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【エッセイ】八百比丘尼
September 2016 日本システム監査人協会 会報 2016.8 【エッセイ】八百比丘尼 会員番号 0707 神尾博 このデジタル時代に「コラージュ」といえば、インターネット上で流通する合成写真(フォトモンタージュ) を連想される方が多いだろう。しかし元々は写真に限らず、布や雑誌等の複数の素材を組み合わせた芸術作品 を指す言葉だった。ところが、今や卑俗な「アイコラ」のような贋作が氾濫している。こうしたまがい物を安 易に信用してしまうのは、浅はかで片づけられるだろうが、狡猾なステマ(ステルスマーケッティング)のよ うな欺瞞を見破るのには骨が折れる。そしてコラ画像やガセ情報に限らず、ネットに流出したデータは半永久 的に全世界へ晒され続けてしてしまう。 永遠から連想するのは「八百比丘尼(やおびくに、はっぴゃくびくに)」である。7世紀から9世紀の間に 生を受け、人魚の肉を食したがために不老不死を得た女性の伝承が、日本各地に存在する。こちらは長期間に 渡り、後から誕生した親しい人間が、次々とあの世に先に旅立っていくという悲劇がある。そうした言い伝え に信憑性を持たせるためか、あたかも実在するかのように見せかける「人魚のミイラ」なるものが、江戸時代 を中心に日本や中国で製作され、18~19世紀には欧米でブームになった。猿や魚の皮や骨を、粘土や膠等で 合成加工したものであり、鬼や河童、天狗のミイラも異種の材料による造形だという。 偽造ミイラはX線CTによる解析方法もあるが、ハイテクに頼らなくても技量を持つ剥製業者なら、容易に正 体を見破る事が出来るそうだ。コラ画像については、素人でも手軽に操作できる編集ソフトが流通している一 方で、細工をしているかどうかを判別するツールも出回っている。ある動画は、深海の半魚人を撮影したと称 されていたが、米国のCATV会社がエンターテイメント目的で制作したものだった。また夜間の都市上空を飛 行するUFO映像のひとつは、左右の両端部分の折り返し編集が指摘されている。 刑事事件の鑑識は当然のことながら、セキュリティ技術者や同監査者も、デジタルフォレンジックの知識が 必須の時代となってきている。虚偽を見破るだけではなく、自身の作業内容の真正性の証明もできなければ、 苦労が水泡と化す可能性もあるという、タフでハードな職務である。またセキュリティ 監査に限らずシステム監査等でも、証憑を始めとする捏造や嘘を看破しなければなら ない場面に、遭遇するケースもあるだろう。騙しのIT技術も進む中、どうしても手作 業では限界があり、ツールやAI(人工知能)の助けを借りながら、各種ログ、痕跡、 画像、動画、書類等の真贋を見抜いていかねばなるまい。 (このエッセイは、記事提供者の個人的な意見表明であり、SAAJ の公式見解ではあり ません。画像は Wiki より著作権保護期間満了後のものを引用しています。) <目次> 日本システム監査人協会 会報 5