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ユニコーンのステージ

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ユニコーンのステージ
平 成 28 年 度 証 券 ゼ ミ ナ ー ル 大 会
5
第 5 テーマ D ブロック
10
「日本のベンチャー企業における
資金調達について」
―ベンチャーエコシステム構築における一考察 ―
15
20
25
千葉商科大学
三田村ゼミナール
1
序章
問題意識と分析視角
第 1章
5
ベンチャー企業の動向
1- 1
ベンチャー企業発展の必要性
1- 2
成長段階における資金調達
1- 3
日本のベンチャー投資額
1- 4
小括
第 2章
10
15
諸外国との比較から見る日本のベンチャー企業
2- 1
シリコンバレーのベンチャーエコシステム
2- 2
シンガポールと日本の公的支援
2- 3
イスラエルのベンチャー企業
2- 4
小括
第 3章
ベンチャーキャピタルとベンチャー企業の課題
3- 1
VC の 重 要 性 と 企 業 評 価 方 法
3- 2
VC へ の 資 金 出 資 に お け る 課 題
3- 3
ベンチャー企業における課題
3- 4
小括
20
第 4章
25
30
ベンチャー企業の抱える問題への解決策
4- 1
日本のベンチャーエコシステムの理想
4- 2
既存のツールの活用
4- 3
スチュワードシップコードをベンチャーへ(概要と共に記載)
4- 4
スチュワードシップコード活用による様々なメリット
4- 5
小括
終章
総括
参考文献
2
序章
問題意識と分析視角
産業の発展においてベンチャー企業が担う役割は大きい。新技術・事業をも
と に 革 新 的 な 商 品・サ ー ビ ス を 社 会 に 提 供 す る イ ノ ベ ー シ ョ ン の 担 い 手 で あ る 。
5
ベンチャー企業が経営を軌道に乗せ、事業を大きくすることであらゆる社会問
題の解決や雇用の創出を図ることができ、国内に限らず世界中の人々の生活を
発 展 さ せ て い く こ と が で き る 。日 本 で は ソ ニ ー 、米 国 で は Google や Facebook
といった名だたる大企業もかつてはベンチャー企業であった。それらの企業は
当時革新的であった技術をもとに事業を広げ今現在の地位に至るのである。
10
アメリカのシリコンバレーといった外国のベンチャー環境と比較すると外国
はベンチャーエコシステムという環境が整っている。しかし日本には整ってい
ない。問題を認識し整えようとする取り組みは行われているが道半ばである。
資金調達の面から見ても従来の金融機関による間接金融の資金調達はリスクの
高さ等から限界がある。ベンチャーエコシステム構築には直接金融というあら
15
ゆる出資者からのリスクマネー供給が必要不可欠である。あらゆる出資者の中
で も と り わ け 機 関 投 資 家 と し て ベ ン チ ャ ー 企 業 投 資 専 門 と 言 え る VC(ベ ン チ ャ
ー キ ャ ピ タ ル )に よ る 資 金 供 給 が 重 要 と 筆 者 は 考 え る 。外 国 で の VC の 役 割 は 大
き く 日 本 で も VC の 成 長 か ら エ コ シ ス テ ム 構 築 が 望 ま れ る 。
ベンチャー企業自身においても問題は大きく、その中でもシード期やスター
20
トアップ期といった成長ステージ前半の問題を解決しなければならない。実際
に「死の谷」や「ダーウィンの海」といった問題に陥り、ベンチャー企業が倒
産 し て し ま う こ と も 多 い 。 企 業 自 身 で 解 決 で き る と も 限 ら ず 、 そ こ で VC に よ
るハンズオン支援という経営支援機能が資金供給と合わせ、成長に向けた鍵と
なる。
25
課題対応に向け、企業個々が問題をしのぐため資金調達の際に既存のツール
としてリースやコミットメントラインの利用を挙げる。そしてベンチャーエコ
シ ス テ ム 構 築 に 向 け て ま ず 、 VC が 主 役 と な り 活 動 す る べ き で あ る 。 そ こ で 企
業と投資家の対話から企業の持続的成長を目指す指針であるスチュワードシッ
プ コ ー ド に 基 づ き 、 VC が 活 動 す る こ と で 資 金 調 達 等 の 市 場 の 課 題 に 対 応 で き
30
るのではないか。対話を通したハンズオンによる成長支援、受益者に向けた情
3
報開示からリスクマネーの呼び込み、資金供給能力の向上を狙うという考えで
あり、ベンチャーエコシステム構築を目指す。
以 上 の 問 題 意 識 か ら 1 章 で は ベ ン チ ャ ー 企 業 の 動 向 、第 2 章 で は 外 国 ベ ン チ
ャ ー 環 境 と の 比 較 、第 3 章 で は ベ ン チ ャ ー 企 業 と 投 資 家 の 課 題 、第 4 章 で は 既
5
存のツール活用・スチュワードシップコード活用を述べ、総括とする。
第 1章
1- 1
ベンチャー企業の動向
ベンチャー企業発展の必要性
10
ベンチャー企業の発展は日本、ひいては世界の発展に必要不可欠である。産
業の発展や新技術の確立を元に、それらの商品・サービスによって人々の生活
に良い影響を与えていく。そして企業の成長により雇用の創出・経済の成長を
促す社会的意義のあるものとなる。
15
例えば昨今話題となっている金融と情報技術を組み合わせたフィンテック事
業について「米国を中心にフィンテック事業に挑むベンチャー企業が相次いで
登 場 。 投 資 額 も 急 拡 大 し て い る 。 1 」 と あ り 、 IT 分 野 と い う 新 産 業 に お け る ベ
ンチャー企業の持つ役割は大きい。またバイオベンチャーといった生物技術や
創薬といった新技術開発においてもベンチャー企業は活躍している。一例とし
20
てユーグレナという企業がある。ユーグレナはミドリムシの培養技術・実用化
を基に発展した企業であり、現在は健康食品として売り出されている他、ジェ
ット機の燃料などにも使用できるという。
「 ミ ド リ ム シ と は 栄 養 失 調 、地 球 温 暖
化 、エ ネ ル ギ ー 不 足 と い う 現 代 の 難 問 を 一 挙 に 解 決 す る 生 物 な の で あ る 。 2 」と
い い 非 常 に 社 会 的 意 義 の 高 い 企 業 で あ る 。 ユ ー グ レ ナ は 2005 年 の 設 立 か ら
25
2012 年 に 東 証 マ ザ ー ズ に 上 場 。 2014 年 に は 東 証 一 部 に 上 場 し て お り 、 社 会 的
意義の高いバイオベンチャーが成功した一例でもあり、日本ベンチャー大賞の
初 の 受 賞 企 業 で も あ る 3。
1
2016 年 9 月 8 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 フ ィ ン テ ッ ク へ 投 資 急 増 」 参 照 。 2016 年 世 界 で は
2 兆 4000 億 の フ ィ ン テ ッ ク 投 資 が あ る と い う 。
2 出 雲 (2016)p.66
3 2015 年 10 月 3 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 大 機 小 機
ベンチャー支援の機運」
4
またベンチャー企業には既存の大企業ではできないイノベーションの開拓
力 ・ 成 長 性 が あ る 。 ア メ リ カ の 経 営 学 者 で あ る C・ ク リ ス テ ン 教 授 の 「 イ ノ ベ
ー シ ョ ン の ジ レ ン マ 4 」と い う 理 論 が あ る 。イ ノ ベ ー シ ョ ン の ジ レ ン マ の 大 企 業
における動きとして「①既存顧客の声に耳を傾け製品の持続的な改良を怠らな
5
い②新カテゴリーを、信頼性に乏しく安価なだけと考えイノベーターの学習能
力を過小評価する③最後には新機軸かつ信頼性が高く、安価な製品を提供する
イ ノ ベ ー タ ー に シ ェ ア を 奪 わ れ る 5 」と あ り 、ベ ン チ ャ ー 企 業 に お い て は 特 に ②
の項目が重要と筆者は考える。
文中の新カテゴリーはベンチャー企業の持つ新しい商品・サービスに置き換
10
えられ、イノベーターはベンチャー企業自身に置き換えられると考える。つま
り 大 企 業 が や ら な い・で き な い 技 術 6 を ベ ン チ ャ ー 企 業 は 独 自 の 戦 略 に よ っ て 成
長 さ せ て い く こ と が で き る 。上 記 の ユ ー グ レ ナ は こ れ に 当 て は ま る と 思 わ れ る 。
最初は性能が低く価値が見出せない技術が成長・認識することにより、最終的
には市場において既存の大企業に匹敵しうる力を持つことができる可能性を秘
15
めている。
そのためベンチャー企業を発展させるための取り組みは非常に重要であり、
全力で取り組む必要がある。
図表 1
業界
イノベーションのジレンマの実例
破壊的イノベー
ジレンマに陥っ
ション
た会社
金融
フィンテック
既存の金融機関
フィンテックベンチャー
自動車
自動運転車
既存のメーカー
Google 他
テレビ放送
動画配信サイト
地上波各局
YouTube 他
20
破壊的イノベーター
( 出 所 )江 藤 (2016)よ り 一 部 取 得 し 、 筆 者 作 成 。
4
こ の 理 論 は 、業 界 ト ッ プ の 優 良 企 業 が 努 力 を 繰 り 返 す の に も 関 わ ら ず 時 間 の 経 過 と と も
に 、没 落 し て い く と す る 理 論 で あ る 。す な わ ち 新 興 企 業 に よ る 安 価 で 、性 能 の 低 い 技 術 が 、
ロ ー エ ン ド (下 位 市 場 )か ら 参 入 し 、 ハ イ エ ン ド (上 位 )市 場 を 侵 食 す る 破 壊 的 イ ノ ベ ー シ ョ
ン と い う 現 象 に よ っ て 、 既 存 事 業 が 没 落 し て い く 過 程 で あ る 。 日 隈 (2014 )p.21
5 江 藤 (2016)p.2 参 照
6 一 例 と し て 自 主 独 立 を 貫 い て き た ホ ン ダ が 限 界 を 感 じ 、外 部 と の 連 携 を 強 化 し て い く と
い う 。 2016 年 10 月 27 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 ホ ン ダ 自 主 独 立 に 限 界 連 携 強 化 」 参 照
5
1- 2
成長段階における資金調達
・シード期、スタートアップ期の資金供給
創業間もないベンチャー企業はすぐに事業を行うわけではないので資金の供
5
給 は 、自 己 資 金 、ス イ ー ト マ ネ ー 7 か ら 頼 る し か な い 。他 に は エ ン ジ ェ ル 投 資 家
からの投資は資金力の増加に効果的だが、国内のエンジェル投資の活動は先進
国の中でも低い水準であるのが現状だ。
図表 2
エンジェル投資の日米比較
日本
米国
米 /日
投資家数
10,000 人
234,000 人
23,4 倍
年 間 投 資 額 /件
100-300 万 円
5,000 万 円
16-50 倍
年間投資総額
200 億 円
2,5 兆 円
125 倍
10
(出 所 )テ ク ノ リ サ ー チ 研 究 所 よ り 筆 者 作 成
エ ン ジ ェ ル 投 資 家 の 活 動 が 高 い 水 準 に あ る 米 国 と 比 較 す れ ば 、投 資 家 数 は 23,
4 倍 、年 間 投 資 額 /件 は 16-50 倍 、年 間 投 資 額 総 額 は 125 倍 を 超 え る と い わ れ て
い る 。 米 国 の エ ン ジ ェ ル 投 資 家 の 資 金 供 給 は VC 投 資 と ほ ぼ 同 規 模 の 資 金 供 給
15
が 行 わ れ 、ベ ン チ ャ ー 企 業 の 育 成 を 支 え て い る 実 態 が あ る 。8 成 長 過 程 に お い て
シード期、スタートアップ期に自己資金や友人、家族からの出資額を超えてい
る 分 は エ ン ジ ェ ル 投 資 家 が 出 資 し て 、 VC か ら の 出 資 を 受 け る ま で に 成 長 し て
い な い ベ ン チ ャ ー 企 業 が VC か ら の 出 資 を 受 け ら れ る 段 階 ま で の 育 成 に 一 役 買
っている実情がある。
20
VC と は 「 ベ ン チ ャ ー 企 業 に リ ス ク ・ フ ァ イ ナ ン ス を 供 給 す る こ と を 主 た る
業 務 と す る 、ベ ン チ ャ ー 企 業 の 成 長 を 支 援 す る フ ァ イ ナ ン ス 企 業 9 」で あ る 。ベ
ンチャー企業の成長を手助けするため、ベンチャー企業に投資した後、投資先
企 業 に イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン オ フ ィ ス の 提 供 や 顧 客 の 紹 介 、経 営 上 の ア ド バ イ ス 、
7
8
9
家族や友人からの出資
エンジェルネットワークの形成促進に関する調査報告書より
秋 山 義 継 ( 2015 ) p.79
6
役員派遣など様々なサービスを行っている。資金の提供だけではなく仕事の場
所 を 与 え て 、 企 業 の 成 長 性 に 大 き な 影 響 を 与 え る VC が 存 在 感 を 高 め て き て い
る。
図表 3
ベンチャーキャピタルによる資金内容とサービスの種類
ベンチャー企業
成長ステージ
スタートアップ期
資金提供内容
提供するサービス
設立・開業資金提供
ミドル期
成長資金提供
IPO 直 前
財務体質強化資金提供
IPO 以 降
公募増資支援
事業計画策定支援
最適経営チーム組成支援
人材紹介
販売チャネルの開発支援
資本政策アドバイス
公開準備コンサルティング
情報公開コンサルティング
提 携 ・ M& A の 仲 介
5
(出 所 )秋 山 ・ 松 岡 (2015) よ り 取 得 し 筆 者 作 成
他 の VC よ り も 早 く 融 資 決 定 を 行 い 、 融 資 先 の ベ ン チ ャ ー 企 業 の 信 用 力 を 上
げ る こ と を 行 う 「 リ ー ド VC」 と い う フ ァ ン ド も 出 て き た 。 信 用 力 が あ れ ば 複
数 の VC か ら 資 金 提 供 を 受 け ら れ る 可 能 性 が で て く る 。
10
シ ー ド 期 、ス タ ー ト ア ッ プ 期 の ベ ン チ ャ ー 企 業 へ の 融 資 は VC が 補 っ て い る 。
