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平成27年度製造基盤技術実態等調査 (機能性素材市場

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平成27年度製造基盤技術実態等調査 (機能性素材市場
経済産業省
製造産業局化学課 御中
平成27年度製造基盤技術実態等調査
(機能性素材市場動向調査)
報告書
平成 28 年 3 月
受託者:みずほ情報総研株式会社
(共同研究者:株式会社みずほ銀行)
機能性素材動向調査
報告書
≪目 次≫
1 本調査の目的及び調査手法 .............................................................................................................. 2
2 機能性化学品市場の概要 .................................................................................................................. 3
3 有望市場の選定 .................................................................................................................................. 9
4 有望市場の競争環境 ........................................................................................................................ 16
5 我が国機能性化学産業の競争力強化に向けた支援策の検討 .................................................... 21
機能性素材動向調査
報告書
1
本調査の目的及び調査手法
日本における機能性化学品産業は、半導体プロセス材料やパッケージ材料等の電子材料や、
熱可塑性エンジニアリングプラスチックや高機能性フィルム等の機能性ポリマー事業が中心であり、
その規模も相応に大きいため、ともすれば、それ以外の事業について、グローバル市場規模や成
長事業としての可能性を見過ごす虞れが否定できない。
実際に、世界の機能性化学品市場を見ると、市場規模の上位 10 事業で全体の 5 割超を占めて
いるが、それらは建築化学品や産業用洗浄剤等であり、日本企業が得意とする電子材料や機能
性ポリマーは相対的に中位程度の市場規模となっている。これらの大型市場においては、欧米企
業のプレゼンスが高く、既にアジアや中国市場においても相応のシェアを有するに至っており、日
本企業の存在感が高いとは言い難い。
かかる状況下、国内の少子高齢化・人口減少に伴う国内市場縮退の一方で、アジア市場の更な
る成長や、それに伴う欧米企業やアジア企業の躍進等を踏まえると、我が国の伝統的輸出産業向
けを中心とする機能性素材企業のビジネスモデルの持続性や競争力の低下が懸念される。
上記を踏まえ、本調査では、機能性化学品市場において、市場規模が大きく、高い成長が見込
まれる市場(以下、「有望市場」という。)を日本企業が獲得し、今後の競争力の維持・強化に繋げ
ていくことを重要な課題と認識したうえで、当該有望市場に日本の「強み」の技術を適合させ、深耕
していくことが可能な市場を見極め、併せて必要となる政策的な方向性を検討している。就いては、
IHS(※)の定義及び分類に基づき、文献調査や中国及び日本において、事業者やユーザー等に
対するヒアリング調査を行い、有望市場を選定・調査し、当該市場の競争環境を把握・考察するこ
とに加えて、我が国機能性素材企業の競争力強化に向けた支援策を検討し、その結果を本報告
書として取りまとめている。
(※)IHS:エネルギー・化学、自動車、電機・電子等の各種産業情報のコンテンツサービスプロバイダー
-2-
機能性素材動向調査
報告書
2
機能性化学品市場の概要
2.1 機能性化学品の市場分類
本調査における機能性化学品は、IHS の定義に基づく 36 市場を対象としている(表 2-1)。
表 2-1 IHS による機能性化学品市場の分類
1 建築用化学品
2 産業用洗浄剤
3 界面活性剤
4 香料
5 水溶性樹脂
6 油田用化学品
7 エンプラコンパウンド
8 食品添加剤
9 半導体材料
10 樹脂添加剤
11 飼料添加剤
12 印刷インク
13 精製・石化用触媒
14 半導体実装材料
15 製紙用化学品
16 接着剤・封止剤
17 機能性フィルム
18 化粧用化学品
19 潤滑油添加剤
20 水処理用化学品
21 高機能耐腐食塗料
22 織物用化学品
23 機能性食品素材
24 排出制御用触媒
25 熱硬化粉体塗料
26 放射線硬化性塗料
27 バイオサイド
28 酸化防止剤
29 合成潤滑剤
30 難燃剤
31 高機能熱可塑性樹脂
32 ゴム用化学品
33 腐食防止剤
34 鉱山用化学品
35 画像用化学品(トナー原料)
36 同(サーマル印刷用化学品)
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部作成
対象となる 36 市場は、2 つの観点から、その市場規模が推計されている。一つは、化学品が有
する機能や物性の優位性の観点から推計したものであり、機能性由来(Functional Oriented)と位
置付けられ、一つの化学品が複数の市場や顧客を対象とするものである。もう一つは、市場や顧
客におい て機能性 化学品と して位置付 けられる 観点 からの推 計であり、市場 由来( Market
Oriented)として分類され、複数の化学品が一つの市場や顧客を対象としている(表 2-2)。
Functional Oriented 機能化学品と Market Oriented 機能化学品の関係は、表 2-3 に示す通りであ
るが、市場規模の推計が異なるアプローチであるために、一部重複する市場が存在している。
36 市場の金額規模は、5,400 億ドル程度(2014 年)と推定されており、最大の市場は建築用化学
品となっている(表 2-4)。なお、重複分を除けば、市場規模は 5,000 億ドル強と見られる。
36 市場のうち、上位 10 市場が占める割合は全体の 50%を超えており、日本企業が得意とする
電子材料等は中規模に留まっていることが見て取れる。なお、ユーザー別に見ると、日用品、飲食、
建設、電機・電子、自動車・輸送機器の 5 ユーザーでやはり 50%を超えており、欧米日の先進国市
場で市場の 50%超を占めている。その意味では機能性化学品市場は未だ先進国市場と先進国企
業が中心であると言える。
-3-
機能性素材動向調査
報告書
表 2-2 2 つの分類による特性
Functional-Oriented市場の特性
製品
Market-Oriented市場の特性
市場・顧客
製品・技術
市場・顧客
製品・技術
市場・顧客
通し番号と市場名
3
4
5
7
13
16
17
21
24
25
26
27
28
30
31
33
市場・顧客
製品・技術
概要
通し番号と市場名
界面活性剤
・界面に作用して性質を変化。乳化や分散、吸着や浸透など幅広い目的に使用
香料
・香気を有する化合物・混合物で、食品や化粧品・トイレタリー製品等に香気を与える
水溶性ポリマー
・水に溶ける巨大分子で分散・凝集・増粘・接着・造膜・湿潤・アルカリ溶解等の機能
エンプラコンパウンド・汎用樹脂にない強さや耐熱性を持ったエンプラに添加剤などを混ぜ合わせた複合物
精製・石化用触媒 ・自体は変化する事無く、化学反応の速度を増大させる機能を持つ
接着剤・封止剤
・接着やシーリングに使用
機能性フィルム
・エンジニアリングフィルムとハイパフォーマンスフィルムで構成
高機能耐腐食塗料 ・主に鉄鋼やコンクリート構造に塗装され厳しい使用環境においても保護
排出制御用触媒
・化学反応の速度を増大させる機能を持つ
熱硬化粉体塗料
・主に金属製品向けに塗布される、溶剤を使用しないコーティング材
放射線硬化性塗料 ・UV等で硬化する製品であり、様々なアプリケーションで採用
バイオサイド
・工業製品の微生物汚染を防ぐ、または微生物の成長を破壊する薬剤
酸化防止剤
・製造時の劣化を防ぎ生産効率向上、成形品の品質劣化を防ぎ製品価値を保持
難燃剤
・プラスチックやゴム、繊維、紙、木材などの素材を難燃化するための添加剤
高機能樹脂
・エンプラを上回る物性を持ち、複数の機能が要求されるアプリケーションに使用
腐食防止剤
・金属等のサビを防ぐ目的で利用
1
2
6
8
9
10
11
12
14
15
18
19
20
22
23
29
32
34
35
36
概要
建築用化学品
・建築現場作業の効率性向上や資材・構造物に機能を付加
産業用洗浄剤
・企業や公共施設、産業設備等の清掃・洗浄作業で使用
油田用化学品
・油田開発の掘削・セメンティング・石油生産等のプロセスで活用
食品添加剤
・食品の品質や安全性確保、味・香り・食感付与、カロリー調整等に活用
半導体材料
・半導体製造でシリコンウエハからウエハ処理の工程で使用
樹脂添加剤
・樹脂の耐熱性・可塑性改善や劣化抑制のため幅広く使用
飼料添加剤
・飼料の品質低下防止や栄養成分の補給・有効利用促進のために使用
印刷インク
・包装材料や出版物を印刷するために使用
半導体実装材料
・半導体製造でプリント基板向けやチップの実装工程で使用
製紙用化学品
・パルプ製造・製紙工程で洗浄・効率性向上・機能性付与等のために使用
化粧用化学品
・化粧品やトイレタリー製品に使用
潤滑油添加剤
・潤滑油の性能を高めるために使用(ベースオイルに混ぜ潤滑油を生産)
水処理用化学品
・一般・公共・産業用水の凝集・吸着・殺菌・分離を薬剤や樹脂・膜・装置で行う
織物用化学品
・繊維・織物製造工程において使用
機能性食品素材
・食品の付加価値を高める機能を持った素材
合成潤滑剤
・石油精製による化学品を原料とする潤滑油
ゴム用化学品
・ゴムの物性を改善したり、反応を促進したりするために使用
鉱山用化学品
・鉱石生産工程で使用
画像用化学品(トナー原料)・レーザー・LEDプリンターやコピー機で利用
同(サーマル印刷用)
・感熱紙に使われる薬品
