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高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 Self
奈良教育大学紀要 第54巻 第 1 号(人文・社会)平成17年 Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 54, No.1 (Cult. & Soc. ) , 2005 103 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 −療育活動(ラッコ教室・ペンギン教室)を通して− 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子* ・ 神 野 歩* 奈良教育大学教育実践開発講座(特別支援教育) (平成17年4月1日受理) Self-Understanding of Handicaps and Supporting with High-Functioning Autism Masatomo TANABE, Hiroko TAMURA * and Ayumi JINNO ** (Department of Special Needs Education, Nara University of Education, Nara 630 - 8528 , Japan) (Received April 1, 2005) Abstract This study is one of a series of studies attempting to clarify the developmental problems which autistic children often face and how we can appropriately offer educational and developmental supports for them. In this study we attempted to clarify the process of self-understanding of one’s handicaps in a high-functioning autistic child from his childhood to adolescence. Our study is also concerned with what kind of support is helpful to autistic children in terms of education and development. The subject was a 18-year-old autistic boy with the high functioning in terms of his language and intellectual skills. We have supported this boy in our remedial education class for handicapped children since he was 2 years 9 months. This paper is organized as follows: First, the course of his development and problems from his infancy to adolescence are outlined. He still had the problems with social and communicative functions. Then, we point out that these social and communicative deficits are central symptoms in the case of high-functioning autism. It must be noted that he was aware of the fact that he is different from others and has difficulty in empathizing with others toward the end of preschool. Now, he is adapting to school and community life. Finally, we emphasize that it is important to understand the course of development and problems in each stage of life of children with high-functioning autism in order to support. Key Words: high-functioning autism キーワード: 高機能自閉症 Self-understanding of handicaps 障害の自己理解 Educational and developmental sup- 教育・発達支援 ports *みみはら高砂クリニック小児科 104 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子 ・ 神 野 歩 1.問題の所在 2歳9カ月から就学前障害児療育教室での週1回の療育 に参加,N大学付属小学校(障害児学級)入学と共に月 自閉症であって認知や知的機能の高い群を高機能自閉 症と呼んでいる.そのおおよその基準は境界線級知能か 1回の療育活動に参加し,地域の公立中学校(障害児学 級)を経て現在に至っている. ら平均以上の知能の知的な遅れを伴わない自閉症の意味 分析資料 で使われている.