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ひよこだより - 東京都立葛飾ろう学校

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ひよこだより - 東京都立葛飾ろう学校
ひよこだより
都立葛飾ろう学校 乳幼児教育相談
平成28年7月1日 NO.3
コミュニケーション力
去る6月3日の保護者教室で、ろう者の弁護士、田門浩さんにお話しをしていただき
ました。当日は中学部の1年生も参加し、質疑応答の時間には次々と質問が出て、賑や
かな会となりました。どのような質問にも笑顔で、優しく答えてくださる田門さんの姿
に、その誠実で、優しいお人柄が伝わってきました。
田門浩さん 1967 年生まれ 水戸、千葉、札幌、筑波大学附属聾学校に通いながら、乳幼
児期から中学部までろう学校で過ごす。高校は千葉県立薬園台高等学校、大学は東京大学
千葉市役所に勤務 司法試験に8度挑戦 弁護士になり、都民総合法律事務所に勤務して1
8年目
日本社会事業大学、筑波技術大学で講師も務める。日本ではろう、難聴の弁護士が 9 名いる
が、田門さんは 5 人目であり、最初の 4 人が中途失聴者で音声も使える人だったが、音声が
使えない生まれつきのろう者としては初めての弁護士
●お母様の子育て
田門さんは幼い頃から聴力が 130dB の重度難聴者。当時のろう学校で受けた教育は聴
覚口話法による教育だったそうですが、お母様は学校の教育方針には従わず、指さし、
身振り、空書を使って田門さんに語りかけていたそうです。空書というと、文字を空間
に書くことですが、文字が読めていて、空書が理解できていたのかを尋ねると、どうも
文字と空書と同時に覚えていったのではないかとのこと。つまり、
「いぬ」という文字が
読めているから、空書で「い」
「ぬ」と綴られた時に犬と言っているのだとわかるのでは
なく、犬の絵や、本物の犬を前にしてお母さんが「い」
「ぬ」と毎回、繰り返し空書で綴
るその形に意味があることを理解し、記号として取り込んでいった、そし
て、同時に「いぬ」という文字とも照合して、日本語を獲得していったの
ではないかとのことです。田門さん自身、空書を読むことは大変だと話さ
れていますが、生まれた時から視覚を頼りに情報を取ろうとしていた重度
難聴児だったから「空書をことばとして理解する」ことができたのかもし
れない、いや、田門さんの元々の能力の高さがそれを可能にしたのかな、
そんなことを考えさせられました。いずれにせよ、口話ではわが子がわか
らないのではないかと判断し、わが子の教育は自分が!という思いで、目から文字で日
本語を入れる教育を徹底されたお母様には頭が下がる思いでした。田門さんによると、
小学校に入る頃には妹が生まれたので母は忙しくなり、あまり手をかけてもらえなかっ
たそうです。しかし、一般の高校や大学に入る際に断られ続ける状況に対しては、田門
さんの夢を叶えるべく、お母様が学校に色々お願いをして動いてくれたそうです。肝心
なところでは力になってくれたお母様のサポートに感謝し、お母様を喜ばせたい一心で
勉強した思いも語ってくれました。10 歳でお父様が病死されてからは、お母様が一人で
二人のお子さんを育ててきたとのこと。母の苦労を見ながら、母のように弱い人を助け
る仕事に就きたいと思ったそうです。田門さんは、ぜひ子どもとよく伝え合える、そん
な親子になってほしいというメッセージを保護者に送ってくださいました。
●弁護士の仕事
田門さんの顧客は 8 割が聴者、聴覚障害者は 2 割に過ぎないとのことでした。意外で
した。田門さんは、仕事では必ず手話通訳を自身で雇い、常に一緒に行動しているとの
ことです。私の友人の裁判官が法廷で田門さんと一緒になった際に、田門さんの仕事ぶ
りに驚いたと話してくれました。田門さんは裁判で、全くタイムラグを感じさせないス
ピードで手話通訳を介してやり取りをするそうです。ですから、裁判の流れに何の支障
もないとのこと。すごい人だねえと友人は感心していました。また、18 年間に 550 人の
依頼者がいたそうですが、負け知らずで、勝訴ばかりだったとのこと。仕事で一番大変
なのは電話で、とにかく毎日電話が多く、その対応が大変だそうです。もちろんこれも
手話通訳と共にこなしているそうですが、田門さんは手話通訳がいれば、弁護士の活動
に限界はないと断言されていました。こうした御本人の経験から、ぜひ手話通訳をうま
く使ってほしいと話されました。自分で必要な時に依頼する方法、通訳と打ち合わせを
きちんとすること、通訳が自分の考えをきちんと伝えてくれるよう、整理して話す力も
