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サウジアラビア王国 下水道処理施設運営管理

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サウジアラビア王国 下水道処理施設運営管理
サウジアラビア王国下水道処理施設運営管理プロジェクト実施協議報告書
No.
サウジアラビア王国
下水道処理施設運営管理プロジェクト
実施協議報告書
平成
平成 19 年6月
(2007 年)
年
19
月
6
独立行政法人国際協力機構
独立行政法人国際協力機構
地球環境部
環 境
JR
07-048
サウジアラビア王国下水道処理施設運営管理プロジェクト実施協議報告書
サウジアラビア王国
下水道処理施設運営管理プロジェクト
実施協議報告書
平成
平成 19 年6月
( 2007 年 )
年
19
月
6
独立行政法人国際協力機構
独立行政法人国際協力機構
地球環境部
序
文
日本国政府は、サウジアラビア王国政府の要請に基づき、適正な下水処理施設の導入及びその運
営管理に係る技術協力プロジェクトを実施することを決定し、国際協力機構がこのプロジェクトを
実施することと致しました。
当機構は、プロジェクトの実施に先立ち、平成 18 年9月 22 日から同年 10 月5日までの当機構の
国際協力専門員鎌田寛子を団長とする事前調査団を現地に派遣しました。事前調査では、本件要請
の背景を確認するとともに、サウジアラビア王国政府の意向を聴取し、かつ問題の分析や状況の把
握をするために、協力対象サイトの現地踏査を実施しました。この調査の結果、本件協力の妥当性
が確認され、またサウジアラビア王国側とプロジェクト内容について合意形成がなされたため、平
成 19 年5月 30 日にはプロジェクト内容及び両国の負担事項をまとめた協議議事録(Minutes of
Meeting:M/M)を署名交換しました。
本報告書は、事前調査結果を取りまとめるとともに、引き続き実施を予定しているプロジェクト
に資するために、作成したものです。
最後に、調査にご協力とご支援をいただいた関係各位に対して、心より感謝を申し上げます。
平成 19 年6月
独立行政法人国際協力機構
地球環境部長 伊藤 隆文
目
序
文
写
真
第1章
次
事前調査の背景と概要 .................................................................. 1
1-1
事前調査の背景 ....................................................................... 1
1-2
事前調査の目的 ....................................................................... 1
1-3
調査内容 .............................................................................. 1
1-4
協力の基本方針 ....................................................................... 2
1-5
実施上の留意点 ....................................................................... 3
1-6
調査団構成 ........................................................................... 3
1-7
調査期間 .............................................................................. 4
1-8
調査日程 .............................................................................. 4
1-9
主要面談者リスト .................................................................... 4
サウジアラビアにおける下水道分野の概要 ............................................. 6
第2章
2-1
下水処理施設の現状 .................................................................. 6
2-2
処理水再利用状況及び今後の計画 .................................................... 7
2-3
下水処理施設の問題点・課題 .......................................................... 8
2-4
民営化の動き・計画 ................................................................... 9
2-5
他ドナーの動き ..................................................................... 10
第3章
調査結果 .............................................................................. 11
3-1
技術協力プロジェクトの内容 ....................................................... 11
3-2
プロジェクトの実施体制 ........................................................... 12
3-3
プロジェクトの投入計画 ........................................................... 12
第4章
