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高血圧治療ガイドライン 2004の概要

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高血圧治療ガイドライン 2004の概要
あじさい Vol.14,No3,2005
JULY.2005 Vol.14 No.3
★特集
『高血圧治療ガイドライン2004の概要
―メタボリックシンドロームと高血圧』
要旨:日本高血圧学会が作成する高血圧治療ガイドライン(JSH)が、新たな降圧薬の登場、多くの大規
模臨床試験の結果発表、また 2003 年には米国のガイドライン第7次改訂版(JNC−7)、欧州のガイドライン
(
ESH/ESC)、WHO/ISH 等が次々と改訂されたことをうけ、4年ぶりに改訂されました。
JSH2004 では、①日本人特有の心血管病にも重点をおくこと、②日本人に適した非薬物療法および降圧
両方を考慮すること、③血圧の日内変動を十分に考慮した治療を心掛け、家庭血圧の日常臨床への応用に配
慮すること、④高血圧の治療は長期間にわたることから医療経済にも配慮すること、に留意点が置かれていま
す。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
<変更点>
◎はじめに
1.高齢者の降圧目標(どこまで下げるか?)が、年
日本人を対象とした高血圧の標準的な治療法を
齢によって 140-160 以下と幅を持たせていた
のが、年齢を問わず、可能であれば 140/90m
目指したものとして、日本高血圧学会が中心になっ
mHg 未満に降圧する、と目標値が引き下げら
て作成して、2000 年に発表された”高血圧治療ガ
れました。「お 年 寄りはそんなに下げなくても
イドライン (J
SH2000)が今まで広く用いられてき
…」という考えが正しくないことがわかってきたか
ました。
らです。
日本高血圧学会(2004 年 10 月 7 日ー9 日)で、
4 年ぶりにこのガイドラインの改訂が行われました。J 2.糖尿病、腎障害の患者さんの場合、降圧の目
標 が 130/85mmHg 未 満 で あ っ た の が 、
SH2004全体としては、より厳格に血圧を管理して
130/80mmHg 未満と、より厳しくなりました。血
いる患者さんのほうが明らかに予後がいい(心筋梗
圧が低いほうが糖尿病の合併症や腎障害の進
塞や脳卒中の発生率が低い)というエビデンスが多
行を防げる、というエビデンスに基づきます。
く出てきたために、J
SH2000に比べて多くの点で
3.食塩制限が今までの一日7g未満から 6g未満
厳しい内容になっており、いくつかの重要な変更点
に改訂されました。欧米の基準に合わせた改
が報告されました。
訂です。
今回のあじさいでは、JHS2000 との変更点に着
4.降圧薬のうち、ARB(アンジオテンシン受容体
目しながら JHS2004 の概要についてまとめてみた
拮抗薬)の位置づけがより重要なものになりまし
いと思います。
た。今までは「特にACE阻害薬が咳のために
74
あじさい Vol.14,No.2,2005
使用できない患者さん」に用いる、といった表現
だったのが、同等の扱いになりました。ARBの
予後改善のエビデンスが集まってきたための改
訂といえます。
5.白衣高血圧と並び、逆白衣高血圧(仮面高血
圧)が記載されました。病院での血圧が正常な
のに家庭血圧や 24 時間血圧が高い患者さん
のことです。心血管病の危険が高いと考えられ
ています。
注2)仮面高血圧
診察室では正常血圧を呈しながら、24 時間血圧や家庭
血圧が高血圧を呈する一群の存在が指摘され、「逆白衣高
血圧」、「仮面高血圧」、「白衣正常血圧」などと呼ばれてい
ます。
注 3)早朝高血圧
起床後早朝の血圧が特異的に高い状況をいいます。
◎リスクの評価
◎血圧の評価1)2)
1. 血圧の分類
成人における血圧値の分類は、前回と変更なく
JSH2000 の定義と分類がそのまま踏襲されました。
欧州(ESH-ESC)とは同様で、米国(JNC7)とは異
なった分類になっています。(
表1)
今回のガイドラインでは、家庭血圧および自動血
圧による24 時間血圧の測定は、高血圧・白衣高血
圧の診断と薬効、薬効持続時間の判断に有用であ
り、日常診療の参考にすべきであるとされています。
家庭血圧値は 135/85mmHg 以上、24 時間血圧値
は 135/80mmHg 以上の場合に高血圧とされまし
た。
さらに、近年問題となっている白衣高血圧 注 1)、逆
白衣高血圧(仮面高血圧)注 2)、早朝高血圧 注 3)、夜
間血圧の定義が新たに明記されました。
高血圧は脳卒中の最も重要な危険因子ですが、
心血管病変全体にとっては危険因子の一つに過
ぎません。しかし、高血圧患者の予後は高血圧の
他に、高血圧以外の危険因子および高血圧に基
づく臓器障害の程度並びに心血管病合併の有無
に深く関与しています。
血圧値の他に、血圧以外の危険因子 表2、表3
の有無を評価します。
今回のガイドライでは表4のごとく血圧分類、主要
な危険因子(糖尿病およびその他の危険因子)、
高血圧性臓器障害、心血管病の有無により低リス
ク、中等リスク、高リスクの3群に層別化されていま
す。(表4参照)
表2 心血管病の危険因子
至適高血圧
<120
かつ
<80
正常血圧
<130
かつ
<85
正常高血圧
130∼139
または
85∼89
・高血圧
・喫煙
・糖尿病
・脂質代謝異常*
高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症*
・肥満(特に内臓肥満)*
・尿中微量アルブミン*
・高齢(男性60才以上、女性65才以上)
・若年発症の心血管病の家族歴
軽症高血圧
140∼159
または
90∼99
*JSH2004より新規追加になった項目
中等症高血圧
160∼179
または
100∼109
重症高血圧
≧180
または
≧110
表3 臓器障害・
心血管病の評価
収縮期高血圧
≧140
かつ
<90
脳
脳出血・
脳梗塞 無症候性脳血管障害*
一過性脳虚血発作 認知機能障害*
家庭血圧
≧135
または
≧85
24時間血圧
≧135
または
≧80
心臓
左室肥大 狭心症・
心筋梗塞の既往 心不全
腎臓
尿蛋白 腎障害・腎不全
(血清クレアチニン 男性≧1.3mg/dl 女性≧1.2mg/dl)*
血管
動脈硬化性プラークあるいは頸動脈内膜ー中膜肥厚
>0.9mm* 大動脈解離 閉塞性動脈疾患
眼底
高血圧性網膜症
表1 成人における血圧値の分類
分類
収縮期血圧
拡張期血圧
注 1)白衣性高血圧
家 庭 血 圧 、あるいは自 由 行 動 下 血 圧 測 定 (ABPM :
Amblulatory Blood Pressure Monitoring)などから
得られる普段の血圧は正常であるのに、医療施設で血圧が
一過性に上昇してしまう病態をいいます。
*JSH2004より新規追加になった項目
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あじさい Vol.14,No2,2005
表4 血圧値とリスク、合併症による高血圧重症度の層別化
■ 高血圧患者のリスクの層別化
血圧以外のリスク要因
軽症高血圧
中等症高血圧
重症高血圧
140∼159/90∼99mmHg
160∼179/100∼109mmHg
180以上/110以上 mmHg
低リスク
中等リスク
高リスク
中等リスク
中等リスク
高リスク
高リスク
高リスク
高リスク
危険因子
なし
糖尿病以外の1∼2個の
危険因子あり
糖尿病、臓器障害、心血
管病、3個以上の危険因
子のいずれかがある
下線部:
JSh2004で新規に追加
◎治療計画
1.治療計画
本態性高血圧の発症、進展には、遺伝因子、環境因子が複雑にからみ合っています。よって、治療計画を立
