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ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ)
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E. A. Poeの詩学
渡辺. 信二
茨城大学人文学部紀要. 人文学科論集(13): 29-54
1980-12
http://hdl.handle.net/10109/9264
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お問合せ先
茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係
http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html
EA. Poeの詩学
渡 辺 信 二
A.Poeの位置 1.ロマン主義とその定義 (ページ)2
2.ロマン主義と象徴主義 2
3,Poeの時代的位置 3
4.Poeに於けるロマン主義と象徴主i義 3
5.Poeの時代状況とその関り方 4
BPoeの詩論 6. Poeに於ける詩の定義 5
7.〈天上美〉の逆説 6
8.〈美〉の突出性 6
9.Poeに於ける常套語の意味 7
10.〈美〉へ至る道 7
11.〈遭1意〉の意味と機能 9
C・Poeの詩法 !2,〈繰返し〉の意味と機能 10
13.繰返しの詩法 11
14.対照法 11
15.否定の詩法 11
16.人称の変異 12
R作品論 17.“The Conqueror Worm”(1843) 13
18.‘‘Dream−Land鱒(1844) 13
19.‘‘The Raven,,(1845) 14
20.‘‘Eulalie−A Song’,(1845) 17
21.‘‘Ulalume−−A Ballad”(1847) 18
22.‘‘To Helen,’(1848) 18
23.‘‘Eldorado,’(1849) 19
24.‘‘Annabel Lee”(1849) 19
E結論 25.Poeの評価 20
26.Poeの遺産 21
F.附記 27.Poeの詩の評価表(試案) 22
28.Poeの詩に於ける密窒1生 23
註 24
30
A.Poeの位置
ロマン主義に一一貫しようとしたEdgar AUan Poe(1809−49)は,自らに詩
作を許すために,まず,詩についての批評性を必要とした。Poeは時代概念と
してのロマン主義と象徴主義との二面性を持つが,後者は前者のためにある。
1.ロマン主義とその定義
ロマン的要素とロマン主義を,まず,明白に区別せねばならない。ロマン的
要素は普遍的超時代的にほとんどの作品に見出せる。遠いもの・無限への憧れ,
既に去った者や時代の追憶,死の誘惑などは,文学のありふれた主題であり素
材である。こうしたロマン的要素がある特定の時代に集中的に出現してロマン
主義を生んだのではない。ロマン主義とは一つの思想であり一つの様式概念で 1)ある。ロマン主義はく閉じられた絶対主観〉をその思想的根拠とする。ロマン
主義とは,事物に対する主観の絶対的優位を説き,個性を絶対視する創作態度
である。この主義は世界を自己に取込み,一切を自己内のドラマに化そうとす
2)
驕Bこの主義は・また・自らを他から区別することを欲する。この定義に従っ
て・なお現在もロマン主義の時代に属すると言える。この様式概念としてのロ
マン主義の第一波が時代概念としてのロマン主義であり,所謂ロマン主義のこ
とである。象徴主義は,様式概念としてのロマン主義の第二波である。
2.ロマン主義と象徴主義
時代概念としてのロマン主義と象徴主義とは,何が異っているのか。まず,
第二波は遅れてやってきたということが,当然のことながら,動し難い事実で
あり,かつ,重要な点だ。なぜなら,この〈遅れた意識〉こそが,詩について
思考を深めさせ,自意識化を促すためだ。単に事物や言葉を象徴として使うこ
とが象徴主義であるとするなら,この作業は,やはり時代を超えて多くの詩に
見出せる。時代概念としての象徴主義に関して,詩・詩作及び詩人とその生き
方についての意識化をこそ重視すべきだろう。
第一波と第二波及びその後とは,基本枠内で同一のものに属しつつ,いくつ
かの変化を見てとれる。詩人の生き方に関して言うならば,国民詩人から孤独
な詩人,社会と断絶した詩人へと変化し,その考え方は,個人としての作家より
もその作品を重視する傾向となり,さらには芸術至上主義から,作品よりも芸
術行為そのものを重視してゆく。創作態度は,所謂霊感への依拠から人工性・
渡 辺:EA. Poeの詩学 31
作為性の強調へと変わる。これに比例して,詩の設定は戸外・自然から,部屋
の中へ象徴的な部屋の中へと移る。
3.Poeの時代的位置
一人の詩人がいつ生まれたかは,単なる偶然であろう。しかし,これこそが
ほとんど全てを決定すると言ってよい。ヴァレリーはボードレールを古典主義
3)
ニ認定したが,これは比喩でしかない。あるいは,内なる批評性を強調するた
めに他ならない。ボードレールは,どのような生き方をしようとも自らの時代
を生きるしかなく,従って,大きなロマン主義に属さざるを得ない。
同様にしてPoeもロマン主義者である。彼の時代は,第一波のロマン主義
と第二波の象徴主義の中間に位置し,Poeに関してはこの二つを結ぶ詩人と考
えてよい。ロマン主義の始まりはフランス革命の頃と一応認められているが,
象徴主義はこれまでのところ,その開始や属すぺき詩人について不明さが残っ
てきた。おそらく両者の間に明確な分割線を引くことは難しい。後者の頂点を
認めるのはたやすいが,個別には個々の詩人の中に両者の要素が同時に現れて
おり,徐々なる変化として認定したほうがよいであろう。
4.Poeに於けるロマン主義と象徴主義
Poeは大きなロマン主義に属する。彼は〈事物〉への主観の優位を認め,個
人の独創性を強調する。さて,Poeのロマン的要素として項目的に語るならば,
天上美への憧れ,遠いものへの希求,科学への反感,夢の重視,喪失した者へ
の嘆き等を指摘できる。Poeはまた,他のロマンティク同様・叙事詩や詩劇を
試みる。Poeが特に詩的状況と考える,若く美しい女の死とそれを嘆く男の設
定は,単にロマンティクと共通であるだけでなく,かなり常套的な題材と言え
よう。Poeに於けるロマン主義にPoeの独自性を見ることはできない。
むしろ,ある状況を詩的だと認定し,そのための技法を配慮し,かつ,全体
としてまた部分として,その状況を繰返し詩の中に表現する点に独自性を見て
とるべきだろう。Poeの詩的空間は厳格な自己批評性によってもたらされた。 4)
〈詩の才能に比例してはじめて,詩についての批評の正しさがある〉とする
P㏄は,自らに対して詩作の意識化・詩の領域の限定化・詩論との一致を要求 5)
オてゆく。かくしてく象徴主義運動の始まりの頃最重要の事件の一つが,ボー
