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REPORT 「働く女性の健康とストレスの要因」
REPORT 働く女性の健康とストレスの要因 研究開発室 下開 千春 目次 1.研究の背景と目的···························································· 5 2.調査概要···································································· 5 3.働く女性の健康······························································ 7 4.働く女性のストレスの要因···················································· 10 5.まとめと考察································································ 14 要旨 ① 女性就業者が増加し、勤続年数も延びる中、男性とは身体的に異なる働く女性の健康維持に関心 が高まっている。本研究では、同じ職場で働く男性を比較対象としながら、フルタイムで働く女 性の健康とストレスについて、その実態と対策を明らかにすることを目的とした。 ② 健康上で心配なこととして上位にあげられた項目は、働く女性では、首や肩のこり、視力の低下、 ストレス、体力の低下である。ストレスは、女性45.6%、男性40.0%が心配なこととしてあげて いる。女性の心配の上位にあげられた首や肩のこりや視力の低下は、いずれもストレスと関連し ている。 ③ 働く女性で月経痛が重い女性は3割以上を占める。月経痛が重い女性では、約4割が市販薬で対 処している。薬が効かないほど月経痛が重い女性であっても、生理休暇の取得は3割未満と低い。 生理休暇の取得が進まない理由として、取得のしづらさをあげる女性は約4割と多く、生理休暇 のかわりに年次有給休暇を代用している女性は約4人に1人となっている。 ④ 仕事によるストレスを感じている働く女性の割合は74.6%で、同じ職場で働く男性(68.7%)よ りやや高い。仕事によるストレスの主な要因は、上司や同僚との信頼感の弱さ、通勤・勤務時間 の長さ、職場でのたばこによる不快である。就労女性の働き方や職場環境の改善が求められる。 キーワード:職場、働く女性の健康、ストレス 4 LifeDesign REPORT 2008.1-2 REPORT 1.研究の背景と目的 近年、働く女性が増加し、勤続年数も長くなっている。男女共同参画社会が目指さ れる中、女性には男性に比べて出産や家事・育児の負担、女性特有の健康上の問題が あり、就労を継続していくためには、これらの問題を解決していくことが必要である。 これまで、働く女性の健康管理上の課題として、職場の健康診断が常勤の男性を中 心とした内容であり女性のニーズにあってないこと、生理休暇が取りにくいこと、職 場のサポート体制の不備などがあげられてきた(堀口 2002、女性労働協会 2004、下 開 2006a)。勤務先で乳がんや子宮がん検診を実施している割合は事業所規模や業種に よって差があり、実施している場合でも年齢制限があるなど、全ての女性が職場で検 診を受診できる状況にはない(厚生労働省 2002)。 また、子宮がん検診が受けられないことは、特に妊娠・出産期の女性の場合、単に 健康管理ができないということにとどまらない。働く女性を含めて晩産化が進んでい る中、職場で検診を受ける機会のない女性では、実際に妊娠を希望する時に初めて自 分の健康上の問題に気づく場合がある(殿村 2007)。月経痛が重い場合には子宮内膜 症や子宮筋腫などの疾患を伴っていることもあり、妊娠や出産への影響も懸念される ことから、早めに自覚し対処することが必要とされている。 一方で、就労者のストレスも問題となっている。厚生労働省『平成14年労働者健康 状況調査報告』によると、自分の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレス があると答えた割合は、男性63.8%、女性57.7%とともに6割前後を占めている。職 場にストレスはつきものであり、発散させ、解消させるしかないという考えもある。 しかし、「健康な会社・職場」とは、「職場の人々がストレス解消法に熱心に取り組ん だり、安全のために常に細心の注意を払うように呼びかけている職場のことではなく、 むしろ、過度のストレッサー(ストレスの原因)がないため、ストレス解消法に取り 組む必要のない職場」(山崎 2007)ではないだろうか。