てる場合に、生活習慣の修正を試み、降圧目標血圧レベルまで到達出来ない場合には、薬物治療が必要とな
ります。
ガイドラインでは、高血圧のレベルと心血管病に対する危険因子の評価および心血管合併症を総合的に評価
して、リスクの層別化に応じた治療計画が設定されています。
低・
中等リスク高血圧では、一定期間生活習慣の修正を行っても140/90mmHg 未満に下降しない場合には降
圧薬治療を開始します。糖尿病や腎障害合併例では生活習慣の修正を一定期間行っても 130/80mmHg 未満
に下降しない場合には降圧治療を開始します。
図1 初診時の高血圧管理計画
血圧測定、病歴、身体所見、検査所見
二次性高血圧を除外
危険因子、臓器障害、心血管病、合併症を評価
生活習慣の修正を指導
血圧
130∼139/80∼89mmHg
低リスク群
中等リスク群
高リスク群
糖尿病・
腎性腎疾患が有れ
ば適応となる降圧薬治療
3カ月後に140/90mmHg
以上なら降圧治療薬
1カ月後に140/90mmHg
以上なら降圧薬治療
直ちに降圧薬治療
76
あじさい Vol.14,No.2,2005
2. 降圧目標
高齢者の降圧目標は、年齢によって収縮期血圧が 140∼160mmHg と幅を持たせていたのが、年齢を問わず、
可能であれば 140/90mmHg 未満に降圧すると変更になりました。糖尿病患者においても、拡張期血圧が
85mmHg から80mmHg になっています。より厳格な降圧目標レベルに設定されました。
図2 降圧目標
JSH2000
高齢者
若年・中年者
糖尿病患者
JSH2004
140∼160mmHg以下
(年齢を考慮)
90mmHg未満
高齢者 65∼<75歳
≧75歳
140/90mmHg未満
150/90mmHg未満
130/85mmHg未満
若年・
中年者
130/85mmHg未満
糖尿病患者
腎障害患者
130/80mmHg未満
(暫定目標値)
3. 生活習慣病の修正
高血圧の発症には遺伝素因と環境要因が関与しており、環境要因は主として社会の文明化に伴う生活習慣
の変化によるものです。減塩・
減量・
減酒や運動などの生活習慣の修正(
非薬物療法)
はそれ自体で降圧効果
が認められているだけでなく、降圧薬の作用を増強させる効果があり、降圧薬減量の一助となり得ます。
今回の変更点としては、一日の塩分摂取は6g未満に変更なったこと、DASH(Dietary Approaches to Stop
Hypertension)
食(
野菜や果実を多く摂取し、脂肪摂取を制限)が推奨されています。
表5 生活習慣の修正項目
1) 食塩制限
6g/日未満**
2) 野菜・果物の積極的摂取*,**
コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
3) 適正体重の維持
BMI(体重(kg)÷[身長(m)]で25を超えない
4) 運動療法
心血管病のない高血圧患者が対象で、有酸素運動を毎日3.0分以上を
目標に定期的に行う
5) アルコール制限
エタノールで男性は20∼30ml/日以下、女性は10∼20ml/日以下
2
6) 喫煙
生活習慣の複合的な修正はより効果的である
*ただし、野菜・
果物の積極的摂取は、重篤な腎障害を伴うものでは、高K血症をきたす可能性があるので推奨されない。また、
果物の積極的摂取は摂取カロリーの増加につながることがあるので、糖尿病患者では推奨されない
**:
JSH2004から変更された点
4.降圧薬の選択
現在、Ca 拮抗薬、ARB、ACE 阻害薬、利尿薬、β遮断薬(
含αβ遮断薬)
、α遮断薬が主として用いられてい
ます。主要降圧薬は、JSH2000 と同様ですが、α遮断薬のエビデンスが少ないと付記されました。
薬物の選択は、年齢と性別のほかに、心血管危険因子、標的臓器障害、心血管病、降圧薬の副作用、薬価、
QOL、性機能への影響を考慮する必要があります。
積極的適応のない場合には、主要降圧薬の中から最も適する薬剤を第一選択薬として使用します。
本ガイドラインでは、主要降圧薬の積極的な適応については、Ca 拮抗薬に左室肥大、β遮断薬に心不全が
加えられ、α遮断薬から糖尿病が除かれています
77
あじさい Vol.14,No2,2005
表6 主要降圧薬の積極的な適応と禁忌
積極的な
適応の患者
積極的適応となる降圧薬
心
不
全
Ca拮抗剤
左
室
肥
大
心
筋
梗
塞
後
●*
狭
心
症
糖
尿
病
●
●
腎
障
害
脳
血
管
疾
患
後
高
齢
者
高
脂
血
症
頻
脈
前
立
腺
肥
大
症
●*
●
房室ブロック*(ジルチアゼム)
禁忌
ARB
●
●
●*
●
●
●*
●
妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄
ACE−I
●
●
●*
●
●*
●*
●
妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄
利尿薬
●
○*
●*
●
痛風
β遮断薬
●*
●
●
α遮断薬
●
●
*:JSH2004における追加または変更された項目
喘息、房室ブロック、末梢循環障害*
● 起立性低血圧
○: ループ利尿薬
◎降圧薬の使用上の注意
24 時間にわたる安定した降圧効果を得るためには、1 日 1 回でよい長時間作用型の降圧薬を使用し、治療は
2∼3 カ月以内に降圧目標に到達することを目指し、治療開始後 6 カ月を経過しても降圧目標に到達出来ない
場合には高血圧専門家に紹介します。
降圧目標を達成するには、多くの場合 2 薬以上の使用を必要とする場合が多いようですが、利尿薬を含まな
い 2 薬の併用で降圧が不十分の場合には、3 薬目に利尿薬を使用することを原則としています。JSH2004 では
Ca 拮抗薬と利尿薬の組合せが新たに加えられました。
表7 降圧薬の使い方
●降圧薬の投与は単薬(併用合剤が使用可能になれば、それを含む)で低用量から開始する。
●1日1回服用でよい長時間作用型の降圧薬を使用する。
●2∼3ヵ月以内に降圧目標に到達することを目指す。血圧が降圧目標に達するまでは2(∼4)週間ごとの血圧測定が望ましい。
●外来での降圧目標140/90mmHg未満(非高齢者で可能なら130/85mmHg未満)に到達しない場合には、増量するか、相加、相乗
作用が期待できる他のクラスの降圧薬を併用するか、ほとんど降圧がない場合は他のクラスの降圧薬に変更する。忍容性が許すなら
ば増量するが、通常量の2倍以上にはしない。臨床で行われる2薬の併用には以下のものがある。
①Ca拮抗薬+ARB
②Ca拮抗薬+ACE阻害薬
併
用
療
法
③ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬+β遮断薬
④ARB+利尿薬
⑤ACE阻害薬+利尿薬
⑥利尿薬+β遮断薬
⑦β遮断薬+α遮断薬
⑧Ca拮抗薬+利尿薬 *
●利尿薬の少量投与は他の降圧薬の効果を高める。利尿薬を含まない2薬の併用で降圧が不十分の場合には3薬目に利尿薬を用
いることを原則とする。*
●24時間にわたる降圧が望ましく、早朝高血圧や逆白衣高血圧に対してはより長時間作用の降圧薬やα遮断薬、中枢性交感神経
抑制薬の就寝前の使用により対処する。*
●治療開始後6ヶ月を経過しても降圧目標に到達できない場合には高血圧専門家(FJSH)に紹介する。*
*JSH2000より新しく追加された項目
78
あじさい Vol.14,No.2,2005
に加え、脳卒中や痴呆症の発症予防において顕著
な有効性が示唆されているARB や Ca 拮抗薬などが
望ましいとされ、降圧目標はより厳格化されました。
する高血圧
脳卒中発症 1∼2 週間の急性期には、出血、梗塞の
病型を問わず血圧は高値を示すことが多いのですが、
1.脳血管障害
降圧治療により病巣部の血流量が減少する危険性
血圧が高いと脳卒中罹患率、死亡率が高くなります。 があるため、収縮期血圧 220mmHg 以上、拡張期血
高血圧は脳卒中と特異的な関連が強く、我が国では、 圧 120mmHg 以上でない限り、積極的な降圧治療は