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
表 2-3 2 つの分類の相互の関係
Functional Oriented
Specialty Chemicals
機能性ポリマー(エンプラコンパウンド+機
能性フィルム+高機能樹脂)
界面活性剤
香料
Feedstock
Market Oriented
Specialty Chemicals
16市場
特殊塗料(高機能耐腐食、熱硬化粉体、
放射線硬化性)
水溶性ポリマー
触媒(排出制御用、精製・石化用)
接着剤・封止剤
バイオサイド
酸化防止剤
難燃剤
腐食防止剤
Other Functional Products
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
-4-
全体の
1割程度が
重複と推定
(次頁参照)
20市場
建築用化学品
産業用洗浄剤
半導体材料・同実装材料
油田用化学品
食品添加剤
樹脂添加剤
飼料添加剤
印刷用インク
製紙用化学品
化粧用化学品
潤滑油添加剤
水処理用化学品
織物用化学品
機能性食品素材
合成潤滑剤
ゴム用化学品
鉱山用化学品
画像用化学品(トナー原料、サーマル印刷用)
Other Markets
機能性素材動向調査
報告書
表 2-4 36 市場の金額規模と重複市場の推計
(百万ドル)
産業用洗浄剤、油田用化学品、食品添 加剤、 化粧用 化学品、 水処理 用化学 品、潤 滑油添 加剤、 織物用 化学品
45,000
産業用洗浄剤、油田用化学品、食品添 加剤、 化粧用 化学品、 水処理 用化学 品、鉱 山用化 学品
40,000
35,000
産業用洗浄剤、油田用化学
品、飼料添加剤、製紙用化学
品、化粧用化学品、水処理用
化学品、織物用化学品、潤滑
油添加剤
30,000
25,000
化粧用化学品、食品添
加剤、潤滑油添加剤、
樹脂添加剤、印刷イン
ク、ゴム用化学品
産業用洗浄剤、潤
滑油添加剤、鉱山
用化学品、油田用
化学品、水処理用
化学品
産業用洗浄剤、
油田用化学品、
潤滑油添加剤、
水処理化学品、
鉱山用化学品
20,000
15,000
10,000
5,000
0
建
築
用
化
学
品
界 香 水 油 エ 食 半 樹
面 料 溶 田 ン 品 導 脂
プ
活
性 用 ラ 添 体 添
性
ポ 化 コ 加 材 加
剤
リ 学 ン 剤 料 剤
マ 品 パ
ー
ウ
ン
ド
産
業
用
洗
浄
剤
飼
料
添
加
剤
印
刷
イ
ン
ク
精
製
・
石
化
用
触
媒
半
導
体
実
装
材
料
製
紙
用
化
学
品
接
着
剤
・
封
止
剤
化
粧
用
化
学
品
機
能
性
フ
ィ
ル
ム
潤
滑
油
添
加
剤
水
処
理
用
化
学
品
高
機
能
耐
腐
食
塗
料
織
物
用
化
学
品
機
能
性
食
品
素
材
排
出
制
御
用
触
媒
放
射
線
硬
化
性
塗
料
熱
硬
化
粉
体
塗
料
酸
化
防
止
剤
バ
イ
オ
サ
イ
ド
上図青棒の合計=約5,000億米ドル
合 難 高 ゴ 腐 鉱 画
成 燃 機 ム 食 山 像
潤 剤 能 用 防 用 用
滑
樹 化 止 化 化
剤
脂 学 剤 学 学
品
品 品
(
ト
ナ
ー
原
料
)
画
像
用
化
学
品
(
サ
ー
マ
ル
印
刷
用
)
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
また、36 市場は複数のサブセグメントを有すると共に、対象となる市場も相互に関連しており、そ
れを図示したものが表 2-5 である。
いずれも一つの製品で市場を形成しているのではなく、複数の製品の集合体であることを示して
いる。
表 2-5 各市場のサブセグメント
腐食防止剤
オフセット・
リソグラフ印刷
凝集剤・凝固剤
エモリエント剤、皮膜
形成剤、保湿剤
清掃用
増粘
安定剤
厨房用
フレキソ印刷
水処理用
化学品
油田用化学品
殺菌剤
酸化、アンモ酸化、
オキシ塩素化
機能性薬品
精製・石化
用触媒
パルプ化
工程用薬品
製紙用
化学品
織物用
化学品
撥水撥油剤
経糸糊剤
香料
天然系
特殊脂肪酸
水酸化アルミニウム
塩素
建築用
熱硬化粉体塗料
エンプラ
コンパウンド
ナイロン
機能性
フィルム
ホットメルト
難燃剤
潤滑油
添加剤
酸化防止剤
樹脂添加剤
ゴム用化学品
耐衝撃性
改良剤
潤滑油
シリコン
ウエハ
基板材料
熱安定剤
促進剤
プラスチック
用塗料
接着剤・
封止剤
厚膜ペースト
半導体
)
実装材料
めっき薬品
雰囲気ガス・
特殊ガス
フォトレジスト
半導体材料
封止剤
補助部材
CMPスラリー
レジスト
(注)丸の大きさは市場規模を反映。外側の丸が構成するサブセグメントを表す
(出所)みずほ銀行産業調査部推定
-5-
反応型
シリコーン
建築向け
放射線硬化性塗料
溶液型
半導体基板
老化防止剤
木工用
高分子分散体/
乳濁液
フッ素樹脂
エステル
洗浄剤
電気電子関連
高機能樹脂
ポリエステル
アミノ酸、ペプチド、
蛋白質
ビタミン
ステノール、
スタノール
ミネラル
カロテノイド
プロバイオティクス
印刷関連
電材
特殊ナイロン
硫化ポリフェ ニレン
ポリフェ ノール、
フラボノイド
酸化防止剤
ポリエステル
ポリカーボ
ネート
機能性食品素材
アミン
ヒンダード
フェ ノール
複数に
重複
難燃剤
ナイロン
ビタミン
炭水化物、繊維
半合成系
臭素
有機リン
分散剤
飼料添加剤
食品向け
水溶性
ポリマー
界面活性剤
バイオサイド
家電用
合成潤滑剤
リン酸塩
精油/
天然抽出物
窒素化合物
腐食防止剤
ポリアルファ オレフィン
アミノ酸
合成系
有機酸・有機酸塩
一般機械仕上げ用
自動車等
向け
高甘味度甘味料
合成
香料
アニオン
活性ハロゲン化合物
鉱山用化学品
排出制御触媒
化工でんぷん
ノニオン
粉砕助剤
凝集剤
捕収剤(浮選剤)
繊維用潤滑剤
酵素
食品添加剤
フレグラ
ンス用
接触分解
画像用化学品
(トナー原料)
カーペット用バッキング材
着色剤
フレーバー用
衣料用
画像用化学品
(サーマル印刷用
化学品)
不織布用バインダー
化粧用
化学品
加工食品・
農業用
水素化処理
工程薬品
界面活性剤
工業用
産業用洗浄剤
重合
日用品向け
輸送
機器用
イオン交換樹脂
グラビア印刷
印刷インキ
乳化剤
スケール防止剤
保護用塗料
重防食塗料
(陸上用途)
接着剤/
封止剤
船舶塗料
重防食塗料
(海上用途)
高機能耐腐食塗料
コンクリー
ト混和剤
建築用化学品
アスファ ルト
添加剤
機能性素材動向調査
報告書
2.2 機能性化学品の世界市場
世界の機能性化学品市場は 5,000 億ドルを超えているが、過去の推移を見ると、金融危機の影
響を受けた 2009 年に一時的にマイナス成長となっているが、トレンドとしては拡大基調にある。
その成長率は、世界の実質 GDP 成長率を上回っており、今後も年率 4%程度の成長が見込ま
れており、着実に拡大すると見られている。
なお、世界の化学品市場規模全体に占める機能性化学品の割合は 2014 年時点で 12%程度と
推計され、汎用化学品市場が原油価格の高騰で膨らんでいることや、新興国における機能性化学
品の普及が初期段階であることに鑑みれば、既に一定の存在感を示しており、今後はこの割合が
徐々に高まることが予想される。
表 2-6 世界の機能性化学品市場の推移
6,000
(億ドル)
20%
5,000
15%
4,000
10%
3,000
5%
2,000
0%
1,000
-5%
0
2007年
2009年
2011年
2013年
-10%
2015年~
2019年予測
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
表 2-7 化学品市場における機能性化学品の割合
世界の化学品市場
$4.2tr(2014年)
機能性化学品
12%
石化製品、無機物、工業ガス、肥料、染料・顔
料、農薬、塗料・インクなど(医薬品は除く)
(出所)CEFIC より みずほ銀行産業調査部推定
-6-
機能性素材動向調査
報告書
北米、西欧、中国、日本の主要 4 地域における機能性化学品市場の構成は、表 2-8 に示す通り、
各地域において特徴が見られる。北米は、産業用洗浄剤やエネルギー産業向けの油田用化学品
及び鉱山用化学品の市場が大きく、西欧は日用品や飲食向けの占めるウェイトが大きい。中国は
インフラ向けを中心とする建築用化学品が圧倒的に大きく、日本は電機・電子や自動車向けが大
きなウェイトを占める。
世界全体で見た機能性化学品の成長は実質 GDP 成長との相関性が高いものの、各国市場にブ
レイクダウンすれば、その成長率は、経済規模や経済発展段階或いは国民所得等のマクロ経済の
成長ステージや成熟度合いに加えて、産業集積や注力している産業に左右される。
日本の化学企業にとっては、機能性化学品においても、かつての汎用化学品と同様に、隣接す
る中国の市場成長は無視しえない。未だ中国の機能性化学品市場は建築用化学品を除けば、そ
の規模は大きくないものの、表 2-9 に示す通り、その成長率は極めて大きいと見込まれる。
中国のマクロ経済成長の鈍化は指摘されるものの、今後見込まれる製造業の高度化や第三次産
業の伸長に伴い、控えめに見積もっても、機能性化学品市場は年率 7%程度の伸びが予想され
る。
なお、今後、実行に移される第 13 次五ヵ年計画でも、国民所得倍増や産業高度化或いは生活
水準の普遍的向上を主要目標としており、経済成長の牽引役が、公共投資や輸出産業依存から
内需拡大にシフトすることに伴い、消費財市場の拡大と関連素材市場の伸長が見込まれる。また、
「中国製造 2025」における 10 大推進産業には、新素材が挙げられるほか、機能性素材産業の市
場となる産業が数多く含まれており、上記の予想を上回る伸びも期待される。
表 2-8 主要4地域における機能性化学品市場
北米
世界市場規模順($mn)
建築用化学品
産業用洗浄剤
界面活性剤
香料
水溶性樹脂
油田用化学品
エンプラコンパウンド
食品添加剤
半導体材料
樹脂添加剤
飼料添加剤
印刷インク
精製・石化用触媒
半導体実装材料
製紙用化学品
接着剤・封止剤
機能性フィルム
化粧用化学品
潤滑油添加剤
水処理用化学品
高機能耐腐食塗料
織物用化学品
機能性食品素材
排出制御用触媒
熱硬化粉体塗料
放射線硬化性塗料
バイオサイド
酸化防止剤
合成潤滑剤
難燃剤
高機能熱可塑性樹脂
ゴム用化学品
