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旅客船さんふらわあにしき岸壁衝突事件

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旅客船さんふらわあにしき岸壁衝突事件
公益財団法⼈
海難審判・船舶事故調査協会
平成 21 年神審第 19 号
旅客船さんふらわあにしき岸壁衝突事件
言 渡 年 月 日
平成 21 年 11 月 20 日
審
判
所
神戸地方海難審判所(竹内伸二)
理
事
官
鎌倉保男
受
審
人
A
名
さんふらわあにしき船長
職
海 技 免 許
補
佐
損
二級海技士(航海)
人
a
害
さんふらわあにしき・・・左舷後部外板に凹損を
ふ頭・・・・・・・・・・岸壁西端付近に欠損等
原
因
直ちに後退を中止して、ふ頭から離れる措置がとられず、風下に圧流されなが
ら後退を続けたこと
主
文
理
由
受審人Aを戒告する。
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 21 年 1 月 12 日 08 時 23 分
阪神港大阪区第 4 区南港外港
2
船舶の要目
船
種 船
名
旅客船さんふらわあにしき
総
ト ン
数
9,711 トン
長
150.88 メートル
機 関 の 種 類
ディーゼル機関
全
出
3
力
18,534 キロワット
事実の経過
(1) 設備及び性能等
さんふらわあにしき(以下「さ号」という。)は,平成 4 年 9 月に進水し,最大搭載人員が
997 人の船首船橋型旅客船兼自動車航送船で,2 機 2 軸及び 2 舵を有し,推力 15.8 トンのサ
イドスラスターを船首尾に装備していた。
操舵室は,船首端から 21 メートル後方に位置し,中央に操舵スタンド,その左舷側にレー
ダー2 台,同右舷側にエンジンコンソールがそれぞれ配置され,左右ウイングは操舵室の一
部として窓で囲まれ,各舷の窓の近くにサイドスラスターの操縦スタンドが設置されていた。
また,操舵室中央部前面窓の下方にGPSプロッター及び船舶自動識別装置が,同上方に
時計,主機回転計,風向風速指示器,サイドスラスター翼角指示器及び船速指示器などがそ
れぞれ設置されていた。
推進器は,最大翼角が 32.6 度の可変ピッチ式で,通常航海時には回転数毎分 170 翼角 30
度とし,スタンバイ時は同 140 で翼角が 5.9 度ないし 17.5 度であった。
- 1 -
速力基準は,航海速力 22.2 ノット,港内全速力 12.0 ノット,半速力 8.0 ノット,微速力
6.0 ノット及び極微速力 5.0 ノットとなっており,最短停止距離が 1,288 メートルで,船体
停止までの所要時間は 3 分 8 秒であった。
旋回性能は,右旋回が最大横距 646.5 メートル最大縦距 501 メートルで,左旋回がそれぞ
れ 608.5 メートル及び 491 メートルであった。
操舵室のある航海船橋甲板は,喫水線上約 19 メートルで,
その下に 4 層の甲板が設けられ,
下方の 2 甲板が車輌を搭載する全通甲板で,いずれも喫水線上にあり,喫水 4.70 メートルに
おける水面上の船体側面投影面積が 2,768 平方メートルで,水面下の同面積の約 4.2 倍にあ
たり,風圧の影響を受けやすく,運航基準に定められた,入港を中止する風速 18 メートル毎
秒(以下「毎秒」を省略する。)の風を正横方向から受けるときの風圧力は約 66 トンであっ
た。
(2) 南港外港における着岸操船
阪神港大阪区第 4 区の南港は,北ふ頭,中ふ頭及び南ふ頭に囲まれた外港と,南ふ頭東側
の内港とに分かれ,さ号の係留場所は,北ふ頭R岸壁の最も内側に位置するR5 岸壁で,ラ
ンプウエイ設備の関係から,出船右舷着けで係留する必要があり,そのため,さ号は,着岸
前に反転しなければならなかった。
A受審人は,大阪南港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。
)を通過したらすぐに
左転して中ふ頭ライナーふ頭西端に向け進行し,同ふ頭まで 4 ケーブルとなったとき右回頭
