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「地球規模の海面変化に伴う沿岸地域の地形変遷」 1.地球規模の気候

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「地球規模の海面変化に伴う沿岸地域の地形変遷」 1.地球規模の気候
2008.3.13
「水資源・ユーラシア回廊合同研究会」話題提供
「地球規模の海面変化に伴う沿岸地域の地形変遷」
松 原
彰 子(慶応大学)
1.地球規模の気候変化,海面変化および海岸線変化
(1)気候変化の復元方法
方 法
温度計による計測
歴史記録に基づく復元
樹木年輪の分析
花粉化石の分析
氷河の痕跡による復元
氷床コア解析
深海底コア解析
特
徴
精度の高い実測値
古文書の記録の解析
年輪幅の計測,安定炭素同位体比の測定
古植生の復元に基づき古気候を推定
氷河地形,氷成堆積物などから過去の氷河分布を推定
氷に含まれる酸素同位体比から古気温を推定
有孔虫化石に含まれる酸素同位体比から古海水量を推定
(2)過去約 100 万年間における地球の気候変化の特徴
氷期・間氷期サイクル(約 10 万年周期で 10℃の気温変化)(図1)
図1
1
復元可能な時間
数百年前まで
数百年~約千年前まで
数千年前まで
数万年前まで
数十万年前まで
約百万年前まで
数十万年前まで
(3)気候変化の原因
自然要因
惑星地球の運動
太陽活動の変動
深層循環
火山活動
特
徴
地球の公転軌道・自転軸の傾きの周期的変化
太陽黒点数の周期的変化
表層流と深層流から成る海洋の循環システム
大規模噴火に伴う日傘効果
人為的要因
化石燃料の大量消費
植生破壊
自然改変
特
徴
石炭・石油・天然ガスの燃焼によって生じる温室効果
二酸化炭素吸収源である植生の減少
河川流域および海岸部における人間活動
時間スケール
105~104
103~101
103~101
102~100
102~100
〃
〃
(4)気候変化と海面変化の関係(図2)
気
候
変
化
海 水 面 体 積 変 化
氷 河 量 変 化
(海面の膨張・収縮)
(氷河の拡大・縮小)
海 水 面 変 化
相 対 的 海 面 変 化
アイソスタシー
(氷河や海水の荷重変化に伴う地盤変形)
による地形変化
地震による地形変化
図2
気候変化と海面変化の関係
2
(5)過去数十万年間における地海面変化(図3)
氷期-低海面期/間氷期-高海面期,100m 以上の変動幅
図3
(6)海面変化による海岸線の変化
地球規模の海面変化による海岸線変化(古地理変遷)
地球規模の海面変化に伴う関東平野の海岸線変遷(図4)
①
②
約 120,000 年前の最終間氷期最温暖期・最高海面期
下末吉海進:現在の台地および低地は海底
古東京湾の形成
約 20,000 年前の最終氷期最寒冷期・最低海面期
海退:東京湾は陸化
古東京川の形成
③ 約 6,000 年前の後氷期最温暖期・最高海面期
縄文海進:現在の沿岸低地に海が進入
3
奥東京湾の形成
①
②
③
図4
過去約 12 万年間における関東平野の古地理変遷図
日本第四紀学会編(1987)に基づいて作成
4
2.発表者の研究紹介
「完新世における砂州地形の発達過程」
(地球規模の気候変化・海面変化による海岸地形の変遷および人間活動への影響)
(1)研究の目的
砂州地形(海岸線に平行にのびる高まり地形の総称)の発達過程における共
通点と地域差に関わる要因を明らかにし,日本の砂州地形の特徴を示す.
砂州地形(Coastal ridges):砂州(Coastal barrier) 砂嘴(Sand spit) 浜堤(Beach ridge)
海岸砂丘(Coastal dune)など
[課題]
①「過去に高海面期が存在する」という日本における相対的海面変化の特徴は,砂州地形の発
達にどのように影響したか?
