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博士論文 新人看護師のリアリティショックに関する研究 2015 年 9 月

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博士論文 新人看護師のリアリティショックに関する研究 2015 年 9 月
博士論文
新人看護師のリアリティショックに関する研究
2015 年 9 月
広島大学大学院総合科学研究科
総合科学専攻
岡本
響子
目
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第 1章
序 論 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2
1-1
看護師をとりまく状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1-1-1
不足する看護師・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1-1-2
高度医療と看護の現場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1-2
看護基礎教育と新人教育の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-2-1
看護基礎教育の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1-2-2
新人教育の現状と早期離職・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1-2-3
新人看護師を抱えた臨床の現状・・・・・・・・・・・・・・・6
1-3
現在の若者のストレス脆弱性と個人要因・・・・・・・・・・・・・7
1-3-1
新人看護師の精神的な未熟さや弱さ・・・・・・・・・・・・・7
1-3-2
新人看護師とソーシャルスキル・・・・・・・・・・・・・・・8
1-4 新 人 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9
1-4-1
最終学年時における看護学生の認識・・・・・・・・・・・・・9
1-4-2
新 人 看 護 師 と リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 10
1-4-3
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 測 定 尺 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11
1-4-4
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 経 時 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 13
1-5
新 人 看 護 師 の 対 処 行 動 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
1-6
新 人 看 護 師 の バ ー ン ア ウ ト ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 14
1-6-1
バ ー ン ア ウ ト の 概 念 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 15
1-6-2
バ ー ン ア ウ ト の プ ロ セ ス モ デ ル ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 15
1-6-3
ヒ ュ ー マ ン サ ー ビ ス 業 と し て の 看 護 師 に お け る バ ー ン ア ウ ト・・17
1-6-4
新 人 看 護 師 と バ ー ン ア ウ ト ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 18
1-6-5
バ ー ン ア ウ ト が リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 認 知 に 与 え る 影 響・・・・19
1-7
先 行 研 究 の 問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 20
1-7-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 測 定 す る 尺 度 の 問 題 ・・・・・ ・・・・・ 21
1-7-2
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 規 定 す る 要 因 の 問 題 ・・・・・ ・・・・・ 22
1-7-3
ス ト レ ス 反 応 を バ ー ン ア ウ ト 尺 度 で 測 定 す る 理 由 ・・・・・・・ 22
1-8
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 関 す る モ デ ル の 提 唱 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 23
1-9
本 研 究 の 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 25
第 1 章 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 27
第 2章
研究 1
1.
リアリティショックを測定する尺度の開発
問題
1-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 測 定 す る 尺 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 28
2.
研 究 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
3.
研 究 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
3-1
調 査 協 力 者 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 29
3-2
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 作 成 の た め の 予 備 検 討 ・・・・・ ・・・・・ 29
3-3
質 問 紙 の 構 成 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 30
3-4
手 続 き ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
3-5
分 析 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 33
32
4.
倫 理 的 配 慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
5.
結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
5-1
6.
因 子 の 抽 出 ・ ・ ・・・・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 33
5-1-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 33
5-1-2
バ ー ン ア ウ ト 尺 度 ・ ス ト レ ス 反 応 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 34
5-1-3
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 信 頼 性 ・ 妥 当 性 の 検 討 ・・・・・・・ 37
考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6-1
6-2
42
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 因 子 構 造 に 関 す る 考 察 ・ ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ 42
信 頼 性 と 妥 当 性 の 検 討 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 45
第 2章 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 46
第 3章
研 究 2-1
新人看護師の就職前の状態と就職後の縦断的変化について
問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47
1.
就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 47
2.
研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 48
3.
研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 48
3-1
調 査 対 象 者 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 48
3-2
調 査 項 目 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 48
3-3
調 査 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
3-4
分 析 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
4.
倫 理 的 配 慮 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
5.
結 果 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
6.
5-1
調 査 票 の 回 収 と 対 象 の 属 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 50
5-2
各 尺 度 の 因 子 分 析 と 時 系 列 の 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 51
5-3
各 変 数 の 時 系 列 変 化 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 53
5-3-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 時 系 列 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 53
5-3-2
ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 時 系 列 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 55
5-3-3
対 処 の 時 系 列 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 55
5-3-4
バ ー ン ア ウ ト の 時 系 列 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 56
考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 57
6-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 経 時 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 57
6-2
ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 経 時 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59
6-3
ス ト レ ス 対 処 の 経 時 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59
6-4
バ ー ン ア ウ ト の 経 時 的 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 59
6-5
本 研 究 に お け る サ ン プ ル の 偏 り の 可 能 性 に つ い て ・・・・・・・・・ 61
研 究 2-1 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 61
研 究 2-2
1.
縦断的変化の検討―継続群とドロップアウト群の比較
問 題 と 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
2. 研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
2- 1
研 究 対 象 者 , 調 査 項 目 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
2- 2
調 査 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
2- 3
分 析 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
3.
結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 62
4.
考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 66
研 究 2-2 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 67
第 4章
研究3
実習時のバーンアウトがリアリティショックに与える影響の検討
問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 69
1.
研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 69
2.
研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
2-1
調 査 対 象 者 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
2-2
調 査 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
2-3
分 析 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
3.
倫 理 的 配 慮 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
4.
結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
4-1
相 関 分 析 の 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 70
4-2
重 回 帰 分 析 の 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 73
5.
考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 76
5-1
実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト が リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 与 え る 影 響 ・・・・・76
5-2
実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 後 の バ ー ン ア ウ ト の 関 係 に つ い て・・・77
第 4 章 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 78
第 5章
研究 4
リアリティショックの認知からバーンアウトのプロセスに,スキ
ルと対処が及ぼす影響の検討
問 題 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 79
1.
研 究 目 的 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
2.
研 究 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
2-1
調 査 対 象 者 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
2-2
調 査 項 目 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
2-3
分 析 方 法 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
3.
倫 理 的 配 慮 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 80
4.
結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 81
4-1
基 礎 統 計 量 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 81
4-1-1
各 時 期 に お け る 変 数 間 の 相 関 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 81
4-1-2
1 時 期 前 の バ ー ン ア ウ ト と 各 変 数 の 相 関 ・ ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ 83
4-2
バーンアウトに及ぼすリアリティショック,ソーシャルスキル,対
処 の 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 87
4-2-1
情 緒 的 消 耗 感 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 ・・・・・・・ 87
4-2-2
脱 人 格 化 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 ・・・・・・・・・ 90
4-2-3 個 人 的 達 成 感 の 低 下 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 ・・・・ 96
5.
考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 99
5-1
情 緒 的 消 耗 感 に 及 ぼ す リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク・ス キ ル・対 処 の 影 響・・100
5-2
脱 人 格 化 に 及 ぼ す リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク・ス キ ル・対 処 の 影 響・・・・100
5-3
個人的達成感の低下に及ぼすリアリティショック・スキル・対処
の 影 響 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 102
第 5章 の ま と め ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 102
第 6章
研究5
バーンアウトとリアリティショックのトランスアクショナル的な関
係の検討
問 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 104
1.
研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
2.
研 究 方 法 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
2-1
調 査 対 象 者 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
2-2
調 査 時 期 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
2-3
調 査 項 目 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
2-4
分 析 方 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 105
3.
倫 理 的 配 慮 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 106
4.
結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 106
5.
4-1
指 標 の 妥 当 性 の 検 討 ・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・ 106
4-2
ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン の 結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 108
考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 112
第 6 章 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 113
第 7章
総合考察
1.
本 論 文 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 114
2.
本 論 文 か ら 得 ら れ た 知 見 に 関 す る 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 117
2-1
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 因 子 に つ い て ・・・・・・・・・・・・
・・ 117
2-2
実習時の情緒的消耗感が就職後の看護の実践に関するギャップに長期
に 渡 っ て 影 響 を 及 ぼ す 理 由 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 118
2-3
1年 間 を 通 し て 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 職 場 適 応 に ネ ガ テ
ィ ブ に 影 響 す る 理 由 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 119
3.
理 論 的 貢 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 120
4.
本 論 文 の 応 用 可 能 性 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 121
4-1
教 育 現 場 及 び 臨 床 で の 応 用 可 能 性 ・・・・・・・・・・・・・・
・ 121
4-2
ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 緩 和 に 関 す る 応 用 可 能 性・・ ・122
4-3
トランスアクション・モデルの教育及び臨床現場における
応 用 可 能 性 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 125
5.
今 後 の 検 討 課 題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 126
第 7 章 の ま と め ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 127
本 論 文 の 要 約 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 128
引 用 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 133
Appendix
第1章
はじめに
新卒の専門職者が就職後数か月以内に予期せぬ苦痛や不快さを伴う現実に直
面し,身体的,心理的,社会的なショック症状を表わす状態はリアリティショ
ッ ク と い わ れ , そ の 問 題 性 が 指 摘 さ れ て い る (Kramer, 1974)。 こ の ス ト レ ス 状
態 は 就 職 後 3カ 月 目 が 最 も 高 く , 離 職 願 望 が 生 じ る と い わ れ る (水 田 , 2004)。
新人看護師のストレスの原因としては,臨床現場で必要とされる臨床実践能
力と看護基礎教育で修得する看護実践能力との間に乖離が生じ,その乖離が一
因 で あ る と 指 摘 さ れ て い る (日 本 看 護 協 会 , 2005)。 国 立 大 学 病 院 の 看 護 労 働 実
態調査によると,若年で在職年数が短い看護師は過労気味で,業務量が多すぎ
て あ る い は 複 雑 す ぎ て , ど う し て い い か わ か ら な く な っ た り , ま た 4月 か ら 9月
に イ ン シ デ ン ト や ア ク シ デ ン ト の 経 験 が 多 い と さ れ る (石 川 , 2011)。 こ れ は 新
人看護師からすれば,就職するや否やそれまで受けてきた教育内容のレベルを
はるかに超えた,高度な知識や技術が求められるからである。つまり,自分が
予想した以上に業務量が多く,業務内容が複雑なことで負荷がかかった結果,
慢性疲労や医療事故のリスクが生じていると考えられる。
新人看護師自身も職場に適応しようと懸命に努力をしている。また新人を受
け入れる病院も新人看護師の定着に向けて様々な対策を講じている。それにも
か か わ ら ず , Kramer の 問 題 提 起 か ら 40 年 以 上 経 過 し た 現 在 も 解 決 に は 至 っ て
いない。その理由は,新人看護師の抱いているイメージと実際の職場で求めら
れる現実とのギャップの実態が明らかになっていないからだと考えられる。
本研究では,認知的不整合の視点からリアリティショックとバーンアウトの
関係を明らかにすることを目的とする。この関係が明らかになれば,具体的な
対応策を打ち出すことができ,問題解決に向けた提言が可能になると考えられ
る。
1
第1章
第 1章
序
1-1
論
看護師をとりまく状況
新人看護師の抱える問題を理解するためには,問題が引き起こされる背景で
あ る 日 本 に お け る 医 療 政 策 を 概 観 す る 必 要 が あ る 。 特 に 2006 年 の 医 療 制 度 改
革法や求められている高度医療との関わりの中で,看護師の現状について理解
することは大切である。
1-1-1 不 足 す る 看 護 師
2006年 6月 ,高 齢 者 医 療 制 度 の 創 設 や 医 療 費 を 抑 制 す る た め の 医 療 制 度 改 革 法
が 成 立 し ,診 療 報 酬 に 看 護 師 の 数 が 組 み 込 ま れ る こ と と な っ た 。い わ ゆ る「 7対
1看 護 」の 導 入 で あ る 。そ れ 以 前 か ら 慢 性 的 な 看 護 師 不 足 は 問 題 と さ れ て き た が ,
患者に対する看護師の数が入院基本料として診療報酬に算定されることにより,
看 護 師 の 数 が 病 院 の 経 営 に 大 き く 影 響 す る よ う に な っ た( 服 部 ,2010)。大 学 病
院や公的大病院が高い給与条件で新卒看護師を集めたり,全国の施設から引き
抜きをかけたりしたため,地方の病院や都市部でも中小民間病院から看護師が
流 出 し , 地 域 医 療 の 混 乱 を 招 い て い る ( 日 本 病 院 協 会 , 2008) 。 現 在 も な お そ
の傾向は継続しており,看護師が集まらないために病棟の一部を閉鎖した病院
も あ る ( 東 洋 経 済 オ ン ラ イ ン , 2008; 日 本 看 護 協 会 産 科 病 棟 管 理 者 交 流 集 会 資
料 , 2013a)。 看 護 師 は , 毎 年 新 卒 が 5万 人 弱 就 職 し , 再 就 業 者 の 約 7万 人 と 併 せ
る と 約 12万 人 の 増 加 と な っ て い る も の の , 約 10万 人 が 離 職 し て い る の が 現 状 で
あ る 。 免 許 を 持 ち な が ら も 働 い て い な い 潜 在 看 護 師 も 約 55~ 65万 人 存 在 す る と
推 定 さ れ て い る (日 本 看 護 協 会 ,2011a)。潜 在 看 護 師 が こ れ だ け 存 在 す る の で あ
れば,彼らが再就職すれば看護師不足も解消されることになろう。潜在看護師
の離職理由は出産や育児に伴う退職が最も多いといわれ,子育てがひと段落着
けば再就職は可能と考えられるからである。しかし本当の理由は勤務時間が長
い,超過勤務が多い,夜勤の負担が大きい,責任の重さ・医療事故への不安で
あり,こういった離職理由の改善がなされない限り再就職にはつながっていか
な い (日 本 看 護 協 会 ,2011b)。今 後 超 高 齢 化 社 会 を 迎 え よ う と し て い る 日 本 に お
2
第1章
い て の 看 護 師 不 足 は 大 き な 問 題 と な る 。 2011年 の 看 護 師 数 は 約 150万 人 で あ る
が( 厚 生 労 働 省 第 33回 社 会 保 障 審 議 会 医 療 部 会 資 料 ,2013a),2025年 に は 看 護 師
が 200万 人 必 要 に な る と 予 測 さ れ て お り , 看 護 職 員 の 安 定 的 な 確 保 の た め に は ,
看 護 師 の 養 成 に 加 え て 離 職 防 止 策 の 強 化 が 重 要 と な る と い わ れ て い る (看 護 の
質 向 上 と 確 保 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 ,2009)。と り わ け 団 塊 の 世 代 が 後 期 高 齢 者
に 突 入 す る 2025年 問 題 は 深 刻 で あ る 。 病 院 だ け で は な く 福 祉 施 設 や 介 護 老 人 ホ
ー ム 等 で の 看 護 師 需 要 が 増 す た め , 2025年 を 見 越 し て 看 護 師 の 養 成 を 行 っ て き
た 厚 生 労 働 省 の 推 計 に お い て す ら , 需 要 が 供 給 を 上 回 る と 推 定 さ れ て い る (第
七 次 看 護 職 員 需 要 見 通 し に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2010)。
1-1-2 高 度 医 療 と 看 護 の 現 場
現在の医療は日々高度化が進んでいる。医療現場では,操作や用法を間違え
れば患者の生命に多大な影響を与える医療機器や医薬品の種類は増加の一途を
たどっている。そのため看護職員には,医療機器の確実な操作・管理をしなが
ら,多様な作用を有する多種類の医薬品について,医師の指示に基づき,患者
名・量・時間等を確認し誤りなく与薬し,経過を緻密に観察することが求めら
れている。そればかりか同時に複数の患者を受け持ちながら,多重の課題にも
対 応 し な け れ ば な ら な い (新 人 看 護 職 員 の 臨 床 実 践 能 力 の 向 上 に 関 す る 検 討 会
報 告 書 ,2004)。さ ら に ,平 成 13年 の 保 健 師 助 産 師 看 護 師 法 の 改 正 に よ り 守 秘 義
務が課され,医師と同等の罰則を受けることになるなど,看護職員に求められ
る社会的責任は非常に大きくなっている。
特 に 新 人 が 多 く 就 職 す る 急 性 期 病 院 は「 7 :1 看 護 体 制 」が 実 施 さ れ ,医 療 の
高度化や患者の重症化と高齢化,病態の複雑化,さらに患者の入退院の高速化
と が 相 ま っ て 危 機 的 な 状 況 に あ る 。7対 1看 護 体 制 と い う の は ,1日 当 た り ,一 般
病 棟 に 入 院 し て い る 患 者 7人 に 対 し て 1人 の 看 護 職 員 で 対 応 す る 体 制 を 整 え る こ
と で あ り , 従 来 の 「 10対 1」 看 護 体 制 と 比 較 し て , 看 護 職 員 1人 当 た り の 受 け 持
ち 患 者 数 が 少 な く な り ,よ り 手 厚 く ゆ と り の あ る 看 護 が 可 能 と な る (韓 ,2013)。
し か し 7 対 1 と い っ て も そ れ は 昼 間 の こ と で あ り , 夜 間 は 一 人 の 看 護 師 が 14~
15人 の 患 者 を 担 当 し て お り , 看 護 師 の 業 務 負 担 は 重 く , 患 者 の 安 全 確 保 も 危 う
い。
3
第1章
加 え て ,交 代 制 勤 務 に つ く 看 護 職 の 23人 に 1人( 約 4%)が ,月 60時 間 を 超 え る
超 過 勤 務 を 行 っ て い る 実 態 が 報 告 さ れ て い る 。ま た ,少 な く と も 病 院 看 護 職 2万
人 以 上 が 過 労 死 危 険 レ ベ ル に あ る と 推 計 す る 報 告 も な さ れ て い る (日 本 看 護 協
会 , 2011a)。 さ ら に , 新 人 看 護 師 へ の 指 導 も 任 さ れ て お り , 負 担 は 増 え る ば か
りである。このような中で新人看護師を養成する教育現場との乖離は年々広が
っている現状がある。
1-2
看護基礎教育と新人教育の現状
新人看護師をとりまく状況を考える上で,看護師を養成する教育現場の現状
を概観することは大切である。
1-2-1
看護基礎教育の現状
近年の国民の医療に対する意識は,安全・安心の重視とともに量から質の向
上 を よ り 重 視 す る と い っ た 方 向 へ と 大 き く 転 換 し て き て い る と い わ れ る (看 護
基 礎 教 育 の 在 り 方 に 関 す る 懇 談 会 報 告 書 ,2008)。そ の 一 方 で ,医 療 安 全 の 意 識
の向上や患者の安全の確保が重視されるようになり,臨地実習での学習範囲や
機 会 は 限 定 さ れ る 傾 向 に あ る (看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 ,
2007)。1949 年 に 施 行 さ れ た 保 健 師 助 産 師 看 護 師 学 校 養 成 所 指 定 規 則 を み る と ,
看 護 師 3年 課 程 に お け る 看 護 基 礎 教 育 の 教 育 時 間 数 は , 1989 年 改 正 に よ り , そ
れ ま で の 3,375 時 間 か ら 3,000 時 間 に 減 り , さ ら に 1996 年 の 改 正 で さ ら に
2,895 時 間 と な っ た 。と り わ け 臨 地 実 習 は 1989 年 改 正 で 、そ れ ま で の 1,770 時
間 か ら 1,035 時 間 と 41.5% 減 と な っ た に も 関 わ ら ず , 1996 年 改 正 で 必 修 の 領
域 が 7領 域 に 増 え る な ど ,学 ぶ 内 容 は 逆 に 拡 大 し て い る の が 現 状 で あ る 。 加 え て
教育機関のカリキュラムと日々進歩している臨床現場での看護ケアには時間的
な乖離があり,臨床の状況をすぐにカリキュラムに反映させることは困難な現
状 が あ る (谷 口 ・ 山 田 ・ 内 藤 ・ 内 海 ・ 任 , 2014)。
その上,せっかく医療現場に出られたとしても,国民の医療安全への意識が
高まる中,学生の臨地実習場面における技術提供の範囲や機会が限定されるこ
とが多くなっている。厚生労働省は「臨地実習において学生が行う基本的な看
護技術の水準」として,卒業までに身につけておくべき看護技術項目のガイド
4
第1章
ラ イ ン を 設 け て い る( 看 護 教 育 の 在 り 方 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 ,2008)。野 口・
當 目・金 正・竹 内・小 笠( 2011)は 300床 以 上 の 複 数 の 総 合 病 院 の 新 人 看 護 師 を
対象にこのガイドラインに基づいて調査した結果,「採用時すでに一人ででき
る 」 と 回 答 し た 技 術 が 1 つ も な い 者 は 53名 (57.6% )と 半 数 以 上 も い た こ と を 報
告している。先行研究から新人看護師は卒業時に一人でできる看護技術が少な
く , 自 信 が も て な い ま ま 不 安 の な か で 業 務 を 行 っ て い る 現 状 (看 護 基 礎 教 育 の
充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2007) が 伝 わ っ て く る 。
1-2-2
新人教育の現状と早期離職
2010年 4月 ,早 期 離 職 防 止 や 医 療 安 全 ,看 護 の 質 向 上 の 観 点 か ら ,新 人 看 護 職
員 の 卒 後 臨 床 研 修 が 努 力 義 務 化 さ れ た 。 ガ イ ド ラ イ ン で は ,看 護 基 礎 教 育 で は
学習することが困難な,医療チームの中で複数の患者を受け持ち,多重課題を
抱えながら,看護を安全に提供するための臨床実践能力を強化することに主眼
を 置 く こ と が 明 記 さ れ た 。 ま た 所 属 部 署 の 直 接 の 指 導 者 だ け で は な く ,部 署 ス
タ ッ フ 全 員 が 新 人 を 見 守 り ,メ ン タ ル 面 も 含 め 幾 重 も の サ ポ ー ト 体 制 を 組 織 と
し て 構 築 す る こ と が 重 要 で あ る と 述 べ ら れ て い る (新 人 看 護 職 員 研 修 ガ イ ド ラ
イ ン , 2014a)。
卒後研修努力義務化の効果もあり,日本看護協会が毎年行う調査において,
新 人 看 護 師 の 離 職 率 は 2008 年 か ら 4 年 連 続 で 減 少 し て い る
(日 本 看 護 協 会 ,
2013b)。 2012年 の 離 職 率 は , 7.5%で あ り , 計 算 式 は 異 な る も の の 新 規 大 卒 者 の
離 職 率 7.4% (1000人 以 上 事 業 所 ) ~ 11.2%( 500人 ~ 999人 の 事 業 所 )と 比 較 し
て,ほぼ同程度かやや低いレベルだといえる(厚生労働省新規学卒者の事業所
規 模 別 ・ 産 業 別 離 職 状 況 , 2013b) 。 し か し 病 院 に お け る 看 護 師 の 離 職 の 問 題
は,それ以外の施設や企業の問題とは本質的に異なる。病院では雇用し配置す
べき看護師の数が「診療報酬上の看護配置基準」として公的に設定されている
からである。従って看護師が減るということは配置基準が維持できなくなるた
め 病 院 に と っ て は 死 活 問 題 と な る 。看 護 師 と し て 働 く た め に は ,3年 以 上 の 看 護
基 礎 教 育 を 修 了 し ,国 家 試 験 に 合 格 し な け れ ば な ら な い 。し か も ,1年 近 く に 及
ぶ 臨 地 実 習 で は 内 科 ,外 科 ,精 神 科 ,産 科 等 々 あ ら ゆ る 診 療 科 の 実 習 を 経 験 し ,
看護の仕事がどういうものかも学んでいる。このように長い期間と多大な努力
5
第1章
を通してようやく手に入れた仕事を容易に手放すというのは異常な事態ともい
える。
そ の 一 方 で ,新 人 看 護 師 が そ れ ま で 育 っ た 看 護 基 礎 教 育 の 環 境 か ら 一 変 し て ,
臨床という複雑な場面に慣れ,一人前の看護師になるまでには時間を要すると
の意見もある。現実には離職の決意には至らないものの,多くの看護師が看護
技 術 に ス ト レ ス を 感 じ て い る と の 指 摘 (野 口 他 , 2011) や , 学 生 時 代 に 受 け て
い た 病 院 奨 学 金 に 縛 ら れ 辞 め た く て も 辞 め ら れ な い と い う 現 状 ( 富 永 , 2013)
も指摘されている。
病院奨学金制度とは,それぞれの病院が独自に奨学金額を決定し,学生個人
と貸与の契約を結ぶシステムで,一定期間その病院で働けば免除される仕組み
に な っ て い る 。多 く の 病 院 は 看 護 師 獲 得 の た め に こ の シ ス テ ム を 採 用 し て お り ,
また卒業までに多額の学費を必要とする看護学生にとっての貴重な救済策とし
て 定 着 し て い る 。 富 永 (2013)は , 某 県 の 全 病 院 の 全 新 卒 看 護 師 を 対 象 と し て ,
「 離 職 意 向 (辞 め た い )」 と 「 離 職 の 決 意 (辞 め る )」 に つ い て そ れ ぞ れ 独 立 し
て 要 因 を 検 討 し た 。そ の 結 果 ,「 離 職 の 決 意 (辞 め る )」を し た も の は ,「 奨 学
金 を 利 用 し て い な い 」も の が 利 用 し て い る も の に 比 べ 3.23 倍 も 多 い こ と か ら ,
奨学金に縛られて辞めたくても辞められない現実を指摘している。病院奨学金
が 切 れ た 就 職 3年 後 に 大 量 離 職 が あ っ た と の 報 道 も あ り (北 海 道 新 聞 , 2013年 3
月),離職率については長期間の調査が必要であると考えられる。
1-2-3
新人看護師を抱えた臨床の現状
「 7:1 看 護 」移 行 後 の 国 立 大 学 病 院 の 看 護 労 働 の 実 態 調 査 ( 全 国 大 学 高 専
教 職 員 組 合 病 院 協 議 会 ,2009)に よ る と ,若 年 で 在 職 年 数 が 短 い 新 人・未 熟 練・
半熟練の看護師は過労気味であること,業務量が多すぎて,あるいは複雑すぎ
てどうしていいかわからなくなる傾向にあることが報告されている。最近の調
査 で も , 仕 事 上 の ミ ス や ニ ア ミ ス を 若 年 層 の 90%以 上 が 体 験 し て い る ( 日 本 医
療 労 働 組 合 連 合 会 , 2014) 。
2009 年 に 実 施 さ れ た 日 本 看 護 協 会 の 実 態 調 査 (2010) で は ,看 護 師 の 悩 み や
不 満 の ト ッ プ は 共 通 し て「 医 療 事 故 を 起 こ さ な い か 不 安 」で あ っ た 。20 代 で は
医 療 事 故 へ の 不 安 を 挙 げ た 人 が 全 体 の 80% 以 上 で あ っ た の に 対 し て , 30 代 以
6
第1章
上 で は「 新 人 指 導 や 委 員 会 参 加 な ど 求 め ら れ る 役 割 が 多 い 」
「看護業務以外の雑
務が多い」が上位にあがってきている。新人看護職員研修を担う教育担当者を
対象として活動を困難にする要素を調査した研究では,教育担当者はスタッフ
に対し,
「教育の考え方や計画が伝わらない」
「スタッフの教育能力の不足」
「研
修を支えるシステムの整備不足」などの困難さを感じていることが報告されて
い る (嶋 澤 ・ 宮 本 ・ 末 永 ・ 安 藤 ・ 坂 本 ,2013)。こ れ ら の 調 査 か ら は ,若 手 を 育
成している余裕がない医療現場の現状と,その中で若年層が医療事故と背中合
わせで働いている現状が浮かび上がってくる。
1-3
現在の若者のストレス脆弱性と個人要因
新人看護師も近年の若者同様,基本的な生活能力や常識,学力が変化してき
ていると同時に,コミュニケーション能力が不足している傾向にあることが指
摘 さ れ て い る (看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2007)。 新 人 看 護
師の状況を考える上でその実態を明らかにすることは大切である。
1-3-1
新人看護師の精神的な未熟さや弱さ
日 本 看 護 協 会 ( 2005) に よ る 早 期 離 職 実 態 調 査 に よ る と , 職 場 定 着 を 困 難 に
し て い る 要 因 の 第 1位 は 基 礎 教 育 終 了 時 点 の 能 力 と 看 護 現 場 で 求 め る 能 力 と の
ギ ャ ッ プ で あ り , 調 査 対 象 病 院 の 76.2% ( 複 数 回 答 ) が 挙 げ て い た 。 そ し て 現
代 の 若 者 の 精 神 的 な 未 熟 さ や 弱 さ が 第 2 位 で , 割 合 も 72.6 % と 高 い も の で あ っ
た 。 同 じ く 日 本 看 護 協 会 が 全 国 の 病 院 に 対 し て 実 施 し た 「 2011年 病 院 看 護 実 態
調査」
( 2012a)で は ,2010年 度 に 1カ 月 以 上 の 長 期 病 気 休 暇 を 取 得 し た 常 勤 看 護
職 員 の う ち , 約 3分 の 1が メ ン タ ル 不 調 に よ る も の で , 中 で も 20歳 代 に 高 い 傾 向
がみられることを挙げている。
現 在 の 若 者 の 傾 向 と し て 鈴 木 (2011) は , 一 部 の 新 人 ・ 若 手 に は 以 前 と は 異
なり,基本的な生活リズムができていない,挨拶ができない,場の空気が読め
ない,感じたことを言語化できない,集団に溶け込めずチームプレイが苦手,
プライドが高いのにすぐ落ち込む,といった未熟さがみられることを指摘して
いる。
厚 生 労 働 省 に よ る 「 看 護 教 育 の 内 容 と 方 法 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 」( 2011a)
7
第1章
では,看護学生は生活体験が少ないが故に教員の丁寧なかかわりが必要である
が,その一方で丁寧なかかわりが学生の主体性や自立性を育ちにくくするとい
っ た 問 題 点 が あ る こ と を 指 摘 し て い る 。叶 谷( 2005)は ,入 職 1年 以 内 に 離 職 し
た新人看護師のうち,精神的な健康上の理由による離職者が増加する傾向にあ
る と 答 え た 病 院 が ,新 人 看 護 師 の 就 職 の 多 い 特 定 機 能 病 院 (高 度 な 医 療 を 開 発 ,
医 療 技 術 を 提 供 ,医 療 研 修 を 行 う 病 院 ) の 半 数 以 上 に 上 る こ と を 報 告 し て い る 。
また大学病院に勤務した新人看護師を対象とした追跡調査においても,自分の
言いたいことが言えないとか,気持ちを話せる相手がいないといったアサーテ
ィ ブ 得 点 が 低 い 者 は ,バ ー ン ア ウ ト 発 症 率 が 高 い こ と が 明 ら か に な っ て い る( 糸
嶺 ・ 鈴 木 ・ 叶 谷 ・ 佐 藤 , 2006 ; Suzuki, Saito, Tagawa, Mihara, Maruyama,
Azuma et.al.,2009)。さ ら に 新 人 看 護 師 自 身 も 精 神 的 未 熟 さ や 弱 さ を 自 覚 し て
い る (宮 澤 ・ 松 本 , 2008)。
このように,新人看護師の職場定着には精神面に対する支援が必要であるこ
とが示唆される。また日常業務においても,自分の意見を述べる場を設け,意
識 的 に 質 問 力 を 育 成 す る 仕 組 み が 求 め ら れ る (鈴 木 , 2011)。
1-3-2
新人看護師とソーシャルスキル
新人看護師は,医療技術に加え対人関係スキルの未熟さゆえに,チームとし
ての活動や患者とのコミュニケーションが苦手である。そのため,医療従事者
として必要なソーシャルスキルを獲得することが課題となる。
ソーシャルスキルとは対人場面において相手に適切かつ効果的に反応するた
め に 用 い ら れ る 言 語 的 ,非 言 語 的 な 対 人 行 動 を 指 す (相 川 ,2011)。ソ ー シ ャ ル
ス キ ル は ,新 人 看 護 師 が 就 職 し た 場 で ,ス タ ッ フ や 患 者 ・ 家 族 と 交 わ り ,と も に
働 き 看 護 を す る た め に 必 要 な 能 力 と い え る 。 な ぜ な ら ,看 護 は 患 者 と 看 護 師 の
対 人 関 係 を 基 盤 に 行 わ れ る た め , 看 護 師 が 提 供 す る 看 護 ケ ア の 有 効 性 に は ,患
者と看護師との間で作り上げられる対人関係が大きく影響するからである
(Peplau,1952) 。さ ら に 医 療 チ ー ム の 一 員 と し て の 役 割 を 全 う し ,円 滑 な 情 報
交換や適切な治療に結びつけるためにも,個人のソーシャルスキルの高さは非
常 に 重 要 に な る 。 ま た ,仕 事 で し ん ど い 状 況 に あ っ て も ,友 人 や 親 と い っ た ソ ー
シ ャ ル ネ ッ ト ワ ー ク が あ る こ と で ,心 理 的 な サ ポ ー ト を 得 ら れ る こ と も あ る 。
8
第1章
一方で新人看護師はソーシャルスキルが不足していることが問題視されている
(看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2007;高 島・樋 之 津・小 池・箭 野・
鈴 木 ・ 赤 澤 , 2004; 山 本 , 2009) 。
ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 低 さ は 早 期 離 職 と も 関 連 す る 。 Niitsuma,
Katsuki,
Sakuma, & Sato( 2012) は 1 年 目 か ら 3 年 目 の 看 護 師 を 対 象 に ソ ー シ ャ ル ス
キルと早期離職の関係について調査し,ソーシャルスキルの低い人ほど離職率
が高いことを示した。その理由としてソーシャルスキルが低いために,適切な
職場教育を受けるためのスタッフとの良好な関係づくりが困難であることを挙
げている。
一般の従業員を対象とした研究では,ソーシャルスキルが高い人は問題解決
型対処の能力が高く,心理的苦痛や精神的疲労度が低いことが報告されている
( 田 中 ・ 美 奈 川 , 2012 )。 ま た ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 高 さ は 精 神 的 疲 労
( psychological distress) と 負 の 関 連 が あ り , 精 神 的 疲 労 を 減 退 さ せ る 個 人
要因の1つであると指摘している研究もある
(Uchiyama, Odagiri, Ohya,
Suzuki, Hirohata, Kosugi et. al., 2011)。
ソ ー シ ャ ル ス キ ル 能 力 は ト レ ー ニ ン グ に よ っ て 向 上 す る (大 坊 , 2003)。 就 職
前のソーシャルスキルトレーニングは新人看護師のストレス緩和に有効である
と 報 告 さ れ て い る( 水 田 ・ 辻 ・ 中 納 ・ 井 上 ・ 上 坂 ,2006)。ま た 看 護 学 生 を 対 象
としたソーシャルスキルトレーニングにおいてもスキルが向上したとの効果が
示 さ れ て い る( 千 葉 ,2005; 高 山 ・ 谷 本 ・ 笠 井 ・ 森 ,2012)。こ の よ う に ,ソ ー
シ ャ ル ス キ ル の 高 さ は ,職 場 で の ス ト レ ス に 対 す る 抑 制 因 子 と し て 機 能 す る と
考えられる。
1-4 新 人 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク
新人看護師が就職した際に感じるストレスの中で,自分がこれまで実習等で
経験したことと現実との乖離によって生じるストレスを総称して,リアリティ
ショックと呼んでいる。新人看護師の感じるリアリティショックが新人時代の
不適応を引き起こしていると考えられるため,その実態を明らかにするととも
に,関連している規定要因の検討を行う必要がある。
9
第1章
1-4-1
最終学年時における看護学生の認識
勝原・ウィリアムソン・尾形
(2005) は 新 人 看 護 師 15 名 に 就 職 前 の 3 月 と
就職後の 6 月の 2 時点でインタビューを行った。その結果,看護学生時代は,
厳しくても手厚く指導してくれる先輩との出会いを期待し,働くのはどこの病