括 ..................................................................................13
総
4-1
サウジアラビアの下水道事情 .........................................................13
4-2
今回のプロジェクトを進めるうえでの留意点 ........................................13
4-3
このプロジェクト実施上で注意すべき点 .............................................14
4-4
今後の協力の方向性 ..................................................................15
付属資料
1.サウジアラビアの下水道プラント一覧 ....................................................19
2.Minutes of Meeting(2007 年5月 30 日付) ................................................21
3.一連の協議議事録 .........................................................................31
4.サウジアラビアの水事情「WATER MAEKET MIDDLE EAST- Exploiting a Booming Market
(First Edition: January 2005)」Chapter 18 の抜粋和訳 ......................................51
5.WATER REUSE MARKETS 2005-2015 A Global Assessment & Forecast First Edition:
June 2005; A Global Water Intelligence publication ............................................63
6.サウジアラビア水セクターの民営化に係る新聞報道記事 .................................67
7.サウジアラビア財務・行政データ(MOWE 下水局) .....................................69
8.Executive Law for Sewage Treated Water System and Reus ....................................73
事前調査 2006 年9月 22 日~10 月5日
第1章
1-1
事前調査の背景と概要
事前調査の背景
サウジアラビア王国(以下、
「サウジアラビア」と記す)では、国土のほとんどが砂漠・乾燥地帯
であり、水資源の確保こそが国民生活と産業を支える最重要課題である。近年の急激な人口増加と
都市化・工業化の進展に伴い水需要も急増しており、この問題への的確かつ迅速な対応が迫られて
いる。
現在、同国の水供給の 57%は再生不可能な化石水に依存しており、再生可能な表流水や浅層地下
水は 38%、海水の淡水化が4%、下水等の再利用水が1%である。一方、水需要については、90%
は農業で利用されており、生活や産業用に 10%が利用されている状況である。このような背景の下、
2000 年5月に下水処理水を灌漑等そのほかの用途に積極的に再利用する方針を定めた勅令が発令
され、稼働中の 23 ヵ所の下水処理施設及び計画中の処理場すべてに対し、農業利用にも可能な良質
な処理水とするために施設の適正化/高度化を図る必要に迫られている。
このような拡張及び適正化/高度化に対し、サウジアラビア水電力省(MOWE)は早急に全国レ
ベルでの整備方針の策定を進めているが、新たな下水処理技術の導入による適正かつ効率的(低コ
スト)な下水処理施設の運営管理を模索しており、日本政府に対して、適正な下水処理施設の導入
及びその運営管理に係る技術協力を要請した(2004年)。しかしながら、下水処理施設の現状をはじ
め、技術レベル、実施体制、問題点・課題などの基本情報が不十分であるため、要請背景の確認、
協力プロジェクトの範囲・内容、実施条件等を含めて調査し、技術協力実施の妥当性を検討すると
ともに、
必要な条件が整えば技術協力プロジェクトの内容について協議・合意することを目的として
事前調査を実施した。
1-2
事前調査の目的
①
協力計画及び実施に必要な情報を入手・確認する。
②
下水道施設の運営管理状況、課題・問題点について、先方との協議及び現場視察を通じて把握
し、協力のアプローチを検討する。
③
先方実施体制、プロジェクトの成果、活動計画(PO)及び適切な投入計画について協議を行
い、プロジェクトの詳細を明確化し、合意した内容について協議議事録(M/M)で確認する。
1-3
⑴
調査内容
国内準備
①
既存情報のレビュー
②
質問表の作成・送付
③
プロジェクト全体計画案(目標、成果、活動、投入)の作成
④
国内における関係プロジェクトの情報収集
⑵
現地調査
●
先方との協議、現場視察を踏まえ、現状の更なる把握と確認をしたうえで以下の調査を実施
し、本件プロジェクトの実施に向け内容を検証する。
①
妥当性の検討
②
有効性の検討
-1-
③
効率性の検討
④
インパクトの検討
⑤
自立発展性の検討
⑥
協力の基本枠組みについての協議
具体的調査事項
●
①
一般概況(対象地域の社会・経済、人口、都市計画、気象、地形・地質、河川・地下水の
水質等)
⑶
②
下水道関連の法体系
③
下水道分野の既存計画・関連計画
④
下水道施設の整備状況、運転・維持管理の状況、水質管理状況
⑤
処理水を活用した灌漑施設整備状況、灌漑利用面積、灌漑利用作物の種類と生産量等
⑥
対象地域の水利用状況
⑦
水質汚染源
⑧
環境・水質汚染問題
⑨
プロジェクトの実施体制、カウンターパート(C/P)機関の組織/機構
⑩
他ドナーの動き
帰国後整理
①
帰国報告会の実施
②
実施協議報告書の取りまとめ
③
専門家 TOR の作成
④
本邦研修内容の作成
1-4
①
協力の基本方針
国家の基本方針として、処理水の灌漑用への再利用を推進しており、既存及び新設計画中の
