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第1章 本研究会の概要 - 内閣府経済社会総合研究所

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第1章 本研究会の概要 - 内閣府経済社会総合研究所
第1章 本研究会の概要
1.1
本研究の趣旨及び概要
イノベーション創出の担い手を増やし、付加価値と生産性の向上に取り組むことは、今後急速に人口の
急減と超高齢化が進展する日本社会が国際競争力を維持するためには必須である。日本社会は、2008 年
をピークとして今後人口減少が急速に進むと予測されている。現在のペースで人口が減少した場合、2050
年には 9,700 万人、2100 年には 5,000 万人を割り込む水準になる可能性があることが、
「まち・ひと・し
ごと創生総合戦略」
(平成 26 年 12 月 27 日閣議決定)において指摘されている(1)。人口の急減と超高齢
化の進展は、経済規模の縮小と国民生活の質の低下を招き、我が国の国際的地位の低下をもたらす。経済
財政諮問会議専門調査会「選択する未来」委員会が平成 26 年 11 月にとりまとめた報告書「未来への選
択」にはイノベーションによる付加価値及び生産性の向上が、人口急減と超高齢化が日本社会全体へもた
らす厳しく困難な状況を打破する切り札であり、多様な人材を巻き込み、異能・異才を受け入れ、活かし
た多種多様な草の根のイノベーションこそが成長力の源泉となることが記載されている(2)。
内閣府経済社会総合研究所では、平成 23 年度より、科学技術だけではなく経済的・社会的要素の動向
を踏まえたイノベーションに関する研究に取り組んでいる。平成 23 年度には「安全・安心な社会の構築
に求められる科学技術イノベーションに関する研究」(3)、平成 24 年度には「回復力のある社会の構築に
求められる科学技術イノベーションに関する調査研究」(4)と題し、10~15 年後の日本が直面する課題及
び社会の潮流について俯瞰を行った。平成 25 年度に立ち上げられた「イノベーティブ基盤としての産業
人材に関する研究会」では、平成 23 年度及び平成 24 年度研究会の研究成果として整理された 10~15 年
後の日本の社会潮流(想定されうる将来像)として俯瞰された状況を念頭に置きつつ、このような社会に
おいてイノベーションを創出できる人材像について議論を行い、望ましい産業人材像として「交流型イノ
ベーター」を提唱し、同時にイノベーターを支える・育む環境について整理を行った(5)。
上記の経緯を踏まえ、平成 26 年度は、平成 25 年度の研究成果において提唱された交流型イノベータ
ーが多種多様なイノベーションを創出する社会を目指し、このようなイノベーターを如何に増やし、また
育成するかについて平成 23 年度から平成 25 年度までの成果を念頭に置きつつ議論を行った。具体的に
は、交流型イノベーターを発掘・育成・支援する場としてのコミュニティに焦点を当て、コミュニティを
通じて如何に交流型イノベーターを増やし、多種多様なイノベーション実現に向けた支援をどのように
行うかについて検討を行った。
1
1.2
研究の進め方
当研究を進めるに当たり、平成 26 年度に「イノベーティブ基盤としての産業人材に関する研究会」を
設置した。構成メンバーは以下のとおりである。
■ 研究会委員
(座長)高野 研一
上野
彰
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授
独立行政法人放射線医学総合研究所 企画部 研究推進課 課長
奥住 直明
株式会社東芝 コーポレートコミュニケーション部長
清水 直子
ファイン株式会社 代表取締役社長
関橋 英作
東北芸術工科大学 デザイン工学部 企画構想学科 教授
マーケティング・コミュニケーション・ユニット MUSB(ムスブ) 代表
田村真理子
日本ベンチャー学会 事務局長
長尾 雅信
新潟大学大学院 技術経営研究科 准教授
松本 龍祐
ヤフー株式会社 アプリ開発室 本部長
TRILL 株式会社 代表取締役社長
三宅 秀道
専修大学 経営学部 准教授
■ 研究会主催者・事務局 (内閣府 経済社会総合研究所(ESRI)
)
村田 貴司
総括政策研究官
北岡美智代
研究官
東瀬
客員研究員
朗
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 助教(有期・研
究奨励)
本研究においては、上記委員からなる研究会を6回開催し、イノベーティブ基盤としての産業人材に関し
て議論を進めた。6回の研究会における議論については次項で述べる。
また、研究会と並行して、大企業・中小企業、支援機関、その他のイノベーション創出のプロセスに様々
な形で関与している方々に対するインタビューを通して、今後必要となる産業人材像等について調査を
行った。研究会では、これらの調査結果等も参考に議論を進めた。各インタビューにおける調査結果につ
いては1.4に記載する。
2
1.3
研究会の概要
1.3.1 第1回研究会の概要(平成 26 年 6 月 16 日)
第1回研究会では、古川氏及び佐俣氏より話題提供いただいた後、自由討議を行った。話題提供及び議
論の内容は以下のとおりである。
【古川健介氏(株式会社 nanapi 代表取締役) 話題提供】

自分は安定志向で、一度きりの人生なのでなるべくリスクを負わずに暮らしたいと思っている。だか
らこそ、
「起業」を選択。企業の寿命は近年だんだん縮んでおり、大企業的な安定の時代はもう終わ
りだと考えている。また、求められる職種も 8~10 年程度で大きく変わっている。10 年後にも食べ
ていけるような状態にするためには、経営等の経験を通して時代の変化に強くなることが大切。

シリコンバレーでは、リスクは「コントロール可能なもの」と捉えられている。一方、日本ではリス
クを単純な「危険」と訳してしまっている。
「就職」より「起業」の方がリスクをコントロールしや
すいと考えている。

失敗はよい経験と見なす企業が多く、自社でもベンチャーに失敗した人を年に二人程度採用してい
る。ベンチャーに挑戦して失敗した人は様々な企業からお声がかかる。
【佐俣アンリ氏(ANRI General Partner) 話題提供】

起業家を育むコミュニティを形成するためには、
「良質なコミュニティ」を継続的に担保し、そこに
来る人達に投資をする(逆にコミュニティに合わない人には投資をしない)
。投資をした後も、彼ら
をコミュニティに放流しておくだけで勝手に育ってくれる。

ベンチャー企業でインターンをしていた学生が次に起業をする例が多い。

会社をつくるということは未知の面も多いが、年の近い先輩が起業するなどロールモデルが身近に
いれば起業しやすくなる。コミュニティは似た思考をもつ人達が集まるので、コミュニティの誰かが
先にやっていれば「あいつができるなら俺もできるだろう」という感覚をもつことができる。

