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KAWASAKI GLASS - 地域実践教育研究センター

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KAWASAKI GLASS - 地域実践教育研究センター
KAWASAKI GLASS
Urban Design Project in Kawasaki
KAWASAKI GLASS
Urban Design Project in Kawasaki
発行:2010年2月
著者:横浜国立大学 Team Glass City + 志村真紀
発行者:志村真紀
発行所:横浜国立大学 地域実践教育研究センター
印刷/製本:株式会社 神奈川機関紙印刷所
無断転載を禁じます。
横浜国立大学 Team Glass City + 志村真紀
1. イントロダクション
目次
はじめに
Contents
Introduction
1. イントロダクション
目次
・・・・・・・・ 01
はじめに
・・・・・・・・ 02
工業都市、そして文化・創造都市へ
・・・・・・・・ 03
川崎だからできること
What we can do only with Kawasaki
2. リサーチ
川崎の歴史
・・・・・・・・ 07
川崎における地域資源
近年、工業から文化へと産業を展開することにより都市の新たな魅力を創りだし、人々の
・・・・・・・・ 09
クリエイティビティの活性化により産業を活性化しようとする都市が増えてきています。
ガラスになる地域資源
・・・・・・・・ 11
川崎に住む人々の特徴
・・・・・・・・ 13
かわさきガラスのコンセプト
・・・・・・・・ 15
かわさきガラスのつくられかた
・・・・・・・・ 17
かわさきガラスの用途の可能性 ・・・・・・・・ 19
かわさきガラスのデザインプロセス
・・・・・・・・ 21
展示会
・・・・・・・・ 23
インタビュー
・・・・・・・・ 25
ます。しかし、伝統的なガラス技法や天然のガラス原料がないことから、川崎らしい特徴
を明確にし共有できないことが課題となっていました。川崎は都市であることを活かして、
地方ではできないメリットも、つくられ方もあるはずなのです。
そこで、昨年度においては川崎らしい「場所」を洗いだし、そのような場所でのガラスの
活かし方のビジョンを提示しました。今年度においては、より川崎らしい「ガラスの特徴」
についてを明確にするために、何が「川崎らしいのか」、「川崎だからできること」につい
て地域資源を掘り起こすためのワークショップやリサーチを行い、ガラス作家および川崎
市共に検討してきました。そして、これらの数々の模索を踏まえて、今年度は実際に「か
4. 付
・・・・・・・・ 27
川崎におけるガラス工房・製造業のガイドマップ ・・・ 29
工業から文化、そして環境先進地域へ ・・・・・・・・ 31
01
を新産業としている都市です。
川崎には日本で一番初めにできた現代ガラスの専門学校や多くのガラス作家や工房があり
3. かわさきガラス
川崎のガラス工房
川崎市もそのような都市のひとつとして捉えられ、工業的側面と文化的側面をもつガラス
おわりに
・・・・・・・・ 33
執筆者・協同者
・・・・・・・・ 34
わさきガラス」としてガラス作品がつくられ、創出の第一歩が踏まれました。
誰でも自分自身が住んでいる街の良さに対して盲目的になりがちですが、少し外側から見て
みると日常のなかで輝いているものが見えてきます。川崎においてガラスは特にそのような
存在のものです。本書はそれを世界からの視点から掘り下げていくことからはじまります。
02
1. イントロダクション
工業都市、そして文化・創造都市へ
The city which shifted the Industrial city to the Cultural /Creative city
ニューキャッスル
ブラッドフォード
ベルリン
エッセン
グラスゴー
マンチェスター
バーミンガム
ロンドン
ナント
サンフランシスコ
リヨン
ビルバオ
バルセロナ
ボローニャ
ミネアポリス
トロント
モントリオール
ボストン
ニューヨーク
上海
深圳
ロサンゼルス
金沢
北九州
メルボルン
産業革命以降、工業を産業とする都市では労働者人口が増え、住宅地が開拓され大きな都市へ
と成長した。
しかし1980年代以降、
石炭から石油への原料のシフトや、
後発国への工場の移転な
どの理由によって工業が衰退し、
