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地球規模課題対応国際科学技術協力

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地球規模課題対応国際科学技術協力
新様式
20101001
地球規模課題対応国際科学技術協力
(分野・領域「開発途上国のニーズを踏まえた感染症対策研究」)
課題・案件名「ガーナ由来薬用植物による抗ウイルス及び抗寄生虫活性候補物
質の研究」
(相手国: ガーナ共和国)
平成23年度実施報告書
(上期 ・ 下期)
代表者氏名 山岡 昇司
所属・役職 東京医科歯科大学大学院・医歯学総合研究科・教授
<平成21年度採択>
≪所属・役職は、正式名称で記載して下さい(記載された所属・役職がそのまま JST 年報に掲載・公開されます)。
同様に、独立行政法人の(独)、企業の(株)などの記載漏れがないようにお願い致します。また前年度末までに
ご報告いただいた所属・役職に変更が生じていた場合、変更後のものも併記してください(括弧内に表記)。所
属は、研究所なら部門等、大学ならば研究科レベルまでの記載をお願い致します。≫
※注意
(JST年報に掲載し公開)と記載した項目については、原則としてその項目内の編集、変更は行わずに JST 年
報に掲載し、JSTの HP により公開致します。知的財産等の確保に十分ご配慮のうえ、作成をお願い致します。
また、くれぐれも誤字脱字にご留意くださいますよう、重ねてお願い申し上げます。
JICA では原則内部資料として報告書を活用いたしますが、一般に公開する可能性があるため、未公開特許
に関する情報など、公開すべきでない事項については含めないよう注意して作成して下さい。
1
1.プロジェクト全体の実施の概要 (JST年報に掲載し公開)
(本プロジェクトのねらい、これまでのプロジェクトの概要、プロジェクト進捗状況、プロジェクト成果、今後の見通
し等について、簡単に、分かり易く、数百字から1千字程度にまとめて下さい。)
ガーナでは先進医療の理解と普及がじゅうぶんでなく HIV、マラリア等の蔓延が深刻化し、治療が立ち遅れてい
る。本プロジェクトは、ウイルス複製、寄生虫増殖を制御できる有用な植物由来抽出物を見出し、その作用機序
を解明してガーナの実情を踏まえた感染症治療に有効と考えられる治療法開発に貢献すること、これらをとおし
てガーナおよび日本における科学技術の向上と今後の研究を担う人材の育成に寄与することを目標とする。平
成21年度は、(1)植物抽出物の抗 HIV 活性評価系を構築、(2)HIV 潜伏感染ヒト T 細胞株をあらたに樹立し、
phorbol ester である PMA でプロウイルス発現が誘導されることを確認、(3)アフリカトリパノソーマ原虫の実験室
内維持を開始し、herbal product による抗原虫活性をアッセイする系を確立した。平成22年度には、(1)HIV、ト
リパノソーマに対し抑制活性があることがわかっている物質等を用いて評価系の改良と検証を行った、(2)樹立
した複数のレポーター細胞を反応性、結果の安定性、感度などの面から比較検討し、スクリーニングに最も適す
る細胞を選んだ、(3)採集した植物からの抽出法を開始し、(4)ハーブ抽出物のトリパノソーマに関する試行的
バイオアッセイを開始した。平成23年度には、(1)複数の植物粗抽出物が潜伏感染ウイルスを活性化すること
を見出しており、(2)強い抗トリパノソーマ活性を示す4件の植物抽出物を見いだし、そのうち一つにつ
いて新規構造を有する成分を含む4つの精製標品を得た。作用機序については tubulin 抑制を介した鞭
毛形成異常を引き起こすことを明らかにした。(3)ガーナで得られた候補物質の生物活性を日本側で再現
し、日本、ガーナで得られた候補物質中の有効成分の部分精製を行い、(4)部分精製標品を用いた活性評価
を行った。平成24年3月段階で当初リストアップした95種類の植物のうちガーナ国内で可能な植物をほぼすべ
て採集し終え、部位別に87種類の粗抽出物を作製、ガーナおよび日本で毒性試験、一次および二次バイオア
ッセイを行った。期待する効果が得られたサンプルについては今後分取とバイオアッセイを繰り返すことにより有
効成分を解析し、作用機序の解明を行う。
2.研究グループ別の実施内容 (JST年報に掲載し公開)
(以下に示す記入項目について、研究グループ/研究題目ごとに簡潔にまとめてください。図、表、写真等を
含めていただいても結構です。また、本プロジェクトにおいて、相手国側研究機関単独で独自の題目を設
定している場合には、相手国側研究機関の活動を題目ごとに簡潔にまとめてください。)
①研究のねらい
②研究実施方法
③当初の計画(全体計画)に対する現在の進捗状況
④カウンターパートへの技術移転の状況(日本側および相手国側と相互に交換された技術情報を含む)
⑤当初計画では想定されていなかった新たな展開があった場合、その内容と展開状況(あれば)
※注意


未公開特許に関する情報など、公開すべきでない事項は、含めないようにご注意
のうえ、記載して下さい。
特に③、④において、研究題目・研究項目については、JICA 技術協力プロジェク
トでの Master Plan や PDM,PO の Output 及び Activity との関連を明記してくださ
い。
A. 東京医科歯科大学グループ
2
(1)研究題目:ハーブによる抗ウイルス・抗寄生虫効果の研究
研究項目:抗 HIV 活性成分を有するガーナ産植物の探索
研究内容:ハーブ抽出物の抗 HIV 活性をスクリーニングするためのアッセイ系開発と改良
① 研究のねらい
抗 HIV 活性を有するハーブ抽出物をスクリーニングするためには、細胞培養系を利用し試料の毒性と抗 HIV 効
果を判別でき、定量化が可能で再現性が高い評価系を開発する必要がある。そのために昨年度までにヒト T 細
胞株で恒常的に発現しうるレポーター遺伝子発現ユニットを作製し、これをもとに細胞ゲノムに安定に組み込む
ためのレンチウイルスベクターを構築、Jurkat ほかのヒト T 細胞株にこのベクターを発現するレンチウイルスを
感染させ、安定にレポーター遺伝子を発現する細胞株を樹立した。さらに Jurkat やほかの安定細胞株が長期
間の培養後も安定にレポーター遺伝子を発現しスクリーニングに使用できるかどうかの検証し、Jurkat、Molt4、
SupT1 ヒト T 細胞株が HIV 急性感染実験に適することがわかった。
② 研究実施方法
ガーナ野口研では主に Jurkat レポーター細胞株を用
いて VSVG-pseudotyped NL4-3Luc ウイルスの感染
実験による1次スクリーニングを実施している。これまで
に感染を抑制する植物抽出物は見いだされていない。
Jurkat と SupT1 細胞についてレポーター細胞として
の優劣を比較した結果、非感染細胞(UTC)ではいず
れの細胞株でも renilla luciferase activity は計測さ
れたが firefly luciferase activity はバックグラウンドと
同レベルであり、NL4-3luc ウイルスを感染させた場合、
Jurkat のほうがわずかに高値を示した。
Firefly luciferase 活性を Renilla luciferase 活性で割った値を Y 軸に示す。
③ 当初の計画(全体計画)に対する現在の進捗状況
ガーナにおける1次スクリーニングでは、これまでに感染を抑制する植物抽出物は見いだされていない。現在
Jurkat、Molt4、SupT1 という3種類のレポーターT 細胞株を準備できている。HIV 感染を抑制する植
物抽出物が得られれば直ちに抗 HIV 活性の検証を異なる細胞株で行える態勢にある。
④ カウンターパートへの技術移転の状況(日本側および相手国側と相互に交換された技術情報を含む)
長期専門家として着任した魚田が、ガーナ人若手研究者とともに Renilla luciferase レポーター遺伝子を発現
する Jurkat 細胞株にガーナ野口研 P3 研究室で作製した NL4-3luc ウイルスを感染させ、dual luciferase
assay を行っている。各3週間の日程で来日した野口研 research assistant2名に対し、細胞培養、ウイルス作
製、dual luciferase assay、western blotting などの技術指導を実施した。
⑤ 当初計画では想定されていなかった新たな展開があった場合、その内容と展開状況
特記すべき事項なし。
3
