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議事録(PDF形式 259 KB)

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議事録(PDF形式 259 KB)
「ポスト京都議定書の政策課題に関する国際共同研究」報告会
日時
平成 20 年3月7日(金)
場所
三田共用会議所
(司会)
9:30∼17:00
おはようございます。皆さまにはお忙しいところ、お集まりいただきましてあ
りがとうございます。私は経済社会総合研究所の坂下と申します。ただ今から「ポスト京
都議定書の政策課題に関する国際共同研究」報告会を開催いたします。
はじめに内閣府経済社会総合研究所長の黒田昌裕より開会のあいさつをさせていただき
ます。
開会挨拶
黒田
昌裕(内閣府経済社会総合研究所
所長)
皆さまおはようございます。朝早くからお集まりいただきましてありがとうございます。
昨日は、外部の方もお招きしてシンポジウムをさせていただきました。本日はそれに引き
続きまして、もう少し専門的な部分も含めて少人数で議論していただくということで、こ
の報告会を企画しました。ご案内のように、環境問題、京都議定書の発効を待って、いろ
いろな形で議論が出ております。京都議定書で目標が達成できるかどうかということだけ
ではなくて、地球規模の環境問題というのは徐々にシリアスになってきています。それを
どう解決していくかというのは、われわれ人類にとって今後最大の課題といっていいと思
います。本日は海外からもたくさんの先生方においでいただきました。遠路この会議にご
出席いただきまして、厚く御礼申し上げたいと思います。また、国内の各大学、研究所か
らも、いろいろな先生方にこのシンポジウムにおいでいただきまして、お忙しい中のご協
力に厚く感謝申し上げたいと思います。今日一日、若干長丁場でありまして、非常にいい
お天気ですが、幸か不幸かこの会議室にこもって議論することになると思います。中身の
ある議論をさせていただければと思っていますので、よろしくお願いいたします。
(司会)
それでは、研究報告に移らせていただきます。本日の報告会は五つのセッショ
ンと、韓国、中国、日本、およびEUの国、地域別の現状等の報告を行います。本来は、
セッション1でEUの Egenhofer 博士からの研究報告を予定していたのですが、コメンテ
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ーターの澤先生が遅れられていますので、セッション2を先に始めたいと思います。ベネ
ツィア大学、FEEMの Carraro 教授から研究報告を行います。広瀬次長に進行をお願い
いたします。
セッション(2)Technological Change, Technology Transfers and the Cost of Reducing
GHG Emissions to Combat Global Warming
(広瀬)
最初に、ベネツィア大学、FEEMの Carraro 教授から技術革新についてお話
をいただきます。伴教授にはコメンテーターをお願いいたします。
(Carraro) 本日はおいでいただきまして、どうもありがとうございます。ESRIに対
しても感謝申し上げます。このようなリサーチプロジェクトのコーディネーションやサポ
ートは、新しい成果を出すために大変重要でした。
それでは、モデル開発における技術変更、技術普及に関して、新たな成果を発表させて
いただきます。
昨日は、WITCHのスタンダードモデルのお話をしましたので、本日はこのモデルの
新たな進展について申し上げたいと思います。特にこのモデルが、世界のさまざまな地域
をまたいで技術移転を可能にするということ、そして、これらの技術移転が今後重要な役
割を担うか否かにおける評価についてお話しします。この技術を拡散、普及させることに
よって気候変動対策のコストを削減することができるかどうかという点においては、技術
の普及は大変重要な現象であると同時に、非対称的な現象でもあるからです。
研究開発投資の 84%がG7の国で占められているというデータが 1995 年に出ました。大
変少ない国々で研究開発投資の8割以上となっているわけです。そして、GWPのシェア
が 64%ということで、非対称的です。研究開発投資ということになると、この格差はさら
に広がっています。それと同時にテクノロジーは、もともと7カ国で開発が行われていま
すが、国際通商や海外直接投資などを通して、また、特許、青写真、研究などの知識のフ
ローを通じて各国間に普及しています。新しいテクノロジーとして特にわれわれが関心が
あるのはエネルギー技術ですが、このような普及を通じてさまざまな国に広がっています。
研究課題として、まず技術の普及がより多くの技術革新につながることで、安定化コス
トが削減されるのかという問題がありました。つまり、少ない国で開発された技術が分散
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化していくことで、気候変動対策のコスト、または安定化コストが低下するのかといった
意味でのコストの推測が、より過大評価されているのです。また、同じような疑問点が挙
げられています。政策関連のコスト低下が、技術協力または技術拡散のプロセス、そして
各国間の合意をもたらし、GHGの安定化に寄与するのか。三つ目はもっと理論的なもの
です。われわれは、知識の流れによってこれらの知識にただ乗りするようなインセンティ
ブが生まれることは分かっています。知識は完全に配分することはできません。研究開発
の答申またはその答申の結果を、特許として守ることはできますが、知識は流れていくの
です。そうするとただ乗りする人が出てきて、研究開発投資の額が低くなるのです。もう
一方では、研究開発投資が高まれば成長が高まり、また排出量も多くなるということで、
排出量の問題を考えると逆効果になってしまいます。このような理論的なモデルではこの
ような効果を評価することはできません。経験則に基づいたものが必要になるのです。各
国でどういうことが行われているか、その効果を計算し、実世界でどうなっているのかを
見ていく方がより近似化できると思います。
そこで、WITCHモデルが出てきます。WITCHというのは、World Induced
Technical Change Hybrid Model の略で、トップダウン型のモデルであると同時に、最適
成長をもたらすモデルであり、またエネルギーモデルでもあります。これは単一のもので
すが、ほかのモデル、例えばマクロとエネルギーサイドを両方一緒にしているものもあり
ますし、ハード、ソフトの両方があります。グローバルなモデルで、12 の地域が戦略的に
相互作用しています。また内生的な技術変化がありますし、気候モジュールのフィードバ
ックも大変重要です。これは、気候からのダメージが経済の中にフィードバックされるか
らです。
では、エネルギー研究開発にフォーカスしたいと思います。エネルギー研究開発、非エ
ネルギー研究開発、そしてさまざまなエネルギーの相互作用も入っていますが、このモデ
ルはエネルギーR&Dのみです。新しいバージョンを今作成中です。プロダクションのと
ころではまず、資本、労働、エネルギーがありますが、エネルギーはエネルギーサービス
となっています。エネルギーサービスには、物理的なエネルギーの使用量と、実際にエネ
ルギーを生産の中で使うために知識も入っています。これはある特定のエネルギーを使う
だけではなく、効率性も重要であるからです。エネルギーの知識というのは、エネルギー
使用における効率性を補足するために必要ですし、それは研究開発投資を通じて蓄積され
ています。エネルギーセクターは、エネルギーの使用を改善し、そして効率も改善します。
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生産の中でのエネルギー使用、そしてその知識の蓄積は、過去の知識に基づいていますし、
また研究開発投資、またエネルギー研究開発の投資、そしてイノベーションのポシビリテ
ィフロンティアもスタンダードの中に入っています。Kennedy が 1964 年に提唱したもので
す。そして 2004 年に Popp によって提唱されたものに関しては、標準的なものを活用して
います。これが二つ目の側面で、研究開発のR&Dに関する新しいものなので、こちらに
ついて少し申し上げたいと思います。
知識というものは世界レベルで、さまざまな国や地域からの投資から生まれます。そし
て世界のナレッジプールができます。どの部分かというのは、その地域の特徴に基づきま
すが、地域はこれらのグローバルな知識からメリットを享受するために知識を吸収します。
そしてその吸収した知識が、国内の研究開発投資と組み合わされ、エネルギー利用の効率
性に寄与することになるわけです。
三つのステップをモデリングするためには、まず国際的ナレッジプールの規模、および
特徴を定義し、どのような形で蓄積されるかを測らなければなりません。二つ目は、知識
の吸収プロセスについて、どうやって各国がメリットを享受するかを記述しなければなり
ませんし、また国際的な流出と国内の知識とがどうやって組み合わされて、生産に結びつ
くのかも定義しなければなりません。
まず、国際的なナレッジプールに関して、文献によって二つの見方があります。最初は、
62 年の Gerschenkron で、その後 Acemoglu など、数々の文献において 2006 年に再提唱さ
れています。ここではナレッジプールにおいて国によって吸収するところが多い、少ない
ということがありますが、より多く吸収できるところは、フロンティアから離れていると
ころだとされています。つまり、さほど開発されていない国の方が、先進国よりもより多
く吸収できるということです。なぜなら、先進国は既に知識が蓄積されているからです。
また、さほど開発されていない国の方が、ボトムからトップへの改善運動が高いのです。
二つ目のアプローチは 64 年の Rosenberg にさかのぼります。昔の技術プロセスというも
のは、フロンティアから近い国と遠い国というだけではなく、それぞれの国が独自のテク
ノロジーを改善するということで、フロンティアにたどりつくまでの道が並行しています。
この二つのアプローチには、重要な側面が両方にあります。この二つの見方のメリット
を両方とも享受するために、これら二つを一つのモデルに組み合わせようと考えました。
まず低所得国、テクノロジカルフロンティアから遠い国においては、Gerschenkron の効
果が使えます。そして、高所得国、テクノロジーが開発されている国では、Rosenberg 効
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果があります。世界のナレッジプールから吸収することができるが、独自のテクノロジー
パスを歩む、つまり、それぞれ国によってその道のりは異なるということです。低所得国
は知識のストックが小さく、吸収能力が限られているため、十分なスキルがない、インフ
ラがない等々によって、なかなか新たなテクノロジー、知識の吸収が難しくなるわけです。
しかし、高所得国は既に知識が生成されており、他国からの吸収能力も高い。従って、フ
ロンティアから遠い国があれば、その吸収能力は小さいけれど、ナレッジプールは大変大
きくなります。
そして、低所得国において、国が成長すると、所得が伸びるに連れて知識もどんどん多
くなり、ある一定のところまでいくと、吸収される知識が減っていきます。こちらのモデ
ルは、こういったところで Gerschenkron、Rosenberg 両方の効果を吸収することができま
す。どのような形で、他国で作られた知識からほかの国がメリットを享受するかというこ
ともありますし、またこれらのテクノロジーがほかの国の生産構造を変えることもあり得
るのです。
最終的なステップは、どのような形で流出が生産の中に入っていくかということです。
まず、流出がイノベーション・ポシビリティ・フロンティアに入ります。これは Acemoglu
が 2002 年に言っていますが、イノベーション・ポジビリティ・フロンティアというのは、
国内ストックと研究開発投資の合算であると言われていましたが、今は国内の研究開発投
資、国内のストック、そして海外からの流出、すべてを含みます。これらでポシビリティ
フロンティアが定義されて、そしてそれが生産の方に移っていくということになります。
次に、ただ乗りのインセンティブが実際にあるのかを考えてみましょう。これにおいて
は明確な答えがありません。グローバルのナレッジプールを使うことができる国はこれら
の知識を無料で吸収することができるため、これらの知識に関しては、ただ乗りするイン
センティブが働くのですが、知識を吸収し、キャパを増やしたい、でも吸収するキャパが
ないということになるとグローバルなナレッジプールから、吸収するメリットがないわけ
です。そうすると研究開発投資をすることによって、そのキャパを増やすことができます
が、どちらの方がいいのでしょうか。Cohen and Levinthal は、ある一定の条件下ではア
ブソープションキャパシティがあるのでインセンティブがない、むしろ研究開発投資を増
やす方のインセンティブの方が働くと言っています。世界の気候モデルにおいても、果た
してこのような結論になるのか、また別の結論になるのかということは重要な問題です。
もちろん測定というのは、このモデルの中で非常に重要ですが、時系列もなければデー
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タもない中で、イノベーションフロンティアを推定することが難しいわけです。ですから、
dについて憶測せざるを得ません。R&Dの弾性値、スピルオーバーについては推定せざ
るを得ないのです。それは、幾つかの重要な前提の下で行っています。第一の前提は、国
内の投資の方が海外からの投資よりも効果が高いということ、2番目の前提は、時空間の
スピルオーバーは海外からの国際的なスピルオーバーよりも高いということです。それか
ら、感応度分析を行い、測定のエクササイズをして、dの係数の価値を定めることができ
ました。
それから安定化のエクササイズということで、どの程度の効果があるのか、知識移転、
温室効果ガスの濃度の安定化に対してどれぐらいなのか、そして政策の意味合いが何かと
いうことで、スタンダードとして、大気中のCO2濃度を 450ppm するという目標が掲げら
れているわけです。これはおおよその平均的な目標値だと思います。ヨーロッパの国々は
大体これを受け入れようとしていますし、アメリカももう少し高い数値を目標にするかも
しれませんが、現実的な政策として見ていると思います。気候変動政策の 90%がこの
450ppm の濃度の安定化を目標に考えています。
では、世界炭素市場において、国際スピルオーバーがあるものとないものという二つの
ケースを分析した結果についてお話しいたしましょう。
このモデルにおきまして、ただ乗りはある程度見られます。世界のR&D投資はスピル
オーバーがあるときには常により広くなるからです。もちろんただ乗りをするインセンテ
ィブがあるということで、これは特に所得にかかわりますが、途上国はキャパシティに関
して投資をして、グローバルなナレッジプールを吸収していかなければならないわけです
ので、ただ乗りのインセンティブは働きません。高所得国の先進国の場合も、吸収能力が
既に非常に高いので、ただ乗りのインセンティブはそれほど働かないわけです。
もう一点の結論としては、低所得国は高所得国よりも吸収能力を高めなければならない
ということで、投資を積極的に行わなければなりませんが、安定化のコストが低いという
意味ではスピルオーバーからのメリットは、ほとんど無視できるくらいの程度です。安定
化のコスト削減において、エネルギーテクノロジーのスピルオーバーが主要な役割を果た
しているというのは当てはまらないと思います。もちろん重要な現象かもしれませんが、
安定化コスト全体をグローバルに見てみますと、ナレッジスピルオーバーがあってもなく
てもそれほど決定的な要因とはいえないわけです。それはなぜでしょうか。
何が起きるかというと、ナレッジスピルオーバーには国内のR&Dの投資に対するクラ
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ウドアウト効果があるということで、海外からの投資が来ると国内投資がある程度減り、
相殺し合うことになるわけです。よって、トータルのR&D、国内外のコストを合わせる
とそれほど違いがなく、安定化コストに対する影響も同じになってしまいます。ナレッジ
スピルオーバーというのはまさにR&Dのコストの再配分の効果はあるのですが、気候変
動対策のコストにそれほど全体的な影響は及ぼさないわけです。
最初のエクササイズでは、気候政策を単純にグローバル探査市場という形で置いている
のですが、気候政策のデザインがナレッジスピルオーバー、テクノロジースピルオーバー、
チャネルを通じて行われる、つまり気候政策というのが、新しいテクノロジーを導入する
ための何らかのインセンティブの組み合わせという形になりますと、技術移転、それから
技術のスピルオーバーのチャネルがもっと重要になってくると思われます。
それが政策の二つ目の要素として、今後取り上げたいと考えているところなのです。安
定化の目標としては、世紀末までに 450ppm を掲げていますが、二つの政策手段を考える必
要があります。つまり、一つ目は、明確な価格シグナルを、グローバルな炭素市場を通じ
て与えるということ。2番目のメカニズムとしては、排出権を炭素市場でオークションす
る、収入を使って途上国の吸収能力に対して補助金を出すという政策手段です。高所得国
が排出権のオークションを炭素市場で行うことで収入を得るのですが、この収入を使って
補助金を与えるということです。R&Dコストに対する直接の補助ではありませんが、途
上国の吸収能力に対する補助金を行うということは、新しい研究所や研修プログラム、教
育プログラムなどのこういった途上国の吸収能力を高めるために補助をするということで
す。途上国が吸収能力を高めることができれば、ナレッジスピルオーバーのフローが迅速
化します。ですから、吸収能力というのは国内ナレッジプールのグローバルなナレッジブ
ールとの関係ということになり、新しいテクノロジーを入れるため、補助金プログラムで
先進国が途上国向けに吸収能力を高めるために導入したものという新しい項目をつけてい
ます。このケースの結果、政策がより効果的になり、技術移転がより大きな役割を果たす
ようになるわけです。
一方で、高所得国は事態が若干悪くなります。なぜなら補助金を出して途上国を支援し
ているからです。しかしグローバルなレベルでとらえた場合、ネットベースで利益が見ら
れます。これは決して無視できるようなものではありません。低所得国にとってかなりの
利益が出ています。もちろんコストの分布ということでは、低所得国のコストと高所得国
のコストということになり、スタンダードポリシーということでR&Dの吸収を高めるた
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めの補助金となって、高所得国が若干ペナルティを受けているわけです。逆に、低所得国
にとっては利益が 0.17%ぐらい押し上げられているということで、非常に興味深い影響が
出ています。
もう一つの政策を走らせてみました。これは炭素の価格と一定のメカニズムということ
で、吸収能力に焦点を置くのではなく、途上国に対してリソースを移転し、途上国にこの
リソースを使ってもらってR&D費用として使ってもらおうということです。グローバル
レベルでいえば、コストは引き下げられ、低所得国にとってのメリットが、先ほどの政策
手段よりは高くなっています。従って、技術移転のナレッジスピルオーバーは、気候政策
の効果を高めるために単なる移転のプログラムよりも、よりよいチャネルといえるでしょ
う。
では、研究開発の投資はどうなっているのでしょうか。若干、高所得国においてはただ
乗りの投資が出ますが、低所得国ではそうなっていません。低所得国の方では吸収能力を
高め、自らも生産性を高めようという、ある程度自助努力に助けられているということで、
全体的に見るとただ乗りの効果はありません。高所得国の方が、若干フリーライドの効果
というのは出ます。
結論として申し上げることができるのは、まずスピルオーバーが新しいナレッジの生産
にどう影響を与えるかということで、スピルオーバーというのは国内R&D投資を補完す
るものであり、スピルオーバーが高いときには国内R&Dは低くなり、トータルで見ます
と一定しています。若干ただ乗りが高所得国には見られますが、低所得国には見られませ
ん。それから、温室効果ガス安定化に対する政策ということでは、どういう影響が出るで
しょうか。炭素の価格ということで、若干の影響は出ています。しかし、炭素の価格と政
策デザインとして、ナレッジスピルオーバーを促進し、技術移転を促進しようという政策
を行った場合には、これらの政策はコストを引き下げる上でより効果的であり、かつ新し
いテクノロジーを世界的に普及させる上でより効果的です。感応度分析もいろいろ走らせ
てみましたが、重要なモデルの係数というのは、知識と技術の移転において、ほとんどの
国々では変化が見られませんでした。高所得国に限って若干の変化がありましたが、係数
の方でもっと実証的な研究が必要だということであれば、高所得国中心に行うべきだと思
います。モデルは高所得国の方が低所得国よりも感応度があると見ています。しかし、結
論として、マイナス 20、プラス 20 の係数の変動が見られたということです。ありがとう
ございました。
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(議長)
(伴)
では、伴先生、コメンテーターとして討議をお願いいたします。
Carraro 先生、非常にいいお仕事を拝見させていただき、最初に感謝申し上げた
いと思います。基本的に今回のカンファレンスの目的を私なりに理解すると、福田首相が
ダボスで演説をして、日本のこれからのやり方がいわゆるGHGガス削減に役に立つかど
うかを、モデルを使っていろいろな形で議論するときに、われわれはモデルというものを
使うわけですが、どういう形でそれを評価できるかという仕事がわれわれや Carraro 先生
には求められていると思うのです。結局、日本のやり方というのは、技術を重視してそれ
で温暖化ガスを削減していこうという形を取っていまして、それに対して、京都プロトコ
ルは基本的にトップダウン型で、技術であれ何であれ排出量を強制的に削減するという形
になっています。そういうトップダウン型の京都プロトコルに対して日本政府は、どちら
かというと今でも反対しているようなところがあり、こういうセクトラルアプローチ、あ
るいはボトルアップ的なアプローチでいろいろと言っているということで、それを国際的
な立場から評価するのがわれわれの仕事だと思っています。
福田首相は、とりあえず 2020 年までに 30%、エネルギーの効率を高めるということを提
案していまして、それに対してお金を出すと言っています。日本は非常に大きな赤字を抱
えているのですが、何かというとすぐお金を出す。上の方では 10 億ドル、下の方では 30
億ドルと、基本的には技術開発や技術移転に対してそういう巨額のお金を出す準備はある
ということを言っているのです。
各国にどういう考え方の違いがあるか。特にポスト京都という観点からいきますと、E
Uは恐らく現在のやり方である意味での数値目標というものを設定して、どういう形で各
国に割り当てるかというところですが、それに対して日本は、ボトムアップ、セクトラル
アプローチという形で提案をしています。アメリカは中国、インドが入らなければ入らな
いと言っているし、それから発展途上国というのは何もしたくないと、非常にこういう四
つの典型的な考え方あって、今いろいろと議論しています。
日本人というのは技術信仰のところがありまして、技術があったら何でも解決できると
いうのがあるわけです。それには多分二つ理由があって、一つは単純な技術信仰なわけで
すが、もう一つは国際的な競争力という立場から、そういう方向の方がトップダウン型よ
りいいというのがあると思うのです。ただ、三つ目としてセクトラルアプローチも意味が
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あると思うのは、少し私もここでモデルとしてやっているところがあるのですが、今後
2030 年までに二酸化炭素がどれだけ増えるかといいますと、一応ポスト京都でアメリカが
入るという前提では、先進国は減少傾向にあるのですが、中国とインドが急激に伸びてい
ってしまうのです。だから先進国が削減した分をはるかに上回る形で、増加に転じてしま
うわけです。ただそのときにどういうところから出ているかというと、これはセクターご
とに見ているわけですが、中国の場合、基本的には発電のところで大部分が出ています。
製造業のところで出ているのは鉄鋼でありまして、非常にピンポイントなところでの出方
というのが、二酸化炭素の典型的な形として出ているわけです。
そうしたときに、エフィシェンシーという概念でいきますと、これは電力に関する特に
石炭火力発電所の効率性を経年変化、1980 年からつい最近までのデータで少し見てみます
と、中国は確かに非常に進歩はしているのですが最近少し悪くなっています。日本と比べ
ると非常に悪いわけです。だからそういう意味で日本政府が考えているのは、この技術を
どういう形で中国に使ってもらうかということです。火力発電所の技術に関して既に分か
っている、実際に使っているテクノロジーにはどういうものがあって、幾らかかって、ど
れだけのエフィシェンシーがあるかというのは、日本はすべて分かっているわけです。日
本は大体今、ウルトラ・スーパー・クリティカルというレベルだと思うのですが、中国で
今新しく作っている部分の半分は、スーパークリティカルで、残りの大部分がもっと悪い
ところを使っています。中国の多くの発電所では、高い技術を使うのではなく、もっと安
い技術で発電ができた方がいいということで、非常に悪いものを使うので、CO2の排出
がどんどん増えてしまうというわけです。昨日も少し ZOU さんとお話ししたのですが、恐
らく中国政府は火力発電所のエフィシェンシーを高めたいという気持ちは持っているかも
しれませんが、一般の企業にそんな気持ちは全くない。つまり非常にいい技術があること
は現実なのですが、企業がそれを採用しない限りどうにもならないわけです。採用するイ
ンセンティブがないとどんな技術であっても生きることはできません。
今回の Carraro さんのお話というのは、そういう技術がどういう形でディフューズする
かというところで、ある意味でまねるというのが、非常に意味を持つものになると思うの
です。どちらかというと、イノベーション、あるいは投資している先進国が一生懸命お金
を出して、そのパブリックグッズを作ると。それがスピルオーバーして、中国は途上国で
はありませんが、そういうところに技術が流れていく。こういう形でディフューズ、スピ
ルオーバーしたときに、結局このようなプロセスが、イノベーションをさらに増やしてい
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くかどうか。スピルオーバーがR&Dを刺激するか、それともディスカレッジさせるか。
それから、フリーライドがドメスティックなR&Dをクラウドアウトするかどうか。そう
いうことによって、スピルオーバーというのがスタビライゼーションコストを高めるのか、
低めるのか。こういうものを Carraro 教授はモデルに基づいて分析され、非常にクリアな
結論を出されているというところが、非常に面白かったと思います。
そこの非常に大きな役割を果たすのが、アブソープションキャパシティ、吸収能力です。
この吸収能力をある意味で高めるということが基本的に重要だと思うのですが、ただ少し
気になるのは、この吸収能力を高めるために援助もされているのですが、いずれにせよこ
の吸収能力を高めるかどうかというのは、途上国にとってはどうでもいい話で別にゼロで
も構わないわけです。しかし、先進国、特に日本にすればこの吸収能力を高めたいという
ことがあるわけで、そこのところをどういう形で高めることができるのか。単にお金を出
せは高めることができるのかどうかを、これからは少し見ておかなければならないだろう
と思うのです。これは先生のアサンプションと結論になっているわけですが、こういうス
ピルオーバーというのが、非常にコスト削減にとっても役に立つという非常にいい結論に
なっており、恐らく日本政府にとっても、望ましい結果になっているだろうと思います。
ただ何度も言いますが、基本的には技術というものが中国やインドに、例えば火力発電
や鉄鋼などでいい技術が行ってもらいたいわけですが、問題は行ってもらうための方策と
いうのが Carraro 先生の場合はここで言うと、アブソープションキャパシティを増やすと
いうところにしかないわけです。これが正しいかどうか知りませんが、多分日本政府はこ
こに関しても実はやりたいと思っているのではないかと思います。つまり、FDIと言わ
れている部分も可能性としてあるわけで、こういうところに関しても日本が立ち入ること
ができるかどうかというのはモデルと少し離れると思いますが、ここで見ると途上国の方
が高所得国よりもコストが高くなっています。発展途上国が非常に高いコストを払ってい
るわけで、これだけの高いコストを払うインセンティブというのが本当にどうして出てく
るのだろうかというのが、私には少し気になるところです。要はいかに発展途上国にエネ
ルギー効率を高めてもらえるかということを、われわれはしなければいけないわけですが、
そうしたときに先ほどフリーライドの話が何度もあると言いましたが、日本政府としては、
本当は発展途上国にフリーライドしてほしいわけですけれど、発展途上国の方は本当は興
味がないかもしれないというあたりも考える必要があると思います。
もう一つ、特に日本政府は非常に鷹揚なところがあって、フリーライドをしてほしい、
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技術をあげますと言っているのですが、実は技術を持っている日本の企業は、それに対し
て非常に反発を持っています。だから国内でも技術を供与する側と政府の立場がコンフリ
クトしているわけです。こうしたときにそういう企業と政府との間の問題を、どういう形
で考えるか。そこのところをお聞きできればと思っているわけです。
あと少しテクニカルな点で私は先生のやり方で十分いいと思うのですが、新しい技術が
採用されるには二つの方法があると思うのです。相対価格が変わるというのが一つ、もう
一つは新しいテクノロジーを、こちらに持ってくるやり方があります。基本的に Carraro
先生の場合はどちらに相当するのかということを、少しお聞きしたいと思っています。わ
れわれが行っているのは、基本的にはコンベンショナルなテクノロジーと、例えば、火力
発電といえばクリティカルレベルと、スーパークリティカルやIGCCのレベルのものが
あって、いかにここからこちらに行くかということです。そこにいくためには相対価格を