高機能自閉症がとりわけ注目されるよ 1)「自己理解」に関するアンケ−ト調査・聞き取 うになったのは,1980年代の後半からである.それは, り−高校1年生,2年生時に実施した「自己理解」に関 各種の神経心理学的な検査に協力が可能であるととも するアンケ−トおよび聞き取り調査結果. に,自閉症の障害の本態解明についての手がかりが得ら 2)発達検査結果−2歳0カ月から17歳8カ月の間 れるのではないかという期待によるものである.また, に適宜実施した新版K式発達検査結果およびWISC-R, 最近になって,高機能自閉症者自身が自らの自閉の世 WAIS-R検査結果 界・自閉症体験を語る機会が増え,自伝や手記の出版が されていることにもよるものである. しかし,その一方で,高機能自閉症児に対する教育・ 3)対人関係の様子−①2歳9カ月時から現在までの 療育教室,療育活動を通して得られた行動観察記録. ②小学校および中学校での様子については,担任教師へ 発達支援は十分に行われてこなかったといえよう.高機 の聴取,実践記録等の資料. 能自閉症児は,知的な遅滞が認められないために,周囲 なお,症例報告に関しては,本人ならびに親から承諾を が障害に気づくのも遅れることが少なくない.そして, 得ている. 小学校に入学することで,学校という大きな集団場面で, 社会性や対人関係の問題が顕在化してきたり,学習上の 3.結 果 問題を示す児が少なからずいる. 筆者ら(田辺,1999;田辺・田村,2002)は,これ 1 K君の認知機能の発達経過,対人関係・コミュニ までに,ひとりの高機能自閉症児・K君の認知機能の発 ケ−ション機能の発達変容の概略 達過程・特徴を明らかにするとともに,その発達過程・ 2歳0カ月から12歳8カ月の間に適宜実施した新版 特徴と関連させて対人関係・コミュニケ−ション機能の K式発達検査結果の発達指数(DQ)を,図1に示した. 問題について分析し,彼への教育・発達支援のあり方に 発達経過から明らかなように,知的機能に顕著な発達的 ついて検討してきた.高機能自閉症児において,学童期 変化が見られる時期があり,「認知−適応」領域では4 後期から始まる新たな課題として「障害の自己理解・受 歳後半から, 「言語−社会」領域および「全」領域 では 容」の問題がある.この時期に入ると,自己や他者への 7歳なか頃から発達指数(DQ)85以上,つまり知的 認知力が高まり,自分と他者の違いなどを感じるように には正常範囲に入っている.筆者らが療育を開始した2 なり,自分の行動とみんなとが違うことを自覚し出す. 歳後半頃には,現在のDSM−Ⅳ、の診断基準を満たし, そして, 「ぼくは自閉症なの?」とか「自閉症って何?」 乳幼児期に発達の遅れが顕著であったが,小学校就学前 と尋ねたりする.高機能自閉症児の障害の自己理解やそ 後の頃に発達のキャッチアップが認められ,高機能自閉 の支援の重要性については,Willams, D. (1992) の自叙 症圏内に属してきている. 伝や北アイルランドの10歳の少年Hall, K. (2001) の手記 などにより認識されるようになってきた. 11歳8カ月から17歳8カ月時にかけて実施したWISCRおよびWAIS-Rの結果を,表1に示した.言語性知能 本稿では,筆者らのこれまでのK君への取り組みの結 果を,本人の障害理解といった視点から再検討を試みる. 高機能自閉症児が,学童期から青年期にかけて,自分自 身をどのように受けとめてきたのか,障害をどのように 理解してきたのかについて発達的に検討し,そこから, 高機能自閉症児の自己形成およびその家族への教育・発 達的支援のあり方について考察する. 2.方 法 対象児 現在18歳の専修高等学校に在籍する男子.2歳時に 筆者らが大学で実施している教育相談に来室し,その後, 図1 K君の新版K式発達検査結果の発達指数(DQ) 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 4.考 察 表1 K君の WISC-R および WAIS-R の結果 検 査 C A 11:8 WISC−R WAIS−R 全 IQ 97 105 VIQ PIQ 95 101 1 高機能自閉症児における認知機能の発達と障害およ び対人関係の問題 13:0 102 100 105 14:0 107 101 113 高機能自閉症児における障害の自己理解・受容 と教 15:0 115 111 118 育・発達支援について考察するにあたり,はじめに,高 機能自閉症児の認知機能の発達と障害の問題,そして, 16:0 117 109 123 17:8 115 117 105 対人関係の問題について検討しておきたい. K君の発達経過から明らかなように,認知機能に顕著 (VIQ)と動作性知能(PIQ)を比較すると,11歳8 な発達的変化がみられる時期がある.筆者らが療育を開 カ月∼16歳0カ月の間はVIQ<PIQであるが,そ 始した2歳後半頃には,現在のDSM−Ⅳ、の診断基準 の差は自閉症にあって一般的に指摘される程大きくはな を満たし,乳幼児期に発達の遅れが顕著であったが,小 い.そして,17歳8カ月時のWAIS-Rの結果ではVI 学校就学前後の頃に発達のキャッチアップが認められ, Q>PIQとなっている.下位検査の評価点(SS)の 高機能自閉症圏に属してきている.しかし,先の研究 プロフィ−ル特徴は,言語性検査で評価点が最も高いの (田辺・田村,2002)でも指摘したように,K式発達検 は「数唱問題」で,他の検査はほぼ同程度の評価点とな 査およびWechsler知能検査の検査項目の通過年齢・状 っている.動作性検査では,評価点が最も高いのは「積 況の検討から,図形模写課題,積木構成課題や記憶,数 木模様」で,最も低いのは「絵画配列」であるが,言語 唱課題では,幼児期から暦年齢相応の時期に,あるいは, 性検査の場合と同様,ほぼ同程度の評価点であった. 