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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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細胞内電位誘導に用いる硝子微小電極の先端研磨につい
て
田内, 雅規; 菊地, 鐐二
東京女子医科大学雑誌, 47(4):482-491, 1977
http://hdl.handle.net/10470/3162
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
86
轡麟91第縞5鵡鋤
技〕
〔手
細胞内電位誘導に用いる硝子微小電極.の
先端研磨につ.いて
東京女子医科大学第II生理学教室
由 内 雅 規・菊
タ ウチ マサ キ キク
(主任;菊地鐙二教授)
地.鎮 ニ
チ
リヨウ
ジ
(受付 昭和52年£月9日目.
ASimple Beve1童賦g 7echnique fbr Micropipe伽Electrodes
Ma6aki TAUCHI and Ry{オi KIKU田1
Department of Physiology II(D三rector:Pro£Ry(ヵi KIKUCHI)
Tokyo Women’s Med{cal College
A.simple beveling instrument R)r micropipette electrodes used丘)f intraceUular recording and
current applicatioII was constructed. This is basica11y a convcntional turntable whose head she11 and
tonearm stoppcr were modified so as to hold the electrodes and measure the electrode resistance and
to make the touching of electrode tips onto the grinding s活魚ce easier and sa艶r wiψout micro−
rnanipulator,
An agar disc containing a ceric oxidc polishing compoun4 which is placed on a glass disc has been
shown to give us a suitable abrasive surface fbr single−and double.barreled micropipettc tips, though
the tone−platter of the turntable is determined tQ have a vertical wobble as Iarge as 400μm at its
outer margm・
We have not been able to丘nd that the beveled single−and double−barreled electrodes enabled us
more chances最)r success魚l pcnetration into仕og retinal rods than the unbeveled ones, but better
records could be usually obtained by the beveled electrodes when electric currcnts were i喚jected into
cells, presumably by the reason of their Iower resi鼻tance, tip potentials and coupling resistance between
two barrels than the unbeveled ones.
方法であり,また,細胞への電極刺入の機会を高
はじめに
比較的小さな細胞,例えば脊椎動物網膜の細胞
めうためにも必要であろう.しかし,電極の先端
等に硝子微小電極を刺入しょうとする場合には,
部を細くすると電極の電気的抵抗は著しく増大
電極の先端直径q.1μm前後の非常に細いものが
し10),さらにそれに伴って先端電位(tip poten−
要求される.電極の先端部の直径を細くすること
tial≒anomalous junction potentia11)7)9)も増加し,
は,細胞の損・傷を最小限にとどめるための唯一の
通電電流量や正確な電位測定に際して不利な条件
一4$2一
87
この回転盤(直径30cm)の外縁における縦方向
がもたらされる.
の振れば約400μm.であった.回転盤の速度は
近年,細胞への硝子微小電極の刺入を容易に達
成することや,通電量の増大を目的として,電極
built・inのサーボ増幅器によって,33および45回
先端を斜めに研磨する方法が報告された.(Barrett
転/分の2種の速度に設定でき,±10%程度の速
&Graubard,19702), Barrett&Whitlock 19738),
度微調整が可能である.既設のtonearmは,先
Kripe&Ogden 19748)l Brown&Flamiロ91974
端部に単一あるいは二連式の微小電極を保持する
9,19755)).もし微小電極の先端研磨が簡単な装
ことのできるアクリル樹脂製の電極ホルダーと,
置と手技で達成できるならぽ,細い電極の使用に
.電極抵抗測定のための前置増幅器2チャンネルを
由来する誘導電位の不安定性,通電時の電流量の
組み込んだ.またoiLdamp式のtonearm stoPPer
限界を改善し得るものとして極めて有用である.