VC の 投 資 以 降 、新 規 株 式 公 開( IPO)ま で の 期 間 の 投 資 活 動 に 銀 行 が ど の 様 に
関わっているか分析する。
銀 行 の 子 会 社 が VC の 役 割 を 補 う 形 で 関 係 し て い る 。
「金融機関は創業融資や
目利き機能の発揮で対応しているものの、ベンチャー企業の育成には限界があ
15
り 、 フ ァ ン ド の 組 成 な ど で 対 応 し て い る 10 」 と い う 。 ベ ン チ ャ ー 企 業 向 け の 投
資 フ ァ ン ド に 銀 行 系 VC が 注 目 さ れ て い る 。
銀 行 系 VC は ジ ェ ネ ラ リ ス ト 型 VC と し て 組 成 ・ 運 営 す る こ と が 多 く 、 そ の
ため段階的投資、シンジケート投資を適切に用いるかが重要となる。
20
1- 3
日本のベンチャー投資額
国内ベンチャーへの投資額が増加している。リーマン・ショックの影響で落
10
藤 倉 (2016)pp.36 -37
7
ち 込 ん で い た ベ ン チ ャ ー 企 業 へ の 投 資 だ が 、2015 年 の 未 上 場 ベ ン チ ャ ー 企 業 が
調 達 し た 資 金 は 1400 億 円 を 突 破 し 、 リ ー マ ン ・ シ ョ ッ ク 以 前 の 水 準 ま で 回 復
し た 11 。
5
図表 4
1600
1400
798
685
1200
1000
800
600
554
513
1452
1221
524
496
478
1182
400
462
1154
768
747
759
2009
2010
2011
200
557
729
0
2006
2007
2008
資金調達額(億円)
2012
2013
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
2014
件数
( 出 所 )ジ ャ パ ン ベ ン チ ャ ー リ サ ー チ「 2014 年 未 公 開 ベ ン チ ャ ー 企 業 の 資 金 調 達 の 状 況 」
(2015)参 照 に 筆 者 が 作 成
10
外部の技術やアイデアを取り込もうとする事業会社が、コーポレートベンチ
ャ ー キ ャ ピ タ ル を 設 立 す る 動 き が 拡 大 し て い る 。 駐 車 場 最 大 手 の パ ー ク 24 で
は投資子会社タイムズイノベーションキャピタルを設立し、ファンドの総額は
30 億 円 、
「 未 来 の 交 通 イ ン フ ラ サ ー ビ ス の 開 発 を め ざ す 」と い う 方 針 の 基 、IoT
技 術 を 持 つ ベ ン チ ャ ー 企 業 に 投 資 し た 12 。 ま た 、 ス ポ ー ツ ウ エ ア メ ー カ ー の ゴ
15
ールドウインは、耐久性と伸縮性に優れた繊維を開発するため合成クモの糸を
開 発 す る ス パ イ バ ー に 約 100 億 円 を 投 資 し た 13 。
大 学 発 VC も ベ ン チ ャ ー 企 業 へ の 投 資 の 拡 大 を 目 指 し 、 大 型 フ ァ ン ド の 設 立
が相次ぎ立ち上がっている。東京理科大学はアセット・マネジメント事業会社
の ア ス ト マ ッ ク ス と 40 億 円 規 模 の フ ァ ン ド を 設 立 し た 14 。 京 都 大 学 で は 160
11
12
13
14
2016 年 2 月 22 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
2016 年 2 月 22 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
2016 年 9 月 19 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
東 京 理 科 大 学 (2016)p.1
8
件
数
件
)
(
資
金
調
達
額
(
億
円
)
836
国 内 の 未 公 開 企 業 の 資 金 調 達 額 2006 年 ~ 2014 年
億 円 規 模 の フ ァ ン ド を 設 立 し 15 、 東 京 大 学 で は 国 が 交 付 し た 471 億 円 を 活 用 す
る と い う 16 。
日本のベンチャー投資額は徐々に増えつつあり、様々なファンドが設立し国
内 ベ ン チ ャ ー が 活 発 化 し て き て い る 。 2015 年 の 設 立 数 は 2014 年 よ り 多 い 52
5
件 で リ ー マ ン・シ ョ ッ ク 以 降 最 多 と の こ と で あ り 、
「 低 金 利 を 追 い 風 に VB に 投
資 を 振 り 分 け る 金 融 機 関 や VB と 提 携 し て 新 規 事 業 の 立 ち 上 げ を 狙 う 事 業 会 社
の 設 立 が 目 立 つ 。 17 」 と い う 。
図表 5
世 界 各 国 の ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル 投 資 (対 GDP 比 )
0.4
0.3
0.2
0.1
0
対GDP比
10
( 出 所 ) OECD(201 5)か ら 取 得 し 筆 者 作 成
し か し 諸 外 国 と 比 較 し た 場 合 低 水 準 だ と 言 わ ざ る を 得 な い 。図 表 5 は 各 国 の
GDP に 対 す る VC の 投 資 額 で あ る 。 日 本 の 投 資 額 は 「 VC 投 資 を 米 国 と 比 較 す
15
る と 対 GDP 比 で 1/ 7 以 下 、韓 国 と 比 較 し て も 半 分 の 資 金 し か 供 給 さ れ て い な
い。特に成長期のベンチャーや技術系ベンチャーに必要な大きな投資金額の資
金 供 給 の 不 足 が 深 刻 で あ る 18 」 と あ る 。 金 額 だ と 国 ご と の 規 模 も 考 慮 し な け れ
ば な ら な い が GDP と は 国 内 総 生 産 な の で 対 す る VC 投 資 比 が 高 く な れ ば そ れ
だけベンチャー企業に資金が使われているという証拠になる。日本がベンチャ
20
ー企業によるイノベーション開拓で世界に勝つためにはこの数字が大きくなる
15
2016 年 2 月 10 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
2016 年 1 月 11 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
17 2016 年 3 月 7 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊
「ベンチャーファンド設立数
参照
18 経 済 産 業 省 (2014)p.7
16
9
リーマン以降で最多」
ような取り組みが必要である。
企 業 個 々 で 見 て も 大 き な 差 が あ る と 思 わ れ る 。 企 業 価 値 評 価 額 が 10 億 ド ル
(約 1000 億 円 ~ 1100 億 円 )を 超 え る 未 上 場 企 業 、 通 称 「 ユ ニ コ ー ン 」 は 世 界 に
は 100 社 以 上 あ る が 日 本 で 基 準 を 満 た す の は ス マ ー ト フ ォ ン で フ リ マ ア プ リ を
5
運 営 す る メ ル カ リ 1 社 に し か す ぎ な い 19 。 日 本 の ベ ン チ ャ ー 企 業 の 企 業 価 値 は
まだまだ世界が注目する水準とはなっていない。日本のベンチャー企業が活発
だと言えるようになるためには、資金調達等の課題を経て最終的にユニコーン
が多く出現することが一つの目標と考えられる。
しかし、ユニコーンにも課題はある。一般投資家は儲けたいと考える。その
10
た め 成 長 し て い る の に 非 上 場 期 間 が 長 す ぎ る ユ ニ コ ー ン 企 業 は 、 IPO を 成 功 さ
せ て い る こ と が で き な い か も し れ な い と い う 20 。 急 成 長 が 続 く う ち に 元 を と れ
るよう早めの上場をしておけばよかったと考える投資家や起業家も現れるだろ
う。
15
1- 4
小括
ベンチャー企業の発展は日本、世界の発展に必要不可欠なものである。独自
の技術・事業を持って産業を発展させ、経済を活性化させることができる。昨
今世界で急速に進んでいるフィンテックの開発を担う企業や日本でもユーグレ
20
ナといった社会問題を解決する力を持つ企業が一例である。故にベンチャー企
業の発展に向けて日本も全力を尽くして取り組まなくてはならない。
企業の成長にはカネが必要であり成長段階もある。取り分けベンチャー企業
は急速な成長のため多額の資金調達が必要であり、成長段階を踏むごとに資金
が 必 要 と な っ て く る 。そ し て IPO に 向 か っ て い く の で あ る 。従 っ て ベ ン チ ャ ー
25
企業に資金を供給する役目たる投資家も非常に大事な存在である。
では日本のベンチャー投資は現在どのような状況なのだろうか。リーマンシ
ョック後に一度投資額は落ち込んだが、今現在は以前の水準まで回復してきて
い る 。 事 業 会 社 に よ る VC や 大 学 発 VC も 次 々 と 立 ち 上 が っ て お り 、 投 資 額 や
19
20
2016 年 9 月 5 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 企 業 環 境 、 日 本 で 好 転 」 参 照
Diamond Harvard Business Review (2016 )
10
投資家も増えつつある。
だ が 世 界 基 準 で み る と 日 本 の ベ ン チ ャ ー 投 資 額 は 低 水 準 で あ る 。 対 GDP 比
の 世 界 各 国 の VC 投 資 を 見 て も 日 本 は 低 く 、 日 本 経 済 に お い て ベ ン チ ャ ー 企 業
は 十 分 な 活 躍 が で き て い な い の が 現 状 で あ る 。企 業 個 々 で み て も 劣 る 。
「ユニコ
5
ー ン 」 と い わ れ る 企 業 価 値 10 億 ド ル 以 上 の 未 上 場 企 業 は 世 界 に 100 社 以 上 あ
る中で日本には 1 社しかない。
以上のことからベンチャー企業の発展は重要であるが、日本と世界トップで
は差があることがわかる。ではベンチャー企業が社数でも投資金額でも活躍し
て い る 国 は ど の よ う な 要 因 か ら な っ て い る の だ ろ う か 。第 2 章 で は ベ ン チ ャ ー
10
企業が活発な国の要因・環境を見ていこうと思う。
第 2章
諸外国との比較から見る日本のベンチャー企業
日本のベンチャー投資を外国と比較した場合、金額面や件数において大きな
15
差 が あ る こ と は 第 1 章 で 述 べ た 通 り で あ る 。で は 数 字 が 大 き く 異 な る 要 因 と は
何なのか。それらを調べることで日本のベンチャー市場の課題が発見できるの
ではないか。
2- 1
シリコンバレーのベンチャーエコシステム
20
まず、世界各地から企業が集まるというアメリカのシリコンバレーのベンチ
ャ ー 市 場 の 環 境 は ど の よ う な も の な の か 。そ の シ リ コ ン バ レ ー の 環 境 と し て「 米
国 シ リ コ ン バ レ ー で は 起 業 家 、企 業 支 援 者 、企 業 、大 学 、研 究 機 関 、金 融 機 関 、
公的機関が結び付き、新たな技術やビジネスモデルを用いたベンチャーを次々
25
と生み出し、それがまた優れた人材・技術・資金を呼び込み発展を続ける「ベ
ン チ ャ ー エ コ シ ス テ ム 」 が 形 成 さ れ て い る 。 21 」 と い う 。 エ コ シ ス テ ム と は 、
生態系の循環のことを示す。シリコンバレーは新規企業を立ち上げる人物だけ
が集まっているだけではなく、ベンチャー企業に関わる多くの組織の人間達が
集 ま っ て い る の で あ る 。VC・エ ン ジ ェ ル 投 資 家・大 企 業 と い っ た 資 金 供 給 や 経
21
日 本 経 済 再 生 本 部 決 定 (2016)pp.1-2
11
営支援者の役目を持つ投資家はもちろんのこと、技術シーズを持つ大学や企業
法務のアドバイスをする弁護士などベンチャー企業が育つにあたって、必要な
組織が勢揃いしているのである。そして成功した者が、今度は新しく企業を立
ち上げる人間のサポートを行い、有効な支援を受けることのできた企業が、資
5
金を調達してまた成長していくという、ベンチャー企業が循環していくシステ
ム が 、シ リ コ ン バ レ ー に は 整 っ て い る 。高 い レ ベ ル で 評 価 さ れ て い る 環 境 に は 、
多くの人や組織が集まり、連なって金も多く集まってくるのであろう。故に、
ベンチャーへの資金供給額も世界と比べ高いものになると考えられる。
10
図表 6
ア メ リ カ の VC 投 資 額 お よ び 投 資 件 数 な ど
600
5000
500
400
資300
金
調
達200
額
(100
億
ド
ル 0
)
4039
3667
3036
234.4
1095
3377
3694
3350
4238
4361
3532
3665
4000
493.1
298.8
275.8
1357
1322
300.6
1417
4500
3500
3000
2500
2000
1410
1500
1000
500
0
2010
2011
投資金額〈億ドル)
2012
投資件数
2013
投資先社数
2014
新規資金調達社数
( 出 所 ) ベ ン チ ャ ー 白 書 2015 発 表 資 料 ( 2015) よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
あ ら ゆ る 問 題 の 専 門 家 を 、 VC や 金 融 機 関 と い う 資 金 の 出 し 手 が 紹 介 す る と
15
いうシステムも整っている。例えばシリコンバレー地域を中心に、融資など金
融 サ ー ビ ス を 提 供 し て い る SVBFG 22 は 、「 本 業 で あ る 金 融 サ ー ビ ス を も と に 、
起 業 家 ・ ベ ン チ ャ ー 企 業 、VC、法 律 事 務 所 ・ 会 計 事 務 所 ・ 各 種 専 門 サ ー ビ ス 会
