挙げることこそ真の国際化
外村 彰・日立製作所フェロー
*
かし最近は、企業が赤字になったり、大学には法人化があった
で、米国で活躍中の若手のZhu氏 に日本語で特別講演をして
若い人たちへの指導では、私自身の修行時代の体験を下敷き
半数を学生(学部学生と卒業生)が占める。学生と研究
りで、近視眼的になってきています。
もらうことにしました。
にしています。
者を督励し研究・技術開発に専念させ、新規企業を立ち
先週、全米物理学会(APS)に招待参加して、米国は科学
対米追従では100年経っても米国のものまねの域を出ません。
まず、学部(お茶の水女子大学)時代のクラシックな流儀の
上げようとしている。
の中心でもあることを改めて痛感しました。日本顕微鏡学会会
国際化、グローバリゼーションは、アメリカに同化することで
研究者教育。とにかく自分で手を動かして問題を見つけなさい
所員は、学部学生を含めてすべてに給与が支給される。
長の立場から、カーボンナノチューブの飯島澄男さんら世界レ
はなく、日本の特徴を生かして世界の発展に寄与することなの
ということでした。自分で課題を見出したときの目の前が開け
ORCは工業用分子線エピタキシー装置(MBE)を5 基
ベルの研究者の多い顕微鏡分野だけでも、なんとか世界の中心
です。
ていくようで感動した体験は、非常に有意義でした。
保有し、最新のクリーンルームも備えて、欧州の大学中
今の科研費制度は、画期的成果を産み育てるのに向いていま
もう 1つは、大学院の博士課程(東京大学)時代。40歳くら
最大のMBE研究ユニットになっている。研究予算は、
せん。
いでいらした指導者といっしょに、現代的な流儀での研究がで
年間 340∼100万ユーロ。うち70∼80%は、大学予算
私が今努力しているのは、ルールに例外を設け、優れた人が
き、新しい方法論を学べたことも貴重な体験でした。
以外からくる。ORCの研究開発成果を基に Coherent
存分に研究できる環境をつくり、良い成果を挙げたら思い切っ
そのように、2 つの流儀での修業ができたということは、と
Finland Ltd. など4 社が設立され、総収益推定約1600
た報酬を出せるようにしたいということです。
てもよかったと思っています。
∼2000万ユーロを稼ぎ出して、フィンランド新産業の
その一環で、理研フロンティアプロジェクトで米ミシガン大
そうした意味から、若い人たちにはなるべく成功体験をもっ
象徴となっている。04年 6月には日本企業と契約を結
ICYSの人材育成と国際化は期待できる
●米国アルフレッド大学Cormack教授の視点
ICYS客員アドバイザーの Alastair N. Cormack 米国
学の教授にチームリーダー就任をお願いし、家族ぐるみで来て
てほしいと思います。何かに取り組もうか、というときの意欲
んだ。ORCを中心にレーザ先端エリア構想が2005年末
アルフレッド大学教授に人材育成、国際化についてうか
もらっています。
という点ですごく大きな励みになりますから……。
までに完成する。
がった。
優れた成果を出すには研究員と接していてもらう必要がある
それと同時に、無手勝流ではいけないので、物事をきちんと
「
若手研究者が自らつくるマイルストーン(研究達成目
ため、ミシガン大学での講義(年に 3ヵ月)以外は理研にいて
究められるような基礎的な研究力を身に付け、課題をもって考
標)が重要です。一定の時期までに、何をどこまで目指
もらっています。他のプロジェクトチームとも共同研究し、大
えられるように育っていってくれればと思います。それは段階
すかを自ら計画し、その計画の達成にむけて努力するこ
きな影響を与えています。先例を作るつもりで理研には例外的
を追ってかもしれませんが……。
少ないように思えます。かなり同じようなことをしている人が
とは、若手研究者の育成において大変重要です。
措置をとってもらっています。
何より、研究は楽しくないといけないので、まず学生には研
多い。皆が同様なことをしている印象です。国際化を通じて多
米国では、教授が課題を選定し、若手研究者にマイル
電子の量子力学的な振る舞いにこだわり、企業の中で40年
究を楽しんでもらいたいと思います。
