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千葉県野田市におけるコウノトリ放鳥前段階の住民意識について

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千葉県野田市におけるコウノトリ放鳥前段階の住民意識について
野生復帰(2016)4: 55−67
原 著
千葉県野田市におけるコウノトリ放鳥前段階の住民意識について
*高橋正弘1 ・本田裕子1
Local people’s consciousness just before
releasing of Oriental White Storks at Noda city,
背景・目的
Chiba, Japan
2015年のIUCNレッドリストによると,世界における
*Masahiro Takahashi1 and Yuko Honda1
絶滅危惧種は22,784種であり,これらの保護には生息数
1
Department of Human Life and Environment Studies,
を減少させている原因(例えば,生息地の破壊や乱獲,
Faculty of Human Studies, Taisho University, 3‐20‐1
外来種の移入など)を取り除くのが望ましい.しかし減
Nishi-sugamo, Toshima-ku, Tokyo 170‐8470, Japan
少が著しく,原因を取り除くだけでは絶滅を防げないと
予想される場合,対象種を飼育下において保護すること
が緊急手段として存在する.飼育下におく保護には,数
Abstract This research aims to conduct a questioner
を増やすという「増殖」を経て,野生に帰す「再導入」
survey for local people at Noda city in Chiba Prefecture,
が最終目標として存在する.再導入は,希少性の高い絶
Japan, and to analysis their recognition, concerns and
滅危惧種を対象にした野生生物保護の手段といえ,文化
hopes of them toward Oriental White Stork and its
財保護あるいは保全生態学の観点から一定の意義がある
reintroduction project at just before the three chicks
とされる(内藤ほか 2011).再導入は対象種を放すだけ
release in the city. Survey had been conducted in June
ではなく,その定着を図ることも当然含まれる.それに
to July 2015, and approximately thirty percent of people
は,対象地域の住民の理解と協力が欠かせず,さまざま
have answered the questioner.
な施策が求められる.野生復帰事業とはそれらの施策を
As a result of questioner, sixty-five percent of local
含めた総合的な政策といえる.
people have showed positive opinion for reintroduction
野生復帰事業には,対象地域でのさまざまな保全活動
of Stork and implementing a reintroduction project
を引き出すことにより,地域活性化を実現させるという
at Noda city. Around thirty percent of people have
社会的な意義も認められる.日本で最初に再導入が実
considered that the Stork means symbol and barometer
施された兵庫県豊岡市では,
「コウノトリとの共生」を
of rich environment, and thirty percent of people have
キーワードに,知名度の上昇,観光客の増加,農産物の
thought Stork is a environmentally rare and valuable bird.
ブランド化に成功し,
「環境と経済の両立」の代表的事
Regarding to environmental education dealing with Stork
例として全国的に注目されている.例えば,豊岡市内の
and its reintroduction, people have showed expected
観光施設や観光地に影響を与えたと想定して,年間約10
targets of environmental education activities should be
億円の経済効果を豊岡市に与えたと試算している(大
whole local people and children as well in the city. Sixty
沼・山本 2009).
percent people have thought that environmental education
このように野生復帰事業は対象地域にも大きな影響を
and public awareness activities are important for Stork
与えるものであり,また対象種は住民の生活空間の中に
conservation, but around thirty-five percent people
放されるため,地域住民の理解と協力を得るためにも住
haven’t recognized its necessity.
民意識を把握することは重要である.事実,野生復帰事
Key words Environmental education, Noda city, Oriental
業において,対象地域の住民から同意を得ること,住民
White Stork, Reintroduction, Questioner survey
がどのような影響を受けるのか把握することの必要性
は,IUCNが1995年に作成したに関するガイドラインで
1
大正大学人間学部人間環境学科
170‐8470 東京都豊島区西巣鴨3‐20‐1
*
指摘されている(IUCN 1995).
日本における野生復帰事業をめぐり,これまで兵庫県
豊岡市,新潟県佐渡市,長崎県対馬市において,コウノ
55
野生復帰(2016)4: 55−67
トリやトキ,ツシマヤマネコに関する住民意識を,聴取
ウノトリと住民との関わりについては少なくとも100年
調査やアンケート調査を通じて把握する試みが行われて
以上の空白期間があり,住民の意識の中には野生生物と
きている.特にアンケート調査については,コウノトリ
してのコウノトリはほとんど根づいていないと予想され
の事例では2006年 1 月と2011年 1 月に,トキの事例では
る.このことは豊岡市が1971年に野生下絶滅するまでの
2008年 8 月,2009年 1 月,2014年11月に,ツシマヤマネ
生息地であったことと対称的である.そのような中でこ
コをめぐっては2009年 1 月と2015年 1 月に実施してい
の野田市でコウノトリを放鳥させることが,住民にとっ
る(本田 2006,2009,2015;本田・林 2009;本田ほか
てどのような意味を持つのか,住民はどのようにコウノ
2010,本田・菊地 2011,本田・高橋 2015).
トリおよびコウノトリの野生復帰事業を意識しているの
上述の野生復帰事業の対象種の中で,コウノトリに着
かを把握することは,今後,各地で野生復帰が検討・計
目した場合,コウノトリの野生復帰計画そのものが近年
画されていくことを考えれば意義深いと考えられる.
国内で広がりを見せており,例えば2010年には千葉県,
野田市は全国有数の枝豆の生産量であり,水田も多
茨城県,埼玉県,栃木県の29市町村でつくる「コウノト
く,農業が盛んな自治体であるが,それと同時に都心に
リ・トキの舞う関東自治体フォーラム」が設立されてい
30kmと首都圏に通勤する人々のベットタウンとなって
る.このフォーラムに参加する千葉県野田市は,2012年
おり,宅地面積も多い.このことから,これまでコウノ
12月よりコウノトリの飼育を開始し,2013年,2014年,
トリの放鳥が実施されてきた豊岡市とは,自然環境およ
2015年と 3 年連続で繁殖を成功させている.野田市のコ
び社会環境が大きく異なっている.したがって野田市の
ウノトリ飼育施設である「こうのとりの里」が設置され
住民には都市化が進む首都圏郊外の住民としての意識,
ている江川地区は,1990年代につくばエクスプレス計画
いわゆる都市型住民であるといった意識が色濃く反映さ
に伴って宅地化計画が出たが,その後のバブル経済の崩
れていることが推察される.以上のことから,野田市で
壊により開発業者が撤退し,土地が荒れることを危惧し
実施される野生復帰は,都市型野生復帰として位置づけ
た野田市によって2006年に土地が購入され,里山環境の
ることができるだろう.
保全・管理・活用を目指した取り組みが進められてい
そこで本研究は,この千葉県野田市において,放鳥が
る.野田市は「野田自然共生ファーム」を設立し,こ
実際に行われる直前の段階で,野田市の住民がコウノト
の江川地区における復田作業や生き物調査,市民農園の
リおよびコウノトリの野生復帰をどのように捉えていた
他,江川地区の里山環境のシンボルとしてのコウノトリ
のかを明らかにするために,アンケート調査を行い,そ
の飼育を内容とした事業を展開している(Anonymous
の結果を分析することを目的とする.