社 、成 功 し た 起 業 家 お よ び 企 業 と の ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し 、そ れ ら を 結 び 付 け 、
ベンチャー企業を支援し育成するシステムを活性化する黒子・触媒のような役
20
割 を 果 た し て い る と 考 え ら れ る 。 23 」 と 、 他 の 組 織 と 結 び 付 け る 役 割 を 果 た し
22
Silicon Valley Bank Financial Group
23
西 山 (2012)p.84
12
件
数
ている。資金の出し手となる組織が資金供給と共に自身のネットワークの活用
の元、優れたベンチャー支援をしている。ベンチャー企業にとっては、そのよ
うな資金提供者と結び付くことで、資金出資とそれ以上の間接的な支援を受け
ることができるのである。
5
図表 7
VC の 属 性 構 成 比
アメリカ
6.4%
日本
0.9%
8.4%
12.9%
8.8%
18.5%
83.9%
60.2%
独立系
金融機関系
独立系
金融機関系
事業会社系
その他
事業会社系
その他
(出 所 )ベ ン チ ャ ー 企 業 の 創 出 ・ 成 長 に 関 す る 研 究 会 (2008)よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
10
また、図表 8 から、ベンチャーキャピタルの属性も日本とは大きく異なって
い る こ と が 分 か る 。 資 金 元 の 形 態 に よ っ て VC の 行 動 も 変 わ っ て く る 。
図表 8
独 立 系 VC
事 業 会 社 系 VC
金 融 機 関 系 VC
15
VC 属 性 ご と の 特 徴
機 関 投 資 家 か ら 集 め た 資 金 を 元 手 に 、投
資 を 行 う 。ROI と い っ た パ フ ォ ー マ ン ス
を重視し、高い見返りを期待している。
事 業 会 社 (非 金 融 )系 の VC で 、 親 企 業 の
戦略的技術に関係のある分野を中心に
投資を行う。
銀 行 、保 険 会 社 、証 券 会 社 と い っ た 金 融
系 の VC で 、機 関 投 資 家 や 親 企 業 の 顧 客
の資金等を元手に、投資を行う。
JETRO(2009)よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
図 表 6 か ら 、 ア メ リ カ は 独 立 系 VC、 日 本 で は 金 融 機 関 系 VC が 多 く の 割 合
13
を し め て い る こ と が 分 か る 。 ア メ リ カ の 独 立 系 VC は 「 事 業 会 社 や 金 融 機 関 と
一 体 と な っ て 、投 資 先 の 育 成 に 努 め る 有 機 的 な VC シ ス テ ム を 作 り 上 げ て い る 。
し か も 、 年 金 や 大 学 の 運 用 資 金 が 独 立 系 VC に 流 れ 、 VC の 投 資 先 か ら 通 信 ・
イ ン タ ー ネ ッ ト 分 野 の ベ ン チ ャ ー 企 業 が 次 々 と 台 頭 し た 結 果 、 独 立 系 VC 自 体
5
が IPO や M&A と い っ た 多 彩 な EXIT 手 段 を 駆 使 す る 金 融 機 関 と し て の 強 固 な
地 位 を 確 立 し て い る 。 24 」と い う 。日 本 で も リ ー マ ン シ ョ ッ ク 以 降 、独 立 系 VC
が 増 え つ つ あ り 、 日 本 の VC ひ い て は 、 独 立 系 VC に も こ の よ う な 役 割 を 担 う
ことが必要となってくるだろう。
また、
「 日 本 に も ベ ン チ ャ ー・エ コ シ ス テ ム を 確 立 し 、自 然 発 生 的 に ベ ン チ ャ
10
ーが生まれ、育っていく、そしてその好循環が持続する。そうした仕組みの構
築 を 目 指 さ な け れ ば な ら な い 。 25 」 と い う 。 未 だ ベ ン チ ャ ー 企 業 の 循 環 シ ス テ
ムは構築されていない日本だが、アメリカのような好循環の仕組みを取り入れ
ていこうとしているのである。しかし、日本でベンチャー・エコシステムを形
成するためには、
「 既 存 企 業 の 関 与 を 促 進 し 、不 足 す る 経 営 資 源 や 機 能 の 供 給 な
15
ど 、 ベ ン チ ャ ー 支 援 の ミ ッ シ ン グ リ ン ク (連 続 し て い な い 状 況 )を 解 消 し て い く
こ と が 重 要 で あ る 。26 」と い う 。さ ら に 、日 本 に 適 し た 形 で シ ス テ ム を 構 築 し 、
高水準なものにする為には時間もかかることが考えられる。日本にベンチャ
ー・エコシステムを導入するには、幾つかの課題を乗り越え、最適なシステム
を構築するための時間を要するだろう。
20
2- 2
シンガポールと日本の公的支援
まず、シンガポールの起業支援においては法人税率が低いといった税制面で
優 遇 が 挙 げ ら れ る 27 。 法 人 税 率 は 居 住 法 人 ・ 非 居 住 法 人 共 に 17% で あ り 28 、 国
25
内 出 身 の 企 業 だ け で な く 、世 界 か ら 起 業 家 を 集 め よ う と し て い る こ と が 分 か る 。
またベンチャー企業支援にも力を入れており、他の投資家と協力しスタート
24
25
26
27
28
斎 藤 ・ 山 本 (2014)p.14
日 本 経 済 再 生 本 部 決 定 (2016)p.6
野 村 (2015) p.92
日 本 の 法 人 実 効 税 率 は お よ そ 30%
谷 中 (2014)p.1
14
アップ企業への出資や助成金という自ら資金供給を担うだけでなく投資家への
支援も行っている。
図表 9
シンガポールの投資家支援プログラム
名称
条件
支援の内容
インキュベーター
開発
プログラム
革新的なスタートアップ企業を支
援するための独自のプログラムを
提供することができるインキュベ
ーターであること
適格性を満たすスタートアップ企
業 に 10 万 S ド ル 2 9 直 接 投 資
スタートアップへの投資経験を持
つ投資家・企業経営経験者・投資先
企業を育成する能力をもつ人物
スタートアップ企業の支
援に伴うインキュベータ
ーの費用を最大 7 割負担
エンジェル投資家
税額向上スキーム
5
2 年間の投資期間経過後
に 50 % の 税 額 控 除 ( 但 し
各年の税額控除額は最大
25 万 S ド ル )
(出 所 )北 野 (2015)よ り 取 得 、 抜 粋 し 筆 者 作 成
ス タ ー ト ア ッ プ 支 援 に お い て イ ン キ ュ ベ ー タ ー や VC 等 の 投 資 家 の 量 ・ 質 の
向上はベンチャーエコシステム確立に向けて重要な課題である。このような政
府の積極的な支援策への取り組みによるやり方もある。
10
〈日本の公的支援制度〉
ベンチャー企業への企業支援策は様々な形で推進されており、実施主体とし
ては経済産業省、総務省、文部科学省、地方自治体などの複数の主体が支援事
業を推進している。
15
政府によるベンチャー企業支援は主に経済産業省、中小企業庁によって行わ
れており、実際にベンチャー企業支援の業務を担当するのは独立行政法人中小
企業基盤整備機構などである。政府が直接ベンチャー企業に出資、融資するこ
とはない。政府は中小企業基盤整備機構を通じ、各地方自治体に設立したベン
チ ャ ー 財 団 へ 資 金 提 供 し ベ ン チ ャ ー 財 団 が 直 接 投 資 や 民 間 VC を 通 じ た 間 接 投
20
資を行うことにより、間接的にベンチャー企業を支援している。
政府は中小企業金融公庫や商工組合中央金庫、国民生活金融公庫の政府系金
融機関に出資している。
「 創 業 支 援 融 資 」、
「 新 規 事 業 貸 付 」と し て ベ ン チ ャ ー 企
29
シンガポールドル
10 月 28 日 時 点 で 1S ド ル = 75.55 円
15
10 万 S ド ル = 755 万 5 千 円
業向けに融資している。
ベンチャー企業への直接金融を行う公的機関は、中小企業投資育成株式会社
が あ る 。地 方 自 治 体 や 金 融 機 関 な ど に よ る 出 資 を 基 に 、
「財団法人ベンチャー復
興基金」を設立し、総合的な支援体制を整えている。
5
ベ ン チ ャ ー へ の 支 援 制 度 は 技 術・経 営・人 材・資 金 、制 度 面 で の 支 援 と し て 、
補助金、委託事業、制度融資、信用保証、出資、経営支援、組織法制、税制な
ど 様 々 な 形 の 施 策 が あ る 。 以 下 の 図 表 10 は そ れ を 表 し て い る 。
図 表 10
政府によるベンチャー企業への金融支援の仕組み
10
政府
中小企業基盤整備機構
中小企業金融公庫
商工組合中央金庫
15
国民生活金融公庫
保険
無利子融資
都道府県
信用保証協会
債務保証
融資
民間金融機関
ベンチャー財団
新規事業貸付
20
創業支援融資
融資
間接投資
直接投資
民 間 VC
ベンチャー企業
25
(出 所 )秋 山 ・ 松 岡 (2015) よ り 取 得 し 筆 者 作 成
補助金は返還の義務がないため使う側にとっては使いやすい。ただし、補助
金で購入した機械設備などは補助目的以外での利用が制限されるなど規制があ
る。また、通常の補助金は、補助事業をまず自己資金で実行し、事業完了後に
30
補助金を受け取る「精算払い方式」であることが多い。キャッシュフローの面
16
で注意が必要である。
委託事業は政府、自治体、独立行政法人などが本来実施する研究開発や調査
事業などを、民間企業に委託する形で資金を提供する。こちらも補助金同様に
資金の返還義務がない。事業の内容が限定されており、要件が絞られているが
5
事業費の全額が支給される場合が多い。
制 度 融 資 は 一 定 の 支 援 対 象 事 業 に 対 し て 、政 府 系 金 融 機 関 (日 本 政 策 金 融 公 庫
商 工 中 金 等 )や 自 治 体 、独 立 行 政 法 人 な ど か ら 資 金 を 融 資 す る 事 業 で あ る 。返 金
の義務はあるが、金利は民間企業よりも低く、貸出期間が長期、返済据え置き
期間があるなどの優遇がある。要件を満たせば融資を受けられるため支援を受
10
けるのが容易な施策である。
人材育成支援も行っており、政府、自治体、独立行政法人などで、ベンチャ
ー企業の経営ノウハウや、技術動向、業界動向等に関するセミナーや研修事業
を行ってベンチャー企業の経営の向上を図っている。より幅広い運動として、
「創業ベンチャー国民フォーラム」や「ドリームゲート」などのイベントを通
15
じ て 、 創 業 や ベ ン チ ャ ー を 盛 り 上 げ る 運 動 を し て い る 。 30
起業側は多様なベンチャー支援施策の中から、適切なものを選択し活用する
こ と が 大 切 で あ る 。 行 政 官 は 施 策 の プ ロ で あ る が 、 経 営 の プ ロ で は な い 。 31 こ
のことから筆者は起業家が今後の経営戦略を検討し、適切な支援策を検討する
ことが大切だと考えた。そしてシンガポールのインキュベーター開発プログラ
20
ムに見られるようにハンズオン支援の能力がある投資家向けの大胆な制度改革
というのも必要だろう。
2- 3
25
イスラエルのベンチャー企業
図 表 5 に お い て 、VC 投 資 の 対 GDP 比 の 1 位 は 、ア メ リ カ で は な く イ ス ラ エ
ル で あ っ た 。 イ ス ラ エ ル は 地 中 海 沿 岸 の 国 で あ り 、 面 積 は 2.2 万 ㎡ と 日 本 の 四
国 地 方 程 度 の 広 さ で あ り 、 人 口 は 約 818 万 人 と 先 進 国 と 比 較 し 小 国 で あ る が 、
30
創 業 ベ ン チ ャ ー 国 民 フ ォ ー ラ ム 、ド リ ー ム ゲ ー ト で は 、ベ ン チ ャ ー 企 業 創 業 者 ま た は 支
援 者 の 表 彰 や HP で 多 様 な 情 報 を 提 供 し て い る 。
31 松 田 修 一 (2011)p.47
17
データが示す通り、ベンチャー企業の活動が活発な国である。環境の特徴とし
て「例えば、兵役に就いた期間に習得した軍事の知見を基に、兵役終了後に民
間転用することはよくあるようだ。また優れた技術や発想を持った企業を資金
面 で 支 援 す る ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル の 存 在 な ど も 指 摘 さ れ る 。 32 」 と イ ス ラ エ
5
ルの起業マインドの高い、社会環境や事業シーズ、投資家のシステムが挙げら
れる。またイスラエルは「急激な発展を遂げた国のため、大企業のような『安
定企業』が少ないこと、または不安定な政情のため大企業まで発展させるとい
った考えが少ないこと、不安定な政情による危機意識の高い『挑戦思考』の国
民 性 で あ る こ と 33 」 な ど か ら 、 日 本 よ り も 非 常 に 高 い 起 業 家 精 神 を 持 っ て い る
10
といえる。
図 表 11
R&D 支 出 の 対 GDP 比 率
OECD 加 盟 主 要 国 の 比 較 ( % )
イスラエル
韓国
フィンランド
日本
スウェーデン
ドイツ
米国
フランス
英国
イタリア
0
(出 所 )
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
OECD, Main Science and Technology Indicators, Volume 1013 Issue 1
15
そして非常に優れた技術を持っている企業を腐らせず、投資家側からも盛り
立 て る 仕 組 み が 出 来 上 が っ て い る と い え る 。 イ ス ラ エ ル は IT 系 ベ ン チ ャ ー が
多く、旧ソ連の移民流入から、優れたプログラマーが多く確保できたことも起
因している。
「 た だ こ う し た ベ ン チ ャ ー 企 業 の 中 に は 創 業 視 点 で 、い い 技 術 は 持
20
っていても資金がないというケースが少なくない。こうした企業を支えるのが
32
33
松 本 (2014)p.66
独立行政法人 科学技術振興機構 研究開発戦略センター
18
VC で あ る 。 34 」と 、イ ス ラ エ ル の VC が 世 界 に 通 用 す る 事 業 を 支 援 す る こ と に
大きな役割を担っていることがわかる。
