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ボストンテロ事件のケーススタディ 沖縄県の危機管理へのヒントとして(概要)

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ボストンテロ事件のケーススタディ 沖縄県の危機管理へのヒントとして(概要)
ボストンテロ事件のケーススタディ
沖縄県の危機管理へのヒントとして
知事公室 地域安全政策課
調査・研究班
主任研究員
中林 啓修
平成25年5月13日
構成
* はじめに
1. ボストン爆弾テロ事件の概要
2. 考察
3. 沖縄県の危機管理へのヒント
* まとめ
2
はじめに
* 本稿の目的
1. 事件概要の整理
2. 本事案が象徴する現代テロの特徴の一端を紹介
3. 沖縄県にとってのインプリケーション(示唆)を考えていく
* 背景
 「テロリズム」という用語が包摂する事象の多様化
3
ボストン爆弾テロ事件の概要
1.事案の概要
* 4/15の経過
14:39頃:現場付近に容疑者到着
14:49頃:爆発(2回)
→死者3名、負傷者260名以上
* 4/16-18夕までの経過
4/17:犯人逮捕の誤報が流れる
4/18:当局が容疑者の映像を公開(17:00)
* 4/19未明までの経過
4月15日の爆発現場の周辺状況
ABC NewsのHPより転載(最終確認:2013年4月30日)
(http://abcnews.go.com/blogs/headlines/2013
/04/live-updates-boston-marathon-explosion/)
4/18 22:00頃:MITにて警察官1名が射殺される
〜4/19未明:SUVを奪って逃走中の容疑者らと警察との銃撃戦の末、容疑者1
名(タメルラン・ツァルナエフ(兄)容疑者)死亡。
4/19 20:00頃:もう一人の容疑者(ジョハル(弟)容疑者)が潜伏場所で逮
捕される。
4
ボストン爆弾テロ事件の概要
2.容疑者の属性
 ロシア・チェチェン共和国出身のタメルラン・ツァルナエフ容疑者(26歳・
兄)とジョハル・ツァルナエフ容疑者(19歳・弟)
 タメルラン容疑者はボクシングの地域代表にも選ばれるが、移住先であるアメ
リカ社会には馴染めていなかった模様。ジョハル容疑者は奨学金を得て大学に
進学。
 本事案はタメルラン容疑者が首謀(ジョハル容疑者証言)。
 動機はアメリカによるアフガニスタン戦争及びイラク戦争への報復。
 イスラム過激主義への傾倒のきっかけについては不明(母親がイスラムへの信
仰心を強めたこととの関連や、容疑者を煽動したと名指しされる人物の存在が
指摘されるも経緯は不明のまま)。
 当初は別のイベントでの自爆テロを予定していたが、爆弾が早く完成したこと
から、ボストン・マラソンの1-2日前の決行が決まった(ジョハル容疑者証言)。
*その他
 容疑者の逃亡を幇助したとして、ジョハル容疑者の友人3名が起訴される。
5
ボストン爆弾テロ事件の概要
3.本事案の攻撃手段
* 圧力鍋を利用した手製爆発物(IED)
 圧力鍋の中に花火用の火薬と釘やベアリングをつめたもの。
 起爆装置はおもちゃのリモコンを使った簡易型の遠隔式と思われる。
 材料および製造方法の入手経路は不明(アルカイダ系組織を含め、
複数の組織や個人が作成方法をネット上に公開)
【IEDに用いられた圧略鍋の残骸】
【IEDに用いられたと思われる釘等】 【起爆装置に用いられたと思われる基盤】
CNNのHPより転載(最終確認:2013年5月3日)(http://www.cnn.com/2013/04/17/us/gallery/boston-evidence/index.html)
* 容疑者らは、本事案で使用した2発以外にも爆発物を所持
 ニューヨークで使う予定であったと証言(ジョハル容疑者)
6
ボストン爆弾テロ事件の概要
4.事案発生後の被害者救援等の対応
* 2011年に市内に複数の爆弾が仕掛けられた想定で行っていた訓
練が奏功。
ボストン体操協会:路上のランナーを所定の避難先に誘導
市当局:爆発後5分以内にほとんどの被害者を会場に用意されていた
救護センターに搬送。
その後トリアージ(被害者の緊急度判定)を実施して、医療機関に搬
送。
その他:米グーグル社は本事案のための安否情報サービスを提供。
比較的対応が早く、市当局については大きな批判は出ていな
い模様。
7
考察
1.米国におけるテロの傾向(本文表2(13頁)も参照)
1.