@ 6)
hレールによるPoeの発見であった〉と後に指摘される詩人と自らを為し,
32
7)
ワたエリオットの言うように,Poeは内省的批評活動を詩学にもちこんだ系譜
の始まりと自らを為す。象徴主義者とは自らの詩論と詩法についての自意識家
と同義であるから,Poeは象徴主義者でもあると認定できる。
5.Poeの時代状況とその関り方
本人の才能や努力を別にしても,詩を書くのが困難な時代は確かに存在する
だろう。その困難さは,しかし,直接的には時代状況に起因しない。Poeの時
代に関して言うなら,創作の軽視,特にアメリカ作家や詩人の作品の無視,著
作権法のこと,歴史の浅さと取上げるべき題材の貧しさなどがよく指摘され
る。Poeは確かに題材が限られ,また詩は寡作であった。だが,時代状況によ
る説明が意味を持つためには,Poeの同時代人全てがPoeと同じ時代状況に在
りながら,なぜそれがPoeにのみ直接働くのか,あるいは,なぜ同時代人た
ちもまたPoeのような詩人にならなかったのか。 この二つの問いのどちらか
を明白にせねばならないだろう。時代状況とは,詩人の生きねばならぬく場〉
として決定的でありつつ,詩や詩人の解明にとっていつまでも不透明な要因に 8)とどまるだろう。そして,このことは伝記的事実についてもあてはまる。私た
ちは,外延的な指摘によらず,内在的に批評せねばならない。おそらくはそれ
が文学を文学として扱うことになるであろう。
B.Poeの詩論 9)
@Poeの詩は63篇ある。10篇は一応Poeの作品とされているが,詩としての
価値はほとんど無い。残り53篇のうちやはり価値の乏しいものが18篇ある:
10) 11) 12)
ooeの詩集に集められていなかった5篇,戯詩2篇,失敗作1篇,その他10篇。
残り35篇には,〈天上・理想と地上・現実〉の図式が,全体的にまたは部分的
13)
ノ投影している。但し,この図式の存在が詩の評価に決定的なものではない。
この図式の典型として〈過去と現在〉の対比を28篇に多少とも指摘できる。こ
14)
フうちさらに〈若い美女の死とそれを思う男〉の設定は11篇に見られる。この
分類に従って,次第にく美〉へ至る状況が緊迫してゆく。この分類の正当性は
〈天上美〉〈美〉〈追憶〉及びPoeの詩法との関わりに於て徐々に明確に
なる。
渡辺:EA・Poeの詩学 33
6.Poeに於ける詩の定義
1)芸術の定義:<芸術とは,霊魂のヴェールを通して感覚が自然の中に認
めるものの再現である〉(“Marginalia”, W,226−7)。
2) 〈天上と地上〉の図式:〈なお彼方には到達し得ない何かがある。私た
ちはなお癒し難い渇きを持つが,これは人間の不滅性に属する。……それは
星を求める蛾の欲求であり,眼前の美の単なる鑑賞ではなく,天上の美に到
達しようとする激しい希求なのだ。……私たちが涙するのは,詩や音楽に
よってのみ一瞬微かに垣間見得るこれらの聖なる歓喜を,この地上では今す
ぐすっかり永遠の形で捉えることが不可能なので,いらいらと腹立たしくも
悲しむからである〉(“The Poetic Principle”, V[,11)。
3)主題設定:<美しい女性の死が疑いもなく最も詩的な題材であり,これ
を語るに最も良い者はその死を悲しむ恋人である〉(“The Philosophy of
Composition”, VI,39)。
4)詩の音楽性:〈言葉の詩とは,美の韻律的創造である〉(“The Poetic
Prlnciple”, VI,12)。
〈音楽が快い観念と結合する時に詩となる〉(“Letter to Mr.8−一’,
X,153)。
5)詩の統一性とその効果:〈韻文は均一性・符合性を人間が喜ぶことに由
来する。韻文の形態一韻律・詩脚・連・脚韻・頭韻・折返し句,その他
類似の効果一全てが,その喜びに属する〉(“The Rationale of Verse”,
VI,56)。
〈詩がその名に値するのは,ただ魂を高揚させ興奮させる限りに於てなの
は言うまでもない。詩の価値はこの高揚する興奮に比例する。だが全ての興
奮は心理の必然により必ず醒める。詩を詩と呼び得る程度の興奮が,かなり
長い詩で維持し得るはずがない〉(“The Poetic Pr五nciple”, W,3−4)。
〈漠然さが真の詩の一要素である〉(“Marginalia”,冊,310)。
ここに引用されたPoeの主張や他の箇所の同趣旨の論点は,よく批評家に
よって取上げられている。私たちはPoeの主張を確認した上で,これまで
ほとんど論じられなかった以下の問題を提起したい。
1)詩は真理や道徳ではなく<美〉にのみ関るぺきだと言うが,Poeの詩の中
にく美〉が本当に表現されているか。また,それをく天上美〉と認め得るか。
34
2)いつ,いかにして,〈霊魂のヴェール〉の彼方に達しく到達し得ない何
か〉を垣間見るのか。
3) この詩論を実践するPoeの詩法は何か。
7.〈天上美〉の逆説
詩の目的は〈美〉の表現とする者は多い。しかし〈美〉を,特に〈天上美〉
を表現し得た詩は一体存在するのか。
耳に聞える音楽は甘美だ。が,聞えぬもののほうが
さらに甘美だろう,だから優しい笛よ,……
15)
心に響かせよ,音のないうたを。
どのようにして〈音のないうた〉が表現されるか。〈美以上の美〉(“Tamer一
1ane”(1827),78),〈愛以上の愛〉(“Annabel Lee,’(1849),9)とは何か。
あるいは〈空間の外,時間の外〉(“Drea驚Land”(1844),8)としか言いよ
うのないものは一体何か。こうした問いさえ,今のところ虚しい。〈天上美〉
そのものをうたい得ると考えるのは一つの悲しい思い込みなのかも知れない。
<真の美はただ永遠の裡にある。詩人はそれを体験できず,その主題を奪われ
ている。私たちにできることは,現在の人生にある素材を操作しつつ,美はど
こかに在ると暗示するだけだろうし,それで最良の方法なのだ〉(Y.Winters,
pl86)。〈天上美〉が本来的に持つ属性によって敗北を余儀なくされる戦いを
Poeはどのようにして戦うのか。
8.〈美〉の突出性
〈天上美〉及びそれへ至る〈美〉はPoeにとって〈一瞬微かに垣間見る〉ぺ
きものであり直ちに失われるものである。これを私たちは〈美〉の突出性と名
付ける。Poe自身,短篇小説の高原性に対して,詩を精神の頂きへの突出と捉
16)
えている(“Hawthorne’s‘Tales’”, WI,32)。〈それは一度,ただ一度〉そして
〈過ぎ去る〉(“Dreams”(1827),19−26)。
それが私たちの上を過ぎるのか。その時見開いた眼が
愛の対象へ向うように 涙はまぶたに
溢れる,今までぼんやりと眠っていたのに。
しかも,それは一その対象は一この世の私たちから
隠されていない一ただあたりまえに一いつでも
渡辺:E.A. Poeの詩学 35
私たちの前に在る一しかしその時だけは,
■ ● ●
切れたハープの弦の,不思議な音で
私たちを目覚めさせよと命じよ。その示し表わすものは
