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第8章 パネルディスカッション

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第8章 パネルディスカッション
第8章 パネルディスカッション
議事録
202
国際シンポジウム
「戦略的環境アセスメントの効果的な実施のために---各国の実例に学ぶ---」
パネルディスカッション 議事メモ
2003 年 2 月 20 日(木)
10:00∼17:00
於:三田共用会議所
コーディネーター:福岡大学法学部 浅野直人教授
パネリスト:
ロブ・フェルヒィーム氏
イアリー・デューシック氏
ポール・トムリンソン氏
バリー・サドラー氏
東京工業大学大学院総合理工学研究科 原科幸彦教授
法政大学社会学部 田中充教授
司会:
三菱総合研究所 佐々木俊治主席研究員
司会:【コーディネーター、パネリスト紹介等】
(以下敬称略)
コーディネーター:日本でも、SEA については、原則や基本的考え方については既にかな
り理解が進んでいると思うが、小林課長が冒頭でお話ししたように、今は実現の段階、
具体化の段階にきており、それをどう実施したら良いのかとなると、まだ検討中の課題
が多く残っている。あまり最初から 1 つの統一的な方法を無理やり導入するという方法、
考え方をとるべきではないと思っており、事業種あるいは対象となるプランの状況によ
って違いがあることを認めた上で今後の方向を考えれば良いと思っているが、やはりど
うしたら良いのかという問題は常につきまとう。本日は、海外からお迎えした 4 人の専
門家に海外で実際に実施された SEA のさまざまなケースをご紹介いただいた。その前に
は、サドラー氏から大変わかりやすく、しかもポイントを要領良く整理して、SEA の現
段階の状況、諸外国の状況を知らせていただいた。私がこのパネルディスカッションで
お聞きしようと思っていたことについては、既に個別のケーススタディやサドラー氏の
ご報告のなかでかなり紹介されているが、もう一度、全体を通して俯瞰的に整理するた
めに、SEA を効果的に実施するための方法や手法、ポイント、課題は何であるかという
本日のテーマに基づき、まず(1)複数案の設定方法、(2)分析結果の比較評価につい
ての考え方、(3)環境面での分析、統合的な評価という問題をどうするか、さらには
(4)公衆の参加という 4 つのサブテーマでさらにお話しいただきたい。時間的な都合で
全部が終わらない可能性もあるが、その場合はご了承いただきたい。まず、2 人の日本
の専門家に、日本で SEA の実施を進めていくために、これからどのような議論を期待し
たら良いか、どのようなことを論じたら良いかコメントをいただきながら、自己紹介を
してほしい。
原科:東京工業大学で環境分野の研究をしている。専門は環境計画、特に住民参加で、ア
セスメントは長年研究しており、放送大学でも 10 年ぐらい番組を担当している。放送大
学の戦略的環境アセスメントの回でサドラー氏やフェルヒィーム氏にインタビューをし
ており、番組にも出ていただいている。今後、日本でも SEA を適用しなくてはいけない
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ということだが、本日は時間も少ないため追加資料を用意した。長野県における SEA の
実施について、廃棄物処理施設計画の事例を取り上げ、この 4 月から SEA を実行するこ
とが決まっている。知事も立地選定などで 1 億円程度の予算を要求している。資料を説
明する時間はないが、フローチャート左列の一番下の部分を実施しており、いよいよ右
の部分、ロケーションを行う段階で SEA を適用したいと考えているため、本日はこうい
った具体例を考えながら皆さんにご質問したいと思っている。
田中:所属している社会学部というのは社会学をやっているところかとよく聞かれるが、
英語では department of social science、社会科学部という。私はそこで環境政策、環境論
を教えており、どちらかというと地方レベル、自治体レベルの環境政策、たとえば環境
計画、環境アセスメントなどが主要な関心事。以前、自治体でアセスメントの前段階の
環境調査、環境調整などに携わったこともあり、SEA については非常に関心をもって取
り組んでいる。本日の 4 人の講演は非常にわかりやすく、いろいろな事例が紹介されて
いた。SEA には固定的な方法ではなく、むしろ地域特性や国の事情に応じて工夫をして
実施していくことがとりわけ大事だということがわかった。そして評価の方法や目標設
定、具体的に SEA チームと計画チームの連携のあり方なども工夫して行われていること
もよくわかった。日本でも廃棄物計画や道路計画など、迷惑施設の立地に対して SEA 的
な手法がどんどん導入されつつある。是非、日本で導入する場合にどのようなことが課
題になるのかを、ディスカッションのなかで紹介、あるいは明らかにできれば良いと思
う。
コーディネーター:個別の手続などについての議論に入る前に、これまでの講演を踏まえ、
SEA のポイントを整理しておきたい。
【サドラー氏の講演の要旨】
(1) SEA が対象とする計画、プラン等は 1 つ 1 つ違いが大きいので、SEA の仕組み、
手法は柔軟なものでなくてはいけない。
(2) SEA は環境配慮をどのように計画内容に反映させるかということがそもそもの
目的。調べること自体が目的ではなく、成功した例というのは、計画策定プロセ
スと並行して早い段階から SEA のプロセスが実施されてきて、それによって計
画プロセスに情報がインプットされたものと思われる。詳細な分析を目指すより
は、定性的で良いので、適切な時期に情報が計画プロセスに伝わることが大事。
的を絞ることがポイントである。
(3) 将来の方向としては、持続可能性の観点が特に重要になってくる。
サドラー:カギとなるものは網羅されていたと思う。ポイントとして挙げていただいたこ
とは大変関連性がある。パネルディスカッションで体系的に取り上げることにより、デ
ィスカッション終了時にはどのような対応策があるかということを日本の専門家の方と
共有できればと思う。考えさせられる質問も多いと思うので、容易な答えは出ない。ま
た、パッケージの形でどのように提供したら良いかということについてはさまざまな議
論が行われてきた。従って、できるだけ短く、個別的なことよりも原則的なことを話し
たい。
コーディネーター:まず複数案について議論を始めたい。SEA では複数案、代替案が不可