大学生の起業は、サークルやバンドと同じ。大学生には時間があり、かっこいいものを目指している。
その中の選択肢として起業が自然と入ってきた。

社長は意志決定のチャンスが社員より 100 倍あるので成長せざるを得ない。そのコミュニティでち
ゃんと挑戦している間は誰かが見てくれていて、失敗したとしても誰かが拾ってくれる。このような
ネットワークが結果的にセーフティネットになっている。

コミュニティにおける「Pay forward」(良いことをされたときに直接その人にお返しするのではな
く、次の世代など別の人に対して返していくこと)が意識的に働いている限りは、それがどんどん大
きくなると考えている。

インターネットのコミュニティは非常にローカルで、物理的に近いところ(渋谷区の道玄坂界隈等)
に集積している。自分自身もコミュニティの近くに居ないと生きていけないと考え、渋谷区に引っ越
した。インターネットは人同士の基本的なコミュニケーションの距離を革命的にゼロに近付ける技
3
術だが、だからこそ“絶対に会わなければ解決しないこと”を浮き彫りにした。インターネットの起
業家ほどワンフロアにオフィスを構えたがるのは、距離を超える技術を発明しているからこそ絶対
に越えられない何かを知っているから。
【自由討議】

今の社会は資本主義的なものが少しずつ破綻し、評判経済や共感経済に近付いているのではないか。

古川氏、佐俣氏の投資のやり方は芸能をやっているのに近い。理論的に答えが出てやっているのでは
なく、面白いかどうかという自分の中の価値基準に従って動いている。

今の若者は自分のもっている価値が好きかどうか、楽しめるかどうかを大切にしている(職人芸に近
い)
。食べていかなければならないので赤字にならないという最低限度の制限はあるが、急成長など
の人の価値に合わせるということはあまりしないのではないか。

近年ではお金を集めるということのハードルが下がってきた。数億円を集めるよりも評判を集める
ことの方が難しい。

起業家は「会社に入る」のと「起業する」のが同列の感覚。本来であれば、会社に入るのと起業する
のでは、会社に入ることの方が敷居は高い(会社に入るためにたくさんの面接等を受けるのに対し
て、起業は少しの書類とお金があれば短い期間でできてしまう)。しかし一般的には起業する方が難
しいと思われており、情報にギャップがある。

住んでいる場所は個人に与える影響力が大きい(「インターネット系業界であれば渋谷区の道玄坂」
というように、オフィスをそこに構えるだけでコミュニティに入っていくことができ成功する)。た
だし、シリコンバレーと東京は比較しない方がよい。アメリカは世界中から移民を受け入れるプラッ
トフォームなので、移民を受け入れない日本とは構造が全く違う。日本にとっては、どちらかという
とニューヨークの方が参考になる。

真剣に議論して起業するより、くだらない雑談から生まれるものの方がよい。

学生には自己表現ができていないだけの人も多い。何が一番楽しいかわからないから、とりあえず目
の前のものに飛びついてみて、違うなと思いながら進んでいく。そのため、大人は一概に否定をしな
いことが大切(
「パーッとやりなさい」と言ってやるのが一番)
。

多様性はない方がよい部分もあるのではないか。シリコンバレーもやっていることはインサイダー
(仲間うち)
。多様性が出てくると面倒でかつコストが高くなってしまうので、ハイコンテキストな
方がよいのではないか。サークルもいろんな人が入ってくるより、同世代の同じような人の方が盛り
上がる。これに近いのではないか。

大学がやっている起業家講座などではすごい人ばかりを招くのではなく、もっと普通なかんじの人
を招いて起業家を身近に感じてもらう方がよい(5人程度の会社を経営している人などがよい)。
「昨
日の生徒が今日の先生」というのが一番よい。
1.3.2 第2回研究会の概要(平成 26 年 7 月 28 日)
第2回研究会では、奥住委員及び上野委員より話題提供いただいた後、自由討議を行った。話題提供及
4
び議論の内容は以下のとおりである。
【奥住直明委員(株式会社東芝コーポレートコミュニケーション部長) 話題提供】

東芝での「イノベーション」の定義は、「バリューイノベーション」と「プロセスイノベーション」
の組合せ。新しい価値を創造するバリューイノベーションだけでは、多くの社員はそれを研究所など
の一部の偉い人の仕事だと考えてしまい、全体のモチベーションが下がってしまう。そこで地道な現
場の改善活動を含むプロセスイノベーションの重要性もあわせて掲げることで、全体のモチベーシ
ョンを維持した。

イノベーションの手法・方法論はないということを認識したが、組織なので何とかしようと必死に考
え、自社の過去のイノベーション事例を事例集としてまとめた。その中の一つの事例が NAND フラ
ッシュメモリー。現在も大きな利益を生み出す成功事例。70~80 年代は DRAM がものすごく儲か
っていたが、DRAM は電源を切ると記憶内容が消えてしまう。同じ頃、東芝の技術者が電源を切っ
ても記憶内容が保持できるデバイスを開発したが、当時は使い道がわからなかった。その後 13 年間
NAND フラッシュメモリーは赤字を出し続けたが、何とかこれを使えるようにしたいという強い想
いをもった技術者が「自らマーケットをつくりに行った」
(デジカメをつくってしまった)
。初めは東
芝製のカメラなんて買う人は居なかったが、諦めずにやっている中でだんだん普及していった。この
技術者達がすごいのは赤字事業を 13 年間もち続け、さらに自分で新しいマーケットをつくり出した
こと。今では東芝の利益の7割方を NAND フラッシュメモリーが創出している。
【上野彰委員(独立行政法人放射線医学総合研究所研究推進課課長) 話題提供】

トップクラスの研究拠点を形成するための最大の要件は、優れた人材を世界中から引きつけ、これを
連鎖させる力を有していること。具体的には、1)強いヴィジョン(「今までにない新しい流れを生
み出す」
「その流れにより新しい価値を生み出す」など)を示す魅力的なリーダーの存在、2)優れ
た研究スタッフ/研究支援スタッフの存在、3)差別化された施設設備/研究プログラムの提供、4)
外部資金獲得戦略の組織的展開、5)研究評価におけるピアレビューの重視、6)特徴ある昇進シス
テムの導入が鍵となる。

研究拠点(研究所等)で優れた人材を保持するだけでなく、研究コミュニティ(特定の組織の枠を超
えて共通の問題意識等により結び付いた研究者の社会)に優れた人材・研究成果を輩出することで、
研究コミュニティから優れた人材を引きつけることができる。これにより、研究拠点と研究コミュニ
ティの間に優れた人材と成果の好循環が形成される。