→
②
日本の砂州地形は,地球上に分布する砂州地形の中で特殊な存在か?
→
③
砂州はテクトニックに安定した地域に広く発達する傾向が見られるのに対して,島弧
-海溝系に位置する日本列島の砂州にはどんな特徴が見られるか.
現在見られる砂州地形の形態の違いは,何を反映したものか?
→
④
地形発達史的に見て,砂州は海面上昇の過程で形成されたものと考えられているが,
日本における砂州地形発達と相対的海面変化との関係はどのようなものか.
砂州地形の発達過程における地域差はどのようなものか.また,それと現在の地形と
はどう関係するか.
砂州地形の形成後,そこが人間の活動の場になるまでには,どの程度の時間がかかるか?
→
砂州地形の形成時期を,遺跡の年代から推定することは妥当か.
(2)従来の研究における問題点
・完新世後半の海面停滞期~低下期の発達過程が中心で,完新世前半の海面上昇期における発
達過程の研究が少ない.
・砂州地形の形成時期および発達段階の考察が不十分.
(砂州地形の形成時期の推定は,砂州地形の後背地における年代測定値に基づくか,
砂州地形上に立地する遺跡の年代によって行われることがほとんどであった.
)
5
(3)研究の方法
・地形学的解析:現在の地形および埋没地形の把握
・地質学的解析:砂州構成層および砂州後背地の堆積物を対象にした層序解析による堆積環境の
推定
・古生物学的解析:砂州後背地の堆積物中に含まれる有孔虫化石群集解析に基づく古環境復元
→
内湾環境における塩分濃度(外洋水流入の割合)の指標となる有孔虫化石を用いること
によって,層相変化からは読み取れない堆積環境変化を明らかにする.
現在の地形に基づく日本における砂州地形の分類と分布
(4)考察結果
6
・砂州地形の発達過程は,以下の3段階(I~III)に分けられる.
発達段階
特 徴
I.砂州構成層堆積期
砂州はまだ離水していない
II.砂州による閉塞開始期
砂州の一部は離水する
後背地の環境
相対的海面変化
内 湾
海面上昇期
潟 湖
海面上昇期
海面上昇速度›土砂堆積速度
海面上昇速度‹土砂堆積速度
III.砂州による閉塞完了期
砂州が完全に離水し,海側に
は浜堤列が形成され始める
沼沢地・湿地
海面停滞期~海面低下期
[課題 ①,③]
・砂州地形の形成は,現在の海岸低地の形態にかかわらず,完新世前半の海面上昇期(約 6000
年前以前)に始まっていた.
・砂州地形の完成時期は,相対的海面変化において海面が停滞ないし低下した時期(6000~5000
年前,5000~4000 年前,約 2000 年前)にほぼ対応している.
[課題 ②,③]
・砂州地形発達における地域差は,海進過程で砂州が内湾の閉塞を開始する時期,および閉塞を
完了する時期の違いとして現れる.このような地域差の原因は,堆積場の地形・土砂供給量・
地殻変動などの条件の違いにある.一方,これらの条件は,海退過程における砂州地形発達(浜
堤の形成)にも影響を与え,現在の海岸低地の形態を決定づける.
[課題 ④]
・砂州地形の完成時期と,そこが恒常的な人間活動の場になる時期との間には,数千年程度の時
間間隔が存在する.
