Comments
Description
Transcript
Croatia
lan Hungary Slovenia Zagreb Croatia Bosnia and Herzegovina Italy Buzet Livade Paladini Motovun Istra 豊 穣の森 Ta s t y Journey to Istra AGORA Special vol. 298 AUSTRIA Graz Venice SLOVENIA Ljubljana Croatia Budapest 鈴木博美=文 Text by Hiromi Suzuki HUNGARY BOSNIA AND HERZEGOVINA Florence Photo by Ryoichi Sato Zagreb CROATIA ALY Ryoichi Sato=撮影 ROMANIA Sarajevo Bucharest Belgrade YUGOSLAVIA Sofia BULGARIA Istanbul Skopje Tiranë MACEDONIA ALBANIA Naples ヨーロッパ南東部の小国、クロアチア。紺碧のアドリア海に浮かぶように佇むオレンジ屋根が織りなす街並は、この国の象徴 GREECE Palermo イストラ ともいえよう。しかし、この国の魅力は美しい景観だけではない。深い森に包まれるイストラ半島北部は白トリュフをはじめと Athens する、多くの食材を育むゆりかごとなり、世界中のグルマンたちを魅了している。イストラの粋を求めて、食の冒険の旅に出た。 MALTA 早朝、雲霧に包まれる天空の街。イス トラ半島には、 丘ごとに街が点在する。 AGORA August & September 2016 26 1.「有翼の獅子」 のレリーフ。 か つてここがヴェネチア共和国 の支配下にあったことを物語 っている。2.イストラの丘の街 で見かけたネコ。 玄関口で一休 み。3.イストラ名 物の伝 統 的 なパスタ「フジ」 。 軽い食感が特 徴。4.モトヴンの頂 上に佇む 「カステルホテル」。テラスでい ただくトリュフ料理は格別だ。 れた城壁、そして中世以来、長く これらの村には、要塞として造ら ブルタル、グロジ ュ ニ ャ ン ……。 点在する。モトヴン、ブゼット、オ 豊かな森の中の、小高い丘に村が イストラ半島は、起伏に富んだ緑 首都ザグレブから車で、およそ 二時間半。アドリア海に張り出す 映し出していった。 ベールを上げるように、丘全体を よってゆっくりと消え去り、長い 空から少しずつ上昇する陽の光に に顔を覗かせていた。雲霧は東の 小高い丘の上に立つ村だけが天空 そぞろ寒の朝、一面の雲霧に包 まれたイストラ半島の森に、唯一 る者を魅了して止まない。 りなす絵画のような景観が、訪れ 世の建造物と牧歌的な自然美が織 ストラの森を一望する。そんな中 やオリーブ畑、樫やニレが覆うイ ジ ア 〉も残る。眼下にはブドウ畑 国時代に造られた展望空間〈ロッ る。城壁の端にはヴェネチア共和 げられた堅固な城門が迎えてくれ 寄せ合い、頂では有翼の獅子が掲 レンジ屋根の石造りの家々が肩を ルの丘に築かれた小さな村は、オ 雲霧に包まれたモトヴンもその 例に漏れない。海抜二七七メート 人も少なくない。 タリア語を日常言語として話す住 となっている。中でも「フジ」と呼 28 AGORA August & September 2016 古 き 良 き ヴェネ チアの 残 香 ヴェネチア共和国に属していた証 したイストラ半島は、現在でもイ し「有翼の獅子」が、今も鮮明に刻 近年イストラ半島は、美食の地 としても欧米諸国では知られた存 まれている。 ロ ー マ を は じ め、ビザンツ 帝 国、 ばれるイストラ特産のパスタ料理 在 だ。彼 ら は 豊 か な 土 壌 が 育 む、 イストラ半島は、紀元前から近 代まで、激動の歴史を辿ってきた。 数々の食材で繰り広げる料理の虜 ヴェネチア共和国、 オーストリア・ ランスタッフは誇らしげに話す。 ハンガリー帝国などの支配を受け、 がお薦めだと、モトヴンのレスト 第一次世界大戦後はイタリア王国 雲霧に包まれた天空の丘に佇む ノスタルジックな村と、惜しげも テーブルに運ばれてきたフジには、 くしとなる。 なく皿の上に舞うトリュフ。イス に併合。第二次世界大戦後は、旧 リュフを、まるまるひとつ削るの 九一年の旧ユーゴスラビア解体後、 えられる。芳香漂う採れたてのト トラ半島は着いた早々から感嘆の イストラらしいラストタッチが加 現在のクロアチア領となった。し だ。