妊娠中絶や動物保護
などのシングルイシ
ューや個人によるテ
ロが多い。
イスラム過激主義の
発生件数は少ない。
ただし、近年では個
人によるテロの中に
もイスラム過激主義
を動機としたものが
見られる。
2.
3.

2002-11年中の個人によるテ
ロのうち、イスラム過激主
義によるものとみられるテ
ロは12件で、1990-2011まで
のイスラム過激主義テロの
件数(11件)を上回る。
図:1990年から2011年までの米国におけるテロの認知件数
Global Terrorism Databaseをもとに執筆者作成
8
(最終確認:2013年4月30日)
考察
2.ローンウルブス(一匹狼)によるテロと個人の過激化
*現代テロの特徴:ネットワーク化
 情報通信ネットワークの活用と組織のネットワーク化
*情報通信ネットワークの活用
 過激主義的なメッセージを発信しやすい環境
 個人であっても、世界中からテロ行為に必要な情報や資材の入手が可能
な環境
*ローンウルブスと個人の過激化
 組織的背景を持たない個人(ローンウルブス:一匹狼)が、過激な政治
的・宗教的主張に感化されてテロに走るケースが発生
 そうした現象の背景として、個人、特に若年層の過激化(extremism)が
問題になる。
 本事案のようなイスラム過激主義だけでなく、極右や社会的疎外など
様々な動機で過激化は問題になっている(例:2011年7月のオスローで
のテロ、2008年6月の秋葉原事件など)。
沖縄県の危機管理へのヒント
* 大規模催事における安心・安全
 沖縄県でも、2011年度は年間で28件のマラソン等のイベントが
あり、のべ10万人以上が参加しており、大規模催事における安
心・安全の確保は重要。
* 本事案から得られる示唆
1.
2.
3.
4.
継続的な訓練実施と、実務に反映可能な訓練成果の整理及びその
適切な反映(ボストンでは2年前の訓練が奏功)
搬送体制の充実と被害者への一次対応を行う医療関係者の能力向
上(本事案では緊急搬送の成功が死亡者を最小に抑えられた可能
性が高い)
大規模催事における緊急時対応の強化(避難等の計画の作成、機
関間連携の強化等)
避難先や、コース周辺で人の滞留がおきそうな場所における不審
物の確認の実施(時間差で行われるテロ攻撃への備え)。
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沖縄県の危機管理へのヒント
* 若年層の過激化への対応
 若年層の過激化や個人によるテロの問題は経済的要因だけでは
語れない。
 テロリストの属性は多様であり、特定の人物像に絞り込む(プ
ロファイル)ことは難しい。
* 本事案から得られる示唆
5.
若年層の過激化対策の充実(経済的・社会的環境の改善、基本的人権
の尊重等の価値観の共有)(若年層の過激化対策には特効薬的な施策
はないが、テロ等の予防の面から不可欠な施策と言える)
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沖縄県の危機管理へのヒント
* 情報の適切な管理
 本事案では4月17日に流れた犯人逮捕の誤報の他、別人の写真
を容疑者として報道するなど、誤報が多く発生した。
 背景には、報道の24時間化やソーシャルメディアの発達によっ
て速報やスクープの質が変化したことが挙げられる。
* 本事案から得られる示唆
6.
ソーシャルメディアの活用の検討を含めた適切な情報発信
12
まとめ
* 本事案は、ボストンマラソンという大規模催事を標的として、イ
スラム過激主義的な背景で行われた個人によるテロと言える。
* 本事案から得られる示唆は以下の通り
1.
2.
3.
4.
5.
6.
継続的な訓練実施と、実務に反映可能な訓練成果の整理及びその適切な反映
搬送体制の充実と被害者への一次対応を行う医療関係者の能力向上
大規模催事における緊急時対応の強化(避難等の計画の作成、機関間連携の強化
等)
避難先や、コース周辺で人の滞留がおきそうな場所における不審物の確認の実施
若年層の過激化対策の充実(経済的・社会的環境の改善、基本的人権の尊重等の
価値観の共有)
ソーシャルメディアの活用の検討を含む適切な情報発信
* 自然災害と異なり、事前の予測や把握が困難なテロについては、
内外の様々な事案を参考にしつつ、バランスのとれた事前準備を
行うことが重要。
13
ありがとうございました。
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