(5)浮島ヶ原における砂州地形の発達過程と人間活動の変遷
浮島ヶ原低地の特徴
・富士山・愛鷹山の南麓に東西方向に細長く分布する低地で,駿河湾奥の海岸部に発達する砂州と
後背湿地(泥炭地)から成る(図5)。
・駿河トラフの東側に位置することから,プレートの沈み込みによって地殻の沈降が続いている。
浮島ヶ原低地の砂州地形
・現在の地形として把握できるのは海岸部の砂州 1 列のみであるが,内陸側の後背湿地には2列の
埋没砂州が存在することが明らかになった(図6)。
7
愛鷹山
黄瀬川
駿河湾
狩野川
図5
浮島ヶ原低地の地形と遺跡分布
a.山地 b.扇状地
c.完新世段丘I
h.旧流路
j.砂州 I の内陸縁の位置
i.海域
m.弥生時代の遺跡
d.完新世段丘 II e.三角州
n.古墳時代の遺跡
f.砂州地形
k.砂州 II の内陸縁の位置
o.歴史時代の遺跡
g.後背湿地
l.縄文時代の遺跡
M:雌鹿塚遺跡 Sh:神明塚遺跡
N:沼津城址 Sn:三枚橋城址 M83:オールコア・ボーリング地点
砂州地形の復元方法
・ボーリング・データを中心とした地質資料の解析
・オールコア・ボーリング試料の分析
堆積物の観察
14C年代測定
有孔虫化石分析
・有孔虫(Foraminifera)
石灰質ないし砂質の殻を持つ原生動物。殻の大きさは 0.1~1mm 程度。
海水~汽水の環境に広く分布する。底生有孔虫と浮遊性有孔虫があり,塩分濃度や水温などの
環境指標になる。
砂州地形発達過程の復元結果
約 9,500 年前
~約 7,000 年前
約 6,500 年前
約 6,000 年前
愛鷹山の山麓部まで海域が拡大
→ 内湾の形成
海水の影響が増加するが,内湾の環境は外洋水が直接流入するようなもので
はなかった
→ 砂州 I の形成はすでに始まっていた
海水の影響をほとんど受けない潟湖環境に変化
→ 砂州 I の一部が離水して内湾の閉塞が開始された
沼沢地~湿地の環境に変化
→ 砂州 I が完全に離水して内湾の閉塞が完了した
8
約 6,000 年前
砂州 I の完成期
傾動
約 4,000 年前
砂州 II の完成期
海面低下
約 2,000 年前
砂州 III(現在の海岸砂
州)の完成期
約 1,500 年前
大淵スコリア
(富士山起源)の降下期
砂州 I の埋没
山地
砂州
図6
湿地
遺跡
火山降下物
浮島ヶ原における砂州地形の発達過程
9
参考図書
貝塚爽平(1977):『日本の地形 ―特質と由来―』(岩波新書)
.
貝塚爽平(1979):『東京の自然史 増補第二版』(紀伊國屋書店).
日本第四紀学会編(1987):『日本第四紀地図』(東大出版会)
.
中村和郎・小池一之・武内和彦(1994):『日本の自然 地域編3 関東』(岩波書店)
.
吉野正敏・安田喜憲編(1995):『歴史と気候』
(朝倉書店)
.
小池一之・太田陽子編(1996):『変化する日本の海岸 ―最終間氷期から現在まで―』(古今書院).
鈴木秀夫(2000):『気候変化と人間 ―1 万年の歴史―』(大明堂).
酒井治孝(2003):『地球学入門 ─惑星地球と大気・海洋のシステム─』
(東海大出版会).
池谷仙之・北里 洋(2004):『地球生物学 ─地球と生命の進化─』(東大出版会).
大山正雄・大矢雅彦(2004):『大学テキスト 自然地理学 上巻・下巻』(古今書院).
町田 洋・大場忠道・小野 昭・山崎晴雄・河村善也・百原 新編著(2003):『第四紀学』(朝倉書店).
藤井理行(2005):極域アイスコアに記録された地球環境変動.地学雑誌,114(3),p.445~459.
第四紀学会・町田 洋/岩田修二/小野 昭 編(2007)
:
『地球史が語る近未来の環境』
(東大出版会).
松原彰子(2008):『自然地理学 ―自然環境の過去・現在・未来―[第2版]』(慶応大出版会)
.
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