ニッチ/絶滅危惧領域(時代遅れの分野)の研究者/組織であっても、思いがけないブレークスルー
の可能性がある。
「3年で成果のでない研究は切る」近視眼的政策ではなく、研究の多様性を保持し、
このようなブレークスルーの芽を残しておくことが必要。

『
「変化」を厭う組織文化』や『最終的な責任の帰属が見えない組織文化』がイノベーションを阻害
する組織的特徴。

イノベーションの阻害要因を克服するには、1)
「
(役所的な中長期計画ではない)ヴィジョン」を示
し率先して改革を行うリーダーの存在、2)研究支援スタッフの計画的育成、3)ユニークな施設設
備群の最大限の活用、4)外部資金の獲得と優れた運用、5)世界的な評価、6)きちんとした昇進
5
システムが必要。
【自由討議】

変化というものをどのように捉えて、自分の組織にどのように当てはめて活性化させていくかがイ
ノベーションの原動力になるのではないか。

寝太郎をネガティブに捉えてはいけない。最後に成果を出すから寝太郎なのであって、
「ニセ寝太郎」
(ただ手を抜いて本当に寝ているだけの人)と「ホンモノ寝太郎」の違いを見分ける「寝太郎目利き
問題」が重要。ニセ寝太郎とともにホンモノ寝太郎まで排除してしまってはいけない。ニセ寝太郎と
ホンモノ寝太郎を見分け、ニセ寝太郎を取り除くのはガバナンスの問題。

さらにホンモノ寝太郎でも成功する場合と失敗する場合に分けられる。科学技術の世界ではたとえ
ホンモノ寝太郎であっても成果に結びつかない場合が往々にしてある。

悪意のあるニセ寝太郎がホンモノ寝太郎を装う「偽装寝太郎問題」も最近では増えてきた。ニセ寝太
郎/偽装寝太郎を排除しようと人事管理制度をしっかりすれば、良いポテンシャルをもった人が排
除されてしまう場合がある。逆にゆるくしてしまうと組織として活性力を失ってしまう危険がある。

折れない心をどうやってつくればよいかはわからないが、
「ちゃんと見てあげている人(目利きをす
る人)
」の存在が重要。東芝は二次電池から2回撤退しているが、どうしても電池をやりたいという
モチベーションをもった研究者が居て、目利きがこの研究者を会社から隠した(外の組織へ異動さ
せ、そこで電池の研究をさせた)
。モチベーションをもった人間とそれをサポートする目利きが居た
からこそ、これまでのリチウム電池の弱点を克服した急速充電電池が製品化した。

企業が組織として一部遊びの余裕をもつことがイノベーション創出につながるという考えがある反
面、
「川上から川下まで」
「知識から店頭まで」を意識して組織全体で商品開発に取り組まなければな
らないというプレッシャーも必要。

東芝の「アンダーザテーブル」のような取り組みはグーグル等の他の企業でも行われているが、こう
いった企業は収益性の高い事業をもっているところが多い。また、この自由に使える範囲を如何にし
て楽しくイノベーションを生むであろうことに投資させるかは課題。

日本の大企業・大組織は十分に成長したので、
「継承」ということを考え過ぎている。過去の成功経
験をもつ人が若い人に守るべきものとして社風や財産を押しつけてしまっていることが、現在日本
を止めてしまっている理由なのではないか。継承も大切なルートだが、継承を全くしないルートを一
つ確保しておくことが必要。企業の下に小さい会社を創設するなどして、継承をあえて断ち切り自由
にやらせる。IT 企業は継承するモノがなかったので、いろんなやり方に対応する力があった。

組織の中のマネジメントがしっかりし過ぎると、目利きの人の権限でできる範囲が小さくなってし
まう。強力なリーダーが目利きである例はあまりない。目利きの役割を果たす人材は、リーダーの片
腕(サブリーダー)でリーダーのメッセージを下にわかりやすくかみ砕いている人が多い(ヴィジョ
ン策定能力と組織マネジメント能力は少し違う)
。

最近はフォロワーシップ(集団の目的達成に向けてフォロワーであるチームメンバーがリーダーを
補助していく機能)という言葉も出てきている。ヤフーではリーダーが自律的に数人のチームをつく
りメンバーのモチベーションを上げてチームを引っ張っていく自律的・ボトムアップ型の組織を目
指している。強力なリーダーと目利きのできる人が異なるという議論においては、このようなフォロ
6
ワーシップの優れている人が目利きになっているのではないか。
1.3.3 第3回研究会の概要(平成 26 年 8 月 26 日)
第3回研究会では、堂野氏及び岡本氏より話題提供いただいた後、自由討議を行った。話題提供及び議
論の内容は以下のとおりである。
【堂野智史氏(公益財団法人大阪市都市型産業振興センター クリエイティブネットワークセンター大阪メビック扇町所長) 話題提供】

何かを起こそうとすれば、人と人との関係を熟成させることが重要。

A 社のニーズと B 社のシーズが合致していても、それぞれの担当の a 氏と b 氏の仲が良くなければ
A 社と B 社の連携は上手くいきづらい。逆に、たとえ A 社のニーズと B 社のシーズが多少ずれてい
ても、a 氏と b 氏が意気投合すれば A 社のニーズと B 社のシーズが合うだけでなく、全く予想しな
かった新しいものが生まれる可能性すらある。そのため A 社のニーズに合う B 社を探すよりも、a
氏に合う b 氏を探す方が可能性を見出せると考えている。また、単純なニーズとシーズのマッチン
グだと紹介できる会社の選択肢は何百社とあるが、担当者の属人的な関係性を考慮に入れれば選択
肢は一気に絞られる。

イノベーティブな事業環境には人と人との本音ベースの深いコミュニケーションが不可欠。1998 年
に岩手ネットワークシステム(INS)との出会いを経て、所属・肩書・年齢・性別・国等に関係なく
一人の人間として属人的な関係性を構築することが必要だと考え、2003 年に関西ネットワークシス
テム(KNS)を設立。

フラットな関係性を維持するためにメンバー間に指揮命令系統はつくらない。

メンバーの固定化を回避するために毎回開催場所を変えて多様な組織から新たなメンバーを募集す
るとともに(高校生や大学生も入ってきている)
、幽霊会員は切り捨てた。ただし、あくまで KNS は
「遊び」であり、参加者は強制的にやらされている感じがしないから継続できる。

仕事から入る関係でなく友達づくりから入る関係づくりを目指す。

登壇して話した人が主役であり、主役の人数をなるべく増やせば参加者全体の主体性(=当事者意
識)
・モチベーションが上がり、その後の交流会でもコミュニケーションが非常に容易になる。
【岡本克彦氏(日本電気株式会社ビジネスイノベーション統括ユニット コーポレートマーケティング本部ブランド戦略・IMCグループマネージャー) 話題提供】

