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シューベルトの歌曲
高校講座 学習メモ 16 音楽 Ⅰ シューベルトの歌曲 今日は、シューベルトの歌曲を何曲か聴いてみることにしましょう。 ■歌曲の王様シューベルト フランツ・シューベルト(1797 ~ 1828)は 31 歳という若さで亡くなっ たウィーンの作曲家ですが、その短い生涯の間に何と 600 曲以上の歌曲を作 曲しているのですね。ですから「歌曲の王様」と呼ばれています。そのうち 1815 年、18 歳の年には、1年で何と 140 曲もの歌曲を作曲しています。5 日で2曲の割合で作曲していることになります。 それではなぜそんなにたくさん作曲できたのでしょうか?それは、シューベ ルトの頭の中には次から次へと美しいメロディーがわき上がってきたからなの です。シューベルトが寝ているときでもどんどんわき上がってくるのだそうで す。それを起きてすぐに楽譜に書き留められるように、シューベルトはいつも ▼ めがねをかけて寝ていたということなのですね。それほどまたシューベルトは 目が悪かったようです。 ■『音楽に』 それではまずはじめにシューベルトの『音楽に』(作品 88 の4 D.547、フ ランツ・フォン・ショーバー詩、1817 年)という曲を聴きます。これは、い つも自分の心を高めいやしてくれる音楽という芸術に、心から感謝する気持ち を歌っている曲です。今日はペーター・シュライアーのテノール独唱で聴いて いただきます。 ♪・♪・♪ An die Musik Du holde Kunst, in wieviel grauen Stunden, Wo mich des Lebens wilder Kreis umstrickt, Hast du mein Herz zu warmer Lieb entzunden, Hast mich in eine bessre Welt entrückt ! Oft hat ein Seufzer,deiner Harf entflossen, Ein süßer, heiliger Akkord von dir, Den Himmel bessrer Zeiten mir erschlossen, Du holde Kunst, ich danke dir dafür ! −− 講師:渡 邊 學 而 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第 16 回:シューベルトの歌曲 シューベルトのメロディーは次々と頭の中にわき上がってくるといいました が、そのために実に自然な流れを持っていて、ですから美しくかつ歌いやすい、 そういうことも一つの特色と言えるのではないかと思います。 歌曲というのはもちろん歌詞に音楽をつけるわけです。ですから歌詞の表し ている内容によって、当然音楽が変わってまいります。 ■『ます』 次に『ます』(作品 32 D.550、ダニエル・シューバルト詩、1820 年)を聴 いていただきます。この『ます』は、明るく澄んだ小川でマスが元気に泳いで いるのを、私、つまり詩人は川岸に立って眺めていました。そこへ釣り人がやっ てきて、マスのようすを見つめていました。水が澄んでいるので釣り人にはマ スが釣れないだろうと私は思っていました。ところが、釣り人はいきなり水を かきまわして小川を濁らせてしまい、あっという間にマスを釣り上げてしまっ たのです。私は怒りに煮えたぎる思いでそのままそのマスのようすを見ていた という、そんな詩なのです。 全体的には歌も伴奏もさわやかで生き生きとした感じでできているのですけ れども、水を濁らせるところで音楽ががらりと変わります。皆さんもお分かり になると思います。それでは同じくペーター・シュライアーのテノール独唱で 聴いていただきます。 ▼ ♪・♪・♪ Die Forelle In einem Bächlein helle, Da schoß in froher Eil Die launische Forelle Vorüber wie ein Pfeil. Ich stand an dem Gestade Und sah in süßer Ruh Des muntern Fischleins Bade Im klaren Bächlein zu. Ein Fischer mit der Rute Wohl an dem Ufer stand, Und sah's mit kaltem Blute, Wie sich das Fischlein wand. So lang dem Wasser Helle, So dacht ich, nicht gebricht, So fängt er die Forelle Mit seiner Angel nicht. −− 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第 16 回:シューベルトの歌曲 Doch endlich ward dem Diebe Die Zeit zu lang. Er macht Das Bächlein tückisch trübe, Und eh ich es gedacht, So zuckte seine Rute, Das Fischlein zappelt dran, Und ich mit regem Blute Sah die Betrogene an. 歌詞の内容が変わるところで、音楽もその内容に即して変わったということ が分かりにましたか? その時に歌のメロディーばかりではなく、ピアノの伴 奏も同じように暗くて緊迫した表現に変わっていました。