そのためにも、ストレスの要 因を明らかにし、対処することが重要といえる。 そこで本研究では、フルタイムで働く女性に焦点をあて、健康上の心配と女性に特 有の月経・月経痛、仕事によるストレスとその要因について明らかにすることを目的 としている。働く女性の職場でのストレスを軽減させ、健康に働き続けるための対処 方法について、同じ職場で働く男性の調査結果との比較から明らかにしたい。 2.調査概要 今回の調査は、働く女性を対象とするため、フルタイムで働く女性が会員となって いる有限責任中間法人日本ヒーブ協議会の協力を得て実施した。1978年設立の日本ヒ ーブ協議会は、生活者と企業のパイプ役となることを目的として主に企業の消費者関 LifeDesign REPORT 2008.1-2 5 REPORT 連部門で働く女性が会員となっている。今回の調査では、女性と同じ職場で働く男性 の回答も同時に得ることで、職場環境が等しい男女の比較を可能にした。 アンケート調査の概要と回答者の基本的な属性は図表1、図表2のとおりである。 図表1 調査概要 調査地域と対象 調査方法 調査時期 有効回収数 回答者の属性 日本ヒーブ協議会の全国の会員(女性)とその同僚(男性・女性) 郵送法と留め置き調査法による自記式アンケート 2006年10月 521(回収率84.2%、うちヒーブ会員93名) 女性 371名(うちヒーブ会員93人、女性に占める割合は25.1%)、男性 150名 注:平日の就業時間が5時間未満の回答は、非正規就労者もしくはパートタイマーと判断し、今回の分析対象から除外した。 図表2 回答者の属性 ① 年代 全体(n=521) 女性(n=371) 男性(n=150) ② 婚姻形態 未婚 全体(n=521) 女性(n=371) 男性(n=150) LifeDesign REPORT 2008.1-2 既婚 56.0 46.6 79.3 40代 173(33.2%) 112(30.2%) 61(40.7%) (単位:%) 離別・死別 3.8 4.9 1.3 製造業 サービス業 金融・保険業 商業 電気・ガス業 建築業 運輸・情報通信業 水産・農林業 不動産業 無回答 全体(n=521) 女性(n=371) 男性(n=150) 経営者・役員 正社員・正職員 契約・嘱託社員 2.3 87.9 5.0 2.2 84.9 6.2 2.7 95.3 2.0 首都圏 京阪神 九州 その他 無回答 (単位:%) 全体(n=521) 61.2 17.7 10.6 9.4 1.2 ⑤ 就労形態 6 30代 215(41.3%) 162(43.7%) 53(35.3%) 40.1 48.5 19.3 (単位:%) 全体(n=521) 55.9 18.0 8.4 6.7 3.6 2.1 1.5 1.2 0.6 1.9 ③ 職種 ⑥ 居住地域 20代 76(14.4%) 59(15.9%) 16(10.6%) (単位:人) 50代以上 58(11.1%) 38(10.2%) 20(13.3%) ④ 正規従業員数 49人以下 50~99人 100~299人 300~499人 500~999人 1,000人以上 無回答 派遣社員 3.8 5.4 0.0 (単位:%) 全体(n=521) 10.2 4.4 4.0 3.1 13.2 64.9 0.2 (単位:%) その他 1.0 1.3 0.0 REPORT 3.働く女性の健康 (1)健康上の心配 健康について心配なこととして、女性では、「首や肩のこり」(61.7%)、「視力の低 下」(49.1%)、「ストレス」(45.6%)、「体力の低下」(41.5%)の順となっている(図 表3)。これに対し、男性では、「体力の低下」(46.7%)、 「ストレス」 「体脂肪」 (40.0%)、 「視力の低下」(38.0%)、「首や肩のこり」「肥満」(33.3%)である。「体脂肪」と回 答した人は「肥満」にも回答している割合が高く、男性の健康上の心配は、いわゆる 生活習慣病にまつわる内容が中心となっている。 