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第1章

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第1章
第1章
第1章
1.1
緒論
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緒論
緒言
人類が豊かな生活を営むことができるようになったのは、文化・文明の発達による
ところが大きい。この発達を支えたものは道具であり、道具により生み出されたもの
が文明といっても過言ではない。人類の文明を支えてきた道具の発達には「材料」の
発展が不可欠である。材料は大別して金属材料、無機材料、有機材料の三つに分類で
きる。このうち、有機材料については、長い間天然材料が使用されているに過ぎなか
ったが、20 世紀初頭に合成高分子材料が発明されて以来、わずか 100 年の間に急激に
普及した 1~5)。これは他の材料に比べ軽量、高い比強度、さらに金属材料に比べ腐食
に対する抵抗(耐食性)に優れているという特徴があるためである。
有機材料、特に合成高分子材料が開発されてから現在に至るまで、塗料、コーティ
ング材、ライニング材として金属材料の防食に、また樹脂(合成高分子材料)単体と
しても耐食用途に広く使用されている。また 1940 年代になり不飽和ポリエステル樹
脂が開発された結果、樹脂単独で使用するだけでなく他の材料と組み合わせた複合材
料が開発され使用されるようになった。樹脂に添加する材料は一般に副資材と呼ばれ、
樹脂の増粘剤または増量剤としての使用の他に、可塑性の付与、熱伝導率や熱膨張係
数の調整、耐紫外線の向上、耐摩耗性の向上等、様々な機能の付与・改善などを目的
として使用される。さらに、重要な目的として強度の向上が挙げられる。特に、ガラ
ス繊維やカーボン繊維で強化した FRP(Fiber Reinforced Plastics)は非常に高い比強度・
比弾性のために航空宇宙材料として注目され、さらに一般工業用構造材料としても使
用されるようになった。ついで 1960 年代になると耐食用途を目的とした樹脂の開発
に伴い、機能材料としての耐食 FRP が開発され、化学プラント等の耐食装置に広く使
用されるようになった 6~10)。
化学プラントにおいて、有機材料はコーティング、ライニング等の構造材料の被覆
材として、また配管、容器、部材等では樹脂単体としても使用されている。特に耐食
用途として使用されるものにはビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ
素樹脂、塩化ビニル樹脂などがあり、これらの材料の選定は研究室レベルでの実験や
使用者の経験を基に行われている。しかし、使用環境・条件によっては未だに材料選
定ミス、設計不良、施工不良などによる割れ、剥離、膨れ、変色などの損傷の発生が
問題になっている 11)。
熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂は常温・大気圧で副生成物を伴わずに
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硬化させることができ、樹脂の粘度が低く、硬化時間の調整が行いやすく、さらに、
ハンドレイアップやスプレーアップ成形用の樹脂として使用されている。耐食性を必
要とする大型の FRP 構造物は通常これらの成形方法を用いて生産されるため、マトリ
ックス樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂を用いるのが一般的である 12, 13)。
この FRP の強化材として用いられるガラス繊維にも耐食用途に応じて汎用グレー
ドの E ガラスの代わりに、耐酸性用の C ガラス、耐アルカリ用の A ガラス等の選定
が行われ使用されている。さらにガラス繊維以外にもガラスフレークを樹脂に添加す
ることで薬液の浸入を防ぐフレークライニングなども使用されている 14)。
しかし、このような耐食性をもった樹脂および複合材料においては、強酸、強アル
カリなど苛酷な環境下での材料の劣化機構は複雑であり、その寿命予測は困難である
ことから、設計寿命以前に使用不可能になるなど構造物の信頼性が問題となっている
15)
。さらに最近では環境を考慮して、装置の延命化や省エネルギー化が急務となって
おり劣化機構の解明を含めた延命化の指針確立が求められている。
1.2
既往の研究
耐食装置に使用される高分子材料や FRP の環境液中における腐食挙動に関する研
究は、主として耐食性の向上や使用材料の選定を目的として数多く行われてきている。
1.2.1
マトリックス(樹脂)
高分子複合材料の腐食を検討するためには、まずマトリックスである樹脂の検討が
重要である。
樹脂(高分子材料)が環境液中において劣化する場合、高分子材料への液体の浸入
が重要であり、その挙動に対して高分子材料と環境液分子の化学構造との関係が大き
な因子であることが様々な研究によって明らかになっている。
M. Saleme16)はポリエチレンに対する種々の液体の透過率を測定し、それらが液体
分子の大きさ、形状および極性によって支配されることを明らかにしたが、同様のこ
とが高分子側に着目した場合でも成立する事が確認されている 17)。また、大野ら 18)
は、高分子材料中への種々の中性塩水溶液の浸入量は、浸透圧によって一義的に決定
され中性塩の種類によらないことを示した。
高分子材料内部への環境液の拡散浸入挙動に関して多くの研究がある。H. B.