変えるか、少なくともここを移動させないとなかなか採用されない。採用されなければ技
術として、あるいはCO2の削減にもいかないので、それをモデルの中にどういう形で取
り込むかについて、お考えをもう少しいただければ幸いです。
(広瀬)
どうもありがとうございました。それでは、フロアから二つだけ質問をいただ
いて、Carraro 先生に答えていただきたいと思います。
(Q1)
モデルは私にとって大変、興味深いものでした。特に世界のナレッジプールと
いうのは非常に面白い概念だと思ったのですが、モデルの中でどういったナレッジプール
なのかということを説明していただけますか。この知識とテクノロジーというのは、実際
のテクノロジーの知識なのでしょうか。実際の具体的なテクノロジーであるなら、どうい
うテクノロジーなのか教えていただきたいと思います。それから、マーケットの中でそう
いったテクノロジーをどうやってプール化しているのですか。2番目に伺いたいことは、
技術移転の場合、常に産業界の国際競争力と矛盾するのではないかという話が出るのです
が、産業の国際競争力と技術移転の関係をどう整理していらっしゃるのですか。
(Q2)
私は特定の地域で温室効果ガスの削減をやろうとしています。アジアの国々の
場合、国際的な技術のスピルオーバーと国内の政策を組み合わせるということだったので
すが、国内のナレッジプールと技術のスピルオーバーの間にギャップのある国はどうする
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のですか。このミスマッチがあるので、技術の吸収がスローになり安定化に伴うコストが
割高になるのです。なぜなら、国内の知識のレベルが国際的なスピルオーバーとマッチし
ないからです。どうすれば、国内の吸収能力を高めて国際的な知識の吸収を早め、円滑化
することができるのでしょうか。
(広瀬)
ありがとうございました。それでは Carraro 教授、答えていただけますか。
(Carraro) 最初の伴先生のコメントは、政策についてでした。つまりどうやって途上国
の吸収能力を高めることができるのかということです。まず一点だけ申し上げますと、こ
のモデルのポリシーサイドはある例のようなものです。技術移転を使って、新しいモデル
を開発するときに、ポリシーアナリシスに使えるということを申し上げたかったのです。
でも、炭素価格、および技術移転にかかわる補助金が一つ、二つあります。二つの政策で
す。このモデルは大変、豊かなものなので数多くの政策を入れることができます。ポリシ
ーの一つとしては、可能性として削減するのではなく、炭素価格を通じて途上国を助ける
ことができます。グローバルなレベルの炭素価格がインセンティブを与えるからです。特
に排出減のアロケーションが1人当たり全く同じ額であった場合ではなく、1人当たりが
違うが過去の排出量に比例している場合は、ほとんどの割り当ては途上国ではなく先進国
に割り当てられます。そのために投資のインセンティブが低くなります。コストが高すぎ
るからです。なぜここでのコストが高くなっているのでしょうか。二つ目のエクササイズ
においては、最初、排出減の割り当てが1人当たり、全く同じではないということになっ
ています。そうなると、低所得国のコストがゼロ、高所得国のコストが3%くらいになって、
逆になり、コストが高くなるのです。
なぜそうしたのか。二つ理由があります。吸収能力に対する効果を隔離したかったので
す。そうでなければ研究開発と吸収能力という二つの効果を見ることになります。そして
二つ目の理由は、バジェットバランスが必要だということです。技術移転は、途上国から
先進国ということになると、アロケーションが1人当たり同じという場合、二つの移転が
あります。排出量を買って、そして吸収能力を高める。しかし、反対の場合、一種類の移
転しかありません。このような政策はモデルのメカニズムを特定するためのもので、現実
的なポリシーではありません。どのような形でモデルを実際の気候政策において展開でき
るかというのではなく、モデルがどのように機能するかを見せるためのものです。
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後にもし、関心があるのであれば、ポリシーでこれらのメカニズムすべてを網羅したも
のを設計することができます。例えば、アロケーションは1人当たり同じであって、その
ほかのアロケーションと比較することもできます。そして当初のアロケーションは、おっ
しゃったとおり重要です。これがリソースの分布を示すものであって、これらのリソース
はいずれ、どうやって使われるかということに関連するからです。またポリシーを作るに
おいては、政府がここで介入しポリシーを導入します。そうすると弾性を高めることがで
き、スピルオーバーの効果、またはスピルオーバーのスピードも政府によって影響を受け
ることがあります。特に特許の政策などです。現在は官民の利益の間で対立があります。
イノベーションを保護するために、その特許のポリシーが制限されていることがあります。
しかし、国としてはできる限り普及してほしいということなので、パテントポリシーがよ
り制約されません。これは国際的だけではなくて、国内に限ってもそうです。このような
バランスがあるので、最終的なある国内における特許政策に結びつくわけです。
ほかの例を申し上げたいと思います。来週、グローバル研究開発基金を作るためにOE
CDでパリに行くのですが、なぜOECDがそのようなものを作ろうとしているのかとい
うのは、知識の普及を助けることによって、エネルギー効率、または経済成長などを促す
であろうと思っているからです。それによって、先進国および途上国にもメリットが行く
と考えています。でもこれは、民間企業の利益に反するかもしれません。しかし、この場
合においては公共の利益を優先する特定のもので、現実的なポリシーに反映するものでは
ありません。ただ単にモデルをテストするため、モデルがどうやって機能するのかを見せ
るため、後の分析でのポリシーアナリシスのために、このモデルを使うことができます。
それによって、より構成された、またきちんと計画されたポリシーに反映することができ
ると思います。
3番目のコメントがありました。これも大変興味深いコメントでした。モデルの中で両
方の効果が見られると思います。新しいテクノロジーあり、学習効果がかかっています。
それからエネルギーの効率化がありまして、生産性が押し上げられます。つまり同じ量を
作るにもエネルギー消費量が少ない、また、新しいテクノロジーでエネルギー利用が効率
化するということで、両方の要素がこのモデルに盛り込まれています。R&Dはエネルギ
ー効率化につながり、学習効果曲線をよりスティープにすることによって第二の効果も期
待できます。しかし、スピルオーバーはこの効果に影響を及ぼしません。スピルオーバー
のメカニズムというのは、少なくともこのフォーミュレーションにおいては、新しいテク
14
ノロジーの導入を助けるのではなく、既存のテクノロジーの効率化を図るということだと
思います。
黒田所長のご質問とも関連すると思うのですが、ナレッジプールでわれわれが念頭に置
いていますのは、R&D費用で一連の特許、一連のテクノロジーを生み出すもの、そして
模倣されたりあるいは学習効果ということで、研究やオブザベーションを通じて学習効果
があり、国々はエネルギー効率という意味では、テクノロジーを向上するということです。
ですから、よりベターなテクノロジーを使っていくということになり、新しいテクノロジ
ーを導入しなくても、既存のテクノロジーを改善していくわけです。もちろんモデルを理
解することができて、スピルオーバーが2番目の効果にも影響を及ぼすようにできたかも
しれませんが、やらなかったのには理由があります。スピルオーバーの影響というのは、
時にはこの作用によってのみ出てくるのです。学習効果は設置済みの国内の能力のみなら
ず、国際的な能力にもかかわってくるわけです。新しい太陽エネルギーということになり
ますと、国内で太陽エネルギーがより利用されることによってコストが安くなるのではな
く、グローバルな全体の利用が増えるとコストが安くなるわけです。ですから、スピルオ
ーバーの影響がここに既に出ているわけです。従って、ナレッジプールでは入れなくても
いいと思ったのです。ただ、このスピルオーバーの波及効果というのは対照的なもので、
吸収能力とは関係がありません。これは設置済みの能力が高ければ高いほど、学習効果で
コストを安くすることができます。しかし、これは吸収能力次第ということになります。
ですから、単純にモデル改善をするやり方としては、吸収能力の現象をここにある程度入
れるということだと思います。これが実証的に優位なものかどうかは分かりませんが、海
外よりももっと効果が高くなるということで、設置済みの国内の施設で感応度分析などを
することも検討してみてはどうかと思います。
このモデルの特徴ですが、スピルオーバーがエネルギー効率性で入っているということ
です。国際比較も非常に大事だと思っていますが、スピルオーバーを改善するというか、
刺激することによって国内には短期的に見るとダメージが出ます。しかし、ナレッジプー
ルというのは、公益財でありますので、短期的な効果というのは長い目で見ればグローバ
ルなプラスの効果によって相殺されると思います。途上国の成長を技術の普及を通じて、
ないしは効率化を通じて押し上げた場合には、グローバルな需要が拡大するということに
なり、グローバルに見るとプラスの効果が出るわけです。同じメカニズムが国際貿易につ
いてもいえます。国際貿易を開放すると短期的には国内の産業が少しマイナスのように思
15
えますが、グローバルでは生産的であり、貿易の開放によってほかの国々の成長を押し上
げることができるわけです。つまり短期対長期ということで、同じようにトレードが見ら
れるわけです。
最後のご質問ですが、国内のナレッジプールと国際的なスピルオーバーの間には、確か
にミスマッチがあります。これはモデルが捕獲しているところでありまして、政策を導入
することによって、この非対称性を減らそうとしているわけです。ご指摘の点は、来年、
さらに政策の部分で入れたいと思っています。政策というのは、国内外のナレッジプール
のギャップを埋めるために行っているわけです。ご清聴ありがとうございました。
(広瀬)
質疑応答にもお答えいただいて感謝いたします。それではセッション1に入り
たいと思います。
16
セッション(1)The possible contribution of sectoral approaches to optimally allocate
a cap on GHG emissions
(司会)
コメンテーターの澤先生がいらっしゃいましたので、本来のセッション1に入
りたいと思います。発表は Egenhofer 先生、司会は加藤先生です。よろしくお願いします。
(加藤)
これから入れ替わりまして、セッション1を始めたいと思います。セッション
1は、欧州政策研究所の Egenhofer さんにセクトラルアプローチの報告をしてもらいます。
昨日もさんざん議論しましたように、日本政府は一応、ボランタリーベースのセクトラ
ルアプローチを中心にやっているわけです。日本政府の場合、今日本の考えている場合で
は、最終的に削減目標に達するかどうか分かりません。昨日、Di Maria さんが Convery さ
んの報告を代わりにやっていただいたわけですが、その中に「計画のない行動は悪夢であ
る」という言葉があったわけです。そうならないことを期待しているわけですが、取りあ
えず Egenhofer さんに始めていただきたいと思います。このセッションも同じ時間ですが、
最初に 30 分間報告いただいた後、澤先生から 15 分間のコメント、その後、フロアにオー
プンして、最後にまた Egenhofer さんにリアクションをしていただきたいと思います。そ
れでは、お願いします。
(Egenhofer) ありがとうございます。皆さま、おはようございます。それではまず、E
SRIに対して、この国際共同研究を可能にしていただいたことに感謝申し上げたいと思
います。定期的に、世界中のほかの研究者とお目にかかる機会を与えていただいたことに
感謝いたします。少なくともわれわれサイドから見ると、直接的なスピルオーバーが見ら
れます。われわれの研究チームは、ボトムアップアプローチを検討しているわけで、これ
はヨーロッパの研究者が、本来でしたら着目しなかったかもしれない点です。そしてわれ
われとしても、ボトムアップアプローチが持つオポチュニティを理解することができてお
り、しかしその限界も理解することができています。藤原さんにも非常に興味深いと言っ
ていただきました。
われわれの研究については、前置きはこれぐらいにさせていただき、われわれのペーパ
ーで研究してまいりましたのは次のようなことです。ペーパーは配布されていると思いま
すが、非常に具体的なセクトラルアプローチの部分にフォーカスをするということで、つ
17
まりセクトラルアプローチが国別の約束を 2009 年以降設定する上で、どういう役割を果た
すかということです。EUの観点から見ますと、これは簡単だということで、交渉してト
ップダウンすればいいと思っているのです。けれども、EU以外の地域では状況が違って
いると思いますので、トップダウンとボトムアップをどうやって組み合わせることができ
るか、そして具体的にどういうメカニズムがあり得るのかを考えていきたいと思います。
今年、われわれが試みてきたアプローチは、セクトラルアプローチがこのキャップを最
適な形で、国別、産業別、施設別に配分するということです。セクトラルアプローチをあ
えて選んだ理由は、バリ会議である参加者が述べていたように、これが最もホットなトピ
ックであるわけで、バリ会議の一つのサイドイベントはセクトラルアプローチのものがか
なり多かったのです。出席者の方も、盛んに理解しようと試みておられました。
われわれがここでやろうとしてきていることは、実際的に見て三つのテーマを組み合わ
せることだと思います。
まず第1に、約束をボトムアップ、トップダウンの組み合わせのアプローチでどうやっ
て表現することができるかということで、これが一つの中心テーマです。
2番目に、各国の状況を考慮に入れるということで、セクター別に取り上げることがい
いのではないかということ。
第3に、セクトラルアプローチを検討している理由は、少なくともわれわれが取り上げ
たセクトラルアプローチは産業別ということです。それからAPPベースのもので、アジ
ア太平洋パートナーシップ、国の開発と機構についてのパートナーシップですが、これは
まさにデータの収集とデータの利用をベースにしています。後で、セクトラルアプローチ
はどういう種類のものがあるかということも、細かくご紹介したいと思います。
これは全体的な約束、コミットメントにも役に立つのですが、広い意味でのセクトラル
アプローチを取り上げた理由は、データ収集の目的のためには、そのEUだけでは不十分
なので、セクトラルアプローチを採用することができれば、データの収集を広い意味で行
うことができるからです。
それでは、セクトラルアプローチが、国別の目標、約束(national commitment)という
ことで、意思決定者にどういう情報を与えることができるのでしょうか。そして、その中
にはまた、burden-sharing も入っています。ボトムアップのアプローチがあり、その軽減
のポテンシャルをボトムアップで積み上げていくということです。それから
burden-sharing はトップダウンの要素であったとしても、情報の裏付けが必要であり、い
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い分析、いいデータがセクター別に収集されれば、それだけ助けられるわけです。
このペーパーの構造は三つの部分によって構成されています。まず、その脈絡を取り上
げるということで、国連の軽減ポテンシャルのイニシアティブによる取り組みから、非常
に興味深い幾つかの結論をご紹介したいと思います。また、EUその他の国別のイニシア
ティブで軽減ポテンシャルを取り上げているものは、主にEUとAPPですが、それにつ
いて話をしたいと思います。そして最後に、セクトラルアプローチということで、国別約
束のために情報をどう改善するポテンシャルがあるかをお話ししたいと思います。
セクトラルアプローチを、かなり絞り込んだ焦点を置いてご紹介したいと思います。デ
ータの収集という部分を、どうやってこれから使いこなしていったらいいか。セクトラル
アプローチは一定の役割を果たすことができると思っています。EUにおいて、セクトラ
ルアプローチに関心があるのは、データ収集の目的だけではなくて、政治的な関心も高い
ということです。セクトラルアプローチを推進させていかなければ、EUにおいてはボト
ムアップアプローチに対する関心が薄らいでしまうので、ぜひ盛り上げていきたいと思っ
ています。
技術的な要素は現在、付属書(Annex)という形で出ており、次に別添(Appendix)とい
う形で出ますが、さらに整備されれば、報告書の本文の中に入れていきたいと思っていま
す。これにはいろいろ突っ込んだ知識があり、それらをテキストにどのように織り込んで
いいのかというのは、なかなか整理し切れない部分もあります。
まず第1部ということで、国連全体のイニシアティブ、EUのイニシアティブについて、
昨日も既に話が出ました。これは約束を設定するため、京都議定書の付属書1締約国のさ
らなるコミットメントのためのアドホックの作業部会(Ad Hoc Working Group on Further
Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol:AWG)ということで、こ
れは 175 カ国の締約国によって構成されています。
この作業部会の当初のフォーカスは、軽減のポテンシャルとコストでした。幾つか教訓
が学ばれたのですが、一言でいえば、方法論の関連でいろいろな争点がありますので、決
して万能薬とはいえません。一つのやり方は、いろいろ複雑な問題が絡んでいるというこ
とで、完ぺきなボトムアップの方式のトップダウンへの組み込み方は必ずしも出てこない
ということです。
軽減のポテンシャルが何か。これは市場のポテンシャル、経済のポテンシャル、社会経
19
済的なポテンシャル、技術的ないしは物理的なポテンシャルと、いろいろな定義付けがで
きます。国によって、どの定義を採用するかは違っています。社会経済的なポテンシャル
が最も困難でデリケートなものだと思います。というのは、これは生活様式にかかわって
くるからです。国際社会が軽減のポテンシャルを取り上げるときに、生活様式の変化とい
うことも入るのか。先進国は「ノー」と言うかもしれません。そして、途上国は「イエス」
と言うかもしれません。中国のパートナーとも話したのですが、中国は入れるべきではな
いというご意見でした。これはまだ未決の問題といえるでしょう。
それから co-benefits はどうか、その変化についてどう定量化するか。
それから取引ということになると、ポテンシャルは違ってくると思います。
それから、ポテンシャルを責任と関連付けなければいけません。過去の歴史の責任とは
どう関連付けてとらえたらいいのかということです。
でも、この軽減のポテンシャルは、あまりにも盛りだくさんにしすぎてはいけないと思
うのです。有用な概念ではありますが、あまりにも多くの意味合いを盛り込みすぎると、
複雑になってしまうと思いますので、もっときちんと定義していかなければ、このせっか
くの概念の政治的な有用性が損なわれる危険性があります。
三つの教訓が、このAWGのディスカッションからは出てきています。まず国別のイン
ディケーターというのは誤解を招くものでした。カナダとニュージーランドの事例を挙げ
ました。
例えばニュージーランドが炭素集約型であるのは、その排出量の 50%が農業由来だから
です。農業は最も効率が高いかもしれませんが、農業国であるということで、ポテンシャ
ルをほかの国と直接比較することはできません。カナダは、エネルギーの大生産国であり、
輸出しているので、カナダの特徴は全く違っています。中国は、世界の生産工場となって
いるということで、盛んに物、製品を世界市場に輸出しています。
排出権についての1人当たりの尺度(per-capita metric)いうのは、あまり適切ではな
いと思います。これは排出の権利ではなくて、成長の権利の方が重要だからです。
それから、国連のAWGのディスカッションの経験を見てみますと、セクトラルインデ
ィケーターが誤解を招くという批判がありますが、全体でとらえると、セクトラルインデ
ィケーターの方がより具体的であり、そういう意味では経済ベースのインディケーターよ
り適切といえるかもしれません。そこで、セクトラルインディケーター、セクトラルデー
タがより適切であるということで、取り上げる価値があることになります。もちろん、方
20
法論上はいろいろと制約がありますが。
それでは、ごく簡単にEUの部分についてご紹介したいと思います。EUのカントリー
レポートということで、今日の会議の最後のタイミングで、私の方からもう1回発表させ
ていただくことになりますが、ここでは簡単に、EUで何が起きているのか。このセクト
ラルアプローチがどういう状況になっているのか。そのほか、どういう政策イニシアティ
ブがあるかをご紹介しておきたいと思います。
EUでは、ボトムアップアプローチについてのイニシアティブが出て、ポテンシャルと
政策を明確にしようとしています。最も重要なのは、欧州委員会のECCP I(European
Climate Change Programme:欧州気候変動プログラム)が 2001 年に策定されています。こ
のプログラムは、政府と研究者を含めてステークホルダーに対して、たくさんの措置を明
確にしました。42 の取り得る措置というのが明確にされまして、これによりますと、6∼
7億トンのCO2の排出量の削減を行うことが可能になるということ。これは、CO21ト
ン当たり 20 ユーロのコスト以下でできるということだったのです。
それから、ECCP II というのが出ました。これは京都議定書のトップダウンのアプ
ローチを受けて、コスト効果でどういうものがあるかということで、そのECCP I につ
いては II が出たのですが、これは追加的なポテンシャルを取り上げました。
また、適用(adaptation)やCCS(Carbon capture and storage)、航空、自動車の排
出や、EU−ETSなどを取り上げました。自動車の排気ガスについては、また取り上げ
たいと思います。
EUの貯金の目標は、2007 年に政治的に主導されました。ECCPからの影響もありま
した。コンフィデンスがあったということです。ECCPによって、EUの政策立案者が
コンフィデンスを得ることができたのです。目標枠を設定しても、ある程度、それは達成
可能だというコンフィデンスが持てたということだと思います。ある程度、そういったコ
ンフィデンスがないと、なかなかそれだけの目標を打ち出すことはできません。
サマリーということで、重要な点についてご紹介したいと思います。EUの直近に出さ
れた目標は、政治的に設定されたものですが、これはECCPの情報の裏付けがあってで
きたものです。ECCP以外にも、各国でいろいろなスタディが行われています。
こういった目標が設定されましたので、3月に政治的な決定がなされましたので、2008
年1月、欧州委員会がコスト効果の分析を行いました。この中には、再生可能エネルギー
の技術的なポテンシャルも含まれています。各加盟国が、再生可能エネルギーについてど
21
ういうポテンシャルがあるかを分析し、また負担能力のインディケーターによって、さら
に精緻化されました。
それから、EUが取引メカニズムを組み合わせたのです。各加盟国間のコストバランス
を取るということで、もしアンバランスがあるようでしたら、EUの予算から再分配をす
るということで、これは政治的なことですので、ここであえて詳しくは取り上げません。
それから、これはちょっと記録に残したいがために入れたので、飛ばしたいと思います。
それから、セクトラルアプローチに入っていきたいと思います。このセクトラルアプロ
ーチの鍵となっているのはAPP(アジア太平洋パートナーシップ)のタスクフォースな
のです。APPは、GDPの 45%、そして温室効果ガスの排出量の 50%、そしてグローバ
ルエネルギーの 48%を占めているのです。これはカナダ抜きで、カナダが入る前の数字で
す。そして、世界の石炭の 65%、鉄鋼の 48%、そしてアルミの 37%と、セメントの 61%
を占めているわけです。
これは世界全体における炭素関連の資源利用の 50%以上を占めているということです。
ですから、セクトラルアプローチでは、非常に重要性が高いと思います。APPは、ベス
トプラクティスを交換しています。政府同士のパートナーシップで、また政府と産業界の
パートナーシップでの交換です。セクトラルの産業協力において、ベストプラクティスを
交換するということです。これはテクノロジーオプションとポテンシャルを推定し、また
技術移転を行います。そして先ほど話が出ましたパフォーマンスインディケーターを開発
するということで、パフォーマンスベンチマークを策定する。それから、APP域外の国々
との産業との協力もあります。それから、政治的な取り組みにより、技術普及に対する障
壁の撤廃をするということです。
次に、この報告書のメーンの部分に入っていきたいと思います。これはチャプター4か
ら6に関するものですが、ここで見ているのは、どのようにセクトラルアプローチを使っ
て、国別目標に関する情報の向上をすることができるのかということです。まず定義が非
常に重要であると思っています。それを見て、そして幾つかの主要な課題、そしてまとめ、
結論という順で見ていきます。
まず、なぜセクトラルアプローチかということで、これは昨日お見せしたグラフです。
なぜかということは本当に明白だと思います。新興諸国、そして途上国があり、例えば中
国はコミットメントも約束もない国です。従って、どうにかしてこのように急速に成長す
る経済の削減を担保するのか。そしてまさに、こういった成長目覚ましい国々で排出量が
22
多いわけですから、そういうところにフォーカスしていかなければなりません。だからこ
そ、セクトラルアプローチが有効であると考えるわけです。
もう一つは、この排出量削減についての緊急性が高いということです。これは、IEA
の若干ソフトなシナリオを反映しています。しかし、それを見たとしても、何かをしなけ
れば、かなり緊急性があることが分かると思いますし、コペンハーゲンで今後、合意を見
るなら、何らかの形でトップダウンの削減のコミットメントが必要になってくるわけで、
緊急性があることになります。
つまり新興諸国、そして緊急性というこの二つの課題があり、その結果、このセクター
別政策への関心が高まってきているわけです。これは、ヨーロッパの観点から見ると、こ
れを使うことによって新興諸国を参加させることができる手段であり、もう一つは、貿易
セクターの競争力にも対応することができるということです。しかし、私の個人的分析で
は、セクトラルアプローチでは、実はこの競争力の問題には対応することができないとい
う結論になっているので、それも一つのチャレンジだと思います。
もう一つは、副産物的な効果があるということで、セクター別のデータが政府のデータ
ベースの向上に資するということです。
多くのいろいろなモデルが存在します。私たちは、その 2025 年までに 15 のモデルがあ
ると考えて、それを3種類に分けました。一つはボトムアップで、自主的な、途上国の目
標ということ。これは必須の目標ということになります。バリにおいては、途上国が目標
を立てて、そして自主的な目標に向かって働く努力をすることを言いましたが、そのため
には、そのデータを裏付けとして知らなければなりませんし、コミットメントが必要だと
いうことです。2番目は、国際的なインダストリーのイニシアティブということで、これ
が私たちの焦点となっています。APPが一つの例です。3番目は、セクター別のクレジ
ットで、これは非常にトップダウンのモデルが必要で、その場合は国際的な文脈において
も合意がなければ機能しないことになります。
既に申し上げましたように、このセクター別の国際的なアプローチで、セメント・サス
テナビリティ・イニシアティブであるCSI、また国際鉄鋼協会のIISIのイニシアテ
ィブ、そして国際アルミニウム協会のIAI、そしてAPPを見てきました。そのほかの
モデルも存在しますが、それはあまり積極的ではないモデルということで、まだ実効段階
ではなく、理論的なものであるということで取り上げませんでした。
ここでの例ですが、アルミニウムはIAIがカバーしていますが、これは世界の排出量
23
の約1%をカバーしています。しかし、中国が入っていないので、毎年、これはかなり下
がってきています。十大生産者が 54%のマーケットを占めていますが、今は中国、インド
がほとんどのキャパシティを持っているということで、彼らの参加が必要です。
セメントは、より大きく、これは 25%の世界の生産量を持っている人たちがこれに入っ
ています。それでもまだ、GHGの総量としては5%であるということです。鉄鋼の場合
は、さらに 20 のトッププロデューサーが入ると、より大きな数字になります。
このセクターアプローチを取ることができる、ほかの潜在的な産業もあります。例えば
紙・パルプにおいても、今生まれつつあるアプローチだと思います。
この発電、家庭用の方については、日本でもよく質問されていました。なぜ電力が入っ
ていないのかという質問をここ数日間、受けているのです。EUにおいては、この発電セ
クターにおける最善の方法は、排出量取引であると考えているということです。CO 2が
非常に高く、60∼70%ということがありますので、いろいろな今日話されているような技
術を適用することができます。従って、発電セクターについては、セクターアプローチは
不要であるということで、EUの観点から見ると、発電セクター、あるいはそのセクター
の規模ということではなくて、このセクターが本当に貿易にさらされているかどうかによ
って決めるべきだと思います。またAPPは、発電はカバーしていません。エネルギー効
率については、運輸、そして家庭セクターなどが対象になると思います。
共通の特徴についてですが、もちろん相違点もありますが、まず共通点としては、情報
の収集と、ベンチマークを使うことができることです。
2番目に、これを手段として使って、新興諸国の参加を来すことができるということで
す。そして、これらのほとんどのアプローチはベストプラクティスの普及につながるとい
うことです。
それでは、このセクターアプローチが、いかにして国際的な脈絡、国際的な合意に合致
することができるのかということです。既に、昨日来、興味深い議論がなされていますが、
われわれのペーパーの中では、四つの可能性を示唆しています。
まず最初に、国連レベルですが、既に申し上げましたように、AWGのアドホックグル
ープの中で分かっているように、セクトラルデータを使うことができるならば、それは国
連の議論のいいベースになるということで、約束を 2009 年に決めるときに役立つだろうと
いうことです。
日本においても、ボトムアップアプローチに関心が高いようですので、そういう意味で、