腐食防止剤
鉱山用化学品
画像用化学品(トナー原料)
同(サーマル印刷用化学品)
0
5,000
10,000
西欧
15,000
20,000
0
2,000
4,000
6,000
中国
8,000 10,000 0
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
-7-
5,000
10,000
日本
15,000
20,000 0
1,000
2,000
3,000
4,000
機能性素材動向調査
報告書
表 2-9 機能性化学品市場における中国の割合
5年間の市場成長率(上段:世界、下段:中国)
5年間の市場成長率(地域別寄与度)
(2019年予測÷2014年実績-100%)
40%
(2019年予測÷2014年実績-100%)
30%
40%
20%
35%
10%
30%
0%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
その他
欧米日
25%
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
建産界香水油エ 食半樹飼印精半製接機化潤水高織機排熱放バ 酸合難高ゴ 腐鉱画同
築業面料溶田ン 品導脂料刷製導紙着能粧滑処機物能出硬射イ 化成燃機ム 食山像(
用 用 活 性 用 プ 添 体 添 添 イ ・石 体 用 剤 性 用 油 理 能 用 性 制 化 線 オ 防 潤 剤 能 用 防 用 用 サ
ン
実 封フ 化添用耐化食御粉硬サ止滑 熱化止化化ー
化洗性 樹化ラ
マ
コ 加材加加 化 化・
剤剤 可学剤学学ル
学浄剤 脂学ン 剤料剤剤ク用装学止ィ 学加化腐学品用体化イ
ル
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ウ
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塗
(
媒
ト
ン
用
樹
料
料
ナ化
ド
脂
ー
原学
料品
) )
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
-8-
-10%
中国
建産界香水油エ 食半樹飼印精半製接機化潤水高織機排熱放バ 酸合難高ゴ 腐鉱画同
築業面料溶田ン 品導脂料刷製導紙着能粧滑処機物能出硬射イ 化成燃機ム 食山像(
用 用 活 性 用 プ 添 体 添 添 イ ・石 体 用 剤 性 用 油 理 能 用 性 制 化 線 オ 防 潤 剤 能 用 防 用 用 サ
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ル 品剤学食品素触塗性ド
品剤
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塑品 品品印
材品剤ム
触
ウ
性
品塗 材媒料塗
(ト 刷
媒料
ン
用
料
料
樹
ナ化
ド
脂
ー
原学
料品
) )
機能性素材動向調査
報告書
3
有望市場の選定
かかる機能性化学品市場の概観を踏まえ、本調査では、各市場を 8 つの観点から分析すること
によって、有望市場の抽出を行った。先ず、市場の特徴である、市場規模、成長性、収益性、参入
企業数、イノベーションの余地、の 5 つの観点で分析を行い、更に日本企業の「強み」が活かせる
か否か、という観点で、各市場における Key Success Factor、最終ユーザー及び日本市場の大きさ、
で考察を行っている。
3.1 成長性
36 市場の今後 5 年間の平均成長率は 3.6%程度と見込まれるが、平均市場規模を上回り、且つ
平均成長率を上回ると見込まれる市場は、電機・電子向け、自動車向け(機能性ポリマー、接着剤/
封止剤、特殊塗料、排出制御用触媒、樹脂添加剤、合成潤滑剤等)、消費財向け(機能性食品素
材、香料、化粧用化学品)及び建築用化学品が挙げられる(表 3-1)。
表 3-1 市場規模と成長性
今
後
五
年
間
の
成
長
率
平均市場規模
14,000$mn
7.0%
機能性食品素材
6.0%
高機能樹脂
放射線硬化
性塗料
5.0%
エンプラコンパウンド
排出制
御用触
化粧用化学品
腐食防止剤
半導体材料
合成潤滑剤
平均
成長率
3.6%
2014年の市場規模($mn)
4.0%
鉱山用
化学品
サーマ
ル印刷
用
難燃剤
2.0%
熱硬化
粉体塗
料
バイオ
サイド
産業用洗浄剤
樹脂添加剤
水処理用化学品
ゴム用
化学品
酸化防止剤
油田用化学品
←接着剤・封止剤
3.0%
建築用化学品
香料
機能性フィルム
織物用
水溶性ポリマー
界面活性剤
高機能耐
腐食塗料
高成長
↑
↓
低成長
精製・石化用触媒
半導体実装材料
飼料添加剤
食品添加剤
潤滑油添加剤
トナー原料
印刷インク
1.0%
製紙用化学品
0.0%
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
40,000
45,000
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
3.2 収益性
機能性化学品は成長性のみならず、その収益性の高さも特徴である。収益性を図る指標として、
各事業における主要企業のセグメント収益率を表 3-2 にまとめている。収益率は、対象事業を営む
複数企業の過去 5 年間の営業利益率を採用しているが、セグメントとして複数の機能性化学品事
業が含まれること、或いはサンプル企業数が 1 社のみの場合もあるというデータ上の制約があり、
-9-
機能性素材動向調査
報告書
事業によっては企業間の収益ボラティリティが高いため、平均値ではなく、中央値を採用している。
収益率の平均値は 11%と総じて高いことが確認でき、その約半分の市場が収益率 10%超となっ
ている。相対的に高収益の市場は、参入障壁の高い香料や化粧用化学品、参入企業が限られる
鉱山用・油田用化学品、そして食品産業向けの機能性食品素材・飼料添加剤・食品添加剤等であ
る。日本企業が注力している電子材料や自動車向け化学品は必ずしも高い収益率とは言えないこ
とが確認できる。
表 3-2 各市場における主要企業の利益率(中央値)
40%
利益率10%以上
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
織
物
用
化
学
品
化
粧
用
化
学
品
鉱
山
用
化
学
品
機
能
性
食
品
素
材
飼
料
添
加
剤
食
品
添
加
剤
油 香 半 樹 酸 難 建 腐 潤 エ 接
田 料 導 脂 化 燃 築 食 滑 ン 着
体 添 防 剤 用 防 油 プ
用
ラ 剤
実 加 止
化
化 止 添 コ ・封
装 剤 剤
学
学 剤 加 ン 止
材
品
品
剤 パ 剤
ウ
料
ン
ド
合
成
潤
滑
剤
産
業
用
洗
浄
剤
半
導
体
材
料
水
処
理
用
化
学
品
精
製
・
石
化
用
触
媒
界
面
活
性
剤
ゴ
ム
用
化
学
品
高
機
能
耐
腐
食
塗
料
製
紙
用
化
学
品
機
能
性
フ
ィ
ル
ム
排
出
制
御
用
触
媒
水
溶
性
ポ
リ
マ
ー
放
射
線
硬
化
性
塗
料
高
機
能
樹
脂
印
刷
イ
ン
ク
熱
硬
化
粉
体
塗
料
バ
イ
オ
サ
イ
ド
(出所)決算資料より みずほ銀行産業調査部作成
3.3 参入企業数
表 3-3 は、市場規模と参入企業数を示したものである。市場規模やサブセグメント数の違いがあ
るため、企業数の多寡を一律に論じることはできないものの、参入企業が多いことは過当競争であ
ることや汎用化が進展していることを示唆している可能性があると考えられる。
建築用化学品や産業用洗浄剤は市場規模に比して企業数が少なく、接着剤・封止剤、エンプラ
コンパウンド、飼料用添加剤や潤滑油添加剤は市場規模に比して企業数は多いと言える。
- 10 -
機能性素材動向調査
報告書
表 3-3 市場規模と参入企業数
(社)
2,500
200
難燃剤
180
160
2,000
接着剤・封止剤
エンプラコ
ンパウンド
500
40
酸化防止剤
ゴム用
化学品
製紙用
化学品
印刷インク
放射線硬化性塗料
半導体実装材料
油田用化学品
半導体材料
水処理用化学品
高機能樹脂
排出制御用触媒
サーマル印刷用
0
化粧用
化学品
精製・石化用触媒
20
0
機能性
フィルム
平均市場規模
14,000$mn
鉱山用
80 化学品
エンプラコンパウンド
60
トナー原料
飼料添加剤
織物用化学
高機能耐腐食塗料
水溶性ポ
リマー
100
潤滑油添加剤
産業用洗浄剤
腐食防止剤
140
120
各
市
場
の 1,500
参
入
企
業
数 1,000
(
社
)
機能性食品素材
熱硬化性粉黛塗料
5,000
食品添加剤
香料
界面活性剤
樹脂添加剤
( $mn)
バイオサイド
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
建築用化学品
産業用洗浄剤
0
0
5,000
10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
2014年の市場規模($mn)
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
3.4 イノベーションの余地
機能性化学品市場が高成長且つ高収益であり続けるためには、汎用化や価格競争に陥らない
ことが条件の一つであるが、それを回避する要素として、イノベーションの余地を考察することが必
要となる。
イノベーションの可能性を考察するうえでは、事業を取り巻く外部環境を PEST 分析(政策・経済・
社会・技術)することにより、その可能性を検証している(表 3-4)。
例えば、環境問題や安全性の課題が見込まれる場合は、各国が今後導入する規制等に対応す
るために、新たな製品や製造プロセスを開発する必要があるため、そこにイノベーションの余地が
あると考えられる(青字にて記載)。
また、ユーザーの視点から見れば、製品に未だ改善の余地が存在する場合は、技術開発や製
品開発或いはサービス提供等によって、イノベーションの余地があると考えられる。
- 11 -
40,000
45,000
機能性素材動向調査
報告書
表 3-4 PEST 分析によるイノベーションの余地
通し番号と市場名
ユーザーオリエンテッド市場におけるPES Tの変化
・耐久性や美観、構造物高耐久化、ミニマムライフサイクルコスト