発達検査の基準年齢よりも早い時期に通過しており,こ こうした発達段階の高次化や加齢に伴って,対人関 の領域・課題での特別な問題は見られていない. しかし, 係・コミュニケ−ション機能もその対象が広がり,関わ 乳児期の対人関係に関わる課題・項目やシンボル表象機 り方の質や表現内容・様式の変容が示されている(詳細 能の形成に関わる項目の通過年齢はかなり遅いことが示 は,田辺・田村,2002参照).現在,日常的な会話も可 された.さらに,言語性・非言語性のいずれにおいても 能であり,また,書きことばでも表現力が確かになり, 概念的問題解決や推論を必要とする課題において,その 筆者らとFAXやメ−ルでの用件のやりとりができるよ 獲得に困難さが見られた.「高機能」というのは,発達 うになっている.しかし,自分の世界観からの視点で理 検査上,総合点として一定の数値(発達指数,70以上 解したり,コミュニケ−トすることによる問題がみられ という立場と正常知能ということで85以上とする立場 る.例えば,その時の相手の状況とは関係なく一方的に がある)を得ている状態であって,その認知的な偏り 自分の獲得した知識を何度も繰り返したり,相手が既に (認知のバラツキ)を有しているのである. 聞いたことがあるかどうかにかまわず自分の関心事を話 さらに,発達段階の高次化や加齢に伴って,対人関係 すといったように他者との関わりは一方的になりやす もその対象が広がり,関わり方の質や表現内容・様式の く,会話の内容は紋切り型になりやすい傾向はみられて 発達的変容が示され,Wing&Attwod (1987) の「孤立型」 いる.また,会話の中でことばの意味を取り違えたり, から「受動型」(幼児期前期の発達段階,暦年齢3歳6 話しを自分のイメ−ジで自己展開させ結果的に「とんち カ月頃)へと移行し,さらには,児童期前期への移行期 んかんな」返答になるといったように,その場の状況判 の発達段階(暦年齢11歳頃)から「積極型」の傾向を 断のしかた,ことばの意味の理解,使い方に問題を残し 呈しつつある.しかし,結果の項で指摘したような自分 ている.さらに,ことばが相手に向かいにくい問題や表 の世界観からの視点で理解したり,コミュニケ−トする 情,手の動き,身振りが硬いといった表現機能に関わる といった対人関係・コミュニケ−ションの問題も有して 問題は依然としてみられている. いる.Wing (1992) が指摘するように,対人関係・コミ ュニケ−ションの問題は,高機能自閉症にあっても中心 2 障害の自己理解・受容について 高校1年生と2年生時に実施した「障害の自己理解」 症状をなすものであるといえよう.高機能自閉症は通常 「軽度」発達障害と呼ばれている.しかし,社会生活と アンケ−トおよび聞き取り検査結果をまとめて示したも いう視点からからみると,決して「軽度」ではなく,む のが,表2である. しろ人間関係の障害としては重篤さを感じさせるものが ある. こうした高機能自閉症における認知機能の偏りや対人 関係・コミュニケ−ション上の問題を有しているという ことを認識した上での教育・発達支援の方策が検討され 106 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子 ・ 神 野 歩 表2 「自己理解」・「障害理解」にかかわるアンケート結果 高 校 1 年 生 質 問 事 項 Ⅰ 高 校 生 活 高 校 2 年 生 1.楽しいこと 音楽専攻の授業 2.悩み・困難なこと 校則違反者・欠席者が多い/友だ 卒業後の進路/他人にわかりやす ちに嫌がらせをされること く話すこと 3.自分にとって友だちとは何か 話し相手/お互いに助け合う 先生や仲間と話すこと/専門芸術 僕の気分をよくしてくれる/兄弟 関係 4.友だちのなかで自分はどのよ 遊び好き/印象的で誇りがある うな存在だと思うか かわいい・かっこいい/鉄道・バ スが好きな人/賢い人 5.友だちから不思議がられたり、 変わっていると言われること は何か おかしい行動をとったとき(変な ことで笑う)具体的にはあらゆる ことがあるので説明できない 6.友だちとどんな話をするか 鉄道・バス 乗り物関係 7.自分がみんなと違うと思うこ 学力(みんなよりできる) とはどのようなことか 学力(みんなよりできる)/学習 態度(まじめ) 8.小さい頃療育教室、障害児学 友と話す力がなかった/学力が足 りなかった 級に入っていたのはなぜか 9.障害があるとはどういうこと 自分に苦手なことがいくつかある 自分に苦手なことがあることを証 こと か 明すること Ⅱ 障 害 Ⅰ 将 来 10.『光とともに』を読んだ感想 自閉症ということが勉強になった 11.自分が光と似ていると思った ことは何か なかなかことばが出ない 12.自閉症とはどんな障害か 人と付き合うのが苦手/別な行動 をとりやすい 13.自分には障害があるか 障害がある 14.どのような障害があるのか 気が弱い/変更があるとドキッと する 15.障害があるとわかった時の気 持ちは すっきりした気持ち 16.障害があることで、これから 生活していく上での影響、問 題はあるか 社会でコミュニケーションするこ と/就職したとき 17.高校卒業後はどうするか 大学か専門学校に行き、コンピュ ーターの理論と技術を学びたい 18. どのような仕事に就きたいか 情報関連(人と話したり、付き合 うことが苦手だから) 19. どんな人生を歩みたいか 気楽な人生 る必要があるということを強調しておきたい. 生は休み時間もみんなと遊べという.僕は勉強の時間は みんなと一緒にしています」と,休み時間はひとりでい 2 障害の「自己理解・受容」 たいということを訴えた.