産業を文化へと発展させる都市が増えてきている。
これらの都市
<凡例>
300万人以上
100 300万人
100万人以下
川崎
神戸
浜松
横浜
名古屋
では人々の創造性を活性化させることにより、
さらなる産業の発展を生み出し始めている。
03
注1:アメリカにおいては
「クリエイティブ資本論」
に掲載されているクリエイティビィティ指数が0.7以上の都市を選出している。
注2:ニューキャッスル,リール,エッセンは周辺都市を含めて100万人以上。
04
工業と文化が融合する要素
1. イントロダクション
産業革命による工業都市の発展
イギリスをはじめ、ヨーロッパで起きた産業革命は工業都市の発展につながった。これは文
字通り、工業によって、経済が支えられる構造となっていた。工場を中心にそこで働く人や
その家族が集まり、集まった人をねらって、商売をする人が集まる。特にイギリスの場合は
都市によって、発展した工業が違うため、各地域で同様の現象が次々と発生し、様々な工業
都市が誕生した。
工業的基盤・資源を文化へと活用する方法
世界における工業から文化・創造都市へと発展させている
地域・都市の好事例をもとに、工業的基盤・地域資源を文
化へと活用する方法について捉えると、下記のような代表
的な特徴と活用方法が挙げられる。
工業都市と田園都市
立地および特徴
が発展する都市においては人口が集中し、環境悪化と貧困の拡大を招いていった。そのよう
臨海部あるいは河川・運河に面した港湾都市である。
このように工業によって街が発展し、工業地域の近郊に住宅地が作られていったが、重工業
2.工場が集合体を形成している
1. 工業から文化へ移行する都市の共通した立地環境は、
ななか、1898 年にイギリスのハワードが提唱した新しい都市の形態、つまり「田園都市」は、
都市の郊外に住宅地をつくり、緑に囲まれ農作業をするスペースもある住宅を建設する構想
1.運河・海洋の近く
2. 工業で培った産業クラスターを形成している。
3.工場同士を繋ぐインフラが
整っている
であった。これはロンドンの郊外レッチワースを先駆けにして世界中で広まった。現在の川
3. 使用しなくなった工場や倉庫などを再利用して文化創
崎の中部・北部の電鉄沿線の地域は田園都市論を参考にしている。
出のための空間利用をしている。建築においては、工業
工業都市としての衰退
の種類により建物の種類は異なり、繊維・織物工業は工場・
しかし、工業によって発展した都市は、工業に依存していることと変わりない。その工業が
倉庫、造船業はドック、重化学工業の場合はプラントが
衰退してしまえば、雇用がなくなり、消費が抑えられ、経済が縮小してしまう。産業革命で
ある。
発展したイギリスなどのヨーロッパ諸国も後発国への工場移転などで経済が衰退していった。
そこで、イギリスの都市は工業に頼り切るのをやめ、他に活路を探すことになった。イギリ
スの場合、1997 年から首相に就任したブレア首相が文化を含む創造産業に力を入れ成功し
たことで、世界各国に影響を与えている。産業革命で発展をした欧米諸国の後を追って、同
じような発展をした日本も、工業の衰退は否めない。後発国への工場移転による影響は大き
いと言わざるを得ないだろう。工業都市として発展した日本の都市は今、岐路に立たされて
a. 産業遺産や歴史的建築遺産を再生活用し、文化芸術の
持つ創造性や、まちづくりや産業振興につなげ、都市の
b.文化の祭典が行われる
活性化や魅力を創出している。
b.100 万人以上の人口をもつ都市では、国際的な文化的
世界のなかでの川崎の位置付け・状況
ている。
祭典としてビエンナーレやトリエンナーレなどを開催し
川崎も例に漏れず、岐路に立たされている。日本の中心都市として、これからの川崎の取り
組みは多くの都市がその成否を注目している。川崎にとっての活路は、日本全国の都市の
1800
産業革命
(軽工業中心)
c.産業観光が発展
c. 産業観光として、観光化による周辺地域への経済効果
が見込まれる。
1900
1830
1760
05
活用方法
いるのである。
活路になるのだ。
a.工場の別用途への再利用
第二次産業革命
(重化学工業中心)
1865
2000
1900
田園都市論 提唱
1980
サッチャー政権によるイギリス経済立て直し
06
2. リサーチ
川崎の歴史
History of Kawasaki
1600
1700
1800
1623
宿場町が出来始める
1900
2000
1950
1872
JR川崎駅オープン
日本初の鉄道(現JR東海道線)が開通
1960∼
住宅地として
