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一般財団法人 日本科学技術連盟

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一般財団法人 日本科学技術連盟
シ
リ
ー
ズ
こんな工夫で
活性化
しています
毎月の職場巡視が様々な
コミュニケーションと改善意欲を
引き出し,工場全体を元気に
プレス工業㈱
尾道工場
組織の活力を考える時,働
く人たちの動き方,あるいは動く量といった
ことも大事なポイントになるのではないでし
ょうか。従業員の動きがあまり見られないよ
うな組織だったら,職場のエネルギーも高ま
らないはず。動きがたとえ闇雲であったり試
行錯誤であったとしても,それがやがて一定
の方向へとまとまって進むようになれば,頼
もしいパワーとなるに違いありません。
そうした面でプレス工業・尾道工場のここ
数年を振り返ると,そこで働く人たちの動き
は立場の上も下も問わず,そして手も足も口
も動いているといった感じで,なかなか躍動
的です。
始まりのきっかけは
“見える化”からだった
尾道工場で生産する主な製品
トラック完成車組立
建設機械用キャビン
自動車用アクスルケース
自動車用フレーム
ク)の組立といった事業が,取扱い製品の大
半を占めるからです。
工場で改革という言葉も思い浮かぶような
展開が始まったのは,2010 年 4 月からでした。
組立三課課長の道上さんによるときっかけは
“見える化”がキーワードになったとか。
神奈川県川崎市に本社を構えるプレス工業
は,自動車の両輪を結ぶ「アクスル」やフレ
「大手顧客の仕入れ先が集う定期的な勉強
会で,国内の時代の流れもあって見える化が
ームといった,ごっつい重量級の部品などを
主に扱うグローバルレベルのトップメーカー
です。その同社で国内に 5 ヵ所ある工場のう
ち,広島県の尾道工場が今回の舞台です。
その当時のテーマになりました。そこで我々
の工場でも見える化に目を向けようと,工場
長や各課長,品質管理部門のスタッフをメン
バーとした見える化推進会議を毎月 1 回開き,
従業員総数が約 400 人の尾道工場は,自動
車用部品をメインとするプレス工業の中にあ
って,少々特異な生産拠点。建設機械の運転
活動を展開することにしたんです」
ところが,そこから意外にも 3S という活
動が始まることになったと,工場次長で組立
席を覆うキャビン,あるいは完成車(トラッ
一課課長も兼務する八塚さんはいいます。
44 QC サークル No.645
こんな工夫で活性化しています
「見える化という前に改めて工場内の現場
を見直してみると, 土台となる整理, 整頓,
清掃がまだ十分にはできていないことに気づ
いた。そこで最初は 3S からしっかりやって
いこうということにしました」
むろん長い歴史を持つ尾道工場で,3S の
取組みがこれまでなかったはずはなし。でも
現状としてそれが十分だったのかといえば,
「?」がつく状態。判断を現場任せにしてい
たため,かなりばらつきや不徹底が目立って
組立三課課長の道上隆生さん
いたといいます。そのため管理職の 3S につ
みちうえ た か お
やつづか
工場次長の八塚孝義さん
いての勉強会も交えながら活動を進めていっ
たそうです。見える化推進と 3S は,渾然一
体の取組みと見てもいいのでしょう。
やらされ感が生まれたら続かない。けなした
り批判するのではなく,自主性,自発性を大
事にし,いいところを伸ばしていくという方
針を大事にしているんですよ」
巡視活動の中から,興味深いしかけとして
工場の男の職場で
「モデル職場コンテスト」も生まれました。
ビューティコンテスト !?