漠然とながらも自分が他者と 次に,K君が学童期から青年期にかけて,自分自身を 一緒にいることが困難な時もあるという自分の特性に気 どのように受けとめてきたのか,障害をどのように理解 づいている.小学校6年生時には,どうして障害児学級 してきたのかについて発達的に検討し,そこから高機能 で勉強しているのかという質問に対して「みんなと話し 自閉症児の自己形成およびその家族への教育・発達的支 をするのが上手でないから」と答えている.そして,中 援のあり方について考えたい. 学進学時には「知り合いのたくさんいる○○中学校(校 K君は,小学校3年生時に,筆者らに「(学校の)先 区の中学校)に行きたい.でも,勉強は難しいから障害 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 107 児学級でします」と自分で選択している.小学校の終わ K君のこうした「自己理解・障害理解」は,周囲の障 り頃には「自分が人と関わることが上手ではない」 , 「学 害理解や教育・発達支援のあり方とも大きく関わる問題 力が足りない」というように,自分の特徴・問題点の把 であると考えられる. 握ができはじめていると推察される. 中学校では,5教科を障害児学級で学習しているが, 3 高機能自閉症への教育・発達支援 数学と英語は通常学級の定期試験を受け好成績をあげる はじめに,筆者らが取り組んできたK君への教育・発 ようになり,学力について自信をもつようになる.そし 達支援について紹介し,そこから得られた成果と課題を て,高校進学を希望するようになる.しかし,普通高校 踏まえて,高機能自閉症の教育・発達支援の問題につい は人との関係が難しいだろうと考え,家族や筆者らと相 ての考察を試みる. 談の上,自分の得意なピアノが学べ,ゆったりとした学 1)K君への取り組み:筆者らは,療育教室・療育活 習形態の専修高等学校を選択する.高校生活の一端は, 動や発達相談・療育相談を通して,子どもの発達を長期 表2に示されている.高校1年生の終わり頃,本人が理 にわたって見つめ,家族や学校への助言を行っている. 解している「自分は人との関わりが上手でない」という K君の場合,2歳時からの発達経過および対人関係・コ 問題の本質である障害の理解をし,そのことがより深い ミュニケ−ション機能の発達変容を踏まえながら,幼児 「自己理解」につながることを願って,筆者らが薦めた 期から持ち続けてきた「こだわり」を本人の示す興味・ 自閉症児の育ちを描いた『光とともに1∼4』を読み, 関心ととらえ,それを趣味や専門的力量へ高めていくこ 母親に「自分は自閉症であること」 , 「幼児期から一緒に と,また,本人の興味・関心事・願いをひとりでではな 活動している友だちのなかで自閉症児は誰であるか」を く他者と展開・共有することを目標として,療育活動で 伝えている.この時期,幼少時から活動をともにしてい のボランティアの人たちの協力も得ていくつかの取り組 る自閉症の仲間が元気がなく,母親たちが心配している みを開始している.K君へのこれまでの教育・発達支援 話しを聞いて「○○君,元気がないと僕も思います.○ の取り組みでたいせつにしてきたことをまとめ,現在の ○君,自分の世界に入っています.僕も時々あります」 取り組みを紹介する. と話している. 先に紹介した,ケネス(Hall)君は「8歳の時にアス 療育教室(就学前障害幼児の療育教室:通称,ラッコ 教室−資料1)に通室し始めた当初は,新しい場所,器 ペルガ−症候群(注)だとわかって,そのあと,ぼくの 具への興味・関心が強く,ウロウロ行動が顕著にみられ, 生活はすっかり変わった.それまでは毎日がつらくてた また,もの(換気扇)への固執が強く,人への志向性が まらなかった.いつも落ち込んでいた.人生がユーウツ 高まりをみせるまでには至らなかった.この時期は,K だった.(しかし,わかって)とてもうれしかった.ち 君の「もの」との関係のなかに指導者が共感を示しなが ょっと気が楽になった.ほかの子たちみたいじゃないこ ら「よりそう」ことを基本にしつつ,K君の自己感覚的 とは,ずーうとわかっていた」と述べている.また,高 な遊び,活動を他者と共有する関係へと高めることをた 機能自閉症者は,その著書で次のように述べている. いせつに関わりをもった. 「診断が下ってから周囲が『分かってないかもしれない』 具体的には,K君の換気扇への「こだわり」を否定的 っていうことをわかってくれたので,質問させてくれる にとらえて対処療法的に消去しようとするのではなく, ようになった.『ヘンなこと訊くなあ』という顔をされ そうした行動に指導者が共感を示し,さらに, 「ソウネ, ることがなくなっった」(ニキ・リンコ,2004).「診断 カンキセンネ」とか「カンキセン,マワッテルネ」とい を通して,親も私がどうしてこういう子だったのか,私 ったことばをそえて共有していくことを大切にした.こ の行動の背景にあるものを理解してくれるようになっ うした取り組みを通して,K君は換気扇を定位して指さ た.その結果,我が家は,とてもいい家族になりつつあ し,「カンキセン」のことばを表出する.そして,当時 る」 (藤家寛子,2004) . K君が興味を示していた「シンカンセン(新幹線)」, K君の高校2年生時のアンケ−ト結果では,自分の障 「アーバンライナー(近鉄特急) 」へと,ことばが広がっ 害を理解した上での悩みが書かれている.そして,将来 ていくのである.さらには,母親に対しては, 「ことば」 の設計については,自分が人と話したり,付き合うこと での要求へと展開していく.K君は,10カ月の時に が苦手である故に,大学か専門学校に行き,コンピュー 「マンマ(食べ物) 」と初語があってから1歳なか頃まで タ理論・技術を学び,それを生かして情報関連の仕事に は語彙数が増えていったが,その後徐々に消失している. 就きたいという希望を持っている.