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Renewable Energy World Europe(その 2)
情 報 報 告 ウィーン 情報報告 Renewable Energy World Europe(その 2) 6 月 4 日~6 日にオーストリア・ウィーンで開催された再生可能エネルギーに関する会議 (Renewable Energy World Europe)について報告する。主催は PennWell 社(アメリカ)であ る。今回は、欧州の洋上風力分野で導入されているインセンティブスキームに関する講演 とドイツの地熱発電技術に関する講演を紹介する。 2.欧州の洋上風力の発展のためのインセンティブスキーム Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社(アメリカ) 2.1 はじめに 世界の洋上風力発電の設置容量の 93%を占める欧州は、この急速に成長している風力産 業界の揺るぎのないリーダーであり、このことは洋上風力を発展させるために、適切な経 済的インセンティブを関係企業に与える政策を欧州諸国が採った結果である。ここでは、 欧州で採用されている政策スキームをまとめ、それぞれの有利または不利な点、教訓、そ してそれらの成功および関連する努力とコストの評価に基づいて各スキームの順位付けと その方法を提供する。 2.2 洋上風力の支援スキーム 多様な可能性のある政策的選択肢が、より急速な洋上風力の商用化支援のためにある。 表 2-1 に示すように、支援スキームは内容(例:投資の支援または運転の支援)または需要を 促進するメカニズム(例:価格低下の奨励、洋上風力へのより大きな投資額または発電量の 奨励)の基準によって分類ができる。本節では、主要な 4 つのタイプの運転支援スキームに ついて説明し、欧州の経験に基づく有利な点、不利な点、そして教訓をまとめている。 表 2-1 洋上風力に対する支援スキーム 項 目 投資の支援スキーム (MW クラス) 運転の支援スキーム (MWh クラス) 価格先行型 メカニズム ・助成金 ・債務保証 ・低利子の設定 ・価格下落の促進 ・税額控除 ・買取り制度(固定型:FIT) ・買取り制度(プレミアム型:FIP) 品質基準型 メカニズム ・投資助成金の入札 ・グリーン電力証書 ・長期契約の入札 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 (1) 固定価格買取り制度 固定価格買取り制度(以下、FIT)は、欧州で最も好まれているインセンティブスキームで ― 40 ― 調査報告 ウィーン ある。FIT では、再生可能エネルギーによって生産された電力 1 キロワット時(kWh)あたり の価格を保証するものである。技術の違いによって異なる価格レベルを受け取ることが可 能である。FIT は典型的に優先的に処理が割当てられており、すなわち、発電事業者によっ て生産された電力はすべて自動的にグリッドに接続される権利が与えられる。その電力は、 現地のユーティリティ企業またはグリッド運営者によって購入され、通常の電力市場のル ールの下でそのような調達者によって管理されている。通常の市場メカニズムの下では、 そのような電力は、ゼロの価格で市場需給均衡システムに導入される。 FIT では、時々、差金決済取り引き(CfD)の形態を取ることも可能であり、それによって、 調整事業者は発電事業者(市場に電力を売る)にそのような市場価格と事前合意レベル(FIT に対応)との差額を支払うための会社を設立する。 【差金決済取引き】Contract for Differences 証拠金をベースとして現物株、指数、先物、通貨などを取引きすることができる投資商品。取引の 内容は、投資対象の現物の受け渡しを行わずに、その売買の結果として発生した差額だけをやり取りを する。 ①有利な点 表 2-2 に示すように、FIT には多くの有利な点があり、一般的に最も生産的な場所を好 み、予想外の影響を避け、実際に生産される電力に適用される。FIT は所有者に発電所の 運転を続けるために施設の長期間の運転と維持補修を行うよう促し、この分野に投資さ れた資産コストと 1kWh あたりのコストも低減するように働く。 FIT によって、再生可能エネルギーに対する増加分の価格は最終的に納税者ではなく、 負担の論理的な配分を保証しながら消費者によって支払われる。FIT では上昇する電力価 格に対する長期的なヘッジを一般の人々に提供することが可能である。プログラムが上 手く計画されて実施されるとき、FIT は再生可能エネルギーの容量を積み上げるための最 も安価で最も効果的な方法である。保証された買取り量と 1kWh あたりの固定された価 格の組合せは、投資家の将来の収入に対する確実性(運転リスクは負担するが、発電量と 価格のリスクは無い)と非常に安定したリターンを提供する。 ②不利な点 FIT では、買取り価格が魅力的なレベルに設定されるとき、過剰な投資を引き起こす可 能性がある。ときどき、FIT に対する適当な価格帯を決定することは困難である。 ③教訓 ・タリフは事前コストを広く十分な発電量に展開させることを可能にするために十分 な長さの期間保証されるべきである。 ・新規プロジェクトに提供されるタリフは、技術面での向上の促進と強化のために時 間とともに低減すべきである(price digression)。 ・市民が燃料価格上昇に伴う価格上昇を回避することの利益を維持するため、プロジ ェクトが FIT の適用期間中に市場価格へ切り替えすることを認めるべきではない。 ― 41 ― 調査報告 ウィーン ・プログラムは、市場の反応、より持続可能性を提供できるような価格低下プログラ ムの設計(きっかけ、キャップ、そして入札プロセス)に焦点をあてるべきである。 ・管理上の負担を考慮する必要がある。 ・FIT の価格はインフレーションに連動させるべきである。 