院でもしんどいから頑張れるとか,忙しい現場であることを自覚しつつも,そ
の中で自分の力を最大限に発揮したいという思いを抱いていた。しかし,実際
には,ミスがあると新人のせいにされることや,鼻炎や口内炎が止まらないと
いった体調不調を経験するなど,予測を超える厳しい現実にさらされることが
報告されている。
新 人 看 護 師 複 数 名 に 就 職 直 後 に イ ン タ ビ ュ ー を し た Etheridge (2007) は ,
学生時代は看護師として要求される責任に気づいておらず,就職後には臨床判
断 の 自 信 が 欠 如 し て い る こ と を 指 摘 し て い る 。 Doody, Tuohy, & Deasy (2012)
が行ったアイルランドの大学 4 年生を対象として就職前の認識調査によると,
調 査 対 象 大 学 生 の 75.5 % ~ 92.9 % は 卒 業 前 に は 作 業 量 の 管 理 や 時 間 管 理 の ス
キル,人間関係のスキルや倫理的な意志の決定,健康教育に関する情報提供な
ど が 効 果 的 に で き る と 答 え て い た 。ま た 学 生 た ち の 69.4% は 病 棟 で 先 輩 看 護 師
のサポートが得られると答えていた。海外と日本とでは医療の事情の異なりは
あるものの,新人看護師は,看護学生時代には看護の仕事に対してある程度は
適応できると考えていることが推察される。
1-4-2 新 人 看 護 師 と リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 研 究 の さ き が け と な っ た 論 文 は Kramer
(1974)
の
Reality shock- Why nurses leave nursing で あ る 。 こ の 中 で Kramer は 看 護 系
の学校を卒業し,病院で実践に移行したときに新卒看護師が経験した期待と現
実 の 間 に 発 生 す る ス ト レ ス を リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と 呼 ん だ ( Kramer , 1974,
Kramer, Brewer & Maguire, 2013) 。 日 本 で は 1986 年 に 宗 像 ・ 及 川 (1986) が
紹 介 し て 以 後 , Kramer の 概 念 が 定 着 し て い る 。
Kramer et al.(2013) に よ る と , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク は 期 待 と 現 実 と の ず れ
で 生 じ る ス ト レ ス (the Expectation–Reality generated stress) と 定 義 さ れ
て い る (Kahn, Wolfe, Quinn, Snoek & Rosenthal, 1964 ; Kramer, 1974,
10
第1章
Kramer et al., 2013)。 こ の ず れ こ そ が , 認 知 的 不 整 合 で あ る 。 認 知 的 不 整 合
とは,自分の経験した状況・刺激が予測とは異なるために,予測や構えが崩壊
す る こ と で 不 安 が 喚 起 さ れ る 状 態( Epstain,1972) を い う 。新 人 看 護 師 が 卒 業
前に自己に対して抱いている能力や自己評価と,就職後の職場状況などとの間
の現実とのギャップにより認知的不整合が生じ,それがストレッサーとなりス
トレスが喚起された状態がリアリティショックであると考えることができる。
リアリティショックの結果生じる症状として,身体面では,疲労感や頭痛,
不 眠 , 胃 部 不 快 な ど の 身 体 症 状 が 出 現 す る ( 太 田 ・ 近 藤 ・ 難 波 , 1999; 水 田 ,
2004; 鬼 澤 ・ 松 永 ,2011) 。精 神 面 で は ,気 分 の 不 安 定 さ や 抑 う つ 等 の 精 神 症
状 ( 土 居 ・宗 像 ・稲 岡 ・高 橋 ・川 野 , 1988; 平 賀 ・ 布 施 , 2007) が 出 現 す る 。 あ る
いは,職場に出ると蕁麻疹様の発赤が体中に出たり,過呼吸になったり,不眠
症 に な っ た り と 心 身 の 両 方 の 症 状 が 出 現 す る 場 合 も あ る ( 勝 原 , 2014) 。
リアリティショックが問題なのは,心身面への影響だけではなく,それが原
因で自尊感情の低下
(Cowin, 2006) に つ な が る な ど 看 護 師 と し て の キ ャ リ ア
初 期 に 否 定 的 な 影 響 を 与 え る た め で あ る (勝 原 他 , 2005) 。 ま た 深 刻 な バ ー ン
ア ウ ト に 陥 る こ と も わ か っ て い る( 糸 嶺 他 ,2006;Laschinger, Grau,Finegan,
& Wilk, 2010 ; Lee & Wang, 2002; Rella, Winwood & Lushington, 2008)。 従
って新人看護師のリアリティショックを少なくすることがバーンアウトや早期
離職の予防につながると考えられる。
1-4-3
リアリティショックの測定尺度
日本におけるリアリティショックを測定する尺度についての研究は少なく,
調べた範囲では以下の 4 編が行われているのみである。
太 田 他 (1999) は ど の よ う な こ と が リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 要 因 に な っ て い る
のかを明らかにするため,就職後 1 年 4 か月目の新人看護師を対象に,知識・
技術,看護の専門性などリアリティショックと関連すると思われる項目につい
て,予想より困った,予想通り困った,予想より困らなかったかについて回答
を求めた。その結果予想より困ったことの第 1 位は事務処理と伝票書き,第 2
位は他部門との連絡及び自分がやりたい看護ができないことであった。
藤 原 ・ 本 田 ・ 星 ・ 石 田 ・ 石 井 ・ 日 隈 (2001) は , 新 人 看 護 師 の ス ト レ ス に 関
11
第1章
する聞き取り調査とバーンアウトに関する文献をもとに,新人看護師が職務上
で経験する職務ストレッサー尺度を開発し,就職後 3 年未満の看護師を対象に
調 査 し た 。 そ の 結 果 ,「 自 分 の 看 護 能 力 不 足 に 関 す る ス ト レ ッ サ ー 」「 他 の 看 護
師 と の 関 係 に 関 す る ス ト レ ッ サ ー 」「 患 者 や 家 族 へ の サ ポ ー ト に 関 す る ス ト レ
ッ サ ー 」「 上 司 と の 関 係 に 関 す る ス ト レ ッ サ ー 」「 看 護 援 助 の ジ レ ン マ に 関 す る
ス ト レ ッ サ ー 」「 医 師 と の 関 係 に 関 す る ス ト レ ッ サ ー 」 の 6 因 子 を 見 出 し た 。
水 田 (2004) は , 太 田 他 ( 1999) が 作 成 し た リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 関 連 す る
と思われる項目に加え,他の関連研究や新卒看護師数名への聞き取り調査を参
考 に し て ,尺 度 を 作 成 し た 。新 卒 看 護 師 を 対 象 に 調 査 し た 結 果 ,
「看護技術に関
す る 苦 痛 」「職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る 苦 痛 」「 教 育 面 に 関 す る 苦 痛 」
「事務的業務
に関する苦痛」
「患者及び家族への対応に関する苦痛」
「勤務形態に関する苦痛」
の 6 因子を見出している。
福 田 ・ 花 岡 ・ 喜 多・ 津 田 ・村 田 ・ 矢 田 他 (2005)は ,中 野 ・ 黒 田 ・ 吉 田 ・ 阿 曽・
松 浦 ( 1992) に よ る , 就 職 後 1 年 以 内 の 新 人 看 護 師 を 対 象 と し た 職 場 適 応 に 関
す る 調 査 で 用 い ら れ て い る 尺 度 か ら 23 項 目 を 抽 出 し , 経 験 20 年 以 上 の 看 護 師
6 名及び経験 5 年以上の看護教員 5 名で質問内容・表現や追加項目を検討し,
20 項 目 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 関 す る 質 問 紙 を 作 成 し た 。そ の 後 ,新 人 看 護 師
を 対 象 に 調 査 し た 結 果 ,「 患 者 ・ 家 族 と の 複 雑 な 関 係 ・ 対 応 」「 職 場 に お け る 協
働の仕方とシステム」
「未経験の機器やケア」
「ナースコールや電話の対応」
「生
命 維 持 装 置 等 の あ る 環 境 」「 患 者 の 死 亡 や 急 変 」 の 6 因 子 を 見 出 し た 。
平 賀 他 (2007) は 新 人 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 関 連 す る 22 の 先 行 研 究
か ら , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 項 目 と し て 捉 え た 699 項 目 を 抽 出 し た 。 そ の 後 ,
研 究 者 3 名 で KJ 法 に 準 じ て 第 4 段 階 ま で 分 類 し , 95 項 目 か ら 成 る リ ア リ テ ィ
シ ョ ッ ク 質 問 紙 を 作 成 し た 。新 人 看 護 師 を 対 象 に 同 尺 度 を 実 施 し た 結 果 ,「職 場
の 人 間 関 係 」「 看 護 実 践 能 力 」「 身 体 的 要 因 」「 精 神 的 要 因 」「 業 務 の 多 忙 さ と 待
遇」
「 仕 事 の や り が い ,楽 し さ 」
「業務への責任感」
「 患 者 の 死 に 対 す る 対 応 」の
8 因子を見出した。
以 上 4 編 の う ち ,藤 原 他 (2001) を 除 く 3 編 は Kramer (1974) の 定 義 に 基 づ
いてリアリティショックを測定する尺度が作成されている。3 編に共通する内
容として,看護技術能力や職場の人間関係などが挙げられる。逆に異なる内容
12
第1章
と し て は , 平 賀 他 ( 2007) に の み 「 仕 事 の や り が い , 楽 し さ 」 と い っ た ポ ジ テ
ィブな内容が抽出されていることが挙げられる。全体を通して,これら先行研
究におけるリアリティショックには,就職時に,看護師として身につけるべき
ことが十分に準備ができていないと感じることや,身体的側面や精神的側面に
おけるショック反応についての項目が含まれている。すなわち学生時代に考え
ていたことと現実とのギャップや,ギャップによるストレス反応が混在してい
るといえる。
1-4-4
リアリティショックの経時的変化
新人看護師に対して実施した調査から,リアリティショックによるストレス
が 最 も 高 ま る の は 就 職 3ヶ 月 ~ 4ヶ 月 頃 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て い る (平 賀 他 ,
2007 ; Kramer et al., 2013)。 す な わ ち 新 人 看 護 師 の 約 70%は 就 職 3カ 月 時 に 最
も リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 感 じ て お り , 就 職 6カ 月 時 で は 減 少 す る と い う 報 告 が
多 い ( 水 田 , 2004; 日 本 看 護 協 会 , 2005; Yeh & Yu, 2009 ; Kramer et al.,
2013) 。し か し 構 成 さ れ る 複 数 の 因 子 の す べ て が ,3〜 4ヶ 月 後 に 高 く な る わ け
ではなく,就職後半年を過ぎた頃にも新たなショック反応が生じるともいわれ
る (水 田 , 2004; Kramer et al., 2013)。 就 職 3カ 月 時 と 6カ 月 時 に 縦 断 調 査 を
行 っ た 水 田 (2004)は ,
「 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る 苦 痛 」が 3カ 月 時 に 最 も 高 く な
り ,「 勤 務 形 態 に 関 す る 苦 痛 」 が 6カ 月 時 に 最 も 高 く な る こ と を 報 告 し て い る 。
ま た 鈴 木 ・ 叶 谷 ・ 北 岡 ・ 佐 藤 ( 2005) は , 大 学 病 院 に 就 職 し た 新 人 看 護 師 に 対
し て 就 職 9ヶ 月 目 ご ろ に 調 査 を 実 施 し た 結 果 , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と ,就 職 時 に
自 分 が 希 望 し た 病 棟 で 働 け な い こ と が ,バ ー ン ア ウ ト リ ス ク を 高 め る こ と を 報
告している。鈴木らによるリアリティショックに関する質問項目は「学校で受
けた教育と実践との違いに戸惑うことがありますか」で尋ね,リアリティショ
ックの有無を問うシンプルなものである。また新人看護師の早期離職を縦断調
査 し た Tominaga, Miki & Fujimura (2009) は , 就 職 4ヶ 月 前 後 は 精 神 的 苦 痛
が , 就 職 9ヶ 月 前 後 で は 蓄 積 的 疲 労 が 早 期 離 職 に 対 し て も っ と も 重 要 な 規 定 要
因となっていることを示している。これらの知見から,リアリティショックを
規定する要因は,就職後の時間経過に伴って変化すると考えられる。
13
第1章
1-5
新人看護師の対処行動
対処行動とは,個人ないし組織が,ストレスを低減するためにとりうる方策
全 般 を 指 す 。対 処 行 動 の 類 型 化 に 関 す る 研 究 の 基 本 的 枠 組 み と な っ て い る の は ,
対 処 行 動 を「 問 題 焦 点 型 対 処 」と 「情 動 焦 点 型 対 処 」の 2 つ に 分 類 し た Lazarus &
Folkman (1984) の 考 え 方 で あ る 。問 題 中 心 の 対 処 は ,ス ト レ ス の 原 因 と し て の
ストレッサーそのものを取り除こうとする行動である。情動中心の対処は,ス
トレスによって喚起された不快な感情を解消することを目的とした行動である。
情動中心の対処は,直接問題解決に結びつく行動ではないが,ストレスに伴う
苦 痛 を 軽 減 す る こ と に 重 き が 置 か れ る 対 処 方 法 で あ る ( 久 保 , 2004 ; Lazarus
& Folkman,1984)。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 受 け た 新 人 看 護 師 が ど の よ う な 対 処
行動を選択しているのか,またその有効性がどうであるのかについて確認して
おく必要がある。
Forest (1999) は , WCQ (the ways of coping questionnaire; Folkman &
Lazarus, 1980) を 用 い て ICU病 棟 の 看 護 師 を 調 査 し た 。 そ の 結 果 , 看 護 師 は 問
題 焦 点 型 対 処 を 多 用 し て い る こ と を 報 告 し て い る 。 同 じ く WCQ を 用 い て 緩 和 ケ
ア 病 棟 の 看 護 師 の 防 衛 機 構 と 対 処 を 調 査 し た Timmermann, Naziri, & Etienne
(2009)は , 成 熟 し た 防 衛 機 構 と 情 動 焦 点 型 対 処 及 び 問 題 焦 点 型 対 処 に 相 関 が あ
ることを示した。我が国の看護師を対象とした研究では,新人看護師の職務ス
ト レ ス 対 処 行 動 尺 度 を 作 成 し た 石 井 ・ 星 ・ 藤 原 ・ 本 田 ・ 石 田 ( 2004) は , 対 処
行動の採用の頻度をもとに因子分析をした結果,
「問題解決」
「回避楽観」
「支援
探求」
「 自 責 内 省 」の 4因 子 を 見 出 し た 。こ れ を 卒 業 3カ 月 後 ,6カ 月 後 ,1年 後 の
3回 に わ た っ て 縦 断 的 に 調 査 し た 結 果 , 対 処 行 動 の 時 系 列 得 点 は 4因 子 と も に 有
意 な 差 が な か っ た こ と を 示 し て い る 。ま た 真 鍋 ・ 小 松 ・ 岡 山 ( 2014)は ,同 一
大 学 の 卒 業 者 に 対 し て 卒 後 3年 間 ,質 問 紙 調 査 を し た 結 果 , 1年 目 の ス ト レ ス・
コーピングの特徴として,ストレッサーに対して他人に聴いてもらうなど積極
的な情動的苦痛の軽減をはかる対処を採用する傾向が少ないことを明らかにし
ている。
1-6
新人看護師のバーンアウト
新人看護師のリアリティショックに対する反応はバーンアウト尺度を用いて
14
第1章
測定されることが多い。本節では,バーンアウトの概念及び新人看護師とバー
ンアウトの関係について概観する。
1-6-1
バーンアウトの概念
バ ー ン ア ウ ト( burnout)と い う 言 葉 は ,元 来 は ロ ケ ッ ト エ ン ジ ン が 焼 き き れ
た り ,電 球 が 切 れ た り す る 状 態 を 示 す 技 術 用 語 で あ っ た 。こ れ を Freudenberger
(1974) が ,対 人 援 助 従 事 者 に 関 す る 学 術 論 文 の 中 に「 現 在 病 」の 現 象 を 描 写 す
る 表 現 と し て は じ め て 用 い た( 上 野・佐 藤 ,2010)。欧 米 で は Frudenbergerの 影
響が大きく,それ以後,対人援助職の疲労に関するバーンアウト研究が多くな
さ れ た (小 堀 , 2005)。
1980年 代 に 入 る と バ ー ン ア ウ ト の 操 作 的 定 義 と 定 量 化 が 試 み ら れ る よ う に な
っ た 。 現 在 も バ ー ン ア ウ ト の 多 く の 研 究 に 使 わ れ て い る の が Maslach Burnout
Inventory (MBI) で あ る 。 Maslach & Jacson (1981) は バ ー ン ア ウ ト を 「 長 期
間にわたり人を援助する過程で,心的エネルギーが絶えず過剰に要求された結
果 , 極 度 の 心 身 の 疲 労 と 感 情 の 枯 渇 を 主 と す る 症 候 群 」 と 定 義 し た 。 MBIは 「情
緒 的 消 耗 感 」「脱 人 格 化 」「個 人 的 達 成 感 の 低 下 」の 3因 子 か ら 構 成 さ れ て い る 。 情
緒的消耗感は,彼ら自身の仕事によって伸びきった,あるいは疲れ果てたとい
う感情であり,もう働くことができないという気分である。疲労ではあるがメ
ンタルな疲労を重視しているところが特徴である。脱人格化はクライエントそ
れ ぞ れ の 人 格 を 無 視 し た , 思 い や り の な い 紋 切 り 型 の 対 応 の こ と を い う 。ま た
個人的達成感とはするべきことを成し遂げたという気分であり,バーンアウト
を 経 験 し て い る 人 ほ ど こ の 気 分 を 達 成 で き な い と さ れ る( 田 尾・久 保 ,1996)。
1-6-2
バーンアウトのプロセスモデル
近年のバーンアウト研究は,症状の早期発見や予防,慢性化する前の介入を
目指して,バーンアウトのプロセスを明らかにすることに関心が注がれている
( 西 村・森・宮 下 ,2014)。こ れ ま で に 提 案 さ れ て き た バ ー ン ア ウ ト の プ ロ セ ス
モ デ ル と し て は ,Golembiewski, Scherb & Boudreau (1993) の「 8段 階 モ デ ル 」
や Lieter & Maslach (1988) の プ ロ セ ス モ デ ル が 提 言 さ れ て い る 。 国 内 で は 小
島・中 村・篠 原 (1998) に よ る Golembiewski et al. (1993)の モ デ ル の 検 討 や ,
15
第1章
荻 野 ・ 稲 木 ・ 瀧 ヶ 崎 (2005) お よ び 西 村 他 (2014) に よ る バ ー ン ア ウ ト の 因 子
構造の検討がなされている。
Golembiewski et al. (1984)の 「 8段 階 モ デ ル 」 は , バ ー ン ア ウ ト の 測 定 に
MBIを 使 用 し , 情 緒 的 消 耗 感 , 脱 人 格 化 , 個 人 的 達 成 感 の 低 下 の 3つ の 下 位 要 因
の 生 起 す る 順 序 を 仮 定 し て い る( Table 1-1)。表 中 の Ⅰ ~ Ⅷ は バ ー ン ア ウ ト の
進行度を現している。すなわちバーンアウトは「軽症」から「重症」に至る進
行性の病であり,その進行にともなって症状の様相が変化する。バーンアウト
は脱人格化から発症し,次に個人的達成感が低下する。そしてバーンアウトの
中等度において情緒的消耗感が現れる。バーンアウト状態を示す最も特徴的な
徴候は、情緒的消耗感が増大することであり,反対に脱人格化が最も関連しな
いものであるとされる。ただしバーンアウトの最終的な状態(第Ⅷ面)に達す
る の に , 8 段 階 す べ て を 経 験 す る わ け で は な い 。 久 保 ( 2004 ) に よ れ ば ,
Golembiewski et al.の モ デ ル で は , バ ー ン ア ウ ト の 進 行 過 程 に は 基 本 的 に 2つ
の経路があると紹介している。すなわち1つは慢性型の進行過程で,まず脱人
格化が生じ,それに伴って個人的達成感の低下が起こり,情緒的消耗感を経験
す る と い う 過 程 で あ る 。そ れ に 対 し て 急 性 型 は い き な り 情 緒 的 消 耗 感 を 経 験 し ,
最 終 的 な 状 態 に 至 る 過 程 を 踏 む 過 程 で あ る 。 小 島 他 (1998) は 茨 城 県 の 小 中 学
校 教 師 を 対 象 に Golembiewskiの 8段 階 モ デ ル の 検 討 を 行 っ た 結 果 ,バ ー ン ア ウ ト
に 移 行 す る 最 初 の 契 機 は 情 緒 的 消 耗 感 の 上 昇 で あ る こ と を 明 ら か に し , 8段 階
モデルは成立しないことを示している。
Table1-1
Golembiewskiの 8段 階 モ デ ル
バーンアウトの進行段階
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
情緒的消耗感
低
低
低
低
高
高
高
高
脱人格化
低
高
低
高
低
高
低
高
個人的達成感
低
低
高
高
低
低
高
高
Golembiewski ( 1984) の 表 を も と に 筆 者 が 作 成
Golembiewski et al. (1984) の モ デ ル に 対 し て Lieter & Maslach ( 1988)
16
第1章
は,バーンアウトの下位概念の順序性について,まず情緒的消耗感が情緒的な
負荷への反応として引き起こされ,ついで情緒的消耗感への対処として,患者
から心理的に距離を置くという脱人格化が引き起こされると指摘し,その結果
が個人的達成感の低下につながるとしている。
Lieter & Maslach( 1988) の プ ロ セ ス モ デ ル は , 荻 野 ら ( 2005) に よ っ て 最
も 当 て は ま り の 良 い モ デ ル で あ る こ と が 実 証 さ れ て い る 。 荻 野 ら ( 2005) は 看
護 職・介 護 職 を 対 象 に 縦 断 調 査 を 行 い ,バ ー ン ア ウ ト 3下 位 概 念 間 の プ ロ セ ス に
関 す る モ デ ル を 検 討 し た 結 果 , Leiter & Maslach( 1988) モ デ ル が 示 す 情 緒 的
消耗感→脱人格化→達成感の低下という順序でバーンアウトが生起することを
明 ら か に し た 。そ し て 対 策 と し て 重 要 な の は こ れ ら の プ ロ セ ス を 始 動 さ せ な い ,
あるいは始動したならば早期に発見して介入することであると述べている。
1-6-3
ヒューマンサービス業としての看護師におけるバーンアウト
バーンアウトは,人に関わることに由来するストレスであることから,医療
や福祉,教育などの職場で働く人たちほどかかりやすいと考えられている。田
尾 ・久 保 (1996)は ,こ れ ら サ ー ビ ス の 需 要 は ,高 度 産 業 社 会 ,あ る い は 脱 工 業 化
社会に至り,さらに今後超高齢化社会を迎えることで質・量ともに急速に大き
くなっていると述べている。しかし看護師不足に代表されるように,ヒューマ
ンサービスの供給体制は貧弱であり,バーンアウトを避けるための適切な対応
は 後 手 に 回 っ て い る の が 現 状 で あ る ( 久 保 , 2004)。
宗 像 ら (1988) は , 看 護 師 と 一 般 医 ( 内 科 医 , 外 科 医 , 小 児 科 医 , 精 神 科 医
など)を対象とした調査を行った結果,看護師は一般医に比べバーンアウトに
陥 っ て い る 率 が 2倍 近 く 高 い こ と を 示 し た 。 精 神 科 病 院 で 勤 務 す る 看 護 師 と 医
師 , 薬 剤 師 な ど の 他 職 種 と の 比 較 を 行 っ た 研 究 ( 井 川 ・ 中 西 ・ 志 和 , 2013) に
おいては,看護師,精神保健福祉士が高バーンアウト状態であることが示され
て い る 。精 神 科 単 科 の 同 一 病 院 内 で 看 護 師 と 他 職 種 ( 医 師 ,作 業 療 法 士 ,薬 剤
師 ,栄 養 士 な ど )で 比 較 し た 研 究 ( 山 口 ・ 大 西 ・ 大 岡 ・ 鋤 田 ・ 辻 丸 ,2005)に
お い て も ,情 緒 的 消 耗 感 と 脱 人 格 化 で 有 意 に 看 護 師 が 高 い こ と が 示 さ れ て い る 。
このように医療従事者の中でも,看護師はバーンアウトする率が高い代表的な
職種として挙げられている。さらに精神科看護師を対象にバーンアウトの因果
17
第1章
関 係 を 検 討 し た 北 岡 ( 東 口 )( 2005) は , 看 護 師 の 仕 事 量 が 多 す ぎ る こ と や ,患
者との関係に由来する負担感や葛藤が続くとバーンアウトの最初の現象である
情緒的消耗感が生じることを報告している。そしてこの情緒的消耗感が脱人格
化 に 結 び つ く こ と や ,脱 人 格 化 は , 患 者 関 係 に う ま く 対 応 で き な い 看 護 者 だ け
で認められるのではなく,職場の上司や同僚関係に悩んでいる看護者において
も認められることを明らかにしている。これら先行研究から看護職のバーンア
ウトには職場環境やスタッフ間の人間関係が関係する可能性が考えられる。
1-6-4
新人看護師とバーンアウト
バーンアウト研究においては,短期間で燃え尽きる可能性も指摘されている
(宗 像 他 , 1988; 田 尾 他 , 1996)。 看 護 師 を 対 象 と す る 研 究 で は , 年 齢 が 若 い 看
護 師 ほ ど バ ー ン ア ウ ト に 陥 り や す い こ と が 示 さ れ て い る ( 糸 嶺 他 , 2006 ;
Laschinger et al., 2010; Lee et al., 2002; Rella et al.,2008)。 ま た 新 人
看護師とベテラン看護師ではバーンアウトの内容にも違いがあることがわかっ
て い る 。井 奈 波・井 上 (2011) は ,経 験 1 年 以 上 の 看 護 師 と 比 べ て 1年 未 満 の 看
護師は,バーンアウト率が高く,心理的な仕事の負担が質,量ともに多く感じ
て い る こ と を 指 摘 し て い る 。緒 方・永 野( 2012)ら も ,就 職 1年 未 満 の 場 合 に 情
緒 的 消 耗 感 が 高 か っ た こ と か ら , 新 卒 か つ 就 職 1年 目 の 看 護 職 は 精 神 的 に 消 耗
しやすい特徴を有する可能性があることを報告している。経験とバーンアウト
の関係については,新人看護師は中堅の看護師に比べ社会性が低く未熟である
こ と が 指 摘 さ れ て い る ( Niitsuma et al., 2012 ; Rudman & Gustavsson,
2012 )。 し か し 中 堅 看 護 師 の バ ー ン ア ウ ト の 程 度 が 低 い と い う 結 果 が 得 ら れ た
のは,バーンアウト耐性の低い職員が早期に退職したことから,中堅看護師は
バ ー ン ア ウ ト 耐 性 が 備 わ っ て い る と す る 指 摘 も な さ れ て い る ( 井 川 他 , 2013)。
従って,その解釈は慎重に行わなければならない。
さ ら に 学 生 時 代 の バ ー ン ア ウ ト は 新 人 看 護 師 と な っ た 後 も 影 響 す る 。 Rella,
et al.( 2008) は , オ ー ス ト ラ リ ア の 看 護 学 生 を 対 象 に Occupational fatigue
exhaustion recovery scale を 用 い て 調 査 し た 結 果 , 疲 労 し て い る 学 生 の 割 合
は , 疲 労 度 が 「 高 い 」 者 は 1 年 次 で 12% で あ っ た が 3 年 次 に は 19% に ,「 と て
も 高 い 」者 の 割 合 は 15% か ら 22% へ と 増 加 す る こ と を 示 し た 。結 果 と し て 卒 業
18
第1章
時 、学 生 の 20% 以 上 が 重 度 の 疲 弊 あ る い は ス ト レ ス を 抱 え て 学 校 教 育 の 最 後 の
段階に至るとして,看護学生の慢性的疲労と情緒的な不健康は今後続く新人看
護師のバーンアウトの始まりであることを示している。
Rudman et al. (2012) は , フ ィ ン ラ ン ド の 看 護 学 生 を 対 象 に 在 学 時 3 年 間
と就職後 1 年目を縦断調査した結果,在学中のバーンアウトは就職後にも影響
す る こ と を 明 ら か に し た 。バ ー ン ア ウ ト 状 態 に あ る 学 生 の 割 合 は 1 年 次 30% で
あ っ た が 3 年 次 は 41% に 増 え ,情 緒 的 消 耗 感 と 脱 人 格 化 は と も に 3 年 間 で 高 く
なっていた。1 年次のバーンアウトは 3 年次の成績不振と就職への準備が低い
ことに関連していた。また学生時代にバーンアウトしていた者は,就職後も抑
うつ傾向が高く生活満足度が低いこと,さらに学生時代の脱人格化傾向は 1 年
後 の 離 職 に 結 び つ く こ と を 示 し た 。 ま た Rudman & Gustavsson( 2011) は 新 人
看護師を対象に,卒業時,就職後から 3 年目までの計 4 回の縦断調査を実施し
た。その結果,年齢の低い人ほどバーンアウトしやすいこと,またバーンアウ
トしやすい人は学生時代から抑うつ傾向が強いことや,仕事に対して準備がで
きていないと感じている人が多いこと,バーンアウトが最も深刻になるのは卒
業 2 年目であり,3 年目にはやや回復することを明らかにしている。
これら先行研究から看護学生時代に始動したバーンアウト反応は,看護師と
なったのちも継続して職場適応に関連している可能性が考えられる。
バーンアウトに関しては様々な形態があり,十分な議論がなされていないの
が 現 状 で あ る 。 例 え ば 久 保 ( 2004) は , バ ー ン ア ウ ト を , キ ャ リ ア 初 期 の 「 リ
アリティショック型」と,キャリア中期の「アイデンティティ喪失型」とに分
け ,両 者 の 性 格 は 異 な っ て い る こ と を 強 調 し て い る 。Maslach & Jackson( 1981)
はバーンアウトを「長期にわたり人を援助する過程で,心的エネルギーが絶え
ず過度に要求された結果,極度の身体疲労と感情の枯渇を示す」と定義してい
る。看護学生や新人看護師はこの定義には当てはまらないため,バーンアウト
とはいえないのではないか,広義に用いすぎているのではないかという懸念も
生じる。そのため本研究では,職場適応の指標としてバーンアウト尺度を採用
す る こ と ,キ ャ リ ア 初 期 の「 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 型 」を 対 象 と す る こ と と し た 。
1-6-5
バーンアウトがリアリティショックの認知に与える影響
19
第1章
先行研究からは学生時代にバーンアウトしていた人は,就職後もバーンアウ
ト し や す く 不 適 応 を 起 こ し や す い 傾 向 が あ る こ と が 明 ら か に な っ て い る 。で は ,
バーンアウトは後に続くストレッサーの認知に影響を与え,その結果としてス
トレス反応も高まるのだろうか。
Abramson, Metalsky, & Alloy (1989) は , 抑 う つ 者 や 悲 観 主 義 者 は 失 敗 し
た と き そ の 原 因 は 自 分 に あ り( 内 的 ),い つ も 失 敗 し て い る か ら で あ り( 安 定 的 ),
何をやっても失敗するから(全般的)と帰属しやすいことを指摘している。す
なわち自己評価がゆがんでいることから,新たなストレス状況におかれても,
今までどおりうまくいくはずがないと判断しやすく,ストレッサーをより強く
認知しストレス反応が高まる可能性がある。また悲観主義者や悲観的な説明ス
タイルはネガティブな結果につながることが示されており,これらの傾向が高
い 人 は う つ 状 態 に 陥 り や す い こ と も 報 告 さ れ て い る ( Seligman, 1991/山 村 訳 ,
1994)。
看護学生を対象とした最近の研究では,認知のゆがみが全般的に高い学生や
回避的な認知傾向がある学生では,心理的ストレス反応が高まることがわかっ
て い る (小 粥 ・ 岡 安 , 2010 ; 小 粥 , 2013)。 認 知 の ゆ が み と は , 日 常 生 活 に 支
障 を き た す ほ ど の 不 合 理 な 考 え 方 の こ と で あ り ,Burns (1980) は ,全 か 無 か の
法 則 ,過 度 の 一 般 化 ,す べ き 思 考 な ど 10 種 類 の 思 考 パ タ ー ン を あ げ て い る 。こ
のような認知のゆがみがあると,自分に対する否定的な見方を促進したり,経
験を否定的に解釈するため自発的な活動が抑制されることになる。認知のゆが
みによって心理的ストレス反応が高まった結果, 新たなストレッサーである職
場環境においても,リアリティショックを強く感じ,その結果バーンアウト反
応が高まる可能性がある。
以 上 ,先 行 研 究 か ら , 学 生 時 代 に バ ー ン ア ウ ト し て 情 緒 的 消 耗 感 が 高 ま っ て
いる場合は,就職後のリアリティショックの認知に影響を与えることが推測さ
れる。すなわち学生時代にバーンアウトした人は,新たにやってくるストレッ
サーであるリアリティショックを敏感に感じ,その結果バーンアウトしてしま
うと考えられる。
1-7
先行研究の問題
20
第1章
1-7-1
リアリティショックを測定する尺度の問題
リアリティショックを測定する尺度は作成が試みられているものの,これま
での尺度については以下の点で問題があると考えられる。
太田ら
(1995) の 研 究 は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に 関 連 す る と 思 わ れ る 25 項 目
をあげているのみで,信頼性などの検討はなされていない。
平 賀 他 (2008) の「 新 卒 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 構 成 因 子 」は ,
「職場
の人間関係」
「 看 護 実 践 能 力 」な ど リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 原 因 と 考 え ら れ る 内 容
と,体力が続かないなどの「身体的要因」や,精神的な落ち込みを感じるなど
の「精神的要因」といったリアリティショックによって生じる結果と考えられ
る内容が混在している。そのためリアリティショックをストレスの原因とみな
すのか,ストレスの結果生じた反応とみなすのかが曖昧なままである。
水 田( 2004)は ,Lazarus の ス ト レ ス・コ ー ピ ン グ 理 論 を 基 盤 と し て「 新 卒 看
護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク か ら の 回 復 モ デ ル 」を 作 成 し ,就 職 後 に 体 験 す る「 予
期せぬ苦痛や不快さを伴う現実」をストレス刺激として捉え,その刺激をどの
ように感じ,どう対処するかでショック反応が現れるとみなした。水田の研究
は,各質問項目に対して就職前にどの程度予想していたかを問うことで,ギャ
ップが測定できているとしている。しかし結果をみると,注射や検査介助など
の診療の補助の難しさや技術の応用ができないといった「看護技術に対する苦
痛」は就職前から予測できており,就職前後で違いは認められていない。その
ため,予想以上に辛かったというギャップを測定できているかについては疑問
が残る。
以上のように先行研究では,リアリティショックを引き起こす原因と結果と
しての反応の混在が認められる上に,その生起プロセスが明らかにされていな
い。そのために,リアリティショックを防止するための対策に結びつけること
ができない。
リアリティショックを測定する尺度は,ストレッサー評価やストレス反応が
混在しており,新人看護師の職場定着を困難にしている「看護基礎教育終了時
点 の 能 力 と 看 護 現 場 で 求 め る 能 力 と の ギ ャ ッ プ 」 ( 日 本 看 護 協 会 , 2005) を 測
定するものになっていない点が挙げられる。その理由として理想と現実とのギ
ャップといわれるものの,就職前に想定していたことと就職後の現実との認知
21
第1章
的不整合については明らかにされていないことがあげられる。
認知的不整合とは自分が予測していたものと異なる刺激を受けることで,不
安 が 喚 起 さ れ る こ と と さ れ て い る( Epstain,1972)。 Epstain の 定 義 に 従 え ば ,
新人看護師が自己に対して抱いている能力や自己評価と,職場において求めら
れる現実とのギャップという不整合を認知することがリアリティショックであ
る。従ってリアリティショックを測定するためには,就職前に自分が予想して
いたことと就職後の実際との間のギャップを評価させる尺度が必要である。
1-7-2
リアリティショックを規定する要因の問題
水 田 ( 2004) は , 精 神 健 康 度 ( GHQ 短 縮 版 ) と 関 連 す る の は , 就 職 3 カ 月 時
では「職場の人間関係に関する苦痛」であるのに対し,就職 6 カ月時は「勤務
形態に関する苦痛」であることを示している。また,就職 3 ヶ月時にはショッ
ク反応が認められなかったが,新たに 6 ヵ月時でリアリティショックを受ける
人がいることも明らかにしている。このように,就職後の時期によりリアリテ
ィショックを規定する要因が異なっている可能性が考えられる。しかしその後
の経過については明らかではなく,リアリティショックが職場適応にいつまで
影響するのかはわかっていない。
リアリティショックがいつまで続き,職場環境への適応のプロセスにどのよ
うに影響するかを明らかにするためには,就職後 6 ヵ月以後についても追跡し
て調査する必要がある。さらに先行研究から,看護学生時代に認められるスト
レ ス 反 応 は 就 職 後 の ス ト レ ス 反 応 と 関 連 す る こ と が 示 さ れ て い る ( Rella et
al., 2008 ; Rudman et al., 2011, 2012)。 し か し 就 職 前 の ス ト レ ス 反 応 が ,
就職後のストレッサーの認知にどのように影響するのかは明らかにされていな
い。そのため,学生時代のストレス反応がリアリティショックの認知にどのよ
うに関連するのかについても検討する必要がある。
1-7-3
ストレス反応をバーンアウト尺度で測定する理由
Lazarus ら の 心 理 学 的 ス ト レ ス モ デ ル は , 今 日 の ス ト レ ス 研 究 の 基 本 的 パ ラ
ダ イ ム と な っ て い る (堀 ・ 島 津 ,2007) 。Lazarus ら は ス ト レ ス 反 応 を 短 期 的 変
化 と 長 期 的 変 化 に 分 け て 説 明 し て い る 。 バ ー ン ア ウ ト は Lazarus ら に よ っ て は
22
第1章
長期的変化の結果生じる症状の1つとして位置づけられている。バーンアウト
の 代 表 的 な 尺 度 で あ る MBI も , Lazarus ら の ス ト レ ス 過 程 に MBI の 3 因 子 を 重
ね 合 わ せ る 形 で , モ デ ル 構 成 が 行 わ れ て い る ( Leiter & Maslach, 1988) 。
看護は患者との対人関係を基盤に成り立つ職業である。従って対人援助職で
ある新人看護師のストレス反応を測定することを考えたとき,個人の感じるス
トレスだけではなく,患者との関係性における適応性も評価する必要がある。
なぜなら看護師のストレスは看護師自身にとっての心身の健康問題であると同
時に,患者自身にとっても重大な問題であるからである。そのため,従来の職
業性ストレスで測定されるようなストレス反応ではなく,患者との関係性も合
わせて測定できるバーンアウト尺度を用いることが望ましいと言える。なぜな
らバーンアウト尺度の下位因子である脱人格化や個人的達成感の低下は,患者
に提供される医療・看護ケアレベルに直接影響すると考えられるからである。
脱人格化は,情緒的消耗感に陥った新人看護師が患者との間に距離を置き,彼
らとの関係を仕事上の関係として割り切って対応することで,さらなる消耗を
防ぐという対処的意味を持つことから,患者を一人の人格をもった人間として
扱わなくなるという問題を抱えることになるからである。また個人的達成感の
低下は,仕事への意欲や自信を無くすことにつながり,仕事への取り組みに影
響が出てくる。その結果,看護の質の低下が起こる可能性がある。従って,対
人援助職である新人看護師のストレス評価には,バーンアウト尺度を用いるこ
とで,個人の消耗感だけではなく,患者との関係性における適応性を測定する
必要がある。
1-8
リアリティショックに関するモデルの提唱
Lazarus & Folkman (1984) は ス ト レ ス と 対 処 、 適 応 の 結 果 に 関 す る 研 究 の
進め方について,3 つの側面からまとめている。1つめは因果関係モデルによ
る 検 討 ,2 つ め は 媒 介 モ デ ル に よ る 検 討 ,3 つ 目 は ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン・モ デ ル
による検討である。
1 つ目の因果関係モデルは,個人の特徴や環境の特徴といった先行条件によ
って健康状態や身体的疾患,ものごとの動機状態やモラール(自信・意欲)そ
して日常生活での活動が結果として決まるという考えである。2 つ目は,先行
23
第1章
条件とそれによってもたらされる適応の結果と関連性に,評価や対処が媒介す
るという媒介モデルによる検討である。リアリティショックに関する看護系の
複 数 の 先 行 研 究 ( 福 田 他 , 2005; 水 田 , 2004; 真 鍋 他 , 2014) で 採 用 さ れ て い
るのはこのモデルである。
3 つ目のトランスアクション・モデルの重要な特徴は,原因と結果が互いに
関連しあって相乗的に変化をしていくと考えるモデルである。因果モデルのよ
うに特定の方向性のみを持つものではなく,双方向的な関係性により変化して
いく過程である。つまり,第1の時点で結果として取り扱われる出来事は, 第
2 の時点では原因となるとしている。
トランスアクション・モデルに従えば,バーンアウト反応とリアリティショ
ックは相互に関係し合うと仮定する。つまり,学生時代のバーンアウト反応が
就職後のリアリティショックの認知に影響を与え,就職後のリアリティショッ
クが原因となってバーンアウト反応がさらに高まることになる。また,就職後
のバーンアウト反応が後につづくリアリティショックの認知にも影響を与える
ことになると考えられる。そして,ネガティブなリアリティショックが高まる
ことで,就職後の適応性を示すバーンアウト反応も高まることになる。そのバ
ーンアウト反応の高まりがさらに次のリアリティショックにも影響することが
予 測 さ れ る 。 も ち ろ ん バ ー ン ア ウ ト し 続 け て い る わ け で は な く ,ス ト レ ッ サ ー
で あ る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク が 低 減 す れ ば ,適 応 性 の 指 標 で あ る バ ー ン ア ウ ト 反
応 も 低 減 し ,そ の 結 果 ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン は 消 退 し て い く こ と が 考 え ら れ る 。
新人看護師が体験するリアリティショックとバーンアウト反応との関係を明
らかにするためには,従来のストレスモデルでの検討に加え,トランスアクシ
ョン・モデルによる検討も併せて行い,どこに問題があり何を明らかにする必
要 が あ る の か を 示 す 必 要 が あ る 。 以 上 か ら 本 研 究 で は Lazarus の 考 え 方 を 基 盤
とし,新人看護師のリアリティショックとバーンアウト反応の関係についての
モ デ ル を 作 成 し た ( Figure 1-1)。
新 人 看 護 師 が 就 職 し ,新 し い 職 場 環 境 に 入 る と , 就 職 前 に 抱 い て い た 自 分 の
価値観や,看護や医療に関する技術的能力,本人の保持する能力などの職場で
求められる現実との間にギャップを感じ,リアリティショックとして認知され
る。リアリティショックを抱くとそれを軽減するための対処が採用され,その
24
第1章
結果としてバーンアウト反応の程度が決定される。リアリティショックの認知
と対処には個人要因であるソーシャルスキルも影響すると考えられる。さらに
就職後のバーンアウト反応がフィードバックされ,その後のリアリティショッ
クの認知にも影響を与えると考えられる。なお,就職後のリアリティショック
には,学生時代のバーンアウト反応の程度が影響していると考えられる。以上
のモデルを想定し,新人看護師のリアリティショックやバーンアウト反応の発
生や維持についての検証を行う。
な お ,以 後 は バ ー ン ア ウ ト 反 応 を ,従 来 の 表 現 を 採 用 し バ ー ン ア ウ ト と 称 す る 。
Figure 1-1
1-9
新人看護師のリアリティショックとバーンアウトの関係
本研究の目的
本研究の目的は,縦断的研究を通して,新人看護師のリアリティショックと
バーンアウトの関係を明らかにすることである。そのため以下の1~5 の研究
を行う。
第 2 章の研究 1 では,リアリティショック尺度の開発を行う。リアリティシ
25
第1章
ョックは自分が思っていたことと実際とのギャップである認知的不整合により
生じると考えられる。本章では認知的不整合を測定する尺度を開発し,その検
証を行う。リアリティショックはストレス反応との関連が深いため,尺度の妥
当性の検討のためストレス反応及びバーンアウト尺度を用いた検討を行う。
第 3 章 の 研 究 2-1 で は ,就 職 前 後 の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ,対 処 ,バ ー ン ア ウ ト ,
及び就職後のリアリティショックの縦断的変化の実態について検討する。ソー
シャルスキルや対処,バーンアウトが就職前後でどのように推移するのか,就
職後のリアリティショックがどのように推移するのかの検討を行う。時期の選
定としては,就職前は,すべての看護学実習が終了している卒業前の 1 月~3
月 , 就 職 後 は , 先 行 研 究 ( 水 田 , 2004; 平 賀 他 , 2007) を も と に , リ ア リ テ ィ
ショックが最も高まるといわれる就職 3 ヶ月時,新たなショック反応が生じる
といわれる就職 6 ヵ月時,そして看護師として独り立ちする時期であり,リア
リ テ ィ シ ョ ッ ク が 低 減 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 就 職 12 ヶ 月 時 を 選 ん だ 。
第 3 章 の 研 究 2- 2 で は , 新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に
つ い て ,縦 断 調 査 す べ て に 協 力 が 得 ら れ た 群 と 調 査 を 中 断 し た 群 の 比 較 を 行 う 。
全 4 回を継続して回答した人は適応的である可能性があることから,各調査時
期でドロップアウトした人との違いを検討する。
第 4 章,研究 3 では,就職前のバーンアウトが就職後のリアリティショック
やバーンアウトに及ぼす影響について検討する。在学時にバーンアウトしてい
る学生は,就職後もうまくいかないだろうという悲観的な予測を立てやすく,
そのためにリアリティショックを敏感に感じて不適応を起こすことが推測され
る。そのため就職前から就職後の関係性を,重回帰分析を用いて検討する。
第 5 章,研究 4 では,リアリティショックの認知からバーンアウトのプロセ
ス に ,ス キ ル と 対 処 が 及 ぼ す 影 響 の 検 討 を 行 う 。ス キ ル を 採 用 し た 理 由 は ,看 護
は 患 者 と 看 護 師 の 対 人 関 係 を 基 盤 に 行 わ れ る こ と ,看 護 師 は 医 療 チ ー ム の 一 員
としての役割を求められることから人間関係を良好に保つ能力が求められる。
そ の た め ,個 人 特 性 の 中 で も ソ ー シ ャ ル ス キ ル を 用 い た 。
リアリティショックに対する対処の有効性の結果バーンアウトの程度は決定
されるが,このリアリティショックの認知と対処には個人特性であるソーシャ
ルスキルが影響すると考えられる。そこで本章ではどの要因がバーンアウトに
26
第1章
影 響 を 及 ぼ す の か そ の 特 定 の た め の 検 証 を ,重 回 帰 分 析 を 用 い て 行 う 。併 せ て ,
時期によって関連要因がどう推移するかについても検討する。就職直後はリア
リティショックが高まるためソーシャルスキルや対処が有効に働かず,バーン
アウトが高まる可能性が考えられる。しかし時期の推移とともにスキルや対処
が効きはじめ,バーンアウトが低くなる可能性が考えられる。そのため,時期
による推移についても検討する。
第 6 章,研究 5 では,リアリティショックとバーンアウトとのトランスアク
ション的な関係についての検討を行う。トランスアクション・モデルでは,学
生時代のバーンアウトが原因となり就職後のリアリティショックの認知に影響
を 与 え , 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク が 原 因 と な り ,同 時 期 の バ ー ン ア ウ ト を
敏感に認知するというように,リアリティショックとバーンアウトが相互に関
連しあって時間的に推移していくと考えられる。本研究ではその検討を行う。
第 7 章では総合考察として,研究 1 から研究 5 の結果に基づいて最終的なモ
デルの検討を行い,新人看護師のリアリティショックとバーンアウトの関係に
ついての考察を行う。さらに,今回の知見をもとに,新人看護師がバーンアウ
トしないための介入の可能性についても考察する。
第 1 章のまとめ
序論ではリアリティショックに関する先行研究をレビューし,新人看護師が
置 か れ て い る 現 状 と 問 題 点 ,先 行 研 究 の 限 界 ,本 論 文 の 着 眼 点 に つ い て 述 べ た 。
これまでの研究でリアリティショックの因子構造は明らかになっているが,ギ
ャップについては不明確なまま研究が進められていた。その理由として,就職
前の予測と就職後の現実との認知的不整合については議論されておらず,リア
リティショックとバーンアウトの関係も明らかにされていないことが考えられ
た。新人看護師が自己に対して抱いている能力や自己評価と,職場において求
められる現実とのギャップという不整合を認知することがリアリティショック
で あ る 。本 研 究 で は 認 知 的 不 整 合 の 視 点 に 立 ち ,Lazarus の 考 え 方 を 基 盤 と し ,
新人看護師のリアリティショックとバーンアウトの関係のモデルを作成しリア
リティショックやバーンアウトの発生や維持についての検証を行うこととした。
27
第2章
第2章
研究 1
1.