欠であるという点には異論はないが、計画の性格によっては複数案のつくり方も異なる
と思われる。極端な複数案をつくる場合と、実現可能性の高い複数案を比較する場合が
あると考えられるが、どのような考え方で複数案を策定するのか。もちろん、それぞれ
の考え方は場面ごとで有効性が異なると思うが、複数案をつくる際におおまかにどのよ
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うな考え方があるのか。それらの方法の長所、短所は何か。これらの点について、フェ
ルヒィーム氏、トムリンソン氏それぞれにご説明いただきたい。
フェルヒィーム:代替案、複数案を策定する場合、最も重要な点は何か、あるいは欠けて
いるとすればどのようなことか、ということで良いか。まず、SEA における欠点は、あ
まりに多くの複数案が出すぎてしまうということ。明らかにこれは SEA の実施において
効果的な方法ではない。その理由は、これらの代替案を評価する作業の負荷が高まるこ
と。同時に、政治家、市民との対話においての混乱の要因にもなり得る。与えられた時
間のなかであまりに多くの複数案を取り上げるのも難がある。従って、SEA の複数案は
3∼5 つに収めるべきで、そうすれば欠陥を補うことができる。次に、SEA では複数案ど
うしが非常に似通っているということが実際には多い。そうした場合に、複数案を合わ
せて考えることに意味がなくなってしまう。従って、複数案では政治家と有権者の両方
にどのようなオプションの範囲があり得るか、つまり意思決定の範囲を明確に定めるこ
とが非常に重要であり、そのためには、かなり両極端な複数案を設定することが有益と
なる。
トムリンソン:実際に複数案を合わせてみた場合にどのような課題が生じるか。特に、複
数案の策定過程においてステークホルダーがどのような課題に遭遇するかということを
取り上げる。最初は広く幅をとる事が重要だが、そこから 3∼5 つに絞り込む作業が必要。
そうしなくては混乱が生じ、効果的な運用ができなくなる。加えて、中心となるステー
クホルダーは、複数案の基礎が合理的で公正であることを担保するため、意見を取り込
む必要がある。概して現状を良しとし、旧来の考え方の枠におさまりがちだが、複数案
を考える際には、将来目指すべき方向、あるべき方向性を盛り込むことも 1 つの方法。
複数案が出れば、むしろ仕事を進めていく上で、最終的な成果もはっきりすると思う。
複数案を 3∼5 に収めることについては同感。
コーディネーター:目指すべき方向を考える場合、どのような環境配慮をするのかが前提
となるが、この点について何かアドバイスをお願いしたい。
デューシック:プレゼンテーションで発表したように、世界共通の前提はない。従って、
環境上の目的はそれぞれの計画やプログラムの特徴に合わせて設定するべきだ。例えば、
最も良い方法としては、(1)どのような環境上の圧力、プレッシャーに瀕しているの
か、取り扱っているセクターの個別の課題を考えること、(2)さまざまな環境目的、
国際条約や国内政策、持続可能な開発のための自治体の取組をみることによって、特定
のセクターや地域により即したものにすること。それだけでも長いリストが出てくるは
ずで、それを数値化して、最も重要な項目を選ばなくてはならない。そこで最も重要な
環境目標を選ぶ際に、環境当局ならびに計画当局と協議することが重要。そのなかで最
も関連性のあるプログラムにおいてどのような環境目的があるかを共有することができ
る。また、その情報を利用することで、計画策定者は目標設定にそれを利用し、評価チ
ームはその目標を参考にして比較的短時間で複数案の評価をすることが可能になる。統
合された計画と評価のより早い段階においてこれを行う必要がある。それ以降はより詳
細な分析になってくることがその理由。
サドラー:デューシック氏には非常にまとまった答えをいただいた。補足をすると、この
リストを作成した上で、相対的な重要性に合わせて複数案を活用する際の優先順位を定
める。また、マトリクスを使って、特定の目的を上の軸に定めることでどのように積み
上げることができるかをみていく。どのような連携や一貫性が在るのか、また将来出て
くる可能性のある対立点を読み込むことができる。
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コーディネーター:来場者が次に疑問に思うのは、どのように優先順位を決めるのかとい
うことだと思う。例えば国レベルの計画なら、国の環境基本計画などが手がかりになる
かもしれない。地域の環境基本計画があればそれが手がかりになるかもしれないが、必
ずしもそれでうまくいくとは限らない。個々の SEA プロセスでの優先順位の決め方につ
いて、説得力があるのはどのようなものか。この点を疑問とする人は多いと思う。
サドラー:これは非常に重要な点。目標の重要性、優先順位というものは、インパクトの
評価に並行して出てくるもの。いろいろな政策、コミットメント、ガイドラインや基準、
指標などがあるが、結局それは計画や開発の目標によって異なり、その内容にしたがっ
て異なる環境目標も出てくる。例えば、都市交通計画ならば、最初に検討すべき問題と
して騒音と排気ガスが当然優先順位が高いことは明らか。その他のことは作業をしてい
くうちに次第に優先順位がわかってくると思う。
フェルヒィーム:現在ある政策やプラン、これまで国あるいは地域レベルで決定したこと
をみることも必要だが、もう 1 つ、優先順位を決定する際に必要なのは、実際に利害関
係者にたずねること。計画の早期段階で重要なのは、利害関係者がインパクトとして何
を重視しているか、何かアイディアをもっているか、オプションとして何を重視してい
るかなど、利害関係者の声が優先順位決定において重要だと思う。
原科:大変重要なポイントだと思うが、ただ、優先順位を決めるのは複数案作成の後の段
階だと考えている。まず多くの複数案をつくる。極端な案を比較する方が良いとの話が
あったが、そのためにはどうすれば良いか。多くの案をつくるにはどうしたら良いか。
膨らませた後でだいたい 3∼5 に絞り込むということで、それは大事なことだと思うが、
まず膨らませるにはどうするか。その時にステークホルダーが非常に大事だが、具体的
な手続はどうなるのか。長野では 4 月から SEA が始まるが、まず立地についての案を膨
らませたが、大変広い場所なので何十か所にも膨らみすぎてしまい、これをどう 5、6 カ
所に絞り込むか悩んでいる。この点について、具体的な経験から、どのようにステーク
ホルダーが参加しているか、聞かせていただきたい。
コーディネーター:さきほどご報告いただいたケーススタディのなかでは誰の話が一番良