表 2-2 FIT の特徴 有利な点 不利な点 教 ・実際の生産電力に適用 ・過剰な投資の可能性 ・タリフの長期保証 ・オーストリア ・所有者に長期的な ・適正なレベルの FIT ・タリフは時間とともに ・ブルガリア O&M を促す の決定が困難 ・資本金の低減 低減 ・市場価格への切り替え ・支払いは電気の消費者 (納税者ではない) ・電力コストの上昇に対 訓 導入国 ・キプロス ・フィンランド は無駄でありコストも ・フランス かかる ・ドイツ ・プログラムは市場の反 ・ギリシャ する長期のヘッジが 応と価格低下となる設 ・ハンガリー 可能 計に焦点をあてる ・アイルランド ・再生可能エネルギー容 量の上積みにとって ・管理上の負担の考慮 ・ラトビア ・インフレと関連性 ・リトアニア ・ルクセンブルグ 最も安くて効果的 ・オランダ ・長期供給契約のリスク ・ポルトガル 低減 ・スロベニア ・スペイン 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 (2) フィードイン・プレミアム制度 フィードイン・プレミアム制度(以下、FIP)では、再生可能エネルギーによって生産され た電力 1kWh あたりのプレミアム価格を保証するもので、市場の電力価格に一定額を上乗 せする方式である。FIP では、一旦グリッドに導入された電力に対して、市場価格に追加し て 1kWh あたりの保証された価格を資格のある発電事業者に提供する。異なる技術によっ て、差別化された支援を受けることが可能である。これは、その仕組みの総コストが一目 でわかるように、税額控除(タックスクレジット)かまたは特定の公共団体によって行われる 支払いの形式を取ることができる FIP では、再生可能エネルギーの生産者に対する追加の収益の流れを提供するが、それら の生産に関する完全な価格および量のリスクを生産者に負担させている。具体的な取り決 めは、調整事業者によって調整されない限り、再生可能エネルギーの生産者もまた、シス テムへのバランスコストのリスクを負担することになる。プレミアム価格が適正なレベル に設定されていれば、そのような仕組みは、通常、再生可能エネルギープロジェクトの経 済性を確保するのに十分である。プロジェクトが購入量と価格のリスクを取り除くために 購入者と長期間の電力購入契約(PPA)を締結しない限り、収益は FIT と比べて大きく変化し 易い。 ①有利な点 表 2-3 に示すように、FIP には FIT と同じような多くの有利な点がある。FIP は実際 ― 42 ― 調査報告 ウィーン に生産された電力に適用し、所有者に長期間の運転と維持補修を促すので、投資に拍車 がかかるほどの効果をもたらす。 さらに、FIP による支援メカニズムの総コストは極めて分かりやすい。再生可能エネル ギー量が電力市場に直接導入されるので、経済効果の恩恵を受けることが可能となる。 ②不利な点 FIT と同様に、もしプレミアム価格が非常に魅力的なレベルに設定されるならば、FIP でも過剰な投資を促す可能性がある。FIT と違って、収益は市場価格に大きく依存したま まなので、キャッシュフローはあまり安定していない。 FIT のような長期的な価格のヘッジもないが、生産者は高い基本料金からの利益とプレ ミアム価格もまた受け取ることになる。言い換えると、FIT と違って、この仕組みの総コ ストは電力価格に反比例して変化しないので、このことは、高い電気料金の期間に政治 的緊張を生み出すかもしれない。 ③教訓 ・タリフは事前コストを広く十分な発電量に展開させることを可能にするために十分 な長さの期間保証されるべきである。 ・新規プロジェクトに提供されるタリフは、技術面での向上の促進と強化のために時 間とともに低減すべきである(price digression)。 ・対策は総コストを抑えるために政策に組み込まれるべきである。 (特に、電気料金が高騰しているとき) 表 2-3 FIP の特徴 有利な点 ・実際の生産電力に 適用 ・所有者に長期的な O&M を促す ・投資に拍車をかける のに効果的 不利な点 教 ・過剰な投資の 可能性 ・キャッシュフロー は FIT より不安定 ・長期的な価格の ヘッジがない 訓 導入国 ・タリフの長期保証 ・ベルギー ・タリフは時間とともに ・エストニア 低減 ・総コストを抑えるため に対策は政策に組み 込む ・支援メカニズムの総コ ストが分かりやすい ・経済効果の恩恵を受け ることも可能 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 (3) グリーン電力証書 グリーン電力証書は、資格のある生産者が生産し他の者が購入する必要のある取引き可 能な証券である。政府は再生可能資源によって生産されるべき電力の最小割合を持たせる ために市場全体に義務を課している。当局が再生可能エネルギーの資格のある生産者のた めに証書を発行し、資格の無い生産量(または消費量)に比例して証書を購入する義務を他の 市場のプレーヤーに課している。 ― 43 ― 調査報告 ウィーン 証書は取り引きができるので、そしてこれら証書の販売によって、電力の販売に加えて 資格のある生産者に追加の収益の流れが提供される。クォータ制では、資格の無い供給者 が自身のクォータ(割当て量)を達成するために証書を購入する必要があるので、証書に対す る需要があることが保証されている。そのようなクォータは通常、時間に伴い増加し、異 なる技術によって、異なる枚数の証書を受け取ることが可能である。調整事業者は、(資格 のある生産能力と比較して)意図的に高いまたは低いクォータレベルを設定することによっ て、グリーン電力証書に対する下限価格または上限価格を課すことができるだけでなく、 資格の無い生産者または公共団体によって保証された購入価格によるコンプライアンス違 反に対して罰則を科すこともできる。 ①有利な点 この仕組みでは、将来のクォータレベルに関する十分な透明性と予測可能性があると き、通常は再生可能エネルギープロジェクトの経済性を保証するのに十分である。しか しながら、クォータは時間の経過にともない調整可能である。