は,昇降の途中の任意の位置にt・nearmを停止
さらに電極先端が鋭利に成ることに伴って,細胞
させるごとができるので,このUDitはmicro。
に対する刺入損傷を少なくし,刺入の機会が増加
ma皿玉pulatorの代りとして十分使用できた.研磨
することも期待される.従来の研磨方法は,原理
時には.tonearmはフリーな状態にはなく,tone・
的には適当な研磨面を持つ回転板に電極の先端を
arm stopperによって下には動かない状態で使用
接触させて研ぐものである.いずれの方法につい
した.tonearm stoPperの操作レバーは,微細な
ても,1μm以下のものが作成できない場合や,
上下動を行なうべく当初の長さの2倍(7cm)に
あるいは1μm以下に研ぐことが可能であって
も,回転する研磨板の振動を数μm程度に押え
して使用した.
るため,特殊で精度の高い機器が要求される.こ
に多用される酸化セリウム (Buehler Ltd. AB・
の点でこれらは必ずしも簡便なものではないと思
Miromet Stock No.40−6355)の微粒子を使用し
われる.
た.この研磨剤は水に懸濁したものが市販され
研磨板の作成:研磨剤として,レンズ磨き等
われわれはこれらの報告を参考として,実験室
ている.酸化セリウムをSEMによって観察する
で容易に備えることができ,小さな細胞にも適用
と,粒子の大きさは壷まぽ1μm以下でかなり角ぼ
可能な程度の先端研磨ができる微小電極の研磨装
つている.
置を試作し,その研磨方法について検討した.さ
(Buehler Ltd・のMr. W. Ahmedからの私信によれ
らに研磨電極を走査電子顕微鏡(SEM)により
ば,この研磨剤は60%の酸化セリウムと残余はLanth・
観察,その電気的特性を検討し,実際にカエルの
anum, Prascodymium, Neodymiumからなり,electronic
視細胞への適用を試みたので報告する14).
comparatorによる測定では粒子のサイズは平均L5μm
方
法
われわれが作成した研磨装置の全貌をPlate 1
であり,形状は‘‘blocky”と考えられるとのことであっ
た).
良く撹絆した酸化セリウム液を50mlの1.5∼
に示す.研磨板をターンテーブルの回転盤上に置
き,適当な速度で回転させ,tonearm先端に保持
した電極の先端をその表面に接触させて研磨を行
う.研磨の進行の程度は電極抵抗を研磨中に測定
2.0%の寒天液に40滴滴下する (10∼159/100mI
乾燥重:量).次に研磨剤を寒天中に均等に懸濁させ
るために,ミキサーで充分撹絆を行う.寒天の
することで確認する.電極と研磨板の接触状況は
泡立ち防ぐために,消泡剤(antiform silicone
双眼実体顕微鏡によって観察できる.
compound信越化学stock No・KM−72)を使用
布面ターンテーブルとその改良=研磨板を載せ
すると良い結果が得られる.二二後,研磨剤を懸
て回転させる,モーターは市販のdirect driveの
濁した寒天液を,あたためた20cmのPyrex g1勧ss
ターンテーブル(松下電器Technics SL−1200)を
の円板に注ぎ,数十秒ないし数分間室温に放置す
流用した.ダイヤルゲージによる測定の結果,
れぽ後述するように任意の粗さの研磨表面を得る
一483一
88
ことができる.この際に,種々の直径の穴をもつ
防腐剤を寒天液に加えておくと良いだろう,
適当な厚さのアクリル板をPyrex glassの円板上
研磨中の電極抵抗の測定=電極の抵抗を測定す
に置くことによって,任意の大きさと厚さの研磨
るために,他の報告4)5)8)12)では研磨表面を電解質
板をえることができる.ついで急速に寒天表面を
液に侵す等の方法をとっているが,われわれの寒
凝固させるために厚さ5mmのガラス板を寒天液
天をベースに使う方法では,寒天が導電性を有す
との間に気泡を作らぬように注意して被せる.寒
るため(カエルRinger液の5∼6倍の比抵抗を
天液は硝子板によって両面から挾まれる状態にな
有する),抵抗測定に際し特に電解質液を使う必要
り,上部から凝固が進行してゆく.このようにし
はない.しかし,非常に高抵抗の電極を研磨する
て作成した研磨板を,sliceして光学顕微鏡で観
場合には,寒天液に適当量の電解質を加えて研磨
察したのがPlate 2である.研磨剤は最小で3∼
板を作ると,抵抗測定はさらに容易になるであろ
4μm程度の粒子を作っていてかなりの凝集が認
められる.酸化セリウムの粒子は,ほぼその粒子
う.電極抵抗測定のための回路図をFig・1に示
す.定電流回路により1nA,50Hzの矩形波パル
の大きさに従って表面から下へ層状に分布してい
スを電極に流し電極抵抗による電圧降下を測定,
るのがみられる.粒子の分布状態は,寒天質を硝
メーターによって観察する.