いか。
田中:フェルヒィーム氏の廃棄物計画の話とトムリンソン氏の交通計画の話が近いかもし
れない。原科先生が指摘したのは、「計画者は多くの案を準備はするが、それは実行可
能性から考えるとかなり難しいものから極端なものまで用意されている。そのなかで妥
当な案を 3∼5 つぐらい絞って提案する。従って、最初のスタートラインとなる 10∼20
程度の案からどのように 3、4 つに絞るにはどうすれば良いか、その際に公衆参加がうま
く機能するか」ということだと思う。
コ−ディネーター:公衆参加については後で議論する。ステークホルダーに関与してもら
って優先順位を考えるということは重要なファクターだと思うが、具体的なプロセスは
どのようなものかを例を出してご説明いただきたい。オランダの廃棄物計画の場合はど
うだったのか。いくつかプロセスがあったということは既にお話があった。
フェルヒィーム:基本的に、人の声をよく聞いて、すべてのコメントをインベントリとし
てまとめる。結果として、専門家の意見をそこから抽出しなくてはならない。もちろん
ステークホルダーの意見は聞くが、ステークホルダーとは一般市民や NGO だけでなく、
他省庁や地方自治体、計画によって何らかの影響を受ける誰もが意見を述べるべき。そ
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れぞれ最も重要な案は何か、それぞれの意見を集めて、最終的に決定する権限があるの
は担当省庁となるが、ステークホルダーの意見を聞いておけば、決定したことをもう一
度説明しやすいし、フィードバックをもらうこともできて、対話がスムーズに進むとい
う点が重要だと思う。
トムリンソン:マルチモーダルスタディの例を挙げる。これはボトムアップのアプローチ
から始めたが、約 160 の意見が出て、評価するのは難しかった。フェルヒィーム氏の話
のとおり、一般の人に道路が欲しいのか、需要管理をするべきか、公共輸送が良いのか、
意見を聞いた。さらにコンサルタントに聞いて、どれが許容可能かということで絞り込
んでいき、最終的に 4 つの戦略に落とした。
原科:コンサルタントに作業を任せて、その段階で公衆意見のインプットはなかったとい
うことか。その間に公衆参加があると思うが。
トムリンソン:理想としては、公衆参加は常に継続的にチャンスを提供するべきだと思う。
一般の人に意見を聞く機会は常にオープンにしていた。
コーディネーター:注意すべきだと思う点は、ステークホルダーという言葉が使われては
いるが、従来、アセスメントの世界では「公衆参加」という表現をしてそれだけを考え
ているが、実は、ある種のステークホルダー、例えば産業界などは政策決定にいくらで
も入ってくる。これまで入ってこなかった部分を入れていこうという点を強調している
ため、我が国ではステークホルダーの参加というと公衆だけを意識しているが、実際に
はいろいろな役割を果たす人が入ってくる。それをどのような段階で入ってもらうかと
いう点については、本日のお話でもあった通り、NPO をすべて同等に扱うのではなくて、
国家レベルの計画の場合には主要な NPO は委員会のメンバーに入ってもらったりする。
また、その他の NPO は意見を聞く。いろいろな方法があることがわかったので、この点
は我が国でも多いに参考になると思う。
コーディネーター:複数案設定の話をしてきて、既に複数案絞り込みの話も出たので重な
る部分もある。絞り込まれた段階で 3∼5 の複数案を比較検討する。その比較検討の段階
でどのような方法がとられるのか。マトリクスを作る、数値で分析をする、ランキング
をつける、定性的な記述をするなど、さまざまな方法があるということだった。最後は
総合評価をすることになるが、その場合にも重みづけをするという話があった。比較方
法を選ぶ場合、どのような点を考えて、どのような方法で比較するのが良いと考えられ
るか、考慮すべきポイントをお聞きしたい。また、評価する際の比較を含めて、意思決
定者が利用しやすい評価をして、環境面からの配慮として計画に反映させやすいものに
するにはどのようにしたら良いのか。そして、おそらく現場の人間が一番関心を持つの
は、これが正しい方法だということをどうしたら納得してもらえるのかということ。我
が国ではこれまで EIA で非常に細かい数字に頼って勝負をするという習慣があったので、
本日の話を聞いていると、低いランクでも良いとなると驚かされる部分がある。複数案
の比較方法に関しても、我々の先入観から考えるとすこしわかりにくい点もある。どの
ような方法で複数案を比較するか、選んだ方法が適切であることをどのように明らかに
するかを重ねてうかがいたい。
フェルヒィーム:ステークホルダー、公衆参加という言葉に混乱があるというのは実はよ
くあること。国によって、言語によって使い方も異なるので混乱がある。オランダの場
合、ステークホルダーというと、広義には(1)主務官庁の他、ある計画において責任
をもつ、あるいは影響を受ける省庁。(2)国内の NGO。なお、NGO というのはあらゆ
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る非政府機関であり、環境団体に限らず、業界団体なども含まれる。(3)市民集団、
ローカルな NGO や政治家、地方自治体など、計画によって影響を受ける特定のグルー
プ。(4)一般にいう公衆、という 4 つの意味がある。今のご質問は、複数案を比較する
最良の手段は何か、それを制度化して説明するにはどうすれば良いかということだった
が、まず重要なのは、ステークホルダーといってもそれぞれ違いがあるということ。グ
ループによって望む情報も違ってくるので、一般的なアドバイスとしては、(1)複数
の手段を使って複数案を検討し、比較結果をステークホルダーに伝えるということにな
るが、まず複数案を比較する際に重要となるのは、専門家以外、例えば政治家などに定
性的に結果を説明すること。どの案がベストか、その理由はなぜか、最も重要なプラス
とマイナスの影響は何かを、定性的に説明するにとどめること。(2)ランクづけも重
要な説明方法だと思う。結果として、一般の人々にわかりやすいし、意思決定者にもわ
かりやすい。しかし、ステークホルダーには NGO もあり、特に環境 NGO は SEA の結
果について批判的で、もともと反対している場合にはそもそも結果を信じない。このよ
うなステークホルダーに対しては、すべての複数案、インディケーター、スコアをしっ
かり提示して説明すべきだ。相手としても最終結論にどのように至ったかを自分の目で
確認したいわけで、それを提供しなくては結果は当然信じてくれないし、最終的に抽出