それによって、政策立案 者には、再生可能エネルギーにおける投資レベルを制御するためのより多くの直接的ツ ールがある。 グリーン電力証書プログラムは市場を基準にしており、“技術的中立性”に基づいて計 画されている。それは異なる再生可能エネルギー技術の間の競争をグリーン電力証書の 価格を通じて可能にし、理論的に、要求されるクォータを満たすために、最も安い技術 の利用につながるべきである。しかしながら、多くの国々で、洋上風力が初期の開発段 階でそれに対応して高コストであるという認識から、洋上風力に対して別のクォータを 明示する“洋上風力の分割(カーブアウト)”を持っている。 【カーブアウト】Carve-out 企業から戦略的に技術や事業を切り出し(Carve-out)、外部資本や経営資源を積極的に注入することで、 その成長を加速させ利益を上げることを可能にする手法のこと。 ②不利な点 表 2-4 に示すように、プロジェクトが購入量と価格(電力および証書)のリスクを取り除 くために、長期の電力購入契約を調達者と締結しない限り、グリーン電力証書制度では 大きな収益の不安定さを生じることになる。多くの投資家は、既存のユーティリティ企 業の目を引くような下限価格で長期の電力購入契約を要求することになるだろう。 グリーン電力証書制度では、投資家が大きな電力量リスクを負うことになり、それは プロジェクト間で対応することが難しく、これは投資を妨げるか、またはユーティリテ ィ企業にとって予想外の収益を生むかのどちらかである。プロジェクトが遅れるような とき、グリーン電力証書の価格は、クォータが満たされないので、高価になる可能性が ある。結果的に、新しく且つ実証されていない技術が市場に普及することは難しい。 ③教訓 ・義務付けられたクォータを達成できないことに対する罰則は、再生可能エネルギー ― 44 ― 調査報告 ウィーン および従来型エネルギーに対する価格間の違いよりも大きくすべきである。 ・グリーン電力証書に対する最低価格の設定は、投資の安全性を確保するために未成 熟な市場では必要である。 ・義務付けられたクォータは、サプライチェーンの投資を刺激するために、長期間一 定に設定するべきである。 ・一般的に、グリーン電力証書制度は、消費者にはより高いコスト、そして投資家に は混乱をもたらす可能性が高い。 表 2-4 グリーン電力証書の特徴 有利な点 ・市場基準で、技術的 に中立 ・異なる技術との競争 が可能 ・クォータは時間によ って調整可能である 不利な点 教 ・価格は非常に 不安定 ・投資家に対する大 きな発電量リスク 訓 ・適切な罰則 ・ノルウェー ・最低価格の設定 ・ポーランド ・クォータは長期間 ・ルーマニア 一定に設定すべき ・消費者に対する ・プロジェクトの 遅れと価格の上昇 ・新しく且つ実証さ れていない技術が 導入国 ・スウェーデン ・英国 より高いコスト、 ・投資家間に混乱をもた らす可能性が高い 市場に普及するこ とは困難 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 (4) 入札制度 長期契約の入札には、最低価格に対してある一定量の再生可能エネルギーの販売が含ま れている。調整事業者は、与えられた発電量のために、FIT または FIP の形態で事前に設 定した期間に対する保証価格を提示し、そして、その量に対する最低価格への入札への参 加を資格のある生産者に要請する。 ①有利な点 表 2-5 に示すように、入札スキームによって、再生可能エネルギーへの投資額と将来の 発電量に関する透明性そして調整事業者に対してのコストの透明性がある。より安いコ ストの選択肢の開発を確保するための入札参加者間の競争がある。 ②不利な点 競争のレベルによって、価格は調整事業者の期待に沿うかどうか分からない。一旦、 その制度が1人の投資家または投資家グループに割当てられると、投資家は予定の変更 や状況に合わせることができるので、政府は投資が実際に行われるという確信を持って いない。 ③教訓 ・契約された入札へのコンプライアンス違反に対する罰則は、最終的に実現不可能な 低価格入札を回避するために実行されるべきである。 ― 45 ― 調査報告 ウィーン ・各入札において割り当てられた調整量を持つことは重要である。入札が行われた総 容量が非常に大きければ、競争は限定され、そして高い価格となる。逆に、総容量 が少なければ、多くの投資家から不満がでるだろう。 表 2-5 入札制度の特徴 有利な点 不利な点 ・投資額と将来の発電 ・価格調整の欠如 量に関する透明性 ・投資の確実さの 教 ・英国 ・オランダ ・フランス ・イタリア ・デンマーク ・ポルトガル ・アイルランド に対する罰則 ・調整量 ・時期によるコスト するコストが明らか 導入国 ・コンプライアンス違反 欠如 ・レギュレーターに対 訓 ・価格適正化メカニズム の不安性さ ・低コストを確保する ための競争 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 2.3 欧州で現在使用される支援スキーム FIT は欧州において最も重要な洋上風力に対する支援政策であり、例外である英国ではグ リーン電力証書が採用されている(表 2-6 参照)。 表 2-6 欧州における洋上風力に対する支援スキーム 国 税額控除 ○ 洋上に対するプレミアム価格付きグリーン電力証書 ○ ○ ○2) ○ ○ ○3) 助成金 ○ 炭素税 公共金融機関 国 ○1) 英 ○ オランダ 固定価格買取り制度(FIT) ドイツ 策 デンマーク ベルギー 政 名 ○ ○ ○ 4) ○ ○ ○ ○ 注記 1):FIT レベルは競争入札により設定され、現在 1MWh あたり 500~600DKK(約 13 ドル)程度 注記 2):発電事業者は FIT および市場価格のより高い方を支払う 注記 3):洋上風力発電事業者は 1MWh あたり 2 つの再生可能エネルギー使用証書(ROC)を受療し、1 つの ROC あたり 47 ポンド(約 70 ドル)の価格で取り引きされてきた。