(2)研究題目:ハーブによる抗ウイルス・抗寄生虫効果の研究
研究項目:抗 HIV 活性成分を有するガーナ産植物の探索
研究内容:抗ウイルス因子の発現を増強するガーナ産植物の探索
① 研究のねらい
APOBEC3G(A3G)及び BST-2/Tetherin(BST-2)はこれまで報告されてきた宿主因子の中で最も強
い抗 HIV-1 活性を示すことから、本研究ではこれらの遺伝子発現をガーナ産植物抽出物スクリーニング
の第一指標として選出した。前者は、HIV-1 の逆転写産物に G->A 変異を頻発させ感染性を低下する機
能を有し、後者はウイルス粒子が細胞表面から出芽するのを阻害する機能を持つ宿主蛋白質である。
②研究実施方法
各々の遺伝子発現(mRNA 発現)の変化を定量化すべく、リアルタイム RT-PCR によるアッセイ系を
確立する。標準曲線作製のためのプラスミド DNA 構築、プライマー及びプローブの設計、PCR サイク
ルの条件設定等を行う。
③当初の計画(全体計画)に対する現在の進捗状況
前年までに本実験に必要な機材が導入され、その動作確認を終えていた。そこで、本年はこの系を使っ
て、植物抽出物が Jurkat 細胞の A3G と BST-2 の発現に与える影響を調べた。定量 PCR のうちインタ
ーカレート法を用いているので、融点が一定していることで特定の遺伝子が増幅されていることを確か
めた(図1)
。
図1
A3G(左)と BST-2(右)に対する溶解曲線。プラスミドから得られた産物の融点と細胞から得られたそれとで融点の一致が見
られた。
系が働いていることを確かめたので、各遺伝子に対する標準曲線を描いた(図2)。
4
図2
標準曲線を描く為に用いたプラスミドから得られた増幅曲線。
A3G(左)と BST-2(右)。
次に植物抽出物で処理された Jurkat 細胞の RNA を抽出し逆転写した産物を用いて当該遺伝子に対し
て定量 PCR を行った(図3)。残念ながら今回用いた植物抽出物の処理では抗ウイルス因子の発現の上
昇は確認出来なかった。今後は全ての植物抽出物について調べていくことで、A3G 及び BST-2 の発現
を増強するような物質を見つけ出すことを目標としている。
図3
植物抽出物の処理に拠る抗ウイルス因子の発現への影響。
Jurkat 細胞を様々な濃度の植物抽出物(µg/ml)で処理し、
APOBEC3G(左)と BST-2(右)に対する定量 PCR を行った。今回は抽出物として CVP003C 及び CVP012A を用いた。
⑥ カウンターパートへの技術移転の状況
魚田専門家が野口研ウイルス部門にて実験系を確立し、ガーナ側に技術指導・移転を行った。
⑤当初計画では想定されていなかった新たな展開があった場合、その内容と展開状況
ガーナという地理的条件、実験材料の入手や輸送時の安定性の問題から、本事業ではこれまで報告のあ
る加水分解プローブ法ではなくインターカレート法を用いた。
5
(3)研究題目:ハーブによる抗ウイルス・抗寄生虫効果の研究
研究項目:抗 HIV 活性成分を有するガーナ産植物の探索
研究内容:潜伏感染 HIV-1 プロウイルスを活性化する植物成分の解析
① 研究のねらい
抗レトロウイルス薬物治療(ART)が一定の効果をあげている場合でも、いったん ART を中断すると潜伏
感染細胞からウイルスが産生され始め、再びウイルス量が増大してくることが知られている。潜伏感染
細胞を駆逐するためには、未感染細胞を ART で守りつつ潜伏感染細胞を刺激してプロウイルス発現を
誘導しなければならない。Phorbol esters はプロウイルス発現を誘導できる代表的薬剤であるが、免疫
系細胞をいたずらに刺激することなく安全にプロウイルス発現を誘導する物質でなければ臨床的には
使用できない。HDAC 阻害剤も同様である。本課題では、このような性質をもつ物質を植物抽出物中に
見出すことを目的としており、樹立したアッセイ系を用いてガーナの1次スクリーニングで得られた候
補植物抽出物について検証実験を行うこと、ウイルス蛋白質の発現を western blotting で確認すること
を本年度の課題として設定した。さらに、より生体に近い潜伏感染 T 細胞を作成する目的で、抗原特異
的 CD4 陽性 T 細胞株の樹立も合わせて試みた。
② 研究実施方法
日本側での植物抽出物による潜伏プロウイルス活性化
植物 A の抽出物を更に精製、分離することで、どの様な画分に刺激する作用があるのかを検討した。こ
の分離作業は長崎国際大学にて行われた。これまでの知見から、抽出物の内で物質 a の重合体群に活性
がある可能性が考えられたため、この物質をそれぞれの重合度別に抽出した。これら抽出して得られた
画分をそれぞれ JLR 細胞に対して処理し、デュアルルシフェラーゼアッセイを行った。
潜伏感染レポーター細胞株 JLR-2 を用いた結果を示す。
陽性対照 PMA に比べると低いが、日本で入手可能な植物 A 加工物由来抽出物より高い活性を持つ画分
が認められた。Fr-4 と Fr-10 はそれぞれ三量体、二量体であり、その他は四量体以上と考えられた。植
物 A を材料に更なる分画作業を行い構造決定した(長崎国際大学の報告参照)3(Tc-1)、4(Tc-2)、5(Tc-3)
量体標品を用いて、レポーターアッセイでプロウイルス遺伝子発現を、western blotting でウイルス蛋
白質発現を解析した。ところで、プロウイルスの LTR 領域には転写因子 NF-B 結合配列が存在する。
これらの標品によるプロウイルス発現誘導に NF-B が関与するかどうかを調べる目的で、コントロー
ルベクター(EV)もしくは NF-B 特異的阻害蛋白質 Super repressor form of IB(SR)発現ベクターを
発現させた JLR-2 に NL4-3Luc ウイルスを感染させた。濃度はg/mL で、未処理細胞(UTC)での値を
1としてある。
コントロール JLR-2 細胞
6
TC‐3
TC‐2
TC‐1
700.0
700.0
700.0
600.0
600.0
513.1
600.0
513.1
500.0
500.0
500.0
400.0
400.0
400.0
300.0
300.0
300.0
200.0
200.0
100.0
84.3
1.0
92.2
26.5
0.7
52.4
5.7
1.2
100.0
200.0
59.2
1.0
85.3
18.2
0.7
100.0
1.9
1.1
12.5
6.25 3.125
0.7
0.0
0.0
UTC 0.5% 20nM 100
E+OH PMA
50
25
UTC
12.5 6.25 3.125
513.1
0.5% 20nM 100
E+OH PMA
50
25
72.1
1.0
0.7
18.2
1.2
0.8
0.9
50
25
12.5
6.25 3.125
1.0
0.0
UTC 0.5% 20nM 100
E+OH PMA
JLR-2 細胞中では、構造決定したものの中で3量体が最も強いプロウイルス遺伝子活性化能を示した。
次に SR 発現 JLR-2 細胞では、これら標品によるプロウイルス活性化は著しく減弱していることがわか
った。
NF-B 特異的阻害蛋白質 SR 発現 JLR-2 細胞
TC‐3
TC‐2
TC‐1
7000.0
7000.0
7000.0
6000.0
6000.0
6000.0
4680.0
5000.0
4680.0
5000.0
4000.0
4000.0
4000.0
3000.0
3000.0
3000.0
2000.0
2000.0
2000.0
1000.0
1000.0
1.0
1.7
11.2 23.5 29.1
9.9
3.8
1.8
0.0
‐1000.0
UTC 0.5% 20nM 100
E+OH PMA
50
25
12.5 6.25 3.125
1.0
1.7
4680.0
5000.0
27.9 25.9
5.0
2.3
25
12.5 6.25 3.125
1.5
1.2
0.0
UTC 0.5% 20nM 100
E+OH PMA
50
1000.0
41.4
4.3
2.2
3.4
UTC 0.5% 20nM 100
E+OH PMA
50
25
12.5 6.25 3.125
1.0
1.7
1.9
2.9
0.0
次に、ウイルスのコア蛋白質(Pr55Gag および p24)の実質的発現量を知るために、同時に調製した細胞
溶解液を用いて western blotting を行った。EV: control vector-expressing JLR-2 cells; SR: SRexpressing JLR-2 cells.