人気が出始める
1987
アゼリアオープン
2006
ラゾーナオープン
農業
1611
二カ領用水完成
川崎の活路は歴史をひもとくことで見えてくる。
時の流れの中で、川崎は様々な経験を積んで
きたのだ。
歴史によってつくられた川崎の様々な顔
川崎は歴史の流れの中で、様々な色々な顔を
持った都市として成長した。東海道の川崎宿
になり東海道線の駅になり人が集まる街として
の顔。昔からある多摩丘陵の自然を生かした
農業の街という顔。高度経済成長を支えた京
浜工業地帯の一角として発展し、今なお主要
企業の研究施設や工場が集まる工業の街とし
ての顔。川崎および東京・横浜のベッドタウン
としての顔。そして近年においては、音楽、映
画、スポーツ、そしてガラスによる文化の都市
としての顔が加わりだした。
その中で、ガラスは 1981 年に日本で初めて
のガラス教育機関である東京ガラス工芸研究
所が川崎に誕生した。その後、その当研究所
の卒業生をはじめ作家が川崎に工房や活動の
場をもつようになり、川崎にガラスが根付くきっ
かけとなった。このようにしてガラスは新たに
文化の顔も持ち川崎の新産業となった。
07
工業
1926
川崎港開港
工業のはじまり
1906 年の横浜精糖(後の明治製糖)
の工場ができたのをはじめ、その
後機械・造船・鉄鋼などの重工業
化学工業が川崎港開港に伴い発展
した。川崎では数々の企業の発展
を支え、日本の経済発展を支えた。
1959
川崎BE開業
1992
川崎マリエン
スポーツ
1995
改修後スタジアム
1962
等々力競技場竣工
文化・スポーツによる新たな流れ
地域提携とネットワークの構
築を目指して、川崎では、新
たな工業地帯を創りだしてい
る。主にベンチャーや新産業
を集中的に誘致し、競争や提
携の活発化を狙っている。ま
た、旧工業地帯の再利用も進
んでおり、川崎港や東芝工場
跡が、川崎マリエンやミュー
ザ川崎などの文化施設に変貌
した。それもそのはず、川崎で
は映画祭やスポーツ支援、音楽
での街づくりなど様々な施策で
文化面の展に取り組んでいるの
だ。これらは新たな流れとして
今後も加速すると思われ、今
後の動向が注目される。
ガラス
1981
東京ガラス工芸研究所
映画
1987
チネチッタ
2002
ラチッタデッラ
新しい工業
1995
1989
かながわ マイコンシティ
サイエンスパーク
音楽
2005
ミューザ
08
2. リサーチ
ガラスになる地域資源
The local resources for glass
身の回りにあるガラスの主原料:ケイ素(Si)
ガラスの原料ケイ素(Si)
は工場の中だけでなく、私たちの身の回りでも、土、食器、電化製品など
様々なモノに含まれている。
またSiは、地球を構成する元素の中で酸素(O)
に続き、2番目に多い
元素であり、非金属であるにもかかわらず、一部金属のような性質も持ち合わせており、半導体と
して電子部品や太陽光電池などにも応用されている。
さらに、他の元素との化合物では、
ガラスの
ように硬く透明な物質を作ったり、
シリコーンオイルやゲルのように流動性を持つものを作ったり
性質や用途はとても多様である。
着色・消色成分など
ガラスの成分と色 = ケイ素(Si)と金属
Components of glass = Silicon and Metal
副原料としての
軽金属酸化物
SiO2
約75%
ガラスの主成分は二酸化ケイ素(SiO2)
様々なガラスの着色成分:金属や希土類
ガラスは原料に微量に含まれる鉄、銅、金のような金属元素や希土類元素(レアアースメタル)
の酸
化物や硫化物によって着色される。
また、
酸化の程度で色味が変化するため、
溶融の方法によって
も色を変えることができる。
Au Cu
重工業・ハイテク工業の中にあるガラスの原料
川崎には工業に関わる様々な地域資源がある。
周辺を取り巻く京浜工業地域のなかでも、
川崎
暖色系
寒色系
茶色
Se Ag Cd
Cr
Fe
Cu Co
Mn
Au : 金 Cu : 銅 Se : セレン Ag : 銀 Cd : カドミウム
Cr : クロム Fe : 鉄 Cu : 銅 Co : コバルト Mn : マンガン
Fe + S(硫黄)+ C(炭素)
港を持つ川崎の工業は鉄鋼や化学をはじめとする重化学工業が盛んだ。
また多摩丘陵地区には
、
イノベーション開発拠点である
「かながわサイエンスパーク」
や、電子機器の生産拠点である
「か
わさきマイコンシティ」
などの施設も立地している。
これらの重工業や電子機器を生産する工場