2015 年の建設分には 1MWh あたり 1.9ROC に、2016 年の建設分には 1.8ROC にそれぞれ減少する。2027 年 4 月 1 日から 2037 年まで、政府は“固定 ROC”システムに移行する予定。 注記 4):欧州投資銀行(EIB)もまた、資本市場で資金を調達し、再生可能エネルギー事業開発者に有 利な条件で直接または商業銀行を経由して貸付けをしている。 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 英国の例外はあるが、FIT は欧州を再生可能エネルギー設置容量のリーダーにした、欧州 ― 46 ― 調査報告 ウィーン の再生可能エネルギーで最もよく採用されている支援スキームである。支援スキームの無 理の無い段階的廃止を確保しながら、FIT の適用年数を限定してきたことによって、ほとん どの国で FIT は“高度なタリフ制度”へと進化してきた。投資家に対する安全を提供する ために、この支援スキームは通常 10 年から 15 年の適用期間を持っている。また、いくつ かの国では、FIT はまた、全負荷の時間のみに限定されている。複数の再生可能エネルギー 資源間の価格の差別化も、多くの国で行われている。 欧州では非常に少数の国が、FIP を採用しており、ベルギーは主要国の 1 つである。大 規模な電力多消費型産業界が、電気料金に課徴金を課すような制度に対して積極的にロビ ー活動をするので、FIP の制度はロビー活動の影響を受けやすい。 グリーン電力証書制度は一般的に、より複雑で、あまり安定しておらず、そして投資に とってあまり有望でないと思われてきた。その制度を採用する国では、FIT を採用する国よ りも投資の遅れが見られた。さらに、グリーン電力証書制度が陸上風力のような成熟した 技術のために機能させることは可能であるが、複雑さと不安定さを増加させるような多く の継ぎはぎが無ければ、再生可能エネルギー資源の多様化は促進しない。 グリーン電力証書のリスクとして、2 倍の価格リスク(電力市場およびグリーン電力証書 市場)のために、より高いように見られることである。これは、この制度を採用した国の貸 し付けが、FIT を採用した国の貸し付けよりも大きく削減された 2008 年の金融危機の頃の 状況が証明している。このような理由から、ベルギーではグリーン電力証書に対して最低 価格を設定(実体は FIP)しており、ポーランドでは前年の平均市場価格を課し、そしてルー マニアでは、上限価格と下限価格を設定してきた。また、リトアニアは 2020 年以降にグリ ーン電力証書制度の導入を表明している。 再生可能エネルギーの入札では、欧州諸国において、コンプライアンス違反への罰則、 入札プロセスにおける競争の欠如、長期プロジェクトの全工程期間、そして複雑な許可手 続き(これは入札プロセスから外される傾向にある)に起因するよくない実績がある。 表 2-7 に、欧州における洋上風力の設置済みまたは設置予定の容量を示す。 表 2-7 欧州の洋上風力発電容量 (2012 年末時点) 国 投資スキーム 運転スキーム 設置済み容量 (MW) 承認済み容量 (MW) 英国 税額控除 グリーン電力証書 2,948 1,840 デンマーク 税額控除 FIT(入札) 921 0 ベルギー 助成金 FIP 379 736 ドイツ - FIT 280 6,992 オランダ 税額控除 FIT(2007 まで) 入札 247 2,760 スウェーデン - グリーン電力証書 164 920 フィンランド - FIT 26 736 アイルランド - FIT 25 1,656 ポルトガル - FIT 2 0 イタリア 助成金 入札(下限価格設定) 0 736 フランス 加速度減価償却 入札 0 184 ― 47 ― 調査報告 ウィーン 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 【加速度減価償却】Accelerated Depreciation 投資減税の方法には、主に、投資金額のうち一定額を税額から控除する「投資税額控除」と、減価償却 のスピードを速める「加速度減価償却」がある。「投資税額控除」は、減税分だけ期待収益率を高めるこ とで設備投資を喚起しようというものである。これに対し「加速度減価償却」は、税法上の償却を前倒し にすることによって、税金の支払時期を先送りさせる効果をねらったものである 2.4 支援スキームの評価 各支援スキームを洋上風力発展への期待される成果によって決定するとして、次の 2 つ の条件を用いて評価した。 ①政策を実行するために必要な取り組みとコストの相対的な額 ②政策の相対的な有効性 (1) 取り組みの条件(コスト) ・納税者に対するコスト 連邦または州政府に対するより安いコストの政策を高く評価する ・公共料金納付者に対するコスト 公共料金納付者にかかる金銭的影響が小さくて限定的な政策を高く評価する ・管理上のコスト 実施当初の後、管理にかかる労力が小さいまたは無いような政策を高く評価する ・洋上風力市場の成長に伴う、コスト低減メカニズム 洋上風力市場が成長するとき、インセンティブコストを低減するためのメカニズムを 持つ政策を高く評価する (2) 結果の条件(効果) ・洋上風力発展への効果 洋上風力を推進するために様々な国で上手く採用されている政策を高く評価する ・民間資本の活用 より多くの民間資金の投資をもたらす場合、政策はより効果的 ・インセンティブの基本条件 設備容量(MW)の代わりに発電量(MWh)に基づく場合、インセンティブはより効果的 ・信頼性の高い収益源の提供 事業者に保証された収益源をもたらすような政策がより効果的であると評価 効果と取り組みの条件を、以下の支援スキームを評価するために使用した。 ①投資支援スキーム I1:開発事業者向け助成金 I2:低利子と債務保証 I3:加速度減価償却 I4:開発事業者向け投資税額控除 ― 48 ― 調査報告 ウィーン I5:投資助成金の入札 ②運転支援スキーム O1:FIT O2:FIP O3:グリーン電力証書 O4:グリーン電力証書(最低価格付き) O5:発電量(MWh)に対する長期契約の入札 評価結果を表 2-8 に示す。