Comments
Description
Transcript
Untitled - 神戸大学大学院経営学研究科 神戸大学経営学部
全社員を対象とした対話型組織開発に関する評価研究 ― AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ た 会 議 の 事 例 分 析 ― 立川紫乃 目次 第 1章 は じ め に ................................................................................... 3 1.1. 本 研 究 の 目 的 .............................................................................. 3 1.2. 問 題 の 背 景 ................................................................................. 3 1.3. 本 論 文 の 構 成 .............................................................................. 4 第 2章 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー ................................................................... 6 2.1. 組 織 開 発 の 概 念 的 定 義 ................................................................. 6 2.2. 組 織 開 発 の 変 遷 と 理 論 的 背 景 ....................................................... 9 2.3. 対 話 型 組 織 開 発 (Dialogic OD)の 説 明 ........................................... 1 3 2.4. 対 話 型 組 織 開 発 の 効 果 研 究 レ ビ ュ ー .......................................... 1 8 2.4.1. フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 効 果 研 究 ........................................... 1 8 2.4.2. ア プ リ シ ア テ ィ ブ ・ イ ン ク ワ イ ア リ ー (AI)の 効 果 研 究 ........... 1 9 2.5. 先 行 研 究 の 意 義 と 限 界 .............................................................. 2 2 2.6. 研 究 課 題 ................................................................................. 2 3 第 3章 3.1. 事 例 研 究 ................................................................................ 2 5 調 査 対 象 ................................................................................. 2 5 3.1.1. 対 象 の 選 定 ........................................................................ 2 5 3.1.2. 対 象 の 概 要 ........................................................................ 2 5 3.1.3. 中 村 ・ 立 川 (2012)に よ る 質 問 紙 調 査 の 結 果 ........................... 3 0 3.2. 調 査 方 法 ................................................................................. 3 4 3.2.1. 調 査 方 法 の 選 定 .................................................................. 3 4 3.2.2. 観 察 調 査 ........................................................................... 3 5 3.2.3. イ ン タ ビ ュ ー 調 査 .............................................................. 3 5 3.2.4. 分 析 方 法 ........................................................................... 3 6 1 第 4章 分 析 結 果 の 提 示 ....................................................................... 3 7 4.1. 短 期 的 ア ウ ト カ ム .................................................................... 3 7 4.2. 長 期 的 ア ウ ト カ ム .................................................................... 4 3 4.3. FD に 影 響 を 与 え た 要 因 ............................................................ 4 4 4.3.1. 活 動 計 画 の 話 し 合 い ........................................................... 4 5 4.3.2. 活 動 の 意 味 づ け .................................................................. 4 9 4.3.3. 権 限 の 所 在 ........................................................................ 5 2 5.1. 発 見 事 実 ................................................................................. 5 5 5.5.1. 研 究 課 題 ① : 対 話 型 組 織 開 発 に よ り 得 ら れ る 効 果 ................. 5 5 5.1.2. 研 究 課 題 ② : 対 話 型 組 織 開 発 に 影 響 を 与 え る 要 因 ................. 5 5 5.2. 先 行 研 究 と の 比 較 .................................................................... 5 7 5.2.1. ハ ン ド ブ ッ ク 、 既 存 の 評 価 研 究 と の 比 較 検 討 ....................... 5 8 5.2.2. Polanyi(2001)と の 比 較 検 討 ................................................ 5 9 5.2.3. Bushe and Kassam(2005)と の 比 較 検 討 ............................... 6 3 第 6章 結 論 ....................................................................................... 6 7 6.1. 本 論 文 の 要 約 と 結 論 ................................................................. 6 7 6.2. 理 論 的 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン ....................................................... 6 8 6.3. 実 践 的 イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン ....................................................... 6 9 6.4. 残 さ れ た 課 題 と 今 後 の 展 望 ....................................................... 7 1 参 考 文 献 .............................................................................................. 7 3 謝 辞 .................................................................................................... 7 8 2 第 1章 1.1. はじめに 本研究の目的 本研究の目的は、第一に対話型組織開発の実施によってもたらされる効果を 明らかにすること、第二にその効果に与える要因を明らかにすることである。 本研究では、実際に組織開発が行われた事例に基づき分析を行い、どのよう な効果を組織開発がもたらしているのかを明らかにしたい。 1.2. 問題の背景 バ ブ ル 崩 壊 後 、「 失 わ れ た 20 年 」と も 言 わ れ る ほ ど 日 本 企 業 は 業 績 が 停 滞 し ている。それに対して、日本企業は経営システムや人員を対象とした構造改革 や業務改善などを実施し、改善への努力を行ってきた。一定の成果は見られた ものの、組織でのコミュニケーション不全や、合併や事業転換に伴うモチベー ションの低下や葛藤の発生など、職場のあり方や変化によって問題を抱えてい る組織が多くみられる。組織を変革する取り組みの中で決定的に欠けているの は、このような組織のあり方といったソフトな要因に対して働きかけを行う組 織 開 発 と 呼 ば れ る ア プ ロ ー チ で あ る 。 柴 田 (2008)は 、 構 造 改 革 な ど 仕 組 み に の み働きかけるようなアプローチは、即効性があり一時的な効果は得られるが長 続きしないと述べている。一方で、彼は仕組みを動かす人や組織に働きかける 組織開発のようなアプローチを用いることで、問題解決のためのプロセスが回 り、長期的な変革を起こすことができるとも述べている。日本では、このよう なソフトな要因に対する働きかけとして、研修やコーチングやキャリア開発な どが行われている。しかし、これらはあくまでも個人が対象であり、部署や組 織全体を対象とした組織文化やチーム・ビルディングなどの人間関係への側面 に 対 し て 働 き か け を 行 い 、 変 革 を 推 進 す る 機 能 は 日 本 企 業 で は 薄 い (中 村 , 2010a)。近 年 、よ う や く そ の よ う な 組 織 を 対 象 に ソ フ ト な 側 面 に 働 き か け る 組 織 開 発 の 手 法 に 関 す る ハ ン ド ブ ッ ク の 日 本 語 訳 が 出 版 さ れ 1 、少 し ず つ で は あ る が実践も行われている。その流れをより後押しするために、事例を記述し効果 について検討することは重要であると考えられる。 Whitney and Trosten-Bloom(2003) Weisbord and Janoff(2000)、 Brown and Isaacs(2005)。 1例 え ば 3 組織開発の事例を記述し効果を検討することは、理論の貢献にも繋がる。近 年注目されている組織を対象に、ソフトな要因に対して働きかけを行う対話型 組織開発は、アメリカなどを中心に一過性の流行現象と言われるほど多くの組 織・コ ミ ュ ニ テ ィ で 実 施 さ れ た (Bushe, 2011)。組 織 以 外 に も ネ パ ー ル の 健 康 プ ロ ジ ェ ク ト (Messerchmidt, 2008)な ど 、 地 域 単 位 で も 実 施 さ れ て い る 。 成 功 事 例の報告は多くみられるが、実践家は事例の効果測定をすることに消極的であ り (Messerchmidt, 2008)、実 践 と 研 究 の 結 び つ き が 弱 い (Bartunek et al., 2011) た め に 評 価 研 究 と い う 形 で の 蓄 積 が 少 な い 。そ の た め 、手 法 の 改 善 に 繋 が ら ず 、 な ぜ 組 織 開 発 が 成 功 し た の か 検 討 が で き な い 状 況 に あ る (Bushe, 2011)。手 法 の 発展のために、対話型組織開発のプロセスを理解し効果を評価することが求め ら れ て い る (Polanyi, 2001)。 1.3. 本論文の構成 本節では、本論文の構成を述べる。1 章の 1 節と 2 節では実務界、経営学の 研究における現状について述べた。実務界では構造改革など仕組みにのみ働き かける改革には限界がきており、組織に対して組織文化などの側面に対して働 きかけを行うことが必要である。それを担うのが組織開発であると述べた。ま た、研究面において、事例報告はあるものの、効果に対する検討があまりされ ていないことを指摘した。 2 章の先行研究レビューでは対話型組織開発について述べる前に、まず組織 開発の定義、変遷、理論的背景について概観する。その中で対話型組織開発が どのような位置づけなのかを述べる。また対話型組織開発の効果研究のレビュ ーをまとめ、効果研究の数自体が不足している点、長期的な効果研究がされて いない点を指摘する。その上で本研究の研究課題を提示する。 3 章では本研究で扱う事例と調査方法について述べる。本研究では、A 社で 実施された対話型組織開発を事例として用いた。調査は対話型組織開発の手法 を 組 み 合 わ せ て 実 施 し た FD 実 施 時 の 観 察 調 査 、 FD 実 施 後 9 か 月 経 過 時 の イ ンタビュー調査を実施した。観察調査で作成したフィールドノーツ、インタビ ュー調査のテキストデータを用いてグラウンデッド・セオリー・アプローチに よって分析を行った。 4 4 章 で は 分 析 結 果 を 提 示 す る 。短 期 的 ア ウ ト カ ム 、長 期 的 ア ウ ト カ ム 、FD に 影 響 を 与 え た 要 因 に 分 け て 記 述 を 行 っ た 。FD に 影 響 を 与 え た 要 因 と し て 、【 活 動 計 画 の 話 し 合 い 】、【 活 動 の 意 味 づ け 】、【 権 限 の 所 在 】 を 提 示 す る 。 5 章では本研究の発見事実をまとめた上で、先行研究との比較を行う。先行 研究で指摘されている効果、影響を与える要因について比較を行い、本研究で 明らかになったことを提示する。 6 章では本研究の要約を行い、本研究が理論的、実践的にどのような貢献が できたかを示す。また、本研究の限界と今後の展望を述べ、対話型組織開発の 効果研究において今後より研究が求められる点について述べる。 5 第 2章 先行研究のレビュー 第 2 章 で は 、本 研 究 の テ ー マ で あ る 対 話 型 組 織 開 発 の こ れ ま で の 研 究 に つ い て整理を行う。まず、対話型組織開発が含まれる組織開発という分野を概観す る。組織開発とは何かを明らかにした後、組織開発の源流となる理論の説明を 加 え な が ら 、組 織 開 発 の 変 遷 の 整 理 を 行 う 。次 に 今 回 扱 う 対 話 型 組 織 開 発 と は 、 組織開発という分野の中でどのようなところに位置しているのか、どのような 実践手法があるのか、その効果はどのようなものがあるのかを整理する。その 後、先行研究の限界と本研究で明らかにする点について述べる。 2.1. 組織開発の概念的定義2 本節では、組織開発について、その定義や隣接分野との比較を行いながら、 組織開発とは何かを説明していく。 組 織 開 発 (organization development;OD と 略 さ れ る )は 、研 究 と 実 践 が 相 互 に 関 わ り な が ら 発 展 し て き た 分 野 で あ る た め 、定 義 す る こ と は 難 し い (Marshak, 2006)。 そ の た め 、 こ こ で は 明 確 な 定 義 を せ ず 、 最 も 一 般 的 に 用 い ら れ る 定 義 を紹介し、その特徴を捉えることに留める。ハンドブックや論文で最も用いら れ て い る 定 義 は Beckhard(1969)の 「 組 織 開 発 と は 、 計 画 的 で 、 組 織 全 体 の 、 トップによって管理された、組織の効果性と健全性を高めていく、行動科学の 知識を用いた、組織のプロセスに対する計画的な介入の実践」である。 Beckhard(1969)に よ り 定 義 さ れ た 以 後 、組 織 開 発 は 黎 明 期 、規 範 期 、多 元 期 、 拡 散 期 、混 迷 期 を 経 て 新 た な 理 論 や 実 践 が 加 わ り 、現 在 も 発 展 を 遂 げ て い る (中 村 , 2010b)。 そ の た め 、 Beckhard(1969)の 他 に も 、 近 年 ま で の 組 織 開 発 の 発 展 を 踏 ま え た 定 義 を 紹 介 す る 。第 一 に Burke(2011)に よ る 、(1)計 画 的 な 実 践 で あ る こ と 、 (2)行 動 科 学 が 適 用 さ れ る こ と 、 (3)人 間 中 心 的 、 参 加 的 、 協 調 的 (ヒ ュ ー マ ニ ス テ ィ ッ ク な 人 間 観 に 基 づ く 価 値 観 で あ る こ と )、 (4)長 期 の プ ロ セ ス 介 入 で あ る こ と 、 と い う 定 義 で あ る 。 第 二 に 中 村 (2007)の 定 義 を 紹 介 す る 。 中 村 は 、Beckhard(1969)、Burke(1982)、Vaill(1989)、Porrras and Robertson(1992)、 2 組織開発の発祥の地であるアメリカにおいても組織開発の定義はさまざまであ り 、組 織 開 発 の 定 義 を す る こ と は 難 し い (中 村 ,2010)。組 織 開 発 の 定 義 を 整 理 す る こ と は 本 研 究 の 研 究 目 的 か ら 外 れ る た め 、こ こ で は 主 な 定 義 を 紹 介 す る こ と に 留 め る。 6 French and Bell(1999)、 Cummings and Worley (2005)、 Burke and Bradford(2005)、Warrick(2005)の 8 例 を 取 り 上 げ 、理 論 、価 値 、目 標 、対 象 、過 程 の観点から考察をした上で、 「 組 織 開 発 と は 、ア ク シ ョ ン・リ サ ー チ や シ ス テ ム 理論を含めた行動科学の知見や手法を用い、ヒューマニスティックな価値観に 基づきながら、組織の効果性を高めることを目的として実施される。組織内の プロセスや組織文化などの人的要素を含めた組織の諸次元に対して、協働的な 関 係 性 を 通 じ て 働 き か け て い く 、計 画 的 、長 期 的 、体 系 的 な 実 践 で あ る (p.23)」 と定義づけている。 以 上 3 つ の 定 義 を 総 合 す る と 、組 織 開 発 と は ヒ ュ ー マ ニ ス テ ィ ッ ク な 価 値 観 に 基 づ い た 、 計 画 的 で 、 行 動 科 学 を 用 い た 長 期 の 働 き か け (介 入 )で あ る と 、 ま とめることができる。 組 織 開 発 の 定 義 を よ り 具 体 的 に す る た め に 、類 似 す る 3 つ の 研 究 領 域 で あ る 構 造 改 革 3 (organizational change) 、 チ ェ ン ジ ・ マ ネ ジ メ ン ト 4 (change management) 、 組 織 変 革 (organization change ; 組 織 転 換 5 organizational transformation)と の 比 較 を 行 う 。 歴 史 的 な 流 れ を 追 う と 、 組 織 開 発 、 構 造 改 革 、 チ ェンジ・マネジメント、組織変革の順で発展していき、現在では 4 つのアプロ ー チ が 併 存 し て い る (亀 田 ら , 2009)。 ま ず 、 構 造 改 革 (organizational change)と の 比 較 を 行 う 。 構 造 改 革 は 、 1960 年 代 後 半 か ら 注 目 さ れ た 、組 織 の 構 造 面 を 対 象 と し た 変 革 で あ る (亀 田 ら , 2009)。 1960 年 代 後 半 に 、メ ン バ ー の 態 度 変 容 か ら 出 発 し て 組 織 全 体 の 変 革 に 繋 げ て い くという組織開発のやり方は時間と手間がかかるという批判が起こった。その ため、組織構造というマクロな改革をすることで、多数のメンバーの行動を半 ば強制的に短期間に変化させる構造改革という手法に注目が集まるようになっ た。組織開発が管理スタイル・人材・技能・共通の価値観といった人的・文化 的要因に働きかけるのに対して、構造改革は戦略・構造・システムといった構 造的要因に働きかける。これらの双方の特徴から、組織開発と構造改革は相互 補 完 的 な も の で あ る (亀 田 , 1987)と 言 わ れ て い る 。 3 亀 田 (1987)で は 「 組 織 変 革 」 と 訳 さ れ て い る が 、 亀 田 (2009)で 「 構 造 改 革 」 と 文 言が変更されている。 4 亀 田 (2009)で は 「 戦 略 変 革 」 と 書 か れ て い る 。 5 亀 田 (2009)で は 、 組 織 転 換 と 組 織 変 革 が 同 義 語 と し て 用 い ら れ て い る 。 7 次 に チ ェ ン ジ ・ マ ネ ジ メ ン ト (change management)と の 比 較 を 行 う 。 チ ェ ン ジ・マ ネ ジ メ ン ト と は 、 「 組 織 と 従 業 員 が 、新 た に 存 在 す る 業 績 目 標 に 速 く 効 果 的に到達するための原理である。クライアントが正しい経営方法やプロセス、 組織構造、従業員の業績を上げる能力を手伝うことによって、変革目標を達成 す る 」 (Worren et al., 1999, p.277, 筆 者 訳 )こ と で あ る 。 チ ェ ン ジ ・ マ ネ ジ メ ン ト は 、1980 年 代 に ア メ リ カ 経 済 が 不 況 に 陥 り 、比 較 的 短 期 間 に 組 織 全 体 の 方 向性を変更することによって、組織メンバーの行動を変えることを目的に、新 た に 作 ら れ た (亀 田 ら , 2009)。 そ の 火 付 け 役 は コ ン サ ル テ ィ ン グ フ ァ ー ム で あ り、コンサルティングファームはチェンジ・マネジメントを行うために「リエ ンジニアリング」や「ビジネス・プロセス・アウトソーシング」という名前の 新 し い 部 署 を 設 置 し た 。 Worren et al.(1999)に よ っ て 、 組 織 開 発 が 組 織 の 変 化 よ り も 個 人 の 変 化 に 目 を 向 け す ぎ て い る こ と や 、 OD 実 践 家 は ビ ジ ネ ス に つ い ての理解が浅いことを指摘された。その上で、組織開発のヒューマンプロセス を重視する価値観に付け加える形で、システム・構造・仕事の過程・戦略を分 析 枠 組 み に 加 え ら れ た 。 そ れ に 伴 い 変 革 の 推 進 者 (change agent)の 役 割 の 変 化 も指摘した。組織開発ではファシリテーター、プロセスコンサルタントとされ ているが、チェンジ・マネジメントではプロセスコンサルタントに加え、組織 設計やパフォーマンスに関する内容の専門家の役割を担うと定義された。チェ ンジ・マネジメントは介入手法も戦略、人的資源、組織デザインなどの戦略に 着 目 し 行 動 を 変 え る と い う 方 法 を 取 っ て い る 。 Worren et al.(1999)で は チ ェ ン ジ・マネジメントの価値観として人間主義的価値と経済主義的価値が並列され て い た が 、 Marshak(2005)で は チ ェ ン ジ ・ マ ネ ジ メ ン ト は 経 済 主 義 的 価 値 を 中 心 に 据 え て い る と そ の 違 い が 強 調 さ れ て い る 。 Marshak(2005)は 組 織 開 発 の 再 考 を 狙 い と し Bradford and Burke(2005)の 一 節 と し て 書 か れ て い る た め 、組 織 開発とチェンジ・マネジメントの違いをより明確にするために並列の形を取ら な か っ た の だ と 考 え ら れ る 。 Marshak(2005)が よ り 明 確 に 両 者 の 違 い を ま と め て い る た め 、 そ の 相 違 点 を 図 2-1 に 示 す 。 8 強調点 組織開発 (organization development) プロセス チェンジ・マネジメント 成果・結果 (change management) 図2-1 組織開発と変革マネジメントの違い 方法 中心的な価値観 コンサルタントの関わり方 一言で表すと 社会的・組織的利益のた 当事者が参加し、 人間性 ファシリテーションとコーチ めに人間の開発を促進す 関与していく過程 humanistic ング ること 少数(トップ)が主 導する過程 経済性 economic 変化を設計し、方向づける 経済的利益のための組織 を設計・監督すること Marshak(2005)をもとに中村(2007)が改訂 最 後 に 、 組 織 変 革 (organization change; organizational transformation)と の比較を行う。組織変革は組織開発よりもより広い概念である。組織開発は問 題の解決や効果性の向上という特定の方向に対して組織を変える試みだが、組 織変革は技術・経営のイノベーション、時間の経過に伴ったシステムの進化、 組 織 の 衰 退 な ど よ り 幅 広 く あ ら ゆ る 変 化 を 対 象 と し 適 応 し て い る (Cummings and Worley, 2009)。 