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Title ムギ類染色体間の同祖性に関する遺伝育種学的研究( はしが き) Author(s) 古田, 喜彦 Report No. 平成5年度-平成6年度年度科学研究費補助金 (一般研究(C) 課題番号05660004) 研究成果報告書 Issue Date 1994 Type 研究報告書 Version URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/152 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 古ま し カS き 植物の遺伝育種学において、コムギは最も重要な研究対象の一つで ある。コムギ(ア′ノJノ♂〝β)属はエギロブス(力gノノ♂ク∫)属、オオムギ (伽′わ〝β)属、ライムギ(∫♂♂βノ♂)属およびカ`モジグサ(Jg′叩′′♂β)属 などと共にコムギ族(tribe 体数Ⅹ=7 7,pItlcc8e)を構成する。これらは共に染色 の倍数系列を持ち、もともと一つの祖先種から進化したと考え られている。これらの属や種の輝線関係あるいは系統発生は多くの研究 者によって解明されつつある。 コムギ属にはA、B、DおよびGの4つのゲノムがあり、一粒系コムギ (ア.即β♂♂♂♂川β と ア.〝′β′J〝,二倍体,2n=14,AAゲノム)、二粒系コ ムギ(ア.′〝′gノ如β,四倍体,2n=28,AABBゲノム)、チモフェピー系コ ムギ(ア.′ノβ叩カ♂♂Fノ,四倍体,2n=28,AAGGゲノム)、普通系コムギ (ア.β♂∫′ノア〝β,六倍体,2n=42,AABBDDゲノム)およびジュコフスキー系 コムギ(T.2hukovskY,六倍体,2n=42,AAGGAAゲノム)の5群からなる。 普通系コムギの起源に関して、ゲノム分析に加えて、考古的証拠、 核型分析、形態比較、細胞質の比較分析、遺伝子分析、DNAの質的並び に量的比較、アイソザイムやタンパク質の比較および地理的分布などの 結果から、AゲノムはT.up8J・tU(Chapman et et al.,1976;Nishikawa al.,1992;常脇,1993)、Dゲノムは加.卯‖用′′飢‖(Pathak,1940;木原, 1944;McFadden Ae.speltoldes(Sarkar a.nd and ムをもつ ムはSゲノ Sears,1946)、BとGゲノ Stebbins,1956;Riley et al・,1958; Tsunewaki,1989)にそれぞれ由来しているといわれている。すなわち、 進化の過程で、dβ.叩♂ノJ♂ノわ∫(二倍体,2n=14,SSゲノム)と一粒系コ ムギのア.〝′β′′〝 との自然交雑に続くその染色体倍加により、AASSゲノ ムを持つ四倍体が生じ、それから、ア.′〝′gノ如∬ 化した(Tanaka とア.Jノβ叩如♂Fノ et.al.,1978)。そして、T.tup8IduD 叩〟β′〃∫βが自然交雑、Flで染色体倍加するか復旧核を形成し、三倍 1 に二倍体Ae・ に分 古ま し カS き 植物の遺伝育種学において、コムギは最も重要な研究対象の一つで ある。コムギ(ア′ノJノ♂〝β)属はエギロブス(力gノノ♂ク∫)属、オオムギ (伽′わ〝β)属、ライムギ(∫♂♂βノ♂)属およびカ`モジグサ(Jg′叩′′♂β)属 などと共にコムギ族(tribe 体数Ⅹ=7 7,pItlcc8e)を構成する。これらは共に染色 の倍数系列を持ち、もともと一つの祖先種から進化したと考え られている。これらの属や種の輝線関係あるいは系統発生は多くの研究 者によって解明されつつある。 コムギ属にはA、B、DおよびGの4つのゲノムがあり、一粒系コムギ (ア.即β♂♂♂♂川β と ア.〝′β′J〝,二倍体,2n=14,AAゲノム)、二粒系コ ムギ(ア.′〝′gノ如β,四倍体,2n=28,AABBゲノム)、チモフェピー系コ ムギ(ア.′ノβ叩カ♂♂Fノ,四倍体,2n=28,AAGGゲノム)、普通系コムギ (ア.β♂∫′ノア〝β,六倍体,2n=42,AABBDDゲノム)およびジュコフスキー系 コムギ(T.2hukovskY,六倍体,2n=42,AAGGAAゲノム)の5群からなる。 普通系コムギの起源に関して、ゲノム分析に加えて、考古的証拠、 核型分析、形態比較、細胞質の比較分析、遺伝子分析、DNAの質的並び に量的比較、アイソザイムやタンパク質の比較および地理的分布などの 結果から、AゲノムはT.up8J・tU(Chapman et et al.,1976;Nishikawa al.,1992;常脇,1993)、Dゲノムは加.卯‖用′′飢‖(Pathak,1940;木原, 1944;McFadden Ae.speltoldes(Sarkar a.nd and ムをもつ ムはSゲノ Sears,1946)、BとGゲノ Stebbins,1956;Riley et al・,1958; Tsunewaki,1989)にそれぞれ由来しているといわれている。すなわち、 進化の過程で、dβ.叩♂ノJ♂ノわ∫(二倍体,2n=14,SSゲノム)と一粒系コ ムギのア.〝′β′′〝 との自然交雑に続くその染色体倍加により、AASSゲノ ムを持つ四倍体が生じ、それから、ア.′〝′gノ如∬ 化した(Tanaka とア.Jノβ叩如♂Fノ et.al.,1978)。そして、T.tup8IduD 叩〟β′〃∫βが自然交雑、Flで染色体倍加するか復旧核を形成し、三倍 1 に二倍体Ae・ に分 性非違元配偶子を生じ、それらが受精し、普通系コムギが生じたと考え られている(Tsunewaki,1989)。 