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No. 280

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No. 280
2011, Jul.
280
No.
CONTENTS
レーザー損傷耐力の標準化に向けて
〜平成22年度データベース化試験報告〜
CLEO Europe 2011国際会議報告
【光と蔭】サマータイム考
新入研究員/渡邊英世
主な学会等報告予定
【表紙図】
355nm高反射膜データベース
化試験サンプル損傷形状
(a) 高耐力サンプル、(b) 低耐力サンプル
レーザー損傷耐力の標準化に向けて
〜平成22年度データベース化試験報告〜
本越伸二
レーザー技術開発室 レーザー総研では、レーザー損傷耐力評価試験とし
て、光学部品メーカーから依頼を受け、光学素子のレー
ザー損傷閾値の測定を行っている。毎年十数社、100サ
ンプル以上の評価を行っているが、その閾値が一般的
な値であるのかなど、他の素子との比較することが出
来なかった。そこで、平成20年度より「高耐力光学素子
研究会」を設置し、レーザー損傷耐力データベース化試
験として、同一仕様の光学素子に対して同一レーザー
条件による評価試験を開始した。本稿では、平成22年
度に実施した波長355nm用光学素子のデータベース化
試験の結果を紹介する。
閾値は25 J/cm と求まった。これは、532nm用高反射
膜の平均値30-40 J/cm2と遜色はない。また、532nmの
場合の最大損傷閾値が約250 J/cm2であったことから
考えると、サンプル間の差もあまりないことが判った。
閾値の異なる高反射膜サンプルの損傷形状の例を表
2
●反射防止膜は10 J/cm2
評価サンプルの仕様は、入射角45°用高反射膜(反射
率>99.0%)と入射角0°石英基板上反射防止膜(反射率
<0.5%)である。それぞれの参加企業数は、17社と14社、
またサンプル数は約40個であった。測定にはNd:YAG
レーザー光の第3高調波355nm、パルス幅8ns、P偏光
(45°)のレーザーパルスを用いた。レーザー損傷閾値
はISO-11254に準拠し、1-on-1( レーザーパルス照射毎
に照射位置を移動し損傷した最低エネルギー密度を求
める)方法で決定し、ガウス分布のピークエネルギー密
度で表記した。
高反射膜サンプルの損傷閾値の分布を図1に示す。
355nm高反射膜データベース化試験結果
高反射膜の損傷閾値は5〜80 J/cm2までばらつき、平均 【図1】
次ページへつづく
レーザー損傷耐力の標準化に向けて 〜平成22年度データベース化試験報告〜
紙図に示す。高耐力のサンプル(a) では表面層が剥がれ
ているのに対して、低耐力のサンプルは照射ビーム形
状に従い損傷し、その周辺が改質している様子が伺え
る。
一方、反射防止膜では、全評価サンプルの約半分が5
〜10 J/cm2の損傷閾値を持つことが判った。この結果
は、多くの企業が共通する損傷の原因があることを示
唆している。また、40 J/cm2を超える高耐力反射防止
膜を提供する技術が国内に存在することも判った。
●アンケート調査や他レーザー条件による評価も
昨年度は355nm用光学素子のデータベース化試験を
実施するとともに、今後の試験内容や、研究会の内容な
どを決定するために、アンケート調査を行った。多く
の参加企業から高い期待と応援の回答を頂いた。また、
高反射膜や反射防止膜以外の素子や、違うレーザーの
条件による評価についても希望を頂いた。その一つと
して、平成20年度に行った1064nm高反射膜のサンプル
に対して、ピコ秒パルスによる損傷閾値の評価を行っ
た。その結果、10nsパルスでは、最大300 J/cm2までば
らついた閾値が、2.2ps では多くが4〜6 J/cm2の閾値と
なった。これは、パルス幅によって損傷閾値を決定す
る要因が異なることを意味している。今後は繰り返し
照射など違う条件でも試験を行い、有益な情報を提供
していきたい。
尚、これまでのデータベース化試験の結果は、ホーム
ページ上で公開しているので参考にして頂きたい。
REPORT
CLEO Europe 2011国際会議報告
藤田雅之
レーザープロセス研究チーム 主席研究員 ◆CLEO Europe 2011開催される
去る5月22〜26日にかけて独ミュンヘンで、レーザー
関連の国際会議であるCLEO Europe 2011が開催され
た。CLEO Europeは2年おきに開催され、基礎から応
用までをカバーする“World of Photonics Congress”
(WoP)と呼ばれる巨大なイベントの一部となってい
る。米国で開催されるCLEOの欧州版であるが、最先端
の研究動向を取り入れつつも地道に自然科学を探求す
る研究発表が多い。1月に開催された米国で開催され
たPhotonics West 2011と同様に今回か
ら展示会において“日本パビリオン”が
登場していた。
◆セラミクス、ファイバーの次は
組み合わせることで新しいコンセプトのモノリシック
なレーザーが誕生するかもしれない。最後に、”novel
laser based on Al2O3 (sapphire)”、
“diamond based
optics and lasers”、
“novel material with ceramics”と
いう3つのキーワードで講演が締めくくられた。材料
屋の立場から、sapphire、diamond、ceramicsに固体
レーザーの将来性を見いだしているようであった。
◆こんな導波路がレーザーに
導波路は屈折率変化を利用して光を閉じ込める構
プレナリーセッションでHamburg
大学のG. Huberから固体レーザーの
レビューと将来動向について講演が
あった。Yb3+ドープ材料を用いた高効
率ハイパワーレーザーの可能性、Pr3+
やCe3+ドープ材料を用いた可視・紫外
レーザーの可能性について言及すると
共にCrystalline Waveguide Laserなる
新たなレーザー媒質の可能性が提案さ
れた。結晶材料中に超短パルスレー
ザーで屈折率変化を誘起し導波路を形
成したものであるが、同じバルクの中
にビームスプリッタやブラッグ反射
鏡、リング共振器などを一体構造とし
会場入り口
(左)
、
展示会の日本パビリオンの様子
(右)
て形成でき、ファイバーや固体材料と 【写真】
2
造であり、バルク材料の中にファイバーを埋め込んだ
ようなイメージを持っていたが、Hamburg大学のT.
