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相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 江守 哲

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相場展望レポート (2016 年 12 月) 2016.11.30 江守 哲
相場展望レポート (2016 年 12 月)
2016.11.30
江守 哲 氏
ドル円(106.50 円~114.60 円)
ドル円は基調が上向きに変わりつつある。11 月 8 ⽇に実施された⽶⼤統領選挙では、共和党候補トランプ⽒
が、⺠主党候補クリントン⽒を破り、次期⽶⼤統領に就任する⾒通しとなった。市場の⼤⽅の予想を覆す結
果となり、選挙当⽇の市場では、ダウ平均先物が時間外取引で 900 ドルを超える下落となる⼀⽅、ドル円も
101 円を割り込む手前まで売られるなど、市場は混乱した。しかし、9 ⽇の海外市場ではすぐに落ち着きを
取り戻し、むしろ新政権への期待が不透明感を上回る形で買戻しが⼊り、その流れが週末まで続いた。その
結果、ダウ平均株価は過去最⾼値を更新し、ドル円も⼀気に上向いた。トランプ⽒優勢が伝えられる中で、
市場では英国が EU 離脱(ブレグジット)を問う国⺠投票を⾏った⽇のような値動きが想起されたが、結果
的にそのような動きにはならなかった。ブレグジットとの⼤きな違いは、節目の 100 円を割り込まなかった
ことである。ブレグジットではドル円は⼀気に下落し、あっという間に 100 円の⼤台を割り込み、99 円ち
ょうどを試す勢いで急落した。しかし、今回のトランプ⽒勝利では、100 円を割り込むことなく、101 円台
を維持し、アジア時間の後半から欧州時間、そして⽶国時間なるにつれて反発の動きが鮮明になった。ブレ
グジット以降、100 円の⼤台を割り込む場⾯を繰り返したことで下値が堅くなっており、それ以降のドル円
は下げ渋る動きが続いていたこともあり、今回の下落が想定ほどには⼤きくならなかったものと思われる。
また今年のドル円の⾼値と安値の値幅は 22.60 円だが、過去 15 年間の平均は 16.08 円であり、今年はすで
に⼤きく変動していたことも、下値を売り込みにくくしたともいえる。
ドル円が下げずに、むしろ⼤きく上昇していること自体、⼤いにサプライズといえる。市場関係者は今回の
選挙の結果を受けて、新政権への期待を優先させ、⽶国を買う動きを強めている。この結果、市場では⽶⼤
統領選でのトランプ⽒の勝利で、潮目が変わった可能性が⾼いとの指摘が聞かれる。トランプ⽒はドル安論
者と呼んでいた市場参加者の変わり身の早さにも驚かされるが、いまはドル買いの勢いが極めて強くなって
いる。ドルの上昇の背景には、トランプ政権が進めるとみられているインフラ投資の拡⼤に伴う財政悪化懸
念が⾦利上昇の上昇がある。つまり、現在の市場は、⻑期⾦利の上昇をドル買い材料としてとらえているこ
とになる。しかし、今後は財政が悪化し、これがひいてはドル安につながると考えられる。トランプ⽒が自
身の政策を推し進める中で、財政を緩めすぎると、財政赤字の拡⼤が必ずや問題になるだろう。さらに、ト
ランプ⽒が掲げる 6 兆ドルもの⼤型減税も財政の悪化につながる恐れがある。これらの政策を推し進めれば、
財政悪化は不可避となろう。その結果、⾦利が上昇し、⼀時的にドル⾼が加速する可能性があるが、過去の
ケースでは、⻑期的にはこれがドル安材料になっている。つまり、⻑期⾦利の上昇とドル⾼が株安を誘発し、
債券安・ドル安につながるという循環である。
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⽶国の共和党・⺠主党の政権下における、財政収支とドル指数の推移をみると、共和党の場合には財政悪化・
ドル安基調の傾向が鮮明となっている。ブッシュ(父)政権の 4 年間およびブッシュ(⼦)政権の 8 年間の