行わないのが原則です。
依然として脳卒中罹患率・
死亡率が虚血性心疾患あ
但し、発症 3 時間以内の超急性期で血栓溶解療
るいは心筋梗塞・死亡率よりも高い傾向にあります。
法が考慮される例では、180/105mmHg 未満にコント
脳血管疾患による死亡率は冠動脈疾患(虚血性心
ロールする必要があります。
疾患)
死亡率より全人口でみると 1.8 倍高いというデ
脳卒中 1 カ月以後にも高血圧であれば
ータもあります。
150/95mmHg 未満を一次目標に、2∼3 カ月以上を
今回のガイドラインでは、脳血管障害発症 3 時間以
かけて緩徐に降圧します。さらに 140/90mmHg 未満
内の「
超急性期」
が新設されています。
を最終目標に降圧薬治療を行います。
慢性期では、ACE 阻害薬と少量の利尿薬の併用
◎臓器障害または他疾患を合併
図3 脳血管障害を合併する高血圧の治療
JSH2004
超急性期*
JSH2000
(
発症3時間以内)
・血栓溶解療法予定患者では180/105mmHg未満にコントロール
急性期
←
新規追加
(
発症1∼2週以内)
降圧治療対象
・拡張期血圧140mmHg以上持続
・血圧220/120mmHg以上、あるいは
平均血圧130mmHg以上
慢性期
降圧目標
・脳梗塞 前値の85∼90%
・脳出血 前値の80%
(
発症1ヵ月以降)
降圧治療(Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB*、利尿薬*など)
・一次目標(治療開始2∼3ヵ月) 150/95mmHg未満*
・最終目標(治療開始数ヵ月以降) 140/95mmHg 未満*
←「Ca拮抗薬,ACE阻害薬を中心に」
←150∼170/95mmHg未満を左記に変更
←140∼150/90mmHg未満を左記に変更
脳血管障害の病型(脳出血,ラクナ梗塞,
緩徐な降圧が極めて重要であり、臨床病型(
脳出血、ラクナ梗塞など) ←「
アテローム血栓性脳梗塞)を考慮する」
や脳循環不全症状の有無に留意
表8 各種降圧薬の脳循環代謝に及ぼす急性効果
降圧薬
脳血流量
Ca拮抗薬
ACE阻害薬
α遮断薬
β遮断薬
利尿薬
ARB
↑
→↑
→↑
↓(↑)
*
↓
→↑
脳血流自動
調節下限域
↓
↓
↓
→↑(
↓)*
↓
↑:増加、上昇 ↓:減少、下降 →:不変
*血管拡張型β遮断薬
79
脳代謝
→
→
↓
あじさい Vol.14,No2,2005
ステロン拮抗薬を追加投与すると予後がさらに改善
することが報告されています。
3) 心不全
心不全における降圧薬の使用は必ずしも降圧が
目的ではなく、心不全患者の QOL や予後を改善す
るために用いられます。RA 系抑制薬+β遮断薬+
利尿薬の併用療法が心不全の標準的治療であり、
死亡率を減少させ予後を改善します。ただし、RA 系
抑制薬やβ遮断薬の導入にあたっては、心不全の
悪化・低血圧・徐脈(β遮断薬)・腎機能低下などに
注意しながら、少量から緩徐に注意深く漸増する必
要があります。アルドステロン拮抗薬は、標準的治療
を受けている重症心不全患者の予後をさらに改善さ
せます。心不全を合併する高血圧では十分な降圧
治療が重要であり、降圧が不十分な場合には Ca 拮
抗薬を追加します。心肥大が退縮すると予後が改善
することが示唆されています。どの降圧薬でも持続的
降圧により肥大を退縮させることが期待されています
が、RA 系抑制薬、長時間作用型 Ca 拮抗薬の効果
が最も優れています。今回のガイドラインでは、虚血
性心疾患で降圧が不十分な場合の RA 系抑制薬併
用の追加、心不全における標準的治療と、さらに重
症例、血圧コントロールが不十分な場合の薬剤の使
い分け、心肥大で RA 系抑制薬と長時間作用型 Ca
拮抗薬を第一次選択薬とします。
2.心疾患
1) 狭心症
狭心症を合併する高血圧では Ca 拮抗薬や内因性
交感神経刺激作用のないβ遮断薬がよい適応にな
ります。Ca 拮抗薬は冠血管拡張作用、β遮断薬は
心仕事量の減少を期待して投与されます。頻脈傾向
であればβ遮断薬を優先して使用し、逆に頻脈であ
れば Ca 拮抗薬を使用します。冠攣縮型の狭心症の
場合、β遮断薬はその冠攣縮を悪化することがあり
使用しません。
2) 心筋梗塞
心筋梗塞の患者では内因性刺激作用のないβ遮
断薬、RA 系抑制薬(
ACE 阻害薬、ARB)
、アルドステ
ロン拮抗薬が死亡率を減少させ予後を改善すること
が報告されています。
β遮断薬は冠攣縮への危惧があり我が国では使用
頻度は少ない傾向にありますが、高度器質的冠動脈
病変を有する陳旧性心筋梗塞患者では、β遮断薬
が選択薬の一つとなります。
左室収縮機構が低下している患者(駆出率 40%以
下)では、RA 系抑制薬により左室リモデリング(
心室
拡張、心筋肥大、間質線維化)が抑制され、その後
の心不全や突然死の発生率が減少することが明らか
にされています。心筋梗塞後の低心機能患者におい
て、RA 系抑制薬・
β遮断薬・
利尿薬に選択的アルド
表9 心疾患を合併する高血圧の治療
虚血性心疾患
・冠攣縮
・・・・・・・・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬
・器質的冠動脈狭窄
・・・・・・・・・・ β遮断薬
・心不全を伴う場合
・・・・・・・・・・
JSH2000
ACE阻害薬を併用(β遮断薬は内因
性好感神経刺激作用のないもの)
心不全
ACE阻害薬、利尿薬、AⅡ受容体拮抗薬
心肥大
・持続的かつ十分な降圧を図る
・冠攣縮
・・・・・・・・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬
虚血性心疾患 ・器質的冠動脈狭窄
JSH2004
心不全
心肥大
・・・・・・・・・・
冠インターベンション、β遮断薬(内
因性交感神経刺激作用のある薬剤)
・降圧が不十分な場合
・・・・・・・・・・ RA系抑制薬を併用
・標準的治療
・・・・・・・・・・ RA系抑制薬+β遮断薬+利尿薬
・重症例
・・・・・・・・・・ アルドステロン拮抗薬の追加投与
・血圧コントロールが不十分な場合
・・・・・・・・・・ 長時間作用型Ca拮抗薬を追加
・RAA系抑制薬/長時間作用型Ca拮抗薬が第一次薬
・持続的かつ十分な降圧を図る
(
RAA系:
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)
80
あじさい Vol.14,No.2,2005
3. 腎疾患
1) 慢性腎疾患
慢性腎疾患を伴う高血圧患者は心血管事故のリス
体液貯留傾向がある場合は必須となります。サイアザ
イド利尿薬は血清クレアチニンが 2.0mg/dL 以上であ
れば有意な利尿が得られず、降圧効果を期待できま
クが高く、早期発見が極めて重要です。早期発見は
検尿とGFR の推定が有用です。(
表10参照)
腎機能の評価には血清クレアチニン値が広く用い
られますが、この値は体重により大きく影響されます。
せん。これに対し、ループ利尿薬は降圧効果は弱い
ものの、腎不全進行例でも有効です。
代表的な計算式を表10に示しました。
尿所見の評価には随時尿で尿蛋白(
あるいはアル
ブミン)(mg/dl )と尿クレアチニン値 (mg/dl )の比
(
mg/gCr)
を用いれば外来でも行えます。
高血圧と尿蛋白はともに腎障害の進展を促す重要
透析患者では心血管事故の発症率が高いことが
知られていますが、心血管合併が予後に重要な影響
を与えるため、血圧が予後因子として非常に重要で
す。
透析による血圧の変動を少なくするために透析性
な危険因子であり、両者のコントロールが腎不全の予
後に極めて重要です。よって、尿蛋白を減少させるこ
とが腎機能障害の進展抑制効果をもたらすと報告さ
れています。この効果は血圧とは独立したものです。
この目的のためには、厳格な血圧の管理(降圧目
標 130/80mmHg 未満)
とともに、蛋白尿を減少させる