彼方の世界に在るものなのだ。(“Stanzas”(1827),17−25)
周囲に在るものは,やはり変わらずに在りつつくその時だけは〉何かが美へと
● ● ■
通ずる手段に一瞬変化するであろう。
“Romance”(1829)は,過去の理想的な状態と現在の嫌悪すべき非詩的状況
とが,おおむの時と禿鷹の時との対照で表現されている。この現在に対して一
瞬にせよ過去へ通ずる〈たて琴と詩〉(18)の一時が突出するだろう。
〈美〉の突出性はよく<美〉の本質を捉えている。この点でもPoeはすぐ
れて批評的なのだ。Poeは時にはキーツのように憂欝さと美との結合を目指す 17) 18)
と表明し,またエドモンド・バークに従って恐怖を歓喜であると指摘する。だ
がその関心の中央に常にく美〉があった。
9.Poeに於ける常套語の意味
Poeの手による素材・題材はほとんどが既に常套的に使われてきた。これは,
例えばシェリー,バイロンら先行する詩人たちの模倣・暗合・類似をPoeの
詩の至る所に指摘できることでも分る。夢・思い出・谷・湖・海・星・花々・
女・愛など,Poe自身もその常套性を知っていたであろう。それでもなお,何
故,常套語に頼るのか。まず第一に,それこそが詩なのだという思い込みが
あっただろう。逆説的に語るならば,常套語は詩であることをある程度保証し
ている。第二に,意識的に詩の領域を狭くする狙いがあった。既に明らかにし
たようにPoeにとってく美〉は彼方に在り,そこへ至る道は一瞬しか開示さ
れない。〈美〉の場としてそれ自体も美と為り得る詩の完成は,その一瞬に
〈美=詩〉空間へ突出することによってのみ可能となる。〈美〉は対象によっ
ても素材によっても規定されないが,むしろ,よく慣れ親しんだ素材を手にし
て,〈美=詩〉空間の開示を待つことがより突出の可能性を与える。こうして
Poeは,対象・素材・題材の新しさを重視せずにく美〉へ至る道へ集中してゆ
く。
10.〈美〉へ至る道
19)
〈美〉の段階性はプラトンによって既に指摘されているが,Poeに於ても,
36
〈天上美〉〈理想美〉に開かれるための手段として,やはり,女性美・夢・追
憶というく美〉があった。
“To Helen”(1831)では女性美によって,それまでの放浪から抜け出て,ギ
リシャ・ローマ=理想郷ゴ心の故郷へと導かれる。
これまで長く放浪し慣れた荒涼の海を
おまえのヒヤシンスの髪,整った顔立ち,
おまえの水の精らしさが,私を故郷へ
かつてギリシャであった栄光へ
かつてローマであった威容へと導く。(6−10)
夢もまた彼方の世界と結ぶ。〈そうだ!たとえその長い夢が希望のない悲
しみだったとしても,/眼覚めた冷たい現実よりも,ずっと良かったのに〉
(“Dreams”,4−5)。
私は幸せだった,夢の中ではあったが。
● ● ●
私は幸せだった一一この主題を私は好む:
夢と夢!・…
胱惚とした眼に,天国と愛の素晴しいものが
もたらされる その全てが私たちのもの!(同,27−33)
最後に追憶について:“ADream within a Dream”(1827)に於ては,女と
の別れとその悲しみを嘆くよりもく私たちの見るもの全ては/ただ夢のまた夢
なのだ〉(10−11)とする。だが,追憶を喪失する悲しみに関しては,〈私〉は
抗う。〈黄金の砂粒一/そのなんと少ないことか。それも,なお流れ去り,
/私の指の間から海へと落ちてゆく,/私の泣いている間に一私の泣いてい
る間に!〉(15−18)。〈全ては夢〉とする断定は,女との別れについて納得
するが,追憶喪失についてはく私たちの見るもの全ては/ただ夢のまた夢なの
ですか?〉(23−24)と躊躇している。〈別れ〉よりも,その〈追憶〉のほう
が過去へ至る道である故にPoeにとって重要なのだ。“To F−”(1835)では,
“To Helen”(1831)にも見られた荒狂う海とその中での(例外としての)静け
さの対照によって,圧倒的に現在を支配する非詩性の中で,一瞬くあなた〉へ
つないでくれるものとして追憶がある。
だからこそあなたの思い出は私にとって
波騒ぐ海に浮かぶ
はるか彼方の魔法の島かと思えます一
渡辺:E・A.Poeの詩学 37
海はかなり気ままに騒ぎ
嵐にうねるが だがそこだけは
晴れ渡る空が永遠に
その唯一の輝く島に微笑している。(8−14)
“Sonnet−To Zante”(1837)に於ても,その地がく呪われた土地〉(11)と
なるのは,〈おまえ〉の死よりもその思い出が失われることによる(11)。あ
るいは“The Raven”(1845)は,〈理想美〉でもく女性美〉でもなくて,
〈美〉に突出するための状況,即ち〈追憶〉への高まりをうたったことが後に
明される。
11.〈追憶〉の意味と機能
Poeが最も詩的であると認定した〈美しい女性の死とそれを思う男〉の設定
は,Poeの詩論に最適であり,かつ,〈追憶〉と深く関わる。
1)醜さや老化を拒み,美しい姿を理想や追憶の中に永遠化する.
2)死はもはやとり返しのつかない状況であり,なお生きる者にとってそこへ
の道が阻まれていることは,よく<天上美〉の条件化に寄与する。
3)死に遅れた意識が現在への反感・現在に於けるく美〉の喪失感とその困難
性への嘆きとに合致する。それはまた,過去への憧憬及び理想像との断絶の
嘆きを促す。
4) 〈女性美〉〈夢〉及びく追憶〉を〈天上美〉に至る手段として位置づけ得
る。また死は,時空の距りをこえる〈追憶〉がまさしくく追憶〉として機能
しやすい状況である。
さて〈女性美〉は一つの現象一一つの素材であり,“To Helen”(1831)の平板
さを見るまでもなく,それのみで詩としての深みを与えられない。これに反し
て〈夢〉とく追憶〉はそれら自体素材となりつつ,行為を合意するより叙述的
な言葉であり,また,ある時間性を内包している。一方〈夢〉はその中に在る
のではなくく夢〉だと知り得る時,即ち醒めてはじめてより詩的な落差を獲得
する。例えば,〈夢の中ではあったが私は幸せだった〉とする現在完了あるい
は過去を見る現在の距りの立場想起の立場が必要であろう。従って,より重
要な,〈美〉へ至る道はく追憶〉である。これは愛する女性の死によってく女
性美〉を,また意志的な想起によって〈夢〉みる行為を,自らの中に包括でき
38
る。まさにこの〈追憶〉こそがP㏄の主要な詩に繰返し出現する素材であると
同時に一つの行為であり状況であり,それ自体〈美〉でありつつ単なる〈美〉
を超えてより高い〈美〉へ至る道であった。
C,Poeの詩法
Poeの詩法として四つあげられる:繰返しの詩法,対照法,否定の詩法,
人称の変異。この順序は四つの詩法の頻度とその重要性をも示す。とりわけ繰
返しの詩法と対照法は,Poeの短篇小説の中にも利用されており,特に重要で
ある。ところでこの二つは大きな意味でのく繰返し〉に関っている。なぜく繰
返し〉が詩法となり得るのか? これを明らかにした後,四つの詩法について
述ぺよう。
12.〈繰返し〉の意味と機能
人間にとって時間とは,生から死へ直線的に向う時間の流れとその時間に突