24
このボトムアップアプローチのベースに、セクターベンチマークはなり得るということで
す。なぜ日本がこれに関心を持っているかということですが、APPのディスカッション
で、議論の主導権を取っておられるということです。
このセクターベンチマークがセクトラルアプローチから生まれるわけですが、では、そ
れは実際、キャップの設定、上限の設定に使うことができるのかということです。EU−
ETSにおいて、セクター別の上限を設定するときに使うことができる。あるいは国別の
上限を作るときの集計に使うことができるということです。従って、これをツールとして、
キャップの設定をすることができ、affordable なレベルで、しかも達成可能なレベルの上
限を設定するのに役立つということです。
加えて、セクター別のベンチマークはETSでも使うことができて、現在、EUで議論
されています。このセクターにおいて、フリーアロケーションがまだ残っているので、最
善のことは、ベンチマークを使ってやっていくということだと思います。もし国際的にこ
のベンチマークを使うことができるならば、EUあるいはそのほかの国々も、アロケーシ
ョンの目的に使うであろうと考えられますので、興味深いと思います。
また、グローバルなカーボンマーケットについては Carlo Carraro 先生が既におっしゃ
った点ですが、重要性が高まってきています。多くの人たちが、グローバルなETSは重
要だと考えています。グローバルなカーボンマーケットをトップダウンで、今後2カ年間
ぐらいの間で作ることはできないと思いますが、いろいろヨーロッパやニュージーランド
やオーストラリア、アメリカ、日本などにおいて、個別のETSができた場合に、それが
有機的に成長していくということです。われわれがESRIでやった以前の研究において
も、このようなETSをリンクしていくという場合の阻害要因(impediment)になってい
るのは、キャップの設定に異なる方法論を使っているということです。従って、グローバ
ルなベンチマークを使うことができるなら、類似のアロケーションを各ETSでやってい
くことができて、リンクしやすくなるということだと思います。
それでは、本当のポテンシャルはどこにあるかということで、ここにあると私たちは思
いました。それはバリの交渉で、途上国は計測可能、報告可能、そして検証可能な行動と
いうことを言っています。その行動が何であるかということは分かりませんが、計測可能、
報告可能となると、どこから排出量があるのか。中国やインドにおける産業なのか、それ
を特定しなければなりません。従って、ベンチマークがあるなら、こういった国々もある
一定の相対的な改善のコミットメントを取ることができるのではないかと考えられます。
25
このようなコミットメントのアプローチを取っていくことができます。そして、実際のデ
ータを使ったセクトラルアプローチによって、計測、報告、検証をすることができると思
います。
APPの作業においては、これを一つのツールボックスとして、途上国の行動を見るこ
とができるということで、われわれの分析においては、これはセクトラルアプローチの一
番大きな価値だと考えます。
もう終わりにしなければなりませんので駆け足で進めますが、幾つかのチャレンジを見
ていきたいと思います。こういったチャレンジについては、どのように克服するべきかに
ついていろいろ書いています。
データの収集と利用というのは非常に複雑で、いかに複雑かという、いろいろな例が出
ています。しかし、そのやり方は既に提案されていまして、国際的な既にイニシアティブ
があります。
2番目には、反競争的な行為が問題になるということです。EUでは議論の的になって
いますが、この鉄鋼の 20 社が生産の 35%を占めているので、それでまとまって話をする
ことになると、カルテル上の問題が発生するのではないかという懸念があります。
次に、途上国参加のためのインセンティブは難しいと思います。このセクタークレジッ
トは、まだすべての欧州の産業が受け入れたものではありません。これはコンペティター
に対して、大きな補助金を提供するのと同じであることになるからです。これについて、
ある一定の答えはあるけれども、まだ作業は必要であるということです。
また政府にとっての課題ということで、産業、そしてステークホルダーはこういった課
題を今見ていますが、まだ作業は始まったばかりということで、いかに複雑であるかとい
うことも分かっています。国連と結び付けるのは非常に難しいことも分かっています。し
かし、今後、研究をしなければなりません。ある一定の暫定的な答えは出ているけれども、
もっと深く掘り下げる必要があると思います。
それでは、結論に入っていきたいと思いますが、かなり長いペーパーにはなっています
が、見ていきたいと思います。
各国の間でますます関心は高まっています。EUも含めて、このボトムアップアプロー
チに関心が高まっており、排出量の削減可能性を見ていきたいと思います。それだけでは
なくて、ベンチマークを使うことによって、比較可能性が高まるという関心が高まってい
ます。
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また、非常に興味深いAWGからの教訓も国連レベルにおいて、あります。
また方法論的な限界も分かってきました。従ってこれは、データベースを改善するため
の一つのツールになり得るわけで、削減可能量のためのツールで、有益なツールにはなり
得るけれども、過剰な期待をしすぎてはならないと思います。これがセクター別のデータ
を収集するには役立つと思います。
また、EUにおいても、このボトムアップのアプローチの例はありますが、そのほかの
地域においての方が、例えば日本においての方が、その顕著な例は見られると思います。
実際、EUの目標は政治的なものであったけれども、その背景となる情報はボトムアップ
で出てくるものです。技術的な、例えば再生可能エネルギーのポテンシャルについても、
そのようなボトムアップの数字から出てきます。EUは特殊で、経済的・政治的に統合さ
れており、トレードオフに大きな注目が集まっています。例えばUNのように政府間でそ
れが行われています。
セクトラルアプローチは非常に多くのモデルがありますが、それらはボトムアップとト
ップダウンのアプローチを組み合わせたものです。そして基本的には、われわれが見たも
のは、主にはボトムアップのアプローチであったということです。
さらにポテンシャルとしては、いろいろな注意点はありますが、この国別目標などを作
る場合の交渉に役立つでしょう。また、産業レベルのイニシアティブの核となっているの
は、情報の収集とベンチマークであるということです。
ヨーロッパの観点からすれば、これは政治的に重要なメッセージとして関心を持ってい
ます。というのは、産業界がこのセクターアプローチを使うことによって、これはグロー
バルに取り込むことができるという見通しを持っているからです。そうならなければ、そ
の希望を失うことによって、自分たちのデータを政府に呈上することは嫌になると思いま
す。5∼6年前に、政府に対し、産業としては「セクトラルアプローチは嫌だ」とはっき
り言っていました。政府が、産業側で何ができるかという情報を得たことによって、プレ
ッシャーがかかってくるということで、政府の介入が増えるのではないかと懸念していた
という背景があります。このようなセクターアプローチが本当に実現可能かどうかという
ことは、この課題を克服できるかどうかにかかっていると思います。
最後に、これをすることによって、データを収集することでプラスの効果が既に出てき
ていると思います。グローバルなレベルでの合意に役立ちます。つまり、97 年の京都議定
書の時代に比べて、データの質も量も高まっているということです。そして、排出量も既
27
に交渉の非常に重要な側面になっていますが、どのようにしてエネルギー効率を高めるか。
そして、技術移転そのものを加速化するかということに役立つので、それだけでも価値は
十分にあると考えられます。以上です。ありがとうございました。
(加藤)
どうもありがとうございました。それでは早速、澤先生に報告に対するコメン
トをお願いしたいと思います。
(澤) ご紹介いただきました澤です。まず最初に、謝罪をしなければならないのですが、
実は今日と明日と間違えていまして、1日ずつずれてカレンダーに予定を入れていたので、
完全に遅れてしまい申し訳ございません。皆さんに本当にご迷惑をおかけしまして、この
場を借りて謝罪したいと思います。
実は私自身、経団連の 21 世紀政策研究所で、セクター別アプローチの研究をしていまし
て、実は3月 10 日にその成果を発表することになっています。従って、今日のコメントも、
どちらかというと Egenhofer さんの論旨に対するコメントというより、むしろ自分らが何
を考えているかをお話しするに等しいわけです。
今日、Egenhofer さんのプレゼンテーションをお聞きになってお分かりだと思いますが、
セクター別アプローチを今主張している方々は、非常にモデストというか、自分たちのや
っているアプローチは、京都プロトコルタイプの議定書に対して補完的であるとか、ある
いは一部を改善するのに役立つとか、あるいはクレジットを渡すときに、この方が途上国
が乗りやすいといった観点でとらえているわけです。しかし、実は私どもの研究はむしろ、
その京都議定書のオルタナティブにならないかという考え方を持っています。というのは、
私自身が京都議定書を日本が批准したときに、経済産業省の環境政策課長で責任担当課長
だったので、どうしてもその京都議定書の構造的欠陥というか、特に日本にとっての厳し
さということで、6%というのが一体どうして決まったのかについての疑問が頭から離れ
ないわけです。
最初に Egenhofer さんがおっしゃったように、合理的なキャップを作っていくための一
つの手法だということについては、われわれも非常にそこに期待をしているわけです。し
かし、ただそれだけに止まるのかというと、もう少し大きな枠組みもできるのではないか
と思います。実は去年の 10 月に、先ほどの 21 世紀政策研究所で、京都議定書の後の議定
書の枠組みの提案をさせていただいていまして、それも発表したわけです。後ほど触れま
28
すが、それにこのセクター別アプローチをインテグレートしていったらどうかということ
が、われわれの提案に今度なります。これは一つの骨子ですが、セクターテンプレートを
みんなで交渉していきましょうという考え方です。
Egenhofer さんは、electricity(電力)はなじまないとおっしゃいましたが、われわれ
は、なじむもなじまないも、石炭火力発電所が一体、今後どれぐらいできるのかというこ
とが、もうほとんど温暖化問題のメーンパートを占めていくと考えています。従って、ど
れだけ最高効率の石炭火力が、どのスピードでどの国に入っていくかということを、電力
業界同士で、世界中で話し合うことが非常に大事だと思っています。
ただ、おっしゃったように、エネルギー多消費型産業などとは、貿易の関係で全然違う
ので、貿易にさらされているかどうかという意味では、電力はドメスティックなセクター
なので、話し合いの中身は多分全然違う問題になろうと思います。従って、セクターテン
プレートは、電力とエネルギー多消費型産業ということで、これはたまたま鉄だけしか書
いていませんが、アルミ、セメント、その他のいわゆるエネルギー多消費型産業がありま
す。それと自動車と家電で作られる商品が、産業部門以外で、民生や運輸部門で削減をも
たらす。こういったものを作っている産業。こういう3種類のカテゴリーに分けて、次の
ようなことについて合意していったらどうか。
それはいろいろあるのですが、当然、エネルギー効率です。これは物理的原単位であっ
たり、ドル単位の価値的原単位であったりするわけです。あるいはBAT(Best Available
Technology)をどれだけ導入するかという率です。こういったことを、このセクター同士
で、IEAを事務局にしつつ、産業界と政府の技術の専門家たちがコンタクトグループを
セクターごとに作って、それによって合意を作っていく。そういうことを考えてはどうか
と提案しています。特に、先ほど申し上げた電力については、石炭火力の最高効率のもの
を、いついつまでに何パーセント導入するということを各国で合意します。
問題は、ここから先ほどの、Egenhofer さんのチャレンジのところに書いてありました
が、これを、ではどうやってガバナンスしていくのか。合意をうまく実行していくのかと
いうことです。これが実は去年 10 月に発表したレポートの中に書いてあるポリシーマトリ
ックスという形になっています。これは今のセクターテンプレートなども、この中にイン
テグレートしていくわけですが、日本、アメリカ、そして中国はMEMベースの主要経済
国だと思ってください。それぞれが、それぞれの分野にどういう措置を取るかということ
にコミットして、それをアクションとして実行していきます。特に、これは国内法的な裏
29
付けのある措置を書いていくことにしています。
従って、セクターテンプレートで、例えば物理的原単位を 2020 年までに 20%アップし
ましょう。こういったことが決まったとすると、日本の場合は、国内における省エネ法に
おいて、トップランナーの基準にそれを埋め込むことによって、各セクターにそれを実行
させることを担保できるわけです。従って、その担保措置を国際的にコミットします。そ
ういうことが、このポリシーマトリックスの考え方です。それを新しいプロトコルのスト
ラクチャーに入れていくということです。
カテゴリー1の、今申し上げたポリシーマトリックスは、メジャーエミッター・ガバン
メントによる internationally binding actions のコミットメントをカテゴリー1に書い
ていきます。つまりは、先ほどのポリシーマトリックスを、そのまま議定書の中に、付属
書として入れれば済むという話です。
カテゴリー2は、今の途上国がやっておられるような、省エネ計画や国家計画がありま
すが、これはメジャーエミッターだけではなくて、すべてのガバメントによって、その
nonbinding actions を、individual にコミットメントする。そういうカテゴリー2という
条文を入れ込みます。
カテゴリー3は、こういうセクター別アプローチは国際業界での合意であり、かつ政府
と各国の産業界の合意という2段階の合意がないと担保できないわけです。そして、各国
間の交渉は、皆さんご存じのように、なかなかそう決まるものではありません。そうする
と、交渉の妥結が遅れれば遅れるほど、CO2の削減は遅れるわけです。そうなってはい
けないので、今度の議定書には、直接、プライベートセクターの主体が、参加型で、議定
書に自分たちのやることをそのまま登録するというウェブサイトを作って、そこで情報を
公開します。自分たちのアセスメントについても公開します。そうすると、セクター別ア
プローチが国で合意されなくても、合意されたセクターだけで、ここのカテゴリー3に登
録すれば、自分たちがやっていくことになります。
こういう形で、新しい議定書を作ってはどうかということがわれわれの提案です。これ
が大枠ですが、幾つか、自分たちでやっていても疑問になってくるところがあります。こ
れは、先ほどの Egenhofer さんのプレゼンにもありましたが、セクター別アプローチを期
待している人たちは、やはり途上国の参加にポイントがあるわけです。しかし、最後にイ
ンテグレートされるのが、京都議定書の延長にあるものであるとすると、やはり途上国は、
自分たちにバインディング・アクションを求められるということは、そこの京都議定書の
30
中では確保できないだろう。そうすると、いくらセクター別アプローチをやって、セクタ
ーの合意で途上国が入ったとしても、国ベースでは、京都プロトコルが続く限りは、その
実行が担保されないという問題が出てきます。従って、われわれが今ご説明したような形
で、バインディング・アクションズをやらせることによって、セクター別アプローチの実
行も担保したいと思っているわけです。しかし、そのときに、ニンジンとムチというのは
どういうものにすればいいのか。
特に今、資金は、中国・インドにほとんど流れているわけで、そういう意味で、もう途
上国の中でも、自らが資金調達を、環境問題ではなくて、経済成長に対する投資として民
間資金を世界から集めている国に、さらにアディショナルに資金を投与して意味があるの
か。あるいは途上国側にしても、金よりももっと情報が欲しいとか、技術の、あるいはオ
ペレーションノウハウだとか、そういった情報が欲しいというニーズではないのかという
ことからすると、今までのCDMが果たして今後とも機能するかどうかの保証もありませ
ん。だから、セクター別アプローチで合意が仮にできるとしても、そのときのキャロット
の中身はいろいろと工夫をしていかないといけないということです。
もう一つ、ムチのところですが、日本は自由貿易、WTOのサポーターなので、言いづ
らい部分ではあるのですが、ご存じのように、もうEUも、この前の1月 23 日に発表した
ECベースのETSの改革案の中に、影響があるセクターの声を反映してだと思いますが、
トレードメジャーズについてのメンションがあります。Lieberman-Warner(リーバーマン・
ワーナー法案)みたいなアメリカの国内排出権取引法案にも、
「comparable な effort をし
ない途上国に対しては貿易措置を考える」と書いてあります。今、通商法の弁護士の人た
ちは失業中なので、こちらができたら、どっとこちらに行きたいとみんな思っているので、
こういう措置がどんどん入ってくるわけです。それは冗談ですが、要は trade measures、
つまり trade and environment という問題が、今後、ポスト京都の体制の中では不可避的
に扱っていかなければいけない議題だろうと思います。
このセッションの中でも、そういう話題が後であるのかもしれませんが、非常に今まで
の環境のコミュニティの人たちだけの話ではなくなり、先ほどのIEA、エネルギーの関
係者は非常に大きな注目をしていますし、WTOという経済コミュニティの方も、環境問
題に関心を持っているということです。
2番目に、セクター別アプローチのときに、先ほどのセクターテンプレートで、どうい
うものに合意すればいいのかということが、これも一つ悩ましい話です。ベンチマークア
31
プローチには意味はいろいろあるのだと思いますが、私が使う意味で言えば、トップラン
ナーアプローチです。例えば、日本の鉄が一番いい効率があるのであれば、ある年次まで
に、各国の鉄の造る原単位を、日本並みにしましょうというようなやり方を、ベンチマー
クアプローチと呼びます。もし、そのベンチマークアプローチでやると、いやが応でも日
本のトップランナー基準に、ほかの国がやらなくてはいけません。そのときに、コストが
いくらかかってもいいのかという問題が出てきます。けれども、環境効果性のことを考え
れば、ベンチマークアプローチでなければ、マキシマムのCO2削減は得られないわけで
す。そういう場合に、cost efficiency なのか、それとも environmental effectiveness
なのか、どちらを取るのかが悩ましい問題として出てきます。
三つ目は今、最初に申し上げたコンプライアンスのシステムをどう組み込むかというこ
とですが、時間が来ましたので、この辺で終わりたいと思います。セクター別アプローチ
に、皆さんがいろいろと関心を持っていただくのはいいことですが、そろそろ交渉の枠組
みとして、セクター別アプローチをどのように進めていくのか。UNFCCCというアン
ブレラの中で、果たしてできるのか。それとも、IAなど別のコンタクトグループに、タ
スクアウトするような話なのか。では、タスクアウトした後の宿題の成果を、どのように
インテグレートするのか。そういったことについて、具体的な提案を出していく。もうそ
ういう段階に多分来ているのだろうということで、私の今日のプレゼンも、そのうちの一
つだとお考えいただければありがたいと思います。どうもありがとうございました。
(加藤)
どうもありがとうございました。まずフロアからコメントをお願いしたいと思
います。では、黒田先生。
(黒田)
どうもありがとうございます。Egenhofer 先生のご報告は非常に興味深く、非
常に感銘を受けました。Egenhofer さんのセクトラルアプローチは、まず一つ、各国の現
状を、データベースを踏まえて、きちんととらえるのだということが大前提になっていま
す。これは非常に重要なことで、すべてのアプローチが、それがなければいろいろなこと
ができないという意味では、非常に重要なポイントだろうと思います。
その上で、正確にとらえることができることを前提にして、セクトラルにベンチマーク
を設定できるかどうかが非常に大きな問題で、そのベンチマークを、先ほどの澤先生のご
報告にありましたように、トップレベルのものをベンチマークにするのか、アベレージを
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するのか。ボトムをするのか。いろいろとベンチマークも設定の仕方があると思うのです
が、それによって、各国の取り組み方が全く違ってくるのだろうと思います。
その上で、Egenhofer 先生のお話は、セクトラルアプローチは、正確にデータベースを
とらえた上で、各国の、ナショナルワイドのターゲットを決めるための手段として、現状
ではそれを用いるというお話だったように思うのです。その意味では、私も非常に理解で
きますし、セクトラルなアプローチそのものが、ターゲットになる可能性が現時点では模
索されているけれども、確実ではないというサゼスチョンと考えます。そういう意味で理
解していいかどうかを、もう一度コンファームさせていただきたいと思います。
その意味では、コメンターの澤先生のコメントは一歩踏み出しているわけで、グローバ
ルないしはナショナルワイドのターゲットを定めるのではなくて、セクトラルに、お互い
にあるターゲットを定めることが一つの目的になっています。
これは、私は非常に問題があるだろうと思います。というのは、セクトラルに定めるこ
とによって、各国間の特定の企業のネゴシエーションになってしまう。そういう意味で、
競争政策と矛盾することが出てくるかもしれないという Egenhofer 先生の恐れは、非常に
ありますし、それと同時に、果たしてすべての国において、同じベースで議論ができるだ
ろうか。発展途上国、それから先進国、すべてが参加して、そのベンチマークのようなも
のを定めて、それぞれの国において、一つ一つのセクターについての、ある種のターゲッ
トを定めることが可能だろうか。それをまた政府がコントロール、もしくはコマンドする
ことができるだろうか。
日本の企業は、ビジネスサイドは、普通の trade permit にすらキャップがかかることを
非常に恐れています。コマンド・アンド・コントロールだということで恐れているわけで、
そういう意味では、もっと強いコマンド・アンド・コントロールを世界レベルでやること
になりますので、そういうネゴシエーションが果たして国際の場で可能であるとは、私に
は、現時点では非常に思えないのです。
そういう意味で、Egenhofer 先生のご提案を一歩踏み出した澤先生のご提案というのは、
非常に議論の焦点をはっきりさせるという意味では面白かったのですが、実現可能性につ
いての問題をよく考えてみなければいけないと思います。
それからもう一点、これはテクノロジーの将来のポテンシャルをどう見るかということ
とものすごくかかわっていまして、現時点がこうだということだけではなくて、将来のタ
ーゲットを決めるわけですから、テクノロジーポテンシャルを、それぞれ産業が、それぞ
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れ国がどのように見るかも、大きくかかわっているということも考えておかなくてはいけ
ないと思います。
(Q1)
Egenhofer さんに質問させていただきたいのですけれども、これはセクトラル
アプローチについての質問なのです。いいアプローチだと思うのですが、なぜ国際合意が
必要なのですか。グローバルなコンセンサスがなぜ必要なのですか。もう各国ベースで、
セクトラルアプローチを独自に進めたらいいのではないでしょうか。中国とインドがこの
セクトラルアプローチに入りたがるとは思えません。拘束力がありますから。しかし、中
国・インドがグローバルなコンセンサス、国際合意ではなく、独自のセクトラルアプロー
チを作っていいことになったら、進むと思うのです。それが最初の質問です。
2番目に、中国とインドが自国において、セクトラルアプローチを策定するというため
のモデルはありますか。EU、日本、アメリカにならって、中国やインドが独自のセクト
ラルアプローチを作ることができるようなモデルはありますか。
(Q2)
ありがとうございます。私の質問は、セクトラルアプローチに関するコメント
です。今スピーカーの方がおっしゃったように、バリにおける行動計画について触れられ
ましたが、そこでの作業について、そのパッケージ全体の理解をしたいと思うのです。計
測報告可能、検証可能な行動について言うときに、途上国による削減行動を意味するだけ
ではなく、別の技術や資金調達やキャパシティービルティングに関しての計測可能、報告
可能、検証可能な行動にもかかわってくると思います。
従って、私の理解では、この合意をバリで達成するために、妥協がなされたのだと思い
ます。しかし、このバリの行動計画を理解するに当たって、パラ1、2に書かれています
が、この研究の観点からするなら、非常に有益になると思うのは、二つの側面をまとめて
入れることができたらよかったのにと思います。つまり、途上国の削減行動で、その中に
ポテンシャルなターゲット、あるいはコミットメントも含めるとよかったのではないかと
思います。そして、技術でどういったオプションがあって、どういった技術を使うと、ど
のぐらいのコストがかかるかのか、あるいは技術への投資はどのぐらいなのかということ
も含めたものということです。そして、Carraro 先生がおっしゃったように、技術の吸収
能力も重要な側面だと思います。
いずれにしても、このキャパシティというのは一つの重要な側面だと思います。それら
34
をすべてまとめることができれば、どのような技術の効果的な供給、そして資金調達があ
り得るのかを分析できるのではないかと思います。その目標を達成するに当たって、削減
行動を途上国で担保していくためにということです。
加えて、もう一つ重要だと思われるのは、このような削減目標と持続可能な発展という
ことで考えた場合に、これはバリ行動計画にも明記されていて、同じパラグラフに書かれ
ています。国別の適切なその削減行動を、持続可能な発展という文脈において、途上国も
取らなければならないと、UNFCCCの決定として盛り込まれているわけです。従って、
このような交渉の文脈を考えると、さらに研究を進めて、すべての交渉官が持っているよ
うな懸念に対応することができるような研究をするべきではないかと思います。
(加藤)
どうもありがとうございました。それでは Egenhofer さん、コメントに対する
リアクションをお願いしたいと思うのですが、最初に澤さんから3点ありましたし、それ
から、黒田先生からのコメントは澤さんの2番目の点にかなり密接に関係があると思いま
すので、まとめていただいて結構だと思いますが、お願いしたいと思います。
それから、お二方から、途上国の観点からのコメントがありましたので、その点も併せ
てリアクションをお願いしたいと思います。
(Egenhofer) まず、最初にお答えしたいと思うのですが、確かにご指摘のように、私は
バリの途上国部分の一部しか取り上げませんでした。途上国の行動は、測定可能でなけれ
ばならないとありますが、先進国が途上国に対して、技術と資金についての支援をしなけ
ればいけないということで、これはUNFCCCと京都議定書の一環として行われなけれ
ばならないわけです。ですから、この二つを組み合わせてやることがいいと思います。
測定可能、報告可能、検証可能な行動を途上国が取るためには、検証可能、実証可能、
報告可能な支援を先進国がする。それは技術移転、吸収でも、テクノロジーファンドとい
う形でもいろいろあると思うのです。そういったもの以外に、資金などで途上国に対して
支援をして初めて実現できるものです。ですから、この二つを組み合わせて行う必要があ
ると思います。いいデータに基づいてやれば、この抽象的な途上国のバリ合意のパラの部
分を、実行していくことができると思います。ですから、将来の研究を行うに当たっては、
こういったことを手段に行っていきたいと思います。真の原動力、真の重要なポイントと
いうのは、まさにセクトラルアプローチを前進させる国際的な側面であり、国内の側面で
35
はないと思いますので、いい質問をしていただいてありがとうございます。
それから、あなたのコメントに戻るのですが、なぜ国際合意が必要なのか。これは、バ
リの会議で、最後に署名されて合意されたことです。そして、セクトラルアプローチは有
用なコンセプトだと、重要なコンセプトだと思っているのですが、このセクトラルアプロ
ーチをどうやって国際合意に組み込んでいったらいいかということです。もちろん、国際
合意は要らない、各国独自にやるということであったら、全く環境は違うと思うのです。
全く別の状況になると思います。しかし、セクトラルアプローチが、まさに国際合意を実
行する上で有益だということを私は申したかったのです。
でも、そもそもなぜ国際合意が必要なのか。もちろん、セクトラルベンチマークで、中
国とインドだけがそれぞれやると違うというのであれば、比較可能ではないわけです。中
国、インド、韓国など、独自の政策であれば、それは国際的な脈絡は一切ないわけです。
セクトラルアプローチに関しては、本当に細かいところが最も難しいわけで、ベンチマー
クデータのコネクションをやっていくという、細かい作業が非常に難しいのです。国内的
にやるのであれば、それはそれで結構なのですが、セクトラルアプローチに国際比較可能
性が出れば、非常に国際交渉の役に立つと思いますので、そういった要素も持ち込みたい
と思っています。
具体的な質問や提案が澤先生からありました。京都議定書の構造的な違いについては、
われわれ皆、同意すると思います。軽減のポテンシャルのコンセプトを使って、国際合意
をすることについては、何枚かのスライドを最初にお見せしましたが、かなり政治的な駆
け引きがあるわけで、客観的な方法論を作らなければ、なかなかできないことなのです。
ですから、ある段階ではもう交渉せざるを得ません。それを避ける道はないと思います。
また、昨日既に話しました鉄鋼産業ですが、ある時点で、日本の鉄鋼産業は、ヨーロッ
パの鉄鋼産業の2分の1しか消費していないということがありました。それでは、誰もヨ
ーロッパ産の鉄鋼は買わないはずなので、おかしいということになったら、業界のセクタ
ーの線引きが違っていたということがあったのです。ですから、アロケーションプランと
いうことで、セクターに関して、全く違った結果が出てしまったのは、線引きのやり方が
全然国によって違ったところに起因していたことが判明しました。
澤先生のアプローチ、モデルは、もし世界がそれに賛同してくれるのならいいと思いま