子板上に注いだ後の放置時間によって決まるの
研磨に用いた硝子微小電極:硝子微小電極は
で,時間を調整すれば粗あるいは滑の任意の研磨
はmoist chamberか水中に保存する.長;期保存
Dr・A・L・Byzovの方法によって電気炉で外径6
mm,内径4mmのPyrexの硝子管(Corning No・
704)から外径0.8mm,内径0.6mmの電極素
の場合は,徽の発生を押えるためにthymo1等の
材を作り,それをLivingstone pullerを使用し作
表面を得ることができる.完全に凝固した研磨板
10K
R1160 K
雪OK
10K
pulse ill
10K
741
1M
40K
lM
741
308
100M
M
R3160 K
10K
で
嘲↓
FET
5K
10K
100P
1K
R2910K
elec量rode
止
C
P00K
@ 400K
20K
20K
2K
gK
10K
9K
10K
州
,P
i叩・・(H
30轟
741
冒00P
P00K
10K
741
TK 、
K
5K
TK
me吐er
Fig.1. Circuits for resistance monitor.且ead amph丘er attached to current clamp
the rectangular pulse generator(B);detector and main ampl正丘er(C).
一484一
circit(A),
Pω5eO餌f
89
成した.また液の電極への充填を容易にする目的
磨板に対して35∼45。の角度に保つた.電極の
で,村上の方法により(私信による)硝子細管を
tonearmに対する角度は, Fig・2Aに示すように,
予めPyrex硝子管に入れて電極素材を作成する
電極先端が研磨板上に描く円に対し接線とみなせ
と,電極の内面に毛細管となって貼り付き先端に
る角度に装着する.その角度が大き過ぎれば,
まで至るため,液は毛管現象によって容易に先端
inside forceによつて電極先端が破損する場合が
に達するので,作成後短時間で実験に供すること
ある.また電極の研磨板に対する角度は,Fig・2
ができる(Tasaki et al・196813)).われわれが脊
Bのように電極ホルダーから先端をどのくらい突
椎動物の網膜細胞に使用している電極の先端直径
出させるかによって決まるので,一定角度を得る
はおよそ0.05から0.2μmに分布し,その電極抵
ためには突出させる長さを予め決めておけぽよ
抗は3MKCIを充填し同じ液中で測定した場合
い.oil−damp式のtonearnl stoPPerで電極を静
は10から70MΩである.この電極をカエルRinger
かに研磨表面に接触させるが,接触の確認は電極
液中で測定した場合,その抵抗値は3∼4倍高い
抵抗計のメーターの振れ,あるいは実体顕微鏡下
値を示す.これらの電極について,その先端部分
での観察によった.また肉眼でも不可能ではな
をSEMで観察したものの一つをPlate 3に示す.
い.研磨時間は,研南面の粗さまたは電極の語
漏面に対する圧力の掛け具合などによって決ま
研磨方法:Fig・2に示すように,硝子微小電
極をt・nearmに対し約45。の角度に装着し,研
る.