されたプランニングに対する信頼感はとうてい生まれない。また、ある種のプランニン
グ、例えば空間計画等について使える方法なのだが、地図を使って空間的にどのような
影響が出るのかを説明する。地図は大変わかりやすいし、意思決定者も政治家も見れば
わかる。次に、重み付けについて。荷重をかけて比較するという手法は、慎重に行うべ
きだと申し上げたい。重み付け自体が非常に複雑。重み付けの前提や手法は大変複雑な
ので、避けることができるなら避けた方が良いが、避けられない場合、特に議論が伯仲
して意見が分かれる場合や、いろいろな問題が絡んでいる場合には、結局は何らかの形
で重み付けに頼らなくてはならない。非常に意見が分かれる問題については、重みづけ
によって環境インパクトを評価するのも 1 つの方法だと思う。例えば、マルチクライテ
リアアナリシス(多基準分析)という方法を利用する際に重要となるのは、SEA におい
て重みの選択方法をしっかり説明すること。また、感応度分析をして、重みの付け方に
よって比較結果がこれだけ違ってくるということを説明できるようにすることが、一般
的に最も重要な方法だと思う。
トムリンソン:技術評価をする人の重みと利害関係者の重みは違う。従って、いろいろな
形で、一般の人あるいはステークホルダーに対して、明らかに、あるいは非明示的な形
で選択肢に関して重みを与えるというのが重みづけのメカニズム。しかし、一般の人の
支持を得るには、重みづけの方法を明らかにした方が良いと思うが、どのような形で代
替案の中から選んでいくのかということについては、最悪の選択肢を最終的なアプロー
チとして選ばないことが大事。最も良いものが望ましいが、目標を選ぶ際にはこの点に
注意する必要がある。
サドラー:技術的な問題についてだいぶ包括的な議論がされてきたので私はあまり追加の
コメントをしないが、複数案の比較について 3、4 点の原則をはっきり出しておきたい。
(1)まずは明確でなくてはいけないということ。複数案を比較する場合、ほとんどに
おいて異なるものが異なるレベルにあるわけで、それぞれの影響を評価して、最終的に
総和すると、かなりわかりやすいものになる。その情報がかなり明確なメッセージを伝
えてくれる。従って、分析自体が説明可能なもの、つまり一連の証拠に論理的に従った
ものでないといけない。技術分析と関係のないものでは困る。(2)また、最終的な分
析は、意思決定者が容易に理解できるものにしなくてはいけない。マトリクスのような
形で、皆がわかりやすい形で提示するということ。例えば、主な要素、教訓についても
よくまとめられたものが良い。各複数案が何をしているか、影響はどうかということも
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わかりやすくする。(3)3 つ目は、環境的に何が失われたかということが問題となる。
何が目標かを最初に定めていないと、何が環境部局にとって重要か、あるいは環境政策
にとって重要かがわからないと、判断ができない。よって、技術的手法に関しても、最
終的にはその他の原則もきちんと考えておく必要がある。そして、かなりシンプルな質
問に対する回答を考えておく必要がある。例えば、常識をもとに理解できるようにして
おかなくては、一般の人や意思決定者に理解してもらえない。技術的な形で複数案を比
較したとしても、満足できる結果にはならない。つまり意思決定への貢献ということ、
そこで何が失われたかということ、それが目標にどう影響するか、環境にとってどのよ
うな被害があったかということに留意する必要がある。
コーディネーター:手のうちを示す、こうなっているということを全部明らかにせずに重
みづけをしても、結局はごまかしているといわれてしまう。また、相手によりけりとい
うこともわかった。一般の方に対してはわかりやすく、政策決定者に対しては、あまり
技術的な細かいことは説明せずにシンプルに、しかし技術的な裏付けがないということ
ではなく、必要なら裏付けをきちんと出すことも求められるということ。比較について
は、原科先生も悩んでいるということだが、その立場から追加的な質問はあるか。
原科:ステークホルダーとは多様な利害関係者という日本語があてはまると思う。社会の
いろいろなメンバー、主体ということ。1 つの方法は、エキスパートが重みをつけると
いうことだったが、これは日本でもいくつか例があるが、ここにはエキスパートなりの
価値判断が入ってしまう。4 つの大きな主体があるとして 4 者それぞれについて重みづ
けを出してもらうと、4 つのパターンがあるので、その結果の比較はどうするのか、調
整はどうするのか。首都機能移転のメンバーだったが、決定理論の方法として、ゲーム
的にエキスパートが一つ重みをつけてフィードバックしてやり直すというプロセスによ
る比較検討をしたが、数値的問題もあり、なかなか上手くいかなかった。
コ−ディネーター:比較評価、さらに重みづけに関しては、何か画一的な基準があったり、
これがあれば正当化できるというような方法があったりするわけではない、ということ
だと思う。原科先生のいうゲーム的理論というのは、例えば、サイトをどこにしようか
という話の場合は確かに有効だと思うが、他の場合は別の方法があるかもしれない。あ
るいは、エキスパートの目から見て明らかにこの方法が大事だとわかっている場合や、
フェルヒィーム氏が話していたオランダの廃棄物処理計画のケースで政府の方針として
気候変動が極めて重要なのでそれに重みをかけるということも、国家的政策ということ
で十分説得力があると思われる。しかし、あらゆる場合に、常に気候変動に重みづけを
した SEA で良いのかというと、必ずしもそうではないと思う。
田中:環境面と社会経済面との統合について会場からの質問に対してデューシック氏は切
り離して行う場合と統合して行う場合があると話していたが、計画立案者が要求した場
合には統合的に行うが、基本としては分離型なのか。つまり社会経済面と環境面の統合
的な評価はどのような場合に行うと使い分けがされているのかをうかがいたい。
デューシック:これは非常に重要な質問だと思う。我々の地域でも答えを出そうとしてい
る。我々は意図的に SEA を環境問題に限定している。その理由は、社会経済の問題は既
に対応済み、つまり計画策定に入っているからで、それが計画策定の仕組み。環境に関
する関心の部分がもともとの計画策定では失われていた。少なくとも我々の地域では
SEA は環境問題に絞っており、同時に、健康問題、社会経済影響にも目を向けており、
将来は統合的な評価の方向に向かいつつあると思うが、今のところ SEA は環境問題に限