これは各職場が改善目標とするラインなり
「見える化推進会議」という骨太な柱が立
設備などを自分たちで絞り込み,それをエン
ち上がったことで,工場内では多様な動きが
トリー(登録)。 文字どおりの 3S から安全
起こりました。中でも目立つのは,職場巡視。 対策,作業性向上などと内容は自由で,半年
要職の立場にある管理職や現場リーダーが一
の間にどこまで改善できるかを競い合うわけ
緒になって,毎月 1 回
いろいろな職場を見て
回り,現場でアドバイ
ス。 こ の 巡 視 自 体 が,
互いの職場のことをよ
見える化推進会議(1/月)
く知る機会であり,学
び合いの場にもなって
いるそうです。
また巡視と聞けば問
題点や課題の指摘とい
モデル職場展開(1ライン・エリア以上/半期)
モデル職場巡視(1/月)
ったイメージも浮かび
作業者との人間関係を築く
改善力を身につける
ムリ・ムダ・ムラの排除する
【活動の始まり:2010/4∼】
工場全体のレベルアップのため,
「見える化」の基盤である
“3S”の徹底をまず展開する
P・D・C・Aの『見える化』展開
S・Q・C・Dすべてにおいての基本を身につける
整理:いらない物をなくす
身の回りのムダの排除
整頓:整理の状態を見えるよう
にして維持しやすくする
清掃:きれいな職場と
きれいな気持ちにする
(参加:工場長∼課長∼品管スタッフ)
どうやってやる
何をやる
・活動方針・展開要領決め
・活動活性化(現場がやる気を起こす方策)の提案
・工場全体のモラル向上の方策決め
・身だしなみ・夏季Tシャツ統一・食堂での作業服着用など
・他社事例(MAZDA洋光会)のレビュー
ハードへの取組み
まず,行動し,行動した結果を
見ながらステップアップする
ますが,八塚さんによ
ればそうでないのが尾
道工場らしさのようで
す。
「我 々は 現 場 の 人
たち自身が本当に問題
意識を持ち,自分たち
で改善につなげていく
という姿を目指してい
ます。こうした活動は,
清潔:決められたことが守られ
気持ち良い職場を維持
ソフトへの取組み
仕組みをつくり,3Sが維持でき
るようにする
躾:日常作業をするうえで守るべ
きことが,当たり前にできる
定着させる取組み
(参加:工場長∼課長∼製造係長・品管スタッフ∼全区長)
・モデル選定は,上司よりの指示ではなく区長が自ら申告し
た工程/ラインとする
・モデル展開するにあたり事前に目指す姿(区長の思い)を
明確にする
・定置撮影にて,改善前→改善後の状態がわかるように
∼「3Sモデル職場現状確認シート」に集約
・区長により目指す姿と進捗をレビュー
・やり方/状態の良かった点と改善のアドバイスを現地にて
実施∼「コミュニケーションシート」に集約
*指摘・バッシングは絶対にしない!!!
・月次,メンバーのローテーションによる巡視で,各職場の
良い点を参考にし,自職場へ展開
全員参加で
やらされ感がない活動
モデル職場コンテスト(半期ごと)
良いことをさらに伸ばす
(参加:工場長∼課長∼製造係長・品管スタッフ)
言われながら実施する
フォローされながら実施する
自主的に実施する
(対象:現場=区長が在籍する全組織を対象)
・評価シートによる採点:1位∼3位
・特別賞:努力が顕著に見受けられる職場
達成感を共有する
※工場長により『表彰状』,『賞金』を授与
⇒品質月間朝礼・小集団活動日
定着させる
尾道工場で推進する見える化の取組みと 3S 活動の概要
2015 年 4 月号 45
シ
リ
ー
ズ
です。最後は所定の評価シートに基づき,審
査担当者たちがチェック。採点結果で 1 ~ 3
位まで表彰されるほか,顕著な努力があった
職場には特別賞も授与されるそうです。職場
の美観を高める 3S 活動を踏まえていうなら,
ます。それは職域間
の意識の隔たりとい
っ た も の。30 名 の
従業員が働くこの組
立三課の建屋内には
工場内のビューティコンテストと表現しても, フレーム,シャーシ,
トリムという 3 つの
あながち間違いではないかもしれません。
ラインがありますが,
道上さんは,こういいます。
それぞれはかなり異
「コンテストはやはりいい刺激をもたらし
たようで,意欲的な職場は上位入賞を目指す
し,評価されれば達成感が生まれる。それと
なる業務。従業員同
士の交流はほとんど
見える化推進会議の取組みの成果として,各
なく,そこには「見
組立三課・製造係長の白石康男
さん
えない垣根」が長年あったと白石さんは表現
しました。
「お互いのラインのことはよく知らず,品
質などで何か不具合が生じれば,他ラインの
問題だと考えるような感覚が。それを何とか
職域間の見えない垣根を
したいと思ったんです」
シャッフルで乗り越える
そこで浮かんだのが,シャッフル作戦。小
見える化推進や 3S は改善活動だといえま
集団活動の間だけシャッフル,つまりメンバ
すが, 一方, 工場内では小集団活動と呼ぶ
ーを混在させるわけです。
QC サークル活動も昔から続けてきました。
とはいえ,いきなりメンバーの混ぜ合わせ
見える化,3S 活動と小集団活動は車の両輪
をしたら, 戸惑いや混乱を生じるのは必至。
の関係にあり,どちらかに気運の高まりがあ
では,どうすれば?