出的に入りこむ時間との絡み合いである。そしてその突出的な時間は記憶が保
証する。過去の経験・知識が記憶に集積されている。さてく繰返し〉は記憶に
よる:〈記憶を通じて,繰返し起こる同一性の要素を楽しむべく認知できる〉
(“The Rationale of Verse,”W,57)。 〈繰返し〉が人間にとってく喜びの源
泉〉(“Tbe Poet三c Principle,”Vl,10)となるのは,直線的な時間の流れに対
抗できるからであろう。Poeはく繰返し〉を意識的に利用した。彼の場合く繰
返し〉は基本的に効果に関っている。以下,〈繰返し〉の機能を列挙する:
1)創作者は読者に対して対の意識や二度目の意識を与えられる。対の意識は
作品構成の安定感・完了感に働き,二度目の意識は読者を納得させ安心させ
る。
2)余韻を与えたり,強調として利用される。
3)全体の構成を開示または暗示しつつ補強する。(c£W,56)
20)
4)読者の全体的な読みを可能にする。
5)対創作者自身にとってある程度まで作品の流れを導くように機能する。こ
れは特に韻や構成について指摘できる。
渡辺:E.A. Poeの詩学 39
13.繰返しの詩法
繰返しの詩法とは,音の繰返し(頭韻・脚韻・行中韻・類音),言葉の繰返
し(折返し句な戯イマージュやシーンの繰返しを言う.すぐに了解される
だろうが,Poeのほとんどの詩にこの詩法の使用が指摘できる。例はあげない。
この詩法は,〈夢〉や〈追憶〉に適応する。〈追憶〉は繰返すからだ。また,こ
の詩法は音楽化に寄与する。〈ある普通の言葉を単調に繰返すと,その繰返し
によって,言葉の意味が何であれ伝わってこなくなる〉(“おerenice・”Ll60)。
それは読者の注意が意味から音へ移るためだ。Poeに於ける繰返しの詩法は明
晰さに働かず,むしろ意味の漠然さをもたらそうとする。対応関係を変化さ
せつつ繰返すことで意味の多層化を狙う(“The Ph三losophy of Compos五tion・”
VI,37)。さらに,繰返しの詩法は人工性。作為性を前面に押しだしつつ・現実
との対応の拒否を果し,作品内対応性を構築することで言葉と作品の自立を促
す。
14.対照法
対照法は,対照・対称・対句・比喩等,言葉・文章・文脈に関する場合と,
構成に関する場合とがある。前者はすぐに了解される。後者については,先行
する意味群に対して,その意味やイマージュなどに関して対照的な意味群を並
置することにより作品を構成し完了感を与える。‘rDream・Land”(1844)や,
“Ulalume”(1847)は始まりに戻って終る円環構造をとり(Caputi, P・174),
対句的表現の多い‘The City in the Sea”(1831)は,第3連と第4連がそ
れそれの中に対句を含みつつ全体としても対となって終了感を与える。他にも
“Tamerlane”(1827):出発(女との別れ)一→権力の頂点一→帰還(死んで
いた女),“Al Aaraaf”(1829):地球への訪れとそこからの帰去,“Evening
Star”(1827):月と金星の対照などを構成としての対照法として指摘できる。
この対照法はまたPoeの詩群のうちB群(註14参照)に見られる過去と現在の
対照を表現する。この詩法はく追憶状況〉を表現しない詩においても特に構成
面で有効である。これによって非詩的現在の圧倒的優位という事態さえも詩の
中に取込み得る。
15.否定の詩法
否定の詩法とは,否定形の使用,比較の利用,除外法(without・butなど)
40
22)
である。その眼目は否定の矛盾にある。即ちある命題Aを否定消去・比較消
去・除外するにしても,とにかくまずAを提示せねばならない。従ってイマー
ジュや雰囲気,あるいは非在としてのAは読者に残影を形成する。ここに否定
の詩法の狙いがある。この詩法の例も多く見つけられる。比較の利用は既に第
7章に例示されていた。否定法によって雰囲気を盛り上げ成功している詩とし
て例えば“The City in the Sea”や“The Valley of Unrest”(1831)などが
あげられる。
否定の詩法はく天上美〉の本質に関わる。現実には存在しないものを現実の
反映から生じた言葉によって表現しようとする時,必然的に否定の詩法が求め
られる。否定の詩法は,現在の喪失感・空白感・虚無感・非在感を表現するの
に適する。この詩法はまたイマージュや状況の不分明化・漠然化に寄与する。
この詩法の本質を端的に表現する言葉が〈No more>〈Nevermore>であ蓄1
〈追憶〉とく繰駄〉の間には厳密に言えば詩間的に過去一向うか未来一
向うかの差異がある。これを解消するのが<No more><Nevermore>であっ
た。NeverやNoは全面否定でありながら,直ちに出現するmoreによって
それ以前のイマージュや文脈が否定を超えて喚起される,あるいは,暗示され
る。このmoreは,否定の文脈を裏切り,ひきのばされた終了感を与える。か
くして例えば〈Nevermore>を繰返すことにより,現在と過去の差異を表現
しつつ,現実には繰返さないがく追憶〉の中では繰返す〈美〉をまさしく繰返
し追憶する状況を,よく表わすことができる。
16.人称の変異
人称の変異は,ある人称が他の人称へ変化する場合や突然ある人称が出現す
る場合を言う。“Song”(1827)ではく私一おまえ〉の関係とく彼一おまえ〉
のそれ,“ADream”(1827)及び“Dream・Land”ではく彼〉とく私〉,“The
Sleeper”(1831)では〈彼女〉と〈おまえ〉の間に変異が見られる。誰を指示
するのかにわかには断定し難い文脈を形成したり,直接的説明を人間関係に与
えない態度をとる。
Poeは固有名詞を避ける傾向がある。あるいは,避けた詩が質的に高い。代
名詞と違って固有名詞はPoeの狙いの一つである作品の自立と詩の純化を促さ
ない。なぜなら,その実在性や由来が外延的な関心の介入を許すからである。
それは自ら創出した固有名詞についても(程度の差はあるが)あてはまるだろ
、
渡辺:E・A・Poeの詩学 41
う。但し,名前の創出(例えばEulalie, Ulalumeなど)は非在の存在の実体
化,即ち世界の中からそのものを発見し他と区切る行為であり,名づける主体
の優位を逆証する。
ところで代名詞は本来,人間の記憶に依拠する。代名詞は前後の文脈に助け
られつつ既出のものを想起させる。従って代名詞は日常性との直接的なつなが
りを排除し,作品に内在的である。代名詞の使用は詩空間の自立に寄与する。
かくして代名詞の変異はすぐれて文学に内在的な詩法と言える。この詩法に
よって,指示すべき実体を不明にしておきながら関係性と意味の漠然とした広
がりをもたらす。また例えばく私たちの日々〉ではなくく私の日々〉とするこ
とで(“ADream within a Dream”,5),人と人との遠さを表わす。また,対
象との距離の調節や個別から一般への飛躍に機能する(“The Sleeper”,“To
M・LS−”(1847)など).