現在,K君は,自分 再び,発語がみられたのは2歳10カ月時のこの「カン の障害を客観的に理解し始め「自分は変わっているが, キセン」であった. 優れたところもある」として,自分を受容しているよう である. 子どもが示している行動を,「困った行動」,「問題行 動」と否定的にとらえて,「むやみに禁止する」あるい 108 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子 ・ 神 野 歩 は「放っておく」といった否定的ないしは無視といった ランティアの支援のもとにプログラムの運営(各種活動 見方,関わり方においては,そこからはなんら新しいも のプログラム作成,司会・進行役,小学生の世話等)を のが生まれてこない,また,子どもの伸びる力を押さえ 担うまでに至っている.家庭・学校以外での安心できる る,発達の幅をせばめてしまうといった結果を招くこと 場所,仲間と関われる場所が有ることの重要性を強調し になりかねないのである.共感関係の中から,子どもと ておきたい. 指導者との信頼関係,コミュニケーションが育ってくる. K君の家庭では,小学校時代は,家族との関係のなか そして,コミュニケーションがあるところに教育が展開 で生活世界を広げる基盤作りがていねいになされてい されるといえよう. る.一定の役割を持って手伝いをするとか毎年家族で旅 その後(3歳なか頃),発達検査結果では1歳なか頃 行等をすることを大切にしている.父親とは,本人が興 の発達的力量を獲得していくのであるが,物の操作の仕 味・関心を示している乗り物を利用して山登りに出かけ 方は形式的なものであって,目的性・発展性をもった遊 る,自転車に乗って出かける,マラソンをするといった びへと展開されにくいとか,一人遊びが中心で人を取り ことを繰り返し積み重ねている.また,姉が習っていた 込んだ遊びに発展しにくいといった傾向性が示されてい ピアノに興味を示し,K君も小学校低学年から習い始め た.そこで,療育場面では,K君の遊び・活動を目的性 ている. のあるものへ,また,人との関係を取り込んだ意味性を 中学校は,先に紹介したように地域の公立中学校・障 もった活動へと導いていく取り組みを,そして,動作や 害児学級に進む.クラブ活動は,陸上部に所属し,中距 ことばでの要求をていねいに受けとめ,「やりとり」関 離を得意として3年生まで活動している.この頃になる 係へと高めていくことを大切にした. と家庭では,親より姉との会話を楽しむようになったり, そうした取り組みを通して,換気扇への「こだわり」 乗り物への興味・関心がますます広がり,時刻表を調べ も,様々な場所の換気扇を見ることへと広がっていく. たり,ひとりで乗り物に乗って出かけたがるようになる. そこでは,下から覗き込んだりして見えない部分を見よ そこで,この時期にK君がペンギン教室で関わりを求め うとする探索行動がみられる.さらには,ひもを引っ張 始めた兄貴的存在のボランティアたちの協力を得て,い って換気扇をまわすといった操作する対象へと変化して くつかの取り組みを開始した.その取り組みの概要をま いくのである.また,この時期,K君が関心を示した描 とめたものが,表3である.ここでの取り組みでは,K 画活動では,ことばで指導者に「カンキセン,カイテ」 君の興味・関心事を他者と展開・共有するとともに専門 と要求し,指導者が「ジブンデ,カイテ」と応ずるとグ 的力量の獲得へと高めていくことを大切にしてきた. ルグル丸(円錯)を描く.そして, 「ナニ?」と問うと, 2)K君への取り組みから得た成果と課題:筆者らが 「カンキセン」と応答する.また,指導者が「グルグル K君への取り組みから得た成果として,結論から先にい ビュ∼」と描写された絵の上を音声刺激を入れながら手 うと,高機能自閉症児には,自閉症の障害特性(具体的 を動かすと,K君も同じように自分でグルグル丸を描い な例を挙げると,自分の世界観からの視点で理解したり, ては,音声とともに手を動かすといった遊びを繰り返す. コミュニケートすることによる対人関係上のトラブルと このように指導者からのことばかけによって簡単な応 か,一人の子どものなかで記憶力の優れたことによる優 答・やりとりができるといったように,ことばがコミュ れた部分と対人関係の未熟さといった遅れた部分を合わ ニケ−ション手段として一定の役割を果たし,活動その せ持つといったアンバランスさといった特性)を理解し ものに意味性が芽生えてきている.K君の換気扇への た上で,多様な側面からの早期から息の長い(ロング・ 「こだわり」に共感を示し,共有していくことによって, スパーン)教育・発達支援が必要であるということであ 獲得していることばがコミュニケ−ション行動の手段と して確かなものとなり,さらには,自閉症児にとって困 る. 筆者らは,療育教室・活動や教育・発達相談を通して, 難な活動とされる「ふり,つもり」遊びが展開され,生 子どもの成長を長期にわたって見つめるとともに,家族 活世界が飛躍的に広がっていくのである. や幼稚園・保育園,学校への助言を行うことを大切にし 小学校入学後(国立大学附属小学校・障害児学級)の てきた.K君は,2歳から発達・教育相談を受け,就学 月1回の療育活動(通称,ペンギン教室−資料2)では, 前の療育を経過し,家人の理解もあって小学校入学後も ボランティアたちの支援のもと,様々な活動(ハイキン 継続した療育活動や発達・教育相談を続けている.筆者 グ,スポーツ・ゲ−ム,クッキング,絵画・陶芸・木 らは,彼の世界を理解するとともに,それぞれの時期ご 工・はがき等の制作活動,宿泊キャンプ・スキー等)を との発達課題を明らかにして関わることを大切にしてき 経験する.そして,中学生(地域の中学校・障害児学級) た.K君は,幼稚園,小・中学校での生活において対人 になってからは,ジュニア・リーダーとして,リーダー 的トラブルも少なく,対人関係は安定しており,特に大 的役割を担って主体的に活動に参加している.