各条件に対する定性的な評価(好ましい、普通、好ましくない) を支援スキームごとに行った。表 2-8 に示すような重み付けを用いながら、各支援スキーム に対する取り組みと結果の相対評価を行った。全ての評価は 0(好ましくない)から 1(好まし い)の間である。 表 2-8 洋上風力支援スキームの評価結果(1) 発展への効果 民間資本の活用 インセンティブの 基本条件 信頼性の高い収益 源の信頼性 コスト低減メカニ ズム 25% 25% 25% 25% 55% 15% 15% 15% 管理上のコスト 重み付け 公共料金納付者に 対するコスト 策 結果 納税者に対する コスト 政 取り組み 投資支援スキーム I1 開発事業者向け助成金 × ◎ ○ × ○ ◎ × ◎ I2 低利子と債務保証 ○ ◎ ◎ × × ◎ × ◎ I3 加速度減価償却 ○ ◎ ○ × ○ ◎ × ◎ I4 開発事業者向け投資税額控除 × ◎ ○ × ○ ◎ × ◎ I5 投資助成金の入札 ○ ◎ × ◎ × ○ × × 運転支援スキーム O1 FIT × ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ O2 FIP × ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ ○ O3 グリーン電力証書 ◎ × × ◎ ○ ◎ ○ × O4 グリーン電力証書(最低価格付) ◎ ○ × ○ ○ ◎ ○ ○ O5 発電量に対する長期契約の入札 ◎ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ (注記) ◎:好ましい(1 点)、○:普通(0.5 点)、×:好ましくない(0 点) 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 相対的な評価結果を表 2-9 に、またグラフ化したものを図 2-1 に示す。以下の支援スキー ムが取り組みと結果の最も評価結果の良かった組合せであったので、 “ショートリスト”と 考えることができる。 ①O1:FIT ― 49 ― 調査報告 ウィーン ②O5:インセンティブの基本条件(発電量に対する長期契約) ③O2:FIP ④O4:グリーン電力証書(最低価格付き) ⑤I3:加速度減価償却 ⑥O3:グリーン電力証書 表 2-9 洋上風力支援スキームの評価結果(2) 政 策 取り組み 結果 投資支援スキーム I1 開発事業者向け助成金 0.38 0.58 I2 低利子と債務保証 0.63 0.30 I3 加速度減価償却 0.50 0.58 I4 開発事業者向け投資税額控除 0.38 0.58 I5 投資助成金の入札 0.63 0.08 運転支援スキーム O1 FIT 0.63 1.00 O2 FIP 0.63 0.65 O3 グリーン電力証書 0.50 0.50 O4 グリーン電力証書(最低価格付) 0.50 0.58 O5 発電量に対する長期契約の入札 0.75 1.00 相対評価(結果) 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 相対評価(取り組み) 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 図 2-1 洋上風力支援スキームの評価結果 ― 50 ― 調査報告 ウィーン 2.5 まとめ 洋上風力の発展に対する明らかな障害として、他の再生可能エネルギーおよび従来型エ ネルギー資源と比べて高いコストがある。欧州全体の様々な国で、活動する市場のレベル に応じて異なる支援スキームが選択されている。ここでは、様々な支援スキームを評価す るための方法を構築した。 この評価結果は以下のようにまとめることができる。 ①様々な可能性のある政策的選択肢が、洋上風力発電のより急速な商業化を支援するた めに提供されている。 ②欧州全体の様々な国で、活動する市場のレベルに応じて異なる支援スキームが選択さ れている。 ・税額控除は、欧州で最も一般的な投資支援スキームである。 ・固定価格買取り制度(FIT)は、グリーン電力証書制度を採用する英国を除く欧州で採 用される最も重要な運転支援スキームである。 ③表 2-10 に政策とプログラムの低コストで効果の高い最適な組み合わせを示す。 全般的に、運転支援スキームは使用した条件設定でより大きな効果があった。 表 2-10 洋上風力発電に対する効果的な支援スキーム 投資支援スキーム 運転支援スキーム ・FIT ・長期契約の入札 ・FIP(発電税額控除:PTC) ・グリーン電力証書 ・加速度減価償却 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Andy Wickless 氏、Navigant Consulting 社 (参考資料) ・Renewable Energy World Europe 2013 講演資料、Andy Wickless 氏、 Navigant Consulting 社 ・Navigant Consulting 社ホームページ(エネルギー)、 (http://www.navigant.com/industries/energy/) ― 51 ― 調査報告 ウィーン 3.地熱発電:Bruchsal 地熱発電所の初期運転の経験と性能評価 Hanna Mergner 氏、EnBW Energie Baden-Württemberg 社(ドイツ) 3.1 はじめに 火山活動のある地域で、希望をいえば地殻変動プレートの境界のある地域で、電力と熱 の資源としての地熱エネルギーの利用は、非常に魅力がある。そして、低エンタルピーな 地熱エネルギー資源しかない中欧にとっても、再生可能資源として地熱エネルギーからの エネルギー供給は重要な 1 つの選択肢である。2010 年時点で地熱エネルギーの生産量が EU27 ヵ国の全再生可能エネルギーのたった 3.5%しか占めていなかったとしても、太陽お よび風力エネルギーの中間程度を占めていた(図 3-1 参照)。