リアリティショックを測定する尺度の開発
問題
1-1
リアリティショックを測定する尺度
リアリティショックを測定する既存の尺度は,新人看護師が就職してから感じ
たストレッサーやストレス反応を測定しており,就職前の予測と就職後の現実と
の認知的不整合が原因で生じる生起するリアリティショックが測定できている訳
で は な い 。 平 賀 ・ 布 施 (2007)の 「 新 卒 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 構 成 因 子 」
である 8 因子には,先輩看護師に対して不信感があるなどの「職場の人間関係」
や ,一 人 で 業 務 を 行 う こ と に 自 信 が な い な ど の「 看 護 実 践 能 力 」,胃 部 症 状 が あ る
な ど の「 身 体 的 要 因 」,精 神 的 な 落 ち 込 み を 感 じ る な ど の「 精 神 的 要 因 」の 因 子 が
含まれ,ストレッサーとストレス反応とが混在している。予測と現実のギャップ
から生じるリアリティショックが正確に測定できているかは疑問である。
水 田( 2004)は ,Lazarus の ス ト レ ス・コ ー ピ ン グ 理 論 を 基 盤 と し て「 新 卒 看 護
師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク か ら の 回 復 モ デ ル 」を 作 成 し た 。そ し て ,
「予期せぬ苦痛」
を就職前にどの程度予想したかを,3 カ月時に知覚している苦痛と比較できるよ
う に 同 条 件 で 回 答 を 求 め た 。 水 田 ( 2004) は , 予 期 せ ぬ 苦 痛 を 「 望 ん で い な か っ
た こ と や 予 想 以 上 の 苦 痛 を 含 む ,就 職 後 出 会 う 予 期 せ ぬ 苦 痛 や 不 快 さ を 伴 う 現 実 」
と定義している。水田の研究は,各質問項目に対して就職前にどの程度予想して
いたかを問うている。しかし結果をみると「看護技術に対する苦痛」は就職前か
ら予測できており,その程度も就職前と差が認められなかったことから, 予測と
現実のギャップという認知的不整合の点からリアリティショックを測定できてい
るわけではない。従って認知的不整合を測定するためには,自分が予測していた
ことと現実のギャップを直接評価させ,思っていた以上に負荷となっているのか
否かを測定することが課題となる。
研究1では就職 3 ヶ月時のリアリティショックをもとに,新人看護師のリアリ
ティショックを認知的不整合の視点でとらえることのできる尺度開発を行うこと
を目的とする。就職 3 ヶ月時は最もリアリティショックが高いことから選定した
( 日 本 看 護 協 会 ,2005;水 田 ,2004;平 賀 他 2007)。ま ず は 新 人 看 護 師 に ,就 職 前
28
第2章
と比べて就職後の大きな変化があった点についてインタビューを行い,それをも
とにリアリティショック質問紙の項目を作成する。次に就職後の新人看護師を対
象にアンケート調査を実施する。教示においては,実習時を基準として,自分が
思っていた以上にギャップがあるか,そうでないかを問うことで,認知的不整合
の視点から得点化できるようにする。
2. 研 究 目 的
新人看護師のリアリティショックを認知的不整合の視点でとらえることのでき
る尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討する。
3. 研 究 方 法
3-1
調査協力者
2010年 と 2011年 に 中 国 四 国 地 方 及 び 近 畿 地 方 の 看 護 系 の 専 門 学 校 及 び 大 学 を 卒
業 し た 新 人 看 護 師 を 対 象 と し た 。2010年 6月 ~ 7月 と 9月 ~ 10月 ,2011年 6月 か ら 7月
と 9月 ~ 10月 に か け て , 質 問 紙 に よ る 郵 送 調 査 を 行 っ た 。 再 検 査 法 を 目 的 と し て 9
月 ~ 10月 に も 送 付 し た 。 時 期 の 選 定 は 先 行 研 究 (水 田 , 2004) を も と に 行 っ た 。
調 査 票 は 2010年 6月 ~ 7月 100名 (平 均 年 齢 22.56歳 ,SD =3.17,男 性 13名 ),2011年
245名 (平 均 年 齢 22.84歳 , SD = 3.54, 男 性 17名 ) の 計 345名 , 有 効 回 答 者 数 は 322
名 ( 93% ,平 均 年 齢 22.75歳 , SD = 3.43) で あ っ た 。 ま た 再 検 査 法 で は , 2回 の 調 査
に 協 力 が 得 ら れ た 142名 を 対 象 と し た 。 な お ,デ ー タ の 欠 損 値 対 処 法 に は 多 重 代 入
法を用いた。
3-2
リアリティショック尺度作成のための予備検討
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 を 作 成 す る に あ た り ,就 職 後 1年 目 の 新 人 看 護 師 13名 に
半構造化面接を実施して項目の候補を抽出することとした。半構造化面接では,
学生時代に考えていたことと,就職して感じた予想とのギャップ,病院での指導
のギャップなどリアリティショックに関する質問や,就職後のストレスに関する
質 問 な ど に 対 し て 自 由 に 答 え て も ら い ,そ の 発 言 内 容 を 意 味 内 容 に 基 づ い て 137枚
の カ ー ド を 作 成 し た 。大 学 院 で 心 理 学 を 専 攻 し て い る 分 析 協 力 者 19名 が KJ法 (川 喜
多 , 1967)の 手 続 き に 従 っ て 137枚 の カ ー ド を 分 類 し , カ ー ド 間 の 一 致 の 程 度 を 求
29
第2章
め た 。 こ の 逆 数 を 求 め て 項 目 間 の 距 離 と し , 全 項 目 の 距 離 行 列 を 用 い て WARD法 に
よ る ク ラ ス タ ー 分 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , 18ク ラ ス タ ー が 得 ら れ た 。 そ れ ら の ク
ラスターのうち,ストレス反応に関するものを除外し,類似した内容のクラスタ
ー を ま と め た 。そ の 結 果 ,6ク ラ ス タ ー ,46項 目 に 集 約 さ れ た 。Table 2-1 に 代 表
的 な 項 目 を 記 す 。 137項 目 が 46項 目 へ と 減 っ た の は ,ス ト レ ス 反 応 に 関 す る も の と
重複するクラスターを除外したためである。
各 ク ラ ス タ ー は ,業 務 の 多 忙 さ や 実 習 と の ギ ャ ッ プ な ど の 項 目 か ら な る 「実 習 と
の ギ ャ ッ プ 」,病 院 で の 指 導 の ギ ャ ッ プ や 先 輩 看 護 師 へ の 否 定 的 感 情 ,肯 定 的 感 情
か ら な る「 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」,患 者 と の 関 係 や 患 者 に 対 す る 仕 事 の や り
が い な ど か ら な る 「 患 者 ・家 族 の イ メ ー ジ に 対 す る ギ ャ ッ プ 」 ,心 身 疲 労 の 蓄 積 や
就 業 満 足 か ら な る「 日 常 生 活 で の ギ ャ ッ プ 」,実 践 の 未 熟 さ の 自 覚 や 多 重 業 務 の 困
難 さ か ら な る「 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ
からなる「人間関係に関するギャップ」であった。
3-3
質問紙の構成
(1)リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度
KJ法 と ク ラ ス タ ー 分 析 に よ り 抽 出 さ れ た 46項 目 に ,先 行 研 究 を も と に 5項 目 を 追
加 し ,最 終 的 に 5 1 項 目 か ら な る 質 問 紙 と し た 。追 加 し た 5 項 目 は , 医 師 へ の 報
告 は 難 し い と い っ た 項 目 で ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 測 定 す る 上 で 重 要 だ と
思われるために追加することとした。回答は予想と現実とのギャップを強
調 す る た め ,看 護 学 生 時 代 に 予 想 し て い た 水 準 を 3と し 「1:思 っ て い た よ り 当 て
は ま ら な い 」「2:思 っ て い た よ り や や 当 て は ま ら な い 」「3:学 生 時 代 に 思 っ て い た と
お り だ 」「 4:思 っ て い た よ り や や 当 て は ま る 」か ら 「5:思 っ て い た よ り 当 て は ま る 」
の 5段 階 評 定 と し た 。
リアリティショック尺度の妥当性を検討するためには,バーンアウト尺度とス
トレス反応尺度を用いた。
( 2) バ ー ン ア ウ ト 尺 度
バ ー ン ア ウ ト 尺 度 は ,Maslach Burnout Inventory( 1982)な ど を 参 考 に わ が 国
の ヒ ュ ー マ ン ・ サ ー ビ ス の 現 場 に 適 合 す る よ う , 田 尾 (1996) に よ っ て 開 発 さ れ
30
第2章
Table 2-1
クラスターと代表的な項目
業務の多忙さ
予想以上に患者一人ひとりにじっくりと関われない
予想以上に担当患者が多く名前や疾患が覚えられない
責任の重さ
看護実践での責任が重いと感じる
実習とのギャップ
予想以上に重症患者にとまどう
自宅に帰っても仕事が頭から離れない
指導のギャップ
予想以上に看護師によって言うことが違い混乱する
根拠づけが重視されたが現場では根拠に基づいた指導が少ない
先輩看護師への否定的感情
ミスをしたら先輩に強く叱られる
先輩看護師の顔色をうかがってしまう
先輩看護師への肯定的感情
先輩は受容的に指導してくれる
助けを求めると先輩が手伝ってくれる
患者との関係
ある程度は信用されると思っていたが現実には患者から信用さ
れていないと感じる
思った以上に患者や家族は治療に協力的ではない
仕事のやりがい
患者がよくなっていくのを見るのがうれしい
患者が笑顔でいるのを見るのがうれしい
心身疲労蓄積
生活リズムが崩れている
休みの日も勉強会などがあり十分休めない
就業満足
研修がしっかりしていることに満足している
収入源があることに満足している
良好な支援
希望した病棟に配置され満足している
実践の未熟さの自覚
自分の力では患者の苦痛の軽減は難しいと感じる
自分のしている事が正しいかどうかわからない
多重業務
電話対応に追われると自分が行っていた業務を忘れたりする
急な予定や入退院などが入ると担当業務に手が回らなくなる
人間関係に関するギャップ
思った以上に上司との関係は良い
思った以上に先輩看護師と人間関係をつくるのが難しい
実習とのギャ
ップ
新人教育に関
するギャップ
患 者・家 族 の イ
メージに対す
るギャップ
日常生活での
ギャップ
看護の実践に
関するギャッ
プ
人間関係に関
するギャップ
た 尺 度 17項 目 で あ る 。 「情 緒 的 消 耗 感 」「 脱 人 格 化 」「 個 人 的 達 成 感 の 低 下 」 の 3因
子で構成され,対人援助職者のストレス反応を測定する尺度として広く用いられ
ており,信頼性と妥当性が確認されている。バーンアウト尺度を用いることで,
身体的にも精神的にも疲れ果てたという個人が受けるストレスだけではなく,患
31
第2章
者との関係性における職場での適応性を測定できる。リアリティショックに陥る
と,新人看護師個人の消耗感だけではなく,対患者との関係にも影響を及ぼし,
バーンアウト反応が高まることから,妥当性の検討を行うため採用した。リアリ
ティショックのネガティブ因子は情緒的消耗感,脱人格化と正の関係が,ポジテ
ィブ因子は個人的達成感の低下と負の関係を示すことが予測される。
対 象 者 の 負 担 を 考 慮 し ,情 緒 的 消 耗 感 ,脱 人 格 化 ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 の 各 因
子 か ら 負 荷 量 の 高 い 4項 目 ず つ 計 12項 目 を 採 用 し ,因 子 分 析 を 行 う こ と で 因 子 の 確
認を行った。点数が高いほどバーンアウト反応に陥っていることを意味する。回
答 は “ 1:全 く 体 験 し な い ” ,“ 2:1カ 月 に 1回 か そ れ 以 下 ” ,“ 3:1カ 月 に 数 回 ” ,
“ 4: 1週 間 に 1回 ” , 5: 1週 間 に 数 回 ” , “ 6: 毎 日 ” の 6件 法 で 実 施 し た 。
( 3) ス ト レ ス 反 応
リアリティショックによりストレス反応が生じることから, 妥当性の検討のた
め 測 定 し た 。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ネ ガ テ ィ ブ 因 子 は ス ト レ ス 反 応 と 正 の 関 係 が ,
ポジティブ因子は充実感尺度と負の関係を示すことが予測される。
心 理 的 ス ト レ ス 反 応 尺 度 ( SRS-18)( 鈴 木 ・ 島 田 ・ 三 浦 ・ 片 柳 ・ 右 馬 埜 ・ 坂 野 ,
1997)よ り 精 神 反 応 6項 目 ,看 護 師 用 ス ト レ ス 反 応 尺 度( 山 口・服 部・中 村・水 野・
小 林 ,2001) よ り 身 体 反 応 6項 目 , 充 実 感 尺 度 ( 大 野 ,1984) よ り 充 実 感 に 関 す る 5
項目を用いた。いずれも因子負荷量の高い上位項目から選出した.回答は“全く
当 て は ま ら な い ” か ら “ 非 常 に 当 て は ま る ” ま で の 6件 法 で 実 施 し た 。
3-4
手続き
「看 護 学 生 の ス ト レ ス に 関 す る 調 査 」と し て , 質 問 紙 へ の 回 答 を 求 め た 。 調 査 対
象者には,在学中に調査に関する説明を行い,了解を得られた者のみのデータを
用いた。在学時での実施は,無記名の自記式質問紙調査と同意書を配布し,回収
は調査票を封筒に入れて封をした後,回収ボックスにて回収した。卒業後は郵送
法により実施した。縦断的調査のため,データ照合を可能とする目的で調査対象
者の学生番号とイニシャルを記入するよう依頼した。郵送先は,本人記載の住所
とした。
32
第2章
3-5
分析方法
ス ト レ ス 反 応 ,バ ー ン ア ウ ト の 各 尺 度 は 実 習 時 と 就 職 後 そ れ ぞ れ に 因 子 分 析( 最
尤法プロマックス回転)を行った。実習時と就職後で異なる因子として抽出され
た項目を除外し,共通する下位因子項目のみを分析の対象とした。抽出された因
子 ご と に Cronbach の 信 頼 性 係 数 を 算 出 し た 。下 位 尺 度 得 点 は ,高 い 負 荷 量 を 示 し
た項目の平均値で算出した。再検査法ではピアソンの相関係数を算出した。
4. 倫 理 的 配 慮
広島大学大学院総合科学研究科倫理審査委員会の承認を得て着手した。 調査対
象者が所属する各学校の倫理委員会に研究計画書を提出し,承認を得たのちに実
施した。調査対象者には研究者が各学校に出向き,研究の目的とその応用的効果
について説明し,自由意思で調査に参加することができ強制されることはないこ
と,およびいつでも調査を中断できることを説明した。なお,収集したデータに
ついて,個人情報は番号化することで個人が特定されないようにすること,また
集団データとして数量的に解析され,データの公表に関して個人が特定されるよ
うなことは一切ないこと,データは鍵のかかる場所で厳重に管理し,研究者以外
の目に触れることはないこと,研究終了後は粉砕処分することを説明して了解を
得た。
5.
結果
5-1
因子の抽出
5-1-1
リアリティショック尺度
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 は ,最 尤 法 プ ロ マ ッ ク ス 回 転 に よ る 因 子 分 析 を 行 っ た 。
固 有 値 の 推 移 か ら ,6因 子 構 造 が 妥 当 で あ る と 判 断 し た 。共 通 性 を 0.16以 上 で あ る
こ と と し ,因 子 負 荷 量 が .35未 満 の も の と ダ ブ ル ロ ー デ ィ ン グ し て い る 項 目 を 除 い
て 因 子 分 析 を 繰 り 返 し , 因 子 を 確 定 し た 。 途 中 の 過 程 で 10項 目 が 削 除 さ れ , 最 終
的 に は 41項 目 と な っ た 。
最 終 的 に 得 ら れ た 因 子 パ タ ー ン と 因 子 間 相 関 を Table 2- 2に 示 す 。 累 積 寄 与 率
は 51.6%で あ っ た 。
第 1因 子 は 「 わ か ら な い 時 は 先 輩 看 護 師 に 教 え て も ら え る 」「 研 修 が し っ か り し
33
第2章
て い る 」な ど 新 人 教 育 へ の 満 足 感 に 関 す る ポ ジ テ ィ ブ な 内 容 の 8項 目 か ら 成 り ,「新
人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」因 子 と 命 名 し た 。 第 2因 子 は 「 仕 事 優 先 で プ ラ イ ベ ー ト
な時間が持てない」
「 毎 日 身 体 が く た く た に な る 」な ど 日 常 生 活 の 変 化 に 伴 う 負 担
感 や 身 体 的 疲 労 感 に 関 す る ネ ガ テ ィ ブ な 内 容 の 10項 目 か ら 成 り ,「生 活 の 変 化 に 関
す る ギ ャ ッ プ 」因 子 と 命 名 し た 。 第 3因 子 は 「 自 分 ひ と り で 判 断 し て 実 施 す る 自 信
がない」
「 基 本 的 な 看 護 技 術 が で き て い な い 」な ど 看 護 の 実 践 に 対 す る ス キ ル 不 足
の ネ ガ テ ィ ブ な 内 容 の 12項 目 か ら 成 り ,
「 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」因 子 と 命
名 し た 。 第 4因 子 は 「 職 場 に は と て も 怖 い 先 輩 が い て 萎 縮 す る 」「 先 輩 看 護 師 の 顔
色をうかがってしまう」など職場の人間関係構築の困難さに関するネガティブな
内 容 の 5項 目 か ら 成 り , 「職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」因 子 と 命 名 し た 。 第 5
因 子 は 「 患 者 や 家 族 が 笑 顔 で い る の が う れ し い 」「 患 者 の 死 に 接 す る の は つ ら い 」
な ど 患 者 や 家 族 と の 関 係 に 関 す る ポ ジ テ ィ ブ な 内 容 の 3項 目 か ら 成 り ,「 患 者 ・ 家
族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」因 子 と 命 名 し た 。第 6因 子 は「 資 格 を 活 か し て 働 け
ることに満足している」
「自分がやりたいと思っていた看護ができて満足している」
な ど 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ポ ジ テ ィ ブ な 内 容 の 4項 目 か ら 成 り ,「 就 職 後 の 満 足
感に関するギャップ」と命名した。
各 因 子 の α 係 数 は .67~ .83と 中 程 度 か ら 高 い 内 的 一 貫 性 を 示 し て い た 。 プ ロ マ
ッ ク ス 回 転 に よ る 各 因 子 間 の 相 関 係 数 は , .06~ .48の 間 に あ っ た 。 因 子 間 相 関 が
高かったのは,新人教育に関するギャップと就職後の満足感に関するギャップ
( r =.40),生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ( r =.48),
職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( r =.45)で あ っ た 。
リアリティショック尺度の下位因子のうち,生活の変化に関するギャップ,看
護の実践に関するギャップ,職場の人間関係に関するギャップについてはネガテ
ィブなギャップを,新人教育に関するギャップ,患者・家族との関係に関するギ
ャップ,就職後の満足感に関するギャップはポジティブなギャップを表している
ことがわかる。就職後のリアリティショックには,ネガティブ面とポジティブ面
の双方があることがわかった。
5-1-2
バーンアウト尺度・ストレス反応
ストレス反応,バーンアウトの各尺度はそれぞれに因子分析(最尤法プロマッ
34
第2章
ク ス 回 転 ) を 行 っ た 。 抽 出 さ れ た 因 子 ご と に Cronbachの 信 頼 性 係 数 を 算 出 し た 。
下位尺度得点は,因子を構成する項目の平均得点で算出した。
Table 2-2
リアリティショック尺度の項目内容と因子構造
新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 8 項 目 , α =.81)
わからない時は先輩看護師に教えても
.84
らえる
先輩看護師はていねいに指導してくれ
.74
る
看護援助で困ったら先輩に助けを求め
.69
られる
必要な技術は仕事をしながら覚えてい
.51
ける
上司との人間関係は良いと思う
.43
研修がしっかりしている
.43
プリセプターは頼りになる
.40
根拠に基づいた指導が受けられていな
-.37
い (R)
生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 10 項 目 , α =.83)
仕事優先でプライベートな時間が持て
-.03
ない
仕事の量が多い
-.07
休みの日でも勉強会やレポート課題な
.08
どがあり十分休めていない
時 間 的 余 裕 が あ る (R)
.08
自宅でも勉強しなければいけないこと
-.02
が多い
生活リズムが崩れている
-.01
自宅に帰っても仕事が頭から離れない
.05
事務的処理に追われている
.04
毎日身体がくたくたになる
.13
仕事での時間配分は難しい
-.13
看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 12 項 目 , α =.78)
医師への報告がまとめられない
.14
自分一人で判断して実施する自信がな
.03
い
検査やリハビリなど他部門への連絡が
-.05
難しい
患者の個別的状況を把握して対応する
.10
能力が不足している
患者の質問に答えられていない
.04
基 本 的 な 看 護 技 術 (療 養 上 の 世 話 ) が で
-.12
きていない
35
-.07
.11
-.02
.05
-.02
.02
.14
-.12
-.02
.00
-.02
-.05
.00
.12
-.04
.09
-.28
.16
.07
.09
.01
-.04
.07
.09
.02
.13
-.33
.00
-.03
-.15
.01
-.07
.24
.07
.23
.00
.02
.10
.02
-.04
.73
-.11
-.01
-.18
-.01
.71
-.04
.00
.10
.07
.66
-.09
.16
-.24
-.01
-.59
-.05
.16
-.23
.16
.50
.04
.04
.05
.10
.47
.47
.43
.40
.38
.01
.20
.07
.01
.30
.05
.12
-.05
.18
-.14
-.05
-.09
.05
.10
.27
-.03
.01
-.03
-.11
.06
-.11
.67
.17
.00
-.02
-.08
.59
-.02
.23
-.12
.02
.55
.13
-.07
.20
.06
.54
.01
.01
-.11
.00
.50
.03
.02
-.02
-.09
.46
.25
-.11
.07
第2章
電話やナースコールへの対応は難しい
.14
.09
.41
患者の申し送りの伝達が不十分である
.08
.11
.41
注射や採血などの診療上の補助がうま
.16
.21 -.39
く で き て い る (R)
業務が重なると仕事の優先順位がつけ
.09
.26
.37
られなくなる
患 者 の 個 別 的 状 況 を 把 握 (情 報 収 集 ) す
-.05
.26
.35
る時間がとれていない
担当患者の名前や疾患名が覚えられて
-.18
.14
.35
いない
人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 4 項 目 , α =.76)
職場にはとても怖い先輩がいて萎縮す
-.06
.00 -.01
る
先輩看護師の顔色をうかがってしまう
-.03
.04
.25
先輩看護師と人間関係を作るのが難し
-.16 -.02
.06
い
先輩看護師によって言うことが違い混
-.06
.14 -.07
乱している
患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 3 項 目 , α =.67)
患者や家族が笑顔でいるのがうれしい
-.04 -.04
.04
患者が良くなっていくのがうれしい
.02
.14 -.07
患者の死に接するのはつらい
.15
.06 -.04
就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 4 項 目 , α =.71)
収入があることに満足している
.18 -.07
.13
資格を活かして働けることに満足して
.15
.04 -.06
いる
色んな仕事を覚えることができ満足し
.23 -.07 -.16
ている
自分がやりたいと思っていた看護がで
.12 -.03 -.20
きて満足している
.08
-.06
-.24
.01
-.07
.02
.10
.04
.09
-.06
-.02
-.04
-.16
-.09
-.06
-.07
-.10
.07
.74
.04
-.01
.64
-.01
.22
.54
.07
-.16
.46
.00
-.09
-.02
.12
.11
.71
.63
.47
.25
.18
-.15
.05
.16
.53
-.04
.06
.51
.01
.05
.44
-.04
-.09
.42
寄与率(%)
4.81
3.38
3.15
5
6
1
2
3
4
5
6
18.68
因子相関行列
1
新人教育に関するギャップ
1.00
生活の変化に関するギャップ
-.13
看護の実践に関するギャップ
-.12
職場の人間関係に関するギャップ
-.34
患者家族との関係に関するギャップ
.35
就職後の満足感に関するギャップ
.40
10.46
5.96
2
3
1.00
.48
.45
.10
-.36
1.00
.29
.06
-.28
4
1.00
.16
-.35
1.00
.10
1.00
バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 因 子 を 確 定 す る た め に ,3因 子 を 仮 定 し て 因 子 分 析( 最 尤 法 ,
プ ロ マ ッ ク ス 回 転 )を 行 っ た 。バ ー ン ア ウ ト 尺 度 は ,情 緒 的 消 耗 感 と ,脱 人 格 化 ,
個 人 的 達 成 感 の 低 下 か ら 構 成 さ れ ,先 行 研 究 同 様 3因 子 構 造 で あ る こ と が 確 認 で き
36
第2章
た( Maslach, Jackson & Leiter,1997;久 保 ,2007)。累 積 寄 与 は 64.0%で あ っ た 。
下位項目が先行研究とほぼ一致していたため,先行研究に従い,情緒的に力を出
し つ く し 消 耗 し き っ た 状 態 を 示 す 内 容 の 「 情 緒 的 消 耗 感 」 (α =.83), 情 緒 的 資 源
の 節 約 ・ 無 常 で 非 人 間 的 な 対 応 を 示 す 内 容 の 「 脱 人 格 化 」 (α =.80), バ ー ン ア ウ
トすると有能感・達成感が急激に落ち込むことからバーンアウトの自己評価を表
す 内 容 の 「 個 人 的 達 成 感 の 低 下 」 (α =.73)と し た 。 各 因 子 間 の 相 関 は , 情 緒 的 消
耗 感 と 脱 人 格 化 と の 間 で 高 い 正 の 相 関 ( r =.73) ,情 緒 的 消 耗 感 と 個 人 的 達 成 感 の
低 下 と の 間 で 弱 い 負 の 相 関( r =-.27),脱 人 格 化 と 個 人 的 達 成 感 の 低 下 と の 間 で 中
程 度 の 負 の 相 関 ( r =-.36) が 認 め ら れ た 。 α 係 数 は .73~ .83と 比 較 的 高 い 内 的 一
貫性を示した。
ス ト レ ス 反 応 に つ い て は , 2010年 度 と 2011年 度 の 調 査 で 共 通 す る 項 目 で あ る 12
項目を対象として因子分析(最尤法,プロマックス回転)を実施した。因子分析
の 結 果 ,3因 子 に 分 か れ ,累 積 寄 与 は 67.9%で あ っ た 。1因 子 目 は 充 実 感 の 低 下 に 関
連 す る 項 目 で 構 成 さ れ て お り ,「 充 実 感 の 低 下 」因 子 と 命 名 し た ( α =.91)。 2因 子
目 は 「 悲 し い 気 持 ち だ 」「 話 や 行 動 が ま と ま ら な い こ と が あ る 」「 身 体 が だ る い 」
な ど 抑 う つ 気 分 に 関 連 す る 5項 目 で 構 成 さ れ て お り「 抑 う つ 反 応 」因 子 と 命 名 し た
( α =.79)。 3因 子 目 は 「 イ ラ イ ラ す る 」「 怒 り を 感 じ る こ と が あ る 」 の 2項 目 で 構
成 さ れ て お り「 怒 り 反 応 」因 子 と 命 名 し た( α =.79)。各 因 子 間 の 相 関 は ,抑 う つ
因 子 と 怒 り 因 子 と の 間 で 中 程 度 の 正 の 相 関 ( r =.47) ,抑 う つ 因 子 と 充 実 感 の 低 下
因 子 と の 間 で 低 い 正 の 相 関 ( r=.22) ,怒 り 因 子 と 充 実 感 の 低 下 因 子 と の 間 に お い
て も 低 い 正 の 相 関( r=.18)が 認 め ら れ た 。α 係 数 は .79~ .91と 高 い 内 的 一 貫 性 を
示した。
5-1-3
リアリティショック尺度の信頼性・妥当性の検討
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 下 位 因 子 に お け る 内 的 一 貫 性 の 検 討 の た め Cronbach
の α 係 数 を 算 出 し た と こ ろ ,全 体 で .77,各 因 子 で .67~ .83と 中 等 度 か ら 高 い 内 的
一 貫 性 が 認 め ら れ た (Table 2-2)。 そ の た め , 各 因 子 は 安 定 し た 項 目 構 成 に な っ
て い る こ と が わ か る 。さ ら に 再 検 査 法 に よ る 信 頼 性 検 討 を 行 う た め ,就 職 後 3ヶ 月
時 と 6ヶ 月 時 で の 因 子 間 相 関 を 算 出 し た と こ ろ ,相 関 係 数 は .62~ .74と 比 較 的 高 い
相 関 を 示 し , 高 い 信 頼 性 を 示 す こ と が わ か っ た ( Table 2-3)。 従 っ て リ ア リ テ ィ
37
第2章
ショック尺度は内的一貫性及び再検査法の観点から,その信頼性が確認された。
な お ,以 後 の 表 の 記 載 で は ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ を「 生 活 の 変 化 」,看
護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ を「 看 護 の 実 践 」,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ を
「 人 間 関 係 」, 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ を 「 新 人 教 育 」, 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に
関 す る ギ ャ ッ プ を 「 患 者 ・ 家 族 」, 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ を 「 満 足 感 」
と表記する。
Table 2-3
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 就 職 3ヶ 月 時 と 6ヵ 月 時 の 相 関 分 析 結 果
リアリティショック 6 ヵ月時
3
ヵ
月
時
生活の
変化
看護の
実践
人間関
係
新人教
育
患者・
家族
生活の変化
.74 **
.44 * *
.49 * *
-.20 * *
.17 * *
-.27 * *
看護の実践
.40 **
.64 * *
.37 * *
-.05
.13 * *
-.30 * *
人間関係
.40 **
.24 * *
.70 * *
-.42 * *
.10 * *
-.27 * *
新人教育
-.15 **
-.14 * *
-.46 * *
.72 * *
.23 * *
.45 * *
患 者 ・家 族
.24 **
.07 *
.14 * *
.20 * *
.62 * *
.23 * *
満足感
-.20 **
-.23 * *
-.30 * *
.38 * *
.17 * *
.62 * *
満足感
n=142, ** p <.01, * p <.05
次 に ,妥 当 性 検 討 の た め に ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 と バ ー ン ア ウ ト 尺 度 ,ス
ト レ ス 反 応 と の 間 の 相 関 係 数 を 算 出 し た 。就 職 3ヵ 月 時 に お け る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ
ク と バ ー ン ア ウ ト・ス ト レ ス 反 応 の 相 関 を Table 2-4-1に 示 す 。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ
ク 尺 度 と バ ー ン ア ウ ト 反 応 の 相 関 は ,ネ ガ テ ィ ブ 因 子 は バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 3因 子
と 有 意 な 正 の 相 関 が ,ポ ジ テ ィ ブ 因 子 は バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 3因 子 と 有 意 な 負 の 相
関が認められた。
38
第2章
Table 2-4-1
就 職 3ヵ 月 時 に お け る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と バ ー ン ア ウ ト ・
ストレス反応の相関
リアリティショック
生活の
変化
ト
応
看護の
実践
人間関
係
新人教
育
患者・
家族
満足感
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
看護の実践
.49 **
人間関係
.54 **
新人教育
-.18 **
-.14 *
.15 **
.01
.14 *
.29 * *
-.35 **
-.33 * *
-.42 * *
.54 * *
バ
ー
ン
ア
ウ
情緒的消耗感
.544 **
.36 * *
.56 * *
-.30 * *
-.03
-.46 * *
脱人格化
.291 **
.27 * *
.42 * *
-.30 * *
-.14 *
-.44 * *
達成感の低下
.11
.26 * *
.15 * *
-.24 * *
-.16 * *
-.44 * *
ス
ト
レ
ス
反
抑うつ状態
.392 **
.31 * *
.442 * *
-.18 * *
.13 *
-.30 * *
怒り
.161 **
.05
.270 * *
-.11
.06
-.18 * *
充実感の低下
.207 **
.19 * *
.257 * *
-.34 * *
患者・家族
満足感
.37 * *
-.41 * *
.20 * *
-.24 * *
-.52 * *
n=322, ** p <.01, <.05
次 に 就 職 3ヵ 月 時 に お け る バ ー ン ア ウ ト ・ ス ト レ ス 反 応 の 相 関 を Table 2-4-2に
記す。リアリティショック尺度とストレス反応の相関も,ネガティブ因子はスト
レ ス 反 応 の 3因 子 と 正 の , ポ ジ テ ィ ブ 因 子 は ス ト レ ス 反 応 の 3因 子 と 負 の 相 関 が 認
められた。
39
第2章
Table 2-4-2
就 職 3ヵ 月 時 に お け る バ ー ン ア ウ ト ・ ス ト レ ス 反 応 の 相 関
トバ
ー
ン
ア
ウ
情緒的消耗感
バーンアウト
情緒的 脱人格 達成感
消耗感 化
の低下
-.46 **
ストレス反応
抑うつ 怒り
充実感
状態
の低下
脱人格化
-.44 **
.70 * *
達成感の低下
-.44 **
.21 * *
.22 * *
反ス
応ト
レ
ス
抑うつ状態
-.30 **
.51 * *
.39 * *
.13 *
怒り
-.18 **
.25 * *
.23 * *
.04
.58 * *
充実感の低下
-.52 **
.34 * *
.38 * *
.68 * *
.15 * *
.10
n=322, ** p <.01, * p <.05
バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 指 標 は 互 い に 相 関 が 高 い こ と か ら ,3つ の 要 因 が 交 絡 し て 見
か け 上 の 相 関 が 認 め ら れ た 可 能 性 が あ る 。そ こ で 要 因 間 の 関 連 性 を 算 出 す る た め ,
バ ー ン ア ウ ト 指 標 の 残 り 2変 数 を 統 制 変 数 と し た 偏 相 関 分 析 を 実 施 し た 。例 え ば 情
緒的消耗感については脱人格化と個人的達成感の低下を統制変数とした。結果を
Table 2-5 に 記 す 。そ の 結 果 ,
「 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は 情 緒 的 消 耗 感 と
の 間 で 有 意 な 正 の 相 関( r =.49, p <.001)を ,
「 看 護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は 情 緒
的 消 耗 感( r =.23, p <.001)及 び 個 人 的 達 成 感 の 低 下( r =.20, p <.01)と の 間 で 有
意な正の相関を,
「 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は 情 緒 的 消 耗 感 と の 間 で 有
意 な 正 の 相 関 を( r =.41, p <.001)示 し た 。ポ ジ テ ィ ブ 因 子 で あ る「 新 人 教 育 に 関
す る ギ ャ ッ プ 」は 個 人 的 達 成 感 の 低 下 と の 間 で 負 の 相 関 を( r =-.19, p <.01),「 就
職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は ,バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 3つ の 下 位 因 子 と の 間 で
負 の 相 関 を 示 し た ( そ れ ぞ れ r =-.24, p <.001, r =-.17, p <.01, r =-.39, p <.001)。
すなわち主としてネガティブ面のリアリティショックが情緒的消耗感と正の,ポ
ジティブ面のリアリティショックは主として個人的達成感の低下と負の関連をす
ることがわかった。
40
第2章
Table 2-5
就 職 3ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト 偏 相 関 分 析
情緒的消耗
感
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
バーンアウト
脱人格化
達成感の低
下
生活の変化
.49 * * *
-.14 *
看護の実践
.23 * * *
.02
.20 * *
.41 * * *
.06
.03
.02
職場の人間
関係
新人教育
-.13 *
-.14 *
-.19 * *
患者・家族
.11 *
-.15 *
-.15 *
-.24 * * *
-.17 * *
-.39 * * *
満足感
n=322, *** p <.001,** p <.01, * p <.05
さらにストレス反応との偏相関を確認したところ,バーンアウト反応の結果と
同じく,ネガティブ因子は抑うつ反応との間で正の相関を,ポジティブ因子は充
実 感 の 低 下 と の 間 で 負 の 関 連 を 示 し た 。 結 果 を Table 2-6 に 示 す 。 偏 相 関 分 析 の
結 果 , 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( r =.37, p <.001), 看 護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ
プ( r =.35, p <.001),職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( r =.37, p <.001)は い ず れ
も抑うつ反応との間での相関が高かった。ポジティブ因子は,新人教育に関する
ギ ャ ッ プ ( r =-.33, p <.001 ), 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( r =-.25,
p <.001) は 充 実 感 の 低 下 と の 間 で の 相 関 が 高 く , 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ
プ は , 抑 う つ 反 応 ( r =-.22, p <.001) 及 び 充 実 感 の 低 下 ( r =-.49, p <.001) と の 間
で有意な負の相関を示した。これらはいずれも予測を支持するものであった。
Table 2-6
就 職 3ヵ 月 時 の ス ト レ ス 反 応 偏 相 関 分 析
抑うつ状
態
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
ストレス反応
怒り
充実感の
低下
生活の変化
.37 * * *
-.10
.14 *
看護の実践
.35 * * *
-.17 * *
.15 *
職場の人間関係
.37 * * *
.01
.21 * * *
-.01
-.33 * * *
.15 * *
-.02
-.25 * * *
-.22 * * *
-.07
-.49 * * *
新人教育
-.13 *
患者・家族との関
係
満足感
n=322,
*** p <.001,** p <.01, * p <.05
41
第2章
以上の結果から,研究1において作成したリアリティショック尺度は,バーン
アウト反応及びストレス反応の各側面と中程度の相関を示し,偏相関分析からは
下位項目と弁別的な関連を示していることが明らかになった。
6. 考
察
研究1の目的は,新人看護師のリアリティショックを測定する尺度を開発し,
信頼性および妥当性の検討を行うことであった。まず,新人看護師へのインタビ
ュ ー と 先 行 研 究 に よ る 項 目 収 集 を 行 い , 尺 度 原 案 を 作 成 し た 。 次 に 51項 目 か ら 構
成 さ れ る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 原 案 を 因 子 分 析 し た 結 果 ,「生 活 の 変 化 に 関 す る
ギ ャ ッ プ 」「 看 護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」
「職場の人間関係に関するギャップ」
「新
人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職 後 の 満
足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」の 41項 目 6因 子 が 抽 出 さ れ た 。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 は
ネ ガ テ ィ ブ 3因 子 と ポ ジ テ ィ ブ 3因 子 の 併 せ て 6因 子 構 造 で あ る こ と が わ か っ た 。
バーンアウト尺度及びストレス反応とは中程度の関連性が示され,妥当性が確
かめられた。とりわけ,バーンアウトの最も中心的な症状といわれる情緒的消耗
感( Leiter & Maslach,1988)が リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ネ ガ テ ィ ブ 因 子 と 関 連 し て
いることから,バーンアウトを予測する指標として有用であることがわかった。
6-1
リアリティショックの因子構造に関する考察
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ネ ガ テ ィ ブ 面 は 「生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 看 護 実
践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」 の 3因 子 か ら 構 成 さ れ
た 。 「生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は プ ラ イ ベ ー ト な 時 間 が 持 て な い や , 生 活 リ
ズムが崩れているなど,新生活に占める仕事の割合が多く,自宅に戻っても仕事
のことが頭を離れず気分転換できないといった,仕事中心の生活を強いられ,生
活リズムが崩れることによる負荷がかかっていることを意味する。 学生時代から
1年 以 上 に わ た る 臨 地 実 習 を 通 し て 看 護 の 仕 事 は 理 解 し て い る も の の ,実 際 に 仕 事
についてみると予想以上に仕事量が多く,また学ばなければならないことも多い
ため,生活へしわ寄せがきていることを意味する。本研究で抽出されたネガティ
ブ因子のうち,看護実践能力に関しての困難や,職場の人間関係に関しては先行
研 究( 水 田 ,2004;平 賀 他 ,2007)で 得 ら れ た 因 子 と 同 様 で あ る 。そ れ に 対 し て ,
42
第2章
「生 活 の 変 化 に 伴 う ギ ャ ッ プ 」は 本 研 究 で 独 自 に 抽 出 さ れ た 因 子 で あ る 。 就 職 す る
とそれまでの学生生活とは違い,仕事優先で,休みの日でも 自宅でレポートを書
いたりと業務外の仕事も多い。就職後の生活の変化は予測できても,実際始まっ
てみると予想以上に大変で,現実にはどこまでが仕事でどこまでが休みかの線引
きが難しく,肉体的にも精神的にも心身疲労の蓄積が予想を超えて新人看護師に
重くのしかかっているものと推察される。
「 看 護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は 患 者 の 個 別 的 状 況 を 把 握 し て 対 応 す る こ と や ,
多重業務への対応困難など,看護の実践に対する側面で,予想以上に負荷がかか
っていることを意味する。新人看護師は,予想した以上に自分一人で判断して実
施する自信がないことや,基本的な看護技術ができないことでギャップを認識し
ているといえる。その理由として,看護基礎教育において習得するべきとみなさ
れている内容と,就職先で求められる内容やその技術水準が十分でないことが考
えられる。看護師養成課程では,具体的な目標設定と根拠に基づいた実践を行う
こ と に 主 眼 を 置 い た 教 育 が な さ れ て い る( 新 人 看 護 職 員 研 修 ガ イ ド ラ イ ン ,2011b)。
多くの看護学生は看護過程の学習を通して,問題解決型の思考について学ぶ。臨
地実習では,患者の回復のための長期目標,短期目標を定め,目標達成のために
看護師は具体的にどのように行動するかということを求められる。常に問題解決
を求められる医療の世界においては,根拠立てと可視化を主眼においた教育がな
さ れ て い る( 香 川・櫻 井 ,2007)。し か し ,臨 床 で は ま ず は 仕 事 に 慣 れ る た め 注 射
や採血といった診療上の補助業務ができる,他部門への連絡がスムーズにできる
といった実務上の能力が求められる。従って養成課程時代に学習した内容と,就
職後に求められることとの間にギャップが生じ,仕事内容についての不安や困難
感が引き起こされたり,実際に技術がうまく提供できなかったりすること が看護
実践困難感に結びついていると考えられる。
「職場の人間関係に関するギャップ」は職場の人間関係に伴う負荷を示す。学
生時代の臨地実習においても臨床の看護師との人間関係を経験するが,実際の仕
事となるとチーム医療のもと幅広い年齢層の看護師と連携して仕事をこなさなけ
ればならない。社会人としてのマナーや常識が身についていない新人看護師が多
い こ と が 指 摘 さ れ て い る ( 看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2007)
が ,新 人 看 護 師 に し て み れ ば ,就 職 し て す ぐ 円 滑 な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が 求 め
43
第2章
られる中で,どのタイミングで質問していいのかわからなかったり,敬語が使え
なかったりするなど,職場の人間関係を調整できずに困難を感じていることが考
えられる。また看護学生時代には就職して配置される職場の人間関係までは予測
がつかないことも,人間関係維持の困難さに結びついていると考えられる。
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ポ ジ テ ィ ブ 面 は ,「 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 患 者 ・
家族との関係に関するギャップ」
「 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」の 3 因 子 か
ら構成された。
「 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」は ,先 輩 看 護 師 が 受 容 的 に 接 し て く
れることや仕事を通して看護技術が上達することで,自分が予想した以上に仕事
への満足感が得られていることなど,自分が予想した以上に卒後教育が充実して
いたり,支援が得られていることを意味する。就職先でのサポーティブな職場の
雰囲気があると職場定着に促進的に働くと考えられる。看護実践時や業務遂行時
の手助け,失敗時のフォローなどの他に,常に質問が出来る雰囲気が職場にある
ことや,常に気にかけてもらっていることを実感するような言葉がけがあるとい
っ た ,サ ポ ー テ ィ ブ な 職 場 の 雰 囲 気 が あ る と 職 場 定 着 に 結 び つ く( 久 留 島 ,2004)
といわれるが,新人が配属された部署においても, 日常的な看護実践場面での先
輩 看 護 師 か ら の 支 援 が 得 ら れ ,職 場 適 応 を 促 進 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。
「患者・家族との関係に関するギャップ」は,患者の回復や患者・家族との関
係づくりが予想以上に自分の喜びとなっていることを意味する。本因子の得点は
リアリティショック尺度の中でも最も高く,新人看護師は自分が思っていた以上
に患者・家族との関係を大切に感じていることがわかる。看護とは患者と看護者
との相互作用であり,それぞれが互いに学び,成長していく人間と人間の関係で
あ る( Peplau,1952)。患 者 の 病 気 か ら の 回 復 を 支 え ,最 後 ま で 適 切 な 看 護 を 提 供
す る こ と は ,看 護 の 質 の 向 上( Kramer et al.,2013)に つ な が り ,結 果 的 に 新 人
看護師にとって仕事の動機づけを高めることになると考えられる。
「就職後の満足感に関するギャップ」は,収入があることや自分が目指す看護
ができ,予想以上に満足を感じていることを意味する。学生時代から看護師にな
ることを目標に学習を重ね,臨地実習を乗り越えてきた新人看護師にとって,自
分がやりたいと思っていた仕事に就き働くことは自己実現につながるといえる。
厚生労働省の調査によると,医療・福祉系の初任給は一般の大学卒業者等に比較
し て 高 額 ( 厚 生 労 働 省 平 成 26年 度 賃 金 構 造 基 本 統 計 調 査 , 2014) で あ り , 概 し て
44
第2章
給与に対する満足度も高いと思われた。しかし本因子の平均値は最も低く,予想
していた以上の満足感を得ている人は少ないことが考えられる。
これまでリアリティショックは,ストレスに結びつくことからネガティブ面が
強 調 さ れ て き た 。 本 研 究 に お い て は , 「思 っ た 以 上 に よ か っ た 」と い う ポ ジ テ ィ ブ
な 側 面 で の ギ ャ ッ プ ( 認 知 的 不 整 合 ) が 抽 出 さ れ , 先 行 研 究 ( 水 田 , 2004; 平
賀 他 , 2007) と の 内 容 の 違 い が 明 ら か に な っ た 。 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 を 構 成
するためのインタビューにおいて,新人看護師は就職してからのネガティブな面
だけでなく,ポジティブな面も報告していた。新人看護師が就職して臨床現場に
立つと,ポジティブ・ネガティブ両面で,予想とのずれを実感していることがわ
かる。ストレスと関係するのは,リアリティショックのネガティブ面であ るが,
ポジティブ面がストレスの緩衝要因として機能するものと予想される。
6-2
信頼性と妥当性の検討
信 頼 性 の 検 討 の た め に 算 出 し た Cronbachの α 係 数 は .67~ .83で あ り , 相 応 の 内
的 一 貫 性 を 備 え て い る と 判 断 し た 。 ま た 再 検 査 法 に よ る 相 関 係 数 は .62~ .74で ,
比較的高い信頼性を示すことが確認された。
妥当性検討のために,リアリティショック尺度とバーンアウト尺度,ストレス
反応との関連を検討した。その結果,ネガティブ因子はバーンアウト尺度の情緒
的消耗感及びストレス反応の抑うつ反応との間で中程度の正の関連が認められた。
ポジティブ因子はバーンアウト尺度の個人的達成感の低下及びストレス反応の充
実 感 の 低 下 と の 間 で 中 程 度 の 正 の 関 連 が 認 め ら れ た 。こ れ ら の 相 関 の パ タ ー ン は ,
ほぼ予測どおりであったことから,本尺度は一定の妥当性を有していると 考える
られる。
以上バーンアウト尺度,ストレス反応と中程度の関連性も示され,妥当性が確
かめられた。とりわけ,バーンアウトの最も中心的な症状といわれる情緒的消耗
感 ( Leiter & Maslach, 1988) が リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と 関 連 し て い る こ と か ら ,
バーンアウトを予測する指標として有用であることがわかった。これらのことか
らリアリティショック尺度は実用に耐える信頼性と妥当性を有すると考えられる。
45
第2章
第 2章 の ま と め
研 究 1で は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 開 発 を 行 っ た 。ま ず ,新 人 看 護 師 へ の イ ン
タ ビ ュ ー と 先 行 研 究 に よ る 項 目 収 集 を 行 い , 尺 度 原 案 を 作 成 し た 。 次 に 51項 目 か
ら 構 成 さ れ る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 原 案 を 因 子 分 析 し た 結 果 ,「生 活 の 変 化 に 関
す る ギ ャ ッ プ 」「 看 護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」
「職場の人間関係に関するギャップ」
「 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職 後
の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」の 41項 目 6因 子 が 抽 出 さ れ た 。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺
度 は ネ ガ テ ィ ブ 3因 子 と ポ ジ テ ィ ブ 3因 子 の 併 せ て 6因 子 構 造 で あ る こ と が わ か っ
た 。 「思 っ た 以 上 に よ か っ た 」と い う ポ ジ テ ィ ブ な 側 面 で の ギ ャ ッ プ が 抽 出 さ れ た
こ と で ,先 行 研 究 ( 水 田 ,2004;平 賀 他 ,2007)と の 内 容 の 違 い が 明 ら か に な っ
た。妥当性の検討のため,バーンアウト尺度及びストレス反応との相関分析を行
った結果,いずれの尺度とも中程度の関連性を示し,偏相関分析からは,下位項
目と弁別的な関連を示していることが明らかになった。とりわけ,バーンアウト
の 最 も 中 心 的 な 症 状 と い わ れ る 情 緒 的 消 耗 感 ( Leiter & Maslach, 1988) が リ ア
リティショックのネガティブ因子と関連していることから,バーンアウトを予測
する指標として有用であることがわかった。以上からリアリティショック尺度は
一定の信頼性と妥当性を有していることが確認された。
46
第3章
第 3章
第 3 章 の 研 究 2-1 で は 新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ
い て 明 ら か に す る 。研 究 2-2で は 4回 の 縦 断 調 査 す べ て に 協 力 が 得 ら れ た 群 と 調
査を中断した群の比較を行う。
研 究 2-1新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ い て
問題
1.