にはスラグや半導体、太陽光電池などの、
ガラスと共通の原料である
「ケイ素(Si)」
を含む様々な
このように、
川崎における工場や私達の生活の」
中には、
ガラスの原料となる資源がいろいろあり、
「かわさきガラス」
の原料にすることができる。
モノが生産されている。
00
11
00
12
新宿
2. リサーチ
渋谷
川崎に住む人々の特徴
Features of people in Kawasaki
品川
東京都
登戸
武蔵溝ノ口
新百合ケ丘
宮前平
武蔵小杉
川崎市
川崎
新横浜
男性が多い街
横浜
The town many young men live in
東京と横浜のベッドタウン
(万人)
8
Bedtown of Yokohama and Tokyo
7
6
5
男性
女性
4
3
( 千人)
2
8
1
7
95∼99
100∼
90∼94
85∼89
80∼84
75∼79
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
20∼24
15∼19
5∼9
10∼14
0 4
(歳)
年齢各歳別男女人口,平成21年(川崎市)
び企業が隣接し独特な風景を作り上げている。
人口構造の特徴
13
夜間人口密度
(人 / ㎢)
4
3
2
昼間人口密度
(人 / ㎢)
1
川崎市と言えば工業地帯を思い浮かべる人も多いと思うが、実際川崎は京浜工業地帯の
中心地として様々な産業の発展に貢献してきた。市南部には多くの工場や研究所、およ
6
5
人気の街
2
7
12
17
( 平成)
昼夜間人口密度の推移(川崎市)
川崎市の北部では住宅地化が、中部では高層マンションの建設が相次いでいることから年々
人口が増加している。中でも中部や北部に住んでいる人々の多くが東急東横線や田園都市
川崎市の人口構造を見てみると 20 代から 60 代にかけて男性の人口が女性を上回ってい
線等を利用し、東京や横浜に働きに行くため昼間人口に比べて夜間人口が大きく、近年で
る。この理由として、工業地帯に働きに行く人々の多くが川崎に住んでいることが考え
はベッドタウンとしての色合いが更に濃くなってきている。一方で、川崎区などでは夜間
られる。こうした人々が日本の産業の中心地である京浜工業地帯を支えているのだ。
人口は少なく、南北に長い川崎市では地域によって特徴に違いが見られる。
14
3. かわさきガラス
かわさきガラスのコンセプト
The Concept of Kawasaki Glass
工業が基盤となって発展し続けてきた川崎では、
日が沈むとまちなかの工場やマンションには明かりが灯り、夜景はまばゆく美しい。
川崎はベッドタウンとしてまたは工業地帯として
現代生活を抱えてきた都市といえます。
暮らしの中に輝きを
Sparkle in a life
かわさきガラスはこの川崎で生まれました。
日常で用いられるガラスや、都市の中に存在するあらゆるガラス、
あるいは工場から出るガラスを元に作られる新しいガラスです。
工業的に無駄をそぎ落としたデザインはシンプルで手間や時間も省略でき、
価格も低く抑えられるので多くの人に手に取ってもらえます。
他の地域の伝統的なガラス工芸とは異なり、
川崎らしいスタイリッシュなデザインは、日常生活の中にもなじみます。
また、住民がビールの空き瓶などを工房へ持ち込み制作することは、
かわさきガラスを創造する一歩となるでしょう。
工業用ガラスがかわさきガラスとして生まれ変わり、文化的な生活を創り出してゆく。
かわさきガラスは都市生活の一部となり、工業と文化の架け橋になるのです。
15
16
3. かわさきガラス
かわさきガラスのつくられかた
How to make the Kawasaki Glass
F A C T OR Y
光ファイバー・半導体
ガラス工場からの廃棄ガラス
HOUSE & LIFE
スラグ
( 廃棄物から排出される灰を
高熱で溶かしたもの )
電球・蛍光灯・テレビなど
車の窓
建築物の窓
原料は工場や日常生活のなかにある工業ガラス
Made by industrial glass in factory and our life
かわさきガラスの原料
かわさきガラスとは
工業地帯・住宅地を地域資源とする川崎には様々なケイ素(Si) が存在します。そこで、
それらのケイ素を原料として『かわさきガラス』を創出します。これは、工業的なモノを
より付加価値の高いガラスへと生まれ変える文化性、そして資源活用への環境的取り組み
として価値をもっています。
パウダー・
フュージング
ガラス工房・作家の連携