⽶財政収支の対 GDP ⽐とドル指数の推移をみると、財政赤字の⽐率が上昇するにつれて、ドル指数は下落し
ている。財政悪化は⾦利上昇につながる⼀⽅、これがドル⾼を誘引するのではなく、むしろドル安につなが
ったという事実は非常に興味深いだろう。これは「悪い⾦利上昇」がドル安を誘発することを意味する。し
たがって、⼀般的に理解されている「⽶⻑期⾦利上昇=ドル⾼」といった考えにこだわると、本質を⾒誤る
ことになるだろう。もっとも、短期的にはこれらの材料は織り込まれにくい。かなり⻑期的な材料として認
識しておく必要があるだろう。
直近では、12 月 13・14 ⽇に開催される⽶連邦公開市場委員会(FOMC)に注目が集まろう。今回 FOMC で
は利上げはほぼ確定的であろう。市場ではすでに 9 割以上の織り込みとなっており、利上げが決定された場
合でも、サプライズはないものと思われる。その前に発表される 11 月の⽶雇用統計で、よほど弱い数値に
ならない限り、利上げは予定通り実施されることになろう。この利上げをきっかけに、ドルが上昇あるいは
下落に向かうかによって、その後の⽅向性は⼤きく異なろう。すでにドルはかなり上昇しており、過熱感も
ある。しかし、ドル上昇の勢いを弱めるような材料が出てこない限り、ドル⾼基調は続く可能性がある。ま
た共和党政権下では、⼤統領就任 1 年目はドル⾼・円安になりやすい傾向がある。この点も念頭に⼊れてお
く必要があるだろう。トランプ⽒の⼤統領就任は来年 1 月 20 ⽇だが、現在のドル⾼基調の修正が必要にな
る材料が出てくるまでは、市場関係者によるドルに対する強気な⾒⽅は維持されるだろう。このような状況
の中、今後 1 ヶ月のドル円のレンジを想定するとすれば、115 円半ばが戻りのめどになろう。すでに半値戻
しの 112 円⽔準を超えており、市場のターゲットは昨年 6 月⾼値と今年 6 月安値の 61.8%戻しの⽔準に移
っているものと思われる。113.80 円から 114.60 円あたりにも重要なレジスタンスがあり、これらを超える
かにも注目することになろう。市場では戻り売りから押し目買いにスタンスが変わっているものと思われ、
下げた場合でも下値は限定的になる可能性がある。調整した場合には 111 円ちょうど、108 円あたりがサポ
ートの候補になろう。これらを割り込んだ場合でも、106.50 円あたりを維持できれば、上昇基調は継続し
ていると判断してよいだろう。ただし、これまでドル円を買いあがってきた向きが、年末前に手仕舞い売り
を出すようだと、105 円台まで⼤幅に調整する可能性もあろう。
ユーロ円(116.00 円~123.00 円)
ドル⾼基調を背景にユーロドルは下落基調が続いているものの、ドル円の急伸もあり、ユーロ円は堅調さが
鮮明である。⽶⼤統領選挙後に直近のレジスタンスとなっていた 116 円を明確に上抜けてからは、上昇基調
が強まっている。ユーロドルの下落基調がいずれ⽌まる可能性があるものの、いまはドル独歩⾼の動きにあ
り、クロス円は円安傾向の強まりを受けて下げにくい展開が続く可能性が⾼い。ドル円の上昇基調が続く⼀
⽅、ユーロドルが下げ渋れば、ユーロ円は 122 円から 123 円近辺を目指すことになろう。ドル円が調整し
た場合でも、その場合にはユーロドルが反発することが⾒込まれるため、下げ幅も限定的となり、116 円か
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ら 117 円あたりでサポートされるだろう。ただし、直近では買われすぎ感がきわめて強くなっており、いつ
反落してもおかしくない。⼀時的な乱⾼下の動きには⼗分に注意したい。
ユーロドル(1.0450 ドル~1.0850 ドル)
ユーロドルは下落基調が続いている。⽶⼤統領選でのトランプ⽒の勝利で、9 ⽇には⼀時 1.13 ドルに迫る動
きを⾒せたが、その後はトランプ政権への期待が強まる中、下落基調が鮮明となった。直近安値の 1.0850