2011).そして,2015年 7 月23日にコウノトリの放鳥式
典が開催され,飼育場からソフトリリースという方法
で,2015年 3 月に産まれた 3 羽のコウノトリが野外に放
方 法
鳥され,東日本で初めてとなるコウノトリの放鳥が実施
野田市の人口は155,389人となる(2015年 9 月 1 日時
された.福井県越前市でも同様の事業が実施されてい
点での住民基本台帳による人口).アンケート調査は,
る.
2015年 6 月25日に郵送により実施した.野田市選挙人
コウノトリの野生復帰は,今後日本各地で実施されて
名簿より無作為に抽出した20歳から79歳の男女500人を
いくことが予想される.しかし,野生生物との距離が近
対象とした.回収数は147通であった(回収収締切日は
く,人間の生活空間で野生復帰が実施されることが多い
2015年 7 月18日を設定した.500通発送したうち,宛先
日本においては,実施される地域の住民と野生復帰され
不明での返送が 4 通あり,496通内147通で計算した結
る生物がどのような関係を営んでいくのか,そのために
果,回収率は29.6%となる).アンケート票は全22問,枝
は地域住民が野生復帰および野生復帰される生物をどの
問を含めると全63問となる.質問内容は表 1 の通りであ
ように認識しているかを把握することは,野生復帰事業
る.
の成否に関わり重要である.
野田市をはじめ千葉県内でコウノトリの生息が確認さ
れたのは,新保(2013)によると1884(明治17)年頃と
結 果
される.また野田市内には「鴻ノ巣」という字があり,
1.回答者の属性
かつてコウノトリが生息していたことを伺わせるが,コ
「回答者の特徴(年代・性別・居住地・定住意思・職
56
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
数,
「生まれてからずっと」と合計すると7割以上に達し
表 1 .アンケート票の構成.
質問
番号
た(表 4 ).居住地域への定住意思について,
「あなたは
質問内容
以下の地域内に特別な事情が発生しない限り,今後も住
1
回答者の年代・性別
2
回答者の居住地・野田市内の居住年数
3
地域(千葉県・野田市・地区)への定住意思の程度
おいに思っている」の割合が最も大きかったのは,地
4
回答者の職業
5
「野田を象徴するもの」のイメージ
区,野田市,千葉県となった(表 5 ).それぞれの回答
6
「野田の自然」のイメージ
7
環境問題への関心の有無・関心分野
示すといえ,野田市への愛着を半数近くが持っているこ
8
野田市の環境課題
9
野田市の環境政策
とが伺える.
10
コウノトリのイメージ
11
コウノトリ及び保護への認識
こと等を想定し,複数回答とした(表 6 ).その結果,
12
野生復帰の賛否について
13
野生復帰についての心配の有無
「勤め人」が最も多く,次いで「無職」「家事専業」と
14
野生復帰についての期待の有無
15
放鳥されたコウノトリの野田での生息希望
生活者が想定される「無職」が多くなったことの背景に
16
野生復帰成功のために何かを行おうという意思
17
コウノトリ保護のための環境教育や啓発活動について
は,そもそも回答者の年齢が高いことが考えられる.
18
農業被害について
19
放鳥されたコウノトリの死亡について
が環境問題に関心があると答えていた(回答者数145
20
放鳥されたコウノトリの責任主体について
21
回答者自身のコウノトリの位置づけ
人).なお,内閣府の世論調査(内閣府 2014)では,自
22
野田市の課題
み続けようと思っていますか」という質問をした.
「お
者数が異なるが,地域への定住意思は,地域への愛着を
職業は,特に兼業で農業従事している回答者がいる
なった.
「農業」は 2 人(1.4%)と少数となった.年金
環境問題への関心の有無については,87.6%の回答者
然への関心は約 9 割あり,ほぼ同程度の関心の高さとい
える.関心のある分野としては,
「地球温暖化・オゾン
層破壊」が約 4 割と最も多く選ばれ,
「自然環境」が続
表 2 .回答者の年代・性別.
年齢層
男
女
20歳代
1( 0.7)
6( 4.1)
7( 4.8)
30歳代
9( 6.2)
8( 5.5)
17( 11.7)
40歳代
16(11.0)
11( 7.6)
27( 18.6)
居住地名
50歳代
11( 7.6)
18(12.4)
29( 20.0)
15( 10.5)
21(14.5)
14( 9.7)
35( 24.1)
山崎
60歳代
9( 6.3)
70歳代
19(13.1)
11( 7.6)
30( 20.7)
岩名
木間ケ瀬
8( 5.6)
野田
8( 5.6)
七光台
7( 4.9)
尾崎
6( 4.2)
光葉町
5( 3.5)
業・環境問題への関心・環境政策の認知)」をふまえ,
中根
5( 3.5)
回答者が母集団である野田市全域住民をどのように代表
柳沢
5( 3.5)
古布内
4( 2.8)
全体
77(53.1)
68(46.9)
合計
145(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
しているのかを述べる.なおこれ以降,アンケート結果
は質問毎で回答者数が異なっているのは,質問によって
回答がなかったものがあったからである.
1−1)回答者の特徴
回答者の平均年齢は55歳であった.回答者の年代・
性別(表 2 )は年代では,60歳代が最も多く,次に70
歳代,50歳代が続いている.性別は,男性53.1%,女性
表 3 .回答者の居住地(上位10地区)
.
回答者数
人数
143(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表 4 .野田市内での居住年数.
選択肢
生まれてからずっと
3 年未満
人数
40( 27.6)
2( 1.4)
0( 0.0)
46.9%とほぼ半数ずつであるが男性が多くなった.
3 年以上 5 年未満
居住地については, 4 人以上の回答があった地名を整
5 年以上10年未満
11(
10年以上20年未満
21( 14.5)
理した(表 3 ).山崎が15人と最も多く,岩名や木間ケ
20年以上
71( 49.0)
瀬,野田が続いた.
回答者数
145(100.0)
野田市内での居住年数では,
「20年以上」のみで約半
7.6)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
57
野生復帰(2016)4: 55−67
いた(表 7 ).東日本大震災に関連した原発事故の影響
表 5 .県内,市内および地区内への定住意思.
選択肢
で野田市がホットスポットと言われたことも関係してか
千葉県内
野田市内
地区内
おおいに思っている
44.6
52.2
52.9
少し思っている
22.8
15.0
17.4
どちらともいえない
23.9
19.5
14.9
あまり思っていない
7.6
8.8
8.3
8 ).野田市の環境政策への関心は,68.1%が「はい」と
ほとんど思っていない
1.1
4.4
6.6
回答していたが,実際の施策についての認知は,例え
「放射性物質」という回答が約 1 割存在した.
野田市の環境政策等に関しては 6 つの質問をした(表
121
ば「野田市環境基本計画」の認知が18.5%と低い.