2006 年頃からコミュニケーションスタイルが変わってきた中で、ケータイとパソコンを融合する流
れであるというマーケット予測は Apple も NEC も同じだった。ただし、そのマーケットへのアプ
ローチとして出した答えが異なっていた。日本メーカーがケータイとパソコンの両方が使えるよう
に縦画面と横画面を使える商品をつくったのに対して(「足し算」の考え方)、iPhone は縦画面でも
パソコンの画面(横画面)が見られるようにソフトウェアでの最適化を行うとともに、アプリを通じ
た新しい体験を提供し携帯電話の価値観を再定義した(
「最適化」と「(価値観の)再定義」)
。このよ
うに日本メーカーも iPhone をつくれる土台はあったが、市場の期待に対してそのままの答え(足し
算の答え)しか出せなかったがために iPhone を生み出せなかった。iPhone の上陸、さらにリーマ
7
ンショックや 3.11 東日本大震災などを通じてそれまでの価値観が通じなくなり、あらゆる価値観の
再定義がされ始めた。ここ数年「日本では…」というのが通用しなくなったと実感。

NECの中だけでなく、他社との連携や地域との連携を通して、NEC社内では解決できない課題に
取り組む活動に参加している。2010年から「フューチャーセンター」を主催・参加し、加えて
2013年からは地域デザインの一環としてソーシャル系大学「こすぎの大学」を立ち上げた。

“Thinking out of the box”という考え方が重要。日本のモノづくりの会社はブランディングする
際に自分が入っている「箱」から出て(会社の外に出ること。会社の中で考えていてはダメ。会社
の中をうろちょろしているのであればまだよいが、机に張り付いていてはいけない)
、もっと広く
世の中を考えるべき。

人はいきなり転換できないからこそ「仕掛け」が必要。ネットワークづくりを通じて誰かから学び
触発される中で自分の思考を広げていくという考え方から、ダイバーシティ型企画に取り組むよう
になった。具体的にはフューチャーセンターというアプローチで、多様な人材が集まる場での共創
的な対話でイノベーションを創出する様々な企画を実施してきた。

失敗経験があったからこそチャレンジしなければいけないという気持ちになった。

「調査(改善)
」と「企画(価値創造)
」。マーケティング担当として調査結果は信じてきたが、そ
こからはイノベーションは生まれない。調査はマイナスをゼロにするが、ゼロからプラスを生み出
すのは違うアプローチ。

過去を継承する。イノベーションと言うとすぐに0から1をつくろうとするが、結果はすぐに出な
いので0から0.5のところでメンバーチェンジをしてしまい、新しいことが生まれない状況が続く
(0→0.5を何度も繰り返す)
。過去を継承して、0.5から1へもっていくことも必要。
【自由討議】

大阪には、どのように売り出せば売れるのかわからないモノづくり系企業と、それを解決できるのに
仕事がないと思っているクリエイターが同じ地域に居る。それにも関わらずこの2者に接点がない
上に、文化や言葉の違いが大きな壁になっている。

外見上のちょっとした違いでもコミュニケーションレスにつながる。最終的には慣れや人間的な理
解によって動き出すが、堂野氏でも慣れるのに2~3年かかった。

従来の市場にアプローチしても仕事はつくれない。これまで市場になっていなかった潜在的な部分
にアプローチをすることで新しい仕事をつくっていくことが必要。

NEC は長い歴史・大勢の社員をもつ組織。社員の全員が全員イノベーティブ人材として新しいこと
を始める必要はない。現場をしっかり守ってくれる社員がいるからこそ、一部の社員が挑戦できる。
「現状を変えていく人:守る人:何を言っても変わらない人(環境が変わったときに力を発揮する人)
=2:6:2」が黄金比率(ただし、状況に応じて各人の役割を変えられるという柔軟性をもつ)。
単に現状を変える人の人数を増やすのではなく、たとえそういった人達の人数は少なくとも、彼らが
発信できる環境・動きやすい環境をつくることが組織として変わっていく上で重要。また、そのため
には現場を守る人も現状を変える人達の刺激を受けて柔軟性をもつことが必要。

トップダウン型で落としてもヴィジョンは通じない。トップダウン型とボトムアップ型の融合が必
要。
8

ダイバーシティとは、単に多様な人達が集まるというだけではない。自分の内側にも環境によって多
様な面がある。メンバーの多様性と自分の中の多様性。自分の中の多様な面を素直に表現できる場が
あるということは、とても健全なことであり、新しいことが生まれやすい環境。
1.3.4 第4回研究会の概要(平成 26 年 11 月 10 日)
第4回研究会では、これまでの議論を踏まえ、交流型イノベーターの育成やイノベーション創出を取り
巻く時代変化等について自由討議を行った。議論の内容は以下のとおりである。
【自由討議】

企業単独ではイノベーティブな発明・発見が難しい時代。企業を外に開くことによって新しい人材・
アイディアの取り入れや、企業内の人材の活性化につながるのではないか。企業と社会など、コミュ
ニティ同士を如何にしてつなぐかが鍵。

クリエイティブなアイディアは様々な人達の異質なアイディアがぶつかったときに初めて生まれる。
ただし、一人一人がものすごく突き詰めたアイディアをもっていないとアイディアの刺激にはなり
得ない。深く考えてこないままブレストしても結局無難なアイディアに落ち着いてしまう。一人一人
がよく考えて初めて、面白いアイディアに辿り着く。そのため、如何に異質で面白い人達が集まるコ
ミュニティをつくるかどうかが重要。こういったコミュニティの中から交流型イノベーターが生ま
れる。

新しいものを生み出すやり方は2つある。一つは、前の人の成果の肩の上に立って新しいことを言う
というオーソドックスなやり方。もう一つは、ある程度成熟した分野では目新しいことは出尽くして
しまっているため、出尽くしたものを並べ替えたり見方を変えることで新しい価値を見つけ出すと
いうやり方。これが別の領域の萌芽につながる。

今までの延長線を破壊することによるイノベーションは、今までのものを否定する力が必要。そのた
めには異なる分野の考え方を取り入れ、常識を疑うことからスタートするのではないか。

成功した人を見ると、異業種の人から学んだ、自分の業種とは一見無関係なキーワードを上手く視点
を変えて商品につなげている例がある。

異業種交流会などでも本来の意味ある交流会と単なる飲み会(単なる顔合わせ、顔つなぎ)がある。
本来の意味ある交流会は勉強会を兼ねており、主催者が明確なテーマやゴールをもって進捗を示し
つつ会を進行する。