結
A
果
研磨電極先端部の形状
grinding
disc
本法によって研磨を行なった電極のSEM写真
像をPl訊te 4に示す. AとBは同一・電極を違う角
electrode
o
度から撮影したもので,比較的先端部の細い電極
\
であり,研磨先端の角度は約17。でやや内側に弩
曲し,開口長は0.5μm,基部での電極の太さは約
o
0.3μmである.Cは比較的太く研いだものであ
lono arm
り,開口長は約1.2μm,基部での太さは約0.7
μmである.電極は小粒子によって汚染されている
が,これは研磨粒子あるいはSEM試料作成時に
おける異物の付着と思われる.本電極は33回転/分
B
7
で研磨板を回転させ,Aで5分, Bで15分を要し
獣
X
Y
elεdrode
下
‘45岬x)●
45●
45+Y,●
tone arm s量opper
grinding surface
Fig.2。 Schematic diagrams of electrode angles
to the grinding disc and to its surface. Desira−
ble (○) and undesirable (×) angles to the ro−
たものである.回転を45回転/分にすれぽ研磨時
間は約10∼30%短縮できる.しかしながら,研磨
時間については研磨面の粗さ,または電極の研磨
面に対する圧力の掛け具合によって決まるので,
正確を期し難く,電極抵抗の測定によって決定す
べきであろう.Plate 4の電極を光学顕微鏡で観察
した結果,Aのものでは研磨の確認はできなかっ
たが,Cでは可能であった.対物レンズを水浸,高
倍率にした場合にも結果は殆ど同じであった.通
tatory movement(A);change in the angle of
常研磨時,電解質液を充填してあるために,研磨
electrode to the grinding surface (B). See text.
先端の開口基部の太さが,およそ0,3μm以上の
一485一
90
IH pk]
・ Slj Jl}til fi・ Kiii,, JS{: "1- ou ( I )
D
s'-sifmptv."
g'i$
e'eza "
Plate 1. 0verall view of beveling apparatus which is composed of grinding and resistance monitoring
systems. Methacrylate cap for holding micropipette electrodes and head amplifier on the head shell
of the tone arm (A); agar grinding disc on a glass plate (B); illuminating lamp and Greenough
microscope for observing the microelectrode tip and grinding surface (C and D); monitors for the
measurement of microelectrode resistance during beveling (E and E').
ectstktr$e.£.r2S.kk.
k
.!Ck"
ji;lg,pti{,sts,,G,g,,tN".agg.c"ttllst/xt]"gge,s$}es
gxF..$$ag
"
P!ate 2.
Light micro graph of vertical
section of grinding disc. Note the distribution of polishing
particles of different sizes between the upper and lower surfaces of the agar disc, Scale,
- 486 -
100"m
91
lIl l,il ・ 5i{i±tllf-iia?. Jis( f{s-Bga
(ll)
Plate 3. Scanning electron micrograph of unbeveled micropipette electrode. Micrographs (Plate 3, 4, and
5) were taken after shadowing with
gold having a thickness of about 200A.
Scale, 1#m.
Plate 4. (thenextpage) Electron micrographs of beveled single micropip
ettes. Beveled micropipette from di-
fferent angles (A and B); another
has a larger tip diameter (C). Scale,
micropipette which 1ptm
Plate 5. Electron micrograph of a
beveled double-barreled micropipette.
Left barrel is beveled. Scale, 1#m.