定している。事例としては、国の経済開発計画が 4 か国であるが、そのなかで別個に経
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済分析、社会分析が行われている。そこでチームがプランの文書の改善のための会議を
行っている。最終的に大事なのは、勧告と、社会、経済、環境分析の結果が矛盾しない
ようにすること。あるいは、同様の勧告になるようにすることが重要なので、プランや
プログラムを改善していくことを最終目標として考えていく。また、私が説明したいく
つかの事例のなかでも統合アプローチを提唱してきたが、その理由は、意思決定者は統
合した情報が欲しいからで、別々の評価が出てしまうと、境界の問題が出てくるから。
つまり、ある特定の側面は環境社会にくくられるのか、あるいは社会経済にくくられる
問題なのか、または両方の中間となることも考えられる。統合評価を出せば、もっと確
かなものになるので、どこにも漏れがないというのは統合した評価によるものだと思う。
フェルヒィーム:トムリンソン、デューシック両氏のいうとおり、両方の手法に長所短所
はあると思う。両方の利点あるいは不利な点はそれほどわかりにくいものではない。例
えば、別個の環境評価をするとリスクが出てくる。せっかくの評価を誰も読んでくれな
い。つまり、経済の評価しか見てくれない。統合すれば逆のリスクが出てくる。その中
では、環境問題の重みが失われてしまう。つまり、両方のリスクがある。どちらにして
も大事なのは、統合しない場合には強い調整のメカニズムが必要ということ。別々のチ
ームが協力しなくてはいけない。一緒に報告せよという圧力が他からかかってくる。オ
ランダでは、別個に評価を行う場合、最終的な環境評価ができて閣議に提出するが、経
済評価はできていないという事態が出てくる。そうなると閣議では先に出た評価の方だ
けを見る。つまり、遅れた方は見てもらえないかもしれない。また、それぞれの評価結
果に矛盾が出ると大きな問題になる。統合しても別個にしても、確実にしなくてはなら
ないのは、それぞれのチームで協力、調整をすることだ。それを実現するための重要な
メカニズムとして、独立した品質管理のシステムを設けることが挙げられる。つまり、
独立した機関や組織に任せて、そこでこれまで受けてきた評価がすべて適切な形で行わ
れるように担保してはどうだろうか。環境問題が十分に注目されているか独立した機関
でチェックしてもらう。別個の環境評価であれば、うまく調整されているかを見てもら
う。どちらの形をとるにしても、確実な調整メカニズムがあることを担保してもらう。
SEA を始めるのに一番良いことは、できるだけシンプルにすることで、そこでいろいろ
なことを学習して、だんだん進化していくうちに統合評価になるかもしれない。少なく
とも私が知っている国では、発展途上国は例外だが、ほとんどそのような形で実施して
きた。
コーディネーター:環境面の評価と社会経済面の評価を統合する場合、私たちは、そこで
すべて答えを出すものだと誤解してしまいがち。今の話によると、要するに意思決定者
に対して情報をきちんと与えることが重要で、2 冊あるよりは 1 冊の方が単純だろうと
いうことだと思う。経済社会面から考えると A 案が良くて、環境面では C 案だとなれば、
その結果のまま出せば良いということのようだ。ワンセットでやるということであって、
結論を出すことが SEA の目的ではないということを確認しておかないと、この話は我々
にとっては受け入れがたいということになるかもしれない。いずれにせよ品質管理の重
要性というのはよくわかる。国土交通省の事業評価委員会などに出ていると、このよう
なことだけで全部評価できるのか、もっと別の評価があるのではないかとたびたび悩ま
される。社会経済評価に関してはきちんと固まっていて、SEA の方は固まっていないと
いわれるのはいささか困る気がするし、その点も含めながら、次に環境面での分析とい
うことに話を進めたい。先ほどからのお話では、必ずしも定量的に分析をする必要はな
い、定性的な分析で構わない場面が結構多いことはわかってきたが、他に考慮しなくて
はならないことはあるか。また、専門家の意見を聞けばそれで済む場面もあるとのこと
だったが、具体的にどのような場面で、どのような事柄について専門家の意見を聞けば、
必ずしも LCA や数値的な分析などがなくても済んでしまうのか、具体例をうかがいたい。
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トムリンソン:どのテーマに関して定量化が意味があるのかというが問題だと思う。多く
の場合、定量化によってより賢明な意思決定に資することができるかどうかという点を
考える。細かい数字を出したところで、その違いによって専門家の意見は変わらないは
ずで、どの程度の力を注いで定量化するのかということになる。テーマの重要度にもよ
るし、どの程度はっきり白黒つけるのかということによっても違ってくる。もしグレー
であればもっと細かい点がなくてははっきりしないので、満足できるところまで精密度
を極めていく。そして白黒を判断する。不確実性がどの程度まで許容できるかにもよる。
意思決定が間違っていたというリスクをどの程度まで許容できるのか。従って、専門家
の判断は効果がある。常に細かいモデルが必要なのではなく、論争となるような場合で
あれば定量化や詳細データが必要かもしれない。また、我々がこれまで常にやってきて
今後もやっていくことなのだが、例えば交通輸送モデルでは数字を使っており、車両台
数の数量分析があれば騒音や大気のレベルなどは理解しやすいが、こうしたすべての分
析が実際に意思決定者のためになるのか、専門家の判断だけでも十分なのではないか、
ということが課題である。また、結果をどのように伝えていくかというコミュニケーシ
ョンも、英国の場合には確かに非常に懸念がある。専門家を信じるべきかという声があ
り、そこが問題となる。専門家はクリーンではないのではないか、数字の方が正しいの
ではないかという考え方がある。ただ、もともと数字にも仮定や仮説が入っており、正
しいとは限らない。従って、そこでどうやって伝えるかというコミュニケーション問題
が出てくる。時には数字があった方がコミュニケーションしやすいが、逆に専門家を使
った方が説得力がある場合もある。
フェルヒィーム:定性的評価を行うというのは、理論ではなく実務に照らしたもの。私が
紹介した事例のなかでは、当局自らが SEA の準備の後に結論を出していた。つまり、
SEA において、LCA を実施しないまでも、一般常識に照らしていくつかの課題が明らか