図表3 健康について心配なこと(性別)<複数回答> 0 20 40 61.7 首や肩のこり 33.3 49.1 視力の低下 38.0 45.6 40.0 ストレス 41.5 46.7 体力の低下 睡眠不足 28.8 27.3 腰痛 28.0 26.7 20.8 肥満 33.3 24.3 21.3 やる気の低下 25.1 パソコン作業による体への影響 10.0 19.9 14.0 頭痛(片頭痛など) 婦人病(月経痛やその他の生殖器疾患) 足のむくみ 25.6 5.3 男性(n=150) 16.7 14.7 21.3 1.3 19.7 体脂肪 40.0 17.3 16.7 花粉症 アレルギー(アトピー性皮膚炎等) 14.6 6.0 10.8 13.3 がん たばこによる体への影響 その他 女性(n=371) 21.6 精神の安定性 冷え性 80 (%) 60 3.2 18.0 7.3 2.7 LifeDesign REPORT 2008.1-2 7 REPORT これに対して、女性の健康上の心配として上位の「首や肩のこり」 「視力の低下」は、 いずれも心配していると答えた人で、「ストレス」を心配している割合が高く、「スト レス」と関連している(図表4)。また、女性に特有の健康上の心配として「婦人病」 があるが、「婦人病」を心配している人でも、「ストレス」を心配している割合が高い。 図表4 ストレスを心配している割合 (女性の健康上の心配上位2項目と婦人病に対する心配の有無別) 0 20 40 60 心配していない(n=142) 27.5 51.6 心配している(n=182) 視力の低下 39.7 心配していない(n=189) 53.7 心配している(n=95) 婦人病(女性全体) 心配していない(n=276) 婦人病(45歳未満) 心配している(n=82) (%) 56.8 心配している(n=229) 首や肩のこり 80 42.8 57.3 43.5 心配していない(n=209) (2)月経・月経痛の状況 女性に特有の健康上の心配として「婦人病」をあげた割合は25.6%と、約4人に1 人となっている(図表3)。以下では、「婦人病」の中でも、特に月経痛に注目し、職 場での対応の状況をみたい。 図表5 月経の状況 図表6 月経痛の程度 無回答 0.7% 月経痛は 感じない 17.9% 不順 15.1% 順調 84.9% 月経痛は あるが我 慢できる 程度 48.1% (n=291) 注:対象は45歳未満の女性 8 LifeDesign REPORT 2008.1-2 注:図表5に同じ かなりひ どい(薬 を服用し ても会社 を休むほ ど) 6.2% ひどい (薬を服 用すれば 仕事がで きる程度) 27.1% (n=291) REPORT まず、月経の状況をみると、順調と答えた割合は84.9%、不順と答えた割合は15.1% である(図表5)。月経痛の程度は、「月経痛はあるが我慢できる程度」(48.1%)が最 も多く、次いで「ひどい」(27.1%)、「月経痛は感じない」(17.9%)の順となり、「か なりひどい」と答えた割合は6.2%となっている(図表6)。月経痛が重い(「かなりひ どい」と「ひどい」の合計、以下同)と回答している割合は、33.3%と少なくない。 (3)生理休暇の取得 現在、月経を理由として就労が困難な女性には、労働基準法で生理休暇が認められ ている。しかし、過去1年以内に生理休暇を取得した割合は4.4%と低い。ただし、45 歳未満の女性で過去1年間の生理休暇の取得率を月経痛の程度別にみると、 「かなりひ どい」と答えた女性では18名中5名(27.8%)、「ひどい」と答えた女性では79名中3 名(3.8%)、「月経痛はあるが我慢できる程度」と答えた女性では140名中4名(2.9%) と差がある(図表省略)。 月経痛が重いと答えた女性(45歳未満)に、過去1年間に生理休暇を取得しなかっ た理由をたずねたところ、「取得しづらいため」が38.1%で最も多く、次いで「休むほ どのことではないため」(33.0%)となっている(図表7)。薬を服用すれば出勤でき ることから、休むほどのことではない、という女性が少なくないようだ。生理休暇が 取得しづらいためか、「生理休暇のかわりに年次有給休暇を使用するため」という回答 も23.7%と少なくない。 図表7 生理休暇を取得していない理由<複数回答> 0 10 20 30 40 取得しづらいため 50 (%) 38.1 休むほどのことではないため 33.0 生理休暇のかわりに年次有給休暇を使用するため 23.7 生理休暇があるかどうか分からないため 13.4 有給休暇以外の休暇制度、フレックスタイム制度などを使用す るため 4.1 その他 4.1 (n=97) 注:対象は45歳未満のうち月経痛が重い(「かなりひどい」と「ひどい」の合計)と答えた女性 (4)月経痛への対応 45歳未満で月経痛が重い女性では、「市販薬を使用した」(42.4%)、「産業医等健康 管理部門に相談した」(7.6%)割合が、月経痛が重くない女性に比べて高い(図表8)。 しかし、月経痛が重いと答えた女性でも、「先輩や同僚に相談した」「産業医等健康管 LifeDesign REPORT 2008.1-2 9 REPORT 理部門に相談した」割合はいずれも1割未満と、職場で相談する場のある女性はほと んどいない。