D.作品論
これまで明らかにしてきたPoeの詩論と詩法が,如何に個々の詩に見られる
かを以下に示す。ここに選ばれた詩はPoeの詩論及び詩法の体現の程度に相関
して選ばれた。私たちはその相関こそPoeの詩的世界に於て重要な点であり,
ただちに評価の基準になると考える。
17.“The Conquemr Worm”(1843)
題をも含めて考えるなら,詩の正しく中心にこの詩の鍵となるく円〉(21)
という言葉が位置している。確かに,3行目と37行目のく天使たち〉,〈涙〉
(4)とくすすり泣く〉(31),〈ヴェールをして〉(4)と〈ヴェールをとって〉
(38),及びく道化芝居〉(17)とく悲劇く人間〉>(38)とが,それぞれ同心
円を成し,冒頭で題となっている〈勝ち誇る蛆〉で最後この詩は閉じられてい
る。この円環構造による対照法は,内包する同心円的対応と共に,人間の繰返
す敗北と天上との断絶を暗示する。
18 “Dream・五and”(1844)
〈追憶〉を許すく夢の国〉からの帰還をうたう。
暗く人気なき道を
42
悪霊の天使につきまとわれながら
そこは一つの幻が「夜」とよばれて
黒い玉座でたじろがず支配するところから
私は先ごろ此の地に着いた
あるひどく薄暗い北の果てテユールから一
そこは荒れたうらびた風土,それはおごそかに
空間の外一時間の外に在る。(1−8)
彼の地とこの地を結ぶ道にはく過去の青白き思い出たち〉(34)がいる。そこ
こそは本来〈無数の悲しみを持つ心にとって/平和な慰めの地〉(39−40)で
あるが,人は〈追憶〉の機能に気付かない。〈その地の神秘は/つまらぬ人間
の眼には見えない〉(45−46)。 かくしてく私〉は彼の地からく追憶〉の道か
ら帰還する。
暗い類音や脚韻の使用,不気味な自然情景の列挙が,人間の非在するく時空
の彼方〉の雰囲気を形成する。その二面性を暗示しつつ,さらなる滞在や再突
入の困難性を示す。本来辿るべきとは逆の道順を辿るく私〉は何時,再びく彼
方〉へ向うのだろうか。
19, ‘‘The Raven” (1845)
この詩は繰返しの詩法を主要に用いつつ〈追憶〉状況への高まりをうたう。
音の繰返しについては行中韻を含めて全18連が〔1・−a−a/2−ローb/3・−c−c
/4.−c−b/5.一ローb/6.一ローb〕という韻で一貫している。しかもその中に
頭韻・類音を多く含む。折返し句に関しては,<nothing more>〈nevermore>
その他幾つかの繰返しがある。動作の繰返しは〈たたく〉動作(4,32)〈開け
る〉動作(23,37)等がある。しかしながら最も重要なのは〈私〉の内面の動
揺とその繰返しであろう。以下これを手懸りにして論を進める。
〈私〉はレノア喪失に関して一方で忘却を求めつつ他方では再会を願う動揺
の中にいる.この対立は,現実と夢,合理性と浪漫性の対立図式に還元でき
る。この図式はまず第一連にくうたた寝〉(3)対〈ノックの音〉(3)として出
現する。次に〈熱心に朝を願い,虚しくも悲しみの終りを求める〉(9−10)が,
なおく以前には感じたことのない幻想的な恐怖〉(14)即ちレノアとの再会願
望をも持つ。現実的にく実際誰かが来たのだ〉(16)と自らに言いきかせつつ,
ドアを開けて誰もいないと知ると,やはりく今まで誰も敢えて夢みようとはし
渡辺:E・A・Poeの詩学 43
なかった夢〉(26)を見る。
そこで口にされた唯一の言葉は〈レノアか?〉という囁きだった。
そう私は囁いたのだ。そして観が囁き返した言葉はくレノア/〉。
ただこれだりでそれ以上は何もない。(28−30)
〈私〉がノックの音の方向を間違えたのは,うたたねしていたからだと説明
し得る一方,開ける動作の繰返しを許す。〈私〉は鳥が窓から部屋へ入ってく
る時これを不思議とは思わない。(これが一つのトリックである。)むしろ冗談
まじりに鳥に名を問う。これも既に〈私〉は独り言を言う人間だと明かなので
納得される。問いに答えて烏は〈Nevermore>(48)と言うが,これも不思議
とは思わない。〈私〉の中の合理性は〈未知〉(34)を放置できなかったよう
に,如何にして烏が言葉を覚えたか推測して納得する(61−66)が,ここでは
当然ながら他の推測も十分成立する。むしろ確認すぺきことは,〈私〉の関心
は烏へは向わず<Nevermore>の意味へと向っていることだ(67−72)。既に
述べたこの言葉の含む二重性を思い出せ。ここにもある狙いが隠されている。
25)
〈私の心をなこませてくれる〉(67)烏と共にあって,レノアを思い出しつ
つその忘却を〈私〉の合理性は結論する。
〈馬鹿者め/〉と私は叫んだ,〈おまえの神は与えてくれた これら天
使により
おまえに安息を一レノアの思い出からの安息を忘れ薬を!
飲め!おお,飲めよ,この忘れ薬を,そして失われてあるレノアを忘れ
よ!〉(81−83)
〈私〉の中の浪漫性が命令されている。ところが烏が,〈いや決して忘れま
い〉(84)と答える。ここで恣意的で脆い合理性の優勢が崩れ,動揺するく私〉
の心が再び出現する,第15・16連に対照的な問いの形で:
…… @一確かに答えよ,お願いだ一
一 一
「ったいあるのかギリアデの忘れ草は? 一言ってくれよ一言えよ,
お願いだ!(89−90)
この悲しみに満ちた心に答えよ,遠い天国で
いつかその心は聖なる処女,天使がレノアと呼ぶ者を抱くのか
いつか天使がレノアと呼ぶ世に稀な輝く処女を抱くのか(93−95)
この二つの問いは共に否定される。即ち,忘れられず再会もできない閉じられ
44
た状況となり,合理性と浪漫性は共に半ば否定されつつ暗に半ば肯定されてい
る。この状況は,しかし,新しいものではなく,この詩の開始から忘れられず
会えもせずにあった〈私〉の状況,だからこそ忘れたく,また会いたくもあっ
た状況が〈Nevermore>を媒介として,より深く徹底した形で再確認された
のだ。
〈私〉は烏の答えがく嘘〉(99)だと知っているにも拘らず,事実はこの答
えに縛られてしまう。これは前に烏が答えた時その事実を疑わずに受容した態
度をより明確に,しかも不自然ではなく繰返している。これを言い換えるなら,
〈私〉は烏の言うことが何ら意味がないと知っているし(50),また烏のしゃ
べる唯一の言葉が<Nevermore>だと分っている(55−56)はずなのに,烏
に問いをなおも発する。即ち,自らを一つの虚構に置くということだ。“The
PhilosDphy of Composition”によれば,自虐的にそうしたという(VI,45)。
ところが予想されたように〈Nevermore>のみが返答されて,しかも,虚構突
入以前の状態へは戻れない。ここにPoeの一つの狙いと言える言葉の呪術的
な実質化を見てとってよい。
さて〈Nevermore>はくそれ以上もはや……しない〉という意味で繰返し
を否定するが,これを繰返し使うことによって,意味の二重性から使用上の二
重性がひき出される。<Nevermore>はレノア忘却及び再会の否定を行い,さ
らに烏の帰ることを否定した(60,102)。この三つの否定を通じてさらにく私〉
の虚構からの予期した帰還を否定した。これが〈Nevermore>繰返し使用の
第一一の機能であり,詩の構成で言うなら第一の枠である。これらの否定を取囲
んで閉じているより大きな枠は,その第二の機能によって完成される。
第二の機能とは,主題から言えば,既に述ぺた〈私〉の動揺する内面がより
深まった形で確認されたことである。本来無意味であった烏の声が〈私〉の個
人的な生と関わる〈Nevermore>(78)即ちレノアはもはや戻らないという嘆