つけるべきだと話されました。田門さんは、2~3時間の研修
会の講義を受ける際に、通訳ばかり見ているとノートがとれな
いが、後で見直し、学ぶ必要があるため、通訳から目を離さず
話を聞いて(見て)、手元を見ないで書き取るスキルを身に付け
たそうです。田門さんの努力に脱帽です。
●コミュニケーション力
手話通訳にきちんと自分の話を通訳してもらうために、田門さんは日々心がけている
ことがあると講演が終わってから話してくださいました。それは、「区切って話す。」と
いうことでした。長文で長々と話すのではなく、切りの良いところで話を切って話すよ
うに心がけているそうです。また、講演の中では順序立てて話すことの必要性も強調さ
れました。話があっちにいったり、こっちにいったりするのではなく、聞き手が理解し
やすいように話すということだと思います。それは文脈に沿って、またいつ、どこで、
誰が…というように5W1Hに沿って、時系列に沿ってという意味が含まれると思いま
す。こうした誰が聞いてもわかるように話すということの大切さを話され
たわけですが、その際に使われるコミュニケーションのモードは、音声で
も対応手話でも、日本手話でも、その人に合った方法でいいということで
した。相手に伝わる話と言うのは、声で話せば大丈夫ということではなく、
どのような手段であっても、その表現の仕方が大切なのだということでし
ょう。口話はできないと自称される田門さんですが、こうして社会でたく
さんの聴者を相手に、手話通訳を介し、そして筆談しながらコミュニケー
ションを成立させ、弁護士という大変な仕事をなさっていらっしゃいます。
きれいに話せていると素晴らしいと評価してしまいがちな聴者の価値観に対して、田門
さんはそうではなくて中身なのだ、どのように自分が伝えたい言語(手話)を持ち、そ
れを用いて理解し、表現し、思考することが大切なのかを身をもって証明してくださっ
ていると思いました。田門さんはこうした相手に伝わるように話すことに加えて、相手
の話を最後まできちんと聞くことの大切さも伝えてくださいました。自分の言いたいこ
とだけ話して、相手の話が聞けないのではいけないということ、相手の話を「聴く」と
いう言葉には、相手の話を理解するだけでなく、相手の言葉の背景にある心、思いや考
えを読み取ること、相手の話を聴こうとする気持ちが大事であることが含まれています。
このようにして考えると、言語の力だけでなく、人と関わる力、相手を思いやりながら
関わる力が大切だと教えられた気がします。田門さんの思いはそこにあり、それを含め
てコミュニケーション力とおっしゃっているのだと思います。
●ロールモデル
田門さんは、ろう学校で育って本当に良かったと話されました。その理由として、ろ
う学校にいたから「自分はろう者だ。」と自信をもって言える、「だから手話が必要だ。」
「きこえないから困っている。」という話が自分でできるから良かったとのことでした。
もし、これが聴者の学校にいたらそうはいかなかっただろうと話されました。そして、
もう一つの理由は、ろうの先輩に会えたことだそうです。田門さんにとっては、中学部
の時にろうの先生がいて、その先生にあこがれ、その先生と話すことできこえない自分
に自信がもてたとのことです。つまり、
「あんな風になりたいな。
」と思えるような人を
ロールモデルといいますが、ろう者である田門さんにとっては、ロールモデルがろう学
校で出会った先生であり、弁護士になりたいという夢をもつきっかけとなったのは先輩
の聴覚障害者の弁護士、山田裕明氏だったということがわかります。ロールモデルとの
出会いは大事ですね。ぜひこうしたきこえない先輩に出会うチャンスを作っていくよう
にしましょう。そして、今は保護者の皆さんがロールモデルに出会えるよう、私たちは
考え、チャンスを作っているつもりです。このチャンスを積極的に利用していただきた
いと思います。
●差別体験
「聞こえない」というだけでほとんどの高校に受験することを断られ
ましたが、ろう者の卒業生がいる一校だけが受け入れてくれたそうです。
大学も同じで、学費の安い国立で、司法試験の合格率が高い東大を受け
ようと思った際に、最初は聞こえないから無理と断られたとのことでし
た。強く要望して叶ったものの、手話通訳はつけられないと言われ、友
人のノートテイクに頼りながら 2 年間を過ごしたものの、情報が十分に
入らず、関東学生情報保障者派遣委員会に通訳を依頼し、学べるように
なったとのことでした。そして、発音が苦手な田門さんが、司法試験の
口述試験では、口頭で答えることは無理なので筆談をお願いしたところ叶わず、何度も
要望し、ようやく筆談を認められたとのことでした。就職先を探した際にも、聞こえな