「特に何もしなかった」と回答した女性も26.1%と、月経痛が重くても何 も対応していない女性も約4人に1人いる。 図表8 月経痛への対応(月経痛の程度別)<複数回答> 0 10 20 30 42.4 市販薬を使用した 20.4 35.9 産婦人科を受診した 28.2 8.7 産婦人科以外を受診した 12.7 8.7 先輩や同僚に相談した 4.2 7.6 産業医等健康管理部門に相談した 上司に相談した 人事・総務の担当者に相談した 50 (%) 40 1.4 2.2 0.7 月経痛が重い(n=97) 0.1 0.7 その他 月経痛が重くない(n=192) 4.3 5.6 26.1 特に何もしなかった 無回答 40.8 5.2 26.0 注:図表5に同じ 4.働く女性のストレスの要因 (1)仕事でのストレスと生活満足感 仕事や職業生活でのストレスについて、ストレスを感じる(「とても感じる」と「感 じる」の合計)と答えた割合は、女性(74.6%)の方が男性(68.7%)より高い(図 表9)。性・年代別にストレスの程度をみると、女性は20代と40代で、男性は40代で、 他の年代と比べてストレスを感じる程度が高い傾向にある(図表10)。 図表9 仕事や職業生活でのストレスの程度(性別) 0% 女性(n=371) 男性(n=150) 20% LifeDesign REPORT 2008.1-2 60% 28.0 80% 46.6 22.7 とても感じる 10 40% 46.0 感じる 何ともいえない 7.5 8.0 あまり感じない 100% 16.4 20.0 全く感じない 0.5 0.8 2.7 0.7 無回答 REPORT 図表10 ストレスを感じる程度(性・年代別) 0% 20% 15.1 30代(n=53) 18.8 49.1 3.8 32.8 40代(n=61) とても感じる 感じる 40.0 何ともいえない 1.2 1.9 あまり感じない -- 23.7 -- 25.0 -- 8.2 10.0 -- 12.5 22.6 45.9 20.0 50代以上(n=20) 19.1 7.9 43.8 11.9 4.5 47.4 12.5 20代(n=16) 10.5 53.6 21.1 50代以上(n=38) 100% 5.1 42.0 29.5 40代(n=112) 80% 45.8 25.3 30代(n=162) 男性 60% 37.3 20代(n=59) 女性 40% 7.5 1.9 13.1 --- 30.0 全く感じない 無回答 また、ストレスの程度と生活満足感(生活全体についての満足感)の関係をみると、 男女ともにストレスを感じると答えた人で生活満足感は低い(図表11)。女性では、ス トレスを感じる人で生活に満足している(「満足している」と「まあ満足している」の 合計)と回答した割合は61.1%にとどまるのに対し、ストレスを感じない人では84.6% が満足していると答えている。 図表11 ストレスの程度と生活満足感 0% 女性 20% ストレスを感じる(n=277) 5.1 ストレスを感じない(n=91) 40% 60% 80% 56.0 11.0 30.0 73.6 100% 6.9 0.4 1.8 - 12.1 2.2 1.1 1.9 ストレスを感じる(n=103) 6.8 43.7 33.0 14.6 - 男性 ストレスを感じない(n=46) 19.6 満足している どちらともいえない 不満である 67.4 8.7 4.3 - まあ満足している どちらかといえば不満である 無回答 (2)ストレスの要因 仕事や職業生活によるストレスの要因として、「就業状況」に関する8項目、「生活 状況」に関する6項目(うち2項目は女性のみ)を想定し、それぞれにストレスとの 関連をみた(図表12)。 LifeDesign REPORT 2008.1-2 11 REPORT 図表12 ストレスを感じる(「とても感じる」「感じる」の合計)と回答した割合 (各要因の該当・非該当別) (%) 100 80 60 [女性] 40 【就業状況】 20 87.9 81.2 76.7 89.1 78.6 77.2 81.4 ** 65.2 75.2 83.3 70.5 * 83.3 74.5 76.5 72.5 81.5 73.4 75.0 68.4 67.9 69.8 71.3 46.2 74.6 64.9 74.6 同僚との信頼感が弱い(注1) 70.1 73.7 73.3 上司との信頼感が弱い(注1) 82.6 72.9 80.9 68.7 体調が悪い場合でも出社する 66.2 80 72.4 65.3 年次有給休暇の取得が平均(男性4 