・省エネ、メンテフリー、建設コスト削減、資源有効利用、作業性向上
・食品加工における衛生管理基準
・環境保護に関する法規制
・油価が需要増減に与える影響大
・健康への懸念から天然品ベースの需要
・R&Dテーマは健康、栄養、アレルギー等
・低コスト化、微細化、高容量化
・環境規制への対応
・安全安心志向から天然品の需要拡大
・環境規制
・印刷技術や情報伝達手段のディマテリアライゼー ションの影響大
・低コスト化、微細化、高容量化
・水質汚染やCO2等環境に関する規制
・電子化等でユーザー(製紙メーカー)苦戦
・天然由来素材に対する需要の高まり、消費者嗜好
・化粧品関連法規制
・環境や燃費規制(高性能の潤滑油需要高まり)
・農畜産・工場・下水の汚染対応、水不足・取水制限・廃水再利用
・都市化に伴うインフラ整備、工業化(高純度水)
・新興国需要の拡大
・健康意識の高まり(低カロリー、病気予防)
・抽出や濃縮技術の進化
・環境や燃費規制(自動車の燃費向上)
・新興国の人口増で需要増
・各国の資源規制等の影響
―
・環境や健康に対する規制、使用可能な 薬品の制限
・インクジェット等別の印刷用化学品技術の向上
1 建築用化学品
2 産業用洗浄剤
6 油田用化学品
8 食品添加剤
9 半導体材料
10 樹脂添加剤
11 飼料添加剤
12 印刷インク
14 半導体実装材料
15 製紙用化学品
18 化粧用化学品
19 潤滑油添加剤
20 水処理用化学品
22 織物用化学品
23 機能性食品素材
29
32
34
35
合成潤滑剤
ゴム用化学品
鉱山用化学品
トナー原料
36 サーマル印刷用
通し番号と市場名
機能オリエンテッド市場におけるPESTの変化
3 界面活性剤
・環境に配慮した製品開発や原材料調達(特に油脂の場
合)
4 香料
・健康志向・ナチュラル志向で天然抽出物需要拡大
・食品・化粧品成分規制
・抽出・濃縮技術、合成技術の高度化
5 水溶性ポリマー
・全体として見れば技術進化の余地は少ない
7 エンプラコンパウンド ・リサイクル可能、有害懸念のある素材の代替
13 精製・石化用触媒
・環境規制への対応
16 接着剤・封止剤
・環境や健康への配慮(低溶解性、ホルムアルデ ヒドの排
出規制等の環境規制)
17 機能性フィルム
・川下プレイヤーとの連携
21 高機能耐腐食塗料
・新造船の建造、新興国のインフラ投資
・環境規制の厳格化(水性塗料の需要増など)
24 排出制御用触媒
・環境規制
・原料(貴金属)の稀少性
25 熱硬化粉体塗料
・環境規制
26 放射線硬化性塗料
・環境規制
27 バイオサイド
・安全・衛生・環境問題
28 酸化防止剤
・加工温度が高まっても欠陥が生じないような付加価値の
高い製品ニーズが高まっている
30 難燃剤
・規制対応
31 高機能樹脂
・環境規制
・モビリティ軽量化や金属との置き換え
33 腐食防止剤
・シェールガス革命による米国原油・ ガス生産活動
・石油価格の変動
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
3.5 Key Success Factor
化学品における代表的な Key Success Factor のうち、原料・技術・製品・顧客の観点から、各市場
において重視されるポイントを整理している(表 3-5)。
資源をもたない日本企業の「強み」を活かすためには、対象とする市場の Key Success Factor が
原料ではなく、技術・製品・顧客であることが望ましいと考えられる。
表 3-5 各市場における Key Success Factor
通し番号と市場名
原料 技術 製品 顧客 他
1 建築用化学品
2 産業用洗浄剤
○
○
6 油田用化学品
○
○
8 食品添加剤
9 半導体材料
10 樹脂添加剤
15 製紙用化学品
○
○
○
○
○ ○
○
○ ○
○
○
14 半導体実装材料
○
○
○
11 飼料添加剤
12 印刷インク
○
○
○ ○
○
○ ○
○
○ ○
18 化粧用化学品
○
19 潤滑油添加剤
20 水処理用化学品
22 織物用化学品
○
23 機能性食品素材
○
○
○
29 合成潤滑剤
○
○
○
32 ゴム用化学品
36 サーマル印刷用
○
○
○
○
○
34 鉱山用化学品
35 トナー原料
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○ ○
○ ○
ユーザーオリエンテッド市場のKSF
・地域性や環境規制への対応力
・規制当局との関係構築
・規制対応
・カスタマーサポート
・メンテ対応(TSやアプリケーション導入に助言)
・環境規制対応
・顧客ニーズの理解や規制への対応
・QCD
・川下ユーザーとの関係構築
・原料コスト大きい
・顧客サービスによる差別化が重要
・プレミックスや製品ラインナップの拡充
・高品質かつ均一な製品供給
・原料の安定的確保
・ユーザーサポート(短期納品、アフターサビス)
・QCD
・グローバル展開体制
・グローバル供給体制
・製品のラインナップ
・品質への取組み(効能評価や安全性)
・トレンドや消費者ニーズの把握
・完成車メーカーや部品メーカーとの関係構築
・技術的なサポート
・顧客ニーズへの対応力
・技術(健康への効果、 トレンドの把握)
・製品(当局対応、ブランド力、味)
・卓越した製品開発力
・自動車メーカーとの連携
・コスト競争力(原料はコストの6-8割を占める)
・ソリューション力
・積極的な研究開発とサポート
・機器メーカーはプリンター事業との一体性と技術力
・独立系は技術力・価格・機器への適合
・コスト競争力
・顧客サポート
通し番号と市場名
原料 技術 製品 顧客 他
3 界面活性剤
○
4 香料
○
○
5 水溶性ポリマー
7 エンプラコンパウンド
○
・環境・人体への影響を意識した製品開発
○
○
・顧客に知見なく技サが必要(水処理分野等)
○
・レジンの内製によるコスト競争力の確保
・顧客志向を踏まえた製品開発
○
○
17 機能性フィルム
○
21 高機能耐腐食塗料
○
24 排出制御用触媒
○
25 熱硬化粉体塗料
○
○
26 放射線硬化性塗料
○
○
27 バイオサイド
○
○
○
・市場と法規制のトレンドの理解
・ソリューション提供力が重要
○
・顧客ニーズの把握
・事業の取捨選択
○
・原料ポジションの確保
・エンドユーザーとの連携による用途開発
○
・製品の技術力に加えてプレゼンスが重要
○
・原料(貴金属が触媒価格の約5割占める)
・川下OEMとの接点構築
・法規制のトレンドの理解
○ ・原料調達から生産までの低コスト体制
○
28 酸化防止剤
○
・ユーザーのラインに入り効率塗装をサポート
・新しいアプリケーションを発掘する能力
○
・多様化するニーズに合った製品
・コスト競争力
・ポートフォリオ拡充
・グローバルにシームレスな対応
○
30 難燃剤
○
○
31 高機能樹脂
○
○
- 12 -
○
○
○
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
・価格(製品差別化が図りづらい)と顧客連携
・環境規制対応
○
16 接着剤・封止剤
33 腐食防止剤
○
○
13 精製・石化用触媒
機能オリエンテッド市場のKSF
○
・価格競争力(原材料コストは6~8割)
○
○
・用途開発
・顧客へのソリューション提供
・価格競争力
・製品供給力
機能性素材動向調査
報告書
3.6 最終ユーザー
表 3-6 は、各市場の需要成長の鍵を握る最終ユーザーや最終市場を整理したものである。
日本における伝統的な輸出産業は既に顧客となっているためシナジーが発現できる余地はある
ものの、ここでは新たに日本企業が取り組むべき市場を選定するとの観点及び、比較的安定した
成長が期待されるとの観点から、現時点では日本企業が注力できていないと考えられる消費財、B
to C 向け、或いはインフラ向け市場を抽出している。
表 3-6 各市場における最終ユーザー・市場
1 建築用化学品
2 産業用洗浄剤
3 界面活性剤
4 香料
5 水溶性ポリマー
6 油田用化学品
7 エンプラコンパウンド
8 食品添加剤
9 半導体材料
10 樹脂添加剤
11 飼料添加剤
12 印刷インク
13 精製・石化用触媒
14 半導体実装材料
15 製紙用化学品
16 接着剤・封止剤
17 機能性フィルム
18 化粧用化学品
19 潤滑油添加剤
20 水処理用化学品
21 高機能耐腐食塗料
22 織物用化学品
23 機能性食品素材
24 排出制御用触媒
25 熱硬化粉体塗料
26 放射線硬化性塗料
27 バイオサイド
28 酸化防止剤
29 合成潤滑剤
30 難燃剤
31 高機能樹脂
32 ゴム用化学品
33 腐食防止剤
34 鉱山用化学品
35 トナー原料
36 サーマル印刷用
エンドユーザー(用途)
消費者、職人、建築会社
清掃及び厨房、食品加工・農業、輸送機器、クリーニング、産業機械・電子部品
パーソナルケアメーカー
食品メーカーや化粧品・トイレタリーメーカー
水処理や洗剤、紙、繊維、食品の原料や加工材料
石油メジャー等
輸送機器と電気機械
食品メーカー、加工業者
電気電子機器
自動車、エレクトロニクス、事務機器、包装、建設
飼料メーカー
パッケージ、出版
石油精製と石化
電気電子機器
パルプメーカー、製紙メーカー
産業用、建設用
電気電子
パーソナルケアメーカー
自動車関連
火力発電所ボイラー、かんがい、公共水道
コンテナや船舶、開発/精製/石化プラント、橋などインフラ
繊維・織物メーカー
流通事業者、医者、ユーザー
自動車
家具、家電、サッシ、自動車、オイル&ガス
電子材料、印刷、家具メーカー、自動車部品メーカー
プール・浴場、木材・食品・一般産業・塗料・接着剤
タイヤメーカー、化学メーカー
自動車関連
電気電子、建材、輸送用機器、衣服織物、紙パ、家具など
電気電子や自動車、航空宇宙、医療機器
タイヤ
石油・ガス生産、水処理、金属処理、潤滑油
鉱山会社
トナーメーカー
感熱紙メーカー
GDP
○
化学・エネルギー 建設 日用品
○
○
○
○
○
○
○
食品 電気電子 資源 製紙 繊維 輸送用機械
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
3.7 日本市場のプレゼンス
最後に、日本市場は、世界の機能性化学市場の約 1 割程度を占める大きな存在であり、ユーザ
ーが存在し、必要とされる産業集積がある市場を確認するために、市場規模と日本市場が占める