それは前菜であろうと、デザ 連続だ。 ユーゴスラビアに含まれた。一九 か し、ヴ ェ ネチア 共 和 国 及 び、イ ートであろうと全てがトリュフ尽 小高い丘の上に築かれた街、 モトヴン。霧に包まれる姿が 幻想的なことから、天空の 街と呼ばれることも多い。 1.イストラの丘の街のひとつ、 世界一小さい村フム。2.モト ヴンにて。城壁のアーチを抜け ると、丘の頂上に佇む聖ステフ ァン教 会へと続く。3.夕 焼け 色に染まりゆく、レンガ造りの 民家や石畳の路地。4.城壁沿 いのオープンレストラン。 タリア王国として長い年月を過ご 2 1 4 3 Ta s t y Journey to Istra 1 2 3 4 どちらのトリュフも石灰岩質の 土壌、適度な湿度と気温などの条 ィーニに囲まれた一帯は、トリュ トヴン、ブゼ ッ ト、そ し て パラデ オリーブ、栗、蜂蜜 …… 中でもモ 多 く の 恩 恵 を も た ら す。ブドウ、 へと続くゆるやかな丘陵の斜面に 性気候が、中心部からアドリア海 イストラ半島は、温暖な地中海 採取できないことから、その希少 ュフは、ごく限られた地域でしか 黒 トリ ュ フ と な る。一 方、白 トリ 地方産のものが有名であるが、世 リュフは、フランスのペリゴール と白の二種類に分けられる。黒ト は通年、白トリュフは九月〜一二 の条件を持ち合わせ、黒トリュフ 呼ばれるこの森一帯は、その全て に流通しているトリュフといえば、 「 トリ ュ フ・トライアングル 」と 界各地で採れることから、一般的 月の間に収穫できる。イストラ半 みぞ知るといったところだ。 リュフが育まれているかは、神の りで一生を送る。ゆえにどこにト か育成せず、地表下三〇センチ辺 奇跡の森が育む味覚の王様 フ を 育 む 森 と し て「 トリュフ・ト 価値は大変高く「味覚の王様」と 件全てが揃う樫や楡の木の森でし ライアングル」と呼ばれる。 島の村々では、トリュフハンター 収穫からほんの三〜四日だという。 と呼ばれる専用のシャベルを使っ ン青年へとバトンタッチ。ヴァンガ 掘り始めた。ここから先はイヴァ ー、レイラが木の根元を勢い良く トリュフをスライスする彼女の手 が作った特製オムレツの上に、白 トリュフハンターのラドミラさん イヴァン青年の母であり、二代目 レツ が 一 番 よ。マンジ ャ ー レ!」 「白トリュフにはシンプルなオム て慎重に掘ってゆく。すると親指 がいつまでたっても止まらない。 5.「カールリッチ」併設のショップでは、白トリュフオイル など新鮮なトリュフアイテムを手に入れることができる。 6.白トリュフや黒トリュフを贅沢に使用した料理が並ぶ。 称されるほどだ。 ついていくだけでも一苦労だ。し 大の白トリュフが現れた。その後 黒トリュフの芳醇な香りとはまた 満喫するには、自らこの地に足を 5 6 ばらくするとハンター犬のリーダ もハンター犬たちの活躍により大 運ぶほかなさそうだ。 小三つの白トリュフを掘り当てた。 違う、強い刺激と濃厚な香りを放 白 トリュフは、その香りを楽し むために生で使用するのが一般的 つ白トリュフを一○○パーセント だが、香りを十分に楽しめるのは Ta s t y Journey to Istra とともに森へトリュフ狩りに行く ツアーが開催されている。そうは いっても相手は土の中。プロフェ ッショナルといえど、簡単には見 つけられない。そこで頼りになる のが、訓練を受けた有能な犬たち だ。 「ここから見える森全域にトリュ フが眠っています。一〇 歳の時に 初めて白トリュフを掘り当てた時 の感動は今も忘れられません」 。 そう話すパラディーニ村でトリュ フハンター三代目として活躍する イヴァン青年と、三頭の相棒犬と ともに白トリュフ狩りへ、森の奥 へと道なき道を進む。昨晩の雨で 足下はぬかるみ、先頭を行く彼に 30 AGORA August & September 2016 AGORA August & September 2016 31 1.パラディーニ村にある「カー 2 ルリッチ」にて、3代目トリュフ ハンターとして活躍するイヴァ ン青年。2.トリュフハンター犬 3頭とともに。深い森の中でも、 名前を呼ばれるとすぐにイヴァ ン青年の下へと集合する。 1 3 3.イストラの恵みの代表、白トリュフと黒トリ 4 ュフ。4.ハンター犬は、生後約 3ヵ月から訓練 を始める。喜々としてトリュフを嗅ぎ当てて、 宝探しを楽しんでいるようだった。 トリュフは大きく分類すると黒 「トリュフ・トライアン グル」と呼ばれる、モ トヴンとブゼット、そ してパラディーニの 三角地帯の森。