日、女性6日)未満 71.9 (%) 100 68.8 職場でたばこの臭いや煙を不快に感じ ることがある 72.8 60 [女性] 40 65.5 【生活状況】 20 0 0 20 [男性] 40 60 (%) 80 62.5 73.5 睡眠時間が平均(男女とも6時間) 未満 65.6 73.7 運動が月1回未満 月経痛が重い(注2) - 過去1年間に生理休暇を取得した (注2) - 未婚 71.4 68.9 単身世帯 70.8 67.8 該当 非該当 注1:上司と同僚は「どれくらい気軽に話ができますか」「あなたが困ったとき、どのくらい頼りになりますか」「あなたの個人的な問 題を相談したら、どのくらいきいてくれますか」について、それぞれ「非常に」~「全くない」の4段階で回答を得た。回答を4 ~1点に得点化し、合計得点を信頼感の得点とし、平均得点以下を「信頼感が弱い」とした。クロンバックのα係数は、男 性の同僚との関係(0.753)を除き0.8以上である。 注2:対象は45歳未満の女性 注3:フィッシャーの直接法による検定の結果、*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001 12 LifeDesign REPORT 2008.1-2 (%) 100 80 70.0 上司の性別が男性 69.6 ** [男性] 40 60 通勤時間と勤務時間の合計が平均(男 性11時間48分、女性10時間45分)以上 66.9 * 20 管理職(回答者が課長相当以上) 74.0 * 0 0 100 REPORT その結果、女性では、「通勤時間と勤務時間の合計が平均(10時間45分、以下同)以 上」「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」「上司との信頼感が弱い」 「同僚との信頼感が弱い」 「月経痛が重い」人で、そうでない人と比べてストレスを感 じると回答した割合が高い。 一方、男性では、該当人数が十分でない項目もあるためか統計的な差はみられない が、「体調が悪い場合でも出社する」、「上司との信頼感が弱い」「同僚との信頼感が弱 い」人でストレスを感じる割合が高い傾向がみられる。同じ職場でも、男女で就業状 況や生活状況の項目とストレスとの関連に差がみられる。 次に、仕事や職業生活によるストレスの有無と統計的に有意な関連がみられた複数 の項目がどの程度ストレスの要因となっているかを明らかにするために、ロジスティ ック回帰分析を行った。 分析の結果、女性全体では、「通勤時間と勤務時間の合計が平均以上」で平均未満の 2.1倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」人で感じることがない 人の2.9倍、 「上司との信頼感が弱い」人で強い人の2.4倍、ストレスを感じることが明 らかとなった(図表13)。 さらに、45歳未満の女性で月経痛の程度も含めて分析すると、「通勤時間と勤務時間 の合計が平均以上」で平均未満の1.9倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じるこ とがある」人で感じることがない人の3.0倍、「上司との信頼感が弱い」人で強い人の 2.3倍、ストレスを感じることが示された。統計的に有意とまではいえないが、「月経 痛が重い」人でも、重くない人に比べて1.8倍、ストレスを感じる傾向がみられる。 図表13 ストレスを感じる程度を高める要因(女性のみ) 女性全体(n=355) 通勤時間と勤務時間の合計が平均以上 職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある 上司との信頼感が弱い オッズ比 2.054 2.931 2.384 P値 0.006 0.020 0.001 ** * ** オッズ比 1.885 2.972 2.334 1.781 P値 0.036 0.032 0.003 0.081 * * ** + 45歳未満の女性(n=278) 通勤時間と勤務時間の合計が平均以上 職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある 上司との信頼感が弱い 月経痛が重い 注1:ロジスティック回帰分析(強制投入法)による検定の結果、+=p<0.1、*=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001 従属変数はストレスを感じる程度(感じる=1) 注2:各項目間の相関を検討した結果、「上司との信頼感が弱い」と「同僚との信頼感が弱い」で相関が高いことから、 「同僚との信頼感が弱い」を除き、「上司との信頼感が弱い」を用いた。 