現在,ボ きな問題も起きていない.順調に学校生活を送ってきた 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 109 表3 K君とボランティアたちとの活動内容 ボランティア 活 動 内 容 ◆中学1年生4月から3年生の7月まで「Aデー」と名づけて月1回活動 *1年目 :本児の要求のまま毎月様々な場所に出かける A (会 社 員) *2年目∼:計画月と実行月を交互に設定。計画月は実行月の計画を立て、行き先、日時を決め パソコンで交通手段や料金をアクセスし、新しい交通手段を開発し次の月に実行する ・夏休みボランティアB(養護学校教諭)の実家のあるH市に行き、実家に一泊する。往路はボラ ンティアAと一緒に行き観光する。復路はひとりで新幹線と在来線を使って家まで帰る ◆中学2年生4月から3年生3月まで家庭教師をしてもらう *算数を主に学習をする *音楽、ファッション、異性のこと等、様々な分野について話をする *パソコン操作を習う ・CD−R作成を習い、自分でテーマ、イメージをもってCD−Rを作成し、CDのジャケットをパソコン C (専門学校生・ 元大学生) でデザインする。完成したものをボランティアCや結婚のお祝いにボランティアD(障害者施設職員) にプレゼントする *ボランティアCのひとり住まいのマンションに遊びに行き、C宅の室内がきれいに整理整頓さ れていることに驚き、また、そこに置かれている家具や電化製品に関心を示す。ボランティア Cへの憧れが高まる。 ・ボランティアCが家庭教師に来る日は自分の部屋を整理整頓する ・ボランティアCが電化製品を購入する電気店に興味をもち、本児の乗り物への興味・関心と重な り合い、県下の全チェーン店をめぐる E (養護学校教諭) ◆中学3年生から高校2年生の療育活動でのクリスマス会で、バンドを組んで一緒に演奏する *ピアノ演奏が得意な本児が、ギターが上手なボランティアEと一緒に演奏したいという願いか らジュニアリーダー3人とボランティア4人を交えて9人でバンド形式で演奏する といえる. 「自分の理想に近い人物や自分の心を和らげ自分の心の ある養護学校の教師が次のように語っている.「学校 指針となってくれるような身近な存在があった場合に 教育という点では,その時々の子どもの姿をライフサイ は,そういう人に対して熱い思いを寄せ,理想とし,そ クル全体から切り取って見ていることになる.その時点 の人のいうことであれば素直に取り入れて行動する」と で,例えば,『こだわりがきつい』とか『問題行動があ 指摘している. る』と,ついそちらに目を奪われ,その奥にある子ども つい最近,K君の願い通りの学問が学べる大学への入 の真の発達要求を見逃してしまうことになりかねない. 学試験に合格した.大学の学生相談室において,高機能 それぞれの時期で見せる子どものいろいろな姿を,その 自閉症の学生の大学生活における相談,悩みが多いこと 子の育ちのト−タルな姿から示唆してもらえれば,ゆと が指摘されている.さらには,大学や専門学校を卒業後, りをもって関わることができる.そして,そのゆとりが, 就労ができず,いき場所がないという訴え,相談も多い 子どもの発達を促していくことに繋がっていくのではな といわれている.K君にも自分の長所・良さとサポート いか」と.子ども自身への教育・発達支援と同時に,そ を受けるべき部分をこれからの育ちのなかでしっかりと の家族への心理的支援,担任教師への教育相談・助言が 認識させていくことが重要であると考える.今後も,多 重要であることも強調しておきたい. 様な側面からの継続的なサポートが必要であろう.その そして,家庭や学校以外での安心できる場所とそこで 際に,子どもへの教育・発達支援をしていくうえで,親 の支援体制があること,さらには,K君にとってのペン がどのように子どもの障害を理解し,受容していくのか ギン教室のボランティア,とくにボランティアCの存在 という問題が重要になってくる.とくに高機能自閉症な のような社会的モデル(人格的モデル)としての第二者 ど軽度発達障害児の場合,診断が生後数年以上経過した の存在も重要であるといえる.小林 (1995) は,自閉症 就園あるいは就学後になされるケースもあり,親の障害 の人が青年期に,自分の理想とする社会的モデルを求め 受容過程は,従来の段階モデルでは説明しにくいことが 110 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子 ・ 神 野 歩 考えられる.次稿では高機能自閉症児の親を中心として も必要である. 親は誕生から現在に至る成長の過程でわが子の障害をど 学習上の支援の問題の検討もさることながら,集団生 のようにとらえ,受容してきたかについて検討するとと 活において何を大切にするかという問題に関わっては, もに家族への教育発達支援のあり方についての考察を試 高機能自閉症児が生活しやすい学校づくり−環境のわか みたい. りやすさも必要である.ある高機能自閉症者が「同じ教 K君の場合は,小・中学校ともに障害児学級での学習 室が,算数の勉強の場になったり,給食の場になったり であった.高機能自閉症の場合,通常学級で学習してい とか,年度ごとに担任の先生が替わるとか,クラス替え, る児が多い現状にある.最後に,通常学級で学習してい 席替えがあったり,1時間目から6時間目まで毎時間学 る高機能自閉症の子どもたちを視野に入れた特別な教育 習する教科が変わったりと,混乱してしまう」と話して 的支援に関わる課題と「軽度」発達障害の診断に関わる いる.また,高機能自閉症児のクラス担任の教師が「彼 課題に触れておく. は,5・6時間目は席には着いているが完全に自分の世 先に,高機能自閉症への関心が高まってきた背景につ 界に入っている.