になった。例えば、廃棄物処理をしながら発電をするという技術があったとする。廃棄
物処理だけで終わるよりは、発電をした方が社会に有益であることは明らかで、その場
合には結論を導き出す上で LCA が必要となるかどうかはいうまでもない。オランダで、
郊外を結ぶ形でモノレールを展開できれば、これは都市にとっても利便性があり、地理
的な分析や数字を用いる必要はなく、地図を見れば事足りる。従って、専門家による判
断というのは、場合によっては不要のケースもある。逆に、どういった時に専門家に委
ねるかが問題となる。全ての場合において専門家の判断に委ねるべき、という訳ではな
い。説明の裏付けとなる理論構築や背景理由の説明が明確になされなければ有効性はな
い。説明に説得力がなければもっと掘り下げるべき材料を与えるべきだし、前提が間違
っている場合もある。いずれにしても、最終結論を導くにあたって、SEA の実施によっ
てあらゆる論点を洗い出し、すべての適性を見定めることができる。これが専門家の判
断、あるいは調査の過程で非常に重要となる。専門家は、白黒つけるのではなくてあら
ゆる論点を洗い出すという役割の方がむしろ大きい。ある特定の課題においては、賛否
両論に分かれるために専門家の理論をもってしても完全に説得力を持たせることはでき
ない。また逆に、有益な場合もある。従って、定量的分析を用いるべきではあるが、議
論となるような場合には論点の核心に触れる部分にむしろ定性的評価を用いるべきだと
いうこと。GIS は、空間計画ではおそらく最良の手法の 1 つだろうし、輸送システムに
おいてはコンピューターによるシミュレーションが高度に対応できるため、多くの国で
利用されている。しかし、データが多い場合においてコンピューターモデルが有益とな
るのであって、データがなければ、あまりに影響が大きくなってしまうため、LCA を行
うことは避けた方が良い。また、専門家の判断や定量的な情報は(定性的評価の)前提
をおく際にも有益になってくる。
211
コーディネーター:最後に、「公衆の参加」というサブテーマを取り上げる。SEA におい
て公衆参加というプロセスが必須ということは共通の理解であるが、これが SEA として
独立して行われるわけではなく、計画策定プロセスでの公衆参加と一緒になることがあ
ると思う。そうなると、環境面の情報が社会経済面などの情報に埋もれてしまう懸念が
ある。公衆参加をした場合、環境面にうまくハイライトを当てる工夫があれば教えてい
ただきたい。
サドラー:いくつか一般論を説明したい。基本的な論点は 3 つある。(1)SEA にどのよ
うな形で公衆参加を盛り込むかということ。EIA にも同様のことがいえるが、若干変化
をもたせて、戦略的レベルでの差異を調整する必要がある。基本的な情報については既
に議論されてきたように、目的の重要性を明確にするため、あるいは複数案についてよ
り詳細に検証する際には市民の参加が非常に有益になる。つまり、プロセスに対して実
質的な意味、内容を与えることになる。(2)どのようなものが開発に関係してくるか
ということを特定する手立てになる。SEA に関して、特に戦略的水準においては、例え
ば国の政策などでは大々的に市民参加をすることには制約がある。しかし、さまざまな
アプローチを通じていくつかの取組がある。例えば、ステークホルダーの参加者を募っ
て、さまざまな立場から討論を行うことが挙げられる。(3)環境面での影響のみなら
ず、どういった社会的影響があるか、結果としてどこが何を得て何を失うかを特定する
ことが、ステークホルダーから直接的に明らかになる。関係者間で利害を理解すること
ができるようになる。ステークホルダー間でコンセンサスを形成することによって、地
盤固めにもなるし、同時に意見の相違も明らかになるので、難しい決断が必要となる。
問題の解決策については、そもそもなぜ代替案を競って出すのかというと、最終的に市
民の参加がまさにカギを握っており、特定の政策、計画、プログラムによってどのよう
な利害関係のトレードオフ、相反があるのかを明確にできるからである。つまり、どう
いった団体から来ているのかによって立場が異なり、より明確な理解を得るためにマッ
ピングをすることが可能になる。ただ、必ずしも SEA のプログラム自体で解決するもの
ではなく、SEA プロセスは政治決定のための論点を洗い出し、論点を明確にすることを
可能にするものである。そもそも政治決着は政治家に委ねられたことだが、社会、経済、
環境の目的を最適化する上で有益となる。
デューシック:当初期待していたほど公衆からあまり関心が寄せられていないのには 2 つ
の理由がある。まず、特に国のレベルの計画策定となると、どこが得をしてどこが損を
するのかを見定めるのが難しい状況が通例で、個人にとってもそれがはっきり見えてこ
ない。従って、ある組織に属する公衆やシンクタンク、特定のビジネスグループ、利害
関係の参加者だけになってしまうということ。また、もう 1 つの理由は、SEA への公衆
参加は時間や労力を割かなくてはならず、特に市民参加の機会が増えるほどにプロセス
にかける時間や労力が増えるため、必ずしも個人がそれだけの時間や労力を割けるわけ
でもないということ。ただ、我々は決してあきらめずに、例えば関心を示しそうな市民
個人の参加を募るなど公衆参加を求めている。チェコでは国土開発計画において約 330
のグループに声をかけたが、参加したのは最終的には 5 つの環境団体だけだった。他に
は地域開発のための機関やビジネスグループ、財界団体。参加の方法には 2 つのあり方
があると思う。(1)情報へのアクセス。文書を入手可能にすること。アセスメントプ
ロセスや計画立案においてどのような背景情報が取り込まれているかということをイン
ターネットなどで提供している。(2)協議そのものに関しては、経験的に公聴会はプ
ロジェクトレベルの EIA では機能しても、SEA ではあまりうまく機能しない。SEA では
意見の違いは鮮明にできても、もっと対話を必要とするから。従って、ワークショップ
や会議、あるいは円卓会議などを設けることが論点をより詳細に掘り下げるために有益
となる。また、SEA において公衆参加をより促すためには、2 つの主要な段階がある。
212
(1)プランニングプロセスのすべての段階でより詳細な内容を浮き彫りにすることも
できるし、課題を洗い出した上でチェックリストを作って、ステークホルダーと議論し、
環境面の課題を優先するには、他の課題との妥協ができるかどうかを探る上で有益。
(2)我々の国では、市民参加が重要となるのは、代替案を詳細に議論する段階。
トムリンソン:ステークホルダーあるいは公衆の関与をその視点から理解するという効果