様性を国内で実現すると効果があるのではないでしょうか。今
ストーンを作らせますが、ICYSに見られるように、若
も同じことを続けられたのは、日立が技術者集団で、具体的な
研究室の学生のテーマは、バイオ関係から装置作りまで様々
は日本は研究費もそれなりにあるわけですから、多様化できる
手研究者が自ら持ち込んだ研究テーマについて、自らマ
利益に結びつかなくても面白いことは支援するという環境が
ですが、中途半端にならないように、また単なる組み合わせに
ときだと思います。
イルストーンを作り、評価を受けるシステムは、米国に
あったためだと思っています。社内・外に味方がいて、長期的
終わらないよう基礎が学べるよう気を付けています。
女性研究者として、とりたてて女性を意識してやってきたわ
もほとんど例のないユニークなシステムだと思います。
にものを見てくれ、グループで研究を推進できた、優れて日本
ある程度の基礎があり、また幅広い分野の経験を生かせば、
けではありません。ただ、現実には私たちの世代はかなりの女
国際化に“Globalization”という表現を充てる場合が
的な環境のお蔭でした。ぜひ、日本流を残してほしい。
かなり違う分野のことでもできるはずで、現実に卒業生もいろ
性研究者が普通の形で研究ができる初めての世代です。そう
ありますが、広く門戸を世界に開くという意味であれば、
でも、株主優先の米国で四半期ごとの業績に一喜一憂する姿
いろなところに行っています。
いった意味で、私たちは地ならし部隊です。女性研究者の人数
“Internationalization”がこれに当たります。これに
を笑えない状況に、日本もなりつつあります。日立基礎研を見
学生とは毎週 1 度ずつ、1 対 1で話し合うようにしています。
がふえた次の世代の人はもう少し普通にできたらいいのかもし
は『異なる文化、異なる価値観を認め、尊重しあう』と
に来た株主が、13 万坪もの広い所でのんびり基礎研究をやっ
それに当たって、ウイークリーレポートを書かせるようにして
れないと思います。
いう意味が含まれていると思います。おそらく、ICYS
ているのは株主への背信行為だと言ったことがありました。
います。形式は自由で「今週はうまくいかなかった」でもよい
しかし実際には女性研究者の環境はまだ大変なようです。育
が目指す国際化は、これでしょう。
基礎研究は外国の後追いでは駄目で、もぐって頭を出したと
としています。何かしらは書かなければならないと思うらしく、
児期の研究者を支援する制度などができ、サポートできれば解
そうであれば、互いの意思疎通を図るために、やはり
きは、絶対に米国の先を行っていないといけません。それは
結果的にコンスタントに指導していることになっています。
決する部分も多いと思います。
言語の違いによる壁をなくす努力は必要不可欠でしょう。
2 ∼3 年ではできない。10 年は必要です。
国際化の話をしましょう。私自身は外国の生活が多かったの
そんな環境で私がこれまでやってこれたのは、ひとつには、
米語(アメリカ人の母国語としての英語)ではなく、世
(とのむら・あきら 談)
で、むしろ外国とか国内とかの違いを考えたことはありません。
どこか呑気だったからでしょう。研究をやっていると何となく
界共通語としての英語を公用語とする試みが、まず取り
* Y. Zhu 氏 米国のブルックヘブン、バークレー、アルゴンヌ、イリノ
イ、オークリッジの5研究所で進められている新しい電子顕微鏡のチーム
プロジェクトで中心的役割を果たしている研究者。このプロジェクトは、
日本の電子顕微鏡研究とほぼ同水準になりつつある。
どこに行ってもサイエンスの研究室は同じといえば同じなんで
自分のデータが世界の研究の中に反映し、研究のキャッチボー
すよ……。
ルができ世界と相互作用しているのを感じる。そういうことを
日本では研究者人口の割合に比べて研究テーマの数が割りと
やりがいと思ってきました。 (くりはら・かずえ 談)
組むべき最初の課題だと思います」。
(2004年6月9日、ICYS会議室で)
4
No.4, Jun. 2005
No.4, Jun. 2005
5
研究のポテンシャルの維持に