株 式 会 社 サ ム ラ イ イ ン キ ュ ベ ー ト 35 、代 表 取 締 役 の 榊 原 氏 は 、
「 日 本 で は 、企
業して成功し、お金を得ると、それで上がりと考える起業家が多いが、イスラ
5
エ ル の 場 合 は 、 得 た 資 金 や ノ ウ ハ ウ を も と に 、 も う 一 度 起 業 し た り 、 VC を 設
立 し た り と 、 次 の 投 資 に 向 け て 動 き 出 す 。 36 」 と 日 本 と 比 較 し な が ら 述 べ 、 さ
らに「イスラエルは起業家も多いが、それ以上に投資家も多く、日本に比べ、
起 業 家 の 資 金 ル ー ト は 圧 倒 的 に 幅 広 い と 言 え る 。 37 」 と も 述 べ て い る 。
10
以上のベンチャー投資が旺盛な 3 ヶ国のベンチャー投資に関する環境を挙げ
た。いずれも資金出資元たる投資家の動きがベンチャー市場活性化に向けて、
大きな要素を持っていると感じた。もちろん投資家だけでなく、それに準ずる
ベンチャー企業のステークホルダーや各国政府の動きも重要である。これらを
日本で見ると成長意欲のある未上場企業へのリスクマネーの主な供給元である
15
VC の 動 き が 重 要 で あ る と 感 じ た 。VC が 中 心 と な っ て ベ ン チ ャ ー 企 業 の 資 金 調
達を担っていくべきだと考える。
2- 4
20
小括
世界各地から企業が集まり、シリコンバレーが有名なアメリカ、ベンチャー
キ ャ ピ タ ル に 手 厚 い 公 的 支 援 を 行 っ て い る シ ン ガ ポ ー ル 、VC 投 資 の 対 GDP 比
が 1 位のイスラエルの三国との比較を行った。
ま ず 、ア メ リ カ で は 、ベ ン チ ャ ー ・エ コ シ ス テ ム と い う 、ベ ン チ ャ ー 企 業 の 好
循環なシステムが構築されていることで、ベンチャーへの資金供給額も世界と
25
比べて高いものになると考えられた。しかし、今の日本には、アメリカのよう
なシステムは構築されていない。なぜなら、不足する経営的資源や機能の供給
34
堀 江 (2013)p.15
「 3 回 に わ た り 、 2014 年 7 月 よ り イ ス ラ エ ル の テ ル ア ビ ブ に 居 を 移 し 、 ベ ン チ ャ ー 投
資 を 行 っ て い る 会 社 」 ベ ン チ ャ ー エ ン タ ー プ ラ イ ズ セ ン タ ー (2016)よ り 引 用
36 ベ ン チ ャ ー エ ン タ ー プ ラ イ ズ セ ン タ ー (2016) イ ス ラ エ ル 通 信 Vol2
37 ベ ン チ ャ ー エ ン タ ー プ ラ イ ズ セ ン タ ー (2016) イ ス ラ エ ル 通 信 Vol2
35
19
といった問題があり、日本に適したシステムを構築し、高水準なものにするに
は時間がかかることを指摘した。しかし、ベンチャー・エコシステムの重要性
から、導入に向けて動いていることがわかった。日本においては、こうした問
題や課題を乗り越え、アメリカのようなベンチャー・エコシステムを構築し、
5
導入していけることを期待したい。
次 に 、シ ン ガ ポ ー ル の 投 資 家 へ の 支 援 は 、法 人 税 率 が 低 い こ と か ら は じ ま り 、
投資家同士が協力し合って、スタートアップ企業への出資や助成金という支援
が行われていることがわかった。日本も公的支援が充実していないわけではな
い。しかし適用範囲を広げなくてはならず、特に能力の高い投資家に向けた制
10
度改革というのも必要だろう。
イ ス ラ エ ル は ベ ン チ ャ ー 企 業 が 育 つ こ と が で き る 国 風・文 化 と い え る だ ろ う 。
企 業 立 ち 上 げ に 意 欲 的 な 人 物 が 多 く 、 企 業 に 資 金 を 投 下 す る VC と い っ た 投 資
家も多い上に積極的だ。
いずれも今の日本に無いものを持っており、その要因がベンチャー市場の活
15
況に繋がっている。日本も活況化に向けて動かなくてはならない。とりわけリ
ス ク マ ネ ー 供 給 の プ レ ー ヤ ー で あ る VC の 存 在 が 大 き い と 思 い 、第 3 章 で は VC
について、それにベンチャー企業自身の問題も述べていこうと思う。
第 3章
ベンチャーキャピタルとベンチャー企業の課題
20
2 章で述べたように、日本ではベンチャー企業に対する支援が諸外国と比較
しても、十分とはいえない状況にある。そこで、ベンチャー企業が発展するた
め の サ ポ ー ト と し て 、ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル( VC)に よ る 投 資 活 動 を 活 性 化 さ
せることが重要であると考えた。
25
3- 1
VC の 必 要 性 と 企 業 評 価 方 法
ベ ン チ ャ ー 企 業 へ の 有 力 な 投 資 先 と し て 、ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル( VC)が 挙 げ
ら れ る 。 VC と は 、 ハ イ リ ス ク ・ ハ イ リ タ ー ン を 目 指 す 株 式 投 資 資 金 の 供 給 シ
30
ステムのなかったアメリカが、経済衰退を恐れ、大学や財界の協力、銀行の人
20
材と資金を使って、米国政府が設立されたものがそもそもの始まりである。
VC と い う 投 資 家 は 、「 ベ ン チ ャ ー 企 業 に 資 金 を 提 供 す る だ け で な く 、 経 営 ノ
ウ ハ ウ や 人 材 を 提 供 す る 支 援 を 行 う こ と が あ る 38 」 と し て 注 目 さ れ て い る 投 資
家である。
5
<ベンチャーキャピタルの企業価値の評価方法>
図 表 12
10
ベンチャーキャピタル投資の流れ
( 出 所 ) 忽 那 憲 治 ( 2011 ) よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
上 記 の 表 か ら 、 VC の 投 資 活 動 は 4 つ の プ ロ セ ス か ら 構 成 さ れ て い る こ と が
わかる。また、このどれかが欠けても投資は成り立たないことを表している。
第 1 に、資金調達のプロセスである。これは、ベンチャー企業へ投資するた
15
めの資金を、機関投資家やグループ企業などから調達し、投資ファンドを組成
する。運用期間が終了することで、このファンドは解散となり、出資者にリタ
ーンが配分される仕組みだ。第 2 に投資審査、価値評価、投資契約、投資の 3
つを合わせたプロセスである。実際に投資する企業を選び、投資審査を通過し
た企業については、詳細を細かく定め、投資契約を実際に結んだうえで実際の
20
投資を行う。
「 投 資 先 企 業 で あ る ベ ン チ ャ ー 企 業 (お よ び 経 営 者 )の モ ラ ル ハ ザ ー
ド、逆選択、ホールドアップ問題を回避するために、複雑な契約条件を組み込
38
ベ ン チ ャ ー ビ ジ ネ ス 研 究 1 追 手 門 学 院 大 学 ベ ン チ ャ ー ビ ジ ネ ス 研 究 所 ( 2016 ) よ り 引
用 (https://www.otemon.ac.jp/research/labo/venture/ )
21
ん だ 投 資 契 約 を 結 ぶ と い う 点 も 、VC 投 資 の 特 徴 の 一 つ で あ る 。 39 」と い う 。第
3 にモニタリングと価値の付与のプロセスである。実際に投資した企業が順調
に 成 長 し て い る か を 監 視 す る と と も に 、そ の 企 業 の 重 要 な 役 員 に な る な ど し て 、
経営にも大きく関わることで、価値を高めていく。これは、ベンチャーキャピ
5
タリストの役割の一つとして注目されており、この価値を高められるかどうか
は、キャピタリストたちの能力や専門性、ネットワークにかかっている。第 4
に資金回収のプロセスである。理想的には多額のキャピタルゲインが見込める
IPO や M&A な ど に よ っ て 、 投 資 資 金 を 回 収 し 、 リ タ ー ン な ど の 収 益 を フ ァ ン
ドの出資者に配当・還元することをいう。
10
長 谷 川 氏 に よ る と 、「 米 国 の ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル の 場 合 に は 、 ほ と ん ど が
DCF 方 式 40 で あ る の に 対 し て 、 日 本 の 場 合 は 、 こ れ ま で 、 純 資 産 方 式 や 類 似 業
種 ・ 会 社 比 準 方 式 で 評 価 す る 割 合 が 多 か っ た 。 41 」 と い う 。 そ の 理 由 と し て 、
「 日 本 で は 、未 公 開 企 業 の 取 引 価 格 と い う 相 続 税 法 の 考 え 方 根 強 く 残 っ て お り 、
公開審査をする証券会社、取引銀行、場合によってはベンチャーキャピタルま
15
で が『 税 法 基 準 』の バ リ ュ エ ー シ ョ ン を 主 体 に 考 え て い る 。」こ と を 挙 げ て い る 。
つまり、米国では、長期的な投資効果を予測するものに対して、日本では会社
の時価総資産や、上場する会社や類似企業の利益、配当、純資産による評価額
を 企 業 の 評 価 額 だ と す る こ と が 多 い の で あ る 。 国 税 庁 の HP に よ る と 、 類 似 業
種・会 社 比 準 方 式 の 3 つ の 要 素 の う ち 2 つ が 0 の 場 合 な ど の 取 引 相 場 の な い 株
20
式について、
「 原 則 と し て 、同 族 株 主 以 外 株 主 等 が 取 得 し た 株 式 に つ い て は 、そ
の株式の発行会社の規模にかかわらず原則的評価方式に変えて特例的な評価方
式 配 当 還 元 方 式 で 評 価 」す る と い う 。ま た 、
「 小 会 社 は 、原 則 と し て 、純 資 産 価
格方式によって評価」するといわれている。今では有名なあのホンダの創業間
も な い 頃 は 、「 1954 年 に 株 式 の 店 頭 販 売 を 開 始 し 、 資 本 金 を 6000 万 円 に 増 資
25
す る が 、一 方 で 設 備 投 資 額 は 15 億 円 に ま で 跳 ね 上 が っ た 42 」と い う 。そ れ ほ ど
ベンチャー企業にとって設備投資とは重要なものだと言えよう。しかし、その
大事な設備投資資金を資本金だけでまかない切れるとは言いがたい。よって企
39
40
41
42
ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ ル に よ る 新 産 業 創 造 忽 那 憲 治 日 本 証 券 経 済 研 究 所 (2011)
Discounted Cash Flow( 割 引 現 在 価 値 )法
長 谷 川 (2007)p.175
米 倉 誠 一 郎 (2006)p.51
22
業が、設備投資のために負債を増やすことになった場合、純資産方式では、負
債のある企業の評価は小さくなってしまうという問題が生じる。よって、これ
らの方法は、ベンチャー企業に適しているとは言えない。
5
3- 2
VC へ の 資 金 出 資 に お け る 課 題
VC が ベ ン チ ャ ー 投 資 を 担 う に あ た っ て 、 そ も そ も VC が ベ ン チ ャ ー 企 業 に
投資するお金は誰が出資しているのかという点がある。
10
図 表 13
日 本 、 ア メ リ カ 、 欧 州 の VC の 出 資 構 成
日本
アメリカ
5%
22%
10%
2%
31%
42%
21%
18%
1%
4%
25%
19%
年金基金
金融機関
大学基金
事業法人
GP
その他
個人
年金基金
金融機関
個人
事業法人
欧州
16%
26%
8%
9%
24%
13%
15
年金基金
金融機関
ファンドオブファンズ
個人
政府系機関
その他
(出 所 )経 済 産 業 省 (2007)よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
23
大学基金
日本とアメリカ・欧州と比較してみると年金基金の出資者割合に大きな差が
出 て い る こ と が わ か る 。 年 金 基 金 の 出 資 金 額 を 日 本 円 に 直 す と 米 国 13 兆 円 、
欧 州 6.4 兆 円 、 日 本 440 億 円 と な る 43 。 こ れ は 設 立 経 緯 か ら し て 子 会 社 的 扱 い
で な い 特 性 を 持 つ 独 立 系 VC が 、 ア メ リ カ で は 多 い 故 に 、 年 金 基 金 等 の 出 資 が
5
多 か っ た か ら と も い え る 。 ど ん な 組 織 で も 独 立 系 VC に 出 資 で き る と い う こ と
で あ る 。 逆 に 日 本 は 金 融 機 関 系 VC が 多 い た め に 金 融 機 関 の 出 資 比 率 が 多 い と
考 え ら れ る 。 VC が 使 う こ と が で き る 資 金 額 は そ の ま ま 投 資 額 に も 反 映 さ れ る
であろう。投資額が大きいアメリカでは超多額の資金を持つ投資家がベンチャ
ー キ ャ ピ タ ル に 投 資 を し て い る 。 結 果 ア メ リ カ の VC の 投 資 額 は 大 き く な る 。
10
日 本 の VC が 資 金 を 使 っ て い な い わ け で は な く ベ ン チ ャ ー 投 資 に 回 る お 金 自 体
がたりないのだ。ベンチャー投資を行わない年金基金の理由として「ファンド
内での投資対象の詳細が判らず、投資期間も固定されるような流動性のない
VC に は 基 本 的 に 投 資 で き な い し 、 投 資 し て も 良 い と 思 わ せ る だ け の 十 分 な 情
報が提供されていない。しかし、コンサルタント等の第三者から定量分析情報
15
やマネージャーに関する定性分析情報が提供されれば投資を考える可能性もな
い で は な い 。 何 よ り も 投 資 を す る た め の 前 提 と し て 、 年 金 基 金 と VC フ ァ ン ド
と の 信 頼 関 係 を 構 築 す る こ と が 不 可 欠 で あ る 。 44 」 と あ る 。 こ の よ う な 年 金 基
金のベンチャー投資に対する懸念を払拭することがベンチャー資金を増やす為