あるいは,疲れて寝ている」と語って いて述べた.しかし,その一方で,高機能自閉症に対す いる.現在の学校生活は,高機能自閉症児にとって理解 る教育・発達支援が十分に行われてきたとは言い難い状 しがたい場所であろう.通常学級に在籍している高機能 況にあることを指摘した.学校教育では,まだまだ,自 自閉症児への具体的な教育・発達支援についての検討が 閉症そのものが教育上での特別な障害を有することが正 なされていく必要がある.その際,こうした支援は,こ しく認識されておらず,通常教育での特別な支援への配 れまでのように担任教師一人だけに任せるのではなく, 慮が乏しいなかで,様々な二次的障害を引き起こしてい 校内委員会などを設置するなかで学校全体として取り組 る現状にあるといえよう.宋ら(2004)の小学校1年生 んでいくことが重要である. から中学校3年生の高機能自閉症の障害の子どもをもつ 最後に,小学校就学までに診断ならびに診断とむすび 親177名への支援ニ−ズに関する調査によると,学校に ついた適切な教育・発達支援を公的に保障していくため 対する親の要望として,「個別指導など,子どものニ− の乳幼児健康診査の充実について述べておきたい.高機 ズに応じた援助」と「子どもの障害についての理解」が 能自閉症も幼児期には,社会性やコミュニケーションの 70%以上を占めていた.その他にも,「他の専門機関と 問題より,多動,衝動性,不注意などが主訴となること の連携」,「学校内の教職員の連携」に関しても50%以 が多く,幼児期にADHDと診断してしまって就学後に 上の親が要望している,との結果を得ている.杉山 自閉症の特徴に気づかれるということもある.幼児期に (2002)も,教科での学習に高い能力をもちながら,集団 おける「軽度」発達障害の診断のむずかしさの問題があ 生活になじめない高機能自閉症に対する学校の理解と対 る.3歳児健康診査の充実や5歳頃の新たな健康診査シ 応は不十分な状態にあるとし,辻井 (2000) は,学習上 ステムの導入が検討される必要があるのではなかろう の困難性は,学習障害においては学習そのものが主たる か.さらに,幼稚園・保育所の集団生活を経験するなか 問題であり,高機能自閉症では社会性の障害からくる学 で,問題が顕在化してきて,健康診査の相談の場にあが 習のできなさが中核にあると指摘している. ってくるケースも多い.幼稚園・保育所での実践とむす 高機能自閉症といっても,子どもによって発達や障害 びついた発達相談や巡回相談,そして,就学する学校へ の特徴は異なっている.高機能自閉症だからといって単 の教育・発達支援における個別的な配慮の申し送りへと 一の教授方法があるわけではない.最終的には,特別な つなげていくことが重要である. 支援を必要とする子どもひとり一人の教育支援計画を作 成し継続的な支援を行っていく必要があろう.しかし, 注)アスペルガー症候群:現在のところ,言語発達に 自閉症という障害の背景に学習困難の現れが共通してい 遅れや偏りがある場合には高機能自閉症,言語発達に問 るところもあるので,そこを明らかにしていくことが通 題がない場合にはアスペルガー症候群と診断するよう規 常学級における高機能自閉症への教育・発達支援には必 定されている.しかし,言語発達の形式的な側面 要ではないだろうか.学習場面などで,今,何をするの (ICD-10では,アスペルガー症候群の診断に際して,言 か,その時に何をしていればいいのかといった課題や目 語や認知の臨床的に有意な遅れがないこととして,2歳 的を明確にして見通しをもたせる,あるいは,新しいこ までに一語文を話し,3歳までにコミュニケーションの となどは事前に伝え不安を軽減するといったように社会 ための句を使用するとなっている)のみに依拠した判別 性の障害を視野においた支援や配慮がなされるべきであ 基準については異論が多い.また,アスペルガ−症候群 る.また,自閉症の中には,ある分野に関しては非常に の定義自体があいまいである.アスペルガー症候群の定 優秀なのに他の分野では不得意といった児も少なくな 義は暫定的,流動的なものであると認識しておくべきも い.得意なところ(長所)を伸ばしていくといった支援 のであろう. 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 これから研究が進むにつれて明らかにされてくる問題で はあるが,現在のところ,若干見解は分かれているが, 同一の障害との見解が大勢を占めつつある.いずれにし ても,療育や教育的な支援内容に関しては基本的に同じ であるという認識では一致しているといえる. 5.引用文献 藤家寛子 2004 「他の誰かになりたかった」 花風社 Hall, K. 2001 Asperger Syndrome, the Universe and Everything. Jessica Kingsley Publishers Ltd.(野坂悦子訳 2001 「僕のアスペルガー症候群」 東京書籍) 小林隆児 1995 青年期の自閉症 (青木省三・清水将之編 「青年期の精神医学」 金剛出版) ニキ・リンコ・藤家寛子 2004 「自閉っ子,こういう風にで きてます!」 花風社 宋 珍・伊藤良子・渡邉祐子 2004 高機能自閉症・アスペル ガー障害の子どもたちと親の支援ニ−ズに関する調査研究 東京学芸大学紀要1部門 55, 325-333. 111 杉山登志郎 2002 21世紀の自閉症教育の課題 自閉症スペク トラム研究 1, 1-8. 田辺正友 1999 高機能自閉症児の幼児期から児童期への発達 過程 早稲田心理学年報 31(2), 97-104. 田辺正友・田村浩子 2002 高機能自閉症児における対人関 係・コミュニケーション機能の発達 奈良教育大学教育実 践総合センター研究紀要 11, 1-8. 