「生物
数値は各カテゴリ内における割合(パーセント)を示す.
多様性」についての認知は,46.9%であり,前述の内閣
回答者数
92
113
府の世論調査(内閣府 2014)では,
「言葉の意味を知っ
ている」と答えた者の割合が16.7%,
「意味は知らないが
表 6 .回答者の職業(複数回答を含む)
.
選択肢
言葉は聞いたことがある」と答えた者の割合が29.7%,
人数
無職
54 (37.0)
26 (17.8)
アルバイト・パートタイム
22 (15.1)
家事専業
22 (15.1)
自営業
10 ( 6.8)
8 ( 5.5)
勤め人
公務員・団体職員・教員
「聞いたこともない」と答えた者の割合が52.4%であっ
たので,ほぼ同程度といえる.前述した「野田自然共生
ファーム」の認知は約 3 割と決して高くはなく,市民農
園への参加は1.4%と少数である.市民農園については
「存在を知らない」という回答が37.4%であり,野田市
農業
2 ( 1.4)
学生
1 ( 0.7)
林業・水産業
0 ( 0.0)
存在を普及していく必要がある.
その他
2 ( 1.4)
1−2)回答者と調査対象者の比較
回答者数
146
−
の環境政策と併せて野田自然共生ファームや市民農園の
ここでは,回答者が母集団を代表しているのか,回答
者の属性を,そもそも想定していた野田市全域の住民構
括弧内は割合(パーセント)を示す.
成と比較する.方法としては,2015年 8 月 1 日時点での
住民基本台帳と2010年国勢調査を用い,今回のアンケー
表 7 .関心のある環境問題の分野.
選択肢
人数
ト回答者を年代別,性別それぞれでの属性の構成が,住
民基本台帳・国勢調査からアンケート回答者を除くこと
地球温暖化・オゾン層破壊
49 ( 38.6)
自然環境
34 ( 26.8)
で算出した非アンケート回答者におけるそれと変わりな
ごみ・リサイクル
19 ( 15.0)
い,という帰無仮説を立ててカイ二乗検定を実施するこ
放射性物質
13 ( 10.2)
とにした.
大気汚染
8(
6.3)
自然エネルギー・省エネ
4(
3.1)
年代では国勢調査の構成とは異なるという結果となっ
化学物質
0(
0.0)
その他
0(
0.0)
た(表 9 ).特に20歳代,30歳代,70歳代において顕著
回答者数
127 (100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
な違いが見られた.性別に関しては,住民基本台帳の構
成と同じとする帰無仮説は棄却されなかった(表10).
以上の結果から,今回のアンケート回答者は,年代で
表 8 .野田市の環境政策等に関する認識.
存在を
質問
はい
いいえ
野田市の環境政策に関心があるか
68.1
31.9
−
138
平成23年に策定された「野田市環境基本計画」を知っているか
18.5
81.5
−
146
「生物多様性」という言葉を聞いたことがあるか
46.9
53.1
−
145
平成27年 3 月に策定された「生物多様性のだ戦略」を知っているか
10.1
89.9
−
79
「野田自然共生ファーム」が設立されていることを知っているか
34.9
65.1
−
146
1.4
61.2
37.4
147
野田自然共生ファームが開催する「市民農園」に参加したことがあるか
数値は各回答の割合(パーセント)を示す.
58
知らない
回答者数
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
2−1)コウノトリの保護・野生復帰の認識
表 9 .回答者と調査対象者の年齢層の比較.
年齢層
回答者
非回答者
国勢調査
まず,
「コウノトリ」のイメージであるが,約半数が
4.8)
17384( 14.5)
17391( 14.5)
「赤ちゃんを運ぶ鳥」と回答した(表11).コウノトリ
30歳代
17( 11.7)
21846( 18.3)
21863( 18.3)
40歳代
27( 18.6)
18430( 15.4)
18457( 15.4)
の保護への認識は 7 つの質問をし,表12に結果をまとめ
50歳代
29( 20.0)
20694( 17.3)
20723( 17.3)
た.コウノトリという鳥の認知や絶滅のおそれのあるこ
60歳代
35( 24.1)
26445( 22.1)
26480( 22.1)
70歳代
30( 20.7)
14765( 12.3)
14795( 12.4)
との認知は高かった.実際にコウノトリを目撃したこと
7(
20歳代
計
145(100.0) 119564(100.0) 119709(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
回答者
非回答者
字ではないが,野田市で野生復帰が計画されていること
住民基本台帳
男
77( 53.1)
78009( 50.2)
78086( 50.2)
女
68( 46.9)
77331( 49.8)
77399( 49.8)
計
ると記入した回答者もいた.兵庫県豊岡市での野生復帰
が実施されていることの認知は37.9%と必ずしも高い数
表10.回答者と調査対象者の性別の比較.
性別
のある人は少なかったが,兵庫県豊岡市で見たことのあ
145(100.0) 155340(100.0) 155485(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
に対しては74.0%であった.一方で,コウノトリの飼育
施設「こうのとりの里」については,行ったことがあ
る回答者は22.8%と低く,
「存在を知らない」が9.0%であ
り,多くの回答者が飼育施設の存在を知りながらも行っ
たことがないことがわかる.
「こうのとりの里」でコウノトリを見た感想は,21人
表11.設問『「コウノトリ」と聞いて何を最も強くイメージ
しますか』に対する回答.
が記入した.その記述から, 2 人以上が書いていたキー
ワードを抽出し,表13にまとめた.
「大きくて驚いた」
選択肢
人数
といった,コウノトリの大きさについての感想が目立
赤ちゃんを運ぶ鳥
71( 49.0)
ち,
「大空を飛ぶところが見たい」といった内容もあっ
絶滅危惧種
36( 24.8)
自然環境
14(
9.7)
た.また,野生化できるのか心配する内容,飼育施設に
野生復帰/放鳥
11(
7.6)
兵庫県豊岡市
4( 2.8)
大きい
4( 2.8)
美しい/きれい
1( 0.7)
大空を飛ぶ
1( 0.7)
農業/米
1( 0.7)
害鳥
0( 0.0)
その他
2( 1.4)
回答者数
145(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
行くのが「道がわかりにくい」といった内容,飼育にか
表12.コウノトリの保護への認識に関する質問への回答.
はい
いいえ
コウノトリという鳥
96.6
3.4
−
145
11.0
89.0
−
145
80.8
19.2
−
146
歳代の若年層の返信率が低いというアンケート調査その
ものの課題ともいえる.一般的にアンケート調査におい
37.9
62.1
−
145
て,このような偏りが生じることはやむを得ない状況で
あり,本研究でもこの偏りを前提として分析することと
した.