すが、私はそれを疑わしいと思っています。EUの観点から見ると明確であり、EUとし
ては、ETSが欲しいし、グローバルな炭素市場が欲しいと言っているわけです。ですか
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ら、セクトラルアプローチを投入するのであれば、整合性がなければいけないことになり
ます。アメリカ、オーストラリア、それぞれモデルがありますが、まだテストされていな
い別のアプローチが出てきたからといって、そのモデルを放棄する気は全くないわけです。
それから、二つ、ささいな点で付け加えたいと思います。
一つが電力セクターについてですが、ヨーロッパでは、またほかの地域においても、電
力セクターのセクトラルアプローチが重要だという話がかなり出ました。貿易のエクスポ
ージャーがありますので、アルミ、セメント、鉄鋼、紙パルプのセクターは違うわけです。
電力セクターは、貿易のエクスポージャーがありませんので、最終的には政府が政策を主
導できると思うのです。ですから、もしかしたらそれを各国レベルで対応してもらった方
がいいかもしれません。例えば、日本で電力セクターに関して、セクトラルアプローチを
取ることは可能だと思います。ヨーロッパでは、ETSがありまして、これはオークショ
ンを完全にやるということで、電力セクターは、セクトラルアプローチが十分可能だと思
いますけれども、それは国レベルで行うことになると思います。
アメとムチですが、これは議論したことがあります。アメとムチの関連でまず申し上げ
たいことは、途上国の行動を、先進国から途上国に対する支援と資金と関連付けることが
できれば、アメとムチで途上国が興味を持つ内容が可能になるかもしれません。ベンチマ
ークを伸ばすということは、持続可能な経済成長のためにはいいことで、途上国はもちろ
んそれを目指しているわけです。ですから、それが私のアメとムチなのです。貿易措置に
手を染めてしまうと、ちょっとどうかと思います。それほど進展を見ることはできないと
思います。
それから、順守、コンプライアンスですが、何らかの形のコンプライアンスが必要だと
思います。UNFCCCだけでやることはできないと思います。
それから、ベンチマークとトップランナーについて、2∼3指摘しておきたいのですが、
技術主導型のプログラム、トップランナーなどは、非常に割高かもしれませんけれども、
割高と効果的の間にはトレードオフがあるということがあったのです。効果的かどうかと
いうことは、私は疑問視していまして、IEAも賛同してくれています。トップランナー
アプローチが国際的に適用可能かということは分からないわけです。日本でのスタンダー
ドがあるということで、こういった白物の家電製品は輸出されるものであり、ほかの国と
どうやって合意するのですか。トップランナーとなりますと、貿易阻害効果が出てしまう
ということで、それは、われわれは望んでおりません。ですから、国レベルではできると
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思うのですが、国際的にできるかどうかはまだ不明だと思い、私は疑っています。
このトップランナーアプローチは、ある程度まで static(静的)なモデルだと思うので
す。ある段階で、そういったテクノロジーの段階に到達するということだったのですが、
それまでの 10 年間はテクノロジーのレベルが低いのです。ですから、ベストの年ではいい
かもしれませんが、表示の問題で labeling product などが出てきますので、平均的に見る
と排出量が高くなってしまうと思うのです。ですから、トップランナーについて疑問視さ
れているのは、そういった理由によると思います。
それから、黒田所長のご指摘なのですが、次のような形でお答えさせていただきます。
セクトラルアプローチについては、EUでも二つの学派があります。
一つは理想的な学派(idealistic school)ということで、グローバルなテクノロジーベ
ースの合意ということで、グローバルなマーケット主導型の合意がいいと言います。もう
一つの学派は現実主義的(realistic school)で、ベンチマークとデータ収集はいいけれ
ども、それがどうやってEU、日本、中国、インド、韓国の優先課題とフィットするかを
見ていこうというものです。私はどちらかというと、現実主義学派なのです。ですから、
将来は、むしろそちらの方向ではないかと思っています。セクトラルアプローチを国際的
な機構政策と、どうにかリンクしようとしているわけですので、そういった焦点でやりた
いと思っています。われわれはそういうとらえ方をしています。以上とさせていただきま
す。ありがとうございました。いいご質問ばかりでした。
(加藤)
時間が少し過ぎていますので、ここで終わりにしたいと思いますが、まだ議論
をされたい方は、休み時間にでも個別に議論をしていただければと思います。どうもあり
がとうございました。
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セ ッ シ ョ ン ( 3 ) Endogenous progress and possibility of policy intervention to
technological research and development
(司会)
それではセッション3、ダブリン大学の Convery 教授からの報告に入ります。
進行は広瀬次長にお願いいたします。よろしくお願いします。
(広瀬)
ランチの時間も考えなければなりませんし、プレゼンテーションの時間、ディ
スカッションの時間も取らなければなりません。プレゼンテーションの時間を 20∼25 分と
し、コメントを短めにお願いして、ディスカッションは5∼10 分にしますと、恐らく 12
時半ぐらいまでに終了できるかと思います。
では、始めましょう。
(Di Maria)
Frank Convery の代理ということで発表いたします。今回は、特化をする
ことによって生産性が高まることを昨日経験しました。私たちは二つの部分で研究をして
おり、ポリシーイノベーションと気候変動についての分野をカバーしています。われわれ
は別の分野の専門家であると考えていますので、私の方がまず冒頭を話したいと思います。
これまでの文献からの議論を取り上げ、そして理論と実証研究を見ていきます。そして、
Frank の方がヨーロッパで今後実行される政策について後で政策関連のプレゼンテーショ
ンをします。このビジョンとアクションという話を昨日しましたが、やはり行動、アクシ
ョンは明確なビジョンと知識がなければならないと思います。そういう知識なくして行動
することはできないということです。
ということで、私の方からまずプレゼンテーションで、文献を基にして話をしていきた
いと思います。皆さんはほとんどご存じだと思いますけれども。Carlo さんと Christian
のプレゼンテーションを聞いていて、また思い出したのですが、われわれの希望している
ことと現実との間には、非常に細い線が引かれていて、分かれているということです。
Christian の話にもありましたように、理想主義の後に現実主義が生まれました。この
学説の変化は、経済学が生まれてから 19 世紀のあたりまでにあったわけです。リカードや
ジョン・スチュワート・ミルの仕事で明らかになったのは、マルサスのサイクル(Malthusian
cycle)を避ける唯一の道は、技術の変化と成長であるということです。
この考え方をより明確にして、より可能な方法を示したのがシュンペーターではないか
39
と思います。そのときの表現は、イノベーションに新しいアイディアを導入する、そして
アントレプレナーシップを導入することによって、経済発展が可能になるということです。
この思想は非常に強い影響を及ぼして、1990 年の Romer や、1992 年の Aghion と Howitt
などによって、新しい成長理論となり、creative destruction と呼ばれました。
またシュンペーターは、技術の変化をしていく上では、発明(invention)、イノベーシ
ョン、普及(diffusion)の三つの段階がすべて必要であると言っております。
ここで Mokyr の研究について触れておきたいと思います。彼の産業革命の研究の中で、
キーエレメントとなるのはパラダイムシフトが必要であるということで、散発的なイノベ
ーションやセレンディピティの段階から、持続的な経済成長につなげなければならないと
いうことです。発明者のためにインセンティブの導入が要る。発明者がいて、イノベータ
ーがいて、それを採用する人たちがいて、技術から得られる利益がある。三つのフェーズ
があるということです。単にテクノロジーを開発させても、それが採用されなければメリ
ットはないということです。従って、明確にプロセスが変わるときは、ただ単にその技術
開発が散発的に行われるのではなくて、利益の見込みを求めるエンジニアがいて、イノベ
ーターがいて、技術を開発し、それが採用され、モディファイされてマーケットに上がっ
ていくことが重要であると考えます。
他方、われわれが分かっているのは、今日、持続可能性ということで資源が限られてい
るので、それを考えると、この経済成長と環境への影響をディカップリングしなければな
らないということです。そのためには、技術の劇的な変化が必要になってきます。昨日、
Carlo が言っていましたが、いかにパラダイムシフトが必要か。それがなければ、本当に
目標を達成することができません。1人当たり 0.3 トンのCO2を削減するという目標は
達成できないということでした。
それでは、政策についてですが、もちろん政策を取るときにも、技術の変化が必要であ
ることを考慮しなければなりません。そして気候変動に対する政策も、技術の進歩を考慮
しておかなければならないと思います。さらにそれがもっと顕著にいえるのは、それでは
どのようにわれわれは、この技術の変化をこの政策設計のプロセスの中に取り込んでいく
のかということです。私たちの政策手段を選ぶときに、実際にそれが最善のアウトカムを
もたらすようにならなければなりません。そして技術の創生と普及にも取り組んでいかな
ければなりません。
インベンション、イノベーション、ディフュージョンには、すべてコストがかかります。
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もちろん、そういったコストをカバーすることができるだけのリワードもあるわけですが、
しかしコストがかかります。そして相対的な価格は、技術変化のスピードと方向性を決め
るものです。もちろん、後ほど炭素排出に関する技術の変化についても述べたいと思いま
す。また、政策によっては制約も生むしインセンティブも生むということです。イノベー
ションによって、価格の変化もあります。
それでは、どのような政策オプションを使うのか、中央経済にするのか、あるいは公共
資金を使ったR&Dをするのか、あるいは市場ベースの活動にするのかといったことがあ
ると思います。けれども、その技術の開発を最も刺激するダイナミックスは何かというこ
とを考えていかなければなりません。
従って、この政策という観点からするなら、Milliman と Prince の研究(1989)におい
て、この政策手段をランキングすることをしていきました。これを学生たちに教えるとき
には、marginal abatement costs(限界削減費用)なども含めて教えるわけですが、そこ
でランキングをしているわけです。その中で、最もダイナミックで効率的な手段は、その
オークションの排出量許可(auctioned emission permits)です。その後に税金、補助金、
grandfathered permits、そして最後に emission standards という順番になっていきます。
しかし、戦略的な問題をこれは無視しているわけです。つまり、より多くの企業が新しい
技術を採用するようになると、パーミットの許可の価格は下がってくることになります。
従って、企業は技術の採択・採用を遅らせることにインセンティブがかかることになりま
す。
これが長きにわたって文献では言われていましたが、修正が加わることになったわけで
す。2003 年の Requate と Unold の研究によると、政策の観点を加えると異なる結果になる
ということで、理論が複雑になってしまいました。もし規制当局が新技術を見越していな
いような手段に頼っていれば、Milliman と Prince の言ったようなランキングは有効です。
しかし、もし規制当局が新技術を anticipate して、企業とゲームのようなことをするよう
であれば、ランキングは一義的ではなくなります。
従って、残念なことに多くの事例があるのです。全部をここで発表することはしません
が、皆さん、読んでいただきたいと思います。興味深いペーパーだと思います。このよう
に、理論はあまり明確ではありません。従って、理論に基づいてのみ、何が一番いい手段
かを決定することはできないので、実証研究がどうしても必要になってきます。
最初に、われわれが信じているのは何かというと、政策というのは、技術進歩を促すこ
41
とは真実だと思います。しかし、データがあまりないことが問題です。しばしば Carlo が
言っているように、やはり実証研究が必要で、そのためにはデータがより良いものでなけ
ればならないということで、私たちは今それで作業をしています。非常に難しい段階では
ありますが。
私たちが何をしようとしているかというと、ここでいかに政策を設計するかということ
ですが、非常に未曽有の形で技術の進歩が激しいので、それにいかに取り組むかというこ
とです。それでは基本的に、理想的には何をやりたいかというと、私たちは最近の技術の
変化と政策の関係を見ていきたいと思います。そのために、例えばスーパーにおける広告
などではなく、その proxy(代理)を使うしかないことになります。従って、伝統的にこ
ういった研究は、Jaffe と Palmer がやってきましたが、97 年に、その stringency の代理
変数として、cost of abatement を使ったということです。
そして、cost of abatement を見るときに、技術の革新とプラスの相関関係がありまし
た。Becker と Henderson の場合は、異なる分野である Clean Air Act の場合に、attainment
status を将来の stringency の代理変数として使っています。ここでイノベーションを見
ていこうとするものです。
従って、この二つの若干関連した研究から結論を得ることができるわけですが、エビデ
ンスとしては、政策そのものは、やはり技術の変化を呼び出す、促進することが証拠とし
て提示されているのだと思います。
これが全体像になります。われわれは、それぞれのランキングをしようとすることでは
ないのですが、それぞれの政策集団が、先ほどお見せしたように、技術の変化を促進する
かどうかを理解しようとするなら、いろいろな研究が出ています。
まず排出量のスタンダードですが、2006 年の Popp の研究があります。彼によると、こ
のNOxとSO2の排出に関するスタンダードを、日本、アメリカ、ドイツで導入をしたと
きに、インベンターたちは、ローカルイノベーションにのみ反応したということです。こ
れは Carlo が言っているようなモデルに関係があります。その前提となっているのは、均
一のカーボンプライスがあることがベースになります。そして、規制がいったん作られる
と、外国のパテントを使えるので、適用のために費用が使われ、新しいパテントはその地
方でも発行されるようになります。ですから、ただ単にキャパシティが重要であるだけで
はなく、投資することができるかどうかも重要になってきます。フロンティアの所からは
遠いとしても、新しい技術をアダプトする資金があるかどうかも重要です。しかし、この
42
スタンダードが有効であることは分かりました。
次にオランダの食品飲料業界の研究で、Kemp が 1998 年にやったものがあります。この
場合には税金の効果を見たわけです。われわれが見ていた理論は、インセンティブを与え
ようとする場合に、排水処理の施設の普及を促そうとするとき、この排水に関して税をか
けるのが効果があるかどうかが見られました。そして、補助金と税金を組み合わせた場合
の方が、より機能が高いことが分かりました。これは環境経済を学んでいる者にとっては
朗報なので、われわれはよくこの事例を使うわけです。
最後に、補助金は機能するかどうかということです。補助金というのは通常、経済学者
の文献などでは軽く見られており、89 年の Walsh などの文献を見ると、補助金は実際には
機能しないと書いてあります。
しかし 95 年の Hassett and Metcalf の研究で、パネルデータを使ったものがあります。
それによると、家庭の省エネクレジットを提供することによって、アメリカの場合は補助
金の効果があったことが分かります。
また、Klassen、Miketa、Larsen、Sundqvist の 2005 年のエコロジカルエコノミストの
研究によると、補助金が特に役立ったのは、ヨーロッパの数カ国で風力タービンを導入す
る場合ということでした。初期に補助金を出して、そして後に技術採用の補助金を出すと
いう組み合わせが、より機能が高いことが分かりました。
このように、補助金に効果があることは分かったのですが、問題は何かというと、われ
われが見せようとしているのは、これがEU−ETSに対して役立つのかどうかというこ
とで、今データを集めてサーベイしているところです。もし、皆さま方も有用なデータを
お持ちだったら、教えていただきたいと思います。
それでは、次に Frank にお願いしたいと思います。
(Convery) ありがとうございます。このように機会をいただけまして、うれしく思いま
す。昨日は非常に興味深い、日本の医療機関との関係を持つことができまして、日赤病院
に行ったのですが、興味深かったです。でも、東京で病気にかかるのだったら、日赤病院
がいいとお勧めいたします。とてもいい病院でした。
今もお話がありましたように、基本的に私の方は、ヨーロッパが何をしているかという
政策を見ていきます。若干、日本との対比ということでお話しすることができると思いま
すが、特に取引制度、そして欧州のCCS(Carbon Capture and Storage)の政策につい
43
てお話をして、若干、また自動車産業の提案について見ていきたいと思います。これは日
本にとっても関連性が高いと思いますし、先にも報告があったと思います。
クールアース・プログラムについては、もうここで触れることはしません。既にカバー
されていますので。でも、後でまた戻りたいと思います。
ここで太文字で書いているのは福田総理の提案です。日本が技術開発を、zero CO 2
emission coal fired power plants ということで、石炭火力の開発で進める。またソーラ
ーパワーも進めるということです。この zero CO2の石炭火力については、日本とヨーロ
ッパの比較をすることができると思います。多くの人たちが言っておりますし、Christian
も言ったように、大きな政治的な決断が昨年の3月にヨーロッパで出されました。これは
セント・パトリックス・デイに近い日だったのですが、われわれアイルランドの国民的休
日でありますので、よく覚えております。
基本的にこの目標が、指導者たちによって設定されたわけですが、もう一つ興味深いの
は、報告書の中で、CCSを成功裏に進めることが、目標達成のための必須の要件である
と言っております。従って、ある特定の技術にここで特化をするということではありませ
ん。
ETSについては、日本の産業界でも関心があると思います。特にいえることは、EU
−ETSにおいて、参加している企業、そのセクターの企業は、best available technology
が何かということについて、加盟国政府が指定することはできません。従って、自分たち
がどのような技術を使うかは、自分たちが決めるということです、
プライス・シグナルもあると言いました。日本の技術については、ビジネス・オポチュ
ニティがあると思うのです。ある国の技術が設定されると、ヨーロッパにおいてはそれが
貿易障壁になり得たわけですが、それがなくなったということで、ビジネスチャンスにな
ると思います。
2013 年からは新しいスキームになりますが、そうなると、もっとタイトになります。つ
まり、より強いプライスが出て、そしてオークションも可能になりますので、収入が入り
ます。興味深いことに、ヨーロッパにおいて、政策は非常に包含的になっています。従っ
て、各加盟国にとってキャップが義務化されることになります。
またその再生可能エネルギーについても、目標が作られています。CCSもそうです。
昨年末にこういった提案が出てきました。CO2の排出は、1km 当たり 130gを達成しな
ければならないというのが、2012 年までという目標で出されたわけですが、これは後で触
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れたいと思います。
この特徴ですが、これはいろいろな考え方を盛り込んでフルカバーしてあるということ
と、さらに経験から多くのことを学んでいます。そして、ETSはパイロット段階からか
なり大きく改良されています。また再生可能エネルギーの目標も作られており、また軽量
自動車についても、自主的なものから義務化目標になっています。
非常に興味深いと思うのですが、これは福田総理が最後に言われた点で、これに非常に
近いと思います。つまり根本的な考え直しをしなければならない。われわれの社会的な見
直しをしなければならないと言っています。ヨーロッパにおいては、既にこういった考え
方は取られていると思います。
ヨーロッパと日本で大きな違いがあるのはどこかというと、ヨーロッパにおいては、価
格が非常に重要であると信じています。従って、より強いカーボンプライスがなければ、
技術の変化を来すことはできないし、またその進歩を担保することはできないという考え
方です。従って、その点については非常に強く信じられているわけです。
少なくとも、発電セクターについては、何が起こるかというと、レベニューが出てくる
ということです。Carraro 先生がオランダの排水のモデルで示されていたように、最初の
イノベーションのラウンドできちんと強いプライスが出てこなければ、サプライサイドが
機能しないということで、それが第2次的な効果を生むことになります。
もちろん、グローバルなシステムで、アメリカでも上院、下院においてかなり関心が高
まっているので、ETSとは違った形ではあるかもしれないけれども、トレーディングス
キームは作られることになると思います。収れんが期待できるので、今後、見ていかなけ
ればならないと思います。オーストラリア、カナダも、恐らくETSを作ると思われます。
従って、純グローバルなシステムが作られるのではないかというふうに思うし、そういう
意味では、日本も慎重にこれをモニターされていかれる方がいいと思います。
また、技術に依存することはヨーロッパにおいては見られると思います。ヨーロッパの
制度においては技術依存度が高いです。そして、日本のコマンド・アンド・コントロール
においても、CO2価格はオポチュニティと見られています。最も競争力のある炭素削減
テクノロジーで、ヨーロッパの市場に売り込むことができると思います。これは日本の産
業界にも大変なオポチュニティになると思います。先ほど申し上げたように、伴先生のス
ライドで日本の電力業界の話がありましたが、比較的低カーボンであるということでした。
また、インパクトアセスメントも比較的新しい、ヨーロッパのポリシーにといて興味深
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いアプローチです。日本の研究者にとっても、大変検討するべき面白い問題だと思います。
特にヨーロッパの法律では、ポリシーはインパクトアセスメントが必要になります。これ
は、中央のボードが決める要件に基づいたものです。幾つかのモデルにとってこれは重要
です。というのは、これで前提が作られますし、またデータがあります。もちろんこれは
進行中のことになりますが、学術的に、またポリシーのアナリストとして、大変有用な情
報になると思いますので、ぜひこのインパクトアセスメントをご覧いただければと思いま
す。
すべての法律的なイニシアティブで、インパクトアセスメントが常に行われています。
ただマイナス面として、CCSのデメリットは、まず政策を遅らせるような大衆の反対が
あります。また会社において、特にヨーロッパのモデルでは、CCSでは、12 の事象プロ
ジェクト(12 demonstration projects)が必要であると言っています。そうすると、1つ
当たり 10 億ぐらいかかるということになります。そして欧州委員会にはお金はありません。
ということは、前提としては、これらは各企業または加盟国が資金を供出することになり
ます。加盟国に関して、オークションのレベニューを使うことができます。事象プロジェ
クトがなければ、CCSもないということなので、大変高いハードルがあって、かなり大
きなリスクがあるということです。
これの経緯を考えますと、ビジネス、大手の産業界が一緒になって、このような事象プ
ロ ジ ェ ク ト を 行 う と い う 提 案 を 行 い ま し た 。 委 員 会 は 、 S E T プ ラ ン ( Strategic
Technology Plan)を提示しました。CCSは、これらの中の大変大きな部分を示していま
す。SETプランの中で主要な目標は、CCSの現在の先行しているものを、商業的なオ
ポチュニティに変えるということです。つまり、ヨーロッパは、いわゆるもう既にリーダ
ーになっているので、それによってメリットを得ることができるという前提がありますが、
これはかなり疑問視できると思います。しかし、ポリシーの中での前提がこうなっていま
す。
また、福田総理も全く同じようなことを言っています。日本は、zero CO2等のテクノ
ロジーの開発を加速化する。それによって、ビジネス・オポチュニティをつかむのだと。
このシステムの二つの柱が、石炭の利用の効率性を高める。つまり日本が先んじている点
です。二つ目はアーキテクノロジーの劇的な変化で、つまりスタックから炭素を回収して
貯留するというものです。これについては、もう既に皆さん、ご存じだと思いますので、
あえて申し上げることはしません。日本の方はよくご存じです。でも、すべての大手の企
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業、東芝、MHI、およびヨーロッパ、アメリカの会社なども含まれています。
次のステップは、ultra supercritical plants(超超臨界圧火力発電設備)で、50%ま
で効率を高めるというものです。日本は申し上げたとおりリーダーのうちの一国に入って
います。第2段階はもっと要求度が高いものですし、また劇的なものです。しかし、コス
トはもう大変高くなります。炭素を回収するために十分なスペースが必要です。CCSを
するとなると、従来の発電所の倍ぐらいのスペースが必要になると思います。また、指標
もより多く必要になりますし、最も大きなコストは、効率性が損なわれるということです、
Supercritical plants は 42%の効率性ですが、CCSを今現在の技術で導入した場合は
31%に減ります。ということは、11%のエネルギーがそこで消費されてしまうことになり
ます。
もう一方では、メリットとしては、もちろんこれを追及しているわけですが、CO 2の
排出量が大幅に下がるというものです。
そして、さまざまな種類があります。11 か 12 ぐらいの異なるテクノロジーが今使われ
ています。そのうち、一つ二つが恐らくできれば、実現するのでありましょう。
アメリカである大きな問題、これはヨーロッパでも重要視されてくると思いますが、C
O2に対する責任です。これが実際にプラントから出た場合、誰が責任を持つのか。これ
について話はしません。欧州委員会の方では、この責任の問題に対応するために、特別な
指令があります。というのは、これが制約条件になる可能性があるからです。ヨーロッパ
の法律が国内法を上回る、先するということです。また原子力発電所においては事故があ
り、その場合にはどうするのかなどという重要な問題がたくさんあります。
そして、ヨーロッパにおいてポリシードライバーになっているものは、むしろアメリカ
においては desperation になっていて、35 の許可が拒絶されています。もう絶望的である
ということで、アメリカの状況は大変興味深いと思います。ボトムアップモデルなのか。
Christian が言っていたように、つまり火力発電はいろいろなところで、その許可が下り
ないことがあります。国内のNGOなど、さまざまなところから反対があります。それで
アメリカの石炭業界としては、克服したいと考えています。CCSがうまくいけば、こう
いった反対がなくなるからです。
ただヨーロッパでは、ドライバーになっているのはCO2の価格です。価格は大変、影
響力があります。プラントの性能において、また drying brown coal を東において導入す
ることで、効率を上げようとしています。これによって 10%効率性が高まります。これら
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のことなどがあるので、価格は大変重要です。また、参入障壁がないので、世界のほかの
国にとっても、大変大きなオポチュニティになります。
インパクトアセスメントは、その選択肢をきちんと明確にし、そして意味合いを明確に
するということです。ヘンリー・キッシンジャーはこう言っていました。何回もあるけれ
ども、選択肢を「何か選べ」と言われたときに、必ず三つある。二つはおかしなもの、一
つは好ましいものです。そして官僚は大体いいものが分かる。それが真ん中に書かれてい
るからです。ヨーロッパのこれらのチョイスを見て、またインパクトアセスメントのモデ
ルを見ると、キッシンジャーの言っていることは正しいことが分かります。
コストです。このテクノロジーのコスト、研究開発コスト、もちろん研究開発のソリュ
ーションは、まだ明確になっていません。9∼10 のテクノロジーがありますが、どれが最
善なのか分かりません。推測としては 10 億ユーロぐらいかかります。そして、またさらに
事象プロジェクトにおいては、60 から 150 億ユーロぐらいかかります。これが前提です。
ここでポリシーが日本と大幅に違うところです。CO2価格が 35 ユーロ/トンぐらいにな
るのが前提です。そしてETSの中でCCSが完全に認識され、評価されます。つまりC
O21トンを地中に埋めると、そのためのアローワンスを買わなくてもいいことになるの
で、補助金が出るのと同じです。
そして、CCSを使う発電所は、従来の発電所と競争的に不利にならないというのが前
提です。恐らく 2020 年というのは、あまりにも楽観視すぎて、2030 年ぐらいにならない
とそうならないでしょう。ただ、いかに必死かが分かると思います。
そして、メリットですが、EUの中では、多量の削減がありますし、またグローバルに