Hopfenberg ら
19)
は高分子材料中における溶液の拡散現象を、Fick 型拡散、Sigmoid
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型拡散を用いて 5 種類に分類した。
R. F. Register21) はポリエステル積層品を硫酸、塩酸および塩化ナトリウム水溶液に
浸せき後、侵入イオンの分布を蛍光X線分析 (XPS) を用い分析し、電気伝導度の変
化と対応させながらイオンの侵入挙動を検討している。
高分子材料の劣化(腐食)のメカニズムについて R. C. Allen22)は、水や溶媒の侵入
による単純な膨潤によって起こる劣化を物理的劣化と定義し、また酸、アルカリによ
る加水分解、酸化など化学反応を伴う劣化を化学的劣化(腐食)と定義している。
また、赤岡ら
20)
は、不飽和ポリエステル樹脂の耐水性についてエステル結合の濃
度により評価を行い、耐水性は樹脂中に含有されるエステル結合の濃度に依存するこ
とを示した。
北條ら
23)
はアミン硬化エポキシ樹脂の硫酸および水酸化ナトリウム水溶液におけ
る腐食挙動を検討し、水酸化ナトリウム水溶液に対しては良い耐食性を示すが、硫酸
水溶液ではアミン硬化構造部が塩基として働き化学的劣化を示すことを明らかにし
た。また、不飽和ポリエステル樹脂については、アルコール環境におけるエステルの
交換反応により、あるいはアルカリ環境における樹脂中のエステル構造の加水分解に
よる低分子量化とピット・クラックの発生を原因として、強度低下が起こることを明
らかにしている 24)。さらに水酸化ナトリウム水溶液中におけるエポキシ樹脂と不飽和
ポリエステル樹脂の腐食挙動と機構について検討し、高分子材料の腐食にも金属の腐
食のメカニズムが適用できることを示した
25)
。また、耐食 FRP 用樹脂の腐食形態と
腐食速度について検討し、その腐食形態は表面反応型腐食、腐食層形成型腐食、全面
浸入型腐食の 3 種類に分類でき、腐食速度は樹脂の化学構造、
樹脂と環境液の反応性、
樹脂への環境液の浸入能力に依存することを示した 26~28)。
1.2.2
複合材料
一般的に樹脂に繊維などを添加し複合化することで、樹脂単体を大きくしのぐ力学
的特性を付与することができる。また、FRP は金属材料と比較して、塩に対する耐食
性に優れており、海洋構造物の金属代替材料として注目されている 29)。一方、FRP は
海水環境において優位性があるのに対して製紙工業のパルプ漂白装置においてこれ
を用いた場合、漂白工程ではアルカリ(NaOH 溶液)を使用するために引張り強さで
75%減少した報告がある
30)
。この FRP の劣化メカニズムとしては、表層のポリエス
テル層を溶液が拡散しガラス繊維層に到達することで繊維の劣化が生じるものと考
えられている 21, 31)。
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次にガラス繊維の組成は Na+や K+などのアルカリ金属成分が多いために、アルカ
リと接することにより劣化することは明らかである 32, 33)。さらに、W. R Vieth および
A. Barkett らによって溶液は繊維層に到達し、樹脂-ガラス繊維界面にクラックを生
じ積層板が劣化することが明らかにされた 34, 35)。したがって複合材料の劣化は連続相
であるマトリックスが支配する場合が多いが、複合化することにより新たな問題すな
わち樹脂-添加物界面の存在が大きく影響する場合がある。
さらに複合材料である FRP の腐食に関する研究として、T. R. Bott ら 36) は、ガラス
繊維-ポリエステル樹脂複合材料の引張り強さの低下は、温度および時間のパラメー
タに依存し、その低下の割合は材料中に浸入する環境液の拡散の速度に依存すること
を明らかにした。また、E. K. Tschegg ら 37) は、FRP のクラックの成長評価を行い、
FRP の破壊は樹脂の腐食と繊維の引抜きの 2 つの過程に分けられることを明らかにし