日本企業は元々、3~5年先の長期的な経営ができることがメリットと言われていたのが、今ではア
メリカのような銭勘定を基準とした短期的な視点での経営になってしまっている。

社会全体で短期的な視点での働き方が増え、短期間で評価できるスキルやコストなどのパフォーマ
ンスが重視されるような時代に変わってきた。長期的な視点で求められるヴィジョンや夢をどう実
現するかはあまり考えられなくなってしまった。そのような状況下では、いわゆる寝太郎は長い時間
我慢して耐えなければならない。

95 年頃は若手も企業の中で打席に立たせてもらえていた。若いながらも新しいことをやろうと思え
9
ば失敗がある程度許容されていた。しかし現在の若い人は失敗が許されない中で打席にも立てない。
打席に立つためには社内で多くの決裁が必要となり、それにより疲弊してしまい結局失敗も成功も
経験できない。イノベーションを起こすために打率を高めようとしても、そもそも打数(経験)をか
せげないのが現状。しかしそんな中でも、異業種や外部の人の知見をもって説明すれば、社内のみの
経験者よりも打席に立つことが比較的容易。

日本の企業が求めているのは「技術革新」
。しかし現場で動いているのは「生活革新」
。今の若い人の
研究所に対するイメージは「チームラボ」
「メディアラボ」「ファブラボ」などを例とした「ラボ」。
集まった仲間で工作を通してつくった、ちょっとした生活の革新が商売になりイノベーションにつ
ながっていく。イノベーションの意味が技術革新から生活革新に変化してきたのではないか。

企業は成果を求める時間を短縮しつつも、より大きな技術革新を求めているところにギャップがあ
る。

「現状を変えていく人:守る人:何を言っても変わらない人(環境が変わったときに力を発揮する人)
=2:6:2」の議論で、昔は母体が大きくかつ現状を変える人がとても尖がっていた。これが最近
では母数が細かく分かれていて、現状を変える人も身近にいる。昔のようなインパクトの大きいヒッ
ト商品は出にくいが、アメーバのような形で広がり、気付けばちょっとしたものでも IT を使って世
界にもっていくことができる。

「イノベーション」の解釈の仕方は時代によって変化しているはず。20 世紀後半は利益をどれだけ
あげるかに直結するのがイノベーションだったのに対し、現在は人のため、社会のためというような
みんなの幸せという観点に変化してきた。元々、
「日本の資本主義の父」といわれる渋沢栄一氏が「経
済こそ道徳たれ」と訴え、得より徳が大事としてきたように、日本の経営者はそちらの方向で成果を
出していた。

企業の経営者が従業員に対し、複数枚の名刺をもつことや、就業時間の一部を個人が自由に活用する
(従業員に複数のことをやらせる)ことを勧めるような風土になれば、B-級グルメのようなイノベ
ーションにつながる動きが出やすくなるのではないか。

新入社員を社長の直接のお付きにすることで、高い視点とモチベーションをもった人材を育てると
いうやり方もある。ベンチャー企業や中小企業であれば、新入社員や学生を社長の鞄もちにすること
も可能であり、それが次世代のトップ人材の育成には有効だと考えられている場合も多い。一方、大
企業だと新入社員が大人数なため選抜しなければならないが、入社当初から次世代のトップ層を識
別するのは難しい。

企業の現場レベルで見れば、最近女性の貢献が大きい。男性は若いときに良いと思った物事に取り組
み続け、伸ばしていく。一方、女性はライフステージによってスタイルが変わっていく。暮らしの中
で強制的にステージ(女子学生、妻、母親など)を変えてきているため、常にチャレンジをし続けて
いる。また、団塊世代の男性は好きなことに対してものすごくパワーをもっている。団塊の世代はバ
ブルと高度成長を経験しているので怖いもの知らず。女性と団塊世代はイノベーターの可能性を大
いにもつ。

安定した企業の中にいると業務内容をどこか遠いものに感じてしまい自分の問題として捉えにくい
ため、熱意をもちにくい。若い人がやっている会社は遊びの延長で、問題意識も身近なものであるた
め、自分達のできることの延長線で取り組める。社長のヴィジョンを軸に置きながら、みんなが自分
10
の得意分野から入って楽しみながら参加していくことができる。問題意識を自分に近付けられるツ
ールやハブがあればマインド・考え方も変わってきて、解決の仕組みがわかってくると自分から自主
的に解決するようになってくる。問題意識を近付けて、かつ参加できるようにハードルを下げること
ができれば、熱意を発揮することができる。
1.3.5 第5回研究会の概要(平成 27 年 1 月 19 日)
第5回研究会では、これまでの議論を踏まえ、コミュニティによる交流型イノベーターの発掘・育成・
支援、及び交流型イノベーターが直面する課題(阻害要因)について自由討議を行った。議論の内容は以
下のとおりである。
【自由討議】
(発掘関係)

創造力と構想力を鍛え、正解はいろいろあり得るという認識の下、自分でその中の一つの答えを決め
ても良いのだということを学んだ人材はイノベーターとして強い。

福島で起業しようとしている若いベンチャー企業の社長達を見ていて、今の社会は「本気で社会的大
義を掲げること」が有効な時代になってきていると感じる。近年では社会資本を形成するのが簡単に
なったことなども影響しているのだろうが、20 年前の阪神・淡路大震災のときと比べて、ご飯を食
べることよりも大義を掲げることができるようになっているのではないか。現代のような豊かな社
会で人を巻き込むには、ある程度損をする覚悟をもって本気で社会的大義を掲げることが有効。

交流型イノベーターは、これまで社会を引っ張ってきた一握りの天才とは異なる。天才と呼ばれた人
材が中心となってきたこれまでの社会でも今このような時代になってしまったことを鑑みれば、今
後重要視すべきなのは「能力」そのものではなく「パーソナリティ(≒人格)」。このようなパーソナ
リティをもった人材とは、コミュニティを仕切る「ファシリテーター」的な要素と、アイディアを生
む「アイディアシーカー」的な要素の両方をもった人。これまでの日本社会はこの2つの要素を別の
ものと捉えて、ファシリテーター(例えば高学歴の研究者等)とアイディアシーカー(例えば芸術家
等)をバラバラに分けて分業させてしまっていたのではないか。しかしこの2つの要素は根底に流れ
ているものは似ているので、デュアルにできるものと考えている。B-1 グランプリをつくり出し成功
させた人もごく普通な雰囲気をもったおじさんだが、様々な人との交流の中でアイディアをたくさ
ん出して(
「アイディアシーカー」的要素)
、周りの人を巻き込みながらさらにアイディアを変形させ
ていける(
「ファシリテーター」的要素)人だった。そういった例を見ていると、もっと多くの人々
が交流型イノベーターになれるのではないかと思っている。