おいても、より劇的な削減が実現します。Egenhofer さんのセクター別モデル、また澤先
生の観測にも関連していると思います。
グローバルで想像できるようなモデルは、恐らくこれが開発されて実用化できるように
なるでしょう。そして、セクター別になると、中国、インドも入れなければいけません。
その追加的なコストがあるので、それに対して補完しなければいけません。でも、その交
換として、このように劇的にグローバルで削減がもたらせるようなテクノロジーを採用し
なければなりません。EUのグローバルリードを維持することによって、新たなコマーシ
ャルオポチュニティが生まれ、ロックインを避けることができます。
またこれらの障壁を克服するためのメニューがこちらにあります。まず一般市民の間の
認知度を高める。そして共有してもらう。これは大変重要です。具体的に何ができるかと
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いう問題も、もちろんありますが。
そして、ECとしては、CCSを funder というより、enable と考えています。ただ、
インパクトアセスメントの中では脅威があります。電力業界がCCSを使うのに時間がか
かればかかるほど、ポリシーメーカーは、CCSを強制的に適用しなければならなくなる
かもしれません。これはヨーロッパでは典型的なものです。つまり今のところは、まだボ
ランタリーになっていますが、いわゆるその壁の裏では、自動車業界同様に、このような
脅威があるわけです。State Aid constraint の制約はなくなっています。従って、EUの
中で、この競争力の問題は排除されることになります。
ECでは、予算はあまりありません。ですから、加盟国から来なければなりません。こ
れは日本と違います。日本のモデルでは、日本の政府が 300 億の税金を投入しようとすれ
ば、できるわけです。しかし、欧州委員会はそれはできません。加盟国に頼らなければな
りません。中央にはお金がないからです。
そして、選択肢として、三つあることに変わりはありません。
まず一つは、政策を変えないこと、そして
do nothing
alternative のポリシーが典
型的です。二つ目は、coordination と、強力な加盟国のアクションです。三つ目は、EU
レベルで中央化する、一元化する。これはやはり真ん中にありました一番いいオプション
が、それが0、1、2の中の1というものです。
では、簡単に、自動車業界について申し上げたいと思います。幾つかのプレゼンテーシ
ョンが前にもありました。これはボランタリーアグリーメントに関してですが、うまくい
きませんでした。現在のプロポーザルは、ECからのプロポーザルになっていますが、こ
れに基づいてターゲットが設定されました。ただ、業界からのロビー活動の結果、面白い
ことに、これは重量ベースになっています。ですから、ターゲットは重量によって異なる
ことになります。
そして、プーリングの兆候(pooling provisions)もあります。つまり自動車業界間の
取引が可能です。ターゲットを満たすことができないということであれば、取引が可能に
なることになります。これは面白いかもしれませんが、いずれにしても低排出量の車でプ
ーリングすることができます。つまり、それが高排出量の車の補助になるということです。
業界のリアクションとしては、ほとんどマイナスです。BMWは、これはナイーブで小
型車のメーカーが有利になるであろうと。これが主な目的なのですが。そして、フランス
のプジョーもそのようなことを言っています。一般的にその反動があります。
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NGOも同じように批判的です。
「ターゲットが弱くなった。そして、長期的な観点が欠
けている。またこの重量ベースのアプローチは、インセンティブを大幅に損なうものであ
る」と言っています。
バローゾ委員長が言うのは、EUにおいてはテクノロジーが、マーケットのアドバンテ
ージであり、業界の競争力を促進し、そしてグローバルなテクノロジカルリーダーシップ
を促進するところにコミットしているということです。
日本の情勢も大変面白いと思います。ご存じだと思いますが、日本の特に自動車業界は、
アメリカに参入するときに、カリフォルニアの 70 年代の大気汚染のスタンダードがあまり
にも高かったので、地元の、アメリカのカーメーカーが達成できなかったことによって、
進出できたということがありました。カリフォルニアではその当時、そういった基準を高
くすることによってアメリカの自動車メーカーに優位性を与えたかったのですが、実際は
日本の業界の方が参入できました。日本はそれを利用することができて、結果としてうま
くいったことになります。ヨーロッパの自動車業界も、同じようなメリットを日本の業界
にもたらすことになると思います。
最後に、これも昨日ありましたが、セックスとゼロカーボンテクノロジーとの間に関す
ることで、これは面白いと思います。英国の男性の半分ぐらいが、50 インチのプラズマテ
レビを買うために、6カ月間セックスをあきらめてもいいと言っています。この課題とし
ては、本当に同じようなセックスアピールで、ゼロカーボンテクノロジーを開発できるか
というのが問題です。ありがとうございました。
(広瀬)
ありがとうございました。共同で発表していただきました。非常に重要な点が
このペーパーの中で示唆されていますが、時間が限られていますので、早速、コメンテー
ターをお招きしたいと思います。岡川先生です。できるだけ短めにお願いします。
(岡川) 皆さま、こんにちは。議長、どうもありがとうございます。Di Maria 先生、Convery
先生、どうもありがとうございます。素晴らしいプレゼンテーションでした。私の方から
コメントをさせていただきたいと思います。
まず、発表について最初にまとめさせてください。前段で、Di Maria 先生から、実証研
究について示唆されまして、環境政策がどのぐらい技術変化を促すために効果を持ってい
るか。例えばマーケットベースの政策、税金、そして補助金、そしてスタンダードなどに
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言及されました。
後段においては、Convery 先生の方から、気候変動政策、そして技術の変化ということ
で、これまでのEUにおける経験、そして現状に基づいて提案をされました。先生は特に
CCSに焦点を当てられており、費用、便益について、CCS技術について言及され、ま
た一つ重要な結論として、技術革新を刺激していくために炭素価格を適正レベルに維持す
る必要があるというお話をされました。
コメントに入る前に、私の方から現状について、日本に関連したところでお話をしてお
きたいと思います。日本政府は、このCCS技術には多大な関心を寄せております。日本
の研究機関の一つであるRITE(地球環境産業技術研究機構)でプロジェクトをしてお
り、CCS技術は一体何なのか、どのぐらいのコストがかかるのかといった研究が進めら
れています。
その結論として、まず第1点は、日本においては、CCSに使える場所が限られている
ということです。CO2の地下貯留の容量が、日本においては 580∼2330 億トンと言われ
ております。これは、ちょうど排出量にして 50∼195 年、あるいは 200 年の期間の排出量
に相当します。またもう一つの結論として、このCCSのコスト、地下貯留のところのコ
ストですが、現在の技術、現行技術を使ってやるのであるなら、海外の場合に比べて、日
本の場合の方が非常にコストが高いことが分かりました。
Convery 先生が、スライドを見せてくださいましたが、2020 年までにCO2の価格は1
トン当たり約 35 ユーロという数字を言われ、CCSは、その発電所レベルでならアベイラ
ブルになるであろうということでした。しかし、日本のコストの方を見てみると、CCS
の場合には、1トン当たり 45∼95 ユーロという数字になっています。
しかし、日本においては、再生可能エネルギーの可能性も限定的です。さらに既にエネ
ルギー効率は、非常に高レベルに達しています。従って、このコストは、まだそのほかの
日本で使えるオプションよりもまだ低いといえるわけです。しかし、もっと情報が必要に
なります。もっと情報収集をしていかなければなりませんが、まだまだ解決しなければな
らないCCS関連の問題があることは否めませんが、排出量削減のための主要な措置にな
り得ます。
それでは、コメントに入りたいと思います。基本的に二つの質問があります。まず一つ
は戦略に関するものです。将来のEUの戦略に関する質問です。CCSの技術を使えば、
気候変動に対応するために、非常に劇的により低いコストで対応することができます。し
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かし、そうは言っても、いずれは枯渇しますので、まだ化石燃料の利用についての管理を
していかなければなりません。まず第1の質問は、ヨーロッパにおいてこのCCSの可能
性が大きくなったことによって、EUの将来的な戦略はどう変わったのかということです。
これはかなりタフな質問だとは思いますが、特に三つの点に焦点を当てて質問したいと思
います。まず第1点、将来のエネルギーミックスは、EUにおいてどうなるのか。2番目
に、機構政策の戦略、そして資源の枯渇という観点から。3番目に、途上国との関係はど
うなるのかという質問です。
2番目の質問ですが、これはCCS技術の不確実性に関するものです。われわれの主要
な懸念は何かというと、貯留されたCO2が漏出するのではないかということ。さらに、
CCS技術の安全性を考えると、社会的な受容性があるのかどうかということです。
次に、このCCS技術について、過剰な期待、過大な期待はないのか。過大な期待があ
ると、そのほかのエネルギー効率の高い技術の開発を阻害するのではないかということで
す。従って、このCCSの不確実性について、そして実行可能性、信頼性を慎重に評価す
る必要があると思います。なぜなら日本の場合には、CCSを使おうと思うと、コストが
高いからです。
質問なのですが、EUの削減政策は、どの程度このCCSに依存をしているのか。EU
のポリシーポートフォリオの中で、CCSがどのぐらいの重さを取っているのかというこ
とです。ありがとうございました。
(広瀬)
では、コメントに対するお答えをお願いしたいと思います。その後まだ時間が
あれば、フロアからの質問もお願いしたいと思います。
(Convery)
岡川先生、大変興味深いコメントをありがとうございます。
ここで、ヨーロッパのコンテキストで重要なのは、われわれはエネルギーを輸入してい
ます。ロシアの天然ガスおよび原油を大量に輸入しています。ETSというのは、要は輸
入税のようなものです。それで、戦略的なメリットを享受するものです。もう一方では、
石炭は、いつでもあると。そのような戦略的な脆弱性がなく、いつでも手に入るものであ
ると見られています。従って、電力会社または石炭会社の地元の権益などもあります。ポ
リシーは、そういった影響も受けています。
もう一つ、排出に関する二つの大きな成長分野は、電力および運輸・交通です。気候変
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動の課題は、これらの二つの問題を解決することによって可能になると思います。排出量
を、その二つの分野において横ばいにできるのであれば、前進することはできるし、そう
でなければ成功裏に解決することはできません。こういった意味で、CCSというのは、
大変高いプライオリティのものであると見られてみられています。これは戦略的な懸念に
対応するものでもありますし、またこの先ほどの二つのうち、一つに対応できます。
とはいうものの、先ほどの質問に戻りますが、このエネルギーミックスに関して、恐ら
く、より有利なエネルギーバスケットの方がいいと思います。ほかのソリューションは、
今のところ、短期的には天然ガスしかありません。それは問題です。そして枯渇というこ
とに関しては、石炭主導であって、石炭はなくなるというような見方をされていないので、
これは問題ありません。また途上国との関係ですが、これはもしうまくいって、海外で売
れるようなものであれば、そうかもしれません。他国のユーティリティに売れるのであれ
ば、そういう見方もあるかもしれません。
ペーパーの中で書くべきだったと思うのですが、ECと中国との間にいろいろなやり取
りがあります。中国でも関心があって、そしてCCSにおいてジョイントベンチャーを作
ろうという提案もあります。これは、パートナーシップとして見られています。そういっ
た意味で、テクノロジーをもっと普及できると思います。
不確実性は、かなり大きいといえます。漏えいの問題に関して、私どもが話した人たち
のほとんどが、これは解決できる問題であると見なしています。ヨーロッパでは最も大き
な問題は、一般が、国民が許容するか否か。それがなければ、もちろん大きな問題になり
ます。ロックインは、そんなに大きな問題ではありません。
というのは、最初にこれを検討し始めたときは、ある特定のテクノロジーを選ぶのは、
ばかげていると思ったのですが、今現在、少なくとも 12 の競合するような技術があって、
すべて進歩的なものです。ある特定なテクノロジーにロックインをしているのではなく、
ある目標に対してロックインをする。つまり回収して貯留するということです。
ヨーロッパのポリシーは、こういったことに大変依存していると思います。かなり危険
性の高い道のりだと思います。価格のシグナルは重要であると見られており、それが取引
制度、またはリンケージに関与します。今現在、プロポーザルをよく見ると、2013 年以降
は、CDMは、スキームの中にあまり入らないことになります。価格の効果が弱まってし
まう可能性があるからです。ヨーロッパのモデルとしては、価格をできるだけ高く維持す
る。そして、テクノロジーの採算性を高くする。それによって、そのほかのポリシーにも
53
影響を与えるというアプローチです。
しかし、これらは急に出てきたものではなく、ここ7∼8年前から出てきています。私
はETSの改善のコミッティーに入っていましたが、いろいろな参加者がいました。CC
Aなど石炭業界の大物などがいて、ある特定のモデルを押そうとする意見がたくさん出て
います。大変リスクが高いかもしれませんが、これは重要な要となるようなものだと思い
ます。
(広瀬) どうもありがとうございました。私の不手際で予定の時間を 20 分遅れています
ので、皆さまのお許しをいただければ、これで午前中のセッションを終えて、ランチに移
りたいと思います。午後のセッションは、1時 40 分開始にしたいと思います。従って、50
分間のランチ休憩です。ありがとうございました。
(司会) 今、お話のありましたとおり、午後は 13 時 40 分から再開いたします。13 時 40
分にお戻りくださるよう、お願いいたします。
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セ ッ シ ョ ン( 4 ) A Research on Economic Effects of GHGs Emission Reduction and
Exploration of Technological Assessment Techniques
(司会)
司会を務めます広瀬です。午後のセッションの1番目は、ESRIから坂下上
席主任研究官が研究報告をいたします。ここからは、Egenhofer 博士にチェアをお願いし
たいと思います。よろしくお願いします。
(Egenhofer) 皆さま、戻ってきていただき、ありがとうございます。ランチの後で力が
またついてきたかと思いますので、次のセッションを始めたいと思います。
坂下研究官およびそのチームが書かれたペーパーについて発表をしていただきます。コ
メンテーターは、Frank Convery 教授にお願いいたします。フロアからの質問もお受けし
たいと思っております。それでは、発表をお願いしたいと思います。
(坂下)
今回のわれわれの発表は長期多部門モデルを用いた新エネルギー政策の評価と
いうものです。
今回ここにターゲットを置いたのは、昨年、われわれの研究で、最初のステップとして
温暖化ガスの数値分析のモデルの評価を技術に関する仮定に基づいて行ったわけです。そ
れでモデルの使い方を一応確立し、本年は具体的な事実に基づいたデータを用いて政策の
評価を行うということで、また昨年の仮定も一部レビューしました。
日本の資源エネルギー庁が 2005 年に「2030 年のエネルギー需給展望」を出しています。
これは現在、改定作業中ですが、2030 年までの日本におけるエネルギーの需要と供給を展
望したものです。その予想としては、エネルギーの需要は 2021 年から下がると書かれてい
ます。最後の方にCO2排出についての見通しがあり、現在、京都議定書の目標達成計画
を作成していると書かれています。この目標達成計画は 2012 年までのものですが、それの
根底にはこれが横たわっていると考えられます。最終的にそこに含まれている政策が幾つ
かあるわけですが、その評価が、あるのかないのか分からないのですが、はっきりとは書
かれていないため、われわれがそこの機会費用を評価しようとしたものです。
その考え方ですが、一つは、枠組み条約の3条3項に、気候変動に関する政策を最も低
いコストで達成するために費用効率的でなければならないと書かれています。京都プロト
コル自体にも、アネックス I の国は悪い効果を最小にするような方法を採用すべきだと書
55
かれています。ここに含まれている政策が費用の面から見てどうかということを評価した
ものです。
ここでわれわれが用いたのは、去年ご紹介した長期多部門モデルを用いて機会費用を評
価するということです。機会費用をどのように見たかというと、ここに書いてある政策を
導入すると、CO2は削減されるかもしれないが、それが経済にも影響を与える。もし同
じ程度のCO2を削減するのにほかの方法を採ったとしたらどのようになるかということ
で、その差が機会費用になるという考え方に基づいています。
この辺は日本のカントリーレポートにありますので細かくは申しませんが、2006 年のC
O2の排出は、トータルとして基準(1990 年)に対して 6.4%の増加ということです。2005
年よりは減っていますが、これは 2006 年が暖冬だったからです。今年はかなり冬が厳しい
ので、これが続くということも期待できなくなっています。
2030 年のエネルギーの需給展望に戻りますが、この見通しは、2021 年からはエネルギー
需要は減少し始めるということですが、具体的に言いますと、産業部門では横ばい、貨物
輸送では少しずつ減り、家庭部門、業務部門、旅客部門ではまだ増加を続ける、しかし長
期的には減少するだろうと書かれています。
この需給展望は四つのシナリオを持っています。一つがレファレンスケース(基本的な
ケース)です。それに対して、エネルギー技術進展ケースを次に置いています。これは新
エネルギーと節約の両方があります。そして、原子力についての仮定を変えたものが原子
力ケースです。それから、外的なマクロ要因による影響を受けるケースが挙げられていま
す。特にレファレンスケースとエネルギー技術進展ケースが重要だと思われます。それに
ついてどういう予想になっているかというと、そこに含まれた新エネルギーおよび再生可
能エネルギーの見通しが、2000 年のシェアが6%なのですが、2030 年にレファレンスケー
スでは 7.7%、新エネルギーが進展するという仮定のものが 11.1%、これは原油換算で計
算するとそのようになるという見通しが入っています。
では、具体的になぜそうなるかというと、レファレンスケースの中でも現在の政策が盛
り込まれています。それは、RPS法(再生可能エネルギーを一定比率の使用を義務付け
る)の採用がレファレンスケースでは引き続き行われるために太陽光エネルギーが進展す
るためです。一方、新エネルギーの進展するケースでは、水素エネルギーのFCV(燃料
自動車)が、2030 年には 1500 万台が導入されているという予想になっています。こうい
うことをすればCO2の排出に効果的であろうと思われますが、それはほかの手段と比べ
56
たときにどうかということは問題意識として持っています。
長期多部門モデルのレビューでは、目的関数が効用なのですが、長期で測ってみます。
それを基にした動学的最適化モデルであるということで、技術進歩は評価でき、エネルギ
ーの節約、あるいは複数のアクティビティを一つの産業に入れることができるというモデ
ルです。
今年のシミュレーションでは、将来的な人口と労働力の仮定を更新しています。それは
厚生労働省で出している将来人口推計(人口研究所推計)を最新の中位推計に直していま
す。労働力人口も少し古い仮定であったので、2006 年に雇用産業政策研究会が出した将来
想定、これは労働力の女性や高齢者の社会進出が進むという前提で年齢ごとの労働力率を
予想しているものですが、それに基づいて計算し直しています。それと、昨年はまだ5年
ごとのアグリゲートしたモデルだったものを毎年のモデルに修正しました。
BAU(基本ケース)をどう設定するかということで、ファクトを見てみました。エネ
ルギー効率をどうやっているかというと、これは電気事業年報と資源エネルギー庁でまと
めているエネルギーベースでの電力発電所の効率です。1990 年に悪くなっているところが
あるのですが、ここのところは年率1%近い成長をしているということで、最大1%ぐら
いの効率化は想定できるのではないかということをチェックしています。
CO2の排出は、われわれの研究で、一昨年作成したNAMEA、正式には環境と経済
のハイブリッド環境ですが、それと産業連関表の中間投入の数字を見て、排出係数がどう
変わっているかを見たものです。全体では 1990 年代前半に悪くなっているところがあるの
ですが、また回復し始めています。1995 年から 2000 年では非常に回復していますが、全
体としては0∼1%の範囲で想定するのは適当だろうということです。
その想定に基づいて二つの基本ケースを考えました。一つは、効率もCO2排出も変わ
らないというケースです。もう一つは、毎年1%の改善があるというケースです。この二
つについて基本的なシミュレーションを行いました。GDPについてはあまり違いはない
のですが、やはりエネルギー効率改善の影響で改善ケースの方が多少上に出てきています。
しかしCO2の排出を見ると、改善ケースでは 2030 年ごろから横ばい、または多少の減少
に転じます。変化のないケースでは、GDPの成長に応じて増えていくという結果になっ
ています。ここではある程度の自発的なエネルギー効率の改善を想定する方が自然である
と思われますので、改善ケースの方をBAUとしてセットしています。ただ、気を付けた
いのは、もしそれがなければかなりのCO2排出の増加が経済の成長によって引き起こさ
57
れることは注意しておく必要があるということです。
まず、太陽光発電です。エネルギーの需給展望で 2010 年以降もRPS法が継続されます。
これは 2003 年に導入されているのですが、日本の場合は発電会社の容量に応じて一定比率
以上の新エネルギーの採用を義務付けています。これが継続される前提で、2030 年には新
エネルギーが原油換算で 190 万リットルほど使われるようになるだろう、そうすると 2010
年との差が 100 万キロリットルほどになるということです。その差が太陽光電池によって
引き起こされるわけです。それは全体の比率でどのくらいになるかを評価する必要がある
わけですが、そのために長期多部門モデルの電力部門に太陽光発電を導入しました。RP
Sを前提としているということで、比率を外生的に与えて、それ以上の太陽光発電が使わ
れるという制約を置いています。この 2010 年と 2030 年の差分が太陽光発電によって引き
起こされるという想定を置いています。
そうすると、ほかの技術から、これがシェアにしてどのくらいになるかを評価したので
すが、最終的には 3.9%以上を想定しているのだろうということになります。従って、2010
年は書いていないのですが、これはとりあえずゼロと置いて、その間は直線で補完してい
ます。そういうことで、2010 年から 2030 年まで太陽光の発電が増大し、それ以降は一定
ということになります。
では、具体的には太陽光発電のコストはどのくらいか。いったん作ってしまえば太陽で
発電するのですが、作るときにかなりの資本コストがかかる。それについて今まで資料が
なかったのですが、これは昨年度、ESRIからエネルギー経済研究所に委託して行った
技術と経済に関する調査で、その技術情報を収集しています。そこから一つの容量当たり
の太陽電池を作るのに使える費用、太陽電池を作るときの投入構造を推計しています。そ
こからどういうキャピタルが必要かということを割り出し、それを資本の構成として与え
ています。これは日本語だけなのですが、下に書いてあるURLに具体的な報告書があり
ます。
その結果どうなったかというと、GDPが増えています。ただ、モデル上、GDPが増
えると、投資が必要な場合はそれによって増加がもたらされますので、必ずしも目的関数
の増加になるわけではないという点があります。一方、CO2は最初は投資のために増え
ることもありますが、2015 年以降は確かに減っています。
では、目的である消費というのはどうなっているかを見たところ、消費関数の目的関数
は全期間にわたる効用の 2000 年の割引後の価値です。割引率は 1.0%で低めに設定してい
58
ます。これは単位が 10 億円です。そうすると、全体で 18 兆円ほどの減少になります。
一方、これによって起こされたCO2の減少を逆に制約として与えて、特に方法を指定
せずに長期多部門モデルを動かすと、3億円ほどの減少にとどまっています。そうすると、
その比率は大体 5.67 で、強制的な太陽光発電の導入は、そうでない方法に任せた場合の6
倍近いコストがかかっていることになります。
CO2当たりのコストを仮に測ってみたのですが、ここでは先ほどと同様に排出量を現
在に還元して測ったところ、CO2の削減は2億 1000 万トンほどになっています。これを
1年当たりにしますと大体 621 万トンです。効用の減少がそのくらいですので、1年当た
りに直しますと1トンのCO2を削減するのに大体8万 7000 円ほどかかっているという計
算になります。一方で、削減した場合、同様のCO2のレベルに抑えたときのCO2当たり
のシャドープライスを見たところ、大体4万円にとどまっています。特に太陽光発電を入
れなかった場合には、このくらいのコストで交換が行われているということが分かります。
つまり、太陽光発電を義務付けることによってCO2排出は削減することはできますが、
そのコストは6倍近くかかるということです。
ほかのパスは、具体的に産業のオルタナティブをそんなに与えているわけではないので、
高排出産業から低排出産業へ産業構造を変え、それによって効用の減少を少なく保つとい
う方を採った場合と比べても非常に高いという結果になります。大体9万円ということは、
ドルは今少し下がっていますので 900 ドルとしました。ユーロにすると 560 ユーロぐらい
です。これが現在行われているEU−ETSの価格、あるいは議論されている炭素税と比
べてもかなり高くつくのではないかという結果になっています。
次に燃料電池に移ります。エネルギーが進展した場合、2030 年には 1500 万台の燃料電
池車が導入される見通しになっています。これは、2030 年の事業展望の前に研究会があり
まして、そこで行われたシナリオの見通しに基づいて作られています。そこを見ますと、
2020 年で 500 万台、2030 年で 1500 万台という想定になっていますので、この活動水準を
長期多部門モデルに外生的に入れています。具体的には、道路輸送の 2000 年の活動レベル
を見ると大体 7500 万台の車があるのですが、そのうち 2000 万台相当を燃料電池車で行う
という仮定を置き、先ほどの想定に基づいてそれを外生的に制約条件として与えたもので
す。
燃料電池車については昨年シミュレーションを行ったのですが、そのときの仮定は水素
の電気分解で生成するということでした。CO2の排出は何によって電気が作られるかに
59
よるという仮定を置いたのですが、その結論は、石炭や石油では駄目で、原子力や水力を
導入すれば完全にそちらに依存してしまうけれども、天然ガスで発電したときが微妙で、
採用されることもあるということでした。つまり、少なくとも天然ガスぐらいのCO 2効
率が必要だという結論になっていまして、今回は天然ガスの想定を用いています。原子力
や水力については使用条件があり、電気としても将来非常に増えるということは想定され
なかったために、ここでは天然ガスの場合はどうかということをテストしています。
その際に、昨年は価格を等しいと置いたのですが、具体的に本当にそれだけの熱量が天
然ガスでもたらされるかを見るために、燃料自動車を運転するためにどれだけの水素が必
要かを熱量ベースで計算しています。実際に見ると、水素当たりの天然ガスの投入係数が
0.23 になっており、これは 1000 円の水素を作るのに 0.417GJが必要だということです。
そうしますと、 Well to tank
efficiency という言い方をしていますが、電力中研の
調査で天然ガスの効率は 0.428 という数字が出ています。電気分解の一番高い効率として
は、2006 年に経済産業省の補助事業の「水素・燃料電池実証プロジェクト」で自動車研究
所と複数の自動車メーカーがまとめた報告で、最大 0.81 というものが出ており、それを採
用しています。そうすると、1000 円分の水素は 0.417GJの天然ガス由来のエネルギーを
持っているということになります。一方、1000 円当たりのガソリンのエネルギーは 0.39
GJです。
一方、同じ報告書で、車を動かすときの効率はガソリン車の場合、内燃機関では1キロ
当たり 2.23GJが必要であるということです。FCBは、実証テストの結果として1キロ
当たり 1.38MJという結果が出ているために、換算しますとガソリンに比べて 2000 年の
金額ベースで 1.66 倍の水素が必要となります。そこで前回の等しいという仮定を、1.66
倍必要というものに置き換えました。すると、GDPが導入されてから減ってきます。し
かし、CO2排出が問題で、かえって増えるという結果になっています。天然ガスから電
気を作るときのCO2が、それによってセーブされたCO2を上回ってしまうということに
なります。同様に効用も減っており、それは全期間にわたって7兆円に上るという結果で
す。
結局、需給展望のレベルでの外生的な燃料自動車の導入はCO2を増加させてしまう。
それを1台当たりに換算しますと、ガソリンに比べて毎年 0.13 トン余計に排出するという
結果になっています。一方、経済的なロスは 3000 億円ということす。つまり、現在の技術
で燃料電池車を導入するのはあまり意味がなく、より大きな技術革新が特に水素を入れる
60
ところで必要ではないかということが燃料電池の結論です。
全体としてまとめると、太陽光発電はCO2の削減には効率的ですが、コストが通常の