下水処理施設に対して適切な高度処理技術の導入を図っている(協力要請の大前提)。この基本
方針を再度確認し、案件実施の前提条件とし、協力の妥当性を確保する。
②
再利用に係る現状、推進計画(整備計画)及び、課題・問題点を再度確認し、これに対応す
るプロジェクト目標を設定する。
③
協力のアプローチを決めるにあたっては、プロジェクト目標を達成するために必要なキャパ
シティ・ディベロップメントに対して、日本の経験・技術の優位性を勘案したうえで、協力の
アプローチを確定する。
④
サウジアラビアの財政的・技術的レベルを考慮し、資機材の供与・施設建設等ハード面の支
援は行わず、キャパシティ・ディベロップメント(ソフト面)に対する支援を中心に、日本の
有する知見・技術の紹介・共有を中心に据える。
⑤
協力の対象(C/P 機関)は、処理水の再利用に係る整備計画を有する各地域の下水道公社
〔Regional Water and Sewage Authority:全国に7公社(地域)あり〕を実質的な C/P 機関として、
再利用に向けて既存施設のグレードアップ・改善を図りたい、あるいは新規の施設建設を計画
している公社(つまりインセンティブのある公社)に絞る。さらには、効果的、効率的な支援
との観点から、モデルとなり得る公社に絞り込むことも同時に検討する(例えば、7公社の中
心的存在であるリヤド地区の下水道公社に絞ることも一案)。
-2-
C/P の選定は、協力のアプローチに応じて慎重に選定する。基本的に、ニーズに合致した(イ
⑥
ンセンティブの高い)サウジアラビア人の技術分野の責任者(方針決定者)を協力アプローチ
ごとに特定して C/P と位置づけ、C/P の適切性を確保するとともに、将来の(技術指導後の)
継続性・自律発展性をも確保する。
⑦
プロジェクト名に関しては、先方との協議の結果、プロジェクト内容に沿った名称に変更す
る必要が生じた場合のみ変更する。
1-5
①
実施上の留意点
1人当たりの国民総所得(GNI/capita)は 1 万 3,200 ドル(2005 年)。財政面及び技術面にお
いても、そのレベルは低くないため、協力のコンポーネントは必要最小限にとどめる。また、
2008 年1月には、開発援助委員会(DAC)リストから卒業予定であるため、ODA 卒業後を見
据えた ODA 以外(民間ベース)の協力へ繋げられるように配慮する。
②
絶対君主制の下で、莫大な石油収入を基盤とした海外からの「有償協力」や「雇い外国人・
顧問・コンサルタント」等を使った長年の行政慣行から、技術援助についても「要請する
(request)」という姿勢よりも、技術サービスの「オファーを受ける」スタンスを取る傾向があ
る。
③
外国人労働者が人口の約 27%(2004 年)を占め、また他のドナーより有償ベースで技術サポ
ートを得ているため、外国人パートナーの扱いに慣れていて、見る目(評価)が厳しい。語学・
技術面及び指導力の面で優れた日本人専門家の人選が重要。
④
本邦研修はコストシェリングが基本。実施する場合は、先方の要望・ニーズを確認し、事前
に研修内容を詳細に検討する。
⑤
下水処理施設の民間委託化・民営化が近い将来実施されると予想されるため、民間委託化・
民営化後の政府が担う業務を確認してターゲットグループ(C/P)を決めることが重要。また、
処理施設現場の労働者はほとんどが外国人労働者であるため、C/P はサウジアラビア人の技術
分野の責任者(方針決定者)とすることが肝要である。
⑥
世界銀行が水セクターの評価スタディーを 2003~2004 年に実施し、当該セクターの行政・財
政の改革、浄水・処理施設の官民提携(PPP)化(委託化)、民営化、水料金の改定などに係る
厳しい勧告を出している。これに対し、MOWE は、水セクターの改善・改革プランを発表し、
政策・制度の上流部分での改革は進められつつある。
1-6
調査団構成
担当分野
氏
名
現
団長/総括
鎌田
寛子
JICA
国際協力専門員
協力企画
鈴木
唯之
JICA
地球環境部
下水道施設管理・制度
坂本
吉久
財団法人
-3-
職
造水促進センター
国際協力部
1-7
調査期間
2007 年9月 29 日~10 月5日(コンサルタント団員は9月 22 日~10 月5日)
1-8
調査日程
調査員及びスケジュール
月日(曜日)
9月
鎌田団長・鈴木調査員
坂本調査員
22 日
(金)
23 日
(土)
24 日
(日)
25 日
(月)
26 日
(火)
処理施設訪問調査(South Plant)
27 日
(水)
North Plant での協議
28 日
(木)
MOWE-C/P との協議
29 日
(金)
成田発・リヤド着(JL731/CX733)
30 日
(土)
MOWE-C/P 次官(計画・企画)表敬訪問
JICA 事務所 JCMME 水ディスク打合せ
10 月 1日
(日)
MOWE-C/P との協議
2日
(月)
現場視察(North/South Plant)
MOWE-C/P との協議
3日
(火)
MOWE-C/P との協議(M/M)
4日
(水)
MoU 署名(MOWE-C/P 次官)
JICA 事務所・調査結果報告
日本大使館・調査結果報告
リヤド発(CX732/JL732)
5日
(木)
成田着
1-9
成田発・リヤド着(JL731/CX733)
JICA 事務所打合せ
処理施設訪問調査(North/South Plant)
JICA 事務所打合せ
MOWE-C/P との協議
処理施設訪問調査(North/East Plant)
MOWE-C/P との協議
休日
主要面談者リスト
<サウジアラビア王国側>
Ministry of Water and Electricity(MOWE)
Mr. Loay Bin Ahmed Al-Musallam
Deputy Ministry for Planning & Development
Eng. Yarub A. Khayat
Director General of Waste Water Department
Mr. Ahmad A. Al-Shumrani
Training Head Section
Mr. Waleed Al-Shuheil
Waste Water Operarion and Maintenance, Riyadh
