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米国への有機食品の展開について

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米国への有機食品の展開について
米国への有機食品の展開について
サンフランシスコ事務所
金堀 宏宣
米有機取引協会1の発表によると、昨年の米国における有機製品の売上高は、
351 億ドル(約 3.51 兆円)となり、昨年比 11.5%増加した。このうち有機食品
が 92%の 323 億ドル(約 3.23 兆円)を占め、この 10 年で約3倍になるなど2、
米国における有機食品の根強い人気が見てとれる。
今年1月から、日本の有機 JAS 制度による認証を受けた有機食品に「organic
(有機)」の表示を付けて米国に輸出・販売することが可能となった。健康志向
の高い米国人は着実に増えており、もともと健康によいと評価が高い日本食に
「organic」という付加価値を付け、米国での販路拡大につなげられないかにつ
いて考えてみたい。
1.有機(オーガニック)食品市場の拡大
農薬や化学肥料を使わずに
栽培、生産された有機食品は、
米国内のほとんどのスーパー
で目にすることができるよう
になった(写真1)。
1990 年に連邦政府は「有機食
品生産法」を成立させ、これに
基づき 2000 年に生産基準が定
められた。この基準を満たせば、
海外で生産された食品も有機
食品として米国で認定を受け、
写真1:スーパーの有機生鮮食品コーナーの一角
1
2
現地での販売が可能である。日
本の農林水産省にあたる米農
北米で有機農産物や有機製品の取引を推進する団体。有機食品取引の拡大と保護を目的に活動している。
農家、加工業者、小売、貿易業者など 6,500 以上の団体•個人が加盟している。
2003 年の有機食品の売上高は 103.8 億ドル(約 1.04 兆円)で米国食品全体に占める割合は 1.9%。同割
合は現在4%を超えている。有機食品の売上高は 2010 年からは毎年約 10%の上昇を続けている。
1
務省(USDA3)から認証を受けた製品には、有機認
証のマーク(図1)を表示することができる。このマ
ークを使用できるのは、製品の 95%以上が有機素材
を使用した製品と定義されている。
米国の食品市場が年率3%程度の拡大を続けてい
る中で、食品全体に占める有機食品の割合も年々増加
図1:米農務省認証有機のマーク
しており、将来的にもこの傾向は続く見通しである。
(出典:農務省ホームページ)
有機食品市場を押し上げているのは、米国人
の健康意識の変化によるところが大きいと考
えられる。先進国の中で最も肥満人口が多く、
生活習慣病が大きな社会問題となっているが、
オバマ政権は健康的な食生活を推進するため
のガイドライン「マイプレート(MyPlate)4」
(図2)を 2011 年に発表し、野菜や果物、穀
物、タンパク質などの食品群をバランス良く摂
取することが大切であることを分かり易く示
した。こうした啓発活動が奏功し、米国民の健
図2:「マイプレート」イメージ図
康への意識は確実に変わってきているように
(出典:ChooseMyPlate.gov)
思われる。有機製品を取り扱うスーパーでは、
「Healthy Eating Education」などを企画し、健康に良いレシピの紹介やイベ
ントなども実施しており、様々な形で健康と食についての情報を発信している。
2.有機食品の流通
米国で人気のある有機食品のスーパーとしては、「ホールフーズマーケット」
や「トレーダージョーズ」などが挙げられる。「ホールフーズマーケット」は、
高い品質と幅広い品揃えで健康志向の高い消費者をターゲットに全米で店舗展
開している。米国には日本で言うところのデパ地下はないが、
「ホールフーズマ
ーケット」はデパ地下のイメージに近く、比較的富裕層が多いエリアに店舗を
置いている。
「トレーダージョーズ」も有機食品にこだわった品揃えで人気があり、
「ホー
ルフーズマーケット」に比べて手頃な価格帯で顧客を惹き付けている。これら
のスーパーでは、有機食品だけでなく有機製品の化粧品や石けん、洗剤などの
日用雑貨も取り扱っており、有機製品に対するこだわりとその徹底ぶりで、健
3
4
United States Department of Agriculture の略。