地方とパーソナリティという観点で、ある地方の小学校・中学校で面白い事例がある。小学校・中学
校は地域のコア施設でありいろいろな大人が関わるが、その学校では授業と当該地域の抱える課題
を結び付けて子供達に教えている。例えば、子供達に農作業を通して地元農家がどのように作物をつ
くっているかを学ばせるとともに、作物の販売を通して算数の問題としても考えさせる。さらに、売
れない場合はその原因まで考えるようにしている。そのようにしてものづくりの一連のプロセスを
11
理解させることで、子供達は「優しい天才」の要素である相手の気持ちや立場を理解する力を身に付
けていくのではないか。

どんな分野の仕事でも、親や親戚の姿を通して子供の頃から身近に感じていると、知らず知らずのう
ちに潜在意識にすり込まれて将来の職業につながる可能性が高い。最近では親の会社を継がない子
供達も増えてきたが、この潜在意識に加えて原体験をしているかどうかが一つのポイントとなる。
(育成関係)

イノベーターの育成には自分と異なる文化を体験しているかどうかが非常に重要となってくるため、
帰国子女や海外赴任の経験がある人が強い。学校での勉強が得意な日本のいわゆる「優秀な人材(=
高学歴の人、頭の回転がはやい人)
」は、与えられた課題を解く課題解決力(宿題を解く力)はある
が、自分で問題を考えるのは不得意。こういった人材の多くは取り組む分野や幅を広げたりはせず
に、解決する課題のハードルを上げていくことが目的化してしまっている。これに対して、デザイナ
ーや職人、スポーツ選手などは、好きなこと・得意なことを基盤に、別の分野に広げる。例えば、体
操が得意だから体操だけというのではなく、体操をある程度極めた後は音楽を組み合わせることで
ダンスに、さらにはエンターテイメントにという広がりをもつことが、イノベーションの観点では必
要。今の日本社会が重視しているスペックや時間ではなく、見えない仮説をどうつくるかという課題
設定の方法や新しい価値提供の機会が鍵となるのではないか。

昔の、つくれば売れた時代は考えることすらなくなり、没パーソナリティになっていた。また、今も
世の中にいろいろなものが出てき過ぎて、それが「課題」なのか「答え」のうちの一つなのかを意識
することなく全てを「情報」として捉えてしまい、没パーソナリティになっているのではないか。あ
らゆることに対して周囲から問いかけられ続けて、自分なりに考えていくことが大切。自分の想いや
個性を発揮できるコミュニティにおいて、周囲から体験を伴う問いかけをされ続けることで人材が
育つ。

仕事でもなんでも、今までの経験の中から判断していくしかない。だからこそイノベーターを育てる
には多様な実体験が重要。

交流型イノベーションを起こして人と何かをつくり上げていくというのは、有名企業への就職のよ
うにわかりやすいステータスではないので、イノベーターとなりうる人材も自分の進む先を不安に
感じることも多い。そこでの積み重ねによって「次のチャンスがあると信じられるか」
「自分が成長
していると感じられるか」が、イノベーターとなりうる人材が次の成長ステップへ進む際に非常に重
要なポイントとなる。そこで、成長・成功している人(ロールモデル)が実際にいるということに気
付かせることで、その信じにくい部分を信じさせてあげることが大切。

日本での IT 投資はほとんどが知り合い経由のため、お金回りも基本的にコミュニティの中で閉じて
いる。投資先を決める際は、コミュニティの中でその人の評判がポジティブかネガティブかを見た後
で初めて、その人のビジネスモデルの話に入る。投資するかしないかの決め手は、その人の評判が第
一。
(支援関係)

八戸ブイヤベースフェスタの例では、若者が勝手に始めたときに“社長が止めない”というのが一番
の支援だった。全ての会社の社長が「イベントに関する作業を就業時間中にやってもいい」と許可を
出してくれたのが大きかった(それがなければイベントは成功していなかった)
。
12

邪魔をするのがシステムのデフォルトになってしまっているので、イノベーターに「与える」のでは
なくイノベーターのやりたいことを「止めない」ことが一番の支援。社長はいいものであればあるほ
ど「もっと早くやれ」等と口を出してしまいがちである。実際は放っておくのが一番だが、人間の本
性的にはこれが非常に難しい。だからこそ仕組みづくりとしてイノベーターが自由にできる枠を確
保してあげることが重要。

今の日本社会では人々の帰属意識がとても強い。組織の在り方として帰属意識を半分くらい取り払
ってあげるという条件のようなものがあれば、組織の中の人の意識も変わるのではないか。また、こ
のように放っておかれると自分でやらなければならないので主体性が生まれ、さらに自分が発案し
たアイディアを実行にうつすためにはあらゆる人を巻き込みながら行動を進める交流型イノベータ
ーにならざるを得ない。今の社会はそういった経験がしにくいので、それができる条件が多くなれば
若い人は案外面白がってやるのではないか。

周囲から茶々を入れるのも、その入れ方によってはいいものがある。周囲からの意見や問いかけに対
して、自分が動いて検証・理論武装する、もしくは周囲の意見で良いものがあれば取り込んでいく。
周囲からの意見出しは、自分の視点だけではなく消費者など他人の視点まで含めた回答づくりを考
える機会になる。任される部分と茶々を入れられる部分の両立が大事。
(阻害要因)

心配性な周囲の人達はイノベーターがやることに対してプロセスを念入りにチェックしてしまいが
ちだが、そうすればするほどイノベーターのモチベーションを下げてしまう。イノベーターを取り巻
く周囲の環境が彼らの行動を許す、もしくは否定をせずに傍観してあげることが大事。

周囲は悪気なくレビューしているつもりでも、実際は否定的なことを言ってしまっていることが多
い。イノベーターは大勢の人達からあれこれ言われるうちに疲労してしまい、モチベーションを下げ
る結果になっている。周囲はわざとイノベーターをいじめようとしているわけではないが、結果とし
て阻害してしまっている。この対策としては、普段から周囲の人達がイノベーターとの信頼関係を築
いておくことで、自分達はイノベーターを否定するためではなく刺激するために意見を出している
のだということをイノベーターに誤解されないようにすることが大切。

ゆるやかにつながれるかどうかがポイント。
「うちは特別な方法をつかっているから外部には一切情
報を出せない」というようにガバナンスをきかせすぎると、外部とつながれなくなってしまう上に、
やっている本人も仕事でやっているという意識が強くなってしまい無難なものしか生まれない。
1.3.6 第6回研究会の概要(平成 27 年 3 月 2 日)
第6回研究会では、報告書案をもとに自由討議を行った。議論の内容は以下のとおりである。
【自由討議】
(報告書案について)