に必要不可欠である。
20
3- 3
ベンチャー企業における課題
図 表 5 は ス テ ー ジ 別 の 資 金 調 達 額 で あ る 。創 業 時 点 で は 創 業 者 の み の ブ ー ト
ス ト ラ ッ ピ ン グ 45 で 活 動 し て い る 状 態 で あ る 。 そ し て シ ー ド 期 の 後 半 に 入 り 、
25
資金提供を要したとき、家族・親族などの支援や、エンジェル投資家と呼ばれ
る 人 々 か ら 調 達 を 受 け る 。そ う し て 次 の 段 階 と な る ス タ ー ト ア ッ プ 期 に お い て 、
ベンチャーキャピタルからの大型な資金調達が見込め、最後に金融機関からの
43
44
45
経 済 産 業 省 (2007) p.7
大 和 総 研 (2009)p.14
自己資金だけで創業する人
24
融資と考えるのが一般的である。
その理由として「創業期のベンチャー企業は一般的に企業価値が低く、保証
人や担保物件による債権保全価値を重視する従来の金融システムにおいては、
銀 行 等 の 金 融 機 関 か ら 融 資 を 受 け る こ と が 困 難 な 状 況 46 」で あ る か ら と い え る 。
5
また、スタートアップ期までの企業は未知数の業務内容が多いことから、必然
的にリスクが大きくなることも融資が困難となる要因である。よってシード期
はリスクが大きい、株主資本コストはかなり高くなる。負債コストはほぼ金利
と捉えることができハイリスク・ハイリターンの原則から株主資本コストより
低くなる。一方、アーリー期以降の企業が成長し売上・利益が上昇し、財務諸
10
表も良くなっていく企業に対しては、信用力も上がり、調達額を多くすること
ができる。ベンチャーキャピタル等の直接金融だけでなく銀行・信用金庫とい
った間接金融という直接金融と比べ資本コストの低い調達方法ができるように
なってくる。
15
図 表 14
未 公 開 企 業 の 1 社 あ た り 資 金 調 達 額 の 中 央 値 (ス テ ー ジ 別 )
800
金
額 600
中
円 央 400
)値
(
百 200
万
0
IndividualInveator
Seed
1st
2nd
3rd
2012
2013
2014
4th
( 出 所 )ジ ャ パ ン ベ ン チ ャ ー リ サ ー チ「 2014 年 未 公 開 ベ ン チ ャ ー 企 業 の 資 金 調 達 の 状 況 」
(2015)参 照 に 、 筆 者 が 作 成
20
そのため、ステージごとに資金調達を見た場合特に問題となるのは前の段階
となるシードやスタートアップの段階なのである。多くのベンチャーを発展さ
せ、ベンチャー投資を旺盛にしていくためにも初期段階の資金調達を円滑に行
えるようにする必要がある。
「この段階では事業化プランを作成して将来の見通
しを予測することが困難であることから一般投資家を説得することは難しい。
46
秋 山 ・ 松 岡 (2009)p.53
25
したがってこの段階で一般の投資家から起業準備資金を調達することは極めて
困 難 で あ る 。 47 」 と も あ り 逆 か ら み れ ば 、 そ こ を 乗 り 越 え 、 成 長 す る こ と が で
きれば多くの投資家に目を向けてもらい多額の資金を調達しユニコーンの輩
出 ・ IPO と い っ た 更 な る 飛 躍 が で き る の で は な い か 。 資 金 調 達 に 限 ら ず シ ー ド
5
やスタートアップの段階から成長していくための多くの課題を解決する必要が
ある。
(シ ー ド 期 と ス タ ー ト ア ッ プ 期 の 間 : 死 の 谷 )
ベンチャー企業は創業後すぐに事業を行うわけではなく、シード期と呼ばれ
10
る 間 に お い て 事 業 コ ン セ プ ト を 構 築 し 、製 品・サ ー ビ ス 開 発 を 始 め る 。つ ま り 、
実際に収入を得るまでの間の開発費や人件費は全て内部留保でまかなわなけれ
ばならない。今現在、ベンチャー企業に対する投資実行されるのはアーリー期
以降の商品やサービスを市場に出し商品化されてからが圧倒的に多い。起業家
に と っ て 、実 際 に 安 定 し て 収 入 を 得 る こ と が で き る 創 業 3 年 間 が 一 番 苦 し い 時
15
期 48 と も 言 わ れ て い る ほ ど 、 日 本 の ベ ン チ ャ ー 企 業 に と っ て の 課 題 が 多 い 段 階
である。こういった事業コンセプトを作り出し、実際にビジネスモデルが確立
するまでの間を「死の谷」と呼ばれる。
(ス タ ー ト ア ッ プ 期 と ア ー リ ー 期 の 間 : ダ ー ウ ィ ン の 海 )
20
シ ー ド 期 か ら ス タ ー ト ア ッ プ 期 に 進 む 際 、問 題 と な る の が 、
「ダーウィンの海」
とよばれる現象である。実際にビジネスをして利益をあげるまでには、開発作
業と平行して、日々の資金繰りのプランニング・人材採用・販売先の確保・販
路 拡 大 ・ 営 業 ・ 経 営 の 知 識 (財 務 ・ 法 務 )の 取 得 な ど を 行 う 必 要 が あ る 。 こ う い
っ た 業 務 で は よ り 、高 度 な 専 門 知 識 や マ ー ケ テ ィ ン グ 、人 脈 ま で も 必 要 と な る 。
25
戦略に基づいたビジネスを行わなければ、市場競争の中で製品の自然淘汰が行
わ れ て し ま う 。革 新 的 な 新 製 品 が 開 発 さ れ て も 、こ の 問 題 を 乗 り 越 え な け れ ば 、
次の段階に進むことはできない。
47
48
鯨 井 ・ 坂 本 (2008)p.93
進 藤 (2015)p.50
26
図 表 15
死の谷とダーウィンの海の概要
「死の谷」
5
「ダーウィンの海」
基礎研
資金が無い場
究と発
合落ちてくる
イノベーションと
ニュービジネス
技術リスクと開発リス 実行可能な
クで自然淘汰される
ビジネス
明
(出 所 )米 国 NIST 参 照 に 筆 者 作 成 (URL) https://www.wispro.org/
10
事例:大学発ベンチャーの事例
大学の研究成果を事業化する大学発ベンチャーも近年注目されている。大学
発ベンチャーの特徴は、ヒトやカネより、モノである技術を重視している点だ
と筆者は考える。一般のベンチャー企業とは違い、競合他社で行われていない
研究開発が多いのも大きな特徴として挙げられる。
15
図 表 16
~20
33.50%
大学発ベンチャーの研究開発の特徴
39.70%
26.80%
21~50
23.60%
51~100
20.10%
41.80%
38.10%
101~300
19.30%
46.00%
34.80%
301~ 11.00%
59.10%
大学発VB
49.20%
43.00%
33.50%
29.90%
45.60%
11.50%
競合他社で全く行われてい
ない研究開発が多い
自社で先行しているが、競
合他社も追随している研究
が多い
自社に比べ競合他社が先
行している研究開発が多い
0.00% 20.00% 40.00% 60.00% 80.00%100.00%
株 式 会 社 価 値 総 合 研 究 所 編 ( 2007 ) よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成 。
20
図表 6 を見ると大学発ベンチャーの研究開発には有用なものが多いと捉える
ことができる。イノベーションの新たな開拓より商品が完成した場合、大きな
利益を狙える見込みがある。
し か し 「 平 成 27 年 度 調 査 で 新 た に 存 在 が 把 握 で き た 大 学 発 ベ ン チ ャ ー 196
27
社 の う ち 、 平 成 27 年 度 に 新 設 さ れ た も の が 52 社 、 平 成 27 年 度 以 前 に 設 立 さ
れ て い た が 平 成 26 年 度 調 査 で 把 握 で き な か っ た も の が 144 社 で あ り 、平 成 26
年 度 以 降 に 閉 鎖 し た 大 学 発 ベ ン チ ャ ー は 、172 社 あ っ た こ と を 報 告 し て い る 。49 」
ともある。このことから有用かつ勝てる見込みのある技術が広がっていかない
5
ことがわかる。素晴らしい商品ができあがったとしても、経営ノウハウやマー
ケティング力が無いことや販路が開拓できないことで技術が埋もれてしまって
いるのである。技術が自然淘汰されてしまうダーウィンの海の事例である。い
くら研究開発が良くとも利益創出の力が無い場合成長できないのである。良い
技術のベンチャーを救う意味合いは多く、社会的意義の高い企業を救うために
10
も販路開拓の支援を担える支援者が必要である。
つまり、ベンチャー企業は、技術と事業の「二重の創業リスク」を抱えてい
る 50 と い え る 。実 際 に 図 の ア ン ケ ー ト 結 果 に よ る と 、ベ ン チ ャ ー 企 業 に お い て 、
抱える問題は資金調達のみならず、幅広い面であるとわかる。
15
図 表 17
安定・拡大期における起業形態別の起業・事業運営上の課題
新たな製品・商品・サービスの開発
製品・商品・サービスの高付加価…
15.8
12.0
19.8
15.1
質の高い人材の確保
自社の事業・業界に関する知識の…
販路開拓・マーケティング
経営に関する知識の習得
企業・事業運営に伴う各種手続き
資金調達
37.5
35.0
37.7
35.7
40.6
33.8
43.6
43.5
グローバル成長型
地域需要創出型
53.6
55.9
59.4
55.7
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0
(出 所 )中 小 企 業 庁 (2013)よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
創業初期の企業はまだ商品の開発・販売などのビジネスモデルが確立してお
49
50
経 済 産 業 省 (2015)p.3
西 澤 (2010)p.17
28
らず、会社として社会に対して負っているものも少ない。従ってこの段階では
ガバナンスを意識するよりも、創業者一人で会社をコントロールできるように
してしまう方が良いと考え、独自で経営を行う経営者も多い。こうして次の期
に進む際に「ダーウィンの海」の問題にぶつかってしまいやすいのである。実
5
際 、IAIJ に お け る 、ア ー リ ー 期 の リ ス ク は「 創 業 期 企 業 に お い て 発 生 す る で あ
ろ う リ ス ク の 種 類 は 17 種 類 51 、 74 項 目 に も 上 が っ た 。 も ち ろ ん こ れ ら の リ ス
ク の 種 類 と 項 目 は 、事 業 分 野 や 事 業 規 模 、 事 業 の ス テ ー ジ に よ っ て も 違 い が あ
り 、す べ て の 創 業 期 企 業 に 一 律 に 起 こ る 訳 で は な い 。」 52 と も い う 。こ れ ら の リ
スクをアーリー期において創業者のみでカバーしてくことは困難と考える。
10
そ の よ う な 企 業 を 助 け る の が VC と 考 え る 。 資 金 を 持 ち 、 多 く の ベ ン チ ャ ー
企 業 と 繋 が り 、 投 資 ノ ウ ハ ウ 等 多 く の 情 報 を 持 っ て い る 。 VC は 出 資 と 同 時 に
ベンチャー企業のメンターとして出資先企業の経営に関与しなければならない。
い わ ゆ る 「 ハ ン ズ オ ン 型 53 」 と 言 わ れ る 形 態 で あ る 。「 VC は 決 し て 投 機 的 な 投
資 を 行 っ て い る わ け で な い ・ む し ろ そ の 反 対 で あ る 。 出 資 後 は VB の 経 営 に 積
15
極 的 に 関 わ り ,経 営 の ノ ウ ハ ウ ,人 的 ネ ッ ト ワ ー ク な ど を 提 供 す る こ と に よ り ,
描 い た 成 長 経 路 に 沿 っ た 着 実 な 成 長 を 目 指 す ( ハ ン ズ オ ン 的 投 資 的 投 資 手 法 )。
54 」 と い う よ う な 方 針 が 全 体 に 必 要 で あ る 。 特 に ス タ ー ト ア ッ プ の 段 階 で は 前
節で述べたように少しのミスで経営が立ち行かなくなるような問題が多い。
「死
の谷」
「 ダ ー ウ ィ ン の 海 」を 共 に 通 り 抜 け て い け る よ う な 出 資 者 か つ 支 援 者 で な
20
ければならない。
3- 4
小活
ベ ン チ ャ ー 企 業 の 発 展 の た め に 、 そ の 有 力 な 投 資 先 と し て 挙 げ ら れ る VC に
51
① 起業家による公私混同と倫理観の欠如 ② 経営トップの資質(起業家の経営能力)
③ 起業家の病気や事故 ④ 反社会的勢力の経営参加および取引 ⑤ 経営戦略立案のまず
さ と 意 思 決 定 ミ ス ⑥ 資 金 繰 り ⑦ 商 品 不 良・ア フ タ ー サ ー ビ ス 不 良 ⑧ 法 令 違 反 や 権 利
の登記漏れ ⑨ 社員の採用不能や労務トラブル ⑩ 資産の破壊・盗難・事故 ⑪ 販売不振
と顧客トラブル ⑫ 技術開発力不足 ⑬ 製造能力不足 ⑭ 環境汚染等トラブル ⑮ 情報
システムトラブルとセキュリティー ⑯ 風評 ⑰ 海外取引に関わる事故
52 IAI ジ ャ パ ン 「 創 業 期 企 業 に お け る 企 業 統 治 の あ り 方 」 p.3(2002)
53 手 を 乗 せ る と い う 意 味 で あ り 、こ こ で は VC が 出 資 先 の 社 外 取 締 役 等 に な り 、経 営 に 深
く関わることを言う。
54 高 見 ・ 蜂 谷 (2002)p. 133
29
つ い て 、 支 援 し て い く べ き だ と 考 え た 。 ま ず 、 VC と は 、 単 に 資 金 を 企 業 へ 投
資するだけでなく、投資した企業へ経営的支援を行ったり、人材的支援を行っ
た り す る こ と を 期 待 さ れ て い る 。 よ っ て 、 企 業 に と っ て VC は 、 資 金 面 で も 、
そ の 他 多 方 面 に お い て 、有 力 で 必 要 と さ れ て い る 投 資 家 だ と い え る 。で は 次 に 、
5
そ う い っ た 能 力 や ノ ウ ハ ウ を 持 っ て い る VC は ど の よ う に し て 、 投 資 す る 時 に
その投資先を決めているのか。それは、4 つのプロセスから見たように、資金
を調達し、投資審査や価値評価等を行い、監視することで企業価値を高め、最