きと重なり合うが,ここで〈私〉の主導権く私〉の質問に導かれることを重視
するなら。単なる外的偶因にすぎなかった<Nevermore>が主観によって主
観と対応するよう変容を受けたと指摘できる。
音韻上からみると,質問に答える形で韻を完成させるように働く。そしてこ
れは状況設定と対応している。即ち,烏はドアの上にいてもはや帰らず〈私〉
も部屋から出ずに,密室性が完成されている。そして〈私の孤独〉(100)がよ
り深く進行する。
渡辺:E.A・Poeの詩学 45
最後にPoeの詩学からみると,詩法を十分活用しつつ,〈追憶状況〉を完
成させている。まず部屋が詩作の部屋であり,そこに素材としての烏が入り,
そのおかげでこの詩ができたことを,この詩自体が示す点で,詩作行為そのも
のをうたったと言える。次に詩的状況として最適としたく美しい女性の死とそ
れを思う男〉の設定が,忘却できず再会もできず繰返す悲しみの存続として確
認されている。P㏄自らこれを祝してく部屋のドアの上に鳥がいるのを見て祝
福された者はこれまではなかった〉(51−52)と断言している。この詩は,そ
こからさらなる〈美〉へと向うぺき緊迫したある高みに達している。またもし
〈憂欝な美〉というものが,〈追憶状況〉のことを言うのであったなら,Poe
26)
の狙いの一つがこの点でも実現したと言ってよいであろう。
この詩が失敗しているのは象徴化の作業に於てである。烏はく悲しみの尽き
せぬ思い出〉(“The PhilospPhy of Composition”, VI,46)の象徴となってい
ない。烏は烏にすぎないという思いが読者だけでなくく私〉の中にもあった
が,この論点を支える合理性は全面否定されたわけではない。<会えない,だ
から,忘れろ〉という主張の後半が否定されて,合理性がしばしく私〉の中で
後退している問に,<Nevermore>の意味の多層化と詩空間の完成とが果され
てしまったのだ。烏は烏にすぎないという感触は,いわば封印されているだけ
なのだ。またこれはく私〉の二次的な関心しか烏に与えられていなかったこと
にもよるであろう。むしろ内在的に考えるならく私の魂のもはや逃れ出ること
のない烏の影〉(106−108)とは〈Nevemore>のことであり,抽象に後から現
象を与えるという一般とは逆の象徴化の作業を,このく影〉と<Nevemlore>
との関係に認めてよいかも知れない。
Poeの不幸は,烏にしゃぺらせる不自然さに由来する。このためにPoeのエ
ネルギーが烏の象徴化へ〈Nevermore>を媒介させることに働いて,本来う
たうべきはずの対象レノアあるいは理想美が欠落してしまったのだ。〈追憶〉
によりながら理想へ達するのは別の詩に譲られる。
20. ‘‘Eulalie−ASong”(1845)
珍しく理想状態で終る。P㏄的図式〈過去・理想〉対く現在・悲しみ〉が例
外的に交差して,現在が理想となっている。だがPoeの詩学から判断するな
らば高い評価を与えることはできない。〈美〉やく理想〉は突出的瞬間的でな
ければならなかった。あるいは,そこへ至る道をまず開示せねばならなかった
46
はずだ。
21.“Ulalume−A Banad”(1847)
この詩にも繰返しの詩法,対照法,否定の詩法が様々な点に指摘できるであ
ろう。やはりこの詩もく追憶〉に関わる。思い出すか否かが,否定の詩法によ
る繰返しによって,劇化されている。この詩の中で,美しい女性と考えてよい
ウラルームを忘却していた事態が,〈私〉と〈魂〉の対話を通じて,覆され
る。〈アスタルテ〉(37)に導かれて行くなら〈平和な忘却の空へ〉(46)通
ずると信じるく私〉はそれを阻もうとするく魂〉を押しきって進む。〈私〉は
“Drea恥Land”の〈つまらぬ人間〉(46)に属しく追憶〉の意味を知らずに
〈追憶〉に直面する。従って“Dream・五and”の帰還と対を成す。しかもそれ
よりかなり皮肉な結末となっている。〈私〉はくただの夢だ〉(61)と相手を
説得するが,これは,“The Raven”のく私〉が虚構と知りつつそこに突入し
た後には決して以前の状態には戻れなかった場合と同一の結果になるであろ
う。
彼女が答えた:<ウラルームーウラルーム!一
これはあなたの亡くなったウラルームの墓!〉
すると私の心は灰色に重く沈んだ…
そして私は叫んだ:〈それは確かに十月
まさに去年のこの夜だった
その時私は旅した一ここまで旅したのだ!
その時私はおそろしい重荷をここまで運んだ一
ふ年にあまたある夜かちまさにこの夜を選んで
如何なる悪魔がここへ私を誘ったのか? (80−90)
記憶の回復はく私〉にとって驚きであり,削除されることの多い第十連もまた
27)
この驚きを補強する。
22.“To Helen”(1848)
これまで天上と地上の調和は,ほとんどが過去にしかなく憧憬の対象でしか
なかった。あるいはある瞬間や例外にしかなかった。ここでも確かに過去に於
ける一回性が強調されている(1)。だがこの詩では遂にく女性美〉がく天上
渡辺:E・A・Poeの詩学 47
28)
美〉に位置を変えている。そしてこれを可能にしだのがく追憶〉であった。
〈私〉の中にくあなたの眼〉が凝視によって記憶される(36−41)。〈おまえ
は去ったが,眼だけは残った〉(51)。この記憶された眼はいつも〈私〉と共
にあり,〈私〉を導く。かくして,〈天上・あなた一地上・私〉の間に調
和が確立する。これはしかも第一連の〈天上・月光一地上・あなた〉の間
の調和(18−20)と対照をなし,説得的である。この調和は永続的であり美に
満されているであろう:
その眼は私の魂を美で満す(それは希望だ)
その眼ははるかな高みに在る ……
たとえ真昼の輝きの中でさえ
私はそれを見分けられる一二つの優しくきらめく
二つの明星よ,太陽もそれを消せない! (61−65)
23. ‘‘Eldorado’, (1849)
〈影〉と〈エルドラド〉が繰返される。前者は自然の中の〈影〉(3),心の
中のく影〉(8),〈影〉の実体化(15),そして(死にかけて視力喪失のため
か)輪郭を失った〈陰〉(23)へと変わるが,後者〈エルドラド〉は変わら
ない。この対照を,現実に老いてゆく人間と死にあたってもなお止まぬ彼方へ
の憧憬との対照と考えてよい。また,〈追憶〉との関連でみるなら,〈追憶〉
の夢の国としてあるくエルドラド〉(“Dream・Land”,42参照)が遂に彼方に
在り続けて,〈追憶〉喪失の危惧(“ADream within a Dream”参照)を悲
しみの死と共に実現していると考えてよい。この詩では憧憬と現実との差異が
すぐれて文学的に表現されている。指示形容詞に注意せよ:
〈影よ〉と彼は言った
〈それは何処にあるのか一
このエルドラドの国は?〉 (16−18)
Poeの詩法である人称の変異から生まれたのかも知れない。ただ一語で見事に
29)
永続する憧憬とそこへの到達不可能性を表現している。
24. ‘‘Annabel Lee,9 (1849)
完壁な愛が天使に妬まれ,アナペル。リーは死ぬ。だが二人の愛は死を超え
て結ばれる。〈海のそばの王国〉及び〈アナペル・リー〉の繰返しは全六連
48
にわたって見られる。天使の妬みとその強さは第三連第四連のほぼ同一な意味
の繰返しによって定着された。だが,このこ連をはさむ第二連第五連は,二人
の愛の強さを繰返し表現している。これは,第三・四連の天使の妬みを取囲む
ことで,天使の介入さえも二人の愛は排除できると示している。かくして如何
なる者もこ人の愛を阻むことはできない:
なぜならば,月が輝くと必ず私に
アナペル・リーの夢をもたらし