本報告書は今後イノベーションに挑戦しようという人達とそれを支える周囲の人達に向けて書いた
ものであり、中小企業、大企業、地方活性化に携わる人達など、様々な立場の人を読者として想定。
13
また、内閣府からこのような内容を発信することで、今まさにイノベーションを起こそうと組織の中
で動いている人達に裏付けを提供して動きやすくするという期待ももっている。

特に大企業の中では、新しいことに取り組む社員にとって社内で説明する際に政府の報告書が裏付
けとしてあるのは非常に重要。イノベーションを起こそうという動きはまだまだ少数派ではあるが、
確実にこういった動きが出始めている。

本報告書はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに則り、誰にでも広く活用してもらえるように
「表示(※)
」のマークを付けた。昨年度の研究成果である1次報告書についても本マークを付ける
改訂を行う予定。
※原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示することを主な条件とし、改変はもちろん、
営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いクリエイティブ・コモンズ・ライセンス。
(本報告書の今後の活用・展開について)

本報告書を実際にどのようにして広げていくのか。多くの人に読んでもらうための工夫・仕組みづく
りが次の段階の課題。

イノベーション創出に向けた具体的な手法が記載されたような本であれば、長文であっても読もう
というモチベーションをもった人もいるが、具体的な手法は本報告書の概念を理解した上での次の
段階の話。具体的な手法の開発はそのコミュニティの状況・条件によって異なってくるので、実際に
現場で動いている人達がその状況に合わせて考え出すのが一番有効的。
14
1.4
インタビューの概要
【インタビューを実施した方・団体の一覧:インタビュー順】
吉藤 篤秀氏
株式会社大阪彩都総合研究所事業部 部長代理
堂野 智史氏
公益財団法人大阪市都市型産業振興センター
クリエイティブネットワークセンター大阪
メビック扇町
所長・チーフコーディネ
ーター
小山 庸子氏
大阪府商工労働部中小企業支援室ものづくり支援課製造業振興グループ 課長補佐
森本
特定非営利活動法人地域基盤技術継承プラザ 技術コーディネーター
一氏
高田 克己氏
株式会社大阪工作所 取締役会長
山野 千枝氏
公益財団法人大阪市都市型産業振興センター(大阪産業創造館)
チーフプロデューサー/広報プロモーション担当フェロー/
ビジネス情報紙「Bplatz press」編集長
多賀谷 元氏
公益財団法人大阪市都市型産業振興センター(大阪産業創造館)
事業推進支援チームリーダー
竹内 心作氏
公益財団法人大阪市都市型産業振興センター(大阪産業創造館)
事業推進支援チームシニアプランナー/中小企業応援団プロジェクト統括責任者
前川 進介氏
株式会社みんなの家 オーナー/株式会社みんなの村 代表取締役村長
井口
株式会社みんなの家 代表取締役管理人/株式会社みんなの村 村長代理
麓
元氏
貴隆氏
元町マルシェ 丹波集荷クリエイター
花田 匡平氏
株式会社丹波悠遊の森協会 アウトドアコーディネーター
領家
大阪府商工労働部中小企業支援室ものづくり支援課 参事
誠氏
原田 徹朗氏
株式会社レイ・クリエーション 代表取締役
松井 麻里氏
株式会社レイ・クリエーション ディレクター
清水 柾行氏
青空株式会社 代表取締役
【インタビュー内で出た論点】
他人事ではなく自分事として行動を起こすためには

インターンシップ生を経営者に近いところに配属し、就業体験をさせている。社長の真横で働いてい
た経験のある学生は、自分から仕事をする感覚など起業家精神を学ぶことで、自ら起業し社長になり
やすい。

学生にとって重要なのは、学生時代からトップレベルの経営者と密な関係をもち、実際の課題に向き
合い実践してみることで成長していくこと。失敗したことにこそ宝がある。
15

一般的に新入社員は若手の先輩の下に配属されることが多いが、まだ一人前になっていない若手社
員を世話係にするのは新入社員の教育に悪影響。自社では新入社員は入社後すぐに社長と膝を突き
合わせ、自分の数年後のヴィジョンを話すようにしている。また、入社のときから社外で火花が散る
瞬間(顧客に商品を喜んでもらったときや苦情を言われたときなど)と接点をもたせるようにしてい
る。

将来ヴィジョンをもって、ある局面で具体的に動いた人が成長していく(頭でわかっていても実際に
動けなければダメ)
。将来ヴィジョンをもつからこそ乗り越えるべき課題を解決しようと解決方法を
考える。また、目先のことだけを課題として捉えると成功しない。一見遠回りの道も選択できること
が重要。

受講者を経営者の子に限定した授業において、世代交代を機に企業を大きく変えた体験等をした現
役経営者に講師になってもらい、家業を継ぐ人生について考えさせている(当事者のみを集めて真剣
な議論を行う)
。継ぐか継がないかの選択の際には一般論ではなく根性論(腹をくくれるかどうか)
がメインとなるため、実際に苦労した経験者からでなければ学べない。継ぐか継がないかを決めさせ
るわけではなく、授業を通して考える機会を提供している。
未活用の人材の活性化

中小ものづくり企業では、人材・ノウハウ・経費・時間等の不足により、技能伝承が難しくなってい
る。そこでシニア等の様々なネットワークを活用して中小ものづくり企業の技能伝承、人材育成・確
保を支援する事例がある。

都会で忙しく働いていた頃は、面白いことをしようとは思わなかった。I ターン者として地方に来て、
遊びで始めたことが今の本業につながっているため、事務作業以外は仕事だと思っておらず負担に
は感じない。
イノベーション創出に有効な視点、手法とは

他業種他社の考え方をヒントに、自分達の会社に合うように製品化するパクリノベーション(他から
パクってきたイノベーション)も一つのイノベーションの形。

外に目が向くようになり、他に答えや正解があることに気付いた。この頃から、自分自身の感覚がフ
ルオープンとなり、人の気持ちがよくわかるようになってきた。

文化や世界が異なる異分野の人達との交流においては、同じものを指し示す言葉が異なったり、同じ
言葉でも意味が違ったりと、コミュニケーションレスになる要素が多い。異分野の人達が打ち解ける
には、結局は慣れ(コミュニケーション)が必要不可欠。

本音で話すことができなければ、どんなに時間をかけても単なる時間の無駄遣いでしかない。IT が
発展して価値の低い情報はたくさん溢れているが、本当に必要な価値の高い情報は人の腹の底にあ
る。また、一度相手と深くつながることができれば「類は友を呼ぶ」の法則でどんどんつながりが広
がっていく。