割合を確認している(表 3-7)。
画像用化学品や機能性フィルム、特殊塗料、印刷インク、電子材料等は日本企業が得意とする
こともあり、日本市場のシェアは高いものの、市場規模そのものが小さい。
一方、建築用化学品や産業用洗浄剤、界面活性剤、香料、油田用化学品(日本に市場なし)は、
世界市場規模が極めて大きいものの、日本市場のシェアが低い。
- 13 -
機能性素材動向調査
報告書
表 3-7 各市場における日本市場のシェア
2014年の市場規模($mn)
0
0%
5,000
鉱山用化学品
10,000
熱硬化
粉体塗
織物用
化学品
15,000
潤滑油
添加剤
腐食防止剤
5%
日
本
市 10%
場
が
世
界 15%
に
占
め
る 20%
シ
ェ
ア
25%
30%
20,000
25,000
精製・
石化用
触媒
飼料添加剤
高機能耐腐
食塗料
印刷インク
35,000
40,000
45,000
油田用化学品
産業用洗浄剤
樹脂添加剤
合成潤滑剤
酸化防止剤
接着剤・封止剤
バイオサイド
水溶性ポリマー
難燃剤
水処理 化粧用化学品
用化学
製紙用化学品
ゴム用化学品
品
排出制御
高機能樹脂
用触媒
半導体実装材料
機能性食品
素材
30,000
界面活性剤
香料
建築用化学品
エンプラコンパウンド
食品添加剤
市場は大きいが日本市
場のシェアは高くない
半導体材料
放射線硬化性塗料
画像用化学品
(サーマル印刷
機能性フィルム
画像用化学品(ト
ナー原料)
日本市場の
シェアは高い
が、市場そのも
のが小さい
35%
(出所)IHS より みずほ銀行産業調査部推定
3.8 有望市場の抽出
以上の 8 つの観点をまとめたものが表 3-8 である。
表 3-8 市場の有望度の判断項目
市場の特徴
日本の強み
を活かす
項目
詳細
①
市場規模
・各国・地域の内需ベース
の市場
○ 我が国として照準を定めるに値する大きさ(=上位18市場)
②
成長性
・2019年までの成長率
○ GDP成長率や全体成長率を上回る拡大余地
③
収益性
④
参入企業数
⑤
イノベーションの
余地
⑥
判断のポイント
‐国・地域毎の成長率の積み上げ
‐全体平均3.6%
・主要企業の利益率
‐セグメント開示がある企業、5年分
‐全体加重平均値は11%
・対象品の製造メーカー数
‐サブセグメント毎のすみ分けや
中国企業の数にも注意
⇔ △ 中小市場は、個別の特性に応じて攻める市場
⇔ △ GDP成長率や全体成長率を下回る成熟市場
○ 全体平均を上回る(=ビジネスモデル次第で高収益が期待)
⇔ △ 全体平均を下回る
○ 企業数が少ない、過当競争に陥っていない
⇔ △ 企業数が多く、中国勢も参入するなど過当競争に陥っている
・PEST分析(政策・経済・
社会・技術の外部環境)
○ 外部環境の変化によってイノベーションの余地がある
Key Success
Factor
・各種レポート
・主要企業ベンチマーク
○ 技術や製品、サービスが重要(=日本の健闘余地あり)
⑦
最終ユーザー
・サプライチェーン上の最終
ユーザーや関連の深い最
終市場
○ 消費財・B to C向けやインフラ向けの化学品
⑧
現在の日本の
プレゼンス
・日本市場のシェア
○ 全体平均を上回る(=日本にメーカーorユーザーが居る)
‐機能性化学品全体では日本市場
は世界市場の8%
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
- 14 -
⇔ △ イノベーションを惹起する変化の芽は現状見当たらない
⇔ △ 原料の競争力が重要(=日本の健闘余地は小さい)
⇔ △ 耐久財やB to B向けの化学品
⇔ △ 全体平均を下回る(=日本にメーカーorユーザーが居ない)
機能性素材動向調査
報告書
36 市場を 8 つの観点から評点化した結果、本調査では有望市場として、建築用化学品、産業用
洗浄剤、香料、食品添加剤/機能性食品素材、化粧用化学品を抽出している。
表 3-9 有望市場の抽出(まとめ)
建築用 産業用 界面活
香料
化学品 洗浄剤 性剤
①
市場規模
○
○
②
成長性
○
○
③
収益性
○
④
参入企業
数
⑤
イノベー
ションの
余地
○
⑥
KSF
○
○
⑦
最終ユー
ザー
○
○
⑧
日本のプ
レゼンス
合計
○
エンプ
水溶性
精製・ 半導体
接着
油田用 ラコン 食品添 半導体 樹脂添 飼料添 印刷イ
製紙用
機能性 化粧用
ポリ
石化用 実装材
剤・封
化学品 パウン 加剤 材料 加剤 加剤 ンク
化学品
フィルム化学品
マー
触媒 料
止剤
ド
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
5
2
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
4
○
○
○
○
○
3
5
6
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
5
○
○
○
○
6
○
○
○
○
○
○
○
○
6
○
○
○
4
4
3
3
○
○
6
2
○
○
3
4
5
水処理 高機能
機能性 排出制 熱硬化 放射線
サーマ
潤滑油
織物用
バイオ 酸化防 合成潤
高機能 ゴム用 腐食防 鉱山用 トナー
用化学 耐腐食
食品素 御用触 粉体塗 硬化性
ル印刷
難燃剤
添加剤
化学品
サイド 止剤 滑剤
樹脂 化学品 止剤 化学品 原料)
品
塗料
材
媒
料
塗料
用
①
市場規模
②
成長性
③
収益性
④
参入企業
数
⑤
イノベー
ションの
余地
⑥
KSF
⑦
最終ユー
ザー
⑧
日本のプ
レゼンス
合計
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
3
3
○
○
2
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
3
○
○
○
○
7
3
○
○
○
○
○
3
3
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
- 15 -
2
3
3
○
○
○
4
4
2
3
4
○
○
○
○
○
3
4
機能性素材動向調査
報告書
4
有望市場の競争環境
上記で抽出した有望市場について、日本企業の参入余地或いは事業拡大余地を考察するため
に、各市場の概要と競争環境を整理している。
4.1 建築用化学品(コンクリート混和剤)
中長期的には、中国や ASEAN における建築需要は今後も着実に成長することが見込まれるも
のの、直近は中国需要が減速しており、国内需要も少子高齢化に伴う縮退は免れない。
しかしながら、アジアにおいても、既存構造物の老朽化に伴う補修需要や耐震基準や建築基準
等の規制強化に伴う建築化学品の機能性向上ニーズ、人件費上昇に伴う建築コスト引き下げニー
ズや工期短縮ニーズ等が見込まれる。
コンクリート混和剤を中心とする建築化学品の競争環境は、地場企業が数多く参入しており、既
に汎用化されている製品も少なくないが、欧米企業は機能性化学品を中心に確固たる地位を築い
ており、アジア市場の成長を取り込んでいる。
後発となる日本企業にとって、アジアのインフラ需要は国内需要の縮退を補うものであり、上記の
通り、ニーズの高度化や変化に伴い、アジアにおいて日本企業が有する機能性化学品や高い技
術やサービスに対する需要が求められることも予想され、今後の事業拡大の可能性は存在してい
ると考えられる。
表 4-1 建築用化学品の概要及び競争環境
市場成長
・建築現場の作業性改善や構造物への機能付加に使用。コンクリート混和剤や塗料、接着剤などから成る
・混和剤は国内需要減少と中国需要の減速に直面。最大の成長が期待できる中国市場も、初期需要は一巡
・但し、構造物の老朽化対応、機能向上(高強度化)、建築コスト削減(コンクリートの施工性向上)、美観(ひ
び割れ防止)、環境負荷低減(セメント量抑制)、骨材事情悪化対応(高炉スラグ利用増)で拡大余地あり
競合企業
・大手は、BASF(旧Degussa)、Sika、GCP AT(旧W.R.Grace)の外資。BASFは殆どの国で展開
・日本は、花王、竹本油脂、デンカの中堅及び在日外資。地震や狭い国土の制約から先駆的な技術を有する
・中国メーカーも既に多数参入しており、一定品質はクリアし、価格勝負の面が強くなっている
売り手
(供給者)
・混和材メーカーは、原料を外部調達してフォーミュレートすることで製品を製造している
・その中でBASFは一貫メーカーの位置づけ。元々原料を製造しており買収により建築用化学品事業に延伸
・原料価格の変動の影響を受けやすい状況
買い手
(需要者)
・買い手は、一般消費者、個人事業者、建築会社、セメント・コンクリート生産者など非常に多岐にわたる
・原料価格高騰分の販売価格転嫁は難しい状況であるが、新設向けに比べて補修用市場は、納期や技術を
要することもありさほどコストにシビアではないという声もあり
・買い手側のノウハウに差があり、技術サービス(TS)の提供も必要とされている
新規参入
・汎用分野は参入障壁が低く、既に中国企業も多く展開
・今後増加が見込まれる補修用市場は、高い品質・技術力・サポート体制が求められるため、相対的に参入
障壁が高い
・国内は在日外資を含めた5-6社の体制が長く続いている状況
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
4.2 産業用洗浄剤
産業用洗浄剤は、一般清掃、厨房、医療、食品加工、衣料クリーニング或いは製造プロセス等の
幅広い用途を有している。
- 16 -
機能性素材動向調査
報告書
アジア市場は未だ小さい、もしくは汎用品が中心であるものの、今後の所得向上に伴い、環境や
衛生に対する意識の高まり、食品安全性ニーズの高まり、或いは産業集積の拡大による製造設備
の増加等が見込まれる。
その競争環境は、アジア市場においても米国企業 2 社が大きなプレゼンスを有しており、その他
企業は中小規模に留まり、日本企業の事業展開も差別化が有効なニッチ市場が対象となっている。
日本企業の産業用洗浄剤のビジネスモデルは、界面活性剤メーカーによる川下展開、石油精製
企業による副産物の活用或いは製薬企業による付帯サービス等に留まっており、「洗浄」をコア事
業とするモデルは存在していない。
上記の需要拡大が期待されることに加えて、アジアにおいても、VOC 規制(揮発性有機化合物