宮沢賢治の世界が
幼児期からの外国語教育と国際化は結びつかない
西澤潤一
にしざわ・じゅんいち
首都大学東京学長
半導体レーザー、屈折率勾配光ファイバー、テラヘルツ通信など斬新なアイディアを次々と提案して、毎年ノーベル賞候補に挙げ
られる西澤潤一・首都大学東京学長に、ユニークな若手研究者育成観、国際化観を聞いた。
聞き手 木幡 士・撮影 横山晃治
仕事がこれだけ役に立ちましたよという
だけが中国語、あとの家族は全員日本語
作っておかないとやがて困ることになる。
ことを言えるようにしておかなきゃいか
で子供に話しかけていた。ところがその
数学者の藤原正彦さんが「…日本語が、
んのではないかという気持ちがありまし
子、3歳ぐらいになったら円形脱毛症
欠陥言語であるとか、国際性に欠けた言
た。
になった。カウンセラーが言うには「バ
語と考えるのはむろん誤りである」
(『父
これに関連して松江市(島根県)でサ
イリンガルのせい」だという。
の威厳 数学者の意地』)
とおっしゃる
イエンス・ハイスクールの講演をしたと
大脳神経回路が組み上がっていくと
ことに私もまったく同感ですね。
きに、高校生から「ノーベル賞をもらう
きに言語が媒体になるわけです。言葉を
―― 日本語だから論理的思考ができ
のが一番偉いんじゃないんですか」と聞
聞きながら神経回路網が形成されて行き、
ないとか論理的な文章が書けないなんて
かれました。そうした考えも成り立ちま
思考力、想像力ができてくるわけですが、
のは大うそで……。
すが、実際から言えば、ほかの人の役に
それが時々中国語が入ってきますから回
西澤 大うそですね。見ていますと、
立っている、あるいは「おかげさまで」
路が組めなくなっちゃうらしいんです。
しっかりした日本語をしゃべる子は英語
と言えるようなものを創るっていうこと
奥さんに中国語をやめてもらったら
で書かせてもうまいですよ。よく分かん
に、研究者の本分があるんじゃないかと
いっぺんで円形脱毛症が治ってしまった。
ない人がむやみやたらに「小さいときか
考えています。宮沢賢治の考え方ですね。
―― やはり中心となる言語はもって
ら外国語、外国語」と言いますからね。
―― 先ほどからの話をおうかがいす
ないといけないと……。
あれはもってのほか。
―― 西澤先生に若手研究者の育成の
たのですね。
かをみて、研究者、評価者の双方を選び
ると、先生は必ずしも、反国際化・反流
西澤 そうです。むやみに早い外国語
―― いろいろ示唆に富むお話をうか
話をお聞きする場合に最も示唆的なのは、
ですから私も、見ていてあげるべき若
直すことにすればいいだろうというのが、
動化というわけでもない。
教育は賛成致しかねる。科学者の中にも、
がえ、ありがとうございました。
西澤先生と諸先生方との関係であるよう
手研究者はちゃんと見ていてあげなきゃ
私が1
0数年来申してきたことです。
実際、先生が24∼25歳の時分、トラ
1に日本語、2に日本語、3、4がなく
先任地の岩手から東京に移られ、環境
に思えます。
いけないと思っています。
―― 先生は研究者人生の大半を東北
ンジスタの動作の解釈で国内の諸勢力か
て何とか、なんておっしゃる方がいるよ
も変わられましたが、ご活躍をお祈りい
先生が、抜山平一先生や渡辺寧先生な
―― 第2期科学技術基本計画5年間
大学に留まって研究を続けてこられた。
ら“袋だたき”に合っておられたときに、
うに、日本語でしっかりした思考回路を
たします。
どを擁して弱電王国の名をほしいままに
で24兆円。文科省などは第3期は第2
しかも研究のポテンシャルをいささかも
外国出張を奨められて3ヵ月ほど、欧米
していた東北大学工学部の電気工学科に
期をかなり上回る金額を、と言っていま
落とさずに粒よりの研究成果を数多く生
を視察して回られたということです。そ
進まれたのは敗戦の年
(1945年)
。そこ
す。全額出るかはともかく、途方もない
み続けられた。こうした生き方は、「流
の際の経験がその後の研究姿勢に大きな
での諸先生との関わりはどのようなもの
額のお金が科学技術の研究・開発に投下
動化論」
「国際化論」に対する1つの見
影響をもたらしたという話も聞きます。
だったのでしょうか?