7
この結果は、dual luciferase assay 結果とよく相関して、Tc-1(3量体)が最も強い発現誘導能を有し
ていること、SR によって NF-B 活性化が特異的に阻害されるとこれら物質 a 重合体によるプロウイル
ス発現誘導が著しく抑制されることを示している。
野口研でのスクリーニング進捗状況
野口研でプロウイルス発現誘導能ありと判定された植物抽出物3種類(野口研コード CVP012A、
CVP003B、CVP003C)について、JLR-1 レポーター細胞株を用いて日本側で検証実験を行った。
8
野口研でのスクリーニング実験結果を反映して、陽性コントロール PMA ほどではないが強い誘導作用
が再確認された。濃度はg/mL で、1%エタノール処理細胞での luciferase activity を1としてある。
次に、これらの植物 50%エタノール抽出物 50 g/mL によるウイルス蛋白質発現誘導について、western
blotting で調べた。
この結果、CVP012A が最も強いウイルス蛋白質発現誘導能を有することがわかり、その程度は植物 A
に匹敵すると考えられた。
健常人末梢血由来 CD4 陽性 T 細胞株の樹立と解析
より生体に近い T 細胞として健常人末梢血由来の抗原特異的 CD4 陽性 T 細胞株をいくつか樹立したが、
長期間維持できた CD4 陽性 T 細胞株は 1 種類であった。この細胞株は高濃度の IL-2 依存性であり、増
殖は非常に遅いが CD3/CD28 刺激に応じて増殖が再開した。この細胞株についてフローサイトメトリ
ーで表面形質を調べたところ、刺激の内状態では CD25 陰性であったが、刺激後 CD25 陽性となった(図
左)。この細胞株に VSV-G/NL4-3luc pseudotype HIV-1 を感染させると、ルシフェラーゼ活性が検出さ
れ、HIV-1 感染感受性であることが分かった。また、CD3 刺激によりルシフェラーゼ活性は増強し、T
細胞受容体の抗原刺激に応じて HIV-1 発現の増加をモニターできることが分かった(図中央)
。また、
IL-2 非存在下では Luc 活性は減弱するが IL-2 または IL-15 の添加でウイルス発現は回復し、IL-6, TNFα
等の炎症性サイトカインの添加によっても増加が見られた(図右)。
9
当初の計画に対する現在の進捗状況
バイオアッセイの結果、約10種類の植物由来粗抽出物が潜伏感染 HIV-1 の発現を誘導することを見出
し、そのうち7種は強い活性化を示した。また、より生体に近い T 細胞として抗原特異的 CD4 陽性 T
細胞株を樹立した。今後レポーターHIV-1 感染を試みる予定である。
③ カウンターパートへの技術移転の状況
平成24年1月からガーナ・野口研に本課題の専門家(魚田慎)が長期派遣されたので、カウンター
パートへの技術移転を本格化した。野口研ウイルス学部に必要な細胞株を導入しその増殖を確認したの
で、その培養を継続して植物抽出液処理による遺伝子発現解析などを技術移転課題としている。
平成24年1月から3月にかけて、野口研 Research Assistant であるガーナ人2名を東京医科歯科大
学ウイルス制御学教室に各3週間派遣し、細胞培養、dual luciferase assay、western blotting など多
岐にわたる技術指導を行った。
(4)研究題目:ハーブによる抗ウイルス・抗寄生虫効果の研究
研究項目:抗原虫活性成分を有するガーナ産植物の探索
研究内容:ハーブ抽出物による抗アフリカトリパノソーマ原虫活性スクリーニングシステムの確立
①研究のねらい
西アフリカ地域ではツエツエバエが伝播する原虫 Trypanosoma brucei gambiense によるアフリカ睡
眠病が流行しており、中枢神経症状を呈して臨床的に重篤化する風土病であるが、典型的な Neglected
Tropical Diseases (NTD)として対策の遅れが指摘される疾患でもある。現在でも安全で有効な駆虫薬が
開発されていないため、安価で有効かつ安全な治療薬の開発が急務である。本研究ではガーナ産薬用植
物の抗トリパノソーマ活性に関する生物学的機序を解析し、効果を示す植物の薬効機序の解析、薬効物
質の精製と構造活性相関に基づくより広範なスクリーニングのシステム確立と新規薬剤開発を視野に
入れた有効薬用成分の同定を目的としている。
昨年度までに確立した Alamar blue を用いた殺原虫活性評価システムをガーナ野口研寄生虫学部門
へ導入し、実際にガーナ産植物のスクリーニングの運用を開始した。本年度はさらに 96 穴ハイスルー
プットのフローサイトメトリーを用いて、アポトシスあるいは細胞周期異常を簡便かつ敏速に解析する
10
と共に、蛍光免疫染色法を用いて形態異常あるいは、数種のマーカータンパク質の発現変動を検出する
システムを確立する。また、これらの情報を一つのデータベースに集約して管理することで、薬効成分
の殺原虫活性とその薬効機序を分子レベルで同時に理解し、情報化することが可能となる。このシステ
ム構築によって粗抽出の段階では見落としがちなマイナーな有効成分であってもユニークな薬効機序
を示すものはクローズアップすることができ、新規の薬効成分同定にたいへん有用であると考える。
②研究実施方法
(1) 昨年度後半にガーナに導入された Alamar blue 殺原虫活性評価システムを用いて、日本とガーナ両
サイドから上がったスクリーニング候補植物約 100 種類についてスクリーニングを行う。すなわち、
植物粗抽出物濃度 0~200g/ml の範囲で 8 点のポイントを取り、抽出物添加後 24 時間で Alamar
blue を添加、48 時間後の増殖をプレートリーダーにて検出。各粗抽出物の IC50 を算出し、解析時
の raw data 及びグラフ情報も含めてデータベース化する。
(2) IC50 が 50g/ml 以下の粗抽出物について、FACS によるアポトシス、細胞周期解析を行う。アポト
シスアッセイについては、粗抽出物 0~100 g/ml の濃度範囲でアポトシス(あるいはネクロシス)
を誘導するか、誘導する最小濃度をそれぞれデータベースに記録。細胞周期解析については、各粗
抽出物の IC50 値にて細胞周期ヒストグラムとともに細胞周期のどの phase に異常をきたしている
かをデータベースに記録する。
(3) 植物粗抽出物がトリパノソーマ細胞に与える影響は多岐に及ぶ。その影響をトリパノソーマ細胞の
形態的変化あるいは、各器官、組織の機能を裏付ける各種タンパク質をマーカーとしてその発現量、
発現場所等の変化を観察することで粗抽出物がどのようにトリパノソーマに作用し、殺原虫活性を
引き起こすか、その薬効機序についての重要な知見が得られると考える。すなわち、各粗抽出物の
IC50 値にて 24 時間培養後、細胞を回収。各種タンパク質の抗体を用いて蛍光免疫染色を行い、蛍
光顕微鏡にて観察。形態変化、あるいはマーカータンパク質の発現変動が観察されればその画像と
ともにデータベースに記録。近年、トリパノソーマにおいて鞭毛が細胞外因子の取り込みや細胞分
裂等大変重要な機能を担っていることが示唆されているため、鞭毛への影響についてより詳細に検
討する。
(4) (1)-(3)で出たデータベースをもとに成分精製、構造解析へ進める。各精製段階の分画サンプルにつ
いて Alamar blue によるバイオアッセイを行い単一成分精製まで進める。また、精製された構造を
元に構造活性相関を明らかにする。
(5) 同じく(1)-(3)で出たデータベースをもとに活性成分が示す薬効機序(作用点、標的分子等)につい
て推測し、候補標的分子について RNAi ノックダウンを行った上で活性成分の殺原虫効果への影響
を観察する。活性成分の殺原虫効果と標的分子ノックダウンに相乗効果等の関連性が見られれば、
アフィニティカラムを用いて標的分子と活性成分との物理的相互作用の有無を検討する。
(6) Trypanosoma 活性が知られている有効成分 b と基本骨格が同一の b 類は植物 B に高濃度に含
まれる。長崎国際大学にて植物 B 樹皮からエキス抽出を行い、ガーナ産植物と同じ系にて殺原虫
効果を調べ、活性が取れればその活性成分と思われる b 類を単離精製することで、ガーナ産植物の
今後の展開に先駆けて構造活性相関、動物感染治療実験などのパイロットサンプルとする。
(7) 平成 22 年度の研究成果として植物 C からの化合物 c-1 の抗トリパノソーマ活性を明らかにし
ているので、さらに Jurkat 細胞を用いた選択毒性と薬効カイネティックスを in vitro の原虫
11
培養系で検討する。
④ 当初計画の進捗状況
ガーナ産植物エキス約 90 種のスクリーニングを終え、非常に強い抗トリパノソーマ活性を示す4つの
植物を同定し、そのうちの一つから新規構造を含む4つの摽品を単離したが活性成分はまだ得られてい
ない。これは全体計画の 60%域にあたるが、すでに、分画サンプルの時点で鞭毛形成阻害という作用機
序を明らかにしていることから、70%相当と判断する。②研究実施方法に基づく当該年度進捗の詳細は
以下の通りである。
(1) 選択されたガーナ産薬用植物リスト、約 90 種(植物部位別も含め)の粗抽出物について Alamar blue
を用いた殺原虫活性評価を行った(Table 1)。その結果、25%の植物エキスが IC50 値 50g/ml 以下
の殺原虫活性を示した。いずれにおいても哺乳類細胞 Jurkat cell を用いた毒性試験において強い
毒性は認められなかった。さらに IC50 値 10g/ml 以下の大変強い殺原虫効果を示したのは 6 種類
であった。
Table 1
IC50 (µg/ml)
4th
CODE Positive control JJNC001L JJNC001SB JJNC001R JJNC002L JJNC002R JJNC003SB JJNC003R JJNC005SB JJNC005L JJNC006L JJNC006SB JJNC007SB JJNC008L JJNC008R JJNC008SB JJNC009L JJNC010L JJNC012L JJNC013S 1st 2nd