74.0
26.0
−
146
22.8
68.3
9.0
145
知らない
回答者数
を知っているか
野生のコウノトリを
見たことがあるか
コウノトリが絶滅の
は一部代表性が認められないものとなった.20歳代や30
存在を
質問
おそれがあることを
知っているか
兵庫県豊岡市でコウ
ノトリの野生復帰が
行なわれていること
を知っているか
今年の夏に野田市に
おいてコウノトリの
野生復帰が計画され
2.住民が捉える野生復帰に関する意識
アンケート結果から(1)コウノトリの保護・野生復
帰の認識,
(2)コウノトリの位置づけ,
(3)放鳥される
コウノトリの生息,
(4)コウノトリ保護のための環境教
育・啓発活動,
(5)野田市の課題の 5 項目に分けて整理
していく.
ていることを知って
いるか
野田市三ツ堀にある
飼育施設「こうのと
りの里」に行ったこ
とがあるか
数値は各回答の割合(パーセント)を示す.
59
野生復帰(2016)4: 55−67
表13.飼育下のコウノトリを見た感想(自由記述,上位 5 回
「コウノトリにとっていいことだから」「もともと野生
答)
.
の鳥だから」にも約 4 割の回答があった(表15).活性
感想
人数
化への期待も25.3%あるが,観光客・農業・経済効果と
大きい
6
飛ぶのが見たい
3
いったものへの期待は少数であった.
「その他」では環
野生化するか心配
3
境に関する記述が多く,最も多く選ばれていた「環境に
行くのが大変
2
経費が大変
2
とっていいことだから」を含め,野生復帰賛成の背景に
回答者数
21
は環境への期待があることが伺える.
野生復帰に対して「どちらともいえない」と回答し
た理由である(表16).最も多かったのは「自分の生活
表14.野生復帰に対する賛否.
選択肢
に関係があるのかわからないから」で41.3%の回答だっ
人数
た.次に「野生復帰がうまくいくかわからないから」
おおいに賛成
50( 34.7)
どちらかといえば賛成
43( 29.9)
どちらともいえない
46( 31.9)
「そもそもなぜコウノトリなのかわからない」「遠くに
どちらかといえば反対
4( 2.8)
おおいに反対
1( 0.7)
飛んでいってしまう」といった野生復帰そのものに関す
回答者数
144(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
が続いた.
「その他」では,
「詳細を知らされていない」
る懸念が記述されていた.
野生復帰に対して反対の理由では,そもそも回答者数
が少数であるが,
「資金の無駄だ/他の施策に資金をま
表15.野生復帰への賛否に関し「賛成」の理由(複数回答を
わすべきだと思うから」に回答が集中した(表17).そ
含む)
.
選択肢
人数
環境にとっていいことだから
44(48.4)
コウノトリにとっていいことだから
38(41.8)
もともと野生の鳥だから
36(39.6)
野田市の活性化になるから
23(25.3)
観光客が増えるから
7( 7.7)
農業にとっていいことだから
6( 6.6)
経済効果を生み出せるから
1( 1.1)
飼育されたコウノトリを見て,肯定的な感想
を持ったから
1( 1.1)
その他
7( 7.7)
回答者数
91 −
括弧内は割合(パーセント)を示す.
かる経費を心配する内容があった.
表16.野生復帰への賛否に関し「どちらともいえない」の理
由(複数回答を含む).
選択肢
人数
自分の生活に関係があるのかわからないから
19 (41.3)
野生復帰がうまくいくかわからないから
17 (37.0)
コウノトリに興味・関心がないから
13 (28.3)
賛成・反対の気持ちを両方感じているから
9 (19.6)
その他
5 (10.9)
回答者数
46
−
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表17.野生復帰への賛否に関し「反対」の理由(複数回答を
含む).
選択肢
人数
次に,野生復帰に関連した質問の結果を述べたい.
資金の無駄だ/他の施策に資金をまわすべきだ
と思うから
4(80.0)
まずは野生復帰の賛否であるが,
「おおいに賛成」が
自分に何のメリットもないから
1(20.0)
34.7%,
「どちらともいえない」が31.9%とほぼ同程度に
農業に被害を与えるかもしれないと思うから
0( 0.0)
飼育されたコウノトリを見て、否定的な感想を
持ったから
0( 0.0)
コウノトリに気をつかわなければならないと思
うから
0( 0.0)
野生復帰なんて無理/成功しないと思うから
0( 0.0)
かといえば」を含む)の理由は以下の通りである(表
コウノトリを目的に観光客などのよそ者が大勢
来るから
0( 0.0)
15,16,17)
.
その他
2(40.0)
賛成の理由で最も選ばれていた回答は,
「環境にとっ
回答者数
5 −
多く選ばれていた(表14).
「どちらかといえば反対」
「おおいに反対」は合計して3.5%と少数であった.
「賛成」(「おおいに」「どちらかといえば」を含む)
・
「どちらともいえない」・「反対」「おおいに」「どちら
ていいことだから」が48.4%と最も多く選ばれていたが,
60
括弧内は割合(パーセント)を示す.
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
もそもアンケート票には「*野田市のコウノトリの野生
表18.野生復帰に関しての心配の有無.
選択肢
復帰の資金には『みどりのふるさと基金』が活用されて
人数
心配する
71( 49.7)
おり,税金は使われておりません」と但し書きをしたの
心配していない
38( 26.6)
何も思わない
34( 23.8)
だが,それでも費用面に対する懸念が見られた.
「その
回答者数
143(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
他」でも「税金が使われていないのは本当か」といった
内容等が記述されていた.
野生復帰に関して心配の有無では,回答者の約 5 割
が,心配があるとした(表18).具体的な心配の内容は
表19.野生復帰による心配の内容(複数回答を含む)
.
選択肢
「野生に帰すことが成功するかどうか心配」に回答が集
人数
中し,約 8 割と最も多く選ばれていた(表19).周辺の
野生に帰すことが成功するかどうか心配
56 (78.9)
開発,農業面での心配,鳥インフルエンザなどの懸念は
見物客がたくさん来て、ゴミのポイ捨てなど
10 (14.1)
少数であった.
「その他」でも,
「もっと自然が多い地域
問題を起こすのではないか
周辺の開発ができないのではないか
7 (9.9)
農業面での心配(農薬や除草剤を使えなくな
7 (9.9)
る、苗が踏まれるなどの心配)
日常生活において,コウノトリに気をつかわ
5 (7.0)
なければならない
で実施した方がよい」「野田市はカラスが多いため繁殖
できない」といった内容が記述されていた.
野生復帰に関しての期待では,
「期待する」と答えた
のは回答者の61.5%であった(回答者数143人).期待す
る内容について最も多かったのが「自然環境の復元」で
鳥インフルエンザ等が発生するのではないか
3 (4.2)
あり,約 7 割であった(表20).野生復帰の賛成理由と
その他
6 (8.5)
同様に,環境への期待が強い.
回答者数
71
−
次に,放鳥されたコウノトリに対する責任(保護・事
故の場合などを総合して)を誰が最も担うべきかにつ
括弧内は割合(パーセント)を示す.
いて質問した結果であるが,最も多かったのは,
「野田
市(行政)」であり,次に多かったのが「誰も担わなく
表20.野生復帰に期待する内容.