Eng. Hamad Al-Farrag
Mr. Fahad Ahmed Al Beaijan
Dept. of Resources Development, Water Research &
Studies Division
-4-
Eng. Fahd Madi Al-Rubian
Follow up & Designing
Eng. Mustafa M. Diab
Director General Consultant of Waste Water Dept.
<日本側>
⑴
⑵
⑶
在サウジアラビア日本国大使館
岡
浩
公
使
尾藤
文人
二等書記官
JICA サウジアラビア事務所
中内
清文
所
金元
良夫
企画調査官
財団法人
長
中東協力センター
山田
洋輔
ジャパン水ディスク(Jeddah)
成平
賢司
JETRO リヤド事務所(JCMME)
-5-
第2章
2-1
サウジアラビアにおける下水道分野の概要
下水処理施設の現状
サウジアラビアでの下水道普及率は低く、比較的普及率の高い東部州(65%)を除き、Riyadh で
約 40%、Jeddah では更に低い(主要都市で 30~40%)。下水道管網に繋がっていない家庭や主要都
市以外での家庭は、地下浸透式の腐敗槽に頼っており、通常汚水は地下に浸透されているが、一部
は民間業者のタンクローリーにより下水処理場に運ばれ、処理されている。あるいは、山中の人造
湖(汚水湖)に捨てられているのが現状である。
また、サウジアラビアの下水処理状況は、比較的処理施設が整備されている7地区(Riyadh、Eastern
Province、Makka、Medina、Tabouk、Quassim、Asir)を除く6地区(Hael、North Bordeers、Jizan、
Najran、Baha、Al-Jouf)は整備が遅れており、わずかに Hael と Jizan に2処理場が建設予定とされ
ているだけで、全く下水道施設がない地区が多い。山岳地帯であることや平地が少なく処理場建設
が困難であること等が整備の遅れを招いているそうである。今後、小規模下水処理場やトンネル式
処理場等を考慮した施設の標準化が急がれるところである。サウジアラビアの下水処理プラント一
覧を付属資料1に掲げる。
現在サウジアラビアは年率3%以上の伸びで人口が増加しているが、首都である Riyadh 市の人口
増加は、人口の都市集中も手伝って著しいものがある(現在の人口 426 万人)。
サウジアラビアの下水処理施設の現状調査にあたり、首都である Riyadh の下水処理状況がサウジ
アラビアを代表するものであり、しかも最も管理されていると思われることから、Riyadh 市内にあ
る代表的な3処理施設の調査を実施し、その維持管理状況及び問題点について概観する。表2-1
に Riyadh 市の下水処理施設を示す。
表2-1
Riyadh 市内の下水処理施設
処理量 (m3/d)
系列
供用開始年
South Plant
200,000
2
1978 年
散水ろ床法+砂ろ過
North Plant
200,000
2
1993 年
活性汚泥法+砂ろ過
4,000
2
1994 年
活性汚泥法+回分式活性汚泥法
200,000
2
2005 年
OD 法(+砂ろ過)
処理場名
Al-Jazira Plant
East Plant
処理方式
上記の処理場のうち、Al-Jazira Plant を除く3処理場は Riyadh 市街の南方(Manfouha 地区)にま
とまって建設されている。
現在の処理施設は、人口普及率 38%、下水道管渠網 2,480 km で面積当たり 27%でしかない。現
在、逐次管渠を延伸してはいるが(2,600km 工事中)、処理施設の処理能力が既に限界に達している
ため、早急に処理場の増設あるいは既存施設の処理能力アップが必要となっている。
現在、Riyadh 市で計画中の下水処理場は、以下のとおりである。
Al-Khajir Road STP
処理能力量:20 万 m3/d
Al-Hiyer STP
処理能力量:40 万 m3/d
このうち、Al-Hiyer の処理場は、2007 年早々の第1四半期に入札が実施される予定である。建設
は、BOO(Built, Own, Operate)方式の民営化を採用する処理施設となる。また、既存処理施設のリ
-6-
ハビリも考慮しており、今後の民営化の水深とともに事業進めていく予定である。
2-2
処理水再利用状況及び今後の計画
サウジアラビアは、海水脱塩ではその地域でのリーダーであるにもかかわらず、水再利用に関し
ては他の湾岸国に大きな遅れを取っている。サウジアラビアの生活及び工業排水の約12.5%、すな
わち2億1,700万m3/年を再利用している。日当たりでは処理水の約60万m3/dに相当する。しかし、
この値は全水消費量に対してごくわずかかでしかない。
表2-2
項
日平均当たりの水消費量
百万m3
目
再生可能水
割
合(%)
2.2
4
55.0
91
脱塩水
2.7
4
排水処理水
0.6
1
非再生可能水
排水処理水が利用されない主な理由として3つあげられる。
・サウジアラビアの水の約 85%が農業で消費される。水が灌漑農業で使用されると大量の水サ
イクルに戻ってこない。
・排水収集や処理システムが十分に発展していない。
・政府に大規模な排水再利用計画がほとんどない。そのため、農業利用や地方の灌漑に水を回
収するというプロジェクトの開発は民間投資家次第となっている。
図2-1は、サウジアラビアにおける排水処理水の最も大きな利用先が農業(30 万 2,100m3/d)
及び修景灌漑(14 万 100m3/d)であることを示している。しかし、排水処理水の大部分(125 万 1,400
m3/d)は未利用である。
図2-1
州ごとの排水処理水の利用状況
-7-
現在の Riyadh 市主要下水処理場の処理水再利用状況を以下に示す。
表2-3
Riyadh 市の処理水再利用状況(North、South、East Plants)
用
再利用水量 (m3/d)
途
灌漑用
170,000~200,000
石油精製(Aramco)
15,000~20,000
修景とトイレ用
10,000~15,000