規制)や PRTR 制度(化学物質排出移動量届出制度)が強化される見込みであることから、それら
に対応する洗浄剤の開発が必要であることや、洗浄機器設備との連携或いはサービス提供力が
求められることから、「洗浄」をコアコンピタンスとする事業モデルの構築が可能と考えられる。
表 4-2 産業用洗浄剤の概要と競争環境
市場成長
・企業の工場・産業設備や公共施設等の清掃・洗浄作業で使用
・環境・衛生に対する消費者及び企業の意識が高まり、施設清掃などの需要が拡大
・食品の安全性に対する消費者意識の高まりから、食品用洗浄剤の需要が拡大
・各産業における工場増設等に対応した洗浄剤需要の拡大
競合企業
・世界では米国の2社、EcolabとSealed Air(Diversey)のシェアが突出している他は分散、企業数は多い
・日本は、界面活性剤メーカーの川下展開(花王やライオン等)、石油精製メーカーの副産物の活用(JX、出
光)、製薬企業による付帯サービス等の展開
・中国メーカーの数も多く、大手(Blue Star等)の中には技術力・サービス提供力を強化している企業もあり
売り手
(供給者)
・多くは、大手化学メーカーから原料を外部調達しており、売り手の交渉力は強い
・結果として原料価格変動の影響を受けやすい状況
・他方日本企業は、原料の有効活用の観点で参画している企業が多く、結果、一貫での展開となっている
買い手
(需要者)
・買い手は用途により多岐にわたる
・汎用製品では差別化が困難となり、洗浄機器設備メーカーとの連携やサービス提供による差別化が進む
・洗浄剤の価格選考度は高いが、設備やサービス提供には一定の対価が払われる
・一方、化学物質管理や環境等の規制強化への対応が求められる状況
新規参入
・製薬メーカー等の周辺業種から参入が見られる
・食品分野では規制対応が必要で参入障壁が高かったが近年参入は増加
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
4.3 香料
香料は、飲食向けのフレーバーと化粧品やトイレタリー向けのフレグランスに大別され、顧客は中
小ローカル企業から欧米多国籍メガ企業まで幅広く存在している。
アジア市場は、人口増加と所得向上に伴い、着実に需要が拡大することが見込まれ、且つ高い
成長率が期待される。
香料企業のコアコンピタンスは処方や調合技術であり、少量多品種且つオーダーメイドの対応が
求められるため、参入障壁は高い。香料企業の上位 10 社で世界市場の 8 割のシェアを占めており、
- 17 -
機能性素材動向調査
報告書
有力なユーザーと歴史的な取引関係を有する欧米専業企業の収益率は高く、ユーザーのアジア
進出に伴って、アジアにおける欧米香料企業のプレゼンスも高い。
買い手がメガ企業である場合に交渉力に懸念があるものの、優れた調合技術や一定の実績が求
められるため、ユーザーにとってのスイッチングコストが高く、コアサプライヤー制が導入されている
ことや、製品に占めるコストが小さいこと等から、一定のバーゲニングパワーを有することも可能と考
えられる。
日本企業にとって、ユーザーとの密接な連携を実現する技術力、少量多品種への対応力或いは
サービス提供力が発揮できる事業である一方で、ユーザーのグローバル展開への追随や天然原
料の安定確保或いは処方の囲い込み等、一定の企業規模や相応の資本力が必要となる。
表 4-3 香料の概要と競争環境
市場成長
・飲食料品向けのフレーバーと化粧品やトイレタリー向けのフレグランスに大別
・新興国の人口増加及び所得水準の向上に伴い、パーソナルケア製品需要が拡大
・天然志向・健康志向の高まりから、天然香料に対する需要が拡大
競合企業
・Givaudan(シェア19%)、Firmenich(13%)、IFF(12%)、Symrise(11%)の欧米専業メーカーで高収益
・次いで高砂香料(5%)、長谷川香料(2%)の日系。日系企業はフレグランスの比率が低く、相対的に低収益
・オーダーメード型市場で小規模でも存続が可能。上位10社で8割占めるも以下に小規模企業が多数存在
売り手
(供給者)
・合成香料は、DSMやBASF等の大手化学メーカーの交渉力が強い
・グループ内で原料製造を行う企業も存在
・天然原料の一部は大手の大量購入でタイトになることもある
買い手
(需要者)
・買い手は欧米多国籍メガ企業から中小ローカル企業まで幅広く存在する
・特にNestléやP&Gなど大手外資企業の交渉力は強い
・大手は、コアサプライヤー制を導入し1年に一回見直し。選定基準の例としては売上規模や希少製品有無
等がある
新規参入
・扱う原料数が多いことから参入障壁は高い。ユーザーから見ればスイッチングコストは高い
・フレーバーは、各国の食文化と密接な関係があり、模倣が難しい
・フレグランスでは、欧米企業が欧米ユーザーの化粧品コードを持っており競争力を有する
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
4.4 食品添加剤/機能性食品素材
食品添加剤は、増粘安定剤、甘味料、乳化剤、着色剤、防腐剤等であるが、人口増加や食品需
要増加に伴い、市場は拡大しているものの、添加物への規制強化、無添加物への志向の高まりや
低コストを武器とする中国企業の参入等により、撤退する大手企業も見られる。
一方、機能性食品素材は、先進国における健康志向の高まりから、特殊炭水化物や動脈硬化予
防の特殊脂肪酸等の需要が拡大している。但し、付加価値を与える機能の有効性を示す科学的
根拠が不可欠である。なお、ユーザーは食品加工企業に加えて、医薬品企業、栄養補助食品企
業或いは配合飼料企業と多岐に亘っている。
先進国における健康長寿ニーズの高まりと新興国における健康志向の高まりを背景に、機能性
食品素材は食品添加剤を上回る高成長が期待される。
- 18 -
機能性素材動向調査
報告書
その競争環境は、欧米日の大手ニュートリション企業がグローバル展開をしており、バルク製品で
は上位 5 社が世界シェア 50%を占めているが、ニッチ分野で存在感を示す企業も見られる。
食品や飼料に関する各種規制への対応や厳格な品質管理或いは新規素材のための研究開発
が必要であり、コスト競争力のみならず、高い技術力が求められる点では、日本企業のビジネスモ
デルとの親和性は高いと考えられる。
表 4-4 食品添加剤/機能性食品素材の概要と競争環境
市場成長
・食品添加剤は食品品質・安全性確保や味・香りを付与。機能性食品素材は栄養価等、価値を高める素材
・新興国の人口増加に伴う食品需要の拡大と共に市場も成長
・特に機能性食品素材は高齢化や健康志向の高まりから拡大、成長性は中国が最も高いが米州やその他新
興国も高い。天然素材を活用した製品の需要も拡大
競合企業
・大手は、 BASF(独)、DuPont(米、Danisco)、DSM(蘭) 等で食品添加剤も機能性食品素材も手掛ける
・食品添加剤のバルク品ではトップ5社(ADM、Cargill、BASF、DSM、DuPont)が世界シェア5割を有する
・日本は、食品添加剤が大手(三菱化学、旭化成)や中堅(理研ビタミン)、医薬(大日本住友、エーザイ)の展
開。機能性食品素材は味の素が存在感示す他、中堅中小(花王、協和発酵バイオ、理研ビタミン)の展開
売り手
(供給者)
・機能性食品素材の原料は、化学品(ビタミン・カロテノイド向け)や天然素材(プロテイン・繊維・カルシウム・
オメガ酸)など多岐にわたる中、化学品については原料~製品の一貫で生産しているケースが多い
買い手
(需要者)
・買い手は食品加工メーカーに加えて医薬品企業や栄養補助食品企業、配合飼料企業と多岐に渡る
・その中でグローバル食品加工メーカー、医薬品企業は大型化が進んでおり交渉力が強まっている状況
・食品添加剤は、汎用品は供給過剰で中国勢が多数参入し価格競争が厳しいが、規制対応や厳格な品質管
理が求められる機能性食品素材等では欧米日の競争力は高い
新規参入
・汎用品分野では中国プレーヤーが多数参入しており大手の中には撤退する企業もあるが、機能性素材分
野は相対的に参入障壁が高い
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
4.5 化粧用化学品
化粧用化学品は、保湿剤、界面活性剤、粉体原料、顔料等であり、約 1,000~1,500 種類の化学
物質が使用されている。
使用される化粧品の分類は、ヘアケア、スキンケア、メイクアップ、ボディケア、オーラルケア等の
各種製品であり、ユーザーはブランドを有する先進国企業が中心となっている。
アジアにおける人口増加、所得向上、或いは女性の社会進出の広がり等に鑑みれば、化粧品市
場の拡大は十二分に期待され、既に欧米化粧品企業はアジアにおいても大きなプレゼンスを示し
ている一方、ローカル企業も勃興期にある。
化粧用化学品企業の競争環境は、BASF や Dow Chemical 等の欧米メガ化学企業が参入してい
るほか、数多くの中堅中小企業も存在している。日本においては、中堅中小企業もしくはユーザー
による内製化が中心であり、欧米と異なり、大手化学企業の存在感は高くない。
欧米化学企業は原料からの一貫生産を手掛けるケースもあり、ブランドを有する欧米化粧品企業
と共に、グローバル展開を行っており、アジア市場におけるプレゼンスも高く、高い収益性を誇って
いる。
化粧用化学品は関連法規制の影響を受けやすいことや、消費者の嗜好に沿った製品開発を行
- 19 -
機能性素材動向調査
報告書
うため、ユーザーとの密接な連携や研究開発が必要であること、及び原料や技術も必要とされるこ
とから、日本の大手化学企業による参入は、その市場規模と成長性或いは収益性に鑑みれば、魅
力的な市場の一つと考えられる。
表 4-5 化粧用化学品の概要と競争環境
市場成長
・保湿剤や界面活性剤、粉体原料、顔料等から成り、ヘアケア、スキンケア、メイクアップ、トイレタリーに使用
・新興国の人口増加や所得向上、女性の社会進出に伴う化粧品の普及に伴って需要拡大が見込まれる
・近年は、天然素材由来やFree-From製品(ノンシリコン・防腐剤なし等)に対する需要の高まりがみられる
競合企業
・大手は、欧州のBASF(独)やEvonik(独)、Clariant(瑞)、Croda(英)などが展開。欧米化粧品メーカーのグ
ローバル展開と共に事業を拡大。近年はバイオ関連技術獲得の動きが積極的
・日本は、中堅中小企業もしくは化粧品メーカーによる内製が中心であり、大手化学企業の存在感は高くない
・製品群も幅広く、参入企業数は非常に多いが企業によって展開領域は異なる