3rd
5.43 34.11 74.50 565 82.30 265 286 527 169 242 57.68 25763 846 6.11 525 41.60 14.45 251 120 50366 4.40 56.90 57.40 265
84.87 1410 1336 2103 296 186
79.73 516
161 1.11 474 14.60 42.83 JJNC013L JJNC015L JJNC018L JJNC019L JJNC019SB JJNC020R JJNC020SB JJNC022L JJNC023L JJNC023R JJNC024L JJNC024SB JJNC025L JJNC025SB JJNC026L JJNC026L JJNC026SB JJNCO27R JJNC028L 251 30.73 24.22 86.92 117
93.00 226.23 32.90 39.30 295.93 519.86 122.70 1101
26.53 21.27 46.47 45.26 226 353 33.20 35.73 485 58.20 11.30 55.07 59.14 6.64 38.60 44.37 12.70 9.81 9.88 74.76 51.70 72.55 7.08 39.87 5842 101
931
2.42 94.04 5th
6th
1.36 63.99 10.50 6.5 58.4 66.0 334.6 83.6 >500 >500 >500 233.2 214.6 59.8 >500 449.5 6.0 499.7 41.6 27.2 >500 111.0 >500 251.4 26.0 301.1 159.6 36.1 407.9 429.8 22.8 45.9 289.7 34.5 485.3 26.4 57.1 22.6 30.8 10.0 63.2 44.1 172
41.96 341
10.65 1795
22.94 644 355
65.65 20.49 9.74 22.70 10.20 43.48 51.00 45.67 12
Ave. JJNC028SB JJNC029SB JJNC029L JJNC030L JJNC030SB JJNC030R JJNC031SB JJNC032L JJNC032SB JJNC033SB JJNC034WP JJNC035SC JJNC035L JJNC036R JJNC037SB JJNC037L JJNC038L JJNC039SB JJNC040SB JJNC041WP JJNC042WP JJNC043SB JJNC044WP JJNC045L JJNC046L JJNC047WP JJNC048L JJNC048SBL JJNC049LSB JJNC050L JJNC050SBL JJNC051ST JJNC051L JJNC052L JJNC052SB JJNC052R JJNC053WP JJNCO54WP JJNC055L JJNC055SC JJNC056L JJNC057SB JJNC058SB JJNC058RB 378 18.18 707 14.77 389 70.41 110 13.61 39.99 50.03 251 109 330 7.66 300 46.31 25.68 283 2715 163 73.87 227 24.88 14783 528 65.22 33.54 32.20 36.60 113 65.61 160 48.40 39.29 105 0.64 167 97.37 117 40.40 117 85.98 97.35 159 11.09 1733
17.03 431 9.36 87.12 10.70 8.25 56.45 149 131
174 52.08 183 266 75.59 46.45 5579
268 294 287 2.14 440 118
54.18 62.68 86.50 86.40 90.82 200 20.47 306 454 150 152 101 118 20.20 64.00 250
14436
85.40 489
98.78 58.86 211
849
15.60 474
168
12.98 334
5.98 153
185
5.40 74.35 27.53 32.86 67.76 67.39 51.80 91.90 93.82 43.80 21.70 95.08 268.7 14.6 >500 15.9 410.4 33.3 98.9 12.2 37.4 53.2 200.5 163.9 252.4 33.3 362.0 145.1 43.3 219.0 >500 215.9 115.0 233.6 10.8 >500 323.4 55.0 33.5 47.4 58.3 100.0 85.5 180.3 34.4 173.0 105.2 0.6 310.7 78.4 135.3 71.1 117.9 86.0 96.2 (2) (1)において IC50 値 50g/ml 以下の殺原虫効果を示した 25%の粗抽出物について、FACS による
アポトシス及び細胞周期異常の検出を行った結果、9 種において 25 g/ml 以下の低濃度でアポト
シスを誘導していることが明らかとなった。特に興味深いのは JJNC008L においては、アポトシ
スとネクロシス両方を誘導する作用を持つことが明らかとなった(Fig. 1)。また、細胞周期解析に
おいては、アポトシス誘導を示した多くのものは G2/M phase の欠損が見られ、DNA 複製から核
分裂にいたる何らかの作用が阻害されていることがわかった(Fig. 2)。JJNC008L においては、
DNA 量が激減している細胞集団が顕著に誘導され(矢印、Fig. 3)、細胞サイズ自体が縮小してい
る可能性が示唆された。
13
Necrosis
Fig. 1
Late stage apoptosis
Normal cells
Early stage apoptosis
Negative control JJNC008L (100mg/ml) Fig.2
-Ext. +Ext. Fig.3
Negative control
20g/ml
10g/ml
JJNC008L
(3) 強い殺原虫活性を示した 25%の沿抽出物について、DAPI による核染色、α-tubulin 抗体を用いた
免疫染色を行った結果、多くの場合、一つの細胞に 2 つの核が存在する状態の細胞(4n cell)の減
少が見られた(Fig.4)。これは、FACS を用いた細胞周期解析における G2/M phase の欠損という
結果と一致する。JJNC008L においては、核の形状変異(Fig. 5 白矢印)と共に高濃度では鞭毛を
持たない球体の細胞が多く観察され、それら球体の細胞では‐tubulin の発現が抑制されていた
(Fig.5 赤矢尻)。以上の結果から、JJNC008L の作用機序として、α-tubulin 発現の抑制などを
介して、鞭毛形成を阻害していることが強く示唆された。
Fig.4
-Ext
+Ext
14
Fig.5
(4) IC50 値 10g/ml 以下の殺原虫活性を有し(哺乳類細胞への毒性なし)、さらに FACS 及び免疫染
色において大変興味深いデータが得られている JJNC008L および、JJNC053WP について分画、
精製作業に進めた。JJNC008L については、CSRPM にて水親性による分画で 5 種(ヘキサン、
クロロホルム、酢酸エチル、ブタノール、水)の画分にわけたもののうち、ヘキサン、クロロホ
ルム分画において強い殺原虫活性が検出されたため、クロロホルム画分より成分精製を開始した
(長崎国際大学報告の通り)。現在までに 4 種について精製が完了しそのうち 3 種が成分名、構造
共に明らかとなった。そのうちの一つの成分は新規の構造を有していることが明らかとなった(論
文投稿準備中)。今のところ、抗寄生虫活性を示す成分は得られていないが、残りの成分について
精製と殺原虫効果の解析を継続中である。JJNC053WP については CSRPM にて同様に分画を行
ったところ、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサンの画分で強い活性を検出した。現在活性成分
の精製を行うための大量調製が CSRPM にて進められている。
Table 2)JJNC008L 分画、精製成分についてのアッセイ結果
IC50 [ug/ml]
Crude From CSRPM From NIU fractions fractions JJNC008L 6.11 10.65 JJNC008L A 254.27 265.26
JJNC008L B 324.9 1.212 268.9 JJNC008L C JJNC008L E 14.5 JJNC008L H 3.79 JJNC008L 58.7 28.043
JJNC008L B >100 JJNC008L C 14.24 35.7 JJNC008L E 59.5 15
2.565 Apoptosis +++
‐
‐
+++
++
+++
++
‐
++
+
Cell Cycle
25 Normal Normal 12.5 G2/M arrest
12.5 Normal 25 Normal compounds JJNC008L‐C‐1 >100 JJNC008L‐C‐2 >100 >100 JJNC008L‐C‐3 >100 >100 New compound >100 >100 ‐
‐
‐
‐
Table 3)JJNC053WP 分画、精製成分についてのアッセイ結果