手段の6倍かかり、一方、燃料電池車は国民経済のロスとCO2の増加をもたらすので、
現状では導入にはあまり意味がないという結論です。
ちなみに、京都規約レベルの制約を入れてシミュレーションしますと、太陽電池は採用
されます。これは制約が強くなることによって価格が上がり、太陽電池もペイするように
なるということです。この場合のシャドープライスを見ると、最初のうちは制約を回避し
ていたのですが、やはり当たると 10 万円を超える。そうすると太陽電池のコストの方が安
くなるという結果になっています。一方、燃料電池車については、そもそもCO2が増え
るので、制約を強くしても採用されないという結果になっています。
(Egenhofer)
ありがとうございます。それでは、コメンテーターのUCDダブリンの
Frank Convery 先生、お願いします。
(Convery) まず、このペーパーは商工ベースのアプローチを取っていると思います。こ
の分野は、一般的に非常に憶測や前提、仮定に基づいて推移し、商工ベースではないもの
なのですが、この著者の方はG2ベースで行っていらっしゃると思います。また、コスト
効果に注目しておられますが、削減を実現するためのコストの要因は非常に重要だと思っ
ています。これは本当に基本中の基本だと思うのですが、政策議論においてこのことがあ
まり盛り込まれないことがあります。ヨーロッパにおいては、目標としてバイオ燃料を輸
送部門の燃料の 10%の水準にするということでしたが、1トン当たり 200 ユーロ、600 ユ
ーロのコストということです。そして、非常に全世界的にも進むということでした。しか
し、コストがはっきりする前にそういった目標を掲げてしまったので、例えばバイオ燃料
が生物の多様性を損なわないようにするなど、ある程度条件を付随させることで、この欠
陥を正そうとしています。そうしますと、実際のバイオ燃料が占めるシェアは 10%をはる
かに下回ることになるでしょう。
しかし、コストは重要です。特に日本の経済は非常に割高な解決案を採ることはできな
いと思います。コストがあまりにも高くなると、誰に対しても経済的な利益につながらな
いので政策自体が却下されざるを得ないからです。
新しい政策の介入がなければ実際に何が起きるかということも考えなければいけないと
61
思います。随分と政策の分析を行っておられますが、はっきりとどういう事実関係を推定
することができるかといった研究は十分発達していないといえるでしょう。その結果、ベ
ースラインと比較するインパクトは全く意味がない、解釈できない、あるいは政策のシス
テムにおいて全く関係がないものになってしまうのです。それは、前提の立て方が良くな
い。そもそもスタート地点で間違っているからです。
非常に面白いのは天気です。今年の天気と去年の天気を日本において比較したお話が出
ていたのですが、説明変数ということで、ヨーロッパの排出権の価格に関してパイロット
フェーズ、第1、第2フェーズをやってみたのですが、天候というのは非常に大きな変数
です。気候変動と天候の変数は関係があり、ますます重要になりつつあります。太陽熱エ
ネルギーが落ちるということだったのですが、貨物の輸送が増えていくということで、そ
れが私はちょっと不思議に思ったわけです。日本の貨物輸送に関してはどういった前提を
立てていらっしゃるかということを伺いたいと思います。
それから、一つの常識として、日本はエネルギー効率性としてはトップランナーであり、
それにはいろいろ事実の根拠もあると思いますが、トレンドラインがそれほどはっきりし
ていないように思います。一部のデータを見たところ、私の印象ではパフォーマンスは
2000 年以来横ばい傾向でそれほど改善しておらず、直近になって急改善していると思いま
す。効率性のトレンドの原動力は、事実関係を分析していかなければいけません。ヨーロ
ッパにおいてETSの効果を分析してみますと、どういう前提を効率性のトレンドに関し
て行うか、その先行きをどう予測するかということが、EUのETSにとって本当に重要
な意味合いを持っているということが分かります。そういう意味では、全体的なパフォー
マンスを理解することは大事ですが、トレンドラインを理解することも重要だと思います。
このペーパーの中に盛り込まれていますが、明示的には取り扱われていません。好奇心を
持ったのは、どの年を基軸として選んでいるかということです。2030 年というのは、世界
の傾向とは違います。ヨーロッパ、アメリカでは 2020 年と 2050 年を二つの目標年として
取り上げています。それに対して日本は 2030 年ということです。
それから、Carraro さんがWITCHモデルに入っているとおっしゃっていました。グ
ローバルとローカルのモデリングの違いだと思うのですが、回避することができたダメー
ジのコストも大事な要因だと思います。介入のコストをここで明確にしようとしているの
ですが、対称性の問題として、もし気候変動の軽減の政策が取られなかった場合と比較し
て織り込んでいかなければいけないと思います。また、見かけの問題としても、政策を支
62
持してほしいということであれば、政策だけを説明するのではなくて、回避することがで
きたダメージのコストということも説明しないと大衆性に欠けると思います。また、軽減
のコストとしてシャドープライスも本当に大事だと思います。
それから、これはよく分からなくて質問したいのですが、今朝はCCS(二酸化炭素回
収・貯留)というテクノロジーを取り上げていたのですが、このペーパーは、なぜ太陽光
と燃料電池自動車の二つのテクノロジーを取り上げたのでしょうか。これはフロンティア
テクノロジーであり、非常にコストが割高になります。また、その技術が普及するに従っ
てコストがどの程度削減されるか、例えばスピードオーバーといったようなことを仮定し
なければいけない部分が大きくなります。なぜあえてこの二つに焦点を合わせたのか、理
由を伺いたいと思います。
CO21トン削減コストとして燃料電池は4万円だということは興味深い点だったと思
います。
そして、この政策のロジックはどうかと思うのです。日本がグローバルな観点から見る
と燃料電池自動車では先駆者だということですから、日本の電力システムにそこを組み込
んでいくとグローバルなスピルオーバーにつながるのではないかという考え方をちょっと
発展させてみたらどうでしょうか。ロジックとして、日本が先端を行っている分野だから
こそということで取り上げておられるのだったら、そういう点も取り上げたらいかがかと
思います。
経済分析のツールの一つとしては、ペーパーで政策集団のミックスがそれほど明白にさ
れていませんでした。ポートフォリオスタンダードが燃料電池自動車のテクノロジーの原
動力になっているということなのですが、それは司令塔という形になってしまうわけです。
ヨーロッパで再生可能エネルギーについての全体的な目標値が全体エネルギーの 20%と
いうことは 2020 年のターゲットとして出されているのですが、このターゲットは、コスト
効果があいまいですが、あるような形で提示されており、すべて積み上げていくと 20%と
いうシェアになるのです。しかしEUの日本との大きな違いは、EU加盟国はターゲット
を達成すると、上回った部分についてはEUの再生可能エネルギーに売却することが可能
であるグリーンサーティフィケートのマーケットがあることです。例えば再生可能エネル
ギーを積み増していくと、そういったマーケットに売ることができて、コンプライアンス
コストを下げることができるわけです。アイルランドは再生可能エネルギーベースが大き
いので、大輸出国になるだろうといわれています。政策介入の扱い、そして政策手段と関
63
連づけているものについて、もう少し明確に説明していただきたいと思います。
しかし、全体的な結論としては、非常に重要な貢献だったと思います。特に日本という
ことで、コンプライアンスのコストのプロフィールは高く、それほど賢明には思えないわ
けです。つまり、コスト高を相殺するような特に大きなメリットがない限り、必要以上に
高いアプローチを採用する意味はないと思うのです。そして、そのメリットについてはま
だ分かっていません。
(Egenhofer) ありがとうございました。坂下先生に、今のコメントに対するお答えをい
ただきたいと思います。エネルギー効率のトレンドラインが横ばいであること、なぜ 2030
年がベースイヤーになっているのか、さらに、なぜこれらのフロンティアテクノロジーを
選んだのかということについて、お答えをいただきたいと思います。
(坂下) まず、貨物輸送の仮定がなぜ減少しているかという質問があったかと思います。
これは恐らくエネルギー展望でなぜそのような想定になっているかということで、大本の
資料に戻るわけですが、恐らく日本はトラック輸送の比重が高いために削減余地があると
想定しているのかと思います。モデル上は道路輸送と交通に分かれており、長期多部門モ
デル上は自然な最適化がされるという仮定になっています。
次に、トレンドラインの想定が成長していないという件に関しては、今回の想定は、特
にエネルギー効率に焦点を当てて、それ以上の生産性、それ以外の中間投入については、
変化しないというようにしています。これは一つは、そこに仮定を置くと非常に仮定が増
えてしまい、しかも資源エネルギーを導入したときに資源エネルギーもまた変化し得ると
いう比較上の正当性の問題があり、エネルギー効率のAEIを仮定した以外には減少固定
ということにしています。ただ、もし生産性の向上が今以上にあるとしますと、それによ
ってもCO2排出はさらに抑えられるということは、その2点のシミュレーションでBA
Uで出ています。ただ、それは新エネルギーを入れなくても減少するということになりま
す。
ダメージのコストについては、今回これは長期多部門モデル、経済モデルで最適成長を
もたらす経済的な最適経路を効用最大化で測るという性格で、それが外部に与えた影響が
さらに戻ってくるというところまでは、このモデルには含んでいません。そのためにはま
た完全なインテグレートモデルを考える必要があります。基本的には、全体を最適化する
64
という意味ではトップダウンなのですが、技術を入れてボトムアップで評価するという用
い方をしています。ですから、外部効果がさらに返ってくることについては、今後のイン
テグレートの問題になるかと思います。
なぜこの二つのテクノロジーを対象にしたのかというと、これは一つは政策評価を目的
にしたために、エネルギー展望の中に明確な数値が含まれているものがこの二つであった
という、評価上の目的によるものです。CCSは有望なのですが、日本の場合、CCSを
する場所はどれだけあるかというアサンプションの部分が非常に多くなり、それによって
結果がかなり変わってきます。昨年のシミュレーションによれば、CCSが安ければ幾ら
でも使えるという結果になっていますので、ここでは、まだ 2030 年度のエネルギー展望で
も明確に書かれていませんので、評価の対象とはしていません。ただ、今後インテグレー
トしたときには、当然CCSは非常に有力なオプションとして検討する必要がある問題だ
と思います。
また、現在の技術展望の可能性は大体 2030 年ぐらいまでであるということで、需給展望
がなされているものと考えています。
(Egenhofer) ありがとうございました。かなり時間が遅れていますが、どうしても質問
されたい方がいらっしゃるようでしたら、フロアから1問ぐらい。では、この質問を最後
にしたいと思います。
(Q1)
新しいエネルギーについて、日本では風力エネルギーと地熱エネルギーもある
と思うのですが、どうしてシミュレーションの中に織り込まれなかったのでしょうか。太
陽熱と燃料電池だけではうまくいかないと思うのです。風力と地熱エネルギーも日本には
可能だと思うのですが、特に 2030 年ということになりますと、この二つのエネルギー源も
考慮に入れるべきだと思います。
(坂下)
その二つも新エネルギーは再生可能エネルギーに入るわけですが、一つは、政
策評価という意味で、エネルギー需給展望が主に太陽光発電に焦点を当てているからです。
風力については、日本の場合、立地の制約があって、風が強いところはあるのですが、非
常に強すぎるのです。実験プロジェクトは幾つかありますが、現在、既に幾つかある風力
発電所に比べて将来的に非常に進展するという想定は、経済産業省にしてもわれわれにし
65
ても現在は置いていません。地熱発電、水力も同じことです。あることはありますが、そ
れを今後飛躍的に発展させるかというと、再生可能エネルギーは既存のもので今後エネル
ギーの需給構造に大きな影響を及ぼすところまで想定するのが難しいのです。そのため、
評価の対象として太陽光と燃料電池を用いています。
(Egenhofer)
ありがとうございました。スピーカーの坂下先生、コメンテーターの
Convery 先生に感謝いたします。
では、次のセッションは Convery 先生がチェアをしてくださいます。
66
セッション(5)Analysis of Carbon Regulation with New Energy and Technology
(Convery) 午後の2番目のセッションは、新エネルギーとテクノロジーの炭素規制の分
析ということで、武田先生からプレゼンテーションをお願いいたします。
(武田)
まず、今回の主催者に御礼申し上げたいと思います。このように研究成果を発
表させていただいて、ありがとうございます。伴金美先生と共同で書いていますプレゼン
テーションを始めたいと思います。
最初に私どもの研究の動機です。日本において、CO2の規制について、例えば Okagawa、
Hanmasaki、Taeda、Kawasaki、Iijima など、既にさまざまな研究があります。これらはい
ろいろと異なっていますが、一つの問題は、再生可能エネルギー、またはエネルギー関連
のテクノロジーを勘案しておらず、CO2規制のコストまたは負担を過大評価しがちだと
いうことです。新エネルギー、またはテクノロジーがCO2の排出量を削減する傾向があ
るからです。これは特に日本では問題です。日本では大掛かりなCO2の規制に関してビ
ジネス界から大きな反対がありました。その結果、政府は今のところ炭素税および排出量
取引の採択を延期しています。軽減コストの過大評価は、この状況をさらに悪化させます。
分析の目的は二つあります。まず、CGEモデルを作るというものです。ここには再生
可能エネルギーとテクノロジーが含まれます。そしてアベートメントコストがどのように
影響されるかも研究します。二つ目は、まず政策に対する意味合いももたらします。その
ために、次の質問をしました。まず、日本国政府がどの程度、またどのようにしてアベー
トメントコストに影響を与えることができるのか。そして、コストを削減するために政府
はどの政策を導入すべきなのか。
私どものモデルは日本向けの再帰性のダイナミックCGEモデルです。この中には、36
のセクターと 38 の物、七つのエネルギー材が入っています。そして生産に関しては、EP
PAモデルに基づいて4種類の生産機能を考えています。
期間は 2000 年から 2030 年までの 31 期間です。炭素規制が 2008 年から導入されます。
そして、このモデルの成長の牽引力になっているのは内生的な資本の蓄積、そして外から
来るTFP growth、AEEI、および労働力の変化です。データに関してはベンチマーク
データ 2000 年IOテーブルを使っています。
2種類の新テクノロジーおよびエネルギーを考えています。まず一つはCCS、二つ目
67
は太陽光および風力発電によって発電される電力です。
CCSのネットの排出量は、グロスの排出量からCCSを差し引いたものです。そのた
め、削減コストの低減に貢献します。RITEによりますと、日本の可能性のある貯留を
推計しています。地中貯留が 15GtCO2、そして海中貯量(太平洋)が 60GtCO2に
なります。トータルの貯留可能量は今現在の日本からのCO2排出量の 70 倍になります。
これらの推計に基づくと、CCSは地球温暖化に対応するために有望なツールになります。
こちらのペーパーでは、まずCCSのプロダクションストラクチャーがこのように規定
されています。CESファンクションによって作られます。インプットは、資本、労働お
よびCCS特有の資源です。ではCCSスペシフィックなリソースとは何かとお聞きにな
るかもしれません。最も単純な解釈としては、リソースはCCSのキャパシティを示して
います。CCSは、まず最初に収益性が高くないので供給されないということです。でも、
CO2の規制が導入されるとパーミットの価格は上がり、それによってCCSが利益をも
たらすようになってCCSが採択されることになります。CCSの採択の時期がCO 2規
制の強さ、または厳しさによって内生的に決定されるということになります。
次に、再生可能な新エネルギーによる電力についてです。これは太陽光ならびに風力発
電によるもので、ここではELENと呼んでいます。
今現在の日本におけるELENの現状です。まず、ELENのシェアは電力供給全体の
1%未満ですが、急速に増えています。日本の場合、太陽電池発電の設備容量は世界で第
2位で、NEDOの推計によりますと風力発電の潜在力は 1000∼3040 億kWhです。環境
省によりますと、太陽光発電による容量は 4600∼8600 万kWhです。太陽光また風力発電
は大変有望なエネルギー源であることが分かります。
そして、ELENの生産構造はCCSと同じ種類であるという前提です。つまり、CE
Sに資本と労働力、そしてELENに特有のリソースが使われます。エネルギーインプッ
トは入りません。つまり、ELENの生産によってCO2排出量がないということです。
前提としては、ELENは従来の電力の完ぺきな代替になると考えています。
一般的に、新しい技術または新エネルギーを考えるときに、重要なのは、まず収益性、
そして容量、学習すること、そして政府からの補助金です。私どもの分析はこれらの要因
を勘案しています。しかし、先ほど申し上げた技術的な条件は、より多い不確実性にさら
されるため、正確に推計するのは難しいと思いますので、さまざまなケースを想定してみ
たいと思います。
68
まず、シナリオの数は 22 です。シナリオLIMは、CO2制限との均衡があるというこ
とです。このシナリオにおいてはCCSもELENもありません。
シナリオCCSは、CCSならびにCO2規制があるということで、CCSのベンチマ
ークケースがこちらです。RESは、スペシフィックなリソースが増加するものです。こ
ちらにおいては二つのケースを想定しています。LBDというシナリオは、実地すること
によってCCSで学習をするということです。LBDレートとしては、低いもの、高いも
のを検討しています。SBSは、CCSに対して政府が補助金を払うものです。補助金の
率としては高いもの、低いものも検討しています。そして、L&Sというシナリオがあり
ます。これは実地による学習と、CCSの受ける補助金を組み合わせたものです。また、
ELENに関して同じようなシナリオを検討しています。
それでは、各種シミュレーションの結果を見てみましょう。BAUの下でのGDP成長
率は、2008 年∼2030 年に至るまで 36%となっています。また、BAUのシナリオの下で
のCO2の排出量は 2008 年から 2030 年までで 25%上昇するということになります。
それからシナリオLIMで、CO2の制限が課された場合ですが、この制限は 2008 年か
ら導入され、CO2の制限措置はキャップ・アンド・トレードの形を採るということで、
国内における排出権の取引が行われて、それにより政府が収入を得ると想定しています。
CO2の削減率は次のルールによって定めています。2008 年の制限は、1990 年の水準で設
けられます。それから一定のコスト、一定の率で毎年削減され、2030 年には 1990 年の 75%
の水準にまで削減するというものです。シナリオLIMにおいては、CCSとELENは
ありません。BAUと比較すると、GDPの成長率は 2030 年時点で 3.8%押し下げられる
ことになり、CO2の制限政策はGDPを大幅に引き下げるという結果を示しています。
排出権の価格は、2030 年時点ではCO2は1トン当たり 18 万 9000 円ということになりま
す。排出権の価格は非常に高く、削減コストが非常に高いということを示しています。
次はシナリオCCSで、CCSのベンチマークケースです。CCSは 2017 年以降に採択
されることになります。CCSのレベルは、CO2で 2008 年において 800 万トン、2030 年
には 4100 万トンということになります。CCSの伸び率は徐々に落ちてしまいます。とい
うのは、リソースが限られているからです。
GDPの成長率の変化を見ると、シナリオLIMではマイナス 3.8%、シナリオCCS
ではマイナス 3.3%となっています。削減コストは 0.5 ポイント改善するということです。
ですから、CCSがコストを引き下げる効果はありますが、それは限られたものだという
69
結果が出ています。
次に、L&S2のシナリオです。LBDと Subsidy(補助金)の図で、CCSのレベル
を見てみます。まず、導入時期が 2017 年から 2014 年まで前倒しされています。これは補
助金によるものです。同時に、CCSのレベルはLBDによって押し上げられています。
またGDP成長率の損失は、CCSのシナリオと比較すると 0.6 ポイント、そしてシナリ
オLIMと比較すると 1.2 ポイント改善しています。つまり、LBDと Subsidy を組み合
わせれば、CO2の制限政策の負担はかなり軽減することが可能です。
次はELENのベンチマークケースです。これは新エネルギーによる発電で、全体の電
力供給の中でのELEN、新エネルギーのシェアを見てみましょう。ELENが 2015 年に
採用され、2030 年にはそのシェアが 10%にまで到達します。電力の価格は、シナリオLI
Mと比較してELENは改善を示しています。そうしますと、ELENを導入することに
よってCCSと似たような定性的な効果は期待できますが、CCSとの違いも見受けられ
ました。コスト削減効果がCCSと比較すると小幅にとどまっているということと、採択
の時期に対する補助金の持つ効果がより大きくなっていることです。
最後に、CCSとELENを組み合わせたケースを見てみたいと思います。二つのケー
スを考えたいのですが、最初のケースがCCSとELENで、これはLBDと Subsidy 抜
きでやるということです。2番目のケースは、CCSとELENなのですが、LBDと
Subsidy の両方をやった場合です。2番目のケースでは、GDPの損失分は 2030 年時点で
マイナス2%ということになります。これは最初のケースと比べると 1.2 ポイント少なく
済みますし、LIMのシナリオと比べて 1.8 ポイント少なく済みます。CCSとELEN
を同時にやったとすると、削減コストを大幅に縮小することができます。
このペーパーの結論は次のように引き出すことが可能です。まず第1に、新エネルギー
とテクノロジーを考慮することによって、CO2の規制のコストを大幅に削減することが
可能です。しかし同時に、これは技術的な条件に依存する部分が大きく、例えばキャパシ
ティがあるかどうか、あるいは学習効果(Learning-by-doing)が期待できるかにかかって
います。例えばCCSとELENのベンチマークケースの場合には、コスト削減効果は小
幅にとどまっています。
コスト削減効果は、次のようなケースのときには大きくなります。まずリソースが豊富
な場合、すなわちキャパシティがそもそも大きい場合です。2番目に、特に強力な
Learning-by-doing がある場合には、新エネルギーとテクノロジーに対する補助金はかな
70
り削減コストを縮減することができます。
最後に、このペーパーの政策上の意味合いを考えたいと思います。まず第1に、新エネ
ルギーとテクノロジーに対する補助金は、Learning-by-doing が強力に作用するときには
削減コストを圧縮するのに効果があります。2番目は、政府はCO2削減コストに貢献す
るために、一般的に見た技術的な条件の改善を支援するべきです。
ご清聴ありがとうございました。
(Convery)
Carraro 先生、お願いします。
(Carraro) まず最初に、大変良いペーパーであるということを申し上げたいと思います。
また、よく開発された良いモデルも入っていました。このモデルには、オリジナルな点が
たくさん入っているわけではありませんが、国際的なモデリングの基準、CGEまたはク
ライメットポリシー、そしてCO2規制のCGEモデルに沿っていると思います。そして、
追加的な側面も入っています。新しいエネルギーテクノロジーも二つ入っています。これ
はこれらの二つのテクノロジーのインパクトを測るためです。ですから、モデリングにお
いても、こちらのペーパーをまとめられるということにおいても、大変良い研究をされた
と思います。
ペーパーの主な目標は、まずCGEモデルを日本向けに作るということでした。二つの
テクノロジーがあり、CCSおよび太陽光、風力発電の両方が入っていましたが、まず、
CCSのみ、そして太陽光、風力が入ったもの、そしてそれら二つが全部包含的にという
ものでした。
こちらはCGEモデルになっています。これらのテクノロジーに関しては、最適な選択
はないということでした。そして投資に関して、技術的なものなので、これらに関して投
資するのが最適であるということは言っていませんが、これらのテクノロジーを使うこと
によって日本における気候政策のコストを削減できるという面白いことが書いてあったと
思います。
こちらの方法論は、先ほどご説明がありましたがダイナミックCGEモデルによってい
ます。これは再帰的なものなので、先を見るのではなく、後ろを振り返っているものです。
シミュレーションを行うときに、エネルギーへの投資、またはエネルギー技術への投資に
関してはダイナミックスが使われています。ポピュレーションにおいてはまたAEEIも
71
使っています。endogenous と exogenous と両方が使われています。またキャピタル蓄積に
おいてもそうです。これは年々ということになっています。これはCGEモデルより一般
的なものなのですが、弱点でもあります。というのは、資本が配分されます。過去の資本
は固定されていますが、新しい資本は、今回は違いますけれども、セクター別、または国
別に配分されます。これは先を見ることなく、過去および現在の情報または価格に基づい
て配分されます。そうすることによって、将来のポリシーまたは将来のダメージに関する
情報を勘案することができません。これが先ほどのプレゼンテーションに関してフランク
が聞いていたことだと思います。このタイプのモデルは近視眼的で、前向きではなく、ど
ちらかというと後ろ向きだからです。しかし、これは標準的なものであり、別に批判して
いるわけではありません。このモデルは何ができるか、また何ができないかを特定するた
めだけに申し上げたのです。
こちらにおいてはシナリオ分析はされています。さまざまな前提があります。例えば政
策決定に関する情報や排出量削減に関するターゲットがあって、日本においてGHGを減
らすためにこれらの新しいテクノロジーが使われた場合、排出量を削減するためのコスト
はどうなのかということを計算しています。
しかしながら、内生的な技術変更はありません。ただ一つ例外があります。こちらでは
Learning-by-doing の効果が使われていました。こういった学習曲線は exogenous ですけ
れども、ポリシーによっています。学習効果はポリシー政策決定によるものですし、また、
政策決定は、例えば新しいテクノロジーが導入されるのは、2017 年なのか、2050 年なのか、
2014 年なのか。ポリシーによって曲線の厚みも異なるので、こちらにおいては内政的な要
因もあります。政策に基づいているわけです。セクター間のスピルオーバー、またセクタ
ー間の効果や、日本国外の設備容量によるものではありません。いずれにしても、このモ
デルにもまだ改善の余地があるということだと思います。
私の方から三つ質問があります。まず一つは、BAUのシナリオに関してです。日本に
おいて 2008 年から 2030 年までの経済成長が 36%と予測されていました。年1%強という
ことになりますが、これは低すぎませんか。日本のような国が年率1%以上の成長率は無
理なのでしょうか。もちろんここ 10 年間には成長の問題はあったかもしれませんが、将来
的な日本の成長率ということを考えると、やはり低すぎるのではないかと思います。
二つ目の質問は、成長と排出量との間のつながりです。ベースラインのシナリオでは、
CO2排出量が 25%増加します。そして昨日、世界の弾性の平均は 0.7 と言いました。そ
72
して経時的に 0.2、0.3 と減少していく。しかし日本では 0.7 ということです。日本は先進
国であるので、日本の弾性としてはかなり高いと思います。もっと低くてもいいのではな
いでしょうか。いずれにしても経時的に検証していきます。
最後にお聞きしたいのは、エネルギー価格に関してです。これはすべてのBAUのシナ
リオにおいて大変重要なことだと思います。こういった情報がありませんでしたので、こ
こで前提とされているエネルギー価格は何なのかを教えていただきたいと思います。
また、ほかの質問もあります。技術変更に関してです。エネルギー効率の前提はどうな
っているのでしょうか。技術が変更しており、Learning-by-doing を通じて変わっていき
ますが、ペーパーの中にはエネルギー効率のことは書いてありませんでした。効率は改善
するとありましたが、標準的なインデックスで、トータルプロダクティビティを改善する、
しかし、エネルギー効率も高めるものなのかということも伺いたいと思います。これはす
べてのエネルギー機構に関するものとして重要なのがエネルギー効率、そしてエネルギー
原単位の減少ということに関してです。また、気候変動に関してはCCSまたは太陽光、
風力に関する学習曲線が必要ですが、実証的なベースがあるのでしょうか。日本に関して、
これはあまりにも楽観的すぎるのか。そして、この学習曲線に関する前提に関しては何か
実証的なものがあるのか。2012 とありますが、それはどこから来たのか。そして、ポリシ
ーは学習曲線に影響を与えるかもしれません。このような前提を裏付けるような数字があ
るのでしょうか。そして、CCSのリーケージレートはどのくらいなのでしょうか。
また、日本の気候変動のコストはかなり高くなっています。すべてが完ぺきにいって、
すべてのポリシーが導入されたベストケースにおいて、BAUで 3.8、GDPの2%です。
これは過大評価されているのかもしれません。というのは、気候変動に関しての予見性が
なく、数多くの例えばテクニカルチェンジは外因性のものだからです。このコストが過大
評価されているのではないかという可能性に関してもお聞きしたいと思います。
最後にポリシーに関してです。ペーパーの中に入れていただいた方が有用だったかと思
う情報があります。それは補助金です。補助金はどこから出るのでしょうか。政府の方と
しても予算の制約はないのでしょうか。拠出するお金はあるのでしょうか。そのため、G
DPが低くなる。それによってCCSまたは風力、太陽光に対する補助金に回るのか。ま