処理水再利用のうち、90%が灌漑に利用されているが、農業作物にはデーツを除きそのほとんど
が樹木・街路樹を対象としている。
高品質の再生利用水を生産する膜ろ過技術を使った大規模な計画は、今のところないのが現状で
ある。現在進行中あるいは直近の計画としては Jeddah 地区の3プロジェクト(うち2件は PPP)が
あげられる。
・Jeddah 工業団地における管網を含む2万 5,000m3/d の排水処理プラントの運転とアップグレードを
行う 20 年の BOT 契約
・Dejla Water & Environment Company は、Jeddah において最も大きな排水三次処理プラント3万m3/d
に隣接する場所に、政府が製造した RO プラントをリースした。RO 生産水はトラックで工業
や建設向けに販売されている。
・Jeddah Advanced Water Treatment Company は、Jeddah から輸送される排水を再利用する民間
ベースのプラントを建設した。現在の生産量は、二次処理で1万m3/d と RO から 1,000m3/d で
ある。プラントは5万m3/d まで増設する計画である。処理水は農業に使用される。
Riyadh には Jeddah 同様、民間レベルでは処理水を RO 処理によって工業用水として販売する企業
も数社あるが、水量的にはまだ多くないようである。
処理水の再利用に関する国家計画として、2000 年に Presidency of Meteorology Environment(環境
庁)より勅令が出され、基本的に全量再利用していくとの方針であるが、その内容はまだ確定的な
ものが発表されていない。
2-3
下水処理施設の問題点・課題
前述のとおり、サウジアラビア下水処理施設の維持管理の現状及び問題・課題の把握するために、
Riyadh 市にある代表的な3処理施設の調査を実施した。調査対象の処理施設は、供用開始年の順か
ら South Plant、North Plant、East Plant である。
Hanifa Valley(ハニーファ渓谷)の南斜面に位置する Riyadh は、街全体としては南に緩やかな傾
斜をもっているため、下水処理プラントは市街の南に位置している。したがって、下水道幹線は、
北から南へ3本基幹として通り3処理プラントへと流入している。
South Plant はドイツ・フィンランド、North Plant はベクテル(米)と欧米の技術によって造られた
処理場であるため、技術的にはしっかりしたものであるが、現地調査した限りでは管理面で相当問
題が散見できる。特に 30 年近く経過する South Plant においては、臭気・ろ床ハエの発生、処理水質
の劣性等により現在ではあまり採用されない処理方式であるため、維持管理面でも標準的な基準の
-8-
適用が難しいものがある。
North Plant においては、二次処理に硝化・脱窒内性法による窒素除去を組み入れた活性汚泥法を採
用しているが、管理ではセンサーとして溶存酸素計のみを使った制御であるため、十分にその機能
を発揮しているかどうかを検証するすべがない状況である。
近年完成した East plant は、設備こそ国内コンサルタントによる設計及び国内施工であるが、技術
面では全くのヨーロッパ仕様となっている。ひと昔前に建設されていた中国本土の OD と全く同様
な仕様である(エネルギー面での考慮が全くない動力仕様である)。
以上のように、Riyadh 市における下水処理施設は、欧米技術によって造られたもの、言い換えれ
ば欧米の企業にターンキーで発注したものであるがゆえに、いまだ自国の技術として消化できてい
ない面が、管理面・メンテナンス面で出ているようにみられる。
さらに汚泥処理・処分に関して、古い施設(South Plant. North Plant)には汚泥乾燥床での処理を採
用していたが、現在はすべて機械脱水(ベルトプレス)に切り替えられており、汚泥処理の効率化
が図られている。しかし、処分においては一部業者引き取りによるコンポスト化を実施しているが
(有償引き取り)、その量はごく限られたもので、残りの脱水ケーキは砂漠へ投棄をしているのが現
状である。今後、汚泥の処分問題は、水処理量の増加に伴い大きな問題に発展することが予想され
るため、
汚泥の減容化や資源化による有効利用といった技術的解決が急がれることになるであろう。
今回の現地調査によって把握できた現状の問題点・課題について、以下に述べる。
①
現時点での標準的な下水処理方式の基準が設定されていない。
②
上記の点は、今後の処理プラント設計に問題が出てくる。
③
計測制御関連の知識が不足している。
④
故障・破損したものの修理状況が最悪である(外国製においては皆無)。
⑤
特に、三次処理として採用している砂ろ過設備の荒廃ぶりは目にあまるものがある。
⑥
消費電力量の把握が不十分である(省エネルギー感覚の欠如)。
⑦
処理性能向上への意欲がみられない。
⑧
メーカー作成の OM マニュアルのみの対応で運転管理を行っている(基本的な維持管理マ
ニュアルの欠如)。
⑨
処理施設、特に生物反応層においてフレキシビリティがない。
⑩
既に、設計値以上の排水を受け入れている。
⑪
汚泥発生量の増加が進み、処理・処分問題が大きくなる。
⑫
ポンプ・配管等の詳細チェックができなかったが、
現状でのアップグレードを考慮する場合、
そこまでの詳細検討が必要になる。
⑬
特に計装面では、定期的なグレードアップが必要である(現状は、建設当時のままで、更
新は全くない)。
今後予定している本邦研修では、以上のような問題点や課題を考慮してカリキュラムを検討する
ことが期待される。
2-4
民営化の動き・計画
調査団派遣時(2006 年9月 30 日)に、以下のような新聞記事発表があった(トップ記事)。
-9-
King Approves New Water Company
政府が実質的に所有する National Water Company を1ヵ月以内に起業し、4ヵ月以内に操業
を開始する。事業内容は、地下水部門、飲料水の配水部門、下水の収集・処理に関するもので、
すべてコマーシャルベースで行うとのことである。
National Water Company は、100%Gov.-owned-company で、管理・運営・メンテナンスに係る契