イタリアが非常に適した地質学 的状況のために、地熱エネルギーの生産量に関しては欧州のトップである。イタリアだけ でなくドイツでもまた、地熱エネルギーの利用が注目されている。ドイツ北部の盆地、バ イエルンの Molasse 盆地、そして上部 Rhine 渓谷といったドイツには 3 つの地熱に適した 地域があり、それらの地域では、深度と共に温度が上昇し、天然の温水資源が存在する。 Kalina Cycle のようなバイナリーサイクルの技術はランキンサイクルに基づいている。 世界中にある Kalina Cycle を使用したパイロット施設の 1 つが、ドイツ・Bruchsal の上部 Rhine 渓谷にある。2009 年に地熱を電力に変換する 550kW の発電所の試運転開始以降、 有益な運転の経験が得られた。結果のデータセットは、発電所の利用可能性、効率そして 運転コストを改善するための要因を特定するために現在分析が行われている。 【バイナリーサイクル発電】 加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回す方式。加熱源系統と媒体 系統の 2 つの熱サイクルを利用して発電することから、バイナリー(Binary)サイクル発電と呼ばれる。 【ランキンサイクル】 定圧加熱,等エントロピー膨張(断熱膨張) ,定圧排熱,等エントロピー圧縮(断熱圧縮)の 4過程か らなる理想的な熱力学的サイクル.蒸気機関のように凝縮可能な作用流体を用いる熱機関などの理想的 な標準として用いられる。 風力 その他 フランス 地熱 ドイツ ハンガリー ポルトガル 水力 太陽 バイオマス ・廃棄物 イタリア 再生可能エネルギーによる熱と電力生産量の割合 地熱エネルギーの分布 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-1 欧州の再生可能エネルギーによる熱と電力生産量の割合(左図) および地熱エネルギーの分布(右図) ― 52 ― 調査報告 ウィーン 3.2 Bruchsal 地域の地熱資源 (1) 上部 Rhine 渓谷と Bruchsal の地質学的状況 上部 Rhine 渓谷は、長さ 300km、幅 35km から 40km、そして北北西と南南西を走るよ うな大陸内の拡張構造に関係している。その渓谷の構造と Bruchsal 地熱発電所の場所を図 3-2 に示す。堆積層内のムッシェルカルク石灰岩上部とブントザントシュタイン(多色砂岩) が天然の温水の貯水層として考えられている。上部 Rhine 渓谷の南側にもまた、ハウプト ロンゲンシュタインが地熱生産のための有望な地質単位を示している。 Bruchsal 地域は、Graubenrandverwerfung の東側の境界の近くにある。Rhine 川地帯 の複雑な進化の後に、その土地の地質や地質構造は複雑化した。現地の断層のシステムは 2 つの部分に基づいている。一方は、緻密に積み重ねられた北北東と南南西を走る断層であ る。もう一方は、垂直に走る断層が検出されており、始新世後期の移動断層として解釈さ れている。これらの移動断層の 1 つが、還元井と生産井の間の数百メートルの垂直方向の オフセット(相殺するもの)を担っている。Bruchsal 地域では、ブントザントシュタインが 熱水の貯水層に相当する。この多色砂岩の透水係数は、5%から 7%の流量有効間隙率を持 つ断層と既存の割れ目による影響を受けている。 始新世 の断層 始新世の 堆積盆地 始新世の 火成岩 高山の 変形前線 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-2 上部 Rhine 渓谷・Bruchsal 地域にある地熱発電所の所在地と地質条件 (2) Bruchsal 地域の熱水の化学的特性 上部 Rhine 渓谷の温かい塩水は、その高い塩濃度とガス含有率が特徴である。Bruchsal 地域の塩水の塩濃度は、1 リットルあたり 130g(全溶解固形物ベース)である。発電所構成機 器の表面の腐食だけでなく、熱水システムにおける熱力学状態の可変物の変化がもたらす 沈殿物が、発電所の経済性に影響をおよぼす可能性がある。したがって、調査ではまた、 熱水の化学成分の評価を行った。上部 Rhine 渓谷の深い貯水層は Na-Cl タイプであり、ヒ ― 53 ― 調査報告 ウィーン 素や鉛のような様々な重金属を豊富にある。また、その水の pH は 5 程度である。図 3-3 に Bruchsal 地域の地熱流体の成分を示す。高い鉱物化に加えて、熱水の高いガス含有率は 地熱システムを運転する上での課題である。Bruchsal 地域では、液相とガス相の容積比率 は定常状態で 1:1.6 であり、ガス中には、二酸化炭素(CO2)が 90%以上と非常に多く含ま れている。 ガス中の化学成分 熱水中の化学成分 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-3 Bruchsal 地域の地中の塩水の化学成分 熱源中の高いガスの含有率もまた、地熱システムを運転する上での課題である。熱交換 器内のガスは塩水からバイナリーサイクルへの熱の移動を低下させる。熱交換器内のガス の滞留を回避するため、 “ガスブリッジ”によってガスを発電所から通過させる。CO2 の 損失または局部圧力の低下は、適当な範囲で炭酸塩の沈殿物を生成する。ゼロエミッショ ン発電システムを目指しているので、生成される CO2 を完全に地下 2,000m の貯水層に再 注入することは重要である。 (3) 熱水システムによる温水の生産 他のドイツにある全ての地熱発電所と同じく、Bruchsal 地熱発電所でも熱水システムを 採用している。このことは、2,000mから 2,500m の比較的深い場所にある天然の温水資源 を、図 3-4 に示すように、一対のシステムで運転することを意味する。ダウンホールポンプ を使用し、約 124℃の水源温度を持つ温水が生産され、還元井に約 60℃の温度で再注入さ れる。