売り手
(供給者)
・大手欧米化学メーカー(BASFやCroda、Clariantなど)は原料を内製化
買い手
(需要者)
・買い手はL’OrealやUnilever等のパーソナルケアメーカー。中国では現地化粧品メーカーの台頭もみられる
・コアサプライヤー制度をとっており年1回見直しをかけている
・化粧品中の原料比率は高くなく値下げ圧力は必ずしも強くないが、少量・オーダーメード対応が求められる
・関連法規制の影響を受けやすいことや消費者の嗜好に沿った製品開発が求められる
新規参入
・買い手との密接な連携や研究開発が必要であり一定の参入障壁あり。効能評価や安全性といった品質へ
の取り組みも求められる
・食品メーカー等異業種の参入が見られる
・過去には欧米化粧品原料メーカーは、欧米化粧品メーカーの原料事業を買収し事業拡大を図った例もあり
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
- 20 -
機能性素材動向調査
報告書
我が国機能性化学産業の競争力強化に向けた支援策の検討
5
以上の分析を踏まえて、日本企業の戦略の方向性と共に、政策当局に期待される支援策
について考察致したい。
5.1 我が国化学産業の戦略の方向性
日本の化学企業は、国内産業集積の厚みを活かした電機・電子産業及び自動車産業向けの素
材開発に強みを有しており、日本における機能性化学品は B to B 且つ伝統的な輸出産業向けが
中心となっている。
日本における少子高齢化や国内需要の縮退の一方、アジアにおける需要の拡大や更なる産業
集積の進展等は外部環境や競争環境に変化をもたらす可能性が高い。既に一部の伝統的輸出
産業は国際競争力を失いつつある。これらの環境変化に対応しつつ、持続的な成長と競争力を維
持するためには、以下の 3 つの戦略方向性が考えられる。
先ず、従来より強みを有する電子材料や自動車関連素材においては、日系ユーザーに加えて
アジア等の新興国でプレゼンスを高めている欧米及び地場ユーザーを着実に捕捉し、コアサプラ
イヤーとなることである(【新市場開拓】)。そのためには、欧米ユーザーへのスペックインのみなら
ず、新興国ユーザーを育成し共に成長していくという観点も必要となる。
次に、課題先進国である日本に立地する優位性を活用するために、現在は市場としての黎明期
であるものの、政策当局がコミットメントを強化している分野で産業クラスターを形成する取り組みで
あり、対象は予防・健康、防災、航空宇宙、再生可能エネルギー、農業等である(【新製品開発】)。
最後に、本調査の対象となる有望市場への取り組みである(【新市場開拓・新製品開発】)。本調
査で取り上げた有望市場は、国内市場が大きくなかった、担い手が化学企業ではなかった、或い
はユーザーとの関係が希薄であった等の要因から、その取り組みは劣後してきたと考えられる。し
かしながら、本調査で概観した通り、有望市場はアジアにおいて成長が期待され、欧米企業は高
収益を享受しており、日本企業にとっても親和性のある市場も少なくない。
表 5-1 我が国化学企業の戦略の方向性
市
場
海
外
海外ユーザーの獲得
アジアの有望市場に挑戦
機能性ポリマー、半導体材料、半導体実装材料
建築用化学品、産業用洗浄剤、香料、 食品添加剤、
化粧用化学品、機能性食品素材
⇒培った技術で新興国ユーザーを育成し共に成長
⇒海外ユーザーを新たに顧客としていく
国
内
強みを有する市場
新たな市場の創出
機能性ポリマー、半導体材料、半導体実装材料、
印刷インク、画像用化学品
先進医療・予防・健康、防災、防衛、重電・インフラ輸出、
航空宇宙、農業など
⇒国内のクラスターの強みを活かした事業展開
⇒日本の注力産業を選定しクラスター形成にトライ
既存
新規
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
- 21 -
製品
機能性素材動向調査
報告書
アジアにおける機能性化学品の有望市場を捕捉するためには、上記の 3 つの戦略の組み合わ
せが有効であると考えられる。つまり、日本企業が伝統的輸出産業向け機能性化学品事業で培っ
た技術力や顧客との連携は、既に海外ユーザーを主要顧客として確保しつつある状況に鑑みれ
ば、その潜在力は充分にあると考えられる。
そのためには、これまで注力してきた耐久財向け、B to B 向け素材開発に加えて、消費財向け、
B(to B)to C 向け素材開発に経営のリソースを振り向けることが必要となるが、対象となる市場は国
内に存在するが規模が小さい既存市場と、上記で述べた、課題先進国として成長が見込まれる、
もしくは創造することが求められる新規市場となる。
消費財向け、B(to B)to C 向けの既存市場に取り組む意義は、耐久財と異なり、景気変動の影
響が小さく、安定した収益と成長を享受できるからであるが、表 5-2 に示す通り、現在の欧米化学
企業との事業規模の格差は大きく、顧客企業と共に事業拡大してきた歴史を有する欧米化学企業
との差を一朝一夕に縮めることは容易ではない。そこで、取り得る戦略としては、国内市場でのプレ
ゼンスを高めたうえで、表 5-3 に示すアジア各国におけるユーザー企業へのアクセスによって、ユ
ーザー企業と共に成長する戦略に取り組むことである。欧米ユーザー企業に対しては技術やサー
ビスによる差別化でコアサプライヤーを目指し、新興ローカルユーザーとは二人三脚で共に発展
拡大する手法である。
新規市場については、政策当局のコミットメントを充分に踏まえたうえで、国内市場を新たに創
造し、海外に移植する手法である。いずれもこれまでの成功モデルの応用であり、決して不可能な
ことではない。
表 5-2 欧米日の化学企業の事業規模比較
建築用化学品
産業用洗浄剤
香料
6,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
4,000
3,000
2,000
1,000
0
Ecolab
BASF
デンカ
(Constructuion Chemical) (インフラ無機材料)
2014年度の売上高
(単位;100万ドル)
5,000
Givaudan
花王
(ケミカル)
化粧用化学品
高砂香料
機能性食品素材
6,000
7,000
5,000
6,000
5,000
4,000
4,000
3,000
3,000
2,000
2,000
1,000
1,000
0
0
BASF
(Care Chemical)
一丸ファルコス
DSM
(Nutrition)
味の素
(バイオファイン)
(出所)決算資料、SPEEDA より みずほ銀行産業調査部作成(各社のセグメントには当該製品以外も含む)
- 22 -
機能性素材動向調査
報告書
表 5-3 アジア各国における最終ユーザー
Soft Drinks
Packaged Food
China
Coca-Cola Co, The
Ting Hsin International Group Co Ltd
Hangzhou Wahaha Group Co Ltd
Yangshengtang Co Ltd
%
1
2
3
4
5
Indonesia
Danone, Groupe
Sinar Sosro PT
Coca-Cola Co, The
Otsuka Holdings Co Ltd
Asahi Indofood Beverage Makmur PT
%
20.4
14.3
12.3
5
4.1
Thailand
Coca-Cola Co, The
Thai Beverage PCL
TC Pharmaceutical Industry Co Ltd
Taisho Pharmaceutical Co Ltd
PepsiCo Inc
%
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Vietnam
PepsiCo Inc
Tan Hiep Phat Group
JG Summit Holdings Inc
Coca-Cola Co, The
Suntory Holdings Ltd
%
5
5
4
3
3
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Indonesia
Indofood Sukses Makmur Tbk PT
Nestlé SA
Danone, Groupe
Royal FrieslandCampina NV
Unilever Group
%
10.1
4.2
3.8
3.5
2.7
1
2
3
4
5
Indonesia
Unilever Group
Procter & Gamble Co, The
L'Oréal Groupe
Oriflame Cosmetics SA
Kino Sentra Industrindo PT
%
37.7
12.1
7.4
3.3
3.1
1
2
3
4
5
Thailand
Nestlé SA
Royal FrieslandCampina NV
Unilever Group
Ajinomoto Co Inc
Dutch Mill Co Ltd
%
27
10.3
8.8
8.4
8.2
1
2
3
4
5
Thailand
Unilever Group
Procter & Gamble Co, The
L'Oréal Groupe
Beiersdorf AG
Colgate-Palmolive Co
%
13.1
8.3
7.8
7
6.4
%
25.1
15.7
9
7.7
6.4
1
2
3
4
5
Vietnam
%
Vietnam Dairy Products JSC (Vinamilk)
16.8
1
Masan Group Corp
7.4
2
Royal FrieslandCampina NV
6.1
3
Ace Cook Co Ltd
4.1
4
Vocarimex - National Co for Vegetable Oils, Cosmetics
3.1
5&
1
2
3
4
5 Uni-President Enterprises Corp
14
13
6
6
5
1
2
3
4
5 Nestlé SA
Automotive
China
1
2
3
4
5
VW
GM
Hyundai
Toyota
Indonesia
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
Daihatsu
Toyota