選択肢
ていい」が続いた(表21).責任主体について選択した
人数
理由では,まず「野田市(行政)」については,
「市が企
自然環境の復元
65( 73.9)
地域経済の振興
7( 8.0)
画したものだから」といった記述,
「誰も担わなくてい
野田市としてのまとまり
6( 6.8)
農業の活性化
5( 5.7)
い」に関しては,
「放鳥したら,カラスやスズメと同じ
観光客の増加
4( 4.5)
その他
1( 1.1)
回答者数
88(100.0)
自然の生き物」といった「放鳥したら野生の鳥」という
記述であった.
野生復帰が成功するために回答者が何かする意思(参
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表22.野生復帰が成功するために行おうと思う内容(複数回
表21.「野生復帰に対する責任主体」と考えるものの回答.
選択肢
答を含む).
選択肢
人数
野田市(行政)
47( 35.1)
誰も担わなくていい
28( 20.9)
野田市民全体
16( 11.9)
国(行政)
12(
9.0)
こうのとりの里
10(
7.5)
人数
環境に配慮した生活を実践する(ごみ減量、
省エネなど)
56(69.1)
コウノトリを大事に思うようにする
27(33.3)
コウノトリの生息地づくりに協力する(田ん
ぼ・湿地・里山など)
17(21.0)
農薬をできるだけ使わない/農薬をできるだ
け使っていない作物を買う
14(17.3)
国民全体
9( 6.7)
千葉県(行政)
4( 3.0)
周辺の住民
1( 0.7)
0( 0.0)
コウノトリを活かした経済活動に協力する
(関連商品の販売・購入など)
5( 6.2)
千葉県民全体
その他
7( 5.2)
その他
1( 1.2)
回答者数
括弧内は割合(パーセント)を示す.
134(100.0)
回答者数
81
−
括弧内は割合(パーセント)を示す.
61
野生復帰(2016)4: 55−67
加姿勢)を質問した結果,何かする意思のある回答者は
55.5%,意思のない回答者は44.5%であった(回答者数
表24.設問『「野田を象徴するもの」と聞いて何を最も強く
イメージしますか』に対する回答(自由記述).
146人).具体的な内容では,
「環境に配慮した生活を実
回答
践する」が約 7 割と最も多く選ばれ,
「コウノトリを大
醤油
78( 55.3)
キッコーマン
29( 20.6)
枝豆
13(
事に思うようにする」が33.3%と続いた(表22).農薬の
不使用や生息地づくりなど,コウノトリの生息に直接関
人数
9.2)
清水公園
3( 2.1)
係するような行動と比較すると少なかった.
コウノトリ
3( 2.1)
2−2)コウノトリの位置づけ
関宿城
2( 1.4)
桜
2( 1.4)
川
2( 1.4)
東武野田線
2( 1.4)
その他
7( 5.0)
「あなたにとって『コウノトリ』とは何ですか」の質
問では,
「豊かな自然環境の象徴やバロメータ」と「貴
重な鳥」が最も多く選ばれた.ただ,
「別に何も思わな
い」「他の生きものと一緒」が続き,
「野田市の活性化の
起爆剤」「野田市の誇り/象徴/シンボル」といった回
回答者数
141(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
答は比較すると低い(表23).
表23.設問『あなたにとって「コウノトリ」とは何ですか』
に対する回答.
選択肢
強くイメージしますか』に対する回答(自由記述).
回答
人数
豊かな環境の象徴やバロメータ
39( 27.7)
貴重な鳥
39( 27.7)
別に何も思わない
17( 12.1)
他の生きものと一緒
15( 10.6)
野田市の活性化の起爆剤
12(
8.5)
野田市の誇り・象徴・シンボル
7( 5.0)
一度絶滅した鳥
6( 4.3)
農作物を販売するうえでの付加価値
1( 0.7)
経済効果を生み出すもの
1( 0.7)
世話のかかるもの・面倒なもの
1( 0.7)
苗を踏み倒す害鳥
0( 0.0)
その他
3( 2.1)
回答者数
表25.設問『「野田の自然」と聞いてどのような場所を最も
141(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
人数
清水公園
58( 41.7)
川・河川
12(
8.6)
江戸川
5( 3.6)
江戸川・利根川
4( 2.9)
利根川
3( 2.2)
江戸川と利根川に挟まれた所
3( 2.2)
利根運河
2( 1.4)
田畑
16( 11.5)
森林・緑
12(
8.6)
里山
6( 4.3)
コウノトリ
5( 3.6)
公園
2( 1.4)
ゴルフ場
2( 1.4)
その他
9( 6.5)
回答者数
139(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
「野田を象徴するもの」と「『野田の自然』のイメー
ジ」については,自由記述で1つ記入してもらう形式を
とった.結果は,表24および表25に整理した.
「野田を
象徴するもの」では,
「醤油」という回答が55.3%で最も
多く,
「キッコーマン」と合計すると約 7 割となる(表
24).
「『野田の自然』のイメージ」は,
「清水公園」が
41.7%と最も多くなり,次に,江戸川や利根川と合計す
ると「川・河川」に関連したものとなる(表25).どち
らもコウノトリについての記述はあるが少数となってい
表26.放鳥されたコウノトリが死亡してしまう可能性がある
ことについての回答(複数回答を含む).
選択肢
人数
野生の生き物なので仕方がない
自然環境の整備が必要と感じる
88 (63.3)
47 (33.8)
かわいそう/悲しい
30 (21.6)
今まで費やした資金の無駄だと思う
16 (11.5)
これ以上野生復帰をする必要がないと思う
12 ( 8.6)
11 ( 7.9)
行政に責任を感じる
天敵となる動物を駆除すべきだと思う
8 ( 5.8)
そもそも野生復帰をしなければよかった
5 ( 3.6)
関心・興味がない
6 ( 4.3)
ことに関しては,
「野生の生き物なので仕方がない」が
その他
4 ( 2.9)
63.3%と最も多く選ばれていた(表26).次に「自然環境
回答者数
る.
放鳥されたコウノトリが死亡してしまうかもしれない
の整備が必要と感じる」33.8%,
「かわいそう/悲しい」
62
括弧内は割合(パーセント)を示す.
139
−
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
表27.放鳥されたコウノトリの野田での生息希望の有無.
選択肢
人数
92( 64.3)
生息してほしい
4( 2.8)
生息してもらいたくない
42( 29.4)
どちらでもいい
視されていた.したがって,将来的にコウノトリの生息
数が増加した際に問題視されるような危惧もある.そこ
で農業被害について質問した結果を取り上げる.まず,
5( 3.5)
農業に被害を与えると思うかどうか質問した結果は「わ
143(100.0)
からない」が66.2%と最も多く,
「はい」は11.0%となっ
関心がない
回答者数
め,かつて田植え後の苗を踏み倒すとして農家から害鳥
た(表29).したがって現時点では,農業被害について
括弧内は割合(パーセント)を示す.