全体で約 5.5 メガワット(MW)の熱エネルギーが発電のために使用可能である。 ― 54 ― 調査報告 ウィーン 熱交換器 変圧器 発電所 地域熱供給用グリッド タービン 発電所 ・発電機 温かい 塩水 冷たい 塩水 天然の 貯水層 熱水システム 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-4 熱水システム(Hydrothermal System)の概略図 3.3 Kalina Cycle のバイナリーサイクル技術による発電 低温度の熱源を利用した発電に対して、バイナリーサイクル技術が採用されている。温 水のエネルギーでは、直接タービンを運転することはできないので、別の二次サイクルへ と熱交換器を介してエネルギーを伝える。このプロセスは、従来型の石炭またはバイオマ スの発電所と同種のものである。プロセスの特徴は、選択した作業媒体に関係している。 一般的に、低い温度で沸騰する有機物の媒体が、低エンタルピー発電所で適用されている。 図 3-5 に示すように、周囲温度 20℃で 200℃以下の熱源では、理論的に最大 40%の効率 を得ることが可能である。しかしながら、地中の熱源は移動中に冷却されるので、発電サ イクルへの熱供給は、平均的に低い温度レベルとなる。 カルノー係数=理論的な上限 バイナリー サイクルの 温度範囲 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-5 周囲温度 20℃のときの作業流体温度によるカルノー係数 ― 55 ― 調査報告 ウィーン (1) Kalina Cycle Bruchsal 地熱発電所では、Kalina Cycle を採用したバイナリーサイクルで発電している。 この原理は通常の有機ランキンサイクルのシステムと同じである。作業媒体は熱源によっ て高圧で蒸気になり、発生した蒸気は電力を生産するために発電機を駆動させるタービン を運転する。そして、膨張した蒸気は復水器で凝縮される。サイクルを完結させるために、 ポンプが作業流体をより高い圧力レベルに昇圧し、蒸発器に戻す。一般的に、内部の熱交 換器(予熱器)が、タービンの温かい排気からの熱を回収と復水を加熱するシステムを補って いる。通常の有機ランキンサイクルのシステムと Kalina Cycle の違いは、使用する作業媒 体にある。有機ランキンサイクルでは単一の流体で運転されるが、Kalina Cycle ではアン モニアと水の混合物が使用される。Kalina Cycle で使用する混合流体は完全に蒸発しない ので、液相と蒸気相に分けるために分離器を設置する必要がある。液相はタービンをバイ パスし、蒸気相はタービンで発電をする。 図 3-6 に Bruchsal 地熱発電所に設置された Kalina Cycle のシステム概要図を示す。 分離器 蒸発器 タービン 発電機 冷却塔 予熱器 アンモニア/水 復水器 復水タンク 冷却水 温水 調節弁 生産用ポンプ (熱水ポンプ) 生産井 還元井 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-6 (2) Bruchsal 地熱発電所の Kalina Cycle のシステム概要図 作業媒体としてのアンモニアと水の混合物 アンモニア(NH3)と水(H2O)の作業媒体は、その成分の異なる沸点によって特徴づけられ る。一般的に、アンモニアの沸点はマイナス 33℃、水の沸点は 100℃である。純粋な流体 を比較するとき、これらの沸点の違いは、混合流体の非等温の凝縮と蒸気化をもたらす。 つまり、熱吸収する流体はより熱源に順応し、より効率的に熱をプロセスに移動させるこ とができる。図 3-7 の温度・エンタルピー線図において、アンモニアと水の混合物のアンモ ニア濃度の変化による非等温と等温の蒸発挙動を示す。混合物の中で、相の変化はアンモ ― 56 ― 調査報告 ウィーン ニアと水の沸点の大きな違いによって非線形で生じる。正しいアンモニア濃度を選択する ことによって、作業流体の温度条件と熱源の温度条件の最適な組み合わせを得ることが可 能である。 0%アンモニア 25%アンモニア 50%アンモニア 75%アンモニア 100%アンモニア 圧力:20Bar 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-7 温度・エンタルピー線図におけるアンモニアと水の混合物の相変化プロセス 混合物は単一流体と比べてもう 1 つの自由度を持っているので、プロセスは放出と吸収 の特性を活用することが可能となる。ここでは、高い方と低い方のプロセス圧力が、最適 な運転条件を得るために影響する。この現象を図 3-8 に示す。蒸発器において、90%アン モニアの混合物は 120℃の温度で蒸発する。混合物全ての気化に到達するためには、システ ムの圧力は約 15bar(1.5MPa)となる。流体を部分的に気化させるとき、蒸気の部分はアン モニアが多くなる。この場合、20bar(2MPa)の圧力下で、約 93%のアンモニアによって達 成可能である。凝縮中はこれと反対の現象が生じる。復水器において、流体の液体部分と 蒸気部分が混合し、アンモニアの濃度は 90%に戻り、それ自身の蒸気率に比べて低い圧力 で凝縮する。 有機ランキンサイクルと比較して Klaina Cycle の非等温の蒸発と凝縮を実証するため、 図 3-9 に Bruchsal 地熱発電所とフランス・Soultz-sous-Forêts にある地熱発電所の有機ラ ンキンサイクルを温度・エンタルピー線図に示す。Soultz-sous-Forêts の有機ランキンサイ クルでは、作業流体としてイソブタンを使用している。 発電所の大きさと生産井の温度が違うとしても、図 3-9 のグラフでは Kalina Cycle と有 機ランキンサイクルの違いは明らかである。グラフ内の熱源と作業媒体の間の面積が、サ イクルのエクセルギーの損失を表している。最適な設計ポイントを特定するためには、熱 力学と経済性の計算によるシステムの評価が必要である。 