終的には投資資金を回収していく流れがわかった。実際に、米国ではそのほと
ん ど が 、DCF 方 式 で 長 期 的 な 投 資 効 果 を 予 測 す る も の に 対 し て 、日 本 の 多 く の
10
投 資 家 は 、時 価 総 資 産 や 純 資 産 方 式 で 求 め ら れ て い る 。数 値 的 デ ー タ が 少 な く 、
設備投資が重要とされるベンチャー企業には適しているとは言いがたい。
次 に 、第 1 の プ ロ セ ス で あ る VC の 資 金 調 達 に つ い て 、ア メ リ カ ・欧 州 と 比 較
すると、圧倒的に年金基金の割合に大きな差があった。また、投資額が多いア
メリカでは、超多額の資金を持つ投資家が、ベンチャーキャピタルに投資して
15
る こ と か ら 、 日 本 に 比 べ 、 そ の 額 は 大 き く な っ て い る 。 し か し 、 日 本 の VC が
資金を使っていないわけではなく、ベンチャー投資に回るお金そのものが不足
しているのである。よって超多額の資産運用額を持つ投資家のベンチャー投資
に対する懸念を払拭することが、資金を増やすためには必要不可欠である。
ベンチャー企業の課題として、創業期における資金調達は、企業価値が低く
20
見られることから、家族やエンジェル投資家と呼ばれる人からの支援が多く、
銀行や信用金庫といった間接金融での資金調達は難しい。よって、創業期であ
るシード期やスタートアップ期と呼ばれる段階への支援が必要であると考えた。
しかし、ベンチャー企業にとっての課題は、それだけに留まらず、死の谷やダ
ーウィンの海といった壁が立ちはだかっている。
25
ベ ン チ ャ ー 企 業 と VC に は 以 上 の よ う な 課 題 が あ る 。 そ れ ら を 克 服 で き な け
れ ば 成 長 に は 繋 が ら な い 。第 4 章 で は 課 題 克 服 の た め の 理 想 に つ い て や 考 え 方 、
工夫や枠組みについて述べていく。
30
30
第 4章
4- 1
5
ベンチャー企業の抱える問題への解決策
日本のベンチャーエコシステムの理想
今まで述べてきた課題を含め、日本のベンチャー投資環境はまだまだ未成熟
である。日本の経済成長にはベンチャーの成長は欠かせず、故にベンチャーに
おける課題を解決していかなければならない。そして日本における有効なベン
チャーエコシステムを確立することが理想である。内閣に設置された日本経済
再 生 本 部 が 策 定 し た「 ベ ン チ ャ ー チ ャ レ ン ジ 2020」で は 現 在 、我 が 国 に は ベ ン
10
チャーエコシステムは存在しないとし、日本にもベンチャーエコシステムを確
立し、自然発生的にベンチャーが生まれ、育っていく、そしてその好循環が持
続 す る 。 そ う し た 仕 組 み の 構 築 を 目 指 さ な け れ ば な く て は な ら な い 55 と し て い
る。
エコシステム確立におけるベンチャーに関わるべき各組織の連携が必須であ
15
る 。「 こ の と こ ろ ベ ン チ ャ ー 企 業 、 大 企 業 、 VC な ど の 支 援 者 、 大 学 ・ 政 府 の 4
者の結びつきを深める共創活動を目的としたネットワーク活動が相次いでいる。
56 」 と あ ら ゆ る 組 織 が ベ ン チ ャ ー エ コ シ ス テ ム を 作 り 上 げ る 上 で 欠 け て は な ら
ないものである。
そ の 中 で も ベ ン チ ャ ー 企 業 と 共 に 現 場 の 人 間 で あ る VC の 活 動 が エ コ シ ス テ
20
ム構築において肝要だと筆者は考える。特にエコシステムの中身の資金供給に
おいては他の組織と比べ、一際重要な役割を持っているといえるだろう。ハン
ズオン支援も忘れてはならない。
「 VC が 大 手 企 業 や 主 要 な 個 人 消 費 者 へ の ア プ
ロ ー チ を 支 援 し 、「 口 座 開 設 」 を 容 易 に す る と い う 営 業 支 援 機 能 が 、日 本 の VC
に は ア メ リ カ よ り も 大 き く 期 待 さ れ て い る 。(中 略 )VC が 業 界 で の 人 脈 を 生 か し
25
て適切な人材の紹介をするとともに、ベンチャー企業で働くことのリスクとリ
タ ー ン を 整 理 し て 示 す こ と で 人 材 調 達 の ハ ー ド ル を 低 く す る こ と が で き る 。57 」
とベンチャー企業が大きく悩む課題に現場の人間・株主として対応ができ、期
55
56
57
日 本 経 済 再 生 本 部 「 ベ ン チ ャ ー チ ャ レ ン ジ 2020 」 (2016)p.2 参 照
長 谷 川 (2014)p.23
忽 那 ・ 長 谷 川 ・ 山 本 (2006)pp436 -437.
31
待 さ れ て い る 。 VC に は 企 業 成 長 の た め の 経 営 支 援 ・ 資 金 供 給 が 求 め ら れ て い
ると言えるし、枠組みを作ることが必要と考える。
4- 2
既存のツールの有効活用
5
ベンチャー企業が運転資金という資金繰りで問題に当たった際に企業個々は
機転を利かして如何にしのいだら良いのか。つまり企業自身が工夫を凝らし、
どのような今の資金調達方法を選択するか。また資金難に陥らないように初期
の資金を効率的に使うかも重要である。苦しい場面をしのいでこそ、次の成長
10
を 望 む こ と が で き 、 VC 等 か ら 大 き な 資 金 調 達 を す る こ と が で き る 。
〈コミットメントライン活用による運転資金の調達〉
コミットメントラインとは契約の融資枠の範囲内であれば、事業者はいつで
も迅速に、必要になったときに金融機関から融資を受けられる手法である。金
15
融機関は事業者から融資を申し込まれたら断ることができない。コミットメン
トライン契約は、急に資金を必要する事態や、資金ショート等の不測の事態へ
の 対 抗 策 と し て 有 効 で あ る 。 つ ま り 運 転 資 金 58 の 調 達 方 法 と し て 有 効 性 が 高 い
ものと思われる。
20
図 表 18
コミットメントラインの各方式の概要
契約者
融資額
事業者の規模
バイラテラル方式
個別の金融機関と事業者
数千万円程度
規模の小さい事業者
シンジケート方式
複数の金融機関と事業者
10 億 円 ~ 1 兆 円
大企業
(出 所 )筆 者 作 成
コ ミ ッ ト メ ン ト ラ イ ン に は 、バ イ ラ テ ラ ル 方 式 と シ ン ジ ケ ー ト 方 式 の 2 種 類
58
運 転 資 金 = 売 上 債 権 +棚 卸 資 産 - 仕 入 債 務
32
の 契 約 方 法 が あ る 。バ イ ラ テ ラ ル 方 式 は 個 別 の 金 融 機 関 と 事 業 者 が 1 対 1 で 契
約を結ぶ。1 つの金融機関との契約となるため融資額は小額になるが、ベンチ
ャー企業や中小企業といった規模の小さい事業者にとってはシンジケート方式
よりも融資を受け入れやすい契約が提示される。シンジケート方式は複数の銀
5
行 が 同 一 の 貸 出 条 件 で 契 約 を 結 ぶ 方 法 で 、 融 資 枠 の 金 額 は 10 億 円 程 度 か ら 1
兆円と大きいので大企業の利用が中心となっている。
シ ー ド 期 、ス タ ー ト ア ッ プ 期 で ビ ジ ネ ス モ デ ル が 確 立 す る 間 に「 死 の 谷 」
「ダ
ーウィンの海」という課題に直面し、開発費や人件費は内部留保で賄わなけれ
ばならない。しかし内部留保が少ないベンチャー企業は、売掛金の回収の遅れ
10
で「黒字倒産」の可能性も出てくる。急な出費が必要となる事もあるだろう。
多くの売上が獲得でき、大きい成長が見込める企業が売上債権を回収できない
ことにより、黒字倒産してしまうことは非常にもったいないことであり、その
ような企業は決して出してはならない。ベンチャー企業自身が契約できなけれ
ば VC が 金 融 機 関 に 対 し 、 働 き か け る と い う 手 段 も 考 え ら れ る 。 運 転 資 金 の 調
15
達に際し、コミットメントラインを活用することができれば債務不履行といっ
た運転資金の課題に対して有効な解決策の 1 つだと考えた。
〈創業初期の設備投資におけるリースの活用〉
ベンチャー企業に限られたことではないが、企業が成長していくには設備が
20
必要不可欠である。しかし、資金力が乏しい創業初期のベンチャー企業が、設
備 投 資 を 行 う と 財 務 内 容 が 圧 迫 す る リ ス ク が 上 昇 す る 。 図 表 14 の よ う に シ ー
ド期、スタートアップ期の資金調達額はここ数年低い値で推移しており、限ら
れた資金の中でベンチャー企業が資金力の乏しい創業初期を乗り越えて成長し
ていかなければならない。ヒト・モノ・カネのモノを揃える際にカネが必要だ
25
ということに着目し、資金調達たる金融と同時に設備調達となる「物融」とい
うリース活用も一つの資金調達と言えるのではないか。
中 小 企 業 の リ ー ス 活 用 に つ い て 「 2006 年 度 以 降 、 リ ー ス 比 率 は 30% 前 後 か
ら 20% 弱 に 下 が っ て い る が 、依 然 と し て リ ー ス は 中 小 の 設 備 投 資 に あ た り 、重
要な資金調達手段である。創業から年数の浅いベンチャー企業にとっても同様
33
に 重 要 な 資 金 調 達 手 法 で あ る だ ろ う 。 59 」 と あ り 、 リ ー ス 活 用 は こ の 課 題 の 1
つの解決策として設備投資にリースの活用が有効ではないかと考えた。しかし
大幅な成長資金を調達できるわけではないことは念頭に置くべきであり一工夫
の形と捉えるべきである。他の資金調達を補完する形で使うことで、高い効果
5
を 挙 げ ら れ る 調 達 手 段 と 考 え る 。 故 に こ の 方 法 も VC や 金 融 機 関 が 自 ら の 出 資
と共に企業側のニーズを読み取り、企業側に提案し、リース会社を仲介できれ
ば お の ず と 効 果 の 高 い も の と な る だ ろ う 。 更 に VC は 複 数 の 案 件 を 抱 え て い る
ものである。複数の会社が同じ設備を欲している時、そのリース料を共同で支
払いシェアリングすることで更に効果は上がると思われる。
10
リースのメリットは一時に多くの設備資金を必要とせずに、毎月経費として
処理できるため毎月の負担が軽減されるという点や金融機関の融資枠を使わず
におけるキャッシュの温存という点が挙げられる。経理面では、所有権はリー
ス会社にあるため固定資産税はリース会社が支払をし、設備が破損した場合は
リース会社が保険に入っているためリース会社が負担する。そのため固定資産
15
税の申告納付・損害保険料支払が不要なことから事務負担を軽くすることが可
能である。このことから創業資金が乏しいベンチャー企業にとってリースによ
る設備投資は資金面・経理面で有効な手段だといえる。
4- 3
ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド 60 を ベ ン チ ャ ー へ
20
2014 年 に ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド 施 行 に よ っ て 機 関 投 資 家 に 投 資 先 へ の
目 的 を 持 っ た 対 話 (エ ン ゲ ー ジ メ ン ト )が 促 さ れ て い る 。 投 資 先 企 業 の 企 業 価 値
向上や持続的成長を目的とし、中長期的な投資リターンの確保を図る。投資家
からの一方的な物ではなく企業と投資家が「車の両輪」として、質の高い企業
25
統治を実現し、中長期的成長を狙うものだ。
スチュワードシップコードは金融庁による有識者会議によって策定され施行
59
奥 谷 (2012)p.8
60 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド に 関 す る 有 識 者 検 討 会「
「 責 任 あ る 機 関 投 資 家 」の 諸 原
則《 日 本 版 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド 》~ 投 資 と 対 話 を 通 じ て 企 業 の 持 続 的 成 長 を 促 す た
め に ~ 」 (2014)金 融 庁
34
された。株主が「モノ言う株主」として議決権行使や経営者とのコミュニケー
ションを持って経営に深く関わることを求め、企業価値向上等を狙う指針であ
る。あらゆる決定事項において機関投資家の言うとおりにしなければならない
わけではない。投資家・企業双方の視点から対話がなされることによって経営
5
戦略が深まり、企業価値が高まる道筋を明確化するのである。
図 表 19 イ ン ベ ス ト メ ン ト ・ チ ェ ー ン に お け る ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ
スチュワードシップ
10
受益者
スチュワードシップ
機関投資家
アセットオーナー
スチュワード
企業
(年 金 基 金 等 )
(出 所 )藤 井 ・ 笹 本 (2014)参 照
15
スチュワードシップコードにおける目的・原則は上場企業と機関投資家がタ
ー ゲ ッ ト と さ れ て い る が 、 ベ ン チ ャ ー 企 業 と VC 等 ベ ン チ ャ ー 投 資 家 に も 当 て
は ま る こ と だ と 筆 者 は 考 え る 。 VC を 機 関 投 資 家 と 見 立 て 、 ハ ン ズ オ ン 支 援 を
積 極 的 に 行 っ て い る 独 立 系 VC の よ う な 投 資 家 は 投 資 先 企 業 と の 対 話 を し て い
20
る と 考 え ら れ 、 今 後 も 伸 ば し て い く べ き 要 素 で あ る 。 金 融 系 VC・ CVC や 、 こ
れ か ら 参 入 す る VC に も ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド を 意 識 さ せ る こ と が 建 設 的
なハンズオンに繋がるのではないか。
〈 な ぜ VC が ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ 責 任 を 果 た す べ き か 〉
25
機 関 投 資 家 が 投 資 す る お 金 は 投 資 家 に 運 用 委 託 し た お 金 が 大 元 で あ る 。 VC