IC50 [ug/ml] Crude fractions JJNC053WP 9.24 9.3 +++ JJNC053WP A >100 >100 ‐ JJNC053WP B 89.59 26.4 ‐ 5.58 +++ 15.14 JJNC053WP C JJNC053WP E 28.89 5.72 ++ JJNC053WP H 13.07 4.21 +++ (5) 29-13 株において RNAi による遺伝子ノックダウンのシステムを野口研にて確立した。現在、活
性成分探索中の JJNC008L において、鞭毛形成阻害という作用が観察されるため鞭毛にかかわる
数種の遺伝子についてクローニングを行い、現在、抗体作製を進めている。以下にその他抗体作
製の進捗を示す。
Table 4)鞭毛形成にかかわる分子(詳細は Fig.6 参照)の抗体作製状況
遺伝子
UNC119
PFR2
PF16
TFR
発現領域
FP
PFR
FAZ
FP 膜
クローニング
○
○
○
○
リコンビナント
タンパク質作製
○
○
作成中
○
抗体作製
○
作成中
条件検討
○
準備
Fig. 6
(6) 長崎国際大学にて植物 B 粗抽出物の調製後、野口研にてガーナ産植物スクリーニングと同じ系を
用 い た 殺 原 虫 効 果 の 判 定 を 行 っ た 結 果 、 陽 性 対 象 と し て い る Berberine ( 標 準 成 分 ) の
IC50=3.8g/ml と同等の 3.04g/ml を示した。そこで、予定通り長崎国際大学にて b 類の成分精
製を行って、これまでに 7 種類の単離成分について殺原虫効果の解析を行った。その結果、
b-1、b-2、b-3 にて Berberine を大幅に上回る IC50=0.5g/ml の大変強い殺原虫効果を示した
(Table 5)。
Table 5)植物 B の活性成分を獲得
16
Compounds Ext. name IC50 (g/ml) Cell cycle (10g/ml) B crude 3.842 No effect B‐1 0.585 G2/M phase arrest B‐2 0.545 G2/M phase arrest B‐3 0.595 G2/M phase arrest B‐4 10.175 ― B‐5 36.288 ― B‐6 22.687 ― B‐7 531.929 ― (7) 長崎国際大学で抽出した植物 C 粗抽出物は IC50 が 0.707 g/ml と高い活性を有するが、Jurkat
細胞を用いた細胞毒性試験では少なくとも 102 オーダーでの選択毒性を示すことが明らかとなっ
た。また、in vitro で投与後 4 時間の時点で強い殺原虫活性を示すことが明らかになり、これも
論文を準備中である。
Fig.7
C
Fig.8
④ カウンターパートへの技術移転の状況
野口研に派遣中の本課題の専門家(鈴木光子)と連携しながらカウンターパートへの技術移転を進め
ている。上記(1)-(3)で用いた Alamar blue による殺原虫活性評価システム、
FACS によるアポトシス、
及び細胞周期解析システム、蛍光顕微鏡を用いた蛍光免疫染色の検出システム全てにおいて野口研寄
17
生虫学への導入を完了し、ガーナ産植物を用いたスクリーニングに運用されている状況である。
Alamar blue のシステムおよび、FACS の取り扱いについてはカウンターパートフェローのもとでリ
サーチアシスタント(RA)が実験を行い、データベースへのデータ集計、管理を行っている。また月例
進捗リポートおよび月例進捗ミーティングのプレゼンテーションも自力で作成している。現在、蛍光
顕微鏡を用いた免疫染色、および T. brucei 29-13 株を用いた遺伝子発現解析、RNAi の手法などを技
術移転課題としており、カウンターパート研修として野口研の Mr. Kwadwo K. Frempong が平成 24
年 1 月 10 日から平成 24 年 2 月 10 日まで来日し、東京医科歯科大学にて研修した。さらに今年度は
JST 事業として野口研で実際に実験に従事する若手研究者 2 名(Mr. Kofie、Ms. Ammah)を 3 週間
ずつ日本に招聘して技術研修を実施した。
⑤ 当初計画では想定されていなかった新たな展開があった場合、その内容と展開状況
プロジェクト発足当初より野口研所長により精製や構造解析など高度な技術と機材を要する解析を全
て日本で行うことへの懸念が表明されていた。しかしながら、システムを全てガーナに導入しガーナで
行うことは時間的にも技術的にも限界がある。そこで SATREPS 事業部岡谷室長と相談し、プロジェク
トで雇っている 8 人の若手研究者(リサーチアシスタント)をサンプルと同時に本邦へ送り、彼らが研
修できる環境を整えることで日本での精製と構造解析を早急に行うことの了承を得た。これによって 4
種の成分単離と 3 種の構造解析が完了し、そのうち 1 つは新規構造を有していたことから、現在論文投
稿準備中である。これらはプロジェクトの大幅な加速を実現する一助となっただけでなく、実際に手を
動かしている若手リサーチアシスタントに日本の研究室の雰囲気を感じ、同じ世代の日本人若手研究者
が日々の研究に取り組む姿勢を目の当たりにしてもらうよい機会となった。今後 3 年間で抗寄生虫活性
成分の単離に留まらず、動物臨床実験も含めたガーナ産薬剤の開発に向け努力したい。
B. 長崎国際大学グループ
(1) 研究題目:ハーブ抽出物の有機化学的研究
1 研究のねらい
○
ウイルス複製、寄生虫増殖を制御できる有用な植物由来抽出物を見出すために、リストアップしたガーナ由来
薬用植物の採取を進め、各種一次バイオアッセイのために粗抽出エキス調製を行う。期待する効果が得られた
植物サンプルについては各種有機溶媒を用いた分画やさらなる精製・単離を行い、バイオアッセイを繰り返す
ことにより最終的に有効成分の同定を目指す。
2 研究実施方法
○
1)植物 A 抽出エキスに含まれる有効成分 a 類の構造解析および活性評価
前年度得られた乾燥植物 A 抽出エキスをセファデックス系のカラムクロマトにより精製し活性予測
がなされた有効成分 a 類に付き更に繰り返しカラムを行い、有効成分 a 類-1 から1種、有効成分 a 類-2
から3種、有効成分 a 類-3 から3種の化合物の構造決定を行い、それらにつき山岡研究室にて活性を評
価した。その結果、有効成分 a 類-3 に弱いながらも活性が認められた。引き続き精製を進めた結果、有
効成分 a 類-3 のフラクションから1種、有効成分 a 類-4 のフラクションから1種、有効成分 a 類-5 の
フラクションから1種の化合物を新たに単離し構造決定した。これら3種の有効成分 a 類については活
18
性評価に進んだ(医科歯科大学潜伏感染 HIV-1 プロウイルスを活性化する植物成分の解析の項、Tc-1, -2,
-3 の結果参照)。なお、有効成分 a 類-5, 有効成分 a 類-6 及び有効成分 a 類-7 のフラクションからの更
なる精製は、それぞれの有効成分 a 類の含量が極めて低いため、又、NMR による構造解析に限度が有
るため、単離構造決定は極めて困難な感触を得ている。
2)植物 B メタノール粗エキスからの有効成分 b 類の精製・単離および抗 Trypanosoma 活性評価
抗ウイルス作用が報告されている有効成分 b 類を高濃度に含有する植物 B メタノール粗エキスは、ポ
ジテイブコントロールとなりうる可能性が考えられる。植物 B メタノール粗エキスから有効成分 b 類を
精製・単離し、それぞれの有効成分 b 類の化合物につき太田研究室と連携して抗 Tryipanosoma 活性評
価を行った。その結果、メジャーな成分である単一化合物 b-1 および他2種の有効成分 b 類(単一化合
物 b-2、単一化合物 b-3 に強い抗 Tryipanosoma 活性を見出した。又、新化合物4種を単離構造決定し
たので、太田研究室にて活性評価がなされる予定である。
3)植物 C メタノール粗エキスからの有効成分 c 類の精製・単離および抗 Trypanosoma 活性評価
4種の植物(植物 C、植物 D、植物 E、植物 F)粗エキスについて抗 Trypanosoma 活性を評価した結
果、植物 C に強い活性が見出された。このため同粗エキスをパーテイションにより分画、クロロフォル
ム画分に活性が集中していたので、本画分を各種クロマトにより精製・単離し、10種の化合物を単離・
構造決定した。これらの中で比較的含量の高い有効成分 c 類の化合物6種に付き太田研究室にて活性評
価を行い、高い抗 Trypanosoma 活性が認められた。更に精製を進め、4種の新化合物の単離・構造決
定に成功した。これらサンプルに付いても太田研究室にて活性評価が行われつつある情況である。
4)候補植物としてリストアップされたガーナ産植物の抽出エキス調製と各種有機溶媒での画分調製
初年度にリストアップされた約100種類の候補植物の採取を進めた。採取植物の採取場所・日時・
採取量・写真などはデータベースに保存し CSRPM にて管理している。採取された植物から順次粗エキ
ス調製を行い、凍結乾燥した粗エキス粉末を NMIMR の 3 部門に送り、抗HIV活性および抗
Trypanosoma 活性評価を行った。活性が得られた植物は、水と各種有機溶媒にて順次分配を行い、各
フラクションを用いて活性評価を行った。活性画分については主としてセファデックス系のカラムクロ
マトに付し活性を指標として精製を進める。植物の粗エキス粉末名及び分画粉末名は CSRPM および
NMIMR にて二重コード化し、柏原現地調整員にてデータベース化し、JCC での合意事項に基づき
Principal Investigator と位置づけられた野口研所長、CSRPM 所長、チーフアドバイザー、正山のみ閲
覧可能とした。
③当初の計画(全体計画)に対する現在の進捗状況
1)植物 A 抽出エキスに含まれる有効成分 a 類の構造解析および活性評価
植物 A(990g)を粉砕後、80%エタノール抽出し(3 L×3, 40℃, 12 時間、sonication)粗エキス(60
g)を得た。TLCの検討から有効成分 a 類はエキスの 5%前後の含量と推定した。また、有効成分 a 類