た。さらに、A. Bledzki ら 38)は、ガラス繊維の腐食過程を光学顕微鏡と XMA により
検討し、初期に環境液がマトリックスに浸入する拡散過程があり、その後、樹脂-繊
維界面に生じたクラックを通り化学反応性物質が材料内部に侵入する過程が存在す
ることを示し、それはガラス含有率、環境温度およびガラス繊維と環境液の反応性に
依存することを明らかにした。
前述した界面の研究については強化材である種々の繊維や樹脂-ガラス繊維界面
の特性についての研究も行われている。向井 39)は、E ガラス、C ガラス繊維の酸性溶
液における腐食挙動について研究を行い、両ガラス繊維の腐食挙動は類似するが、耐
食性は C ガラスの方が優れ、酸性溶液における C ガラスの耐食性の優位性を明らか
にした。また樹脂-ガラス繊維界面に関する研究 40~43)により、繊維の種類、配向性、
繊維長、繊維の分散、カップリング剤の影響により、FRP の破断面に違いが生じ、界
面強度が FRP の物性に大きな影響を与えていることを明らかにした。さらに R. E.
Heitman44) は環境液の浸入により樹脂とガラス繊維の結合が切断され強度が低下する
ことを明らかにした。
溶液の浸入に関しては、蒸留水についての検討から、FRP のマトリックスである樹
脂に水が浸入することで FRP 内部に水が浸入すること、温度が上昇するにつれ溶液の
浸入が加速されることなどが明らかにされている
45~46)
。一方、海水環境においては
樹脂-繊維界面を通じて Na+および Cl-イオンが内部まで侵入することが確認されて
いる 47~53)。これら水および海水の浸入によって FRP は可塑化し、特に樹脂-繊維界
面に剥離が生じて強度低下する 54~60)。したがって、溶液の浸入が FRP を劣化させる
ことから、溶液の浸入を抑制するために FRP 積層構造に表面層(サーフェースベール)
を施した上で溶液の浸入を検討している研究がある。S. P. Sonawala ら 61, 62) はマトリ
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ックスが不飽和ポリエステルもしくはビニルエステルの FRP 積層板の表面層に
C-glass マットおよび PET 繊維マットを使用し、NaOH 水溶液もしくは有機溶媒中に
浸せきした場合の劣化挙動を検討した結果、温度によって C-glass と PET の性能が異
なることを示した。また、この他にもアルカリ水溶液における FRP のサーフェースベ
ールの効果についても多くの報告がある 63~65)。
これまでの研究は溶液の浸入による劣化、すなわち物理的劣化が主たるものであっ
た。これに対し L. Prian ら 66)は E-glass 繊維/不飽和ポリエステル系の FRP を温度を変
えた蒸留水に浸せきした。その結果、繊維からアルカリ成分が溶出し繊維まわりの pH
が上昇し、樹脂-繊維界面の劣化が加速され、界面が剥離、さらにマイクロクラック
およびボイドを形成する結果、水の浸入が加速されることを明らかにした。また、FRP
の劣化機構にはさまざまなステージが存在することを示し、水溶液中での浸せきにお
いて劣化が急激に加速される段階が現れることも明らかにした。
北條ら 67,
68)
は応力下における FRP の腐食挙動について検討し、FPR の強度低下の
経時変化から、樹脂が膨潤し強度が低下する第一劣化域(物理的劣化)、溶液の化学
反応により樹脂-ガラス繊維界面が侵される第二劣化域(化学的劣化域)、劣化がか
なり進行し再び樹脂の劣化の影響が顕著となる第三劣化域の 3 つの劣化域が存在する
ことを明らかにした。
FRP の劣化はこれまで列挙した通り、樹脂、繊維および樹脂-繊維界面の劣化が主
たるものであるが、これ以外の問題として膨れ(ブリスター)の発生が大きな問題と
なっている 69)。F. Chen70) はガラス繊維を用いた FRP を蒸留水に浸せきさせ、ブリス
ター発生の原因として (1) 不純物、 (2) 気泡、 (3) 初期クラック、 (4) ガラス繊維