も 同 じ で あ り 、 VC が 組 成 し た フ ァ ン ド に 向 け て 外 部 の 投 資 家 か ら 資 金 出 資 を
募 り 、 そ の 資 金 を ベ ン チ ャ ー 企 業 に 投 資 す る 。 金 融 系 VC と い っ た 100% 子 会
社 の VC で も 、 銀 行 が 投 資 す る 元 手 の 多 く は 預 金 で あ る 。 間 接 金 融 と し て 融 資
す る か 直 接 金 融 と し て 投 資 す る か 運 用 方 法 の 違 い と な る 。 VC も 投 資 先 企 業 や
30
アセットマネージャーに対して果たす責任は機関投資家のそれと同じではない
35
かと考えた。
図 表 20
ベンチャー投資のインベストメント・チェーン
スチュワードシップ
5
受益者
スチュワードシップ
ベンチャー
ベンチャー
キャピタル
アセットオーナー
企業
等
(出 所 )筆 者 作 成
10
ま た VC が ハ ン ズ オ ン 支 援 を 行 う 動 機 付 け は 高 い 。 VC に 求 め ら れ て い る 有
効なハンズオン支援を行うには当該企業の状況・事業を細かく理解する必要が
ある。細かく把握するには企業との対話が必要不可欠であるものと考える。企
業との建設的な対話を経て、ハンズオン支援として行う事を決め、共に企業価
15
値向上を狙っていくのである。
エンジェル投資家はこの場合「個人投資家」と捉えているので一個人たる投
資家にスチュワードシップ責任を果たすよう命じるのは荷が重いうえに、リタ
ーンも受益者といったことには無縁であり、すべて自分の物であるため忠実に
責任を果たす意味合いが薄い。そのためスチュワードシップコードの受け入れ
20
範囲にエンジェル投資家は含まないものとする。しかしエンジェルとの対話の
インセンティブが薄いかというとそのようなことはない。例えば「証券会社系
の 投 資 家 向 け 広 報 サ ー ビ ス 会 社 日 興 ア イ・ア ー ル に よ る と 、15 年 度 に 同 社 が 支
援 し た 個 人 向 け 説 明 会 な ど は 113 回 と 前 年 度 よ り も 23 回 参 加 。 参 加 者 数 も 4
社 増 え た 。 61 」 と あ り 、 個 人 と 企 業 の 対 話 は 着 実 に 増 え て い る 。 ベ ン チ ャ ー で
25
見てもエンジェルは自らの意思でベンチャー企業と会い、投資先企業を決定す
る上に、投資への情報が揃わないベンチャー企業との対話は明確な投資判断の
基準となる。個人投資家は機関投資家と比べ、運用資産額が少ないかつ短期的
な 投 資 が 多 い と 考 え る 場 合 が 多 い 。 だ が 運 用 資 産 額 = 出 資 額 は 確 か に VC と エ
ン ジ ェ ル で は 差 が あ る が 、利 益 が 出 る ま で の 保 有 期 間 は エ ン ジ ェ ル も 充 分 長 く 、
61
2016 年 6 月 4 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 投 資 機 会
36
開示資料で把握」
短期的な投資とはならないはずである。長期保有の株主であり、ハンズオン支
援の動機付けもあるエンジェルとも対話のインセンティブは強く、怠ってはな
らないことである。
VC の ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド の 有 用 性 に お い て も VC 投 資 の 広 義 の 意 味
5
で あ る PE(プ ラ イ ベ ー ト エ ク イ テ ィ )投 資 と し て 考 え る 。「 そ も そ も PE 投 資 で
は、その投資先に感心を持つことは極めて重要である。このことは金融庁が示
しているスチュワードシップコードの「投資家が投資先企業への感心を強く持
つ べ き で あ る 」 と い う 方 向 性 と 親 和 性 が 高 い 。 62 」 と あ り 、 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ
プコードの考え方が投資家から未上場企業への関わり方にも一致していると思
10
われる。促されている対話も有用的だと考え、対話から行うハンズオンも重要
となる。
「 昨 今 、ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド の 受 入 れ 等 、上 場 株 式 投 資 に お い て
も 、 投 資 先 の 経 営 を よ り 深 く 監 視 し て い く 取 組 み が 強 化 さ れ て い る が 、 PE 投
資 は そ の 究 極 的 な 姿 と 言 え る か も し れ な い 63 」 と も あ る 。 企 業 年 金 の PE 投 資
拡大においても「企業年金に求められるのは、信頼できる優れたファンド運用
15
者 を 探 し 出 す こ と で あ る 。」64 と 更 な る 資 金 の 呼 び 込 み に は VC が 信 用 あ る 投 資
家であるということを示すことが重要であり、対話からのハンズオンの有用性
と合わせ、スチュワードシップコードの表明・取り組みは有用ではないか。し
か し 2016 年 9 月 2 日 時 点 で ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド を 受 け 入 れ た 機 関 投 資
家 は 213 団 体 あ る 65 。
20
(「 受 け 入 れ 表 明 」 し た 機 関 投 資 家 の 業 態 別 分 類 )
・信託銀行等:7
・ 投 信 ・ 投 資 顧 問 会 社 等 : 151
・ 生 命 保 険 会 社 : 18
・損害保険会社:4
25
・ 年 金 基 金 等 : 26
・ そ の 他 (議 決 権 行 使 助 言 会 社 他 ): 7
・ 合 計 : 213
62
63
64
65
大 藤 ・ 高 橋 ・ 木 口 ・ 徳 島 (2015)p.25
西 村 (2015)p.39
徳 島 (2015)p.35
金 融 庁 HP(http://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20160315 -1.htm )参 照
37
そ の 中 で VC が あ る グ ル ー プ 会 社 を 除 け ば 、VC は ジ ャ フ コ と い っ た 大 手 VC
しかいないと思われる。ベンチャー企業の資金調達円滑化の流れを作るために
も 、 VC に ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド に 準 ず る 取 り 組 み が 必 要 不 可 欠 な の で は
ないか。
5
4- 4
スチュワードシップコード活用による様々なメリット
〈投資家からのエンゲージメント〉
ベンチャー企業経営者との対話を持ち、投資先企業の事業環境・状況・問題
10
を 深 く 理 解 し 改 善 に 努 め 、 持 続 的 成 長 (ベ ン チ ャ ー で は 成 長 ス テ ー ジ の 進 行 ・
IPO と 捉 え る )に 資 す る こ と で 企 業・投 資 家 共 に 発 展 で き る と 考 え る 。よ っ て ハ
ンズオン型の経営関与を伸ばし、多くのスタートアップ企業を助けられるので
はないか。
「 と き に 企 業 と は 意 見 が 異 な る 場 面 も あ り ま す が 、企 業 価 値 の 向 上 を
目指すという点で、本来は利害が一致する存在であることを、お互いが認識し
15
て お く べ き で し ょ う 。 66 」 と あ り 、 互 い の 立 場 の 違 い や バ ッ ク グ ラ ウ ン ド の 違
いはあるが相手をパートナーとして接することで企業価値向上を望めるものと
なる。
図 表 21
「 個 別 の 議 論 ・ 提 案 」 に お け る 働 き か け (エ ン ゲ ー ジ メ ン ト )
・個別に、企業経営者と投資家が関する事項について相対で議論。議題は、
経営理念・経営戦略・資本構成等の財務戦略、また議決権行使の事項など多
岐に亘る。
・狭義のエンゲージメント活動では、最もアクティブな活動
・ 内 容 が 専 門 的 で 、 専 門 性 を 持 っ た 人 的 資 源 (+コ ス ト )が 必 要
・ ESG 項 目 の よ う な 無 形 資 産 の 価 値 向 上 に 焦 点 を 置 く 活 動 も 存 在 。
20
(出 所 )堀 江 (2014)よ り 取 得 ・ 抜 粋 し 、 筆 者 作 成
ではエンゲージメントとはどのようなものなのか。
「 Engagement 活 動 と い っ
て も 実 に 様 々 な 内 容 が 存 在 す る 。 活 動 は 大 き く 、「 議 決 権 行 使 」、「 株 主 提 案 」、
66
佐 藤 (2015)p.154
38
「 個 別 の 議 論 ・ 提 案 」、「 株 主 間 の 意 見 調 整 」、「 経 営 ・ 業 務 執 行 」 の 5 つ に わ け
る こ と が で き る 。 67 」 と あ り 、 そ の 中 で も ベ ン チ ャ ー 企 業 に お い て 有 効 な エ ン
ゲージメントは「個別の議論・提案」と考えられる。
ベンチャー企業は上場企業よりも、経営に関する問題が山積みである。優れ
5
た 技 術 は あ る が 、「 死 の 谷 」「 ダ ー ウ ィ ン の 海 」 か ら 見 る 問 題 点 か ら も 分 か る よ
うに、うまくいかなければたちまち会社が立ち消えてしまう可能性が大きい。
そ の 問 題 点 も 企 業 自 身 で 解 決 で き る と は 限 ら な い 。 そ こ で VC が エ ン ゲ ー ジ メ
ントとしてベンチャー企業と対話を行い、問題点を把握し効果の高いハンズオ
ン支援を採っていくのである。
10
ベ ン チ ャ ー 企 業 成 長 の た め に 、 VC に 求 め ら れ る ハ ン ズ オ ン 型 の 役 割 と は ど
のようなものか。
「 ベ ン チ ャ ー キ ャ ピ タ リ ス ト に と っ て 重 要 な 役 割 は 、次 第 に 社
外関係の構築・強化および利害関係者との調整へと重点が移っていくと予想さ
れる。その変化に対応して、ベンチャーキャピタリストの資質も、従来の会社
経営者の役割を一部補完する局部的な能力から、各種利害関係者との利害調整
15
が で き る 全 社 的 指 導 能 力 が 求 め ら れ る こ と に な る 。 68 」 と あ り 、 あ ら ゆ る 外 部
機関との関係強化が必要かつ支援に活かせるものと考える。あらゆる情報や繋
がりの多さから提供できる支援が、主にスタートアップの抱える資金調達や人
材不足に伴う販路の不足や助言がないことに適合していると思われる。投資先
企業と社外取締役として経営に参画するだけでなく、事業を軌道に乗せるため
20
の販路開拓やマーケティング・顧客ニーズの調査等外部要因である顧客・市場
に働きかけるもの。弁護士や税理士、公認会計士といった法務や税務に関する
専門家の紹介、更には資金調達の手段として先ほど述べたリース会社や銀行・
信 用 金 庫 、 他 の VC の 紹 介 と い っ た 繋 が り か ら の 支 援 も あ る 。
25
〈ベンチャー企業にとっての対話の重要性〉
ベンチャー企業にとっても対話能力が必要である。
「社外取締役が過半を占め
るアメリカでは、経営能力の 1 つとして、投資家への説明力や投資家への対話
力が問われるという。今後は日本企業の間でも社外取締役が増加し、社内役員
67
68
堀 江 ・ 杉 浦 (2013)p.26
長 谷 川 (2007)p.163
39
に も 説 明 力 や 対 話 力 が 求 め ら れ る で あ ろ う 。 69 」 と 対 話 は 経 営 者 に も 必 要 不 可
欠である。とりわけベンチャー企業は信用が無く、事業の価値を理解してもら
えないことが多い。事業の良さ・経営戦略を説明する力を付けることで多くの
投 資 家 に 認 め て も ら え る よ う に な る の で は な い だ ろ う か 。認 め て も ら え た 結 果 、
5
情報の不透明さや非対称性を解消することができ、資金の調達や販路を確保す
ることができ、ベンチャー企業の成長に繋がるものと考える。よって資金調達
コストの低下から資金調達のしやすさにも繋がる。対話によって得られる一般
的な効果として「企業と投資家間の情報の非対称性を縮小させることにより、
資 金 調 達 コ ス ト の 低 下 が 図 ら れ る こ と で あ ろ う 。 70 」 と あ り 、 対 話 に よ っ て 情
10
報の非対称性が解消されることとなる。
そ こ で 重 要 な 要 素 と な っ て く る の が 企 業 の 情 報 開 示 、い わ ゆ る IR 71 活 動 で あ
る 。 大 企 業 の よ う な IR 活 動 の レ ベ ル ま で 実 行 す る 必 要 は な い 。 し か し 情 報 開
示 を 充 実 さ せ る こ と で 資 金 の 出 し 手 と な る 金 融 機 関 や VC だ け で な く 、 従 業 員
や取引先といった既存のステークホルダーだけでなく、今まで関係の無かった
15
人物が新たにステークホルダーとなってくれるのではないだろうか。つまり新
たな資金調達先・取引先を開拓できる可能性が広がると思われる。中小企業や
ベンチャー企業のガバナンスについて「中小企業・ベンチャー企業は、積極的
に金融機関に情報開示をしていく必要がある。また一定の「情報開示」ポリシ
ーを持ち、金融機関の質問に対し、真摯に答えていく必要がある。株式公開を
20
目指す企業においては、こうしたメインバンクを皮切りに、債権者や取引先な
どの企業外の利害者はもちろん、一般投資家なども含めた広範な利害関係者を
意 識 し た 企 業 統 治 体 制 づ く り が 必 要 で あ る 。 72 」 と も あ る 。 成 長 す る に つ れ 、
企業は大きくなっていくためガバナンスの確立が経営において重要な要素とな
ってくる。株式公開後は情報開示の範囲が法律で定められている以上に必要と
25
なり、独自の企業統治もより深めていく必要がある。投資家との対話の重要性
も高まってくる。これらは上場を目指す企業にとって上場後は必ず必要となる
要素である。上場前から対話や企業統治のシステムを確立させておくことで現
69
70
71
72
砂 川 ・ 川 北 ・ 杉 浦 ・ 佐 藤 (2013)p.266
太 田 (2014)p.41
Investor Relations (投 資 家 向 け 広 報 )