星がのぼれば私には必ずあの輝かしい
美しいアナベル・リーの眼が見える (34−37)
アナペル・リーはく追憶〉の中にいつも蘇る。あるいは,亡きアナベル。リー
を求めて〈私〉が〈追憶〉の中に高まりつつ,一一つの理想状態を志向してゆ
く。
かくして私は夜中をずっと横たわる
私の愛する者のそば,私の愛する者,私の命私の妻,
海のぞぱ 彼女の埋葬所一
海のそばの彼女の墓に横たわる。(38−41)
これは愛の完成であり理想の実現である.屍体愛好とよく指摘されるが奇形な
感じを与えない。死してなお愛する愛の強さと整った美しい韻とが,閉じられ
たく海辺の墓〉を守り続ける。
E。結論
ギリシャ神話において詩神ミューズたちの母は記憶の女神ムネモシネーで
あった。Poeの詩もすぐれてく記憶〉に依拠する。 Poeの詩は主要にく追憶〉
と〈繰返し〉に依拠しつつ,現実から自由であろうとした。Poeの詩及び詩
法は,すぐれて文学に内在的であろうとした。Poeの狙いはおそらくかなり実
現されているであろう。
25.Poeの評価
Poeの詩論のほとんどは新しくない。〈追憶〉も詩の題材として極くあたり
まえである。またP㏄の詩法も多くの詩人の中に指摘できる。Poeの独自性は
こうした項目にあるのではなく,既に示したように,それら項目の意識的選択
渡辺:E.A。 Poeの詩学 49
と組合せにある。Poeの独自性は詩論と詩法の一貫性にある。
Poeへの非難で特に音韻の幼児的繰返しを人はよく言う。だがこれこそが
Poeの狙いであったのだ。ある詩人の狙いが実現されているのならば,まずそ
の点だけでも評価されるぺきであろう。しかも音の繰返しは,様々な形での繰
返しの一つにすぎない。
Poeがなお今日も評価されるぺきだとするなら,それはやはり詩論と詩法の
合致の追求に一貫したことであろう。Poeの詩はあまりに少ないが,それも厳
しい自己批評性を貫こうとしたためだ。Poeの一貫性は,同一素材の繰返し使
用や,改訂改行の繰返しにも指摘できる。どんな大詩人でも真の傑作は十指に
満たないことを考えるなら,Poeもまた十分に詩人の名に値する。
26.Poeの遺産
文学史上の影響関係は認定し難い。Poeとボードレールの類似がよく調べら
30) 31)
れる一方,彼へのPoeの影響は否定される,確かに直接的なものは見出せま
い。だからこそ,Poeやボードレール,マラルメ,ヴァレリーらがそれぞれ詩
人であり大詩人であるのだ。だがPoeの詩の狙いは幾つか継承されている:
1)言葉の音楽化
2) 意味の漠然さ,意味の重層性
3)主観の優位性の確立
4)作品世界の自立
5) 自意識の強化と作為性の強調
これらを実現するためにPoeにはPoeの詩法があるように,後の詩人たちも
それぞれ独自の詩法によってその実現を目指すであろう。
F.附記
以下,紙面を借りて,詩の評価表と詩に於ける密室性とを示す。前者は単な
る試みにすぎないが,作品論はあってもその評価の根拠を不明にする批評がほ
とんどである現在,ある意味を持つであろう。勿論,それがPoeに於て可能で
あるのは,彼が一貫性を貫いたために他ならない。そして,この一貫性が,詩
と短篇を含むPoeの文学世界全体の一貫性によってもたらされていることを示
すために後者がある。
50
27.Poeの詩の評価表(試案)
括弧中の数字がそのまま評価点を示す。一項目に於て重複得点することを認
める。
1)構成による評価:〈追憶〉状況への高まり方に観点を置く。
(5) 死者と生者の対照
(4)過去と現在の対照
(3) 理想と現実の対照
(2) その他の対照
(1) 対照なし
2)題材による評価:詩に於て何をうたっているかに観点を置く。
(5)天上美,及び理想
(4) 追憶,及び追憶状況
(3)夢,憧憬,その他
(2) 女性美,愛,その他
(1) 同時代人への愛,その他
3)命名による評価:自立する閉じた世界としての文学の創出にどれだけ寄
与するかを観点とする。この評価になじまない詩は(3)とする。
(5) 代名詞の使用
(4) 新しい名前の創出,及びこれに準ずるもの
(3)古典などからの借用
(2) 実名を隠す(題も考慮に入れる)
(1) 実名
4) 語りかける対象による評価:ほぼ3)と同じ観点による。この評価方法
は3)だけでなく,1)の評価方法とも重なる傾向を持つであろう。良い詩
と悪い詩に点数上開きを与える手段でもある。この評価になじまない詩はや
はり(3)とする。
(5)直接語りかけ得ない者(死者たち)
(4) 直接語りかける相手を持たない場合
(3)虚構された者
(2)別れて会えない者
(1) 同時代人
渡辺:E・A・Poeの詩学 51
以上をもとに作成した評価表は,勿論相対的であるが一応正当な評価の目処を
各詩に与えているであろう。
\ \一_ 評価点 、
詩 、\_ \
r
4)対象
514131211 514131211 514131211 514囹211
1
AValentine’,
‘‘
・t
2
1
2
she Bells,,
3)命名
2)題材
1)構成
1
1
‘‘
soF−sSO−d’,
3
9
3
3
10
5 4
“The Sleeper”
5 4
2
1
1
samerlane,,
‘‘
2
2
2
1
3
3
3
2
4
:‘
she Raven,’
5 4
4 3 2
tlalume−A Ballad,,
5 4
4
2
5 4 3
5 4
2
5
5 4 3 2
“To Helen”(1848)
‘‘
`nnabel Lee”
creams°,
‘‘
‘‘
she Happiest day,... ‘‘
‘‘
she Valley of Unrest”
cream−Land,’
“Eulalie−A Song”
4 3
3
2
2
‘‘
rong of Triumph,’
i
2
5
31
17
4
18
3
4
13
3
4
17
3
2
19
3
4
11
3
4
12
4
18
4
3
・{
24
4
5
4 3
5
4
5
4 3
3
“The Conqueror Wom1’,
dldorado即
1
24
27
3
2
17
4
4
2
t
‘‘
1
4
she City in the Sea’,
‘‘
3
3
4 3
4 3
3
4
5
23
5
「[3
‘‘
5
3
し
“Song”
計
3
3
9
28.詩における密室性
ロマン主義の本質〈閉じられた絶対主観〉にあくまでも忠実であろうとし
て,P㏄は密室性の文学を生み出す。密室性とはいたる所で閉じようとする意
52
志である。このことを私たちは別のところで証明した(註1参照)。ここでは
詩にもまた密室性が見てとれることを簡単に示す。
言葉の密室性:現実との対応性を拒み,言葉自体による実体化を目指す。主
に繰返しの詩法による。
作品の密室性:現実から離れて虚構としての自立を目指す。
素材の密室性:扱う素材を限り,それを繰返し使用する。
状況の密室性:Poeの最も緊迫した詩的状況は〈追憶〉であった。ところで
〈追憶〉とは先行したものとの関係で閉じている。
構成の密室性:長い作品を排除しつつ,対照法によって完成感を確保する。
以上。
註
1)詳しくは拙論「E.A. Poe:密室性の想像力」(アメリカ文学研究評論誌『うん』
第17号)を参照。
2)例えば,classicismなる用語は, OEDによれば,19世紀の産物であり,おそらく
は,ロマン主義がもたらした言葉である。
3) Paul Va16ry,‘‘Situation de Baudelaire,,,(γ〃ゴ廊61∫, Paris:Gallimard,1930),
p.155.