普通系コムギは六倍体なので、染色体の欠失に耐える力が強い。そ のため、色々な型の低異数体が得られている。Sears(1954)は普通系パ ン コ ムギの一品種Chinese Spring(以降CSと略す)にライ ムギ り・♂♂′♂βノ♂・2n=14・RRゲノム)を交配し、CSの半数体を得た。この半 数体にCSの正常花粉を交配し、後代において2n=41(成熟分裂対合像: 20'+1')を示す個体を選抜して、理論的に存在すべき21通りすべてのモ ノソミック(2n=41,20,+1,)からなるモノソミックシリーズを完成した。 更に、Sears(1959,1966)はナリソミックス(2n=40,20,)あるいはモノ ソミックスとテトラソミックス(2n=44,20∬+1=)を交配し、その後代か らナリーテトラソミックス(2n=42・19暮+1一一)を得た。このナリーテトラ ソミックスを定性的、総括的に研究したところ、普通系コムギにはA、B およびDゲノムに1本ずつ存在して互いに補債性を示す染色体が7組ある ことが分り、〃同じ〃を意味する相同染色体(homologous に対し、打同じような〃 ho皿OeOlogous chromosome) を意味するhomoeologousを頭につけた chromoso皿eと名付けた。この3本ずっ7組存在する機能的 に補併しあえる染色体は祖先型ゲノムの同一染色体に由来すると考えら れることから、即ち、進化的意味を追加して、木原はこれを同祖染色体 と訳した(1962)。このことは7つの同祖群のナリソミックはそれぞれ群 によって形態的特徴がみられる(Sears・1954)ことから推定されていた。 その後の広範な遺伝子分析、特に分子マーカーを用いた研究から、同祖 群内の染色体は機能的に似た遺伝子、つまり同祖遺伝子を持っことが報 告されている(Hart,1983;McIntosh et al・・1987)。更にこの染色体ご との同祖関係はオオムギ属、ライムギ属などのコムギの近縁種属にも存 在している(藤垣・1993)。つまり、普通系コムギのA、BおよびDゲノムに 所属する21本の染色体は同祖群によって、1A、川、1D、2A・・・というよう に7Dまで命名されている。それに対して、オオムギの染色体はHゲノム 2 に所属するので1Hから7Hまで、ライムギのRゲノムの染色体は1Rから7R までコムギの名称に対応させている(Miller,1984)。 コムギ異数体研究の1つの大きな貢献は同祖性の概念を確立したこ とである。これにより、染色体と遺伝子の両方について同一祖先から由 来し、分化してきたものを明白にし、その差違を比較することによって コムギのゲノムおよびその近縁諸属ゲノムの進化を個々の染色体と遺伝 子の両レベルで考察することが可能となった。更に、これらの近縁種か らパンコムギヘの染色体操作による遺伝子導入が可能になっている。即 ち、染色体工学と呼ばれる分野の基礎となった。 一方、オオムギ(伽′わ〝β 川ノgβ′♂)は病原抵抗性、タンパク質成分 などコムギにはなく、コムギにとって有用であると思われる遺伝的な特 性を持っており、エギロブス属、ライムギ属あるいはカモジグサ属など とともにコムギに対する新しい遺伝子供給源として有望である。オオム ギの遺伝的な性質をコムギヘ導入するにはまず両者の雑種植物が得られ なければならない。コムギとオオムギの雑種植物が初めて報告されたの は1973年のことである(Eruse,1973)。それ以前にも、前世紀から交雑が 試みられてきたようであるが、成功には至らなかった。そして、1975年、 Islam らはコムギとオオムギの雑種植物から、オオムギの染色体(腕)を 添加したコムギ系統を弟五染色体を除く6系統と、その後それに対応す et る12系統のテロセントリツク添加系統の育成に成功した(Islam 1975;1981;Islam,1983)。更に、それらを利用して、オオムギの染色 et 体をコムギに置換した系統をも.育成した(Islam ーオオムギ添加系統と置換系統の完成により、従来不可能であったコム ギとオオムギのゲノムの染色体(腕)レベルでの進化の研究、オオムギか らコムギへの遺伝子導入に関する育種学的研究に大きな通が開かれた (Shepherd andIslam,1992)。 本研究では、普通系コムギのA、BおよびDゲノムとオオムギのHゲノ ムの第三同祖群染色体あるいはその腕レベルで補償能力を定量的に評価 3 al・,1990)。コムギ al・・ するために、普通系コムギの一品種Chinese 関するナリ Spring(CS)の第三同祖群に ク)、第三同祖群に関する他の各種異数体系続(ナリ トラソ ソミ ーダイテロテトラソミックを育成し、正常系統(ダイ ミ ック とダイ テロソ ミ ソ ミ ック、ナリ ーテ ック)およびコムギーオオムギ添加系統 川BA)とコムギーオオムギ置換系統(WBS)を用いて、それらの形態および 稔性を客観的に計量化し、考察してみた。なお、二年次にはそれらに加 えて弟六および第七染色体に関するナリ ミ ーテトラソ ミ ック、ダイテロソ ックおよびコムギーオオムギ置換系統を加えて供試した。 謝辞 本研究を行なうにあたり、コムギーオオムギ添加および置換系統を 分譲くださったオーストラリア アデレード大学Islam,A.E.H.R.博士お よび本研究の実施とまとめに協力してくれた岐阜大学大学院 研究科 博士課程の張 偉君に深く感謝いたします。 ッ 連合農学