就職前の状態と就職後の縦断的変化
多 く の 新 人 看 護 師 は 看 護 学 生 の 最 終 学 年 時 に お い て ,適 切 に 看 護 師 の 役 割 の
準 備 が で き て い る と 自 覚 し て い る こ と が 報 告 さ れ て い る( Doody et al.,2012;
Etheridge,2007)。し か し ,実 際 に は 看 護 師 と し て の 技 術 を 獲 得 で き て お ら ず ,
強 い ス ト レ ス を 受 け て い る の が 現 状 で あ る 。 岡 本 ・ 岩 永 ( 2013)は 新 人 看 護 師
を 実 習 時 と 就 職 3 カ 月 時 に 渡 り 縦 断 調 査 し た 結 果 ,就 職 後 は ソ ー シ ャ ル ス キ ル
が 有 意 に 低 下 し ,バ ー ン ア ウ ト は 有 意 に 上 昇 す る こ と を 明 ら か に し た 。一 方 で
対 処 に 関 し て は 就 職 前 後 で 変 化 が 認 め ら れ な か っ た 。 真 鍋 他 ( 2014) は , 新 人
看 護 師 は ,ス ト レ ッ サ ー に 対 し て 他 人 に 聴 い て も ら う な ど 積 極 的 な 情 動 的 苦 痛
の 軽 減 を は か る 対 処 を 採 用 す る 傾 向 が 少 な く ,バ ー ン ア ウ ト が 高 ま る こ と を 明
ら か に し て い る 。先 行 研 究 か ら ,新 人 看 護 師 は 就 職 前 に は ,あ る 程 度 ス キ ル が
あ る と 自 覚 し て お り ,ス ト レ ス 対 処 も 効 い て い る た め に ,就 職 後 の 状 況 が 適 切
に は 評 価 で き て い な い こ と が 考 え ら れ る ( Newton & McKenna, 2007)。
リアリティショックによるストレスが最も高まるのは就職 3 ヶ月~4 ヶ月頃
で あ る と 指 摘 さ れ て い る (平 賀 ・ 布 施 , 2007 ; Kramer et al., 2013)。 し か
し 構 成 さ れ る 複 数 の 因 子 の す べ て が ,3〜 4 ヶ 月 後 に 高 く な る わ け で は な い 。就
職して半年を過ぎた頃にも勤務形態に関する苦痛が高まるなど新たなショッ
ク 反 応 が 生 じ る と も い わ れ る (水 田 , 2004 ; Kramer, 2013)。 こ れ ら の こ と か
ら ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 要 素 は 異 な る 時 間 的 変 化 を し て い る と 考 え ら れ
る。
47
第3章
本 研 究 で は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 因 子 の 推 移 を 検 討 す る こ と で ,新 人 看 護
師がどの時期にどのようなリアリティショックを受けやすいかを明らかにす
る 。先 行 研 究 か ら ,実 習 時 と 就 職 後 に お い て は 看 護 の 仕 事 の み な ら ず ,ス キ ル
や 対 処 ,バ ー ン ア ウ ト の 状 態 に も 変 化 が 生 じ て い く こ と が 推 測 さ れ る 。そ こ で
ソ ー シ ャ ル ス キ ル や 対 処 ,バ ー ン ア ウ ト に つ い て は 就 職 前 と ,リ ア リ テ ィ シ ョ
ックの選択時期と同時期での推移についても合わせて検討する。
時 期 の 選 定 と し て は ,就 職 前 は ,す べ て の 看 護 学 実 習 が 終 了 し て い る 卒 業 前
の 1 月~3 月,就職後は先行研究より,リアリティショックが最も高まるとい
われる就職 3 ヶ月時,新たなショック反応が生じるといわれる就職 6 ヵ月時,
そ し て 看 護 師 と し て 独 り 立 ち す る 時 期 で あ る 就 職 12 ヶ 月 時 と し た 。
2.
研究目的
本 研 究 で は ,就 職 前 か ら 就 職 後 に か け て ソ ー シ ャ ル ス キ ル ・ 対 処 ・ バ ー ン ア
ウ ト の 推 移 と 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 推 移 を 追 い ,就 職 前 後 で ど の よ う
に変化していくのかを明らかにする。
3.
研究方法
3-1
調査対象者
卒 業 を 控 え た 看 護 専 門 学 校 3 年 生 と 看 護 大 学 4 年 生 を 対 象 と し た 。在 学 時 で
の 実 施 は ,無 記 名 の 自 記 式 質 問 紙 調 査 と 同 意 書 を 配 布 し ,回 収 は 調 査 票 を 封 筒
に 入 れ 封 を し た 後 ,回 収 ボ ッ ク ス に て 回 収 し た 。卒 業 後 は 郵 送 法 に よ り 実 施 し
た 。縦 断 的 調 査 の た め ,デ ー タ 照 合 を 可 能 と す る 目 的 で 調 査 対 象 者 の 学 生 番 号
とイニシャル等を記入するよう依頼した。郵送先は,本人記載の住所とした。
就 職 3 ヶ 月 時 ( 2011 年 6 月 ~ 7 月 ), 就 職 6 ヵ 月 時 ( 2011 年 9 月 ~ 10 月 ), 就
職 12 ヶ 月 時 ( 2012 年 3 月 ) で は 郵 送 調 査 を 行 っ た 。
3-2
調査項目
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の ほ か に ,ソ ー シ ャ ル ス キ ル や 対 処 方 略 の 採 用 ,バ
ーンアウトの測定を行った。具体的には以下の尺度を用いた。
48
第3章
(1)リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度
研 究 1 で 作 成 し た リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 を 用 い た 。「 生 活 の 変 化 に 関 す る
ギャップ」
「看護の実践に関するギャップ」
「職場の人間関係に関するギャップ」
「新人教育に関するギャップ」
「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職
後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」 の 6因 子 , 42項 目 か ら 構 成 さ れ る 。 予 想 と 現 実
と の ギ ャ ッ プ を 強 調 す る た め , 看護学生時代に予想していた水準を
3と し
「1: 思 っ て い た よ り 当 て は ま ら な い 」「2:思 っ て い た よ り や や 当 て は ま ら な い 」
「3:学 生 時 代 に 思 っ て い た と お り だ 」「 4:思 っ て い た よ り や や 当 て は ま る 」か ら
「5: 思 っ て い た よ り 当 て は ま る 」 の 5段 階 評 定 と し た 。
(2)ソ ー シ ャ ル ス キ ル
Kikuchi’ s Scale of Social Skills( 菊 池 , 2007) か ら 因 子 負 荷 量 の 高 い
10 項 目 を 用 い た 。 Kikuchi’ s Scale of Social Skills( Kiss-18) は , 円 滑 な
対人関係を築く心理的な働きを現す概念である社会的スキルを測定しており,
信 頼 性 ,妥 当 性 が 確 認 さ れ て い る 。回 答 は“ い つ も そ う で な い ”か ら“ い つ も
そうである”までの 6 段階評定とした。
(3)対 処 方 略
日 々 の い ら だ ち ご と に 対 す る 対 処 行 動 に つ い て 測 定 可 能 な Tri-axial
Coping Scale 24-item revised( 神 村 他 , 1995)( 3 次 元 モ デ ル に 基 づ く 対 処 方
略 尺 度 ; TAC24)よ り 因 子 負 荷 量 の 高 い 15 項 目 を 採 用 し ,因 子 分 析 を 行 う こ と
で 妥 当 性 を 確 認 し た 。回 答 は“ 全 く 当 て は ま ら な い ”か ら“ 非 常 に 当 て は ま る ”
までの 6 段階評定とした。
(4)バ ー ン ア ウ ト 尺 度
研 究 1 で 採 用 し た バ ー ン ア ウ ト 尺 度 を 用 い た 。対 象 者 の 負 担 を 考 慮 し ,情 緒
的 消 耗 感 , 脱 人 格 化 , 個 人 的 達 成 感 の 後 退 の 各 因 子 ( 田 尾 他 , 1996) か ら 負 荷
量 の 高 い 4項 目 ず つ 計 12項 目 を 採 用 し , 因 子 分 析 を 行 う こ と で 妥 当 性 を 確 認 し
た 。点 数 が 高 い ほ ど バ ー ン ア ウ ト に 陥 っ て い る こ と を 意 味 す る 。回 答 は “ 1:全
く 体 験 し な い ” , “ 2: 1カ 月 に 1回 か そ れ 以 下 ” , “ 3: 1カ 月 に 数 回 ” , “ 4:
49
第3章
1週 間 に 1回 ” , 5: 1週 間 に 数 回 ” , “ 6: 毎 日 ” の 6件 法 で 実 施 し た 。
3-3
調査方法
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク は 全 3 回 ,バ ー ン ア ウ ト は 全 4 回 の 回 答 が あ っ た も の を
対象とした。
3-4
分析方法
因 子 の 確 定 に つ い て は ,因 子 負 荷 量 の 高 い も の か ら 質 問 項 目 を 選 択 し て い る
こ と か ら , ソ ー シ ャ ル ス キ ル , ス ト レ ス 対 処 , ス ト レ ス 反 応 ,バ ー ン ア ウ ト の
尺 度 毎 に 実 習 時 と 就 職 後 そ れ ぞ れ に 因 子 分 析( 最 尤 法 )を 行 う こ と で 確 認 を し
た 。な お ,因 子 間 の 相 関 が 予 測 さ れ る た め プ ロ マ ッ ク ス 回 転 を 採 用 し た 。先 行
研 究 を も と に 下 位 因 子 を 決 定 し , 抽 出 さ れ た 因 子 ご と に Cronbach の 信 頼 性 係
数 を 算 出 し た 。下 位 尺 度 得 点 は ,高 い 負 荷 量 を 示 し た 項 目 の 平 均 値 で 算 出 し た 。
時 間 の 経 過 に よ る 変 化 を 検 討 す る た め に は ,一 要 因 分 散 分 析( 被 験 者 内 計 画 )
を 実 施 し た 。 自 由 度 の 調 整 に は Greenhouse-Geisser 法 を , 下 位 検 定 に は
Bonferroni 法 を 用 い た 。
4.
倫理的配慮
研究1に準ずる。
5.
結
果
5-1. 調 査 票 の 回 収 と 対 象 の 属 性
調 査 票 の 回 収 は 就 職 前 ( 以 下 実 習 時 と 記 す る ) 539 名 , 就 職 3 ヶ 月 時 225 名
( 返 却 率 42% ), 就 職 6 ヵ 月 時 195 名 (返 却 率 36% , 3 ヵ 月 時 未 返 却 者 45 名 含
む ),就 職 12 ヶ 月 時 123 名( 返 却 率 23% )で ,同 じ 対 象 者 で 4 回 と も に 回 答 が
あ っ た の は 89 名 ,う ち パ ー ト 勤 務 な ど を 除 い た 有 効 回 答 者 85 名 で あ っ た 。就
職 3 ヶ 月 時 の み 回 答 が あ っ た 者 は 61 名 , 就 職 3 ヶ 月 時 と 6 ヵ 月 時 に 回 答 が あ
っ た 者 は 67 名 で あ っ た 。ま た ,就 職 12 ヶ 月 時 調 査 時 点 で 退 職 者 は 124 名 中 12
名 ( 10% ) で あ っ た 。
50
第3章
分 析 に 用 い た の は ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 3 回 ,ソ ー シ ャ ル ス キ ル・対 処 ・バ
ー ン ア ウ ト は 4 回 の 調 査 に 回 答 が あ っ た 85 名 で あ る 。 内 訳 は 看 護 専 門 学 校 3
年 生 64 名( 3 月 調 査 時 平 均 年 齢 23.8 歳 ,SD =4.51),看 護 大 学 4 年 生 21 名( 22.3
歳 , SD =0.56), 対 象 者 の う ち 男 子 学 生 は 専 門 学 校 5 名 , 大 学 1 名 の 計 6 名 で あ
っ た 。平 均 年 齢 は 23.47 歳( SD =3.97)で あ っ た 。夜 勤 の 開 始 は 3 ヶ 月 時 で 51 名
( 61 % ) が 夜 勤 を し て お り , 33 名 は 日 勤 ま た は 変 則 勤 務 で あ っ た 。 6 ヵ 月 時
で は 62 名 (74% )が 夜 勤 を し て お り , 12 名 が 日 勤 ま た は 変 則 勤 務 で あ っ た 。 12
ヶ月時では 2 名を除き全員が夜勤をしていた。
5-2
各尺度の因子分析と時系列の変化
(1)リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度
研 究 1 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 を 用 い た 。因 子 分 析 の 結 果 ,累 積 寄 与 率 は
就 職 3 カ 月 時 51.6% , 就 職 6 カ 月 時 52.5% , 就 職 12 カ 月 時 55.7% で あ っ た 。
就 職 3 カ 月 時 , 6 カ 月 時 , 12 カ 月 時 に お け る 因 子 毎 の 信 頼 性 係 数 を Table 3-1
に 記 す 。各 因 子 の 信 頼 性 係 数 は .60~ .85 と ,比 較 的 高 い 内 的 一 貫 性 が 認 め ら れ
た。
Table 3-1
リアリティショック尺度信頼性係数の推移
信頼性係数
3 カ月時
6 カ月時
12 カ 月 時
生活の変化に関するギャップ
0.83
0.84
0.85
看護の実践に関するギャップ
0.78
0.75
0.82
職場の人間関係に関するギャップ
0.76
0.76
0.77
新人教育に関するギャップ
0.81
0.82
0.75
患者・家族との関係に関するギャップ
0.67
0.60
0.70
就職後の満足感に関するギャップ
0.71
0.80
0.62
(2)ソ ー シ ャ ル ス キ ル
Kikuchi’ s Scale of Social Skills で 使 用 し た 項 目 数 は 10 と 少 な い こ と
か ら 1 次 元 の 尺 度 と し て 扱 っ た 。尺 度 の 構 造 を 確 認 す る た め 主 成 分 分 析 を 行 っ
51
第3章
た 結 果 ,第 1 主 成 分 へ の 寄 与 率 が 実 習 時 で 61.0% ,就 職 3 カ 月 時 で 58.5% ,6
カ 月 時 が 65.9%, 12 カ 月 時 で 65.6% で あ っ た 。 信 頼 性 係 数 は , 実 習 時 .87, 就
職 3 カ 月 時 .87,就 職 6 カ 月 時 .91,就 職 12 カ 月 時 .90 で あ り ,と も に 高 い 内 的
一貫性が認められた。
(3)対 処 方 略
対 処 方 略 を 因 子 分 析 し た 結 果 ,実 習 時 ・ 就 職 後 と も に 4 因 子 が 抽 出 さ れ ,累
積 寄 与 率 は 実 習 時 で 65.5% ,就 職 3 ヶ 月 時 が 64.0% ,就 職 6 ヵ 月 時 が 61.7% ,
就 職 12 ヶ 月 時 が 71.0%で あ っ た 。 因 子 に 含 ま れ る 項 目 内 容 は 先 行 研 究 と ほ ぼ
一 致 し て い た 。 第 1 因 子 は 「 悪 い こ と ば か り で は な い と 楽 観 的 に 考 え た 」「 今
後 は 良 い こ と も あ る だ ろ う と 考 え た 」な ど の 項 目 か ら 構 成 さ れ ,
「楽観型対処」
と し た 。 第 2 因 子 は 「 誰 か に 話 を 聞 い て も ら っ て 冷 静 さ を と り も ど し た 」「 友
達 と お 酒 を 飲 ん だ り 好 物 を 食 べ た り し た 」 な ど の 項 目 か ら 構 成 さ れ ,「 情 動 焦
点 型 対 処 」と し た 。第 3 因 子 は「 自 分 は 悪 く な い と い い の が れ た 」
「責任を他の
人 に お し つ け た 」な ど の 項 目 か ら 構 成 さ れ ,
「 回 避 型 対 処 」因 子 と し た 。第 4 因
子 は「 ど の よ う な 対 策 を 取 る べ き か 綿 密 に 考 え た 」,「 原 因 を 検 討 し ,ど の よ う
に し て い く べ き か 考 え た 」と い っ た 項 目 か ら 構 成 さ れ ,
「 問 題 解 決 型 対 処 」因 子
とした。
実 習 時 ,就 職 3 カ 月 時 ,6 カ 月 時 ,12 カ 月 時 に お け る 各 因 子 の 信 頼 性 係 数 を
Table 3-2 に 記 す 。 各 因 子 の 信 頼 性 係 数 は .54~ .87 で あ っ た 。 6 ヵ 月 時 の 回 避
型 対 処 が .54 と や や 低 か っ た が , そ の 他 の 時 期 の 因 子 は 中 程 度 以 上 の 信 頼 性 を
示した。項目全体の内容的な整合性があるためこのまま因子得点を算出した。
Table 3-2
ストレス対処
信頼性係数の推移
信頼性係数
実習時
3 カ月 時
6 カ月 時
12 カ月 時
楽観型対処
0.82
0.79
0.76
0.78
情動焦点型対処
0.73
0.76
0.67
0.87
回避型対処
0.65
0.69
0.54
0.76
問題解決型対処
0.78
0.70
0.67
0.79
52
第3章
(4)バ ー ン ア ウ ト
因 子 分 析 の 結 果 ,先 行 研 究 と 同 じ く 3 因 子 に 分 か れ た 。累 積 寄 与 率 は 実 習 時
が 66.3%,就 職 3 カ 月 時 59.5% ,就 職 6 カ 月 時 65.1% ,就 職 12 カ 月 時 68.8%
で あ っ た 。下 位 項 目 が ほ ぼ 先 行 研 究 と 一 致 し て い た た め ,先 行 研 究 に 従 い ,情
緒 的 消 耗 感 ,個 人 的 達 成 感 ,脱 人 格 化 と 命 名 し た 。そ れ ぞ れ の 因 子 の 信 頼 性 係
数 を Table 3-3 に 示 す 。各 因 子 の 信 頼 性 係 数 は .70~ .86 と ,比 較 的 高 い 内 的 一
貫性が認められた。
Table 3-3
バーンアウト
信頼性係数の推移
信頼性係数
5-3
5-3-1
実習時
3 カ月 時
6 カ月 時
12 カ月 時
情緒的消耗感
0.81
0.78
0.81
0.85
脱人格化
0.83
0.70
0.75
0.86
達成感低下
0.77
0.71
0.83
0.77
各変数の時系列変化
リアリティショックの時系列変化
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 推 移 を Figure 3-1,Figure 3-2 に 示 し た 。
4.50
4.00
* **
+
* **
**
3.50
3.00
2.50
生活の変化に関する
ギャップ
看護の実践に関する
ギャップ
職場の人間関係に関
するギャップ
3ヶ月時
3.65
3.65
3.72
6ヶ月時
3.60
3.42
3.80
12ヶ月時
3.48
3.24
3.72
n=85 *** p <.001 ** p <.01 + p <.1
Figure 3-1
リアリティショックネガティブ因子の推移
53
第3章
4.50
4.00
**
3.50
*
3.00
2.50
新人教育に関する
ギャップ
患者・家族との関係
に関するギャップ
就職後の満足感に関
するギャップ
3ヶ月時
3.58
4.01
2.85
6ヶ月時
3.48
3.89
3.05
12ヶ月時
3.56
3.89
3.12
n=85 ** p <.01 * p <.05
Figure 3-2
リアリティショックポジティブ因子の推移
一 要 因 の 分 散 分 析 の 結 果 ,ネ ガ テ ィ ブ 因 子 で は ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ
プ ( F (1.82,153.14)=3.21, p <.05) に お い て 時 期 の 主 効 果 が 認 め ら れ た 。 下 位
検 定 の 結 果 ,就 職 3 ヶ 月 時 と 比 較 し て 12 ヶ 月 時 で 低 下 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。
看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( F (1.84,154.37)=25.65, p <.001) に お い て も
時期の主効果が認められた。下位検定の結果,就職 3 ヶ月時と比較して,6 ヶ
月 時 と 12 ヶ 月 時 で 有 意 な 低 減 が 認 め ら れ た 。し か も 6 ヵ 月 時 と 比 較 し て 12 ヶ
月 時 に お い て も 有 意 に 低 減 す る こ と が わ か っ た 。看 護 実 践 に 対 す る ギ ャ ッ プ は
時 間 の 経 過 と と も に 減 少 し て い く こ と が わ か る 。職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ
ッ プ ( F (1.67,141.91)=.54, n.s. ) で は 時 期 の 主 効 果 が 認 め ら れ な か っ た 。
ポ ジ テ ィ ブ 因 子 で は , 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ
( F (1.87,157.01)=5.23, p <.01) に お い て 時 期 の 主 効 果 が 認 め ら れ た 。下 位 検 定
の 結 果 , 就 職 3 ヶ 月 時 と 比 較 し て 6 ヵ 月 時 と 12 ヶ 月 時 で 有 意 に 増 加 し て い る
こ と が 認 め ら れ た 。新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( F (1.84,154.57)=1.17, n.s. ),
患 者・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( F (2.00,168.00)=1.47, n.s. ) で は 時 期
の主効果が認められなかった。
各 因 子 の 平 均 得 点 は 就 職 後 の 満 足 感 を 除 き ,い ず れ の 時 期 も 3.0 以 上 あ っ た 。
各時期でリアリティショックを経験しているかどうかについて 1 サンプルのt
54
第3章
検 定 を 行 っ た と こ ろ ,就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ を 除 く す べ て に お い て
有 意 に 3 よ り も 大 き い こ と が 認 め ら れ た ( t =3.40 ~ 12.34, df =84, p <.01 ~
p<.001)。 こ の こ と か ら 新 人 看 護 師 は 就 職 1 年 間 を 通 し て リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク
を 認 知 し て い る こ と が 認 め ら れ た 。就 職 後 の 満 足 感 の 平 均 値 は ,就 職 3 ヶ 月 時
で 2.85,就 職 12 ヶ 月 時 で 3.12 と 最 も 低 く ,新 人 看 護 師 は 就 職 前 か ら あ ま り 高
い 期 待 は 抱 い て お ら ず ,実 際 に 就 職 し て も 満 足 感 は 得 ら れ て い な い こ と が わ か
った。
5-3-2
ソーシャルスキルの時系列変化
ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 推 移 を Figure 3-3 に 示 し た 。 分 散 分 析 の 結 果 , 時 期 の
( F (2.62,219.62)=8.34, p <.001)。 下 位 検 定 の 結 果 , 実 習
主効果が認められた
時と比較して就職 3 カ月時と 6 カ月時において有意な低下を示すことがわかっ
た 。ソ ー シ ャ ル ス キ ル は 就 職 直 後 に 最 も 低 下 す る も の の 徐 々 に 回 復 し 、就 職 12
カ月時では実習時に近づくことがわかる。
5
4.5
**
4
* **
3.5
3
2.5
2
ソーシャルスキル
実習時
3ヶ月時
6ヶ月時
12ヶ月時
3.41
3.13
3.15
3.25
n=85 *** p <.001 * p <.05
Figure 3-3
5-3-3
ソーシャルスキルの推移
対処方略の時系列変化
55
第3章
対 処 方 略 採 用 の 推 移 を Figure 3-4 に 示 し た 。 分 散 分 析 の 結 果 , 問 題 解 決 型
対処において時期の主効果が認められた
( F (3, 252)=3.14, p <.05)。 下 位 検 定
の 結 果 ,実 習 時 と 比 較 し て 就 職 3 ヶ 月 時 と 6 カ 月 時 に お い て 低 下 す る こ と が わ
かった。楽観型対処
( F (3 , 252)=1.04, n.s. ) , 情 動 焦 点 型 対 処 ( F (3 ,
252)=1.45, n.s. ),回 避 型 対 処 ( F (3,252)=1.91, n.s. ) に つ い て は い ず れ も 有
意 な 変 化 は 認 め ら れ な か っ た 。採 用 す る 対 処 は 実 習 時 と ほ ぼ 同 じ で あ る こ と が
わかる。
5.00
4.50
*
4.00
3.50
3.00
2.50
2.00
問題解決
楽観
情動焦点
回避
実習時
3.96
3.77
4.36
2.37
3ヶ月時
3.67
3.59
4.53
2.17
6ヶ月時
3.66
3.59
4.45
2.28
12ヶ月時
3.70
3.66
4.33
2.37
n=85* p <.05
Figure
5-3-4
3-4
対処の推移
バーンアウトの時系列変化
バ ー ン ア ウ ト の 推 移 を Figure3-5 に 示 し た 。 バ ー ン ア ウ ト 得 点 の 推 移 で は ,
脱 人 格 化 ( F (2.62,220.33)=6.49, p <.01) に お い て 時 期 の 主 効 果 が 認 め ら れ た 。
下 位 検 定 の 結 果 , 実 習 時 と 比 較 し 6 ヵ 月 時 , 12 ヶ 月 時 と 就 職 後 は 有 意 に 上 昇
し,しかも 3 ヶ月時と比較し 6 ヵ月時において高まることがわかった。また,
個 人 的 達 成 感 の 低 下 ( F (3,252)=13.17,p <.001) に お い て も 時 期 の 主 効 果 が 認
め ら れ た 。 下 位 検 定 の 結 果 , 実 習 時 と 比 較 し 3 ヶ 月 時 , 6 ヵ 月 時 , 12 ヶ 月 時 と
有 意 に 上 昇 す る こ と が わ か っ た 。情 緒 的 消 耗 感 に お い て は 時 期 の 主 効 果 が 認 め
ら れ な か っ た ( F (2.60,218.89)=.91, n.s. )。
56
第3章
* **
* **
5.00
**
4.50
*
**
4.00
3.50
**
3.00
2.50
2.00
情緒的消耗感
脱人格化
個人的達成感の低下
実習時
3.91
2.58
4.03
3ヶ月時
3.98
2.73
4.46
6ヶ月時
4.08
3.08
4.56
12ヶ月時
3.86
3.03
4.54
n=85 *** p <.001** p <.01 * p <.05
Figure3-5
6.