をあげ、各々について系統的に解析した。さらに、F. Chen71)は FRP のマトリックスで
あるポリエステル樹脂の化学的性質とブリスター発生の関連について検討し、ブリス
ターの発生には樹脂の化学構造、硬化プロセス、ガラス繊維および積層技術が大きく
影響することを明らかにした。Philippe ら 72, 73)はブリスターの発生について、ブリス
ター内部の圧力を考慮したプレート理論に基づきモデル化を行っている。
1.2.3
寿命予測
FRP を実際の装置に使用する場合には、FRP の劣化機構の把握と、この劣化機構に
基づく長期連続使用時間の確実な予測による化学装置の最適設計、優れた保全性、低
コスト化が要求される。このような高い信頼性を持つ予測を可能とするにはさまざま
な環境における繊維、マトリックス樹脂およびこれらの界面についての微視的な劣化
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の機構を解明しなければならない。
一般に、材料の特性変化を含めた長期連続使用に関する劣化を正確に予測するため
には、使用状態にできるだけ近い条件の試験で得られた結果から評価することが望ま
しい。しかし、化学装置の場合には耐用年数が長いことから、使用状態よりも苛酷な
条件下での加速試験によって得られた評価を判断基準に用いるのが一般的である。
材料の特性の経時変化を示すために R=ktα (R is the rate of change, t is the time of
exposure, k is rate constant and α is material constant)が一般的に使われている 74)。まず、
劣化過程がα=0の場合、簡単な線形挙動を示し、短期間の試験でも寿命を予測するこ
とが可能である(過剰設計)。次に、劣化過程がα<0 の線形挙動の場合は、これまで
の結果から線形による推測と使用状態では違いが生ずる場合が多く、たびたび劣化す
る量を控えめな寿命を見積もることがある。最後にもっとも危険なケースとして劣化
が加速する(α>0)場合がある。このケースの場合、短時間での試験結果をもとに予
測を行うと使用中における材料の早まった故障を招くため、劣化の詳細な機構を理解
しなければならない 75, 76)。
こうした寿命予測に関しては、近年の計算機(パーソナルコンピュータ)の発達に
より、計算機シミュレーション技術が積極的に応用されている。材料科学の分野にお
いても材料特性を支配する重要な因子である材料の微細組織と材料特性の関係から、
材料特性値の予測が行われている 77、78)。
今川ら
79, 80)
は化学装置の寿命予測に極値統計を用いコンピュータによる解析を行
ったが、極値統計を用いる際には材料の特性を実験的に把握することが不可欠である
ことを示した。
平橋ら
81)
は侵食理論による方法と統計的手法により強度保持率に基づく各種薬品
中における寿命予測について検討している。また、C. Lhymn ら 82)は、環境液中での
FRP の応力破断試験を行い、破壊の機構と強度低下について統計的なアプローチを試
みている。さらに、C. C. Chiao ら 83)は試験温度を上昇させることにより FRP の加速
腐食試験を行い、アレニウスプロット、ワイブル関数を用い、促進劣化寿命予測法を
確立した。
以上、種々の樹脂および FRP の腐食に関する既往の研究傾向について述べたが、樹
脂および FRP が実際に用いられる場合には、成形時に生ずる材料のバラツキが大きく、
これが腐食挙動に及ぼす影響についてはほとんど考慮されていないのが現状である。
さらに、前述の L. Prian が明らかにしたような、複合材料の腐食に及ぼす副資材すな
わち添加物の影響についてはほとんど報告がないのが現状である。
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1.3
緒論
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本研究の目的
熱硬化性樹脂は、化学装置のような高い耐食性と構造強度が必要とされる場合には