た、コスト便益分析を行われているのでしょうか。補助金の額は追加的な排出量削減のベ
ネフィットよりも大きいのか、小さいのか。
オークションに関してもそうです。これも、入れたとしたらどうやって排出権が出てく
73
るのか。そして、それが取引された場合、レベニューはどうするのか。使うのか、リサイ
クルするのかということです。
もう一つ、政策のコストに関してです。キャピタル・レーバーとキャピタル・レーバー
のアグリゲートに関しての数字がありますが、他国の数字よりも低いと思います。これは
日本特有のものなのでしょうか。それとも何か実証分析でこれらの前提を裏付けることが
できるのでしょうか。
(武田)
たくさんのコメントをありがとうございました。
まず、モデル自体にはそんなに新しい点はないというところですが、確かにそのとおり
です。現在の段階ではモデルの構造は非常にシンプルなので、これから拡張すべき点が数
多くあると思います。モデルの拡張に今後も取り組んでいきたいと思っています。
それから、日本のGDPの成長率が低すぎないかという質問ですが、これは先ほどのセ
ッションで発表された坂下さんも使っていた日本のエナジー・アウトルックの予測が 2008
年から 2030 年の成長率を大体年率1%と想定しています。その数字自体が適切な数字かと
言われると判断できないのですが、そのまま予測値を使わせていただきました。
もう一つ、今度はCO2が 2008 年から 2030 年で 25%伸びるという結果になっているの
ですが、それがもっと低くていいのではないかというご質問だと思います。確かにこの数
字は、僕が決めているAEIの率にかなり依存して決まっているものなので、その数字が
適切かどうかはもう一度検討したいと思います。確かに伸び率が高すぎるようにも思いま
す。
エネルギーに関する技術進歩については、今のモデルではAEIのみを考えています。
CCSや新エネルギーによる発電などを除くとAEIのみですので、AEIは今のモデル
ですと単純に生産関数のパラメーターを外生的に変化させるという形で実現しています。
それから、CCSのラーニングカーブがオプティミスティックでないかということでし
た。これはラーニングカーブだけの話ではないのですが、CCSにしろ、風力発電、太陽
光発電のどちらに関してもいえることで、技術的な情報がなかなか入手できず、例えばC
CSの累積的な量と技術的なパラメーターがどんな関係にあるかを誰かが実証的に分析し
ているといった研究は見つけられませんでしたので、今のところは単純な形で仮定してい
ます。しかもラーニングカーブを、普通の仮定ですと累積的な生産量と効率性のパラメー
ターが関係があるという形ではなくて、時間と効率性のパラメーターが関係がある。つま
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り、導入されてからの時間によってパラメーターが上昇していくというような形で、普通
とは違う仮定を使っているのです。結局、技術的な情報がなかなか入手できなかったので、
そのようにしました。
次は、CCSのリーケージレートですが、昨日発表された方も、今日発表された方も、
CCSを発電と同時に行われるといったとらえ方をされています。それが多分普通だと思
うのですが、僕の今使っているモデルでは、CCSはほかの活動とは全く無関係に独立に
行われるという単純な形にしてしまっていますので、そもそもリーケージレートというも
のを考えることができません。
補助金に関しては、これも本当に単純な形で政府が税金として集めたお金からCCS、
新しい電力の生産に対して補助金が支払われるという形にしています。その額がほかの手
段と比べてどうなっているかという比較は行っていないので、やってみたいと思います。
あとは、代替の弾力性(elasticity of substitution)の値が小さい部分があるという
ことに関しては、全体的に小さい値を用いています。というのは、普通使われるような値
を前提にした場合、排出規制をかけてもGDPがあまり減らないという結果になってしま
います。それ自体は問題がないかもしれないのですが、あまり排出規制のコストがかから
ないということになると、CCSを導入したらどう変化するかという分析がしにくくなっ
てしまうので、意図的に排出規制のコストを少し高めにして分析した方がやりやすいとい
うことがあったからです。
(Convery)
ありがとうございました。既に 10 分遅れていますので、残念ですが、フロ
アからの質問は受けない方がいいと思います。大変素晴らしいペーパーで、大変面白いコ
メント、レスポンスをいただきました。ありがとうございました。
75
国別報告
(司会)
午後の第2セッションを始めたいと思います。このセッションでは、韓国、中
国、日本、EUという順番で、それぞれの地域の専門家の方々に自国で、どのように気候
変動の対策を取っているかという報告をしていだきます。
最初に、韓国の Seung Jick Yoo 博士からレポートを 20 分間でいただきます。もし時間
が許せれば5分間ディスカッションの時間を持ちたいと思います。Yoo 先生、お願いしま
す。
国別報告(1):韓国
Seung Jick Yoo(韓国エネルギー経済研究院ディレクター)
私もほかのスピーカーの方々と同じように、今回の会議で気候変動政策、特に韓国に焦
点を当てて発表できる機会をいただきましたことを光栄に思っています。また、主催者の
方々、ESRIに招聘してくださったこと、そして、心からもてなしてくださっているこ
とに対して御礼申し上げます。
本日のプレゼンテーションを非常に興味深く聞いてきたわけですが、まだ交渉の場にセ
クターアプローチを出していないということをむしろ喜んでいるぐらいです。大きな議論
がセクターアプローチについては今後2年間にわたって活発になされると思っています。
それでは、韓国がどのような気候変動政策を取っているか、ご説明したいと思います。
三つのトピックをカバーします。一つは、温室効果ガス排出量の過去 15 年間の推移、そ
して、今後 15 年間の見通しについてです。さらに簡単に韓国における国別行動計画につい
てお話をし、また、主要な政策措置として温室効果ガス削減についてどのようなものが取
られているかについてお話しします。
温室効果ガスの排出量をセクター別に表してみますと、排出総量は年率 4.7%で過去 15
年間伸びてきました。エネルギー関連の活動の排出量が 85%を占めています。その次に大
きな部分を占めているのは、インダストリアルプロセスです。従って、エネルギー関連の
活動およびインダストリアルプロセスが総排出量の約 95%をわが国では占めています。そ
れから、2005 年の総量は、5億 9100 万CO2換算トンでした。
また、第3次国別報告書の中で使われている表からは、GHGの排出総量が過去 15 年間
76
にわたって着実に伸びていることがお分かりいただけると思います。しかし、その伸び率
はGDPよりは低かったわけです。GDPは過去 15 年間、5.6%の伸び率で伸び、炭素集
約度はGDPで割ると出てくるわけですが、それが−0.8%です。そして、1人当たりの所
得の上昇があり、総量で、1人当たりの排出量は 3.9%上昇しました。
次は 2005 年における温暖化ガスの内訳です。わが国においてはCO2が主要なガスです。
2005 年の数字では、その割合が総量の 88%を占め、そのうちエネルギー関連の活動由来が
83%となっています。
加えて、CO2の排出源をセクター別に見てみましょう。エネルギー関連だけに焦点を
合わせますと、主な排出源はCO2の場合、トランスフォーメーションセクター、つまり
わが国においては発電、熱、蒸気の生産などになります。さらに工業セクターが 32%寄与
しています。温室効果ガスで化石燃料の燃焼のうち占めている割合がそれです。
エネルギー関連のものだけですが、温暖化ガスのトレンドをセクター別に示しますと、
トランスフォーメーションセクターからの排出量の伸び率が非常に高く、それが年率にし
て 10.5%でした。2番目に大きな排出源は運輸セクターです。しかし、この排出量の伸び
率は1次エネルギーの消費量よりも過去 15 年間は低かったということになります。つまり
韓国におけるエネルギーミックスを反映しているわけです。
温室効果ガスの今後 15 年間にわたる排出見通しですが、年率伸び率は今後 2.2%になる
でしょう。そして、総量は、2020 年の見通しで、8億 1400 万トンCO2換算になります。
これは 2005 年対比で 38%増です。さらに廃棄物管理の分野において排出量が伸びてくる
と思われていますし、エネルギー関連の分野では2%以上の年率成長率になるでしょう。
産業プロセスにおいては両方とも2%を超えると見られています。
このGHGの排出をエネルギー利用ということでセクター別に見ていきますと、最も高
い成長があるのはトランスフォーメーションセクターです。運輸セクターも同様に高い成
長率を今後 15 年間は見せるであろうということです。しかし、全体としては 2.1%という
年率成長が今後 15 年間の数字になると思われます。
それでは、次に気候変動対策についてお話をします。ご存じのように韓国は付属書1締
約国です。2002 年から批准しています。自主的に削減努力に参加しており、第3次国別報
告書を今年提出することになっています。また、98 年に韓国政府は首相を議長とした気候
変動委員会を設立しました。委員会の主な役割は国家の行動計画を承認し、その実行、進
捗についてもモニターしていくことです。
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1999 年以来、過去 10 年間にわたって、韓国は三つの国家行動計画を実施しました。そ
して、2008 年から韓国政府は第4次国家行動計画を実行します。この計画は期間が延びて
おりまして、今までは3年間だったのですが、今度は5年間をカバーすることになるわけ
です。従って、気候変動の影響を削減と適応を通じて最小化しようという努力に焦点を当
てます。
第4次国家行動計画においては、削減、適応、R&D、インフラづくり、国際協力の推
進という五つの分野が注力点といわれています。まず、削減についての政策は、エネルギ
ー需給の構造変革をする。原子力エネルギーの役割の増大について検討する。温室効果ガ
スを吸収源を通じて排除する。また、韓国においてカーボンマーケットを活性化していく
という、4点に力点を置きます。
過去3回の行動計画を通じて気候変動政策の基盤が強化され、国家の目録システムを
2006 年に作りました。今後はさらに努力して、この目録制度の質を企業、事業所レベルに
まで高めていきます。さらに国家登録制度を作っていますが、これは企業の自主的な削減
努力を登録するという制度で、これまで 41 のプロジェクトが登録されました。
そして、この第4の国家行動計画の主要な点は、ロー・カーボン・エコノミーへの移行
を円滑化するということです。従って、再生可能エネルギーのシェアを高める努力をしま
す。2007 年の数字ですと、現在のシェアは第1次エネルギーの中で 4.4%でした。その数
字をさらに上げて 2011 年に5%を達成し、2030 年に9%を達成しようと考えています。
また、三つの重点分野が特定されています。まず太陽光発電、風力発電です。さらに再
生可能エネルギーの普及を進めていくために、政府は固定価格買い取り制度を導入します。
政府は市場の変化を見ながら、それを反映する形で柔軟に政策を取っていきます。加えて、
義務的な再生可能エネルギーの導入を公的セクターのビルの導入に義務付けます。また、
自動車燃料としてバイオフューエルのミックスを義務付けます。従って、2012 年までにバ
イオディーゼルの3%の混入量を目指します。
削減政策の主な点として、韓国では自主的な産業レベルの合意があります。韓国で、
2000TOE 以上消費をしている事業所、企業は、自主的にGHGの削減をする、あるいは効
率性を高めるという自主的な合意を政府とします。そうした場合には政府はその企業に対
し、優遇金利での資金提供や投資にかかわる税控除を提供します。2006 年時点で 1353 の
工場がこのプログラムに参加しています。政府は今後交渉ベースのアグリーメントの導入
を検討しています。その場合には目標設定に政府自らが関与し、もしその合意された目標
78
が達成されなかった場合にはペナルティを科します。
加えて、政府は、エネルギー投資の問題に対処するために、エネルギー効率を工業セク
ターで上げていくために、この自主的な合意とエネルギーオーディットを組み合わせた、
統合的なアプローチを取っています。
また、第4次国家計画におきまして、公的セクターのエネルギー消費量を 2010 年までに
ゼロ成長にすることを目指しています。韓国では、熱電併給が一般家庭用、産業コンプレ
ックス用で提供されており、これらがエネルギー効率の向上に大きく寄与します。また、
この国家計画の中で中小規模のCHPをさらに促進していきます。われわれは、温室効果
ガスの排出量は年間当たり 250 万トンが 2012 年までに削減可能だと予想しています。
政府はエネルギー効率改善のためのプログラムを幾つか取っていますが、家庭、公共セ
クター、そして商業ビルが対象となっています。ラベリング制度や継続的な最低効率基準
を改定すること、また、効率的な製品のための市場ですが、公的セクターにおいては省エ
ネ型の機器を購入することが義務付けられています。そのほか、省エネ型の特徴を持った
ビルのデザイン、インシュレーションなどに関してより高い基準を設定します。
運輸ですが、エネルギー消費が今後 15 年間にわたってかなり伸びるであろうと思われて
いるので、政府はサブコンパクトカーやハイブリッドカーを導入するために資金的なイン
センティブを提供します。さらに、バスのラピッド・トランジット・レーンをソウル首都
圏で導入し、それを今後はそのほかの大都市にも広げていくということです。また、料金
支払いの電子化も同時に導入していきます。
それから、第4次国家計画において、適応がもう一つの重要な分野であると認識されて
います。政府は、資金援助をR&D活動に対して提供することによって、ダウンスケール、
そして韓国の気候変動の見通しの質を改善していき、その適応措置についての優先順位を
決めていきます。また、中長期的なアダプテーションプランというものを韓国の主なセク
ターに導入していくことになります。
さらに民間セクター、そして一般の人々をもっと参加させていくために、NGOの関与
が非常に重要であると考えていることから、政府はNGOの活動を支援していきます。ま
た、中央政府は資金的な、技術的な援助を自治体に対して提供し、そして、温室効果ガス
の目録制度をローカルレベルで作ることを促進します。さらにそのローカルレベルでの適
切な政策措置を導入するための支援を中央から地方に行っていきます。
2007 年の4月時点で韓国は 12 のCDMプロジェクトに参加しています。今後、第4次
79
国家計画の中でCDMのプロジェクトが増えてくると思われます。加えて、2007 年8月に
は、国内外のCDMプロジェクトに投資するためのカーボンファンドが立ち上げられまし
た。これはCERとAAUを購入するために使われます。また、第4次国家行動計画にお
いて、既存の税制を見直して、グリーンタックスシステムへの移行を検討します。
また、政府は、エネルギー効率を高める技術や再生可能エネルギー技術のために、R&
D投資をかなりやってきました。それに加えて、積極的にAPPにも参加していますし、
ファンドを立ち上げ、ハイブリッドカーや燃料電池の車両開発のための投資や、CCS技
術のR&D投資も行っています。これらが主な韓国の政策ということで、第4次国家計画
に含まれているものです。ありがとうございました。
(司会)
Yoo 先生、ありがとうございました。
時間が少なくなってきましたので、恐らく質問がたくさん出ると思うのですが、すべて
のプレゼンテーションが終わってから、質問を受け付けたいと思います。
それでは、次に ZOU 先生から中国の報告をお願いします。
国別報告(2):中国
ZOU ZI(中国人民大学環境学院副院長)
プレゼンテーションをする前に、この国別報告は中国の気候変動政策をすべて網羅する
わけではありません。時間が限られていますので、適応ではなく、削減のところにフォー
カスを当てたいと思います。エネルギー利用に関してより包括的なレビューがお聞きにな
りたい、中国の気候変動や中国のエネルギー政策についてお知りになりたいということで
あれば、中国政府のウェブサイトをご覧いただきたいと思います。昨年の夏に発行された
気候変動に関するナショナルプログラムがありますので、それをお読みください。
今のところ、ある特定の気候変動政策が中国にあるわけではありませんが、さまざまな
関連政策があり、気候変動に意味合いのあるような政策もたくさんあります。そして、気
候変動のナショナルプログラムは厳密な規制ではないのですが、指示があって、地方の自
治体や産業界に対して指導しています。政府の公式文書に対する私の理解はそれです。で
も、さまざまな気候変動に関する情報を広め、国家政府の基本的な方向性や位置付けを示
すのは大変重要だと思います。
80
では、プレゼンテーションに入りたいと思います。5点について申し上げます。最初に
開発戦略から始めたいと思います。その後で簡単にエネルギー利用および温室効果ガスの
排出に関して、異なるシナリオ、異なる予測などをご紹介します。三つ目は削減に向けて
の主な対応策について、四つ目に障害や課題について申し上げ、最後に結論を申し上げた
いと思います。
まず、中国の気候変動に関する位置付け、中国の政策において第一義的に重要視されて
いるものは何か、または基本的な状況は何なのかということですが、中国は大変大きな国
です。国土面積も広く、人口も多い。そして、経済成長の初期段階にあります。ただ、中
国はオリンピックの主催国になって、GDPではトップ4に入るので、もはや途上国では
なく先進国ではないかという印象を持っている人が多いと思います。
しかし、私が申し上げたいのは、中国はまだ途上国であって、開発途上だということで
す。中国を理解するときに北京、上海、四川、香港だけではなくて国全体を見ていただく
と、人口の 40%は農村地帯に住んでいます。都市部の低所得者を見ると中国は途上国であ
るという印象を得ると思います。もちろん急速に発展をしていますが、これを達成と見な
す見方がある一方で、リスクも伴うということです。
そこで、どのぐらいこのような高成長を続けることができるのか、そして環境に、また
は生活の質ということに関してのこの急成長はどういう意味合いがあるのか、こういう疑
問がわくようになります。
最初に開発戦略について申し上げます。GDP、そして工業化は主に経済の第1次、第
2次、第3次産業の割合に関連します。何年にもわたって製造業が経済の半分ぐらいを占
めています。特に原材料への需要がありますし、エネルギー、電力があるため、この状態
は続くでしょう。そして、工業化等を伴って都市化も進んでいます。申し上げたとおり、
大体人口の 40%が農村地帯に住んでいます。今後 20 年間でさらに 20%、つまり2億 5000
万人が都市に移動すると見られていますので、そうなると、さらにインフラへの需要が高
まります。また、原材料、金属、鉄鋼、アルミ、化学品、セメントなどへの需要も高まり
ます。これが基本的増です。
それから、エネルギー集約型の製品に対する需要が伸びます。このような需要は必需品
で、決してラグジュアリーではありません。例えば水、エネルギー、パイプライン、また
は排水処理、一般的な交通輸送制度が必要になってきます。今後 10 年、20 年においては
これらのための原材料がかなり必要になります。エネルギー利用も増えます。
81
もう一つは雇用です。雇用が完全雇用なので、1億 3000 万人の人たちが余剰の労働力と
なり、失業、または完全に就労していません。ですから、雇用機会を作る必要があり、そ
れも中国にとって大変大きな問題となっています。そして、今現在、経済安定、インフレ、
経済サイクルがさらに来るといわれており、インフレ率が社会や政府にとって大きな懸念
になっています。
1月にCPIが 7.1%にまで上がりました。ご存じだとは思いますが、中国の近代経済
史をご覧いただきますと、高インフレ率が社会全体の不安定化につながったことが何回も
あります。そのため中国政府は大変慎重になっています。エネルギー税や炭素税を含んだ
環境政策を導入するタイミングとしてはよくないからです。また、車の増加によって、イ
ンフレがさらに高まるという懸念もあります。価格システムを変える、そして、環境資源
が少ないということに対応する絶好のタイミングを計っているところです。
貿易・通商です。30 年前の中国と今の中国は全く違います。今は、開放されています。
特にWTOに加盟したことで、中国経済は国際通商に依存しています。問題は、ミネラル、
鉱物を輸入し、そして鉄鋼、エネルギー集約型の製品を欧米の市場に対して輸出している
ことです。そうなると考えなければいけないのは、何トンの排出量がこの生産プロセスの
中で国内需要向けなのか、海外向けなのかということです。また、マーケットアクセスの
問題もあります。エネルギー利用、排出量の条件などは中国側からも問題になりつつあり
ます。
開発経路についての話がいろいろとありましたが、中国経済の成長はファクターインプ
ットの伸びに依存していました。しかし、今、資本、労働、投資から効率性改善への変化
を遂げている最中です。少なくとも 20 年間このような懸念を持っていましたが、これらの
変化を遂げるのは大変難しく、トップの政治家もこういう方向に行かなければいけないと
いうことに気付いていましたが、今はまだ対応策が不足している状況です。
Kaya 数式を見ると、中国では 2030 年まで人口は増加を続けます。一人っ子政策を採っ
ていますが、いずれにしても総人口は増加を続け、2030 年ぐらいにピークを迎えるでしょ
う。国民1人当たりのGDPも増加を続けます。ですから、排出量、エネルギーの集約度
を減少させるためには、エネルギーミックスを石炭から原子力や天然ガス、または再生可
能エネルギーやそのほかの低炭素エネルギーに変えられるか否かということです。でもそ
れは大変限定的です。中国の天然ガスの量は少なく、ロシア、中東、中央アジアやほかの
海外マーケットから輸入するのは大変難しい。また、再生可能エネルギー、水力発電など
82
に移るのも難しいのです。原子力においては増やす余地がありますが、まだ最終決定はさ
れていません。この議論はどんどんホットになっていっています。個人的にはもっと野心
的な目標が原子力発電においてはできるのではないかと思っていますが、いずれにしても
30 年、50 年ぐらい中国は依然として石炭に頼り続けるでしょう。
テクノロジーもあります。テクノロジーこそが唯一の答えになるかもしれません。これ
はどういう経路を通って発展していくかということによります。従来のパスから、確信的
なSDパスへと移行をしたいという目標があります。さらに低炭素技術を導入するために
更なるインプット、人材、制度的なアレンジメントや政策、そして十分な財政資源といっ
た四つの要素がなければ、このような変遷を遂げるのは難しいといえます。ただ、排出量、
エネルギー利用ということに関しては難しいかもしれませんが、従来の曲線をもっと下げ
て、ピークを早くするのは可能だと思います。これは中国にとっての現実的および戦略的
な目標であると思います。
中国では制約条件も幾つかあります。一つは開発の早い時期における資本の蓄積です。
ここ 60 年間、主要な資本蓄積は農業、または農家から来ていましたし、天然資源のおかげ
で中国はどんどん豊かになっていき、より条件が向上していきました。今はまだ変遷を遂
げている最中であって、この状況から脱却するのはなかなか難しいのです。ハイテク、サ
ービス業界がより資本を蓄積し、より価値を付加することで、農業、天然資源、または環
境からシフトすることができれば、問題の一部は改善できると思います。そして、二つ目
の問題は労働力が余っていること、三つ目が成長パターンの問題です。
これらで将来の動向、将来のエネルギー利用および温室効果ガスの排出に関してよく理
解できると思います。中国の発展がきちんと理解できなければ、エネルギーの状況および
GHGの状況も本当の意味で理解できないと思います。
中国は過去何十年間でエネルギー利用が大幅に増えています。インフラの建設が、そし
て都市化のプロセスが終わるには、まだ 20 年、30 年かかるかもしれませんし、それは誰
も分からないのですが、それがすべて終わるまでは中国経済はエネルギー集約型であり続
けます。これは間違いのないことです。
将来の中国のエネルギー需要に関してさまざまな異なる予測が出ています。幾つかの機
関がさまざまな予測を立てていますが、かなり数字が大きいことが分かりますし、それぞ
れに違っています。ただ、エネルギー利用に関してはかなり集中しています。鉄鋼、非鉄
鋼、金属製の鉱物、非金属製の鉱物、化学品、石油、いずれにせよこちらの六つのセクタ
83
ーが、産業界全体の総エネルギー利用の 71%を占めています。そして、こちらの六つのセ
クターはエネルギー利用の 50%を占めるのです。ということは、エネルギー効率を高める
ことができ、低炭素テクノロジーをこれらのセクターに導入することができれば大幅な削
減が可能になるということになります。エネルギー利用も削減できますし、温室効果ガス
による排出も削減できます。
また、エネルギー効率において大きなギャップがあります。中国とOECDの諸国の間
で通常 10%くらいのギャップがあると思われています。中国のプライマリーエネルギー利
用の大変高い利用率を考えると、1%ギャップを削減できるだけで、社会の温室効果ガス
をかなり削減できます。従って、中国の全般的なエネルギー効率を高めることが大変重要
なのです。大きく貢献できます。また、エネルギー利用の増加分は世界の増加分の大きな
部分を占めています。
これは中国の最近のGHG排出量を示しています。最も信頼性のある情報は国別報告で
す。UNFCCCを通じた国別報告になりますが、1回目の国別報告の排出量のデータは
1994 年のデータでした。その後、2004 年においては大まかな推計があり、中国の気候変動
のナショナルプログラムにおいて、国別プログラムで 5600Mt のCO2ということになって
います。ただ、ほかの数字は全く異なっています。こちらの推定は化石燃料の燃焼に基づ
いて計算されていますし、カーボンシンクも勘案されています。
こちらのシナリオは私の大学で私のチームが作成しました。最近では、中国工程院およ
び環境保護庁、そして首相などがサポートしているマクロ環境政策のプロジェクトを終了
する予定です。新しいシナリオなども作成しており、2050 年までを見越しています。
二つのシナリオを作っています。一つはBAU(Business As Usual)のベースラインと、
もう一つは enabling policy を入れたものです。私どものシナリオは、排出量、またはエ
ネルギー利用に関して、ほかの機関のシナリオや予測よりも通常高い数字が出ます。CO
2
排出のシナリオもあります。BAUとポリシーのシナリオです。
では、中国の対応策はどうなのかについて、何点か申し上げたいと思います。まず、特
に企業のトップ、または地方自治体のトップの人たちに対して、一般の周知を図ることが
大変重要です。中国では数多くの段階があるからです。国会政府と地方政府では異なる動
機付けや考えを持ち、異なる行動スタイルを持っている場合もありますし、国の政府と州、
または地方の自治体はすべてそれぞれの段階において違います。従って、政策決定者にお
いて、一般に周知をするということは大変重要です。一般国民に対してもそうです。
84
そして、政策の導入制度の開発も大変重要です。これはポリシーにとってインフラのよ
うなものだと思います。先進国においてはさほど重要ではないかもしれませんが、中国に
おいては大変重要です。もう既にさまざまな規制、標準、規律などがあるわけです。でも
どの程度これらが導入されているのか、施行されているのかが、大変重要な問題です。
また、高効率技術に対するインフラ投資、特に電力、輸送、交通、そして建設のセクタ
ー、これらのインフラセクターが重要です。というのは、これらのセクターにおいて大き
なロックインのリスクがあるからです。今現在、これらのセクターにおいて大量の建設が
行われています。排出量を削減するための歴史的なオポチュニティを失ってしまう可能性
があるからです。ロックインを避けるというのは大変特殊で、大きな課題になります。
効率改善、これにはまだかなりの改善の余地があります。
LUCF、これに関してはもはや言う必要はありませんが、知る限りにおいてかなり重
複しています。中国のエコロジカル建設計画等々、能力醸成、特に研究開発において、い
ろいろとできると思います。
昨日の発表、そして先ほどの発表の中では異なる言葉を使っていたかもしれませんが、
低炭素技術の研究開発のための能力醸成は大変重要です。中国が国際社会と協力するため
には重要な点です。そして、将来的にそれを導入できるようにする必要があります。世界
の経済大国の一つがより炭素集約型ではなくなることが重要です。
また、政策および制度に関してさまざまな基準、標準があります。ヨーロッパや北米、
また日本からもライセンスがあります。いろいろなキャップ・アンド・トレード、環境税
制、モニタリング、または減少可能性等々についてのいろいろな議論があります。これら
の制度を開発する上でまだまだ道のりは長く、より多くの研究開発投資が必要になります
し、企業が牽引力になる必要があります。
中国の研究開発は主に大学、研究所などが推進しています。あまり企業が関与していな
い気がしますので、どうやって企業に大きな役割を担ってもらうかというのが重要だと思
います。
そして、資本市場とリンクのあるような金融のメカニズムを作る。民間部門が資本市場
から資金調達をし、研究開発のファンディングをし、それによって新しいテクノロジーを
普及させ、展開する。こういった意味ではPPP(官民パートナーシップ)を使うのは大
変有用だと思います。そして、実用化されたEST、国際レベルにおいての重要なセクタ
ーにおいてこういったものを導入するのは大変重要です。
85
幾つか質問があります。技術移転という話をするときに技術の話をしますが、先進国と
途上国から見た場合、いろいろと理解が違うことが分かりました。これらの質問に答える
ためにやはり慎重に定義をしなければいけません。政策、戦略などを最終決定する前にこ
ういった定義が必要だからです。また、提供する方、受け入れる方、そしてインフラ側か
ら見て、技術移転に対する予備的なバリアもあります。
リスク、チャレンジについては、もう既に申し上げてあります。
まとめです。中国のエネルギー利用およびGHGの排出量は増加し続けます。しかし、
もっと持続的な形になると思います。二つ目の点として、認知度を高め、そして、学習プ
ロセスとして、政策のインフラは実際の政策を実施する前に行うべきです。そして、三つ
目は、具体的なセクター、または具体的なテクノロジーに照準を当てるべきです。
そして、最後に国際協力が必要です。これは革新的なPPPベースの金融メカニズムな
ども含まれます。これは研究開発、技術移転およびCSTの展開のために必要です。