特定のエンタルピーに関していえば、アンモニアと水の混合物のエンタルピーは、イソ ブタンのエンタルピーの約 10 倍も大きい。イソブタンを作業媒体として同じ出力を得るた めには、より大きな流量と大きな施設が必要となるだろう。 ― 57 ― 調査報告 ウィーン 気相 気相 2相 2相 液相 液相 蒸発時 凝縮時 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-8 Kalina Cycle における混合物の質量濃度に対する蒸発と凝縮の相図 Kalina サイクル(Bruchsal) 有機ランキンサイクル(Soultz-sous-Forêts) 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-9 Kalina Cycle と有機ランキンサイクルの温度・エンタルピー相図での比較 ― 58 ― 調査報告 ウィーン 3.4 運転データの性能評価 バイナリーサイクルの発電効率(ηel)はタービン出力(Pel)と熱水の二次サイクルへの熱移 動量(Qtw)の比率で得られる。 ηel= Pel QTw 熱源のエネルギーの総量(QTw)は一般的に質量流量の発生量に基づき計算されるので、熱 水の平均比熱と温度差によって、以下のような式となる。 QTw =mTW ×cpTW ×ΔTTW 高いガス含有率によって熱水の特性が複雑であるため、熱水からバイナリーサイクルへ 移動したエネルギーはガスの部分と液体の部分に分ける必要がある。 QTw =(mTW ,liquid×cpTW,liquid + mTW ,gas×cpT,gas)×ΔTTW 運転中は塩水の温度と比熱の両方が定数と考えることができるので、発電への影響はな い。唯一の可変する変数は、生産用ポンプによって制御されている質量流量だけである。 図 3-10 に、タービン出力と熱水の流量の関係を示すが、発電出力は質量流量に増加に伴い 増加するので、より大きな出力を得るためには、より大きな生産用ポンプが必要となる。 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-10 タービン出力と熱水の質量流量の関係(Bruchsal 地熱発電所) ― 59 ― 調査報告 ウィーン 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-11 タービン出力に対する周囲温度の影響(Bruchsal 地熱発電所) タービン出力に影響する可能性のある他の変数として、ヒートシンク(放熱板)が関連する。 Bruchsal 地熱発電所では、湿式冷却塔を作業流体の凝縮のために利用しているので、その 冷却システムは周囲の温度や湿度といった気象状況により支配されることになる。図 3-11 に、周囲温度、冷却水の復水器入口温度とタービン出力の関係図を示す。タービン出力は、 低い温度でのアンモニアと水の混合物のサイクルが増えるので、外気温度レベルの上昇に 伴い低下する。流体の凝縮を満たすためには高い圧力が必要となるので、タービンの圧力 比率(圧力差)が小さくなる。 先に説明したように、アンモニア濃度も発電所の効率に影響を与える。図 3-12 に二次サ イクルのアンモニアの補充期間中のデータを示すが、補充することで、タービン出力が増 加する(図中の矢印 2)。このような傾向がアンモニア濃度の増加と復水器入口の冷却水温度 によって生じるのかどうかを確認した。図 3-12 中の“矢印 1”と“矢印 2”の両方が、冷 却水温度が同じであるときの 2 つの点を強調している。その分析から、低いアンモニア濃 度(矢印 1)のときタービン出力は小さくなり、高いアンモニア濃度(矢印 2)のとき出力が大き くなることが確認できた。 要約すると、4 つの主要な要因が Kalina Cycle の効率を支配する。 ①熱供給(生産井)の温度レベル ②熱返還(還元井)の温度レベル ③作業媒体のアンモニア濃度 ④構成機器の効率 ― 60 ― 調査報告 ウィーン 出典:Renewable Energy World Europe2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 図 3-12 タービン出力への冷却水温度とアンモニア濃度の関係 3.5 まとめ ユーティリティ企業の発電所のポートフォリオにおいて地熱発電所の商業化には、高い 実現可能性と効率性が必要となる。Bruchsal 地熱発電所は特別な地質学的状態を持つ場所 にある。しかしながら、高い塩濃度とガス含有率を持つ塩水は、非常に大きな課題である。 施設の技術的なコンセプトとしては、Kalina Cycle に基づいている。この大きな可能性は さらに運転を最適化することで見られるだろう。 地熱の熱源、発電所そして周囲の状況の関係を調査するために初期の運転経験とデータ の分析を行った。現地での運転と調査作業の密接な協力関係が、運転チームを支援するた めの調査の成果の柔軟な実施を可能にしている。上記に述べたような技術的側面に加えて、 貯水層の状態、ポンプ技術、社会からの受入れ、そして環境的側面なその調査も行われて いる。Bruschsal 地熱発電所の調査プロジェクトの目的の主旨は運転を支援するために、運 転コストの低減、そして上部 Rhine 渓谷にある再生可能エネルギー資源として持続可能性 と地熱発電の利点の実証をすることにある。 最後に、このプロジェクトの資金面での補助は、ドイツ連邦環境自然保護原子力安全省 によって行われている(FKZ0325258、プロジェクト OSGa)。 (参考資料) ・Renewable Energy World Europe 2013 講演資料、Hanna Mergner 氏、EnBW 社 ・EnBW Energie Baden-Württemberg 社ホームページ、(http://www.enbw.com/index.html) ・Kalina Cycle ホームページ、(http://kalinacycle.net/) ― 61 ―