ま た 、 亀 田 ら (2009)は 組 織 開 発 、 構 造 改 革 、 チ ェ ン ジ ・ マ ネジメントを合わせた総合的なものとして、組織変革(組織転換; organizational transformation)を 捉 え て い る 。そ の た め 、組 織 変 革 は 組 織 開 発 を含んだ、より包括的な概念だと言える。 以上より、組織開発は人間性を重視する価値観に基づき当事者が組織の効果 性を高めるプロセスに関わるという指向性を持つところに特徴がある。 2.2. 組織開発の変遷と理論的背景 この節では、組織開発の変遷を理論を交えながら説明を行う。本研究の目的 は組織開発の変遷を整理することではないため、組織開発の変遷を体系的にま と め て い る 亀 田 (1987)、西 川 (2009)、中 村 (2010b)を 参 考 に 下 記 に 記 述 す る こ と で、本研究の研究対象である対話型組織開発に至るまでの流れを概観する。詳 し く は 亀 田 (1987)、 西 川 (2009)、 中 村 (2010b)を 参 照 さ れ た い 。 (1)1950 年 代 以 前 【 生 成 期 (亀 田 )、 萌 芽 期 (西 川 )、 黎 明 期 (中 村 )】 組 織 開 発 の 基 礎 に 位 置 づ け ら れ る の は T グ ル ー プ を 使 っ た ラ ボ ラ ト リ ー・ト レーニングとサーベイ・フィードバックである。 ラ ボ ラ ト リ ー ・ ト レ ー ニ ン グ は 、 Lewin ら が 実 施 し た コ ネ チ カ ッ ト 州 の 人 種 対立の改善を課題とした主体的な態度変容を目的とした訓練から生み出された ( 亀 田 , p.90-91 ; 中 村 , 2007 p.5-6) 。 そ の 後 、 NTL(National Training La- 9 boratory の 略 称 ) Institute が 設 立 さ れ 、 T グ ル ー プ と し て 定 式 化 さ れ た 。 T グ ループとは、職場から離れた場所でトレーナーと初対面の参加者から構成され る非構造の対人訓練である。その目的は、参加者やトレーナーとのやり取りを 通じて傾聴・感情表出・率直さ・共感性を高め、協力的な関係を形成すること である。このような他者との援助関係を築くことを重視する価値観が、古典的 な組織開発の基本となった。 初期のサーベイ・フィードバックは、コネチカット州の訓練とほぼ同時期に デ ト ロ イ ト・エ デ ィ ソ ン 会 社 で 実 施 さ れ た (亀 田 , p.92)。職 場 集 団 を 対 象 に 態 度 調査が実施され、収集されたデータを職場成員にフィードバックが行われ、そ れをもとに改善計画が立案され実行された。変容対象の重点は協働関係とリー ダーシップにおかれている。この試みを契機として、組職場成員が客観的なデ ータを受け止め自ら改善計画を立てるというサイクルが発展してきた。この流 れ は Lewin が 提 唱 し た ア ク シ ョ ン・リ サ ー チ と も 一 致 す る (中 村 , 2007;p.8-9)。 アクション・リサーチとは、①問題の特定化、②データ収集、③データの分析 とフィードバック、④アクションの計画と実行、⑤評価、というサイクルを回 しながら実践と研究を行うものである。このようなサーベイ・フィードバック とアクション・リサーチをもとに組織開発の実践が行われた。 ラボラトリー・トレーニングとサーベイ・フィードバックを併用して行われ た ユ ニ オ ン ・ カ ー バ イ ド 会 社 の 職 場 開 発 実 験 (1957 年 )と 、エ ッ ソ ・ ス タ ン ダ ー ド 石 油 会 社 の 事 業 所 開 発 実 験 (1958-1959 年 )が 、 組 織 開 発 の 起 点 と 一 般 に 言 わ れ て い る (亀 田 , p.90)。 この時期の組織開発の特徴として、2 点挙げられる。1 点目は、集団または 組織成員としての個人の意識・態度に直接働きかけてその変容を図ることであ る。2 点目は、対人関係の改善、協働関係の向上を目的とすることである。 (2)1950 年 代 終 盤 ~ 1960 年 代 ご ろ【 普 及 期 (亀 田 )、成 長 期 (西 川 )、規 範 期 (中 村 )】 1960 年 代 ご ろ 、組 織 開 発 は そ の 方 向 性 を 個 人 か ら 組 織 へ と 視 点 を 少 し ず つ 変 えながら広がっていった。 T グループは引き続きこの時期にも継続して実行されたが、志向性に変化が 見られた。他人への共感性の増幅から、組織成員個人の自主・成長・参加とい 10 っ た 自 律 的 価 値 の 尊 重 が 強 調 さ れ る よ う に な っ た (亀 田 , p.93)。 また、マネジリアル・グリッドや脱官僚型組織など、望ましいとされる民主 的組織やマネジャーの態度が想定され、それに向けた変革が試みられた。どの ような組織でも、理想とするのは民主的なマネジャースタイルであり、民主的 組織になることが目指された。アメリカで人権回復運動が起こっていたという 背景も影響し、組織開発の実践家・研究者は組織の民主化を進める提唱者の役 割 も 担 っ て い た (中 村 , p.327)。 この時期の特徴として、組織を変革するための方法と方向が定められている ことと、対象が個人からチームへ徐々に拡大していることが挙げられる。 (3)1960 年 代 終 盤 ~ 1970 年 代 【 動 揺 期 (亀 田 )、 多 元 期 (中 村 )】 1960 年 代 終 わ り か ら 1970 年 代 初 期 に か け て 、組 織 開 発 の 手 法 が 見 直 さ れ あ り 方 が 揺 ら ぎ 始 め た 。 そ の 背 景 に 3 点 の 要 因 が あ る (亀 田 , p.94-95)。 1 点目は、T グループの手法の変容である。T グループは「ストレンジャー 型」と言われる、見ず知らずの人が集まり自分の人との関わり方や自分自身の あ り 方 に 対 し て 気 づ き を 得 て 態 度 変 容 が 起 こ る こ と を 狙 い と し て い た 。し か し 、 元の職場に戻った時に旧来の組織の制度、風土といった社会構成要因が制約と なり、習得した新しい行動パターンを実行することが難しいことが一般に認識 され、より仕事志向の「ファミリー型」のチーム作りへの移行が起こった。フ ァミリー型のチーム作りでは、主に職場の協働関係の改善が行われた。更に、 より対象を広げ全体としての組織へと拡大していった。 2 点 目 は 、 社 会 ― 技 術 シ ス テ ム 論 (Emery and Trist)に よ る 示 唆 で あ る (亀 田 , p.95)。 1960 年 頃 に 組 織 を 分 析 す る 包 括 的 な 枠 組 み と し て 、 オ ー プ ン ・ シ ス テ ム概念を組み込んだ組織の環境適応の必要性が強調された。組織開発へも組織 の変化を促進するために技術システムを利用すること、適応システムとしての 自律的作業集団を編成すること、という示唆が与えられた。 3 点 目 は 、コ ン テ ィ ン ジ ェ ン シ ー 理 論 (Lawrence and Lorsch)に よ る 示 唆 で あ る (亀 田 , p.95)。コ ン テ ィ ン ジ ェ ン シ ー 理 論 の 影 響 に よ り 、組 織 開 発 の 目 的 が 組 織の健全性の重視から組織の適応性の重視へと移行した。また、人間行動を変 容するために従来批判的であった組織構造の利用が示唆された。更に、対象が 11 個人や集団からトータル・システムとしての組織全体へと移行した。 この時期の特徴として、対象が個人から職場、組織全体へと拡大していった こと、目的が組織内部の健全性向上から外部の環境を考慮したトータル・シス テムの改善に移行したことが挙げられる。 (4)1980 年 代 ~ 1990 年 代 【 多 元 期 (亀 田 ) 、 混 迷 期 (西 川 )、 拡 散 期 ・ 混 迷 期 (中 村 )】 この時期の組織開発は、組織内部の行動過程の改善が目的であることは変わ らないながらも、手法が拡散し独自性を失っていった。 クライアントのニーズに応えるために、様々な手法が質的な吟味を加えられ ることなく組織開発に組み込まれていき、組織開発という言葉が無限定に拡大 していった。その一方で、組織開発から組織文化への関心と変革、組織トラン ス フ ォ ー メ ー シ ョ ン 、 学 習 す る 組 織 、 TQM な ど 新 た な 手 法 や 理 論 が 生 ま れ て い っ た (中 村 , p.227)。 つ ま り 、 外 か ら も 新 し い も の が 取 り 入 れ ら れ 、 中 か ら も 新しいものが生まれていった。 また、他の手法にとって代わられることも起きた。アメリカ景気の停滞によ り、民主的な価値観を重視し長期的な実践が必要となる組織開発への批判が高 ま り 、構 造 改 革 と い う 組 織 開 発 に と っ て 代 わ る よ う な 領 域 が 発 達 し た 。さ ら に 、 個 人 の 能 力 開 発 や チ ー ム ・ ビ ル デ ィ ン グ な ど を 行 う HRD 分 野 の 台 頭 に よ り 、 HRD の 文 脈 で OD が 語 ら れ る こ と が 増 え た 。 今 で も HRD の ハ ン ド ブ ッ ク に OD の 記 述 が み ら れ 、 HRD と OD の 境 目 が 曖 昧 で あ る と い う 指 摘 が あ る (西 川 , p.141)。 また、研究者と実践家の分離が見られた時期でもあった。実証主義に沿い研 究蓄積を基礎に学生に講義をするアカデミックな領域と、クライアントのニー ズに応じて介入しながら新たな手法を開発する実践的な領域が、研究テーマや 方 法 論 の 違 い か ら 交 流 が 行 わ れ な く な り 、 OD の 特 色 の 一 つ で あ る 研 究 と 実 践 の 相 互 循 環 が 失 わ れ た (西 川 , p.146-147)。 以上より、この時期に組織開発の理論と手法が拡大するあまり固有の定義と 限 界 を 見 失 い 、「 OD は 死 ん だ 」 と 呼 ば れ る よ う に な っ た (中 村 , p.328) 。 12 (5)1990 年 代 ~ 2000 年 代 以 降 【 再 成 長 期 (西 川 ) 、 現 在 (中 村 )】 組織開発が混迷しているのと同時期に、新たな組織開発のアプローチが生ま れた。それが対話型組織開発と呼ばれるアプリシアティブ・インクワイアリー (Appreciative Inquiry)や フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ (Future Search)な ど で あ る 。 対 話型組織開発に関して、次の節で詳しく説明を行う。 ま た 、1990 年 代 後 半 の OD 理 論 の 拡 散 を 受 け 、こ の 時 期 に OD 専 門 家 に よ っ て OD の 独 自 性 や 存 在 理 由 に つ い て 議 論 が 重 ね ら れ た (中 村 , p.328)。 2.3. 対 話 型 組 織 開 発 (Dialogic OD)の 説 明 本 節 で は 、従 来 の 組 織 開 発 と 比 較 を し な が ら 対 話 型 組 織 開 発 の 特 徴 を 述 べ る 。 その後、対話型組織開発の手法であり独自の変革プロセスが規定されているア プリシアティブ・インクワイアリーとフューチャーサーチの特徴についてまと める。 1980 年 代 の 半 ば か ら 、異 な る 原 理 に 基 づ い た 新 た な 組 織 開 発 の ア プ ロ ー チ が 誕 生 し た (Bushe and Marshak, 2009)。 そ れ は ア プ リ シ ア テ ィ ブ ・ イ ン ク ワ イ ア リ ー や オ ー プ ン ・ ス ペ ー ス ・ テ ク ノ ロ ジ ー (Open Space Technology)に 代 表 さ れ る 対 話 型 組 織 開 発 6 で あ る 。こ の よ う な 原 理 の 転 換 は 社 会 構 成 主 義 と い う 認 知の仕方の台頭や、従来の組織開発を乗り越えるためにコンサルティング会社 によって導入されたチェンジ・マネジメントの取り組み、グローバル化による 多文化による多様な現実の認識などによってもたらされた。 従来のような、変化を及ぼすために正しいデータと情報を収集・検証するこ とのできる客観的な現実の存在を仮定し、データに基づいたアクション・リサ ー チ を 用 い る OD を 診 断 型 OD(Diagnostic OD)と 位 置 付 け た 。 一 方 で 、 社 会 構 成主義に基づき人々の認識によって社会は作られるという現実の認知の仕方を 仮定し、直接的な行動の変容ではなく、行動のもととなる人々の考え方や認知 を 変 え る ア プ ロ ー チ を 対 話 型 OD(Dialogic OD)と 名 付 け た 。 図 2-2 に ま と め た ように、両者は認識論の違いから目的、方法、特徴、コンサルタントの関わり 方 に 違 い が あ る 。 診 断 型 OD は デ ー タ を 収 集 し て 、 規 範 的 な モ デ ル や 望 ま し い 中 村 (2010b)で は 「 対 話 的 OD」 と 記 さ れ て い る が 、 中 村 に よ っ て 後 に 「 対 話 型 OD」 と 修 正 さ れ た た め 、 本 研 究 で は 「 対 話 型 OD」 と 記 す 。 6 13 将 来 の 姿 と 比 較 し 改 善 を 試 み る 方 法 で あ る 。 一 方 、 対 話 型 OD は 葛 藤 を 乗 り 越 えコモングラウンドを育て一緒になって計画と行動を起こしていくようデザイ ンされた技術が使われる。具体的には、アプリシアティブ・インクワイアリー (Appreciative Inquiry ; AI と 略 さ れ る ) 、 サ ー チ ・ カ ン フ ァ レ ン ス (Search Conference)、 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ (Future Search)、 オ ー プ ン ・ ス ペ ー ス ・ テ ク ノ ロ ジ ー (Open Space Technology ; OST と 略 さ れ る ) 、 ワ ー ル ド ・ カ フ ェ (World Café)と い っ た 手 法 に 代 表 さ れ る 。近 年 日 本 で も こ の よ う な 手 法 が 紹 介 、 実 践 さ れ る よ う に な っ て き た (e.g.中 村 ・ 津 村 , 2009; 大 住 , 2009)。 図2-2 診断型ODと対話型ODの比較 診断型OD 対話型OD (Diagnostic OD) (Dialogic OD) 実証主義 社会構成主義 もととなる認 客観的な現実があると仮定し、変化を起こす 社会的組織は人びとの想像と集合的意思に 識論 ために調査をして正しいデータと情報を収集 よってのみ、無限に構成される。 する 葛藤を乗り越えコモングラウンドを育て一緒 データを収集して、規範的なモデルや望まし 方法 になって計画と行動を起こしていくようデザイ い将来の姿と比較する ンされた参加の技術が使われている 新たな行動を導く相互に認識された現実や 目的 直接的に行動変容を目指す 認知を変化させることに焦点を当てる 機会中心のアプローチ。変化のプロセスをよ アプローチ 問題中心のアプローチ。組織が壊れていて り魅力的にするためにビジョンを共有し約束 の特徴 修繕の必要があるという前提に立っている。 をする。 コンサルタントはステイクホルダーの社会的 コンサルタ コンサルタントはプロジェクトメンバーがデータ 現実の見方を共有し、共通に合意できるとこ ントの関わ 収集と分析をするのをファシリテートする。 ろを探す条件を作る機会を計画するという介 り方 入をする。 Bushe and Marshak(2009)をもとに筆者が作成 一方で、人間性を重視し民主的な価値観に基づく点、気づきを促しファシリ テ ー ト す る 点 、コ ン サ ル タ ン ト は 内 容 に 立 ち 入 ら ず プ ロ セ ス に 焦 点 を 当 て る 点 、 シ ス テ ム の 能 力 や 発 展 に 関 心 を 向 け る 点 で は 共 通 し て い る (Bushe and Marshak, 2009)。 次に、対話型組織開発の手法について整理を行う。対話型組織開発に分類さ れる手法は大きく 2 種類に分類される。第一に、完結した独自のプロセス を持 つ フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と AI で あ る 。 第 二 に 、 変 革 プ ロ セ ス の 一 部 を 担 う 手 法 で あ る 。具 体 的 に は 、ワ ー ル ド・ カ フ ェ や OST が 挙 げ ら れ る 。ワ ー ル ド ・ カ フ 14 ェ は 相 互 理 解 や 新 た な 知 識 を 生 み 出 す 手 法 、OST は 話 し 合 い た い 課 題 に 対 す る 実行チームの結成とアクションプランの作成といった自己組織化を行う手法で あり、組織開発を行うために他の手法と組み合わせて使われたり、組織開発の 文 脈 以 外 で ミ ー テ ィ ン グ の 手 法 と し て 用 い ら れ た り す る こ と が あ る (香 取・大 川 , 2011)。 本研究では対話型組織開発による変革の効果の検証を行うことを目的として い る た め 、 独 自 の 変 革 プ ロ セ ス を 持 つ フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と AI に 焦 点 を 当 て る。以下で、それぞれの手法について概観する。 (1)フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ (Future Search)と は フューチャーサーチとは、利害が相反する様々なステイクホルダーが一堂に 会して共通のよりどころを探し、より良い未来の実現に向けて協力し合う方法 を 探 求 す る た め の 手 法 で あ る (Weisbord and Janoff, 2000)。 基 本 原 理 と し て (1)ホ ー ル シ ス テ ム 7 が 一 堂 に 会 す る (2)グ ロ ー バ ル に 考 え 、 ロ ー カ ル に 行 動 す る (部 分 に つ い て 探 求 す る 前 に 、 全体について探求する) (3)未 来 に 焦 点 を 当 て コ モ ン グ ラ ウ ン ド を 明 確 化 す る (4)参 加 者 が 自 己 管 理 し 、 行 動 に 対 す る 責 任 を も つ の 4 つがある。 (1)と (3)の 原 則 は 、 事 例 か ら 導 き 出 さ れ た 。 ホ ー ル シ ス テ ム を 巻 き 込 み 多 様 な観点を持ち寄ることで、一人ひとりが持っていた全体象よりもより完全な全 体像を得ることができることを狙いとしている。更に、今までになかったその 全体像を基盤として、新しい取り組みを始めることができることを期待してい る。 (2)の 原 則 は 、Eric と Trist の 実 践 が 道 し る べ と な っ た (Weisbord and Janoff, pp.93-95)。 ブ リ ス ト ル 社 と シ ド レ ー 社 の 合 併 に 当 た っ て の 戦 略 会 議 に お い て 、 グローバルなコンテクストと産業全体のコンテクストを俯瞰することで、課題 7 ホ ー ル シ ス テ ム と は 、組 織 や あ る 課 題 に 関 わ る 全 て の ス テ イ ク ホ ル ダ ー の こ と を 指 す 。取 り 上 げ る 組 織 、課 題 の 全 体 象 を 把 握 す る た め に 多 様 な 立 場 か ら 見 た 視 点 を 必 要 と し て い る た め で あ る 。ま た 多 く の 人 が 参 加 す る こ と で 新 た な 関 係 づ く り が さ れることも狙いとしている。 15 の検討がしやすくなることが起こった。そのため、フューチャーサーチの原理 にも加えられている。 (4) の 自 己 管 理 の 原 則 は 、 Bion の リ ー ダ ー シ ッ プ 研 究 か ら 派 生 し て い る (Weisbord and Janoff, p.96)。 第 二 次 世 界 大 戦 中 に 行 わ れ た リ ー ダ ー レ ス ・ グ ループの実践から、フューチャーサーチの自己管理に繋がっている。 ま た 、(4)の 原 理 の 背 景 に は 、自 己 組 織 化 と い う 考 え 方 が 存 在 す る 。自 己 組 織 化 と は 、 Wheatley(2008)に よ る と ニ ュ ー サ イ エ ン ス と 呼 ば れ る 近 年 の 物 理 学 、 生物学、化学の分野の研究から生まれた知見である。化学分野においてプリゴ ジンが証明しノーベル賞を受賞した、 「 あ る 物 質 が 、環 境 の 変 化 に 合 わ せ て 、よ り高い秩序に自らを再組織化する」というものである。ニューサイエンス以前 の科学は、ニュートンやデカルトなどの機械論的世界観に基づき、部分を理解 することで全体が理解できるという仮定を持っていた。また、生命体や組織な どの解放系システムを機械のように扱い、平衡を尊重した。フィードバック・ ループの研究においても、システムの構造に焦点を当てられた。しかし、この 見方は非平衡になることで変化に適応しシステムが増強されるという流れを見 落としていた。プリコジンが熱力学の研究において、研究対象をシステムの構 造からシステムのダイナミクスに移したことで、非平衡がシステムの成長に不 可欠な条件だと明らかになった。このような新しい情報を処理できるように自 分 自 身 を 再 編 成 す る 内 在 的 な 能 力 の こ と を 「 自 己 組 織 化 」 と 呼 ぶ (Wheatley, p.121)。 準 拠 で き る 明 確 な 組 織 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 沿 っ て 人 が 自 由 に 決 断 を 下せることで、環境の変化に聡明に対応でき、より安定しより自立したシステ ムになり、一貫性と強さのあるシステムになる。このような自己組織化が対象 組織に起こることを推進するように、フューチャーサーチは設計されている。 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ は (1)ホ ー ル シ ス テ ム が 一 堂 に 会 す る と い う 原 則 に 従 い 、 8 種 の ス テ イ ク ホ ル ダ ー か ら 各 8 名 が 参 加 、 つ ま り 8×8 の 64 名 の 参 加 者 を 想 定している。多様な参加者がグループワークや全体でのワークを通じて過去を 振り返り、現在を探求し、理想的な未来のシナリオを作成し、共通のよりどこ ろ (コ モ ン グ ラ ウ ン ド と 呼 ば れ る )を 明 確 化 し 、 行 動 計 画 を 作 成 す る と い う 流 れ を経る。意図されている効果は、参加者が個人的に責任を引き受けること、ア クションプランの迅速な実行、主要な領域の人々が自分たちの領域を超えて持 16 続的な関係を築くことを可能にすることである。 (2)ア プ リ シ ア テ ィ ブ ・ イ ン ク ワ イ ア リ ー (AI)と は AI の 概 念 的 定 義 は 、 人 や 組 織 、 そ れ を 取 り 巻 く 社 会 に お い て 組 織 が 持 つ 潜 在 力 を 、組 織 メ ン バ ー の 協 働 を 通 じ て 探 求 し 、経 済 的 な 観 点 、社 会 環 境 の 観 点 、人 材 の 観 点 か ら 、最 も 効 果 的 に 強 み を 発 揮 す る た め に ど う す べ き か を 包 括 的 に 探 求 し て い く 活 動 で あ る (Cooperrider and Whitney , 2005)。 す な わ ち 、 AI は 組 織 の 潜 在 力 を 探 求 し 、 そ れ ら を 組 織 の 強 み と し て 発 揮 す る た め の 活 動 で あ る 。 Cooperrider and Whitney に よ る と 、 AI は 問 題 解 決 ア プ ローチと対比して説明されることが多い。従来の問題解決アプローチでは、 差 し 迫 っ た 問 題 に 対 し て 原 因 究 明 が な さ れ 、解 決 策 の 検 討 と 計 画 立 案 が 行 わ れ る 。 一 方 、 AI で は 成 功 経 験 を 語 り 合 う こ と を 通 じ て 組 織 や 個 人 が 持 つ 活 力 、 強 み を 探 り (Discovery)組 織 の 潜 在 力 を 認 識 し た 上 で 、 潜 在 力 が 発 揮 さ れ た 状 態 の ビ ジ ョ ン を 明 確 に し (Dream)、ビ ジ ョ ン を 実 現 す る た め の 計 画 立 案 が 行 わ れ (Design)、 そ の 後 実 行 に 移 っ て い く (Destiny)。 こ の よ う な ス テ ップを、アクティビティや対話を通じて行うことで変化が推進されていく。 基 本 原 理 と し て は 、① 構 成 主 義 、② 同 時 性 、③ 詩 的 隠 喩 、④ 予 期 成 就 、⑤ ポ ジ テ ィ ブ 性 、 が 挙 げ ら れ る (Whitney and Trosten-Bloom, 2003)。 このような対話型組織開発により、異なる集団間での連携作り、対立から協 働 へ の 関 係 性 の シ フ ト 、 変 革 に 対 す る 当 事 者 意 識 の 高 ま り (中 村 ・ 津 村 , 2009) が期待される。社会全体に広まっている閉塞感、停滞感の中で、新たなシナリ オの構想とその実現を行うには、このような関係性を変化させ関係者の当事者 意識を高める方法は有望であると考えられる。しかしながら、方法論としてハ ン ド ブ ッ ク の 出 版 が 進 み 8 、様 々 な 組 織 や コ ミ ュ ニ テ ィ を 対 象 に 実 践 が 行 わ れ て いるが、どのような効果をもたらすのかについての検討が少ない。次節で、少 ないながらも現在までに提示されている対話型組織開発の効果をレビューする。 Whitney and Trosten-Bloom(2003)、 Weisbord and Janoff(2000)、 Brown and Isaacs(2005)。 8例 え ば 17 対話型組織開発の効果研究レビュー 2.4. 本節では、対話型組織開発によって得られる効果を概観していく。対話型組 織開発の手法として分類される手法の中でも、独自の変革プロセスが規定され て い る フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と AI の 効 果 研 究 に つ い て 、 議 論 を 行 う 。 2.4.1. フューチャーサーチの効果研究9 本項では、まずフューチャーサーチの効果について、ハンドブックにおいて どのような効果が期待されているのか、また実践においてどのような効果が得 られているのか整理を行う。 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の ハ ン ド ブ ッ ク で あ る Weisbord and Janoff(2000)で は 、 フューチャーサーチによって得られる効果を仮説として次のように述べている (p.15)。 ・参加者が個人的に責任を引き受けること ・行動計画の迅速な実行 ・主要な領域の人々が、自分たちの領域を越えて持続的な関係を築くことを 可能にする し か し 、 こ れ ら は あ く ま で も 仮 説 で あ り 証 明 さ れ た 理 論 で は な く (Weisbord and Janoff, 2000)、 効 果 の 検 証 が 必 要 で あ る 。 フューチャーサーチについて事例の記述は数多くされているが、調査・分析 の プ ロ セ ス を 経 て 検 証 さ れ て い る 事 例 は 数 少 な い 1 0 。そ の 1 つ に Polanyi(2001) and Janoff(2000) に は 、多 く の フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 実 践 事 例 が 記 載 さ れ て い る 。紹 介 の た め に 、効 果について以下に示す。 ・専門家と親の関係性が敵対関係から親身な関係への変化や専門家とコミュニ テ ィ の 間 に 信 頼 関 係 が 築 か れ た こ と に よ り 幼 児 死 亡 率 が 減 少 し た 。 (自 治 体 ) ・ 利 害 対 立 者 の 意 見 に も 耳 を 傾 け よ う と い う 意 識 が 芽 生 え た 。 (環 境 分 野 ) ・ 役 員 と 社 員 の 関 係 が よ り 近 い も の に な っ た 。 (企 業 ) ・ フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 継 続 的 な 実 施 と フ ァ シ リ テ ー タ ー 養 成 (地 域 に お け る 経 済開発) ・ 地 元 の 企 業 と 高 校 の 提 携 と い う 新 た な 繋 が り が 生 ま れ た 。(コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 ) ま た 、 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ ・ ネ ッ ト ワ ー ク で は 波 及 効 果 プ ロ ジ ェ ク ト (Ripple Project)と い う ア ク シ ョ ン ・ リ サ ー チ を 実 施 し 、フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ 後 に 実 際 に 何 が起きたのかについて記録を作成している。 1 0 Polanyi(2001)の 他 に フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 効 果 研 究 を 試 み て い る 論 文 と し て Steward(1995)、Oels(2000)が 挙 げ ら れ る が 、い ず れ も 博 士 論 文 、修 士 論 文 で あ る 9 研 究 と し て 評 価 が 分 析 さ れ て い る も の で は な い が 、Weisbord 18 がある。ストレス障害に関わる患者、医療従事者などが集ったフューチャーサ ー チ を 用 い た 会 議 の 効 果 測 定 を 実 施 し た 。調 査 方 法 は 、観 察 調 査 、質 問 紙 調 査 、 インタビュー調査が用いられた。会議自体の満足度は高く、会議終了後 9 カ月 に わ た っ て 8 つ の 小 グ ル ー プ の 活 動 が 行 わ れ た 。4 つ の グ ル ー プ は 活 発 に 活 動 、 1 つのグループは適度に活動、3 つのグループは活動していなかった。活動内 容は、情報交換・発信、異なる立場とのネットワーキングと相互サポート、新 たなプロジェクトの立ち上げ、フューチャーサーチのプロセスの活用などであ っ た 。こ の 事 例 で 、そ れ ぞ れ の 活 動 に 影 響 を 与 え る 要 因 と し て 、(1)ミ ー テ ィ ン グ の 時 間 が 確 保 で き る か 、 (2) ア ク シ ョ ン グ ル ー プ を 推 進 す る 人 物 ( 文 中 で は champion と 記 載 )の 動 機 づ け の 高 さ 、(3)目 標 設 定 の 明 確 さ 、が 関 係 す る と 述 べ ている。また、フューチャーサーチの弱みと限界として、参加者が会議で何を やるのか、どのようにコミットするのかを理解していなかった、フューチャー サーチのプロセスでコモングランドやアクションをどこまで決めるのか不明確 であった、活動のためのリソースや権限が不足していた、フューチャーサーチ で行動計画を立てる時間が少なかった、の 4 点について言及されている。そし て、研究の限界として、伝統的な変革プロセスとの比較ができていない点、研 究者自身が本事例において推進者の役割を果たしているため、研究者と推進者 の役割のバランスが取れているかどうか疑問が残る点が挙げられている (p.484)。 2.4.2. ア プ リ シ ア テ ィ ブ ・ イ ン ク ワ イ ア リ ー (AI)の 効 果 研 究 次 に 、AI に よ っ て も た ら さ れ る 効 果 を 検 討 す る 。前 項 と 同 様 に 、ハ ン ド ブ ッ クにおいて期待されている効果について述べた後、実践においてどのような効 果が見られているのか整理を行う。 AI の ハ ン ド ブ ッ ク で あ る Whitney and Trosten-Bloom(2006)、 Cooperrider and Whitney(2006)で は 、AI に よ っ て 比 較 的 短 い 時 間 で 共 有 化 さ れ た ビ ジ ョ ン が作り出され、意思決定が行われ、参加者のアクションへのコミットメントを 引き出し、変化を急速かつ容易に促すと述べられている。 Messerchmidt(2008)に よ る と 、1990 年 代 に AI は 一 過 性 の ブ ー ム が 起 き 、個 ため未公刊である。 19 人や組織、コミュニティ、国家など様々な対象に対して実践されたにも関わら ず、厳格な方法を用いた長期的な効果や影響を調べることが行われていない。 AI を 行 っ た こ と に よ る「 良 い 」結 果 や「 ポ ジ テ ィ ブ な 」結 果 は 多 数 報 告 さ れ て い る 11が 、 長 期 的 な 影 響 や 結 果 の 評 価 は ほ と ん ど な い 。 こ れ は AI 実 践 家 の 評 価 に 対 す る 姿 勢 に 関 係 し て い る 。 AI 実 践 家 は 、 多 く の 評 価 技 術 が AI の 想 定 し て い る 変 化 と 評 価 技 術 で 測 れ る 変 化 が 相 反 す る も の で あ り 、変 化 の プ ロ セ ス が 矛 盾 す る た め 、AI を 評 価 す る こ と は 無 駄 な 試 み だ と 考 え て い た 。 こ れ は 従 来 の 診 断 型 OD で 用 い ら れ て い る 測 定 技 術 を そ の ま ま AI に も あ て は め よ う と し た た め に 起 こ っ た 。 前 述 し た よ う に 、 診 断 型 OD は 実 証 主 義 に 基 づ い て お り 、測 定 は 量 的 な 側 面 ば か り に 目 を 向 け て い た 。測 定 で き る 、 物理的で短期のアウトプットに着目し、変化を測定していた。しかし、対話型 組織開発では社会構成主義に基づいており、客観的な現実を仮定していない。 そ の た め 、 量 的 な 測 定 に は 適 し て お ら ず 、 専 門 家 に よ っ て AI の 効 果 は 測 定 す ることができないと考えられ、厳密な評価がなされなかった。しかし、この点 に関して測定の仕方を変え、量的な短期的アウトプットの測定だけでなく、質 的 な 側 面 に 着 目 し そ の 後 の 影 響 ま で 観 察 す る こ と で 、AI に よ り ど の よ う な 変 化 がもたらされるか明らかにできるという考え方が少しずつされるようになった。 実際に行われた、事例を用いて評価研究を行った論文は現在公刊されているも の で 5 本 挙 げ ら れ る 。(Jones, 1998;Kotellos et al., 2005;Peelle, 2006; Bushe and Coeztzer, 2008; Messerchmidt, 2008)。 本 項 で は こ の 5 本 の 論 文 の 結 果 を 整 理 す る 。 Kotellos et al.(2005) と Messerchmidt(2008)で は 特 定 の 組 織 ・ コ ミ ュ ニ テ ィ に 対 し て AI を 用 い て 介 入 を 行 い 、 そ の 評 価 を 行 っ た 。 Bushe and Coetzer(1995)、 Jones(1998)、 Peelle (2006) は AI を 用 い た 群 、 問 題 解 決 を 行 っ た 群 、 何 も 実 施 し な か っ た 対 照 群 (Peelle (2006)で は 対 照 群 は 設 け ら れ な か っ た )を 比 較 し て AI の 効 果 を 実 証 す る 対 照 実 験 が 行 わ れ た 。 詳 し い 結 果 は 表 2-3 に ま と め た 。 な お 、 Bushe and Coetzer(1995)で は 、 パ フ ォ ー マ ン ス の 点 で 問 題 解 決 群 、 AI 群 、 対 照 群 の 順 に 高 成 績 で あ っ た 。 AI 群 よ り も 問 題 解 決 群 の 方 が パ フ ォ ー マンスが良いという結果については、本実験が大学の講義の一環として行われ 11 AI の 実 践 事 例 を 紹 介 し て い る も の と し て Fry et al.(2002)が 挙 げ ら れ る 。 20 たこと、また実験の期間が短期間であったことから、成功体験を振り返ること を 通 じ た グ ル ー プ ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 確 立 を 行 う に は 時 間 が 足 り ず AI の 効 果 が発揮されなかったと考察されている。以上より、実験群と対照群を用いた短 期 間 の 実 験 と い う 形 で は 、AI の 効 果 を 測 定 す る こ と が 難 し い こ と が 明 ら か に な った。 Bushe and Coetzer(1995)を 除 く 4 つ の 結 果 を 大 ま か に ま と め る と 、 (1)外 部 と の 関 係 性 が 良 好 に な っ た 、(2)仕 事 に 対 し て 肯 定 的 に 考 え る よ う に な り 、オ ー ナ ー シ ッ プ を 持 っ て 積 極 的 に 取 り 組 む よ う に な っ た 、(3)コ ア バ リ ュ ー に よ り 忠 実になり、グループアイデンティティが高まった、ことが挙げられる。また、 Messerchmidt(2008)で は AI の 欠 点 と し て 金 銭 的 、 時 間 的 コ ス ト が か か る こ と と継続性が挙げられている。特に継続性については、新たに職場に入ってきた 人 に 対 し て AI の 考 え 方 や 原 則 、 実 践 に よ る 影 響 に つ い て 伝 え る こ と が 必 要 だ と述べられている。 ま た 、 実 践 に 基 づ く 分 析 で は な い が 、 Bushe and Kassam(2005)は 出 版 さ れ て お り 十 分 な 情 報 量 の あ っ た 20 の 事 例 に 対 し て 、 思 考 パ タ ー ン や 状 況 の パ タ ー ン が AI を 実 施 す る 前 と は 変 わ っ た こ と を 反 映 し た 組 織 の 状 況 や ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 変 化 が 起 こ っ た と い う 転 換 の 伴 う 変 化 (Transformative Change)が 見 られたかどうかと、その要因について、メタ分析を実施した。その結果、アイ デ ン テ ィ テ ィ や 経 営 シ ス テ ム の 状 況 が AI 実 施 前 と 比 べ て 明 ら か に 変 化 し た 事 例 は 、20 件 の う ち 7 件 し か な か っ た 。こ の よ う な 変 革 が 見 ら れ た 事 例 は 、変 革 が 見 ら れ な か っ た 事 例 と 比 べ 、(1)行 動 よ り も 考 え 方 を 変 え る こ と に 焦 点 を 当 て た 、(2)新 し い ア イ デ ィ ア が 生 ま れ る 自 己 組 織 化 の プ ロ セ ス の サ ポ ー ト を 行 っ た 、 ことが共通していることが明らかになった。ただし、研究の限界として、出版 さ れ た 事 例 を 分 析 対 象 に 用 い た た め に 、 変 化 が 起 き た か ど う か と 、 (1)と (2)の 要因が当てはまるかどうかは、記述に基づいており明確な根拠がないことが挙 げ ら れ て い る 。 し た が っ て 、 抽 出 さ れ た (1)と (2)の 要 因 が 他 の 事 例 で も 見 ら れ るか明らかにするために、実証的な研究が求められる。 以上より、そもそも評価研究の数自体が少ないこと、特に長期的な影響を分 析 し た も の が 少 な く 、 ま た AI 実 施 時 の プ ロ セ ス に つ い て 分 析 し た も の が な い (Grant and Humphries, 2006)こ と が 明 ら か に な っ た 。 ま た 、 AI の 効 果 と し て 21 先述した 4 点が挙げられるが、対象が限られており、企業組織など異なる 対象 への実践と評価が求められている。また、変革をもたらす要因に関して触れら れている論文は未だ少ないため、変革の成功や失敗について説明する要因を検 討 す る こ と が 求 め ら れ る (Bushe, 2011)。 図2-3 AIの効果研究 文献 対象 Kotellos et al.(2005) Messerchmidt(2008) Bushe and Coetzer(1995) Peelle(2006) Jones(1998) 2.5. 結果 ・コアバリューに忠実になった。 ・ステイクホルダーの要求している議題に大きな影 響があることが分かった。新たなサービスがステイ エバーグリーン・コーブ・ホリスティック・ラー クホルダーから提案されるようになった。 ニング・センターでの実施。 ・資金源、供給源が上昇した。ドナーが50%増えた。 ・信頼されるようになり、ヘルスケアコミュニティの不 可欠なパートナーとより認識されるようになった。 ・産科の女性によるサービスの利用が増加した。 ・プロバイダー、クライアント、ステイクホルダーの 良好な関係が実現。 ・病院のスタッフとコミュニティサポートグループの 関係が改善した。 ・ファシリティマネジメント、ケアとサービスの質、技 ネパールの産科ケアの健康プロジェクトにお 術、人権を基盤としたアプローチ、チームスピリッツ ける実施。 と効果性、内部の部署の連携、個々とグループで の学びを向上させるための突破口が生まれた。 ・積極的に、良い倫理観、モチベーション。オーナー シップ、創造性をもって問題に取り組むようになっ た。 ・コミュニケーションスキルや関係構築のスキルが 上昇した。 大学講義での実施。 パフォーマンスの点で問題解決群、AI群、対照群 AI群、問題解決群、対照群による比較実験。 の順に好成績であった。 北アメリカの生産工場での実施。 問題解決群よりもグループ・アイデンティティとグ AI群と問題解決群の実施。 ループの能力という点で高い結果が得られた。 外食レストランでの実施。 対照群、問題解決群よりもリテンション率が30%高 AI群、問題解決群、対照群による比較実験 かった。 先行研究の意義と限界 本節では、前節で述べた対話型組織開発の効果研究についてまとめを行い、 現在の限界について述べる。 対話型組織開発、特に完結した変革プロセスを規定しているフューチャーサ ー チ と AI の 効 果 研 究 を 概 観 し た 。 両 者 と も 事 例 の 蓄 積 は 進 ん で い る も の の 、 効 果 に つ い て 分 析・考 察 を 行 っ て い る 研 究 は 少 な い 。そ の 背 景 に は 、診 断 型 OD で 用 い ら れ て い た 量 的 な 指 標 を 用 い た 測 定 を そ の ま ま 対 話 型 OD に 適 応 さ せ る ことができないために、効果を測定することはできないという認識が広まって いたことに由来する。そのため、効果に関する研究そのものの数が少ない状況 22 である。さらに、短期的効果については、事例に対する評価研究や比較実験な どを用いながら数が少ないながらも分析が行われている。しかしながら、プロ セ ス に 対 す る 分 析 や 長 期 的 効 果 の 測 定 、 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ や AI に よ っ て 結 成された小グループの活動について分析を行った研究はごくわずかである。短 期 的 効 果 の 測 定 だ け で は 、 様 々 な 制 約 条 件 に よ り Bushe and Coetzer(1995)の ように対話型組織開発の効果が十分に表れない可能性がある。長期的効果の測 定によって初めて、対話型組織開発により変化した認知枠組みが組織の構造の 変化や戦略の変化などをどのように招いているかというところまで明らかにす ることができる。つまり、長期的効果の測定まですることが、対話型組織開発 の効果を明らかにすることに繋がる。本研究では短期的効果だけでなく長期的 効果に着目し、効果を明らかにすることで研究の蓄積に貢献する。 ま た 、 評 価 研 究 を 行 っ て い る 先 行 研 究 で あ る Polanyi(2001)に 対 し て 疑 問 点 が 挙 げ ら れ る 。Polanyi(2001)で 用 い ら れ た 事 例 は 、変 革 の 推 進 者 と 研 究 者 を 同 じ 人 物 が 担 っ て お り 、双 方 の 役 割 の バ ラ ン ス が 取 れ て い る か ど う か 疑 問 が 残 る 。 さらに、ストレス障害を扱うコミュニティを対象としているため、組織へ適応 した場合異なる結果が得られる可能性がある。 ま た 、 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ や AI の 効 果 に 影 響 を 与 え る 要 因 に は ど の よ う な ものがあるのか触れている論文は未だ少なく、検討の余地があるため、本研究 で明らかにする。 したがって、本研究では直接変革の推進に関与しない中立な立場から、対話 型組織開発の組織に対する適用についてプロセスや長期的効果を分析し、その 背景にある要因について明らかにしたい。 2.6. 研究課題 以上のような先行研究を踏まえ、対話型組織開発の適用によってどのような 効果が得られるのかを明らかにしたい。先行研究では実施直後の効果に対する 分析が多く見られたため、本研究では短期的な効果だけでなく長期的な効果に ついても明らかにしていきたい。また、その背後にある対話型組織開発の効果 の成否に影響を与える要因についても明らかにしたい。この点に関して分析を 行っている研究はごく少なく、本研究の貢献になると考えられる。以下に本研 23 究の研究課題をまとめる。 (1) 対話型組織開発の適用により、どのような効果が見られるのか。 (2) 対話型組織開発の成否に影響を与える要因はどのようなものがあるの か。 このような課題を明らかにするために、本研究では対話型組織開発を実施し た A 社 に 対 し て 観 察 調 査 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 っ た 。次 の 第 3 章 で 説 明 を 行 う。 24 第 3章 事例研究 これから前章で述べた研究課題に対して、事例研究を通じて明らかにしてい く。本章では、どのような対象に対してどのような調査を行うのかについて述 べる。 3.1. 調査対象 本 研 究 で 対 象 と し た 美 容 業 界 に 属 す る A 社 の 概 要 と 、A 社 に お い て 実 施 さ れ た対話型組織開発について記述を行う。 3.1.1. 対象の選定 前述の研究課題を考察するために、本研究では事例研究を採択した。理由は 以下の 2 点である。1 点目は、先行研究に多い実験室実験のように仮想のグル ープによる評価研究ではなく、実際の組織においてどのような効果が得られる のかを研究するためである。仮想のグループによる研究では、実施後の短期的 な効果を見ることはできるが、長期的にどのような効果があるのかを見ること ができない。本研究では先行研究での分析があまり行われていない長期的効果 を特に明らかにしたいと考えているため、事例研究が適切だと判断した。2 点 目は、先行研究は地方自治体、社会問題などのテーマ、対象を研究したものが 多く、対話的組織開発が活用されている企業を対象とした研究が少ないため、 本研究で取り扱うことで研究蓄積に貢献できると考えるためである。先行研究 とは異なる対象を扱うことで、異なった効果が得られるのかどうか、また影響 する要因に違いがあるのかを検討していく。 対話型組織開発の長期的効果やその背後にある要因を探るためには、対話型 組織開発を実施している対象へのアクセスが必要である。南山大学人文学部中 村和彦准教授の紹介のもと、対話型組織開発を用いて全社会議を実施される美 容業界の A 社に調査協力を得ることができた。 3.1.2. 対象の概要 本 項 で は 、対 象 と し た A 社 の 概 要 、特 徴 と 実 施 さ れ た 対 話 型 組 織 開 発 の 介 入 について記述を行う。 25 本 研 究 で は 、チ ェ ー ン 展 開 (8 店 舗 )を し て い る 美 容 業 界 の A 社 を 対 象 と し た 。 A 社 は 1 泊 2 日 で 対 話 型 組 織 開 発 の 手 法 を 活 用 し た 全 社 会 議 (本 事 例 で は フ ュ ー チ ャ ー ・ ダ イ ア ロ ー グ と 呼 ば れ た ; 以 下 FD)を 実 施 し た 。 目 的 は 将 来 の 目 指 す 姿 を つ く り 、 来 年 度 の 目 標 と 計 画 (店 舗 レ ベ ル と 個 人 レ ベ ル )ま で 作 成 す る こ と で あ っ た 。 参 加 者 は 、 社 長 を 始 め と し た 社 員 全 員 (120 名 ほ ど )と 、 A 社 か ら 独 立 し た 方 (10 名 ほ ど )、取 引 業 者 (3 社 計 10 名 ほ ど )で あ っ た 。南 山 大 学 人 文 学 部准教授中村和彦先生がファシリテーターとして参加した。筆者は観察者・フ ァシリテーターのサポートとして参加した。事前準備と当日の運営を行うため に各店舗から希望者を募りファシリテーター・チームが結成され、中村氏主導 のもとファシリテーター・チームの協力により実施された。実施に当たって、 定 休 日 と そ の 翌 日 を 全 店 臨 時 休 業 に し て FD を 行 う 形 を 取 り 、 全 社 員 が 参 加 で きるようにした。 こ の FD は 社 長 の 発 案 に よ り 実 施 さ れ た 。 社 長 は 就 任 8 年 目 で 、 フ ァ シ リ テ ーター型リーダーシップのような、社員が活き活きと自律的に仕事をし、でき る限り自分たちで決めたりすることを大切にしてきた。これまでは、年1回、 次年度の方針会議を1日で実施し、全社員が集い、全社員に対してビジョンを 伝えてきた。現在、行き詰まりがあったり、問題があったりするわけではない が 、会 社 が さ ら に よ く な っ て い く た め に は 、 「 ビ ジ ョ ン を 自 分 が 示 す 」と い う こ とを越えて、社員全員でビジョンを創っていくことができれば、さらにやる気 が高まり、コミットメントもさらに高まるのではないか、また、自分が考える ビジョンよりもよいものができるのではないか、と考えこの話し合いを行うに 至った。 ま た 、美 容 業 界 の 特 徴 と し て 、多 く の 美 容 師 は 、 「いつかは自分の店を持ちた い 」と い う 夢 が あ る 。つ ま り 、個 人 の 夢 や ビ ジ ョ ン が 非 常 に 重 要 に な っ て く る 。 社長としても、 「 ス タ ッ フ が ず っ と 会 社 に 留 ま る の で は な く 、個 人 と し て も 夢 を 追 求 で き 、 会 社 を 巣 立 っ て い っ た 人 々 (独 立 し て 新 た に 出 店 し た 人 々 )と 会 社 が 協働的で共存し発展していける関係を築いていきたい」という願いを抱いてい る こ と も FD を 行 う き っ か け と な っ て い る 。 2 日 間 の 会 議 は 、AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ る 形 で 行 わ れ た 。組 織開発はそれぞれの組織の違いに合わせてカスタマイズする必要性が指摘され 26 て い る (マ ー シ ャ ッ ク , 2011)こ と か ら 、 今 回 の 事 例 で も AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ て 実 施 し た 。AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ は 同 じ よ う な 構 成 を し て おり、現状認識をした後に将来の理想像を描き共有し、理想像を達成するため の 自 主 グ ル ー プ が 結 成 さ れ 計 画 が 立 て ら れ る 。 異 な る 点 は 4 点 挙 げ ら れ る (中 村 ・ 立 川 , 2012)。 (1)AI は 現 状 認 識 の 際 に 組 織 や 個 人 が 持 つ 強 み や 価 値 に 焦 点 が 当 て ら れ る 「ポジティブ・アプローチ」であるのに対して、フューチャーサーチは 問題点にも焦点を当てる「問題解決アプローチ」である。 (2)フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ は AI よ り も 手 法 が 構 造 化 さ れ て い る 。AI は 各 ス テ ップでのアクティビティの内容の自由度が高い。 (3)フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ で の コ モ ン グ ラ ウ ン ド を 文 章 化 し た 宣 言 文 は 、文 章 化したグループに表現が任され、フィードバックを受ける機会がない。 一 方 の AI で は Design に お い て 宣 言 文 が 共 有 さ れ た 後 に フ ィ ー ド バ ッ ク を受ける機会が設けられることがある。 (4)AI で は 、 Design に お け る 、 将 来 の 組 織 の あ り 方 や 達 成 し た い 状 態 を 合 意するプロセスにあまり重きを置かず、時にグループで行われることも ある。