はある。つまり、評価には時間的な制限もあり、あまり十分な時間がないかもしれない。
従って市民の目から見直して課題を議論する必要がある。特に輸送の場合はさまざまな
複雑な政策課題があるため、本質的な議論をし、効果的に協議を進めるには時間が限ら
れている。技術的な反応もそれほど大きいわけではないが、一般公衆に呼びかけること
によって課題の理解を深めてもらい、時間の経過とともに効果が上がっていくものと考
えられる。同時に、限られた時間のなかでより詳細に対応する能力ができてくると思わ
れる。
フェルヒィーム:環境影響評価研究機関の所長を務めるカナダの友人の話を紹介する。内
容は、公衆参加をできるだけ早い段階で実施することの重要性と効用。カナダ北部で 15
年ほど前、タンカーの石油流出事故があった。これは生態系に破壊的影響を及ぼす事件
だったが、その結果、タンカーのための新たな航行路を設けることで、将来このような
災害が再発することを防ごうとした。そこで専門家を集めてコンピューターモデルを利
用して海流の流れを分析し、将来同様の事故が起きた場合の対応策を考えた。コンピュ
ーター解析の結果、最適の航路を発見し、沿岸地域の住民や島民に結果を発表した。そ
の後、地元の首長がその分析を賞賛しつつも、専門家によっても説明のできないような
質問をしたため、モデリングの前提条件が崩れ、専門家は信頼を失った。これは、モデ
ル構築において、前提条件をどう設定するかという教訓にもなるし、また、長年その地
域に住んだ住民の知恵や知識が、実はシミュレーションの前提条件を設定する上で有益
であることを示唆している。そういった意味で早い段階での市民参加を取り込むことが
必要である。
デューシック:計画プロセスそして評価プロセスのはじめの段階において、ステークホル
ダーのワークショップによってどのようなロジックを展開していくのかを説明し、また、
どういった機会が提供されるかを説明する。つまり、プロセスに対してより信頼をおい
てもらうための説明も行う。
コーディネーター:SEA と EIA では公衆参加のあり方が若干異なるということがわかった。
原科先生は長野で円卓会議方式を実施していると思うが、その点でコメントはあるか。
原科:状況はどこでも同じだと思う。SEA では、スコーピング段階、問題設定や代替案設
定など発展的なプロセスがあり、そこが大変重要。その段階で通常の公聴会のようなフ
ォーマルな形では十分な議論ができないので、ワークショップ形式はその点で大変大事
だと思う。長野ではこの 2 年間で 30 回ほどの会議をしており、さまざまなグループの代
表が参加している。パブリックなコンサルテーションは、スコーピング段階とアセスが
始まって準備書が出た段階の最低限 2 回行われるべきだとよくいわれており、世銀など
でもそう勧めていて国際的標準になっているが、スコーピング段階で集まって検討して
もらう時と、準備書の段階では同じ参加者にするべきか、それとも段階が違えばステー
クホルダーも変えるべきなのか。具体例をうかがいたい。
フェルヒィーム:参加者は同じにしたいと思う。その理由は学習のプロセスであるからで、
最初から参加していない人が後から参加したとしても混乱の種をまくだけで、信頼より
213
は不信、機能低下あるいは機能不全に陥ってしまう。従って、同じステークホルダーを
最初から最後まで関与させることが必要となるが、戦略的レベルにおいては実務に市民
参加を考える必要がある。ステークホルダーの選定こそが重要であり、戦略的な段階で
は 1 名か 2 名の代表で十分だと考える。オランダでは、原則的にすべての人が参加する
権利をもっているが、最も重要な代表者、つまり最も重要な NGO と、地元の地域社会
の代表を取り込むべきだ。EIA の場合はすべての人を含めるべきだが、SEA ではメンバ
ーの選定こそが重要となる点が大きな違い。
コーディネーター:長野の事例は、SEA でありさらにその後の EIA につながるプロジェク
トということで状況が異なる。
原科:SEA の段階では問題が明確にならないので、なかなか参加してくれない。参加させ
るための工夫が必要との話だったが、スコーピングの段階と方法書が出てきた段階で社
会の関心が変わってくる。
コーディネーター:その点は説明済みなので記録を見てほしい。最後に、日本で今後 SEA
を実施していく際にどうするべきか、これまで議論してきた手法を適用して、日本でよ
り積極的に SEA を進めていくにはどうするべきか、アドバイスをいただきたい。プロジ
ェクト、プランを考える者にとってどのようなメリットがあるかという点を特にうかが
いたい。
サドラー:(1)まず、できるだけプラグマティックに、しかし可及的速やかにというこ
と。(2)どのような制約があるか、一方でどのようなチャンスや機会があるかという
ことを探す。制約があればそれを見極めて、アメとムチというか、そのなかでインセン
ティブを決める。つまり、まず機会を捉えてテストするべき。(3)実例を設けるため
に、まずパイロットスタディをして、SEA がうまくいくかテストすると良い。(4)他
の官庁と協力して実現する。実際的な戦略を使って、SEA が機能することを実証する。
次に、オランダが E-test を導入した際に設けられたヘルプデスクが果たした機能につい
てフェルヒィーム氏からご説明いただきたい。
フェルヒィーム:オランダの E-test は SEA の具体的なプロジェクトで、さまざまな教訓を
学ぶことができる。E-test が始まってから 7∼8 年になる。非常にシンプルでフレキシブ
ルな SEA システムであるといえる。オランダでは新しい立法過程、特に環境に影響する
法律を制定する際、この E-test を実施する必要があるが、成功例、失敗例がある。昨年、
E-test について、実際に効果があったか、法律の環境上のパフォーマンスが向上したか
どうかを評価した。その結果、効果はなかったという評価が出たため、E-test は失敗例
ということで真似しないでほしい。問題点としては、あまりにも柔軟すぎたということ
があげられる。新しい法案を出す場合、アメがあってもあまりムチはなく、また良い仕
事をしても悪い仕事をしてもあまり影響がないので皆悪い仕事しかしなかった。現在、
もう少し強力な E-test を策定中で、確定はしていないが、EIA 委員会が E-test の品質管理
をするべきではないかという議論が進行中。ただ、E-test において成功している要素が 2
つあり、(1)まずはヘルプデスク。これは環境省ではなく経済省の中に作られた。経
済省の中に作った方が、環境問題をあまり好まない他の省庁が付き合いやすいだろうと