作用のあるACE 阻害薬や ARB の投与が必要となり
ます。
ACE阻害薬又は ARB 開始初期に血清クレアチニ
ンの上昇を経験しますが、軽度の上昇は、慎重に経
過を観察しつつ投与します。血清クレアチニンが
3.0mg/dL を上回る場合は、腎障害を悪化させる可
能性があるので、投与を避けた方がよいとされます。
Ca 拮抗薬は、強力な降圧効果による腎保護作用
があり、ACE 阻害薬と同等の効果を有するという報告
があります。
腎機能障害者では降圧目標を達成するために多
剤併用療法が必要です。RA 系抑制薬の降圧効果や
尿蛋白減少効果は減塩によって増強されるので、利
尿薬の併用も必要となる場合があります。利尿薬は
のない薬剤を選択します。Ca 拮抗薬は透析性がなく、
透析時の血圧変動が少ないという報告があります。
ACE 阻害薬は一部の薬剤を除いて透析性がありま
す。また、ACE 阻害薬は腎性貧血を増悪させ、エリス
ロポエチンの必要量が多くなるという報告もあります。
ARB は透析性がなく、透析患者の降圧薬として有用
との報告があります。
透析患者の降圧薬の選択薬には、薬物代謝、排
泄経路、透析性に注意する必要があります。
2) 透析患者
表10 慢性腎疾患の定義
1.構造または機能の異常:GFRとは関係なく、3カ月以上にわた
る組織、尿・
生化学・
画像所見の異常
2
2.原疾患のいかんにかかわらずGFRで60ml/BUN/1.73m 未満
CockcroftーGaultの計算式
(140−年齢)×体重
(女性:×0.85)
Ccr(
ml/BUN)
=
72×血清クレアチニン
定義はJSH2004で新規に追加された
81
あじさい Vol.14,No2,2005
図 4 慢 性 腎 疾 患 を合 併 する高 血 圧 の治 療 計 画
継続:
原疾患の治療
生活習慣の改善
Scr、電解質測定および
尿の定期的検査
腎機能、血清電解質、尿検査
糖尿病性腎症:
尿のAlb/Crの測定
非糖尿病性腎症:
尿蛋白定性(
+)
なら尿の蛋白/Crの測定
家庭血圧測定
ACE阻害薬またはARB*
Scr30%(1mg/dl)
以上の上昇
血清K5.5mEq/L以上
Yes
No
専門医に相談原因検索**
目標***
血圧:130/80mmHg
尿:
Alb/Cr:30mg/g未満a)
蛋白/Cr:200mg/g未満b)
ACE阻害薬またはARBの続行、降圧が
不十分の場合は
Ca拮抗薬、利尿薬の併用、
用量の調節、他薬の併用***
*血清クレアチニン値2.0mg/dl以上では最小用量より投与開始
**原因:
腎動脈狭窄、NSAID、心不全、脱水、尿路異常など
a)糖尿病性腎症、b)非糖尿病性腎症
Alb/Cr:
アルブミン/クレアチニン比、SCr:
血清クレアチニン
*** JSH2000から変更された点
表 11 慢 性 腎 疾 患 を合 併 する高 血 圧 の治 療 計 画 の変 更 ・改 訂 点
項目
JSH2004(改訂・追加等を下線で記載)
治療をフローチャート化
・目標? 血圧: 130/80mmHg未満
尿: Alb/Cr : 30mg/g未満
慢性腎疾患を合併する高血 蛋白/Cr:200mg/g未満
圧の治療計画
・降圧薬? ACE阻害薬またはARBの続行,
降圧不十分の場合はCa拮抗薬,利尿薬の
併用,用量の調節,他薬の併用
82
JSH2000からの改訂ポイント
←「130/85mmHg未満」を変更
「
蛋白尿1g/日以上では,可能な らば
125/75mmHg未満」
は本文中記載に変更
←「ACE阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬」
を左記に変更
あじさい Vol.14,No.2,2005
4. 糖尿病
糖尿病と高血圧はいずれも動脈硬化による大血
管障害の重要な危険因子ですが、両者が合併する
ピリジン系 Ca 拮抗薬が第一次薬として推奨されて
います。
JSH2000 で第一次薬の一つであったα遮断薬は
と脳血管障害や虚血性心疾患発症頻度が大きく
増加することが知られています。
今回のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の降
圧目標が、130/85mmHg 未満から130/80mmHg 未
「前立腺肥大、高脂血症合併時は使用可能」とさ
れ、β遮断薬は「労作性狭心症や陳旧性心筋梗
塞合併時は使用可能」
とされました。
また、JSH2004 では,メタボリックシンドロームに
満に厳格化されました。
血圧が 130/80mmHg 以上の場合には、体重減量、
運動療法などの生活習慣の修正を開始しますが、
3∼6 カ月の生活習慣の修正が効果不十分な場合
に降圧薬治療を開始します。一方、140/90mmHg
ついて初めて言及され,2 型糖尿病と高血圧はイン
スリン抵抗性状態を共通の背景因子とし,メタボリッ
クシンドロームを構成する主要因子であることが述
べられています。メタボリックシンドロームの明確な
診断基準や治療指針は示されていませんが,イン
以上の高血圧では、生活習慣の修正と同時に降
圧薬治療を開始します。
糖尿病合併高血圧における降圧薬選択に際して
は、糖・脂質代謝への影響と合併症予防効果の両
面より、ACE 阻害薬、ARB、長時間作用型ジヒドロ
スリン抵抗性改善に配慮した薬物療法を行う必要
性が示されました。
図5 糖尿病を合併する高血圧の治療計画
130∼139/80∼89mmHg
140/90mmHg以上
治療開始血圧
生活習慣の修正
血糖管理
生活習慣の修正・
血糖管理と
同時に降圧薬治療
3∼6カ月で効果不十分
降圧目標130/80mmHg未満
第一次薬:
ACE阻害薬、ARB、長時間作用型Ca拮抗薬
(
労作性狭心症、陳旧性心筋梗塞合併時はβ遮断薬、前立腺肥大、高脂血症合併時はα遮断薬も使用可能)
効果不十分
用量を増加
他の降圧薬に変更
他の降圧薬を併用
効果不十分
3薬物併用:
利尿薬がまだ使われていない場合には利尿薬を追加する
下線部:JSH2000からの変更点
表12 改訂・
追加項目
項目
JSH2004(
改訂・追加等を下線で記載)
降圧目標: 130/80mmHg未満
JSH2000からの改訂ポイント
←「130/85mmHg未満」を変更
糖尿病を合併す 第一次薬:ACE阻害薬,ARB,長時間作用型 ←下線部追加。第一次薬から
る高血圧の治療 Ca拮抗薬(労作性狭心症,陳旧性心筋梗塞
「α遮断薬」削除
合併時はβ遮断薬,前立腺肥大,高脂血症合
計画
併
時はα遮断薬も使用可能)
83
あじさい Vol.14,No2,2005
5.高齢者
高齢者高血圧は加齢に伴う動脈硬化の進展によ
り、収縮期血圧の頻度の増加、脈圧の開大、起立
以上)では、140/90mmHg 未満を最終降圧目標と
しますが、150/90mmHg 未満を暫定的降圧目標と
する慎重な降圧が必要とされました。
性低血圧の増加などを特徴とします。
高齢者の年齢区分は,JSH2000 では 60 歳代,
70 歳代,80 歳代とされていましたが,JSH2004 で
は降圧目標はいずれの年齢層でも 140/90mmHg
合併症がない場合、降圧治療薬としては Ca 拮
抗薬、ARB、ACE 阻害薬、少量の利尿薬が第一次
薬として望ましいとされています。降圧効果不十分
な場合はこれらの併用を行いますが、一般に 1/2
未満の降圧により予後改善が期待され、積極的な
降圧が重要であり、 80 歳前半までは積極的な治
療を行うべきです。 前期高齢(65 歳以上)および
後期高齢(75 歳以上)においても特に軽症高血圧
で、140/90mmHg 未満とされました。しかし、後期高
量から開始し、4 週間間隔以上で増量し,3∼6 ヵ月
以上をかけて降圧目標値に達するように緩徐な降圧
に心がけます。(図 6)合併症を伴う場合には、個々
の症例に最も適した降圧薬を選択します。臓器血
流が障害されている場合が多いので、過度な降圧
齢の中等症・重症高血圧(収縮期血圧 160mmHg