パート・ド・ヴェール
吹きガラス・溶融
川崎市内には現代ガラスの各技法を得意とするガラス工房や作家が多く存在します。しか
しながら、ひとつの工房ではできない製作作業や設備もあります。そこで、各工房が連携
することにより様々な可能性をつくり出します。
スランピング
トンボ玉
工業と文化の融合
このように機械によってつくられた工業素材に、
人による手作業やデザインを加えることによって、
工業・文化の両面で創造的に産業を活性化させる
工業
industry
ガラス
glass
文化
culture
エナメリング ステンドガラス
サンドブラスト
発展させる可能性をもっています。
17
18
3. かわさきガラス
かわさきガラスの用途の可能性
Usage possibility of the Kawasaki Glass
ソーラーパネル
バス停
かわさきガラスによる用途の可能性
都市の中にはガラス、Si などがあります。それらをも
とに、つくられるかわさきガラスの用途の可能性を、
建築・都市の中に示します。
街灯
建築内部 : interior
壁
廃熱を利用
タイル
洗面台
トンネル
ガラスレンガ
歩道
扉
花瓶
皿・器
グラス
窓
机の天板
*都市における用途の可能性は、昨年度作成したブックレット「GLOCAL GLASS CITY」から抜粋してます。
19
20
3. かわさきガラス
かわさきガラスのデザインプロセス
ビール瓶から様々な器の状態を生み出す
がらすや
Process of making glass of Kawasaki
ビール瓶
加熱
横たわせた廃棄ビール瓶を
電気炉に入れ、熱の温度と
時間をを微妙に変えること
今回はガラス工場から出た板ガラスカレットと市中ゴミとして出たビール瓶をかわさきガ
によって、瓶がへこむ表情
ラスの原料としています。また私たちはかわさきガラスの創出によって提案したい生活を、
が変えられます。
スタイリッシュ「洗練された」・ミニマル「必要最低限の」・クール「都市的で格好良い」・
といった単語で定義づけ、それらをガラスのデザインやつくり方にも積極的に取り入れる
ことを目指しました。ここでは展覧会に出展されたガラスのうち、その思想やつくり方を
よく表したものを紹介します。
stylish
▲
色の違いでマーブルガラスのピースをつくる
KAWASAKI
GLASS
cool
Glass in.
minimal
上 : 瓶カレット
上下に重ねた瓶カレットと
板ガラスに加熱すると溶着
下 : 板ガラス
ビール瓶を溶かしてそのまま器を作り出す
加熱
横浜国立大学
し合い、マーブル模様のガ
ラスが生まれます。
840℃,1.5h
加熱
カレットから粒界 を含んだガラス板をつくる
がらすや
①器に必要な体積を計算し
て器の大きさ・形を決定
V=208.3cm3
②廃棄ビール中瓶
重量 :500g
比重 :2.4g / cm3
③鋳型の上に瓶をセット
し溶融
④平らに溶ける
板ガラス
カレット
加熱
おおよそ四角形になるよ
うに配置した板ガラスの
カレットは、炉の中で互
いにくっつきクールな印
象の作品になります。
21
22
3. かわさきガラス
展示会
Exhibition
川崎国際環境技術展
年に1度開かれる、地球規模の環境問題を解決する最先端の環境技術が発表される展示会。
本プロジェクトの環境配慮が評価され、デザインの域を越えて環境技術展に出展すること
が出来ました。スタイリッシュでシンプルなデザインが参加者から注目され、特にビール
瓶を横たわせた状態で溶融したガラス作品は注視を浴びました。
カレット・溶融したカレット
ガラスを手に取る子供
ビール瓶と板ガラスのガラスレンガ
23
展示風景
マーブルガラスの照明と作家
キャンドルホルダー(板ガラス)
ペーパーウェイト・食器(ビール瓶)
スランピングされたビール瓶(器)
板ガラスの窓
テーブルに展示されたガラス作品
24
3. かわさきガラス
インタビュー
Interview
Siで繋がる都市
The city connected by “Si”
廃棄瓶ビールの
ガラスピース
廃棄瓶ビールの
フットランプ
ロンデルで作った
ステンドグラス
展示会の様子
議題:「かわさきガラス」の創出
かわさきガラスを創出するため、今回、共有するガラスの原料を見直すことを行った。
細やかではあるが、川崎というアイデンティティをガラスに取り込んだ試みとして一歩
踏み出せた。展示会を経て、プロジェクトの今後の意向をガラス作家たちに尋ねてみた。
【葛籠屋工房】
−環境技術展でしたが、どのような印象を受けましたか?