考
バーンアウトの推移
察
研 究 2-1 の 目 的 は , 就 職 前 か ら 就 職 後 に か け て の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ・ 対 処 ・
バ ー ン ア ウ ト の 推 移 と 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 推 移 を 追 い ,就 職 前 後 で
ど の よ う に 変 化 し て い く の か を 明 ら か に す る こ と で あ っ た 。以 下 ,尺 度 毎 に 考
察する。
6-1
リアリティショックの経時的変化
ネガティブ因子では看護実践困難感が時期を追うごとに有意に低減するこ
と が わ か っ た 。ま た 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ も 就 職 3 カ 月 時 に 比 較 し て 12
カ 月 時 で は 有 意 な 低 減 が み ら れ た 。ポ ジ テ ィ ブ 因 子 で は 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す
るギャップにおいて,有意な増加が認められた。
ネ ガ テ ィ ブ 因 子 で あ る , 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ は 就 職 後 3ヶ 月 時 に 最
も 高 く ,6カ 月 時 ,12ヶ 月 時 と 有 意 に 低 下 す る こ と が わ か っ た 。新 人 看 護 師 の 技
術が上達することで看護の実践に対するスキル不足に関するギャップは低減
し て い っ た と 考 え ら れ る 。ス キ ル 不 足 に よ る ギ ャ ッ プ が 減 少 す る と い う こ と は ,
57
第3章
調査対象者の職場適応が進んでいることを意味していると考えられる。
生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ は ,有 意 傾 向 で は あ る が ,3ヶ 月 時 に 最 も 高 く ,
12ヶ 月 に 低 く な る こ と が 認 め ら れ た 。生 活 上 の 変 化 が 起 き た た め に ,就 職 直 後
の 3ヶ 月 時 で 高 く な っ た も の と 考 え ら れ る 。 12カ 月 時 で 低 減 が み ら れ る の は ,
新 人 看 護 師 は 就 職 後 1年 を 経 て よ う や く 生 活 の 変 化 に 慣 れ は じ め た こ と を 表 し
ていると推察される。
次に,ポジティブ因子である就職後の満足感に関するギャップは,就職後 3
ヶ 月 時 と 比 較 し て ,6 ヵ 月 時 ,12 ヶ 月 時 と 有 意 に 高 ま る こ と が 認 め ら れ た 。し
か し ,就 職 後 の 満 足 感 に つ い て は 基 準 よ り も さ ほ ど 高 く な っ て お ら ず ,就 職 後
もポジティブな印象を持っていないことがわかった。
経 時 的 変 化 が 認 め ら れ な か っ た の は ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ,新
人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ,患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 3 つ で あ っ
た 。ネ ガ テ ィ ブ 要 因 の 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は ほ ぼ 同 じ 水 準 で 推 移
し て い た 。本 尺 度 の 基 準 は 3.0 で あ る が ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の
時 期 別 平 均 値 は 3.72~ 3.80 と や や 高 い 水 準 で 推 移 し て い た 。 就 職 前 か ら 自 分
が 所 属 す る 職 場 の 人 間 関 係 ま で 予 測 す る こ と は 困 難 で あ り ,そ れ が ギ ャ ッ プ の
誘 因 と な っ た と 考 え ら れ る 。ま た 1 年 を 通 し て 有 意 な 低 減 が 認 め ら れ な い の は ,
職 場 の 人 間 関 係 が ス ト レ ッ サ ー と し て 継 続 し て い る と い う こ と で あ り ,背 景 に
職場環境の問題が存在する可能性が考えられる。
新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ も 3.48~ 3.58 と や や 高 い 水 準 で 推 移 し て い た 。
今 回 調 査 の 対 象 者 の 所 属 し て い る 病 院 で は ,卒 後 の 教 育 や 研 修 が 充 実 し て い た
ことを物語るものといえる。
同 じ く ポ ジ テ ィ ブ 要 因 の 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は , リ ア リ テ
ィ シ ョ ッ ク の 中 で も 平 均 得 点 が 3.89~ 4.01 と 最 も 高 く , 新 人 看 護 師 は 予 測 以
上 に 患 者 や 家 族 と の 関 係 性 に 対 す る 満 足 感 を 感 じ て い る こ と が わ か る 。ま た そ
の ギ ャ ッ プ が 1 年 を 通 し て 差 が な く ,高 い 値 で 推 移 す る と い う こ と は ,同 じ 人
間 関 係 で あ っ て も ,患 者 や 家 族 と の 相 互 作 用 に 新 人 看 護 師 が 支 え ら れ ,仕 事 へ
の 動 機 づ け を 高 め て い る こ と が 推 察 さ れ る 。新 人 看 護 師 が 看 護 の 実 践 を 通 し て
患 者 ・ 家 族 か ら 励 ま さ れ た り ,感 謝 さ れ る こ と は 自 己 肯 定 感 を 高 め ,職 場 適 応
に つ な が っ て い く( 三 輪 ・ 志 自 岐 ・習 田 ,2010; 鈴 木 ・細 田 ,2014)こ と か ら ,
58
第3章
満足感の高さは新人看護師の自尊心維持においても重要な要因だと考えられ
る。
以 上 の よ う に ,就 職 後 か ら 1 年 間 を 通 し て ,新 人 看 護 師 は 新 人 教 育 に は あ る
程 度 満 足 し な が ら も ,先 輩 看 護 師 と の 人 間 関 係 づ く り に 思 っ た 以 上 に 困 難 さ を
感 じ て い る こ と が わ か っ た 。 ま た 患 者 ・家 族 と の 良 好 な 関 係 が 適 応 を 促 進 し て
いる可能性があることが推察された。
6-2
ソーシャルスキルの経時的変化
ソーシャルスキルは就職後に低減し 6 カ月以後に増加することがわかった。
新人看護師は学生時代には自身の持つ対人関係スキルで乗り切れると考えて
い る ( Doody et al., 2012) も の の , 就 職 し て か ら は そ れ 以 上 の ス キ ル が 求 め
ら れ る た め ,そ れ ま で の ソ ー シ ャ ル ス キ ル で は 対 応 す る こ と が で き ず ,自 身 の
持 つ ソ ー シ ャ ル ス キ ル の 有 効 性 を 低 く 認 知 し て い る と 考 え ら れ る 。或 い は 実 習
時 に は ,実 習 指 導 者 や 指 導 教 員 の サ ポ ー ト を 受 け な が ら の 看 護 で あ る た め ,自
身 の 不 十 分 な ス キ ル で も 何 と か 対 応 で き て い る が ,就 職 を す る と そ れ が な い た
め に 自 身 の ス キ ル の な さ を 再 認 識 し た と も 考 え ら れ る 。就 職 し て 1 年 を 経 過 す
る 頃 に は 病 棟 の 仕 事 の 流 れ も わ か り ,先 輩 の サ ポ ー ト が な く て も 仕 事 が で き る
ようになることから,ソーシャルスキルが回復傾向にあるものと考えられる。
6-3
ストレス対処の経時的変化
ストレス対処で唯一経時的変化で有意差が認められたのは問題解決型対処
で ,実 習 時 に 比 較 し て 就 職 3 ヵ 月 時 と 6 ヵ 月 時 で 有 意 な 低 下 が 認 め ら れ た 。ス
ト レ ス 反 応 の 低 減 に は ,状 況 の 変 化 に 応 じ て 適 切 な 対 処 方 絡 を 採 用 す る 能 力 が
重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。制 御 不 可 能 な ス ト レ ス 状 況 で は ,ス ト レ ス 反 応 そ の
も の の 低 減 を 目 的 と し た 情 動 焦 点 型 対 処 が 有 効 に な る( Conway & Terry,1992 ;
岩 永 ,2004)。し か し 情 動 焦 点 型 対 処 に 変 化 は な く ,柔 軟 に は 対 処 で き て い な い
こ と が 考 え ら れ る 。新 人 看 護 師 は す ぐ に 問 題 解 決 が で き る ほ ど の 実 践 的 能 力 は
備わっておらず,対処が有効に働いていない可能性が考えられる。
6-4
バーンアウトの経時的変化
59
第3章
バ ー ン ア ウ ト 尺 度 の 下 位 因 子 で あ る 脱 人 格 化 で は 就 職 後 は 有 意 に 上 昇 し ,し
か も 3 ヶ 月 時 と 比 較 し 6 ヵ 月 時 に お い て 有 意 に 高 ま る こ と が わ か っ た 。個 人 的
達 成 感 の 低 下 で は 実 習 時 と 比 較 し て 3 ヶ 月 時 ,6 ヵ 月 時 ,12 ヶ 月 時 と 有 意 に 高
ま る こ と が わ か っ た 。そ れ に 対 し て 情 緒 的 消 耗 感 は 就 職 前 後 で 有 意 な 変 化 が 認
められなかった。
Rudman et al.( 2011, 2012) は , 新 人 看 護 師 は 看 護 学 生 時 代 か ら バ ー ン ア
ウ ト 傾 向 に あ り ,情 緒 的 消 耗 感 は 就 職 前 後 で 変 化 が な い こ と を 示 し て い る 。本
研 究 で 得 ら れ た 情 緒 的 消 耗 感 の 知 見 は ,こ れ を 支 持 す る 結 果 と い え る 。看 護 学
生 の 大 半 が 学 生 生 活 の 最 後 は 極 端 に 疲 労 し た 状 態 で ,就 職 後 の 早 期 の バ ー ン ア
ウ ト と 関 係 し て い る ( Rella et al., 2009) こ と か ら , 新 人 看 護 師 は 看 護 学 生
時 代 か ら 情 緒 的 消 耗 感 を 認 知 し て お り ,新 た に 就 職 し た 職 場 環 境 へ の 適 応 が 困
難 で あ る と ,看 護 学 生 時 代 か ら の バ ー ン ア ウ ト 傾 向 は 低 減 さ れ な い と 考 え ら れ
る。
脱 人 格 化 は 実 習 時 と 比 較 し 就 職 後 3 ヶ 月 時 ,6 ヵ 月 時 ,12 ヶ 月 時 で 有 意 に 上
昇 し ,か つ 3 ヶ 月 時 と 比 較 し て も 6 ヵ 月 時 で 有 意 に 上 昇 し て い る こ と が わ か っ
た 。就 職 前 に は 高 く な か っ た 脱 人 格 化 が 就 職 後 に 深 刻 化 し ,患 者 を 一 人 の 人 格
を 持 っ た 個 人 と し て み ら れ な く な る ,或 い は 物 と し て 扱 う こ と で 自 分 を 守 っ て
い る 状 態 が 深 刻 化 し て い る と 考 え ら れ る 。 た だ し 得 点 は 6 件 法 で 2.58~ 3.08
と ,脱 人 格 化 の 程 度 は さ ほ ど 高 い も の で は な い こ と か ら ,強 度 の バ ー ン ア ウ ト
に陥っている訳ではなく,看護の質低下に結びついているとは断定できない。
個 人 的 達 成 感 の 低 下 は ,実 習 時 と 比 較 し て 就 職 後 3 ヶ 月 時 ,6 ヵ 月 時 ,12 ヶ
月 時 に お い て 有 意 に 上 昇 し ,脱 人 格 化 と ほ ぼ 同 様 の 経 時 的 変 化 を す る こ と が 認
め ら れ た 。そ の 得 点 は 一 貫 し て 4 を 超 え て お り ,比 較 的 高 い 水 準 を 維 持 し て い
る 。個 人 的 達 成 感 の 低 下 は ,バ ー ン ア ウ ト に よ り 自 我 が 危 機 的 状 態 に お か れ て
い る こ と を 意 味 す る ( 田 尾 ・ 久 保 , 1996) こ と か ら , 新 人 看 護 師 の 自 我 が 傷 つ
き , 自 信 を 失 っ て い る 状 態 を 反 映 し て い る と 考 え ら れ る 。 眞 鍋 ら ( 2014) は ,
新人看護師にとって個人的達成感の低下に影響する要因は看護実践能力に関
す る 負 担 で あ る と 述 べ て い る こ と か ら ,看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 関 連 し
ていることが推察される。
60
第3章
以 上 の よ う に ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 得 点 は 就 職 後 3 ヶ 月 で 最 も 高 く ,バ ー ン
ア ウ ト 得 点 の 情 緒 的 消 耗 感 は 一 貫 し て 高 く ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 は 就 職 後 に 高
ま っ て お り ,脱 人 格 化 が 就 職 後 6 ヶ 月 時 に 最 も 高 く な る こ と が わ か っ た 。実 習
時 か ら 情 緒 的 消 耗 感 が 高 ま り ,就 職 後 に 受 け る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と と も に 脱
人格化が生じ,さらに個人的達成感の低下に結びついていると考えられる。
6-5
本研究におけるサンプルの偏りの可能性について
研 究 2-1 に お い て は 4 回 の 調 査 に 継 続 的 な 協 力 が 得 ら れ た 85 名 を 対 象 と し
て い る 。就 職 3 ヶ 月 時 に 協 力 が 得 ら れ ,そ の 後 ,継 続 し た 協 力 が 得 ら れ な く な っ
た 協 力 者 が 140 名 存 在 す る 。継 続 的 な 協 力 が 得 ら れ た と い う こ と は 職 場 に 適 応
し て い る 新 人 看 護 師 の 集 団 で あ る 可 能 性 が 高 い た め ,サ ン プ ル に 偏 り が あ る 可
能 性 が あ る 。 研 究 2-2 に お い て は ,継 続 し て 協 力 し た 人 と 途 中 中 断 し た 人 の 比
較 を 行 い ,偏 り の 可 能 性 に つ い て 検 討 を す る 。
第 3 章 研 究 2-1 の ま と め
研 究 2-1 で は ,就 職 前 か ら 就 職 後 に か け て の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ・ 対 処 ・ バ ー
ン ア ウ ト の 推 移 と 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 推 移 を 追 い ,就 職 前 後 で ど の
よ う に 変 化 し て い く の か を 明 ら か に す る こ と で あ っ た 。実 習 時 に 比 較 し て ,ソ
ー シ ャ ル ス キ ル 得 点 は 就 職 後 に 低 下 し ,バ ー ン ア ウ ト 得 点 は 就 職 後 に 高 ま る こ
と が わ か っ た 。ま た リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク で は ,看 護 実 践 困 難 感 や 生 活 の 変 化 に
関するギャップは低減していくことがわかった。
一 方 ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 変 化 が み ら れ な い こ と か ら ,新 人
看護師は就職後 1 年間を通して先輩看護師との関係を負担に感じながら仕事を
続 け て い る こ と が わ か っ た 。 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ も 変 化 が 認
め ら れ な か っ た 。同 じ 人 間 関 係 で も ,患 者 や 家 族 か ら は 肯 定 的 な フ ィ ー ド バ ッ
ク が 得 ら れ , 仕 事 の 動 機 づ け に 繋 が っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 ま た ,対 処
に 関 し て も 実 習 時 と さ ほ ど 変 化 が 認 め ら れ な い こ と か ら ,対 処 が 有 効 に 働 い て
いない可能性が考えられる。
61
第3章
研 究 2-2 縦 断 的 変 化 の 検 討 ― 継 続 群 と ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 の 比 較
1.問 題 と 目 的
研 究 2- 2で は , 新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ い て ,
4回 の 縦 断 調 査 す べ て に 協 力 が 得 ら れ た 群 と 調 査 を 中 断 し た 群 の 比 較 を 行 う 。
全 4回 を 継 続 し て 回 答 し た 人 は 適 応 的 で あ る 可 能 性 が あ る こ と か ら , 各 調 査 時
期 で ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 人( 以 下 ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 と す る )の 違 い を 検 討 す る 。
2
研究方法
2- 1
研究対象者,調査項目
研 究 対 象 者 , 調 査 項 目 は 研 究 2- 1 に 同 じ 。
2- 2
調査方法
リアリティショックは全 3 回,バーンアウトは全 4 回の回答があったもの
( 以 下 継 続 群 と す る )と ,各 調 査 時 期 で ド ロ ッ プ ア ウ ト し た 人( 以 下 ド ロ ッ プ
ア ウ ト 群 と す る )の 比 較 を 行 っ た 。ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 は 就 職 3 ヶ 月 時 の み 回 答
群( 以 下 3 ヶ 月 時 の み 回 答 群 )と 就 職 3 ヶ 月 時 と 就 職 6 ヵ 月 時 の み 回 答 群( 以
下 3 ヶ 月 時 と 6 ヵ 月 時 の み 回 答 群 )の 2 つ の 群 に 分 け た 。継 続 群 は 85 名 ,3 ヵ
月 時 の み 回 答 群 は 59 名 , 3 ヵ 月 と 6 ヵ 月 の み 回 答 群 は 67 名 で あ っ た 。
2- 3
分析方法
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ,ス キ ル ,対 処 と バ ー ン ア ウ ト 得 点 に お い て ,継 続 群 と
ドロップアウト群に差が認められるかを対応のないt検定で検討した。
3. 結 果
継 続 群( 85 名 )と ド ロ ッ プ ア ウ ト 群( 3 ヶ 月 の み 回 答 群 59 名 ,3 ヶ 月 と 6 ヵ
月 の み 回 答 群 67 名 ) の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 時 期 別 平 均 値 と 標 準 偏 差 を
Table 3-3 に 記 す 。 な お , 就 職 3 ヵ 月 時 の み 回 答 群 は 「 3 ヵ 月 」, 3 ヵ 月 時 と 6
ヵ月時のみ回答群は「3 ヵ月と 6 ヵ月」と記す。就職 3 ヵ月時において,継続
群 の 中 で「 退 職 を 考 え て い る 」と 記 し た 人 は 3 名 ,
「 3 ヶ 月 」回 答 群 で 1 名 ,
「3
62
第3章
ヵ 月 と 6 ヵ 月 」回 答 群 は い な か っ た 。就 職 6 ヵ 月 時 に お い て ,継 続 群 の 中 で「 退
職 を 考 え て い る 」と 記 し た 人 は 7 名 ,
「 3 ヵ 月 と 6 ヵ 月 」回 答 群 で は 3 名 が 記 し
ていた。
尺 度 の 時 期 別 平 均 値 と 標 準 偏 差 を Table 3-3, 有 意 差 の あ っ た 結 果 を Figure
3-6~ Figure 3-7に 記 す 。 継 続 群 と 3ヶ 月 群 , 継 続 群 と 3ヶ 月 ・ 6ヵ 月 の み 回 答 群
に 対 す る t 検 定 の 結 果 , 継 続 群 と 3ヶ 月 群 に お け る 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
継 続 群 と 3ヶ 月 と 6ヵ 月 群 で は , 就 職 3ヶ 月 時 の 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 継
続 者 平 均 値 3.58, 3・6ヵ 月 時 回 答 群 3.81, t =-1.97 , df =175, p <.05) に お い て 継
続 群 が 低 く ,就 職 6ヵ 月 時 点 に お け る 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( 継
続 者 平 均 値 3.89, 3・6ヵ 月 時 回 答 群 4.12, t 値 -1.93 , df =150, p <.05) に お い て
も 継 続 群 が 低 い こ と が わ か っ た 。そ れ 以 外 の 因 子 に お い て 群 間 差 は 認 め ら れ な
か っ た ( t 値 -1.683~ 1.388, n.s. )。
Table 3-3 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 時 期 別 平 均 値 と 標 準 偏 差 (5 件 法 )
生活の変化
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
看護の実践
人間関係
新人教育
患者・家族
満足感
3 ヶ月時
6 ヶ月時
12 ヶ 月 時
継続群
3.65(0.72)
平 均 (SD)
3.60(0.77)
3.48(0.77)
3 ヵ月
3.52( .66)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.70( .73)
3.59( .78)
継続群
3.65(0.61)
3.42(0.57)
3 ヵ月
3.52( .57)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.50 (.54)
3.41(.59)
継続群
3.72(0.90)
3.80(.81)
3 ヵ月
3.64( .92)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.68(.87)
3.67(.95)
継続群
3.58(.73)
3.48(.77)
3 ヵ月
3.77( .70)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.81(.68)*
3.69(.71)
継続群
4.01(0.76)
3.89(0.81)
3.89(0.90)
3 ヵ月
4.02( .85)
3 ヵ月と 6 ヵ月
継続群
4.10(.70)
2.85(.88)
4.12(.61)*
3.05(.89)
3.12(.75)
3 ヵ月
3.02( .88)
3.24(0.64)
3.72(.81)
3.56(.69)
2.90(.81)
3 ヵ 月 と 6 ヵ 月 3.01(.80)
継 続 群 85 名 ,3 ヶ 月 の み 回 答 群 59 名 ,3 ヶ 月 と 6 ヵ 月 回 答 群 67 名 ,* p <.05
63
第3章
4.50
4.00
*
3.50
3.00
2.50
3ヶ月時
6ヵ月時
12ヶ月時
3.50
3.58
継続群
3.58
3カ月
3.75
3カ月と6カ月
3.81
3.69
* p <.05
Figure 3-6
新人教育に関するギャップ得点比較
4.50
*
4.00
3.50
3.00
2.50
3ヶ月時
6ヵ月時
12ヶ月時
継続群
4.01
3.90
3.91
3カ月
4.06
3カ月と6カ月
4.10
4.12
* p <.05
Figure 3-7
患 者 ・家 族 に 関 す る ギ ャ ッ プ 得 点 比 較
次に継続群とドロップアウト群のソーシャルスキルの時期別平均値と標準
偏 差 を Table 3-4に 記 す 。t 検 定 の 結 果 ,ソ ー シ ャ ル ス キ ル は 継 続 群 と 3ヶ 月 群 ,
継 続 群 と 3ヶ 月 と 6ヵ 月 の み 回 答 群 の す べ て の 変 数 に お い て も ,有 意 な 差 は 認 め
ら れ な か っ た ( t 値 -1.601~ -.210, n.s. )。
64
第3章
Table 3-4
ソーシャルスキルの時期別平均値と標準偏差
3 ヶ月時
6 ヶ月時
12 ヶ 月 時
平 均 (SD)
ソーシャルスキ
ル
継続群
3.13(.76)
3 ヵ月
3.24(.81)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.33(.74)
3.15(.83)
3.25(.79)
3.28(.67)
継 続 群 と ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 の 対 処 の 時 期 別 平 均 値 と 標 準 偏 差 を Table 3-5に
記 す 。 t 検 定 の 結 果 , 対 処 に お い て も 継 続 群 と 3ヶ 月 ・6ヵ 月 の み 回 答 群 の す べ
て の 変 数 に お い て ,有 意 な 差 は 認 め ら れ な か っ た( t 値 -1.792~ -.005,n.s. )。
Table 3-5
対処の時期別平均値と標準偏差
3 ヶ月時
楽観
問題解決
対
処
回避
12 ヶ 月 時
継続群
3.59(1.20)
平 均 (SD)
3.59(1.12)
3 ヵ月
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.72(1.12)
3.57(1.12)
3.66(1.05)
継続群
3.67(1.02)
3.66(.99)
3.70(1.00)
3 ヵ月
3.72(.51)
3 ヵ月と 6 ヵ月
3.73(.88)
4.45(1.03)
4.33(1.21)
3 ヵ月
3.91(.89)
4.53(1.06)
4.75(.93)
3 ヵ月と 6 ヵ月
4.45(1.05)
4.55(1.12)
継続群
2.17(.90)
2.28(.79)
3 ヵ月
2.24(.93)
3 ヵ月と 6 ヵ月
2.22(.89)
継続群
情動焦点
6 ヶ月時
3.66(1.11)
2.37(1.01)
2.22(,84)
最 後 に ,継 続 群 と ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 の バ ー ン ア ウ ト の 時 期 別 平 均 値 と 標 準 偏
差 を Table 3-6に 記 す 。 t 検 定 の 結 果 , 継 続 群 と 3ヶ 月 群 に お い て は 有 意 な 差 は
認 め ら れ な か っ た 。継 続 群 と 3ヶ 月 ・6ヵ 月 の み 回 答 群 で , 就 職 3ヶ 月 時 に お け る
脱 人 格 化 に お い て 有 意 な 差 が 認 め ら れ た 。継 続 群 は 脱 人 格 化 が 低 く ,3・ 6ヵ 月
時 回 答 群 で 高 い こ と が わ か っ た( 継 続 群 平 均 値 2.73,3・6ヵ 月 時 回 答 群 3.27, t
値 -2.015 , df =127.449, p <.05)。 有 意 差 の あ っ た 結 果 を Figure 3-8に 記 す 。
65
第3章
Table 3-6
バーンアウトの時期別平均値と標準偏差
3 ヶ月時
バ
ー
ン
ア
ウ
ト
情緒的
消耗感
脱人格
化
個人的
達成感
の低下
3.98(1.32)
4.09(1.45)
4.15(1.34)
2.73(1.20)
2.91(1.36)
3.15(1.44)*
4.46(1.18)
4.36(1.32)
4.52(1.13)
継続群
3 ヵ月
3 ヵ月と 6 ヵ月
継続群
3 ヵ月
3 ヵ月と 6 ヵ月
継続群
3 ヵ月
3 ヵ月と 6 ヵ月
6 ヶ月時
平 均 (SD)
4.08(1.27)
12 ヶ 月 時
3.86(1.32)
3.08(1.24)
3.03(1.34)
3.22(1.36)
4.56(1.21)
4.54(1.09)
4.56(1.03)
4.5
4
3.5
*
3
2.5
3ヶ月時
6ヵ月時
12ヶ月時
継続群
2.73
3.08
3.03
3ヵ月
2.91
3ヵ月と6ヵ月
3.15
3.22
* p <.05
Figure 3-8
4. 考
脱人格化得点比較
察
研 究 2- 2の 目 的 は ,新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ い
て , 4回 の 縦 断 調 査 す べ て に 協 力 が 得 ら れ た 群 と 調 査 を 中 断 し た 群 の 比 較 を 行
う こ と で あ っ た 。継 続 群 と ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 を 比 較 し た 結 果 ,全 体 的 に は 大 き
な差は認められなかった。以下,変数ごとに考察する。
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に お い て は , 継 続 群 と 比 較 し て 3ヶ 月 時 ・6ヵ 月 時 回 答 群
は ,就 職 3ヶ 月 時 に お い て ,思 っ た 以 上 に 新 人 教 育 に 満 足 し て お り ,就 職 6ヵ 月
66
第3章
時 に お い て も , 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 高 く , ポ ジ テ ィ ブ な リ
アリティショックを高く認識していることがわかった。
ソ ー シ ャ ル ス キ ル で は ,継 続 群 と 比 較 し て ,3ヵ 月 の み 回 答 群 ,3ヵ 月 と 6ヵ 月
の み 回 答 群 の い ず れ も 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た 。 1年 間 を 通 し て ア ン ケ ー
ト に 答 え た 継 続 群 が ,ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 に 比 し て 適 応 的 で あ る な ら ば ,ソ ー シ
ャ ル ス キ ル も 高 い こ と が 考 え ら れ る 。し か し ,結 果 か ら は 特 に ス キ ル に 差 が あ
るわけではないといえる。
対 処 に お い て も 継 続 群 と 比 較 し て , 3ヵ 月 の み 回 答 群 , 3ヵ 月 と 6ヵ 月 の み 回
答 群 の い ず れ も 有 意 な 差 が 認 め ら れ な か っ た 。継 続 群 が 適 応 的 で あ れ ば ,問 題
解決型対処が高く,ドロップアウト群では回避型対処が高まると考えられた。
しかし結果からは特に対処方略に関しても差はないといえる。
バ ー ン ア ウ ト で は , 就 職 3ヵ 月 時 の 脱 人 格 化 に お い て , ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 が
よ り 高 い こ と が わ か っ た 。し か し そ の 差 は .042と 大 き な 開 き が あ る わ け で は な
かった。
全 体 を 通 し て も 有 意 差 が 認 め ら れ た 箇 所 の t 値 は ,-2.06~ -1.93と さ ほ ど 大
き な 差 が あ る と は 言 え ず ,ま た ネ ガ テ ィ ブ な ギ ャ ッ プ に は 差 が な か っ た こ と か
ら ,継 続 群 に 比 し て ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 が 必 ず し も 強 い ス ト レ ス を 認 知 し て い る
わけではないことも推察される。
「 退 職 を 考 え て い る 」と 返 答 し た 人 は ,継 続 群 は 就 職 3ヵ 月 時 で 3名 ,就 職 6ヵ
月 時 で 7名 で あ っ た 。3ヵ 月 と 6ヵ 月 回 答 群 の 就 職 3ヶ 月 時 は 0名 ,就 職 6ヵ 月 時 で
は 3名 で あ り ,継 続 群 が 多 い 。こ れ ら の 結 果 を 合 わ せ て 考 え る と ,ド ロ ッ プ ア ウ
ト 群 と い っ て も ,仕 事 を し て い な い わ け で は な く ,単 に 回 答 を 送 っ て き て い な
いだけの可能性が考えられる。
第 3 章 研 究 2-2 の ま と め
研 究 2-2 で は ,新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ い て ,4
回の縦断調査すべてに協力が得られた群と調査を中断した群の比較を行った。
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク に お い て は , 継 続 群 と 比 較 し て 3 ヶ 月 時 ・6 ヵ 月 時 回 答 群
は ,就 職 3 ヶ 月 時 に お い て ,思 っ た 以 上 に 新 人 教 育 に 満 足 し て お り ,就 職 6 ヵ
67
第3章
月 時 に お い て も , 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 高 く , ポ ジ テ ィ ブ な
リアリティショックを高く認識していることがわかった。バーンアウトでは,
就 職 3 ヵ 月 時 の 脱 人 格 化 に お い て ,ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 が よ り 高 い こ と が わ か っ
た 。し か し 何 れ の 有 意 差 も p <.05 の 範 囲 内 で あ り 大 き な 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
ス キ ル や 対 処 に お い て は 差 が な く ,全 体 的 に も 大 き な 差 は 認 め ら れ な か っ た た
め ,今 後 の 研 究 対 象 と し て は 継 続 群 に 焦 点 を 当 て て 検 討 す る 。
68
第4章
第 4章
研究3
実習時のバーンアウトがリアリティショックの認知に与える影響
の検討
問題
新人看護師を対象とした研究では,就職後のリアリティショックとバーンア
ウ ト の 関 連 ( Suzuki et al., 2009) や , 早 期 離 職 と の 関 連 が 指 摘 さ れ て き た
( 日 本 看 護 協 会 , 2005; Tominaga et al., 2010)。 オ ー ス ト ラ リ ア の 看 護 学 生
を 対 象 と し た 研 究 で は ,卒 業 時 に 学 生 の 20% 以 上 が 重 度 の 疲 弊 あ る い は ス ト レ
スを抱えており,看護師になってからのバーンアウトに結びつくことが示され
て い る (Rella et al., 2008) 。 ま た フ ィ ン ラ ン ド の 看 護 学 生 を 対 象 と し た 研
究でも,在学中のバーンアウトは就職後にも影響し,学生時代のバーンアウト
は 早 期 離 職 の 予 測 因 子 と な る こ と が 示 さ れ て い る (Rudman & Gustavsson,2012)。
情緒的消耗感が高まっている状態は個人的達成感の低下が生じており,モチ
ベーションの低い状態,すなわちうつに近い状態といえる。抑うつ状態だと認
知的歪みが生じ,否定的に物事を捉えてしまう傾向がある。そのため,否定的
で悲観的な傾向が全般的に高い学生や回避的な認知傾向がある学生は抑うつ的
に な り や す い た め に , 心 理 的 な ス ト レ ス が 高 ま る こ と が 報 告 さ れ て い る (小 粥 ,
2013 ; 滑 川 ・ 横 田 , 2011)。 こ の こ と か ら , 在 学 時 に バ ー ン ア ウ ト し て い る 学
生は,就職後もうまくいかないだろうという悲観的な予測を立てやすく,その
ためにリアリティショックを敏感に感じて不適応を起こすものと推測される。
研究 3 では,学生時代のバーンアウトが就職後のリアリティショックに与え
る影響の検討を行う。学生時代にバーンアウトしている人は,抑うつ状態や悲
観的傾向にあるため,就職後に受けるリアリティショックを過度に評価するこ
とで不適応に陥りやすいと予測できる。なお,本研究では就職前の調査は実習
時の状況を思い出して記入させているため,実習時と記することとした。
1.
研究目的
実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト が 就 職 3ヶ 月 時 , 6ヵ 月 時 , 12ヶ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ
ックの認知に与える影響の検討を行う。
69
第4章
2. 研 究 方 法
2-1
調査対象者
研 究 1 で 実 習 時 , 就 職 3 ヶ 月 時 , 6 ヵ 月 時 , 12 ヶ 月 時 の 4 回 の 調 査 に 協 力 が
得 ら れ た 調 査 継 続 群 85 名 と す る 。
2-2
調査方法
研 究 2に 準 ず る 。
2-3
分析方法
実習時のバーンアウトが就職後のリアリティショック及びバーンアウトに
及ぼす影響を調べるためには相関分析を行った。実習時のバーンアウトが就
職 3 か 月 時 , 6 か 月 時 , 12 か 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 認 知 に 及 ぼ す 影 響
を 検 討 す る た め に ,目 的 変 数 を 各 時 期 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と し ,説 明 変 数 に
実習時のバーンアウトを投入して重回帰分析を行った。
3. 倫 理 的 配 慮
研究1に準ずる。
4. 結
4-1
果
相関分析の結果
実習時のバーンアウトと各時期のリアリティショックネガティブ要因の相関
分 析 の 結 果 を Table 4-1 に 示 す 。
情緒的消耗感は,1 年間に渡って生活の変化に関するギャップ,及び,看護
の実践に関するギャップと正の相関が認められ,リアリティショックのネガテ
ィブ因子と関連していることがわかった。実習時の脱人格化は看護の実践に関
するギャップの 6 ヵ月時のみと正の相関を示しただけで,生活の変化に関する
ギャップや職場の人間関係に関するギャップとの関連は認められなかった。
個人的達成感の低下は,看護の実践に関するギャップのみと相関が認められ,
1 年間に渡って正の相関が認められた。個人的達成感の低下は生活の変化に関
70
第4章
するギャップや職場の人間関係に関するギャップとの間でお互いには影響して
いなかった。
以上の結果から,就職後のリアリティショックのネガティブ因子と関連する
のは,情緒的消耗感であるといえる。
Table 4-1
実習時のバーンアウトとリアリティショックネガティブ因子の相関
生活の変化
ン
ア
ウ
ト
実
習
時
の
バ
ー
情緒的
消耗感
脱人格
化
達成感
低下
看護の実践
職場の人間関係
3か
月
6か
月
12 か
月
3か
月
6か
月
12 か
月
3か
月
6か
月
12 か
月
.33 * *
.23 *
.32 * *
.23 *
.32 * *
.28 * *
.11
.18
.25 *
.10
.12
.13
.14
.23 *
.17
.08
.16
.19
.10
.07
.07
.28 *
.22 *
.29 * *
.08
.05
.03
n=85,** p <.01, * p <.05
実習時のバーンアウトと各時期のリアリティショックのポジティブ要因の相
関 分 析 の 結 果 を Table 4-2 に 示 す 。実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は ,患 者 ・家 族 と の 関
係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 3 ヶ 月 時 ,及 び 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 12 ヶ
月時との間で負の相関が認められた。
実 習 時 の 脱 人 格 化 は 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 12 ヶ 月 時 , 及 び , 患 者 ・家
族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 1 年 間 に 渡 っ て 負 の 相 関 が 認 め ら れ た 。さ ら に ,
就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 12 ヶ 月 時 に お い て 負 の 相 関 が 認 め ら れ た 。
個 人 的 達 成 感 の 低 下 は , 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 3 ヶ 月 時 ,患 者 ・家 族 と
の関係に関するギャップ及び就職後の満足感に関するギャップの 1 年間に渡っ
て負の相関が認められた。
実習時の脱人格化や個人的達成感の低下は,就職後の患者・家族との関係に
関するギャップや満足感のギャップを低め,仕事におけるポジティブ面を悪化
させていることがわかる。
71
第4章
Table 4-2
実習時のバーンアウトとリアリティショックポジティブ因子の相関
新人教育
3か
月
実
習
時
ウの
トバ
ー
ン
ア
患者・家族
12 か
月
6 か月
3 か月
6 か月
満足感
12 か
月
3 か月
6 か月
12 か
月
情緒的
消耗感
-.19
-.10
-.18
-.24 *
-.18
-.14
-.13
-.03
-.25 *
脱人格
化
-.18
-.19
-.22 *
-.39 * *
-.42 * *
-.28 * *
-.07
-.08
-.23 *
達成感
低下
-.27 *
-.15
-.19
-.29 * *
-.32 * *
-.27
-.31 * *
-.32 * *
-.37 * *
n=85,** p <.01, * p <.05
実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 後 の 各 時 期 の バ ー ン ア ウ ト の 相 関 (Table 4-3)
の結果を示す。実習時の情緒的消耗感,脱人格化と就職後の各時期のバーンア
ウ ト に は 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 実 習 時 の 個 人 的 達 成 感 の 低 下 は 就 職 12 ヶ 月
時の情緒的消耗感を除き,全てのバーンアウトの下位因子との間に正の相関が
認められた。
実 習 時 と 就 職 後 の 相 関 の 程 度 を 見 る と ,情 緒 的 消 耗 感 で は .33~ .36 と 中 程 度
の 相 関( 豊 田 ,1988)で あ る の に 対 し ,脱 人 格 化 は .43~ .47 と 比 較 的 高 い 相 関
と な っ て い る 。一 方 ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 は .63~ .67 と 高 い 相 関 を 示 す こ と が
わかった。実習時の個人的達成感の低下は,就職後においても強く影響してい
ることがわかる。
Table 4-3
実
習
ア
時
ウ
バ
ト
ー
ン
情緒的
消耗感
脱人格
化
達成感
低下
実習時のバーンアウトと就職後のバーンアウトの相関
情緒的消耗感
3か
6か
12 か
月
月
月
3か
月
脱人格化
6か
12 か
月
月
個人的達成感低下
3か
6か
12 か
月
月
月
.33 * *
.36 * *
.35 * *
.28 * *
.29 * *
.39 * *
.23 * *
.16 * *
.12 * *
.26 * *
.31 * *
.27 * *
.43 * *
.47 * *
.47 * *
.21 * *
.18 * *
.15 * *
.14 * *
.12 * *
.08
.11 *
.17 * *
.15 * *
.67 * *
.66 * *
.63 * *
n=85,** p <.01, * p <.05
72
第4章
4-2
重回帰分析の結果
就 職 3 ヶ 月 後 ,6 ヶ 月 後 ,12 ヶ 月 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 因 子 を 目 的
変 数 と し た 重 回 帰 分 析 の 結 果 を , Table 4-4 に 示 す 。
就職 3 ヶ月時において,実習時の情緒的消耗感はネガティブ因子である生活
に 関 す る ギ ャ ッ プ に ,正 の 関 連 を 示 し( β =.51, p <.01),実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感
( β =.29, p <.05) と , 個 人 的 達 成 感 の 低 下 ( β =.26, p <.05) は , 看 護 の 実 践 に
関するギャップに正の関連を示すことがわかった。実習時にバーンアウトして
いると,就職 3 ヵ月の生活の変化や看護の実践に,ネガティブな影響を与える
ことがわかった。但し,実習時のバーンアウトは,職場の人間関係に関するギ
ャップには関係していなかった。独立変数間が関連していると多重共線性の問
題 が 生 じ る と い わ れ る 。 本 研 究 に お け る 多 重 共 線 性 の 指 標 で あ る VIF は ,1.03
~ 1.97 で あ っ た 。VIF が 10 を 超 え る と 危 険 域 と い わ れ る こ と か ら( 小 塩 ,2007),
多重共線性の問題は回避されていると判断した。
就職 3 ヶ月時において,実習時の個人的達成感の低下はポジティブ因子であ
る 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 負 の 関 連 を 示 し ( β =-.25, p <.05), 実 習 時 の 脱
人 格 化 ( β =-.36, p <.05) と 個 人 的 達 成 感 の 低 下 ( β =-.21, p <.05) は , 患 者 ・
家族との関係に関するギャップと,負の関連を示すことがわかった。また,実
習時の個人的達成感の低下は就職後の満足感に関するギャップと負の関連を示
す こ と が わ か っ た ( β =-.32, p <.05)。 実 習 時 に 個 人 的 達 成 感 が あ る と , 就 職 3
ヵ月時にはポジティブな影響を与えることがわかる。
就職 6 ヵ月時において,実習時の情緒的消耗感は看護の実践に関するギャッ
プ と ,正 の 関 連 を 示 す こ と が わ か っ た( β =.32, p <.05)。実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト
は,就職 6 ヵ月時の他のネガティブなギャップには,関係していなかった。実
習時に情緒的消耗感があると,就職 6 ヵ月時においても看護の実践に関してネ
ガティブな影響を与え続けることがわかる。
就 職 6 ヵ 月 時 に お い て , 実 習 時 の 脱 人 格 化 ( β =-.49, p <.001) と 個 人 的 達 成
感 の 低 下( β =-.24, p <.05)は ,ポ ジ テ ィ ブ 因 子 の 患 者・家 族 と の 関 係 に 関 す る
ギャップに,負の関連を示し,実習時の個人的達成感の低下は,就職後の満足
感 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 負 の 関 連 を 示 す こ と が わ か っ た ( β =-.32, p <.05)。 但 し
実習時の個人的達成感の低下は,新人教育に関するギャップには影響を及ぼし
73
第4章
てはいなかった。実習時の個人的達成感は,就職 6 ヵ月時においてもポジティ
ブな影響を与え続けるが,その影響因子は減少することがわかる。
就 職 12 ヵ 月 時 で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ
に 正 の 関 連 を 示 し ( β =.45, p <.01), 実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 ( β =.35, p <.05)
と 個 人 的 達 成 感 の 低 下 ( β =.30, p <.01) は , 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 正
の関連を示すことがわかった。実習時に情緒的消耗感があると,1 年後におい
てもネガティブな影響を与え続けることがわかる。
実 習 時 の 個 人 的 達 成 感 の 低 下 は ,12 ヵ 月 時 の 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ
プ に 負 の 関 連 を 示 す こ と が わ か っ た ( β =-.34, p <.01)。 実 習 時 の 個 人 的 達 成 感
は 1 年後においても影響を与えるが,その因子は徐々に減少していくことがわ
か る 。実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト は ,12 ヵ 月 時 の 他 の ポ ジ テ ィ ブ な ギ ャ ッ プ に は 関
連していなかった。
多 重 共 線 性 の 基 準 で あ る VIF は ,全 体 で 1.03~ 1.97 で あ り , 何 れ の 結 果 に お
いても多重共線性は回避されている。
全体として,リアリティショックのポジティブ因子には,実習時の個人的達
成感がポジティブに影響する傾向があること,ネガティブ因子には,実習時の
情緒的消耗感がネガティブに影響する傾向があることがわかる。
実習時のバーンアウトのネガティブなギャップへの影響では,実習時の情緒
的 消 耗 感 は 就 職 3 ヵ 月 時 と 12 ヵ 月 時 の 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ に ネ ガ テ
ィブな関係を示しているが,説明分散は時間経過とともに小さくなっており,
その影響力は低下していることがわかる。それに対して,実習時の情緒的消耗
感 は 3 ヵ 月 時 , 6 ヵ 月 時 , 12 ヵ 月 時 の 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ に ネ ガ テ ィ
ブ な 影 響 を 示 し , 個 人 的 達 成 感 の 低 下 も 3 ヵ 月 時 と 12 ヵ 月 時 の 看 護 の 実 践 に
関するギャップに影響しネガティブな影響を示している。しかも,その影響力
は時間経過とともに大きくなっていることがわかった。また,実習時のバーン
アウトは就職後の職場の人間関係に関するギャップには、1 年を通して影響を
示さないこともわかった。
ポジティブなギャップへの影響では,実習時の個人的達成感の低下が,就職
3 ヵ 月 時 の 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β =-.25, p <.05), 患 者 ・ 家 族 と の 関 係
に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β =-.21, p <.05 ), 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β
74
第4章
=-.32, p <.01) と す べ て の ポ ジ テ ィ ブ な ギ ャ ッ プ 因 子 に 負 の 影 響 を 与 え て い た 。
し か し , 就 職 6 ヵ 月 時 で は 患 者 ・ 家 族 ( β =-.24, p <.05 ) と 満 足 感 ( β
=-.32, p <.01)に ,12 ヶ 月 時 で は 満 足 感 に( β =-.34, p <.01)と そ の 影 響 が 減 少
することがわかった。ポジティブなギャップの生起は,実習時にバーンアウト
していると起こりやすいが,その影響も次第に減少していくことがわかる。な
おポジティブ因子の中でも患者・家族との関係に関するギャップは実習時のバ
ーンアウトとの関連が高かった。すなわち実習時における対患者・家族との良
好な人間関係や,実習における個人的達成感は就職後もポジティブな影響を及
ぼし職場適応を促進することがわかった。
Table 4-4
実習時のバーンアウトがリアリティショックに与える影響
生活の
変化
実
ン
習
ア
時
ウ
バ
ト
ー
情緒的消耗
感
脱人格化
達成感の低
下
調 整 ず み R2
.51 * *
3 カ月時リアリティショック
職場の
看護の
新人教
患者・
人間関
実践
育
家族
係
満足感
.29 *
-.36 *
.12 * *
.26 *
-.25 *
.09 *
.07 *
-.21 *
.16 * *
-.32 * *
.09 *
6 カ月時リアリティショック
実
ン
習
ア
時
ウ
バ
ト
ー
情緒的消耗
感
脱人格化
達成感の低
下
調 整 ず み R2
.32 *
-.49 * * *
.11 * *
-.24 *
-.32 * *
.23
.07 *
12 カ 月 時 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク
実
ン
習
ア
時
ウ
バ
ト
ー
情緒的消耗
感
脱人格化
達成感の低
下
調 整 ず み R2
.45 * *
.10 *
.35 *
.30 * *
-.34 * *
.14 * *
.15 * *
n=85, *** p <.001, ** p <.01, *p <.05
75
第4章
5. 考
察
本研究では実習時のバーンアウトがリアリティショックの認知に与える影響
について検討した。重回帰分析の結果から,全体を通して実習時の情緒的消耗
感は,1年間に渡ってリアリティショックのネガティブな側面を高めること,
個人的達成感はリアリティショックのポジティブな側面を促進するが,その影
響力は時期を経るごとに減少することがわかった。
5-1
実習時のバーンアウトがリアリティショックに与える影響
実習時の情緒的消耗感は就職後の生活の変化に関するギャップを高めていた
が,その影響力は時間の推移とともに低減していた。新人看護師は,実習時に
情緒的消耗感が高いと抑うつ傾向に陥り,就職後の生活の変化をネガティブに
とらえている可能性がある。しかし実習時の影響力は低減していくことから,
生活の変化への影響は長期には及ばないことが推察される。
一方で実習時の情緒的消耗感と個人的達成感の低下は,就職後の看護の実践
に関するギャップに,時期を経るほどに予測の程度が強くなり,実習時のバー
ンアウトがその時期のリアリティショックと強く関連するようになることがわ
かった。新人看護師は実習時にバーンアウトしていると,看護の実践に対する
ギャップが解消できずに不安を抱えながら仕事をしていることが推察される。
厚 生 労 働 省 の 看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 (2007) に よ る と , 看
護学生は「卒業時に一人でできる」という看護技術が少なく,就職後も自信が
持 て な い ま ま 不 安 の 中 で 業 務 を 行 っ て い る と 指 摘 さ れ て い る 。 菅 野 他 ( 2014)
は , 新 人 看 護 師 を 対 象 に 卒 業 時 と 就 職 6か 月 時 の 看 護 技 術 到 達 度 を 調 査 し た 結
果 , 人 工 呼 吸 や 気 道 確 保 と い っ た 救 急 処 置 に 関 す る 基 本 的 な 技 術 が 就 職 6ヵ 月
時 に お い て も 一 人 で で き る と 回 答 し た 者 は 40% 未 満 で あ っ た 。こ れ ら の 処 置 は ,
就職後であっても習得が困難であることがわかる。基礎教育終了時点の新人看
護 師 の 技 術 力 は , 臨 床 現 場 が 求 め る レ ベ ル の 50~ 60% に 過 ぎ な い と い う 報 告 も
な さ れ て い る( 寺 岡 ・ 宮 腰 ・ 高 瀬 ・ 小 林 ・山 本 ・川 田 ,2010)。こ の よ う に ,新 人
看護師は救急処置などの診療上の補助業務に関しては,実際に経験しないと自
信がつかない状態で,不安を抱えたまま仕事を続けていると考えられる。
本研究の結果から,実習時の情緒的消耗感が,リアリティショックのネガテ
76
第4章
ィ ブ 因 子 の 認 知 に 影 響 を 与 え る こ と が わ か っ た 。 説 明 分 散 を み る と 10% 前 後 と
さほど大きな説明力を有している訳ではなく,就職後の要因の影響が大きいと
考えられる。しかし説明分散は低いものの,就職直後の状態によっては適応に
影響を及ぼすと考えられる。
次に実習時の影響を受けないものに,職場の人間関係に関するギャップがあ
ることがわかった。看護学生が就職先の情報源としているのは,就職説明会や
職 場 訪 問 , 実 習 先 で の 情 報 収 集 等 ( 大 塚 ・ 古 米 ・ 藤 野 , 2013) で あ り , 病 院 見
学等を通して説明を受けているとはいえ,配属される職場の人間関係までは,
就職前から予想することは困難であることや,実際に働いていないために,職
場の人間関係自体がストレッサーになりえないことが,説明条件の低さにつな
がったと推測できる。
一 方 ,就 職 3ヶ 月 時 の す べ て の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ポ ジ テ ィ ブ 因 子 に ,実 習
時の個人的達成感が正の影響を与え,適応を促していた。就職後はリアリティ
ショックのポジティブ面に,主に個人的達成感が促進的に働いていることが考
え ら れ る 。説 明 分 散 は 時 期 の 経 過 と と も に 減 少 し て お り ,実 習 時 の 影 響 力 は 徐 々
に 薄 れ て は い く も の の , 少 な く と も 就 職 6ヵ 月 時 ま で は 職 場 適 応 に 影 響 し て い
くと考えられる。
5-2
実習時のバーンアウトと就職後のバーンアウトの関係について
実習時のバーンアウト各因子は,就職後の各因子にすべての時期において影
響が認められた。情緒的消耗感の影響力は低かったが,脱人格化と個人的達成
感の低下が関連していることがわかった。
実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 の 影 響 が 低 い の は ,研 究 2 で 述 べ た よ う に ,身 体 的 ・精
神的な疲労感は就職後の方が高いためであると考えられる。また,実習時に脱
人格化傾向があるということは,実習で不適応を起こした可能性や,患者との
関係が悪かった可能性がある。さらに,個人的達成感が低下している人は,患
者との関係でも良い相互作用が得られていない可能性がある。またそういった
ネガティブな認知の変更は個人の力では困難であるため,実習中の不適応の進
行は就職後にも影響を及ぼしていくと考えられる。逆に実習中に個人的達成感
があると,就職後の適応を促進することからも,看護基礎教育がより臨床に即
77
第4章
した形で充実することで,就職後のバーンアウトを抑制し,適応を促進させて
いると考えられる。
第 4 章のまとめ
研究 3 の結果から,学生時代に適応困難な人は,就職後もネガティブなリア
リティショックを敏感に認知すること,しかし実習時の影響力は低く,むしろ
就職後のネガティブなリアリティショックが不適応を促進する可能性が高いこ
とがわかる。また学生時代に上手く適応していた人は,就職後もポジティブな
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 認 知 し , 良 好 な 適 応 状 態 を 保 っ て い る こ と ,と り わ け 患
者や家族との良好な人間関係が職場適応を促進することがわかった。
全 体 的 な 傾 向 と し て , 就 職 し て 3 ヶ 月 ま で は ,実 習 時 の 適 応 状 態 が 影 響 を 与
え る が ,そ れ 以 降 徐 々 に 影 響 力 は 低 減 し て い く と い え る 。 学 生 時 代 に 不 適 応 を
起 こ し て い た か ら と い っ て 就 職 後 も 不 適 応 を 起 こ す と は 限 ら ず ,就 職 後 の 職 場
環境の影響が大きいことが示唆される。
78
第5章
第 5章
研究 4
リアリティショックの認知からバーンアウトのプロセスに,スキル
と対処が及ぼす影響の検討
問題
Lazarus & Folkman (1984) は , 原 因 と な る 先 行 条 件 が 結 果 条 件 と し て の 長
期に渡る適応状態に直接影響するだけでなく,その間に媒介過程が介在すると
考えている。すなわちストレッサーからの刺激に対する認知的評価と対処,個
人特性の介在の結果,ストレス反応の程度が決定される。新人看護師が受けた
リアリティショックの内容や程度に応じて対処方略が選択される。そこで適切
な対処が行われればストレス低減に結びつく可能性がある。しかし,対処に失
敗すればその結果としてのバーンアウト反応が決まると考えられる。ストレス
反応の軽減に対しては,ソーシャルスキルにも緩衝作用があることが示されて
い る ( Niitsuma et al., 2012; Uchiyama et al., 2011)。 多 少 困 難 な 状 況 で あ
ってもスキルがあれば問題を解決することができるだろうし,逆に十分なスキ
ルがなければ,対処可能な状況であってもうまく対応することはできないだろ
う。新人看護師が医療チームの一員としての役割を全うし,円滑な情報交換や
適切な治療に結びつけるためには,適切な対処の選択や,個人のソーシャルス
キルの高さが非常に重要になる。しかし,新人看護師のスキル不足が指摘され
て お り (看 護 基 礎 教 育 の 充 実 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 , 2007; 高 島 他 , 2004; 山
本 , 2009), ス ト レ ス 反 応 を 緩 和 す る こ と が 難 し い の が 現 状 で あ る 。
研究 4 では,リアリティショックの認知からバーンアウトのプロセスに,ス
キルと対処が及ぼす影響を検討する。リアリティショックに対する対処の有効
性の結果バーンアウトの程度は決定されるが,このリアリティショックの対処
には個人特性であるソーシャルスキルが影響すると考えられる。そこで本章で
はどの要因がバーンアウトに影響を及ぼすのかを明らかにするための検討を行
う。併せて,時期によって関連要因がどう推移するかについても検討する。就
職直後はリアリティショックが高まるためソーシャルスキルや対処が有効に機
能せず,バーンアウトが高まる可能性が考えられる。しかし時期の推移ととも
79
第5章
にスキルや対処が効きはじめ,バーンアウトが低くなる可能性が考えられるた
め,時期による推移についても検討する。
1.