事業承継時における世代交代をチャンスに変えるには、子が親(創業者もしくは前経営者)とは違っ
16
た新しいことを始めることが鍵。子は、入社時は基本的に孤立していることが多いため、社長にもで
きない自分だけの武器をもつことが重要。また、親が会社における自分の役割をなかなか子に譲りた
がらずにいつまでも口を出してしまう、あるいは同じ立場で子と戦おうとしてしまうケースがある
が、こういった場合にも子が新しいことをしていれば、親はどう口を出していいかわからずに自然と
子に任せるようになる。

解決しなければならない課題や手のかかる仕事を、発想の転換により面白い企画として人を巻き込
み、コストをかけずに目的を達成するという道筋が今後のイノベーションには必要。

資金がない中でも工夫を凝らすことで各イベントを成功させてきた。ポイントは自分達でできるこ
とをしっかり見極め、できる人・やりたい人の協力を得ながら楽しくやってもらうこと。重要なのは、
イベントをやり切れる人にしか頼まないということ。やり切れる人かどうかは、イベントに必要なも
のが具体的かつ詳細に言えるか、また各工程の期限が決められるかどうかで見分けることができる。
イベント企画には新しく面白い発想が大切だが、今ある状況からどうつくっていくかという地に足
がついた現実的な提案ができることも必要。

製品開発から商品化までの間に“アート”のフィールド・考え方を通過させる手段は有効であり、ア
ートの世界から見ればその商品の可能性が広がる。実現可能かは別にしても、自己満足に近いアート
の視点をつぶせばそもそもイノベーションの芽は出てこない。例えばイノベーティブな商品の一例
として、生産過程に出てくる不良品や余りなどの端材を利用した新商品がある。これを通してこれま
での“生産の合理化”は一方で大きな無駄を生んでいたことに気付かされた。
イノベーターとコミュニティの橋渡し

I ターン者が地域に溶け込むには、U ターン者の役割が非常に重要。I ターン者は地域のしがらみや
固定観念にとらわれずに新しい視点で新しいことを起こしやすい一方、地元に受け入れてもらう手
段をもっていないため、地元との摩擦が起こりやすい。U ターン者はその地域の固定観念はあるも
のの、地域の外に出た経験があるので I ターン者などの外部の考え方を比較的受け入れやすく、地元
とのつながりをもっているので I ターン者と地元をつなぐ架け橋になることができる。なお、I ター
ン者には、自分のしたいことをする前にまずは地元のために何かをするという心がけと、頭と体を使
って自分事として本気で活動することが絶対条件。例えば地域に溶け込むためには、ただ地元住民と
コミュニケーションをとるだけでなく、地域活動を通して地元に貢献し、受け入れてもらえるよう努
力をすることが必要。
イノベーターもしくはコミュニティ内の熱量を維持するための工夫

参加者のコミュニケーションの気持ちを高めるための場のつくり方に工夫をしている(工夫例:代表
挨拶はできるだけ行わない、個々のコミュニケーションを深めるため少人数の交流機会を増やす
等)
。運営機関の中で幹部に企画の説明をする際は理論的なシナリオが必要となるが、参加者のコミ
ュニケーションを図る企画においては、実際の現場でシナリオをそのまま参加者に見せて形式のと
おりに進めようとしてはいけない。参加者には詳細なシナリオを見せずに、よりシンプルな進行だけ
17
を伝えつつ、シナリオどおりにもっていくための環境づくりを行うことが重要。その際、参加者が楽
しいとかモチベーションが上がると思う場づくりを行わないと意味がなく、このことを念頭に置い
て環境づくりをするのがポイント。

気力は時系列によって変動するものだが、なるべく気力を一定に保つには元気な人と接することが
ポイント。その際、お互いにとって良い相乗効果のある関係を保つには、相手へ依存するのではなく、
互いに刺激を享受し合い、切磋琢磨しながら、価値を高め合える関係でなくてはならない。

「ミッションがあってからのコミュニティづくり」ではなく「気の合うコミュニティがあってからの
ミッション探し・提案」の方が価値のあるものができる。

一人の人間として本音ベースで話すことができれば、絆やコミュニティが生まれ、そこから価値のあ
るクリエイティブなものが生まれる。逆に組織の看板を背負い、上司から言われたままに業務的に仕
事をこなすのでは価値のあるものは生まれない。また、どんなに素晴らしい事業を実施しようとして
も、担当者同士の仲が悪ければ組織としてやりたくても事業は成立しない。このように協働作業にお
いては、担当者同士の相性や関係性が非常に重要。

参加者をあらかじめやる気のある人に絞る。やる気のない人が入ると全体の士気が下がってしまう。

イベントなどの場面で立場関係なく共同で力仕事をやることで、お互いのつながりがより強くなる。
イノベーターを支える環境づくり

トップ層の企業は行政支援の必要性は低いが、中層・下層の企業を引っ張っていくメンターとしての
役割が期待される。

企業が危機のときに行政はほとんど直接的な力にはなれない。だからこそ、そうなる前にセミナー等
を通して事前に考えてもらう機会をつくったり、実際に困ったときに役立つ企業家同士の人的ネッ
トワークをつくってもらっている。

中小企業総合展などを見ても、まだモノさえよければ良いと思っている企業が多いように感じる。そ
れではイノベーティブな感覚が育つわけがない。社長が直接社員に対してトップレベルのことを教
えるなど教育やインフラなどの会社の風土を変えれば、自然と会社全体がイノベーティブな環境に
なる。特に若手社員はこの変化に大きな影響を受けつつ順応できるので、古くからの社員が変化を好
まない中で会社全体を変える重要な原動力にもなる。

相手が理解、共感するように一人一人が考えていることを組み替えていくことをしている。そこで
は、相手のヴィジョンを引き出しながら、巻き込み、一緒に考え、共有すること、その人が今はでき
ないと思っているがいつかできる課題をあえて押しつけることなどをしている。このような取り組
みの中ではパーソナリティで集めているという訳ではなく、人が集まる「環境」をデザインするよう
に心がけている。
直面する課題

自分で見て、考えて、行動できるような自立主体性のある人が求められる。

自治体の行政業務では、基本的にボトムアップ型の仕事が評価されることは少なく、職員はトップダ
18
ウン型の仕事で手一杯なのが現状。こういった状況下では外部とのつながりをもつ機会もイノベー
ションを起こそうという気力ももちにくい。

最終製品をつくっている企業とは異なり、加工業が中心の企業は新しいこと・モノに挑戦することが
比較的難しいため、生産の効率性(=節約)の方向に行きがち。そのため、イノベーションのような
ことも起こしにくい。
19
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