-4~6 に相当するスポットを確認し、セファデックスを中心としたカラムクロマトを繰り返して分画・
精製し、有効成分 a 類-1 (1 種)、 有効成分 a 類-2 (3 種)、有効成分 a 類-3 (4 種)、有効成分 a 類-4 (1 種),
有効成分 a 類-5 (1 種)の精製・単離・構造決定に成功した。有効成分 a 類-1~3 について山岡研究室で
抗 HIV 活性が評価され、有効成分 a 類-3 に若干の活性が認められたので、有効成分 a 類-4~6 につい
ても精製・単離を進めている。
2)植物 B メタノール粗エキスからの有効成分 b 類の精製・単離および抗HIV活性評価
19
有効成分 b 類を高濃度に含有する植物 B を九州大学演習林より分与頂き、植物 B を乾燥(1.1kg)
後、エタノール抽出し(3 L×3、40℃、sonication)エタノールエキスを得た。本エキスに抗 Trypanosoma
活性が認められたので、本粗エキスについて水-有機溶媒系で分配精製、さらに各種クロマトを繰り返
し、単一化合物 b-1 を主成分とする10種の有効成分 b 類を単離し、その3種に強い抗 Trypanosoma
活性が認められた。新化合物4種に付いても活性評価中である。
3)植物 C メタノール粗エキスからの有効成分 c 類の精製・単離および抗 Trypanosoma 活性評価
植物 C エキスから単一化合物 C を主成分とする有効成分 c 類を単離・構造決定し、これらの中で比較
的含量の高い化合物6種に付き太田研究室にて活性評価を行い、高い抗 Trypanosoma 活性が認められ
た。更に精製を進め、4種の新化合物の単離・構造決定に成功した。これらサンプルに付いても太田研
究室にて活性評価が行われつつある情況である。
4)候補植物としてリストアップされたガーナ産植物の抽出エキス調
製と各種有機溶媒での画分調製
A. 植物の採取
2011 年 8 月の時点で初年度にリストアップされた約100種類の
約半数の植物しか採取されておらず、当初の計画より大幅に遅れてい
た。8 月の宇都短期専門家の訪問時に CSRPM の植物採取担当の
Ampaw 氏と話し合い、残り55種類の植物のうち32種類を 2012
年 1 月までに採取完了し、23植物に関しては市場などで購入するこ
とを決めた。その後、若干の遅れはあったが、2012 年 1 月末の段階
でリストアップされたほとんどの植物採取を完了することが出来た。
B. エキス調製のスピードアップ化
昨年度より CSRPM における粗エキスの調製のスピードが遅く、
それに伴い NMIMR でのバイオアッセイも遅れ、プロジェクト全体
の進行上課題となっていた。森永および宇都短期専門家の現地訪問により、実態調査を行い現地の状況
に即した簡便な方法を検討した。これまで採取した植物全量を用いて抽出を行っていたが、植物粉末と
抽出溶媒(50%エタノール)の大幅なスケールダウン化、またロータリーエバポレーターでの効率的な
濃縮法を行ったところ、バイオアッセイでの初期スクリーニングに必要な十分量を毎月10サンプル以
上調製することが可能になった。現在、粗エキス調製のスピードは NMIMR でのバイオアッセイの進行
に影響を与えず、効率的に進んでいる。
C. 活性のあった植物サンプルの画分調製
NMIMR での初期スクリーニングにおいて、抗 HIV-1 活性および抗 Trypanosoma 活性があった植物
サンプルは分画やカラムクロマトを用いて精製・単離を行う。CSRPM において森永および宇都短期専門家
訪問時に、基本的な分画調製方法について説明した。初期スクリーニングにおいて1サンプル(コード
JJNC008L ) で活性が確認されており、各種有機溶媒を用いて分画調製を行い、それらを用いて現在
NMIMR 及び東京医科歯科大においてバイオアッセイを行っている。
20
CSRPM での分画調製
JJNC008L の分画サンプル
④カウンターパートへの技術移転の状況(日本側および相手国側と相互に交換された技術情報を含む)
1)平成 23 年 8 月:CSRPM への宇都短期専門家訪問
リストアップされた植物の採取に関する計画作成とエキス調製のスピードアップを中心に技術指導した。
 エキス調製のスピードアップ化の説明とデモンストレーション
 植物採取のスケジュール検討会議
 分画方法の説明とデモンストレーション
 凍結乾燥機のメンテナンス法説明
 水道水の現状確認と蒸留水装置の設置検討
 ディープフリーザーの設置
凍結乾燥機のメンテナンス法説明
分画方法の説明とデモンストレーション
2)平成 23 年 8 月:CSRPM への森永短期専門家訪問
エキス調製のスピードアップ化と蒸留水装置のセットアップを中心に技術指導した。
 エキス調製のスピードアップ化の検討
 CSRPM での蒸留水装置の設置検討
 HPLC セットアップ
 植物エキスの保存方法の指導
3)平成 23 年 7 月~9 月: CSRPM の Aboagye Frederick Asare 氏が NIU 研究室で研修
エキス調製から、分画、成分精製、構造決定まで、植物エキスから精製成分同定までの一連の実験手
法を習得した。
 スピードアップ化されたエキス調製法
 HPLC 操作法
 各種カラムクロマトグラフィーを用いた植物成分単離
 NMR を用いた構造決定 CSRPM での蒸留水装置の設置検討
21
 HPLC セットアップ
HPLC を用いた解析法説明
4)平成 23 年 11 月:CSRPM への森永短期専門家訪問
CSRPM 新所長 Edoh 氏への挨拶と HPLC のセットアップを中心に活動した。
 Edoh 氏との面会およびプロジェクト説明
 HPLC のセットアップ
 Aboagye Frederick Asare 氏の技術フォローアップ
 植物市場調査
5)平成 24 年 1 月~3 月: CSRPM の Vincent Tettey 氏が NIU 研究室で研修
エキス調製から、分画、成分精製、構造決定まで、植物エキスから精製成分同定までの一連の実験手
法を習得した。さらに分析用 HPLC と分取 HPLC の取り扱いを習得した。
分画サンプルを用いて TLC を行う様子
6)平成 24 年 1 月~3 月:野口研 Clinical Pathology 部門 Mark Ofosuhene 博士が NIU 研究室で研修
多種類の細胞培養から in vitro 毒性試験、アポトーシスの検出まで、一連の植物抽出物に関する毒性
試験をすべて習得した。
22
3.2.現時点での成果等
(本プロジェクトの成果として得られたものを対象として記載して下さい。)
3.2.1. 研究グループ/研究題目別の成果
(研究グループ/研究題目ごとの現時点での成果を記載ください。 日本側研究機関と相手国側研究機関の研
究グループが異なるようであれば、別々に記載ください。)
※注意
 研究題目・研究項目については、JICA 技術協力プロジェクトの Master Plan や
PDM, PO の Output との関連を明記してください。
東京医科歯科大学グループ
抗 HIV 活性成分を有するガーナ産植物の探索
強いプロウイルス活性化能を示す植物抽出物を、ウイルス国内研究で1件、ウイルスガーナ研究で7件
獲得した。長崎国際大学にて分画精製された検体を用いて、潜伏プロウイルス活性化メカニズムの一部
を明らかにした。
抗原虫活性成分を有するガーナ産植物の探索
強い抗トリパノソーマ活性を示す植物抽出物をガーナで4件、国内で 2 件獲得した。国内 1 件について
は長崎国際大学の協力で3つの高活性成分を明らかにした。ガーナ4件中-tubulin 抑制を介した鞭毛
形成阻害という作用機序の一部を明らかにしたものについて、長崎国際大学の協力で新規構造を持つ成
分を含め4つの標品を得た。
長崎国際大学グループ
ハーブ抽出物の有機化学的研究(国内研究分)
植物 A 抽出エキスに含まれる a 重合体の一部精製・単離・構造決定に成功した。
植物 B から10種の b 類を単離し、その3種に強い抗 Trypanosoma 活性を認めた。新化合物4種も分
離した。
植物 C エキスから10種の化合物を単離・構造決定し、これらの中で比較的含量の高い化合物6種に付
き太田研究室にて活性評価を行い、高い抗 Trypanosoma 活性が認められた。更に精製を進め、4種の
新化合物の単離・構造決定に成功した。
ハーブ抽出物の有機化学的研究(ガーナ研究分)
長崎およびマンポンでの CSRPM への技術指導・移転により、1カ月当たり10サンプルのガーナ産植
物の抽出エキス調製を実現し、1次スクリーニングで抗病原体活性が認められた候補抽出物についてガ
ーナ人スタッフのみによる各種有機溶媒での画分調製を可能にした。
3.2.2. 成果発表等
(3-2-2-1) 原著論文発表 (JST年報に掲載し公開)
① 本年度発表総数(国内 0件、国際 1件):“accepted”、“to be published”、“in press”がある場合は、分けて
記載して下さい。
②
本プロジェクト期間累積件数(国内 0件、海外 1件)
③ 論文詳細情報(著者名、発表論文タイトル、掲載誌(誌名、巻、号、発表年)などを発行日順に記載して下さ
い。)。なお、同一の論文は一報として記載して下さい(グループ毎の重複記載は不要)。
23
Takuhiro Uto, Guo-Weo Qin, Osamu Morinaga, Yukihiro Shoyama. 17-Hydroxy-jolkinolide B, a diterpenoid
from Euphorbia fischeriana, inhibits inflammatory mediators but activates heme oxygenase-1 expression in
lipopolysaccharide-stimulated murine macrophages. Int Immunopharmacol. 2012 Jan;12(1):101-9.