を始め,ほぼ南南西に向首した後水路幅 350 メートルのR岸壁と同ふ頭との間を約 1,000 メ
ートル後退して同岸壁に着岸することとしていた。
(3) 本件発生に至る経緯
さ号は,阪神港大阪区と大分県大分港との間の定期航路に就航し,A受審人ほか 33 人が乗
り組み,旅客 27 人及び車輌 16 台を乗せ,平成 21 年 1 月 11 日 16 時 00 分大分港を発し,途
中,愛媛県の松山港と今治港に寄せ,翌 12 日 05 時 40 分阪神港神戸区六甲アイランドのフェ
リーターミナルに入港した後,旅客 80 人及び車輌 14 台を乗せ,船首 4.60 メートル船尾 4.80
メートルの喫水をもって,06 時 33 分同ターミナルを発し,同港大阪区第 4 区の南港に向か
った。
これより先A受審人は,大分港を発航する際に気象情報を検討し,発航後季節風が強まり,
翌朝南港に入港するころには,風速約 10 メートルの風が吹き,最大風速が 13 メートルに達
すると予想し,サイドスラスターを使用して着岸することができる限界風速を横風 13 メート
ルと考えていたので,代理店を通じ,
操船支援のため 2,600 馬力以上の引船 1 隻を手配した。
六甲アイランドを出航後A受審人は,入港時間調整のため港外で漂泊していたとき,南港
代理店に電話連絡して,R5 岸壁付近では風速 8 メートルの西風が吹いていることを知り,
三等航海士をテレグラフ操作に,甲板手を手動操舵に就けて自ら操船の指揮をとり,07 時 52
分航行を再開した。
その後A受審人は,阪神港大阪区を航行中,係留予定のR5 岸壁を出航した僚船のさんふ
らわあこばるとから,南港外港における風速が 13 メートルであるとの情報を得て,少し風が
強いものの引船を使用すれば安全に着岸することができると判断し,船首に一等航海士ほか
甲板部員 3 人を配置して投錨用意をさせ,船尾には甲板部員 2 人を配置に就け,二等航海士
については,R岸壁の手前で右回頭を終えてから船尾配置に赴かせることとし,それまで操
舵室で見張りにあたらせた。
08 時 12 分A受審人は,北防波堤灯台を左舷側 200 メートルに通過して港内全速力前進か
- 2 -
ら微速力前進に減速するとともに左転し,間もなく待機していた引船のタグラインを左舷船
尾に取ったが,同引船が出力 3,400 馬力のディーゼル機関を備え,前進えい航力 43 トンであ
ることを知らないまま,2,600 馬力の引船と思い,トランシーバーで右に回頭する旨を告げ
て着岸支援作業に就かせた。
A受審人は,操舵室のほぼ中央で操船にあたったが,その後急速に風が強まり,08 時 15
分北防波堤灯台から 093 度(真方位,以下同じ。
)480 メートルの地点で 093 度に向首したと
き,風向風速指示器を見て風速 15 メートルを超える強風となったことを知り,レーダーを見
ていた二等航海士からライナーふ頭西端まで 4 ケーブルとなった旨の報告を受けたので,左
舷主機を半速力前進,右舷主機を半速力後進にかけるとともに,右舷側ウイングに移動し,
サイドスラスターを使用して右回頭を開始した。
A受審人は,サイドスラスター操縦場所から風向風速を確認できないので,三等航海士に
風向風速を報告するように指示し,そのころ係留場所に隣接するR4 岸壁に係留船舶があり,
R岸壁寄りに後退することが困難な状況であった。
08 時 17 分A受審人は,北防波堤灯台から 110 度 580 メートルの地点で船尾からライナー
ふ頭西端まで 400 メートルとなったとき,215 度に向首して右回頭を終え,両舷主機を半速
力後進にかけるとともに,甲板手に左右の舵をV字形とする操舵を命じ,R5 岸壁に向けゆ
っくり後退を開始したが,強い西風のため船位が通常より少し南に寄っていた。
A受審人は,R岸壁を見て船位を把握していたが,後退を始めて間もなく,船尾が風上に
切り上がるのを認めたので,船首尾のサイドスラスターを使用するとともに引船に対し左舷
側に引くよう指示して船尾をR5 岸壁に向けたところ,更に南寄りとなり,その後サイドス