フューチャーサーチではコモングラウンドを合意するための全体 での対話の時間が重視され、それに 1 時間ほどを充てる。 以上の違いが把握された上で設計が行われた。 本事例では、 「 日 常 業 務 で は 欠 点 指 摘 型 の 問 題 解 決 を 行 っ て い る た め FD で は 自分たちの強みに焦点を当てたい」という社長とファシリテーター・チームの 要 望 が あ り 、 AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ る 形 を と る こ と に な っ た 。 内 容 の 設 計 は 中 村 氏 12が 行 っ た 。 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 自 己 決 定 、 自 己 管 理 の 原則をベースに、≪1 ハ イ ポ イ ン ト ・ イ ン タ ビ ュ ー の 実 施 ≫ 1 3 な ど 一 部 AI の 手法を組み込む形を取った。 中 村 氏 は 米 国 NTL Institute で 組 織 開 発 の 認 定 プ ロ グ ラ ム を 修 了 し て い る 。 ま た 、ケ ー ス ウ エ ス タ ン リ ザ ー ブ 大 学 に て AI の 認 定 プ ロ グ ラ ム を 受 講 し て い る 。ま た 、Future Search Network 主 催 の ワ ー ク シ ョ ッ プ に 参 加 し Weisbord 氏 と Sandra 氏からフューチャーサーチを学んでいる。 13 ≪ 数 字 ○ ○ ≫ は 、 表 3-1 に 示 し て い る FD で 実 施 し た 内 容 を 指 し て い る 。 12 27 図3-1 当日のタイムライン 【1 日目】 所用時間 50分 1 ハイポイント・インタビューの実施(二人一組) ポジティブ・コア(自社の強み)の共有(グループごとに発表、後 40 2 分 全体発表) (昼食) 3 2021 年の理想の姿を創造性豊かに表現する(全体発表) 3時間10分 4 目指す将来のリスト作り(グループ) 40分 【2 日目】 参考にした手法 AI AI AI・FS FS 5 コモングラウンド合意のための対話(全体) 2時間30分 FS 7項目に対してそれぞれ自主的にグループに分かれ宣言文を作成 6 1時間 AI・FS (グループ) 昼食時の空き 7 発表し他グループからのフィードバック(グループ) AI 時間 (昼食) ありたい未来7項目に対してそれぞれ行動計画を作成・発表(グ 50分 AI・FS 8 ループ) 9 来年度最重要目標の決定・共有(全員) 15分 ※社長の要望に合わ 10 店舗、個人での来年度目標決定(店舗) 45分 せて独自に追加 ※FS=フューチャーサーチ 実 際 の 当 日 の 流 れ は 図 3-1 の 通 り で あ る 。 当 日 は 中 村 氏 の フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン の も と 、進 行 が 行 わ れ た 。状 況 に よ り 、適 宜 進 行 に つ い て の 指 示 が 出 さ れ た 。 また、当初予定していたスケジュールをその場の状況を見て柔軟に調整した。 役職に関わらず社長・店長・マネジャー全員が一参加者として参加した。 当 日 の 流 れ を 簡 単 に 記 す 。 導 入 で 社 長 か ら FD の 狙 い が 話 さ れ た 後 、 二 人 一 組 の ペ ア に な り ハ イ ポ イ ン ト な 経 験 (こ れ ま で で 最 も 成 功 し た 経 験 )に つ い て 語 っ た (≪ 1 ハ イ ポ イ ン ト ・ イ ン タ ビ ュ ー の 実 施 ≫ )。こ れ は 個 人 ・ A 社 の 強 み を 探求することが狙いである。独立した方々、取引業者の方々もそれぞれ社員と ペアを組んだ。このインタビューで語られた内容を、8 名ほどからなるグルー プで共有した後に、A 社の強みは何かを模造紙に書き出し、全体発表を行った (≪ 2 ポ ジ テ ィ ブ ・ コ ア (自 社 の 強 み )の 共 有 ≫ ) 。 こ こ で は 、「 お 客 様 を 大 事 に し て い る 」な ど の お 客 様 第 一 の 姿 勢 、 「 社 員 同 士 、社 長 と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 密 で あ る 」な ど の 組 織 の 風 通 し が 良 い こ と 、 「 勉 強 熱 心 」な ど の 技 術 に 対 す る 探 求 な ど が 挙 げ ら れ た 。 そ の 後 、 A 社 の 強 み を 活 か し 2021 年 に 実 現 し た い 将 来をグループごとに表現した。その際、現実検討の枠組みを脇に置いておき、 自由に夢を描くために、寸劇・オブジェなどで創造性豊かに表現した。この実 現したい将来を受け、具体的にどのような将来を目指していきたいのか、グル ー プ で 箇 条 書 き の 形 で 出 し 合 っ た (≪ 4 目 指 す 将 来 の リ ス ト 作 り ≫ )。 そ の 後 、 28 グループ内で目指したい将来として合意ができるかどうかを判断し、グループ 全 員 で 合 意 で き る も の を 壁 に 貼 っ た 。 終 了 後 、 中 村 氏 と 筆 者 が KJ 法 の 要 領 で リ ス ト の 整 理 を 行 っ た 。こ こ ま で で 1 日 目 は 終 了 し 、夜 に は 懇 親 会 が 行 わ れ た 。 2 日目は、まず参加者全員で目指したい将来の方向性を決めるための対話を 行 っ た (≪ 5 コ モ ン グ ラ ウ ン ド 合 意 の た め の 対 話 ≫ )。1 日 目 に 作 成 し た リ ス ト を壁一面に貼り、リストを眺めながら対話が行われた。対話の途中で、参加者 それぞれの思いを明らかにするために、自分が目指したいと思う項目に対して シールを貼るという作業を行った。最終的に、7 つの方向性が合意された。そ れぞれの方向性に対して、自分の興味関心に基づき小グループに分かれた。小 グループごとに、それぞれの方向性でどのようなことを目指していくのかを表 現 し た 宣 言 文 が 作 成 さ れ た (≪ 6 グ ル ー プ に 分 か れ 宣 言 文 を 作 成 ≫ )。フ ュ ー チ ャーサーチの自己管理の原則に基づき、小グループでの話し合いの進行は小グ ループのメンバーに委ねられた。昼食前に一度各グループが宣言文の発表を行 い 、 そ れ に 対 し て 他 グ ル ー プ か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク が 行 わ れ た (≪ 7 他グルー プ か ら の フ ィ ー ド バ ッ ク ≫ )。フ ィ ー ド バ ッ ク は 宣 言 文 が 書 か れ た 模 造 紙 に 、フ ィードバックが書かれた付箋を貼るという方法で行った。フィードバックをも とに再度宣言文を練り直し、発表を行い決定となった。下記に宣言文を記す。 会社名を A 社としている以外は、原文のままである。 ・ A 社 Total Education すべての人たちに幸せと感動を伝えていきます<教 育 > 14 ・A 社 は 各 店 舗 の コ ン セ プ ト の も と お 客 様 に キ レ イ に な る 楽 し さ を 伝 え 魅 力 を 最大限に引き出すトータルビューティサロンを目指します<トータルビュー ティ> ・A 社 の 技 術 や ホ ス ピ タ リ テ ィ ー を 国 内 外 の 方 に 伝 え 世 界 の 技 術 や セ ン ス を お 客様にお届けします<海外> ・A 社 は ク リ エ イ テ ィ ブ チ ー ム を 結 成 し 撮 影 や コ ン テ ス ト を 通 じ て 流 行 の デ ザ 1 4 宣 言 文 に 併 記 し た < > は グ ル ー プ 名 を 示 し て い る 。以 下 、グ ル ー プ 名 を < ○ ○ > という形で表記する。 29 インをメディアに発信していきます<クリエイティブ> ・A 社 は い つ ま で の 健 康 で 魅 力 的 な 人 で あ り 続 け る 為 に 美 と 食 の 情 報 を 発 信 し ます<美と食> ・A 社 は 福 祉 美 容 に 貢 献 し 育 児 中 で も 美 容 を 楽 し め る 環 境 を 作 り ま す < 育 児 ・ 福祉> ・やりがいの持てる給料・福利厚生を充実させ A 社に関わる全ての人が幸せ で豊かに輝き続ける為の組織作りを目指します<福利厚生> 宣言文を作成した後、コモングラウンド実現のために行動計画を作成し発表 を 行 っ た (≪ 8 行 動 計 画 の 作 成 ・ 発 表 ≫ )。 そ の 後 、 7 つ の コ モ ン グ ラ ウ ン ド の 中 で も 来 年 度 特 に 重 視 す る コ モ ン グ ラ ウ ン ド の 決 定 を 行 っ た (≪ 9 来年度最重 要 目 標 の 決 定 ・ 共 有 ≫ )。そ の 後 、店 舗 ご と に 集 ま り 、来 年 度 の 店 舗 ・ 個 人 の 目 標 を 決 定 し た (≪ 10 店 舗・個 人 で の 来 年 度 の 目 標 決 定 ≫ )。最 後 に 、全 体 で FD の感想を発表して終了となった。 3.1.3. 中 村 ・ 立 川 (2012)に よ る 質 問 紙 調 査 の 結 果 な お 、 FD の 効 果 を A 社 に 報 告 す る こ と を 主 目 的 に 、 質 問 紙 調 査 が 実 施 さ れ た 。 質 問 紙 調 査 は 中 村 氏 が 作 成 ・ 分 析 を 行 っ た 。 結 果 は 中 村 ・ 立 川 (2012)に よ ってまとめられた。対話型組織開発を分析するために、量的調査もしくは質的 調査のいずれかのみを用いることは、組織や個人にとっての影響を分析する上 で 不 十 分 で あ る (Messerchmidt, 2008)た め 、 本 研 究 と 同 様 の 対 象 を 扱 っ た 貴 重 な 量 的 デ ー タ で あ る 中 村 ・ 立 川 (2012)の 分 析 と 考 察 を こ こ に 記 述 す る 。 質 問 紙 調 査 は 、 FD 実 施 直 前 (事 前 調 査 )と FD 実 施 1 か 月 後 (事 後 調 査 )に 行 わ れ た 。質 問 項 目 と し て は 、内 発 的 動 機 づ け や 自 立 性 の 項 目 (堀 江 ら , 2007) 1 5 、職 業 的 キ ャ リ ア 発 達 度 (岡 田・金 井 , 2006) 1 6 、キ ャ リ ア 自 律 心 理 尺 度 や キ ャ リ ア 自 15 堀 江 常 稔 ・ 犬 塚 篤 ・ 井 川 康 夫 (2007).「 研 究 開 発 組 織 に お け る 知 識 提 供 と 内 発 的 モ チ ベ ー シ ョ ン 」『 経 営 行 動 科 学 』 , 20, 1-12 頁 。 16 岡 田 昌 毅 ・ 金 井 篤 子 (2006).「 仕 事 , 職 業 キ ャ リ ア 発 達 , 心 理 ・ 社 会 的 発 達 の 関 係 と プ ロ セ ス の 検 討 ― 企 業 に お け る 成 人 発 達 に 焦 点 を あ て て ― 」『 産 業 ・ 組 織 心 30 律 行 動 尺 度 (堀 内 ・ 岡 田 , 2009) 1 7 を 参 考 に し て 、A 社 に 合 う よ う に 表 現 が 修 正 さ れ、仕事へのモチベーションや個人のビジョンの明確さの項目が作成された。 ま た 、経 営 理 念 の 浸 透 度 (松 葉 , 2008) 1 8 を ビ ジ ョ ン に 置 き 換 え た 項 目 が 含 め ら れ た。さらに、組織のビジョンの明確さやコミットメント、ポジティブな志向性 に 関 す る 項 目 が 独 自 に 作 成 さ れ た 。 こ れ ら 計 25 項 目 に つ い て 、 事 前 調 査 と 事 後 調 査 の デ ー タ が 一 致 し た 93 名 の デ ー タ が 有 効 デ ー タ と し て 分 析 さ れ た 。 調 査 時 期 ご と に 因 子 分 析 (主 因 子 解 、プ ロ マ ッ ク ス 回 転 )が 実 施 さ れ 、 「組織と そ の 将 来 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト 」 (事 前 α = .86/事 後 α = .88)、「 個 人 の ビ ジ ョ ン の 明 確 さ 」 (事 前 α = .85/事 後 α = .85)、「 仕 事 で の ポ ジ テ ィ ブ 思 考 」 (事 前 α = .79/ 事 後 α = .88)、 「 組 織 ビ ジ ョ ン の 内 在 化 」(事 前 α = .78/事 後 α = .81)が 抽 出 さ れ た 。 逆転処理後、各因子に負荷した項目の平均値が各因子の得点として扱われた。 FD 前 後 の 変 化 を 比 較 す る た め に 対 応 の あ る t 検 定 が 行 わ れ 、「 組 織 と そ の 将 来 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト 」、 「 個 人 の ビ ジ ョ ン の 明 確 さ 」、 「組織ビジョンの内在化」 の 3 因 子 は 、FD 後 有 意 に 上 昇 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た (表 3-1)。社 長 が FD を 実 施 し た ね ら い で あ っ た 、 社 員 全 員 で ビ ジ ョ ン を 創 り 組 織 へ の コ ミ ッ ト メントを高めること、個人の夢を明確にして追求できるようにすることはおお むね達成されたことが分かる。参加者が組織の将来のビジョン決定に関与し、 その実現に受けて自ら行動計画に携わったことで、組織の将来に対するコミッ トメントを高め、組織のビジョンに対する理解を深め内在化させることができ て い た 。 Bushe and Marshak(2009)は 、 対 話 型 OD に よ っ て 人 々 の 思 考 や 意 識 のマインドセットが変わることを示唆している。組織やその将来に対する関与 度 と い う 意 識 レ ベ ル が 高 ま っ た こ と は 、 Bushe and Marshak が 示 唆 し た マ イ ン ド セ ッ ト の 変 化 と 一 致 す る 知 見 だ と 指 摘 さ れ て い る 。 ま た 、 FD で は 業 界 の 特徴と社長の意向から、組織のビジョンだけでなく個人のビジョンを個人レベ 理 学 研 究 』 , 20, 51-62 頁 。 17 堀 内 泰 利 ・ 岡 田 昌 毅 (2009).「 キ ャ リ ア 自 律 が 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 与 え る 影 響 」『 産 業 ・ 組 織 心 理 学 研 究 』 , 23, 15-28 頁 。 18 松 葉 博 雄 (2008).「 経 営 理 念 の 浸 透 が 顧 客 と 従 業 員 の 満 足 へ 及 ぼ す 影 響 ― 事 例 企 業 調 査 研 究 か ら ― 」『 経 営 行 動 科 学 』 , 21, 89-103 頁 。 31 ル で 明 確 に す る 時 間 も 設 け ら れ た 。組 織 の ビ ジ ョ ン が 内 在 化 さ れ た だ け で な く 、 個 人 の ビ ジ ョ ン も よ り 明 確 に な っ た と い う 結 果 は 、 OD が ヒ ュ ー マ ニ ス テ ィ ッ ク な 価 値 観 を 重 視 し 、 個 人 と 組 織 が と も に あ る こ と を 目 指 す OD の 理 念 と も 一 致すると彼らは述べている。 ま た 、 Cooperrider and Whitney(2006)で 紹 介 さ れ た 事 例 で は 、 AI を 実 施 す ることによって物事をポジティブに捉えるようになったという効果が述べられ ていたが、この調査では「仕事でのポジティブ思考」は上昇しなかった。この 点について、彼らは美容業界特有の厳しさが影響した可能性を指摘している。 表3-1 各因子の事前と事後の平均値 組織とその将来 個人のビジョンの 仕事でのポジティ 組織ビジョンの内 へのコミットメント 明確さ ブ思考 在化 事前 事後 t値 4.78 (.89) 4.99 (.92) 2.54 * 4.86 (.98) 5.11 (1.12) 3.56 ** 4.92 (1.12) 4.14 (.95) 4.98 (1.25) 4.80 (1.00) 0.53 5.94 *** * p<.05 ** p<.01 *** p<.001 中村・立川(2012) ま た 、 事 後 調 査 時 に FD に お い て 話 し 合 い に 積 極 的 に 参 加 し た 程 度 、 満 足 度 な ど を 尋 ね る 10 項 目 へ の 回 答 が 求 め ら れ た (7 件 法 、 4 が 「 ど ち ら と も い え な い 」 )。 表 3-2 に は そ の 代 表 的 な 項 目 の 平 均 値 と SD を 示 し た 。 ま た 、 図 3-2 か ら 図 3-5 に 度 数 分 布 表 を 示 し た 。 平均値 SD 表3-2 FDに対する感想、捉え方、参加の仕方 項目26 項目27 項目28 項目29 FDの2日間に満足し FDで自分の意見を伝 FDでの話し合いに積 FDの2日間は私にとっ ている えることができた 極的に参加した て意味があった 5.31 5.01 5.41 5.45 1.285 1.298 1.144 1.184 中村・立川(2012)を参考に筆者作成 32 以 上 よ り 、全 体 の 7,8 割 が FD に 満 足 し て い る こ と 、積 極 的 に 参 加 し 発 言 し て い た こ と 、FD の 意 味 を 感 じ て い た こ と が 分 か る 。一 方 で 、項 目 27 に お い て 3 以 下 に 回 答 し た 人 が 14%お り 、 積 極 的 に 参 加 で き な か っ た 人 が 1 割 ほ ど い る ことも分かった。 また、話し合いに積極的に参 加した程度を尋ねる 4 項目 ( α =.88)の 合 計 得 点 が「 積 極 的 参 加 度 」 得 点 と さ れ 、 低 /中 /高 群 に分けられた。4 因子の得点を 従属変数として分散分析が実施 さ れ 、「 組 織 ビ ジ ョ ン の 内 在 化 」 得 点 で 有 意 な 交 互 作 用 (F(2, 89)=5.23, p <.01) が 見 ら れ た (図 3-6)。高 群 が 他 の 群 に 比 べ て 有意に高まっていたことから、 図 3-6 FD に 積 極 的 に 参 加 し た 人 は 組 積 極 的 参 加 度 別 の「 組 織 ビ ジ ョ ン の 内 在化」得点比較 33 織ビジョンをより内在化できたことが分かった。 ま た 、 入 社 後 年 数 と 「 積 極 的 参 加 度 」 得 点 と の 関 連 が 分 析 さ れ 、 入 社 10 年 目以降の人の「積極的参加度」得点が高いことが指摘された。また、有意な結 果 で は な い が 、 入 社 10 年 目 以 降 の コ ミ ッ ト メ ン ト の 高 ま り が 示 唆 さ れ た 。 以上のような結果から、積極的に参加できたと感じた程度によって組織ビジ ョンの内在化に差があり、より積極的に参加できた人々はより内在化している こ と が 指 摘 さ れ た 。 ま た 、 入 社 10 年 目 以 降 の 人 の 「 積 極 的 参 加 度 」 得 点 が 高 く、 「 組 織 と そ の 将 来 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト 」得 点 が よ り 上 昇 し て い た と い う 結 果 が明らかにされた。このことから、入社後経験年数の長い人々は発言量が多く ビ ジ ョ ン 決 定 に も よ り 関 与 で き た 可 能 性 が 指 摘 さ れ た 。 対 話 型 OD の 話 し 合 い の場では経験年数や地位などのパワーを越えて対話がなされることが重要であ る が 、 120 名 以 上 の 対 話 の 場 に お い て 、 経 験 年 数 な ど の パ ワ ー を 均 等 化 で き た とは言い難いと、場についての指摘がされた。 3.2. 調査方法 以 上 の よ う な A 社 で の FD を 本 研 究 の 対 象 と し た 。 本 節 で は 、 A 社 に お け る FD の 効 果 を 検 討 す る た め に 実 施 し た 調 査 方 法 に つ い て 述 べ る 。 3.2.1. 調査方法の選定 本 研 究 は プ ロ グ ラ ム 評 価 (安 田・渡 辺 , 2011)の 考 え 方 を 参 考 に 調 査 を 実 施 し た 。 プログラム評価は介入が行われているプログラム自体のプロセス評価と、介入 後のプログラムが対象とする人々にもたらす最終結果であるアウトカム評価に 分かれる。アウトカム評価は、プログラム介入直後に測定される短期的アウト カムと、一定期間が経ってから測定される長期的アウトカムの 2 つがある 。本 研 究 で は FD に よ る 効 果 を 検 討 す る こ と を 目 的 と し て い る た め 、 短 期 的 ア ウ ト カ ム と 長 期 的 ア ウ ト カ ム の 両 方 を 明 ら か に す る 。ま た 、ア ウ ト カ ム だ け で な く 、 それをもたらすに至った要因まで明らかにするために、探索的研究として質的 デ ー タ を 扱 う こ と と し た 。 調 査 方 法 は 、 FD 時 の 観 察 調 査 と FD 実 施 9 か 月 後 の イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 用 い た 。 観 察 調 査 に よ り FD 時 に 起 き て い た こ と を 記 述 し、アウトカムをもたらした要因の探索を行った。9 か月後のインタビュー調 34 査 に よ り FD を 懐 古 的 に 尋 ね る こ と で 、 FD が 直 接 に も た ら し た ア ウ ト カ ム を 明 ら か に し 、 長 期 的 ア ウ ト カ ム に な り う る FD 後 の 小 グ ル ー プ の 活 動 の 様 子 を 尋ねた。 3.2.2. 観察調査 FD で の 話 し 合 い の 様 子 を フ ィ ー ル ド ノ ー ツ と し て ま と め た 1 9 。記 録 を 行 っ た 主 な 内 容 は 、 ① 各 コ ン テ ン ツ の 開 始 時 間 、 ② 印 象 、 ③ FD で の 発 言 内 容 、 ④ 筆 者と参加者、中村氏、社長とのやりとり、の 4 点である。フィールドノーツは FD 実 施 の 報 告 と し て 、 社 長 に 送 付 し た 。 3.2.3. インタビュー調査 本 取 組 の 長 期 的 な 効 果 を 検 討 す る た め 、 FD 実 施 後 約 9 か 月 経 過 時 に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た 。イ ン タ ビ ュ ー 調 査 は 7 つ の コ モ ン グ ラ ウ ン ド の 活 動 を 中心で行っている方々7 名、社長、ファシリテーターを務めた中村氏に行った (図 3-7)。 イ ン タ ビ ュ ー は 半 構 造 化 イ ン タ ビ ュ ー の 形 で 行 わ れ た 。 社 長 に は FD を 行 う に 至 っ た 背 景 、FD の 感 想 、そ れ ぞ れ の グ ル ー プ の 活 動 の 様 子 を 尋 ね た 。 ま た 、イ ン タ ビ ュ ー の 際 に 各 グ ル ー プ の イ ン タ ビ ュ ー 対 象 者 の 選 定 を 依 頼 し た 。 活 動 を 中 心 で 行 っ て い る 7 名 に は 、 FD と い う 形 式 を 用 い て 全 社 員 で コ モ ン グ ラウンドを決めたこと及び合意された内容に対してどう感じたか、現在の活動 の様子、活動の今後の展望を尋ねた。なお、本研究の主目的が対話型組織開発 の 長 期 的 ア ウ ト カ ム を 測 定 す る こ と で あ る た め 、 FD 後 の 小 グ ル ー プ に て 中 心 となって活動をしている人にインタビューを実施した。そのため、インタビュ ー 協 力 者 は 全 社 員 の 中 で も FD を 肯 定 的 に 受 け 止 め て い る 人 に 偏 っ て い る こ と に 留 意 さ れ た い 。中 村 氏 に は 、FD を 行 う に 至 っ た 経 緯 、ど の よ う な 意 図 で FD を 設 計 し た の か 、 当 日 の FD の 様 子 を ど の よ う に 見 て い た の か 、 過 去 の フ ァ シ リテーションの経験と比較してどうだったか、を尋ねた。また、日を改め観察 調査とインタビュー調査の分析結果を提示し、結果に対する意見を求めた。イ ン タ ビ ュ ー は 協 力 者 の 了 解 の も と IC レ コ ー ダ ー で 記 録 し 、 文 章 化 し た の ち 、 グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ (Strauss and Corbin, 1998)に よ っ て 19 作成したフィールドノーツを付録に掲載した。 35 分析を行った。 図3-7 インタビュー対象者属性一覧 グループ名 仮名 所属 役職 <クリエイティブ> B氏 店舗Ⅰ マネジャー <海外> C氏 店舗Ⅰ 店長兼技術部長 <教育> D氏 店舗Ⅱ 店長 <美と食> E氏 店舗Ⅲ <トータルビューティ> F氏 店舗Ⅲ マネジャー <福利厚生> G氏 店舗Ⅲ マネジャー <福祉・育児> H氏 店舗Ⅳ 店長 社長 本部 社長 中村氏 ファシリテーター 3.2.4. 勤続年数 7年目 18年目 7年目 3年目 22年目 6年目 15年目 分析方法 本 研 究 の 分 析 方 法 は グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー ・ ア プ ロ ー チ (Strauss and Corbin, 1998)を 採 択 し た 。本 研 究 は 2 章 の 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー で も 記 述 し た よ うに、先行研究がほぼ見られない対話型組織開発の効果とその要因について探 索的に明らかにすることを目指している。そのため、データに根差し理論の生 成を試みる手法であるグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いることと した。 36 第 4章 分析結果の提示 本 章 で は 、 分 析 結 果 を 短 期 的 ア ウ ト カ ム 、 長 期 的 ア ウ ト カ ム 、 FD に 影 響 を 与 え た 要 因 の 3 つ に 分 け て 提 示 を し て い く 。 概 念 図 を 示 し な が ら 、 FD 実 施 中 と FD 以 後 に 何 が 起 き て い た の か を 、 観 察 調 査 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 の デ ー タ か ら 説 明 を 行 う 。