※注意

原著論文のみを記載して下さい。
研究開始から前年度までの原著論文発表も記載下さい。

(3-2-2-2) 研修コースや開発されたマニュアル等
(相手国研究機関や研究者に対して実施した研修コースや開発されたマニュアル・教本、配布物など具体的な
成果品・プロダクトを記載して下さい。)
※注意


本プロジェクトでの成果品のみを記載して下さい。
本プロジェクト開始から前年度までの成果品も記載下さい。
(3-2-2-3) その他の著作物 (総説、書籍など)
※公開を希望される場合は、成果として原著論文欄に追加するのではなく、本文中に引用する形をとって下さ
い(著者, 雑誌名, ページ, 出版年)。
①
本年度発表総数(国内 0件、国際 1件)
②
本プロジェクト期間累積件数(国内 0件、国際 1件)
③
著作物詳細情報(著者名、発表論文タイトル、掲載誌(誌名、巻、号、発表年)などを出版日順に記載して
下さい。)
CLIMATE-ECOSYSTEM CHANGES, GLOBAL HEALTH AND HUMAN WELLBEING IN WEST AFRICA:
Final Report of the Joint SATREPS Workshop on Improving Human Health Conditions and Resilience to Climate
Change in Ghana, editors: Kei Otsuki, Nicholas Turner and Mitsuko Suzuki, March 2012.
(3-2-2-4) 特許出願 (特許出願した発明数のみを JST 年報に掲載し公開)
(本プロジェクトの成果に係わるものを、出願者(研究機関、JST、その他)に係わらず記載して下さい。但し、出
願予定の特許は含めません。)
① 本年度特許出願内訳(国内 X 件、海外 XX件、特許出願した発明数 XXX件)
② 本プロジェクト期間累積件数(国内 Y 件、海外 YY 件)
(3-2-2-5) 国際学会および主要な国内学会発表
(発表数と併せて、発表者(所属)、タイトル、学会名、場所、月日などの詳細情報を発表日順に記載して下さ
い)
①
本年度招待講演
(国内 0件、国際 0件)
24
②
本プロジェクト期間累積件数(国内 0件、海外 0件)
③
詳細情報
① 本年度口頭講演
(国内 2件、国際 0件)
② 本プロジェクト期間累積件数(国内 3件、海外 0件)
③ 詳細情報
魚田慎、Nguyen Huu Tung、吉仲由之、神奈木真理、正山征洋、山岡昇司:
HIV-1潜伏感染系を用
いたプロウイルスを再活性化する植物抽出物の解析、日本エイズ学会、東京、2011年12月2日
拓洋1 、Guo-Wei Qin2 、森永
宇都
紀1、正山
征洋1 (1長崎国際大、2中国科学院上海薬物研究所)
Jolkinolide類による抗炎症効果とその作用機構の解明、日本薬学会九州支部会、福岡大学、2011年12
月10~11日
① 本年度ポスター発表
(国内 0件、国際 0件)
② 本プロジェクト期間累積件数(国内 0件、海外 0件
③ 詳細情報
(3-2-2-6) 受賞等
(受賞や新聞報道などについて、時系列で具体的に記載して下さい。)
①
受賞
②
新聞報道
③
その他
3.3.主催したワークショップ等 (公開は考えておりません)
(ワークショップ、シンポジウム、その他研究グループ内ミーティング(主なもの)を行った場合、月日、名称、場所、
参加人数、目的や内容などを開催日順に記入して下さい。)
年月日
名称
場所
(開催国)
参加人数
(相手国からの招
聘者数)
概要
2011年
12月2日~
12月3日
SATREPS Joint
Workshop on Improving
Human Health
Conditions and
Resilience to Climate
Change in Ghana
野口記念
医学研究
所、およ
びガーナ
大学
(ガーナ)
12月2日約230人
12月3日約200人
ガーナにおいて実施される2件
の SATREPS 事業が扱う課題、感
染症と気候変動は相互に深い関
係があると考えられる。双方の日
本ガーナ関係者および、若い世
代のガーナ人研究者、日本人研
究者・学生が延べ430人集まり、
両分野を基軸にした新たな研究
分野創設に向け意見交換を行っ
た。また、日本ガーナ若手研究
者による研究発表の場を提供し
た。当初の参加予定を大きく上
回る参加があり、ガーナの新聞
25
各社に大きく取り上げられ、この
分野への人々の関心の高さを示
していた。
4.今後のプロジェクトの進め方、および成果達成の見通し
(今後のプロジェクトの進め方および留意点、成果達成の見通し、上位目標に向けての貢献や成果の社会的な
インパクトの見通しについて、1ページ程度でまとめて下さい。)
今後のプロジェクトの進め方および留意点
当初リストアップした薬用植物はほとんど採取を終了し、現在その中から抗トリパノソーマ活性、潜伏
プロウイルス活性化作用を有する候補抽出物が複数得られている。野口研所長、CSRPM 所長と201
2年2月に協議した結果、今後は新規植物の採取は当分の間見合わせることとし、候補抽出物の分画作
業とそれぞれの分画のバイオアッセイを繰り返すことによって、有効成分とその作用機序の特定を優先
することで合意した。分画作業はガーナ人スタッフが CSRPM で、バイオアッセイは野口研で専門家の
指導のもとガーナ人スタッフが中心となって行うことがこれまでの日本での研修成果によって可能と
なっており、必要に応じて NIU、TMDU でも確認作業を行う。植物抽出物を日本側でも解析すること
は、見落としや技術的問題をクリアーする上でも必要と考えている。日本への植物抽出物移送に際して
は、野口研所長、CSRPM 所長との合意に基づく MTA を結ぶことになっており、すでに7件を超える
MTA が存在する。日本でガーナ産植物解析を行う場合のガーナ側の要請は、その成果透明性確保であ
る。この点はガーナ側スタッフが日本に常駐しているわけではないので、後述する月例報告で結果を共
有することに尽きる。
これまでに見出された抗病原体活性成分の将来的実装性については、その毒性がじゅうぶん低いこと
が前提条件である。1次スクリーニング段階での毒性チェックはヒト培養 T 細胞株を用いて IC50 を算
出するという方法で行っており、生体内での毒性や安全性については未知である。有効成分が特定され
十分量精製することができれば、まずマウスなどの小動物を用いた毒性試験が不可欠であり、トリパノ
ソーマについてはその後マウスにおける感染治療実験が可能と考えられる。野口研には動物実験施設が
整備されており、研究内容を審査する野口研科学技術委員会に対してマウスを用いた毒性試験、感染治
療実験許可を現在申請中である。
成果達成の見通し
2012年度末までに HIV の複製あるいは寄生虫増殖を抑制する植物由来抽出物を獲得するとし
ていた当初予定は1年早く達成した。粗抽出物の段階で抗病原体活性が見られるサンプルを一般的
な有機化学的方法で分画すると、その活性が特定の分画で強まる場合と活性がすべての分画で失わ
れる場合があった。有効成分の特定は試行錯誤の連続であり、粗抽出物に活性が認められても必ず
精製に成功するとは限らない。現在有効成分の特定をめざしている植物抽出物は、IC50 値 10 g/ml
以下の大変強い殺原虫効果を示したものが寄生虫国内研究で2件、寄生虫ガーナ研究で 4 件あり、強
いプロウイルス活性化能を示したものはウイルス国内研究で1件、ウイルスガーナ研究で7件である。
抗寄生虫活性を有する国内 1 件についてはすでに活性成分を分離しており、ガーナ 1 件については分画
サンプルで活性が見いだされ活性成分探索の段階にある。2012年度はこれらの候補抽出物のできる
26
だけ多くから有効成分を特定しその構造を明らかにしたい。
上位目標に向けての貢献や成果の社会的なインパクトの見通し
ガーナ産薬用植物からの 50%エタノール抽出物中にバイオアッセイで抗病原体活性を見出し有効成分の精製
が進行中であること、ガーナ人若手研究者の育成によりプロジェクト活動を加速していることから、薬効メカニズ
ムの解明、安全性、体内動態、投与方法など実装化までの課題は多いものの、本プロジェクトはガーナで自国
産物を活用した持続可能な治療法を開発するための基礎データの蓄積と人材育成に着実に貢献しつつある。
5.国際共同研究実施上の課題とそれを克服するための工夫、教訓など
(下記の記載例にならってプロジェクト全体と、研究グループ毎に記入して下さい。)
例)
(1)共同研究全体
・ プロジェクト全体の現状と課題
・ 各種課題を踏まえ、研究プロジェクトの妥当性・有効性・効率性・自立発展性・インパクトを高めるた
めに実際に行った工夫
・ プロジェクトの自立発展性向上のために、今後相手国(研究機関・研究者)が取り組む必要のある事項
(2)研究グループ/研究題目 1
・ 相手国側研究機関との共同研究実施状況と問題点、その問題点を克服するための工夫、今後への活
用。
・ 類似プロジェクト、類似分野への今後の協力実施にあたっての教訓、提言等
(3)研究グループ/研究題目 2
(4)研究グループ/研究題目 3
※注意

こちらは、主に JICA 技術協力プロジェクトの Plan of Operation(PO)や Master Plan
の項目に沿って記載して下さい。
5.国際共同研究実施上の課題とそれを克服するための工夫、教訓など