研究目的
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 認 知 か ら バ ー ン ア ウ ト の プ ロ セ ス に ,ス キ ル と 対 処 が
及ぼす影響の検討を行う。また緩衝要因としての検討のために,リアリティシ
ョックとソーシャルスキル及び,リアリティショックと対処の交互作用の影響
を 明 ら か に す る 。時 期 に よ っ て 関 連 要 因 が ど う 推 移 す る か に つ い て も 検 討 す る 。
2.
研究方法
2-1
調査対象者
就職後の検討であるが,研究 3 との整合性を図るため,研究 1 で実習時,就
職 3 ヶ 月 時 ,6 ヵ 月 時 ,12 ヶ 月 時 の 4 回 の 調 査 に 協 力 が 得 ら れ た 調 査 継 続 群 85
名とする。
2-2
調査項目
研 究 2で 使 用 し た ソ ー シ ャ ル ス キ ル と ス ト レ ス 対 処 , バ ー ン ア ウ ト 尺 度 と リ
アリティショック尺度を用いた。
2-3
分析方法
リアリティショック,ソーシャルスキルと対処がバーンアウトに及ぼす影
響 を 検 討 す る た め に 階 層 的 重 回 帰 分 析 ( 強 制 投 入 法 ) を 行 っ た 。 Step 1 で ,
個人のバーンアウト傾向を統制するために,前の時期のバーンアウトを投入
し た 。Step 2 で リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を ,Step 3 で は ス キ ル と 対 処 を 投 入 し た 。
Step 4 で は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と ス キ ル , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と 対 処 の 交 互
作 用 項 を 投 入 し た 。以 上 の 各 Step に お い て ,決 定 係 数 R 2 の 変 化 量 ⊿ R 2 に 対 す
るF値が有意である場合に,投入項は有意であると判断した。
3.
倫理的配慮
研究1に準ずる。
80
第5章
4. 結
4-1
果
基礎統計量
各時期における変数間の相関と 1 時期前のバーンアウトと各変数の相関を確
認した。
4-1-1
各時期における変数間の相関
就 職 3 ヶ 月 時 に お け る 変 数 間 の 相 関 を Table 5-1-1 に 示 す 。 リ ア リ テ ィ シ ョ
ックのネガティブ因子はバーンアウトと正の,ポジティブ因子は負の相関が認
められた。ソーシャルスキルはバーンアウト 3 因子と高い負の相関が認められ
た 。対 処 で は ,楽 観 型 対 処 に お い て 情 緒 的 消 耗 感 ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 と 弱 い 負
の相関が認められた。問題解決型対処においてはバーンアウト 3 因子と弱い負
の 相 関 か ら 中 程 度 の 負 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 情 動 焦 点 型 対 処 に お い て は ,脱 人
格 化 ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 と 弱 い 負 の 相 関 が ,回 避 型 対 処 に お い て は , 情 緒 的 消
耗 感 ,脱 人 格 化 に お い て 弱 い 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。
Table 5-1-1
3 ヶ月時における変数間の相関
3 ヶ月時
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
対
処
生活の変化
情緒的消耗感
.63 * *
脱人格化
.39 * *
看護の実践
.41 * *
.29 * *
.43 * *
職場の人間関係
.62 * *
.54 * *
.19
**
**
-.32 * *
新人教育
-.48
患者・家族
-.07
-.11
-.26 *
満足感
-.55 * *
-.40 * *
-.43 * *
スキル
-.40 * *
-.43 * *
-.44 * *
楽観
-.28 * *
-.13
-.25 *
問題解決
-.30 * *
-.28 * *
-.35 * *
情動焦点
-.04
-.23 *
-.22 *
回避
-.39
達成感低下
.22 *
.24 *
.28 *
-.12
n=85,** p < .01, * p < .05
就 職 6 ヶ 月 時 に お け る 変 数 間 の 相 関 を Table 5-1-2 に 示 す 。 就 職 6 ヵ 月 時 に
おいても,リアリティショックのネガティブ因子はバーンアウトと正の,ポジ
81
第5章
ティブ因子は負の相関が認められた。ソーシャルスキルはバーンアウト 3 因子
と中程度から高い負の相関が認められた。対処では,楽観型対処においてバー
ンアウト 3 因子と弱い負の相関から高い負の相関が認められた。問題解決型対
処 に お い て は ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 の み に お い て 中 程 度 の 負 の 相 関 が 認 め ら れ
た 。 情 動 焦 点 型 対 処 に お い て は ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 と 弱 い 負 の 相 関 が ,回 避 型
対 処 に お い て は , 情 緒 的 消 耗 感 ,脱 人 格 化 と 中 程 度 の 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。
Table 5-1-2
6 ヶ月時における変数間の相関
6 ヶ月時
情緒的消耗感
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
対
処
脱人格化
達成感低下
生活の変化
.61 * *
.36 * *
.29 * *
看護の実践
.50 * *
.41 * *
.37 * *
職場の人間関係
.58 * *
.51 * *
.17
**
**
-.38
患者・家族
-.06
-.23 *
-.26 *
満足感
-.45 * *
-.40 * *
-.56 * *
スキル
-.34 * *
-.32 * *
-.56 * *
楽観
-.27 *
-.27 *
-.44 * *
問題解決
-.19
-.13
-.40 * *
情動焦点
.12
-.02
-.23 *
回避
-.42
-.38 * *
新人教育
.42 * *
.33 * *
-.06
n=85,** p < .01, * p < .05
就 職 12 ヶ 月 時 に お け る 変 数 間 の 相 関 を Table 5-1-3 に 示 す 。 就 職 12 ヵ 月 時
においても,リアリティショックのネガティブ因子はバーンアウトと正の,ポ
ジティブ因子は負の相関が認められた。ソーシャルスキルはバーンアウト 3 因
子と弱い負の相関から高い負の相関が認められた。対処では,楽観型対処にお
いて個人的達成感の低下と中程度の負の相関が認められた。問題解決型対処に
お い て は ,脱 人 格 化 ,個 人 的 達 成 感 の 低 下 に お い て 中 程 度 の 負 の 相 関 が 認 め ら れ
た 。 回 避 型 対 処 に お い て は , 情 緒 的 消 耗 感 ,脱 人 格 化 と 中 程 度 の 正 の 相 関 が 認
められた。情動焦点型対処では相関が認められなかった。
82
第5章
Table 5-1-3
12 ヶ 月 時 に お け る 変 数 間 の 相 関
12 ヶ 月 時
情緒的消耗感
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
対
処
脱人格化
生活の変化
.61 * *
.44 * *
看護の実践
**
**
職場の人間関係
.39
.32
.68 * *
.50 * *
**
達成感低下
.19
.32 * *
.11
-.42 * *
新人教育
-.20
-.31
患者・家族
-.01
-.12
-.31 * *
満足感
-.36 * *
-.35 * *
-.61 * *
スキル
-.24 *
-.36 * *
-.43 * *
楽観
.00
-.11
-.30 * *
問題解決
-.18
-.30 * *
-.49 * *
情動焦点
.11
-.09
-.19
回避
.32 * *
.39 * *
-.05
n=85,** p < .01, * p < .05
全体としての傾向をまとめると,リアリティショックのネガティブ因子はバ
ーンアウトと正の,ポジティブ因子は負の相関が認められることがわかった。
ソーシャルスキルはバーンアウトと負の相関が認められた。対処では,回避型
対 処 を 除 き ,就 職 3 ヶ 月 時 に 比 較 し ,12 ヶ 月 時 で は バ ー ン ア ウ ト と の 相 関 が 低
くなることがわかった。回避型対処は 1 年を通して,情緒的消耗感と脱人格化
と正の相関が認められた。
4-1-2
1時期前のバーンアウトと各変数の相関
実習時のバーンアウトと就職 3 ヶ月時のリアリティショックとの相関を
Table 5-2-1 に 記 す 。 実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は 3 ヵ 月 時 の 生 活 の 変 化 に 関 す る
ギャップ,看護の実践に関するギャップと弱い正の相関から中程度の正の相関
が認められた。脱人格化と個人的達成感の低下においては相関が認められなか
った。また実習時のバーンアウトと,就職 3 ヵ月時の職場の人間関係に関する
ギャップにおいても相関が認められなかった。ポジティブ因子との関係では,
実習時の情緒的消耗感は就職 3 ヵ月時の患者・家族との関係に関するギャップ
と弱い負の相関が認められた。脱人格化も就職 3 ヵ月時の患者・家族との関係
83
第5章
に関するギャップと中程度の負の相関が認められた。個人的達成感の低下はポ
ジティブ因子のすべてと弱い負の相関から中程度の負の相関が認められた。
Table 5-2-1
実
習
時
実習時のバーンアウトと就職 3 ヶ月時のリアリティショックとの相関
情緒的消耗感
脱人格化
生活の
変化
看護の
実践
.33 * *
.23 *
.10
達成感低下
.11
リアリティショック
人間関
新人教
患者・
係
育
家族
.11
.14
.28
.08
*
-.24 *
-.19
-.18
.08
-.27
*
満足感
-.13
-.39
**
-.07
-.29
**
-.31 * *
n=85,** p < .01, * p < .05
実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 3 ヶ 月 時 の ス キ ル・対 処 と の 相 関 を Table 5-22 に 記 す 。実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト と ス キ ル の 関 係 で は ,バ ー ン ア ウ ト 3 因 子 と 中
程度から高い負の相関が認められた。対処との関係では,実習時の情緒的消耗
感 は 楽 観 型 対 処 ,情 動 焦 点 型 対 処 と 弱 い 負 の , 回 避 型 対 処 と 弱 い 正 の 相 関 が 認
められた。脱人格化は情動焦点型対処と中程度の負の,回避型対処と中程度の
正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 個 人 的 達 成 感 の 低 下 で は 楽 観 型 対 処 ,問 題 解 決 型 対 処 ,
情動焦点型対処と中程度の負の相関が認められた。
Table 5-2-2
実習時のバーンアウトと就職 3 ヶ月時のスキル・対処との相関
対処
実
習
時
情緒的消耗感
脱人格化
達成感低下
スキル
楽観
問題解決
情動焦点
回避
-.32 * *
-.35 * *
-.49 * *
-.22 *
-.14
-.34 * *
-.17
-.16
-.37 * *
-.26 *
-.36 * *
-.32 * *
.28 * *
.30 * *
.02
n=85,** p < .01, * p < .05
就職 3 ヵ月時のバーンアウトと就職 6 ヶ月時のリアリティショックとの相関
を Table 5-2-3 に 記 す 。3 ヶ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト の 下 位 因 子 は ,患 者 ・家 族 を 除
くすべてのリアリティショックの下位因子と正または負の相関が認められた。
84
第5章
就 職 直 後 と 比 較 す る と ,3 ヶ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト は 患 者 ・家 族 と の 関 係 に 影 響 を
示さなくなることがわかる。
Table5-2-3 就 職 3 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 6 ヵ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と の 相 関
生活の
変化
3
ヵ
月
時
リアリティショック
人間関
新人教
係
育
看護の
実践
患者・
家族
満足感
情緒的消耗感
.57 * *
.39 * *
.53 * *
-.38 * *
.01
-.39 * *
脱人格化
.37 * *
.32 * *
.48 * *
-.43 * *
-.14
-.31 * *
達成感低下
.25 *
.41 * *
.25 *
-.34 * *
-.18
-.44 * *
n=85,** p < .01, * p < .05
就 職 3 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 6 ヶ 月 時 の ス キ ル・対 処 と の 相 関 を Table
5-2-4 に 記 す 。
就 職 3 ヶ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と ス キ ル の 関 係 で は ,バ ー ン ア ウ ト 3 因 子 と 中
程度から高い負の相関が認められた。対処との関係では,3 ヶ月時の情緒的消
耗感は 6 ヵ月時の楽観型対処と中程度の負の,回避型対処と中程度の正の相関
が認められた。脱人格化は回避型対処と中程度の正の相関が認められた。個人
的 達 成 感 の 低 下 で は 楽 観 型 対 処 ,問 題 解 決 型 対 処 と 中 程 度 の 負 の 相 関 が 認 め ら
れた。3 ヵ月時のバーンアウトと情動焦点型対処の関連は認められなかった。
Table 5-2-4 就 職 3 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 6 ヶ 月 時 の ス キ ル ・ 対 処 と の 相 関
対処
3
ヵ
月
時
スキル
楽観
**
-.32
**
脱人格化
-.39 * *
達成感低下
-.53 * *
情緒的消耗感
-.37
問題解決
情動焦点
回避
-.11
.18
.36 * *
-.17
-.04
-.07
.37 * *
-.38 * *
-.35 * *
-.18
-.06
n=85,** p < .01, * p < .05
就 職 6 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 12 ヶ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と の 相
関 を Table 5-2-5 に 記 す 。
85
第5章
就 職 6 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は 12 ヵ 月 時 の 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ ,
看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 中 程 度 か ら
高 い 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。脱 人 格 化 は , 12 ヶ 月 時 の 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る
ギャップと中程度の正の相関が認められた。個人的達成感の低下においては ,
12 ヵ 月 時 の 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 弱 い 相 関 が 認 め ら れ た の み で あ っ
た 。ポ ジ テ ィ ブ 因 子 と の 関 係 で は ,就 職 6 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は 就 職 12 ヵ 月
時の就職後の満足感に関するギャップのみと弱い負の相関が認められた。個人
的 達 成 感 の 低 下 は 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ,就 職 後 の 満 足 感 に 関
するギャップと弱い負の相関から中程度の負の相関が認められた。脱人格化と
の 相 関 は 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 就 職 6 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 12 ヵ 月
時の新人教育に関するギャップにおいても関係が認められなかった。
Table 5-2-5
就 職 6 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 12 ヵ 月 時 の
リアリティショックとの相関
6
ヵ
月
時
リアリティショック
人間関
新人教
係
育
生活の
変化
看護の
実践
.37 * *
.37 * *
.48 * *
-.12
-.11
脱人格化
.14
.18
.32 * *
-.17
-.19
-.21
達成感低下
.19
.07
-.20
-.25 *
-.47 * *
情緒的消耗感
.22 *
患者・
家族
満足感
-.27 *
n=85,** p < .01, * p < .05
最 後 に 就 職 6 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 就 職 12 ヶ 月 時 の ス キ ル ・ 対 処 と の 相
関 を Table 5-2-6 に 記 す 。6 ヶ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と ス キ ル の 関 係 で は ,バ ー ン
アウト 3 因子において中程度から高い負の相関が認められた。対処との関係で
は 6 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は 12 ヵ 月 時 の 問 題 解 決 型 対 処 と 弱 い 負 の 相 関 が 認
められた。脱人格化も問題解決型対処と中程度の正の相関が認められた。個人
的 達 成 感 の 低 下 で は 楽 観 型 対 処 ,問 題 解 決 型 対 処 ,情 動 焦 点 型 対 処 と 弱 い 負 の 相
関から中程度の負の相関が認められた。6 ヵ月時のバーンアウトと回避型対処
の関連は認められなかった。6 ヵ月時のバーンアウトは問題解決型対処に負の
86
第5章
影 響 を 及 ぼ す ,す な わ ち 6 ヵ 月 時 に バ ー ン ア ウ ト 得 点 が 低 い 人 は 12 ヶ 月 時 で 問
題解決型対処の効果が現れることがわかる。
Table 5-2-6
就 職 6 ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト と 12 ヶ 月 時 の ス キ ル ・ 対 処 と の 相 関
対処
スキル
6
ヵ
月
時
情緒的消耗感
脱人格化
達成感低下
-.28
**
-.36
**
-.49
**
楽観
.02
情動焦点
回避
*
-.01
.14
-.28
**
-.12
.21
-.35
**
-.23
-.03
-.32
問題解決
**
-.23
*
-.08
n=85,** p < .01, * p < .05
全体的な傾向をまとめると,就職後のバーンアウトは職場の人間関係に関す
るギャップに関連していること, ソーシャルスキルとは負の相関が認められる
ことがわかる。
対 処 と の 相 関 で は ,就 職 3 ヶ 月 時 に お い て は 情 動 焦 点 型 対 処 が 効 い て い た が ,
就職 6 ヵ月時では関連を認めなくなること,就職 6 ヵ月時のバーンアウトの低
さ は 就 職 12 ヶ 月 時 の 問 題 解 決 型 対 処 に 関 連 し て い る こ と が わ か る 。
4-2
バーンアウトに及ぼすリアリティショック,ソーシャルスキル,対処の影響
次にバーンアウト各因子に及ぼすリアリティショック,ソーシャルスキル,
対処の影響の階層的重回帰分析結果について述べる。
4-2-1
情緒的消耗感を目的変数とした階層的重回帰分析
就職 3 ヵ月時の情緒的消耗感を目的変数とした階層的重回帰分析の結果を
Table 5-3-1 に 記 す 。 就 職 3 ヵ 月 時 で は , Step 2 に お け る R 2 乗 の 変 化 量 が 有
意 で あ っ た ( ⊿ R 2 = .46, F ( 9,75) =11.30, p <.01) が , そ れ 以 降 の Step で
は 有 意 な 変 化 量 を 示 さ ず ,対 処 や ス キ ル の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 。そ の た め ,
Step 2 に お け る 関 係 の 記 述 を 行 う 。情 緒 的 消 耗 感 に 対 し て ,生 活 の 変 化 に 関 す
る ギ ャ ッ プ ( β = .32, p <.05 ) と , 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β
= .26, p <.05)が 正 の ,就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 負 の( β = -.26,p<.05)
87
第5章
影 響 を 示 す こ と が 分 か っ た 。VIF は 1.82~ 2.66 で あ り ,多 重 共 線 性 の 指 標 で あ
る 10 を 超 え て い な い こ と か ら , 多 重 共 線 性 の 問 題 は 発 生 し て い な い と 判 断 し
た。
Table 5-3-1
就職 3 ヵ月時の情緒的消耗感を目的変数とした階層的重回帰分析
3 ヶ月時
Step 1
バ実
ウー習
トン時
アの
リ
ア
リ
テ
ク
ィ
シ
ョ
ッ
*
Step 2
情緒的消耗感
.29
.04
脱人格化
.04
.18
達成感低下
.11
-.05
.32 *
生活の変化
看護の実践
-.00
.26 *
人間関係
新人教育
-.05
患者・家族
-.05
満足感
-.26 *
Δ R2
.12
.46 * *
調 整 済 み R2
.09 *
.53 * *
F値
3.71
11.30
n=85,** p < .01, * p < .05
就職 6 ヵ月時の情緒的消耗感を目的変数とした階層的重回帰分析の結果を
Table 5-3-2 に 記 す 。
就 職 6 か 月 時 に お い て は , 3 ヶ 月 時 同 様 , Step 2 に お け る R 2 乗 の 変 化 量 が 有
意 で あ っ た ( ⊿ R 2 = .10, F ( 9,75)=15.65, p <.01)が ,対 処 や ス キ ル の 影 響
は 認 め ら れ な か っ た 。 Step 2 で は ,情 緒 的 消 耗 感 に 対 し て 職 場 の 人 間 関 係 に 関
す る ギ ャ ッ プ ( β =.20,p<.05) が 正 の 影 響 を 示 し た 。 Step 3 の ス キ ル と 対 処 の
主 効 果 及 び Step 4 の 交 互 作 用 は 有 意 で は な か っ た 。 VIF は 2.01 で , 多 重 共 線
性の問題は発生していないと判断した。
88
第5章
Table 5-3-2
就職 6 ヵ月時の情緒的消耗感を目的変数とした階層的重回帰分析
6 ヵ月時
Step 1
Step 2
3 ヵ月
時のバー
ンアウト
クリ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
情緒的消耗感
.67 * *
.48 * *
脱人格化
.04
-.02
達成感低下
.11
-.01
生活の変化
.15
看護の実践
.12
人間関係
.20 *
新人教育
.04
患者・家族
-.11
満足感
ΔR
-.12
2
**
.10 * *
.53 * *
.61 * *
.55
調 整 済 み R2
F値
33.02
15.65
n=85,** p < .01, * p < .05
就 職 12 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 の 結 果 を
Table 5-3-3 に 記 す 。 就 職 12 か 月 時 に お い て も 同 様 で Step 2 に お け る R 2 乗 の
変 化 量 の み が 有 意 で あ っ た( ⊿ R 2 = .32,F( 9,75)=11.28,p <.01)。対 処 や ス
キ ル の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 。12 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 に 対 し て ,生 活 の 変
化 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β = .28, p <.05)と ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β
= .37, p <.01)が 正 の ,就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β = -.26, p <.05)が
負 の 影 響 を 示 し た 。 Step 3 の ス キ ル と 対 処 の 主 効 果 及 び Step 4 の 交 互 作 用 は
有意ではなかった。
生活の変化に関するギャップと,職場の人間関係に関するギャップが情緒的
消耗感に促進的に働き,就職後の満足感に関するギャップが抑制的に働くこと
が わ か る 。 VIF は 1.69~ 3.14 で 多 重 共 線 性 の 問 題 は 発 生 し て い な い と 判 断 し
た。
89
第5章
Table5-3-3
就 職 12 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 を 目 的 変 数 と し た
階層的重回帰分析
12 ヶ 月 時
Step 1
アの6
ウバヵ
トー月
ン時
クリ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
Step 2
**
情緒的消耗感
.50
脱人格化
.02
.09
-.02
-.11
達成感低下
.16
.28 *
生活の変化
看護の実践
-.08
人間関係
.37 * *
新人教育
.02
患者・家族
-.00
満足感
-.26 *
Δ R2
.25 * *
.32 * *
調 整 済 み R2
.22 * *
.52 * *
F値
9.10
11.28
n=85, ** p < .01, * p < .05
4-2-2
脱人格化を目的変数とした階層的重回帰分析
就職 3 ヵ月時の脱人格化を目的変数とした階層的重回帰分析の結果を
Table5-4-1 に 記 す 。 下 表 の 交 互 作 用 項 は 有 意 な も の の み を 書 い て い る 。 就 職 3
ヵ 月 時 で は ,Step2 (⊿ R 2 = .28,F( 9,75)=7.44,p <.01)Step 4( ⊿ R 2 = .31,
F( 44,40)=4.41,p <.01)に お け る R2 乗 の 変 化 量 が 有 意 で あ っ た 。Step 2 で
は ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β = .37, p <.01)が 正 の 影 響 を 示 す こ と
が 分 か っ た 。 Step 4 で は ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 楽 観 型 対 処 の 交 互 作
用 ( β =- .29, p <.05) と 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 問 題 解 決 型 対 処 の 交 互
作 用 ( β =- .36, p <.01) が 負 の , 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 回 避 型 対
処 の 交 互 作 用 ( β =.33, p <.05) と 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 回 避 型 対 処 の 交
互 作 用( β =.42, p <.05)が 有 意 な 関 連 を 示 す こ と が わ か っ た 。VIF は 3.89~ 6.11
の 間 で ,多 重 共 線 性 の 問 題 は 発 生 し て い な い と 判 断 し た 。
有意な交互作用項の内容を調べるために,対処のそれぞれの項目の平均得点
±1 標 準 偏 差 の 値 を そ れ ぞ れ 代 入 し た 。
90
第5章
Table5-4-1
トンの実
アバ習
ウー時
リ
ア
リ
ッ
テ
ク
ィ
シ
ョ
対
処
就職 3 ヵ月時の脱人格化を目的変数とした階層的重回帰分析
3 ヶ月時
Step 2
Step 3
-.14
-.17
.49 * *
.41 * *
-.07
-.18
.06
.06
.02
.01
**
.37
.35 *
-.01
.05
-.02
-.04
-.19
-.22
-.20
.11
-.06
-.13
.04
Step 1
-.02
.44 * *
.03
情緒的消耗感
脱人格化
達成感低下
生活の変化
看護の実践
人間関係
新人教育
患者・家族
満足感
ソーシャルスキル
楽観
問題解決
情動焦点
回避
生 活 の 変 化 *楽 観
看 護 の 実 践 *問 題 解 決
人 間 関 係 *回 避
新 人 教 育 *回 避
Δ R2
.19 * *
調 整 済 み R2
.16 * *
F値
6.27
.28 * *
.41 * *
7.44
.05
.43 * *
5.51
Step 4
-.06
.39 * *
-.11
-.20
.11
.58 * *
.01
.04
-.10
-.40 * *
.16
.00
-.05
-.04
-.29 *
-.36 * *
.33 *
.42 * *
.31 * *
.64 * *
4.41
n=85,** p < .01, * p < .05
脱人格化に及ぼす生活の変化に関するギャップと楽観型対処の交互作用得点
の 変 化 を Figure 5-1 に 示 す 。就 職 3 ヶ 月 時 に お い て は ,楽 観 高 群 に お い て ,生
活の変化に関するギャップ高と比べて低において脱人格化が高いことがわかる。
ま た ,楽 観 低 群 に お い て は 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 違 い は 認 め ら れ な い 。
91
第5章
4.5
4
*
3.5
3
脱
人 2.5
格 2
化
1.5
coping認知変更
楽観低群
06_-1SD
楽観高群
coping認知変更
06_+1SD
1
0.5
0
-1SD
+1SD
生活の変化に関するギャップ
Figure 5-1
就職 3 ヵ月時の脱人格化に及ぼす生活の変化に関する
ギャップと楽観型対処の交互作用得点の変化
脱人格化に及ぼす看護の実践に関するギャップと問題解決型対処の交互作用
得 点 の 変 化 を Figure 5-2 に 示 す 。問 題 解 決 低 群 に お い て ,看 護 の 実 践 に 関 す る
ギャップ低と比べて高において脱人格化が高いことがわかる。また,問題解決
高群においては看護の実践に関するギャップの違いは認められない。
4.5
4
*
3.5
3
脱
人 2.5
格 2
化 1.5
問題解決低群
問題解決高群
1
0.5
0
-1SD
+1SD
看護の実践に関するギャップ
Figure 5-2
就職 3 ヵ月時の脱人格化に及ぼす看護の実践に関する
ギャップと問題解決型対処の交互作用得点の変化
92
第5章
脱人格化に及ぼす職場の人間関係に関するギャップと回避型対処の交互作用
得 点 の 変 化 を Figure 5-3 に 示 す 。回 避 型 高 群 に お い て ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す
るギャップ低と比べて高において脱人格化が高いことがわかる。また回避型低
群においては人間関係に関するギャップの違いは認められない。
脱
人
格
化
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
*
coping回避
06_-1SD
低群
coping回避
06_+1SD
高群
-1SD
+1SD
人間関係に関するギャップ
Figure 5-3
就職 3 ヵ月時の脱人格化に及ぼす職場の人間関係に関する
ギャップと回避型対処の交互作用得点の変化
脱人格化に及ぼす新人教育に関するギャップと回避型対処の交互作用得点の
変 化 を Figure 5-4 に 示 す 。 回 避 型 低 群 に お い て 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 高
と比べて低において脱人格化が高く,回避型高群において,新人教育に関する
ギャップ低と比べて高において脱人格化が高いことがわかる。回避型対処が高
い と 脱 人 格 化 が 高 ま る こ と ,逆 に 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 低 く て , 回 避 型
対処が低くても脱人格化が高まることがわかった。
93
第5章
脱
人
格
化
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
*
*
coping回避
06_-1SD
低群
coping回避
06_+1SD
高群
-1SD
+1SD
新人教育に関するギャップ
Figure 5-4
就職 3 ヵ月時の脱人格化に及ぼす新人教育に関する
ギャップと回避型対処の交互作用得点の変化
全体として就職 3 ヶ月時においては,とりわけ職場の人間関係に関するギャ
ップが高くて,回避型対処を取る人で脱人格化が促進されることがわかった。
次に,就職 6 か月時の脱人格化を目的変数とした階層的重回帰分析の結果を
Table 5-3-2 に 示 す 。 Step 2 に お け る R2 乗 の 変 化 量 が 有 意 で あ っ た が ( ⊿ R 2
= .07,F( 9,75)=13.40,p <.05),対 処 や ス キ ル の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 。
そ の た め Step 2 に お け る 関 係 の 記 述 を 行 う 。 Step 2 で は , 脱 人 格 化 に 対 し て
職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β =.23, p <.05) が 正 の , 患 者 ・ 家 族 と の 関
係 に 関 す る ギ ャ ッ プ ( β =-18, p <.05) が 負 の 影 響 を 示 し た 。 VIF は 1.41~ 2.01
で多重共線性の問題は発生していないと判断した。
同じ人間関係でも,職場での人間関係がバーンアウトを高め,患者や家族と
の関係は抑制的に働くことがわかる。
94
第5章
Table 5-3-2
就職 6 ヵ月時の脱人格化を目的変数とした階層的重回帰分析
6 ヵ月時
Step 1
バ3
ウーヵ
トン月
ア時
リ
ア
リ
テ
ク
ィ
シ
ョ
ッ
情緒的消耗感
.21
Step 2
*
.18
**
.45 * *
脱人格化
.54
達成感低下
.10
-.01
生活の変化
-.11
看護の実践
.15
人間関係
.23 *
新人教育
.06
-.18 *
患者・家族
満足感
ΔR
-.090
2
.07 *
.53 * *
.57
.55
調 整 済 み R2
F値
**
32.47
13.40
最 後 に , 就 職 12 か 月 時 の 脱 人 格 化 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 の 結
果 を Table 5-3-3 に 示 す 。 就 職 12 か 月 時 に お い て も 同 様 で , Step 2 に お け る
R 2 乗 の 変 化 量 の み が 有 意 で あ っ た が( ⊿ R 2 = .19,F( 9,75)=10.52,p <.01),
対 処 や ス キ ル の 影 響 は 認 め ら れ な か っ た 。Step 2 で は ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ
ャ ッ プ ( β = .27, p <.05) が 正 の 影 響 を 示 し た 。 VIF は 2.96 で 多 重 共 線 性 は 発
生していないと判断した。
就職最初の頃は,職場の人間関係に関するギャップが脱人格化に促進的に働
く が , 就 職 12 ヶ 月 時 に な る と 生 活 の 変 化 に 推 移 す る こ と が わ か る 。
95
第5章
Table 5-3-3
就 職 12 ヵ 月 時 の 脱 人 格 化 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析
12 ヶ 月 時
Step 1
バ6
ウーヵ
トン月
ア時
リ
ア
リ
テ
ク
ィ
シ
ョ
ッ
情緒的消耗感
.03
脱人格化
.57
達成感低下
.04
Step 2
-.21
**
.64 * *
-.06
生活の変化
.27 *
看護の実践
.01
人間関係
.15
新人教育
-.08
患者・家族
.01
満足感
-.19
Δ R2
調整済み R
F値
2
.37 * *
.19 * *
**
.51 * *
.34
15.54
10.52
n=85,** p < .01, * p < .05
4-2-3 個 人 的 達 成 感 の 低 下 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析
就職 3 ヵ月時の個人的達成感の低下を目的変数とした階層的重回帰分析の結
果 を Table 5-5-1 に 示 す 。 就 職 3 ヵ 月 時 で は , Step 2 に お け る R 2 乗 の 変 化 量
が 有 意 で あ っ た( ⊿ R 2 = .09, F ( 9,75)=10.64, p <.01)が ,そ れ 以 降 の Step
では有意な変化量を示さず,対処やスキルの影響は認められなかった。そのた
め , Step 2 に お け る 関 係 の 記 述 を 行 う 。 個 人 的 達 成 感 の 低 下 に 対 し て , 看 護 の
実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β = .26, p <.05)が 正 の 影 響 を 示 す こ と が 分 か っ た 。VIF
は 1.68 で 多 重 共 線 性 の 問 題 は 発 生 し て い な い と 判 断 し た 。
96
第5章
Table 5-5-1
3 ヵ月時の個人的達成感の低下を目的変数とした
階層的重回帰分析
3 ヶ月時
Step 1
バ実
ウー習
トン時
アの
情緒的消耗感
リ
ア
リ
テ
ィ
シ
ョ
ッ
ク
生活の変化
.25
脱人格化
*
-.09
達成感低下
.66
Step 2
.23
-.11
**
.54 * *
-.19
看護の実践
.26 *
人間関係
.09
新人教育
-.01
患者・家族
-.05
満足感
ΔR
-.16
2
.47
調 整 済 み R2
**
.45 * *
F値
23.99
.09 *
.51 * *
10.64
n=85, ** p < .01, * p < .05
就職 6 ヵ月時の個人的達成感の低下を目的変数とした階層的重回帰分析の結
果 を Table 5-5-2 に 示 す 。 就 職 6 か 月 時 に お い て は , Step 2( ⊿ R 2 = .07, F
( 9,75)=22.75,p <.01)と Step 3( ⊿ R 2 = .04,F( 14,70)=16.78,p <.01)
に お け る R 2 乗 の 変 化 量 が 有 意 で あ っ た 。 Step 2 で は , 個 人 的 達 成 感 の 低 下 に
対 し て 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β =-.22,p<.01)が 負 の 影 響 を 示 し た 。
ま た Step 3 で は ス キ ル ( β =-.18, p <.05) が 負 の 影 響 を 示 し た 。 VIF は 1.72
~ 1.83 の 間 で 多 重 共 線 性 は 発 生 し て い な い と 判 断 し た 。
97
第5章
Table 5-5-2
就職 6 ヵ月時の個人的達成感の低下を目的変数とした
階層的重回帰分析
6 ヵ月時
Step 2
Step 3
.07
-.13
.70 * *
.06
-.15
.59 * *
生活の変化
.12
.12
看護の実践
人間関係
-.01
-.13
-.04
-.13
新人教育
患者・家族
-.07
-.06
-.04
-.02
満足感
-.22 * *
-.24 * *
-.18 *
Step 1
アの3
ウバヵ
トー月
ン時
リ
ア
リ
ッ
テ
ク
ィ
シ
ョ
情緒的消耗感
脱人格化
達成感低下
.14
-.12
.80 * *
ソーシャルスキル
楽観型
対
処
-.04
問題解決型
-.05
情動焦点型
-.06
回避型
2
ΔR
調 整 済 み R2
F値
**
.66
.65 * *
53.14
**
.07
.70 * *
22.75
-.00
.04 *
.72 * *
16.76
n=85, ** p < .01, * p < .05
就 職 12 ヵ 月 時 の 個 人 的 達 成 感 の 低 下 を 目 的 変 数 と し た 階 層 的 重 回 帰 分 析 の
結 果 を Table 5-5-3 に 示 す 。 就 職 12 か 月 時 に お い て は , Step 2( ⊿ R 2 = .16,
F( 9,75)=16.15,p <.01)と Step 3( ⊿ R 2 = .05,F( 14,70)=12.40,p <.05)
に お け る R 2 乗 の 変 化 量 が 有 意 で あ っ た 。 Step 2 で は , 個 人 的 達 成 感 の 低 下 に
対 し て ,新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ( β =-.19, p <.05)と 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す
る ギ ャ ッ プ ( β =-.26, p <.01) が 負 の 影 響 を 示 し た ま た Step 3 で は 問 題 解 決 型
対 処( β =-.23, p <.01)が 負 の ,情 動 焦 点 型 対 処( β =.18, p <.05)が 正 の 影 響 を
示 し た 。 VIF は 1.77~ 1.88 の 間 で 多 重 共 線 性 は 発 生 し て い な い と 判 断 し た 。
98
第5章
Table 5-5-3
就 職 12 ヵ 月 時 の 個 人 的 達 成 感 の 低 下 を 目 的 変 数 と し た
階層的重回帰分析
12 ヶ 月 時
Step 1
ウー時6
トンのヵ
アバ月
リ
ア
リ
ッ
テ
ク
ィ
シ
ョ
情緒的消耗感
Step 2
-.23 *
-.11
-.20
脱人格化
.05
.04
.04
達成感低下
.73 * *
.58 * *
.53 * *
生活の変化
-.07
看護の実践
.15
人間関係
.05
新人教育
-.19
患者・家族
-.15
.19 *
.14
*
.02
満足感
-.26
-.17 *
-.02
**
ソーシャルスキル
対
処
Step 3
-.23 *
.00
楽観型
-.09
問題解決型
-.23 * *
情動焦点型
.18 *
回避型
-.11
ΔR
2
調 整 済 み R2
F値
.50
**
.49 * *
27.48
.16
**
.62 * *
16.15
.05 *
.66 * *
12.40
n=85,** p < .01, * p < .05
全体的な傾向として,個人的達成感に対しては,就職して最初の頃は,看護
の実践に関するギャップが促進要因として機能しているが,就職 6 ヵ月時にな
る と ソ ー シ ャ ル ス キ ル が , 就 職 12 ヶ 月 時 で は 対 処 が 個 人 的 達 成 感 を 高 め て い
ることがわかる。
5.考
察
本研究は,就職後のバーンアウトに及ぼすリアリティショックとソーシャル
スキルと対処の影響を検討した。就職後のバーンアウトにはリアリティショッ
クが影響を与えていることがわかった。個人的達成感の低下に対しては就職 6
ヵ 月 時 と 12 ヶ 月 時 で ス キ ル や 対 処 の 影 響 が 確 認 さ れ た が , 全 体 を 通 し て は そ
の有効性はほとんど認められなかった。また,脱人格化に対して就職 3 ヶ月時
のリアリティショックとスキル及びリアリティショックと対処の交互作用に対
99
第5章
して緩衝効果がみられた。しかし,それ以外では有意差は認められず,緩衝効
果の影響もあまり認められないことがわかった。
5-1
情緒的消耗感に及ぼすリアリティショック・スキル・対処の影響
情緒的消耗感に対して,生活の変化に関するギャップと職場の人間関係に関
するギャップが促進的に働き,就職後の満足感に関するギャップが抑制的に働
く こ と が わ か っ た 。研 究 3 で 述 べ た よ う に ,新 人 看 護 師 は ,就 職 す る や 学 生 時 代
の受け持ちとレベルが違いすぎる重症度の高い患者を受け持ち,仕事中も緊張
が強いられ,休憩といっても食事がのどを通らず,家に帰っても寝るだけの生
活 が 続 く 。 情 緒 的 消 耗 感 に は ,仕 事 中 だ け で は な く 自 宅 に 帰 っ て も 仕 事 が 頭 を
離 れ な い と い っ た ,学 生 時 代 と は 異 な る 生 活 の 変 化 が 大 き く 影 響 す る と 考 え ら
れる。
また 1 年を通して,職場の人間関係に関するギャップが情緒的消耗感を促進
す る こ と が わ か っ た 。 研 究 1 で 述 べ た よ う に ,先 輩 看 護 師 と の ネ ガ テ ィ ブ な 人
間 関 係 は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 要 因 の 1 つ で あ る 。本 研 究 に お い て も ,1 年 間 に
渡 っ て 情 緒 的 消 耗 感 に 影 響 を 与 え 続 け て い る こ と か ら ,新 人 看 護 師 は , 常 に 先
輩看護師との関係を負担に感じながら仕事を続けていると考えられる。
3 ヵ 月 時 と 12 ヵ 月 時 ,就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ は 情 緒 的 消 耗 感 に 対
し て 抑 制 的 に 働 く こ と が 認 め ら れ た 。中 井・ 門 間( 2014) は ,救 命 救 急 セ ン タ
ーに勤務する看護師のやりがいと蓄積的疲労を調査した結果,仕事に対してや
りがいのある人は蓄積的疲労のうちでも,精神的側面の疲労と社会的側面の疲
労が少ないことを述べた。本研究の協力者である新人看護師たちも,就職後の
満足感が仕事のやりがいにつながることで,厳しい医療環境であっても適応が
可能になると推測される。
5-2
脱人格化に及ぼすリアリティショック・スキル・対処の影響
就 職 3ヵ 月 時 の 脱 人 格 化 に 対 し て , 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 促 進
的に働くことがわかった。またスキルと対処の緩衝効果が認められた。特に人
間関係に関するギャップが高く,回避型対処を採用する人では脱人格化が促進
さ れ る こ と が 認 め ら れ た 。就 職 6ヵ 月 時 で は ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ
100
第5章
が脱人格化を高め,患者・家族との関係に関するギャップが抑制していること
が わ か っ た 。 12ヶ 月 時 で は 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 脱 人 格 化 を 高 め て い
た。以上から,時期の推移により脱人格化に対する影響要因が変化することが
わかった。
職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 就 職 3ヶ 月 時 と 6ヵ 月 時 に 継 続 し て 脱 人 格
化を高めていることがわかった。脱人格化はバーンアウトの深化した状態であ
る ( Lieter & Maslach, 1988) こ と を 考 え る と , 就 職 後 の 職 場 の 人 間 関 係 は 不
適 応 を さ ら に 強 め て い く 可 能 性 の あ る こ と が わ か る 。 ま た 12ヶ 月 時 に お い て は
生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 推 移 し て い る こ と か ら , 研 究 2の 結 果 と 併 せ て
考 え る と ,職 場 不 適 応 の 要 因 と し て ,就 職 後 半 年 ほ ど は 職 場 の 人 間 関 係 が 影 響 し ,
その後は過剰な労働が影響する可能性がある。新人看護師の早期離職の規定要
因 が , 就 職 初 期 の 精 神 的 苦 痛 か ら 就 職 9ヶ 月 を 過 ぎ る と 蓄 積 的 疲 労 に 推 移 す る
( Tominaga & Miki, 2010)こ と か ら ,本 研 究 の 対 象 者 に お い て も 就 職 12ヶ 月 目
頃は疲労が蓄積していると推察され,それが生活の変化に関するギャップへの
移行として現れたと考えられる。
就 職 3ヶ 月 時 に お い て は 唯 一 緩 衝 効 果 の 影 響 が 認 め ら れ た 。 交 互 作 用 が 有 意
で あ っ た の は 以 下 の 4つ で あ っ た 。ま ず ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 高 く て
も,楽観型対処が有効であれば脱人格化が低いことがわかった。
次に,看護の実践に関するギャップが高く,問題解決型対処が低いと脱人格
化が高まることが認められた。その理由として医療現場という職場環境が考え
られる。すなわち医療の現場は常に問題解決のための具体的な対処が求められ
る 場 所 で あ り ,い く ら 看 護 の 初 心 者 で あ り , 現 場 の フ ォ ロ ー が 入 る と い っ て も ,
免許を持って仕事をしている以上,与えられた仕事に対しては,自分で問題解
決をしていかなければならない。うまく問題解決できない場合は,患者との関
係性が希薄なものになっていき,バーンアウトの深化につながることが考えら
れる。
また,職場の人間関係に関するギャップが高く,回避型対処が高いと脱人格
化が高まることが認められた。既に述べてきたように,回避的対処はバーンア
ウトを促進したり,離職を促進することがわかっている。本研究の結果もそれ
を支持するものと考えられる。
101
第5章
最後に,新人教育に関するギャップが高く,回避型対処が高くても,逆に新
人教育に関するギャップが低く,回避型対処が低くても脱人格化が高まること
が認められた。回避型対処は,ストレスによって生じた情動反応を,人のせい
にすることで責任転嫁したり,問題自体を避けて遠ざかることで発散する対処
で あ り , 先 行 研 究 ( Billings & Moos, 1981 ; Holahan & Moos, 1987) に お
いては,回避型対処の採用は職場不適応につながる事が指摘されている。新人
教育に関するギャップは,就職先の教育環境や,研修が自分の予測を超えて良
いというポジティブなギャップであるが,回避型対処を採用することは,ポジ
ティブなギャップに対しても脱人格化を促進させることにつながると考えられ
る。
以 上 ,就 職 3ヶ 月 時 の 脱 人 格 化 に 対 し て は ,ソ ー シ ャ ル ス キ ル 及 び リ ア リ テ ィ
シ ョ ッ ク と 対 処 の 緩 衝 効 果 の 有 効 性 が 認 め ら れ た 。し か し ,6ヵ 月 時 以 後 は そ の
影響力は示されず,リアリティショックが直接バーンアウトに影響することが
わかった。
5-3
個人的達成感の低下に及ぼすリアリティショック・スキル・対処の影響
就 職 3カ 月 時 の 個 人 的 達 成 感 の 低 下 に 対 し て は , 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ
プ が 正 の 影 響 を 示 し た 。就 職 6ヵ 月 時 に お い て は ス キ ル の 効 果 が ,12ヶ 月 時 で は
対 処 の 有 効 性 が 確 認 さ れ た 。研 究 2で 述 べ た よ う に ,看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ
プ が 最 も 高 ま る の は 就 職 3ヶ 月 時 で あ る こ と か ら ,就 職 初 期 は ,看 護 の 実 践 に 対
する達成感や有能感を実感していることが,職場適応に有用であると考えられ
る 。就 職 6ヵ 月 時 で は ス キ ル が ,就 職 12ヶ 月 時 に お い て 対 処 の 有 効 性 が 確 認 さ れ
ている。新人看護師は時間の推移に従って,スキルを発揮し,状況の変化に応
じて対処方略をコントロールできるようになっており,個人的達成感に結びつ
いていると考えられる。
第 5章 の ま と め
研 究 4で は 就 職 後 の バ ー ン ア ウ ト に 及 ぼ す リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と ソ ー シ ャ ル
ス キ ル と 対 処 の 影 響 を 検 討 し た 。 就 職 後 12ヶ 月 間 を 通 し て 新 人 看 護 師 は , リ ア
102
第5章
リティショックというストレッサーに苦慮していることがわかった。ソーシャ
ルスキル能力や,コーピングはほとんど効果を発揮しておらず,学生から看護
師への移行にともなう生活上の変化や,職場の人間関係というネガティブなリ
アリティショックに苦慮しつつ,一方では看護の実践や就職後の満足感といっ
たポジティブなリアリティショックに助けられていることがわかった。とりわ
け 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は , 1年 を 通 し て 情 緒 的 消 耗 感 に 影 響 を 与
えていた。人間関係を良好に保つことは心身の消耗を防ぎ,バーンアウトを予
防 す る キ ー ワ ー ド で あ る と 考 え ら れ る 。就 職 6か 月 頃 か ら は ,バ ー ン ア ウ ト の 低
下が認められ,スキルや対処が有効に機能しているものと考えられる。新人看
護 師 は 時 間 の 経 過 と と も に ス キ ル を 発 揮 で き る よ う に な り , 就 職 し て 1年 が 経
つ頃には問題解決型対処を採用できるようになっており,個人的達成感の形成
に結びついていると考えられる。
103
第6章
第 6章
研究5
バーンアウトとリアリティショックのトランスアクショナル的な関係
の検討
問題
研究 3 の結果から,就職後のネガティブなリアリティショックの認知には,
学 生 時 代 の 情 緒 的 消 耗 感 の 高 さ が 影 響 を 及 ぼ す こ と が わ か っ た 。ま た 研 究 4 の
結 果 か ら ,就 職 後 の 情 緒 的 消 耗 感 や 達 成 感 の 低 下 に は ,対 処 や ス キ ル の 媒 介 は
さ ほ ど 示 さ れ ず ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク が 直 接 影 響 を 与 え て い る こ と が わ か っ た 。
こ れ ら の 結 果 か ら ,就 職 前 の 情 緒 的 消 耗 感 は ,就 職 後 の ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ
ィ シ ョ ッ ク の 認 知 に 影 響 を 及 ぼ し ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 敏 感 に 認 知 す る こ と
が さ ら に 同 時 期 の 情 緒 的 消 耗 感 を 高 め て い る と 推 測 で き る 。Lazarus & Folkman
( 1984) の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル ・ モ デ ル に 従 う と ,看 護 学 生 時 代 の バ ー ン ア
ウ ト が 背 景 と な っ て ,就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 悪 化 さ せ ,そ れ が さ ら に
原因となって次のバーンアウトを生じさせるといったトランスアクショナル
的 な 関 係 を 想 定 す る こ と が で き る 。そ こ で 研 究 5 で は 交 差 遅 延 モ デ ル( crosslagged effect model:Finkel,1995 ; 高 比 良・安 藤・坂 元 ,2006)を 用 い て ,
就 職 前 の 情 緒 的 消 耗 感 と 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ,及 び 就 職 後 の 情 緒 的 消
耗感の関係を検討する。
Finkel1( 1995)や 高 比 良( 2006)に よ る と ,独 立 変 数 か ら 従 属 変 数( X → Y )
の 因 果 関 係 と ,そ の 逆( X ← Y )の 因 果 関 係 を 双 方 向 に 検 討 で き る 分 析 方 法 に 交
差 遅 延 効 果 モ デ ル が あ る 。交 差 遅 延 モ デ ル を 用 い る こ と で , Y の 変 化 に 対 す る
X1の因果的影響力とXの変化に対するY1の因果的影響力を同時に推定でき
る ( Finkel, 1995; 小 塩 , 2007; 高 比 良 他 2006)。 具 体 的 に は , 学 生 時 代 の バ
ー ン ア ウ ト ( X) は 就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ( Y) に 影 響 を 与 え , 就 職 後 の
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク ( Y) が 原 因 と な っ て 就 職 後 の バ ー ン ア ウ ト ( X’ ) が 引 き
起 こ さ れ る 。さ ら に ,就 職 後 の バ ー ン ア ウ ト( X’ )が 後 に つ づ く リ ア リ テ ィ シ
ョ ッ ク (Y’ )に 影 響 を 与 え る こ と に な る 。分 析 に は 構 造 方 程 式 モ デ リ ン グ( SEM)
が 用 い ら れ る ( Finkel, 1995 ; 高 比 良 他 , 2006)。
107
第6章
1.