わからないと捉えられていることが伺える.被害が深刻
表28.放鳥されたコウノトリが野田で「生息してほしい」と
な場合の方法としては,
「被害がまだ発生していないの
回答した理由.
で現段階で議論する必要がない」が半数以上選ばれてい
選択肢
人数
自然環境が豊かであることを示すから
54(58.7)
野田市の誇り・象徴・シンボルとなるから
16(17.4)
コウノトリが見たいから
11(12.0)
た(表30).多くの回答者が農業被害について,判断で
きないと考え,現段階で議論する必要がないと考えてい
ることがわかる.
野田市の活性化につながるから
6( 6.5)
2−4)コウノトリ保護のための環境教育・啓発活動
コウノトリを飼育していたから
3( 3.3)
経済効果を生み出すから
0( 0.0)
コウノトリの主要な生息環境は水田であり,それは人
その他
2( 2.2)
回答者数
92(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表29.放鳥されたコウノトリが農業に被害を与えると思う
か.
選択肢
人数
はい
16( 11.0)
いいえ
33( 22.8)
わからない
96( 66.2)
回答者数
145(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
21.6%と続いた.回答者の多くが放鳥されたコウノトリ
を野生の生き物として,その死を捉えていることがわか
る.また,その死亡の原因として考えられている,自然
環境の整備を必要としていることも伺える.
2−3)放鳥されるコウノトリの生息
間の生活空間と重なる.前述のように,かつてコウノト
リは水田に入り苗を踏み倒すということで害鳥視されて
いたこともあり,今後も放鳥を実施するのであれば住民
表30.放鳥されたコウノトリが深刻な被害をもたらした場合
の対処方法.
選択肢
人数
被害がまだ発生していないので,現段階で議
論する必要はないと思う
62( 55.9)
被害を受けた農家への金銭的補償
23( 20.7)
捕獲、場合によっては駆除
7( 6.3)
関心・興味がない
7( 6.3)
何もするべきではない
6( 5.4)
その他
6( 5.4)
回答者数
111(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表31.コウノトリの保護に向けた環境教育や啓発活動の対
象.
放鳥されるコウノトリの生息に関して回答者がどのよ
1番目
2番目
人数
人数
うに考えているのか,生息希望やかつて害鳥であったこ
選択肢
とをふまえ,農業被害について質問した結果を述べてい
野田市全域の住民
53( 37.1)
25( 21.0)
く.
国民全体
40( 28.0)
23( 19.3)
生息地周辺の住民
21( 14.7)
11(
野田市全域の子ども
16( 11.2)
33( 27.7)
まず,野田での生息を希望するかについては,回答者
の約 6 割が「生息してほしい」と答えた,
「生息しても
らいたくない」や「関心がない」は少数であった(表
27).生息希望の理由では「自然環境が豊かであるこ
8(
9.2)
6.7)
行政職員
9( 6.3)
野田市内の農業従事者
3( 2.1)
観光客
0( 0.0)
5(
4.2)
14( 11.8)
観光業者
0( 0.0)
0(
0.0)
とを示すから」が最も多く選ばれ,集中していた(表
その他
1( 0.7)
0(
0.0)
28)
.
回答者数
コウノトリは水田が重要な採餌場所となっているた
143(100.0)
119(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
63
野生復帰(2016)4: 55−67
の理解と協力を進めていく必要がある.また,
「なぜ野
田でコウノトリなのか」という意見も少数であったが存
表32.コウノトリの保護に向けた環境教育や啓発活動の内
容.
在する.これらのことをふまえると,環境教育や啓発活
選択肢
動によって,コウノトリやその保護についての意義を十
コウノトリを含む野田の自然環境
41( 29.1)
コウノトリの生態・特徴
29( 20.6)
今後のコウノトリの野生復帰計画の展望
19( 13.5)
コウノトリが生息している場所の情報
12(
分に認知させていくことが重要と判断される.そこで,
今回のアンケートでは,コウノトリの保護活動に関する
環境教育や啓発活動について質問した.
人数
8.5)
野田市によるコウノトリの保護政策
9( 6.4)
環境教育や啓発活動の対象として,重要だと考える 1
コウノトリの飼育数および野生下での生息数
8( 5.7)
番目および 2 番目の対象をそれぞれ回答してもらった.
コウノトリを活用した地域活性化の取り組み
8( 5.7)
この形式は,環境教育や啓発活動の対象が 1 つに限定さ
コウノトリの天敵やコウノトリの生息を脅か
す外来種
6( 4.3)
コウノトリと他の鳥との違いや見分け方
2( 1.4)
水田やビオトープに生息する生きもの
2( 1.4)
「野田市全域の住民」の37.1%となった(表31).次が
市民団体によるコウノトリの保護活動
2( 1.4)
「国民全体」「生息地周辺の住民」「野田市全域の子ど
その他
3( 2.1)
も」が続いた. 2 番目については,
「野田市全域の子ど
回答者数
れるものではないためであり,上位 2 つを把握する試み
をしたものである. 1 番目として,最も多かったのが,
も」が最も多く選ばれ,
「野田市全域の住民」,
「国民全
体」が続いた. 1 番目, 2 番目ともに,上位の選択肢は
共通していたが, 2 番目については「野田市全域の子ど
も」が 1 番目に比べて選ばれていた.また「野田市内の
農業従事者」「観光客」も同様である.また, 2 番目の
141(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表33.コウノトリの保護に向けた環境教育や啓発活動の方
法.
選択肢
人数
学校の授業の中での学習・体験活動
38( 27.5)
紙媒体の広報誌を通じた定期的な情報の発信
25( 18.1)
インターネットのサイトを通じた定期的な情
報の発信
20( 14.5)
ポスターやチラシ、ステッカーなどを活用し
た広報活動
19( 13.8)
を含む野田の自然環境」についてが,最も多く選ばれ,
コウノトリに関するイベント・研修会・講習
会の実施
18( 13.0)
「コウノトリの生態・特徴」が続き,主に自然環境につ
生息地整備などのボランティア活動
10(
いて情報を求めているといえる(表32).
コウノトリの見学や観察
6( 4.3)
その他
2( 1.4)
回答者数が 1 番目に比較すると少なく,回答も分散して
いた. 1 番目の回答で「野田市全域の住民」が多くなっ
たこともあり, 2 番目の回答がしにくかったかもしれな
い.
環境教育や啓発活動の内容については,
「コウノトリ
環境教育や啓発活動の推進方法として,
「学校の授業
の中での学習・体験活動」が最も多く選ばれ,
「紙媒体
の広報誌を通じた定期的な情報の発信」,
「インターネッ
トのサイトを通じた定期的な情報の発信」,
「ポスターや
チラシ,ステッカーなどを活用した広報活動」,
「コウノ
回答者数
138(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
表34.コウノトリの保護のために環境教育や啓発活動が必要
かどうか.