な お 、文 中 で サ ブ カ テ ゴ リ を【 】、概 念 を『 』で 表 記 し た 。 図中ではサブカテゴリを四角で囲んで表記した。 4.1. 短期的アウトカム インタビューデータ、フィールドノーツを分析した結果として、短期的アウ ト カ ム を 図 4-1 の よ う に ま と め た 。 分 析 よ り 、FD の 短 期 的 な 効 果 と し て【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】が 起 こ っ て い る こ と が 分 か っ た 。 こ れ は 、 FD の 内 容 へ の 『 の め り こ み 』、『 皆 で 方 向 性 を 決 め る 』 こ と 、『 社 内 外 の 交 流 』 か ら 起 こ っ て い る 。 ま ず 『 不 安 』 か ら 『 の め り 込 む 』 プ ロ セ ス の 変 化 に つ い て 説 明 す る 。 FD の 感想を尋ねたところ、何をやるのかよく分からないことに対する不安、社員全 員で方向性を決めていくという試みが初めてであったためどのように収束して い く の か が 分 か ら な い 、 と い う 不 安 が 多 く 聞 か れ た 。 ま た 、 FD 実 施 時 に も 、 初めての試みであるためファシリテーターである中村氏の指示がうまく伝わら 37 ず混乱が生じた場面があった。 最 初 は 、 ち ょ っ と ち ん ぷ ん か ん ぷ ん と い う か 、 な ん か 10 年 後 を 話 す 、 話 す内容も自分たちでいろいろやっていくのはどうなるんだろう、とか、最初 の時点ではまとまる気配がなかった気がしたので、なんかこの 2 日間で終わ る の か な 、 だ っ た り と か 、 こ れ を し て ど う す る ん だ ろ う と か ・ ・ ・ (後 略 )(B 氏<クリエイティブ>) みんなやりたいことを言うだけで、やれるのかな?っていうのが初め強く て (H 氏 < 育 児 ・ 福 祉 > ) し か し 、徐 々 に 不 安 な 気 持 ち は 消 え 、1 日 目 午 後 の ≪ 3 未来を創造性豊かに 表現する≫という内容では笑顔が多くみられ、内容に集中している様子がうか がえた。 どんどんのめり込んでいった感じですかね。やっていくうちにそんなこと すら考えないというか、話していくうちにそれにのめり込んでいって最終的 に「 ほ っ 」て 感 じ で す ね 。最 初 が ち ょ っ と 不 安 だ っ た っ て い う の が あ る の で 。 (B 氏 < ク リ エ イ テ ィ ブ > ) 美容業界という業界に属しているだけにクリエイティブな感覚が強く、創造 性 豊 か に 10 年 後 を 表 現 す る と い う ア ク テ ィ ビ テ ィ を 楽 し み 、 の め り 込 ん で い るようであった。 次 に 、『 皆 で 方 向 性 を 決 め る 』 に つ い て 説 明 を す る 。『 皆 で 方 向 性 を 決 め る 』 ことに対する肯定的な評価がインタビューデータ 4 名から得られた。 カフェとか福利厚生とか、福祉とか海外とかっていうのが、自分たちの要 望がちょっと表に出て、それを現実にさせようと取り組めるのがいいなって 38 思 い ま し た 。 (G 氏 < 福 利 厚 生 > ) 2 0 自分たちが決めたことなので、決めただけにならないように進めていきた いなと思う。自分もそうだけど、周りももっとみんなで考えて進めていきた い な と 思 い ま し た 。(フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り・コ ン テ ン ツ 終 了 後 フ ァ シ リ テ ー ター・チームの感想) Weisbord and Janoff(2000)に お い て 効 果 の 仮 定 と し て 指 摘 さ れ て い る 、自 分 たちで決めたことだからこそ自分たちで進めていきたいという、参加者が個人 的に責任を引き受ける効果が見られている。 ま た 、【 社 内 外 の 交 流 】 に よ り 、 普 段 の 業 務 に は な い 刺 激 や 交 流 が 生 ま れ た 。 取 引 業 者 、 独 立 し た 元 社 員 は FD 時 の ワ ー ク グ ル ー プ 1 つ に つ き 1 名 程 度 が 入 っ て お り 、『 社 外 の 人 と の 交 流 』 が 行 わ れ た 。 いつもお世話になっている方たちが、なぜここまで A のためにしてくださ る の か を 考 え た こ と が な か っ た が 、ペ ア で 対 話 を す る と き に 、デ ィ ー ラ ー さ ん と対話をして、ディーラーさんが A を良くするために力を注いで下さること を 感 じ た 。そ れ に 応 え る こ と で 、デ ィ ー ラ ー さ ん が 良 く な る 。良 く な る 輪 が 広 が る こ と を 感 じ て や り が い ア ッ プ だ と 感 じ ま し た 。 (フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り ・ コ ン テ ン ツ 終 了 後 FD 感 想 の 全 体 共 有 ) A 社 を 卒 業 さ れ た 先 輩 が 一 緒 で し た 。話 せ た の は す ご く 刺 激 的 で し た 。昔 の 話 を 聞 い て 、今 と だ い ぶ 違 っ て 今 は だ い ぶ 環 境 が い い ん だ な と 感 じ た り 、A 社 を 卒 業 し て 、今 自 分 の 状 態 か ら 見 て こ う し た 方 が い い ん じ ゃ な い 、と い う の が 聴けたりしたので、すごくよかったです。なかなかそういう場ってないので。 (B 氏 < ク リ エ イ テ ィ ブ > ) た だ し 、独 立 し た 元 社 員 は 1 日 目 の み の 参 加 で あ り 、取 引 業 者 は 2 日 目 の ≪ イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ の 引 用 を す る 際 に は (仮 名 < グ ル ー プ 名 > )を 記 す 。フ ィ ー ル ド ノ ー ツ か ら の 引 用 に は (フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り )と 記 す 。 20 39 6 小 グ ル ー プ に 分 か れ 宣 言 文 を 作 成 ≫ 以 降 は 見 学 を し て い た 。こ の 背 景 に は 、 今 回 の FD で は 社 内 の 人 た ち の 対 話 を 主 目 的 に 考 え て お り 、 社 内 で コ モ ン グ ラ ウンドを作り上げることを狙いとしていたことがある。フューチャーサーチで 外部を巻き込む狙いは、外部だからこそ持っている視点を加え組織の全体像を 眺 め と も に 将 来 を 作 り 上 げ て い く と い う 発 想 (Weisbord and Janoff, 2005)だ が 、 FD で は 狙 い が 異 な っ て い た 。 独 立 し た 元 社 員 を 招 い た の は 、 独 立 し た 時 の ロ ールモデルとして個人のビジョンを考える際の材料という狙いがあったからで あ っ た 。取 引 業 者 は 、日 頃 の A 社 と の 関 わ り の 中 で 感 じ て い る こ と を フ ィ ー ド バ ッ ク す る 機 会 と し て 社 長 か ら 伝 え ら れ 、 FD に 参 加 し て い た 。 そ の た め 、 フ ューチャーサーチの効果として仮定された領域を超えた持続的な関係は起こら ず 、 FD の 独 自 の 意 図 で あ っ た 個 人 の ビ ジ ョ ン を 考 え る 、 取 引 業 者 と の 関 係 を 見直すという効果が見られた。 ま た 、『 社 内 の 人 と の 交 流 』は イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ 8 名 か ら 得 ら れ た 。FD 時 の ワ ー ク グ ル ー プ は 店 舗 に 関 わ ら ず 7, 8 名 で 編 成 さ れ た た め 、 社 内 の 交 流 が 促進された。 交 流 は あ っ て も し ゃ べ る こ と は そ ん な に な か っ た り と か 、さ わ り だ け だ っ た り と か 、ち ょ っ と 研 修 で 一 緒 に な っ て 初 め て そ の 子 の こ と を 知 っ た り と か 。FD で 人 を す ご く 知 れ た の で 良 か っ た で す 。 (H 氏 < 育 児 ・ 福 祉 > ) 初 め て 自 分 の 店 舗 以 外 の 方 た ち 、特 に 年 上 の 方 、後 輩 の 人 と い ろ ん な 話 が で き た 。自 分 よ り も 経 験 を 積 ん で い る 方 の 話 は 説 得 力 が あ り 、自 分 の 未 来 を 作 る 上 で の 参 考 に な っ た 。 (フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り ・ コ ン テ ン ツ 終 了 後 FD 感 想 の 全体共有) も と も と A 社 は 交 流 を 大 事 に し て お り 、新 入 社 員 の 歓 迎 の た め に 全 社 員 が 参 加するイベントが開かれたり、社内コンテストが定期的に開催されたりしてい る 。 し か し な が ら 、 時 間 を か け て 対 話 を す る 機 会 は 少 な い 。 今 回 の FD で 異 な る店舗の社員間での対話が行われ、さらに交流が深まったことがうかがえる。 こ れ は FD を 実 施 し た ね ら い の 一 つ で あ り 、 意 図 通 り の 効 果 が 得 ら れ た と 言 え 40 る。 ま た 、仕 事 場 を 離 れ 、非 日 常 の 場 所 で 外 部 を 交 え て FD を 行 う こ と で 、 『素直 な思いの表れ』が起こっていた。 外 部 の 人 が や っ て く れ て い る 、中 村 先 生 が や っ て く れ て い る っ て い う の が あ るから、ちょっとニュートラルな感じで話がたぶんできると思うから 。それ と元 A 社の人がいたりとか。普段の社長とか店長が「こういう方向にしてい き た い 」っ て い う の が あ る じ ゃ な い で す か 。そ れ が な い と こ ろ で 話 し て い る か ら い い の か な と 。店 長 と か 社 長 の 前 で 話 す と「 こ う し た い の か な 」と 分 か る か ら 。そ う い う の が な い 状 態 。そ う い う の が あ っ て「 こ う い う 風 に し た い 」と 言 う の と 、 な く て 言 う の は 気 分 的 に 言 い や す い か な 。 (C 氏 < 海 外 > ) (FD が )前 向 き に 考 え る 場 と い う よ り も 不 満 を 聞 く 場 所 (だ と 感 じ た )っ て い う の は あ っ た ん で す け ど 。で も「 不 満 が あ る の は い い こ と だ よ 」っ て 社 長 も 言 っ て い た し 。「 自 分 の 会 社 が 好 き じ ゃ な け れ ば 、 不 満 も 言 う こ と も な く 去 っ て い く だ け だ か ら 、そ の 不 満 を 聞 き 入 れ な が ら や っ て い く こ と は 大 事 だ よ ね 」っ て い う 話 は さ れ て い た の で 。 確 か に な っ て そ の 後 思 い ま し た け ど 。 (G 氏 < 福 利厚生>) C 氏が述べているように、仕事場を離れ外部の人を交えることでニュートラ ルな場が作られ、目上の人の意向を気にせずに自分の考えを話すことができた こ と が 分 か る 。 ま た 、 G 氏 の 発 言 か ら FD で は 前 向 き な 意 見 だ け で な く 、 不 満 も 語 ら れ て い た こ と が 分 か る 。 以 上 よ り 、 FD は 日 常 の 仕 事 場 と は 異 な り 、 思 い思いの意見を語りやすい場が醸成されていた。 以 上 の 結 果 よ り 、 FD と い う 話 し 合 い の 場 へ の 『 の め り こ み 』、『 皆 で 方 向 性 を 決 め る 』 と い う 内 容 、【 社 内 外 の 交 流 】 に よ り 、【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】 が起こった。 次 に 【 気 持 ち の 高 ま り 】 に つ い て 説 明 を 行 う 。【 気 持 ち の 高 ま り 】 の 中 に は 、 『 FD 後 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 ま り 』、『 会 社 と し て の 一 体 感 』、『 会 社 に 対 す る 愛着』の 3 つの概念が含まれた。 41 『 FD 後 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 ま り 』は 、FD を 終 え 、こ れ か ら の 会 社 に 対 し てわくわくしていることや、店舗でのミーティングで積極的に参加するように なった社員がいることを指している。 いざ終わって何個かの項目が上がった時には結構わくわくはしてたんです け ど ね 。海 外 だ っ た り と か 、食 と か 、ク リ エ イ テ ィ ブ だ っ た り と か 、教 育 と か 、 本当にこれが A 社で実現した時はたぶん本当に美容業界でイノベーションが 起 き て い る ん で は な い か と 思 う く ら い す ご く 楽 し み な 項 目 が あ っ た 。 (B 氏 、 <クリエイティブ>) 次に、 『 会 社 と し て の 一 体 感 』の 説 明 を す る 。店 舗 や 職 種 に 関 わ ら ず グ ル ー プ を 組 み 、話 し 合 い を 行 っ た こ と で 、店 舗 や 職 種 を 越 え た『 会 社 と し て の 一 体 感 』 が醸成された。 最 初 に 店 舗 ば ら ば ら で (に か か わ ら ず に 集 ま っ て )話 し 合 い 、 懇 親 会 な ど 全 社 員 の 交 流 で 、今 の 団 結 感 な ど も 全 然 違 う と い う 感 じ が し た 。話 し 合 い を し て い て も ま と ま っ て い る 感 じ 。会 社 と し て チ ー ム ワ ー ク が 向 上 し た 感 じ が す る 。(フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り ・ コ ン テ ン ツ 終 了 後 FD の 感 想 全 体 共 有 ) み ん な の モ チ ベ ー シ ョ ン が 高 ま っ て い た 。う ち の 店 は エ ス テ と か ネ イ ル と か も一緒に働いているからなかなか同じ気持ちになってミーティングをするこ と は 少 な い ん だ け ど 、け っ こ う エ ス テ と か ネ イ ル の 人 が い ろ い ろ 意 見 を 言 っ て く れ た り と か で 、モ チ ベ ー シ ョ ン が み ん な 高 く な っ た か な と 思 っ た か な 。そ れ が 続 い て い る か は 謎 で す け ど 。で も そ の 時 に ね 、や る 気 み た い な の は す ご い 感 じ ら れ た か な と は 思 っ た よ ね 。違 う ポ ジ シ ョ ン で 働 い て い て も 同 じ お 店 で ま と ま っ て す ご く 良 か っ た か な と 思 い ま し た ね 。 (C 氏 < 海 外 > ) ま た 、 こ の よ う な FD を 初 め て 開 催 し た こ と に 対 し て 、『 会 社 に 対 す る 愛 着 』 が増したこともうかがえる。 42 社 長 と 意 見 を 交 え た り 出 来 る 会 社 は な い 。A 社 っ て い い 会 社 な ん だ な と 思 っ た 。 (フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り ・ コ ン テ ン ツ 終 了 後 フ ァ シ リ テ ー タ ー ・ チ ー ム の 感想) 以 上 よ り 、 FD の 短 期 的 ア ウ ト カ ム と し て 、『 モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 ま り 』、『 会 社 に 対 す る 愛 着 』、『 会 社 と し て の 一 体 感 』 な ど 【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】 が 起こっていることが分かった。 なお、インタビュー協力者は小グループでの活動を中心となって行っている 社 員 で あ る た め 、 FD を 肯 定 的 に 捉 え て い る 傾 向 が 全 体 と 比 べ 強 い 可 能 性 が あ る 。 本 事 例 で 質 問 紙 調 査 を 実 施 し た 中 村 ・ 立 川 (2012)で は 、 全 体 の 1 割 程 度 が 積極的に参加できなかったと感じていることや、自分の意見を伝えることがで き な か っ た と 感 じ て い る こ と が 明 ら か に な っ て い る 。 ま た 、 入 社 10 年 目 以 降 の人が積極的に参加できたと感じていることから、経験年数や地位などのパワ ーを均等化できたとは言い難いことも指摘されている。これらより、本研究で は 明 ら か に す る こ と が で き な か っ た が 、【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】と は 別 の ダ イナミックスも起きていることが推測される。 4.2. 長期的アウトカム 本項では、インタビュー調査にて各小グループにおいて中心となって活動し ている人 7 名に聞いた内容を分析・整理を行った。長期的アウトカムとして、 各 小 グ ル ー プ の 9 か 月 間 の 活 動 の 様 子 に つ い て ま と め た (図 4-2)。活 動 の 頻 度 に ついて、継続的に活動を行い社内外に影響を与えている小グループを活動頻度 「 高 」、 継 続 的 に 活 動 を 行 っ て い る 小 グ ル ー プ を 活 動 頻 度 「 中 」、 ほ と ん ど も し くは全く活動が見られなかった小グループを活動頻度「低」と分類を行った。 この分類は 7 名の語りを参考に行った。 FD で は 、 7 つ の 小 グ ル ー プ が 結 成 さ れ た 。 そ の う ち 、 3 グ ル ー プ (< ク リ エ イ テ ィ ブ > 、< 教 育 > 、< 福 利 厚 生 > )が 継 続 的 に 活 動 を 行 い 、社 内 外 に 影 響 を 与 え て い た (活 動 頻 度「 高 」)。1 つ の グ ル ー プ (< 美 と 食 > )が 継 続 的 に 活 動 を し て い た (活 動 頻 度 「 中 」 )。 3 つ の グ ル ー プ (< 海 外 進 出 > 、 < ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ > 、< 育 児・福 祉 > )が 複 数 回 の 話 し 合 い の 実 施 、も し く は 未 実 施 の 状 況 で あ 43 っ た (活 動 頻 度 「 低 」 )。 以 上 よ り 、 FD の 長 期 的 ア ウ ト カ ム と し て 、 一 部 で は あ る も の の 小 グ ル ー プ の自主的な活動の継続が見られた。その中で、社内外に影響を与えるものも存 在した。また、活動により制度などの変更、報告を受けることで、活動による 変化を実感している人もいた。 グループ名 <クリエイティブ> <教育> <福利厚生> <美と食> <海外進出> <トータルビューティ> <育児・福祉> 4.3. 図4-2 各グループの活動の様子 計画した活動 実際の活動 勉強会の実施 チームとして仕事の担当 社内コンテストの企画 社内行事実施 社内の制度改正 社内の制度改正 社内の公式チーム再編成 社内の公式チーム再編成 情報収集 社内システムの提案 情報発信 情報発信 社内の制度改正 情報発信 話し合い 情報収集 情報発信 飲食店の経営 情報収集 勉強会の実施 話し合い(3回) 情報収集 各店舗に新たな役割設置 各店舗に新たな役割設置 社内の制度改正 社内の制度改正 情報発信 話し合い未実施 各店舗でコンセプト策定 店内の改装 社員用の託児所設置 情報収集 勉強会実施 話し合い未実施 福祉関連施設との提携 活動頻度 高 高 高 中 低 低 低 FD に 影 響 を 与 え た 要 因 本 節 で は 、 表 4-1 の よ う な 長 期 的 ア ウ ト カ ム で あ る 活 動 に 影 響 を 与 え て い る 要 因 で あ る 【 活 動 計 画 の 話 し 合 い 】、【 活 動 の 意 味 づ け 】、【 権 限 の 所 在 】 に つ い てそれぞれ検討を行う。 44 活動計画の話し合い 4.3.1. 【 活 動 計 画 の 話 し 合 い 】 に つ い て 、 観 察 調 査 で 得 ら れ た FD 時 の 様 子 を 交 え な が ら 分 析 を 行 っ た 。 分 析 結 果 を 図 4-3 に 示 し た 。 ま ず FD 時 の 様 子 と し て 、 『参加度合いの偏り』が存在した。インタビューで 3 名が指摘している。 絞 る 時 (≪ 5 コ モ ン グ ラ ウ ン ド 合 意 の た め の 対 話 ≫ )は み ん な が 聴 い た 方 が い い か ら い い ん だ け ど 、 結 構 発 言 す る 人 決 ま っ て た 感 じ だ よ ね 。 (C 氏 < 海 外 >) 参 加 的 な 人 は 参 加 で す し ね 、 っ て い う 感 じ で し た 。 (G 氏 < 福 利 厚 生 > ) 現 実 的 に 考 え て い る 人 と 、た だ 楽 し く 考 え て い る 人 と 、す ご く 差 が あ る よ う に そ の 時 は 感 じ ま し た 。 (H 氏 < 育 児 ・ 福 祉 > ) 具体的には、発言の回数の偏りと参加の姿勢の偏りが見られた。話し合いを 「現実的に考えている人とただ楽しく非現実的に考えている人がいた」という H 氏 の 語 り か ら も 分 か る よ う に 、 FD で 話 し 合 っ た 内 容 を 本 当 に 実 行 し て い く ことに対して、意識の差があったことがうかがえる。 また、 『 全 体 対 話 で の 内 容 の 偏 り 』が 見 ら れ た 。フ ィ ー ル ド ノ ー ツ に 記 録 し た 全 体 対 話 で の 発 言 を 1 回 と し て カ ウ ン ト し た も の を 図 4-4 に ま と め た 。 福 利 厚 生 の 話 題 が 46 回 、 教 育 が 12 回 発 言 さ れ て い る の に 対 し 、 ク リ エ イ テ ィ ブ は 1 45 回 、ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ は 2 回 し か 話 が さ れ て い な い 。全 体 対 話 は A 社 全 体 で 目指していく方向性を合意することを目的として行われ、話し合いの方法とし てはいくつかのコモングラウンドに収束させる形がとられた。そのため、福利 厚生では給料体系、給料アップ、休暇の取り方、保険など幅広い内容が項目と して出されていたために、話題に上がる回数が増えた。一方、発言の少なかっ たクリエイティブは撮影など元々の社内での取り組みがあり、トータルビュー ティも A 社の一部の店舗で掲げられているコンセプトであるため、両者とも、 もともと参加者がそれぞれに対してイメージを持っていた分野であった。その ため、1 つのコモングラウンドとして比較的まとまりやすく、話題に上がる回 数が少なかったと考えられる。しかしながら、話題にあまり上がらなかったた めに、それぞれの参加者が持っているイメージに委ねられてしまい、その中身 が検討される機会がなかった。そのため、後述するが、<クリエイティブ>は 社内での無関心・非協力的な状況を招いてしまい、<トータルビューティ>で は行動計画の話し合いが活性化しなかったのだと考えられる。 活動頻度 高 中 グループ名 クリエイティブ 教育 福利厚生 美と食 海外進出 低 トータルビューティ 育児・福祉 図4-4 各グループのFDでの様子 全体対話で 人数 行動計画の話し合い時の様子 語られた回数 10 1 「絶対やります」という意気込みを語っていた。 25 12 強い意見に影響された 12 46 強い意見に影響された 15 7 長期目標に具体性がなかった。 会社についての理想が話し合われ、自分が実際 17 8 に参加することが考えられていなかった。 「トータルビューティ」というコンセプトの捉え方がば 16 2 らついており、意見が出にくかった。 15 5 行動を進めていく担当者がすぐに決まらなかった。 次 に 、全 体 対 話 後 の【 活 動 計 画 の 話 し 合 い 】に つ い て 説 明 を 行 う 。 【活動計画 の 話 し 合 い 】 で は 、 各 グ ル ー プ で 様 々 な 様 子 が 見 ら れ た (表 4-2; フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り )。 <クリエイティブ>では行動計画を立てながら、筆者に対して「絶対に実現 させますよ」と意気揚々と意気込みを語っていた。他のチームよりもチームの メンバー同士の距離が近く、全員でまとまって話し合っている様子がうかがえ た。 46 <教育>と<福利厚生>では、強く主張する人に圧倒され、意見が言いづら い状況が生まれていた。特に<福利厚生>では、強く意見を主張する人によっ て 現 状 に 対 す る 不 満 が 多 く 話 さ れ て い た 。< 福 利 厚 生 > の G 氏 だ け で な く 、社 長もこの点を指摘している。 グループに分かれたじゃないですか。項目に分かれた後。私のグループで は、なかなかみんなの、主張が強くて。ふーんっていうのと。ヘアとエステ とネイルとレセプションって全て分かれている中で、自分はヘアの中にずっ と い た の で 、エ ス テ と ネ イ ル は 全 然 知 ら な か っ た の で 、へ ぇ そ う な ん だ ね ー 、 み た い な 感 じ と 、そ れ に 圧 倒 さ れ て 他 が 意 見 言 え な か っ た の が ち ょ っ と・・・ っ て 感 じ で し た け ど 。 (G 氏 < 福 利 厚 生 > ) < 福 利 厚 生 > で は 、フ ュ ー チ ャ ー・ダ イ ア ロ ー グ の 時 に 、 「もっとこうがいい」 と 強 い 意 見 を 持 っ て い る 子 に わ り と 影 響 さ れ て い た 。 (社 長 ) また、<教育>に関しては中心人物からは指摘はなかったが、傍から見てい た他のグループから、話し合いの際の様子に対して指摘があった。 ( 教 育 は ) 強 い 人 が い る と 何 も 言 え な い み た い な 空 気 に な っ て た よ ね 。 (C 氏<海外>) <美と食>では、全体対話の時に上がっていた飲食店の経営について合意が されず、短期的な活動である情報発信にのみ合意がされた。B 氏の語りから、 美容業界の専門職という立場であるため、飲食店の経営はイメージが湧かず、 まずは自分たちができることから始めようという結果に落ち着いたことが分か る。 例 え ば 、サ ロ ン じ ゃ な く て カ フ ェ で 働 く 人 は ど う す る の か 、休 み の 日 に 出 る の か と か ・・・ 休 み だ け や る の か と か 、営 業 日 と か も 分 か ら な い じ ゃ な い で す か 。な の で ・・・ 結 局 決 ま ら ず 、と り あ え ず 自 分 た ち に で き る こ と は 何 か っ て 47 い う こ と で 、 最 初 に 言 っ た よ う な 内 容 (情 報 発 信 ) に つ い て 主 に 話 し 合 っ て 進 ん で い る 感 じ で す 。 (B 氏 < 美 と 食 > ) <海外進出>では、 「 夢 物 語 」(C 氏 の 語 り よ り )の よ う な 会 社 の 理 想 が 話 さ れ た。現実検討があまりなされないまま行動計画が立てられ、実際に自分が実行 するという意識が欠けている状況であった。先述した参加の姿勢の偏りで述べ たような、ただ楽しく考えており実行まで意識されていない状況であったと考 えられる。 < ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ > で は 、下 記 の F 氏 の 語 り か ら も 分 か る よ う に も と も と A 社 の 一 部 の 店 舗 で 掲 げ ら れ て い た「 ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ 」と い う コ ン セ プ トの考え方がメンバー間でばらついており、活発な話し合いがされなかった。 トータルビューティっていうものの捉え方がまだばらつきがあるような、 とてもくくりが大きすぎて、だから余計に意見が出にくい部分があるのかも し れ な い 。 (F 氏 < ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ > ) 全 体 対 話 で も 1 回 し か 話 題 に 上 が ら な か っ た た め に 、「 ト ー タ ル ビ ュ ー テ ィ 」 を目指すことには合意がされたが、どのような「トータルビューティ」を目指 すのかという具体的な中身について話し合う機会がなかった。そのため、社員 の間での捉え方が一致していなかったものと考えられる。 <育児・福祉>では、行動計画発表直前に中村氏から出された「行動計画を 誰が実行するかも発表してください」という指示を受け、誰が実行するかを慌 てて決める様子が見られた。しかし、その場では決まらず、発表時に中村氏か ら誰が行動のきっかけを作るのかを問われ、発表中に役割を決めていた。グル ープでとりあえず行動計画を立ててみたものの、実際に実現させていくまでの イメージを持っておらず、責任を個人として負うことに躊躇いがあったのだと 考えられる。 FD 後 、 活 動 の 様 子 が 3 パ タ ー ン に 分 か れ た 。 ① 小 グ ル ー プ 単 位 の 活 動 、 ② 個人単位の活動、③活動がほとんど行われない、の 3 つである。<クリエイテ ィブ>、<教育>、<美と食>、<海外進出>では①小グループ単位での活動 48 が 行 わ れ た 。 特 に 、 < ク リ エ イ テ ィ ブ > 、 < 教 育 > 、 < 美 と 食 > で は 、 FD 後 に 改 め て グ ル ー プ と し て 何 を す る の か 話 し 合 い が 行 わ れ た 。< 福 利 厚 生 > で は 、 ② 個 人 単 位 の 活 動 が 見 ら れ た 。 FD 時 の 行 動 計 画 の 話 し 合 い の 際 に 強 く 不 満 を 主 張 し た 人 は 実 際 に は 活 動 せ ず 、計 画 を 立 て た 際 に 役 割 を 担 っ た G 氏 が 社 長 と 連携して活動を行っている。不満を強く主張した人は行動計画を立てるにあた っても未来志向になることができず、コモングラウンド実現へのエネルギーが 失われてしまったと考えられる。<トータルビューティ>、<育児・福祉>で は 、③ 活 動 が ほ と ん ど 行 わ れ な か っ た 。FD 後 に 話 し 合 い は 設 け ら れ ず 、FD 時 に話し合いの中心となった人物が 1 名もしくは少数で情報収集を行うにとどま っている。 以上より、1 つ 1 つの小グループの話し合いを丁寧に観察できなかったため 推 測 に な る が 、 FD 後 に 活 動 が 低 頻 度 だ っ た 小 グ ル ー プ は 、 行 動 計 画 の 話 し 合 いの時点でコンセプトの捉え方のばらつきや責任を負うことへの躊躇いが起こ っていることから、あまり行動計画の話し合いにおいて活発に話し合いが行わ れていなかったと考えられる。 4.3.2. 活動の意味づけ 次 に 、【 活 動 の 意 味 づ け 】 に つ い て 述 べ る (図 4-5)。 グ ル ー プ 内 の 個 人 の レ ベ ル と社内のレベルに分けて検討を行う。個人として活動にどのような意味付けを 行っているのか、社内で活動に対してどのような意味づけを行っているのかに ついてみていく。 49 ま ず 、個 人 の レ ベ ル で は『 活 動 と キ ャ リ ア の 結 び つ き /乖 離 』と『 個 人 的 動 機 』 が含まれる。 『 活 動 と キ ャ リ ア の 結 び つ き 』で は 、自 身 の 仕 事 上 の キ ャ リ ア 設 計 において活動を捉えている。 その方は、もう免許を少しずつ取っている方で。彼女の方がもう少し詳し いかもしれないですけど、でもまとめるのとはわけが違うじゃないですか。 と り あ え ず 一 緒 に 動 い て く れ て は い る ん で す け ど 。 (H 氏 < 育 児 ・ 福 祉 > ) や っ ぱ り 福 祉 を や っ て い き た い っ て い う 子 も い ま す 。本 当 に 興 味 が あ る し 、 女子なのでいずれ子供を産んで育てていく段階で、いつかこんな若者ばかり やってられなくなったり、朝から晩まで立ちっぱなしのこの仕事をやれなく なる日が来るじゃないですか。将来のことを自分たちが考えると、やっぱり そういうところで、そういう免許を取ってやっていくことを考えている子も い ま す 。 (H 氏 < 育 児 ・ 福 祉 > ) 写真を撮ることも美容師にとって大事なことかなと思いますし、スタッフ 全 員 が 写 真 を 撮 れ ば HP の 写 真 も 充 実 し て お 客 さ ん が 見 た 時 も 楽 し め ま す し 。 (B 氏 < ク リ エ イ テ ィ ブ > ) 具体的には、<クリエイティブ>では「クリエイティブな活動をすることも 仕 事 の 一 部 」 (B 氏 )と し て 捉 え 、 活 動 を 推 進 す る 力 に 繋 が っ て い る 。 ま た 、 < 育児・福祉>でも長期的な仕事上のキャリアを考えた上で活動を捉えている人 が い る 。大 き な 活 動 に は ま だ 至 っ て い な い が 、中 心 人 物 で あ る H 氏 と 連 携 を 取 り情報収集の役割を担っている。 一方で、 『 活 動 と キ ャ リ ア の 乖 離 』が 起 き て い る グ ル ー プ も 存 在 す る 。< 海 外 進出>と<美と食>では、活動内容と現在の仕事が繋がっておらず、現在の仕 事・状況を捨ててまで活動を推進することができない状況である。この点に関 し て は 、社 長 も 社 員 の 活 動 の 様 子 を 見 て 感 じ て い た こ と が 語 り か ら う か が え た 。 社長によって社員の思いが代弁された。 50 「じゃあ行きたい?」ってなった時に、話しているスタッフもあまり行き たくないやんね、みんな。現実、行きたいという人はいないの。私がリサー チした感じだと。海外で働きたい人がいない、うちの店には。なんでかって いったら、日本の技術が一番ってみんな思っているから。そんな若いうちか ら 海 外 で 美 容 師 の 仕 事 し た く な い っ て み ん な 思 っ て い る 。 (C 氏 < 海 外 進 出 >) そこまで懸けれない。無責任とかそういう意味じゃなくて、今の自分の仕 事があって、美と食の提案をしていきたいなというのは思っている。だけど 実 際 に 飲 食 と い う と こ ろ ま で い く と 、い ろ ん な 思 い が あ っ て 、 「あったらいい よ ね 」 と い う 気 持 ち は あ る け ど 、「 じ ゃ や る ? 」 と 言 わ れ た ら 、「 う ー ん そ こ ま で ・ ・ ・ 」 と 一 歩 出 せ れ な い 。 (社 長 ) <海外進出>では、会社には海外に進出してほしいが、自らが海外で働きた いという希望を持っている人はいなかった。また、<美と食>でも美と食に関 わることをしたいが、実際の飲食というところまではイメージが湧かないよう であった。 次 に 『 個 人 的 動 機 』 で は 、「 グ ル ー プ の 活 動 に 興 味 を 持 っ て い た (B 氏 < ク リ エ イ テ ィ ブ >;H 氏 < 育 児・福 祉 > )」、 「 自 分 の た め に な る (D 氏 < 教 育 > )」、 「ス タ ッ フ が 知 ら な い こ と を 教 え て あ げ た い (G 氏 < 福 利 厚 生 > )」 な ど 、 活 動 に 対 して様々な動機を持っていることが分かった。このような動機を持っているこ とが、活動を推進する力に繋がる。 なお、この個人に対する語りは、活動の中心となっているインタビュー協力 者自身にも見られたが、グループのメンバーに対する語りも見られた。<クリ エ イ テ ィ ブ > と < 育 児・福 祉 > で は 、メ ン バ ー が『 活 動 と キ ャ リ ア の 結 び つ き 』 や『個人的動機』を抱いており、活動の推進に一役買っていた。また、<海外 進出>では、インタビュー協力者は『個人的動機』を抱き活動を進めたいとい う気持ちを持っていたが、メンバーが『活動とキャリアの乖離』を感じ、活動 を進めることに消極的な姿勢を示していた。 次に社内のレベルについて整理を行う。活動に対する社内の反応として、推 51 進 す る も の に『 周 囲 か ら の 協 力 』、 『 他 グ ル ー プ の 活 動 へ の 関 心 』が 挙 げ ら れ る 。 『周囲からの協力』は、B 氏の語りから<クリエイティブ>において、技術部 長が仕事の機会を提供してくれ、経験を積むことができたことがわかった。経 験を積むことで活動の楽しさや力不足を感じ、更なる活動へ向かっている。こ のことから、権限を持つ人からの活動に対するサポートが、活動を推進する力 に な る こ と が 分 か る 。 ま た 、 ま だ 協 力 に ま で は 至 っ て い な い が 、 FD に よ り グ ループが活動をすることで、活動への興味関心が社内から持たれている状況が 起 き て い た 。ま た 、E 氏 や B 氏 の 語 り か ら < 美 と 食 > や < ク リ エ イ テ ィ ブ > に おいて、グループ外のスタッフから関心を持つ声が寄せられていることが分か った。現在はまだ活動の広がりは見られていないが、今後発展の可能性があり う る 。一 方 で 、 『 他 グ ル ー プ の 活 動 へ の 関 心・理 解 の 薄 さ 』と い う 反 応 も 見 ら れ た。インタビュー調査で 5 名が他グループの目標や活動に対して、本当に実現 できるのかという疑念を持っていたこと、活動の内容に対する理解不足であっ た こ と が 挙 げ ら れ た 。ま た 、 『 他 グ ル ー プ の 活 動 へ の 関 心・理 解 の 薄 さ 』が 実 際 に活動の壁になっていたこともあった。<クリエイティブ>では、活動を進め ていくにつれて、グループ外から「いい風に思われていなかった」経験がある こ と が 語 ら れ た 。直 接 活 動 に 対 し て 反 発 が 起 き た わ け で は な い が 、 「活動によっ て お 店 が か き 乱 さ れ て い る 」、「 迷 惑 を こ う む っ て い る 」 と い う 声 を 間 接 的 に 聴 きショックを受けたことがあると語られた。その状況でも活動を共にしている スタッフの支えにより、新しいことを始める時には逆境はつきものだと受け止 め、活動の継続ができている。 4.3.3. 権限の所在 52 最 後 に【 権 限 の 所 在 】に つ い て ま と め る (図 4-6)。イ ン タ ビ ュ ー デ ー タ の 分 析 から、活動の性質が現在行われていることの改善・拡充である場合は、グルー プのメンバーが活動に対する決定権を持っていることが分かった。また、新規 事業立ち上げである場合は、社長が決定権を持っていることが分かった。メン バーが権限を持っている<クリエイティブ>、<教育>はメンバーによって活 動がうまく推進されている。<トータルビューティ>は、活動頻度は少ないも の の 、中 心 人 物 で あ る F 氏 に よ っ て 社 内 制 度 の 見 直 し が な さ れ た 。新 規 事 業 立 ち上げである<海外>は社長との連携がうまくいかず、 『 社 長 の 意 向 の 憶 測 』が なされ、活動の停滞に繋がっていた。 なお、<福利厚生>は現在の事業・部署の改善・拡充に当てはまるが、A 社 では人事機能を社長が担っているため権限の所在は社長にある。そのため、新 規 事 業 立 ち 上 げ で は な い が【 権 限 の 所 在 】の 社 長 の 方 に グ ル ー ピ ン グ を 行 っ た 。 本 章 の 最 後 に 分 析 結 果 の 全 体 の ま と め を 表 4-3 に 示 し た 。 53 54 低 中 高 活動頻度 権限の所 ― ― ― ― 「トータルビューティ」というコン セプトの捉え方がばらついてお ― り、意見が出にくかった。 ・目の前の仕事 行動を進めていく担当者がすぐ ・元々興味を持っ にいっぱいいっぱ ― に決まらなかった。 ていた いでイメージでき ない <トータルビューティ> <育児・福祉> ― キャリアとの乖離 ― を感じている 会社についての理想が話し合 われ、自分が実際に参加するこ ― とが考えられていなかった。 <海外進出> 社長 ・情報発信に対 する反応の薄さ 社長 メンバー 社長 メンバー メンバー ― ・グループ外の人 キャリアとの乖離 が関心を持って ― を感じている いる ― ― 長期目標に具体性がなかった。 ― 強い意見に影響された <福利厚生> ・自分のためにも ― なる ・知らないスタッ ― フに伝えたい <美と食> 強い意見に影響された ・技術部長からの ・クリエイティブの 仕事の依頼 ・活動に対する周 「絶対やります」という意気込み ・元々興味を持っ 活動も今の仕事 ・グループ外の人 囲の無関心によ メンバー を語っていた。 ていた にとって大事なこ が関心を持って る冷たい対応 と いる <教育> <クリエイティブ> グループ名 図4-7 各グループと抽出された概念のまとめ 活動の意味づけ メンバー 社内 行動計画の話し合い キャリアとの結び 周囲からの協力・ 周囲からの無関 個人的動機 つき/乖離 関心 心・理解不足 第 5章 分析結果の考察 本章では本研究により明らかになったことをまとめ、先行研究との比較を行 う。それによって、本研究の貢献を示す。 発見事実 5.1. 5.5.1. 研究課題①:対話型組織開発により得られる効果 短 期 的 ア ウ ト カ ム と 長 期 的 ア ウ ト カ ム の 分 析 結 果 に つ い て 、簡 単 に ま と め る 。 短 期 的 ア ウ ト カ ム と し て は 、【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】 が 見 ら れ た 。 具 体 的 に は 『 モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 ま り 』、『 会 社 に 対 す る 愛 着 』、『 会 社 ・ 店 舗 と し て の 一体感』であった。これらは『皆で方向性を決める』というこれまでとは異な る方向性の決め方をしたこと、 【 社 内 外 の 交 流 】で 普 段 は あ ま り 関 わ る こ と の な い他店舗、取引業者、独立した元社員との交流が行われたこと、日常とは異な る環境で日頃感じていることを素直に発言できたことが影響している。 長 期 的 ア ウ ト カ ム と し て は 、7 グ ル ー プ の う ち 3 グ ル ー プ が 高 頻 度 に 活 動 、1 グループが中頻度に活動、3 グループが低頻度に活動していた。そのうち、3 グ ル ー プ が グ ル ー プ 単 位 で の 活 動 、1 グ ル ー プ が 個 人 単 位 で の 活 動 を し て い た 。 ま た 、 イ ン タ ビ ュ ー で FD 後 の 変 化 を 感 じ て い る と い う 語 り も 見 ら れ た 。 5.1.2. 研究課題②:対話型組織開発に影響を与える要因 本 事 例 で は 、 FD の 効 果 に 影 響 を 与 え る 要 因 と し て 【 行 動 計 画 の 話 し 合 い 】、 【 活 動 の 意 味 づ け 】、【 権 限 の 所 在 】 と い う 3 つ が 挙 げ ら れ た 。 (1) 行動計画の話し合い 本事例では、 【 行 動 計 画 の 話 し 合 い 】が 要 因 の 一 つ で あ る と 分 析 さ れ た 。行 動 計画の話し合いがどのように行われたかが、その後の小グループの活動の在り 方に大きく影響していた。活動が低頻度であった小グループは活発な話し合い が 行 わ れ ず 、 FD 後 の 活 動 に つ い て あ ま り 合 意 形 成 が で き な か っ た と 考 え ら れ る。高頻度、中頻度に活動を行っているグループでも強い意見に影響されるな ど 順 調 に 話 し 合 い が 行 わ れ た わ け で は な い が 、FD 後 に 再 度 小 グ ル ー プ の 方 針 、 活 動 計 画 に つ い て 話 し 合 う 場 が 設 け ら れ 、 継 続 的 に 活 動 が 行 わ れ て い る 。 FD 55 後の話し合いが実施できたのは、ある程度行動計画の話し合いの際に合意形成 に至っていたからだと考えられる。したがって、行動計画の話し合いの場でど のようなことを話し合い、何が起こっているのかが重要な一つの要因になって いると考えられる。しかし、行動計画の話し合いに対する観察が不十分であり どのようなプロセスが起こっているのかが不明瞭である。本研究を契機にこの 点についてより研究を深めることが求められる。 また、この【行動計画の話し合い】には、参加者の『参加度合いの偏り』や 『 全 体 対 話 で の 内 容 の 偏 り 』が 影 響 し て い た と 考 え ら れ る 『 。参加度合いの偏り』 は、具体的には発言の回数の偏りと、参加姿勢の偏り、つまり話し合いに対す る意識の差が見られた。発言の回数の偏りのような個人の積極性に関わること は、個々人の性格や立場に影響されるところもあるため、完全に均等にするこ とは難しい。しかし、もう一方の話し合いに対する意識の差は、企画者により 対応が可能であると考えられる。したがって、実施前に話し合いの狙いや会社 にとっての位置づけを説明することで参加者のレディネスを高め意識の差を軽 減し、話し合いの構成やファシリテーターの働きかけによって、役職や経験に 関 わ ら ず 発 言 し や す い 民 主 的 な 場 を 醸 成 す る こ と が 求 め ら れ る 。ま た 、 『全体対 話での内容の偏り』は、比較的まとまりやすいコモングラウンドに対する検討 があまり行われず、様々な要素を含んでおり、まとまりにくいコモングラウン ドに対して意見が集中したために起こった。コモングラウンドの性質によって ある程度の偏りは致し方ないが、話題に上っているコモングラウンドに関して 参加者が同じイメージを抱くことができているか留意しながら進めることが必 要である。 (2) 活動の意味づけ 本事例の分析の結果、グループの中心となって活動している人、グループの メンバー、グループ外のそれぞれのレベルにおいて、活動の意味づけが行われ ているかどうか、が影響することが明らかになった。グループ内において、中 心となって活動している人と、グループのメンバーが、活動に対して『個人的 動機』や『活動とキャリアの結びつき』を感じていることで、活動が推進され る。グループのメンバーが活動の意味づけをしていない場合は、活動に対して 56 消極的になり活動の阻害が起きることが分かった。また、グループ外において 活動の意味づけがされていると、活動に対して協力的になり活動機会が提供さ れるなど支援的な行動が行われることが分かった。一方、活動に対して関心・ 理解が薄い状況だと、活動に対して理解が得られない状況や、活動がしづらい 状況を招くことになる。 (3) 権限の所在 本 事 例 で は 小 グ ル ー プ の 活 動 の 性 質 と し て 、(1)現 在 の 事 業 ・ 部 署 の 改 善 ・ 拡 充 、 (2)新 規 事 業 立 ち 上 げ 、 の 2 種 類 が 見 ら れ た 。 (1)現 在 の 事 業 ・ 部 署 の ・ 改 善・拡充では、権限を持っている人がメンバーに含まれていた、もしくは自主 活動を自分達で始めることができたため、権限の所在はメンバーにあり、比較 的 活 動 を 行 い や す か っ た 。一 方 、(2)新 規 事 業 立 ち 上 げ で は 、権 限 の 所 在 が 社 長 にあり、事業の構想を練る時点から社長との連携が求められた。そのため、自 分たちだけでは話し合いを重ねても最終的な意思決定ができず、活動が停滞し てしまう状況が見られた。 この要因の解決策として、活動を行う権限を小グループに委ねることも考え ら れ る (Polanyi, 2001)が 、 そ れ だ け で 解 決 す る 問 題 ば か り で は な い 。 本 事 例 の 対 象 で あ る A 社 は 、美 容 業 界 に 属 し 専 門 職 か ら な る 組 織 で あ る 。そ れ ゆ え 、社 員は独立を志す人もいるなど、将来のキャリアとしてプロフェッショナルにな ることを目指している。また、給与体系も店舗ごと、個人ごとの売り上げによ っ て 決 定 す る 制 度 を 採 用 し て い る 。そ の た め 、社 員 は 現 在 の 自 分 の 仕 事 を 行 い 、 技術を磨き、売り上げを上げることを望んでおり、活動の権限をメンバーに委 託し、メンバーが通常の仕事を離れて活動を行うという方法を取ることが難し い。したがって、権限の所在を明らかにした後に、それぞれのグループに対し て 適 切 な サ ポ ー ト 、グ ル ー プ 外 と の 連 携 を 行 う こ と が 求 め ら れ る と 考 え ら れ る 。 5.2. 先行研究との比較 次 に 、2.4.で 述 べ た 既 存 の フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と AI の 評 価 研 究 と 本 事 例 と の 比 較 検 討 を 行 う 。Polanyi(2001)で は 効 果 に 影 響 を 与 え る 新 た な 要 因 の 存 在 が 示 唆 さ れ た 。 Bushe and Kassam(2005)で は 、 対 話 型 組 織 開 発 を 実 施 す る 際 に 留 57 意すべき実践的インプリケーションが得られた。 5.2.1. ハンドブック、既存の評価研究との比較検討 ま ず ハ ン ド ブ ッ ク で 仮 定 さ れ て い る AI の 効 果 (Whitney and Trosten-Bloom, 2006;Cooperrider and Whitney, 2006)、フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ の 効 果 (Weisbord and Janoff, 2000) 、 ま た AI の 効 果 研 究 を 行 っ た 、 Kotellos et al.(2005) 、 Messerchmidt(2008)、 Bushe and Coetzer(1995)、 Jones(1998)、Peelle (2006) と、本事例を比較検討する。先にこれらの研究により明らかになったフューチ ャ ー サ ー チ と AI の 効 果 に つ い て 整 理 を 行 っ た と こ ろ 、 以 下 の 3 点 に ま と め ら れた。 (1)領 域 を 超 え た 外 部 と の 関 係 性 の 向 上 (2)仕 事 に 対 し て 肯 定 的 に 考 え 、 オ ー ナ ー シ ッ プ を 持 っ て 積 極 的 に 取 り 組 む (3)コ ア バ リ ュ ー に よ り 忠 実 に な り 、 グ ル ー プ ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 高 ま っ た こ の 3 点 に つ い て 、本 事 例 で は ど の よ う な こ と が 起 こ っ て い た の か 検 討 を 行 う。 (1) 領域を超えた外部との関係性の向上 フューチャーサーチでは、主要な領域の人々が、自分たちの領域を越えて持 続的な関係を築くことを可能にする効果があると仮説が立てられている (Weisbord and Janoff, 2000)。ま た 、AI の 評 価 研 究 で も 外 部 と の 関 係 性 が 良 好 になったという結果が見られた。 本事例では、独立した元社員は 1 日目のみの参加であり、取引業者は小グ ル ープでの活動にほとんど参加しなかった。このように外部の巻き込みが限定的 であったため、関係の変化は見られなかった。本事例では、外部との関係性の 向上は意図されておらず、社内での社員同士の対話に重点が置かれた。 (2) 仕事に対して肯定的に考え、オーナーシップを持って積極的に取り組む フューチャーサーチでは、参加者が個人的に責任を引き受け、小グループの 活 動 が 迅 速 に 実 行 さ れ る こ と が 起 こ る (Weisbord and Janoff, 2000; Polanyi, 2001)。 AI の 評 価 研 究 で も 、 仕 事 に 対 し て 肯 定 的 に 考 え 、 オ ー ナ ー シ ッ プ を 持 58 って積極的に行うようになったという結果が見られた。 本事例では、肯定的な思考は美容業界特有の厳しい労働環境のため変化が見 ら れ な か っ た (中 村 ・ 立 川 , 2012)。 小 グ ル ー プ の 活 動 で は 、 7 グ ル ー プ の う ち 3 グループが社内外に影響を与えるような活動を継続的に行っていることから、 オーナーシップを持って積極的に活動に取り組んでいることがうかがえる。ま た 、 イ ン タ ビ ュ ー の 語 り か ら も 、「 言 っ た か ら に は や ろ う よ っ て 感 じ な の で (G 氏 )」と い う よ う に 、個 人 的 に 責 任 を 引 き 受 け て い る 様 子 が 見 ら れ る 。