Calmanoの講演で紹介された導波路は様子が違ってい
た。Pr:SrAl12O19 媒質中に150フェムト秒のパルスレー
ザーをNA0.55のレンズで集光すると22μm×2μmの楕
円状の屈折率変化部が形成される。これを20μm間隔
で2箇所形成するとその間が導波路となる(屈折率変化
部を導波路とするのではない)。He-Neレーザーに対す
る伝搬ロスは0.5dB/cmである。共振器の最適化はまだ
まだできていないが、550mW、444.5nmの光で励起し
て28mW、643nmのレーザー発振を得ていた。
この手法による導波路であればバルク内を自由空間
に見立てて屈折率変化部を自由に配置できることにな
る。ファイバーは長距離にわたって光を伝搬させるた
めにシングルモードを維持しようとするとコア径が制
限を受けるが、屈折率変化部を(単純な直線ではなく)光
の伝搬モードに合わせて形成すれば大きなモードサイ
ズで光をガイドできるのではないかと考えられる。
◆PCFを用いた白色光発生
Imperial Collegeからは、ピコ秒パルス(波長1060nm)
をPCFへ入射し0.6〜1.8μm帯での白色光を発生させ
ていたが、PCFをテーパー状にすることで波長域を
0.32〜2.3μmへと拡張できることが報告された。PCF
をテーパー形状にすると、ファイバーの長さ方向にゼ
ロ分散波長が徐々に短くなるという特徴を利用してい
る。また、フランス国立科学研究センター(CNRS)か
らもテーパー状PCFを用いた白色光発生の報告があっ
た。長さ16mの太さが均一なPCFとテーパー状PCFを、
パルス幅600ピコ秒、波長1064nmの光で励起したとき
のスペクトルを比較すると、赤外端には大きな差が見
られないが紫外端はテーパー状PCFの方が短波長側へ
(450nmから350nmまで)シフトしていた。
◆CFRPのレーザー加工
テーパー状のフォトニッククリスタルファイバー
(PCF)を 用 い た 白 色 光 発 生 の 発 表 が 数 件 あ っ た。
フォトニックセンター KaiserslauternのWolynski
からは赤外〜紫外のピコ秒レーザーを用いたCFRPの
アブレーション実験の発表があった。彼は最近まで
Stuttgart大学でCFRPのレーザー加工をしていた。パ
ルス幅8ピコ秒で、3種類の波長(1064nm、532nm、
355nm)のレーザーを駆使して加工データを充実させ
ている。結論としては、アブレーションレートは波長
サマータイム考
昨今原子力発電所の事故により電力の不足が喧伝され、節電の要請が話題
……172
になっている。働き方を変え効率を上げる節電対策としてサマータイム制
度の導入が各地で広がる傾向にある。
しかしサマータイムは欧米のように緯度の高い地域で一斉に実施してこそ初めて効用がある。日本は低
緯度で仙台38度、東京35度、大阪34度、鹿児島31度、那覇26度である。夏至の日の出、日の入りは春分、秋
分に比べ1時間位の早まりと遅れがあるが、サマータイムの効果は薄く限定的である。
世界の都市の緯度を比較するとストックホルムの59度は別格であるが、ベルリン52度、ロンドン51度と
ヨーロッパ諸国の首都は軒並み50度を超え、パリは48度で、これでも北海道札幌の43度よりはるかに北
で、ほとんど樺太(サハリン)の中部位にあたる。ローマ42度。米国ではシアトルが47度、ボストン42度、
ニューヨークが40度で青森、北京と同緯度である。サンディエゴは33度だ。
高緯度のロンドンやパリは冬の日暮れは早く、逆に夏は遅くまで明るい。10時頃まで明るい夏を精一杯
楽しもうとして生まれたのがサマータイム制である。国を挙げて時計の針を1時間進め朝早くから活動し、
デイライトセービングを実施する。これでこそサマータイムだ。
わが国では終戦後昭和23年(1948)、電力不足の時代、占領軍GHQのアドバイスもあってサマータイム
を採用したが、大した効果もなく、生活のテンポがくるって不評の的となり4年間で廃止された。
もっと低緯度のカイロ30度、ニューデリー 28度、ホノルル21度、マニラ15度ではサマータイムなど全く
無意味である。シンガポールは0度だ。
時代が変わるとかつての経験が忘却され、サマータイム論が新鮮に受け取られ勝ちである。しかし日本
の緯度の低さ、すなわち太陽に恵まれた日の本の意義を忘れては何の利益もない。何よりも電力の供給を
回復することが最上の手段である。
【研究名誉所長】
3
に関係なく1mm3/min/W程度、短波長ほど微細加工の
制御性が良い、の2点が実験的に確認されていた。
Stuttgart大学のWeberから熱影響層に関する理論
的考察が報告されていた。熱影響を与える時間スケー
ルはレーザー強度に反比例しレーザーのパルス幅に依