ラスターと引船を使用して風下への圧流に抗しつつ船体の姿勢を制御し,ほぼ 210 度に向首
して徐々に速力を増しながら後退したものの,強い西風により少しずつライナーふ頭側に圧
流された。
08 時 21 分少し前A受審人は,北防波堤灯台から 090 度 820 メートルの地点で,船尾がラ
イナーふ頭西端まで 100 メートルに近づき,ゆっくり後退していたとき,三等航海士からの
報告で,風速が入港中止基準の 18 メートルを超え,最大風速が 22 メートルとなっているこ
とを知り,このまま後退を続ければ,強風のため更にライナーふ頭側に寄せられて衝突する
おそれがあったが,R岸壁の内側に入れば風圧の影響が弱まるものと思い,直ちに後退を中
止して同ふ頭から離れる措置をとらず,船首尾のサイドスラスターと引船を使用しながら後
退を続けた。
08 時 21 分半A受審人は,北防波堤灯台から 088 度 890 メートルの地点で,船尾がライナ
ーふ頭西端から 30 メートル内側で同ふ頭まで 50 メートルに接近し,3.0 ノットの速力(対
地速力,以下同じ。)となったとき,依然風速 18 メートルを超える西風が吹き続け,その風
圧力に対抗することができず,船尾配置の乗組員から船尾が急速にライナーふ頭に接近する
旨の報告を受けて着岸を断念し,このことを引船に連絡しないまま,同ふ頭から離れるため
サイドスラスターを使用するとともに両舷主機を全速力前進にかけて後退を中止したが,そ
のころ左舷船尾を押していた引船が,同ふ頭との間に挟まれる状況となり,A受審人に連絡
しないまま,船尾に回って船尾方向に強く引いたところ,タグラインが切断した。
さ号は,急速に風下に圧流されてライナーふ頭に接近し,
間もなく前進の行きあしとなり,
229 度に向首し低速力で進行中,08 時 23 分北防波堤灯台から 085 度 1,010 メートルの地点に
おいて,左舷後部がライナーふ頭L4 岸壁西端付近にほぼ平行状態で衝突した。
当時,天候は曇で風力 8 の西風が吹き,潮候はほぼ高潮時にあたり,大阪市には風雪・雷・
- 3 -
波浪注意報が発表されていた。
間もなくさ号は,
ライナーふ頭を離れ,大阪区第 5 区に錨泊して風が弱まるのを待った後,
13 時 28 分引船 2 隻を使用してR5 岸壁に着岸した。
衝突の結果,船尾端から約 40 メートル前方の左舷後部外板に深さ約 40 センチメートルに
及ぶ凹損を生じ,また,ライナーふ頭L4 岸壁西端付近に欠損等を生じたが,のちいずれも
修理された。
(原因及び受審人の行為)
本件岸壁衝突は,強い西風が吹く阪神港大阪区第 4 区の南港外港において,R岸壁の内側に
出船係留で着岸するため,機関を後進にかけてサイドスラスターと引船を使用しながら係留場所
に向け後退中,急速に風が強くなって同岸壁向い側のライナーふ頭側に寄せられる状況となった
際,直ちに後退を中止して同ふ頭から離れる措置がとられず,風下に圧流されながら後退を続け
たことによって発生したものである。
A受審人は,強い西風が吹く阪神港大阪区第 4 区の南港外港において,R岸壁の内側に出船
係留で着岸するため,機関を後進にかけ,サイドスラスターと引船を使用するものの,強い西風
によりライナーふ頭側に圧流されながら係留場所に向け後退中,急速に風が強まり,入港中止基
準を超える強風となった場合,同ふ頭に衝突しないよう直ちに後退を中止すべき注意義務があっ
た。しかし,同人は,R岸壁の内側に入れば風圧の影響が弱まるものと思い,直ちに後退を中止
して同ふ頭から離れる措置をとらなかった職務上の過失により,風下に圧流されてライナーふ頭
L4 岸壁との衝突を招き,左舷後部外板に凹損を生じさせるとともに,同岸壁を損傷させるに至
った。
以上のA受審人の行為に対しては,海難審判法第 3 条の規定により,同法第 4 条第 1 項第 3
号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
- 4 -
参
考 図
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