し た が っ て 、 FD の 取 り 組 み が オ ー ナ ー シ ッ プ を 持 っ て 積 極 的 に 仕 事 に 取 り 組 む 行 動 に 繋がっていると考えられる。 (3) コアバリューにより忠実になり、グループアイデンティティが高まった フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ で は 明 確 に 触 れ ら れ て い な い が 、AI の 評 価 研 究 で は コ ア バリューにより忠実になり、グループアイデンティティが高まったという結果 が見られた。 本 事 例 で も 、FD 実 施 後 に『 会 社 に 対 す る 愛 着 』 『 会 社・店 舗 に 対 す る 一 体 感 』 など、会社に対するアイデンティティが向上した様子が見られる。また、本事 例 を 対 象 に 質 問 紙 調 査 を 行 っ た 中 村・立 川 (2012)か ら も 、 『組織とその将来への コミットメント』と『組織ビジョンの内在化』の数値の上昇がみられるなど、 A 社が目指していく方針を内在化しコミットしていることが分かる。したがっ て 、 FD の 取 り 組 み か ら 組 織 ビ ジ ョ ン を よ り 理 解 し 、 A 社 へ の 同 一 化 が 高 ま っ たと考えられる。 以 上 よ り 、フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と AI を 組 み 合 わ せ た FD と い う 対 話 型 組 織 開 発 の 効 果 と し て 、【 FD 後 の 気 持 ち の 高 ま り 】、 社 内 外 に 影 響 を 与 え る よ う な 小 グループの継続した活動が見られた。これらは先行研究で見られたような効果 とも一致する。 5.2.2. Polanyi(2001)と の 比 較 検 討 次 に 、 Polanyi(2001)と の 比 較 検 討 を 行 う 。 Polanyi(2001)は 、 フ ュ ー チ ャ ー サーチ後の質問紙調査による短期的アウトカムの測定と、インタビュー調査に 59 よる長期的アウトカムの測定、および効果に影響を与える要因の探索を行って いる。この研究は、フューチャーサーチの効果に影響を与える要因を、事例を 用いて調査した公刊されている唯一の研究である。そこで本研究で明らかにな っ た 要 因 を Polanyi(2001)と 比 較 を 行 う こ と で 、 ど の よ う な 要 因 が 対 話 型 組 織 開発の効果に影響を与えるのかを検討する。 Polanyi(2001)で は 、 小 グ ル ー プ の 活 動 に 影 響 を 与 え る 要 因 と し て 、 (1)ミ ー テ ィ ン グ の 時 間 が 確 保 で き る か (2)小 グ ル ー プ を 推 進 す る 人 物 の 動 機 づ け の 高 さ (3)目 標 設 定 の 明 確 さ の 3 点が挙げられている。この 3 点について、本事例と比較検討を行う。 (1) ミーティングの時間が確保できるか Polanyi(2001)の 事 例 は 、ス ト レ ス 障 害 に 関 わ る 病 院 、コ ミ ュ ニ テ ィ 、患 者 な どを対象としたフューチャーサーチを対象としていたため、小グループは異な る立場の人から構成された。そのため、時間的な余裕があるかどうかは各グル ープ・個人によって異なっていたために、ミーティングの時間が確保できるか どうかが活動の成否に影響したと考えられる。 本 事 例 で は 、小 グ ル ー プ の メ ン バ ー は 全 て A 社 の 社 員 で あ り 、店 長 や マ ネ ジ ャーなど役職に関わらず編成された。したがって、ミーティングの時間が確保 できるかどうか、という物理的な問題はどのグループもほぼ同条件で抱えてお り、活動に影響を与える根本的な要因ではなかったと考えられる。 (2) 小グループを推進する人物の動機づけの高さ Polanyi(2001)で は 、 グ ル ー プ の 推 進 者 の 動 機 づ け の 高 さ に の み 言 及 し て い る。しかし、本事例ではグループのメンバー、グループ外の社内でも活動の意 味づけがなされていないと、活動に理解が得られず活動の阻害が起こることが 分 か っ た 。グ ル ー プ 内 、社 内 で 活 動 の 意 味 づ け を 行 う た め に は 、 【行動計画の話 し 合 い 】の 中 で 合 意 形 成 を し っ か り と 行 う こ と 、 『 全 体 対 話 で の 内 容 の 偏 り 』を なくしコモングラウンド一つ一つに対して社内でどのような状態を目指してい くのかを合意することが重要であると考えられる。 60 (3) 目標設定の明確さ Polanyi(2001)の 事 例 で は 、 活 動 的 な グ ル ー プ は 目 標 を 具 体 的 で 、 限 定 的 で 、 直接達成可能なものに設定しており、非常に詳しい活動のアウトラインを決め ていた。一方、活動的でないグループの行動計画は、メンバーそれぞれのエリ アで活動範囲を広げるだけであったと述べられている。 本 事 例 で は 、 FD で 立 て ら れ た 行 動 計 画 に つ い て は そ の よ う な 傾 向 は 見 ら れ なかった。どのグループも「~をする」という形で、同程度の具体性をもって 行動計画を立てていた。ただし、<海外進出>に限っては、インタビューの語 り で も 「 夢 物 語 (C 氏 の 語 り )」 と い う 言 葉 が 使 わ れ た り 、 行 動 計 画 の 発 表 の 際 に出た「現実的な資金プランは?」という質問に対して「全く話し合っていな い で す ね 」 と 答 え て い た り す る (フ ィ ー ル ド ノ ー ツ よ り )な ど 、 行 動 計 画 に 現 実 味が欠けるところがあった。 また、時間軸に関しては長期的に行いたい活動と短期的にすぐできる活動と 両方書いているグループと、短期的な活動のみ書いているグループの両方が見 られた。この傾向はグループの活動頻度との関わりはなかった。 ま た 、Weisbord and Janoff(2000)は 、詳 細 な プ ラ ン と 戦 略 を 作 成 し た も の の 、 人々がコミットメントをもって取り組まなかったために、課題が棚上げされて しまった状態が起こることを指摘している。そのため、本事例の結果と Weisbord and Janoff の 指 摘 よ り 、 目 標 と 行 動 計 画 を い か に 明 確 に 設 定 で き た か、ということが、必ずしも活動の推進要因にならないと考えられる。 目標設定の明確さについて、本事例で留意すべきことがある。活動が高頻度 であった<クリエイティブ>と<教育>、活動が中頻度であった<美と食>で は 、今 後 ど の よ う な 活 動 を 行 っ て い く の か FD 後 に 改 め て 話 し 合 い が 行 わ れ た 。 この話し合いでは、<クリエイティブ>では「自分たちは何をやるために集ま っ た の か (B 氏 の 語 り 抜 粋 )」、 < 教 育 > で は 「 教 育 に 対 す る 考 え 方 の 違 い を 、 時 間 を か け て 話 し 合 い 折 り 合 い を つ け た (D 氏 の 語 り 要 約 )」、< 美 と 食 > で は「 ど の よ う な 美 と 食 の 情 報 発 信 を し て い く か (E 氏 の 語 り 要 約 )」 に つ い て 話 し 合 わ れた。それぞれのグループで、現実味をもって具体的にどのようなことをして いくのかについて話し合われた。つまり、話し合い実施時に詳細なグループの 61 目標、行動計画が作成できていることが重要なのではなく、話し合い実施時で あれ、話し合い終了後であれ、どこかのタイミングで現実に即した目標と活動 計画を明確化し、共有することが、グループの活動を推進する要因になってい るのではないかと考えられる。 ま た 、 Weisbord and Janoff は 詳 細 な プ ラ ン を 作 っ た が 実 行 さ れ な い と い う 状態を回避するために、行動計画をグループで作成した後に個人ごとでも行動 計画を立てるという、行動計画を二段階で作成することを提案している。この 狙いは、個人で行動計画を立てることで、行動を起こすことに対する個人的な コミットメントを生み出すということだと述べている。本事例でも、<福利厚 生 > で G 氏 は「 行 動 計 画 を 立 て た 際 に 、店 長 会 議 で 提 案 す る と い う 役 割 が 振 り 当てられたので、結果として中心人物として活動することになった」と語って いた。 以上を総合すると、目標設定の明確さが推進要因になるというよりは、グル ープで目標と行動計画を明確に示し共有した上で、個人で行動計画を立てるこ とで、個人のコミットメントが引き出され、活動が推進されると考えられる。 ただし、本事例では、活動頻度が低かったグループでも個々人に役割の振り分 けがされているグループもあり、はっきりと断言することはできない。 以 上 よ り 、 Polanyi(2001)で 挙 げ ら れ て い た 、 (1)ミ ー テ ィ ン グ の 時 間 が 確 保 できるか、という要因は、本事例では効果に影響を与えた要因に当てはまらな か っ た 。こ れ は 、Polanyi(2001)の 場 合 は 、複 数 の ス テ イ ク ホ ル ダ ー に よ り グ ル ープが編成されていたが、本事例では同一の会社でのグループ編成がされてい た た め だ と 考 え ら れ る 。ま た 、(2)小 グ ル ー プ を 推 進 す る 人 物 の 動 機 づ け の 高 さ という要因に関しては、小グループを推進する人物の動機づけだけでなく、グ ループのメンバーや社内において意味づけがされているかどうかも影響するこ と が 明 ら か に な っ た 。(3)目 標 設 定 の 明 確 さ と い う 要 因 で は 、目 標 を い か に 明 確 に設定するかではなく、現実に即した目標と行動計画を示し共有することが活 動の推進要因になっているのではないかと考えられる。また、グループの行動 計画を受け、個人で行動計画を立てることによって活動が推進される可能性が あることが示唆された。この点に関しては、本研究だけでは明らかにできなか 62 ったため、更なる研究が求められる。 5.2.3. Bushe and Kassam(2005)と の 比 較 検 討 最 後 に Bushe and Kassam(2005)と の 比 較 を 行 う 。 Bushe and Kassam は 事 例 を 用 い た 研 究 で は な い も の の 、AI の 効 果 に 影 響 を 与 え る 要 因 を 検 討 し た 数 少 な い 研 究 で あ る 。 そ の た め 、 Bushe and Kassam と 照 ら し 合 わ せ て 比 較 を 行 う ことで、何らかの示唆が得られると考えられる。 Bushe and Kassam で は 、AI を 用 い て 変 革 が 見 ら れ た 7 件 の 事 例 の 共 通 点 と し て 、 (1)行 動 よ り も 考 え 方 を 変 え る こ と に 焦 点 を 当 て た 、 (2)新 し い ア イ デ ィ ア が 生 ま れ る 自 己 組 織 化 の プ ロ セ ス の サ ポ ー ト を 行 っ た 、と い う 2 点 を 挙 げ て い る 。Bushe and Kassam の 特 徴 の 1 つ と し て 、AI に よ っ て 起 こ る 変 革 を 狭 義 に 定 義 し た こ と が 挙 げ ら れ る 。Bushe and Kassam は 、AI の ハ ン ド ブ ッ ク に 基 づ き AI に よ っ て 起 こ る 変 化 を 「 転 換 を 伴 う 変 革 (transformative change)」 と 定 義 を 行 い 、AI 実 施 前 に は な か っ た 新 し い 発 想 に 基 づ く 組 織 の 在 り 方 や ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 質 的 な 変 化 (qualitative shift in the state of being or identity of the system; p.170)と 狭 義 に 定 義 を し て い る 。 こ の よ う な 定 義 に 当 て は ま る 変 革 が 起 き て い る 事 例 は 、 全 て 成 功 事 例 と し て 紹 介 さ れ て い た に も 関 わ ら ず 20 件のうち 7 件しか見られなかった。転換を伴う変革の具体例としては、新しく 作ったミッションに基づいた作業や役割の再編成、これまで対立していた部署 の 協 働 、な ど が 挙 げ ら れ る 。こ の よ う な 変 革 が 見 ら れ た 7 件 に 共 通 し た 要 因 が 、 上 記 の (1)と (2)で あ る 。 本事例に照らし合わせると、A 社では社員が転換を伴う変革を望まなかった と 考 え ら れ る 。 Bushe and Kassam で 転 換 を 伴 う 変 革 が 起 き た 事 例 の 共 通 点 と し て 挙 げ ら れ て い る 、(1)行 動 よ り も 考 え 方 を 変 え る こ と に 焦 点 を 当 て た 、と い う要因は、本事例でも起こっていたと考えられる。7 つのコモングラウンドの う ち 、 美 と 食 、 海 外 進 出 、 福 祉 21の 3 つ に お い て は 、 A 社 で そ の よ う な 発 想 は な か っ た 。FD 実 施 前 は 個 人 で そ の よ う な 意 見 を 持 っ て い た 人 も い た が 、FD で 21 育児・福祉のコモングラウンドのうち、育児については、子連れのお客様向け の フ ァ ミ リ ー ル ー ム の 設 置 な ど 、取 り 組 み が 行 わ れ て い る 。し か し 、福 祉 に 関 す る 取り組みはされていなかった。 63 対話を行うことで意見が交わされ、A 社の新たな方針として固まった。このよ うに、A 社において考え方の変化は起きていると考えられる。しかし、この新 しい発想をもとにした転換を伴う変化は起こらなかった。この点について、そ れぞれのコモングラウンドにおいて考察を行う。 な お 、考 察 の 際 に 、Marshak(1993)の 変 革 の 種 類 を 用 い る 。Marshak は 変 革 を a. 発 展 的 (developmental) 、 b. 推 移 的 (transitional) 、 c. 転 換 的 (transformational)の 3 つ に 分 類 し て い る 。 a.発 展 的 (developmental)と は 、 現 在 の 仕 事 を 改 善 ・ 発 展 さ せ る た め の 変 化 で あ る 。 b.推 移 的 (transitional)と は 、 あ る 状 態 ・ 条 件 か ら 他 の 状 態 に 異 動 す る こ と で あ る 。 例 え ば 、 M&A や 新 し い サ ー ビ ス や 商 品 の 創 造 が 挙 げ ら れ る 。c.転 換 的 (transformational)と は 、あ る 状 態が根本的に全く異なる状態へと変化することである。例えば、規制で専売が 守 ら れ て い た 状 況 か ら 、規 制 が 緩 和 さ れ 競 合 が 現 れ た 状 態 に 変 化 し た 。す る と 、 これまでとは全く異なる発想で戦略や組織構造を考えることになる。以上、3 つの分類を用いて考察を行う。 まず、美と食について考察を行う。美と食は、A 社が美を中心に食にも取り 組むという新しい発想である。全体対話の時に飲食店の経営というアイディア も出されたが、行動計画の話し合いの時に「自分たちが飲食店をやるイメージ が 湧 か な い 」 と い う 意 見 が 出 さ れ 、 店 舗 で の POP や ブ ロ グ を 用 い た 美 と 食 の 情報発信という活動に留まった。発想としては、A 社において新しい考え方で あ り 、 A 社 に と っ て c.転 換 的 な 変 化 も 招 き う る も の で あ っ た が 、 実 際 に 行 わ れ た ア ウ ト カ ム は 、 現 在 の 仕 事 を 拡 張 す る と い う b.推 移 的 な も の で あ っ た 。 2 2 こ の背景には、A 社は美容業界に属し、ほとんどが専門職であるという状況があ る と 考 え ら れ る 。「 5.1.2.研 究 課 題 ② 」 の 「 (3)権 限 の 所 在 」 で も 触 れ た よ う に 、 スキルを磨きプロフェッショナルになることを目指している。そのため、仕事 の中心に美容が据えられており、食の方に転換することを社員が望まなかった のだと考えられる。 同様に、海外進出でも、専門職としてスキルを磨きキャリアを積みたいとい 22 なお、社長はこのような<美と食>の活動の様子を受け、自らの主導で飲食店 の 経 営 を 行 う 準 備 を 進 め て い る 。 FD で の 決 定 と 、 そ の 後 の < 美 と 食 > の 活 動 が 、 社 長 が 行 動 す る き っ か け と な っ た と 言 え る 。今 は ま だ 構 想 段 階 だ が 、将 来 的 に 、A 社で転換を伴った変化が起きたと言えるかもしれない。 64 う 意 識 が 影 響 し 、 c.転 換 的 な 変 化 が 起 き な か っ た と 考 え ら れ る 。 A 社 は あ る 県 内での出店しか行っていない状況であったが、<海外進出>では海外に店舗を 構える計画が話された。しかし、実際の取り組みには結びつかなかった。その 背景には、 「 会 社 に は 新 し い こ と に 挑 戦 し て ほ し い と 思 う 一 方 で 、技 術 力 の 高 い 日 本 で 経 験 を 積 み 、 ス キ ル を 磨 き た い (C 氏 の 語 り 要 約 )」 と い う 社 員 の 思 い が あ る 。 し た が っ て 、 会 社 に 対 し て は c.転 換 的 な 変 化 を 期 待 す る 一 方 で 、 自 ら の 仕事には転換的な変化を望んでいなかったのだと考えられる。 以上より、美と食、海外進出では、転換を伴う変化が現時点では起こらなか った。これは、A 社はほとんどの社員が専門職であり、独立をも視野に入れた プロフェッショナルを目指すキャリアを望んでいるからだと考えられる。今回 の 事 例 の よ う に 、 新 た な 発 想 に 基 づ く 新 規 事 業 の 立 ち 上 げ の 場 合 は 、「 5.1.2.研 究 課 題 ② 」の「 (3)権 限 の 所 在 」で も 述 べ た よ う に 、グ ル ー プ に 対 し て 権 限 の 所 在を明らかにした上で適切なサポート、グループ外との連携支援を行うことが 求められる。 なお、転換を伴う変化には、今回の事例のような新たな発想に基づく新規事 例 の 立 ち 上 げ の 他 に 、 Bushe and Kassam で 挙 げ ら れ て い た 発 想 の 転 換 に よ る 現在の事業・組織の見直しがある。この場合は、個人が新たなことに挑戦する のではなく、現在の仕事の見直しに関わるため、専門職などのキャリアに関わ らず、転換的な変化に対するコミットができると考えられる。 最後に、福祉について考察を行う。福祉は、高齢者、障がい者などの体が不 自由な人に対するサービスを行うという新しい発想である。当初、介護施設や 老人ホームへの訪問サービスを新規に行うことを検討していた。しかし、競合 他社などの情報収集をした結果、訪問サービスを行うことは難しいことが明ら か に な っ た 。そ こ で 、 「ある程度自分で動くことのできる方を店舗に招いて福祉 美容に取り組むという、サービスの質を下げずお客様に満足頂けるような、A 社 だ か ら で き る 福 祉 美 容 を 行 い た い (H 氏 の 語 り 要 約 ) 2 3 」 と 、 考 え を 改 め た 。 23A 社 は 他 社 と 比 べ 、高 品 質 で 高 価 格 帯 を 設 定 し て い る 。H 氏 の 語 り か ら 、A 社 が 行 う 質 の 高 い サ ー ビ ス に こ だ わ り が 見 ら れ る 。以 下 H 氏 の 語 り 抜 粋 。 「この空間に 入 っ て き て も ら っ て 、し て あ げ ら れ る サ ー ビ ス を 私 は し た い な っ て 思 っ て 。だ か ら も し 行 っ た と し て も 、普 通 じ ゃ 嫌 な ん で す よ 。普 通 に 切 っ て と か じ ゃ な く て 、A 社 だ か ら す ご い 綺 麗 に な っ た と か 、A 社 の 人 が や っ て く れ た か ら す ご い 満 足 と か 。そ 65 当 初 考 え て い た 訪 問 サ ー ビ ス は 、 対 象 も 事 業 形 態 も こ れ ま で に な い c.転 換 的 な ものであった。しかし、情報収集するにつれて障壁を自覚し、現状の事業を拡 張 す る と い う b.推 移 的 な 変 化 に な っ た 。こ れ は 、訪 問 サ ー ビ ス へ 参 入 す る に は 高い障壁があることを自覚した上で、サービスの質にこだわりお客様に満足し てもらうことを重視した結果であると考えられる。 以上より、福祉においては、活動の障壁を自覚した結果、転換を伴う変化が 起 こ ら な か っ た 。 そ の 背 景 に は 、 A 社 の 強 み (ポ ジ テ ィ ブ ・ コ ア )の 共 有 の 際 に 出てきた、 「お客様一人ひとりに一生懸命」 「お客様の喜びが自分の喜びになる」 という思いと高い技術へのこだわりがある。したがって、現状を把握し、A 社 の ポ ジ テ ィ ブ ・ コ ア を 鑑 み た う え で の 、 b.推 移 的 な 変 化 の 選 択 で あ っ た と 考 え られる。 う い う 感 じ に し た い か ら 、 一 歩 踏 み 込 め な い で す 。」 66 第 6章 6.1. 結論 本論文の要約と結論 この節では本論文の結論を述べる。本研究の目的は対話型組織開発の効果と その効果に影響する要因を明らかにすることであった。この目的を設定した背 景には、日本企業は業績低迷に対して構造改革を積極的に行っているが、組織 文化やチーム・ビルディングなどの組織や部署を対象としたソフトな要因への 働きかけが行われなかったという実務界の現状がある。また、対話型組織開発 が積極的に行われている海外においてもその効果を検討する研究は少なく、な ぜ成功したのかという検討が行われていない。そこで、本研究で対話型組織開 発の事例を用いてその効果と影響を与える要因について明らかにすることにし た。 対 話 型 組 織 開 発 を 実 施 し た A 社 を 研 究 対 象 と し 、対 話 型 組 織 開 発 を 行 っ て い る 場 で の 観 察 調 査 と 、実 施 後 9 か 月 経 過 し た 時 点 で の イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、短 期 的 ア ウ ト カ ム と し て は 、 『 モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 ま り 』、 『会 社 に 対 す る 愛 着 』、『 会 社 ・ 店 舗 と し て の 一 体 感 』 な ど の 【 FD 後 の 気 持 ち の 高 まり】が見られた。これは地域、コミュニティを対象とした先行研究において 述べられていた効果と一致する。 長期的アウトカムとしては、社員が個人的に責任を引き受け、小グループで の活動を行っている様子が見られた。これらの効果に対して、影響を与えてい る要因としては、 【 行 動 計 画 の 話 し 合 い 】、 【 活 動 の 意 味 づ け 】、 【 権 限 の 所 在 】の 3 つが挙げられる。 先行研究では【行動計画の話し合い】に関しての指摘がなかったため、本研 究の発見事実であると言える。しかしながら本研究での観察調査が不十分であ っ た た め 、今 後 更 な る 研 究 が 求 め ら れ る 。ま た 、 【 活 動 の 意 味 づ け 】に 関 し て 先 行研究ではグループの推進者のみ言及されていたが、グループのメンバーやグ ループ外のメンバーにおいても活動の意味づけがされていることが影響するこ とが本研究により明らかになった。また、目標と行動計画を明確化し共有して いるか、それに基づき個人の役割と行動計画を考えているか、が活動を推進す る要因となっている可能性が示唆された。この点に関しては、今後更なる研究 が求められる。また、ミーティングの時間が確保できるか、など対象とする組 67 織・テーマによる参加者の構成により、活動を推進・阻害する要因があること が明らかになった。 最後に、実践的インプリケーションについて述べる。対話型組織開発を実施 する際に意識すべきことは、行動計画の話し合いの場をいかに構成するかとい うことである。そのために、経験・立場に関わらず話しやすい民主的な場を醸 成 す る こ と 、目 指 し た い 将 来 の 方 向 性 (コ モ ン グ ラ ウ ン ド )へ の 合 意 を 行 う こ と 、 話し合いの位置づけを示すことが求められる。対話型組織開発を実施した後に 意 識 す べ き こ と は 、活 動 の 権 限 を 明 ら か に し 適 切 な サ ポ ー ト を 行 う こ と で あ る 。 しかしながら、本研究の限界として、行動計画の話し合いにおいてのプロセ スの検討が不十分であった点、インタビュー協力者に偏りがあった点、対話型 組織開発の手法を組み合わせて実施することの意味とその限界について検討が できなかった点が挙げられる。今後、本研究の不足点を把握した上で、行動計 画についての話し合いのプロセスの検討を行うこと、目標と行動計画の明確化 と共有、またそれに伴う個人の役割設定が、活動の推進要因となっているか検 討をすることが求められる。 6.2. 理論的インプリケーション 本研究では対話型組織開発の効果と、それを導く要因を明らかにすることを 目的として研究を行った。先行研究では対話型組織開発の効果を測定する研究 の数が少なく、特に長期的効果に焦点を当てて研究を行ったものが少ないとい うことが明らかになった。そのため、先行研究で扱われていた地方自治体、社 会問題などのテーマといった対象の特殊性を排除し、今回対象であった企業で も効果が得られるのか、どのような効果が得られるのか、を明らかにするため にこのような目的を設定した。更に、対話型組織開発の効果を促進するような 要因に関する研究が少ないことに着目し、この点について明らかにした。これ らの点を明らかにすることで、対話型組織開発の方法の精緻化を行うことがで きると考えられる。 分 析 の 結 果 、短 期 的 ア ウ ト カ ム と し て は 、(1)仕 事 に 対 し て オ ー ナ ー シ ッ プ を 持 っ て 積 極 的 に 取 り 組 む 、(2)コ ア バ リ ュ ー に よ り 忠 実 に な り 、グ ル ー プ ア イ デ ンティティが高まった、という、先行研究において述べられていた効果と同じ 68 ような効果が見られた。