にならないよう慎重に降圧を行うことが大切です。
図6 高齢者高血圧の治療計画
生活習慣病の修正
第1ステップ
(降圧不十分や認容性に
問題がある場合には
変更も可)
(2∼3カ月以上)
Ca拮抗薬
第2ステップ
2薬併用
(2∼3ヵ月以上)
または
Ca拮抗薬
+
ARB/ACE-I
第3ステップ
3薬併用
(症例によりβ遮断薬、
α遮断薬も使用可)
ARB/ACE-I
または
少量の利尿薬
ARB/ACE-I
+
少量の利尿薬
Ca拮抗薬
+
少量の利尿薬
Ca拮抗薬+ARB/ACE-I+少量の利尿薬
ARB/ACE-I:
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬またはACE阻害薬
表13 合併症を有する高齢者高血圧に対する降圧薬の選択
合併症
Ca拮抗薬
(ジヒドロピリジン)
ARB/
ACE阻害薬
利尿薬
●*1
脳血管障害慢性期
○
○
虚血性心疾患
○
○
心不全
β遮断薬
α遮断薬
○*2
○
○
△*3
▲
腎障害
○
○*4
○*5
糖尿病
○
○
△
△
▲*6
高脂血症
○
○
△
△
○
痛風
○
○
×
慢性閉塞性肺疾患
削除
閉塞性動脈硬化症
○
×
○
△
骨粗鬆症
×
○*7
前立腺肥大
○
○:積極的適応 空欄:
適応可 △:
使用に際して注意が必要 ×:
禁忌 ●、▲:
JSH2004より新たに追加
*1:
脱水に注意、*2:
冠攣縮性狭心症は禁忌、*3:少量から開始し臨床経過を観察しながら慎重にしよう、*4:
クレアチニン2mg/dl
以上は慎重投与、*5:
ループ利尿薬、*6:
起立性低血圧に注意、*7:
サイアザイド系利尿薬、ARB:
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
84
あじさい Vol.14,No.2,2005
6. 高脂血症
高コレステロール血症と高血圧の合併では、動脈
硬化のリスクが増大することが報告されています。高
9. 気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患
気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患では、高血
圧と同様に、禁煙(喘息発作、慢性閉塞性肺疾患の
血圧合併高コレステロール血症患者では積極的な血
清コレステロール低下療法は虚血性心疾患や脳卒
中の発生や再発を予防することができるとされていま
す。
悪化)・減量(肥満は酸素需要亢進)・減塩(食塩摂
取は気管支過敏症亢進)などの生活習慣の改善が
重要です。
薬物療法としては、ARB、ジヒドロピリジン系 Ca 拮
高脂血症患者における降圧薬の選択には、脂質代
謝の面からはα遮断薬や ACE 阻害薬、Ca 拮抗薬、
ARB のような脂質代謝改善効果を有するものあるい
は増悪作用のない薬剤が好ましいとされています。
高用量のサイアザイド系利尿薬やループ利尿薬は、
抗薬が通常、使用されます。ACE 阻害薬は気管時過
敏症を高め咳の頻度を高めるため、必ずしも推奨さ
れません。β遮断薬・
αβ遮断薬は気管支喘息では
禁忌とし、慢性閉塞性肺疾患では原則的に使用を避
けます。
血清コレステロール、中性脂肪および LDL コレステロ
ールを上昇させることが知られていますが、低用量の
サイアザイド利尿薬ではこれら脂質の上昇作用は明
らかではありません。β遮断薬では、血清中性脂肪
上昇作用や、HDL コレステロール低下作用が指摘さ
れています。
10.
肝疾患
肝疾患合併高血圧では、定期的に肝機能チェック
し、薬物による肝障害が疑われる症例では薬物を中
断し肝機能の経過を観察します。
高頻度に肝機能障害を引き起こす降圧薬としては、
メチルドパが知られており、肝障害の既往のある患者
では禁忌となっています。
肝硬変などで著しく肝機能が低下している症例で
は、肝代謝型降圧薬よりも腎排泄型降圧薬を選択す
るほうがいとされています。
7. 肥満
肥満を伴う高血圧の降圧療法は、食事療法や運動
療法による減量療法とともに降圧薬治療が行われま
す。降圧薬は代謝面での特徴から選択し、ARB、
ACE 阻害薬、α遮断薬が勧められます。
例)肝排泄型降圧薬としては、ARB、ジヒドロピリジン系 Ca 拮抗薬ニフ
ェジピン、ニルバジピン、β遮断薬プロプラノロール、メトプロロール、
8. 痛風・高尿酸血症
尿酸値上昇は心血管疾患死と相関し、軽症・中等
症高血圧では血圧管理が良好であっても尿酸値が
上昇すると(利尿薬使用の有無にかかわらず)心血
管自己発生と相関したという報告があります。
痛風・高尿酸血症では降圧薬別に尿酸代謝への
影響が異なるため、薬剤と用量に注意します。Ca 拮
抗薬、ACE 阻害薬およびα遮断薬は尿酸値に影響
せずに使用できます。ARB も大部分、尿酸値に影響
を及ぼしませんが、ロサルタンは尿酸排泄作用があり、
有用視されています。ロサルタンと利尿薬との併用で
は尿酸値の上昇が抑制される傾向がみられています。
β遮断薬は軽度に上昇させるとされています。
サイアザイド系利尿薬は痛風およびその素因があ
る症例では急性痛風発作を誘発する危険性があり、
禁忌として用いません。ただし、サイアザイド系利尿
薬は低用量であれば尿酸値の上昇は低いとされま
す。
85
裸下手ロール、α遮断薬プラゾシン、ドキサゾシンなどがあります。
腎排泄型降圧薬としては、ACE 阻害薬(カプトプリル、リシノプリル)、
β遮断薬(アテノロール、ナドロール等)があります。
あじさい Vol.14,No2,2005
動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)の危険
心筋梗塞の原因物質(
アディポネクチン注 3)、PAI-1 注
4)
)
などのアディポサイトカイン注 1)(生理活性物質)が
盛んに作られ始め、体内に放出されることがわかって
性を高める複合型リスク症候群を「
メタボリックシンドロ
ーム」という概念のもとに統一しようとする世界的な流
れの中、日本肥満学会、日本動脈硬化学会、日本糖
尿病学会、日本高血圧学会、日本循環器学会、日
きました。これらの異常がインスリン抵抗性や合併症
に係わっていると考えられています。(図8参照)
メタボリックシンドロームにおける高血圧では、イン
スリン抵抗性による作用不足が前面に出ている場合
本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会
の8 学会が日本におけるメタボリックシンドロームの診
断基準をまとめ、2005 年 4 月に公表しました。
ウエスト周径による「内臓脂肪蓄積」測定を診断の
必須項目とし、運動など生活習慣の改善を積極的に
として、血管内皮細胞傷害による NO の産生低下や
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性化
が揚げられています。
よって、今回のガイドラインではウエスト周径におけ
る「内臓脂肪」の測定を必須項目とされており、高血
行う意義を強調しています。
「飽食と機械文明、車社会の中で必然的に起こる
内臓脂肪の蓄積と、それを基盤にしたインスリン抵抗
性および糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧を複
数合併するマルチプルリスクファクター症候群で、動
脈硬化になりやすい病態」
と定義されています。
内臓脂肪細胞では高血圧の原因物質(アンジオテ
ンシノーゲン、レプチン注 2 ))、糖尿病の原因物質
(TNF―α)、高脂血症の原因物質(遊離脂肪酸)、
圧、高脂血症、糖尿病の三つのリスクが重なっていて
も、内臓脂肪蓄積がない場合は、それぞれの因子に
相互連関はなく、個々に対応する必要があります。
今回我が国で提唱されたメタボリックシンドロームは、
米 国 National Cholesterol Education Program
(NCEP)ATP-Ⅲ(2001 年)で提唱されたメタボリック