されています。テーマにもよるでしょう
識を示しているような気がするのですが
外国を見ることにはそうした効用もある
西澤 父(西澤恭助、当時東北大学工
が、若手研究者は予算的には恵まれすぎ
……。
わけですね……。
学部化学工学科教授)が抜山先生に私の
ていて、買いたいものはたいてい買えて
西澤 それは、要するに結果良ければ
また、先生は逆境時代の体験をもとに
進路についてお伺いしたときに先生が薦
しまいます。これだと若手研究者はスポ
すべて良しだと思っています。こうでな
「世界を相手にする」と話されたようで
められたのが渡辺先生の研究室でした。
イルされるんじゃないかっていう危惧が
いといかんということをあまりにも軽率
すが、語られた文脈がまったく異なるこ
後からわかったのですが、抜山先生は
ありませんか? その点で、評価が重要
に言い過ぎますね。
とを承知の上で申し上げれば、これは「国
渡辺先生と犬猿の仲だったのですね。そ
になると思いますが……。
すべてフランクな気持ちで、あとから
際化」などということを言う以前にご自
分析してみる。「あちこち回ったほうが
身が国際化していったと見られないこと
いいんだ」なんて言う人がいますけど、
もありません。
れでも、私の話を聞かれた上で(真空管
全盛の時代にありながら)固体素子の分
事後評価で研究者、
評価者
双方の選別を
実際にいいんだという例がいくつあり、
西澤 これからは外国にモノを売って
論の勉強もされていた渡辺先生の研究室
西澤 本当にそうなんですね。私はか
回らなかったら駄目だという例がいくつ
いかなきゃ日本は生きていけないですか
を推薦されたわけです。
ねてから、事後評価をちゃんとやろうと
あるのかをちゃんと出すべきだろうと。
ら国際的にちゃんと評価してくれる機会
―― 私情を抜きにしたフェアな目で
いうことを主張してきました。実際に見
すぐに私なんぞは、回らなかった方の悪
を作らないと、日本の産業は成立しませ
のアドバイスですね。
てると、研究者はお金もらうまではせっ
いやつの中に入れられる。
んね。そういうことはもうはっきりして
先生はまた、八木秀次先生(八木・宇
せと書類を書きますが、もらっちゃうと
―― 実態を見て柔軟な議論を、とい
いるわけです。
田アンテナの発明者)と交叉する機会が
あまり身を入れて報告書を書かない。そ
うことですね。
―― 「国際化」という話題の中で必ず、
あったとうかがっておりますが……。
の手の報告書は腐りかけるぐらいたくさ
1ヵ所に留まって研究されてきて、ポ
西澤 はい、私が米国の学会発表に行っ
んあるんですが…。
テンシャルの高さを保ちえた秘訣は何
ている間に、八木先生が私を学士院賞候
―― そのようですね。
だったのでしょう?
補に推薦してくださっていたのです。
西澤 それを1度定年退官の教授にで
八木先生は渡辺先生の恩師ですが、私が
も見せて点数を付ける。何人かの目を通
東北大学に入ったときはもうおられず、
せばいろいろと分かりますから……。そ
会話を交わしたこともほとんどない方な
れを基に研究者の善し悪しを判定し、評
西澤 研究やったらちゃんと成果の見
京に住んでいるんです。男の子が生まれ、
のですが、私の仕事を見ていてくださっ
価者についても適正な評価をしてるか否
返りを出さなきゃいかん。自分がやった
バイリンガルで育てようとして、奥さん
野に踏み込もうと量子力学など新しい理
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No.4, Jun. 2005
研究にはちゃんとした成果の
見返りを
「子供時分から英語を」という議論が顔
を出しますが……。
むやみに早い外国語教育は
賛成しかねる
西澤 私の友人が中国人と結婚して東
東北大学付属電気通信研究所助教授時代、高純度のシリコンを分けてもらっていた
同大学付属選鉱製錬研究所(仙台市太白区長町、現・多元物質科学研究所)の近くで。
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