住 田 (2007)p.18
40
在の経営はもちろん、成長後もスムーズに経営が行えるのではないか。
〈リスクマネー増大に向けて〉
ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ 責 任 を 表 明 す る こ と は VC の 資 金 の 出 し 手 で あ る 受 益 者
5
た る 出 資 者 へ の 明 確 な 方 針 説 明 と も な る 。 ベ ン チ ャ ー 企 業 と VC が プ リ ン シ パ
ル (投 資 家 )・ エ ー ジ ェ ン ト (企 業 )関 係 に あ る の と 同 時 に 、 VC と VC へ の 出 資 者
もまたプリンシパル・エージェント関係である。そもそも機関投資家は他人の
お金を預かって運用する機関である。銀行にとっての預金者、年金基金にとっ
て の 年 金 加 入 者 、 投 資 信 託 運 用 会 社 に と っ て の 購 入 者 の 関 係 で あ る 。 VC も 変
10
わ ら ず 投 資 会 社 ・ フ ァ ン ド 運 営 な の で VC が 投 資 す る お 金 は 他 人 か ら の フ ァ ン
ドに預けられたお金である。この二者間において「こうした機関投資家は、も
っぱらその資金の委託者である顧客のために、最善の努力をする義務がありま
す 。 こ れ を 委 託 者 に 対 す る 機 関 投 資 家 の 受 託 責 任 と い い ま す 。 73 」 と あ り 、 受
益者に対してのファンド運営の説明が必要だとわかる。
15
よ っ て VC も ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド の 原 則 6 74 に あ る よ う に 出 資 者 に 向
けて投資先へどのようなエンゲージメントをしてスチュワードシップ責任を果
た し て い る の か を 開 示 す る 意 味 合 い は 高 い 。 責 任 が 果 た せ て い れ ば 優 良 な VC
と捉えられ、既存のベンチャー投資家だけでなく、新たな出資者による資金の
追 加 が 見 込 め る か ら だ 。 VC の 出 資 者 も VC の ハ ン ズ オ ン 能 力 向 上 か ら パ フ ォ
20
ーマンス向上による自らの投資成績上昇の為情報や経営資源を提供するインセ
ンティブは強い。
日本のベンチャー投資額が諸外国と比較し、少ないというのは先に述べた通
り で あ り 、 ベ ン チ ャ ー 投 資 に お い て 大 き な 役 割 を 持 つ VC の 投 資 額 も 諸 外 国 と
比 較 し て 少 な い 。投 資 規 模 を 大 き く し よ う と し て も 使 え る お 金 が 足 り な け れ ば 、
25
十 分 な 投 資 は 行 う こ と が で き な い 。 よ っ て VC に 投 資 し て く れ る 新 た な 資 金 供
給者が必要である。
73
木 村 ・ 柳 (2011)p.192
機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たして
いるかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
74
41
図 表 22
資金供給と投資先のバランスについて
8%
48%
36%
8%
資金供給が増えれば投資を増やしたい
資金供給は十分だが投資先がない
資金供給と投資額が釣り合っている
その他
(出 所 )経 済 産 業 省 (2007) よ り 取 得 し 、 筆 者 作 成
5
そ こ で GPIF(年 金 積 立 金 管 理 運 用 独 立 行 政 法 人 )の よ う な 超 多 額 の 運 用 資 金
を 持 つ 機 関 に ベ ン チ ャ ー 投 資 し て も ら え る よ う な 施 策 が 必 要 で あ る 75 。 実 際
GPIF は ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド を 導 入 し て い る 76 。た だ し ベ ン チ ャ ー 投 資 は
ハイリスク・ハイリターンの運用方法である。懸念事項であろうハイリスクを
薄 め る た め に は 誠 実 な 運 用 を し て い る と い う VC の 情 報 開 示 が 必 要 な の で は な
10
いだろうか。
「 運 用 会 社 か ら す る と 、本 コ ー ド は 自 社 が 投 資 先 企 業 を 深 く 理 解 す
るために行っている活動の内容を、投資先企業や顧客に知ってもらう有効なツ
ールになると考えられる。逆に運用会社に投資を委託している年金ファンドに
とっては、運用会社に投資を委託している年金ファンドにとっては、運用会社
の 投 資 プ ロ セ ス を よ り 深 く 理 解 で き る ツ ー ル が で き た と 考 え る べ き で あ る 。77 」
15
と新たな投資家を呼び込む有効な手段となりえる。スチュワードシップ責任に
基づいた明確な情報開示が肝となる。出資者だけでなく、出資者となってもら
えそうな人物に向けた情報開示も必要と考える。ベンチャー投資していない人
をベンチャー投資したい人に増やしてくことが重要である。
75
GPIF の 平 成 28 年 度 第 1 四 半 期 末 現 在 の 運 用 資 産 額 は 129 兆 7012 億 円
GPIF ホ ー ム ペ ー ジ ( http://www.gpif.go.jp/index.html )参 照
76 2014 年 5 月 22 日 日 本 経 済 新 聞 朝 刊 「 公 的 年 金
モノ言う株主へ」
77 堀 江 (2014)p.13
42
〈ベンチャー市場データ蓄積に向けて〉
そ し て VC の 情 報 開 示 は ベ ン チ ャ ー 市 場 の 数 値 統 計 や 事 例 の 蓄 積 と い う 情 報
インフラ整備にも繋がる。様々なケーススタディの元に更なる有効なハンズオ
ンを行い、多くのベンチャー企業が育つ環境が出来上がるのではないか。その
5
た め に は VC の 投 資 額 や リ タ ー ン の 結 果 報 告 だ け で は 足 り な い 。 企 業 に 対 し て
何故投資したのか、どのような問題を抱えており、どのような対話・ハンズオ
ン支援を行ったのか、経営者の反応や効果はどのような物だったのか。数値だ
けでない詳細な投資情報を開示する必要があるだろう。投資先企業に許可を取
り 、「 私 た ち は こ の よ う な 企 業 に 投 資 し て い ま す 。」 と い っ た 事 例 デ ー タ と な る
10
メッセージを発信することも重要であろう「
。関係者の同意のもとで投資先企業
名 を 開 示 し て い る VC の 存 在 や 海 外 の 事 例 か ら 考 え る と 、 日 本 に お い て は 情 報
開 示 に 対 し て 積 極 的 で な い VC が 多 い も の と 思 わ れ る 。 業 界 デ ー タ の 充 実 は 業
界 へ の 理 解 を 深 め る こ と と も な り 、よ い 投 資 環 境 を 作 り 出 す 一 環 と し て 、各 VC
がこうした業界データの蓄積の有用性を認識し、協力していくことが必要と思
15
わ れ る 。 78 」 と も あ り 、 デ ー タ 蓄 積 の 有 用 性 は 高 い 。 デ ー タ が 蓄 積 さ れ て 様 々
な状況に対応できるデータベースとなり、信頼性・精度が高いものとなれば先
にいったようなベンチャー市場の未参加者を呼び込むのにも役立つと思われる。
図 表 23
望ましいスチュワードシップコード活用の流れ
20
VC 投 資 額 ・ 件 数 増 加
VC に よ る 投 資 ・ 対 話 で 問 題 発 掘
ハンズオン支援
ベンチャー企業の円滑な資金調達
販路開拓・経営戦略・専門
家や銀行員の紹介など受益
25
投資情報を大幅に情報開示
VC の 信 用 向 上 ・ 情 報 蓄 積
者や外部との協力が重要
新たな資金の増加
ベンチャー投資家増加
(出 所 )筆 者 作 成
78
忽 那 (2011)p.163
43
4- 5
小括
現状日本に外国のようなベンチャーエコシステムが確立しているとは言い難
い。今まで述べてきたような課題も山積みである。政府も問題意識を持ち、各
5
組織の連携を強くすることで、ベンチャーエコシステムの構築を目指す指針を
打ち出し取り組んでいる。筆者はその中でも現場の人間であり、問題点である
資金供給・ベンチャー育成としてハンズオン支援両方に深く関わる強い使命を
持 つ VC の 活 動 が エ コ シ ス テ ム 構 築 に お い て 重 要 で あ る と し た 。
VC に 加 え 、 企 業 自 身 も 積 極 的 に 問 題 に 向 き 合 う こ と も 必 要 と し て 、 自 ら の
10
危機を何とかしてしのがなければならない。そこで危機時の運転資金確保とし
てコミットメントライン・金融と共に設備投資の物融となるリースの活用を挙
げた。しかしこれらは大きな成長資金とは言えない。一工夫の手段として捉え
て補完的に活用することで高い効果を得られると考える。
そ し て VC の 期 待 さ れ る 役 割 か ら VC に 対 し て ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド の
15
活 用 を 提 案 す る 。 ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ コ ー ド は 2014 年 に 施 行 さ れ て お り 、 機
関投資家から投資先企業に対する対話やエンゲージメントが促されている。議
決権の行使や密接な対話の元に企業価値向上・持続的成長そして受益者までの
中長期的な投資リターンを目的としたものである。対話をもって経営戦略を深
め、ブラッシュアップすることにより、企業価値向上への道筋を明確化するも
20
のである。
そこで筆者はベンチャー市場においてもこのスチュワードシップコードは当
て は ま る も の だ と 論 じ る 。 特 に VC が ベ ン チ ャ ー 投 資 の イ ン ベ ス ト メ ン ト ・ チ
ェーンから見てスチュワードシップコードに基づいた活動が必要である。
VC か ら ベ ン チ ャ ー 企 業 に 向 け て 求 め ら れ て い る ハ ン ズ オ ン 支 援 の 向 上 の た
25
めの対話からの個別の議論・提案というエンゲージメントがまず求められる。
よ っ て「 死 の 谷 」
「 ダ ー ウ ィ ン の 海 」と い っ た ベ ン チ ャ ー 企 業 が 乗 り 越 え な く て
はならない問題の解決からさらなる成長へと望むことができるのではないだろ
うか。ベンチャー企業自身にとっても経営戦略を深めるだけでなく、対話から
の行動を通し、新たなステークホルダーの増加による新たな販路開拓・資金調
30
達 が 望 め る の で は な い だ ろ う か 。IR の 充 実 化 に よ る 企 業 統 治 の 向 上 や 成 長 後 の
44
対応と言う力も付くだろう。
またベンチャーキャピタルから受益者に向けたスチュワードシップ責任も重
要 な 要 素 と な る 。 VC が 投 資 で き る 金 額 を 増 や し て い く た め に 、 受 益 者 に 向 け
た情報開示も必要である。既存の投資家はまたベンチャー投資してもらうため
5
に 、 そ し て GPIF と い っ た 超 多 額 の 運 用 額 を 持 つ 未 参 加 の 投 資 家 を ベ ン チ ャ ー
投資に参加してもらうためにリスクの軽減・信用力があることを伝える必要が
あ る 。 更 に VC が 情 報 開 示 を 重 ね 、 市 場 デ ー タ や 事 例 デ ー タ を 蓄 積 さ せ 、 利 用
することで更なるハンズオンの質向上・資金供給能力向上が狙えるのではない
だろうか。
10
終章
総括
「イノベーションのジレンマ」にあるようにベンチャー企業は大企業ができ
15
ない・やれない技術を昇華させ、事業とし社会的意義の高い企業として活躍し
ていく力が大いにある。しかし諸外国と比べ日本のベンチャー投資はまだまだ
未成熟であり、産業発展のためにはベンチャー投資を旺盛にする必要がある。
日本と外国を比較すると日本はベンチャー投資における環境が劣っている。
シリコンバレー、イスラエル、シンガポールには各国ごとのベンチャーエコシ
20
ステムが確立されている。日本もこのような環境を構築する必要がある。
ベ ン チ ャ ー 投 資 を 担 う VC に お い て も 機 能 を 拡 充 し て い か な け れ ば な ら な い 。
資 金 供 給 能 力 を 向 上 さ せ る た め に は そ も そ も VC に 出 資 す る 投 資 家 達 か ら の 資
金を集めなくてはならず、外国では年金基金という多額の資産運用額を持つ投
資 家 が VC に 投 資 し て い る 。 企 業 自 身 に お い て も 経 営 上 の 問 題 は 多 く 、 研 究 開
25
発 が う ま く い か ず 資 金 シ ョ ー ト す る「 死 の 谷 」、ビ ジ ネ ス を 軌 道 に 乗 せ る こ と が
できず、沈んでしまう「ダーウィンの海」というシード期やスタートアップ期
の 問 題 が 根 深 い 。 問 題 を 自 ら 解 決 で き る と も 限 ら ず 、 VC の ハ ン ズ オ ン と い う
経営支援が必要である。大学発ベンチャーといった技術力を持つ企業がこれら
に陥りやすく、手助けしなければならない。
30
日本もベンチャーエコシステム構築のために、各組織が課題解決の施策を取
45
らなければならない。シード・スタートアップの企業個々が問題に対応する手
段としての運転資金に着目したリースやコミットメントラインの活用。ベンチ
ャ ー 投 資 の 循 環 を 構 築 し て い く た め に ま ず VC が 取 り 組 ま な く て は な ら な い も
のとしてスチュワードシップコードに即した活動である対話を通したハンズオ
5
ンと情報開示から始まる新規資金の獲得、情報蓄積を挙げた。
以上のような活動からベンチャーエコシステムを構築することで、ベンチャ
ー企業の資金調達を円滑なものとし、日本ひいては世界の産業の発展を期待し
たい。
10
参考文献
15
IAI ジ ャ パ ン
三澤正弘・石原達夫・岩崎敬一・上谷達也・江田実・片岡義夫・小原順・
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