れば,もう一方にも相乗効果をもたらすのは
「まずは各ラインの班長だけ,一時的に移
当然のことでしょう。2013 年度上期のモデ
動させてその職場を実感してもらい,元のラ
ル職場コンテストで 1 位に輝いた組立三課も, インに戻って現場の人たちに伝えてもらうこ
そんな効果を感じさせる職場でした。
とに。そうやって事前に多少の情報を知って
組立三課が担うのはトラック完成車の組立
からメンバーのシャッフルをしていったので,
業務ですが,同課の製造係長を務める白石さ
危惧していた混乱はあまりなく,ライン間の
んは,以前から気がかりな点があったといい
相互理解はずいぶん深まったと思います」
職場の管理職同士,現場の人同士で話し合っ
たり相談することがすごく多くなった。それ
も大きな変化だといえます」
職場ごとに設置している「活動板」で,品質,生産,安全,改
善などに関する情報を掲示。見える化や 3S 活動で生まれた成
果であり,職場巡視や朝礼などの際にも大いに活用し,コミュ
ニケーションボードの役割を果たしている
46 QC サークル No.645
取材の日,組立三課の総勢約 30 名が勢揃い。シャッフル効
果もあって,仲間同士の相互理解はかなり進んでいるようだ
こんな工夫で活性化しています
リーダーの率先垂範の動きが
やる気を見える化し,チームを牽引 そんな職場の変化を実感している白石さん
の組立三課では,誰もが目を見張る小集団活
動の改善事例も登場しているので,合わせて
紹介しておきましょう。
サークル名は,エンジン,フレームから名
づけた「ENG・F サークル」
。注目したい改
善の牽引役を果たしたのはリーダーの江原豊
喜さんで,テーマは「F3 Assy 機の汚れ撲滅」
「ENG・F サークル」 リーダー 区長として組立三課の現場最前
とよき
なるひこ
線を束ねる畑成彦さん
の江原豊喜さん
でした。F3 Assy はフレームに組み付ける足
回りの調整機で,昔から赤い塗料のベンガラ
やオイルによる汚れが常態化。その撲滅をテ
ーマに掲げたわけですが,誰に尋ねても超困
難な課題。その改善,解決にあえて挑もうと,
江原さんは声をあげたのです。
「自分たちのラインは,すぐに作業着も靴
もベンガラやオイルで汚れ,他の人たちも近
づこうとしない職場でした。それを誰もが入
れる,見てくれる職場に変えたいという一心
で取り組みました」
では,誰もが無理だと思うような挑戦に,メ
ンバーの気持ちをどうやって引き寄せるのか
─その方策はいたって素朴なもので,率先
垂範でした。江原さん自身が一人で黙々と掃
除を継続。するとわずかずつでもきれいになり,
リーダーの奮闘に誘い込まれるようにチーム
が変化していったといいます。しかも驚かさ
れるのは,掃除の徹底では終わらなかったこと。
自分たちで“芋づる改善”と名づけたように,
汚れやオイル漏れの根元的な対策にまで深掘
りを徹底的に重ね,見事撲
「ENG・F サークル」が改善した現場の一例
滅に成功。この改善事例は
尾道工場で最優秀の評価を
得ただけでなく,プレス工
業の全社大会でも感動賞の
獲得につながりました。
職場の区長である畑さん
は,こう語ります。
「自分たちでやった成果
に,自分たちでびっくりし
カラーで紹介できないのが残念だが,左は装置周りには赤黒い汚れが広がり,
オイル受け皿にはあふれるのを防ぐためウエス(布)を被せている状態。それ
が今は,見事きれいに
たのではないですか。それ
ほど見事な改善活動で,し
かも感心するのは,今も毎
週末に掃除を徹底し,維持
していること。その姿がほ
かのラインにも刺激を与え,
負けてはならないという気
運が育ったんです」
汚れ対策だけでなく,作業のしやすさも大幅改善
(取材・文,井上邦彦)
2015 年 4 月号 47
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