ドルを割り込んでからの下げは厳しく、24 ⽇には 1.0550 ドルまで売り込まれている。これは昨年 12 月以
来の安値圏であり、これを維持できるかはきわめて重要である。割り込んでしまえば、昨年 4 月の 1.0530
ドル、さらに 3 月安値の 1.0455 ドルまでの下げが想定される。しかし、これらを割り込むと、1 ユーロ=1
ドルのパリティ(等価)への下げも想定せざるを得なくなる。それだけユーロドルはきわめて重要な局⾯を
迎えているといえる。トランプ政権への期待に加え、欧州には政治的混乱への懸念もあり、ユーロドルは上
値が重くなりやすい。12 月 4 ⽇にはイタリアで憲法改正に伴う国⺠投票が実施される。また 25 ⽇にはスペ
インの総選挙が控えている。政治⾯での不安定さがユーロドルの⼀段の下落を誘う可能性は否定できない。
また来年には 4 月にフランスの⼤統領選、6 月には同国の議会選挙、8 月にはドイツの総選挙も実施される。
政治イベントが目白押しとなる中、ユーロに対して強気な⾒⽅をしづらい。これらの潜在的な不安感が目先
のユーロの上値を抑える可能性は⼗分にある。これらから、節目の 1.05 ドルを割り込んだ場合には、相応
の下げを想定しておきたい。⼀⽅で 1.0650 ドルを回復できれば、1.08 ドルから 1.0850 ドル程度まで戻す
可能性はある。ただし、戻り売り圧⼒は相当強いだろう。
豪ドル円(80.00 円~90.50 円)
豪ドル円は強い上昇基調にある。その背景には、ドル円の上昇がある。豪ドル円が上昇している間、豪ドル
/⽶ドルは他の主要通貨と同様に軟調に推移している。その豪ドル/⽶ドルは、⽶⼤統領選後のドル⾼を受
けて、
16 ⽇には重要なサポートの 0.75 ⽶ドルを割り込んだ。その後は売られすぎ感が強まったこともあり、
0.73 ⽶ドル近辺で下げ⽌まり、反発の動きにある。再び 0.75 ⽶ドルを回復できれば、買戻しの勢いづく可
能性もある。ただし、その場合には、市場のトランプ新政権への期待が落ち着くことが不可⽋であろう。
現状のトランプフィーバーを背景としたドル⾼基調に⻭⽌めがかからない限り、豪ドル/⽶ドルの上値も限
定的にならざるを得ない。ただし、トランプ政権がインフラ投資を拡⼤するとの期待が⾼まることで、コモ
ディティ価格が上昇すれば、豪ドル/⽶ドルが押し上げられることも⼗分に考えられる。これらを考慮すれ
ば、豪ドル円はドル円の堅調を⼤前提として、今年の⾼値⽔準である 86 円から 86.50 円が上値のめどにな
ろう。これを上抜けると、90 円から 90.50 円がターゲットになる。ここまで上昇するには、豪ドル/⽶ド
ルの上昇とドル円の上昇が共存、あるいはいずれかがきわめて強い動きになる必要がある。現状では、これ
らの⽔準に上昇するには、⼤幅なドル⾼・円安が不可⽋になろう。短期的にはテクニカル的な過熱感もみら
れる。持続的な上昇ではなく、調整を挟みながらの上昇基調継続となれば、想定以上に⻑いスパンでの上昇
が続く可能性もあるだろう。そのため、下値は 80 円程度でとどまるものと考える。
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相場展望レポート (2016 年 12 月)
2016.11.30
■ 江守 哲(えもり てつ)氏プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。
現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
■ ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証す
るものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の
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