【ステンドグラス工房 Glass in.】
−積極的に作品を制作いただき、ありがとうございました。展示に関してどのような感想を持たれましたか?
小林 私が制作したパーツを照明として展示してくれて、大変嬉しかったです。
−三角の照明は人気でしたが、実際に廃棄ビール瓶や板ガラス端材はステンドグラスとして活用出来そうですか?
小林 ステンドグラスは二次加工なので、板状のガラスが必要です。一人では出来ません
ので、他の工房との連携が必要になります。
−他の工房や研究所が名乗り出てくださっていますし、工房同士の連携が期待できそうですね。
ステンドグラス作家として、今後のかわさきガラス創出にどのような可能性があるとお考えですか?
小林 廃ガラスからの利用だと色は限られてしまいますが、それをかわさきガラスとして
特徴付けていくのも面白いと感じています。ビール瓶の茶色はマーブルにして制作
することが出来ますので、照明などに応用することが可能です。
【がらすや】
−瓶ビールを横にして溶融した作品が人気でしたが、今後どのように応用が出来ると思いますか?
白井 あのまま壁に立てかけることも出来るし、スランピングにして器の様な形状にする
ことも出来ます。
−ビール瓶や板ガラスなどの廃棄ガラスは、活用がしやすい素材ですか?
白井 メーカーの違う廃棄ガラスを使用すると、膨張係数が異なってガラスにヒビが入り
ます。かわさきガラスとして商品化していくのであれば、同種のガラスが手に入る
システムを作ることが必要です。ガラスが日常生活で手に触れられる場合、途中で割れ
てしまうわけにはいきませんので、膨張係数はガラスにとって非常に大切な要素です。
−もしガラス製品の供給システムが整った場合、人々が日常生活で使用できるガラスとして何が制作出来ると
お考えですか?
白井 25
器状にガラスを製作すれば、住民は多くの用途でそのガラスを使用することができ
ます。また、板ガラスで制作した窓は生産性も高く、同じ工場から入手しているの
で、商品化しやすいと思います。
加藤 活気のある展示会でした。LEDでガラスに光を透過させる技術なども展示会で発見
しましたので、環境技術もガラスに使える可能性を感じました。
−瓶ビールの茶色はステンドグラスへの利用が困難ではありませんか?
加藤 瓶ビールを薄く延ばしてロンデルにすると、オレンジに近い茶色になり、製法次第
ではきれいな作品に創作することが出来ます。
派手ではないですが、川崎の色として使うことは十分に可能です。
−廃棄ガラスをロンデルにして、環境技術と共にステンドグラスに応用するという技術が期待出来そうですね。
それでは、その点も踏まえて、今後の作品制作の意気込みをお聞かせください。
加藤 廃棄ガラスを産業と組み合わせて市民の人にとって魅力ある商品を作って行きたい
です。また、川崎市の老人ホームなどの建物にかわさきガラスを利用すると、住民
の方に認知してもらう良い機会になります。
【東京ガラス工芸研究所】
−展示会の率直な感想を教えていただけますか?
松尾 環境技術展ということもあり、ガラスはローテクで時代遅れのように感じました。
他に展示していたハイテク技術を所有する企業と連携し、技術を交えることが必要です。
−廃棄ガラスを再生することは他の地域でも行っています。川崎ガラスはこれからどのような発展が見込まれますか?