栄養価に関する情報を政府が直接発信している。
(http://www.choosemyplate.gov/)
2
康意識の変化の波にうまく乗っている。
有機製品の流通は、店舗販売の他にも、オンラインショップ、テレビショッ
ッピングなど、消費者へのアプローチは様々である。米国で有機製品を取り扱
うオンラインショップは、大手のアマゾンをはじめ多数ある。しかも、有機製
品に特化したオンラインショップがいくつもあり、生鮮食品だけを取り扱って
いるものや、食品、健康食品、雑貨など幅広く取り扱っているサイトなど様々
である。
3.米国への有機食品の輸出
前述のとおり、米国に有機農産
物等を輸出する場合には、米国の
有 機 制 度 ( National Organic
Program)による認証を受ける必
要があったが、今年1月より日本
の有機 JAS 制度による認証を受
けた有機食品等に「organic(有
機)」の認証マークを表示して米
国へ輸出できるようになった。こ
れまで必要とされた手数料や手
間が省けることで、今後両国間の
有機食品の流通が活発になるこ
とが期待される。
また、流通が活発になり有機食
図3:日本から外国への有機農産物等の輸出について
品として認証されるアイテムが
(出典:農林水産省ホームページ)
増えることで、米国での新たな消
費者ニーズが生まれてくることも考えられる。日本からの有機食品の輸出拡大
を図るためにも、今後の動向を注視していく必要がある。
ただし、米国での食品展開にあたっては、ラベルのデザイン、プロモーショ
ンの手法などに工夫が求められる。米国で健康食品を販売している方の話では、
米国の消費者は食品についての正しい知識を持って商品を購入している人が多
く、それ故に消費者が納得できる商品である必要があり、食品の栄養成分、原
材料等についての正確な情報を提供することは当然として、それがいかに健康
に良いものであるかという説明を求められることもあるそうだ。確かにスーパ
ーでは、商品のラベル表示を細かくチェックしている買い物客の姿を目にする
ことは多く、体に良い食品を購入したいという意識とそうした食品への関心が
非常に高いことがうかがえる。
3
4.日本食ブームに乗って有機食品をアピール
米国は日本食ブームと言われて久しい。これまで日系スーパーでしか手に入
らなかった「梅干し」や「うなぎ」などの日本の食材が、最近では米系スーパ
ーでも販売されるのを見かけることが増え、日本食に対する関心が益々高くな
っているのを感じる。日本食の認知度の高まりとともに、現地の寿司屋、居酒
屋など、美味しい日本食のレストランも増えているが、中には日本では考えら
れないような料理を出しているレストランがあったりする。高品質を求める本
物志向の日本食ファンを増やしていくには、日本食についての正確な情報発信
と継続的なプロモーションが必要であることは間違いない。
この日本食ブームは一過性のものではなく、一つの文化として米国に受け入
れられていくものであると思うが、さらに「有機食品」というキーワードを組
み合わせることで、健康志向の高い米国の顧客層を新たなターゲットとして捉
えることができるのではないだろうか。有機食品の認証マークを取得しプロモ
ーションすることで、他の商品との差別化を図ることでき、米国における日本
食品の市場がこれまで以上に広がっていくのではないだろうか。
5.まとめ
当事務所では、米国の食品バイヤーによる健康食品商談会を福岡で開催する
など、米国のバイヤーと福岡県の食品関連企業の取引拡大に向けた取組みを行
っている。昨年開催した商談会には、県内企業を中心に約 30 社からの応募があ
り、商談の結果、4つの商品について成約し、バイヤーが展開するロサンゼル
スにある店舗へ納入された。
米国では、世界各国から 1,000 社以上が出展し、世界中から多くの食材が集
まる見本市「Fancy Food Show」や、日系食品商社が企画するレストランショ
ー、地元のお酒のイベントなど、様々な形で食品をプロモーションする機会が
ある。
有機食品市場の今後の拡大が見込まれる米国において、福岡の食材の普及を
様々な形で後押ししていきたい。
※為替レート 1ドル 100 円で換算
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