存しない、とのことである。レーザー強度10 9W/cm2に
対して熱負荷時間は1ナノ秒と見積もられていた。同
じレーザー照射強度10 9W/cm2で加工する限りにおい
ては、100フェムト秒でも、1ナノ秒のレーザーパルス
を用いた時と同じような熱影響層が発生することにな
る。しかし、パルス幅が短いほど同じエネルギー密度
に対してレーザー照射強度が高くなるので熱影響層の
低減には短パルスが有効と考えられる。
CLEO Europeでもファイバーレーザーを用いた基礎
研究が盛んであった。ファイバーレーザーの波長域の
拡大や、様々な形状のフォトニッククリスタルファイ
バー(PCF)の利用、PCFを非線形媒質として扱った基
礎研究など知的好奇心がそそられる発表が多かった。
レーザー媒質としてのセラミクスの供給元は世界でも
数社しかないが、ファイバーの供給元はEU内に数多く
あることが一因かもしれないと感じた。
新入研究員
わたなべ
ひでよ
渡邊英世
レーザー計測研究チーム 4月よりレーザー技術総合研究所に入所しました渡邊英世と申します。以前は超音波関
係の会社で材料評価の仕事を行なっておりました。今回、レーザー計測研究チームでレー
ザー超音波の研究に参加させてもらうこととなりました。今後ともよろしくお願いいたし
ます。
主な学会等報告予定
8月22日(月)〜26日(金) 33rd Free Electron Laser Conference
(中国・上海)
李大治「Improvement of Smith-Purcell Free-electron laser」
8月29日(月)〜9月2日(金) 第72回応用物理学会学術講演会(山形大学小白川キャンパス)
染川 智弘「海水溶存二酸化炭素の遠隔計測に向けたラマンライダーの開発2」
古瀬 裕章「低温冷却Yb:YAG TRAMレーザーの増幅特性」
9月4日(日)〜9日(金)
GLOBAL2011(名古屋国際会議場)
今崎 一夫「New Laser Fusion Method by Intense Laser」
李 大治 「Gamma ray generation for nuclear transmutation」
9月5日(月)〜9日(金)
MULTIMAT2011(フランス・ボルドー)
砂原 淳 「Multi-material Simulation of Laser-produced Plasmas by Smoothed Particle
Hydrodynamics」
9月6日(火)〜8日(木)
2011年光化学討論会(宮崎市河畔コンベンションセンター)
ハイク・コスロービアン
「セリンヒドロキシメチル転移酵素(SHMT)の超高速蛍光ダイナミクス」
谷口 誠治「sub-10fsポンプープローブ計測による光活性黄色蛋白質
(PYP)の光初期異性化ダイナ
ミクス」
土木学会全国大会
9月7日(水)〜9日(金)
(愛媛大学)
オレグ・コチャエフ 「レーザーリモートセンシングを用いたコンクリート欠陥探傷技術の検討・
開発 -(1)レーザーリモートセンシング装置の概要」
9月7日(水)〜9日(金)
レーザセンシングシンポジウム
(石川・和倉温泉)
島田 義則「レーザーリモートセンシングによるコンクリート欠陥検出装置の開発」
染川 智弘「海水溶存二酸化炭素の遠隔計測に向けたラマンライダーの開発」
9月7日(水)〜9日(金)
電気学会C部門大会(富山大学)
島田 義則「レーザーリモートセンシングによるコンクリート欠陥検出装置の開発」
9月12日(月)〜16日(木) IFSA2011(フランス・ボルドー)
砂原 淳 「DESIGN OF A CONE TARGET IN FAST IGNITION SCHEME」
9月18日
(木)〜21日(火) Laser Damage Symposium 2011(アメリカ・コロラド州)
本越 伸二「Database on damage thresholds by picoseconds laser pulse for 1064-nm HR and AR
coatings」
9月19日(金)〜22日(水)
SPIE Remote Sensing(チェコ・プラハ)
染川 智弘「Development of white light polarization lidar system」
Laser Cross No.280 2011, Jul.
掲載記事の内容に関するお問い合わせは、
編集者代表 ・島田義則までお願いいたします。
(TEL:06-6879-8737, FAX:06-6878-1568, Email:[email protected]
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