研究目的
本研究では,3 回のパネル調査を実施し,分析に交差遅延モデルを用いるこ
と で ,バ ー ン ア ウ ト と リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル 的 な 関 係 の
検討を行うことを目的とする。
2.
研究方法
2-1
調査対象者
研 究 1 で 実 習 時 ,就 職 3 ヶ 月 時 ,6 ヵ 月 時 の 3 回 の 調 査 に 協 力 が 得 ら れ た 114
名とする。
2-2
調査時期
4回 の 縦 断 調 査 の う ち ,実 習 時 ,就 職 3カ 月 時 ,6カ 月 時 が ほ ぼ 3カ 月 毎 の 調 査
で あ り ,時 期 間 隔 が 統 一 さ れ る こ と で デ ー タ が 安 定 す る と 考 え て 調 査 時 期 と し
て選んだ。
2-3
調査項目
研 究 4の 結 果 か ら , 就 職 後 の 情 緒 的 消 耗 感 に は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク が 直 接 影
響 を 及 ぼ し ,ス キ ル や 対 処 の 影 響 は み ら れ な か っ た 。そ こ で ,本 研 究 で は 分 析
対 象 を リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と バ ー ン ア ウ ト に し , 研 究 2で 使 用 し た リ ア リ テ ィ
ショック尺度とバーンアウト尺度を用いることとする。
2-4
分析方法
基 本 的 検 討 の た め ,ネ ガ テ ィ ブ 因 子 の 下 位 因 子 と ポ ジ テ ィ ブ 因 子 の 下 位 因 子
の 相 関 分 析 を 行 っ た 。次 に 情 緒 的 消 耗 感 と リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 の 因 子 に
ついて,交差遅延効果モデルに基づいた共分散構造分析を実施した。
Figure 6-1 に 検 討 し た モ デ ル を 提 示 し , 図 の 中 に 示 し た a, b, c に つ い て
説明する。
108
第6章
( a) 実 習 時 の バ ー ン ア ウ ト が 原 因 と な り 就 職 3ヶ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 引
き起こす
( b) 次 に 就 職 3ヶ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク が 原 因 と な り 6ヵ 月 時 の バ ー ン ア ウ
トを引き起こす
( c) 就 職 3ヶ 月 時 の バ ー ン ア ウ ト は 6ヵ 月 時 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 原 因 と な る
Figure 6-1
実習時・就職 3 か月時・6 ヵ月時の情緒的消耗感と就職 3 ヵ
月時・6 ヵ月時のリアリティショックとのトランスアクション
3.
倫理的配慮
研究1に準ずる。
4.
結
4-1
果
指標の妥当性の検討
トランスアクションモデルでの関係性に準じたリアリティショックのネガ
テ ィ ブ 因 子 の 各 下 位 因 子 間 の 相 関 を Table 6-1 に 示 す 。
ネ ガ テ ィ ブ 因 子 の 下 位 因 子 で は , 中 程 度 の 相 関 か ら 強 い 相 関 あ り ( r =.32
~ .75)( 豊 田 , 1988) と 認 め ら れ た 。
109
第6章
Table 6-1
リアリティショックネガティブ因子の下位因子間相関
生活の変化
6 ヵ月時
看護の実践
3 ヶ月時
看護の実践
6 ヵ月時
人間関係
3 ヶ月時
人間関係
6 ヵ月時
.75 * *
.56 * *
.44 * *
.54 * *
.49 * *
生活の変化
3 ヶ月時
生活の変化
6 ヵ月時
看護の実践
3 ヶ月時
看護の実践
6 ヵ月時
人間関係
3 ヶ月時
.54 * *
.64 * *
.51 * *
.32 * *
.37 * *
.43 * *
.70 * *
次にトランスアクションモデルでの関係性に準じたポジティブ因子の各下
位 因 子 間 の 相 関 を Table 6-2 に 示 す 。
ポ ジ テ ィ ブ 因 子 で は ,新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関
す る ギ ャ ッ プ( r =.26~ .23),患 者・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 就 職 後 の
満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ( r =.17~ r =.23)で 弱 い 相 関 が 認 め ら れ た 。ト ラ ン ス
ア ク シ ョ ン が 成 立 し な い こ と が 考 え ら れ た が ,モ デ ル 図 で 最 終 的 に 判 断 す る こ
とを優先し,検討をつづけることとした。
Table 6-2
新人教育
3 ヶ月時
新人教育
6 ヵ月時
患 者 ・家 族
3 ヶ月時
患 者 ・家 族
6 ヵ月時
職務満足
3 ヶ月時
リアリティショックポジティブ因子の下位因子間相関
新人教育
6 ヵ月時
患 者 ・家 族
3 ヶ月時
患 者 ・家 族
6 ヵ月時
職務満足
3 ヶ月時
職務満足
6 ヵ月時
.72 * *
.26 * *
.23 * *
.48 * *
.45 * *
.29 * *
.62 * *
.47 * *
.17 *
.23 * *
.22 * *
.62 * *
** p <.01, *p<.05
110
第6章
4-2
トランスアクションの結果
情緒的消耗感と生活の変化に関するギャップのトランスアクションの検討
結 果 を Figure 6-2 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ の ト
ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月 時 生 活 の 変 化 へ
の パ ス ( β =.31, p <.001) ,3 ヶ 月 時 の 生 活 の 変 化 か ら 6 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感
へ の パ ス (β =.13, p <.05), 3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 6 ヵ 月 時 の 生 活 の 変 化
へ の パ ス (β =.12 , p <.1) は , い ず れ も 有 意 な 値 を 示 し た 。 適 合 度 は ,
GFI.10,AGFI.96,RMSEA.00 と 十 分 な 当 て は ま り が 認 め ら れ た 。
Fi gure 6-2
情緒的消耗感と生活の変化に関するギャップのトランスアクション
情緒的消耗感と看護の実践に関するギャップのトランスアクションの検討
結 果 を Figure 6-3 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ の ト
ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月 時 看 護 の 実 践 へ
の パ ス( β =.20, p <.05),3 ヶ 月 時 の 看 護 の 実 践 か ら 6 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 へ
の パ ス (β =.12, p <.05), 3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 6 ヵ 月 時 の 看 護 の 実 践 へ
の パ ス (β =.16, p <.05)は い ず れ も 有 意 な 値 を 示 し た 。
適 合 度 は , GFI.99,AGFI.93,RMSEA.07 と 十 分 な 当 て は ま り が 認 め ら れ た 。
111
第6章
Fi gure 6-3
情緒的消耗感と看護の実践に関するギャップのトランスアクション
情緒的消耗感と職場の人間関係に関するギャップのトランスアクションの
検 討 結 果 を Figure 6-4 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ
ッ プ の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月 時 の 人
間 関 係 へ の パ ス ( β =.09, n.s. ) ,3 ヶ 月 時 の 人 間 関 係 か ら 6 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消
耗 感 へ の パ ス (β =.03, n.s. )の い ず れ も が 有 意 で は な か っ た 。3 ヶ 月 時 の 情 緒 的
消 耗 感 か ら 6 ヵ 月 時 の 人 間 関 係 へ の パ ス (β =.12,p <.1)の み で 有 意 傾 向 が 認 め
ら れ た が ,モ デ ル 全 体 と し て の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン は 成 立 し な か っ た 。適 合 度
は , GFI.99,AGFI.96,RMSEA.02 と モ デ ル の 当 て は ま り は 十 分 で あ っ た 。
+
Figure 6-4
情緒的消耗感と職場の人間関係に関するギャップのトランスア
クション
112
第6章
次に情緒的消耗感と新人教育に関するギャップのトランスアクションの検
討 結 果 を Figure 6-5 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ の ト
ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月 時 の 新 人 教 育 へ
の パ ス( β =-.08, n.s. ),3 ヶ 月 時 の 新 人 教 育 か ら 6 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 へ の
パ ス (β =-.01, n.s. ), 3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 6 ヵ 月 時 の 新 人 教 育 へ の パ
ス (β =-.09,n.s. )の い ず れ も が 有 意 で は な く ,ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル な 関 係 は
認 め ら れ な か っ た 。 適 合 度 は , GFI.99,AGFI.89,RMSEA.11 で モ デ ル の 当 て は ま
りとしても不十分であった。
Fig ure 6-5
情緒的消耗感と新人教育に関するギャップのトランスアクション
情 緒 的 消 耗 感 と 患 者・家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン
の 検 討 結 果 を Figure 6-6 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す
る ギ ャ ッ プ の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月
時 の 患 者・家 族 へ の パ ス( β =-.05, n.s. ),3 ヶ 月 時 の 患 者・家 族 か ら 6 ヵ 月 時
の 情 緒 的 消 耗 感 へ の パ ス (β =.05, n.s. ), 3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 6 ヵ 月
時 の 患 者 ・ 家 族 へ の パ ス (β =.02, n.s. )の い ず れ も が 有 意 で は な く ,ト ラ ン ス
ア ク シ ョ ナ ル な 関 係 は 認 め ら れ な か っ た 。適 合 度 は ,GFI.98,AGFI.88,RMSEA.11
でモデルの当てはまりとしても不十分であった。
113
第6章
Figure 6-6
情緒的消耗感と患者・家族との関係に関するギャップのトランスアクショ ン
情緒的消耗感と就職後の満足感に関するギャップのトランスアクションの
検 討 結 果 を Figure 6-7 に 記 す 。 情 緒 的 消 耗 感 と 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ
ッ プ の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン で は ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 か ら 就 職 3 ヶ 月 時 の 満
足 感 へ の パ ス( β =-.14, n.s. ),3 ヶ 月 時 の 満 足 感 か ら 6 ヵ 月 時 の 情 緒 的 消 耗 感
へ の パ ス (β =.05, n.s. )の い ず れ も が 有 意 で は な か っ た 。3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消 耗
感 か ら 6 ヵ 月 時 の 満 足 感 へ の パ ス (β =-.13,p<.09)の み 有 意 傾 向 が 認 め ら れ た
が ,モ デ ル 全 体 と し て ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル な 関 係 は 認 め ら れ な か っ た 。 適 合
度 は , GFI.98,AGFI.85,RMSEA.14 で モ デ ル の 当 て は ま り と し て も 不 十 分 で あ っ
た。
Figure 6-7
情緒的消耗感と就職後の満足感に関するギャップのトランスア
クション
114
第6章
5.考
察
研 究 5 で は 3 回 の パ ネ ル 調 査 を 実 施 し ,分 析 に 交 差 遅 延 モ デ ル を 用 い る こ と
で ,バ ー ン ア ウ ト と リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル 的 な 関 係 の 検
討 を 行 う こ と を 目 的 と し た 。相 関 分 析 の 結 果 か ら は ,情 緒 的 消 耗 感 と ネ ガ テ ィ
ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 因 子 と の 相 関 は い ず れ も 有 意 で ,ト ラ ン ス ア ク
シ ョ ナ ル な 関 係 が 成 立 す る こ と が 考 え ら れ た 。最 終 的 に ト ラ ン ス ア ク シ ョ ナ ル
な関係が認められたのは,情緒的消耗感と生活の変化に関するギャップ及び,
情 緒 的 消 耗 感 と 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ と の モ デ ル で あ っ た 。ポ ジ テ ィ ブ
な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 下 位 因 子 に お い て は ,相 関 分 析 の 結 果 と 最 終 的 な モ デ
ルの適合度のいずれもにおいて十分な当てはまりが認められなかった。
研究 3 においては実習時の情緒的消耗感が高いと就職後も生活の変化や看護
の実践といったネガティブなリアリティショックを敏感に認知することが認
め ら れ た 。ま た ,研 究 4 に お い て は 生 活 の 変 化 や 職 場 の 人 間 関 係 と い っ た ネ ガ
ティブなリアリティショックが情緒的消耗感を促進すること も明らかになっ
た 。以 上 の 結 果 と 研 究 5 の 結 果 か ら ,研 究 3 と 研 究 4 の 結 果 と 本 研 究 の 結 果 を
照 ら し 合 わ せ た 場 合 ,以 下 の よ う に 考 え ら れ る 。実 習 時 に 情 緒 的 消 耗 感 が 高 い
と ,就 職 後 の 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ の 認 知 ま た は ,看 護 の 実 践 に 関 す る
ギ ャ ッ プ の 認 知 に 影 響 し ,こ れ ら の ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 敏 感 に
評 価 す る 。ス ト レ ッ サ ー で あ る リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 敏 感 に 感 じ る こ と で 情 緒
的 消 耗 感 が 高 ま る 。そ し て 情 緒 的 消 耗 感 が 高 ま る た め に ,次 に や っ て く る リ ア
リティショックに対しても敏感に評価してしまうというトランスアクショナ
ルな関係になると考えられる。
一 方 で ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 関 し て は , 3 ヶ 月 時 の 情 緒 的 消
耗感から 6 ヵ月時の職場の人間関係へのパスで有意傾向が認められたもの
の,トランスアクショナルな関係は成立しなかった。研究 4 より,職場の人
間関係は同時期での情緒的消耗感に影響することが認められている。従って
ギャップの認知そのものが 3 ヵ月先のバーンアウトに影響するというより
は , 日 々 の 職 場 に お け る ス タ ッ フ 間 の 人 間 関 係 に 問 題 が あ り ,消 耗 感 を 抱 い て
いると考えられ
る。
115
第6章
ト ラ ン ス ア ク シ ョ ン ・モ デ ル を 用 い る こ と で ,情 緒 的 消 耗 感 と ネ ガ テ ィ ブ な
リアリティショックが互いに関連しあって反応を増強している関係があるこ
と が わ か っ た 。本 研 究 か ら ,こ れ ま で の 因 果 関 係 モ デ ル の よ う に ,特 定 の 方 向
性 の み を 持 つ も の で は な く ,双 方 向 的 な 関 係 性 に よ り 変 化 し て い く プ ロ セ ス が
認められることが確認できた。
本 モ デ ル に お い て は ,シ ン プ ル に リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と バ ー ン ア ウ ト の み の
関 係 性 を み て い る 。そ の 結 果 ,何 が 関 与 し て 変 容 し て い く か と い う こ と は わ か
ら な い た め ,介 入 が 難 し い と い う こ と に も な る 。以 上 を 踏 ま え た う え で ,介 入
のための議論を進める必要性がある。
第 6 章のまとめ
研究 5 ではバーンアウトとリアリティショックのトランスアクショナル的な
関 係 の 検 討 を 行 っ た 。情 緒 的 消 耗 感 と ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と の ト
ラ ン ス ア ク シ ョ ン で 当 て は ま り の 良 さ が 認 め ら れ た 。最 終 的 に ト ラ ン ス ア ク シ
ョ ン が 認 め ら れ た の は ,情 緒 的 消 耗 感 と 生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ の モ デ ル
及 び ,情 緒 的 消 耗 感 と 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ と の モ デ ル で あ っ た 。こ れ
らのネガティブなリアリティショックと情緒的消耗感との間で反応が増強さ
れていることが推察される。
一 方 で ,情 緒 的 消 耗 感 と 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ と の 間 に は ト ラ ン
ス ア ク シ ョ ナ ル な 関 係 は 成 立 し な か っ た 。ギ ャ ッ プ の 認 知 そ の も の が 3 ヵ 月 先
の バ ー ン ア ウ ト に 影 響 す る と い う よ り は ,職 場 に お け る ス タ ッ フ と の 人 間 関 係
に 問 題 が あ り ,日 々 消 耗 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。
本 モ デ ル に お い て は ,シ ン プ ル に リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と バ ー ン ア ウ ト の み の
関 係 性 を み て い る 。し か し ,ソ ー シ ャ ル ス キ ル も 対 処 も 関 与 し て い な い と い う
こ と で は ,介 入 が 難 し い と い う こ と を 踏 ま え た う え で ,今 後 の 議 論 を 進 め て い
く必要がある。
116
第7章
第 7章
1.
総合考察
本論文のまとめ
本論文では,新人看護師のリアリティショックの生起過程を明らかにするこ
とを目的とした。
第 1 章では,リアリティショックに関する先行研究をレビューし,新人看護
師が置かれている現状と問題点,先行研究の限界,本論文の着眼点について述
べた。これまでの研究ではギャップが原因とはいうものの,就職前の予測と就
職後の現実との認知的不整合については議論されておらず,リアリティショッ
クとバーンアウトの関係も明らかにされていない。
本研究では,新人看護師のリアリティショックを,認知的不整合により生じ
る ギ ャ ッ プ と 捉 え ,就 職 前 と 就 職 後 12 ヶ 月 に 渡 る 縦 断 調 査 を 通 し て ,バ ー ン ア
ウトとの関係を明らかにすることを目的とした。リアリティショックとバーン
ア ウ ト は 相 互 に 関 連 し な が ら 変 化 す る と 考 え ら れ る た め ,Lazarus( 1984)の ト
ランスアクション・モデルによる検討の可能性について問題提起を行った。
第 2章 に お い て は 認 知 的 不 整 合 の 観 点 か ら リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 の 開 発 を
行 っ た 。 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク は , 「生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 看 護 実 践 に
関 す る ギ ャ ッ プ 」「 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ
ッ プ 」「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職 後 の 満 足 感 に 関 す る ギ ャ
ッ プ 」 の 41項 目 6因 子 が 抽 出 さ れ た 。 リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 は ネ ガ テ ィ ブ 3因
子 と ポ ジ テ ィ ブ 3因 子 の 併 せ て 6因 子 構 造 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 妥 当 性 及
び信頼性の検討を行い,リアリティショック尺度は一定の信頼性と妥当性を有
していることを確認した。
第 3 章 , 研 究 2-1 で は , 就 職 前 か ら 就 職 後 に か け て の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ・ 対
処・バーンアウトの推移と就職後のリアリティショックの推移を追い,就職前
後でどのように変化していくのかについて検討した。学生時代に比較して,ソ
ーシャルスキルは就職後に低下し,バーンアウトは就職後に高まることがわか
った。またリアリティショックのネガティブ因子は,就職 3 ヶ月時に比較して
低減することがわかった。
変化が認められなかった因子は,職場の人間関係に関するギャップ,新人教
114
第7章
育に関するギャップ,患者・家族との関係に関するギャップであった。職場の
人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は 5 段 階 評 定 で 3.72~ 3.80 と 1 年 を 通 し て 高 く ,
先輩看護師との関係を負担に感じながら仕事を続けていることがわかった。
研 究 2-2 で は , 新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ い て ,
4 回の縦断調査すべてに協力が得られた群と調査を中断した群の比較を行った。
リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク で は , 新 人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ と 患 者 ・家 族 と の 関 係 に
関 す る ギ ャ ッ プ で ,継 続 群 に 比 べ ド ロ ッ プ ア ウ ト 群 が 高 く , バ ー ン ア ウ ト で は ,
就職 3 ヵ月時の脱人格化において,ドロップアウト群が高いことがわかった。
第 4 章,研究 3 では,学生時代のバーンアウトが,就職後のリアリティショ
ッ ク の 認 知 に ど の 程 度 影 響 す る の か に つ い て 検 討 し た 。重 回 帰 分 析 の 結 果 か ら ,
学生時代に情緒的消耗感があると,就職後もリアリティショックのネガティブ
因子に1年間に渡って影響を与え続けることがわかった。一方,学生時代の脱
人格化と個人的達成感の低下はリアリティショックのポジティブ因子に負の影
響を与えるが,その影響力は時期の推移とともに減少することがわかった。具
体的には,学生時代に患者や家族との関係性が良好であることや,実習での達
成感が得られていると,就職初期の職場適応に促進的に作用し,動機づけをた
かめているといえる。逆に,情緒的消耗感があるとストレッサーを否定的に評
価してしまうため,リアリティショックを過度に評価している可能性があると
いえる。
第 5 章,研究 4 ではリアリティショックの認知からバーンアウトのプロセス
に,ソーシャルスキルと対処が及ぼす影響の検討を行った。また緩衝要因とし
ての検討のために,リアリティショックとスキル及び,リアリティショックと
対処の交互作用の影響についても検討を行った。その結果,就職後のバーンア
ウトにはリアリティショックが直接的に影響を与えていることがわかった。と
りわけ職場の人間関係に関するギャップは,1 年を通して情緒的消耗感に影響
を与えていた。就職 6 か月頃からは,スキルや対処が個人的達成感に影響を与
え始める。緩衝効果の影響は,脱人格化に対して就職 3 ヶ月時のリアリティシ
ョックとスキル及びリアリティショックと対処の効果を除き認められなかった。
従って緩衝効果はさほど認められないないことがわかった。
第 6 章研究 5 では 3 回のパネル調査の結果をもとに,就職前の情緒的消耗感
115
第7章
と就職 3 ヵ月時と 6 ヵ月時のリアリティショック,就職後の情緒的消耗感との
関係を,交差遅延モデルを用いて検討した。検討の結果,情緒的消耗感と生活
の変化に関するギャップ及び,情緒的消耗感と看護の実践に関するギャップの
間でトランスアクショナルな関係が認められた。しかし,情緒的消耗感と職場
の人間関係に関するギャップとの間にはトランスアクションは成立しなかった。
以 上 5つ の 研 究 か ら 得 ら れ た 結 果 を も と に , 第 1章 で 提 案 し た リ ア リ テ ィ シ ョ
ッ ク と バ ー ン ア ウ ト の 関 係 の モ デ ル を 修 正 し ,本 研 究 の 最 終 モ デ ル を Figure 71に記す。
Figure 7-1
新人看護師のリアリティショックとバーンアウトの関係
(本研究の最終モデル)
新人看護師が就職し,新しい職場環境に入ると,就職前に抱いていた自分の
価値観や,看護や医療に関する技術的能力,本人の保持する能力などと職場で
求められる現実との間にギャップを感じ,リアリティショックとして認知され
ることになる。新人看護師のリアリティショックに対してはそれを軽減するた
116
第7章
めの対処の効果は低く,また個人要因であるソーシャルスキルの効果も低いた
め,リアリティショックは直接,就職後の適応の指標であるバーンアウト反応
を 生 じ さ せ る 。と り わ け 看 護 学 生 時 代 に 情 緒 的 消 耗 感 を 高 く 認 知 し て い る 人 は ,
就職後の生活の変化に関するギャップや看護の実践に関するギャップを敏感に
評価してしまう。さらに,就職先の人的環境が新人看護師にとって苦痛なもの
だと,不適応をもたらすことになる。ネガティブなリアリティショックがスト
レッサーとなって生じた就職後のバーンアウトはフィードバックされ,その後
のリアリティショックの認知にも影響を与える。すなわちリアリティショック
が最も高まるのは就職直後であるが,そのときに受けた情緒的消耗感は数ヵ月
を過ぎてもリアリティショックの認知に影響を及ぼし,先の情緒的消耗感を高
めてしまう。これが新人看護師の体験するリアリティショックとバーンアウト
の関係である。
2.
本論文から得られた知見に関する考察
2-1
リアリティショックの因子について
研 究 1の 結 果 , ネ ガ テ ィ ブ 3因 子 ( 「生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 看 護 実 践
に関するギャップ「
」 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」),ポ ジ テ ィ ブ 3因 子(「 新
人 教 育 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職 後 の
満 足 感 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」) の 6因 子 が 抽 出 さ れ た 。 こ れ ま で リ ア リ テ ィ シ ョ ッ
クは,ストレスに結びつくことからネガティブ面が強調されてきた。本研究に
お い て は ,「思 っ た 以 上 に よ か っ た 」と い う ポ ジ テ ィ ブ な 側 面 で の ギ ャ ッ プ ( 認
知 的 不 整 合 )が 抽 出 さ れ ,先 行 研 究 ( 水 田 ,2004; 平 賀 他 ,2007)と の 内 容 の
違 い が 明 ら か に な っ た 。新 人 看 護 師 が 就 職 し て 臨 床 現 場 に 立 つ と ,ポ ジ テ ィ ブ・
ネガティブ両面で,予想とのずれを実感している。ストレスと関係するのは,
リアリティショックのネガティブ面であるが,ポジティブ面がストレスの緩衝
要因として機能するものと予想される。新人看護師への支援では,ネガティブ
面ばかりに注目するのではなく,ポジティブ面に介入することで職場適応の促
進につながると考えられる。
117
第7章
2-2
実習時の情緒的消耗感が就職後の看護の実践に関するギャップに長期に
渡って影響を及ぼす理由
研究 3 と研究 5 の結果より,看護学実習時に情緒的消耗感が高い人は,就職
後の看護の実践に関するギャップを敏感にとらえる可能性があることがわかっ
た。その影響力は時間が経過しても変わらなかった。新人看護師は看護基礎教
育のみならず,就職後の新人研修においても,診療上の補助業務に関しては,
実際に経験しないと自信がつかない状態で,不安を抱えたまま仕事を続けてい
ると推察される。臨床で経験がなければその不安は軽減されないため,看護基
礎教育での実践経験不足が,卒業して 1 年後でも影響を与え続けていると考え
られる。研究 2 よりは,看護実践に関するギャップは時期の推移とともに有意
に減少していくことがわかっている。しかし,臨床での実践経験がない場合そ
の不安は持続されるため,看護実践能力のギャップの認知に変化がなく,職場
適応にネガティブな影響を与え続ける可能性が考えられる。
2-3
1年 間 を 通 し て 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ が 職 場 適 応 に ネ ガ テ ィ ブ
に影響する理由
研 究 4 の 結 果 よ り ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は 情 緒 的 消 耗 感 を 高 め ,
脱 人 格 化 に 影 響 を 与 え て い た 。研 究 2よ り ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ の
点 数 は 年 間 を 通 し て 高 く , し か も ほ と ん ど 違 い が 認 め ら れ な い こ と か ら ,新 人
看 護 師 は 1年 間 を 通 し て 先 輩 看 護 師 と の 人 間 関 係 作 り を 負 担 に 感 じ て い る こ と
が わ か っ た 。 一 方 , 研 究 2と 4の 結 果 か ら , 看 護 の 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ は , 時
期の推移とともに低減しており,職場適応の指標であるバーンアウトには長期
的には影響を及ぼしていないことが認められた。以上の結果をまとめると,職
場適応に影響を及ぼすのは看護の実践に関するギャップというよりも,職場の
人間関係に関するギャップの影響力が大きいことが明らかである。先行研究で
は学生時代に学習したことと臨床現場で求められる実践内容とのギャップがリ
ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 原 因 と さ れ て き た 。 し か し ,本 研 究 の 結 果 か ら は ,職 場 の 人
間関係の影響の影響が大きいことが認められたことは大きな意義がある。
職場の人間関係に関するギャップの項目は,先輩看護師との人間関係作りの
困 難 さ を 示 す 内 容 か ら 構 成 さ れ て い る 。従 っ て ,ギ ャ ッ プ の 推 移 が 1年 を 通 し て
118
第7章
変化しないのは,背景に職場内での人的環境についての問題が内包されている
可能性が考えられる。序論で述べたように,高度医療の現場は,患者の高齢化
や重症化が進み,医療事故のリスクが常にあるため,看護師は日々緊張を強い
られる。そのような中でこそ,信頼できる看護師チームが必要になる。助言を
もらえたり相談しやすい雰囲気で仕事ができれば,あやふやな知識や不確かな
情報に対する確認が可能になるためミスが減り,患者に対して安全な看護を提
供できる。しかし,先輩の顔色をうかがいながらの仕事では,少し注意をされ
ても被害的に受け止めてしまう可能性もあるだろう。
職 場 の 人 間 関 係 に 対 す る 対 策 と し て ,新 人 が 多 数 就 職 す る よ う な 病 院 で は ,
数年上の先輩看護師が新人をサポートするプリセプターシップが導入されてい
る。新人看護師一人ひとりにプリセプターがつき,技術面や労働面のほか精神
面でのサポートが行われている。プリセプターも数年前には新人看護師であっ
たことから,新人看護師と年齢が近いため様々な相談に乗りやすいというメリ
ットがある。一方で,プリセプター自身の未熟さや,新人看護師との相性の悪
さ と い っ た デ メ リ ッ ト も 抱 え る (玉 井 ・ 影 山 ・ 前 田 , 2007)。 ま た , 新 人 が ミ ス
をするとプリセプターの指導が悪いということになりかねず,職場環境の問題
が 個 人 の 問 題 に 転 化 さ れ て い る と の 指 摘 も な さ れ て い る( 小 林・大 谷 ,2004)。
最近は新人看護師に対してはやさしく,怒らないで接するようにという傾向に
あり,そのしわよせが中堅看護師にきて,疲弊を増強させているとの報告もあ
る( 日 本 看 護 協 会 ,2011a)。従 っ て 病 院 内 の シ ス テ ム を 整 え た だ け で は 職 場 の
人的環境の不具合は改善されないことが考えられる。
職場の人的環境を整えるためには十分な人数が確保されていることが前提
で,そのためには離職者をなくしていく対策が急務となる。新人看護師のリア
リティショックの問題は,現在の医療政策の問題として大きな枠組みで捉え,
対策を講じていく必要がある。それとともに,人間関係を良好に保つためのソ
ーシャルスキルトレーニングなどを学生時代から行って,新人看護師自身の対
人関係スキルを高めていく必要がある。
3.
理論的貢献
本 論 文 の 理 論 的 貢 献 と し て 以 下 の 2点 が 考 え ら れ る 。
119
第7章
第一に,リアリティショックの定義を明らかにしたことがあげられる。先行
研究では,新人看護師が就職した際に感じるストレスの中で,自分がこれまで
実習等で経験したことと,臨床現場の現実との乖離によって生じるストレスを
総称してリアリティショックと呼んでいた。従ってリアリティショックは原因
と も ス ト レ ス の 結 果 と も 捉 え る こ と が で き た 。 本 論 文 で は 研 究 1に お い て リ ア
リティショックを,看護学生時代に考えていたことや本人の保持する能力と臨
床現場で求められる現実との間で生じる認知的不整合と定義し,ストレッサー
と位置づけた。リアリティショックにはネガティブ,ポジティブの両側面があ
るが,そのうちの職場不適応と関連するのはネガティブ因子であり,適応を促
進するのがポジティブ因子である。このようにリアリティショックをストレッ
サーと位置づけたことで,リアリティショック低減に向けた対策につなげるこ
とが可能となる。
第二に,トランスアクション・モデルによる検証を行ったことである。本モ
デルの重要な特徴は,原因と結果が互いに関連しあって相乗的に変化をしてい
く点である。しかし現実に調査を行うためには,同一の対象者に対して複数回
の調査を実施しなければならず,対象者の負担も大きいことから,これまで検
討 さ れ て こ な か っ た 。本 論 文 で は 就 職 前 後 に か け て 4回 に 渡 っ て 調 査 を 行 い ,こ
れを実証した。本研究は,これまでの因果関係モデルのように,特定の方向性
のみを持つものではなく,双方向的な関係性により変化していくプロセスが認
められたという点で,大きな意義がある。
4.