松尾 廃棄された工業製品から排出されるSiをガラスに利用することは、技術的には
既に可能です。これが製品になればガラスに金属を含ませることも出来ますし、
それらを最先端技術と共に制作することで、川崎のアイデンティティは強まります。
−かわさきガラスを通じて、川崎をどのような創造都市にすることを展望としますか?
松尾 工業と文化はSiで繋がっていて、その手法となるのがガラスです。これらの要素を
特徴とする川崎なら、ガラスとハイテク技術の両活用を都市のアイデンティティに
することが可能です。今後はローテクであるガラスがハイテク技術を学び、ハイテ
ク技術がローテクを基礎として技術開発を行うことが求められ、両者の連携は不可
欠になります。
26
4. 付
川崎のガラス工房
各作家の個性はかわさきガラスでも様々な特徴として浮かび上がらせることができます。
Studios in Kawasaki
1
Tsuzuraya
葛籠屋工房
ステンドグラスによる光の透過性を重視している
葛籠屋工房では、絵画的な作品を中心に窓など
の平面的なガラスを主に制作しています。
5
Glass in.
ステンドグラス工房 Glass in.
Glass in.ではパネルや照明などステンドグラス
の色彩と光を活かすことが出来る作品を制作し
ています。
27
2
Garasuya
がらすや
オリジナルの巨大電気炉を持つがらすやでは
大きな建築的なサイズから小さな小物サイズ
の大きさのガラスを作ることができます。
6
Glasscom
スタジオ Glasscom
Glasscomでは粉上のガラスを溶融する
パウダー・フュージング技法により繊細な
表情をもつガラス作品を制作しています。
3
NAS Hikari Glass
NAS光ガラス工房
サンドブラストを用いる光ガラス工房では、
ギャラリー・ショップが併設され、
グラスや表札
などを作ったり買ったりすることができます。
7
Tokyo Glass Art Institute
東京ガラス工芸研究所
研究を通した高い技術力を持つ東京
ガラス工芸研究所では、
あらゆる技法
によるガラスを制作することが出来ます。
4
Aya
ya Glass
彩グラススタジオ
関東一容量の大きい溶融釜をもち、生徒数
の多い彩ガラススタジオでは高い技術で
は様々なガラス作品を生み出しています。
Team Glass City
横浜国立大学チームガラスシテ
横浜国立大学チームガラスシティ
横浜国立大学ではパート・ド・ヴェールで溶融
した食器を展示会に向けて制作しました。
00
ガラスの型である石膏も手作りです。
28
4. 付
川崎におけるガラス工房・製造業のガイドマップ
Kawasaki Glass Guide Map
1
2
3
4
5
6
7
三栄ガラス
各種ガラス技法
E
ガラスには様々な現代ガラス技法があります。
● 吹 きガラス
溶けたガラスを吹き竿に巻き取って息を吹き込み成形する技法。
● トンボ玉
ステンレスの棒に巻き付けて玉を作る技法。
ガラスの棒をガスバーナーで溶かし、
● パート・ド・ヴェール
石膏型にガラスの粉・粒・塊を入れ、
電気炉内で熱を加え溶融し成形する技法。
● スランピング
電気炉内に熱を加えることで、
ガラスの粉や板を変形させる技法。
● パウダー・フュージング
電気炉内で熱を加えることでガラス粉を溶着させる技法。
● エナメリング
高熱で焼いて定着させる技法。
ガラスの表面に多彩なエナメル顔料等で絵付けし、
● ステンドガラス
ガラス板を鉛の枠でつなぎ合わせ、絵や模様を表現していく技法。
● サンドブラスト
強い圧力で砂を吹きつけガラスの表面を削り半透明にする技法。
29
30
4. 付
スモーランド
Småland
工業から文化、
そして環境先進地域へ
From industry to a culture, and an environmental advanced region
水と森林の地域
Area of the Water & Forest
ガラスの王国:スモーランド
Kingdom of the glass : in Småland
森林からつくられる新たなエネルギー
The new energy is made from forest.