4) Edgar Allan Poe,“Letter to M凱B−一”, in T加Woアたs oプE4gαア.4〃σπ
poθ, ed. Edmundαarence Stedman&George Edward Woodberry,(New
York:Charles Scribner’s Sons,1894−95),X,146・日本語への訳は筆者が行った。
以下,詩を除いてPoeの引用は全て同掲書による。また・それは本文中に括弧を用 r
いて,巻数,ページ数の順に示される。
5)Poeに於ける理論と実践の一致は・Poeの痛烈な批判者であるはずのウィンターズ
がある程度逆証明している。Yvor Winters,“Edgar A!1an Poe:ACrisis in the
History of Amとrican Obscurantism,,,(丁乃θRθ‘ogπf,ゴoπo/E4gαアま4〃σ”
Po8 ed. by Eric W. Carlson, An皿Arbor Paperbacks,1970), Pμ176−202.
6) Edmund Wilson,∠4κ〃3 Cαsオ’θ,(London:Collins・1961)・P・17・
7) TS. Eliot,‘‘From Poe to Va16ry,㌧in his To C㎡だ‘ゴzθ飾θC〆∫κ‘・(London:
Faber&Faber,1965), p.40.
8)ツヴェタン。トドロフ,『幻想文学一構造と機能』渡辺明正・三好郁朗訳,(東
京:朝日出版社,1975),Pμ229−30参照。
9) キャンペルが本文に扱った詩篇を数える。 丁加PO8〃350/E4gαハ4〃σ”POθ,
ed. by Killis Campbe11, New York:Russe11&Russe11,1962以下ジPoeの詩の
引用はこの本により行い,本文中に括弧で行数を示すゲ
渡辺:E.A. Poeの詩学 53
10) ‘‘AValentine,,, An Enigma’,.
11)“The Bells”:狙いに徹しすぎて印象に残る失敗作。
12) ‘‘Song,,, Evening Star鱒,‘‘To−’,(The bowers whereat...),‘‘To the River
一’, C‘‘
so−,’(I heed not.、.),‘‘To F−s S.0−d,’,‘‘Scenes from‘Politian∵,
“To M. L. S.一”,“To−一一”,“To my Mother”.
13)その評価の基準は,後出のPoeの詩の評価表を参照。
14)
この35篇の分類は図で示せば,
〈天上・理想と地上・現実〉
<過去と現在> B
C
(35篇)
〈若い美女の死と嘆く男〉一(28篇)
A
i11篇)
A群
: ‘‘Tamerlane”,‘‘Spirits of the Dead’,,‘‘The Sleeper’,,
“Lenore”,“To
One in Paradise’,,‘‘To F−,’,‘‘Sonnet−To Zante,,,‘‘The Raven∬,‘‘Ulalume一
ABallad”,“To Helen”(1848),“Annabel Lee”,以上11篇。
ド
a群:A群の11篇及び次の17篇。 “Dreams”,“A Dream within a Dream”,
‘‘
rtanzas ,‘‘A Dream”,‘‘The Happiest day, the Happiest Hour,㌧‘‘The
Lake: To− ,‘‘Sonnet−To Science,,,‘‘AI Aaraaf,,,‘‘Romance,,,‘‘To
Helen’,(1831),‘‘The Valley of Unrest,,,‘‘The Coliseum”,‘‘Brida13allad,,,
‘‘
she Haunted Palace’,,‘9ream・Land,,, Eulalie−A Song”,‘‘FoヒAnnie鱒.
C群: B群の28篇及び次の7篇。“Fairy・Land”,“lsrafeP’,“The City in the
Sea”,“Hymn”,“Sonnet−Silence”,“The C6nqueror Wbrm”,“Eldorado”.
なおMario Praz,丁加Ro桝α〃f’‘」4go〃第(London:bxford U. P.,1970)
PP.25−7参照。
15) John Keats,‘‘Ode on a Grecian Urn,,,11.11−14・
16)オスカー・ベッカー,『美のはかなさと芸術家の冒険性』久野昭訳(東京:理想
社,1964),参照。
17)Keats,“Ode on Melancholy”,皿,1,及びPoe,“The Phibsophy of Compo一
sition,,,「鴨, 39f.
18) Edmund Burke,!1 P雇’osoρ」晦’‘σJ E”4κ∫アy∫”’o坊θ07’g伽 o/oμ714θσ3
oノ漉θ5κう1∫〃昭σπ4Bθσμffノμ1,(London:Routledge&Kegan Pau1,1958),
P.40f,及びPoe,“The Lake:To−”,13−4・
19)プラトン,「饗宴」(『プラトン1』田中美知太郎編東京:筑摩書房,1964),
54
p.154。
20) Jean Rousset, L,∫〃彪7ゴθκアθ’」’Eκ彫アゴθ那7,(Paris:Jos6 Corti,1968), P.221.
21) Anthony Caputi,‘‘The Refrain in Poe,s Poetry,’,(AL, XXV,1953), pp.169
一178.この論文は,<refrain>をPoeの意識的な手法と認めている。
22) アンリ・ペルグソン,『創造的進化』真方敬道訳,(東京:岩波書店,1954−61),
下巻128ページ中心に参照。
23) <No more>:“To One ln Paradise,,,‘‘Sonnet−To Zante”,‘‘Sonnet一
Silence∬.<Nevermore>: The Raven,,・
24)セーレン・キルケゴール,『反復』桝田啓三郎訳,(東京:岩波書店,1956),
PP.9−12参照。
25)何故くなごませる〉のか。おそらく62−66行目のく私〉の推測に多分烏が,
<Nevermore>と答えて,それが無意味なのでおかしかったのではないか。62行目
で分る通り,〈私〉はその推測を口に出している。一方,〈私〉が何か言えば必ず烏
はそう答えるはずであるから。
26)但し,詩と批評の一致は詩のほうの問題ではない。むしろ,批評としての妥当性の
問題に還元せねばならないだろう。“The Philosophy of Composit量on”は,“The
Raven”執筆前に書かれてはいないはずであるからだ。(詩は1845年1月に,批評は1846
年にそれぞれ公表された。)詩学についての持論,執筆当時の記憶・及びこの詩自体をも
とにして,自己批評したものと考えるべきだろう。
27)〈道をふさぎ・森にある秘密を禁じた〉(98−9)ことは,虚構突入以前への回帰
と,〈私〉が森にi捜し求めた隠されてある忘却とを・二つながら拒否することだと考
えれば,この詩に矛盾はない。
28)なお繰返すぐ遭隠〉によってく美〉の実現を果した短篇作品としてくラィジィァ〉
を挙げられる。Poeがこれを〈私の中で最高の作品〉と考えるのも頷けるだろう。
丁乃8Lθず彪7s o/E49σプ.A’1伽Poε, vols.2, ed. by John Ward Ostrom,(New
York:GQrdian Press,1966), p.309,329.
29) cf.‘‘Dream↓and’,,56・
30)例えば,Patrick F・Quinn,丁加F7θπσ乃Fσoθo/E49σ7・4”απPoθ・
(Carbondale:Southern IHinois U. p.,1971),§5.
31) Joseph Chiari, Sン〃2δ01fs〃2メ70〃2 Poθ∫o Mσ〃α7〃36・(New York:Gordian
Press,1970), p.162 f.
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