(1)共同研究全体
研究進捗の確保と情報共有について
野口研3部門および CSRPM それぞれを担当する日本人専門家を各1名定め、各人が担当部門の研究
指導と問題解決に責任を持つ体制を構築した。また、チーフアドバイザーを含む日本人専門家7名と業
務調整員1名の間でプロジェクト情報を常に共有することによって、事業運営の円滑化をはかっている。
野口研と CSRPM では毎月はじめに常駐する2名の長期専門家を含む実務者全員による月例ミーテ
ィングを開催し、PowerPoint 資料をもとに研究進捗報告と discussion を行い、資料は記録として保存
している。ガーナでは停電や電圧の不安定状況が頻繁である。半日以上停電することもあり、野口研で
はジェネレーターがじゅうぶん機能しないためにしばしば実験ができない状態となる。それ自体が研究
遅延の原因になるだけでなく、機器が故障してまったく実験が出来なくなることもある。機器の損傷は
UPS や stabilizer の設置によりある程度回避するよう努めている。機器故障の場合は、単にデータが出
せないということだけでなく、回復に向けてどのような努力がなされ復旧の見通しはどうか、などの詳
27
細な報告を義務付けている。
それとは別に日本側研究室を含む各研究部門は、
すべての生データを入れた月例報告書を野口研所長、
CSRPM 所長、チーフアドバイザー、正山長崎国際
大学教授あてに毎月作成し提出する(右上図参照)。
ガーナ側とこのような情報、成果の共有を積み上げ
てきたことにより、各部門研究者に研究進捗への責
任が自覚されるとともに、日本・ガーナ研究者相互
の情報管理についての信頼関係は現在ゆるぎないも
のとなっている。
若手研究者人材育成
2011年度は各部門担当専門家による research assistants (RA)への直接的な技術指導に重点を置き、
ガーナ人若手研究者を主体として進捗を加速させるよう努めた。本プロジェクトで働く RA8名全員の
日本研修もその一環である。また、Friends of SATREPS でガーナ人若手研究者のコミュニティーを RA
自らが立ち上げ、ガーナでの研究分野の将来について活発な議論を行っている。
今後相手国(研究機関・研究者)が取り組む必要のある事項
RA の熱意に比較すると、野口研では年長フェロークラスのガーナ人研究者の研究姿勢には改善すべき
点があるように思われる。ガーナでは、博士号を取得しリサーチフェローとなると研究について差配は
するが自らベンチに向かって実験に携わる機会はほとんどなくなり、研究計画の立案、進捗管理、結果
の解析すら先進国研究者まかせにする傾向がある。これはガーナだけでなく、多くのアフリカ諸国に共
通してみられる問題であろう。フェローはミーティングには参加するが実験室にはほとんど来ず、本プ
ロジェクトの実験を担うのは主として RA であるので、技術指導の直接対象は RA であることが多い。
RA は野口研に雇用されているが常勤職ではないので、移転した技術が野口研に確実に定着するために
は少なくとも RA が常勤職に採用される必要がある。本プロジェクト RA でこれまでに野口研常勤職に
採用されたのは6名のうち1名であり、さらなる増加をめざしたい。年長者フェローの姿勢は長年の慣
習から来る構造的問題であり、本プロジェクト実施期間内での根本的解決は難しいが、ガーナで本プロ
ジェクト終了後も自立した研究が継続的に行われるためには、若手フェローを積極的に研究活動に参加
させて技術の定着をはかるとともに、自ら考え実験を考案し研究を推進しようとするリサーチマインド
を育成する必要があると考えられる。
(2) 東京医科歯科大学グループ
野口研ではウイルス、寄生虫両部門に日本人長期専門家が1名ずつ常駐する体制をとっているので、共
同研究実施の実務面において消耗品の調達、電気系統と機器のトラブルを除いては現在のところ大きな
問題は起こっていないが、P3 実験室の機器故障は深刻な問題を起こしている。3月20日に発生した
安全キャビネットの吸排気システムの故障により、P3 実験室でのウイルス関係研究活動は全面的に停
止しており、3月末日現在復旧の見通しは立っていない。
(3)長崎国際大学グループ
野口研 Clinical pathology 部門(毒性学担当)と CSRPM に常駐する長期専門家は派遣していないが、
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長崎国際大学研究室において頻繁に国内研修を実施し、年間4回程度の短期専門家ガーナ派遣をとおし
て現地機関の研究能力を飛躍的に向上させた。CSRPM では本事業に関わるすべてのスタッフが研究活
動にきわめて積極的であるが、野口研におけるよりはるかに停電の頻度が高く時間も長いことが問題で、
機器専用のジェネレーターの導入を考慮している。Clinical pathology 部門での機器トラブルへの対応
については、寄生虫、ウイルスの長期専門家のサポートを得て解決するようにしている。
6.特記事項 (主な来訪者、イベント等を記載ください。また、「国民との科学・技術対話」の推進について
(基本的取組方針)』(総合科学技術会議 平成22年6月19日)に基づくアウトリーチ活動がござい
ましたら、記載ください。)
在ガーナ日本国全権大使の野口研および CSRPM 表敬訪問に続き、日本・ガーナ双方のプロジェクト
関係者の大使公邸への招待等があり、大使をはじめとした在ガーナ日本国大使館から当プロジェクトに
大きな期待と高い関心が寄せられている。今後も更なる協力体制のもと、プロジェクトを発展させたい。
2011年12月2、3日に、SATREPS Joint Workshop on Improving Human Health Conditions
and Resilience to Climate Change in Ghana を東京大学・国連大学グループとの共催により野口研で
開催した。Joint Workshop では、Aryeetey ガーナ Vice-Chancellor、二階日本国全権大使、JICA ガー
ナ事務所長、日本より JST 岡谷室長からスピーチがあり、両日とも200名を超える参加者が気候変動
と感染症について熱心な議論をくりひろげた。日本、ガーナから参加した学生を中心とする若い世代の
交流も実現した。同時に岡谷室長と Nyarko 野口研所長との会談でプロジェクトの加速に向けた日本で
のガーナ産薬用植物有効成分の精製と構造決定について了承を取り付け、本プロジェクト RA 全員の日
本渡航が決定し、さらなる技術移転と若手研究者育成が進んだ。
プロジェクトから Newsletter を発行している。内容は現在のところ RA の日本での研修内容がメイ
ンで、今後随時プロジェクトの活動を広く伝えてゆきたいと考えている。
7.プロジェクト実施体制 (日本側研究題目のグループリーダーおよび研究項目のみJST年報に掲載し公
開)(研究グループ毎にメンバー一覧は別添エクセル表に記入して下さい。
)
※注意






研究終了時の終了報告書には、グループリーダーだけではなく、研究参加者の情
報を掲載し、JST として公開する予定です。
研究に参加した研究者のみ全員の名前、所属、役職、参加時期を記入して下さい。
本項目には、当該実施年度の所属・役職を記載して下さい。
研究項目は箇条書きで簡単なものでかまいませんが、JICA 技術協力プロジェクトの
Plan of Operation(PO)や Master Plan の項目に沿って記載下さい。なお、日本側に
おいて実施している研究項目については、『国内のみ』と追記下さい。
グループリーダーの所属・役職名は、略称ではなく“正式名称”で記載して下さい(そ
のまま JST 年報に掲載されます)。
グループリーダーは一番上、且つ左端のセルに「○」を記入して下さい。
【記載例】
(1)「○○○」グループ(研究題目)
①研究者グループリーダー名: 研究 花子 (△△大学・教授)
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②研究項目
(Plan of Operation(PO)や Master Plan の項目によって箇条書きまたは数行程度に記載下さい。)
(2)「△△△△」グループ(研究題目)
①研究者グループリーダー名: 研究 花子 (△△大学・教授)
④
研究項目
(Plan of Operation(PO)や Master Plan の項目によって箇条書きまたは数行程度に記載下さい。)
(1)「東京医科歯科大学」グループ(研究題目)ハーブによる抗ウイルス・抗寄生虫効果の研究
①研究者グループリーダー名: 山岡 昇司 (東京医科歯科大学・教授)
④
研究項目
抗 HIV 活性成分を有するガーナ産植物の探索
研究内容:HIV-1 潜伏感染 T 細胞株の樹立
ハーブ抽出物の抗 HIV 活性をスクリーニングするためのアッセイ系開発
抗ウイルス因子の発現を増強するガーナ産植物の探索
抗寄生虫活性成分を有するガーナ産植物の探索
(3)
「長崎国際大学」グループ(研究題目)ハーブ抽出物の有機化学的研究
① 研究者グループリーダー名: 正山
征洋 (長崎国際大学・教授)
② 研究項目
ハーブ抽出物の有機化学的研究
8.投入実績
「8.投入実績」は別紙エクセル表をご活用ください。
以上
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