い弁護士を受け入れてくれる法律事務所はなかなか見つからず、やっと今の職場で受け
入れてもらえたとのことでした。
今年 4 月から障害者差別解消法が施行されましたが、おそらくこれからは学校でも会
社でも、あらゆる所でそれぞれの聴覚障害者が必要とする情報保障が受けられやすくな
るはずです。皆さんのお子さんたちが大きくなる頃には、暮らしやすい社会になるとい
いですね。こうした先駆者達の運動、活躍があって築き上げられたことを忘れずにいた
いものですね。
田門さんの講演により、
「聞こえないからできないことはない。」という勇気をいただ
けた気がします。子ども達がこれからもつであろう夢に向かって、今何ができるのか、
今何が大切なのか、たくさんヒントをいただけました。ぜひそれをこれからの子育てに
活かしていただきたいと思います。
学習会と行事のご案内
★日 時
★場 所
7月12日(火) 10時~11時 入門クラス
11時~12時 初級クラス
視聴覚室
★講 師 石川 絵理さん
★日 時
★場 所
7月14日(木) 10時~12時
集会室
★講 師 佐沢 静枝さん
手話学習会1
1
手話学習会2
1
★日 時 7月2日(土) 10時~12時
★場 所 視聴覚室
★担 当 リオン 菅原仙子
★内 容 「難聴疑似体験」
*参加される方は必ず耳掃除をしてきてください。耳の既往症がある方ご相談ください。
保護者教室
★日 時 7月8日(金) 10時~12時
★場 所 視聴覚室
★講 師 中川 美幸さん
*アメリカのギャローデット大学を卒業し、帰国されました。2年ぶりの講演になります。
★内 容 「聴覚障害者本人からのメッセージ」
保護者教室
幼稚部夏祭り
★日 時 7月15日(金) 10時半~11時半
★対 象 2歳児
★場 所 ひよこ園庭
★内 容 色々な出店やおみこし担ぎ体験ができます。
*夏祭りの後は通常通りグループ活動をします。
ママの育児記録より
★Aちゃん(2歳3か月時の記録)
これまでに2,3回おしり拭きを勝手に1,2枚引き出しているところを見つけて注意したことがあ
りました。
「今はいらないよ。だめ。
」と言って私が片づけてしまっていました。でも、
「オムツ換えの
時に使うものだってわかっているよなあ。オムツ換えてほしかったのかな。
」と思い直しました。そし
て今日またおしり拭きのふたを開け、引き出そうとしているところを発見。今日は注意せず「くさい、
くさい、換える?」と聞いてみました。するとAはニコッと笑って嬉しそうにおしり拭きとオムツを
持って私の前に来て、コロッと横になりました。オムツの中にうんちをしていました。今までAが見
せてきただろうサインを台無しにしてきてしまったけれど、諦めずに、嫌にならずにまた見せてくれ
て良かったです。Aのサインを見逃さずに受け止めていかないと次につながっていかないよなあと感
心させられたできごとでした。
Aちゃんがおしり拭きを引き出している動作が、実は「オムツを換えてほしい。
」との訴えだ
ったことに今回気づいたママ。子どもをよく見ているママだからこその気づきだったと感心させ
られます。「くさい、くさい、換える?」とママに言われて、自分の気持ちが伝わった!とAち
ゃんはどんなにか嬉しかったでしょうね。子どもをよく見て、子どもの行動にはどのような意味
が込められているのかを想像し、思いやる気持ちが大切だなあということを教えられますね。伝
えたい気持ちを言葉で伝えられない時期のサインを丁寧に見て、受け止めていきたいものですね。
★Bちゃん・Cちゃん(2歳時の記録)
夜ごはんになると必ずB、Cがパパがいつも座る席を見て「ねぇねぇ、パパがいない。」と言ってきま
す。ママが「今日はね、パパ野球を見に行ったよ。
」テレビをつけて中継している野球を見せて「ここ
で見ているんだよ。」と伝えました。食事を済ませ、お風呂も済ませてリラックスしていると、B、C
がまた「パパがいない。
」と言ってきたので、テレビをつけて「まだ野球終わってないよ。それが終わ
ると帰ってくるよ。」と言うと、ママのスマホを持ってきて「テレビ、テレビ」とテレビ電話のお願い
をしてきました。ママが「テレビ電話ね。つながるかなあ?」とパパに電話しました。
いつもいるはずのパパがいないことが気がかりなBちゃんとCちゃん。ママが上手に説明を
していますね。野球観戦に行っていることについて、テレビをつけて「ここで見ている。
」と知
らせ、まだ帰らないパパの理由について、再度テレビつけて「まだ野球が終わっていない。
」と
状況を一目でわかるように知らせています。二人にとって納得のいく説明になりましたね。
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