先行研究ではコミュニティや地域を対象としており企 業組織を対象にはしていなかったが、対象の性質に関わらず同じ効果が得られ ることが分かった。 長期的アウトカムとしての小グループの活動は、一部の小グループにおいて 継続した活動が見られたことが分かった。これらの効果に対して影響を与えて いる要因として、 【 行 動 計 画 の 話 し 合 い 】、 【 活 動 の 意 味 づ け 】、 【 権 限 の 所 在 】の 3 つ が 挙 げ ら れ る 。【 活 動 の 意 味 づ け 】 に つ い て 、 先 行 研 究 の Polanyi(2001)で は、グループの推進者の動機付けの高さにのみ言及がされていたが、グループ のメンバー、グループ外の人々に活動の意味づけがなされていることが活動の 進 め や す さ に 影 響 す る こ と が 本 研 究 に よ り 明 ら か に な っ た 。 逆 に 、 Polanyi(で 挙げられている要因である「ミーティングの時間が確保できるか」は、本事例 のような同一組織内で小グループが結成された場合には条件はほぼ同じになり、 影響を与える根本的な原因にはならないことが明らかになった。したがって、 「ミーティングの時間が確保できるか」という要因は、対象とする組織・テー マ に よ る 参 加 者 の 構 成 に よ る と 考 え ら れ る 。ま た 、 「 目 標 設 定 の 明 確 さ 」と い う 要因についても、本事例にはあてはあらなかった。本事例を検討した結果、目 標設定の明確さではなく、目標と行動計画を明確化し共有しているかどうか、 またそれを個人の役割にあてはめて考えているかどうかが、活動を推進する要 因になっていることが示唆された。この点は【行動計画の話し合い】とも関連 すると考えられるため、更なる研究が求められる。 6.3. 実践的インプリケーション 本研究の分析の結果、対話型組織開発を実施する際に意識すべきこと、実施 後に意識すべきことが明らかになった。 対話型組織開発を実施する際に意識するべきことは、行動計画の話し合いの 場をいかに構成するか、ということである。そのために配慮すべきことが 3 点 挙げられる。 1 点目は、経験・立場に関わらず話しやすい民主的な場を醸成することであ 69 る 。 例 え ば 、 (1) 2 4 第 3 者 を 交 え 、 職 場 を 離 れ た 環 境 で 話 し 合 い を 実 施 す る こ と が 考 え ら れ る 。本 事 例 で も 、A 社 は 外 部 者 の 中 村 氏 を フ ァ シ リ テ ー タ ー に 招 き 、 職場を離れた場所で話し合いを行ったために素直に自分の思いを話すことがで き た と の 語 り が あ る 。ま た 、(2)話 し 合 い の グ ラ ウ ン ド ・ ル ー ル を 示 す こ と も 考 え ら れ る 。話 し 合 い の 冒 頭 で「 人 の 話 を 聞 く 」 「 社 内 の 立 場 か ら 離 れ る 」な ど の ル ー ル を 明 示 し 、 見 え る と こ ろ に 掲 げ て お く こ と が 考 え ら れ る 。 最 後 に 、 (3) 場 に 応 じ た フ ァ シ リ テ ー タ ー の 働 き か け が 考 え ら れ る 。 中 村 氏 も FD で 実 施 し ていたが、話し合いが止まっているグループに対して進め方の指針を提案する などが考えられる。しかしながら、小グループでの話し合いは、コントロール をファシリテーターから参加者に委ね、自己管理を行うことで自己組織化が起 こ る こ と を 狙 い と し て い る (Weisbord and Janoff, 2000)。 そ の た め 、 小 グ ル ー プでの自己管理を損なわない程度に必要最小限の働きかけに留めておく必要が ある。 2 点 目 は 、 目 指 し た い 将 来 の 方 向 性 (コ モ ン グ ラ ウ ン ド )へ の 合 意 で あ る 。 本 事例では、2 つのグループにおいて、全体対話で目指す将来のイメージへの共 通理解が得られていなかったために、行動計画の話し合いで活発な議論をする ことができなかったり、社内の理解が得られず活動への支障が見られたりする ことが起こった。そのため、全体で目指したい将来の方向性に対して、参加者 が共通のイメージを抱いていることが重要である。そのため、フューチャーサ ーチの全体対話などで、それぞれの方向性について内容についても議論できた か注意を払う必要がある。 3 点目は、話し合いの位置づけを示すことである。対象組織の中で、この話 し 合 い が ど の よ う な 意 味 を 持 ち 、ど の よ う な 場 に し た い の か を 示 す 必 要 が あ る 。 本事例では、参加の姿勢の偏りが見られた。そこで、例えば、この話し合いが 会社の将来について話し合い重要な場であると伝えることで、話し合いに対す る意識の差をなくし、話し合いに参加するレディネスを高め、積極的な参加を 引き出せると考えられる。 こ の (1)、(2)は 日 本 発 の 風 土 改 革 を 推 進 す る 株 式 会 社 ス コ ラ ・ コ ン サ ル ト が 、風 土改革の起点とする社員の思いを繋げるオフサイトミーティングのやり方として 提 唱 し て い る (柴 田 、 1999)。 24 70 次 に 、実 施 後 に 意 識 す べ き こ と に つ い て 述 べ る 。実 施 後 に 意 識 す べ き こ と は 、 活動の権限を明らかにし、適切なサポートを行うことである。特に、新たな発 想に基づく新規事業立ち上げのような転換を伴う変化が起きる場合に、特に求 められる。本事例は、独立も視野に入れたプロフェッショナルを目指す専門職 でなる組織であったため、転換を伴う変化が起きることに対して、自らが思い 描くキャリアとその変化の間で葛藤が起きた。そのため、新たな発想に基づく 新規事業へ関わることに躊躇し、活動が停滞した。このような場合には、グル ープに対して適切なサポートや、グループ外の人との連携が求められる。本事 例のように、時には権限を持つ人が主導で活動を行うことも検討すべきだと考 えられる。一方、本事例のような専門職の組織ではなく、選択するキャリアに 幅のある組織の場合には、権限を中心となる推進者に与えるという方法も考え うる。 6.4. 残された課題と今後の展望 本 研 究 で は 、対 話 型 組 織 開 発 の 効 果 と 効 果 に 影 響 を 与 え る 要 因 を 探 る た め に 、 A 社 を 対 象 と し た AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ た 対 話 型 組 織 開 発 に 対 し て 観 察 調 査 と イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た 。そ の 結 果 、6.2.、6.3.の よ う な インプリケーションが得られた。 しかしながら、本研究の限界として以下の 3 点が挙げられる。 1 点目は、対話型組織開発の行動計画の話し合いにおいてのプロセスの検討 が不十分であった点である。分析の結果より行動計画の話し合いが効果に影響 を 与 え る こ と が 分 か っ た が 、本 研 究 で は 実 施 時 の 観 察 調 査 と 9 か 月 後 の イ ン タ ビュー調査時に内容を確認するにとどまり、内容を詳細に検討することができ なかった。したがって、今後の課題として、行動計画の話し合い時にどのよう なプロセスが起きているのかを明らかにするために更なる事例分析が求められ る。 2 点目は、インタビュー協力者に偏りがあった点である。本研究では長期的 なアウトカムを分析することを主な目的としていたため、長期的アウトカムの 現れである小グループの活動において中心となって活動を行っている人 7 名に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 実 施 し た 。 そ の た め 、 FD に 対 し て 肯 定 的 に 捉 え て い る 人 71 が多いと考えられ、得られた結果からも肯定的な感想が多く見られた。短期的 アウトカムを中立的に分析することを重視するならば、中心となって活動を行 っている人以外にもインタビュー調査を実施し、より対話型組織開発が対象組 織の中でどのように捉えられたのかを分析する必要がある。 3 点目は、クライアント組織に合わせ、手法を組み合わせて実施することの 意味とその限界の検討ができなかった点である。本事例ではクライアント組織 のニーズに合わせて手法を組み合わせ実施した。本事例以外でも、大川・香取 (2011)で 紹 介 さ れ て い る ワ ー ル ド ・ カ フ ェ ・ ジ ャ パ ン の 事 例 の よ う に 、 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ と OST を 組 み 合 わ せ て 実 施 す る 例 も 見 ら れ る 。そ の た め 、実 践 に 伴い手法を一貫して実施するのではなく、対話型組織開発を組み合わせること でもたらされる意味とその限界について検討することで、手法を実践する際に 役に立つインプリケーションが提供できると考えられる。 72 参考文献 Bartuneka, J.M., Balogunb, J. and Doc, B.(2011).Considering Planned Change Anew: Stretching Large Group Interventions Strategically, Emotionally, and Meaningfully. The Academy of Management Annals 5, 1, pp.1-52. Beckhard, R.(1972).Optimizing team-building effort. Journal of Contem- porary Business , 1, pp.23-32. Burke, W.W.(2011). Organization change: Theory and practice (3 r d .ed, ), CA: Sage Publications. Bushe, G.R.(2011).Appreciative inquiry: Theory and critique. In Boje, D., Burnes, B. and Hassard, J.(Eds.) The Routledge Companion To Or- ganizational Change (pp.87-103). Oxford, UK: Routledge. Bushe, G.R. and Coetzer, G.(1995).Appreciative inquiry as a team development intervention: A controlled experiment. Journal of Applied Behavioral Science , 31, pp.13-30. Bushe, G.R. and Kassam, A.F(2005).When Is Appreciative Inquiry Transformational? Journal of Applied Behavioral Science , 41, pp.161-181. Bushe, G.R. and Marshak, R.J.(2009).Revisioning Organization Development : Diagnostic and Dialogic Premises and Patterns of Practice. Journal of Applied Behavioral Science , 45, pp.348-368. Brown, J. and Isaacs, D.(2005). The world café : shaping our futures through conversations that matter. San Francisco, CA: Berrett-Koehler Publishers. (香 取 一 昭・川 口 大 輔 訳『 ワ ー ル ド・カ フ ェ ― カ フ ェ 的 会 話 が 未 来 を 創 る ― 』 株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー , 2007 年 。 ) Cooperrider, D.L. and Whitney, D.(2005). Appreciative Inquiry. San Francisco, California: Berrett-Koehler Publishers.(本 間 正 人 基 監訳・市瀬博 訳 『 AI「 最 高 の 瞬 間 」 を 引 き 出 す 組 織 開 発 』 PHP 研 究 所 , 2006 年 。 ) Cummings, T.G.(2008). Handbook of Organization Development, Publications. 73 CA: Sage Cummings, T.G. and Worley, C.W.(2009).General Introduction to Organization Development. In Cummings, T.G. and Worley, C.W.(Eds). Organ- ization Development & Change (pp.1-21) . Mason, OH: South-Western Cengage Learning. Fitzgerald, P.S., Oliver, C. and Hoxsey, C.J(2010).Appreciative Inquiry as a Shadow Process. Journal of Management Inquiry , 19, pp.220-233. Fry, R., Barrett, F., Seiling, J. and Whitney, D.(2002). Appreciative Inquiry and Organizational Transformation , Westport, CT: Quorum Books. Grant, S. and Humphries, M.(2006).Critical evaluation of appreciative inquiry : Bridging an apparent paradox. Action Research , 4, pp.401-418. 伊 藤 守 ・ 鈴 木 義 幸 ・ 金 井 壽 宏 (2010). 『 コ ー チ ン グ ・ リ ー ダ ー シ ッ プ 』ダ イ ヤ モ ンド社。 Jones, D.A.(1998).A field experiment in appreciative inquiry. Organization Development Journal, 16, pp.69-78. 亀 田 速 穂 (1987). 「組織開発と組織変革」 『 経 営 研 究 』(大 阪 市 立 大 学 経 営 研 究 会 ), 第 37 巻 第 5・ 6 合 併 号 , 89-105 頁 。 亀 田 速 穂 (2005).「 環 境 適 応 と 組 織 転 換 」『 経 営 研 究 』 , 第 56 巻 第 3 号 , 83-102 頁。 亀 田 速 穂・高 橋 敏 朗・下 崎 千 代 子 (2009). 『環境変化と企業変革―その理論と実 践―』白桃書房。 香 取 一 昭・大 川 恒 (2011). 『 ホ ー ル シ ス テ ム・ア プ ロ ー チ 』日 本 経 済 新 聞 出 版 社 。 Kotellos, K., Rockey, S. and Tahmassebi, B.(2005).Using Appreciative Methods to Evaluate an Appreciative Inquiry Process: Evergreen Cove Holistic Learning Center. AI Practitioner , February 2005, pp.16-19. Marshak, R.J.(1993). Managing the Metaphors of Change. Organizational Dynamics , 22, 44-56. Marshak, R.J.(2005).Contemporary Challenges to the Philosophy and Practice of Organization Development. In Bradford.D.L., and Burke.W.W., (Eds). Reinventing Organization Development (pp.19-43). San Francisco, CA: Pfeiffer. 74 Marshak, R.J.(2006).Organization development as a profession and a field. In Jones.B,B. and Brazzel,M. (Eds.) The NTL handbook of organization development and change (pp.13-27). San Francisco, CA: Pfeiffer. マ ー シ ャ ク , R. J.・溝 口 良 子 訳 (2011) . 「 組 織 開 発 (OD)と は 何 か ? ― 起 源 と 哲 学 , そ の 可 能 性 ― 」 (南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー 主 催 2010 年 度 秋 の 講 演 会 記 録 ), 『 人 間 関 係 研 究 』(南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー 紀 要 ), 第 11 号 , 153-172 頁 。 May, G.L., Sherlock, J.J. and Mabry, C.K.(2003). The Future: The Drive for Shareholder Value and Implications for HRD Advances in Developing. Human Resource , 5, pp.321-331. Messerchmidt, D.(2008).Evaluating Appreciative Inquiry as an Organizational Transformation Tool: An Assessment from Nepal. Human Or- ganization, 67, pp.454-468. 中 村 和 彦 (2006).「 組 織 開 発 (OD)に お け る 介 入 手 法 の 日 米 比 較 ― 外 部 コ ン サ ル テ ィ ン グ 会 社 が 用 い る 介 入 方 法 の 違 い ― 」『 経 営 行 動 科 学 学 会 第 9 回 年 次 大 会 発 表 論 文 集 』 , 356-359 頁 。 中 村 和 彦 (2007). 「 組 織 開 発 (OD)と は 何 か 」 『 人 間 関 係 研 究 』(南 山 大 学 人 間 関 係 研 究 セ ン タ ー 紀 要 ), 第 6 号 , 1-29 頁 。 中 村 和 彦 (2010a). 「組織開発とは何か」 『 日 本 人 材 マ ネ ジ メ ン ト 協 会 機 関 誌 』, 第 60 号 , 2-9 頁 。 中 村 和 彦 (2010b).「 米 国 に お け る 組 織 開 発 (OD)の 変 遷 と 最 近 の 議 論 ― OD に お けるポストモダン論へのターン―」 『 経 営 行 動 科 学 学 会 第 13 回 年 次 大 会 発 表 論 文 集 』 , 325-330 頁 。 中 村 和 彦・津 村 俊 充 (2009). 「フューチャーサーチによる地域の連携作り―中学 校 を 軸 と し た 地 域 開 発 を め ざ し た ホ ー ル シ ス テ ム ・ ア プ ロ ー チ ― 」『 経 営 行 動 科 学 学 会 第 12 回 年 次 大 会 発 表 論 文 集 , 254-257 頁 。 中 村 和 彦・立 川 紫 乃 (2012). 「全社員を対象とした対話型組織開発の実践とその 効 果 ― AI と フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ を 組 み 合 わ せ た 実 践 事 例 ― 」 『経営行動科 学 学 会 第 14 回 年 次 大 会 発 表 論 文 集 』 , 63-68 頁 。 西 川 耕 平 (2009). 「 OD(組 織 開 発 )の 歴 史 的 整 理 と 展 望 」, 経 営 学 史 学 会 編『 経 営 75 理論と実践』, 文眞堂。 O'Connor, D.(2001).The Organizational Behavior Future Search. Journal of Management Education , 25, pp.101-112. 大 住 莊 四 郎 (2009). 「 ポ ジ テ ィ ブ・ア プ ロ ー チ に よ る 自 治 体 の 組 織 開 発 ― 松 戸 市 の ケ ー ス を も と に ― (21 世 紀 型 公 共 組 織 ― マ ネ ジ メ ン ト と 市 場 分 析 )」『 関 東 学 院 大 学 経 済 経 営 研 究 所 年 報 』 , 第 31 号 , 1-14 頁 。 Owen.H.(1997). Open Space Technology: A User ’s Guide. San Francisco, CA: Berrett-Koehler Publishers.(株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー 訳『オープ ン ・ ス ペ ー ス ・ テ ク ノ ロ ジ ー ― 5 人 か ら 1000 人 が 輪 に な っ て 考 え る フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン ― 』 株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー , 2011 年 。 ) Peelle, H. E. (2006).Appreciative inquiry and Creative Problem Solving in Cross-Functional Teams. Journal of Applied Behavioral Science , 42, pp.447-467. Polanyi, M.(2001).Toward Common Ground and Action on Repetitive Strain Injuries ;An Assessment of a Future Search Conference. Journal of Applied Behavioral Science , 37, pp.465-487. 柴 田 昌 治 (1999).『 こ こ か ら 会 社 は 変 わ り 始 め た 』 日 本 経 済 新 聞 社 。 柴 田 昌 治 (2008).『 柴 田 昌 治 の 変 革 す る 哲 学 』 日 本 経 済 新 聞 社 。 Strauss, A. and Corbin, J.(1998). Basics of Qualitative Research: Techniques and Procedures for Developing Grounded Theory, 2 n d ed. CA: Sage Publications.(操 華 子・森 岡 崇 訳『 質 的 研 究 の 基 礎 ― グ ラ ウ ン デ ッ ド ・ セ オ リ ー 開 発 の 技 法 と 手 順 ― 』 医 学 書 院 , 2004 年 。 ) Weisbord, M.R.(1987). Productive Workplace . San Francisco, CA: Jossey-Bass Publishers, Weisbord, M. and Janoff, S.(2000). Future Search An Action Guide to Finding Common Ground in Organizations & Communities. San Francisco, CA: Berrett-Koehler Publishers.(香 取 一 昭 ・ 株 式 会 社 ヒ ュ ー マンバリュー 訳『 フ ュ ー チ ャ ー サ ー チ ― 利 害 を 越 え た 対 話 か ら 、み ん な が 望 む 未 来 を 創 り 出 す フ ァ シ リ テ ー シ ョ ン 手 法 ― 』株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー , 2011 年 。 ) 76 Wheatley, M.J.(2006). Leadership and New Science. CA: Berrett-Koehler Publishers.(東 出 顕 子 訳『リーダーシップとニューサイエンス』英治出 版 , 2009 年 。 ) Whitney, D. and Trosten-Bloom, A.(2003). The Positive Change . San Francisco, CA: Berrett-Koehler Publishers.( 株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー 訳 『 ポ ジ テ ィ ブ ・ チ ェ ン ジ ― 主 体 性 と 組 織 力 を 高 め る AI― 』 株 式 会 社 ヒ ュ ー マ ン バ リ ュ ー , 2006 年 。 ) Worren, N.A.M. Ruddle, K. and Moore, K.(1999).From Organization Development to Change Management : The Emergence of a New Profession. Journal of Applied Behavioral Science , 35, pp.273-286. 安 田 節 之 ・ 渡 辺 直 登 (2011).『 プ ロ グ ラ ム 評 価 研 究 の 基 礎 巻』新曜社。 77 臨床学研究法第 7 謝辞 本研究に関して終始ご指導ご鞭撻を頂き、また人勢塾などの数多くの勉強に なる機会をご提供いただきました本学金井壽宏教授に心より感謝致します。ま た 、本 論 文 を ご 精 読 頂 き ま し た 本 学 平 野 光 俊 教 授 、高 橋 潔 教 授 に 深 謝 致 し ま す 。 本論文の執筆にあたって、調査にご理解頂き、快く調査をさせてくださった A 社社長を始め社員の方々のご協力のおかげで、本論文を執筆することができ ま し た 。ま た 、南 山 大 学 中 村 和 彦 准 教 授 に は A 社 を 紹 介 し て 頂 き 、調 査 へ の ご 指導、論文の添削など多大なるお力添えを頂きました。心より感謝致します。 最後になりますが、貴島耕平氏を始め、金井ゼミの方々から多くの有用なコ メントを頂きました。2 年間本当にありがとうございました。 な お 、 本 論 文 は 、 平 成 24 年 度 景 気 低 迷 期 の 適 切 な 組 織 行 動 を 促 す 研 究 ・ 教 育プログラムの研究プロジェクトとして、研究費の支援を頂きました。ここに 感謝の意を記します。 78