- 487 -
92
田内・菊地論文付図〔皿〕
93
ものを空中に放置しておくと,液が吹出し結晶が
値を下げ,さらに電極先端部を互いに引き離すこ
析出する.このことは,抵抗の減少と併せ研磨程度
とは,二連電極使用上の困難を解決するのに非常
を推測する目安ともなる.Plate 5には同様に研磨
に有効である.Werblin(195515))は,研磨二連電
した二連電極のSEM写真像を掲げる.左側の電
極をmudpuppyの網膜細胞に適用して,見事にこ
極のみが研磨されているが,先端部分において両
の問題を解決している.Plate 5に示したように,
電極は完全には離れていない。今回研磨した二連
われわれの例では,先端部が必ずしも完全に分離
電極の例では,同図のように多くの例において先
していないが,電気的には研磨電極の先端は開口
端部は分離していなかった.単一,あるいは二連
基部と考えられるので,残余の部分は結合抵抗の
電極共にその先端部における研磨角度は15∼20。
発生に殆ど関与しないと思われる.研磨前の二連
の範囲であった.今回,直径が5μm程度である
電極でその先端部直径が0.1μmの場合,1nA
カエルの視細胞に対してわれわれが用いた研磨電
の通電をすると,結合抵抗は各々の電極で数MΩ
極は,研磨程度も少なく,その開口部における直
に達する.しかしながら,研磨を行なった二連電
径は0.1∼0.2μmで,研磨先端の角度が比較的
極で開口基部直径が0.15∼2.0μm,電極先端が
鈍と思われるもの,また明らかに抵抗減少を認め
約0.5μm分離しているものでは,前記条件での
るにも拘わらず,研磨の程度を研磨前の電極先端
結合抵抗は1MΩ以下であった.
と識別するのが困難なものもあった.
研磨電極による細胞内電位記録
研磨電極とその抵抗値
電極抵抗が50MΩ程度(カエルRinger液中で
Brownら4)は,研磨された電極の先端直径と抵
測定)の研磨電極を,カエルの視細胞に用いて刺
抗の関係を報告している.今回用いた電極では,
入に成功したが,対照として用いた非研磨の100
前述したように開口基部の直径が0,2μm以下に
MΩ以上の電極と比較して,刺入効果あるいは膜
なると,開口基部の識別そのものがかなり困難な
電位の安定性には何等差を認めえなかった.しか
場合がある.さらに,SEMの観察によってほぼ
し,特に通電時にしぼしぽみられる電極の高抵抗
同様な形態を持つとみなした例についても,数十
化の頻度は少なくなる傾向がみられた.
MΩ以上の差を生じることから,両者の明確な
考
察
関係は求められなかった.上述の細胞刺入に成功
研磨粒子と研磨効果
した電極は.その開口基部が0.1∼0.2μmで,研
微小電極用の研磨剤としては,アルミナ粒子,
磨による抵抗の減少は20∼80%であり,電極抵抗
ダイヤモンド粒子等種々のものが使用されている
はカエルRinger液中の測定で50MΩ程度のもの
が,今回われわれが用いたのは,SEMによる観
察で直径1μm以下とみられる酸化セリウム粒子
が多かった.
二連電極とその結合抵抗
である.対象として0.06,0,3, 1.0μmのアル
二連電極は,通常一方の電極に電流を流して他
ミナ粒子を用いて,同様の方法で電極研磨を行な
方から同時に膜電位を記録する場合に用いられ
ったが,酸化セリウムで研磨した場合の方が,よ
る.両電極間に大きな抵抗(coupling resistance)
り鋭利な‘‘cutting edge”が得られるように思わ
(Coombs et al・19556),田中,山中,195711))が存
れた.SEMによる観察では,アルミナ粒子は酸
在すると,通電電流の影響が記録電極に現われて
化セリウムにくらべ,より{丸みを帯びていたこと
くるために正確な電位記録を期しがたい.これを
から,粒子の形態が研磨の効率や被研磨面の状態
避けるためには,抵抗の低い電極を使用すること
に影響を及ぼすことが考えられる.またFig・2
が望ましいが,そのような電極では小さな細胞に
に示したように,寒天研磨板の研磨表面では,酸
対して刺入が困難になってくる,したがって,二連
化セリウムは凝集して最小の粒子でも3∼4μm
電極の一方のみを研磨することによってその抵抗
程度の大きさを持つ.このように粗大な研磨粒子
一489一
94
によっても鋭利でかつ微妙な電極の研磨が可能な
だろう.