約(Management、Operation & Maintenance Contract)の下で、これらの業務(役割)を PPP に
おいて行う。PPP における事業は5年を目途に推進し、5年後は完全民営化の事業形態とする。
新設下水処理場は、基本的に BOO で建設、既設処理場は ROO(Rehabilitate-Own-Operata)
あるいはリース契約とする。
なお、現在サウジアラビア各地での下水処理施設の維持管理を民間に委託する動きがあり、
現状以下の都市で各企業との契約が進められている。
2-5
Riyadh
Veolia(仏)
Madina
Thames Water(英)
Jeddah
Ondeo Degremont(仏)
他ドナーの動き
2-5-1
世界銀行
サウジアラビア政府のMOWEは、世界銀行に対して総合水資源管理戦略と長期的/短期的なアク
ションプラン策定の支援を求めた。この作業の範囲は、水資源の総合的な評価に基づいており、
以下を中心に行う。①供給側の管理政策ではなく、広範な水需要の管理プログラム、②再生不可
能な地下水の汲み上げを減らし、より持続的な帯水層管理をめざす部門横断的プログラム、③農
業灌漑において回収された排水を再利用するための包括的プログラム、及び④法的、制度的枠組
の再構成。MOWE-WB共同プログラムの範囲全体について合意がなされ、以下の3つのフェーズ
が盛り込まれた。フェーズⅠ:現在の水資源管理状況の評価、フェーズⅡ:広範な国内の専門家
協議による戦略的水部門管理政策の作成、フェーズⅢ:戦略の実施に向けたアクションプランの
作成。
報告書は 2003 年5、6月にサウジアラビアを訪れた世界銀行の職員及びコンサルタントが収集
したデータと情報、及び以前に各部門が行った調査に基づいて作成されている。内容は、現在の
水部門における問題点の所在を明らかにし、問題・課題分析を行い、それに対する推奨対策をま
とめている。まさに、現在も問題となっている状況が明確にまとめられていることから、当時か
ら依然として問題点が残っているということにほかならない。
2-5-2
GTZ(ドイツ技術協力公社)
2001 年に C/P である MOWE〔当時は、自治体村落省(MOMRA)〕に JICA の短期専門家とし
て派遣されていた石本専門家(東京都下水道局職員)の情報によると、派遣当時(2001 年)、GTZ
からも 1 名派遣者が水省(当時、MOMRA)に在籍しており、1~1年半にわたり主として下水
道法にかかわる水質基準等の設定業務を行っていた。GTZ による協力は有償によるものとのこと
である。
-10-
第3章
調査結果
事前調査団は、9月 30 日~10 月3日までサウジアラビアの MOWE と要請プロジェクトの背景、
実施の妥当性を確認し、協力のニーズとこれに対する効果的な協力のアプローチについて協議を行
った。その結果をミニッツに取りまとめたが、9月4日の署名・交換式の直前になり MOWE より連
絡があり、同省法務室に諮ったところ若干の修正をしたい、また署名予定者だった計画開発局の次
官が大臣にも諮らないと署名できないので、4日中の署名交換はできないとのことであった。した
がって、やむを得ずミニッツを別添した”Memorandum of Understanding”を先方側同次官と調査団長
の間で署名交換し、同省の承認が得られた段階で同次官と JICA サウジアラビア事務所長との間で
署名交換することとなった。
2007 年6月になり、現地より先方側のミニッツに係る承認が得られ、正式には 2007 年5月 30 日
に本件技術協力プロジェクトの実施に係る協議議事録(ミニッツ)が締結された。
事前調査の結果、処理水の再利用と汚泥管理の改善を目的とした下水処理場における適切な管理
に係る知識の向上をプロジェクトの目標として、本邦研修及び現地セミナー・ワークショップの開
催を主たるコンポーネントとした協力の枠組みが決まった。
3-1
技術協力プロジェクトの内容
プロジェクト要約(Narrative Summary)
Overall Goal:
処理水再利用が促進され、下水処理場の管理システムが改善されることで、サウジアラビアに
おける水資源の効果的利用が推進される。
Project Purpose:
処理水の再利用と汚泥管理の改善を目的とした下水処理場における適切な管理に係る知識が向
上する。
Project Outputs:
①
処理施設の設計を担当する上級技術管理者レベルを対象に、処理水再利用に欠かせない高度
処理技術の知識と下水処理場の効果的で実効性のある汚泥管理の知識が向上する。
②
13 地区処理施設の運転維持管理を担当する処理場技術管理者レベルを対象に、処理水再利用
に欠かせない高度処理技術の知識と下水処理場の効果的で実効性のある汚泥管理の知識が向上
する。
Project Activities:
処理施設の設計及び運転維持管理に関する知識は、上述のプロジェクト成果の達成の基本とな
ることに鑑み、以下の活動が実施される。
(1-1)テーマ「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の設計」
対象:MOWE 及び 13 地域局の下水処理施設の設計に携わる上級技術管理者・職員
(1-1-1)「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の設計」の課題に焦点をおい
た本邦研修プログラムの実施。
-11-
(1-1-2)MOWE が主催する「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の設計」
に関するセミナーの開催(リヤド)。
(1-1-3)MOWE が主催する「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の設計」
に関するワークショップの開催(リヤド)。上述の帰国研修員は本邦研修を通じて
習得したことについてプレゼンテーションを行い、ワークショップを円滑に進め、
議論を先導する。
(2-1)テーマ「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の運転維持管理の向上」