LifeDesign REPORT 2008.1-2 13 REPORT 5.まとめと考察 (1)働く女性の健康上の心配への対応 フルタイムで働く人の健康について心配なことは、男女共に、 「視力の低下」や「体 力の低下」に加えて、「ストレス」をあげる割合が高い。「ストレス」を心配なことと してあげている割合は、女性で 45.6%、男性で 40.0%を占める。また、女性の健康上 の心配の上位を占める「首や肩のこり」 「視力の低下」は、いずれも「ストレス」と関 連している。 女性特有の月経痛への対応として、労働基準法では生理休暇が設けられているが、 現状としては、薬が効かないほど月経痛が重いと答えた女性でも、生理休暇の取得は3 割未満と低く、市販薬で対応している女性が約4割、産婦人科の受診は3割強にとど まっている。生理休暇の取得が進まない理由として、生理休暇の取得のしづらさを約4 割の女性があげており、生理休暇の代わりに年次有給休暇を使用する女性も約4人に 1人みられる。 これまで、月経痛をはじめとして女性特有の健康問題について、 「きめ細かく相談に のってくれるような場が、職場にも医療機関にも、ほとんどない」(郷久 1999)とい われてきた。今回の調査でも、月経痛が重いと回答した女性で「産業医等健康管理部 門に相談した」割合は7.6%と少ない。女性にとって婦人科の診察への抵抗感は高いこ とからも(下開 2006b)、必要に応じて受診の機会を設けることを積極的に指導すると ともに、医療機関を受診しやすい職場環境を整備するよう努めることが求められるだ ろう。 (2)働く女性のストレスの軽減 働く女性と同じ職場で働く男性との比較調査から、仕事や職業生活でストレスを感 じている割合は、男性よりも女性でやや高い傾向にあった。 仕事によるストレスと関連している項目は、女性で「通勤時間と勤務時間の合計が 平均以上」「職場でたばこの臭いや煙を不快に感じることがある」「上司との信頼感が 弱い」「同僚との信頼感が弱い」「月経痛が重い」と、職場環境や女性特有の身体的理 由がある場合にストレスを感じる割合が高くなっていた。同じ職場であっても、男性 に比べて女性の方がこれら就業状況によるストレスを受けやすいようだ。 これらのストレスと関連がみられた項目の中でも、 「通勤時間と勤務時間の合計が平 均以上」では、そうでない場合に比べて2.1倍、「職場でたばこの臭いや煙を不快に感 じることがある」場合には、ない場合の2.9倍、「上司との信頼感が弱い」場合には、 信頼感が強い場合と比較して2.4倍、ストレスを感じることがわかった。 以上から、働く女性にとってストレスを感じない環境を作るためには、長時間にな らない働き方、分煙あるいは禁煙の徹底など、労働環境の整備が必要であると考えら 14 LifeDesign REPORT 2008.1-2 REPORT れる。 また、上司の性別にかかわらず、職場の上司や同僚との信頼感が弱い場合には、ス トレスを感じる割合が高い。職場での人間関係がドライになっているといわれる今日 であるが、上司や同僚との信頼感を築くことは、働く女性にとって、ストレスなく働 くための重要なポイントといえるだろう。 男性と同じ職場環境の中、女性は様々な要因からストレスを感じており、職場での ストレス軽減に向けた取り組みが求められる。 (研究開発室 副主任研究員) 【謝辞】 調査にご協力いただきました日本ヒーブ協議会関係者の皆様にお礼申し上げます。 【参考文献】 ・厚生労働省,2004,『平成14年労働者健康状況調査報告』. ・郷久鉞二,1999,「働く女性のストレスと健康」『教育と医学』47(8):636-644. ・下開千春,2006a,「女性の病気と検診受診の実態」『Life Design Report』2006 年7-8月号:24-31. ・下開千春,2006b, 「『女性の病気』に対する不安とその要因」『Life Design Report』 2006年9-10月号:16-27. ・女性労働協会,2004,『働く女性の健康に関する実態調査結果』. ・殿村琴子,2007,「出生率の鍵を握る30代女性の出生力」『Life Design Report』 2007年3-4月号:32-34. ・堀口雅子,2002,「働く女性の健康と母性保護」『へるす出版生活教育』46(7): 9-12. ・山崎喜比古,2007,「健康・社会・生き方」『生き方としての健康科学』有信堂: 1-14. 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