シンドロームの診断基準とは多少異なるものとなりま
した。
臨床診断基準については表14にまとめました。
◎メタボリックシンドロームと高血圧
図7 メタボリックシンドロームの疾患概念 3)
生活習慣の偏り
代謝異常
内蔵脂肪蓄積
アディポ
サイトカイ
ン分泌異
常
遺伝素因
糖尿病
高脂血症
動脈硬化
図8 内臓脂肪の増加が生活習慣病の根源
注 4)
86
高血圧
あじさい Vol.14,No.2,2005
注1)
人ではレプチンは BMI、体脂肪と正の相関を示し、肥満の程度の指
アディポサイトカイン
標となるとされています。血中レプチン濃度は、内臓脂肪量と比較し、
脂肪細胞物質が分泌する生理活性物質のことです。アディポサイト
カインには多種類あり、一つ一つが肥満の成因あるいは健康障害の
皮下脂肪量により強い相関関係があるといわれています。
発症に関わっています。脂肪細胞の蓄積部位(内臓脂肪、皮下脂肪)
注3)
アディポネクチン
によってもアディポサイトカインの発現が異なり、そのため内臓脂肪型
脂肪細胞で産生されますが、脂肪細胞が腫大すると産生が低下し、
肥満と皮下脂肪型肥満では合併症、臨床像が違ってきます。代表的
血中濃度は肥満の程度が強いほど低下しています。アディポネクチン
なアディポサイトカインとしてレプチン、アディポネクチン、PAI-1、
は筋肉・肝臓でのインスリン感受性増強、血管内皮細胞障害の修復
TNF-αなどがあります。
作用を介する抗動脈硬化作用などがあります。つまり、肥満者ではア
注2)
ディポネクチン産生が低下し、インスリン感受性が低下することにより
レプチン
糖尿病を発症、増悪しやすくなり、動脈硬化が促進され、心筋梗塞や
脂肪細胞に発現する肥満遺伝子蛋白であり、体脂肪蓄積量に比例
して産生・分泌が増加します。体脂肪量が増加するとレプチン濃度は
脳梗塞などがひきおこされやすくなります。
上昇し、摂食中枢である視床下部(弓状核・室傍核・外側野)に作用し
注4)
PAI-1、TNF-α
て摂食を抑制し、また褐色脂肪細胞に作用してエネルギー消費を亢
PAI-1 は肥満者で、脂肪組織の増加によって上昇し、線溶系活性を
進(体温増加、交感神経亢進など)させ、体重を減少させる方向に働
阻害して血栓形成傾向を生じるため肥満すると心筋梗塞や静脈血栓
きます。肥満状態ではレプチンが分泌され、高レプチン血症となって
症を引き起こしやすくなります。また、脂肪組織の増加で TNF-αの産
体重減少の方向に働こうとしますが、肥満者ではレプチンの感受性が
生は増加してインスリン抵抗性を引き起こしやすくなり、血糖の上昇、
低下(レプチン抵抗性)しており、体重は減少しないといわれています。
糖尿病発症に関与しています。
表14 メタボリックシンドロームの診断基準 3)
内蔵脂肪蓄積(必須項目)
+
ウエスト周囲径 男性 85cm 以上
女性 90cm 以上
以上のうち
2項目以上
(内蔵脂肪面積100平方cm以上に相当)
血清脂質異常
血圧高値
トリグリセリド値
150mg/dL以上
最高(
収縮期)
血圧
130mmHg以上
HDLコレステロール値
40mg/dL未満
最低(
拡張期)
血圧
85mmHg以上
のいずれか、又は両方
のいずれか、又は両方
高血糖
空腹時血糖値
110mg/dL以上
*CTスキャンなどで内臓脂肪量測定を行うことが望ましい
*ウエスト径は立位、軽呼気時、へそレベルで測定する。脂肪蓄積が著名でへそが下方に偏位している場合は肋骨下縁と
前上腸骨棘の中点の高さで測定する。
*メタボリックシンドロームと診断された場合、糖負荷試験が薦められるが、診断には必須ではない。
*高TG血症、低HDL-C血症、高血圧、糖尿病に対する薬剤治療を受けている場合、それぞれの項目を含める
(日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本肥満学会、日本内科学会により検討)
87
あじさい Vol.14,No2,2005
剤としては、炭酸水素トリウム(NaHCO3 )を含有する
制酸薬や一部の経口抗菌薬があります。
◎薬剤性高血圧 10)
特定の原因による高血圧を二次性高血圧といいま
す。その中でも、薬剤によって誘発される高血圧を薬
剤性高血圧(
薬剤誘発性高血圧)
といいます。
薬剤の中で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、
甘草製剤、糖質コルチコイド、シクロスポリン、エリスロ
2) 鉱質コルチコイド様作用
フルドロコルチゾン(
商品名:
フロリネフ)
は鉱質コル
チコイド作用を有し、腎での Na 貯留作用によって血
圧を上昇させます。それ以外の副腎皮質ステロイド製
ポエチン、エストロゲン、交感神経刺激薬などは血圧
上昇作用を有し、降圧薬と併用すると降圧効果が減
少します。
薬剤性高血圧の機序としては、主に細胞外液量の
増加と交感神経刺激によるものに分けられます。血
剤は内因性コルチゾールに比較して鉱質コルチコイ
ド様作用が少ない誘導体であり、それらを大量に投
与しつづけた場合の高血圧の発生頻度は約 20%とさ
れています。糖質コルチコイドについては一定の見
解が得られていません。一般に糖質コルチコイドは経
圧上昇の機序が必ずしも明らかでないものも少なくあ
りません。また、降圧薬による逆説的血圧上昇や、薬
物間相互作用によって血圧が上昇したり、使用中の
降圧薬の効果が減少する場合も広い意味での薬剤
性高血圧があります。
口投与された場合に、高血圧などの種々の全身性の
有害反応をきたしやすいといわれています。
3) 甘草(
グリチルリチン)
甘草に含まれているグリチルリチンやその代謝物
であるカルベノキソロンは、偽性アルドステロン症を生
じて高血圧をもたらすことが知られています。グリチル
リチンがアルドステロン過剰状態を引き起こすのは、
グ リチ ル リチ ン に よ る 11- β -hydroxysteroid
dehydrogease(11−β-HSD)活性の阻害が原因とさ
れています。アルドステロン感受性の腎尿細管細胞
に存在する 11-β-HSD は、鉱質コルチコイド受容体
に親和性のあるコルチゾールをコルチゾンに代謝し
ますが、コルチゾンは鉱質コルチコイド受容体に対す
る親和性が低いので、通常はアルドステロン過剰状
態が生じません。グリチルリチンの代謝物が 11-β
-HSD を阻害して、コルチゾールからコルチゾンへの
代謝を妨げるので、過剰となったコルチゾールが鉱
質コルチコイド受容体と結合し、アルドステロン過剰と
同様の病態をもたらします(
偽アルドステロン症)。
表15 薬剤性高血圧の分類
機序
原因薬物
Na塩含有薬物
副腎皮質ステロイド
細胞外液量増大
グリチルリチン製剤、甘草
経口避妊薬
非ステロイド性消炎鎮痛剤
交感神経刺激薬
交感神経刺激
麦角アルカロイド
ケタミン
機序不明
逆説的血圧上昇
エリスロポエチン
シクロスポリン
β遮断薬
中枢性α刺激薬
非ステロイド性消炎鎮痛剤
薬力学的相互作用
MAO阻害薬
三環系抗うつ薬
エフェドリン
薬物動態学的相互作用
リファンピシン
バルビツール酸
1. 細胞外液量増大
1) ナトリウム塩
ナトリウム(Na)
塩の過剰摂取が血圧上昇の原因に
なることは周知の通りです。本態性高血圧患者の約
1/3 は食塩感受性であり、Na 塩の過剰摂取によって
血圧は上昇します。正常血圧者であっても高血圧の
素因を有するものや腎機能障害がある場合は、Na塩
の大量摂取で血圧が上昇します。Na 塩を多く含む薬
88
あじさい Vol.14,No.2,2005
図9 アルドステロン感受性腎尿細管におけるステロ
イドホルモンの鉱質コルチコイド受容体への結合
血圧 5mmHg 程度の上昇をきたすとされています。特
に、NSAIDs の血圧上昇作用は老年者や高血圧患者、
食塩感受性を示す高血圧患者で生じやすいと考えら
れています。
よって、降圧薬服用中の患者に NSAIDs を併用し