対象:MOWE 及び 13 地域局の処理場運転維持管理に携わる技術管理者・職員
(2-1-1)「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の運転維持管理の向上」の課
題に焦点をおいた本邦研修プログラムの実施。
(2-1-2)MOWE が主催する「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の運転維
持管理の向上」に関するセミナーの開催(リヤド)。
(2-1-3)MOWE が主催する「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の運転維
持管理の向上」に関するワークショップの開催(リヤド)
。上述の帰国研修員は本
邦研修を通じて習得したことについてプレゼンテーションを行い、ワークショッ
プを円滑に進め、議論を先導する。
(1-2及び2-2共通)適切な下水高度処理技術と汚泥処理管理に関する日本の経験を踏まえた
「日本における下水道管理政策・戦略及び適正な高度処理技術」をテーマとするセミナーの開催(リ
ヤド)。セミナーは、総じて MOWE の関係 C/P を含め、大臣、副大臣、及び 13 地区の局長等を
対象として、MOWE が主催する。
※セミナーの内容や対象者は日本人専門家のリクルート可能性等により変更あり
3-2
プロジェクトの実施体制
⑴
協力期間:本部実施決裁後、15 ヵ月間
⑵
ターゲットグループ:MOWE 及び全国に 13 ヵ所ある同省の地域局(Regional Water&Sewage
Authority)技術管理者
C/P:MOWE 及び地域局の①下水処理施設の計画・設計に携わる上級技術管理者及び、②下
⑶
水処理施設の運営管理に携わる技術管理者
プロジェクト・ダイレクター:MOWE 計画・開発局次官
プロジェクト・マネージャー:MOWE 下水局長
3-3
プロジェクトの投入計画
⑴
本邦研修(15 名):1ヵ月間(2007 年度第3四半期)
⑵
セミナー専門家チーム派遣(2~3名):1~2週間(2007 年度第4四半期)
テーマ「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の設計」
⑶
本邦研修(15 名):1ヵ月間(2008 年度第1四半期)
⑷
セミナー専門家チーム派遣(2~3名):1~2週間(2008 年度第2四半期)
テーマ「高度処理技術・汚泥処理管理技術のための処理施設の運転維持管理の向上」
⑸
セミナー専門家チーム派遣(2名):1週間程度(2007~2008 年度時期要調整)
テーマ「日本における下水道管理政策・戦略及び適正な高度処理技術」
-12-
第4章
4-1
総
括
サウジアラビアの下水道事情
4-1-1
民営化の動き
サウジアラビアは国民総所得(GNI)が 2005 年時点で1万 3,200 ドル/人以上と中進国のレベ
ルであり、2008 年 1 月には DAC リストから卒業するレベルに達している。石油からの潤沢な収
入で医療や教育はほとんど無料であるが、そのなかで、唯一水問題はサウジアラビアにとって非
常に頭の痛い問題であり、特にラマダン中はいつもにまして水を多く使うことから、ジェッダの
渇水問題が新聞紙上を賑わしている。
サウジアラビアに到着した翌日の9月 30 日の Arab News の第一面に「National Water Company
の設立が承認」の記事が掲載され、その後も断続的に新聞に取り上げられているが、上下水道部
門は、民営化に向けて大きく舵を切ろうとしている。上下水道事業を実施する 100%政府資本の
「National Water Company」は設立後4ヵ月以内に目途に事業を開始するとしている。この会社の
資本は 400 億 SR(約 107 億ドル)
、その役割は、信用、保証、財政的支援となっており、現在、
民営化を実施した場合の法律・人材・戦略・技術面の検討をコンサルタントに委託している。
この会社の主な業務は、地下水、上下水道施設、下水道施設や使用者サービスであり、今後5
年間、Strategic Transformation Plan に基づいて民営化が進められることになる。民営化はまずモデ
ルケースとしてリヤドから開始し、
ジェッダなど3都市が続き、
その後全国展開を考えているが、
5年後には、Concession 契約か完全民営化に進むことが予定されている。現在 MOWE が 13 の地
区で実施している上下水道事業は、13 の運営会社に移管されることになる。一方、下水道施設に
ついては、新規処理場は BOO ベースで建設され、既存処理場は ROO か、リース契約で民営化さ
れることになる。
4-1-2
下水道施設の維持管理状況
リヤド市で唯一見学した処理場では、砂ろ過、脱窒処理技術などの高度処理技術が導入されて
おり、処理水は灌漑や ARAMCO へ供給されている一方、発生汚泥の大部分は、民間に引き取っ
て貰い、民間会社が既に堆肥を作成して販売しているとの説明があった。
一方、処理場の維持管理をみると、立派な水質分析室で毎日、多くの項目の水質分析を行って
いるが、それが自己目的化してしまい、何のために分析するのかというところが不明確であり、
水質分析結果を実際の運転に反映されていないように見受けられた。
また、高度処理施設では、砂ろ過施設も半分は運転されずに放置されたままであり、脱窒工程
も、溶存酸素計のみで運転を管理しており、酸化還元電位は測定していないなど、管理そのもの
にまだまだ改善の余地が多く残されていると思われる。
4-2
今回のプロジェクトを進めるうえでの留意点
4-2-1
日本の下水道事業の歩み
日本では、1970 年代から、水俣病や駿河湾の製紙パルプのヘドロ問題など負の遺産問題をきっ
かけに下水道整備が進められてきた。下水道整備にあたっては、残念ながら国として高度な戦略
に基づいて実施してきたのではなく、高度成長期という追い風もあり、潤沢な補助金による量的
拡大を求めた結果、現在、70%近い普及率となった。現在、日本の下水処理場の半分は民間委託
-13-
に切り替えているが、放流水質基準を満たした処理水を放流するという最終的な責任は地方自治
体が負っており、維持管理技術は、主に地方自治体に蓄積されてきた。ただ、民間の維持管理事