Suzuki
Honda
Mitsubishi
Thailand
Toyota
Mitsubishi
Isuzu
ATT(Ford/Mazda)
Honda
Vietnam
1
2
3
4
5
Toyota
Kia
Ford
Thaco
Mazda
5.9
4
3.7
3.5
3.4
China
Procter & Gamble Co, The
L'Oréal Groupe
Unilever Group
Shiseido Co Ltd
%
%
38.7
16.1
13.2
12.3
4.8
%
38.9
17.2
12.5
9.2
7.6
%
30.8
16.8
10.5
7.7
7.1
China
Xiaomi Inc
Lenovo Group Ltd
Samsung Corp
Huawei Technologies Co Ltd
14
9
4
4
3
Vietnam
Unilever Group
Procter & Gamble Co, The
Colgate-Palmolive Co
Johnson & Johnson Inc
Aromas
LG Household
of Vietnam
& Health Care Ltd
%
27.1
12
7.8
4.2
4.2
Contractor
Yulong Computer Communication Tech
%
20.4
8.5
6.4
5.3
5.2
1
2
3
4
5
Indonesia
Samsung Corp
Microsoft Corp
Metrotech Jaya Komunika Indonesia
Aries Indo Global PT
Smartfren Telecom Tbk PT
%
20.4
8.5
6.4
5.3
5.2
1
2
3
4
5
Thailand
Samsung Corp
Samart Corp Plc
Apple Inc
Microsoft Corp
Acer Inc
%
25.2
16.1
10.4
6.5
4.9
1
2
3
4
5
Vietnam
Samsung Corp
Microsoft Corp
Apple Inc
AsusTek Computer Inc
LG Corp
%
25.5
25.4
8.4
5.6
4.4
1
2
3
4
5
%
Mary Kay Inc
Consumer Electronics
14
9
6
5
5
Changan
Beauty & Personal Care
China
Inter Mongolia Yili Industrial Group
China Mengniu Dairy Co Ltd
Wilmar International Ltd
Ting Hsin International Group
China
$bn
1 China Railway Group Ltd
113
China State Construction
Engineering Corp Ltd
111
2
3 China Railway Construction Corp.Ltd
97
China Communications Construction
4
Company Ltd
60
5 VINCI
52
(出所)Euromonitor、各社公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
現在の機能性化学事業に対する取り組みを見ると、殆ど全ての化学企業が電機・電子産業と自
動車向けに注力しているほか、今後の有望市場として、環境、エネルギー、ヘルスケアが挙げられ
ており、対象となる各々のサブセグメントにも大きな差異はなく、同種・同質の事業戦略が国内機能
性化学事業の過当競争に繋がっていると考えられる。
日本企業が機能性化学事業においてグローバルに存在感をもつためには、本調査で取り上げ
た有望市場を含めて、幅広い事業領域を検討したうえで、世界が直面しているメガトレンドと自社
のコアコンピタンスを踏まえて、事業の選択と集中を行うことが求められる。各社の経営資源が有限
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機能性素材動向調査
報告書
である以上は、全ての企業が同種・同質の事業領域で成長と収益を享受することは現実的ではな
い。各社が独自の事業戦略を志向することにより、事業の取捨選択が行われ、経営資源の集中投
入によって、グローバルに存在感を示しうるクリティカルマスを特定の事業で達成することが可能に
なると考えられる。
国内ニッチ分野における生き残り策を否定する訳ではないが、国内需要の縮退による量の減少
は不可避であり、グローバル企業を顧客とするためには、グローバルベースでクオリティ、コスト、デ
リバリーを同時に実現することが求められ、持続的な発展のためには、設備投資や研究開発等の
継続が必要となるため、企業規模を拡大することも不可避である。
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機能性素材動向調査
報告書
5.2 我が国機能性化学企業の競争力強化に向けた支援策の検討
日本企業の機能性化学事業の競争力強化のためには、上記の通り、各社における自助努力が
不可欠である一方、民間企業では解決できない点については、政策当局による支援策が必要とな
る(表 5-4)。
表 5-4 アジアの有望市場の獲得に向けた支援策例
方向性づけ
成長領域の明確化 ・課題先進国として取り組む領域を示し、開発体制を構築
希少原料確保
効率的な製品開発
・民間企業による資源権益獲得を基本に国として折衝が必要な資源では官民で連携
・多様な現地ニーズを収集し製品開発に活かしていくための前提となるインフラの構築の
環境整備(Materials Informatics、Iot実装など)
製品の実装・デファ ・国内メーカーと海外ユーザーとの川上川下一体のコンソーシアム構築に向けた支援(補
クト化
助金、マネジメント人材育成)
戦略サポート
デジュール標準構
築
海外ユーザーへの
アクセス
事業基盤強化
・アジアの消費材市場に影響をもたらす食品安全規制や環境規制への関与
・Life-Cycle Assessmentなど日本企業の製品の競争力を評価する仕組みを推進(意識
を共有しやすい欧州と組んでアジア市場のデジュール標準を確立)
・有力海外ユーザーの国内誘致に向けた側面支援
・中国など国営企業へのアクセスが重要となる先への橋渡し
・企業・事業再編への税務上等の優遇措置
・現地活躍人材を育成するための教育制度面での支援
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
先ずは、課題先進国としての日本が新たに成長産業として育成し、産業集積に取り組むべき対
象の明確化と、それに対する政策支援を実行する旨の政府のコミットメントである。
米国における Material Genome Initiative の取り組みや新たなイノベーションに対して、政府自ら
が初期需要者となる事例に見られるように、大きな枠組みや方向性を示したうえで、民間企業をサ
ポートし、引き上げるための施策が必要となる。ドイツにおいては、民間産業クラスターの形成や産
官学連携の枠組みを中央政府及び州政府が支援する取り組みが実行されている。
次に、資源に乏しい日本にとって、希少な天然資源の確保に対する政府サポートは不可欠とな
る。有望市場に取り上げた一部の機能性素材においては、健康や安全志向の高まりによって天然
素材ニーズが強まり、その確保が困難となりつつある事例も出てきており、エネルギー安全保障の
観点のみならず、製造業の原料としての資源確保の支援策が継続的に望まれる。
更に、機能性素材を生み出すための産業インフラの整備に対する支援策も必要となる。産業イ
ンフラは 3 つの観点がある。一つは、進化するテクノロジーを活かす製品開発に関する支援策であ
る。Internet of Things、Big Data 及び人工知能の活用は素材産業においても顧客や市場のニーズ
を直接収集するうえで有効であり、日本の化学企業の技術と組み合わせることによって、新たな素
材を開発する Material Informatics 等の取り組みは民間企業の自助努力のみでは困難である。
- 25 -
機能性素材動向調査
報告書
次に、新たな素材を開発するうえで、その実装やデファクト化を目的として、産官学連携や民間
コンソーシアムの形成も産業インフラと位置付けられる。現在の日本におけるコンソーシアム支援は、
国籍、業種、企業規模の大小を問わないような自由度のあるものではなく、真に新素材開発とその
デファクト化を実現するような体制の整備が必要と考えられる。
また、産業インフラには、アジアにおける化学物質の規制ルール策定に対する積極的な関与や
今後重要となることが見込まれる Life Cycle Assessment 等の競争力を評価する仕組みをアジアの
政策当局と共同で構築することにより、アジアにおけるデジュール化とすることも考えられる。
最後に、互いに事業戦略やコア事業が異なる化学企業が、事業の選択と集中やコングロマリット
ディスカウント解消を企図して、事業分離や会社分割(Spin-Off)を積極的に活用することによって、
特定事業分野におけるグローバル No.1 の機能性化学企業を複数生み出すことを可能とならしめ
るような、企業や事業の再編における税務上の手当てが必要であると考えられる。
以
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上
二次利用未承諾リスト
平成27年度製造基盤技術実態等調査(機能
報告書の題名 性素材市場動向調査)報告書
頁
P5
P5
P6
P6
P7
P8
P9
P11
P14
図表番号
表2-4
表2-5
表2-6
表2-7
表2-8
表2-9
表3-1
表3-3
表3-7
委託事業名
平成27年度製造基盤技術実態等調査(機能
性素材市場動向調査)
受注事業者名
みずほ情報総研株式会社
タイトル
36市場の金額規模と重複市場の推計
各市場のサブセグメント
世界の機能性化学品市場の推移
化学品市場における機能性化学品の割合
主要4地域における機能性化学品市場
機能性化学品市場における中国の割合
市場規模と成長性
市場規模と参入企業数
各市場における日本市場のシェア
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