いう考え方によるが、ヘルプデスクは各省庁が E-test を実施する際の助力をするという
ことで作られており、立法のあらゆる段階で E-test の実施を促す効果もあり、この点が
ヘルプデスクの利点と考えられる。日本で SEA を導入する際にもヘルプデスクは有用か
もしれない。オランダの EIA 委員会では、SEA を実施したいがノウハウがわからないと
いうところに助言をしており、日本での SEA 導入に際してもヘルプデスクを設けるべき
214
だと思う。(2)E-test で評価しているのはスクリーニングのプロセス。スクリーニング
は 3、4 カ月ごとにすべての省庁の代表が参加して行うべきで、3、4 カ月ごとに全省庁
が集まって、新法について環境の観点から利益があるのかといったことを議論する。環
境省が他の省庁に命ずるわけでなく、各省庁が自ら実施しようとしている。例えば環境
省が命ずるのではなく、各省庁どうしでピアレビューをする方が望ましい。こういった
メリットが 2 点あるが、現在の E-test は非常に弱いので、強化する必要がある。
デューシック:チェコの例も役に立つと思う。1992 年からどのような種類のプラン、プロ
グラムで SEA が必要か、SEA の報告書は最終決定する前に用意して、また公衆の参加も
呼びかけるべきだとされている。これにはスケジュールがあり、環境省と主務官庁がと
りまとめて、最終的にこのレポートを環境省がレビューするというのが一般的な枠組み
だが、導入には大変苦労した。7 件の SEA を約 25 の立法案について実施しているが、現
在、このために新しい法律を用意している。SEA が成功するかどうかは、パイロットテ
ストの実施が重要であると考える。そこで情報を入手し、成功するかどうかを検討する。
パイロットテストによって成功や失敗の原因を学んで、その後、SEA の最低必要条件の
ようなものを法制化するのが良いと思う。チェコには SEA の枠組み法があり、それを補
完する形でガイドラインもある。つまり、SEA をさまざまに解釈して、いろいろなプラ
ンに何が必要かを決めるのは解釈次第である。プランといっても仕組みはいろいろ違う
ので、そのための具体的なガイドラインは必要。計画やプロセスに SEA を取り込むため
にはそういった方法が重要。
トムリンソン:テクニックの 1 つとして、パイロットスタディで検討するのは非常に価値
がある。また、ギャップアナリシスもするべきだ。環境に関する現存するデータが今回
のケースに合うかどうか、あるいは一部分を組替えて対応できないか、埋めるべきギャ
ップがないかを考える。また、理念的、哲学的なことになるが、同じツールを使った場
合には、一貫性が必要となるか、あるいはなくて良いか、私としては、カルチャーを変
えていくことが結局重要であって、ガイダンスは 1 つの方法であり、SEA の参加者は、
意思決定者もコンサルタントも訓練をする必要があると思う。
コーディネーター:我が国で SEA 導入を検討し始めた頃から、意思決定システム、政策決
定システムそのものをどうするかという議論も合わせてしなくてはいけないと思ってき
たが、現在、その点に関しては行政のトレンドも意思決定プロセスも大きく変わってき
ている。パイロットスタディなども環境省を中心に提案して実施してきたが、今日の話
をうかがって、これまで行ってきたことに大きな間違いはなかったと思っている。
原科:私も今までやってきたことは間違っていなかったという感想を持った。通常の事業
アセス法では、SEA はそれほどコストがかからないと言い続けてきたが、今日ご紹介の
あった例でも、時間や費用はそれほどかかっていない。従って、SEA を実施するために
EIA よりもひどいことになるということではないので、コスト面、時間面ではそれほど
問題はないという実例を示していかなくてはならないと思う。また、浅野先生のいうと
おり、日本でも意思決定システムがだいぶ変わってきているが、特に政策・計画段階で
の情報公開などの部分も並行して行わないとなかなか難しいことを痛感した。
田中:具体的な話を 2 点と、基本的な話を 2 点。具体的な点としては、(1)品質管理につ
いて。アクセスメント協会、アセスメント学会が設立されたが、日本では EIA そのもの
にもさまざまなアセスメントがあって、品質的にもかなり優劣の差があると思う。従っ
て、SEA まで広げた場合に、その点の水準をどのように保っていくかが大きな問題とな
る。1 つの課題として、新しい品質管理機構というものを考えてみても良いかもしれな
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い。(2)利害関係者、ステークホルダーに 4 つのグループがあるとのことだが、公衆参
加、市民参加といった場合に、我々は今まで単純なやり方で考えすぎていたこともわか
った。いろいろな方法があって、それらを組み合わせることによって SEA の公衆参加の
あり方ももう少し柔軟に対応できるのではないか。今までのように一般市民に公開して
意見をもらうという単純な形ではないということも大きな発見だった。基本的な問題と
しては、(1)SEA は、EIA 全体を含めて、コストと効果の両面でプラスになるというこ
と。つまり、早い段階から情報公開して問題点を見出し、より良い計画案にしていくと
いうプロセスは、トータルでみれば社会にとって非常に有用である、という認識、手法
を開発しなくてはいけない。早い段階から情報公開することでかえって反発が起きてし
まうという考え方があるが、それを変えていく努力が必要だ。(2)SEA を考える時に、
どのような社会をつくっていくかという目標が合意されていることが重要。その目標に
向けてどうアプローチしていくのか、ということが SEA での問題だと思う。SEA の前提
となるのは、社会の目標、将来像、未来像を私たちが持つことであって、単に SEA のツ
ールを導入してもその部分で齟齬が生じるのではないかと思う。
コーディネーター:以前、田中先生がいた川崎市ではアセス条例をつくり、同時に環境管
理計画をいち早く導入した。2 つをセットにしなくてはアセスの実施ができないとした
のは川崎市が最初。今の話はまさに実体験にもとづいている。私たちは環境基本計画が
できて初めて環境アセスメントがうまく機能すると思っているし、第 2 次環境基本計画
が定着すれば SEA も当然うまくいくと思っている。今日は大変有益な議論ができた。本
日の議論をもとに、日本での SEA の定着に向かって努力していきたい。
司会:【閉会挨拶】
【終了】
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