(司会)
ZOU 先生、どうもありがとうございました。
次の報告は日本からの報告です。ESRIの研究官の川崎さん、15 分間でお願いします。
国別報告(3):日本
川崎
泰史(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
日本の政策について、手短に紹介いたします。前半で京都議定書の目標達成について、
後半でポストの京都についてお話ししたいと思います。
まず、日本の温室効果ガスの排出状況ですが、2005 年の実績値は 13 億 5900 万トンCO
2
で、ベースラインから 7.7%増加した状況にあります。マイナス6%の京都のターゲット
を達成するためには、森林吸収源や京都メカニズムなどを除くと 1240∼1250 万トンぐらい
まで減らす必要があります。
日本の政策の進め方として、一つの特徴はステップ・バイ・ステップのアプローチとい
うことで、数年置きの節目ごとに対策の見直しを進めてきています。まず 97 年の京都会議
の直後、地球温暖化対策閣僚会議を立ち上げ、すぐに地球温暖化対策のポリシープログラ
ム、大綱を策定しています。そして、2001 年COP7のマラケシュ合意で京都メカニズム
の扱いが決まった後、大綱を改定し、それから地球温暖化対策法を改正して、企業からの
86
排出量報告制度を設けるなどの法律改正をしまして、京都議定書を国会で承認しておりま
す。さらに 2005 年にロシアの批准で京都議定書が発効しますと、2005 年4月、法律に基
づく閣議決定で京都議定書目標達成計画を決めています。さらに昨年から中央環境審議会
と産業構造審議会の合同審議会で目標達成計画のレビューを続けてきておりまして、昨日
も紹介があったかと思いますが、今月中に目標達成計画の改訂版を閣議決定することにな
っています。
目標達成計画の原案段階における部門別の目標ですが、2005 年の部門別の状況を見ます
と、産業部門はベースイヤーから減っていますが、民生や家計部門、運輸部門については、
基準年より上回る状況になっています。いずれの部門においてもターゲットイヤーには引
き下げていくということですが、よくマイナス6%と言われますが、エネルギー起源CO
2
に関していいますと、プラス 1.3∼2.3%ぐらいが目標ということです。
政策のフレームワークとしましては、基本的な考え方として、環境と経済の両立、技術
革新、それからすべての関係主体の参加ということで、政策の手段としてトップランナー
方式や経済界の自主的行動計画、それからクールビズというナショナルキャンペーンがあ
ります。
一部主要な政策について紹介しますと、トップランナー方式は、基準を設定するときに
最も効率のいい、例えば、自動車の場合だと最も燃費効率のいいところを目標にして、目
標年において、ある会社が造る車の平均燃費をこの目標以上にするというものです。21 の
電化製品と乗用車がこのトップランナー方式の下で動いています。
それから、企業の自主的行動計画ですが、97 年に経団連が自主的計画を作ったところか
ら始まっており、現時点で産業エネルギー転換部門では 53 業種、それから民生では 31 業
種、運輸では 17 業種が数値目標付きの自主的計画を作っています。これについては政府が
作っているわけではありませんが、政府の関係審議会において適宜フォローアップを行い、
進捗を図っています。
あと幾つかのトピックスですが、まず京都メカニズムのクレジット取得予算について、
2006 年度から予算化されています。現時点では 983 億円という予算が累積で確保されてい
まして、これは今後もまだ積み上げられていくと思います。現時点で、目標達成計画で想
定されている京都メカニズムによる割合1億トンのCO2をこの金額で獲得しようとする
と、1トン当たり 983 円になるという計算です。
国内の排出量取引については、環境省の事業で試行的な事業が 2005 年から行われていま
87
す。この下では排出キャップを受け入れる企業に対して省エネ投資の補助金を出すような
仕組みになっています。2005 年に始まって、今は第3期に入っていますが、第1期の結果
が出ています。第1期については 31 のキャップをかぶさった企業と七つの取引をする企業
が参加して、平均で 21%の排出削減を約束したわけですが、実績はそれ以上の 29%の排出
削減を達成しています。排出取引は 24 本成立していて、値段はトン当たり 900 円から 2500
円で推移し、平均は 1200 円ぐらいでした。その後少しずつ参加企業も増えてきています。
それから、歳出削減のグリーン化という関係で、石油特別会計の改革が 2003 年に行われ
ています。従来、経済産業省だけの所管だったものが環境省の共管に 2003 年からなってい
ます。歳出内容のグリーン化ということで、再生可能エネルギーの開発や、京都メカニズ
ムのクレジット取得のための予算などを増やすという形です。さらに、このときから、石
炭にも税を掛けるということに変わっています。
もう一つのトピックが自動車関連税制です。ガソリンや自動車取得税などは道路特定財
源という扱いに今はなっていますが、さらに税率について法律本則の税率とアディショナ
ルな暫定税率がありまして、暫定税率部分が3月末で切れるということで、今、国会で一
番もめています。
環境税というわけではないのですが、ガソリンの場合を例で取ってみますと、リッター
当たり 53.8 円ということで、CO2換算でトン当たり2万 3000 円ぐらいの税金が掛かっ
ていることになります。この上乗せ部分の税率の延長問題が、今、国会で審議されていま
すが、ご承知のように、その関係で今週は国会の審議が止まっている状況です。
これまでの日本の政策には、明白に炭素に価格付けをするような制度は導入されていな
いわけですが、目標達成計画の中ではポリシーミックスを進めるという中で、国内排出権
取引および環境税についても総合的に検討するとうたっているところです。
続いて、ポスト京都ですが、日本の政策の進め方は、午前中に Egenhofer 博士からも紹
介がありましたように、ボトムアップアプローチが中心です。ボトムアップアプローチは
排出削減の実現可能性を高めるためには必要な方策です。ただ、気候変動条約の究極の目
標を達成するためにこれだけで十分なのかということです。IPCCの第4次報告が警告
していますように、2050 年までにグローバルな排出量を半減させるというような目標には
ボトムアップだけではあり得ないのではないだろうか。何らかのトレンドを打ち破るよう
なビジョンが必要になってくるということで、午前中、伴先生コメントの中でもありまし
たように、ダボスでの福田首相のスピーチで、クールアース推進構想を発表しました。
88
これは二つの部分に分かれていまして、中期的には国際的な技術の移転によって、今後
10∼20 年の間にグローバルな排出量をピークアウトさせる。さらに長期的にはイノベーシ
ョンを通じてグローバルな排出量を半減させるという構想です。前半部分について、日本
はエネルギー効率の面では諸外国に比べて一番いい方にあると。これを世界中に普及させ
るだけでもグローバルな排出量も随分減るだろうということです。
ポスト京都のフレームワークにおいては、公平な中期のナショナルなターゲットを作ろ
うと。そのターゲットのセッティングにはボトムアップアプローチで、科学的で明確な基
準として部門別のエネルギー効率をベースにする。さらに今後、将来的に予想される技術
の発展を基に削減量を積み上げていくという、ボトムアップでセクトラルなアプローチで
ターゲットを作ることを提案しています。
技術の普及ということで、International Environment Cooperation を通じて 2020 年ま
でに世界のエネルギー効率を 30%改善していくと。また、特に途上国向けに、新しい資金
メカニズム、クール・アース・パートナーシップで 100 億ドル規模の新しい資金移転を提
案しています。
それから、先ほどの目標のイノベーションということでは、一つは科学技術のイノベー
ションで、5年間で 300 億ドルという話が出ましたが、2年前に作られました第3次科学
技術基本計画でも、六つの政策目標の中の三つ目にサステナブルデベロップメントがある
とともに、政府のR&D資金の重点配分分野の一つとして環境を入れているところです。
さらに、イノベーションということでは、ソーシャルイノベーションもうたっていまし
て、ライフサイクルのイノベーション、都市構造のイノベーション、それから 200 年住宅
と言ったりしますが、住まいのイノベーションなど、そういった社会構造のイノベーショ
ンも必要だということです。
ご承知のように、今年7月にある北海道洞爺湖サミットの主要議題が「ポスト京都」に
なっています。一昨日ですか、総理を交えた懇談会が始まって、国内排出権取引について
も議題になっているということですので、サミットに向けてまたいろいろと具体的な話が
出てくるのではないかと思います。
(司会)
ありがとうございました。
最後はEUの国別報告です。Egenhofer 博士、なるべく手短にお願いします。
89
国別報告(4):EU
Christian Egenhofer(CEPS(欧州政策研究所)上席研究員)
それでは、EUに関して2日間で言及されていない点に特に焦点を置いてお話ししたい
と思います。EUについては既にかなり話が出ていますが、法的拘束力のある目標が 2007
年3月に設定されました。重要なのは温室効果ガスを 20%削減するということで、満足の
いくような国際協定ができれば 30%削減するということです。ここで重要なのは 20%エネ
ルギー効率を向上するということで、これに法的拘束力を持たせようという動きがあると
いうことです。
なぜEUはこうしたのでしょうか。気候変動だけではなくて、エネルギーの統合政策を
打ち出したということが重要なのですが、まず温室効果ガスの排出量ということで、大気
中のCO2の密度を低い水準で安定させたいということであれば、この対策が必要だと感
じたわけです。
それから、EUのホームページではもはやEUは 27 カ国であると。以前のEU15 カ国
ではEUのコミットメントを満たしていないからです。そこで大事なのは、すべてのエネ
ルギー源で網羅されているエネルギーの輸入依存度を引き下げなければいけないというこ
とです。天然ガスがその中で最も重要ですが、天然ガスは日本、そしてEUの隣国、ロシ
アから輸入されていますので、若干心配があります。
この政策パッケージは、一連の目標ということで、供給の安全保障を向上すること、そ
れからR&D、イノベーションと環境の持続可能性を促進するということで、すべてのカ
ントリーレポートで同様にうたわれています。ですから、ヨーロッパをエネルギー効率が
高く、温室効果ガスの排出量が低い経済へと転換させるという目的を掲げています。日本
の計画においても同じような目標が掲げられていると思いますし、他の国においても同じ
ような目標が掲げられていると思います。
欧州委員会が提出した新しい実施提案があります。1月 23 日に出た直近のものですが、
その前に 2007 年9月に戦略的なエネルギー・テクノロジー・プランということで、ダブリ
ン大学のチームからご発表がありました。EU−ETSのレビューを行うことが最も重要
なのですが、これはまた削減の目標に関してエフォートシェアリングを行わなければいけ
ませんし、再生可能エネルギーの戦略、CCSの法的な枠組み、また補助金協定の見直し
などがうたわれています。
90
EUのエネルギー機構政策はパッケージ以上になっています。対外的なエネルギー政策
等を網羅しているのですが、その目標、ETS等について考えたいと思います。セットプ
ランについては割愛し、グローバルなキャップ・アンド・トレード、国の助成についても
今日はお話しする時間がありません。
戦略的なエネルギー・テクノロジー・プランについては、EUがテクノロジー不足であ
るということについて、先ほど Convery さんからお話があったと思います。しかし、市場
が破綻している部分もありますので、EUとしましては、テクノロジーに関してイノベー
ションを通じてリーダーシップを獲得したい。そして、炭素と石炭のロックインの話が出
ましたが、それを避けるためにも行動を加速化しなければいけないのです。
では、EUのETSの話をしたいと思います。EUがまさにEUの気候変動戦略の要石
と呼んでいるところです。第1フェーズでいろいろな問題が浮上しました。毎日マスコミ
でも報道されていますが、効果があるのか、実質的な削減がなされていないのではないか、
合理性に欠けている、掌握がされていない、投資不足、それから確実性がないというよう
な問題点が指摘されています。EUはこれをすべて改善していきたいということで、信頼
のおけるEUのETSを作り上げることによって、グローバルな炭素市場をボトムアップ
で作っていきたいということだったのです。
現在、世界各地でETSが浮上しつつあり、それをどうにか一本化していきたいという
ことで、効率的なETSのスキームを作ることができたら全体を引っ張ることができると
考えています。
それによって、急進的な変化がなされました。通常EUでは立法措置が遅きにすぎ、小
幅にすぎるのですが、今回は非常に革命的な内容が、単一のEU全域にまたがるキャップ、
上限ということで、提案されています。2020 年で 17 億 2000 万トンということです。また、
2020 年までで予測できるトレンドラインがありまして、これは 2020 年以降も継続したい
と考えています。企業の方でもキャップをはっきり掌握した上で、自ら試算を行うことが
できるわけです。そして、EUがマイナス 20%からマイナス 30%に移行するということで
あれば自動的な調整がなされると言っていますが、その内容についてはまだ定まっていま
せん。
GHGのターゲットは、ETSのセクターはマイナス 21%、それからETS以外のセク
ターでマイナス 10%になっています。これが加盟国間で分配されるのですが、プラス 20%
からマイナス 20%の間の範囲でばらつきがあります。これは効率性のアプローチというこ
91
とで、最も効果的なやり方を考えたときに、再配分をした方がいいということになったの
です。もし時間があれば後ほど詳しく説明します。
トレンドラインですが、排出量がこういう形で減少します。しかし、それほど感銘を受
けないでください。実情のものよりも急傾斜しているように見えるのは、目盛りのせいで
す。このトレンドラインがさらに減少傾向を示すと期待されています。
また、アロケーションにおいても抜本的な変化がありました。基本的な原則としては、
オークションを行うということなのですが、移行期においては無料でのアロケーションを
行うということで、事業者を三つの分類に分けました。電力セクターはすべての排出量の
60%ということで、2012 年には全面的にオークションを導入することについてコンセンサ
スがあります。また、貿易エクスポージャーを持たない産業については部分的な無料のア
ロケーションを行う。それから、貿易のエクスポージャーが高い業者については、100%無
料でアロケーションを行うかもしれないという可能性があります。
このカテゴリーについては、2010 年、2011 年ぐらいに欧州委員会が最終的に決定するこ
とになります。漏えいのリスクに対する指摘がありまして、いろいろなスタディが行われ
ていますが、どのコモディティ、どのプロダクトが影響を受けるかが分かりませんので、
現在は意思決定を行うのに必要な土台がありません。日本政府からロビー活動がありまし
た。もし拘束力のあるセクター別の合意があるというのであれば、ETSの中のアロケー
ションが変わるということで、CTSのセクターがETSの外に出るという可能性がある
と思います。セクトラルアグリーメント下でのキャップの対象になるということであれば、
現実的なことかどうか分かりませんが、そういう可能性はあると思います。
これは移行期において無料でのアロケーションを行うということなのですが、これが何
を意味するかというと、2013 年には最大 80%まで無料のアロケーションを行えるかもしれ
ませんが、それが急激に引き下げられるということです。電力セクターにおいては完全に
オークションになります。もし無料のアロケーションがあるのであれば、ベンチマーキン
グに基づいて行われることになるでしょう。
それから、高所得国と低所得国の間でオークション権の再分配を行うことになっていま
す。なぜそのような制度を導入したのでしょうか。なぜ排出権をすべて電力セクターにつ
いてオークションしていないのでしょうか。これには新規加盟国の問題があります。新規
加盟国こそが最大の削減ポテンシャルを持っているのですが、もし排出権のすべてがオー
クションの対象になってしまうと、新規加盟国が最も高いコストを負担しなければいけな
92
くなります。ですから、少し奇妙な状況になってしまうのです。何らかの基準を採用して
モデルを走らせてみると、ほかの先進国と比べて、最も高所得の国であるスウェーデンと
ルクセンブルグは余分の排出権を獲得することになります。こういった排出権の再分配の
対象になるわけです。
そのオークションの収入については、用途が指定され、再生可能エネルギー対策になる
ということで、20%はある程度気候変動対策に使わなければいけません。しかし、これは
EUの予算ではなくて、個々の加盟国の予算に組み込まれます。オークション収入の 20%
ということになりますと、計算すると 39 ドルになりますが、すべての排出権を全面的にオ
ークションすると 700 億ユーロぐらいの金額になります。その 20%ということになると、
CCSに必要な金額をカバーすることができるということで、産業界の人たちはみんなエ
キサイトしていまして、みんながこの収入を狙っているわけです。これは今後も議論され
るでしょう。
それから、リンケージです。このテーマに立ち入る時間は本日はあまりありませんが、
JIやCDMということです。ETSセクターでは 14 億のJIとCDMがありますが、そ
れは 2008 年から 2020 年のところになっています。なぜなら、これらはフェーズ2からフ
ェーズ3でバンキングが可能だからです。14 億トンが上限ですので、EUはその分だけ輸
入することができますし、それに加えて加盟国は京都議定書の規則下では7億トンを追加
的に輸入することができます。このルールはポスト京都議定書のレジームにも引き継がれ
るとEUの指令ではうたわれていますが、もし国際合意が成り立つのであれば、マイナス
20%からマイナス 30%という追加的な削減の半分が、JIとCDMと加盟国の対象になり
ますので、EUとしましては期待感が高まっています。
では、この点だけちょっとご指摘したいと思います。要石がETS指令だということな
のですが、EUパッケージの核心にあるのはむしろエネルギー効率のアクションプランだ
と思うのです。なぜなら、エネルギー価格が高騰するので、エネルギー予算を同一にする
ためには省エネを行わなくてはならないからです。これはIEAの主張とも一致していま
す。しかし、トータルのエネルギー消費が減少するのであれば、再生可能エネルギーのタ
ーゲットというのは、全体のエネルギー消費の中に占めるシェアですので、野心の水準を
ある程度引き下げることができるわけです。エネルギーの消費が減少すれば再生可能エネ
ルギーのターゲットがもっと許容可能になります。そうしますと省エネが最も割安のコス
トでできることになりますので、これがむしろ中心的な考え方だと思います。残念ながら
93
EUは省エネやエネルギー保全に関して所管を持っていません。加盟国レベルでアクショ
ンプランを出さなければいけないのです。欧州委員会は国別のエネルギー効率の行動計画、
アクションプランに法的な拘束を持たせようとしていますが、それができれば大きな突破
口になると思います。
次に原子力ですが、これも加盟国の所管で、実行する加盟国もあれば、しない加盟国も
あるでしょう。これはCO2の価格や、エネルギー、安全保障等の関心から左右されるか
もしれません。
サマリーです。EUとしましては、エネルギーは輸入に依存していますし、気候変動の
チャレンジも抱えていることから、気候とエネルギーの統合政策パッケージという形で対
応しようとしています。強力な気候変動対策がグローバルに行われれば、供給オプション
も広範囲のものが出てくるようになるわけです。それは非従来型の化石燃料や非従来型の
資源、再生可能エネルギー、原子力等でありまして、そうすると、EUとしては非常に幅
の広い供給オプションが可能になるということで、リスクが低くなるわけです。供給国の
力ということで、プーチン大統領の顔が思わず浮かんでしまうのですが、高ベネフィット
をうまく勘定に入れればコストは恐らく過剰ではないと思います。しかし、それをどう定
量化できるかという問題があります。
エネルギー消費量の減少は、エネルギー予算を一定にするためには必要不可欠なもので
す。しかし、強力な政治的なコミットメントがありますし、EUでは市民からの支持もあ
ります。西村大使からもご指摘がありましたように、全世界的に市民からの支持があると
いうことで、気候変動についてはEUの市民が一致団結して支持しています。加盟国間の
負担の分担は、最初の効率化のアプローチが取れていますが、ある程度負担能力も加味さ
れています。強力な政治的コミットメントがあるということで、このパッケージは、EU
が今まで提示した中で最も包括的なパッケージなのですが、今年、採択が可能になるかも
しれません。どうもありがとうございました。
(司会)
Egenhofer 先生、ありがとうございました。
それでは、定刻なのですが、時間の猶予を若干いただいていますので、会場から二つだ
け質問を受けたいと思います。何か質問はありますでしょうか。
(Q1)
4国に対する質問があります。エネルギー効率のためのエネルギー投資と新エ
94
ネルギーに対する投資の間では、どちらの優先順位の方が高いでしょうか。
(司会)
(Yoo)
では、Yoo さんから順番にお願いします。
韓国では、優先順位としてはエネルギー効率の方だと思います。
(ZOU) 中国ではどの段階にあるかということにもよると思います。今現在、早くアクシ
ョンを取ることができるのは、より簡単な方ですから、エネルギー効率です。そして、徐々
に新エネルギーの方に投資を進めたいと思います。
(川崎)
日本の場合、エネルギー効率は民間企業、新エネは政府投資も入るという感じ
ではないかと思います。
(Egenhofer) 優先順位付けとしては、近い将来ではエネルギー効率に置くべきだと思い
ます。しかし、同時に実証可能なCCS、そして、再生可能エネルギーの利用ということ
で、こういったテクノロジーのコストを引き下げて、イノベーションの目標も達成してい
くということを長期的にするべきだと思います。
(司会)
ありがとうございました。
もう一つ質問を受けたいと思います。Convery 先生、お願いします。
(Convery) 中国の ZOU 先生に質問です。どうも中国の国レベルの政府と、省レベルの政
府の間では連続性がないということですが、EUは 27 カ国の加盟国を持ちながらも、この
問題をある意味克服しているといえます。法的拘束力が出ますと、もし義務を履行しなけ
れば罰金、あるいは課徴金が加盟国に掛かってきます。もちろん完ぺきではない制度だと
思いますが、5億人もの人口を抱えていることを考えますと、これだけ分散型の制度であ
るにもかかわらず、EUがこれだけの成功を収めることができたことは驚くばかりです。
そして、これがまさに Egenhofer さんがおっしゃった、政策をうまく生かせるための一つ
の前提条件として絶対必要だと思うのですが、中国に関しては国の政府がいろいろなステ
ートメントを出したとしても、地方レベルで実行能力がなければ無駄になってしまうので
95
す。ですから、どうすれば地方レベルの政府、地方自治体と中央政府の政策とで整合性を
持たせることができるのでしょうか。
(ZOU) 政治的に複雑な制度が中国にはありますので、二つ側面があると思います。まず
地方自治体のレベルなのですが、これは中央の政府の指導力、そして支配に従うべきであ
るというのが原則です。しかし、財政収入を分配する中国のやり方については分かれてい
ます。ですから、地方政府の方がずっと動機が強いのです。CCPを増やし、地元の人た
ちのための雇用機会を作りたいと考えています。また、省レベルの知事や、市長レベルに
なりますと、その仕事ぶりの評価というのは、雇用創出をどれぐらいできたかということ
なのです。ですから、環境対策は軽視して、主にGDPの経済成長率や財政収入を地方政
府レベルでどれだけ上げることができたかということに集中しがちです。そうすれば知事
としての権力、市長としての権力が強化されるからです。
しかし、中央政府の立場ではもっと幅の広いビジョンでやっています。ですから、直接
国際社会と接する機会も中央政府としてはありますので、国際的な対話などによって影響
を受けるわけです。彼らの考え方もそういったことを加味して作られます。ですから、中
央のレベルと地方のレベルである程度の対立が中国ではどうしても制度上あるわけです。
しかし、パフォーマンスインディケーターを達成していかなければいけませんし、財政制
度をある程度組み直していかなければいけないと思います。つまり中央政府と地方政府の
それぞれの役割については、ある程度見直して、この二つの間の調和を高めていかなけれ
ばならないと思います。
(司会) それでは、本日は多くの皆さまにご参加いただきましてありがとうございます。
まとめと閉会
(広瀬)
会を終わるに当たりまして、一言日本語でお礼を言いたいと思います。
今年の研究会の目的は二つありました。一つは、2年計画の1年目のプログレスレポー
トをヨーロッパの共同研究者から受けるということです。これは大きな成果があったと思
っています。特に Carraro 教授のモデル分析はストック・オブ・ナレッジに大きな貢献を
したと思います。同時にESRIの方も伴教授と一緒にいろいろな研究を刺激を受けなが
96
ら進めることができました。
2番目の目的は、新たな試みとして中国、韓国の研究者から現状を報告してもらうこと
でした。日本のセクトラルアプローチ、ボトムアップアプローチがヨーロッパにある程度
の影響を与えたとすれば、韓国、中国の試みもわれわれにいろいろな影響を与えると期待
しています。来年はより良い報告になり、また、最終レポートを受けるときには、より大
きなストック・オブ・ナレッジになることを期待しています。
最後に、今日参加いただいた研究者の方々に厚くお礼を申し上げたいと思います。加え
て、野村総研のスタッフの方々、それから同時通訳の方々のおかげで会をうまく進めるこ
とができたと思います。
本日の参加者の方々にもう一度お礼を申し上げたいと思います。ありがとうございまし
た。
(Convery)
ヨーロッパ代表として、私どもの方からもお礼を申し上げたいと思います。
今回の会議を通じて、日本側の研究、そして、EUの研究成果を確認することができまし
たし、日本とEUの間では対称性があるということが分かりました。EUとしましても、
自らやっていることを外部から見た場合、どのようにとらえられるかということに対する
理解を深めることができました。そして、日本と日本の方々の理解に対して直接アクセス
することができて非常にうれしく思います。私はアイルランド人なので、日本の新しい解
釈をすることができたと思います。ラフカディオ・ハーンの父親はアイルランド人であり
ましたので。それから、同時通訳と野村総研の方々、いつも素晴らしいお仕事ぶりで感謝
申し上げたいと思います。
安倍総理ならびに福田総理は日本を先進国と途上国の間の架け橋としてとらえていらっ
しゃいますが、これは大変いい考え方だと思いますので、ぜひこういった考え方を前進さ
せたいと思います。
日本が今年はG7サミットの主催をされますが、これが絶好の機会になり、日本のみな
らず世界全体にとっていろいろなことができると思います。福田総理がリーダー役を買っ
て出てくださった気候変動の政策、環境の政策を中心に据えてくださったことによってわ
れわれも意を強くしております。
黒田所長がコーヒーブレークのときに5月には退任されるとおっしゃっていたのですが、
まず黒田所長に心から御礼を申し上げたいと思います。ESRIの所長を務められた間に
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素晴らしい指導力を発揮していただいたことに、心から賞賛申し上げたいと思います。
(黒田)
ありがとうございました。環境政策について語る本当にいい機会になったと思
います。今のタイミングでヨーロッパ側の方たち、そして、日本内部、そしてまた、アジ
アの韓国、中国の方たちをお迎えして意見交換ができたことは大変貴重な機会だったと思
いますし、日本では非常にまれな機会だと思っています。率直に申し上げて、日本でこう
いったディスカッションは十分行われていないと思います。今でこそ、EUのETSにつ
いては私としてよく理解できましたし、セクトラルアプローチに対する理解も深めること
ができたと思います。
私自身はEUのシステムに共感していますし、日本のスキームもこの協力プロジェクト
と考えているスキームとそれほどかけ離れているわけではないと思うのです。ですから、
どうにか妥協してグローバルなスキームをポスト京都議定書の時代のレジームとして策定
していきたいと思っています。
中国の代表の方、韓国の代表の方、今後ともぜひこのような問題についての対話を継続
できればと願っています。そして、ポスト京都議定書のスキームとしては、世界的な見方
として、中国の参加が必要不可欠だととらえていますので、ぜひ今後は中国も参加してい
ただけるような妥協に到達できればと思います。
(ZOU)
私も発言させていただきたいと思います。まず主催者の方に感謝申し上げます。
そして、ほかの参加者の方々にも併せて御礼を申し上げます。このような素晴らしい機会
を私に与えていただいたことに感謝いたします。この機会は中国の学会にとっても貴重な
機会でありまして、いろいろな考え方や知識を共有することができました。非常に大きな
助けになったと思います。交渉担当官は私自身も含めて学習する機会になると思います。
私は8年にわたって交渉に携わった経験があります。今後ともポスト京都議定書のレジー
ムのために交渉を続けると思いますが、特にテクノロジーがらみの問題に関して今回の会
議では非常に多くのことを学ぶことができました。
黒田所長から中国が重要だと今おっしゃっていただきましたが、どうにか中国をこのプ
ロセスに参加させようという国際社会の考え方は理解しています。同僚の方に申し上げた
いのは、中国は既に深く関与しているということです。中国はこのプロセスに建設的な形
で貢献するやり方、積極的に貢献するやり方を必ず見いだしていくと思います。中国のみ
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ならず、ヨーロッパ、日本、韓国、すべての国がこのようなコミュニケーションやディス
カッションからひ益する立場にあると思いますので、最終的にわれわれはコペンハーゲン
の会議で合意に到達することができる道のりを見いだすことができると思います。ありが
とうございました。貢献したいと思っています。
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