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「明治著名人自筆原稿」展 - 学校法人 東京聖徳学園
特別展覧会 「明治著名人自筆原稿」展 -林芙美子の生誕 100 年にちなんで- ごあいさつ 新世紀になり、社会の進歩は著しく、科学技術は一段と加速されて、私たちの生活は大きく変化しております。近年におけ る全く予想できない様な不幸な出来事などは考えさせられるものが多々あります。このような時にこそ、しっかりとした理 念を持ち続けることが必要です。本学の「和」の精神は、まさしくその理念を打ち立てる上での大切な基礎になります。 「温故知新」と言われるようにかつての時代から学ぶことは大切であります。特に明治時代に生まれ育った著名人はその後 の日本の近代化を成し遂げる上で重要な役割を担ってきました。今一度、明治期を振り返ってみて、その良さや現在との相 違について考えてみることも必要になるでしょう。 本学は、日本近代作家の自筆原稿を数多く所蔵しておりますが、本展覧会では、詩・俳句・短歌という明治期に大きく変革 を遂げた文学における著名人の自筆原稿を中心に展示しています。さらに、今年は、女流作家として有名な林芙美子が生誕 100年を迎えます。代表作「放浪記」の原稿も公開致します。文明開化の時代に生きて西洋の近代文学に接した、これら の明治期に生まれた著名人による、生き生きとした躍動感のあふれる自筆原稿をとおして、活字からでは決して得られない 本物のもつ魅力から新たな感動が得られれば幸いです。 平成14 年1月 学校法人東京聖徳学園理事長 聖 徳 大 学 学 長 聖 徳 大 学 短期 大学部 学長 学園長 川 並 弘 昭 明治期の近代文学とその後 江戸から明治へと時代が変わった事により、今までの価値観は大きく変化する。明治に生まれた文学者達の中には、新し い試みに挑戦するものや、今までの日本文学の原点に立ち返ろうとするものなどさまざまな著名人が輩出する。坪内逍遥が 提唱した写実主義(現象の模写を重視)は、紅露時代を築きあげた尾崎紅葉・幸田露伴等に受け継がれる。なかでも西欧の 近代文学に接することにより、それまでの伝統的な短歌とは異なる新体詩が生まれ、島崎藤村による浪漫主義(自由な感情 表現を重視)の雰囲気をもった詩『若菜集』などが、高い評価を受けるようになる。その後、蒲原有明をはじめ北原白秋、 三木露風により象徴詩がつくられる。一方では、自然主義(自己の解放を重視)運動の影響もあり、口語による近代詩は萩 原朔太郎、堀口大学によって強い刺激をうける。また、近代の俳句の幕開けは、正岡子規による客観的描写から始まり、水 原秋桜子のように叙情的な句も現れる。 明治末には、田山花袋らが中心となった自然主義と、それに対抗する耽美派(美の追求を重視)の主張があって、永井荷 風・谷崎潤一郎が活躍する。そして、明治末期∼大正初期にかけて“話し言葉”と“書き言葉”が一致した口語文体(言文 一致体)が完成するにいたり、近代文学は確立される。 大正デモクラシーの影響を受け、文学は市民文学としての傾向を強め、「新思潮」(久米正雄他)「三田文学」「奇蹟」な どの同人誌系作家の活躍が見られる。川端康成は、大正末に生まれた新感覚派(表現技法を重視)の活動を推進した。第二 次大戦中には、火野葦平のような戦争文学も生まれるが、終戦後の民主主義社会が進む中で作家達が創作活動を再開する。 哲学者である津田左右吉は痛烈に戦後の混乱した国家を批判している。一方、マスコミの発達、大衆社会の誕生によって、 文学の大衆化・多様化が進み、吉川英治、林芙美子など個性的な著名作家達が登場する。 *太字は、展示中の作家であることを示す。 用語解説 新 体 詩 ・・・・・・・ 西欧の詩を手本とし、用語の現代化を図り、短小な短歌には複雑な思想は盛り込めないとして長くて新しい形態 の詩をつくった。島崎藤村の『若菜集』によって文学的価値を得られるようになる。 象 徴 詩 ・・・ ・・・・・・・ 抽象的な観念を幻想の記述や音楽性の付与などによって表現しようとした新体詩は、西欧の象徴主義の影響に よって、浪漫主義に新たに象徴味が加わり、蒲原有明の『有明集』と薄田泣菫の『白羊宮』によって日本の象徴 詩と呼べるまでに到達する。さらに北原白秋や三木露風らによって深められる。 印 象 主 義 ・・・・・ 19世紀後半のフランスを中心とした国際化した最大の美術運動。正岡子規や高浜虚子の作品は、その例であ る。蒲原有明や木下杢太郎も印象主義とされることがある。 口 語 詩 ・・・ ・・・・ 現実に即した感情の重視ということで、言文一致詩(口語詩)が生まれ、室生犀星や武者小路実篤らが活躍す る。萩原朔太郎の『月に吠える』によって口語詩の可能性が広がり、堀口大学の訳詩集『月下の一群』は、その 後の昭和期の詩や小説までも影響を与える。 写 実 義 ・・・ 主 現実をありのままに描写しようという文学上の主張。西欧で18世紀に起こり、日本では坪内逍遙が「小説真髄」 (明18)で提唱して始まり、尾崎紅葉や幸田露伴らが受け継いだ。 浪 漫 義 ・・・ 主 18世紀末∼19世紀後半に西欧で展開された文芸思想で、日本では世界や人生を主観的にとらえて、思想や感 情を自由に表現することを重視した。北村透谷や島崎藤村らが「文学界」などに作品を発表し、活躍した。 自 然 義 ・・・ 主 元はフランスの作家ゾラが提唱した文学上の主張で、遺伝や環境といった自然科学的、実証主義的な手法の創 作活動を行った。しかし日本では、作家自身が「自己」にこだわり、社会性を欠いた独自の自然主義(日本自然主 義)が展開され、明治末には殆ど終息してしまった。小説に転じた島崎藤村、田山花袋らがいる。 耽 美 派 ・・・・・ 19世紀後半に西欧で生まれた主張で、文学においても美しさが求められ、工夫が凝らされた。日本では自然主 義への反発として始まり、永井荷風や谷崎潤一郎が活躍した。 白 樺 派 ・・・・・ 文芸雑誌「白樺」(明43.4∼大12.8)に作品を発表した武者小路実篤、志賀直哉、木下利玄、有島武郎らの 文学グループ。人類愛・人間尊重の思想を中心に、善と美の思想を追求して人道主義的な傾向を備えていた。 大正デモクラシ ー ・・・・ 主に政治・社会・文化などの諸分野に現れた自由主義的、民主主義的な潮流をいいますが、大正時代を象徴す る言葉として、第二次世界大戦後の歴史研究の中で生まれた用語。第一次世界大戦当時の世界的な風潮でも あった。 新 感 覚 派 ・・・・・ 大正末から昭和初にかけて雑誌「文芸時代」に作品を発表した川端康成、片岡鉄兵、横光利一らの文学グルー プを、千葉亀雄が「新感覚派の誕生」と評したことからこの名がついた。表現技法を重視した。 モダニズ ム 文 学 ・・ 昭和初期に発表された、ナンセンスとエロティシズムの傾向を備えた作品。梶井基次郎は風俗的なモダニズムと は別の、独自の作品世界を築いた。 転 向 学 ・・・ 第二次大戦時下で、プロレタリア運動・プロレタリア文学運動から多くの人間が転向を表明し、それを題材に著し た一連の文学を指す。 文