樹脂単体よりむしろ複合化した状態で使用される。この理由は構造特性と機能特性の
向上を意図するためのものである。前述した通り、代表的なものが FRP であり、この
他に粒子充てんが挙げられる。前者が力学的特性の向上を複合化の目的としているの
に対し、後者はコスト低減、生産性の向上あるいは機能特性の向上を目的としている。
機能特性の例としては水酸化アルミニウムなどの無機粒子をプラスチックに高配合
し、難燃性、硬度、耐摩耗性、加工性、装飾性を高めた材料が、人工大理石として住
宅機器分野で使用されている。
これら複合材料の使用分野が拡大するにつれ、その耐食性が問題となることが予想
されるが、複合材料の腐食挙動や機構については、FRP を対象とした報告が見られる
が 67,68)、粒子充てん複合材料についてはほとんど明らかにされていない。
粒子充てん熱硬化性樹脂の腐食挙動について、マトリックスにビスフェーノール A
型エポキシ樹脂、充てん材に Al2O3 および SiC を用いた複合材料をアルカリ水溶液に
浸せきした結果、アルミナ粒子は親水性のために環境液が粒子に到達するとそこで停
滞し、腐食の進行を抑える働きをすることが確認された 84)。したがって粒子の効果に
より耐食性を向上させる“正”の効果が存在する。これに対して L. Prian ら 66)が明ら
かにしたようなに、FRP の繊維層に蒸留水が到達すると、繊維のシリカ成分が溶出し、
溶出部分の pH が上昇しマトリックスである樹脂を加水分解させることを示している。
すなわち、添加物の存在が複合材料全体の耐食性を低下させる“負”の効果を示す場
合がある。
前述したとおり熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂は、樹脂の粘度が低く、
硬化時間の調整が行いやすく、さらに、ハンドレイアップやスプレーアップのような
常温硬化の成形が可能であるため、他の熱硬化性樹脂に比べ複合化が容易であり、こ
のため様々な工業製品もしくは汎用製品に使用されている。この不飽和ポリエステル
樹脂の硬化機構は典型的なラジカル重合(硬化)であり、用いられる反応開始剤はラ
ジカル発生型の有機過酸化物とナフテン酸金属塩の組み合わせが用いられる。通常不
飽和ポリエステル樹脂の硬化剤は有機過酸化物と希釈剤の組み合わせからなり、促進
剤はスチレンモノマーとナフテン酸金属塩の組み合わせからなる。硬化剤の添加量は
通常、ポットライフ、ゲル化時間、硬化時間といった硬化度と密接な関係にある特性
を考慮して決められる。不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤としての最も一般的な例と
して、有機過酸化物メチルエチルケトンパーオキサイドと促進剤ナフテン酸コバルト
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緒論
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の組み合わせがある。メチルエチルケトンパーオキサイドは反応性の高い有機過酸化
物であり、これを安定にかつ安全に保存するため、さらに先に述べたポットライフ、
ゲル化時間、硬化時間、最高発熱温度等の調整のため、可塑剤(希釈剤)などを用い
て希釈した状態で市販されている。つまり、先に述べたように熱硬化性樹脂には種々
のものが添加されており耐食性に影響を及ぼすものと思われるがそれについての系
統的な研究は全くないのが現状である。
そこで本論文では、熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂とその FRP につい
て、これらが耐食用途として実際に使用されている環境の酸性水溶液中においての腐
食挙動を検討し、添加物であるガラス繊維、粒子、さらには硬化剤や促進剤などの副
資材に着目しながら、腐食機構の解明を目的とした研究を行った。
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