column
工業で栄えた地域が、文化へと産業をシフトし「ガラスの王国」とまで言われるよう
になった「スモーランド」についてをここでは紹介する。どうしてこの地域はガラス
の王国とまで言われるほどになったのだろうか。
デザインのインスピレーションの源:湖水
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水を活かした工業力
この地域でつくられたガラスをみると、日本の作品ではあまり見られないガラスの表情に
スウェーデンのの内陸部に位置し辺り一面が森林であるスモーランドは、湖水面に段差を
魅了される。おそらく、それらの作品はこの地域の美しい水面がインスピレーションやデ
つくることによって水力を発電させることにより工業の機動力とした。しかし、18 世紀の
ザインの源となり作られているように思われる。湖水に映る空、緑、光、そしてさざ波によっ
半ばには人々の生活の糧であった工業や林業が奮わなくなり新たな産業を求め始めた。
て歪んだり反射する様々な水の表情は、ガラスのデザインと共通する特徴が多い。
工業から文化へ「ガラスの王国」
森林からのエネルギーを活かして環境先進地域へ
工業が衰退するなか、湖水による水力と豊かな森林にある薪を利用してガラス産業が始まっ
近年 1996 年にスモーランドにあるヴェクショー市では、化石燃料の使用を止めることを
た。ガラス産業にはガラスを溶融するための燃料と、ガラスの磨きに必須な水は必須であ
決定し、森林にある樹木を原料としてバイオ燃料をつくり出し、産業だけでなく一般の生
るため、この地域の資源を活かせる適した産業であった。その際に、ガラスの技術と原料
活にも供給し始めた。そのため、この地域は世界の中でも環境面の先進地域として知られ
は海外から輸入された。湖水の近くには多くのガラス工房や工場が設立され、一般生活で
始めた。また、この地域はガラスの産地であるだけでなく、スウェーデンの 60% の家具を
使用する容器として、あるいは王国に献上する芸術品としてガラスがつくられた。現在に
生産している産地(IKEA の本拠地)でもある。そのため、文化的産業が如何に環境の先進
おいてもオレフォスやコスタ・ボダなど 25 ほどのメーカがスモーランドに立地している。
的試みと共に如何に発展するかという面においても非常に興味深い地域と位置づけられる。
32
4. 付
おわりに
執筆者・協同者
The end
Member
Team Glass City
チーム・ガラスシティ
今年度で 2 年目の当ガラスシティ・プロジェクトは川崎市および川崎市ガラス工芸振興事
業検討懇談会の皆さんと連携して活動を行い、本著は今年度の活動を記したものです。
今年は、特に「川崎らしい」デザインについて追求し、実際にガラスをつくり、かわさき
北村泰 / Tai Kitamura
経営学部 国際経営学科 3年
小林峻 / Takashi Kobayashi
これを支えるみなさんのなかに、川崎への気持ちが強くあったからだと思います。
また、この本に記している「川崎らしさ」については、かわさきガラスを創出するにあたっ
東京ガラス工芸研究所
がらすや
工学部 物質工学科 3 年
ガラスを創出することを目標として進めることによって、川崎市の新産業としての可能性
を追求してきました。ここまで進めてこられたのも、学生をはじめ、各作家さん、そして
協同 (順不同)
ステンドグラス工房 Glass in
三浦真宏 / Masahiro Miura
経済学部 国際経済学科 3 年
(株)NAS 光ガラス工房
森口貴之 / Takayuki Moriguchi
スタジオ Glasscom
経済学部 国際経済学科 3 年
ての基盤になるだけでなく、川崎におけるものづくり、デザイン全般、そして建築・都市
彩グラススタジオ
加藤寛泰 / Hiroyasu Kato
のデザインに共有できる内容になっていると思います。
工学部 建設学科 建築学専攻 4 年
最後に、当プロジェクトを共に進めてきた学生のみなさん、川崎市ガラス工芸振興事業検
討懇談会の皆さま、コンサルティングを努めてくださった株式会社 社会空間研究所の皆さま、
伊藤綾 / Aya Ito
工学府 社会空間システム学専攻 建築学コース
修 士1 年
そして川崎市経済労働局新産業創出担当の皆さまに厚く御礼を申し上げます。
葛籠屋工房
協力
株式会社 社会空間研究所
*
志村真紀
志村真紀 / Maki Shimura
連携
川崎市経済労働局新産業創出担当
*当プロジェクトは横浜国立大学 副専攻プログラム・地域実践教育研究センターによる地域課題実習として行われました。
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