ですから歌曲は、ピ アノ伴奏部もとても重要な役割を果たしているのです。 ■『きけきけひばり』 ところで、シューベルトが、頭の中に次から次へと美しいメロディーがわき 上がってきたということを表すこんな話が残っています。 ある日シューベルトが、友人たちと一緒にレストランに食事に行きました。 ▼ 食事を注文した後シューベルトは、友人の持っていたイギリスの詩人・劇作家 シェイクスピアの詩集を見せてもらっていますと、その中のある詩を読んでい て突然「いいメロディーが浮かんできた」と言ったのです。ところがだれも楽 譜を書く五線紙を持っていなかったので、友人の一人がレストランのメニュー の裏に急いで五線を書いてシューベルトに渡しました。シューベルトはそこに すらすらとメロディーを書き入れて1曲できあがったというのです。それが『き けきけひばり』という曲だと言われています。 それではその『きけきけひばり』(題名は「セレナード」 D.889、シェイク スピアの原詩によるアウグスト・ヴィルヘルム・フォン・シュレーゲルの詩、 1826 年)を、今度はディートリヒ・フィッシャー=ディースカウのバリトン 独唱で聴いていただきます。 ♪・♪・♪ Ständchen Horch, horch, die Lerch im Ätherblau! Und Phöbus, neu erweckt, Tränkt seine Rosse mit dem Tau, Der Blumenkelche deckt. Der Ringelblume Knospe schleußt Die goldnen Äuglein auf; Mit allem, was da reizend ist, Da süße Maid, steh auf! −− 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第 16 回:シューベルトの歌曲 現在はこの曲は三番まで歌われるのですけれども、シューベルトが作ったの は今聴いていただいた一番だけでした。二番・三番の歌詞は後に別な人がつけ たものです。実はこの曲には後日談がありまして、それからかなり後のことな のですが、シューベルトがウィーンの街を歩いていると、どこかの家からこの 曲を歌っている歌声が聞こえたのだそうです。でシューベルトは、 「これ、とっ てもいい曲だけどだれが作ったのかね」と友人に言ったという話があります。 シューベルトは作曲するのも速かったけれども、忘れるのも速かった、そんな 人だったようです。 ■『アヴェ・マリア』 それでは最後にもう1曲、シューベルトの『アヴェ・マリア』 (正式な題名は「エ レンの歌Ⅲ」 作品 52 の6 D.839、ウォルター・スコットの原詩によるアダ ム・シュトルクの詩、1825 年)を聴いていただきます。先ほどのシェイクス ピアはイギリスの詩人でしたが、この『アヴェ・マリア』もイギリスの詩人ウォ ルター・スコットの詩に作曲されたものです。もちろんどちらもドイツ語に訳 されたものに作曲しております。この曲は、父親の犯した罪の赦しを乞うため に、湖のほとりの高い岩の上にまつられている聖母マリアの像にひざまずいて 祈る、乙女の姿と心情を歌ったものです。今度はバーバラ・ボニーのソプラノ ▼ 独唱で聴いていただきます。 ♪・♪・♪ Ave Maria(Ellens Gesang Ⅲ) Ave Maria! Jungfrau mild, Erhöre einer Jungfrau Flehen, Aus diesem Felsen starr und wild Soll mein Gebet zu dir hin wehen. Wir schlafen sicher bis zum Morgen, Ob Menschen noch so grausam sind. O Jungfrau, sieh der Jungfrau Sorgen, O Mutter, hör ein bittend Kind! Ave Maria! Ave Maria Unbefleckt! Wenn wir auf diesen Fels hinsinken Zum Schlaf, und uns dein Schutz bedeckt, Wird weich der harte Fels uns dünken Du lächelst, Rosendüfte wehen In dieser dumpfen Felsenkluft. O Mutter, höre Kindes Flehen, −− 高校講座 学習メモ 音楽 Ⅰ 第 16 回:シューベルトの歌曲 O Jungfrau, eine Jungfrau ruft! Ave Maria! Ave Maria! Reine Magd! Der Erde und der Luft Dämonen, Von deines Auges Huld verjagt, Sie können hier nicht bei uns wohnen Wir woll'n uns still dem Schicksal beugen, Da uns dein heilger Trost anweht; Der Jungfrau wolle hold dich neigen, Dem Kind, das für den Vater fleht! Ave Maria! 伴奏にハープのような音型が使われていました。また全体的には静かな宗教 的な感情さえも感じられるとてもいい曲ですね。 今日は「歌曲の王様」と言われるシューベルトの歌曲から4曲を聴いていた だきました。いずれも、とても自然に流れ出るような美しいメロディーで書か れていましたが、それがシューベルトの音楽の一つの大きな特色だろうと思い ▼ ます。 −−