たときに降圧薬の作用が減弱することがあります。
2. 交感神経刺激によるもの
1) 交感神経刺激薬
フェニレフリン(
商品名:
ネオシネジンコーワ)は、交
感神経α1-受容体刺激作用を有するカテコールアミ
ン誘導体であり、昇圧薬として用いられる以外に散瞳
A:通常は 11-b-HSD によりコルチゾールは鉱質コルチコイド受
容体に親和性の低いコルチゾンに代謝されてアルドステロ
ン様作用を発揮しない。
B:
グリチルリチン代謝物により11-b-HSD 活性が阻害されると、
過剰のコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体に結合する
ため、アルドステロン症類似の場外が引き起こされる。
4) レニン・
アンジオテンシン系亢進
経口避妊薬の服用によって 5∼20%の頻度で高血
圧が生じるとされています。血圧上昇は通常軽度で
あり、正常範囲内での上昇にとどまることが多いとい
われています。経口避妊薬による血圧上昇の機序と
して、エストロゲンによるレニン・アンジオテンシン系
の亢進が考えられます。エストロゲンは肝におけるア
ンジオテンシノーゲンの合成を促進させるので、レニ
ン・アンジオテンシン系が不活化されます。その結果、
アンジオテンシンⅡの産生が増大して末梢血管抵抗
が上昇し、同時にアルドステロン分泌も刺激されて体
液貯留が生じるために高血圧がもたらされます。また、
エストロゲン、プロゲステロン自体にも弱いながら鉱質
コルチコイド様作用を有するため、高血圧の成因に
一部関与している可能性があります。
5) プロスタグランディン合成阻害
非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)
は、シクロオキ
シゲナーゼを抑制してプロスタグランディン(
PG)
合成
を低下させるため、PG を介する腎尿細管での塩素イ
オンの再吸収と抗利尿ホルモンの作用を阻害して、
水、Na 貯留を促進させます。NSAIDs によって、平均
薬としても使用されています。点眼薬も涙鼻管を介し
て鼻粘膜に到達し、そこから全身に吸収されることが
あるためα1 受容体刺激作用に基づいて全身の末梢
血管抵抗が上昇し、高血圧の増悪をきたす場合があ
ります。
局所血管収縮薬(ナファゾリン:プリビナ、テトラヒド
ロゾリン:
コールタイジンなど、オキシメタゾリン:
ナシビ
ン、トラマゾリン:トーク)も時に全身的に作用して、血
圧上昇あるいは高血圧の増悪をもたらす場合があり
ます。メチルフェニデートは、アンフェタミン類似の構
造を持ち、中枢神経刺激作用と末梢でのα-受容体、
β-受容体刺激作用を有するため、時に血圧上昇を
きたします。メタンフェタミンも同様の機序で血圧上昇
をおこします。
2) モノアミノキシダーゼ(
MAO)
阻害薬
MAO 阻害薬は、ノルエピネフリン(
NE)
の分解酵素
である MAO を阻害して交感神経末梢の貯蔵部位に
あるNE 量を増加させます。単独では低血圧を生じる
場合がありますが、各種食品、薬物との併用で血圧
上昇を起こします。
3) 麻酔薬
ケタミンは、α受容体刺激作用により一過性の血圧
上昇をおこすことがあります。高血圧症例では禁忌と
なっています。
4) 麦角アルカロイド
子宮収縮薬のエルゴメトリンは、α受容体刺激作用
と直接の血管収縮作用によって血圧上昇をもたらし
ます。
5) ドパミン受容体拮抗薬
89
あじさい Vol.14,No2,2005
メトクロプラミドには、プロラクチン上昇作用がありこ
のプロラクチン上昇作用が血圧上昇と関連している
可能性があります。正確な機序は不明です。
を要します。
褐色細胞腫に用いると、高血圧クリーゼをきたし、
褐色細胞腫を顕著化させます。
タクロリムスも、シクロスポリンと同じく免疫抑制剤で
血圧上昇作用があります。発症機序はまだ不明な点
が多いとされていますが、タクロリムスは培養血管平
滑筋細胞におけるエンドセリン(ET-1)の合成を高め
6) その他
3) タクロリムス
麻薬拮抗薬ナロキソンは、一部の高血圧患者にお
いて血圧上昇をおこしたとの報告があります。内因性
オピオイドが血圧コントロールに関連している可能性
がありますが、詳細は不明です。
ますが、シクロスポリンとは異なり高濃度においての
みエンドセリン受容体(ETA)も発現を促進させるとさ
れています。さらに、タクロリムスは血管平滑筋細胞
のNOS 誘導を抑制しないとも報告されています。これ
らの理由によって、シクロスポリンよりもタクロリムスに
3. 機序不確定のもの
1) エリスロポエチン
エリスロポエチンによる血圧上昇反応は、ヘマトクリ
ット値の上昇とともに循環血液量が増加し、血液粘稠
度を高め血圧上昇をきたします。すなわち、腎性貧
血では長期間、ヘマトクリット値が低く、これに適応し
ていた状態から急激にヘマトクリット値が上昇をきた
すと推測されます。
エリスロポエチン治療中には 20∼30%の頻度で高血
圧発症あるいは悪化がみられたとの報告があります。
エリスロポエチン使用時(
中止後も)
には、ヘマトクリッ
ト値の推移に注意する必要があります。血圧管理不
良で高血圧性脳症や脳出血に至ることもあるため、
血圧上昇の対策として透析時の徐水量の調節、降圧
薬の追加・増量、エリスロポエチン減量を行います。
エリスロポエチン中断または/同時に瀉血により赤血
球数を低下させ、血圧上昇反応を抑制することもあり
ます。
よる高血圧の頻度が低い可能性があります。
2) シクロスポリン
シクロスポリンでは、約 50∼90%(
心臓移植後:
50∼
60%、心臓移植後:90%)の症例に血圧上昇が認めら
れています。その機序は、①腎循環の変化(腎血管
収縮と食塩貯留に伴う高血圧)、②シクロスポリンの
腎毒性(
慢性腎硬化症に類似し、慢性腎不全を伴う)
、
③交感神経刺激の増強、などの要因が考えられてい
ます。シクロスポリンと併用する高用量のステロイド薬
もNa 貯留を介して高血圧発症に関連すると推測され
ています。
シクロスポリンによる高血圧では、Ca 拮抗薬、利尿
薬が使用されますが、一部の Ca 拮抗薬(
ジルチアゼ
ム、ニカルジピン、ベラパミルなど)
はシクロスポリンの
代謝に干渉してその血中濃度を上昇させるので注意
90
4. 降圧薬による逆説的血圧上昇
β遮断薬のプロプラノロール(インデラルなど)とクロ
ニジン(カタプレスなど)
との併用によって、高血圧患
者の血圧上昇が報告されています。
プロプラノロールによってβ受容体が遮断された結
果、末梢血管において相対的にα―受容体有意と
なり、クロニジンの高用量投与によって末梢血管での
α受容体の直接刺激作用が出現したためと考えられ
ています。プロプラノロール単独でも高血圧患者の一
部で血圧上昇をもたらすことが報告されており、末梢
血管収縮(末梢血管抵抗増大)により基づくものと考
えられています。β遮断薬とα受容体刺激作用を有
する薬物との併用は血圧上昇をきたす可能性があり
ます。
中枢性降圧薬であるクロニジン、メチルドパ(アルド
メット)などの急激な中断による血圧の上昇(反兆現
象、rebound hypertension)は交感神経系の亢進に
基づくとされています。
5. 薬物相互作用による血圧上昇
1) MAO 阻害薬との相互作用
MAO 阻害薬は交感神経終末の貯蔵部位にある
NE 量を増加させます。従って、アンフェタミンのような
カテコールアミン遊離作用を有する薬物を併用すると
神経終末で代謝されない NE が大量に放出され、重
篤で時に致死的な血圧上昇がもたらされる可能性が
あります。食欲抑制薬マジンドールもアンフェタミン類
似の薬理学的特性を有するため MAO 阻害薬との併
用で高度の血圧上昇が生じます。その他、メチルフェ
ニデート、ビプラドロール、ペモリンおよび呼吸促進
薬ドキサプラム、も MAO 阻害薬との併用によって血
あじさい Vol.14,No.2,2005
圧上昇をきたします。レボドパと MAO 阻害剤との併
用も血圧上昇をきたすため併用禁忌となっていま