本論文の応用可能性
4-1
教育現場及び臨床での応用可能性
研究 3 及び 4 の結果から,新人看護師は,看護学生から新人看護師への移行
にともなう生活上の変化や,実践力のなさに苦慮し,職場の人間関係に悩まさ
れるなか,ソーシャルスキルが効かず,対処の有効性も発揮されないことがわ
かった。この状況の中で,仕事の達成感が得られなければ,最終的には回避的
対処が採用され,離職につながることが予測される。
研究 5 の結果より,学生時代の情緒的消耗感が就職後の生活の変化や看護の
実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ に 影 響 を 与 え ,同 時 期 の 情 緒 的 消 耗 感 の 原 因 と な る こ と ,
120
第7章
また就職 3 ヶ月時に受けた情緒的消耗感は,就職 6 ヵ月時のネガティブなリア
リティショックの認知にまでも影響を及ぼすことがわかった。さらに,職場環
境 に よ っ て は ,職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ は 低 減 す る こ と な く 継 続 し て ,
苦痛を認知し続けることがわかった。
就 職 後 の こ の 時 期 は transition period( 移 行 期 間 ) と い わ れ , 新 人 看 護 師
に と っ て き わ め て 重 要 な 時 期 ( Duchscher, 2009; Lee,et al., 2012; Price,
2009) で あ る と と も に , 離 職 に つ な が る プ ロ セ ス で も あ る と さ れ る 。 Parker,
Giles, Lantry & McMillan (2014) は , あ ま り に も 学 生 時 代 と 異 な る 現 実 に つ
いていけなくなると,欠勤が目立ち始め離職につながることを指摘している。
本論文からは,ネガティブなリアリティショックの緩和策として,とりわけ
就職直後は,看護実践能力の向上と日常生活の変化にともなう精神的・身体的
負荷の緩和が必要であることが示唆された。また研究 5 の結果から,これらの
ギャップに関しては教育現場での介入が可能になるものと思われる。最近では
看護系大学と臨床がユニフィケーション事業の一環として提携し,卒業生の支
援 を 行 う と い う 試 み も な さ れ て い る( 松 浦・田 中・大 野・神 島・山 本・田 仲 他 ,
2015)。看 護 教 育 に お け る ユ ニ フ ィ ケ ー シ ョ ン と は ,臨 床 と 教 育 の ギ ャ ッ プ と い
う問題に対して,ギャップを解消し看護教育や臨床看護の質の向上を図ってい
くために,教育・研究機関が連携をすることである(厚生労働省今後の看護教
員 の 在 り 方 に 関 す る 検 討 会 報 告 書 ,2010b)。近 年 で は こ れ ま で の 臨 地 実 習 を 中 心
とした臨床と基礎教育側との関わりを超えて,臨床現場での課題や教育課題に
ついて,臨床側と教育側が共通認識を持ち,教育や実践の質の向上を図ってい
く 試 み が 始 ま っ て い る( 島 根 県 立 大 学 リ ー フ レ ッ ト ,2011)。こ の よ う な 試 み は
リアリティショックの看護の実践に関するギャップや,生活の変化に関するギ
ャップといったストレッサーの低減に効果的に作用する可能性がある。
ユ ニ フ ィ ケ ー シ ョ ン に 関 し て は ,ア メ リ カ で は 積 極 的 に 取 り 入 れ ら れ て 有 効
性が確認されているものの,日本においては実証的な有効性は確認されておら
ず 人 事 交 流 が 始 ま っ た ば か り で あ る( 谷 口 他 ,2014)。し か し ,卒 業 生 へ の 支 援
の 1 つ と し て こ れ ら の 取 り 組 み を 行 う こ と は ,ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ
クの低減につながる可能性があり期待できる。
121
第7章
4-2
ネガティブなリアリティショックの緩和に関する応用可能性
研 究 5 よ り ,実 習 時 の 情 緒 的 消 耗 感 は 就 職 後 の 看 護 の 実 践 の 認 知 に 影 響 を 及
ぼ し ,同 時 期 の バ ー ン ア ウ ト を 促 進 す る こ と が 認 め ら れ た 。 逆 に 就 職 前 に 技 術
訓練などを通して実践力を高める介入をすることで、リアリティショックの緩
和につながると言える。看護の実践に関するギャップに関する介入として,就
職 前 の 看 護 技 術 ト レ ー ニ ン グ の 効 果 が 報 告 さ れ て い る ( 登 喜 ・ 森 下 ・川 上 ・ 吉
田 ・ 重 松 ・江 川 , 2009 ; 高 橋 ・鈴 木 ・ 小 野 , 2004) 。 ま た , 病 院 と 看 護 系 大 学
が 協 力 し て の 看 護 技 術 演 習 の 効 果 に つ い て も ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 解 消 に 役
立 つ と い う 報 告 が あ る( 小 泉 ・ 水 田 ・ 黒 松 ・ 中 山 ・ 西 口 ・ 服 部 ,2008)。2 年 目
看護師に対し,看護技術習得とバーンアウトとの関連について調査した野口他
( 2011)は ,1 年 以 内 で は「 一 人 で で き な い 技 術 が 多 い 」ほ ど ,バ ー ン ア ウ ト 得
点が高かったことを示している。逆に「採用時に一人でできる技術が多い」者
ほど,抑うつ・絶望感に陥る傾向が少ないことも示されている。このように,
就職前の技術トレーニング行うことで,学生が自信を持って就職できれば看護
の実践に関するギャップの軽減に結びつくと考えられる。
ま た 研 究 4 の 結 果 よ り ,対 処 の 有 効 性 が 認 め ら れ る の は ほ ぼ 1 年 後 で あ る こ
とが明らかになった。卒後教育の一環として新人看護師が問題解決型対処の採
用ができるようになるための介入も効果的であると考えられる。岡本・松浦
( 2015) は , 就 職 3 ヶ 月 時 の 新 人 看 護 師 の 事 例 を 振 り 返 り , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ
クの生成過程には,怒涛のごとく押し寄せる日々の業務と,自分を振り回す人
間関係の中に巻き込まれ,自分が患者のためになっているという実感や先の目
標が見えなくなっていることが,患者のケアのための情報収集やアセスメント
といった視点を持つことのできた学生時代とのギャップにつながっていること
を報告している。従って,自分の成長を具体的に確認できる工夫,新人看護師
が学生時代に考えていた看護と臨床で行っている看護とが繋がるような工夫,
自分はどこに向かっていくのかがわかるような教育の工夫や仕組みを作ること
も必要である。こういった到達目標を明らかにすることは,問題解決型対処の
採 用 が で き る よ う に な る ひ と つ の 工 夫 で あ り ,実 践 能 力 の 高 ま り を 自 己 評 価 で
きる工夫であるとも考えられる。
次 に ,生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ へ の 介 入 と し て は , ネ ガ テ ィ ブ な ト ラ ン
122
第7章
スアクションの出発点となる学生時代での介入が可能である。ユニフィケーシ
ョ ン に 関 す る 論 述 で も 述 べ た が ,学 生 時 代 か ら 就 職 後 の 生 活 の 変 化 を 見 据 え て ,
教員や関係者が情報提供と対処法について対策を講じておくこと,また就職後
も特にリアリティショックが高まる就職 3 ヶ月時や 6 ヵ月時位までは,引き続
き卒業生と連絡をとって,卒業後のフォロー的な対応を行うことで,情緒的消
耗感を緩和できる可能性がある。看護師という仕事は,就職前後での一貫した
教育が必要であり,技術や知識のみならず,情意面においても熟練した看護師
が多く育っていくことが看護の質の向上につながり,患者の利益へと還元され
るといえる。その出発点として,学校と病院が提携して新人看護師を支援でき
れば,生活の変化に関するギャップの緩和に結びつくと考えられる。以上のよ
うにトランスアクションが成立するネガティブ因子に関しては,学生時代に介
入を行うことで,負の循環に介入することが可能になると思われる。
一方で,トランスアクション的関係が成立しなかった職場の人間関係に関す
るギャップへの介入は困難が伴う。研究 2 及び研究 5 の結果からも明らかなよ
うに,就職前には職場の人的環境までは予測がつかないからである。また就職
前の情緒的消耗感が影響していないということは,自分の力でその状況を思い
通りにはコントロールできないがゆえに, 就職先の環境によっては,新人看護
師の誰もが人間関係に苦労をし,そのギャップがストレッサーとなり情緒的消
耗感を高める可能性が考えられるからである。
職場の人間関係に関しては, 情動焦点型対処の採用により間接的な介入が可
能と考えられる。ストレスに対して制御可能な状況においては問題焦点型対処
が適応的であるが,制御不可能な状況においては,情動焦点型対処の採用が適
応 的 で あ る (岩 永 ,2004; 渡 辺 ・ 岩 永 ・ 尾 関 ,2002)。し か し ,医 療 現 場 で は 問
題解決をしなければならないわけで,職場においては問題焦点型対処を行うけ
れども,それ以外の場所では気分転換といった情動焦点型対処を行い,蓄積し
たストレスを有効に緩和することが重要となる。
研究 4 の結果より,生活の変化に関するギャップに対しては物事を楽観的に
捉えたり,見方を変えるなどの認知的な枠組みを変更することで乗り切るとい
う 提 案 を 行 っ た 。 こ の 楽 観 型 対 処 は 情 動 焦 点 型 対 処 に 含 ま れ ,人 間 関 係 で の 苦
痛 に 対 し て も 採 用 可 能 で あ る ( Lazarus et al., 1984) 。 看 護 学 生 の ス ト レ ス
123
第7章
と コ ー ピ ン グ ス タ イ ル を 調 査 し た Yamashita et al.( 2012) は , 看 護 学 生 の も
っ と も ふ つ う の コ ー ピ ン グ は 寝 る こ と (22.7%), し ゃ べ る こ と (20.0%) と い
った情動焦点型対処であると述べている。従って就職後も休息や気分転換がで
きる時間が確保できることでストレス軽減に結びつくと考える。休息という点
で は ,病 院 に よ っ て は 就 職 後 の 3 か 月 間 は「 新 人 3 ヵ 月 ル ー ル 」を 設 け ,定 刻 で
帰宅させるとか,課題や宿題は課さず,自ら学習できるように支援している病
院 の 取 り 組 み な ど が あ る( 坂 本 ,2015)。ま た 就 職 し て し ば ら く は 半 日 勤 務 の 日
を設け,その日はゆっくりと休めるように配慮しているところもある(日本看
護 協 会 , 2012c)。 新 人 看 護 師 に な る と 情 動 焦 点 型 対 処 が 効 か な く な る こ と も 示
さ れ て お り (真 鍋 他 , 2014),職 場 以 外 で 情 動 焦 点 型 対 処 が と れ る よ う , 病 院 の
システムとして休息できる時間を設けるなどの工夫は効果的であるといえる。
ま た 本 研 究 で は 個 人 の 中 の 対 処 を 問 題 に し た た め 議 論 を し て い な か っ た が ,ソ
ーシャルサポートの採用も効果的である。ソーシャルサポートについては既に
多 く の 先 行 研 究 で も そ の 効 果 が 示 さ れ て い る ( 駒 田 ・ 近 藤 ・ 赤 澤 , 2014; 日 本
看 護 協 会 ,2005)。 信 頼 で き る 誰 か に 話 を 聞 い て も ら っ た り , 友 達 と お い し い も
の を 食 べ た り す る な ど ,同 期 の 看 護 師 も し く は 職 場 以 外 で の 人 間 関 係 に よ っ て
自 我 を 維 持 す る こ と は ,一 時 的 に せ よ ス ト レ ス の 低 減 に つ な が る と 考 え ら れ る 。
4-3
トランスアクション・モデルの教育及び臨床現場における応用可能性
最後に,トランスアクション・モデルの応用可能性について述べる。
本論文では,情緒的消耗感とネガティブなリアリティショックのトランスア
クション的関係が示された。本論文の対象者の情緒的消耗感は看護学生時代に
発生しているため,学生時代に介入していれば,あとに続くリアリティショッ
クでの体験やバーンアウトの深化を予防できる可能性が認められた。一方で,
スキルも対処も関与していないということでは,介入が難しいということを踏
まえたうえで,今後の議論を進めていく必要があることも認められた。
介入には 2 つの案が考えられる。1つは本人の認知を変えるための介入案で
あり,もう1つはリアリティショックへの介入案である。情緒的消耗感もしく
は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ど ち ら に 介 入 し て も ,お 互 い に 影 響 し あ っ て い る た め ,
就職後の情緒的消耗感の低減につながる可能性がある。リアリティショックへ
124
第7章
の 介 入 に つ い て は す で に 4-1 , 4-2 で 述 べ た の で , こ こ で は 本 人 の 認 知 を 変 え
るための介入案について述べたい。
本人の認知を変える方法で,看護学生に対して効果があったといわれている
も の で は , 認 知 行 動 療 法 を あ げ る こ と が で き る 。 山 之 内 ・ 元 村 ( 2013) は 看 護
学生を対象に,認知行動療法に基づいたメンタルヘルス教育を行った結果,
“認知のゆがみ”介入群において認知の修正につながり抑うつ状態が軽減した
と報告している。また,一般の大学生を対象に,大学生の抑うつ傾向への対処
的・予防的取り組みとして,認知療法をもとにした心理的介入プログラムを実
践 し た 白 石 ( 2005) は , 介 入 群 の 抑 う つ の 程 度 が 軽 減 し , 否 定 的 自 動 思 考 の 頻
度と抑うつスキーマの程度も軽減したと述べ,通常の学生に対する認知的対処
スキルの教育プログラムとして活用することで予防効果が期待できると述べて
いる。
先行研究から,非臨床群であっても,否定的な評価をする人だけではなく,
否定的な評価を認めなかった一般の学生に対しても,予防的介入として認知行
動療法は有効であることが考えられる。看護学生に対して認知行動療法に基づ
いた介入を行うことができれば,認知のゆがみの修正が可能になるため,バー
ンアウトの始動時点での早期介入につながると考える。
5.
今後の検討課題
本 論 文 に お い て は , リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 生 起 過 程 を Lazarus & Folkman
(1984) の 心 理 学 的 ス ト レ ス モ デ ル に 着 目 し て モ デ ル 化 し た 。 最 後 に 本 論 文 の
限界と今後の検討課題について述べる。
第一に,新人看護師が持つ,ストレスやネガティブな出来事に対する精神的
回復力についての調査が必要である。ほとんどの新人看護師がリアリティショ
ックにさらされるにもかかわらず,逆境を克服し,その経験を糧として成長し
て い る 人 も 多 い 。 こ の 特 性 は レ ジ リ エ ン ス ( Grotberg, 2003 ; Werner, 1993)
と呼ばれる。レジリエンスが高い傾向にある看護師は,バーンアウト傾向が低
い と の 報 告 が あ る ( Ihara, Ogata, Inuzuka, Ohta, Nagai. & Mizuno, 2010)。
また,レジリエンスは訓練によって高めることが可能で,そのトレーニングと
し て , 認 知 行 動 療 法 か ら の 提 案 が な さ れ て い る (Neenan, 2009 ; 大 野 , 2014)。
125
第7章
レ ジ リ エ ン ス が 高 ま れ ば 職 場 適 応 に 有 利 に 作 用 す る と 考 え ら れ る た め ,今 後 は
精神的回復力の視点からの検討を行う必要がある。
第二に,データの普遍性に関する課題がある。調査協力者は 4 回の縦断調査
に 応 じ た 85 名 で 統 計 解 析 を 行 う 上 で 十 分 な 数 と は 言 え な い 。 今 後 は 人 数 を 拡
大して,本論文のモデルの適応可能性について調査をしていく必要がある。
第三に早期離職についての問題がある。本研究の参加者全体のうち,離職者
についての追跡調査は行っていない。離職に至るまでに具体的にどのような問
題 が あ っ た の か や , 離 職 者 の 個 人 特 性 の 影 響 な ど に つ い て 検 討 を 行 い ,リ ア リ
ティショックと早期離職の影響を検討することが必要である。
第四に,個人差の問題である。本研究では変化の個人差を検討していない。
例えば実習時にバーンアウトしていた人とそうでない人とでは,その後の変化
が異なる可能性がある。逆にそうでない可能性もある。また,楽観・悲観主義
な ど の 個 人 特 性 も 考 え る こ と が で き る 。し か し ,個 人 を 追 跡 し て い な い た め に ,
バーンアウトに陥った個人にどのように対処すればいいかの検討ができていな
い。今後は個々人に合わせた検討を行い,対策を立てる必要がある。
第五に,ストレッサーの測定に関する問題を挙げる。本研究においては職場
環境そのものからくるストレッサーを測定していない。就職した職場環境が悪
く,過剰労働が続けば,リアリティショックが低い場合でもバーンアウトに結
びつく可能性があるだろう。また,就職した直後は,リアリティショックも職
場環境から来る一次的ストレッサーも強い状態である。しかし,仕事を継続し
ていくと,リアリティショックの成分は低下し,職場環境での労働負荷そのも
のが重くのしかかってくるだろうということが予測できる。従って,今後は一
次的ストレッサーである職場環境そのものから来るストレッサーと,二次的ス
トレッサーであるリアリティショックとの関連を検討していく必要がある。
第 7 章のまとめ
本章では,第 1 章から第 6 章までの一連の検討を通して得られた結果を総括
した。加えて本論文で得られた知見の理論的貢献,教育現場及び臨床での応用
可能性について考察を行った。本論文の応用可能性では,ネガティブなリアリ
126
第7章
ティショックの緩和策として,とりわけ就職直後は,看護実践能力の向上と日
常生活の変化にともなう精神的・身体的負荷の緩和が必要であることが示唆さ
れる。またこれらのギャップに関しては就職前の看護技術トレーニングや,学
校と病院とが連携して新人看護師のキャリア形成をサポートする必要性が示唆
される。職場の人間関係に対しては,就職後は職場以外で情動焦点型対処がと
れるよう,病院のシステムとして休息できる時間を設けるなどの介入が可能で
あることが示唆される。トランスアクションの応用可能性としては,本人の認
知を変えるための認知行動療法による介入案と,リアリティショックへの介入
案が考えられる。情緒的消耗感もしくはリアリティショックのどちらに介入し
ても,お互いに影響しあっているため,就職後の情緒的消耗感の低減につなが
る可能性がある。
今後の発展として,ネガティブな認知のゆがみを調査し,バーンアウトとの
関連を証明するとともに,ストレスやネガティブな出来事に対する精神的回復
力についても調査を行い,新人看護師の職場定着にどういった要因や個人特性
が関連するのかについて明らかにする必要がある。また人数を拡大して本論文
のモデルの適応可能性について調査を進めていくことが必要であること,さら
には職場環境そのものから来るストレッサーと,リアリティショックとの関連
を検討していく必要がある。
127
本論文の要約
本 論 文 で は , Lazarus の 考 え 方 を 基 盤 と し , 縦 断 的 調 査 を 通 し て , 新 人 看 護
師のリアリティショックの生起過程を明らかにすることを目的とした。
第 1章
序論
新卒の専門職者が就職後数か月以内に予期せぬ苦痛や不快さを伴う現実に直
面し,身体的,心理的,社会的なショック症状を表わす状態は,リアリティシ
ョ ッ ク (Kramer, 1974)と い わ れ 問 題 視 さ れ 続 け て い る 。 こ の ス ト レ ス 状 態 は 就
職 後 3カ 月 目 が 最 も 高 く ,離 職 願 望 が 生 じ る と い わ れ る 。新 人 看 護 師 の ス ト レ ス
の原因としては,臨床現場で必要とされる臨床実践能力と看護基礎教育で修得
する看護実践能力との間に乖離が生じ,その乖離が一因であると指摘されてい
る 。 し か し , Kramerの 問 題 提 起 か ら 40年 以 上 経 過 し た 現 在 も 解 決 に は 至 っ て い
ない。
序論ではリアリティショックに関する先行研究をレビューし,新人看護師が
置 か れ て い る 現 状 と 問 題 点 ,先 行 研 究 の 限 界 ,本 論 文 の 着 眼 点 に つ い て 述 べ た 。
これまでの研究でリアリティショックの因子構造は明らかになっているが,ギ
ャップについては,不明確なまま研究が進められていた。その理由として,就
職前の予測と就職後の現実との認知的不整合については議論されておらず,リ
アリティショックの生起プロセスも明らかにされていないことが考えられた。
認知的不整合とは自分が予測していたものと異なる刺激を受けることで不安が
喚 起 さ れ る こ と と い わ れ る ( Epstain, 1972)。 新 人 看 護 師 が 自 己 に 対 し て 抱 い
ている能力や自己評価と,職場において求められる現実とのギャップという不
整合を認知することがリアリティショックである。本研究では認知的不整合の
視 点 に 立 ち , Lazarus の 考 え 方 を 基 盤 と し , 新 人 看 護 師 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク
生起モデルを作成し,リアリティショックやバーンアウトの発生や維持につい
ての検証を行うこととした。
第 2章
第 2 章,研究 1 では認知的不整合測定のために開発した,リアリティショッ
128
ク尺度について検討した。まず,新人看護師へのインタビューと先行研究によ
る 項 目 収 集 を 行 い ,尺 度 原 案 を 作 成 し た 。次 に 51 項 目 か ら 構 成 さ れ る リ ア リ テ
ィ シ ョ ッ ク 尺 度 原 案 を 因 子 分 析 し た 結 果 , 「生 活 の 変 化 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 看
護 実 践 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 職 場 の 人 間 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 新 人 教 育 に 関
す る ギ ャ ッ プ 」「 患 者 ・ 家 族 と の 関 係 に 関 す る ギ ャ ッ プ 」「 就 職 後 の 満 足 感 に 関
す る ギ ャ ッ プ 」の 41 項 目 6 因 子 が 抽 出 さ れ た 。リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク 尺 度 は ネ ガ
ティブ 3 因子とポジティブ 3 因子の併せて 6 因子構造であることがわかった。
妥当性の検討のため,バーンアウト尺度及びストレス反応との相関分析を行っ
た結果,いずれの尺度とも中程度の関連性を示し,偏相関分析からは,下位項
目と弁別的な関連を示していることが明らかになった。信頼性及び妥当性の検
討から,リアリティショック尺度は一定の信頼性と妥当性を有していることが
確認された。
第 3章
第 3 章 , 研 究 2-1 で は , 就 職 前 か ら 就 職 後 に か け て の ソ ー シ ャ ル ス キ ル ・ 対
処バーンアウトの推移と就職後のリアリティショックの推移を追い,就職前後
でどのように変化していくのかを明らかにした。分散分析の結果,実習時に比
較して,ソーシャルスキルは就職後に低下し,バーンアウトは就職後に高まる
ことがわかった。またリアリティショックでは,就職 3 ヶ月時に比較し,ネガ
ティブ因子の看護実践困難感と生活の変化に関するギャップが低減し,ポジテ
ィブ因子の就職後の満足感に関するギャップが高まっていくことがわかった。
第 3 章 研 究 2-2 で は , 新 人 看 護 師 の 就 職 前 の 状 態 と 就 職 後 の 縦 断 的 変 化 に つ
いて,4 回の縦断調査すべてに協力が得られた群と調査を中断した群の比較を
行った。継続群とドロップアウト群を比較したが,全体的には大きな差は示さ
れなかった。以上から,今後の研究対象としては継続群に焦点を当てて検討す
ることとした。
第 4章
第 4 章,研究 3 では,学生時代のバーンアウトが,就職後のリアリティショ
ッ ク の 認 知 に ど の 程 度 影 響 す る の か に つ い て 検 討 し た 。重 回 帰 分 析 の 結 果 か ら ,
129
学生時代に情緒的消耗感があると,就職後もリアリティショックのネガティブ
因子に1年間に渡って影響を与え続けることがわかった。一方,学生時代の脱
人格化と個人的達成感の低下はリアリティショックのポジティブ因子に負の影
響を与えるが,その影響力は時期の推移とともに減少することがわかった。具
体的には,学生時代に患者や家族との関係性が良好であることや,実習での個
人的達成感が得られていると,就職初期の職場適応に促進的に作用すると考え
られた。逆に,情緒的消耗感があるとストレッサーを否定的に評価してしまう
ため,リアリティショックを敏感に評価している可能性があると考えられた。
実習時のバーンアウトが就職後のリアリティショックに及ぼす影響力について
は ,説 明 分 散 が 10~ 20% 前 後 と さ ほ ど 大 き な 説 明 力 を 有 し て い る 訳 で は な か っ
た。しかし,就職直後の状態によっては適応に影響を及ぼす可能性もあり,就
職先でのフォローの必要性が示唆された。
第 5章
第 5 章 ,研 究 4で は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 認 知 か ら バ ー ン ア ウ ト の プ ロ セ ス
に,ソーシャルスキルと対処が及ぼす影響の検討を行った。また緩衝要因とし
ての検討のために,リアリティショックとスキル及び,リアリティショックと
対処の交互作用の影響についても検討を行った。その結果,就職後のバーンア
ウトにはリアリティショックが直接的に影響を与えていることがわかった。と
りわけ職場の人間関係に関するギャップは,1 年を通して情緒的消耗感に影響
を 与 え て い た 。就 職 6 ヵ 月 頃 か ら は ,ス キ ル や 対 処 の 効 果 が 発 揮 さ れ 始 め ,個
人 的 達 成 感 に 影 響 を 与 え 始 め る 。就 職 3 ヵ 月 時 に お け る 生 活 の 変 化 の 大 変 さ を ,
楽観型対処を採用し,自らの考え方を変えることで乗り切ること,看護技術の
能力を確実にあげて達成感を得ることが,職場に適応するために重要であると
考 え ら れ た 。緩 衝 効 果 の 影 響 は ,脱 人 格 化 に 対 し て 就 職 3 ヶ 月 時 の リ ア リ テ ィ
ショックとスキル及びリアリティショックと対処の交互作用を除き認められな
かった。リアリティショックがあっても対処の効果があればストレスは低減す
るが,影響はほぼないことがわかった。
第 4 章 研 究 3の 結 果 か ら ,就 職 後 の ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 認 知
に は ,学 生 時 代 の 情 緒 的 消 耗 感 の 高 さ が 影 響 を 及 ぼ す こ と が わ か っ た 。ま た 第 5
130
章 研 究 4 の 結 果 か ら ,就 職 後 の 情 緒 的 消 耗 感 や 達 成 感 の 低 下 に は ,リ ア リ テ ィ
ショックが直接影響を与えていることがわかった。これらの結果から,就職前
の情緒的消耗感は,就職後のネガティブなリアリティショックの認知に影響を
及ぼすこと,そしてリアリティショックを敏感に認知することが,さらに情緒
的消耗感を高めてしまうことにつながり,その情緒的消耗感の高まりが次のリ
アリティショックの認知に影響するといったトランスアクションが生じている
と推測された。
第 6章
研究 5 ではバーンアウトとリアリティショックのトランスアクショナル的な
関係の検討を行った。情緒的消耗感とネガティブなリアリティショックとのト
ランスアクションで当てはまりの良さが認められた。最終的にトランスアクシ
ョンが認められたのは,情緒的消耗感と生活の変化に関するギャップのモデル
及び,情緒的消耗感と看護の実践に関するギャップとのモデルであった。これ
らのネガティブなリアリティショックと情緒的消耗感との間で反応が増強され
ていることが推察される。
一方で,情緒的消耗感と職場の人間関係に関するギャップとの間にはトラン
スアクショナルな関係は成立しなかった。ギャップの認知そのものが 3 ヵ月先
のバーンアウトに影響するというよりは,職場におけるスタッフとの人間関係
に 問 題 が あ り ,日 々 消 耗 し て い る こ と が 考 え ら れ る 。
本モデルにおいては,シンプルにリアリティショックとバーンアウトのみの
関係性をみている。しかし,ソーシャルスキルも対処も関与していないという
ことでは,介入が難しいということを踏まえたうえで,今後の議論を進めてい
く必要がある。
第 7章
第 7 章では,総合考察として,第 2 章から第 6 章までで得られた一連の結果
を総括し,最終的なリアリティショックとバーンアウトの関係に関するモデル
の提案を行った。本研究の結果からは以下のプロセスが考えられた。
新人看護師が就職し,新しい職場環境に入ると,就職前に抱いていた自分の価
131
値観や,看護や医療に関する技術的能力,本人の保持する能力などと職場で求
め ら れ る 現 実 と の 間 に ギ ャ ッ プ を 感 じ ,リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク と し て 認 知 さ れ る 。
新人看護師のリアリティショックに対してはそれを軽減するための対処の効果
は低く,また個人要因であるソーシャルスキルの効果も低いため,リアリティ
ショックは直接,就職後の適応の指標であるバーンアウト反応を生じさせる。
とりわけ看護学生時代に情緒的消耗感を高く認知している人は,抑うつ状態に
な り や す く ,就 職 後 の リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク を 敏 感 に 評 価 し て し ま う こ と に な る 。
さらに就職後のバーンアウトはフィードバックされ,その後のリアリティショ
ックの認知にも影響を与える。すなわちリアリティショックが最も高まるのは
就職直後であるが,そのときに受けた情緒的消耗感は数ヵ月を過ぎてもリアリ
ティショックの認知に影響を及ぼし,就職後の情緒的消耗感を高めてしまう。
これが新人看護師のリアリティショックとバーンアウトの関係であると考えら
れた。
本 論 文 の 応 用 可 能 性 で は ,ネ ガ テ ィ ブ な リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の 緩 和 策 と し て ,
とりわけ就職直後は,看護実践能力の向上と日常生活の変化にともなう精神
的・身体的負荷の緩和が必要であることが示唆される。またこれらのギャップ
に関しては就職前の看護技術トレーニングや,学校と病院とが連携して新人看
護師のキャリア形成をサポートする必要性が示唆される。職場の人間関係に対
しては,就職後は職場以外で情動焦点型対処がとれるよう,病院のシステムと
しての介入がであることが示唆される。トランスアクションの応用可能性とし
ては,就職前の介入もしくは就職後の介入が考えられる。情緒的消耗感もしく
は リ ア リ テ ィ シ ョ ッ ク の ど ち ら に 介 入 し て も ,お 互 い に 影 響 し あ っ て い る た め ,
就職後の情緒的消耗感の低減につながる可能性がある。
今 後 の 発 展 と し て ,ネ ガ テ ィ ブ な 認 知 の ゆ が み を 調 査 し ,バ ー ン ア ウ ト と の
関連を証明するとともに,ストレスやネガティブな出来事に対する精神的回復
力についても調査を行い,新人看護師の職場定着にどういった要因や個人特性
が関連するのかについて明らかにする必要がある。また人数を拡大して本論文
のモデルの適応可能性について調査を進めていくことが必要であること,さら
には職場環境そのものから来るストレッサーと,リアリティショックとの関連
を検討していく必要がある。
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Appendix
Appendix 1-1
学校宛研究依頼書
1-2
学生宛研究依頼書
1-3
学校宛研究計画書
1-4
研究承諾書(学校用)
1-5
研究承諾書(学生用)
Appendix 2-1
就職 3 ヵ月時鏡文(新人看護師用)
2-2
就職 6 ヵ月時鏡文(新人看護師用)
2-3
就職 12 ヵ月時鏡文(新人看護師用)
Appendix 3-1
就職前アンケート調査
3-2
就職 3 ヵ月時アンケート調査
3-3
就職 6 ヵ月時アンケート調査(就職 3 ヵ月時と同じ調査のため変更部
分のみ)
3-4
就職 12 ヵ月時アンケート調査(就職 3 ヵ月時と同じ調査のため変更部
分のみ)
Appendix1-1 学校宛研究依頼書
研究依頼書
殿
私共は研究テーマとしてストレス研究の視点に基づき新人看護師のストレス、とりわけ
リアリティショックに関する研究に取り組んでおります。看護基礎教育に関わり十数年を
経、多くの卒業生が臨床現場へと巣立っていきました。看護師として臨床で働く様子に接
するのが楽しみでしたが、ここ数年はやつれた姿を目にしたり、離職の相談を受けること
も増えてきました。病院側が、教育体制を整えソフト面でも心を砕いて新人看護師達に配
慮している姿を目の当たりにしているため、制度が整い温かく迎えられているのに離職す
るというのは、新人看護師の中で一体何が起こっているのだろうかと疑問が生じたのが動
機です。
ストレスとは生体に生じた精神的・身体的歪みのことで、心理学領域ではラザルスによ
り発展しました。新人看護師の初期のストレス反応として問題視されているリアリティシ
ョックは、数年間の専門教育を受けた後、実社会で仕事をした時まだ準備できていないと
感じる新卒専門職者の現象や特定のショック反応をいいます。看護界においては Kramer
の著書「Reality Shock」が 1974 年に出版され、1980 年代半ばに日本に紹介されて定着
しています。2004 年には日本看護協会が全国調査を行い、早期離職とリアリティショック
の関連を指摘していますが今だ解決の目途が立っていません。
私共は看護学生から新人看護師への移行に伴う縦断的調査を実施することでリアリティ
ショックの要因が明確になるのではないかと考えました。具体的には卒業前後で 4 回の縦
断調査を実施し、看護学生から看護師として就職する前後の状態変化とリアリティショッ
クとの関連の検討,新人看護師の 6 か月時の状態とリアリティショックとの関連の検討,
新人看護師の 1 年目の状態とリアリティショック及び離職意図との関連の検討そしてリア
リティショックと個人要因に関する検討を行うことで,新人看護師のリアリティショック
の生起プロセスを解明し介入のための示唆が得られると考えております。
この研究によって期待される成果としては、新人看護師が就職後に受けるリアリティシ
Appendix1-1 学校宛研究依頼書
ョックの要因とストレス反応の関係,及びリアリティショックと離職の関係が明らかにな
ると考えます。そしてリアリティショックの緩和と離職防止のための実行可能な介入の可
能性が見出されることで、看護基礎教育課程での介入が可能になります。また職場要因が
影響するのであればストレスを緩和するための卒後教育における具体的な介入が可能にな
ります。以上を踏まえ本研究へのご協力をお願いさせていただく所存です。
平成 22 年
月
日
広島大学大学院総合科学研究科博士後期課程
岡本響子
広島大学大学院総合科学研究科 岩永 誠
Appendix1-2 学生宛研究依頼書
研究説明書
私共は新人看護師を就職前から就職後の 1 年間を通して追跡調査することでその変化
の実際を知りたいと考え研究に取り組んでおります。このたび看護学生から新人看護師へ
と巣立っていかれる皆様に、就職前と就職後3か月、6 か月、12 カ月の 4 回にわたり調査
をさせていただきたく、ご協力をお願い申し上げます。
継続的な調査のため調査の回答が同一人物であることを明確にする必要があります。そ
のためご協力いただける方には学籍番号とイニシャルをご記入いただくことで個人を特定
しないための工夫をいたします。
学内での調査では回収ボックスでの回収を行います。また卒業後は自記式質問紙調査票
と返信用封筒をお送りし調査にご協力いただくことになります。結果の公表は、看護学校
へのフィードバックと学会発表にて行わせていただきます。
本研究により皆様が受ける利益としては研究結果を生かした卒業後の継続支援や情報提
供があります。また皆様の後輩の方々にとっては進路選択や就職後のイメージ形成と対処
を考えるための重要な情報を得ることにつながります。
調査はすべて学校の協力のもと実施されます。またアンケート記載による心身への負担
が考えられるため記載時間を考慮し 20 分以内での記載可能内容としています。皆様のご協
力をよろしくお願いいたします。
岡本響子(広島大学大学院総合科学研究科)
岩永 誠(広島大学大学院総合科学研究科)
Appendix1-3 学校宛研究計画書
研究計画書
新人看護師のリアリティショックに関する研究
広島大学大学院総合科学研究科
○岡本 響子 岩永 誠
Ⅰ 問題と目的
新人看護師が組織参入時に受ける衝撃は「リアリティショック」と言われ問題視されてき
た。リアリティショックとは、数年間の専門教育を受けた後、実社会で仕事をした時まだ
準備できていないと感じる新卒専門職者の現象や特定のショック反応(Kramer ,1974)を言
う。看護界においては Kramer の著書「Reality Shock」が 1974 年に出版され、1980 年
代半ばに日本に紹介(宗像,1986;井部,1986)された。以後プリセプター制の導入や集合教育な
ど新人教育に多くの取り組みがなされてきた。病院側の努力があってもなお新人看護師が
病院に適応できずに辞めていくことで現在も問題視されている。
2004 年には日本看護協会が全国調査を行い、早期離職とリアリティショックの関連を指
摘(日本看護協会,2004)した。病院にとって、新人看護師が離職しあるいは職場適応できず
に良い看護が提供できないことは大きな損失である。また看護専門学校においても、3 年間
の準備を行ったのに、数週間から数か月の間に新人看護師が離職していくことは、看護師
アイデンティティを育む上からも考えていく必要がある。
リアリティショックの原因としては看護基礎教育過程での教育内容と臨床で求められる
能力のギャップ(日本看護協会,2004)が挙げられている。リアリティショックは入職後 3 か月
時で新人看護師の 65%に存在し,6 か月で 46%に減少するが,今までリアリティショックを感
じていなかった人でも 6 か月時で,全体の 10%にショック反応が出現するといわれている(水
田,2004)。また新人看護師の 1 年後の離職率は約 10%でその原因の1つにも関係するといわ
れる(日本看護協会,2004)。しかしギャップの何が強いストレスに結びついていくかは明らか
ではない。また時間軸によってストレスを規定している要因が違う可能性もある。さらに現
代若者のストレス脆弱性が離職の一因(日本看護協会,2004)との報告はあるが検討はされて
いない。これらのことから本研究では看護学生から看護師に至る過程を縦断的に調査し、新
人看護師のリアリティショックの生起プロセスを解明し介入のための基礎的示唆を得るこ
とを目的とする。
期待される成果
新人看護師が就職後に受けるリアリティショックの要因とストレス反応の関係,及びリ
アリティショックと離職の関係が明らかにされるという本研究の成果は,リアリティショ
ックの緩和と離職防止のための実行可能な介入の可能性を見出すという点において有益で
ある。
調査期間
平成 23 年 1 月から平成 24 年 4 月
Appendix1-3 学校宛研究計画書
研究対象
平成 22 年度に看護系大学及び専門学校を卒業し,継続して就職予定の新人看護師
研究方法
データ収集はアンケート調査で行う。就職前のデータ収集時期は卒業前の 1 月~3 月にか
けて 1 度実施する。就職後は 3 か月時,6 か月時,12 か月時の 3 度に渡り実施する。時期
の選択は先行研究の調査結果による。調査内容は,基本属性と Kikuchi’s social skill (今
野,2001)より 10 項目 ,セルフモニタリング尺度(藤岡,2007)より 11 項目,ローゼンバー
グ自尊感情尺度(1970)より 5 項目,心理的ストレス反応尺度(SRS-18)(鈴木・嶋田・三浦
他 1997) より 6 項目 ,看護師用ストレス反応尺度(山口,2001)より 6 項,3 次元モデルに
基づく対処法略尺度(TAC24)(神村・海老原他,1995)より 15 項目,バーンアウト尺度(田
尾・久保,1996)より 12 項目である。リアリティショック要因については研究者が作成した
リアリティショック尺度を用いる。
データ収集と場所
研究対象者には、無記名の自記式質問紙調査と同意書を配布する。回収は調査票を封筒
に入れ封をした後、回収ボックスにて回収する。追跡調査については口頭で調査について
説明し、1 年間の研究協力者を集う。縦断的調査のため研究協力者は学生番号とイニシャル
を記入するよう依頼し、自宅への郵送による仮名での自記式質問紙調査を行う。
結果の公表
看護学系または心理学系学会発表及び看護学系または心理学系雑誌への投稿にて行う。
データ分析
統計解析ソフト SPSS を使用して量的に分析する。職業性ストレス、バーンアウトなど
を多変量解析などを用いて分析する。
研究における倫理的配慮
研究対象者には研究の利益,不利益について説明し,自由意思で研究協力できること,
いつでも協力を中断できることを説明する。受け取ったデータは集団データとして数量化
され,個人が特定されるような解析は行わないこと,また個人の特定につながる情報は番
号化することで回避すること,データは鍵のかかる場所に保管して厳重に管理し,研究者
以外の目に触れることはないこと,研究終了後は粉砕処分することを説明する。素データ
を含むコンピュータを廃棄するときも,情報漏洩が起こらないように,ハードディスクの
物理的破壊等の適切な処置をとる。また調査への参加は自由であり,不参加であっても不
利益はないこと,調査途中であってもいつでも中断可能なこと,住所記載の同意書の管理
は出身校に依頼することを説明する。
倫理的問題が発生した場合,早急に大学院担当教員に報告し,その内容と問題発生・改
Appendix1-3 学校宛研究計画書
善策について対応する。
倫理委員会の承認
研究計画書を広島大学大学院総合科学科倫理委員会に提出し承認を得た。
研究協力者が受ける利益
研究協力者が受ける利益は、情報提供などの継続支援を受けることが可能になる。不利
益はアンケート記載による心身への負担が考えられるため記載時間を考慮し 20 分以内での
記載可能内容にする。
連絡先
岡本響子(広島大学大学院総合科学研究科博士後期課程)
Appendix1-4 研究承諾書(学校用)
(施設用)
研究承諾書
研究者名
広島大学総合科学部総合科学研究科
岡本響子
・岩永
誠
研究テーマ
「新人看護師のリアリティショックに関する研究」
○○看護学校は、上記の研究における説明を受け、別紙
研究協力依頼書に記載された事項が守られる限りにおいて、承諾いたします。
平成 23 年
(署名)
月
日
Appendix1-5 研究承諾書(学生用)
研究承諾書
研究者・説明者
岡本響子
私は、看護学生及び新人看護師の日常生活調査について、説明文書を用いて
説明を受け、私が協力して行う研究協力事項について理解し、研究協力に同意
します。
平成 23 年
月
日
(署名)
送付先住所(確実に届く住所でお願い致します)
〒
(住所)
Appendix2-1 就職 3 ヶ月時鏡文
新緑の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
新年度が始まり,さぞかしご多忙なことと存じます。
就職前の調査では,細やかなご配慮とご協力を賜り本当にありがとうございました。おかげさまで貴重
なデーターを得ることができました。大切に扱わせていただき,研究に生かす所存でございます。
本日は 6 月に予定しております縦断調査の,2 回目のアンケート案を送らせていただきます。縦断調査
のため,質問事項に全く変更はございませんが,質問1と2の基本属性に関する質問と,質問7の現在の
様子に関する質問を追加しております。ご確認いただけますようお願いいたします。
なお,今後 9 月と翌年 3 月に実施予定の調査につきましても,基本属性に関する質問のみは時期に併せ
て若干の変更をいたしますが,アンケートの質問項目については同じ質問になります。
調査に関するご意見,ご質問がございましたら以下にメールをいただけますようお願いいたします。ど
うぞ忌憚のないご意見をよろしくお願いいたします。
時節柄どうぞご自愛下さいますよう。ますますのご活躍をお祈りいたしております。
かしこ
2011 年 5 月 11 日
広島大学大学院総合科学研究科
岡本響子・岩永誠
Appendix2-2 就職 6 ヵ月時鏡文
調査ご協力者の皆様
残 暑 が 厳 し い で す が 、皆 様 い か が お 過 ご し で し ょ う か 。お 伺 い 申 し 上
げます。
新 人 看 護 師 の 皆 様 に 対 し て 、就 職 前 か ら 就 職 後 の 1 年 間 を 通 し て 協 力
し て い た だ い て い る 本 調 査 も 3 回 目 に な り ま し た 。引 き 続 き ご 協 力 い た
だけますよう心からお願い申し上げます。
質 問 は 縦 断 調 査 の た め 、6 月 と 同 じ 項 目 で す が 、9 月 ~ 1 0 月 時 点 で の
心理状態に基づきお答えいただけますよう、お願いいたします。
回 答 は 統 計 的 に 処 理 さ れ る た め 個 人 の 特 定 は で き ま せ ん 。ど う ぞ 安 心
し て お 答 え く だ さ い 。な お 、引 き 続 き 卒 業 前 に 記 入 し て い た だ い た 学 生
番号と自分のイニシャルをご使用いただけますようお願いいたします。
本 調 査 は 強 制 的 な も の で は な く 、お 答 え い た だ か な く て も 不 利 益 に な
る こ と は あ り ま せ ん 。と は い え 今 後 の 学 校 教 育 及 び 新 人 教 育 に 役 立 つ 貴
重な資料となります。是非ご協力いただけますようお願いいたします。
調 査 の 締 め 切 り は 10 月 末 日 で す 。 返 信 用 封 筒 に 入 れ 、 封 を し て そ の
ま ま( 住 所 や 氏 名 を 記 載 せ ず )投 函 し て 下 さ い 。で き る だ け 早 く 返 送 し
て い た だ け る と 大 変 あ り が た い で す 。な お 、何 ら か の 事 情 で 退 職 ま た は
転 職 さ れ た 場 合 も 、調 査 に ご 協 力 い た だ け ま す よ う 併 せ て お 願 い い た し
ま す ( 6 月 時 点 で す で に ご 回 答 を い た だ い て い る 場 合 は 結 構 で す )。
今 回 も 事 前 に メ ー ル で お 知 ら せ を さ せ て い た だ い て お り ま す が 、メ ー
ル が 届 か な か っ た 方 に は 直 接 郵 送 さ せ て 頂 き ま し た 。ご 了 承 く だ さ い ま
す よ う お 願 い い た し ま す 。住 所 変 更 等 が あ り ま し た ら 、ご 連 絡 い た だ け
ま す で し ょ う か 。な お 、こ の 調 査 は 卒 業 前 に 同 意 を い た だ い た 方 す べ て
に郵送しております。
今 回 の 調 査 に 当 た り 、皆 様 に 粗 品 を 同 封 さ せ て い た だ き ま し た 。臨 床
等でお使いいただけると幸いです。
2 0 11 年 9 月 1 9 日
広島大学大学院総合科学研究科
岡本響子
岩永
誠
Appendix2-3 就職 12 ヶ月時鏡文
調査御協力者の皆様
春 は 名 の み の 風 の 寒 さ や と 申 し ま す が 、皆 様 体 調 は い か が で し ょ う か 。
お伺い申し上げます。
新 人 看 護 師 の 皆 様 に 対 し て 、就 職 前 か ら 就 職 後 の 1 年 間 を 通 し て 協 力
し て い た だ い て い る 本 調 査 も こ れ が 最 後 に な り ま し た 。是 非 最 後 ま で ご
協力いただけますようお願い申し上げます。
質問は縦断調査のため、6 月・9 月と同じ項目ですが、現在の心理状
態に基づきお答えいただけますよう、お願いいたします。
本 調 査 は 強 制 的 な も の で は な く 、お 答 え い た だ か な く て も 不 利 益 に な
る こ と は あ り ま せ ん 。と は い え 今 後 の 学 校 教 育 及 び 新 人 教 育 に 役 立 つ 貴
重な資料となります。是非ご協力いただけますようお願いいたします。
調 査 の 締 め 切 り は 3 月 末 日 で す 。返 信 用 封 筒 に 入 れ 、封 を し て そ の ま
ま(住所や氏名を記載せず)投函して下さい。できるだけ早く返送して
いただけると大変ありがたいです。なお、何らかの事情で退職または転
職 等 さ れ た 場 合 も 、調 査 に ご 協 力 い た だ け ま す よ う 併 せ て お 願 い い た し
ます。
今 回 も 事 前 に メ ー ル で お 知 ら せ を さ せ て い た だ い て お り ま す が 、メ ー
ル が 届 か な か っ た 方 に は 直 接 郵 送 さ せ て 頂 き ま し た 。ご 了 承 く だ さ い ま
すようお願いいたします。なお、この調査は卒業前に同意をいただいた
方すべてに郵送しております。
今回も調査に当たり、皆様に粗品を同封させていただきました。お使
いいただけると幸いです。
最後になりましたが、1 年間の長きに渡り調査へのご協力本当に感謝
しております。これからのご活躍を心から応援しております。
2 0 1 2 年 3 月 11 日
広島大学大学院総合科学研究科
岡本響子
岩永
誠
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