トリに関するイベント・講習会・研修会の実施」が続
選択肢
き,回答が分散していた(表33).このことから,野田
はい
市民はコウノトリをめぐる環境教育や啓発活動につい
いいえ
て,さまざまな内容のものをバランスよく企画し実施す
わからない
ることを期待しているということが読み取れる.
回答者数
コウノトリ保護のために環境教育や啓発活動が必要か
7.2)
人数
87( 60.4)
6( 4.2)
51( 35.4)
144(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
どうかについては,
「はい」が60.4%であった(表34).
しかし,
「わからない」という回答が35.4%存在してお
動が行われていると思うかという質問には,
「あまり行
り,一部の住民に対して環境教育や意識啓発の重要性が
われていないと思う」が最も多く選ばれ,
「少し行われ
十分認知されていないということも伺える.そして,実
ていると思う」が続いた(表35).この質問についても
際に野田市でコウノトリ保護のために環境教育や啓発活
「わからない」が約 2 割存在している.
64
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
表35.コウノトリの保護のために環境教育や啓発活動が野田
「医療・福祉サービスの充実」「自然災害への対策」で
市で行われていると思うか.
あり,下位となったのは「観光客の増加」「鳥獣被害対
選択肢
人数
策」「農林漁業の振興」であった(図 1 ).
十分に行われていると思う
14(
少し行われていると思う
42( 29.4)
あまり行われていないと思う
55( 38.5)
要」に 4 ,
「やや重要」に 3 ,
「あまり重要ではない」に
4( 2.8)
2,
「ほとんど重要ではない」に 1 を併記していた)は
まったく行われていないと思う
わからない
回答者数
9.8)
28( 19.6)
143(100.0)
括弧内は割合(パーセント)を示す.
各項目の平均値と標準偏差(質問において「非常に重
表36に整理した.平均値は3.60から2.57の幅となった.
特に「観光客の増加」,
「鳥獣被害対策」,
「人口の減少」
においては,回答者によって重要度の認識にばらつきが
あることが伺える.
また,住民に把持されている「野田市の環境課題」に
ついては以下のとおりである.アンケート票では,
「野
田市には,どのような環境の課題があると思いますか」
と自由記述での質問をした.キーワードを集計し,表37
の結果となった.最も多く記述されていたのは「ごみ」
に関するものであり,ポイ捨てや不法投棄,リサイク
ルなどの視点であった.
「16号」「関宿」など具体的な場
所を記述する回答も見られた.次に多かったのが,
「自
然」に関するもので,多くが自然の開発を悲しむもので
表36.野田市における課題としての重要性の程度.
項目
図 1 .野田市における課題としての重要性の程度.
以上から,コウノトリ保護のための環境教育や啓発活
動を考えていくうえでは,野田市全域の住民を対象に広
く実施していくことが必要と捉えられているといえる.
しかし環境教育や啓発活動の重要性が十分伝わっていな
いこと,学校教育と学校外での教育を連携させる必要性
値
医療・福祉サービスの充実
3.60±0.55
子どもの教育環境の充実
3.59±0.56
自然災害への対策
3.50±0.61
ごみ・リサイクル制度の充実
3.44±0.68
自然環境の整備
3.40±0.66
公共交通・道路の整備
3.38±0.73
雇用の確保・就労支援
3.36±0.70
商工業の振興
3.16±0.66
人口の減少
3.08±0.78
農林漁業の振興
2.98±0.73
鳥獣被害対策
2.76±0.78
観光客の増加
2.57±0.84
値は平均±標準偏差を示す.
があることなどといった課題も浮き上がってくるが,い
ずれにしてもコウノトリの生息や自然環境,野生復帰計
表37.野田市における環境課題(自由記述,複数回答を含む)
.
画の展望について,野田市民は情報を求めており,それ
回答
人数
らに関する環境教育や啓発活動を求めているということ
ごみ・ポイ捨て・不法投棄・リサイクル
36 (35.0)
が理解できる.
自然の開発・自然の保護・森林減少
29 (28.2)
鳥獣被害(カラス含む)
10 ( 9.7)
交通(道路・電車)整備
5 ( 4.9)
放射性物質・ホットスポット
4 ( 3.9)
自動車による大気汚染・騒音
3 ( 2.9)
地球温暖化
2 ( 1.9)
空き家・過疎化
2 ( 1.9)
的かつ多面的にどのようなニーズがあるかを考えてい
その他
9 ( 8.7)
るかを把握することを目的に行った質問である.その
回答者数
2−5)野田市の課題
野田市の課題として12項目を挙げ,それぞれの項目に
ついてどの程度重要と考えるかについて質問した.これ
は,実際に人々が居住している野田市に対して,全般
結果,上位となったものは,
「子どもの教育環境の充実」
103
−
括弧内は割合(パーセント)を示す.
65
野生復帰(2016)4: 55−67
あり,
「自然を残してほしい」といった記述があった.
ところで野田市の「地域のシンボル」としてコウノト
他には,カラス被害,放射性物質についての情報公開を
リを捉えようとする意識がほとんど見られなかったこと
求める記述が見られた.1つのみの回答を「その他」と
は,注目すべき点である.このことは,これまでの調査
して集計したが,そこには,
「下水」「農薬汚染」「公務
研究(本田 2006)(本田・菊地 2011)とは明確に異な
員の環境問題意識」といった記述があった.
るものである.つまり野田市ではコウノトリを「地域の
シンボル」として位置付けるのではなく,広く「自然環
考 察
境のシンボル」と捉えていることに特色が現れていると
考えられる.野田市は枝豆が全国有数の出荷量であるな
以上の集計の結果から,放鳥直前の段階における野田
ど,農業も盛んな自治体であると同時に,首都圏のベッ
市の住民は,コウノトリおよびコウノトリの野生復帰に
トタウンであり宅地面積も広いため,都市化が進む首都
対し,全般的に肯定的かつ好意的な捉え方をしている,
圏郊外の都市住民としての意識が有されていることが推
ということが明らかとなった.国内でのコウノトリの野
察される.そのような自治体である野田市の住民が,今
生復帰が実施されたのは野田市が 2 例目であり,多くの
回のコウノトリの野生復帰の実施を契機に,地域活性化
回答者に肯定的かつ好意的に捉えられたということは,
に向けた意識の在り方をどのように変化・発展させてい
今後日本各地でのコウノトリの野生復帰実施を推進でき
くかについては,今後も継続して注視していくことが必
る材料となり得るものといえる.
要となろう.
コウノトリの野生復帰に対して肯定的かつ好意的な意
そもそも野生生物の復帰事業であるならば,野生復帰
識が持たれていることの背景には,すでにコウノトリが
後の当該野生動物の生息域に関しては人間の期待どおり
「自然環境のシンボル」として市民に認識されているこ
には当然ならない.特にコウノトリのような「鳥」であ
とが挙げられる.つまり野生復帰事業に伴って,野田市
れば,放鳥後は国内のみならず国外へも移動していく可
の「自然環境がよくなる」という期待がもたれていると
能性もある.野田市におけるアンケート調査では,放鳥
いうことが伺える.