業者も指定管理者制度や包括的民間委託などを通じて実績をあげつつある。汚泥処理・処分につ
いては、日本は汚泥の処分地が少ないことから焼却などを含む減量化の技術が進んでいるが、水
処理と汚泥処理・処分とは切っても切り離せない関係にあり、適切な汚泥処理・処分がなされて
はじめて良好な水処理が可能になるため、日本が有している汚泥の処理・処分技術を技術移転す
ることは非常に有益であるといえる。
一方、日本では、降雨量が 1,700mm 近くあるため、水道水源は表流水が 70%近くを占めており、
農業用水も表流水と地下水とで賄っており、下水処理水は、修景用水やトイレ用水に利用されて
いるのが実情である。ただ、水道料金や下水道使用料は累進性となっていることから、特に多量
の水を使う工場などは、節水技術と同時に、各種用途にふさわしい高度処理技術を盛んに導入し
てきた。そのため、日本は数多くの種類の非常に優秀な水処理技術が特に民間の工場で普及して
おり、これらの技術を公共下水道が取り入れる形で、高度処理技術が下水道処理場に普及してき
た。
4-2-2
日本がこのプロジェクトを行う意味
民営化については、世界中で水ビジネスを展開している錚々たる欧州の会社が、既にサウジア
ラビアの各都市の調査を実施している段階である(例えばリヤドはヴェオリア、ジェッダはスエ
ズが民営化の調査を進めている)。民営化推進のためには戦略、法律、財務、技術の側面から想定
される課題を検討する必要があるが、これらについては、実際、日本のコンサルタントは手も足
も出ないのが実情である。
一方、民営化が進んでいくなかでの今回のプロジェクトの位置づけであるが、仮に新規処理場
を BOO ベースで契約するにしても、発注者が正しい仕様書を作成し、また、提出された書類に
記載されている内容が適切・継続的な処理が可能な施設かどうかを判断する能力は今以上に必要
となる。これは維持管理についても同様である。
したがって、今回のプロジェクトは、民営化が進めば、不要になる性格のものではなく、今後
民営化が進んでも、彼らの事業を正しく施工監理するために必要であり、その重要さは変わらない
といえる。
4-3
このプロジェクト実施上で注意すべき点
4-3-1
MOWE の積極的関与
これまでの会議のなかで、サウジアラビア側はできるだけ多くの職員を日本で研修させて欲し
いとの要請があり、結果的に研修対象者を2つのクラス(管理者クラスと実務者クラス)に分け、
総勢 30 名を日本に研修生として送り出すこととした。また、帰国後のワークショップでは、これ
らの研修生が中心となって小グループでの討論や発表において積極的な役割を果たすことが期待
されている。これらを推進するためには、MOWE がこのプロジェクトに主体的に関与することが
前提となるが、研修生も日本で学んだ研修の成果を広く関係者のなかで共有することが大事であ
るが、これについても、MOWE の協力が不可欠であろう。
-14-
4-3-2
適切な講師の選定
先の新聞によると、サウジアラビアは、今後、20 年間で上下水道部門に 3,500 億 SR(約 933
億ドル)を投資するとしており、この部門は今後ますます重要性が増すことが想定される。その
なかで、今回のプロジェクトは、適切な維持管理や高度処理に関する技術移転など、日本の下水
道事業の強みが発揮できる数少ない部門での協力といえる。
今回の協議のなかで、先方から、大臣クラスを対象にセミナーを実施したいという強い要請が
あった。今後の下水道事業を進めていくうえでこれらキーパーソンに下水道の重要性・必要性を
認識してもらう非常にいい機会であり、また、サウジアラビア側が日本にそれを要請してきたこ
とについては、非常に嬉しく思う反面、その期待に応えられる講師の人選が非常に重要となって
くる。
これは、日本での研修やそれに引き続くワークショップやセミナーにおける専門家の選定につ
いても同じことがいえる。先にも述べたとおり、下水道事業を推進するための制度づくりや維持
管理技術は国土交通省や地方自治体に多く蓄積されてきている一方、高度処理技術の開発や普及
はこれまで民間主導で進められてきており、人材も民間会社が圧倒的に豊富である。
したがって、今回のプロジェクトを実施するにあたっては、日本がもっている官民の人材を総
動員して、サウジアラビア側の要求に応えていく姿勢が大事である。現場を見る限りでは、かな
りちぐはぐな維持管理がなされているようであったが、今回は、研修対象を管理部門と実務部門
に分け、それぞれに最適な技術移転を行うことを心がけている。それを期待通りに実施するため
に、彼らの技術・知識レベルを十分に把握したうえでのプログラムづくりとそれにふさわしい講
師選定が一番の鍵である。また、研修、ワークショップやセミナーなどを研修生の将来に有益と
なる内容にするため、講師の主体的関与を期待したい。
なお、言葉の問題については、サウジアラビア側の対象者全員が英語に堪能なわけではないこ
とから、通訳を介しての技術移転も視野にいれて講師の選定を行うこととしたい。
4-4
今後の協力の方向性
2008 年に DAC リストから卒業するサウジアラビアに対して、今後どういう方向の協力が好まし
いかということは今議論する必要はないかもしれないが、現在、日本が援助している国もいずれは
離陸する時がくることから、今後の協力の方向性を探ることは重要なことと考える。
⑴
民営化の潮流は全世界の至るところでみられており、下水道施設は、BOO など民間の力を活
用とした事業展開となる。そのなかで、日本の比較優位性は何かを考えた場合、今回のような
施設の維持管理能力向上などが主要なテーマとなってくるが、それにふさわしい人材が日本側
で育っているかを十分考慮する必要がある。
⑵
今後の対サウジアラビアへの協力は民間ベースの協力が中心となるため、民間のビジネスチ
ャンスに結びつくかどうかという視点で、再度、プロジェクトを見直すことも必要となろう。
また、2年後の JBIC との統合により、更に援助スキームが増えることから、日本の存在を高
めるための手段としてどういう組み合わせがより効果的であるかを考えることも大事である。
-15-
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