す。
て抗うつ効果を現すために、昇圧作用が促進されレ
セルピンの降圧作用が減弱されることがあります。
食品中に含まれるチラミンは交感神経終末の貯蔵
カテコールアミンの遊離を促進させます。通常食事で
摂取されたチラミンは腸管壁および肝の MAO によっ
て代謝され、ほとんど吸収されませんが、MAO 阻害
c. エフェドリン
鎮咳薬や感冒薬の成分に含まれている交感神経
興奮薬であるエフェドリンも三環系抗うつ薬と同様、
神経終末内への輸送系においてグアネチジンと競合
薬服用時にチラミン含量の多い食品(チーズ、赤ワイ
ン、ビール、レバーにしん、チョコレート、ヨーグルト、
牛乳、酵素、そら豆、バナナなど)
を摂取すると、大量
のチラミンが体内に取り込まれて交感神経終末に到
達し、MAO 阻害薬により増加した貯蔵部位の NE の
するため、グアネチジンの神経終末への取り込んで
NE の放出を促進させ、血圧を上昇させます。
グアネチジンやレセルピンに関して以上の相互作
用が知られています。
遊離を促進させて激しい血圧上昇を引き起こします。
d. その他
食欲抑制剤マジンドールはグアネチジン、レセルピ
ン、クロニジン、メチルドパなどの降圧効果を減弱さ
せることがあります。
6. 薬物間相互作用による降圧作用減弱
1) 薬力学的相互作用
a. NSAIDs
と降圧薬
NSAIDs と降圧薬との相互作用として、降圧薬の作
用減弱があります。この機序として、水、Na 貯留、血
管拡張性 PG の減少、PG を介する交感神経伝達の
変化などが考えられていますが、詳細は必ずしも明ら
かではありません。NSAIDs と降圧薬の併用ではβ遮
断薬>α1 遮断薬、ACE 阻害薬>Ca 拮抗薬という
報告があります。よって、NSAIDs
を長期投与する必
要がある場合には、Ca 拮抗薬が適している可能性が
あります。また、このような相互作用をもたらす NSADI
s
としては、インドメタシン、ピロキシカム、イブプロフェ
ンなどがあります
2) 薬物動態学的相互作用
薬物の体内動態(
吸収、分布、代謝、排泄)
の過程
が、降圧薬の降圧効果の減弱をもたらす機序として
代謝における薬物間相互作用が知られています。
a. リファンピシン
抗結核薬のリファンピシンは、強い肝薬物代謝酵素
誘導作用を有します。多くの Ca 拮抗薬は、主に肝チ
トクロム P450 薬 物 代 謝 酵 素 の一 つである 3A4
(CYP3A4)で酸化され代謝されます。リファンピシン
は CYP3A4 を誘導するので、併用によりCa 拮抗薬の
代謝が亢進します。その結果、Ca 拮抗薬の体内レベ
ルが低下し、それに伴って降圧効果が減弱する可能
性があります。
b. 三環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬は、グアネチジンやレセルピンの降
圧作用を減弱させます。グアネチジンやベタニジンの
ような交感神経末梢遮断薬は NE ポンプ輸送系を介
して交感神経終末に取り込まれ、神経終末からの NE
遊離を妨げて降圧作用を発揮します。三環系抗うつ
薬もグアネチジンと同じ輸送系で神経終末に取り込
まれるため、この輸送系において両者の競合が生じ
る結果、グアネチジンの神経終末への取り込みが阻
害され、降圧効果が減弱されます。また、機序は不明
ですが、四環系抗うつ薬マプロチリンも交感神経末
梢遮断薬の降圧作用を減弱させることがあります。
レセルピンをはじめとするラウオルフィア製剤は、交
感神経終末で NE を枯渇させて降圧作用をおこしま
す。三環系抗うつ薬は交感神経終末において NE の
再取り込みを阻害し、受容体周辺の NE 濃度を高め
b. バルビツール酸
バルビツール酸系睡眠薬も肝チトクローム p450 酵
素の誘導作用が強い薬剤です。ペントバルビタール
とアルプレノロールの併用によるアルプレノロールの
血中濃度の低下と降圧効果の減弱が報告されてい
ます。 その他、脂溶性の肝代謝型のβ遮断薬であ
るプロプラノロール、メトプロロール、チモロールなど
でも生じる可能性があります。
91
あじさい Vol.14,No2,2005
いけないのかー内臓脂肪型肥満 :
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamph/pamph_3
9/panfu39_01.html
♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪
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日本高血圧学会の作成する高血圧治療ガ
イドラインが4年ぶりに改訂されました。
より厳重な降圧治療(
特に糖尿病、腎障害、
高齢者など)
24 時間にわたる降圧(
早朝高血圧、逆白衣
9) 杉本ら.F.二次性高血圧 11.薬剤性高血圧;循
環器科 46:
supple.1.256,1999
高血圧などの治療)
カルシウム拮抗薬と RA 系(ACE 阻害薬、
ARB)
を中心とした併用療法
利尿薬の適正使用
血 圧 分 類 :前 回 と変 更 な く、欧 州
(ESH-ESC)とは同様で、米国(JNC7)とは
異なる
家庭血圧の基準
135/85mmHg 未満
脳血管障害超急性期の降圧目標は
180/105 未満とされました。
心血管病の危険因子として低 HDL-C コレス
テロール血症と尿中微量アルブミンが追加さ
れた。
一日の塩分摂取は6g以下に
DASH 食の推奨(
野菜や果実を多く摂取し、
脂肪摂取を制限)
降圧目標が 高齢者では 140/90 未満
若年・中年者では 130/85 未満
糖尿病患者・
腎障害患者では 130/80 未満
メタボリックシンドロームの診断の必須項目に
ウエスト周径による「内臓脂肪蓄積」測定
<編集後記>
血圧水準が高いほど、脳卒中・心筋梗塞・心疾患
の罹患率および死亡率が高いといわれています。
高血圧の影響は心筋梗塞よりも脳卒中により特異
的であり、我が国においては依然として脳卒中罹
患率が心筋梗塞の罹患率よりも高い傾向にありま
す。最新の治療方針に従って、厳格な血圧コントロ
ールをする必要が重要です。
内臓脂肪細胞から放出される血圧調節因子(レプ
チンやアディポネクチンなどのアディポサイトカイ
ン)の調節異常や体液量調節系(レニン・アンジオ
テンシン系)の異常などもメタボリックシンドローム
における高血圧のメカニズムに関与しています。
個々の病気を治療することはもちろん大事です
が、内臓脂肪が蓄積している人はこれらの病気を
起こしやすい状態にあるわけですから、まず、より
上流にある内臓脂肪を減少させ、動脈硬化を予防
することが重要です。
先生方の参考資料として使用して頂ければ幸いで
す。
<参考文献>
1) 高血圧治療ガイドライン 2004;
日本高血圧学会
2) 高血圧治療ガイドライン 2000;
日本高血圧学会
3) メタボリックシンドローム 関係八学会が診断基準
を発表「
内脂肪蓄積」
測定を必須項目に;
日本医
事新報:4225.57,2005
4) メタボリックシンドロームの概念とその意義;日本
医事新報:
4185.90,2004
5) 高尿酸血症のコントロールとメタボリックシンドロ
ーム;
日本医事新報:4202.1,2004
6) メタボリックシンドロームにおけるインスリン抵抗性
の意義;
日本医事新報:4210.132,2005
7) 三木ら.肥満と肥満症;
調剤と情報 10:7.12,2004
8) 循環器病情報サービス;
第 3 症 どういう肥満が
発行者:
富田薬品(
株)
医薬営業本部
池川登紀子
お問い合わせに関しては当社の社員又は、下記ま
でご連絡下さい。
TEL (096)373-1141
FAX (096)373-1132
E-mail t-ikegawa@tomita-phar
ma.co.jp
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