辻井正次 2000 学習障害と高機能広汎性発達障害の教育上の ニーズ 発達障害研究 21(4), 270-278. Williams, D. 1992 Nobody Nowhere. Transworld Publishers Ltd. (河野万里子訳 1993 「自閉症だった私へ」 新 潮社) Wing, L. & Gould, J. 1979 Severe impairments of social interaction and associated abnormalities in children: Epidemiology and classification. J. of Autism and Developmental Disorders, 9, 11-29. Wing, L. & Attwood, A. J. 1987 Syndromes of autism and atypical development. In Cohen, D.J. Donnellan, A. & Paul, R. (eds.), Handbook of Autism and Pervasive Developmental Disorders. John Wiley. 112 田 辺 正 友 ・ 田 村 浩 子 ・ 神 野 歩 資料2 資料1 「就学前障害幼児療育教室(ラッコ教室) 」の概要 1 目 的 療育活動「ペンギン」教室概要 1 目 的 奈良教育大学障害児学教室が実施している療育活動 ペンギン教室は,奈良教育大学障害児学教室「就学前 で,就学前障害幼児を対象として,療育教室・発達相談 療育教室」通称“ラッコ教室”終了児の就学後のフォロ および保護者,保育・教育関係者への教育相談,助言活 ーとして,1992年4月より,月1回療育活動と定期的 動を行なう. な発達診断活動を実施してきた.1997年4月より,実 施主体は奈良県障害児・者とともに歩む家族の会(通称 2 教室参加児 “ラッコの会” )となり親たちが運営することとなる.活 表1 教室参加児(1989年4月∼現在) 障 害 動は,筆者らと障害児学教室卒業生を中心としたボラン ティアたち(養護学校・地域小・中学校障害児学級・保 人 数 男 女 計 広汎性発達障害 30 11 41 知的障害 10 7 17 育園・通園施設の教員,保育士,指導員および市町村・ 病院発達相談員等)で実施している. 2 組 織 表1 ペンギンっ子の内訳 3 療育実践内容 表2 年間プログラム 時 期 プ ロ グ ラ ム 4月 新しい環境・雰囲気になじむ 前期 5月 からだをダイナミックに動かして遊ぶ(散歩、 サーキット遊び) 〃 6月 7月 全身を使って水遊びを楽しむ ☆夏休み 8月 9月 発達診断 10月 後期 11月 12月 1月 2月 3月 自然の中でからだを十分に動かして遊ぶ からだをダイナミックに動かして遊ぶ(運 動遊び) みんなでクリスマスを楽しむ 描く、作る活動を楽しむ 1年間の成長・変化をみんなの中で確か め合う 発達診断 所 属 人 数 場 所 療育教室 戸外/附小 体育館 〃 附幼プール 療育教室 戸外 附小体育館 療育教室 〃 〃 〃 男 女 計 作業所 1 1 2 高等専修学校 1 0 1 養護学校高等部 6 0 6 養護学校中学部 1 2 3 地域小学校 5 4 9 養護学校小学部 5 3 8 表2 ペンギンっ子の障害 障 害 広汎性発達障害 人 数 男 女 計 16 5 21 3 5 8 知的障害 表3 1日のプログラムの流れ 時 間 主 な 活 動 3:00 ◆ 来室 *シール貼り、カード入れ *タオル、コップ袋かけ ◆ 自由遊び * 玩具遊び、ボール遊び等 ◆ はじまりの集い * あいさつ 『○○ちゃんは元気ですか♪』 * 手遊び ◆ 設定保育 ◆ おやつ ◆ おはなし(絵本、紙芝居) ◆ おわりの集い * カードをもらう * あいさつ 『グットバイ♪』 3:15 3:30 4:00 4:15 4:25 表3 ペンギンっ子の発達状況 発 達 段 階 人 数 男 女 計 2 0 2 幼児期後期 7歳頃 0 1 1 幼児期後期への移行期 5、 6歳頃 2 2 4 幼児期中期 4歳なか頃 4 2 6 幼児期中期への移行期 3歳頃 5 0 5 学童期後期 幼児期前期 10歳以上 1歳後半頃 3 1 4 幼児期前期への移行期 1歳前半頃 0 3 3 乳児期後期 4 0 4 113 高機能自閉症児の「障害の自己理解・受容」と教育・発達支援 3 活動内容 表4 2004年度の活動内容 月 日 プ ロ グ ラ ム 対 象 児・者 場 所 4/26 ミニ運動会 ペンギンっ子・家族 大学附属小学校運動場 5/23 奈良公園オリエンテーリング お友だち班 大学⇔奈良公園 ゲーム(ならびっこ野球) リーダー班 大学付属小学校体育館 6/27 奈良公園オリエンテーリング お友だち班 大学⇔奈良公園 ゲーム(ならびっこ野球) リーダー班 8/28−29 夏の1泊キャンプ ペンギンっ子・家族 高の原カトリック野外礼拝センター 10/24 手打ちうどんづくり お友だち班 大学療育教室 大学付属小学校体育館 ゲーム(ならびっこ野球) リーダー班 大学付属小学校体育館 11/23 焼きいもづくり お友だち班 大学療育教室 ゲーム(バレーボール) リーダー班 大学付属小学校体育館 12/22 クリスマス会 ペンギンっ子・家族 大学舞踊場 2/11 雪遊び(そり遊び・スキー) ペンギンっ子・家族 六甲人工スキー場 注)お友だち班‥小学生 リーダー班‥中学生・高校生・社会人 表5 ペンギン教室活動の流れ(スケジュール) 時 間 活 動 内 容 9:00 オリエンテーションと準備(ボランティア・担当保護者) 10:00 ペンギン教室開始 | 15:00 ペンギン教室終了 総括会議(子どもの記録および反省・評価等) 17:00 終了