要
ことは,研磨が研磨粒子の大きさそのものより
約
も,その表面構造に依存する可能性があることを
刺入成功率の高い細胞内誘導用の硝子微小電極
示唆するものと思われる.この推論は最近の研磨
作製のため,簡単な研磨装置を試作し,方法と研
に関する知見とも一致している(武石教授からの
磨効果の検討を行なった.
研磨剤として酸化セリウムの微粒子を用い,そ
私信による).
電極の研磨達成の確認
れを約2%の寒天液中に分散させて,任意の粗さ
研磨した電極の先端直径(開口基部において)
の研磨表面を得ることができた.凝固寒天液の弾
が0.5μm以上の場合は,田崎ら12)も指摘するよ
力性が衝激を吸収するために電極の破損は極めて
うに光顕で観察が可能であるが,それ以下の先端
少なく,したがって研磨板の振動に対する許容度
直径の電極が要求される場合には,事実上観察は
は従来の報告に比べて大幅に大ぎくなった.この
不可能であろう.このことは,電極先端の破損に
ため,研磨板を回転させるに際し特殊なdrive装
よる抵抗減少との識別が困難なことを意味してお
置を必要とせず,われわれが今回流用した市販の
り,電極研磨法の最大の弱点と考えて差しつかえ
ない.しかし,今回のわれわれの結果によれぽ,.
ターソテLブルは充分使用に耐えるものであっ
た.またターンテーブルに付属するtonearmと
研磨時間は従来の報告4)12)に比較して進行がより
oi1・damp式のtonearm stoPPerは,若干の改良
遅く,電極破損による抵抗の低下は急激であるか
をすれぽ電極ホルダー,およびmicrolnanipulater
ら,研磨による抵抗変化とは容易に区別される.
の代用と成り得る点で便利である.
最初に研磨した電極を電顕によって観察し,高い
これらの装置によって研磨した電極の先端部
成功率が確認されるならぽ,本法を‘‘routine”と
その他の問題点
を,SEMで観察した結果,先端直径が0.1μm
以上で,鋭利な研暦角度を持つ単一および二連
電極が作成可能であることがわかった.研磨電
研磨電極による刺入の成功率の増加,あるいは
極をカエル網膜の視細胞に適用した結果,非研磨
細胞刺入時の細胞膜損傷軽減等は,従来の報告で
電極に比べて刺入が容易であるとの確証は得られ
研磨の利点として挙げられている.しかし,われ
なかった.しかしながら研磨による電極抵抗,あ
われのカエルの網膜視細胞への適用例では,その
るいは尖端電位の減少,さらに二連電極における
評価に対する結論を得ることができなかった.特
結合抵抗の減少の目的には非常に有効と考えられ
に刺入の機会が増すか否かの点については,研磨
る.
して実験室で用いることは十分可能であろう.
によって電極先端部の直径が若干増加した場合,
謝 辞
そのために刺入効果が太い径による膜の損傷で,
アルミナのサンプルならびに,これらの形態と大きさ
相殺されることも考えなければならない.しかし
と研磨効果との関係に関する知見を提供して下さっ
細胞の種類,形態あるいは組織中における細胞の
た,東京女子医科大学病理学教室武石訥教授に感謝致し
位置,保持状態等によって一概に結論はできない
ます.また走査電顕使用にあたり,始終便宜を計って下
であろう.われわれが用いたカエルの視細胞の例
さった北重夫室長にも併せて感謝致します.図版の作
について述べると,刺入の成功率,あるいは刺入
成等にあたっては霜田雅子,菊地祐子両君の協力を頂ぎ
後の膜電位の安定性等に着目するならぽ,電極作
ました.
本報告の要旨は第204回東京女子医科大学例会にお
製条件を十分に吟味すれぽ,研磨しない電極でも
上述の目的は達成され得ると考えている.研磨の
いて発表した.
効果は,主として通電量を増大できること,二連
電極については結合抵抗を減少できることにある
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