されたコウノトリには野田市で生息してほしい,という
一方で環境教育や環境意識の啓発をめぐっては,さま
希望を持っていた回答者は約 3 分の 2 にものぼったが,
ざまな課題が存在することの示唆が得られた.特にコウ
現実的には,2015年 7 月に 3 羽放鳥されたコウノトリは
ノトリ保護のための野田市における環境教育や啓発活動
そのすべてが野田市には定着しておらず, 1 羽は2015
については,依然として十分ではないと意識している住
年12月に死亡し, 2 羽は他県に移動してしまっている
民が多いことが示されている.つまり野生復帰の成否の
(2016年 2 月時点).
重要なアクターである住民からの協力を得るための環境
このことから,コウノトリの野生復帰事業を担った野
教育の在り方について,その対象者や内容を含めた検討
田市役所が放鳥したコウノトリが他の自治体に移動して
が必要である,ということが明らかになった.行政が中
しまうことについてどのように評価するか,また放鳥し
心となって計画し実施する野生復帰事業には,当然地域
たコウノトリが野田市に定着していない期間が一定程度
住民の協力が不可欠となる.地域住民からの支持と協力
続いた段階で,野田市の市民感情がどのように推移する
を得るためにも,地域住民への何らかの環境教育や意識
かについて追跡調査をしていくことは,今後の課題とし
啓発が必要となるが,市民の側が環境教育や意識啓発の
て重要と思われる.
内容や対象者,そのあり方についてどのように受け止め
コウノトリの放鳥の国内最初の例は2005年に兵庫県豊
てどのようなものを期待をしているのかが,今回のアン
岡市で行われたものであるが,これは西日本の農村地帯
ケート調査によって明らかになった.このことから,環
で実施されたものである.今回の事例の野田市は, 確
境教育の実施主体のニーズを汲んだ環境教育を遂行する
かに水田が広がっている農村地帯であるという一面があ
ばかりではなく,環境教育の受け手であり,野生復帰を
るものの,その一方で東京のベットタウンともいえるほ
支える市民からのフィードバックが確立している環境教
ど都市化が進展している地域でもある.つまり野田市の
育を企図していくことが必要である.そしてそれを具体
住民意識は,豊岡市に比べて都市の住民であるという意
的に担保するのは,地域における環境教育計画を策定す
識が強いことが推察される.都市住民の意識傾向が強い
ることであり,その策定に地域住民,もしくはその代表
ことで,環境保全や野生生物の保護,開発や教育に対し
者が参加するルートを確保することも重要であろう.
て,豊岡市のような意識とは異なるものが把持されてい
66
高橋正弘・本田裕子:野田市における野生復帰に関する住民意識
る可能性がある.よって野田市の事例を,都市型野生復
帰に際しての先行的事例として捉え,今後同様の事業展
引用文献
開を企図していく上でこれに注視していくことは,環境
Anonymous(2011)多様な生物との共生をめざし,貴重な谷
行政および環境教育計画を展開する上で有効であると思
津田と利根運河の再生を図る(クローズアップ自治体経
われる.
営改革 第11回 千葉県野田市).アカデミア,96:24−28.
本田裕子(2006)放鳥直後における住民の視点からのコウノ
トリ放鳥の意義−新豊岡市全域のアンケート調査から.
謝 辞
アンケート調査に返信いただいた千葉県野田市の皆様
にはお忙しいところ回答いただき,ありがとうございま
した.なお本研究は,科学研究費補助金 基盤研究(C)
「環境課題が庸俗なアジアの自治体におけるコミュニ
ティ支援型環境教育の研究」(研究課題番号26350244)
を受けて実施したアンケート調査のデータを利用した.
東京大学農学部演習林研究,116:113−143.
本田裕子(2009)放鳥直前期におけるコウノトリ放鳥への住
民意識−野田市全域のアンケート調査から.東京大学農
学部演習林研究,121:149−172.
本田裕子(2015)放鳥 6 年経過後のトキの野生復帰事業に関
する住民意識について−佐渡市全域のアンケート調査か
ら−.大正大學研究紀要,100:259−290.
本田裕子・林 宇一(2009)放鳥直後期におけるコウノトリ
放鳥への住民意識−野田市全域のアンケート調査から−.
山階鳥類学雑誌,121:74−100.
本田裕子・林 宇一・玖須博一・前田 剛・佐々木真二郎
摘 要
千葉県野田市でコウノトリの放鳥が行われる直前の段
(2010)ツシマヤマネコ保護に対する住民意識−対馬市
全域住民を対象にしたアンケート調査より.東京大学農
学部演習林研究,122:41−64.
階で,野生復帰およびその事業に関する住民の意識調査
本田裕子・菊地直樹(2011)コウノトリの野生復帰に関す
を2015年 6 月から 7 月にかけて実施した.無作為に抽出
る住民アンケート(2011年 1 月)結果報告.野生復帰,
した住民500名を対象としたアンケート調査を郵送回収
法により実施したところ,回収率は約30%となった.分
析の結果,コウノトリの野生復帰事業が野田市で行われ
ていることについて,約65%の回答者が肯定的な意見を
持っていた.また回答者の約 3 分の 1 がコウノトリは豊
かな自然環境のシンボルおよびバロメータであり,また
同じく約 3 分の 1 がコウノトリは貴重な鳥である,と認
識していることが明らかになった.そしてコウノトリお
よびその野生復帰をめぐる環境教育については,多くの
1:93−107.
本田裕子・高橋正弘(2015)ツシマヤマネコとその保護活動
をめぐる住民の認識に関する研究−対馬市民へのアン
ケート調査から−.地域政策(高崎経済大学地域政策学
会発行),18(1):79−98.
IUCN (1995)Guidelines for Re-introduction. Prepared by
the IUCN/SSC Re-introduction Specialist Group. IUCN,
Gland, Switzerland and Cambridge, UK.
内閣府(2014)環境問題に関する世論調査(2014年 9 月公
表).[http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-kankyou/]
内藤和明・菊地直樹・池田 啓(2011)コウノトリの再導入
−IUCNガイドラインに基づく放鳥の準備と環境修復−.
保全生態学研究,16:181−193.
住民がその対象者は野田市の住民すべて,もしくは野田
大沼あゆみ・山本昌資(2009)兵庫県豊岡市におけるコウノ
市の子ども,としていること,そして約60%の住民が環
トリ野生復帰をめぐる経済分析−コウノトリ育む農法の
境教育・意識啓発活動はコウノトリ保護のためには重要
である,と認識していることが明らかとなった.
キーワード 環境教育,野田市,コウノトリ,野生復
帰,アンケート調査
経済的背景とコウノトリ野生復帰がもたらす地域経済へ
の効果.三田学会雑誌,102(2):191−211.
新保國弘(2013)コウノトリの舞うまでに−ガン・ツル・コ
ウノトリに見る野田の自然史.崙書房出版,千葉,202 p.
(2016年 2 月 5 日受理)
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